説明

抗菌性アクリル繊維の湿式紡糸方法

【課題】抗菌力を長期に渡って保持し、他素材と混綿して柔らかい良好な風合いの混紡績糸を得ることができる抗菌性アクリル繊維を製造する方法を開発する。
【解決手段】単繊維繊度が2.2dtex以下の抗菌性アクリル繊維を製造する方法において、マスターバッチ中でのメジアン径が1μm以上で、90%粒子径が5μm以下である銀を担持した結晶性微粒子を抗菌剤として紡糸工程で添加し、ノズル孔からのポリマー溶液吐出線速度と、凝固糸引取り速度の比を、0.7〜1.2とする抗菌性アクリル繊維の湿式紡糸方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細番手紡績糸の原綿となる抗菌性アクリル繊維において、特に綿、レーヨン等の他素材と混綿して使用した際に風合いを損ねることなく、且つ、長期間抗菌効果を保持する抗菌性アクリル繊維の製造方法に関する。ノン
【背景技術】
【0002】
繊維に抗菌性を付与する方法としては、抗菌剤を紡糸液に含ませて、紡糸した後加熱処理して樹脂に固定する方法、あるいは、抗菌剤を含む液に繊維を浸漬して繊維表面にある官能基に抗菌剤を反応させて固定する方法に大別されているが、快適な生活環境の要求の高まりから、かかる要求にこたえるため、様々な方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、SCN- 、P274- 、C242- の酸性基を導入したアニオン染料可染性アクリロニトリル系繊維を、銀、銅、亜鉛の各金属化合物の水溶液で加熱処理して、繊維表面に水不溶性の金属化合物を形成した抗菌性アクリロニトリル系繊維が記載されている。しかし、この繊維は、染色性に優れているが、アクリル繊維あるいは他の繊維と混綿して使用した場合、十分な抗菌性能が得られるだけの抗菌性を得ることは難しかった。
【0004】
アクリル繊維の製造においては、細繊度原綿を製糸する場合に、非常に口径の小さいノズルが必要となり、製造の難度が高い。特許文献2では、銀を担持したゼオライトをアクリル繊維に添加した繊維が提案されているが、他素材混で使用した際の風合いを考慮した細繊度アクリル繊維の製造には至っていない。
【0005】
一方、特許文献3、4には、抗菌作用を有する金属イオンを保持した抗菌性ゼオライト粒子を含有する繊維が記載されているが、溶融工程でポリマーが劣化し、繊維が黄色に着色するなどの問題が生じた。
また、特許文献5には、カチオン染料可染性アクリロニトリル系繊維に抗菌性を示す微細な金属化合物付与した抗菌性アクリロニトリル系繊維が記載されている。しかし、特許文献5に記載の抗菌性アクリロニトリル系繊維の製法によると細繊度の抗菌性繊維を得ることは可能であるが、第1及び第2の処理という煩雑な処理を行なっているにも拘わらず、当該繊維を綿混素材として使用した場合、晒し工程など後加工で抗菌性能を維持することがむずかしかった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−27621号公報
【特許文献2】特開平2−160914号公報
【特許文献3】特開昭63−175117号公報
【特許文献4】特開平3−205436号公報
【特許文献5】特開平7−243169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、抗菌力を長期に渡って保持し、且つ、アクリル繊維だけでなく綿などの他素材と混綿して柔らかい良好な風合いの混紡績糸を得ることができる抗菌性アクリル繊維を工業的に安定して製造する方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を進めたところ、ノズル孔からのポリマー溶液吐出線速度と凝固糸引取り速度を調節することによって、良好な抗菌性を保持した細繊度のアクリル繊維を得ることに成功した。
すなわち、本発明は、単繊維繊度が2.2dtex以下の抗菌性アクリル繊維を製造する方法において、マスターバッチ中でのメジアン径が1μm以上で、90%粒子径が5μm以下である銀を担持した結晶性微粒子を抗菌剤として紡糸工程で添加し、ノズル孔からのポリマー溶液吐出線速度と、凝固糸引取り速度の比(以下JSR)を、0.7〜1.2とする湿式紡糸方法による抗菌性アクリル繊維の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、綿、レーヨン等の他素材と混綿して使用した際に、風合いを損ねることなく、良好な抗菌性が付与された細繊度アクリル繊維を得ることができ、該抗菌性アクリル繊維を使用することにより、衣料用途で特に肌着等に好適に用いることができる細番手アクリル或いはアクリル混紡績糸が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明で使用される抗菌剤としては、銀を担持した結晶性微粒子が好適に使用される。結晶性微粒子としては、銀を担持し水中でイオンとして放出させながら、抗菌性能を発現できる粒子であればよく、ゼオライトやリン酸ジルコニウムが挙げられる。特にゼオライトが好適に使用できる。
【0011】
銀を担持した結晶性微粒子のメジアン径については1μm以上でなければならない。メジアン径とは、湿式紡糸される紡糸原液に添加するためのマスターバッチ中の粒度分布測定結果から算出される粒子径を指す。メジアン径が1μm以下の場合、銀イオンの放出速度が速くなるために、アクリル繊維の染色工程や晒し工程、製品の洗濯などにより抗菌性能が低下するので好ましくない。1μm以上の結晶性微粒子を使用した場合、実用上問題のないの性能が維持される。また、結晶性微粒子の粒度分布の上限は、90%粒子径が5μm以下でなければならない。
なお、マスターバッチは通常紡糸原液と同溶媒を使用し、抗菌剤の他に分散剤或いは、粘度を調整するためのポリマーなどが添加されていてもよい。
【0012】
アクリル繊維の湿式紡糸工程で使用される紡糸ノズルの口径は一般的な溶融紡糸で使用されるノズルと比較して非常に小さく、特に細繊度のアクリル繊維を紡糸するノズルでは100μm以下のノズルが使用される。このため粒子状の添加物がある場合は、平均粒径よりもむしろ含まれている粗大粒子の量が、製糸安定性に影響を及ぼすことになる。このためアクリル繊維に添加される結晶性微粒子の粒子径の上限を、ここでは90%粒子径を基に設定した。90%粒子径は、粒度分布測定結果の頻度分布において粒子径が小さい方からの累積値が90%になる粒子径であり、この値が5μmより大きい場合、2.2dtex以下の細繊度原糸を湿式紡糸にて製造する際に、ノズル口詰まりが発生し、ノズル圧力が短時間で上昇するなど、製糸安定性が悪化することがあるために好ましくない。
【0013】
本発明の抗菌性アクリル繊維に添加される銀を担持した抗菌剤の量は、0.2質量%から3質量%の範囲にあることが好ましい。0.2質量%より少ない場合には、他素材50%以下の割合で混綿した時に十分な抗菌性が得られなくなるために好ましくない。3質量%より多い場合には、ノズル閉塞やノズル圧上昇など長期の製糸安定性に問題が生じるために好ましくない。他素材と混綿した状態で十分な抗菌性能が得られ、経済的に優れる範囲として、0.5質量%以上1.5質量%以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明を構成するアクリル繊維とは、アクリロニトリルを50質量%以上含有するポリマーからなる。アクリロニトリル以外の成分は、アクリロニトリルと共重合可能な不飽和モノマー、またはその重合体であればよい。
アクリロニトリルと共重合可能な不飽和モノマーとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等の不飽和モノマーが挙げられる。
【0015】
さらに染色性を改良する目的で共重合されるモノマーとして、p−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらのアルカリ金属塩が挙げられる。アクリロニトリルを含有するポリマーのアクリロニトリル含有量が50質量%未満では、耐熱性はじめ原糸の強度などの物性が低下する傾向となるために好ましくない。
本発明のアクリル繊維トウを構成する断面は、特に限定されない。例えば通常の丸形状ノズルから湿式紡糸により製造される丸断面の一部が凹状に変形したそら豆状の断面や、丸断面、扁平断面或いはY断面など任意の断面が採用されてよい。
【0016】
本発明の抗菌性アクリル繊維は、2.2dtex以下の繊度でなければならない。天然繊維の綿や半合成繊維のレーヨンと混紡する場合、2.2dtexより太いアクリル繊維を使用すると、風合いが硬くなり、綿やレーヨンの風合いを損ねるために好ましくない。風合いをそのままに、又はさらに柔らかいものにするためには、2.2dtex以下でなくてはならない。風合い、紡績性の点から、0.5dtexから1.7dtexの範囲にあることがさらに好ましい。
本発明の抗菌性アクリル繊維は、湿式紡糸法により製造される。湿式紡糸方法はアクリロニトリルを50質量%以上含むポリマーを溶剤に溶解してなる紡糸原液を、溶剤と水とを混合した凝固槽に紡糸ノズルより吐出して、凝固、脱溶剤、延伸、乾燥する一般的な紡糸方法を採用することができる。
【0017】
本発明の湿式紡糸の紡糸原液及び凝固浴に用いられる溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エチレンカーボネート、アセトン等の有機溶剤、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛等の無機溶剤が挙げられ、好ましくは有機溶剤が用いられる。
凝固浴としては、組成が有機溶剤を30〜60質量%含有する水溶液で、温度が30〜60℃の範囲であることが好ましい。有機溶剤が30質量%未満では、繊維中にボイドが生成し発色性が悪くなり、60質量%を超えると紡糸性が低下し、糸切れなどの工程トラブルが発生しやすくなるために好ましくない。凝固浴温度が30℃未満では、紡糸性が低下し、また60℃を超えると繊維にボイドが発生しやすくなるために好ましくない。
【0018】
本発明の抗菌性アクリル繊維の製造においては、ノズル口径が60μm以上であることが好ましい。2.2dtex以下の細繊度アクリル繊維の製造においては、60μm以下のノズルが好適に使用されるが、本発明の範囲にある抗菌剤を添加する場合、ノズル口に粒子が詰まり、長時間製糸を行うと製糸安定性が低下するために好ましくない。ノズル口径は60μm以上が好ましく、さらに75μm以上であることがノズル詰まりの点から好ましい。扁平或いは三角断面など非円形断面のアクリル繊維の製造においては、ノズル断面積の円換算径が、60μm以上であれば良い。
【0019】
また、JSR=(ポリマーの平均吐出線速度)/(凝固糸の引取り速度)は0.7から1.2の範囲になければならない。通常細繊度アクリル繊維を製造する場合、紡糸原液は生産性を高めるためにポリマー濃度を製糸可能な範囲でできる限り高め、ノズル口径が60μm以下のノズルを使用する。しかしながら、本発明の細繊度の抗菌性アクリル繊維を製造する場合、粒子状の抗菌剤を使用するために60μm以上のノズルを使用しなければならないが、細繊度繊維を紡糸する場合、JSRが1.2より大きい値となり、このような条件で粗大粒子が繊維糸条に含まれると凝固槽内で繊維が切れやすくなり、結果として製糸安定性を損ねるために好ましくない。
【0020】
このためノズル口は銀を担持した結晶性微粒子により閉塞されることがない60μm以上とし、2.2dtex以下の繊度のアクリル繊維を紡糸しようとする場合、JSRが0.7から1.2の範囲となるように、紡糸原液のポリマー濃度を調整しなければならない。JSRが1.2より大きな値となる場合には、上記理由から製糸安定性を損ねることになるために好ましくない。またJSRが0.7より小さい値となる場合には、その下限値として0.5程度までは製糸することが可能であるものの、ポリマー濃度が低くなると、同時に生産性が低くなるために好ましくない。
【0021】
上記ポリマー濃度は18質量%から25質量%の範囲が好ましい。25質量%より濃度が高い場合には、紡糸原液の粘度が高くなるために、ノズル圧力が上昇したり、紡糸引取り性が低下するために好ましくない。また、18質量%より低い場合には、凝固浴中で吐出したポリマー溶液が接着するなどの問題が起こるために好ましくない。紡出した未延伸糸は、通常の湿式紡糸方法により、製糸される。
【実施例】
【0022】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0023】
(ポリマーの製造方法)
水系懸濁重合法によりアクリロニトリル93質量%、酢酸ビニル7質量%からなる還元粘度1.90のポリマー(以下PAN−A)を得た。
(抗菌剤マスターバッチ作成方法)
PAN−Aをジメチルアセトアミドに溶解し、PAN−Aが20質量%であるジメチルアセトアミド溶液を作成する。次に銀担持ゼオライト微粒子((株)シナネンゼオミック社製、製品名:ゼオミック−AW10D、−AW80D、−SW80N)とPAN−A20質量%溶液、及びジメチルアセトアミドを、銀担持ゼオライト微粒子20質量%、PAN−A10質量%、ジメチルアセトアミド70質量%となるように混合して均一に攪拌した後、サンドミル(アシザワ(株)製 製品名:ST1STS)に2回通し、抗菌剤マスターバッチとした。
【0024】
(粒度分布測定)
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製 製品名:HORIBA LA−910)を使用して抗菌剤マスターバッチ中の粒度分布を測定した。希釈溶剤はジメチルアセトアミドを使用した。メジアン径及び90%粒子径は、付属ソフト Ver.120(for WINDOWS(登録商標))による計算結果を参照して使用した。
【0025】
(抗菌性能評価)
試験は、財団法人日本化学繊維検査協会 生物試験センターにて次の方法で行った。
JIS L 1902 菌液吸収法により実施し、共試菌は黄色ブドウ球菌とした。試験前処理は、沸騰水で20分間処理したものと、さらにJIS L 0217、103号法でJAFET標準洗剤を使用して10回洗濯を行ったものを2種類測定し、両方の試験で静菌活性値が2.2以上の場合を抗菌性評価合格とし、2.2より小さい場合は不合格とした。
【0026】
[実施例1、比較例1,2]
銀を担持した結晶性微粒子として(シナネンゼオミック(株)製、製品名:ゼオミックAW10D、AW80D、SW80N)3種類の抗菌剤を使用してそれぞれマスターバッチ(以下MB)を作成した。
MBとPAN−Aとジメチルアセトアミドを、表1に示した実施例1及び比較例1,2の濃度になるように調整して攪拌した後、全体を80℃まで加熱し、PAN−Aを完全に溶解した。
前記ポリマー溶液を脱気した後、金巾フィルター(東洋紡績(株)製、製品名:S−618)を35mmφに加工したフィルターを通過させ、口径60μm、ホール数400の紡糸ノズルから、吐出量9.17cc/minで凝固液中に吐出した。凝固液の組成は、ジメチルアセトアミド56質量%、水44質量%とし、温度は41℃とした。凝固液中に吐出されたポリマー糸条は、引取り速度6m/minで引取り、温水中で脱溶媒を進めながら、5.0倍に延伸した後、油剤を付与し150℃の熱ローラーにより乾燥を行い、730dtexの紡糸トウを得た。乾燥を終えたトウは、バッチ処理で198kPaの加圧スチームで緩和処理し、単糸繊度2.2dtex、トウ繊度880dtexの抗菌性アクリル繊維を得た。ノズル圧力上昇は、ノズル取付後、1時間から、6時間後までの5時間の間の圧力差を示した。
アクリル繊維は捲縮を付け、38mmにカットした後、綿80質量%、抗菌性アクリル繊維20質量%の割合で紡績して筒編地を作成し、沸騰水にて20分間処理を行い、さらに晒し加工を想定して、pH11に調整した0.5質量%過酸化水素水中で、80℃15分間処理をした後、抗菌性能評価を行った。それらの結果を合わせて表1に示した。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1で使用したAW80Dは、メジアン径が2.127μmであり、90%粒子径が3.902μmであった。ランニング中にノズル圧力の上昇も見られず、凝固浴での糸切れも観察されず良好な製糸結果であった。さらに、抗菌性評価においても、合格であった。比較例1で使用したAW10Dは、メジアン径が2.385μmで、90%粒子径が5.566μmであった。ノズル圧力は、5時間のランニングで780kPaから820kPaまで、40kPa上昇しており、短時間で圧力が上がることが確認された。凝固浴での糸切れは観察されず、抗菌性評価においても合格判定が得られた。比較例2ではSW80Nを使用した。メジアン径0.821μm、90%粒子径1.188μmであり、ノズル圧力上昇は確認されなったが、抗菌性能評価では、不合格であった。
【0029】
[実施例2、比較例3,4]
銀を担持した結晶性微粒子として(シナネンゼオミック(株)製、製品名:ゼオミックAW80D)を使用してMBを作成した。MBとPAN−Aとジメチルアセトアミドを、表2実施例2及び比較例3,4の濃度になるように調整して攪拌した後、全体を80℃まで加熱し、PAN−Aを完全に溶解した。
該ポリマー溶液を脱気した後、金巾フィルター(東洋紡績(株)製、製品名:S−618)を35mmφに加工したフィルターを通過させ、口径がそれぞれ60μm、50μm、70μmホール数400の紡糸ノズルから、吐出量7.39cc/minで凝固液中に吐出した。凝固液の組成は、ジメチルアセトアミド56質量%、水44質量%とし、温度は41℃とした。凝固液中に吐出されたポリマー糸条は、引取り速度6m/minで引取り、温水中で脱溶媒を進めながら、5.0倍又は4.5倍に延伸した後、油剤を付与し150℃の熱ローラーにより乾燥を行い、566dtexの紡糸トウを得た。乾燥を終えたトウは、バッチ処理で198kPaの加圧スチームで緩和処理し、単糸繊度1.7dtex、トウ繊度680dtexの抗菌性アクリル繊維を得た。
製糸安定性は、吐出開始1時間後から5時間の紡糸において、凝固浴中での単繊維切れの発生状況により判断した。
アクリル繊維により筒編地を作成し、沸騰水にて20分間処理をした後、抗菌性能評価を行った。これらの結果を合わせて表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例2では、JSRは0.92であり、製糸安定性が良好であった。これに対して比較例3では、JSRが0.64であり、凝固浴中で単繊維切れが発生し、製糸安定性が不良となった。紡糸終了後ノズルをジメチルアセトアミドで洗浄し、光学顕微鏡で観察した結果、抗菌剤粒子により閉塞したノズル口が観察された。比較例4では、JSRが1.25となり、凝固浴中で頻繁に単繊維切れが発生し、製糸不良となった。
【0032】
「実施例3、比較例5」
銀を担持した結晶性微粒子として(シナネンゼオミック(株)製、製品名:ゼオミックAW80D)を使用してMBを作成した。MBとPAN−Aとジメチルアセトアミドを、表3実施例3及び比較例5の濃度になるように調整して攪拌した後、全体を80℃まで加熱し、PAN−Aを完全に溶解した。
前記ポリマー溶液を脱気した後、金巾フィルター(東洋紡績(株)製、製品名:S−618)を35mmφに加工したフィルターを通過させ、口径が60μm、ホール数400の紡糸ノズルから、表3記載の吐出量でそれぞれ凝固液中に吐出した。凝固液の組成は、ジメチルアセトアミド56質量%、水44質量%とし、温度は41℃とした。凝固液中に吐出されたポリマー糸条は、引取り速度6m/minで引取り、温水中で脱溶媒を進めながら、5.0倍又は6.0倍に延伸した後、油剤を付与し150℃の熱ローラーにより乾燥を行い、433dtexの紡糸トウを得た。乾燥を終えたトウは、バッチ処理で198kPaの加圧スチームで緩和処理し、単糸繊度1.3dtex、トウ繊度520dtexの抗菌性アクリル繊維を得た。
製糸安定性は、吐出開始1時間後から5時間の紡糸において、凝固浴中での単繊維切れの発生状況により判断した。
アクリル繊維により筒編地を作成し、沸騰水にて20分間処理をした後、抗菌性能評価を行った。これらの結果を合わせて表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
実施例3では、JSRは0.92であり、製糸安定性が良好であった。これに対して比較例5では、JSRが1.25となり、凝固浴中で単繊維切れが発生し、製糸安定性が不良となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が2.2dtex以下の抗菌性アクリル繊維を製造する方法において、マスターバッチ中でのメジアン径が1μm以上で、90%粒子径が5μm以下である銀を担持した結晶性微粒子を抗菌剤として紡糸工程で添加し、ノズル孔からのポリマー溶液吐出線速度と、凝固糸引取り速度の比を、0.7〜1.2とする抗菌性アクリル繊維の湿式紡糸方法。
【請求項2】
銀を担持した結晶性微粒子の添加量を、0.2質量%以上3質量%以下とする請求項1記載の抗菌性アクリル繊維の湿式紡糸方法。

【公開番号】特開2010−18895(P2010−18895A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177950(P2008−177950)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】