説明

抗菌性分離膜、その製造方法、および抗菌性分離膜の製造装置

【課題】本発明は、抗菌性分離膜と、その製造方法、および抗菌性分離膜の製造装置を目的とする。さらに、高い抗菌作用が持続される抗菌性分離膜、および抗菌性分離膜の製造方法を目的とする。
【解決手段】本発明の抗菌性分離膜は、抗菌性化合物が分離膜に固定されていることよりなり、前記抗菌性シラン化合物は、ポリフェノールをバインダーとして固定されていることが好ましい。本発明の抗菌性分離膜の製造方法は、抗菌性シラン化合物を含む水を分離膜に接触させることで、分離膜に抗菌性シラン化合物を固定することよりなる。本発明の抗菌性分離膜の製造装置は、抗菌性シラン化合物を含む水を分離膜に接触させる手段を有することよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌性分離膜、その製造方法、および抗菌性分離膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海水の淡水化や、超純水、各種製造プロセス用水を得る方法として、例えば逆浸透膜(RO膜)やナノろ過膜(NF膜)を分離膜とするモジュールを用い、原水中からイオン成分や低分子成分を分離する方法が知られている。以前と比較すると、RO膜やNF膜の性能は、格段に向上し、高阻止性能・低圧力運転が可能な膜も使用されている。
しかし、恒常的な問題として、分離膜モジュールにおいては、微生物をはじめとする生物汚染の発生がある。特にスライムの発生として知られている現象であるが、例えばスパイラル型膜エレメントにおいてスライムが発生すると、原水と濃縮水の圧力差、すなわち通水差圧が上昇する。特に複数のエレメントを直列に配置した装置の場合、後方のエレメントに行くほど、圧力が低くなってしまい、所定の透過水量が得られなくなってしまう。さらに、極端に通水差圧が上昇すると、エレメントそのものが破損する恐れすらある。また、スライムの発生までに至らなくても、エレメント内の汚染物質の腐敗が進行し、臭気が発生する場合もある。
生物汚染の発生を抑止するためには、酸化剤により、分離膜の殺菌をすることが考えられる。しかし、現在主流のポリアミド素材をスキン層に持つRO膜やNF膜は、酸化劣化しやすい。特に、原水中に次亜塩素酸ナトリウムをはじめとする酸化性の物質が含まれている場合や、原水の酸化還元電位(ORP)が高い場合には、膜の劣化速度は速まり、寿命を短くする原因となっている。そのため、RO膜やNF膜を酸化剤によって殺菌をすることは、実用面での問題がある。酸化作用が比較的緩やかなクロラミンを用いる例もあるが、酸化剤であることには変わりなく、膜の劣化は避けられない。酸化劣化に比較的強い、ピペラジンアミド系の膜もあるが、分離性能が充分ではない。
従来、抗菌作用を示す多くの物質が知られている。特許文献1では、抗菌作用を有するシラン化合物に関する技術が開示され、当該抗菌作用を有するシラン化合物を金属、セラミックス、シリカ、またはガラス表面に固定し、抗菌作用を付与することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−209241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ポリアミド素材をスキン層に持つRO膜やNF膜は、上述のように酸化剤の接触等により劣化し易い。このため、金属やガラス等の無機物を対象とした特許文献1の技術を、有機素材を有するRO膜やNF膜等に直ちに採用することは困難である。また、単に抗菌作用を示す物質を分離膜に付着させたとしても、充分な抗菌作用の付与と、抗菌作用の持続性に懸念がある。
本発明は、抗菌性分離膜と、その製造方法、および抗菌性分離膜の製造装置を目的とする。さらに、高い抗菌作用が持続される抗菌性分離膜、および抗菌性分離膜の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、抗菌作用を有するシラン化合物(以下、抗菌性シラン化合物ということがある)を分離膜に接触させることで、抗菌作用を付与でき、微生物やスライムの発生を抑制できることを見い出した。さらに、ポリフェノールをバインダー物質として、抗菌作用を有するシラン化合物を固定することで、抗菌作用を著しく高め、かつ、抗菌作用を長期にわたり持続できるとの知見を得た。
【0005】
すなわち本発明の抗菌性分離膜は、抗菌性シラン化合物が分離膜に固定されていることを特徴とする。前記抗菌性シラン化合物は、ポリフェノールをバインダーとして固定されていることが好ましく、前記ポリフェノールは、重量平均分子量が200〜5000であることが好ましく、タンニンであることがより好ましく、加水分解型タンニンであることがさらに好ましく、五倍子から得られたタンニンであることが特に好ましい。
前記抗菌作用を有するシラン化合物は、アンモニウムクロライド、グルタールアルデヒド、ホルムアルデヒド、リゾチーム、ラクトフェリン、ラクトフェリシン、デフェンシン、ヒスタチン、ナイシン、バクテリオシンからなる群より選択される1種以上の物質を有してなることが好ましい。
前記分離膜は、RO膜またはNF膜であることが好ましく、芳香族ポリアミド系素材を含むことが好ましく、スパイラル型膜エレメントであっても良い。
【0006】
本発明の抗菌性分離膜の製造方法は、抗菌作用を有するシラン化合物を含む水を分離膜に接触させることで、前記シラン化合物を分離膜に固定することを特徴とする。本発明の抗菌性分離膜の製造方法は、ポリフェノールを含む水と、前記抗菌作用を有するシラン化合物を含む水とを分離膜に接触させることが好ましく、前記抗菌作用を有するシラン化合物を含む水を、加圧通水により分離膜に接触させることが好ましく、前記ポリフェノールを含む水を、加圧通水により分離膜に接触させることが好ましい。
【0007】
本発明の抗菌性分離膜の製造装置は、分離膜に、抗菌作用を有するシラン化合物を含む水を接触させる手段を有することを特徴とする。さらに、分離膜に、ポリフェノールを含む水を接触させる手段を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗菌性分離膜によれば、微生物やスライムの発生を抑制することができる。また本発明の抗菌性分離膜の製造方法、ならびに製造装置によれば、抗菌性分離膜を得ることができる。さらに、本発明の抗菌性分離膜によれば、長期間にわたり高い抗菌作用を持続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
《抗菌性分離膜》
本発明の抗菌性分離膜は、分離膜に、抗菌性シラン化合物が固定されたものである。
(分離膜)
本明細書中における分離膜とは、抗菌性シラン化合物を固定していないもののみならず、抗菌性シラン化合物を固定した後の抗菌性分離膜を含むものとする。
分離膜としては、例えばRO膜、NF膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜等が挙げられる。この中でも、顕著な効果が得られる、RO膜、NF膜を使用することが好ましい。
また、分離膜の材質は特に限定されないが、芳香族ポリアミド系素材を含んでいることが好ましい。中でも、好適な材質は、芳香族ポリアミド、好ましくは全芳香族ポリアミド、さらに好ましくは架橋全芳香族ポリアミドである。
【0010】
分離膜の形態は特に限定されず、例えばスパイラル型、中空糸型を挙げることができる。このうち、スパイラル型膜エレメントを用いることが好ましい。スパイラル型膜エレメントは、汎用性が高く、コスト面での優位性があるためである。
【0011】
また、分離膜の性能は特に限定されることはないが、例えば、500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が99%以下であることが好ましく、10〜99%であることがより好ましく、20〜98.5%であることがさらに好ましく、30〜98%であることが特に好ましい。分離膜の阻止率が99%を超えると、抗菌性シラン化合物の固定が不充分となり、抗菌性分離膜が充分な抗菌作用を発揮できないおそれがあるためである。
ここで、前記阻止率は、測定時の温度や透過流束により異なる。このため、前記阻止率は、分離膜の製造者が分離膜の性能を測定するために設定した、標準的な条件下において測定することが好ましい。また、スパイラル型膜エレメントにおいては、25℃、1.0m/m/dayの透過流束で測定することが好ましい。本明細書中、特に断りのない限り、阻止率は上述の方法で測定されたものである。
なお、分離膜の阻止率が99%以下とは、分離膜出荷時の阻止率が99%以下であることの他、分離膜出荷時には阻止率99%を超えていたが、その後の使用により劣化して阻止率99%以下となったものや、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を接触させて、強制的に阻止率99%以下としたものをも含む。
【0012】
(抗菌作用を有するシラン化合物)
本発明における「抗菌作用を有するシラン化合物」とは、シランカップリング剤を母体とした、抗菌性物質を有する化合物である。
<抗菌性物質>
前記抗菌性物質は特に限定されないが、例えばアンモニウムクロライド、グルタールアルデヒド、ホルムアルデヒド、リゾチーム、ラクトフェリン、ラクトフェリシン、デフェンシン、ヒスタチン、ナイシン、バクテリオシンからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。このような抗菌性物質を有することで、シラン化合物は抗菌作用を示すことができる。
【0013】
<シランカップリング剤>
前記シランカップリング剤は特に限定されず、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルエトキシシロキサン、ジメチルジクロロシラン等が挙げられる。
【0014】
シランカップリング剤においては、該シランカップリング剤の最長炭化水素鎖の炭素数が、0〜10であることが好ましく、0〜5であることがより好ましく、0〜3であることがさらに好ましい。
例えば、下記(1)式で表されるシランカップリング剤においては、R、R、R、Rのうち、最も長い炭化水素鎖、すなわち主鎖の炭素数が、それぞれ0〜10であることが好ましい。なお、炭素数が0であるとは、R、R、Rにおいては水素原子を表し、Rにおいては、Rを有しないことを示す。このようなシランカップリング剤であることが、抗菌性分離膜の透過水量低下を最小限に抑えるために効果的である。
【0015】
【化1】

【0016】
[Xは有機官能基を表し、R、R、Rは、それぞれ独立した、最長炭化水素鎖の炭素数が0〜10のアルキル基を表し、炭素数0とは水素原子を示す。Rは、最長炭化水素鎖の炭素数が0〜10のアルキレン基を表し、炭素数0とはRを有しない構造を示す。]
【0017】
加えて、シランカップリング剤は、構造中に窒素を有するものが好ましく、このようなシランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等を例示することができる。構造中に窒素原子を有するシランカップリング剤は、分離膜への吸着力が強いためである。
【0018】
構造中に窒素を有するシランカップリング剤においては、該シランカップリング剤の最長炭化水素鎖の炭素数が、0〜10であることが好ましく、0〜5であることがより好ましく、0〜3であることがさらに好ましい。
例えば、下記(2)式で表されるシランカップリング剤においては、R、R、R10、R11、R12、R13、R14のうち、最も長い炭化水素鎖、すなわち主鎖の炭素数が、それぞれ0〜10であることが好ましい。なお、炭素数が0であるとは、R、R、R10、R12、R13、R14においては水素原子を表し、R11においてはR11を有しないことを示す。このようなシランカップリング剤を用いることが、抗菌性分離膜の透過水量低下を最小限に抑えるために効果的である。
【0019】
【化2】

【0020】
[R、R、R10、R12、R13、R14は、それぞれ独立した、最長炭化水素鎖の炭素数が0〜10のアルキル基を表し、炭素数0とは水素原子を示す。R11は、最長炭化水素鎖の炭素数が0〜10のアルキレン基を表し、炭素数0とはR11を有しない構造を示す。]
【0021】
抗菌性シラン化合物としては、例えば、オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(2−トリメチルシリルエチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジプロピル(4−トリメトキシシリルブチル)アンモニウムアセテート、オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3−トリイソプロポキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3−トリエチルシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3−トリイソプロピルシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘプタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘプタデシルジイソプロピル(2−トリエトキシシリルエチル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムアセテートおよびペンタサデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等を例示することができる。
【0022】
上述の抗菌性シラン化合物は、1種単独で、あるいは、2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
また、分離膜に対する、抗菌性シラン化合物の固定量は特に限定されず、被処理水の水質や分離膜に求める抗菌作用の程度に応じて決定することができる。抗菌作用を最大限に発揮させるためには、分離膜への固定量は飽和状態であることが好ましいものの、透過流束の大幅な低下が懸念される場合には、透過流束の低下を最小限に抑えられる範囲で、抗菌性シラン化合物を固定することが好ましい。
【0023】
(ポリフェノール)
本発明におけるポリフェノールとは、複数の水酸基を有する芳香族化合物の総称であり、一般にポリフェノール類に分類されるものである。ポリフェノールとしては特に限定されず、例えば、アントシアニン、カテキン、タンニン、ルチン、ケルセチン、イソフラボン、フラボノイド、フミン類、フルボ酸、等が挙げられる。この内、タンニンを用いることが好ましい。タンニンは、タンニン酸、タンニン類とも呼ばれ、混同して用いられるが、本発明では全て同義で用いる。
タンニンには、加水分解型と縮合型があり、加水分解型はピロガロール型(Hydrolyzable Tannin)、縮合型はカテコール型(Condensel Tannin)とも呼ばれる。
加水分解型タンニンの原料の例としては、五倍子、没食子、チェストナット(Chestnut)、オーク(Oak Wood)、ユーカリプタス(Eucalyptus)、ディビディビ(Divi−Divi)、タラ(Tara)、スマック(Sumac)、ミラボラム(Myrabolam)、アルガロビア(Algarobilla)、バロニア(Valonea)、胡桃、栗、木苺、グミ、ザクロ、アカメガシワ、ウルシ科、サンシュユ、ゲンノショウコ、等が挙げられる。縮合型タンニンの原料の例としては、ケプラチョ(Quebracho)、ビルマカッチ(Burma Cutch)、ワットル(Wattle)、ミモザ(Mimosa)、スプルース(Spruse)、ヘムロック(Hemlock)、マングローブ(Mangrove)、カシワ樹皮(Oak bark)、アバラム、ガンビア(Gambier)、茶、柿渋、ユキノシタ、ブドウ、リンゴ、蓮根、コーヒー、しそ、ボケ、椿、ローズマリー、パセリ、サルビアの花、ヒマワリ、等が挙げられる。
この内、加水分解型タンニンを用いることが好ましい。加水分解型タンニンは、縮合型タンニンに比べ、高いバインダー効果が得られるためである。加水分解型タンニンの中でも、五倍子から得られるタンニンであるガロタンニンを用いることが好ましい。五倍子から得られるタンニンは、重量平均分子量が1700程度のものが多く、バインダー効果が高い上に、分離膜の透過水量の低下を防ぐことができるためである。なお、五倍子とは、ヌルデ属植物の虫コブのことである。
ここで、重量平均分子量とは、標準物質をポリスチレン、溶離液をテトラヒドロフラン(THF)とし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値を示す(以降において同じ)。
【0024】
また、ポリフェノールの分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が200〜5000であることが好ましく、200〜3000であることがより好ましく、200〜2000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が200未満であると、ポリフェノールが分離膜を容易に透過してしまい、バインダーとしての機能を充分に果たせないおそれがある。一方、重量平均分子量が5000を超えると、分離膜のファウリングを引き起こして、透過流束の低下を招くおそれがあるためである。
【0025】
分離膜に対するポリフェノールの吸着量は特に限定されず、抗菌性シラン化合物を固定し、目的とする抗菌作用を付与できれば良い。ポリフェノールのバインダー効果を最大限に得るためには、分離膜に対する吸着量は飽和状態であることが好ましいものの、透過流束の大幅な低下が懸念される場合には、透過流束の低下を最小限に抑えられる範囲で吸着させることが好ましい。
【0026】
《製造装置》
本発明の抗菌性分離膜の製造装置の一例について、図1を用いて説明する。
図1は本発明の実施形態にかかる抗菌性分離膜の製造装置8の模式図である。なお、図1中、圧力計、流量計、弁等は適宜省略してある。抗菌性分離膜の製造装置8は、貯水タンク10と、ポンプ12と、分離膜モジュール14とが、配管によって接続されている。
貯水タンク10には、配管30と配管40とが接続されている。配管40は、ボール弁21を経由して、図示されない排出口と接続されている。一方の配管30は、ボール弁20、ポンプ12を経由して、分離膜モジュール14と接続されている。
分離膜モジュール14には、濃縮水側の配管32と、透過水側の配管38とが接続されている。配管32は、圧力調整弁22を経た後に、配管34と配管36に分岐している。配管34は、ボール弁24を経由して、図示されない排出口と接続されている。配管36は、ボール弁26を経由して、貯水タンク10と接続されている。また、配管38は、ボール弁28を経由して、貯水タンク10と接続されている。分離膜モジュール14は、分離膜を備えた膜エレメントと、膜エレメントを格納するための耐圧容器とで構成されている。
【0027】
なお、本発明における、「分離膜に、抗菌作用を有するシラン化合物を含む水を接触させる手段」は、ポンプ12、バルブ20、28、圧力調整弁22、配管30、32、38で構成されている。また、「分離膜に、ポリフェノールを含む水を接触させる手段」は、ポンプ12、バルブ20、28、圧力調整弁22、配管30、32、38で構成されている。
【0028】
《製造方法》
抗菌性分離膜の製造方法の一例について、図1を用いて以下に説明する。本発明の抗菌性分離膜の製造方法は、分離膜に抗菌性シラン化合物を含む水を接触させて行うものである。
耐圧容器に膜エレメントを装填後、ボール弁20および21を閉とし、貯水タンク10に、図示されない水源から、充分量の水Aを入れる。次いで、ボール弁21、26、28を閉、ボール弁20、24を開、圧力調整弁22を適宜開として、ポンプ12を起動する。必要に応じて、貯水タンク10へ水Aを供給しながら、分離膜に圧力がかからない状態で通水して、分離膜モジュール14を水洗する。この際、分離膜モジュール14内に流入した水は、分離膜の表面を洗浄し、濃縮側の水として、配管32へ流される。水は、配管32、34を流通して、図示されない排出口から排出される(前水洗工程)。なお、本発明で言う圧力のかからない状態とは、透過水が得られないほどの低圧の状態を言う。
【0029】
次にポンプ12を停止し、ボール弁20、21を閉とし、貯水タンク10に所定量の水Aを入れる。次いで、所定量のポリフェノールを、貯水タンク10内の水に添加、溶解して、所定濃度のポリフェノール水溶液を調製する。
ボール弁21、24を閉、ボール弁20、26、28を開、圧力調整弁22を所定の圧力になるように開いて、ポンプ12を起動し、ポリフェノール水溶液を分離膜モジュール14へ通水する。分離膜モジュール14内に流入したポリフェノールは、分離膜の表面と接触しながら、濃縮水として配管32に流される。この間、ポリフェノールの一部が、分離膜表面に吸着される。ポリフェノール水溶液は、配管32、36を経由して、貯水タンク10へと送液される。また、透過水は、配管38を経由して、貯水タンク10へと送液される(改質処理工程1)。
【0030】
所定時間経過後、ポンプ12を停止して、ボール弁20を閉、ボール弁21を開として、貯水タンク10内のポリフェノール水溶液を排出する。次いで、ボール弁20、21を閉として、貯水タンク10に水を貯留する。ボール弁21、26、28を閉、ボール弁20、24を開、圧力調整弁22を適宜開として、ポンプ12を起動する。必要に応じて、貯水タンク10へ水を供給しながら、分離膜に圧力がかからない状態で通水して、分離膜モジュール14を水洗する。また、ボール弁26を開として、配管32、36からなる、循環ラインの水洗も適宜行う(中間水洗工程)。
【0031】
次にポンプ12を停止し、ボール弁20、21を閉とし、貯水タンク10に所定量の水Aを入れる。次いで、抗菌性シラン化合物を貯水タンク10内の水に添加、溶解して、所定濃度の抗菌性シラン化合物を含有する、改質剤水溶液を調製する。
ボール弁21、24を閉、ボール弁20、26、28を開、圧力調整弁22を所定の圧力になるように開いて、ポンプ12を起動し、改質剤水溶液を分離膜モジュール14へ通水する。分離膜モジュール14内に流入した改質剤水溶液は、分離膜の表面と接触しながら、濃縮水として配管32に流される。この間、抗菌性シラン化合物の一部は、分離膜に吸着されたポリフェノールをバインダーとして、分離膜に固定される。また、他の一部の抗菌性シラン化合物は、分離膜に吸着されて、固定される。そして、改質剤水溶液は、配管32、36を流通して、貯水タンク10へと送液される。また、透過水は、配管38を経由して、貯水タンク10へと送液される(改質処理工程2)。
【0032】
所定時間経過後、ポンプ12を停止し、ボール弁21を開けて、貯水タンク10内の改質剤水溶液を排出する。水で貯水タンク10を水洗後、ボール弁20、21を閉として、貯水タンク10に水Aを貯留する。ボール弁21、28を閉、ボール弁20、24を開、圧力調整弁22を適宜開として、ポンプ12を起動する。必要に応じて、貯水タンク10へ水Aを供給しながら、分離膜に圧力がかからない状態で通水して、分離膜モジュール14を水洗する。また、ボール弁26を開として、配管32、36からなる、循環ラインの水洗も適宜行う(後水洗工程)。こうして、抗菌性分離膜を製造することができる。
【0033】
ポリフェノール水溶液のポリフェノール濃度は特に限定されないが、分離膜モジュール14の入り口において、0.001〜200mg/Lが好ましく、0.005〜100mg/Lであることがより好ましい。濃度が0.001mg/L未満であると、分離膜への抗菌性シラン化合物の固定が不充分となり、200mg/Lを超えると、ファウリングを起こす場合があるためである。
【0034】
改質剤水溶液の抗菌性シラン化合物の濃度は特に限定されないが、分離膜モジュール14の入り口において、0.001〜200mg/Lが好ましく、0.005〜100mg/Lであることがより好ましい。濃度が0.001mg/L未満であると、分離膜の抗菌作用が不充分となり、200mg/Lを超えると、ファウリングを起こす場合があるためである。
【0035】
また、改質剤水溶液には、陽イオン性界面活性剤または両性界面活性剤(以下、単に界面活性剤と総称することがある)を含有していても良い。界面活性剤を併用することにより、抗菌性分離膜の抗菌作用向上が図れるためである。
陽イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤が好ましく、例えば、塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリエチルアンモニウムアセテート、ドデシルトリメチルアンモニウムアセテート、ドデシルトリイソプロピルアンモニウムブロマイド、トリデシルトリエチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリエチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリ−n−プロピルアンモニウムクロライド、ペンタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ペンタデシルトリエチルアンモニウムクロライド、ペンタデシルトリ−n−プロピルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリ−n−プロピルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライドおよびオクタデシルトリエチルアンモニウムクロライドおよびオクタデシルトリ−n−プロピルアンモニウムクロライド、等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、特に限定されないが、アミノ酸型両性界面活性剤が好ましく、例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩酸アルキルポリアミノエチルグリシン、等が挙げられる。
【0036】
改質剤水溶液中の界面活性剤の濃度は特に限定されないが、分離膜モジュール14の入り口において、0.001〜200mg/Lが好ましく、0.005〜100mg/Lであることがより好ましい。濃度が0.001mg/L未満であると、抗菌性分離膜の抗菌作用向上が不充分となり、200mg/Lを超えると、ファウリングを起こす場合があるためである。
【0037】
貯水タンク10に供給する水Aは、純水が好ましいが、純水が利用できない場合には、SDI(Silt Density Index)値が5以下の除濁水を用いても良い。
【0038】
改質処理工程1および2における通水条件は特に限定されないが、分離膜に圧力がかからない状態で通水しても良いし、加圧通水によって行っても良い。より強固に多量の抗菌性シラン化合物を固定させる観点から、加圧通水により行うことが好ましい。
ここで言う加圧通水とは、透過水が得られる程度の圧力をかけての通水を指しており、必要とされる供給圧力は分離膜の種類によって異なる。例えば、低圧RO膜と呼ばれるNTR−759HRシリーズ(日東電工株式会社製)、SU−700シリーズ(東レ株式会社製)等では1.5MPa程度、超低圧RO膜と呼ばれるES10シリーズ、ES15シリーズ、ES20シリーズ(日東電工株式会社製)、SUL−Gシリーズ(東レ株式会社製)等では0.75MPa程度、極超低圧RO膜と呼ばれるES40シリーズ(日東電工株式会社製)、SUL−Hシリーズ(東レ株式会社製)等では0.5MPa程度、その他LES90シリーズ(日東電工株式会社製)等のNF膜では0.5MPa程度に設定される。
【0039】
改質処理工程1および2の時間は、特に限定されないが、ポリフェノール水溶液、改質剤水溶液によるそれぞれの処理が、5分〜24時間が好ましく、効率の良い処理をするためには、30分〜6時間がより好ましい。前記処理時間が5分未満であると、抗菌性分離膜の抗菌作用が不充分となり、24時間を超えるとファウリングを起こしたり、改質処理の効果が飽和して、抗菌作用の更なる向上が望めない場合があるためである。
【0040】
改質処理工程1および2における、分離膜モジュール14への透過流束は、特に限定されないが、0.3〜5.0m/m/dayとすることが、好適な改質効果を得るために好ましい。好適な透過流束は、0.3〜5.0m/m/day、好ましくは0.5〜3.0m/m/day、さらに好ましくは0.7〜2.0m/m/dayである。透過流束が0.3m/m/day未満であると、分離膜へのポリフェノールの吸着量や、抗菌性シラン化合物の固定量が不充分となり、抗菌作用を充分に持続できない可能性がある。一方、透過流束が5.0m/m/dayを超えると、ファウリングを起こす場合があるためである。
【0041】
抗菌性分離膜は、水処理装置の中で用いることができる。例えば、原水を凝集沈殿、砂ろ過、膜ろ過等の方法で除濁処理後、抗菌性分離膜を用いて、水等の処理を行うことができる。また、例えば、抗菌性分離膜の後段に、連続電気再生式純水製造装置を用いて、純水を製造することもできる。
【0042】
本発明の抗菌性分離膜によれば、抗菌性シラン化合物が固定されることにより、微生物やスライムの発生を抑制することができる。さらに、ポリフェノールをバインダーとすることで、より強固に多量の抗菌性シラン化合物を固定することができ、長期間にわたって、微生物やスライムの発生を著しく抑制することができる。特に生物汚染のトラブルが多いRO膜、NF膜、スパイラル型膜エレメント、芳香族ポリアミド系素材を含む分離膜に対しても、抗菌作用を付与することができる。
【0043】
本発明の抗菌性分離膜の製造方法と、製造装置とによれば、水処理装置に分離膜を設置したまま、容易に抗菌性分離膜を得ることができる。
【0044】
上記の実施形態では、改質処理工程1の前に、前水洗工程を設けているが、必要に応じて、薬品洗浄工程を設けても良い。分離膜に著しい汚染が見られる場合には、改質処理工程1および2における効果が低減する場合があるためである。
薬品洗浄工程における洗浄方法は、特に限定されないが、酸および/またはアルカリを用いた洗浄方法を用いることができ、汚染の状態に応じた適切な洗浄方法を選択することが好ましい。
薬品洗浄に用いる酸は特に限定されず、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、カルボン酸等を挙げることができる。中でも、洗浄効果の高い、シュウ酸やクエン酸を用いることが好ましい。薬品洗浄に用いるアルカリは、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、亜硫酸ナトリウム等を挙げることができる。中でも、水酸化ナトリウムは、汎用性の観点から望ましい。
【0045】
上記の実施形態では、分離膜にポリフェノールを接触させた後に、抗菌性シラン化合物を分離膜に接触させているが、改質処理工程1を省略して、改質処理工程2のみとしても良い。また、ポリフェノールと、抗菌性シラン化合物とを混合して改質剤水溶液を調製し、該改質剤水溶液を分離膜に接触させても良い。
【0046】
上記の実施形態では、改質処理工程1と改質処理工程2との間に、中間水洗工程を設けているが、該中間水洗工程は設けなくても良い。
【0047】
上記の実施形態は、通水により改質処理工程1、2を行う製造方法であるが、より簡易的に抗菌性分離膜を製造する場合には、浸漬処理によって行っても良い。浸漬処理は、例えば、膜エレメントが入る大きさのタンクを用いて、所定濃度のポリフェノール水溶液に、膜エレメントを浸漬する。所定の浸漬時間を経過した後に、膜エレメントを取り出し、流水で充分に水洗を行う。次いで、所定濃度の抗菌性シラン化合物を含む改質剤水溶液に、膜エレメントを浸漬する。所定時間経過後、膜エレメントを取り出して流水で充分に洗浄する。このようにして、上記の実施形態と同様の抗菌作用を、分離膜に付与することができる。なお、前記浸漬時間は特に限定されないが、5分〜24時間、好ましくは30分〜6時間の範囲である。本方法であれば、ポンプをはじめとする通水処理装置が不要であり、簡便な処理が実施できる。
【0048】
また、長期間にわたって水処理を行った場合には、抗菌性シラン化合物が経時的に剥離し、抗菌性分離膜の抗菌作用が低下する場合がある。このような場合には、必要に応じ、上述の製造方法によって、抗菌性シラン化合物の固定を再度行うこと(以下、再生ということがある)が好ましい。
前記再生は、分離膜を水処理装置から取り外して、行っても良い。また、前記水処理装置に、上述の抗菌性分離膜の製造装置が接続されている場合には、分離膜を水処理装置に設置したまま再生を行っても良い。特に、本発明の抗菌性分離膜の製造装置を使用することで、分離膜を水処理装置に設置したまま、簡便に再生を行うことができる。また、抗菌性分離膜の製造装置が接続されていない場合でも、既存の薬品洗浄ライン等を使用して、分離膜を水処理装置に設置したまま再生を行うこともできる。
再生の頻度は、特に限定されず、処理対象とする原水の水質や、処理量を勘案して決定することが好ましい。再生の頻度は、例えば、1年に1回以上、1日に1回以下、好ましくは3ヶ月に1回以上、1週間に1回以下とすることが、抗菌作用を維持するために好ましい。1年に1回を下回ると、抗菌性分離膜の抗菌作用が薄れるおそれがあり、1日に1回を超えると、処理頻度が高すぎ、薬品コストが高くなってしまうためである。
加えて、連続運転により分離膜に汚染が生じている場合が多いため、再生の前に、上述した薬品洗浄工程により、分離膜の洗浄を行うことが好ましい。分離膜が汚染された状態で再生をすると、分離膜への抗菌性シラン化合物の固定が不充分となるおそれがあるためである。
【0049】
本発明によれば、市販の分離膜、特に従来殺菌剤を使用することができなかった、RO膜やNF膜に抗菌作用を付与することが可能となり、長年の懸案であった生物汚染のトラブルに対処することが可能となる。幅広い産業での利用価値が高く、特に医製薬産業や食品産業、浄水場、家庭用浄水器など、微生物の繁殖や臭気を確実に避けなければならない分野への適用が広がることが想定され、産業上の利用価値は極めて高い。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
(実施例1−1〜1−4、比較例1)
表1に示す組成に従い、抗菌性シラン化合物、ポリフェノールを純水に溶解して調製した水溶液に、RO膜(ES10、日東電工株式会社製)を1時間浸漬して、膜A〜Eを得た。抗菌性シラン化合物としては、オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドを用いた。ポリフェノールとしては、ミモザ抽出タンニン(縮合型タンニン、富士化学工業株式会社製)、ミラボラム抽出タンニン(加水分解型タンニン、富士化学工業株式会社製)、五倍子タンニン(加水分解型タンニン、商品名:タンニンAL、富士化学工業株式会社製)を用いた。なお、比較例1は、抗菌性シラン化合物、ポリフェノールのいずれも添加しない純水に浸漬した。
得られた膜A〜Eを純水で洗浄した後、蛍光X線分析装置(ZSX100、株式会社リガク製)を用い、X線スペクトルの強度により、膜A〜Eの膜面に付着したSi量を測定した。測定結果から、元素記号F以降で、検出された全元素中におけるSiの割合を、膜面のSi元素存在比率として算出し、その結果を表1に示す
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すとおり、実施例1−1〜1−4の結果から、膜A〜Dの膜面には、Si元素の存在が認められた。一方、比較例1では、膜Eの膜面には、Si元素の存在が認められなかった。このことから、抗菌性シラン化合物を含む水をRO膜に接触させることで、抗菌性シラン化合物を膜面に固定できることが判った。
また、実施例1−1と比較し、実施例1−2〜1−4のSi元素存在比率が高いことから、抗菌性シラン化合物単独で接触させるよりも、ポリフェノールと併用して接触させることで、より多くの抗菌性シラン化合物を固定できることが判った。さらに、実施例1−2よりも実施例1−3、1−4のSi元素存在比率が高いことから、縮合型タンニンよりも加水分解型タンニンの方が、より多くの抗菌性シラン化合物を固定できることが判った。中でも五倍子タンニンにおいて、その効果は顕著であった。
【0053】
(実施例2−1、2−3、比較例2−1、2−2)
表2に示す組成に従い、抗菌性シラン化合物、ポリフェノールを純水に溶解して調製した水溶液に、RO膜(ES10、日東電工株式会社製)を1時間浸漬して、膜F、H、I、Jを得た。抗菌性シラン化合物としては、オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドを用いた。ポリフェノールとしては、五倍子タンニンを用いた。なお、実施例2−3は、抗菌性シラン化合物とポリフェノールとを混合した水溶液を用いた。また、比較例2−1は、抗菌性シラン化合物、ポリフェノールのいずれも添加しない純水に浸漬した。
得られた膜F、H、I、Jを純水で洗浄した後、10個/mLの微生物を含む水に浸漬し、25℃で3日間放置した。その後、膜F、H、I、Jを取り出し、膜面に付着した水滴を採取し、その水滴中の一般細菌数をバイオチェッカーTTC(三愛石油株式会社製)にて測定した。測定結果を表2に示す。
【0054】
(実施例2−2)
100mg/Lポリフェノール(五倍子タンニン)水溶液に、RO膜を1時間浸漬した。その後、RO膜を取り出し、純水で洗浄した後に、100mg/L抗菌性シラン化合物(オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド)水溶液に、1時間浸漬した。こうして、ポリフェノール水溶液と抗菌性シラン化合物水溶液とを、分割して接触させた膜Gを得た。得られた膜Gを純水で洗浄した後、10個/mLの微生物を含む水に浸漬し、25℃で3日間放置した。その後、膜Gを取り出し、膜面に付着した水滴を採取し、その水滴中の一般細菌数をバイオチェッカーTTCにて測定した。測定結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2に示すとおり、実施例2−1〜2−3は、いずれも一般細菌数の増加を抑え、抗菌作用を示した。特に実施例2−2、2−3の結果から、ポリフェノールと抗菌性シラン化合物との併用により、極めて高い抗菌作用を示すことが判った。一方、比較例2−1、2−2では一般細菌数の増加が見られた。このことから、本発明の抗菌性分離膜の抗菌作用は、非常に大きいものであることが判った。
【0057】
(実施例3−1)
ミラボラム抽出タンニン(ポリフェノール)、オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド(抗菌性シラン化合物)が、それぞれ10mg/Lとなる混合水溶液を調製した。図1に示す抗菌性分離膜の製造装置8を使用して、前記混合水容液をRO膜エレメント(ES15−D8、日東電工株式会社製)に30分間接触させて、改質RO膜エレメントを得た。次いで、前記改質RO膜エレメントを用い、図2に示す分離膜の運転装置108を使用して、連続運転を実施した。
【0058】
図2を用いて、分離膜の運転方法について説明する。なお、図2中、圧力計、流量計、弁等は適宜省略してある。前記分離膜の運転装置108は、貯水タンク110と、ポンプ112と、分離膜モジュール114とを有する運転装置である。また、分離膜モジュール114は、前記改質RO膜エレメントと耐圧容器にて構成されている。
貯水タンク110には、配管130が接続されている。配管130は、ポンプ112を経由して、分離膜モジュール114と接続されている。分離膜モジュール114には、濃縮水側の配管132と、透過水側の配管134とが接続されている。配管132は、圧力調整弁120とボール弁121とを経由して、図示されない排出口と接続されている。配管134は、ボール弁122を経由して、図示されない後工程に接続されている。
【0059】
まず、改質RO膜エレメントを耐圧容器に装填する。次いで、図示されない前工程から、貯水タンク110に、原水Bが送られ、貯水される。ボール弁121、122を開、圧力調整弁120を所定の圧力になるように開として、ポンプ112を起動し、貯水タンク110内の水を、分離膜モジュール114に送る。分離膜モジュール114内に流入し、改質RO膜エレメントのRO膜を透過した水は、配管134によって、後工程へ送られる。一方、不純物等が濃縮された水は、配管132によって、排出口へ送られる。
【0060】
本実施例に用いた原水Bは、膜除濁装置にて除濁処理された地下水であり、運転中の導電率は平均20mS/m、TOC(全有機炭素)は平均0.5mg/Lで安定していた。また、運転中の透過流束は1.0m/m/dayであった。
こうして、分離膜の運転装置108を3ヶ月間連続運転し、運転初期、運転開始1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後に分離膜モジュール114の入口と、濃縮水出口とに付属の圧力計を用いて、通水差圧を測定した。通水差圧の測定結果を表3に示す。
【0061】
(実施例3−2)
ポリフェノールと抗菌性シラン化合物との混合水溶液に替え、抗菌性シラン化合物が10mg/Lである水溶液を用いて改質RO膜エレメントを得た以外は、実施例3−1と同様にして分離膜の運転装置を連続運転し、分離膜モジュールの通水差圧を測定した。通水差圧の測定結果を表3に示す。
【0062】
(比較例3)
抗菌性シラン化合物の固定を行わないRO膜エレメントを用いた以外は、実施例3−1と同様にして、分離膜の運転装置を連続運転し、分離膜モジュールの通水差圧を測定した。通水差圧の測定結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示すとおり、改質RO膜エレメントを用いた実施例3−1、3−2では、運転開始3ヶ月後においても、通水差圧の上昇が抑制されていた。特に、ポリフェノールと抗菌性シラン化合物との混合液により抗菌性分離膜の製造を行った実施例3−1では、実施例3−2と比較して、長期間にわたり通水差圧の上昇が抑制されていた。ここで、通水差圧の上昇は、スライム発生の度合いの目安となる。RO膜にスライムが多く発生すると、通水差圧も上昇する傾向にある。このことから、実施例3−1、3−2では、RO膜へのスライム発生が抑えられていることが推測できる。
一方、抗菌性シラン化合物の固定を行わなかった比較例3−1では、通水差圧の大幅な上昇が認められた。また、運転開始3ヶ月後に、比較例3−1で使用したRO膜エレメントを解体して観察したところ、RO膜にスライム汚染が確認できた。
【0065】
(実施例4−1)
五倍子タンニン(ポリフェノール)、オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド(抗菌性シラン化合物)が、それぞれ20mg/Lとなる混合水溶液を調製した。図1に示す抗菌性分離膜の製造装置8を使用して、前記混合水容液をRO膜エレメント(ES20−D8、日東電工株式会社製)に30分間接触させて、改質RO膜エレメントを得た。次いで、前記改質RO膜エレメントを用い、図2に示す分離膜の運転装置108を使用して、連続運転を実施した。
本実施例に用いた原水は、半導体工場から排出される有機系濃厚排水であり、運転期間中のTOCは平均10mg/Lで安定していた。また、運転時の透過流束は、0.8m/m/dayであった。
こうして、分離膜の運転装置を3ヶ月間連続運転し、運転初期、運転開始1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後に分離膜モジュールの通水差圧を測定した。通水差圧の測定結果を表4に示す。
【0066】
(実施例4−2)
ポリフェノールと抗菌性シラン化合物との混合水溶液に替え、抗菌性シラン化合物が20mg/Lである水溶液を用いて、改質RO膜エレメントを得た以外は、実施例4−1と同様にして分離膜の運転装置を連続運転し、分離膜モジュールの通水差圧を測定した。通水差圧の測定結果を表4に示す。
【0067】
(実施例4−3)
原水を、半導体工場から排出される有機系希薄排水とした以外は、実施例4−1と同様にして、分離膜の運転装置を連続運転し、分離膜モジュールの通水差圧を測定した。通水差圧の測定結果を表4に示す。なお、連続運転期間中の原水のTOCは、平均1mg/Lで安定していた。
【0068】
(実施例4−4)
ポリフェノールと抗菌性シラン化合物との混合水溶液に替え、抗菌性シラン化合物が20mg/Lである水溶液を用いて、改質RO膜エレメントを得た以外は、実施例4−3と同様にして分離膜の運転装置を連続運転し、分離膜モジュールの通水差圧を測定した。通水差圧の測定結果を表4に示す。
【0069】
(比較例4−1)
抗菌性シラン化合物の固定を行わないRO膜エレメントを用いた以外は、実施例4−1と同様にし、分離膜モジュールの通水差圧を測定した。通水差圧の測定結果を表4に示す。
【0070】
(比較例4−2)
抗菌性シラン化合物の固定を行わないRO膜エレメントを用いた以外は、実施例4−3と同様にし、分離膜モジュールの通水差圧を測定した。通水差圧の測定結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
表4に示すとおり、改質RO膜エレメントを用いた実施例4−1〜4−4では、いずれも通水差圧の上昇が抑制されており、スライムの発生が抑えられていることが推測できる。この内、濃厚排水を原水とした実施例4−1、4−2においても、比較例4−1と比べて、通水差圧の上昇の度合いは低かった。
一方、抗菌性シラン化合物の固定を行わない比較例4−1、4−2では、通水差圧の大幅な上昇が認められた。また、運転開始3ヶ月後に、比較例4−1、4−2で使用したRO膜エレメントを解体して観察したところ、RO膜にスライム汚染が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態にかかる抗菌性分離膜の製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】実施例に用いた分離膜の運転装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0074】
8 抗菌性分離膜の製造装置
12 ポンプ
14、114 分離膜モジュール
20、28 ボール弁
22 圧力調整弁
30、32、38 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌作用を有するシラン化合物が分離膜に固定されている、抗菌性分離膜。
【請求項2】
前記抗菌作用を有するシラン化合物は、ポリフェノールをバインダーとして、分離膜に固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性分離膜。
【請求項3】
前記ポリフェノールは、重量平均分子量が200〜5000であることを特徴とする、請求項2に記載の抗菌性分離膜。
【請求項4】
前記ポリフェノールは、タンニンであることを特徴とする、請求項2に記載の抗菌性分離膜。
【請求項5】
前記ポリフェノールは、加水分解型タンニンであることを特徴とする、請求項2に記載の抗菌性分離膜。
【請求項6】
前記ポリフェノールは、五倍子から得られたタンニンであることを特徴とする、請求項2に記載の抗菌性分離膜。
【請求項7】
前記抗菌作用を有するシラン化合物は、アンモニウムクロライド、グルタールアルデヒド、ホルムアルデヒド、リゾチーム、ラクトフェリン、ラクトフェリシン、デフェンシン、ヒスタチン、ナイシン、バクテリオシンからなる群より選択される1種以上の物質を有してなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗菌性分離膜。
【請求項8】
前記分離膜は、逆浸透膜またはナノろ過膜であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗菌性分離膜。
【請求項9】
前記分離膜は、芳香族ポリアミド系素材を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗菌性分離膜。
【請求項10】
前記分離膜は、スパイラル型膜エレメントであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗菌性分離膜。
【請求項11】
抗菌作用を有するシラン化合物を含む水を分離膜に接触させることで、前記シラン化合物を分離膜に固定する、抗菌性分離膜の製造方法。
【請求項12】
ポリフェノールを含む水と、前記抗菌作用を有するシラン化合物を含む水とを分離膜に接触させることを特徴とする、請求項11に記載の抗菌性分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記抗菌作用を有するシラン化合物を含む水を、加圧通水により分離膜に接触させることを特徴とする、請求項11または12に記載の抗菌性分離膜の製造方法。
【請求項14】
前記ポリフェノールを含む水を、加圧通水により分離膜に接触させることを特徴とする、請求項12または13に記載の抗菌性分離膜の製造方法。
【請求項15】
分離膜に、抗菌作用を有するシラン化合物を含む水を接触させる手段を有する、抗菌性分離膜の製造装置。
【請求項16】
分離膜に、ポリフェノールを含む水を接触させる手段を有する、請求項15に記載の抗菌性分離膜の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−165949(P2009−165949A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6304(P2008−6304)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】