説明

抗癌治療上の利用および予防上の利用のためのユニバーサル腫瘍細胞ワクチン

本発明は、種々の型の癌を有する患者(腺癌を有する患者を含む)において免疫応答を刺激するための組成物を提供し、この組成物は、少なくとも1つの免疫抑制因子(例えば、TGF−β)を分泌することに基づいて選択され、上記少なくとも1つの免疫抑制因子(例えば、TGF−β)の発現を低減または阻害するように遺伝的に改変され、そして結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺および他の腺組織の癌腫および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を代表する腫瘍関連抗原のスペクトルを集合的に発現する同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞の組み合わせと、生理学的に受容可能なキャリアとを含む。この腺癌は、例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系ならびにリンパ腫のものであり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2006年12月20日に出願された、米国仮出願第60/876,222号(この全体の内容は、参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
本発明は、概して、癌療法に関し、より具体的には、腫瘍ワクチンに関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
ワクチンは、癌細胞のような特定の標的を攻撃するために患者の免疫系を活性化するように設計された物質の注射物である。過去30年間、科学者は、ワクチンとして腫瘍細胞を使用して実験してきた。この理論は単純である;腫瘍細胞で癌患者をワクチン接種し、ワクチンは、身体の至る所の腫瘍細胞を破壊する免疫応答を惹起する。不幸なことに、免疫抑制と呼ばれる主要な障壁が、この技術の効能を制限する。大半の腫瘍細胞は、これらの細胞が免疫系から隠れることを可能にする分子を産生し、臨床的に有効な免疫応答の発達を妨げるので、免疫抑制が生じる。
【0004】
特許付与されたNovaRx技術は、この免疫抑制障壁(immunosuppressive barrier)を克服することに役立つ。本発明者らは、トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)と呼ばれる分子が、腫瘍細胞によって産生される最も強力な免疫抑制性分子のうちの一つであることを観察した。本発明者らの技術は、ワクチンにおいてTGF−βの免疫抑制作用をブロックし、ワクチンをより強力にする。
【0005】
本発明者らの科学者らは、TGF−βのブロックという新しい工夫が、腫瘍細胞ワクチンをより有効にすることを世界で初めて実証した。一流科学雑誌Proceedings of the National Academy of Sciencesに刊行された研究において、彼らは、この技術が動物モデルにおいて迅速に成長する腫瘍を完全に根絶できたことを示した。彼らは、後に、この知見を、神経膠腫(脳の癌)および肺癌を有する患者の処置に拡張させた。他の研究において、NovaRxの研究者らはまた、同種異系腫瘍細胞で結腸直腸癌患者を接種することが、個々の患者の腫瘍細胞を認識しそして標的にする免疫応答を惹起したことも実証した。しかしながら、ワクチン細胞における免疫抑制性(immune suppressive)の発現のため、治療効果は生じなかった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨
本発明は、腺癌、扁平上皮(squamous)または他の形態の癌を有する患者において免疫応答を刺激するための組成物を提供し、この組成物は、同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞の組み合わせならびに生理学的に受容可能なキャリアを含み、この同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞は、少なくとも1つの免疫抑制因子(例えば、TGF−β)を分泌することに基づいて選択され、この少なくとも1つの免疫抑制因子(例えば、TGF−β)の発現を低減または阻害するように遺伝的に改変されており、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺および他の腺組織の癌腫ならびに中枢神経系の腫瘍、メラノーマ、リンパ腫を代表する腫瘍関連抗原のスペクトルを集合的に発現する。腺癌は、例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織のものならびに中枢神経系の腫瘍、メラノーマ、リンパ腫であり得る。本発明はまた、同種異系腫瘍細胞の上記組み合わせおよびサイトカインを発現するかもしくは特定の分子をブロックする抗体を発現する同種異系細胞を含む組成物も提供する。さらに、本発明は、患者に同種異系腫瘍細胞の上記組み合わせを投与することによる、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌ならびに中枢神経系の腫瘍、メラノーマ、リンパ腫を有する患者において免疫応答を刺激する方法を提供し、ここで、この組み合わせは、患者において自己の腫瘍細胞に対する免疫応答を刺激する。この方法はさらに、サイトカインを発現するように遺伝的に改変されたかもしくは特定の分子をブロックする抗体を発現する線維芽細胞のような同種異系細胞を含み得る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
好ましい実施形態の詳細な説明
他に定義されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属するところの当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。例えば、Singleton PおよびSainsbury D.、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第3版、J.Wiley&Sons,Chichester,New York,2001を参照のこと。
【0008】
転換語(transitional term)「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含有する(containing)」または「によって特徴付けられる(characterized by)」と同義であり、包括的または無制限であり、かつ追加の、言及されていない要素も方法の工程も排除しない。
【0009】
転換語句「から構成される(consisting of)」は、本特許請求の範囲で特定されていないあらゆる要素、工程または成分を排除するが、通常それに付随する不純物のような本発明とは無関係である、追加の構成成分も工程も排除しない。
【0010】
転換語句「から本質的に構成される(consisting essentially of)」は、特定された材料または工程および特許請求される本発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を与えない材料または工程に特許請求の範囲を限定する。
【0011】
本発明は、同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞を使用して腺癌または他の癌を有する患者において免疫応答を刺激するための組成物および方法を提供する。本発明の組成物および方法は、例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者において免疫応答を刺激するために特に有用である。これらの同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞は、免疫応答を亢進するように遺伝的に改変され得る。この同種異系ワクチンは、さらに、サイトカインを発現するかまたは他の免疫阻害分子をブロックする抗体を発現するように遺伝的に改変された同種異系細胞を含み得る。本発明はまた、1つ以上の同種異系腫瘍細胞およびまたは腫瘍幹細胞を投与することによって、腺癌を含む種々の型の癌を有する患者(例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者を含む)において、免疫応答を刺激する方法も提供し、ここで、この同種異系腫瘍細胞は、この患者において自己の腫瘍細胞に対する免疫応答を刺激する。
【0012】
本発明の方法は、腺癌(例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の腺癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫)を有する患者において発現される抗原を発現する1つ以上の同種異系腫瘍細胞およびまたは腫瘍幹細胞を利用し、それによって、これらの抗原に対する免疫応答を刺激する点において有利である。同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞の使用は、各々個々の患者から単離されなければならない自己の腫瘍細胞を使用することとは対照的に、種々の患者に投与することができる抗原の一般的な供給源を提供する。本発明の方法は、同種異系細胞および/または腫瘍幹細胞は、癌ワクチンとして適しており、かつ癌患者の自己の腫瘍細胞に対する免疫応答を刺激することができる点において有利である。
【0013】
本明細書で使用される場合、「自己の細胞」とは、特定の個体から得られた細胞をいう。本発明の方法において、自己の細胞が由来する特定の個体とは、本発明の同種異系ワクチンが投与された個体をいう。本明細書で使用される場合、「自己の腫瘍細胞」とは、このような個体における腫瘍に由来する細胞をいう。
【0014】
本明細書で使用される場合、「同種異系細胞」および/または「腫瘍幹細胞」とは、本発明のワクチンが投与された個体には由来しない(すなわち、その個体とは異なる遺伝的構成を有する)細胞をいう。同種異系細胞および/または腫瘍幹細胞は、一般的に、本発明のワクチンが投与された個体と同一の種から取得される。特に、ヒト同種異系細胞は、癌を有するヒト個体において免疫応答を刺激するために使用され得る。本明細書で使用される場合、「同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞」とは、同種異系細胞が投与される個体には由来しない腫瘍細胞をいう。同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞は、患者における自己の腫瘍細胞に共通する少なくとも1つの腫瘍抗原を発現する。一般的に、この同種異系細胞および/または腫瘍幹細胞は、患者において処置されている腫瘍と同様の型または異なる型の腫瘍に由来する。例えば、本明細書に開示される場合、例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫について処置されている患者は、共通の抗原を共有する、例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系ならびにリンパ腫の腫瘍に由来する同種異系腫瘍細胞、あるいは1つの腫瘍から単離され、幹細胞因子および標的腫瘍と類似した腫瘍に由来する馴化培地を利用することによって異なる型の腫瘍に分化するように誘導された腫瘍幹細胞が投与され得る。後者の手順の利用は、個体に対するワクチンをあつらえて作製すること(tailor making)をもたらし得る。
【0015】
同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞は、例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の腫瘍および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の腫瘍ならびにリンパ腫に由来し得るが、本発明の方法は、1つ以上の腫瘍抗原を発現する同種異系細胞および/または腫瘍幹細胞を利用し得る。例えば、同種異系細胞およびまたは腫瘍幹細胞は、特定の腫瘍に特異的な1つ以上の腫瘍抗原を発現するように誘導または操作され得る。例えば、細胞は、例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌腫および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を処置するために、それぞれ、例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌腫ならびにリンパ腫において発現される腫瘍抗原を発現するように遺伝的に操作され得る。例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌腫および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を処置するための同種異系腫瘍細胞に適切な例示的な腫瘍抗原としては、例えば、癌胎児抗原(CEA)、MUC−1、Ep−CAM、HER−2/neu、p53およびMAGE(MAGE 1、2、3、4、6および12を含む)が挙げられる。さらなる腫瘍抗原もまた、同種異系細胞で発現され得、本発明の同種異系ワクチンにおいて使用され得る。さらなる腫瘍抗原は、例えば、腫瘍特異的抗体を使用し腫瘍抗原についてスクリーニングする周知の方法を使用して同定され得る。さらなる腫瘍抗原は、同種異系細胞にクローニングされ得そして発現され得る。特定の遺伝子を発現するように細胞を遺伝的に操作する方法は、当業者に周知である(Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Press,Plainview,N.Y.(1989);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology(補遺47)John Wiley&Sons,New York(1999)を参照のこと)。
【0016】
例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫に加えて、本発明のワクチンは、他の型の癌を有する個体を処置するために使用され得る。以下により詳細に記載されるように多くの腺癌が抗原を共有するので、1つの型の腺癌を処置するために使用される本発明のワクチンはまた、他の型の腺癌を処置するために使用され得る(その腫瘍が本発明のワクチンの同種異系腫瘍細胞と抗原を共有する場合)。同様に、共通の抗原を有する他の型の腫瘍は、本発明のワクチンで処置され得る。本明細書で使用される場合、「腺癌を有する患者」とは、腺癌に関連する徴候または症状を有する個体をいう。腺癌は、腺または腺様パターンの上皮細胞の悪性新生物である。例示的な腺癌としては、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の腺癌が挙げられる。
【0017】
本明細書で使用される場合、「結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者」とは、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫に関連する徴候または症状を有する個体をいう。癌を検出するために使用される多様な医学的検査が存在し、それらは、癌を認識し、そして捜し出す種々の方法を使用する。マンモグラフィおよび結腸鏡検査のような一部の癌技術(cancer technique)は、特定の癌の型を検出するために使用される。他の技術はより一般的であり、種々の異なる癌の型を検出することができる。当業者は、個体が、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫の徴候または症状を有するか否かを容易に決定することができる。
【0018】
本明細書で使用される場合、「免疫応答」とは、免疫系の1つ以上の細胞によって媒介される、抗原に対する測定可能な応答をいう。免疫応答は、液性応答または細胞性応答を含み得る。本明細書で使用される場合、自己の腫瘍細胞の抗原に対する免疫応答とは、自己の腫瘍細胞上に発現される少なくとも1つの抗原に対する測定可能な免疫応答をいう。同様に、自己の腫瘍細胞に対する免疫応答とは、検出可能かつ自己の腫瘍細胞に特異的である免疫応答をいう。本明細書に開示される場合、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌腫および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫の患者における本発明の同種異系ワクチンの使用は、自己の腫瘍細胞に対する検出可能な免疫応答をもたらす。
【0019】
本明細書で使用される場合、「細胞傷害性Tリンパ球応答」または「CTL応答」とは、細胞傷害性T細胞が活性化される免疫応答をいう。CTL応答は、前駆体CTLおよび分化したCTLの活性化を含む。例えば、本明細書に開示される場合、同種異系癌腫細胞を含むワクチンの投与は、同種異系細胞の腫瘍抗原に特異的な前駆体CTLの頻度を増大させる。このワクチンはまた、自己の腫瘍細胞に対するCTLの頻度を刺激する。
【0020】
本明細書で使用される場合、CTL応答は、特定の抗原に対するあらゆる測定可能なCTL応答を含むことが意図される。好ましくは、CTL応答は、自己の腫瘍細胞上に発現される抗原に対して特異的である少なくとも1つのCTLを含む。CTL応答のレベルは、穏やかな応答から中程度の応答および強力なCTL応答までの範囲に及び得る。このような処置が患者において自己の腫瘍細胞に対する免疫応答を刺激する場合、穏やかな応答であっても癌患者を処置するのに有効で有り得る。
【0021】
本明細書に開示される場合、同種異系腫瘍細胞ワクチンは、このワクチンが投与された患者において前駆体CTLの頻度を増大させる。この同種異系ワクチンは、前駆体CTLの頻度に5倍〜10倍の増大を刺激する。CTL応答が、患者における自己の腫瘍と関連する少なくとも1つの抗原に対するものである限り、CTL応答におけるあらゆる増大が、刺激されたCTL応答であるとみなされることが理解される。
【0022】
本明細書で使用される場合、外因性サイトカインとは、個体に投与されるサイトカインをいう。例えば、外因性サイトカインは、サイトカイン組成物として投与され得るか、このサイトカインは、サイトカインを発現する細胞として投与され得る。
【0023】
本発明の同種異系腫瘍細胞ワクチンは、サイトカインを発現する同種異系細胞によって投与され得る。サイトカインを発現する同種異系細胞は、線維芽細胞のような非腫瘍細胞または腫瘍細胞であり得る。例えば、本明細書に開示される場合、IL−2を発現するように遺伝的に改変された、サイトカインを発現する同種異系線維芽細胞は、同種異系腫瘍細胞ワクチンの構成成分として投与される。本発明の方法において有用なサイトカインは、腫瘍抗原に対する免疫応答を亢進するサイトカインである。例示的なサイトカインとしては、インターロイキン−1(IL−1)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−12、γ−インターフェロンおよび顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)が挙げられる。所望される場合、サイトカインが免疫応答を亢進する活性を保持する限り、サイトカインは、種々の機能的な形態で発現され得る。例えば、GM−CSFのようなサイトカインは、可溶性形態または膜結合形態で作用し得る。本発明の同種異系腫瘍細胞ワクチンに使用するために特に有用なサイトカインは、IL−2およびGM−CSFである。免疫応答を刺激するためのサイトカインを発現するように細胞を改変するための方法は、当業者に周知である。腫瘍ワクチンまたは腫瘍幹細胞ワクチンにおいて抗体を発現する例は、PGE2またはCTLA4を阻害する抗体である。これらの分子は、操作されたワクチン細胞においてか、または腫瘍細胞ワクチンと混合される同種異系の線維芽細胞のような同種異系細胞の異なるセットにおいて、発現され得る。
【0024】
サイトカインを発現する同種異系細胞は、免疫応答を亢進するのに十分なレベルのサイトカイン発現を提供する任意の担体細胞であり得る。本明細書で使用される場合、亢進された免疫応答は、免疫応答におけるあらゆる測定可能な増大である。本質的に、免疫応答を亢進するサイトカインの十分な発現を提供する任意の細胞型が、本発明の方法において使用され得る。サイトカインを発現するための特に有用な同種異系細胞としては、同種異系の線維芽細胞および同種異系腫瘍細胞が挙げられる。サイトカインを発現するように同種異系細胞を遺伝的に改変する方法は、当業者に周知である(Sambrookら、上記、1989;Ausubelら、上記、1999)。例えば、線維芽細胞は、IL−2を発現するように遺伝的に改変される。
【0025】
さらに、同種異系腫瘍細胞およびまたは腫瘍幹細胞は、サイトカインを発現するように改変され得る。患者において腫瘍に共通する抗原を発現する同種異系腫瘍細胞または腫瘍幹細胞は、サイトカインまたは免疫阻害因子(immune inhibitor)をブロックする(the blocks)抗体を発現するように遺伝的に改変され得る。例えば、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌患者および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌患者ならびにリンパ腫の患者において、それぞれ同種異系の結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系ならびにリンパ腫の癌細胞は、サイトカインまたは免疫阻害因子をブロックする抗体を発現するように遺伝的に改変され得、同種異系細胞は、患者において腫瘍に共通する抗原を発現し得る。所望される場合、サイトカインを発現する腫瘍細胞およびまたは腫瘍幹細胞は、免疫応答を刺激または亢進するのに有用な追加の分子(例えば、B7.1およびB7.2)で遺伝的に改変され得る。同種異系細胞で発現されるサイトカインは、免疫応答を亢進する任意のサイトカイン(本明細書に開示されるものを含む)であり得る。本発明の方法で使用するために特に有用なサイトカインとしては、IL−2およびGM−CSFが挙げられ、特定の抗体は、PGE2またはCTLA4を阻害する抗体である。サイトカインおよび/または抗体が同種異系腫瘍細胞で発現される場合、GM−CSFは、同種異系腫瘍細胞の腫瘍抗原に対する免疫応答を亢進する膜結合形態で発現され得る。
【0026】
本明細書で使用される場合、本発明のワクチンで有用な生理学的に受容可能なキャリアとは、免疫化に有用な任意の周知の構成成分をいう。生理学的なキャリアの構成成分は、ワクチンで投与される抗原に対する免疫応答を促進または亢進するように意図されている。処方物は、好ましいpH範囲に維持するための緩衝剤、抗原に対する免疫応答を刺激する組成物において個体に抗原を提示する塩または他の構成成分を含み得る。生理学的に受容可能なキャリアは、抗原に対する免疫応答を亢進する1つ以上のアジュバントもまた含み得る。処方物は、皮下、筋肉内、皮内に投与され得るか、または免疫化に受容可能な任意の様式で投与され得る。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「アジュバント」とは、同種異系腫瘍細胞のような免疫原性因子(immunogenic agent)に添加した場合に、その混合物に曝露した際に、レシピエント宿主においてこの因子に対する免疫応答を非特異的に亢進または増強する物質をいう。アジュバントは、例えば、水中油エマルジョン、油中水エマルジョン、ミョウバン(アルミニウム塩)、リポソームおよび微小粒子(例えば、ポリスチレン(polysytrene)、デンプン、ポリホスファゼンおよびポリラクチド/ポリグリコシド))を含み得る。アジュバントはまた、例えば、スクアレン混合物(SAF−I)、ムラミルペプチド、サポニン誘導体、マイコバクテリウム属の細胞壁調製物、モノホスホリルリピドA、ミコール酸誘導体、非イオン性ブロックコポリマーサーファクタント、Quil A、コレラ毒素Bサブユニット、ポリホスファゼンおよび誘導体、ならびに免疫刺激複合体(ISCOM)を含み得る。獣医学的な使用のため、および動物における抗体の産生のために、Freundアジュバント(完全および不完全の両方)の分裂促進性の構成成分が使用され得る。ヒトにおいて、不完全Freundアジュバント(IFA)が、好ましいアジュバントである。種々の適切なアジュバントは、当該分野において周知である。さらなるアジュバントとしては、例えば、カルメット−ゲラン杆菌(BCG)、DETOX(Mycobacterium phleiの細胞壁骨格(CWS)およびSalmonella Minnesota由来のモノホスホリルリピドA(MPL)を含有する)などが挙げられる。
【0028】
さらに、サイトカインまたは免疫阻害因子をブロックする抗体もまた、本明細書に記載されるように、免疫応答を亢進するアジュバントととして使用され得る。特に、本明細書に開示されるように、本発明の方法は、同種異系腫瘍細胞、ならびにサイトカイン(例えば、IL−2、GM−CSFまたは他のサイトカイン)および抗体(例えば、PGE2またはCTLA4を阻害する抗体)を発現するように遺伝的に改変された同種異系細胞を含むワクチンを有利に使用し得る。サイトカインを発現する細胞の使用は、本明細書に記載されるように、同種異系腫瘍細胞の抗原に対する免疫応答の亢進を可能にする。所望される場合、直接1つ以上のサイトカインを投与するか、あるいは複数のサイトカインを発現する細胞もしくは複数のサイトカインを発現する複数の細胞またはそれらの組み合わせとしてサイトカインを投与することのいずれかによって、1つより多いサイトカインが投与され得ることが理解される。
【0029】
本発明は、腺癌を有する患者において免疫応答を刺激するための組成物を提供する。例えば、本発明は、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者において免疫応答を刺激するための組成物を提供する。この組成物は、1つ以上の同種異系腫瘍細胞およびまたは腫瘍幹細胞ならびに生理学的に受容可能なキャリアを含有する。本発明はまた、該細胞のみを含む材料の組成物も提供する。本発明はさらに、1つ以上の同種異系腫瘍細胞、IL−2またはGM−CSFのようなサイトカインを発現するように遺伝的に改変された同種異系の線維芽細胞および生理学的に受容可能なキャリアを含む組成物を提供する。さらに、本明細書に開示される場合、他の同種異系腫瘍細胞が、免疫応答を刺激するための本発明の組成物に含まれ得る。
【0030】
本明細書に開示される場合、上記の同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞は、免疫応答を亢進する分子を発現するように遺伝的に改変され得る。例えば、これらの同種異系細胞は、B7.1およびB7.2を発現するように改変され得る。さらに、上に記載されるように、これらの同種異系腫瘍細胞は、サイトカインを発現するように改変され得る。
【0031】
上記の同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞は、患者において自己の腫瘍に共通する同種異系腫瘍細胞の1つ以上の抗原に対する免疫応答を刺激するのに十分な用量で投与される。当業者は、免疫応答を惹起するのに十分な同種異系腫瘍細胞を投与するための適切な用量範囲を容易に決定することができる。このような用量は、少なくとも約1×10個の細胞、約1×10個の細胞、約1×10個の細胞、約1×10個の細胞、約1×10個の細胞、約1×10個の細胞、約1×10個の細胞、約1×10個の細胞または約1×1010個の細胞、またはそれ以上であり得る。例えば、本明細書に開示される場合、約6×10個の細胞の総用量で投与される同種異系腫瘍細胞は、CTL応答を刺激するのに十分である。1つより多い同種異系腫瘍細胞が投与される場合、各々の細胞は、適切な総用量の細胞が投与されるように個々の用量で投与することができる。
【0032】
本発明はまた、腺癌を有する患者において免疫応答を刺激する方法も提供する。例えば、本発明は、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者において免疫応答を刺激する方法を提供する。この方法は、1つ以上の同種異系腫瘍細胞をこの患者に投与する工程を包含し得、ここで、この同種異系細胞は、患者において自己の腫瘍細胞に対する免疫応答を刺激する。同種異系腫瘍細胞の投与は、このような腫瘍ワクチンを生成するために患者から細胞を単離することを必要とせずに、患者において腫瘍に対する免疫応答を刺激するのに有利である。
【0033】
本発明はさらに、腺癌を有する患者(結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者が挙げられる)において免疫応答を刺激する方法を提供する。この方法は、1つ以上の同種異系腫瘍細胞をこの患者に投与する工程を包含し、ここで、これらの同種異系細胞は、患者において自己の腫瘍細胞に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を刺激する。
【0034】
本発明はさらに、発達している腺癌から個体(結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者が挙げられる)を保護する、操作された腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞ワクチンでワクチン接種された個体において、予防的な抗癌免疫応答を刺激する方法を提供する。この方法は、1つ以上の操作された同種異系腫瘍細胞およびまたは腫瘍幹細胞をこの個体に投与する工程を包含し、ここで、これらの同種異系細胞は、個体において生じ得る、腫瘍細胞に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を刺激する。
【0035】
本発明はさらに、不顕性の腫瘍から個体を保護する、上記の操作された腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞ワクチンでワクチン接種された個体または腺癌を発症するリスクのある個体(結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者が挙げられる)において、予防的な抗癌免疫応答を刺激する方法を提供する。この方法は、1つ以上の操作された同種異系腫瘍細胞およびまたは腫瘍幹細胞をこの個体に投与する工程を包含し、ここで、これらの同種異系細胞は、個体において生じ得るか、または不顕性の状態で存在し得る腫瘍細胞に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を刺激する。
【0036】
投与されるべき異なる同種異系腫瘍細胞の数は、ワクチンの特定の必要性に依存して変動し得る。所望される場合、例えば、CTL応答は、1つ以上の同種異系腫瘍細胞、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、9つ以上、またはさらには10以上の同種異系腫瘍細胞によって刺激され得る。投与されるべき異なる同種異系腫瘍細胞の数は、変数の腫瘍細胞および株を投与し、免疫応答が刺激されるか否か、免疫応答が亢進されるか否かを決定することによって当業者によって容易に決定され得る。
【0037】
本発明に有用である例示的な同種異系腫瘍細胞および/または腫瘍幹細胞としては、樹立された癌細胞株および癌生検から樹立された腫瘍細胞株から取得されるものが挙げられる。
【0038】
本発明は、種々の癌を有する患者(腺癌を有する患者を含む)において免疫応答を刺激する方法を提供し、それによって、自己の非腫瘍細胞に対するCTL応答が最小化される。例えば、本発明の方法は、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌患者において、免疫応答を刺激するために使用され得る。本発明の方法は、上記の同種異系ワクチンが該患者の自己の腫瘍細胞に対するCTL応答を刺激する一方で、非腫瘍細胞に対するCTL応答を最小化する点において有利である。特に、本発明の同種異系ワクチンは、末梢血単核球(PBMC)に対する最小のCTL応答をもたらした。本明細書で使用される「最小化された」CTL応答とは、自己の非腫瘍細胞に関して使用される場合、検出不能であるか、該患者に対して有害な影響がわずかしかないかもしくは全くない自己の非腫瘍細胞に対するCTL応答をいう。
【0039】
本発明の方法は、腺癌を有する個体(結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者を含む)を処置することに関する。そのようなものとして、本発明において有用な同種異系腫瘍細胞は、一般的に、腺癌細胞である。なぜなら、そのような細胞は、種々の腺癌抗原を発現するからである。例えば、この同種異系腫瘍細胞は、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌細胞および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌細胞ならびにリンパ腫であり得、これらは、それぞれ、他の結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系ならびにリンパ腫の癌腫抗原と共通の抗原を有する。
【0040】
結腸癌腫(colon carcinoma)(癌の最も一般的な形態の1つである)は、アジュバント免疫療法アプローチの開発のための理想的な候補である。結腸癌を有する大半の患者は、腫瘍切除によって処置され、手術の直後に臨床的に検出可能な疾患を示さないが、結局、多くは、検出不能かつ散在した微視的な転移に起因した肝臓または腹部の疾患が再発する。これらの再発した結腸癌の転移の相対的な化学療法耐性はさらに、アジュバント免疫療法のような新規な処置様式に対する必要性を強調する。
【0041】
本明細書に開示される場合、他に分泌された少なくとも1つの免疫抑制因子(例えば、TGF−β)の発現を低減または阻害するように遺伝的に改変された同種異系の結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫の細胞株ワクチンが開発され、そして特徴付けられている。ワクチンに含めるために選択される腫瘍細胞および株は、少なくとも1つの免疫抑制因子(例えば、TGF−β)のそれらの分泌、上記少なくとも1つの免疫抑制因子(例えば、TGF−β)の発現を低減または阻害する遺伝的改変、ならびに結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌腫および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌腫ならびにリンパ腫を代表する腫瘍関連抗原(TAA)のスペクトルの発現に基づいて選択される。別の実施形態において、IL−2を分泌する自己の細胞と組み合わせてのこれらの腫瘍細胞株および/または腫瘍幹細胞株での結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫の患者のワクチン接種は、該患者の自己の腫瘍に反応性のCTLを誘導する。
【0042】
結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を有する患者に加えて、同種異系腫瘍細胞ワクチンの原理は、同様に、他の型の癌(例えば、メラノーマ、脳など)に適用され得る。本発明の方法は、腺癌(結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織および扁平上皮、メラノーマ、中枢神経系の癌ならびにリンパ腫を含む)の処置のために特に有用である。処置されるべき各々の型の癌のために、このワクチンは、処置されるべき型の癌と共通の抗原を発現する同種異系腫瘍細胞およびまたは腫瘍幹細胞を含み得る。さらに、ワクチンは、処置されている患者のものとは異なる腫瘍の型の同種異系腫瘍細胞を含み得る。例えば、本明細書に開示されるような同種異系結腸癌腫細胞を含むワクチンは、例えば、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織などの腺癌を有する患者において、免疫応答を刺激するためのワクチンに使用され得る。このようなワクチンは有用である。なぜなら、この同種異系腫瘍細胞は、異なる型の腫瘍において共通の抗原を共有するからである。例えば、乳房および肺の腺癌ならびに結腸癌腫は、本明細書に記載されるようにCEAを発現する。
【0043】
同種異系腫瘍細胞のみを含むワクチンに加えて、本発明はまた、これらの同種異系腫瘍細胞がサイトカインアジュバントとともに投与される方法を提供する。この同種異系腫瘍細胞ワクチンは、IL−2、GM−CSFまたは他のサイトカインのようなサイトカイン、あるいは上記のPGE2およびCTLA4のような免疫抑制性分子(immune suppressor molecule)を阻害する抗体を投与することを含み得る。さらに、このサイトカインアジュバントは、IL−2、GM−CSFまたは他の免疫刺激性(immunostimulatory)サイトカインのようなサイトカインを分泌するように遺伝的に改変された線維芽細胞または腫瘍細胞のような同種異系細胞の形態で投与され得る。
【0044】
投与するサイトカインの量は、種々の量のサイトカインを投与し、好ましくは、重篤な副作用も生命を脅かす副作用も発症することなく、免疫応答が亢進されるか否かを決定することにより、当業者によって容易に決定され得る。上記の細胞は、所望の用量のサイトカインを提供する種々の量で投与され得る。一般的に、サイトカインは、少なくとも約50単位、約100単位、約200単位、約300単位、約400単位、約500単位、約600単位、約700単位、約800単位、約900単位、約1000単位、約2000単位、約3000単位、約4000単位、約5000単位またはそれ以上の用量で、このような用量が、患者に対して重篤な副作用も生命を脅かす副作用も引き起こすことなく免疫応答を亢進する場合に投与される。本明細書に開示される場合、同種異系の線維芽細胞株は、IL−2を分泌するように遺伝的に改変され得、0〜4000単位のIL−2の範囲の用量を与える種々の量で投与され得る。
【0045】
免疫−遺伝子治療(immuno−gene therapy)に関して、免疫化のために同種異系細胞を使用することは、各患者のために、初代線維芽細胞、および結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織のような腺癌の腫瘍培養物を樹立し、遺伝的に改変する必要性を排除する。同種異系腫瘍細胞の使用についての理論的根拠は、免疫化に使用される腫瘍細胞および患者の腫瘍細胞の両方によって発現される共有される腫瘍関連抗原(TAA)の発現に基づく。結腸癌腫において、クローン性のCTLの反応性は、多数の共有されるTAAを規定するために使用されてきた。
【0046】
本明細書に開示される場合、実際の同種異系腫瘍細胞ワクチンは、それぞれ、生検材料から開始した新鮮な結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌腫培養物と比較した、それぞれ樹立した結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌腫細胞株の免疫学的プロファイルに基づく、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌の免疫−遺伝子治療のために開発される。このワクチンは、少なくとも1つの免疫抑制因子(例えば、TGF−β)のそれらの分泌に基づいて同定され、上記少なくとも1つの免疫抑制因子(例えば、TGF−β)の発現を低減または阻害するように遺伝的に改変され、そして結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺または他の腺組織の癌腫を代表する腫瘍関連抗原(TAA)のスペクトルを集合的に発現する腫瘍細胞または株から構成される。
【0047】
癌ワクチン接種(cancer vaccination)は、腫瘍抗原が、抗原提示細胞(APC)によって取り込まれ、リンパ組織に運ばれ(traffic)、免疫系のCD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)またはCD4+ヘルパー(Th)細胞を刺激する不活化腫瘍細胞(複数)の溶解産物または不活化腫瘍細胞(単数)の溶解産物のいずれかの形態での、腫瘍抗原の投与である。特異的な腫瘍抗原の理想化(deification)によって、ワクチン接種は、関連タンパク質もしくはペプチドで負荷された樹状細胞(DC)またはベクターDNAもしくベクターRNAでトランスフェクトしたDCによってよりしばしば実行される。これらのストラテジーの各々は、免疫系に対して特定の効果を生じる。T細胞によって認識される腫瘍抗原は、腫瘍特異的抗原(TSA)(TSAをコードする遺伝子は腫瘍細胞にのみ見出され、正常組織では見いだされない)または腫瘍関連抗原(TAA)(TAAをコードする遺伝子は、腫瘍細胞で過剰発現されるが、それにも拘らず正常組織でも低レベルで存在する)のいずれかとして分類され得る。
【0048】
TSAは、おそらく、抗癌ワクチン接種または養子治療(adoptive therapy)のための最も望ましい標的を表す。それらの腫瘍特異的発現は、低レベルであっても正常に発現される抗原について見られ得るように、あらゆる予め存在する免疫自己寛容を排除し、したがって、TSAに対して誘導される免疫応答は、正常組織に損傷を与える可能性は低い。TSAの例としては、感染した細胞を癌性にする形質転換ウイルス(transforming virus)の抗原(例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)またはエプスタイン‐バーウイルス(EBV)の遺伝子産物)、ならびに腫瘍細胞にのみ発現される突然変異した遺伝子の産物(例えば、腫瘍形成のRASおよびBCR/ABL融合タンパク質)が挙げられる。
【0049】
CTL標的として腫瘍特異的に変異した抗原の提示が乏しいことを鑑みると、癌患者においてCTL応答に関与する大半のペプチドが、腫瘍関連抗原であることがわかる。これらは非常に多くの実行可能な標的を提供する。なぜなら、大半の腫瘍が正常組織に由来し、したがって、それらの正常組織に見られる「自己の」タンパク質の発現レベルが上昇され得、癌の増殖に寄与し得、好都合なCTL標的を提供し得るからである。共通のHLA対立遺伝子によるこれらのTAAの提示に伴う問題は存在しない。
【0050】
結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺、および他の腺組織の癌腫は、種々の共有されるTAAを発現することが知られている。TAAとしては、以下が挙げられる:HER−2/Neuおよびc−MYC(Ben−Mahrez,K.ら、1988 Br.J.Cancer 57,529−534;Disis,M.L.ら、1994 Cancer Res.54,16−20;Disis,M.L.およびCheever,M.A.1996 8,637−642;Yamamoto,A.ら、1996 Int.J.Cancer 69,283−289)のような既知のオンコプロテイン(oncoprotein);p53(Soussi,T.2000.Cancer Res.60,1777−1788)のような腫瘍抑制タンパク質;survivinおよび水晶体上皮由来成長因子(LEDGF/p75)(Daniels,T.ら、2005 Prostate 62,14−26;Rohayem,J.ら、2000 Cancer Res.60,815−817)のような生存タンパク質(survival protein);サイクリンB1(Covini,G.ら、1997 Hepatology 25,75−80)のような細胞周期調節タンパク質;動原体タンパク質(centromere protein)F(CENP− F)(Covini,G.ら、1997 J.Hepatol.26,255−265;Casiano,C.A.ら、1995 J.Autoimmun.8,575−586;Rattner,J.B.ら、1997 Clin.Investig.Med.20,308−319)のような有糸分裂関連タンパク質;トポイソメラーゼ(Fernandez Madrid,F.2005 Cancer Lett.230,187−198;Imai,H.ら、1995 Clin.Cancer Res.1,417−424)のようなクロマチン関連タンパク質;p62、IMP1およびKoc(Himoto,T.ら、2005 Int.J.Oncol.26,311−317;Zhang,J.Y.ら、2001 Clin.Immunol.100、149−156)のようなmRNA結合タンパク質ならびに;NY−ESO−1(Stockert,E.ら、1998 J.Exp.Med.187,1349−1354)およびMelan−A、SSX2、MAGE−1、MAGE−3、チロシナーゼおよびカルボニックアンヒドラーゼのような分化および癌精巣抗原(differentiation and cancer testis antigen)。
【0051】
種々のグループは、乳癌と関連する候補TAA(RNA結合タンパク質調節サブユニット(RS)、DJ−1癌遺伝子、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)、熱ショック70−kDaタンパク質1(HS71)およびジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼ(DLHD)(Canelle,L.ら、2005 J.Immunol.Methods 299,77−89;Fernandez Madrid,F.2005 Cancer Lett.230,187−198;Klade,C.S.2001 Proteomics 1,890−898;Naour,F.L.ら、2002 Technol.Cancer Res.Treat.1,257−262)を含む)を同定するために「血清学的プロテオーム分析」(SERPA)を使用してきた。SERPAアプローチはまた、膵臓癌における標的自己抗原としてカルレティキュリン(calreticulin)およびDEAD−ボックスタンパク質48(DDX48)(Hong,S.H.ら、2004 Cancer Res.64,5504−5510;Xia,Q.ら、2005 Biochem.Biophys.Res.Commun.330,526−532)、ならびに白血病における主要な候補TAAとしてRho GDP解離阻害因子2(GDP dissociation inhibitor 2)(Cui,J.W.ら、2005 Mol. Cell.Proteomics 4,1718-1724)を同定するために使用されてきた。
【0052】
本明細書に開示される場合、新鮮な結腸癌腫細胞培養物および樹立された結腸癌腫細胞株の両方は、CEA、MUC−1、Ep−CAM、HER−2/neu、MAGEファミリーおよびp53過剰発現を含む、以前に特徴付けられた多くのTAAを発現する(Shawler,D.L.ら、2002 Clin Exp Immunol.129,99−106)。CEAは、多分、最も良く特徴付けられた結腸癌腫関連抗原である。これは、結腸癌のうちの80%で発現され、液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方の標的であることが実証されており、そしてHLA−A2結合エピトープを含む。
【0053】
Ep−CAMは、液性免疫および細胞性免疫の両方のための重要な標的であることが実証されている、結腸癌腫関連細胞表面抗原である。MUC−1は、おそらく、反復アミノ酸配列によるT細胞レセプターのクロスリンク(cross−linking)を介した、MHC拘束性(MHC restricted)細胞障害性およびMHC非拘束性細胞障害性を媒介し得る稀な抗原である。HER−2/neuは、HLA−A2指向性CTLのための抗原として機能し得る、よく特徴付けられたTAAである。
【0054】
腫瘍抑制遺伝子p53は、結腸癌腫の半数において異常に発現される。野生型アミノ酸配列に対応するHLA−A2結合p53エピトープは、最近同定された。ヒトCTLは、p53を過剰発現する腫瘍細胞においてこの共有されるエピトープを標的にし得る。
【0055】
本明細書に開示される場合、MAGE遺伝子ファミリーは、結腸癌腫において頻繁に発現される。MAGE−1は、最初CTLによって認識されるメラノーマにおける腫瘍関連抗原として特徴付けられた。この最初の観察は、種々の組織学的な型の腫瘍によって発現されるMAGEタンパク質のファミリーを含むように拡張された。MAGE遺伝子産物は、強力なHLA−A2拘束性CTLを誘導することが実証された。
【0056】
結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺および他の腺組織の癌腫は、種々の共有されるTAAを発現することが公知である。本明細書に開示される場合、新鮮な結腸癌腫細胞培養物および樹立された結腸癌腫細胞株の両方は、CEA、MUC−1、Ep−CAM、HER−2/neu、MAGEファミリーおよびp53過剰発現を含む多くの以前に特徴付けられたTAAを発現する。CEAは、おそらく最も良く特徴付けられている結腸癌腫関連抗原である。これは、結腸癌のうちの80%で発現され、液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方の標的であることが実証されており、そしてHLA−A2結合エピトープを含む。
【0057】
Ep−CAMは、液性免疫および細胞性免疫の両方のための重要な標的であることが実証されている、結腸癌腫関連細胞表面抗原である。MUC−1は、おそらく、反復アミノ酸配列によるT細胞レセプターのクロスリンクを介した、MHC拘束性細胞障害性およびMHC非拘束性細胞障害性を媒介し得る稀な抗原である。HER−2/neuは、HLA−A2指向性CTLのための抗原として機能し得る、よく特徴付けられたTAAである。
【0058】
腫瘍抑制遺伝子p53は、結腸癌腫の半数において異常に発現される。野生型アミノ酸配列に対応するHLA−A2結合p53エピトープは、最近同定された。ヒトCTLは、p53を過剰発現する腫瘍細胞においてこの共有されるエピトープを標的にし得る。
【0059】
本明細書に開示される場合、MAGE遺伝子ファミリーは、結腸癌腫において頻繁に発現される。MAGE−1は、最初CTLによって認識されるメラノーマにおける腫瘍関連抗原として特徴付けられた。この最初の観察は、種々の組織学的な型の腫瘍によって発現されるMAGEタンパク質のファミリーを含むように拡張された。MAGE遺伝子産物は、強力なHLA−A2拘束性CTLを誘導することが実証された。
【0060】
PGE2は、腫瘍細胞によって発現される分子であり、腫瘍細胞が免疫監視(immune surveillance)を免れることを可能にする免疫阻害分子である。
【0061】
CTLA4、細胞傷害性Tリンパ球抗原4は、免疫応答の誘導に対して抑制性効果を発揮する免疫阻害分子である。
【0062】
本明細書で使用される場合、用語「免疫抑制因子」とは、免疫応答の機能に対して阻害効果を有する遺伝子産物をいう。免疫抑制因子は、例えば、サイトカインの機能を妨害し得るか、または他の機構によって免疫応答を阻害もしくは抑制し得る。免疫抑制因子は、当該分野において公知であり、それらとしては、例えば、トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)、血管内皮増殖因子、プロスタグランジンE2(PGE2)、インターロイキン(IL)−1OおよびIL−6が挙げられる。また、タンパク質p15E、ムチン、抑制性Eレセプター、免疫抑制性酸性タンパク質および接着分子が挙げられる。例えば、TGF−βの種々のアイソフォームが存在すること、そしてTGF−βのこれらのアイソフォームの1つ以上の免疫抑制作用が、例えば、標的細胞に依存することが認識される。用語「TGF−β」は、本明細書において一般的に、アイソフォームが免疫抑制活性を有するという条件で、TGF−βの任意のアイソフォームを意味するために使用される。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「免疫抑制因子を分泌する」とは、腫瘍細胞が、測定可能な免疫抑制因子を分泌することを意味する。結腸癌腫生検から樹立された細胞株において、TGF−βは、480pg/10個の細胞/24hの平均および最大1400pg/10個の細胞/24hの範囲で分泌される。本明細書で使用される場合、用語「免疫抑制因子の発現を低減または阻害する」は、免疫抑制因子をコードするRNA分子のレベルまたは免疫抑制因子そのもののレベルもしくは活性が、遺伝的改変の前に発現したレベルよりも低いレベルまで低減されることを意味するようにその最も広い意味で使用される。用語「低減する」または「阻害する」が共に使用される。なぜなら、一部の場合において、免疫抑制因子の発現レベルが、特定のアッセイによって検出可能なレベルよりも低いレベルまで低減され得、したがって、免疫抑制因子の発現が低減されたかもしくは完全に阻害されたかを決定することができないからである。用語「低減または阻害する」の使用は、例えば、特定のアッセイの限界に起因する、あらゆる潜在的な曖昧さを防止する。
【0064】
トランスホーミング増殖因子−β
発癌におけるトランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)ファミリーメンバーの役割は、複雑である。もともと、インビトロアッセイにおけるそれらの形質転換活性から命名されているが、現在、TGF−βは、腫瘍抑制活性および腫瘍形成活性の両方を明確に実証している。現在の理論的枠組において、その抑制活性は、正常組織において優勢であるが、腫瘍形成の間に、TGF−β発現の変化および細胞の応答は、その腫瘍形成活性に有利になるようにこの均衡を傾ける。
【0065】
TGF−βシグナル伝達経路は、科学文献におけるいくつかの総説の論点になってきた。3つのTGF−βアイソフォーム(TGF−β1、TGF−β2およびTGF−β3)が哺乳動物において発現され、各々、固有の遺伝子によってコードされており、組織特異的な様式および発生における調節様式の両方で発現される。例えば、TGF−β1(X02812)、TGF−β2(M19154)およびTGF−β3(X14149)のヒトcDNA配列を参照のこと。TGF−β1は、最も豊富であり、かつ普遍的に発現されるアイソフォームである;大半の研究は、外因性TGF−β1を用いて調べられたかまたは実行されたかのいずれかである。TGF−βは、潜伏期関連タンパク質(latency−associated protein)および潜伏性TGF−β結合タンパク質の4つのアイソフォームのうちの1つへ結合した潜伏性タンパク質複合体(latent protein complex)として細胞外マトリクスへ分泌される。TGF−βの活性化(生物学的な活性に必要とされる)は、おそらく関連タンパク質のタンパク質分解プロセシングおよびTGF−βリガンドの放出を含む、あまりよく理解されていない機構によって生じる。TGF−βリガンドは、一旦活性化されると、3つの高親和性細胞表面レセプター(I型TGF−βレセプター(TβRI)、II型TGF−βレセプター(TβRII)およびIII型TGF−βレセプター(TβRIII、ベータグリカンととも呼ばれる))へ結合することによって細胞プロセス(cellular process)を調節する。発現される場合、TβRIIIは、最も豊富なTGF−βレセプターであり、古典的には、TGF−βリガンドを結合せしめ、そしてそれをそのシグナル伝達レセプター(TβRIおよびTβRII)に運搬することによって機能する。TβRIおよびTβRIIは、それらの細胞内ドメインにセリン/トレオニンプロテインキナーゼを含む。TβRIは、転写因子のファミリー、Smadをリン酸化することによって細胞内シグナル伝達を開始する。Smad2およびSmad3は、TGF−βについてのレセプター活性化型Smadである。なぜなら、これらは、TβRIによってリン酸化されるからである。Smad4は、全てのレセプター活性化型Smadのための共通のパートナーである。Smad6およびSmad7は、Smad2またはSmad3のリン酸化をブロックし、したがってTGF−βシグナル伝達を阻害する阻害性Smadである。
【0066】
TGF−βシグナル伝達に関する一般的な機構は、解明されている。TGF−βリガンドは、TβRIII(これは、TGF−βをTβRIIに提示する)に結合するか、またはTβRIIに直接結合するかのいずれかである。TβRIIは、一旦TGF−βに結合したらTβRIをリクルートして、結合し、そしてリン酸基を転移し、それによって、そのプロテインキナーゼ活性を刺激する。活性化されたTβRIは、Smad4に結合するSmad2またはSmad3をリン酸化する。生じたSmad複合体は、核へトランスロケーションし、細胞特異的な様式で転写因子と相互作用し、多数のTGF−β応答性遺伝子の転写を特異的に調節する。TGF−βシグナル伝達は、TGF−βレセプターの活性化のレベルおよび期間によって調節されるが、それは、連続的に活性化されたレセプターのレベルをモニタリングすることを可能にする、Smadの連続的な核‐細胞質シャトリングを伴う。さらに、TGF−βシグナル伝達は、これらのレセプターのインターナリゼーションによって調節され得、いくつかの研究は、レセプターのインターナリゼーションがシグナル伝達に必要であることを示唆しており、別の研究は、シグナル伝達のダウンレギュレーションにおけるインターナリゼーションの役割を示唆している。TβRI、TβRII、Smad2、Smad3およびSmad4は、コアのSmad依存性TGF−βシグナル伝達経路を構成するが、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路、Rhoグアノシントリホスファターゼ、PI−3キナーゼ/Aktおよびプロテインホスファターゼ2Aを介したSmad非依存性シグナル伝達が報告されている。
【0067】
アンチジーン(antigene)ストラテジー
少なくとも2つの異なるアプローチが、直接的な遺伝子標的化のために利用され得る。「確立された基準(gold standard)」は、相同組換えによって達成される遺伝子「ノックアウト」である(Bronson SK、Smithies O.J Biol Chem 1994;269:27155−27158)。このアプローチは、細胞分裂の間に、標的化ベクターと破壊のために選択された遺伝子との間で生じる交差事象の結果として、標的にされた遺伝子の実際の物理的な破壊をもたらす。相同組換えは、極めて強力であるが、この技術は、本来、非効率的であり、時間がかかり、かつ高価なままであるという事実によって阻まれる。それにも拘らず、このプロセスの効率の面での改善は達成されている。
【0068】
遺伝子標的化のための第二の選択肢は、二本鎖DNAとハイブリダイズし得る合成オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を使用する。このようなハイブリッドは、らせんの主溝(major groove)内に代表的に形成されるが、副溝(minor groove)内でのハイブリダイゼーションもまた報告されている。どちらの場合においても、三本鎖分子(したがって、用語、三重らせん形成オリゴデオキシヌクレオチド(TFO)の由来)が生成される。TFOは遺伝子を破壊しないが、二重鎖の巻き戻しを妨害するか、またはその遺伝子のプロモーターへ転写因子が結合することを妨害するかのいずれかによって、その転写を妨害する。TFO配列の要件は、TFOを構成する各塩基が、二重鎖内のその相補的な塩基と2つの水素結合(フーグスティーン結合)を形成するための必要性に基づく。このことは、TFOに、DNA内のポリプリン−ポリピリミジントラック(track)を構成するプリン塩基とハイブリダイゼーションすることを強いる。TFOの標的化効率は、二価の陽イオンに対する必要性を含む多くの要因、そしておそらく最も重要なことに、染色体構造内に圧縮されたDNAへの接近によって、さらに制限される。研究者からの最近の実験は、三重らせん形成が、生細胞において生じ得るという証拠を提供し、これらの困難性が、最終的には克服され得ることを示唆した。
【0069】
mRNAの配列特異的ノックダウンのためのアプローチ
アンチセンスオリゴヌクレオチド
小さなアンチセンスオリゴヌクレオチド(ODN)を使用して、遺伝子発現を特異的に阻害し得るという概念は、1978年に、StephensonおよびZamecnik、Proc Natl Acad Sci USA 75:285(1978)、ならびにZamecnikおよびStephenson、Proc Natl Acad Sci USA 75:280(1978)によって最初に発表された。彼らの研究は、ラウス肉腫ウイルス(RSV)の長い末端反復配列(LTR)における末端の反復配列に相補的なトリデカマー(tridecamer)(13−mer)ODNが、無細胞系におけるRSV翻訳および培養された細胞におけるウイルス複製の両方を阻害したことを実証した。研究者が、アンチセンス媒介性遺伝子阻害の潜在性を十分に認識し始めるのに、これらの優れた実験から数年を要した。1980年代初頭におけるODN合成の自動化によって、任意の配列のODNを取得し、アンチセンス塩基対形成によって遺伝子発現をブロックするそれらの能力を試験することが比較的容易になった。
【0070】
ホスホジエステルバックボーンODNが、遺伝子発現をブロックするための標的特異的因子として有効であると実証された後まもなく、いくつかの新規なバックボーン改変が開発され、ODNの安定性を改善し、それらの効果を亢進した。最も広範に使用される改変は、非架橋性(nonbridging)酸素を硫黄原子によって置換し、ホスホロチオエートODNを作製する改変である。この型のバックボーンは、食品医薬品局(FDA,Rockville,MD,USA)認可されたアンチセンス薬物、Vitravene(Isis Pharmaceuticals,Carlsbad,CA, USA)(これは、サイトメガロウイルスIE2 mRNAを標的にし、サイトメガロウイルス関連網膜炎を処置するために使用される)の基礎を形成した。第二のODN、Genasense(これは、Bcl2(Genta,Berkely Heights,NJ,USA)を標的にする)は、最近、標準的な化学療法(アンチセンスがこの化学療法を増強する)と組み合わせて使用される、転移性メラノーマについてのフェーズIII臨床試験を完了した。いくつかの他のホスホロチオエートアンチセンスODNが、種々の癌および炎症性疾患についての、より初期段階の臨床試験にある。
【0071】
遺伝子機能をブロックすることにおけるODNの作用の機構は、ODNのバックボーンに依存して変動する。正味の負に荷電したODN(例えば、ホスホジエステルおよびホスホロチオエート)は、標的mRNAのRNAse H媒介性開裂を誘導する。それらの荷電の欠失または標的RNAとともに形成されるらせんの型のために、RNAse Hをリクルートしない他のバックボーン改変は、立体障害ODNとして分類され得る。この後者の群の一般的に使用されるメンバーとしては、モルホリノ、2’−O−メチル、2’−O−アリル、ロックト核酸(locked nucleic acid)およびペプチド核酸(PNA)が挙げられる。これらのODNは、他の阻害標的の中でも、スプライシング、翻訳、核−細胞質輸送および翻訳をブロックし得る。この多様な種類(array)のODN改変の作用の機構をさらに掘り下げることは、この記載の範囲をはるかに越えており、より詳細な情報に関しては、読者は、各々のこれらの改変を詳細に記載する、この題目についての特定の総説に差し向けられる。
【0072】
リボザイム
リボザイムは、タンパク質が完全に不在であっても、酵素として作用するRNA分子である。これらは、異常な特異性で共有結合を切断および/または形成する触媒活性を有し、それによって、多大な次数(order)の大きさで標的にされた反応の自発的な速度を加速する。触媒として働くRNAの能力は、最初に、Tetrahymena thermophilaの自己スプライシンググループI(self−splicing group I)イントロンおよびRNAse PのRNA部分について示された。これら2つのRNA酵素の発見後に、RNA媒介性触媒作用が、酵母、真菌および植物のミトコンドリア(ならびに葉緑体)の自己スプライシンググループIIイントロン、一本鎖の植物ウイロイドおよびウイルソイドのRNA、デルタ肝炎ウイルスならびにNeurospora crassaのミトコンドリア由来のサテライトRNAに関して見出された。リボザイムは天然に存在するが、発現およびシス(cis)(同一の核酸鎖上)またはトランス(trans)(非共有結合的に連結した核酸)での特定の配列の標的化について人工的にも操作され得る。新規な生化学的活性は、インビトロ選択プロトコールを使用し、RNA以外の基質に作用する新規なリボザイムモチーフを作製して開発されている。
【0073】
エンドリボヌクレアーゼRNAse Pは、天然のいたるところの生物で見出される。この酵素は、RNAおよび1つ以上のタンパク質構成成分(このタンパク質が単離された生物に依存する)を有する。Escherichia coliおよびBacillus subtilisの酵素に由来するRNA構成成分は、特定の塩およびイオン条件下、タンパク質の不在下で、部位特異的な開裂因子として作用し得る。ヒトおよび細菌の酵素に対する基質の要件の研究は、各々の酵素に対する最小の基質は、トランスファーRNA分子のセグメントに似ていることを示した。この構造は、独特に設計されたアンチセンスRNA(これは、標的RNAと対になり、試験管内および細胞内の両方においてRNAse P媒介性部位特異的開裂のための基質として働く)によって模倣され得る。アンチセンス構成成分がRNAse P RNAに共有結合し得、それによって、この酵素のみを目的の標的RNAに誘導することもまた示されている。研究者は、標的の部位特異的開裂を刺激するために、そして細胞培養における単純疱疹ウイルスおよびサイトメガロウイルスの両方の標的にした阻害のために、目的の標的mRNAと対になるアンチセンスRNAの設計において、この特性を利用してきた。
【0074】
多くの植物病原性の小さなRNA(ウイロイド、サテライトRNAおよびウイルソイド)、N.crassaのミトコンドリアDNAプラスミドおよび動物のデルタ肝炎ウイルス由来の転写物は、タンパク質の不在下でインビトロで自己開裂(self−cleavage)反応を受ける。この反応は、中性pHおよびMg2+を必要とする。自己開裂反応は、複製のインビボローリングサークル機構の不可欠な部分である。これらの自己開裂RNAは、配列および開裂部位周辺に形成される二次構造に依存して群(複数)に細分され得る。小さなリボザイムは、一本鎖の植物ウイロイドおよびウイルソイドRNAで見出されたモチーフから得られた。共有される二次構造およびヌクレオチドの保存された組に基づいて、用語「ハンマーヘッド(hammerhead)」は、この自己開裂ドメインの1つの群に与えられた。ハンマーヘッド型リボザイムは、30ヌクレオチドから構成される。ハンマーヘッド触媒ドメインの単純さにより、トランス作用性(trans−acting)リボザイムの設計においてこれが一般的に選択されるようになった。ワトソン‐クリック塩基対形成を使用して、ハンマーヘッド型リボザイムを、あらゆる標的RNAを開裂するように設計することができる。開裂部位での要件は比較的単純であり、実質的にあらゆるUH配列モチーフ(ここで、Hは、U、CまたはAである)を標的にすることができる。
【0075】
第二の植物由来の自己開裂モチーフ(タバコ輪斑病(tobacco ringspot)のサテライトRNAの負鎖で最初に同定された)は、「ヘアピン」または「ペーパークリップ(paperclip)」と称された。ヘアピン型リボザイムは、2’,3’−環状リン酸塩および5’−ヒドロキシル末端を生成する可逆反応においてRNA基質を開裂する。この触媒ドメインの操作されたバージョンはまた、トランスで種々の標的の複数コピーを開裂および転換(turn over)する。ヘアピンのための基質の要件としては、GUCが挙げられ、開裂はGのすぐ上流で生じる。ヘアピン型リボザイムはまた、ライゲーション反応を触媒するが、これは、開裂反応により頻繁に使用される。
【0076】
特定の細胞標的およびウイルス標的をダウンレギュレーションするために、細胞におけるハンマーヘッド型リボザイムおよびヘアピン型リボザイムの両方の多くの適用が存在する。HaseloffおよびGerlach、Nature 334:585(1988)は、標的と塩基対形成する(base pair)アーム(arm)を改変することにより、あらゆる標的を開裂するように操作され得るハンマーヘッドモチーフを1988年に設計した。別の研究室は、このハンマーヘッド型リボザイムモチーフが、ウイルスの遺伝子発現および複製を実質的に完全に阻害した抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)gagリボザイムを発現するように操作された細胞の研究に基づいて、潜在的な治療適用を有したことを実証した。この研究以来、細胞およびウイルス標的を標的にするリボザイムの何千もの適用が文献上存在している。これらの適用を概説する多くの包括的な総説が執筆されており、この題目のさらなる取扱いについて、読者はこれらに差し向けられる。
【0077】
DNAザイム(DNAzyme)
過去数年間、かなりの注目を受けてきた部位特異的開裂核因子(nucleic agent)のカテゴリーは、触媒性DNAのカテゴリーである。RNA標的を部位特異的に開裂することができる小さなDNAは、インビトロ進化(in vitro evolution)によって開発された(なぜなら、公知のDNA酵素は、天然に存在しないからである)。異なる開裂部位特異性を有する、2つの異なる触媒モチーフが、この探索によって見出された。最も一般的に使用される10〜20の酵素は、ワトソン−クリック塩基対形成によってそれらのRNA基質に結合し、ハンマーヘッド型リボザイムおよびヘアピン型リボザイムのように、標的RNAを部位特異的に開裂し、2’,3’−環状リン酸塩および5’−OH末端を生じる。標的mRNAの開裂は、それらの破壊をもたらし、DNAザイムは、複数の基質を再利用し、そして開裂する。触媒性DNAは、合成するのが比較的安価であり、かつ良好な触媒特性を有しており、それによって、触媒性DNAは、アンチセンスDNAまたはリボザイムのいずれかのための有用な代替物になっている。
【0078】
veg F mRNAの阻害および結果として生じる新脈管形成の予防、ならびに慢性骨髄性白血病の特徴であるbcr/abl融合転写物の発現の阻害を含む、細胞培養におけるDNAザイムのいくつかの適用が公開されている。リボザイムと比較した触媒性DNAの欠点は、それらが外因的にしか送達され得ないことであるが、触媒性DNAは、バックボーン改変され得、おそらくそれによってキャリアの不在下で全身送達されることを可能にする。
【0079】
RNAiおよびsiRNA
RNAiは、多くの共通の生化学的構成成分を共有する、関連する遺伝子サイレンシング機構の群をいい、ここで、末端のエフェクター分子は、小さな21〜23ヌクレオチドのアンチセンスRNAである。1つの機構は、比較的長いdsRNA「トリガー(trigger)」(これは、細胞の酵素Dicerによって短い21〜23ヌクレオチドのdsRNA(siRNAと呼ばれる)にプロセシングされる)を使用する。標的RNAに相補的なsiRNAの鎖は、RNA誘導性サイレンシング複合体(RNA−induced silencing complex)(RISC)と呼ばれる多タンパク質複合体に取り込まれるようになり、ここで、siRNAの鎖は、標的部位内のmRNA鎖のヌクレオチド鎖切断開裂(endonucleolytic cleavage)のためのガイドとして働く。このことは、mRNA全体の分解をもたらし;その後、アンチセンスsiRNAは、再利用され得る。下等生物において、RNA依存性RNAポリメラーゼもまた、アニールしたガイドsiRNAをプライマーとして使用し、標的からより多くのdsRNAを生成する。dsRNAは、今度は、Dicer基質として働き、より多くのsiRNAを生成し、そしてsiRNAシグナルを増幅する。この経路は、植物においてウイルス防御機構として一般的に使用される。
【0080】
用語siRNAは、現在、アンチセンス鎖がmRNA標的部位に完全に相補的である場合にはいつでも、一般的に使用される。siRNAは、2つの別個の、21ヌクレオチドのアニールした単一の鎖から構成され得、ここで、末端の2つの3’−ヌクレオチドは対になっていない(3’オーバーハング)。あるいは、siRNAは、単一のステム−ループの形態(しばしば、短いヘアピンRNA(shRNA)と呼ばれる)であり得る。代表的に、しかし常にではないが、siRNAのアンチセンス鎖はまた、si/shRNAのセンスのパートナー鎖と完全に相補的である。
【0081】
最近の実験は、分裂酵母において、動原体DNAによってコードされるdsRNAがまた、動原体のヘテロクロマチンのサイレンシングも媒介し、これは、RNAi経路の構成成分に依存することを示した。同様なRNAi様機構は、Schizosaccharomyces pombe交配型遺伝子座のサイレンシングに関与している。トランスでの内因性ura4+遺伝子のクロマチンサイレンシングは、RNAi構成成分およびClr4(ヒストンメチラーゼ)の両方を必要とする、染色体外プラスミド上にコードされたura4+ステムの長い(long−stemmed)(280塩基対)ヘアピンによって開始される;真正染色質によるヘテロクロマチンの拡散は、Swi6のS.pombeオルソログを必要とする。さらに、減数分裂の間、S.pombeにおける正常な宿主遺伝子発現を調節することに、内因性トランスポゾンから得られた天然に存在するsiRNAを使用する同一の機構が関与している。
【0082】
哺乳動物細胞において、長いdsRNA(通常、30ヌクレオチド長よりも長い)は、インターフェロン経路を誘導し、プロテインキナーゼRおよび2’,5’−オリゴアデニレートシンテターゼ2を活性化する。インターフェロン経路の活性化は、翻訳の全体的なダウンレギュレーションおよび全体的なRNA分解をもたらし得る。しかしながら、哺乳動物細胞に外因的に導入されたより短いsiRNAは、インターフェロン経路をバイパスすることが報告されているが、最近の証拠は、このことは常に事実ではないかもしれないことを示唆する。
【0083】
siRNAアンチセンス産物はまた、内因性マイクロRNA(micro RNA)から得られ得る。C.elegans lin4/lin14経路のようないくつかの理論的枠組みの系での実験から得られたデータは、動物細胞におけるマイクロRNA生合成および遺伝子調節のための以下の経路を示唆する。転写物の末端は、核においてexo III RNAse(ヒト細胞におけるDrosha)によって除去され、70ヌクレオチドのプレ−マイクロRNA(pre−micro RNA)ホールドバック中間体を形成する。プレ−マイクロRNAは、多シストロン性(multi−cistronic)であり得、異なる標的RNAに対して指向された複数のヘアピンを含み得る。プレ−マイクロRNAは、細胞質へ能動的に輸送され、ここで、Dicerのプロセシングにより、ヘアピンステムが切り取られ、ループおよびセンス鎖が除去され、最終的な21〜23ヌクレオチドのアンチセンスRNAiエフェクターを生成する。模範的なsi/shRNAと対照的に、センスおよびアンチセンスのステムパートナー鎖は完全には相補的ではなく、バブル(bubble)またはバルジ(bulge)を含む;塩基対形成の構造および熱力学的性質の両方は、適切なプロセシングに重要である。さらに、アンチセンス鎖は、標的mRNAの3’非翻訳領域の1つ以上の部位に対するミスマッチを含み、ここで、結合は、mRNA分解ではなく翻訳抑制を媒介する。マイクロRNAは、系統発生的に広範に分布し、いくつかの場合において保存されている;これらはまた、一過的かつ空間的な調節を示す。ヒトマイクロRNAの数についての最近の概算は、200〜250である。
【0084】
ヒト細胞において、siRNAおよびマイクロRNAを使用した実験は、最初の形態またはプロセシング経路に拘わりなく、mRNAに完全に相同な、最終的な成熟21〜23ヌクレオチドのアンチセンスRNAが、mRNA開裂をもたらすことを示す。一般的に、siRNAと標的部位との間のミスマッチの効果は、ほんの一部しか理解されていない理由のために、活性を全く損なわないことから活性の完全な消失まで変動し得る;しかしながら、少なくとも1つの場合において、部分的な相同性が、mRNA翻訳の阻害をもたらした。この報告において、模範的なマイクロRNA−標的相互作用を模倣するように設計された標的ミスマッチを有するsiRNAは、mRNAにおける特異的な相互作用および標的部位の数に依存して、種々の程度の翻訳の抑制を媒介した。したがって、siRNAまたはマイクロRNAに典型的である構造上の特徴が、RISCにおけるアンチセンス鎖のプロセシングおよび選択に重要であり、RNAi誘導因子(RNAi−inducing agent)の設計に重要な影響を有する可能性が高い。
【0085】
RNAiは、予め形成されたsiRNAの外因的な送達またはsiRNAもしくはshRNAのプロモーターベースの発現のいずれかによって活性化され得る。したがって、RNAiは、大半の検出方法による、それらの元来のレベルの数パーセントまで、mRNA転写物を特異的にノックダウンする強力な機構であることが明らかとなった。標的にしたメッセージの破壊に関して、RNAiは、アンチセンスRNA、リボザイムまたはRNAザイム(RNAzyme)よりも強力であるようである。なぜなら、RNAiは、おそらく、部位特異的開裂(site−directed cleavage)のために、標的mRNAにアンチセンス構成成分を効率的に誘導する細胞機構を利用するからである。
【0086】
アプタマー
オリゴヌクレオチドは、RNAに相補的な様式で結合することによって潜在的な治療薬であり得るばかりではなく、これらは、コンビナトリアル核酸ライブラリを使用した試験管内進化法(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)(SELEX)による選択手順によっても導出され得、多くの標的に結合し得る。このようなオリゴヌクレオチドは、アプタマーと命名される。これらは、タンパク質に対してのみだけではなく、ペプチドおよび非ペプチド分子に対しても指向されるように選択されている。標的へのそれらの特異性および親和性は、抗体の特異性および親和性と比較され得る。治療薬としてアプタマーを開発することについての可能性は、科学文献において概説されている。
【0087】
デコイ(decoy)
デコイは、ゲノムDNAの標的との相互作用を妨害するための、転写因子のような特定のタンパク質によって認識される核酸コンセンサス配列にしたがって設計されたオリゴヌクレオチドである。転写因子デコイは、転写因子タンパク質に対する結合部位を模倣する分子であり、これは、プロモーター領域と競合し、細胞の核において結合活性を吸収する。転写因子タンパク質は、その転写因子タンパク質が制御する遺伝子のプロモーター領域/エンハンサー領域において見出される特定のDNA配列へ結合することによって遺伝子発現を調節する。大半の転写因子の結合は遺伝子発現の増大と関連しているが、遺伝子抑制もまた記載されている。転写因子−染色体DNAの相互作用をブロックすることによって、デコイは、遺伝子発現の調節を操作する強力な手段を提供する。なぜなら、特に、転写因子が、細胞生物学において正常なプロセスおよび病的なプロセスの経過の間に、遺伝子活性化を変更することがますます理解されてきているからである。
【0088】
細胞内抗体
優れた特異性および高い抗原結合活性を合わせて、細胞内抗体(intrabody)は、翻訳後レベルで広範囲の標的抗原の機能を妨害し、モジュレートし、そしてそれを明らかにするために、生物工学ツールとして使用されてきた。細胞内抗体は、細胞内で発現されるように設計され、細胞内輸送/局在化ペプチド配列とのインフレーム融合(in frame fusion)によって、種々の細胞内位置(subcellular location)(細胞質ゾル、核、小胞体(ER)、ミトコンドリア、ペルオキシソーム、原形質膜およびトランスゴルジ網(TGN)を含む)に存在する特定の標的抗原に指向され得る抗体である。細胞内抗体は種々の形態で発現され得るが、最も一般的に使用される形式は、鎖間リンカー(interchain linker)(ICL)(最も頻繁には、可変重鎖(VH)と可変軽鎖(VL)との間の15アミノ酸リンカー(GGGGS)(3))を用いて、重鎖および軽鎖の抗原結合可変ドメインを合わせることによって生成される、一本鎖抗体(scFv Ab)である。細胞内抗体は、癌、HIV、自己免疫疾患、神経変性疾患(neurodegenerative disease)および移植の研究において使用されている。その抗原に対する抗体の高い特異性および親和性、ならびに分子の標的化に利用可能な抗原結合可変ドメインの実質的に制限されない多様性を利用して、細胞内抗体技術は、表現型ノックアウトを生成するために、生物学的な過程を操作するために、そして機能的遺伝学についてのより完全な理解を得るために、有望なツールとして現れている。
【0089】
TGF−β結合タンパク質
III型TGF−βレセプター(ベータグリカンとしても知られる)は、TGF−βをII型シグナル伝達レセプターに提示する膜係留型(membrane−anchored)プロテオグリカンである。このレセプターの細胞外領域は、細胞によって剥落され得、媒体へ入り得る。可溶性ベータグリカンは、TGF−βを結合するが、膜レセプターへの結合は亢進しない。実際には、組換え可溶性ベータグリカンは、膜レセプターへのTGF−β結合の強力なインヒビターとして作用し、TGF−βの作用をブロックする。この効果は、TGF−β2アイソフォームで特に顕著である。組換えIII型TGF−βレセプター(可溶性RIII)での処置は、ヒト乳癌異種移植片において新脈管形成および腫瘍の成長を阻害し、このモデルにおいて肺および腋窩リンパ節における転移の数を有意に減少させた。可溶性TGF−βレセプターIIは、同様な特性を有するようであり、マウス腫瘍モデルにおいて腫瘍形成性を抑制することを示した。II型レセプターの細胞外ドメインをその構造に取り込む可溶性TGF−βアンタゴニストの構成的な発現は、マウスモデルにおいて転移に対して保護する。I型TGF−βレセプターセリン−トレオニンキナーゼを標的にするインヒビターは、同様な効果を有するようである。
【0090】
腫瘍遺伝子治療ストラテジー
分子生物学および腫瘍生物学における進歩は、腫瘍の形質転換(tumor transformation)に関連する遺伝子の変化についての我々の理解に大いに寄与している。したがって、腫瘍細胞および腫瘍の病態生理学に特異的な変化を標的にする遺伝子治療ストラテジーが提唱されている。これらの処置ストラテジーとしては、とりわけ、変異補償(mutation compensation)および免疫亢進が挙げられる。
【0091】
変異補償
変異補償は、悪性形質転換(neoplastic transformation)についての病因である遺伝的病変の補正を伴う。この遺伝子治療ストラテジーはまた、補正的遺伝子治療(correctional gene therapy)としても知られ、発現調節不全の(expression−dysregulated)癌遺伝子の機能的な切除、腫瘍抑制遺伝子の発現の置換もしくは増強、あるいはいくつかの増殖因子のシグナル伝達経路または腫瘍のイニシエーションもしくは進行に寄与する他の生化学的過程の妨害に注目するものである。この遺伝子治療ストラテジーの最も純粋な例は、腫瘍抑制遺伝子の正常な機能の回復および癌遺伝子の活性のブロックである。いくつかのアプローチが、変異補償遺伝子治療ストラテジーにおいて使用されている。これらとしては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、触媒性リボザイムおよび小さなオリゴヌクレオチド、ドミナントネガティブ遺伝子変異(dominant−negative gene mutation)、および、ごく最近では、小さな干渉性RNA(small interfering RNA)(siRNA)技術が挙げられる。
【0092】
免疫亢進
免疫応答のモジュレーションは、癌遺伝子治療のための様式として特に魅力的である。腫瘍遺伝子治療の重要な中心は、腫瘍細胞を破壊する免疫系の能力の亢進である。受動的な免疫亢進は、天然の免疫応答を追加免疫(boost)し、それをより有効にすることを伴う。能動的な免疫亢進は、以前は認識されなかった腫瘍に対する免疫応答の開始を必要とする。免疫亢進遺伝子治療は、抗原提示細胞およびT細胞の活性を亢進し得るサイトカイン遺伝子の発現、腫瘍細胞の認識および殺傷を促進するコスティミュラトリー(co−stimulatory)分子(例えば、B7.1およびB7.2)の発現、または腫瘍関連抗原を認識する抗原提示細胞の能力を増大させる局所的な炎症反応を生成する外因性免疫抗原の送達のようなストラテジーを利用する。
【0093】
本発明は、明瞭さおよび理解の目的のために幾分詳細に記載されたが、当業者は、形態および詳細における種々の変更が、本発明の真の範囲から逸脱することなくなされ得ることを認識する。全ての図面、表および付録ならびに上記で言及された特許、出願および刊行物は、参考として本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腺癌を有する患者において免疫応答を刺激するための組成物であって、該組成物は、少なくとも1つの免疫抑制因子を分泌することに基づいて選択され、該少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を低減または阻害するように遺伝的に改変され、そして結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺および他の腺組織の癌腫を代表する腫瘍関連抗原のスペクトルを集合的に発現する同種異系腫瘍細胞の組み合わせを含む、組成物。
【請求項2】
前記免疫抑制因子がTGF−βである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記腺癌が、結腸、乳房、肺、前立腺、膵臓、腎臓、子宮内膜、頚部、卵巣、甲状腺および他の腺組織の癌腫からなる群より選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記腫瘍関連抗原のスペクトルは、CEA、MUC−1、Ep−CAM、HER−2/neu、MAGEファミリーのメンバーおよびp53を含む、請求項1、2または3に記載の組成物。
【請求項5】
サイトカインを発現するように遺伝的に改変された同種異系細胞をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記サイトカインがIL−2である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記サイトカインを発現する同種異系細胞が線維芽細胞である、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
免疫阻害分子をブロックする抗体を発現するように遺伝的に改変された同種異系細胞をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記遺伝的改変が相同組換えによる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記遺伝的改変がアンチセンスによる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記遺伝的改変がリボザイムによる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記遺伝的改変がRNAiまたはsiRNAによる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記遺伝的改変が細胞内抗体による、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記遺伝的改変がドミナントネガティブ変異体による、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記同種異系腫瘍細胞の組み合わせが、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、9つ以上、または10以上の異なる同種異系腫瘍細胞を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
腺癌を有する患者において免疫応答を刺激する方法であって、該方法は、該患者へ請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物を投与することを含み、それによって、同種異系腫瘍細胞の組み合わせが、該患者において自己の腫瘍細胞に対する免疫応答を刺激する、方法。
【請求項17】
前記免疫応答が、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
自己の非腫瘍細胞に対するCTL応答が最小化される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記自己の非腫瘍細胞が末梢血単核球である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記患者がヒトである、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
腺癌を発症するリスクのある個体において免疫応答を刺激する方法であって、該方法は、該個体へ請求項1〜20のいずれか一項に記載の組成物を投与することを含み、それによって、同種異系腫瘍細胞の組み合わせが、該個体内で生じ得る自己の腫瘍細胞に対するCTL応答を刺激する、方法。
【請求項22】
不顕性の腺癌を有する個体において免疫応答を刺激する方法であって、該方法は、該個体へ請求項1〜21のいずれか一項に記載の組成物を投与することを含み、それによって、同種異系腫瘍細胞の組み合わせが、該個体において不顕性状態で存在する自己の腫瘍細胞に対するCTL応答を刺激する、方法。

【公表番号】特表2010−514697(P2010−514697A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543236(P2009−543236)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/088457
【国際公開番号】WO2008/105978
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(509173982)
【Fターム(参考)】