説明

抗腫瘍剤

【課題】腫瘍に対して、in vivoにおいて抗腫瘍作用を発揮する新規で実用的な抗腫瘍剤を提供すること。
【解決手段】骨形成タンパク質BMP4を有効成分とする抗腫瘍剤からなる。本発明の骨形成タンパク質BMP4としては、配列表の配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列、或いは該アミノ酸配列における1又は数個のアミノ酸が欠失、付加、或いは置換した配列からなり、かつ、抗腫瘍活性を有するアミノ酸配列からなる骨形成タンパク質を挙げることができる。本発明において、骨形成タンパク質BMP4を有効成分とする抗腫瘍剤として、癌患者に対して腹腔内注射等で投与することにより、in vivoにおいて血管新生阻害等による腫瘍の退縮効果により抗腫瘍活性を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨形成タンパク質BMP4(Bone Morphogenetic Protein 4:BMP4 )を有効成分とする抗腫瘍剤、特に、骨形成タンパク質BMP4を有効成分とし、癌患者に対して腹腔内注射により投与することにより、血管新生阻害等により腫瘍の退縮効果を得ることができる抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、発生、創傷治癒等において重要な役割を果たす他、各種の進行固形癌の増殖や転移においても重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。すなわち、癌細胞は、VEGF、bFGF、EGF、FGF等の血管新生因子を分泌することによって、血管新生を促進し、その結果、それにより生じた血管が癌細胞に酸素・栄養等を供給して、該癌細胞の増殖を促すと共に、該癌細胞の他の部位への転移も促す(非特許文献1及び2参照)。そのため、血管新生抑制効果を有する薬剤を有効成分とする抗腫瘍剤の開発が進められており、例えば、VEGF−Aに対して作用して血管新生シグナルを阻害する抗VEGF−A中和抗体(bevacizumab)を有効成分とするアバスチン(登録商標)や、VEGFRチロシンキナーゼに対して阻害作用を発揮して血管新生シグナルを阻害する薬剤(sunitinib)を有効成分とするスーテント(登録商標)は、抗腫瘍剤として既に実用化されている。
【0003】
骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein:BMP)は、トランスフォーミング増殖因子−β(Transforming Growth Factor−β:TGF−β)スーパーファミリーのサブクラスのメンバーであり、多くの異なる組織や器官の増殖や分化に関与している(非特許文献3〜5参照)。また、いくつかの証拠により、BMPの活性が、発生学的に調節されているアポトーシスに関連することが示唆されている(非特許文献6及び7)。特に、BMP4(骨形成タンパク質4)は、予定神経堤細胞(非特許文献8)や、眼の形態形成中のニワトリの眼杯の背側部(非特許文献9)や、鳥類の発生中の肢の趾間の空間(非特許文献10〜12)において、アポトーシスに関与する。
【0004】
本発明者らはこれまでに、生後のラットにおける虹彩膜の毛細血管網の退縮が、主にレンズ上皮細胞から分泌されるBMP4に依存するアポトーシスによって誘導されることを示した(非特許文献13)。更に、本発明者は、BMP4に依存するアポトーシス作用の発現の程度が、血管内皮細胞の種類によって相違することを見い出し、この相違がInhibitory Smad(I-Smad)6や7の発現量と関連していることを見い出した(非特許文献14)。すなわち、I-Smad6やI-Smad7の発現量の多い血管内皮細胞ではBMP4に対して抵抗性を示したのに対し、I-Smad6やI-Smad7の発現量の少ない血管内皮細胞ではBMP4に対して感受性を示し、BMP4依存性のアポトーシスを生じることを見い出した。
【0005】
BMP4に関するさらなる知見として、BMP4を含むTGF−βファミリーと、肺癌との関連を示唆する報告がある(非特許文献15)。この文献によると、肺癌の発症にTGF−βファミリーのシグナルの破壊又は低下が関与している可能性があるとの以前の報告に基づいて、肺癌細胞株のin vitro培養系にBMP4の添加処理を試みたところ、このin vitro培養系における肺癌細胞株の増殖速度が低下した(又は細胞死が誘導された)と記載されている。また、この文献によると、in vitro培養系でBMP4の添加処理を行なった肺癌細胞株を、ヌードマウスに移植したところ、移植後の肺癌細胞株の増殖速度が低下するとも記載されている。しかし、この移植実験結果は、in vitro培養系であらかじめBMP4処理した肺癌細胞株を移植した結果であって、in vivoでBMP4を投与した結果ではない。すなわち、BMP4を、肺癌に罹患した個体に投与した場合にどのような作用を示すのか、或いは示さないのかは、当業者にとって依然として不明であった。
【0006】
また、BMP4に関する別の知見として、メラノーマの産生するBMP4が、in vitroやin vivoにおけるメラノーマの増殖に促進的に働くとの報告がある(非特許文献16)。この文献によると、メラノーマ細胞にBMP4のアンチセンスベクターを導入して、BMP4のアンチセンスを発現させ、メラノーマ細胞内のBMP4発現を抑制したところ、腫瘍の大きさはコントロールと比較して一見変わらなかったが、腫瘍組織の血管新生が低下し、メラノーマ細胞の壊死が認められたと記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Eur. J. Cancer, 32A, 2534-2539 (1996)
【非特許文献2】Nature Med., 1, 27-31 (1995)
【非特許文献3】Curr. Opin. Genet. Dev., 6, 432-438 (1996)
【非特許文献4】Genes Dev., 10, 1580-1594 (1996)
【非特許文献5】Trends Neurosci., 20, 309-317 (1997)
【非特許文献6】Development, 126, 535-546 (1999)
【非特許文献7】Development, 124, 2203-2212 (1997)
【非特許文献8】Nature, 372, 684-686 (1994)
【非特許文献9】J. Neurosci., 21, 1292-1301 (2001)
【非特許文献10】Development, 122, 2349-2357 (1996)
【非特許文献11】Development, 124, 1109-1117 (1997)
【非特許文献12】Science, 272, 738-741 (1996)
【非特許文献13】Mol. Cell. Biol., 23, 4627-4636 (2003)
【非特許文献14】Oncogene, 25, 7131-7137 (2006)
【非特許文献15】Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol., 286, L81-L86 (2004)
【非特許文献16】Oncogene, 26, 4158-4170 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、腫瘍に対して、in vivoにおいて抗腫瘍作用を発揮する新規で実用的な抗腫瘍剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、BMP4を含むTGF−βファミリーの血管内皮細胞と、アポトーシス作用等の関係の研究の過程において、マウスメラノーマ細胞を移植したマウスに、骨形成タンパク質BMP4(Bone Morphogenetic Protein 4:BMP4 )を投与したところ、該BMP4がin vivoにおいてメラノーマ細胞の増殖を抑制することを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明において、骨形成タンパク質BMP4を有効成分とする抗腫瘍剤として、癌患者に対して腹腔内注射により投与することにより、in vivoにおいて血管新生阻害等により腫瘍の退縮効果を発揮することができる抗腫瘍剤を提供することができる。
【0010】
本発明において、抗腫瘍剤の有効成分である骨形成タンパク質BMP4は、配列表の配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列、或いは該アミノ酸配列における1又は数個のアミノ酸が欠失、付加、或いは置換した配列からなり、かつ、抗腫瘍活性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。本発明の抗腫瘍剤は、その投与方法は、特に限定されないが、癌患者に対して腹腔内注射等により投与することができ、in vivoにおいて血管新生阻害等により抗腫瘍効果を発揮することができる。
【0011】
すなわち、本発明は、(1)骨形成タンパク質BMP4を有効成分とする抗腫瘍剤や、(2)骨形成タンパク質BMP4が、配列表の配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列、或いは該アミノ酸配列における1又は数個のアミノ酸が欠失、付加、或いは置換した配列からなり、かつ、抗腫瘍活性を有するアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(1)に記載の抗腫瘍剤や、(3)骨形成タンパク質BMP4を有効成分とする抗腫瘍剤が、癌患者に対して腹腔内注射により投与することが可能であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の抗腫瘍剤や、(4)骨形成タンパク質BMP4を有効成分とする抗腫瘍剤が、血管新生阻害活性を有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗腫瘍剤に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、in vivoにおいて腫瘍(特に固形癌)の増殖を有効に抑制し、抗腫瘍作用を発揮する新規で実用的な抗腫瘍剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】マウスメラノーマ細胞を移植したマウスにおけるメラノーマ腫瘍の体積を、経時的に示す図である。Controlは対照群を示し、Bm-prot.はBMP4投与群を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における抗腫瘍剤の有効成分である骨形成タンパク質BMP4としては、配列表の配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列、或いは該アミノ酸配列における1又は数個のアミノ酸が欠失、付加、或いは置換した配列からなり、かつ、抗腫瘍活性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質(以下、単に「BMP4」と表示する。)を挙げることができる。BMP4には、天然において多型が存在するが、抗腫瘍活性を有している限り、本発明の範囲に含まれる。
【0015】
すなわち、上記のBMP4としては、哺乳動物由来のBMP4を好適に例示することができ、該哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ウマ、サル、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等を好適に例示でき、中でも抗腫瘍剤の投与対象と同種の哺乳動物(特にヒト)をより好適に例示することができる。マウス由来のBMP4(以下、単に「マウスBMP4」とも表示する。)のアミノ酸配列は配列番号1に示され、該アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は配列番号2に示され、ヒト由来のBMP4(以下、単に「ヒトBMP4」とも表示する。)のアミノ酸配列は配列番号3に示され、該アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は配列番号4に示される。ヒトBMP4とマウスBMP4のアミノ酸配列が116アミノ酸中114アミノ酸で一致している(アミノ酸の同一性98.3%)ことからも分かるように、BMP4は哺乳動物において広く保存されている。したがって、ヒトBMP4やマウスBMP4のアミノ酸配列やそのヌクレオチド配列を参考にして適当なプライマーを設計し、ヒトやマウス以外の哺乳動物のゲノムDNAをテンプレートとしてPCRを行なうこと等により、ヒトやマウス以外の哺乳動物由来のBMP4遺伝子を単離することができる。そして、単離したこのBMP4遺伝子を適切な発現ベクターに組み込み、そのベクターを適当な細胞に導入してBMP4遺伝子を発現させることによって、ヒトやマウス以外の哺乳動物由来のBMP4を得ることができる。
【0016】
上記BMP4としては、抗腫瘍活性を有している限り特に制限されないが、配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列に対して例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質を好適に例示することができる。
【0017】
また、これらのタンパク質以外にも、上記BMP4には、配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列において、1個又は2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、抗腫瘍活性を有するタンパク質;や、配列番号2又は4に示されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつ、抗腫瘍活性を有するタンパク質;も含まれる。
【0018】
上記「1個又は2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味する。
【0019】
上記ストリンジェントな条件としては、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC,0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理を好適に例示することができる。また、上記ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNA(配列番号2又は4に示されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列からなるDNA)のヌクレオチド配列と一定以上の同一性を有するDNAを例示することができ、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するDNAを好適に例示することができる。
【0020】
上記BMP4は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号2又は4に示されるヌクレオチド配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、上記BMP4を得ることができる。
【0021】
あるタンパク質が抗腫瘍活性を有しているか否かは、腫瘍を有する哺乳動物にそのタンパク質を注射投与した場合に、そのタンパク質を注射投与しなかった場合に比べて、その腫瘍の増殖が抑制されるか否かにより確認することができ、より具体的には、後述の実施例1に記載したアッセイと同様の方法のアッセイを行なったときに、そのタンパク質を注射投与しなかった場合に比べて、その腫瘍の増殖が抑制されるか否かにより確認することができる。すなわち、腫瘍を有する哺乳動物にそのタンパク質を注射投与した場合に、そのタンパク質を注射投与しなかった場合に比べてその腫瘍の増殖が抑制されれば、そのタンパク質を抗腫瘍活性を有すると評価することができ、腫瘍を有する哺乳動物にそのタンパク質を注射投与した場合に、そのタンパク質を注射投与しなかった場合に比べてその腫瘍の増殖が抑制されなければ、そのタンパク質を抗腫瘍活性を有さないと評価することができる。
【0022】
本発明の抗腫瘍剤の好ましい抗腫瘍効果としては、後述の実施例1におけるアッセイと同様のアッセイにおいて、day20におけるコントロール群の平均腫瘍体積に対して、day20におけるそのタンパク質投与群の平均腫瘍体積の割合(%)が、好ましくは80%以下、より好ましくは65%以下、さらに好ましくは50%以下、特に好ましくは45%以下を例示することができる。
【0023】
本明細書中の「腫瘍」としては、腫瘍である限り特に制限されないが、悪性腫瘍(癌)を好適に例示することができ、中でも、メラノーマ、胃癌、肺癌、乳癌、大腸癌、肝癌、膵癌、腎癌、前立腺癌、子宮体癌、子宮頚癌、卵巣癌、食道癌、口腔癌、胆道癌、胆嚢癌、胆管癌、甲状腺癌等の固形癌をより好適に例示することができ、中でもメラノーマを特に好適に例示することができる。本発明の抗腫瘍剤の作用機作の詳細は明らかではないが、腫瘍の血管新生を阻害することによって、腫瘍の増殖を抑制するものと考えられるため、本発明の抗腫瘍剤は、多様な悪性腫瘍を含む腫瘍に対して抗腫瘍作用を発揮すると考えられる。
【0024】
本発明の抗腫瘍剤は、抗腫瘍効果が得られる限り、BMP4等の他に、他の抗腫瘍剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0025】
本発明の抗腫瘍剤に含まれるBMP4等は、常法によって適宜の製剤とすることができる。製剤の剤型としては散剤、顆粒剤などの固形製剤であってもよいが、優れた抗腫瘍効果を得る観点からは、溶液剤、乳剤、懸濁剤などの液剤とすることが好ましい。前述の液剤の製造方法としては、例えばBMP4等を溶剤と混合する方法や、更に、懸濁化剤や乳化剤を混合する方法を好適に例示することができる。以上のように、本発明におけるBMP4等を製剤とする場合には、製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、吸着剤、甘味剤、希釈剤などの任意成分を配合することができる。
【0026】
本発明の抗腫瘍剤の投与方法としては、所望の抗腫瘍効果が得られる限り特に制限されず、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与等を例示することができる。しかしながら、本発明の抗腫瘍剤のもっとも好ましい投与方法としては、癌患者に対して腹腔内注射等により投与する方法を挙げることができる。また、本発明の抗腫瘍剤の投与量や投与回数や投与濃度(以下、単に「本発明の抗腫瘍剤の投与量等」とも表示する。)は、投与対象の腫瘍の状態や投与対象の体重等に応じて、適宜調節することができるが、例えば投与対象の体重1g当たりのBMP4等の1日当たりの投与量を1ng〜1000mgの範囲内、好ましくは10ng〜500mgの範囲内とすることができる。特に、本発明の抗腫瘍剤の投与量等を最適な範囲に調整すると、腫瘍内の血管内皮細胞のみを細胞死に導くことが可能となる。なお、より優れた抗腫瘍効果を得る観点から、本発明の抗腫瘍剤を他の抗腫瘍剤と併用することが好ましい。
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
[in vivoにおける抗腫瘍効果確認アッセイ]
本発明におけるBMP4が、in vivoにおいて抗腫瘍効果を発揮するかどうかを確認するために、以下のようなアッセイを試みた。
【0029】
(1)メラノーマを有するマウスの作製
マウスB16メラノーマ細胞(以下、単に「メラノーマ細胞」とも表示する。)を、10%ウシ胎児血清入りのD−MEM培地で培養し、得られたメラノーマ細胞から、1×10個ずつ、合計10セット分取した。分取したメラノーマ細胞のそれぞれにPBS(リン酸緩衝液入り生理的食塩水)を100μlずつ添加して懸濁し、メラノーマ細胞懸濁液を10セット作製した。一方、健常なマウスとして、8週齢のメスのC57BL/6Jマウスを10匹購入して用意した。これらのマウスの右側背部に、マウス1匹あたり前述のメラノーマ細胞懸濁液を1セットずつ皮内注射して、メラノーマ細胞を健常マウスに移植した。移植した日をday0とした。以下、これらのメラノーマ細胞移植マウスを単に「マウス」と表示する。
【0030】
(2)本発明の抗腫瘍剤及びコントロール溶液の調製
マウスBMP4は、R&D Systems, Cat.#:5020-BP, Minneapolis, MN (USA)から購入した。本発明の抗腫瘍剤として、上記マウスBMP4を、0.1%BSA(ウシ血清アルブミン)含有水溶液に溶解した溶液であって、マウスBMP4の濃度が10μg/mlである溶液を調製した。また、コントロール溶液として、0.1%BSA含有水溶液を調製した。
【0031】
(3)本発明の抗腫瘍剤等のマウスへの投与及び腫瘍体積の変化
腫瘍血管新生スイッチ(Angiogenic Switch)が入ると考えられる、メラノーマ細胞移植後2日目(day2)に、前述の10匹のマウスのうち、5匹のマウスのそれぞれに対して、前述の本発明の抗腫瘍剤を1匹当たり200μlずつ腹腔内投与した(BMP4投与群)。このBMP4の投与量をマウス1匹当たりに換算すると、2μgとなり、また、マウスの体重は約20gであるので、マウスの体重1g当たりに換算すると、100ng/gとなる。一方、残りの5匹のマウスはコントロールとし、これら5匹のマウスのそれぞれに対して、前述のコントロール溶液を1匹当たり200μlずつ腹腔内投与した(コントロール群)。
【0032】
day2における、本発明の抗腫瘍剤やコントロール溶液の投与以後、3日おきに各マウスの腫瘍の大きさを計測した。具体的には以下のような手順で計測した。まず、PBSにて20倍希釈したソムノペンチル(ペントバルビタールナトリウム)(64.8mg/ml)を300μl、マウスに腹腔内投与し、マウスに対して完全に麻酔をかけた。次いで、マウスの体温が低下し過ぎないように注意しながら、腫瘍部分をアルコール綿で拭い、腫瘍の大きさを計測し易いように、腫瘍全体が皮膚の直下において十分に隆起するような状態とした上で、精密デジタルノギスを用いて、腫瘍の縦・横・高さの最大径を計測し、それらの計測値から体積を算出して記録した。
【0033】
算出した腫瘍体積の経時的な変化を図1に示し、その基礎データを表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
なお腫瘍体積としては、各群につき、それぞれの平均値を用いている。図1の結果から分かるように、day5では、BMP4投与群及びコントロール群のいずれにおいても、腫瘍の増大は認められなかったが、day8にはBMP4投与群とコントロール群の間で腫瘍体積の差が認められ始め、day11以降は、BMP4投与群における腫瘍体積がコントロール群のそれに対して有意に抑制されていることが認められた。すなわち、本発明の抗腫瘍剤が腫瘍に対して増殖抑制効果を発揮することが示された。
【0036】
day20までに、コントロール群では2匹のマウスが死亡し、BMP4投与群では1匹が死亡した。day20において生存していた残りのマウスはすべて安楽死させ、皮下から腫瘍を摘出した。また、その他の臓器(脳、肺、肝臓、脾臓)及び血液を採取し、両群間の相異、特に、腫瘍血管の変化を中心に観察を行なった。前述の各臓器の肉眼的な所見では、両群間に相異は認められず、各臓器への腫瘍の遠隔転移も認められなかった。一方、腫瘍組織の所見によると、コントロール群の腫瘍では、出血部分が圧倒的に多く認められたのに対し、BMP4投与群の腫瘍では、出血は少なく、散在的に壊死が認められた。これらのことから、BMP4は、腫瘍における血管新生を阻害することによって、腫瘍の増殖を抑制すると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の抗腫瘍剤は、腫瘍の治療分野、特に、固形癌の治療分野に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨形成タンパク質BMP4を有効成分とする抗腫瘍剤。
【請求項2】
骨形成タンパク質BMP4が、配列表の配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列、或いは該アミノ酸配列における1又は数個のアミノ酸が欠失、付加、或いは置換した配列からなり、かつ、抗腫瘍活性を有するアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
骨形成タンパク質BMP4を有効成分とする抗腫瘍剤が、癌患者に対して腹腔内注射により投与することが可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
骨形成タンパク質BMP4を有効成分とする抗腫瘍剤が、血管新生阻害活性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗腫瘍剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−197230(P2012−197230A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176442(P2009−176442)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】