説明

抗生物性コーティング

【課題】あまり高価でなく製造が容易であり、インプラントの表面に十分にかつ安定的に付着し、毒性の生成物を生成することなく体によって分解されることが可能で、コーティングの中にある抗生物質の結晶化を防止し、かつインプラント部位での高い、即座の局所的に有効な抗生物質濃度を確実にする抗生物性コーティングを有するインプラントを提供すること。
【解決手段】本発明のインプラントのコーティングは、少なくとも1つの抗生物質と、水と、水溶性ポリオール、オリゴアルキレングリコール、およびアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つの湿潤剤とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングを含むインプラント、このインプラントを製造するために使用することができるコーティング溶液、およびこのインプラントの製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節内部人工器官の何らかの埋め込み、また同様に骨接合材料の何らかの埋め込みは、微生物の混入のリスクが伴う。微生物病原体によるインプラントの表面の成功裏のコロニー形成は、術後の骨炎の兆候につながる可能性がある。骨炎は、患者にとって深刻な合併症である。従って、目的は、埋め込み後の最初の数時間〜数日間、細菌のコロニー形成からインプラントを保護することである。
【0003】
抗生物質がドープされたPMMA骨セメントは、セメント固定される関節内部人工器官とともに、数十年間、臨床で使用されてきており、多くの成功を収めている。この開発は、BuchholzおよびEngelbrecht(非特許文献1)の業績に基づく。これに関して、細菌感染からその骨セメントの表面を効果的に保護する広域抗生物質、ゲンタマイシンを使用することが従来一般的である。
【0004】
セメント固定されない関節内部人工器官および骨接合材料に関しては、同様にインプラント表面の局所的な抗生物性保護を成し遂げるために、いくつかのアプローチが提案されてきた。
【0005】
これらのアプローチは、抗生物質または従来の抗生物質の塩はインプラントの表面にまったく付着しないか、または非常に弱くしか付着しないという問題に基づく。
【0006】
この理由のため、抗生物活性を有する成分として特定の水に難溶性の抗生物質の塩を用いたインプラントのコーティングが、いくつかの公開された特許明細書で提案されてきた。これに関して、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5が、例示目的で引用されよう。この水に難溶性の塩は経時的に溶解し、その間に、体液の作用への曝露を通して、その中に含有される抗生物質を放出する。しかしながら、これに関して、この抗生物質の塩の製造が多大な労力を必要とすることは不都合である。
【0007】
安定なコーティングを成し遂げるために抗生物質の難溶性の形態を使用すること、または抗生物質を難溶性の形態へと変換することが必要となると、その抗生物質の遅延放出が生じる。しかしながら、遅延なく、埋め込みの部位で高くかつ有効な抗生物質濃度を確立することが望ましいことが多い。
【0008】
あるいは、コーティングのために水溶性の抗生物質の塩を使用することが実行可能である(非特許文献2)。これに関して明白となっている1つの問題は、インプラント表面上で適所に抗生物質を固定することは困難であるということである。この理由のため、Altらは、ゲンタマイシンを、担体物質として働く多孔性のヒドロキシルアパタイトコーティングの中に組みこんだ。しかしながら、これに関して生じる問題は、体内でのこのコーティングの分解が毒性の生成物の発生につながるということである。
【0009】
さらに、多くの抗生物質は結晶化する傾向がある。これは、特にリンコサミド、アミカシン、およびトブラマイシンに当てはまる。これらの抗生物質がインプラントをコーティングするために使用される場合には、その抗生物質が結晶化して周囲の組織を損傷するかもしれないというリスクがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第0623349号明細書
【特許文献2】欧州特許第1470829号明細書
【特許文献3】欧州特許第1374923号明細書
【特許文献4】独国特許第10142465号明細書
【特許文献5】独国特許第4404018号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H.W.BuchholzおよびE.Engelbrecht、「Ueber die Depotwirkung einiger Antibiotika beim Vermischen mit dem Kunstharz Palacos」、Chirurg.、1970年、第41巻、511−515頁
【非特許文献2】V.Alt、A.Bitschnau、J.Osterling、A.Sewing、C.Meyer、R.Kraus、S.A.Meissner、S.Wenisch、E.Domann、R.Schnettler、「The effects of combined gentamicin−hydroxylapatite coating for cementless joint prostheses on the reduction of infection rates in a rabbit infection prophylaxis model」、Biomaterials、2006年、第27巻、第26号、4627−34頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それゆえ本発明は、あまり高価でなく製造が容易であり、インプラントの表面に十分にかつ安定的に付着し、毒性の生成物を生成することなく体によって分解されることが可能で、コーティングの中にある抗生物質の結晶化を防止し、かつインプラント部位での高い、即座の局所的に有効な抗生物質濃度を確実にする抗生物性コーティングを有するインプラントを生成するという目的に基づく。さらに、そのコーティングは、多孔性のヒドロキシルアパタイトコーティングを含有しない表面に付着しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、少なくとも1つの抗生物質と、水と、水溶性ポリオール、オリゴアルキレングリコール、およびアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つの湿潤剤とを含有するコーティングを含むインプラントによって満たされる。
【0014】
少なくとも1つの抗生物質と、水と、水溶性ポリオール、オリゴアルキレングリコール、およびアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つの湿潤剤とを含有するコーティング溶液は、上記目的を満たすために使用することができる。
【0015】
本発明に係るインプラントは、コーティングされるべきインプラントを少なくとも90℃の温度に加熱することと、上記のコーティング溶液を、加熱されたコーティングされるべきインプラントに付与することとによって、製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、抗生物質が少量の水分を含有するならば、抗生物質は、十分に付着する、粘性の高い、皮革のような層を形成することができるという、驚くべき知見に基づく。吸湿効果を有する湿潤剤は、上記層の中の残留水分含量を維持するために使用することができる。これにより、当該抗生物質含有層が十分な程度まで力学的に安定なまま留まり、崩壊しないことが可能になる。
【0017】
本発明の範囲では、用語「インプラント」は、外科的処置の過程において少なくとも一部は体の内部に導入される材料および装置を意味すると理解されるものとする。このインプラントは、骨もしくは筋骨格装置の他の要素と接する可能性があり、または血液もしくは結合組織と接触している可能性がある。インプラントは、例えば、関節内部人工器官または骨接合材料であってもよい。
【0018】
本発明の範囲では、用語「コーティング」は、インプラントの少なくとも1つの表面を、少なくとも一部は覆う層を意味すると理解されるものとする。好ましい実施形態によれば、インプラントの少なくとも1つの表面は、完全に覆われる。
【0019】
当該コーティングは少なくとも1つの抗生物質を含有する。好ましくは、この抗生物質は水溶性の抗生物質である。水溶性の抗生物質は、25℃の温度の水に対する溶解度が少なくとも5g/l、好ましくは少なくとも7g/l、さらにより好ましくは少なくとも10g/lである抗生物質を意味すると理解されるものとする。
【0020】
この抗生物質は、その抗生物質が抗生物有効性を有するかまたは抗生物効果を有する化合物の放出を可能にするいずれの形態で与えられてもよい。
【0021】
それゆえ、本発明によれば、用語「抗生物質」は、抗生物質の塩または抗生物質のエステルならびにその抗生物質、抗生物質の塩または抗生物質のエステルの対応する水和形態をも包含する。
【0022】
好ましい実施形態によれば、この抗生物質は、アミノグリコシド系抗生物質、ポリペプチド抗生物質、糖ペプチド、β−ラクタム、ポリケタイド、キノロン、およびスルホンアミドからなる群から選択することができる。
【0023】
このアミノグリコシド系抗生物質は、例えばアミカシン、アプラマイシン、ジェネティシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネチルマイシン、ネオマイシン、パロモマイシン、スペクチノマイシン、ストレプトマイシンまたはトブラマイシンであってもよい。特に好ましい実施形態によれば、このアミノグリコシド系抗生物質はゲンタマイシンまたはゲンタマイシン誘導体である。ゲンタマイシン塩またはゲンタマイシンエステルは、ゲンタマイシン誘導体と考えることができる。硫酸ゲンタマイシンは、例示となるゲンタマイシン塩として言及されよう。硫酸ゲンタマイシンは、外科手術および整形外科で数十年間、その有用性を証明してきた、あまり高価でない広域抗生物質である。薬局方に準拠した硫酸ゲンタマイシンは、ゲンタマイシン同族体、C1a、C1、C2a、C2b、およびC2の混合物である。複数のゲンタマイシン同族体の混合物の存在に起因して、この抗生物質は結晶化しない。他の抗生物質と比べてゲンタマイシンは、ゲンタマイシンはその抗菌有効性を失うことなく、短期間高温に耐えることができるという点で特別な特徴を有する。
【0024】
考えられるポリペプチド抗生物質としては、ポリミキシン、バシトラシン、およびチロスリシンが挙げられる。
【0025】
本発明によれば、例えばペニシリン、セファロスポリン、モノバクタム、およびカルバペネムをβ−ラクタムとして使用することができる。
【0026】
例えばエリスロマイシンなどのテトラサイクリン系抗生物質またはマクロライド系抗生物質を、ポリケタイドとして使用することができる。
【0027】
さらに、当該コーティングは湿潤剤を含有する。この湿潤剤は、当該コーティングにとって所望の残留水分含量を設定するという目的を満たす。本発明によれば、水溶性ポリオール、オリゴアルキレングリコール、およびアミノ酸からなる群から選択される化合物が、湿潤剤として使用される。
【0028】
本発明によれば、ポリオールは、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む低分子化合物であると理解される。
【0029】
本発明によれば、このポリオールは少なくとも2つの炭素原子を含有する。本発明に係るポリオールは、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜25個、さらにより好ましくは2〜15個、特に好ましくは2〜10個、より特に好ましくは2〜8個、特に2〜6個の炭素原子を含む。
【0030】
本発明によれば、当該ポリオールは、構造が線状または環状であってもよいが、好ましくはそれらは構造が線状である。
【0031】
さらに、このポリオールは、分岐していてもよいしまたは非分岐でもよいが、好ましくはそれらは非分岐である。
【0032】
さらに、このポリオールはキラルであってもよいし、またはアキラルであってもよい。
【0033】
本発明に係るポリオールは、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個または少なくとも5個のヒドロキシル基を含有することができる。好ましくは、このポリオールは2〜15個、より好ましくは2〜10個、さらにより好ましくは2〜7個、特に好ましくは2〜5個、より特に好ましくは2〜4個、特に2個または3個の炭素原子を含む。
【0034】
このポリオールのヒドロキシル基は、1以上の炭素原子の上に存在してよい。好ましい実施形態によれば、本発明に係るポリオールの各炭素原子は、多くとも1つのヒドロキシル基を含有する。このヒドロキシル基が存在する炭素原子は、互いに隣接していてもよいし、または少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個もしくは少なくとも4個の炭素原子によって互いに隔てられていてもよい。特に好ましい実施形態によれば、本発明に係るポリオールの各炭素原子は、1つのヒドロキシル基を有する。
【0035】
本発明に係るポリオールのヒドロキシル基は、好ましくは独立の官能基である。従って、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する炭素原子は、当該ヒドロキシル基の酸素原子への結合のほかには、例えば酸素原子、窒素原子または硫黄原子などのヘテロ原子への他の結合を含まない。それゆえ、好ましくは、このヒドロキシル基は、例えば、炭酸基などの他の官能基の一部ではない。しかしながら、本発明によれば、当該ポリオールは、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する炭素原子上に、官能基、例えば炭酸基またはエステル基の構成要素である、隣接する炭素原子への結合を含むことができるし、または官能基またはヘテロ原子への結合を含む。
【0036】
本発明に係るポリオールは、低分子量であってもよい。本発明の範囲では、このポリオールの分子質量が5,000g/mol未満、好ましくは3,000g/mol未満、さらにより好ましくは2,000g/mol未満、特に好ましくは1,000g/mol未満、最も特に好ましくは500g/mol未満である場合は、このポリオールは低分子である。
【0037】
本発明によれば、水溶性ポリオールは、25℃の温度の水に対する溶解度が少なくとも5g/l、好ましくは少なくとも7g/l、さらにより好ましくは少なくとも10g/lであるポリオールであると理解される。
【0038】
好ましい実施形態によれば、本発明に係るポリオールはアルジトールである。
【0039】
本発明によれば、アルジトールは、式(I)によって表される非環状ポリオールであると理解される。
HOCH[CH(OH)]CHOH (I)
式中、nはいずれかの偶数である。好ましくは、nは1〜10、より好ましくは1〜8、さらにより好ましくは1〜7、特に好ましくは1〜6の範囲の数である。
【0040】
特に好ましい実施形態によれば、本発明に係るポリオールは、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、グルシトール、イソマルト、ラクタイト(lactite)、キシリトール、トレイトール、エリスリトール、アラビトール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、およびジアンヒドログリシトールからなる群から選択される。
【0041】
本発明によれば、オリゴアルキレングリコールは、式(II)によって表されるオリゴマー状の化合物を意味すると理解される。
−R−O−X−O−R− (II)
式中、
およびRは、互いに独立に、好ましくは1〜10個の炭素原子、より好ましくは1〜5個の炭素原子、最も好ましくは1〜3個の炭素原子を含む置換または非置換の、線状または環状の、分岐または非分岐のアルキル残基であり、
は、好ましくは各々1〜10個の炭素原子、より好ましくは各々1〜5個の炭素原子、最も好ましくは各々1〜3個の炭素原子を有する等しいかまたは異なる構造のアルキル残基によって形成される少なくとも1つのエーテル基、しかし好ましくは多くとも100個のエーテル基、より好ましくは多くとも25個のエーテル基、さらにより好ましくは多くとも20個のエーテル基、特に好ましくは多くとも10個のエーテル基(これらは、各々、各酸素原子を介して互いに連結されている)を含有する構造単位である。
【0042】
本発明に係るオリゴアルキレングリコールは、5,000g/mol未満、好ましくは3,000g/mol未満、さらにより好ましくは2,000g/mol未満、特に好ましくは1,000g/mol未満、最も特定すれば500g/mol未満の分子質量を有する。
【0043】
好ましい実施形態によれば、当該オリゴアルキレングリコールは、オリゴエチレングリコールまたはオリゴプロピレングリコールである。
【0044】
オリゴエチレングリコールは、式(III)によって表される化合物である。
H−[OCHCH−OH (III)
式中、mは1〜100、好ましくは1〜25、より好ましくは1〜20、さらにより好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5の偶数である。
【0045】
オリゴプロピレングリコールは、式(IV)によって表される化合物である。
H−[OCH(CH)CH−OH (IV)
式中、lは1〜100、好ましくは1〜25、より好ましくは1〜20、さらにより好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5の偶数である。
【0046】
特に好ましい実施形態によれば、このオリゴアルキレングリコールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、およびテトラプロピレングリコールからなる群から選択される。
【0047】
さらに、当該インプラントのコーティングは、アミノ酸を含むことができる。
【0048】
このアミノ酸は必須アミノ酸または非必須アミノ酸であってもよい。
【0049】
このアミノ酸は脂肪族、芳香族または複素環式アミノ酸であってもよいが、脂肪族アミノ酸が好ましい。
【0050】
好ましくは、このアミノ酸は75〜200g/molの範囲のモル質量を有する。
【0051】
特に好ましい実施形態によれば、このアミノ酸はグリシンである。
【0052】
本発明に係る湿潤剤の効果は、残留水分含量がこのインプラントのコーティングの中に保持されて、そのため抗生物質が、非常に粘性が高い非晶層として、基材、好ましくは金属表面に付着するということである。さらに、保持されているいくらかの残留水分は、当該抗生物質が結晶化することを効果的に防ぐことができる。
【0053】
当該インプラントコーティングの質量に対するこのコーティングの水の分率は、好ましくは5〜30重量%の範囲、さらにより好ましくは7〜28重量%の範囲にある。
【0054】
本発明に係るインプラントの埋め込みの後に、このコーティングは、血液および創部の滲出物などの体液の影響のもとで数分間〜数時間以内に溶解する。これにより、埋め込みの部位での即座の抗生物質濃度が高くかつ効果的であることが確保される。このコーティングの中に含有される抗生物質は、インプラントと骨組織または軟組織との間の境界で直ちに放出され、従って細菌のコロニー形成からインプラント表面を効果的に保護する。
【0055】
本発明によれば、当該インプラントのコーティングは、さらなる成分を含有することができる。例えば、このコーティングは少なくとも1つ以上の防腐剤または止血剤を含むことができる。
【0056】
用語「防腐剤」は、医薬で一般的なすべての防腐剤物質を包含することが意図されている。これに関して、オクテニジン二塩酸塩、ポリヘキサニド(polyhexanide)および第四級アンモニウム化合物(例えば、塩化ベンザルコニウム)が特に好ましい。
【0057】
用語「止血剤」は、血液の凝固を活性化する物質を意味すると理解されるものとする。特にカルシウム塩は、止血剤として好ましい。好ましい実施形態によれば、このカルシウム塩は塩化カルシウム、酢酸カルシウム、および乳酸カルシウムからなる群から選択される。
【0058】
本発明によれば、被覆層が当該インプラントのコーティングの上に置かれてもよい。この被覆層は、好ましくは、生体適合性の膜形成剤を含有する。膜形成剤は、表面の上に層を形成することができる化合物である。好ましい実施形態によれば、膜形成性の抗生物質の塩、抗生物質のエステル、防腐剤の塩および/または防腐剤のエステルを膜形成剤として使用することができる。しかしながら、他の膜形成剤、特に例えば、メチルセルロース、ポリビドンアセテート(polyvidone acetate)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアセテートフタレート、セラックまたはメタクリル酸エステルなどのポリマー膜形成剤も同様に使用してよい。
【0059】
本発明に係るインプラントのコーティングは、好ましくは、このコーティングの重量に関して0.01〜80重量%の少なくとも1つの抗生物質、0.01〜80重量%の少なくとも1つの湿潤剤、5〜30重量%の水、および0〜50重量%の他の成分を含有する。
【0060】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの抗生物質および少なくとも1つの湿潤剤の重量比は1,000:1〜1:1の範囲にある。
【0061】
本発明に係るインプラントの製造は、コーティング溶液の使用を含むことができる。このコーティング溶液は、少なくとも1つの抗生物質と、水と、水溶性ポリオール、オリゴアルキレングリコール、およびアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つの湿潤剤とを含有する。
【0062】
このコーティング溶液の少なくとも1つの抗生物質および少なくとも1つの湿潤剤に関しては、上で提供した説明を参照されたい。
【0063】
好ましい実施形態によれば、このコーティング溶液は、0.01〜40重量%の少なくとも1つの抗生物質、0.01〜40重量%の少なくとも1つの湿潤剤、10〜99.5重量%の水、および0〜50重量%の他の成分を含有する。
【0064】
本発明に係るインプラントは、様々な経路によって製造することができる。
【0065】
本発明によれば、コーティングされたインプラントは、コーティングされるべきインプラントを最初に準備し、次いでそれを少なくとも90℃、好ましくは少なくとも100℃の温度に加熱することによって、製造することができる。
【0066】
その後、本発明に係るコーティング溶液は、加熱されたコーティングされるべきインプラントに塗布することができる。
【0067】
これに関して、インプラントの上へと塗布する直前に、コーティング溶液を、40℃を超える温度、好ましくは50℃を超える温度に加熱することが有利であると判明した。この手段によって、このコーティング溶液の中に含有される水は、加熱された基材への塗布後直ちに蒸発する。
【0068】
コーティング溶液は、例えば噴霧によってインプラントに塗布することができる。噴霧される液体の霧が加熱された基材に当たるとき、事実上すべての水が蒸発する。このプロセスでは、少なくとも1つの抗生物質および少なくとも1つの湿潤剤は、このインプラント上のコーティングとして留まり、これによってこの少なくとも1つの湿潤剤の存在のため、当該コーティング溶液に由来する水の一部が当該コーティングの中に保持されることになる。このように、角質のような層が基材の上に形成される。
【0069】
適用できる場合には、当該コーティングは、後の引き続く乾燥のプロセスにかけられてもよい。この、後の乾燥は、暖かい空気の流れの中で、または真空中で行うことができる。さらに、マイクロ波照射の作用を通して当該コーティングを乾燥することも、まさに同様に実行できる。金属製のインプラントのコーティングの際、当該コーティングを迅速に乾燥するために、交番磁界の作用を通して当該インプラントの誘導加熱を行うことも実行できる。
【0070】
コーティングされたインプラントが被覆層を設けられる必要がある場合は、例えば当該コーティングの乾燥の間に、それがまだ粘着性である間に、粉末膜形成剤、例えば粉末抗生物質および/または防腐剤、を当該コーティングに付与することができる。この膜形成剤は、噴霧によって、または当該粉末薬剤を含有する浴の中に浸漬することによって、付与することができる。
【0071】
被覆層でコーティングされたインプラントを提供するための別の選択肢は、膜形成剤の溶液、例えば抗生物質のアルコール溶液を、コーティングされたインプラントの上に付与することである。この目的のために、コーティングされたインプラントは、好ましくは、少なくとも90℃、より好ましくは少なくとも100℃の温度にまず加熱され、その後、溶媒が蒸発する間に、膜形成剤の溶液がコーティングされたインプラントに付与される。
【実施例】
【0072】
以下に提示する実施例によって、本発明をより詳細に例証する。この実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0073】
実施例1:
20gの硫酸ゲンタマイシン(Fujian Fukang Ltd.(中国)製)および0.1gのグリセロールの全部を、80gの水に溶解した。こうして透明な薄黄色の溶液を生成した。次いで、空気圧式吹き付け器を使用して、この溶液を、予め120℃に加熱しておいたチタンディスク(直径1.5cm)の上へと噴霧した。水の一部を蒸発させ、むらのない角質のような層をこのチタンディスク上に形成した。コーティングしたチタンディスクを、質量が一定に留まるまで乾燥機の中で100℃で乾燥し、このコーティングの質量を重量測定によって求めた。このコーティングの質量は1mgであった。
【0074】
実施例2:
20gの硫酸ゲンタマイシン(Fujian Fukang Ltd.(中国)製)、0.1gのトリエチレングリコール(Fluka)、および0.05gの塩化カルシウム(Fluka)の全部を、80gの水に溶解した。こうして透明な薄黄色の溶液を生成した。次いで、空気圧式吹き付け器を使用して、この溶液を、予め120℃に加熱しておいたチタンディスク(直径1.5cm)の上へと噴霧した。水の一部を蒸発させ、むらのない角質のような層をこのチタンディスク上に形成した。コーティングしたチタンディスクを、質量が一定に留まるまで乾燥機の中で100℃で乾燥し、このコーティングの質量を重量測定によって求めた。このコーティングの質量は0.9mgであった。
【0075】
実施例3:
20gの硫酸ゲンタマイシン(Fujian Fukang Ltd.(中国)製)、0.05gのグリセロール(Fluka)、および0.05gの塩化ベンザルコニウムの全部を、80gの水に溶解した。こうして透明な薄黄色の溶液を生成した。次いで、空気圧式吹き付け器を使用して、この溶液を、予め120℃に加熱しておいたチタンディスク(直径1.5cm)の上へと噴霧した。水の一部を蒸発させ、むらのない角質のような層をこのチタンディスク上に形成した。コーティングしたチタンディスクを、質量が一定に留まるまで乾燥機の中で100℃で乾燥し、このコーティングの質量を重量測定によって求めた。このコーティングの質量は0.9mgであった。
【0076】
実施例4:
20gの硫酸ゲンタマイシン(Fujian Fukang Ltd.(中国)製)、0.05gのグリセロール(Fluka)、0.05gの塩化ベンザルコニウム、および0.05gの塩化カルシウムの全部を、80gの水に溶解した。次いで、空気圧式吹き付け器を使用して、この溶液を、予め120℃に加熱しておいたチタンディスク(直径1.5cm)の上へと噴霧した。水の一部を蒸発させ、むらのない角質のような層をこのチタンディスク上に形成した。コーティングしたチタンディスクを、質量が一定に留まるまで乾燥機の中で100℃で乾燥し、このコーティングの質量を重量測定によって求めた。このコーティングの質量は1.0mgであった。
【0077】
実施例5:
20gの硫酸ゲンタマイシン(Fujian Fukang Ltd.(中国)製)および0.05gのグリセロール(Fluka)の全部を、80gの水に溶解した。こうして透明な薄黄色の溶液を生成した。次いで、空気圧式吹き付け器を使用して、この溶液を、予め120℃に加熱しておいたチタンディスク(直径1.5cm)の上へと噴霧した。水の一部を蒸発させ、むらのない角質のような層をこのチタンディスク上に形成した。コーティングしたチタンディスクを、質量が一定に留まるまで乾燥機の中で100℃で乾燥し、このコーティングの質量を重量測定によって求めた。このコーティングの質量は0.9mgであった。その後、乾燥した、コーティングしたチタンディスクを100℃に加熱し、4% パルミチン酸ゲンタマイシン メタノール溶液を噴霧した。メタノールをこのプロセスの中で蒸発させ、パルミチン酸ゲンタマイシンでできた被覆層を形成した。質量が一定に留まるまで乾燥した後、このようにしてコーティングしたチタンディスクを再度秤量した。この被覆層の質量は1.3mgであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの抗生物質と、水と、水溶性ポリオール、オリゴアルキレングリコール、およびアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つの湿潤剤とを含有するコーティングを含む、インプラント。
【請求項2】
前記抗生物質は水溶性の抗生物質である、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記水溶性の抗生物質はゲンタマイシン塩である、請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記ゲンタマイシン塩は硫酸ゲンタマイシンである、請求項3に記載のインプラント。
【請求項5】
前記水溶性ポリオールは、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、グルシトール、およびジアンヒドログリシトールからなる群から選択される、請求項1に記載のインプラント。
【請求項6】
前記オリゴマー状のポリエチレングリコールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびテトラエチレングリコールからなる群から選択される、請求項1に記載のインプラント。
【請求項7】
前記アミノ酸はグリシンである、請求項1に記載のインプラント。
【請求項8】
前記コーティングは、前記コーティングの重量に対して0.01〜80重量%の前記少なくとも1つの抗生物質、0.01〜80重量%の前記少なくとも1つの湿潤剤、5〜30重量%の水、および0〜50重量%の他の成分を含有する、請求項1に記載のインプラント。
【請求項9】
前記コーティングは、防腐剤、抗生物質、消炎薬、および止血剤からなる群から選択される少なくとも1つ以上の物質を含有する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項10】
少なくとも1つの抗生物質と、水と、水溶性ポリオール、オリゴアルキレングリコール、およびアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つの湿潤剤とを含有する、コーティング溶液。
【請求項11】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のコーティングされたインプラントの製造方法であって、コーティングされるべきインプラントが少なくとも90℃の温度に加熱され、請求項10に記載のコーティング溶液が、加熱されたコーティングされるべきインプラントの上に塗布される、方法。

【公開番号】特開2011−240135(P2011−240135A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−104891(P2011−104891)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(510340506)ヘレウス メディカル ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】