説明

抗菌性の酸性化飼料製造物およびその製造方法

本発明は、コアと被覆を含み、該コアは多孔性担体および少なくとも1種の酸を含み、また該被覆は少なくとも1種の有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドを含み、ここで、コア中の少なくとも1種の酸のpKa値は、被覆中の少なくとも1種の有機酸のpKa値より低い、抗菌性の酸性化飼料製造物、およびその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料適用物の分野に関する。より詳細には、本発明は、被覆された、抗菌性の酸性化飼料製造物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機酸およびそれらの塩は、一般的に、動物飼育事業において、非治療的に抗生物質を使用する代わりとして用いられる。動物の食餌への有機酸の添加は、動物における消化pHの低下や膵臓分泌の増加の結果、タンパク質やエネルギー源の消化性を改善するといった種々の利益を提供することが示されている。これは、胃による塩酸や乳酸の産生が不十分な離乳時の子豚にとって特に重要である。さらに有利な点は、消化管粘膜についての積極的な効果、飼料における抗菌作用、飼料衛生の提供および消化管における抗菌作用であり、その結果、宿主動物への食餌中のエネルギーと栄養素の利用性を増加させる。
【0003】
畜産業において好ましい有機酸およびそれらの塩の例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ソルビン酸、安息香酸、酪酸、乳酸および無機リン酸が含まれる。
【0004】
動物の成育成績に関して、種々の有機酸の濃度を変えることによる効果を研究する試みが数多く行われてきた。Overlandら(J. Anim. Sci. 2000, 78 : 1875-1884)は、肥育豚―肥育仕上げ豚に対する食餌中の0.6、0.8および1.2%ギ酸カリウムの効果を評価する試みについて開示している。その結果では、有意な効果を示すには、少なくとも0.8%のギ酸カリウムが必要であることが示された。
【0005】
Rothら(Agribiol. Res. 1996, 49 (4) : 307-317)は、ギ酸およびギ酸塩の組み合わせによる処方(酸の総含量70〜80%)を用いて、豚の成育成績に対する有効性を試験した。試験製造物には、0.65%、1.30%および1.95%で添加した。1.95%を添加したもののみが、有意な成長応答を生じさせた。飼料転換(Feed conversion)は、1.30%および1.95%の製造物含有濃度で効果的であった。
【0006】
Partanenら(Animal Feed Sci. & Tech. 2001, 93 : 137-155)は、豚を用いた試験で、0.85%ギ酸および飼料中で8g/kg(0.8%)の含有濃度を用いて、高繊維性食餌に由来する数種のアミノ酸の回腸での消化性を有意に改善する結果を得た。
【0007】
RothおよびRaczek(Feed magazine, 2003 (4), p.105-110)は、ソルビン酸濃度を変えた場合の飼料保存と豚の成育成績に関する研究を行った。動物飼料中のカビや菌を抑制するためには0.05%のソルビン酸で十分であったが、0.55%および1%のソルビン酸は、成長率をそれぞれ7および16%増加させた。しかしながら飼料転換率は、1%のソルビン酸用量域(dose stage)でわずかに改善されたに過ぎなかった。
【0008】
飼料酸性化剤としての有機酸の使用に伴う不利な点は、高用量が必要であるために原価高となり、有機酸の有用性が制限を受けることである。さらに、効果のある有機酸のある種のものについて不利な点は、腐食性の性質と不快臭である。
【0009】
US2002/0086090は、混合された酸の固形調製物を開示する。この混合物に用いられる酸は、ソルビン酸ならびに、室温で、液体状態にある少なくとも1種の有機酸および固体状態にある少なくとも1種の有機酸である。この混合物は、酸の純粋な混合物である。すなわち、酸の間ではなんら化学反応は起こらず、また被覆は形成されない。液体の酸は、固体の酸と直接、または担体上に吸着させた後に混合してもよい。
【0010】
WO 9707687は、多孔性担体であるコア物質および有機酸ならびに有機酸から選択してもよい被覆物質から成る顆粒物を開示する。比較例2において、シリカ物を2種の有機酸、すなわち、被覆されていない吸着生成物(an uncoated absorbate product)を形成するギ酸およびプロピオン酸、の酸混合物と混合している。実施例3では、シリカ物をギ酸と混合し、さらにギ酸よりpKa値が低いクエン酸の融解物で被覆している。
【0011】
WO 2004006689は、ギ酸塩(diformate)のコア物を含む被覆調製物を開示する。被覆物質は、脂肪酸、有機酸またはこれらの誘導体などから選択してもよい。調製物は、さらなる成分および/または有機酸のような添加物をさらに含んでもよい。本発明に従って構成要素を組み合わせることについて、この文書中にはなんら示唆または例示は与えられていない。
【発明の開示】
【0012】
発明の目的
本発明の目的は、動物食餌中において低含量で効果的な、新規で、改良された酸性化製造物を提供することにある。
【0013】
本発明の第二の目的は、高い抗菌作用を有する製造物を提供することである。
【0014】
本発明の第三の目的は、抗菌性の酸性化製造物の製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の第四の目的は、固体酸性化添加物に対する、新規な、改良された型の被覆およびその製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明の第五の目的は、酸を徐放(controlled-release)する固体酸性化添加物を提供することにある。
【0017】
本発明の第六の目的は、プレミックスと相溶しうる、抗菌性の飼料酸性化物を提供することにある。
【0018】
発明の要旨
本発明によれば、これら発明の目的は、抗菌性の酸性化飼料製造物および製造方法によって達成されることが見いだされた。
【0019】
本発明によれば、飼料製造物はコアおよび被覆を含むが、コアは多孔性担体および少なくとも1種の酸を含み、また被覆は少なくとも1種の有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドを含む。ここで、コア中の少なくとも1種の酸のpKa値は、被覆中の少なくとも1種の有機酸のpKa値より低い。
【0020】
飼料製造物は次の方法により製造してもよい:すなわち該方法は、担体を用意し、該担体に対して、少なくとも1種のコアに係る酸、および被覆に使用される有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドを添加することを含む。ここで、コア中の少なくとも1種の酸のpKa値は、被覆中の少なくとも1種の有機酸のpKa値より低い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、コアを形成する担体中に少なくとも1種の酸を、該コアの周囲を取り巻く被覆中における少なくとも1種の有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドと組み合わせて使用することに関する。ここで、コアにおける少なくとも1種の酸のpKa値は、被覆中の少なくとも1種の有機酸のpKa値より低い。
【0022】
理論は、担体および少なくとも1種の強酸を含むコアを、少なくとも1種の弱有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドより成る被覆で覆うことにより、被覆中の有機酸、その塩、エステルまたはグリセライドの抗菌作用が、コアからより強い酸(水素イオン)が継続的に供給されることによって高められるというものである。製造物の粒子形状は広い表面を与え、さらにこの製造物の抗菌作用を高めることができる。
【0023】
コアに含まれるより強い酸のpKa値は、好ましくは<4であり、被覆に含まれるより弱い酸のpKa値は、好ましくは>4である。
【0024】
コアに含まれる酸は、リン酸(pKa=2.15)、ギ酸(pKa=3.75)、乳酸(pKa=3.82)、クエン酸(pKa=3.13)およびフマル酸(pKa=3.02)から、またはこれらの組み合わせから選ぶことが好ましい。
【0025】
被覆に含まれる有機酸(または該酸の塩、エステルもしくはグリセライド)は、酪酸(pKa=4.82)、ソルビン酸(pKa=4.76)、安息香酸(pKa=4.19)、アジピン酸(pKa=4.43)、および弱酸であるカプリン酸およびカパリン酸(caparic acid)から、またはこれらの組み合わせから選ぶことが好ましい。
【0026】
本発明によれば、飼料製造物のコアは、コアに含まれる酸のうち少なくとも1種のpKa値が、被覆に含まれる有機酸のうち少なくとも1種のpKa値より低いものである限りにおいては、異なる酸を含んでもよい。
【0027】
コアは、好ましくは、少なくとも1種の酸に加えて、ギ酸塩のような塩を含んでもよい。しかしながら酸含量に起因するコアのpHは、常に酸性である。好ましくは、コアのpHは4未満である。
【0028】
本発明の1つの実施態様では、コアはギ酸塩を含まない。
【0029】
本発明によれば、飼料製造物の被覆は、被覆に含まれる有機酸のうち少なくとも1種のpKa値が、コアに含まれる酸のうち少なくとも1種のpKa値より高いものである限りにおいては、異なる有機酸、該酸の塩、エステルまたはグリセライドを含んでもよい。
【0030】
本発明に係る飼料製造物は、好ましくは担体を30〜60重量%、コア中の酸を10〜70重量%および被覆中の酸を2〜10重量%含む。
【0031】
被覆はさらに、少なくとも1種の脂肪酸、好ましくは少なくとも1種の長鎖脂肪酸を含んでもよい。脂肪酸は、すべての市販の炭素数10〜24の脂肪酸より選択してもよく、好ましい酸としてはステアリン酸およびパルミチン酸があげられる。
【0032】
本発明によれば、飼料製造物のコアにおける担体は、多孔性の有機または無機材料であって、その孔内に酸を吸着する能力を有するものであればよい。
【0033】
本発明に係る飼料製造物に対して好ましい担体は、珪藻土(diatomaceous earth)である。珪藻土の好ましい粒子サイズは50〜1000μmである。
【0034】
本発明に係る飼料製造物の粒子サイズは、好ましくは0.05〜2.0mmであり、より好ましくは0.2〜1.5mmである。
【0035】
本発明によれば、被覆は、本質的に隙間のない緻密な構造を有すればよい。しかしながら、本発明に係る好ましい被覆は、製造物のコアからの酸が、製造物のコアからの強酸の持続的な遊離を可能とする被覆を通して拡散することが可能となるような多孔性構造を、多少とも有するものである。
【0036】
本発明によれば、被覆の間隙は、製造物において使用される酸および製造物が使用される状態に応じて調整してもよい。
【0037】
被覆の間隙は、好ましくは0.2〜2μmである。
【0038】
本発明によれば、製造物は、任意にアンモニア化(ammoniated)してもよい。
【0039】
本発明によれば、製造物は、ビタミン類、微量ミネラル類およびその他の添加物をさらに含むプレミックスの一部であってもよい。
【0040】
本発明によれば、抗菌性の酸性化飼料製造物は、次の方法に従って製造してもよい:すなわち、担体を用意し、該担体に、コアに含まれる少なくとも1種の酸および被覆に含まれる有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドを添加する。ここで、コアに含まれる少なくとも1種の酸のpKa値は、被覆中の少なくとも1種の有機酸のpKa値より低い。
【0041】
コアに含まれる少なくとも1種の酸、および被覆中の少なくとも1種の有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドは、液体または粉体状であってもよく、またその添加は、混合および/または噴霧によって行ってもよい。被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドは、水溶液、弱酸性溶液または融解物として添加してもよく、また任意に、少なくとも1種の長鎖脂肪酸との混合物中に添加してもよく、また任意に、加熱した担体上に添加してもよい。
【0042】
本発明に係る方法についての種々の実施態様に関する以下の記述において、コアに含まれる少なくとも1種の酸のpKa値は、被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸のpKa値より低い。
【0043】
1.第一の実施態様によれば、担体を用意し、該担体に、コアに含まれる少なくとも1種の酸と、被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸の塩、該酸のエステルまたはグリセライドの水溶液を添加する。
【0044】
1A.担体には、コアを形成するために少なくとも1種の酸を添加し、次いでこのコアに、被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸の塩、エステルまたはグリセライドの水溶液を添加する。
【0045】
コアに添加する際、より高いpKa値を有する有機酸から生成する有機酸塩のカチオンは、コアに含まれるより低いpKa値を有する酸のアニオンと反応し、コアの表面上に2種の成分、すなわち、1種の成分はコアに含まれるより強い酸の塩であり、もう1種の成分は固体の弱い有機酸、を含む被覆が得られる。
【0046】
被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸の塩、該酸のエステルまたはグリセライドの水溶液は、好ましくは噴霧によってコアに添加され、またこの水溶液は周囲の室温、より好ましくは15〜60℃である。
【0047】
水溶液中の塩濃度は、少なくとも30重量%が好ましい。
【0048】
被覆溶液は、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウムおよびパルミチン酸ナトリウムから選ばれる1種類の塩の水溶液より調製することが好ましい。
【0049】
1B.被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸塩、該酸のエステルまたはグリセライドの水溶液は、コアに含まれる少なくとも1種の酸と予め混合する。直ちに反応して溶液中に沈殿が生成し、懸濁液を与える。この懸濁液を、好ましくは噴霧により担体に添加すると、担体上に多孔性の被覆が形成される。
【0050】
1C.被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸の塩、該酸のエステルまたはグリセライドの水溶液と、コアに含まれる少なくとも1種の酸の水溶液を、別々にかつ同時に、好ましくは噴霧により、担体に添加する。
【0051】
2.第二の実施態様によれば、担体を用意し、該担体に、コアに含まれる少なくとも1種の酸、ならびに被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライド、および少なくとも1種の脂肪酸を添加する。
【0052】
2A.担体を用意する;該担体へ、コアを形成するコアに含まれる少なくとも1種の酸を添加する;少なくとも1種の脂肪酸および被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸、該酸の塩、エステルまたはグリセライドを融解した混合物を、このコアへ添加する。
【0053】
この添加方法は、特にソルビン酸、安息香酸、カプリン酸およびカパリン酸(caparic acid)に対して適している。
【0054】
2B.担体を用意する;該担体へ、コアを形成するコアに含まれる少なくとも1種の酸を添加する;このコアに少なくとも1種の脂肪酸の融解物を添加し、次いで、この脂肪酸が凝固する前に、被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸、該酸の塩、エステルまたはグリセライドを粉末として、このコアに添加する。
【0055】
この添加方法は、特に酪酸カルシウム、安息香酸およびソルビン酸に対して適している。
【0056】
2C.担体を用意する;該担体へ、コアを形成するコアに含まれる少なくとも1種の酸を添加する;このコアを加熱する;少なくとも1種の脂肪酸および被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸、該酸の塩、エステルまたはグリセライドを粉末混合物として、このコア上に添加する。
【0057】
2D.担体を用意する;該担体へ、コアを形成する少なくとも1種の酸を添加する;コアと少なくとも1種の脂肪酸を加熱する;被覆に含まれる少なくとも1種の酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドを粉末として、この脂肪酸が凝固する前に、この脂肪酸で被覆されたコア上に添加する。
【0058】
3.本発明による方法の第三の実施態様によれば、担体を用意し、該担体を、被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸、該酸の塩、エステルまたはグリセライドの粉末と混合し、次いで、コアに含まれる少なくとも1種の酸を、水の存在下液状として、好ましくは被覆が形成される噴霧により、この担体に添加する。
【0059】
4.第四の実施態様によれば、担体を用意し、該担体に、水および酸中では溶解性の低い、被覆に含まれる少なくとも1種の固体の有機酸、エステルまたはグリセライドと、コアに含まれる少なくとも1種の液体の酸を混合することにより生成する懸濁液を添加する。この懸濁液は、この担体上に噴霧される。
【0060】
以下の実施例および図面は、単に本発明を説明するために供されており、何らかの限定があることを意味するものではない。
【0061】
実施例1
この実施例は、pKa>4の有機酸の塩の水溶液を用いたコアの被覆を示す。始めに10kgの珪藻土をパスカル転倒ミキサーに取り、7.5kgのアンモニア化ギ酸(pKa=3.75)に浸漬し、次いで、なお振とうしている間に、水(0.47kg)とソルビン酸カリウム(0.47kg、ソルビン酸のpKa=4.76)の溶液を、浸漬された珪藻土上に噴霧する。
【0062】
溶液は、浸漬された珪藻土に容易に取り込まれ、ギ酸との反応が起こり、ソルビン酸の被覆を有するゆるく遊離した流動性の製造物が形成される。
【0063】
得られた被覆粒子を図1aに示す。また被覆中のソルビン酸結晶を図1bに示す。図1aは、ソルビン酸で被覆した実施例1の被覆粒子を示すSEM写真(200倍)である。図1bは、ソルビン酸カリウムとギ酸の反応により生成した、実施例1の被覆におけるソルビン酸結晶のネットワークを示すSEM写真(1000倍)である。本実施例による製造物は、実施例4、6および7で使用した。
【0064】
実施例2
この実施例は、脂肪酸の融解物を用いてコアを被覆し、その後、pKa>4の有機酸の粉末により該コアを被覆したものを示す。
【0065】
加熱空気によって混合ボールを外部から加熱しながら、家庭用ミキサー中で280gの珪藻土を、250gの熱(90℃)リン酸(77%、pKa=2.15)に浸漬する。ベッド温度が約70℃に上昇した時、融解脂肪酸(パルミチン酸80℃、52g)を浸漬された珪藻土上に噴霧する。約3分間の振とう後、脂肪酸の固化限度以上に温度を保持しながら、ベッドをソルビン酸(18g、pKa=4.76)により粉末化する。このベッドは脂肪酸層に包埋されている。加熱を止め、次いで、冷却期間中はベッドを振とうしたままにする。ベッドを約45℃の温度に冷却すると、ソルビン酸で被覆された遊離した流動性の製造物が得られる。本実施例による被覆粒子を図2に示す。図2は、パルミチン酸融解物中のソルビン酸で被覆した、実施例2の被覆粒子を示すSEM写真(100倍)である。
【0066】
実施例3
この実施例は、脂肪酸とpKa>4である有機酸との融解物を用いるコアの被覆を示す。
【0067】
570gの珪藻土と10gのフマル酸(pKa=3.02)の混合物を、300gの乳酸(80%、pKa=3.82)と90gのリン酸(77%、pKa=2.15)の熱(90℃)混合物とともに、家庭用ミキサー中で浸漬する。ベッドを、温度が約80℃に達するまで、また乳酸含量が約26%となるまで、実施例2に記載したように、外部から加熱する。75%の脂肪酸(ステアリン酸)と25%の安息香酸(pKa=4.19)とを含む100gの熱融解物(85℃)を、振とうベッド上に噴霧する。加熱を止め、次いで、冷却期間中はベッドを振とうしたままにする。ベッドを約38℃の温度に冷却すると、遊離した流動性の被覆製造物が得られる。本実施例による被覆粒子を、図3に示す。図3は、ステアリン酸および安息香酸で被覆した実施例3の被覆粒子を示すSEM写真(200倍)である。
【0068】
実施例4
本実施例は、本発明に係る製造物からの酸の蒸発を、非被覆吸着剤製造物、その中で製造物AおよびEはアンモニア化されているものと比較したものを示す。
【0069】
供試製造物および酸遊離試験の結果を表1に示す。
【0070】
温度を制御した100L/h±10%の空気流を、20.0℃±1℃で、100mLの試料を含む直径50mmの樹脂フラスコに導入した。試験温度は20℃±1.0℃に維持した。空気量は流量計で測定した。試料は、試験表面上30mmに置かれた中央ガラス管からの空気流に暴露した。空気流に運ばれた酸蒸気は、指示薬としてフェノールフタレインを添加した〜150mLの>2%ギ酸ナトリウム溶液を含む樹脂フラスコ中の吸収溶液に捕捉された。この溶液は、まず1.0−n NaOHを用いて、色調変化(赤色)を生ずるまで滴定した。10分間の吸収後、この溶液を赤色に戻るまで滴定した。この操作は、同一試料について3回繰り返した。この結果は、3回の滴定の平均値として表示している。蒸発した酸の値は、他の酸の含量に関係なく、グラム−ギ酸/m3−空気として示されている。
【0071】
【表1】

【0072】
アンモニア化非被覆製造物AおよびEは、非被覆製造物Cより低い酸放出を示す。製造物を被覆することにより、コアに含まれる強酸の放出が33〜57%減少した。製造物Cは、製造物Bよりソルビン酸被覆が厚いため、酸放出の減少がより高い結果となる。製造物に必要なソルビン酸量を減じるためには、表1中の製造物Eで示されるとおり、脂肪酸(パルミチン酸)を添加してもよい。
【0073】
実施例5
本実施例は、本発明に係る抗菌性の酸性化製造物を含む飼料プレミックスのビタミン安定性を示す。
【0074】
試験は、飼料プレミックスの貯蔵中に、酸性化製造物からの遊離リン酸がビタミンAと反応することに基づいて実施された。
【0075】
本発明の製造物は、珪藻土およびリン酸のコア、ならびに表2中のA、BまたはCによる被覆を含有した。製造物Aは非被覆のものであり、製造物Bはソルビン酸カリウムの50%水溶液をコアに添加することにより製造し、また製造物Cは、脂肪酸(パリミチン酸)融解物とソルビン酸との混合物をコアに添加することにより製造した。それぞれの飼料プレミックスは、ビタミン類、微量ミネラル類および表2中に示される製造物A〜Cの1種を70重量%含有した。
【0076】
【表2】

【0077】
本発明の製造物の被覆は、表2に示されるとおり、その製造物からの酸放出を効率的に抑制する。
【0078】
実施例6
本実施例は、家禽飼料におけるサルモネラ菌(Salmonella typHimurium)の48時間生存率に基づく、本発明に係る製造物の抗菌作用を示す。
【0079】
1キロの粉餌を人為的にSalmonella typHimuriumで汚染し、均一に混合して、この微生物を粉餌中において確実に均一に分布させた。
【0080】
1)200gの汚染粉餌は、珪藻土およびギ酸のコアならびに1.86%ソルビン酸の被覆を含む本発明に係る飼料製造物(実施例1における製造物)により処理した。
【0081】
2)第2の試料である200gの汚染粉餌は、液性のギ酸/プロピオン酸で処理した。
【0082】
3)第3の試料である200gの汚染粉餌は、シリカ担体上に吸着された液性ギ酸により処理した。
【0083】
4)200gの粉餌を、対照として未処理のままとした。
【0084】
試料は室温で密閉容器中に貯蔵し、間隔をおいて汚染微生物(Salmonella typHimurium)のための評価を行った。ルーチン分析には、微生物の回収に使用される標準手法を用いた。粉餌試料は緩衝化ペプトン水に添加し、徹底的に混合した。この上清をBrilliant Green Agar (BGA) 上に広げ、保温し、コロニーの成長を調べた。
【0085】
異なる試料1〜4の含有率および試験結果は表3および4に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
表3に示されるとおり、本発明に係る被覆製造物を用いて約0.4%の酸アニオン濃度とすると、生存率は5%となり、また液体の酸を用いると生存率は12%となる。
【0088】
珪藻土およびギ酸のコアならびにソルビン酸被覆を低い含有濃度で含む、本発明に係る飼料製造物により処理した試料は、酸アニオン含有率がより低い場合でも、液性ギ酸およびシリカ担体上に吸着されたギ酸より、Salmonella typHimuriumの減少が高いことが示された(表3および4)。
【0089】
【表4】

【0090】
実施例7
本実施例は、肥育豚/肥育仕上げ豚の成績について、本発明に係る飼料製造物の効果を示す。
【0091】
本発明に係る抗菌性の酸性化飼料製造物の用量効果を、約21kgの生体重から、105kgの生体重で屠殺するまでの肥育豚において、成長促進剤を含む/含まない基礎食餌と比較した。2種類の基礎食餌(肥育用および肥育仕上げ用)には以下の添加物を含有させた。
【0092】
1.成長促進剤を含まない対照飼料
2.40g/トンのアビラマイシン(Maxus(登録商標))(抗生剤)、肥育期にのみ使用(およそ21から54kg生体重まで)
3.飼料中の割合が0.3%の発明に係る製造物(実施例1)
4.飼料中の割合が0.6%の発明に係る製造物(実施例1)
5.飼料中の割合が1.2%の発明に係る製造物(実施例1)
【0093】
発明に係る製造物には、実施例1記載の液性ソルビン酸カリウム法により製造した、珪藻土およびギ酸のコアならびにソルビン酸被覆を含有させた。上記3〜5の発明に係る製造物について、ギ酸由来のアニオン濃度およびソルビン酸濃度を表5に示した。
【0094】
【表5】

【0095】
畜舎あたり4頭の豚、処理群あたり10の畜舎での試験では、フィンランドランドレース×ヨークシャー豚を使用した。随意に約85%まで制限したが、給餌はすべての処理群について均等とした。食餌組成と栄養仕様は表6に示す。
【0096】
【表6】

【0097】
結果は表7および図4に示す。図4は、飼料割合を変えた場合の本発明による飼料製造物の、肥育豚の成育成績に対する効果を示す図である。
【0098】
【表7】

【0099】
本発明に係る製造物は、胃病変に関して有害な影響を示さず、また食道部における有害変化を減少させる傾向があった。
【0100】
本発明に係る被験製造物は、最低含有量すなわち0.11%の酸アニオンを含む0.3%群においても、肥育豚―肥育仕上げ豚の成長成績を有意に改善し、また、より高い含有量とすると、成長反応はさらに促進された。0.11%の酸アニオンの場合は、本発明に係る効果を得るために6倍多量の酸イオン含量のものを用いたPartanenら(Animal Feed Sci. & Tech. 2001, 93:137-155)の場合(0.85%ギ酸および0.8%の含有量、約0.68%の酸アニオン含量を与える)に匹敵する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】1aは、ソルビン酸で被覆した実施例1の被覆粒子を示すSEM写真(200倍)である。1bは、ソルビン酸カリウムとギ酸の反応により生成した、実施例1の被覆におけるソルビン酸結晶のネットワークを示すSEM写真(1000倍)である。
【図2】パルミチン酸融解物中のソルビン酸で被覆した、実施例2の被覆粒子を示すSEM写真(100倍)である。
【図3】ステアリン酸および安息香酸で被覆した実施例3の被覆粒子を示すSEM写真(200倍)である。
【図4】飼料割合を変えた場合の本発明による飼料製造物の、肥育豚の成育成績に対する効果を示す図である。
【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと被覆とを含む抗菌性の酸性化飼料製造物であって、該コアは多孔性担体および少なくとも1種の酸を含み、また該被覆は少なくとも1種の有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドを含み、コアに含まれる少なくとも1種の酸のpKa値は、被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸のpKa値より低い製造物。
【請求項2】
コアに含まれる少なくとも1種の酸が、被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸より強酸である請求項1記載の製造物。
【請求項3】
コアに含まれる酸のpKa値が<4である請求項1または2記載の製造物。
【請求項4】
被覆に含まれる有機酸のpKa値が>4である請求項1〜3のいずれかに記載の製造物。
【請求項5】
被覆に含まれる有機酸が、酪酸、ソルビン酸、安息香酸、アジピン酸、カプリン酸およびカパリン酸から選ばれるか、またはこれらの酸の組み合わせである請求項1〜4のいずれかに記載の製造物。
【請求項6】
コアに含まれる酸が、リン酸、ギ酸、乳酸、クエン酸およびフマル酸から選ばれるか、またはこれらの酸の組み合わせである請求項1〜5のいずれかに記載の製造物。
【請求項7】
製造物が、担体を30〜60重量%、コアに含まれる酸を10〜70重量%および被覆中の有機酸を1〜10重量%含む請求項1〜6のいずれかに記載の製造物。
【請求項8】
被覆が、少なくとも1種の脂肪酸、好ましくは長鎖脂肪酸をさらに含む請求項1〜7のいずれかに記載の製造物。
【請求項9】
担体が珪藻土である請求項1〜8のいずれかに記載の製造物。
【請求項10】
コアのpHが4未満である請求項1〜9のいずれかに記載の製造物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の抗菌性の酸性化飼料製造物の製造方法であって、
担体を用意すること、
該担体に、コアに含まれる少なくとも1種の酸、および被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸の塩、該酸のエステルまたはグリセライドの水溶液を添加すること
を含み、少なくとも1種のコアに含まれる酸のpKa値は、少なくとも1種の被覆に含まれる有機酸のpKa値より低い方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の抗菌性の酸性化飼料製造物の製造方法であって、
担体を用意すること、
該担体に、コアに含まれる少なくとも1種の酸、ならびに被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸、該酸の塩、エステルまたはグリセライドおよび少なくとも1種の脂肪酸を添加すること
を含み、少なくとも1種のコアに含まれる酸のpKa値は、少なくとも1種の被覆に含まれる有機酸のpKa値より低いものである方法。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の抗菌性の酸性化飼料製造物の製造方法であって、
担体を用意すること、
該担体に、被覆に含まれる少なくとも1種の有機酸または該酸の塩、エステルもしくはグリセライドの粉末を添加すること、および
液体状態にある、コアに含まれる少なくとも1種の酸を、水存在下で添加すること
を含み、少なくとも1種のコアに含まれる酸のpKa値は、少なくとも1種の被覆に含まれる有機酸のpKa値より低いものである方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の抗菌性の酸性化飼料製造物の製造方法であって、
担体を用意すること、
該担体に、被覆に含まれる少なくとも1種の固体の有機酸、エステルまたはグリセライド、および少なくとも1種のコアに含まれる液体の酸を混合することにより生成される懸濁液を添加すること
を含み、少なくとも1種のコアに含まれる酸のpKa値は、少なくとも1種の被覆に含まれる有機酸のpKa値より低いものである方法。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造物の動物飼料の保存剤としての使用。
【請求項16】
動物の健康、成育および飼料利用を改善するための請求項1〜10のいずれかに記載の製造物の使用。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造物ならびにビタミン類および微量ミネラル類を含むプレミックス。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−504814(P2008−504814A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519151(P2007−519151)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【国際出願番号】PCT/SE2005/000868
【国際公開番号】WO2006/004481
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(506426502)ケミラ グロウハウ アクチボラグ (1)
【Fターム(参考)】