説明

抗菌性を有する亜鉛鍍金鋼板の作製法

【課題】抗菌性を有する亜鉛鍍金鋼板を作製するための方法を提供する。
【解決手段】鋼板に溶融亜鉛鍍金処理を施し、表面に亜鉛層を有する亜鉛鍍金鋼板を製造する工程(工程A)と、前記工程Aで得られた亜鉛鍍金鋼板を硝酸亜鉛水溶液中で水熱処理し、前記亜鉛層の表面を一部酸化させ、亜鉛鍍金鋼板の表面に酸化亜鉛薄膜を形成させる工程(工程B)を含み、この際、水熱処理に使用される硝酸亜鉛水溶液の硝酸亜鉛濃度は0.01〜3Mであることが好ましく、水熱処理温度は110〜130℃が好ましく、水熱処理時間は1〜3.3時間であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有した亜鉛鍍金鋼板を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に使用される構造材料の亜鉛鍍金鋼板は、亜鉛鍍金膜のみでは耐蝕性や耐酸化性が不足するので、亜鉛以外のアルミニウムやクロミニウムを添加している。しかし、亜鉛鍍金鋼板を一般生活の場で使用すると、生物系の細菌が繁殖して表面が黒ずんだりし、美観も低下するという問題点があった。
ところで、近年、水熱処理したZnO粉体が遮光時でも持続的な抗菌力を発揮することが発見されてから抗菌材料への応用が期待され、その抗菌力がZnO粒子表面で生成する活性酸素によって発現し、出発原料や水熱処理条件、熱処理方法によって抗菌力の強さが異なることが報告されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Hirota et al., Ceramics International, 36(2010)497-506.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術における上記の問題点を解決し、亜鉛鍍金鋼板を水熱処理して鍍金表面にZnO薄膜を形成することにより、抗菌特性を有する亜鉛鍍金鋼板を作製可能な方法を提供することを課題とする。
本発明者等は種々検討を行った結果、鋼板の腐食防止用の亜鉛鍍金表面を特定条件下で水熱処理して、表面を一部酸化させてZnO薄膜を形成した場合に、優れた抗菌特性(抗菌力)を有する高機能化亜鉛鍍金鋼板が得られることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決可能な本発明の抗菌性を有する亜鉛鍍金鋼板の作製法は、
工程A:鋼板に溶融亜鉛鍍金処理を施し、表面に亜鉛層を有する亜鉛鍍金鋼板を製造する工程、及び
工程B:前記工程Aで得られた亜鉛鍍金鋼板を硝酸亜鉛水溶液中で水熱処理し、前記亜鉛層の表面を一部酸化させ、前記亜鉛鍍金鋼板の表面に酸化亜鉛薄膜を形成させる工程
を含むことを特徴とする。
【0006】
又、本発明は、上記の特徴を有した抗菌性亜鉛鍍金鋼板の作製法において、前記水熱処理に使用される硝酸亜鉛水溶液の硝酸亜鉛濃度が0.01〜3Mであり、水熱処理温度が110〜130℃であり、水熱処理時間が1〜3.3時間であることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の作製法を用いて得られる亜鉛鍍金鋼板は、その表面に形成された酸化亜鉛薄膜が遮光下においても持続的に優れた抗菌性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本方法において、水熱処理を行う前の亜鉛鍍金鋼板を製造する際の処理工程の好ましい一例を示すフローチャートである。
【図2】実施例において、水熱処理を実施して表面酸化亜鉛鋼板を製造する際の処理工程を示すフローチャートである。
【図3】実施例において各条件(処理時間0〜5時間)にて水熱処理された亜鉛鍍金鋼板のXRDパターンである。
【図4】(a)〜(f)は、実施例において各条件(処理時間0〜5時間)にて水熱処理された亜鉛鍍金鋼板のSEM画像である。
【図5】実施例において各条件(処理時間1〜5時間)にて水熱処理された亜鉛鍍金鋼板の抗菌特性の指標である活性酸素の生成量を評価するケミルミネッセンス(CL)のプロファイルを示すグラフである。
【図6】実施例において各条件(処理時間0〜5時間)にて水熱処理された亜鉛鍍金鋼板のケミルミネッセンスプロファイルを示すグラフであり、横軸は水熱処理時間、縦軸は、150秒〜300秒の間の積算ケミルミネッセンス強度である。
【図7】実施例において、3時間の水熱処理により得られた亜鉛鍍金鋼板の横断面状態を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の作製法における各工程について説明する。
まず、本発明における工程Aでは、鋼板に溶融亜鉛鍍金処理を施し、当該鋼板の表面に亜鉛層を形成させて亜鉛鍍金鋼板を作製するが、この際、溶融亜鉛鍍金処理を行う鋼板の表面を、予めアルカリ溶液を用いて脱脂し、水洗を行った後に、酸溶液を用いてエッチングし、再び水洗を行った後、鋼板のサビの発生を抑えるためにフラックス処理を実施するのが一般的である。その後、400〜500℃の温度にて溶融亜鉛鍍金処理を行って亜鉛鍍金鋼板を得る。図1には、水熱処理を行う前の亜鉛鍍金鋼板を製造する際の処理工程(工程A)の好ましい一例がフローチャートにて示されている。
【0010】
そして、次工程の工程Bでは、前記工程Aで得られた亜鉛鍍金鋼板を硝酸亜鉛水溶液中で水熱処理し、鋼板表面に形成された亜鉛層の表面を一部酸化させ、表面に酸化亜鉛薄膜を形成させて亜鉛鍍金鋼板を作製するが、酸化亜鉛薄膜を形成させる際、水熱処理に使用される硝酸亜鉛水溶液の硝酸亜鉛濃度は0.01〜3Mであることが好ましく、水熱処理温度は110〜130℃であることが好ましく、水熱処理時間は1〜3.3時間であることが好ましい。
本発明の作製法において、水熱処理を行う際に使用される硝酸亜鉛水溶液の硝酸亜鉛濃度が上記範囲に限定されるのは、硝酸亜鉛濃度が0.01M未満であると、酸化亜鉛の薄膜が生成しないために抗菌特性が確保できなくなるからであり、硝酸亜鉛濃度が3Mを越えると,今度は亜鉛鍍金膜が全て酸化亜鉛となり,亜鉛鍍金膜の持つ光沢性,耐蝕性等が消失するために好ましくない。又、水熱処理温度が110℃未満の場合には,濃度が0.01M以上であっても,酸化亜鉛の薄膜が形成されなくなり、水熱処理温度が130℃を超えると、低濃度であっても、金属亜鉛鍍金膜が大部分酸化亜鉛となってしまうので好ましくない。さらに、水熱処理時間が1時間未満の場合には、酸化亜鉛の膜厚が薄く、且つ、抗菌特性の指標であるケミルミネッセンスの発生量が低下し、水熱処理時間が3.3時間を越えた場合には、逆に酸化亜鉛膜の性状が変化して、ケミルミネッセンス(CL)の発生量が低下してしまうので好ましくない。より好ましい水熱処理時間は2.5〜3.3時間である。
本発明において最も好ましい水熱処理条件は、硝酸亜鉛濃度0.1M、水熱処理温度120℃、水熱処理時間3時間であり、本発明の方法における水熱合成に適した容器としては、テフロン(登録商標)容器、ポリエチレン容器が挙げられ、テフロン(登録商標)容器が特に好ましい。
【0011】
本発明の方法を用いて作製された亜鉛鍍金鋼板の表面には、特定条件での水熱処理によって酸化亜鉛薄膜が形成されており、この酸化亜鉛薄膜は、その表面に水分が吸着すると活性酸素を生成して抗菌特性(抗菌性)を示し、これによって、鋼板表面での雑菌の繁殖を抑制または殺菌する。本発明の方法を用いて形成された酸化亜鉛薄膜(抗菌性酸化亜鉛被膜)は、他の無機系抗菌性物質(例えば,銀Agや酸化チタンTiO2)とは異なる特性を示す。即ち、銀のような毒性がなく、酸化チタンとは異なり光がなくても(遮光下,暗闇でも)持続的に抗菌性を示す。
以下、本発明の実施例を示して本発明を説明するが、本発明は実施例に記載したものに限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
〔実験方法〕
20 mm×30 mm×2 mmの大きさの鋼板を準備し、この鋼板表面を10 vol%NaOH水溶液によって脱脂を行い、水洗後に7 vol%HCl水溶液を用いてエッチングを行い、再度、水洗を行った。そして、少量(15 vol%)のZnCl2とNH4Clを溶かしたフラックス水溶液中に鋼板を入れ、取り出した後、乾燥させ、450℃で溶融させた高純度Znの浴槽中で鋼板に鍍金を行った。次に、濃度0.01 M〜3 MのZn(NO3)2水溶液を調製し、この溶液を入れたテフロン(登録商標)容器の中に上記で得られた溶融亜鉛メッキ鋼板を入れ、高圧容器(オートクレーブ)内で110〜130°Cの温度にて、1〜5 時間水熱処理を実施し、その後、水洗し乾燥を行い、表面酸化亜鉛鋼板を得た。
図2は、実施例において、水熱処理を実施して表面酸化亜鉛鋼板を製造する際の処理工程を示すフローチャートである。
【0013】
得られた表面酸化亜鉛鋼板の特性を評価する際、X線回折装置としてRINT2200(株式会社リガク製)を使用し、走査電子顕微鏡としてJSM7001F(日本電子株式会社製)を使用し、化学発光分光検出器としてCLD100FC(東北電子産業株式会社製)を使用した。
尚、活性酸素生成量を評価するケミルミネッセンス (CL) 特性においては、遮光下で、酸化剤として、10mMカーボネート緩衝液(pH 10.8)中100μMのZnO溶液20 mlの入ったシャーレ内に測定試料(表面酸化亜鉛鋼板)を置き、化学発光試薬としての500μMルミノール溶液をシリンジにて滴下し、この時のルミノール化学発光強度を光電子倍増管を用いて計測し、この発光強度から各鋼板の抗菌力を比較した。
【0014】
〔結果および考察〕
上記実験により得られた各鋼板についてのXRDパターンから、0.1 M/120℃/3hの条件で水熱処理を施した鋼板において、最も高い抗菌特性を示す酸化亜鉛膜が形成されることがわかった。図3には、水熱処理温度120℃で、硝酸亜鉛濃度0.1Mで、処理時間が0時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間の場合の、各亜鉛鋼板についてのXRDパターンが示されており、120℃/ 0.1 Mで水熱処理した試料表面のX線回折ピークは、処理時間が長くなるほど、Znの(101)面の回折線強度が減少し、ZnOの(002)面の回折線強度が強くなることがわかった。又、処理時間を0〜5時間に変化させた図4(a)〜(f)のSEM写真から、処理時間が長くなるにつれて、柱状の酸化亜鉛が成長し、ブロック状の酸化亜鉛膜も生成していることがわかった。
更に、活性酸素生成量を評価するケミルミネッセンス (CL) 特性の水熱処理時間依存性を調べると、図5に示されるように、150〜300秒におけるケミルミネッセンス強度及び当該強度の変化から、水熱処理時間が3時間までは処理時間の増加とともに発光強度が大きくなるが、3時間を越えると(処理時間4時間及び5時間の場合)発光強度が著しく減少することが確認された。尚、この図5において、各曲線の下側部分の面積の総和が、生成する活性酸素量に対応している。
【0015】
又、図6には、水熱処理温度120℃において、水熱処理時間を0〜5時間に変化させた際の、150〜300秒の間の積算ケミルミネッセンス強度(ケミルミネッセンスの総量)の変化が示されており、このグラフより、亜鉛鍍金鋼板を水熱処理することによって表面に酸化亜鉛が生成し、水熱処理を施す前よりもケミルミネッセンス特性の大幅な上昇が見られ、水熱処理によって亜鉛鍍金鋼板表面に生成した酸化亜鉛が活性酸素を生成することが確認された。特に処理時間が3時間のものは、水熱処理前のものに比べて積算ケミルミネッセンス強度が約500倍となった。そして、図6のグラフから、水熱処理時間が1〜3.3時間の場合に、高い抗菌性を有した酸化亜鉛薄膜が形成でき、最適時間は3時間であることがわかった。
このような発光量の増減は、水熱処理とともに生成した酸化亜鉛粒子のc軸方向の成長により、柱状晶が成長し比表面積は増加するが、3時間を越える水熱処理を行った場合には、柱状粒子がc軸と垂直方向に成長して酸化亜鉛膜面が密に連なり、比表面積が著しく減少するためであると考えられる。
【0016】
又、高い抗菌性を示す酸化亜鉛薄膜が形成される水熱処理時間3時間の亜鉛鍍金鋼板について、その横断面の状態を調べたところ、図7のSEM画像から、亜鉛鍍金層の表層側が酸化亜鉛になっていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の方法を用いることにより得られる亜鉛鍍金鋼板は、その表面に形成された酸化亜鉛薄膜が遮光下においても持続的に優れた抗菌性を示すので、抗菌性が要求される種々の用途、例えば医療現場における金属製の手すり、容器、トレイ、食品加工施設における食器、各種金属製容器、住宅資材等に利用可能である。特に、医療機関における院内感染MRSAはバンコマイシン耐性を獲得した耐性菌(ブドウ状球菌)によって引き起こされると言われている。この抗菌性酸化亜鉛膜は、このブドウ状球菌に対して抗菌性が高いと思われるので、MRSAに対する良好な対処となる可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程A:鋼板に溶融亜鉛鍍金処理を施し、表面に亜鉛層を有する亜鉛鍍金鋼板を製造する工程、及び
工程B:前記工程Aで得られた亜鉛鍍金鋼板を硝酸亜鉛水溶液中で水熱処理し、前記亜鉛層の表面を一部酸化させ、前記亜鉛鍍金鋼板の表面に酸化亜鉛薄膜を形成させる工程
を含むことを特徴とする、抗菌性を有する亜鉛鍍金鋼板の作製法。
【請求項2】
前記水熱処理に使用される硝酸亜鉛水溶液の硝酸亜鉛濃度が0.01〜3Mであり、水熱処理温度が110〜130℃であり、水熱処理時間が1〜3.3時間であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性を有する亜鉛鍍金鋼板の作製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−53345(P2013−53345A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192500(P2011−192500)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(502369713)社団法人日本溶融亜鉛鍍金協会 (2)
【Fターム(参考)】