説明

抗菌剤

【課題】 特定の有機リン酸エステル金属塩を含有してなる抗菌剤を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)で表される有機リン酸エステル金属塩からなる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特定の有機リン酸エステル金属塩からなる抗菌剤に関し、詳しくは、芳香族環状リン酸エステルの銀または銅塩からなる抗菌剤に関する。
【0002】
【従来の技術及び問題点】台所、浴室、洗面台等の多湿な場所では、容易に細菌や黴が繁殖して不衛生となる。特に、近年は住宅の気密性が高く、暖房が普及しているため、細菌や黴が容易に繁殖してアトピー性皮膚疾患やその他のアレルギー症状の原因になっている。また、病院等の医療設備においてはより危険な細菌類の繁殖が予想されるため、衛生的な環境を得るうえで、抗菌抗黴剤に対する要求はより重い。
【0003】抗菌作用を有する化合物としては、銀や銅などの特定の金属に抗菌作用があることが古くから知られており、これら金属の抗菌作用が金属表面から溶け出す微量のイオンであることも知られている。これら金属イオンを効果的に利用するために、特開平3−145411号公報などにはゼオライトなどの粘度鉱物中のナトリウムイオンなどと金属を置換したものが提案されている。また、無機の銀塩としては特開平3−83905号公報に、銀の特殊なリン酸塩系化合物が提案され、改善された抗菌性を示している。しかし、これら無機系抗菌剤による抗菌作用はいまだ満足のいくものではなかった。また、より優れた抗菌作用を有する化合物として、フェノール、ハロゲンや硫黄を含有する有機化合物等が知られている。しかし、これら有機化合物は抗菌性には優れるものの、無機系抗菌剤に比べて耐熱性に乏しいために、樹脂などに練混む際に分解して効力を失うばかりでなく臭気の発生や樹脂の物性低下等の好ましくない作用を示して、用途が制限されていた。
【0004】また、本発明の化合物のうち銀塩は、記録材料用の顕色剤および保存性改良剤として優れることが、特開平6−135131号公報に提案されているものの、抗菌剤としての効果については、なんら示唆されてい。さらに、特開昭58−1736号公報には、芳香族環状リン酸エステル金属塩が結晶性樹脂の造核剤として優れることが示されているが、金属種の例示において銀や銅は記載されておらず、まして銀や銅塩が抗菌剤として顕著な効果を有することについては、なんら示唆されてない。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記の現状に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(I)で表される芳香族環状リン酸エステルの銀または銅の塩が優れた抗菌性を示すことを見出した。
【0006】すなわち本発明は、下記一般式(I)で表される有機リン酸エステル金属塩をからなる抗菌剤を提供するものである。また、前記抗菌剤からなる高分子材料用抗菌剤を提供するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
【化2】


【0008】本発明で使用できる上記一般式(I)中のR2で表されるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、アミル、第三アミルが挙げられる。
【0009】前記一般式(I)で表される化合物は、より具体的には、以下の化合物No.1〜No.5が挙げられる。
【0010】
【化3】


【0011】
【化4】


【0012】
【化5】


【0013】
【化6】


【0014】
【化7】


【0015】本発明に用いる芳香族環状リン酸エステル金属塩の合成方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、造核剤として公知のナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスフェートのアルコール溶液に硝酸銀水溶液を攪拌下滴下して、塩交換により容易に得られる。
【0016】本発明の抗菌剤は、種々の対象に適用することが可能であり、適用方法もスプレーによる塗布や含浸などの通常採用される方法をそのまま用いることができる。しかし、本発明の抗菌剤は耐熱性に優れるため、樹脂に高温で練混される用途において特に有用である。本発明の抗菌剤を樹脂に適用する場合には、樹脂100重量部に対して0.001〜5重量部が好ましく、0.005〜3重量部がより好ましい。0.001重量部以下では十分な抗菌効果は得られず、5重量部以上用いても効果はあまり向上せずに、経済的に不利になる。
【0017】本発明の抗菌剤により抗菌性を付与される樹脂としては、例えば、高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−3−メチルペンテン等のα−オレフィン重合体またはエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン及びこれらの共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、塩化ゴム、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−シクロヘキシルマレイミド共重合体、塩化ビニル−シクロヘキシルマレイミド共重合体等の含ハロゲン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、スチレン及び/又はα−メチルスチレンと他の単量体(例えば、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、メタクリル酸メチル、ブタジエン、アクリロニトリル等)との共重合体(例えば、AS樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂、耐熱ABS樹脂等)、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリエチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレート等の直鎖ポリエステル、ポリフェニレンオキサイド、ポリカプロラクタム及びポリヘキサメチレンアジパミド等のポリアミド、ポリカーボネート、分岐ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリウレタン、繊維素系樹脂等の熱可塑性合成樹脂及びこれらのブレンド物、またはフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリカステル樹脂等の熱硬化性樹脂をあげることができる。更に、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム等のエラストマーであってもよい。
【0018】これら本発明の抗菌剤により抗菌性を付与された樹脂は、作業着、医療用着衣、医療用寝具、スポーツ着、カーテン、カーペット、エアーフィルター、魚網、包帯、下着類などの繊維類、食品包装フィルム、医療用フィルム、合成皮革などのフィルム・シート状物、滅菌装置などの成形品、さらに抗菌性塗料などにも用いることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】本発明の抗菌剤の抗菌効果について以下に示す。ただし、この実施例により本発明の抗菌剤の用途や適用方法はなんら制限されるものではない。
【0020】(合成例)ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスフェート10.2g(0.02モル)をメタノール40mlに溶解して、攪拌下硝酸銀3.45g(0.02モル)を水7mlに溶解した水溶液を室温で滴下した。水250mlを加えながら攪拌を続け2時間後、沈澱をろ過して白色粉末11.6g(収率98%)を得た。得られた粉末は、示差熱分析により融点を示さず、350℃で分解した。
【0021】(実施例)ポリプロピレン(出光石油化学(株)製:H−700)100重量部に、テトラキス〔3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル〕メタン0.1重量部、トリス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト0.1重量部、カルシウムステアレート0.1重量部および表−1記載の抗菌剤を表−1に示す重量部添加して220℃で押し出してペレットを作製し、次いで220℃で射出成形して厚さ1mmの試験片を得た。得られた試験片について下記の抗菌性試験および抗黴性試験を行なった。
【0022】(抗菌性試験)供試菌としてグラム陰性かん菌として大腸菌(Escherichia coli)、およびグラム陽性球菌として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を用い、各々107個/mlに滅菌水で希釈したものを1/1000ニュートリエントブロスで100倍に希釈して試験液とした。この試験液0.2mlを試験片上に滴下し、ポリエチレンフィルムでラップして35℃で24時間後に滅菌生理食塩水1.8mlで洗い出し、液の残生菌数により抗菌性を評価した。結果を表−1に示す。
【0023】抗黴性試験供試菌としてアスペルギルス ニゲル(Aspergillus niger)、ペニシリウム シトリナム(Penicillium citrinium)、クラドスポリウム クラドスポリオイデス(Cladosporium cladosporioides)、リゾープス ストロニフェル(Rhizopus stolonifer)、ケトミウム グロポスム(Chaetomium globosum)の5種類を用いてJIS Z−2911に準拠して黴抵抗性試験を行なった。前記5種類の混合胞子懸濁液を調製し、0.5mlを30mm×30mmの試験片にかけた。供試温度28±2℃、湿度95〜99%RH、試験期間28日で黴の繁殖の有無を目視により、黴の繁殖は認められない場合を「−」、僅かに黴の繁殖が認められた場合を「±」、試験片の表面の1/3に黴の繁殖が認められた場合を「+」として評価を行なった。結果を表−1に示す。
【0024】
【表1】


【0025】
【発明の効果】上記実施例と比較例の結果から、本発明の抗菌剤である芳香族環状リン酸エステルの特定の金属塩を樹脂に対して用いると、グラム陽性、グラム陰性菌に対し優れた抗菌性を付与できると共に、優れた抗黴性を発揮することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(I)で表される有機リン酸エステル金属塩からなる抗菌剤。
【化1】


【請求項2】 請求項1記載の抗菌剤からなる高分子材料用抗菌剤。