説明

抗菌性離型剤組成物。

【課題】成型品の表面に対し効率的に抗菌効果を付与する離型剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)及び(2):
Rf−R−P(O)O−M (1)
Rf−R−OP(O)O−M (2)
[式中、Mは2Ag、Cu、もしくZnを示す。
RfはC13、もしくはC17で示されるパーフルオロアルキル基、もしくはC11、もしくはC17で示されるパーフルオロアルケニル基を示す。
は、−CHCH、−O−C−CH−、または−O−C−を表す。]
により表されるフッ素化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする抗菌性離型剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型品の表面に抗菌効果を有する離型剤塗膜層を形成することにより、成型品に対し抗菌性を付与することのできる離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性樹脂成型品、及び熱硬化性樹脂成型品に対し、抗菌性を付与する方法が検討されている。抗菌性を付与する方法として、熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂に抗菌剤を練り込んで熱可塑性樹脂成型品、及び熱硬化性樹脂成型品に抗菌性を付与する方法が知られている(特許文献1)。この方法では、樹脂組成物中に配合された抗菌剤の一部が成型品表面に存在し成型品の抗菌性に寄与するのみであり、配合された抗菌剤の大部分は樹脂組成物の内部に存在し成型品の抗菌性に寄与していない。従って、十分な抗菌性を付与するためには相当量の抗菌剤の配合が必要となり、経済的に不利であるという問題を有していた。
【0003】
また、抗菌剤を離型剤に配合して、成型品の表面に抗菌剤を塗布する方法が知られているが(特許文献2,3)、この場合抗菌剤を成型品表面に均一に塗布することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−254453号公報
【特許文献2】特開平9−100409号公報
【特許文献3】特開平9−164538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、成型品の表面に対し効率的に抗菌効果を付与する離型剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の離型剤組成物を用いて試験した結果、特定のフッ素化合物を用いることにより、優れた脱型性及び成型品表面の抗菌効果を付与できることを見出した。本発明者らは、上記知見に基づきさらに鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の項に関する:
項1.
下記一般式(1)及び(2):
Rf−R−P(O)O−M (1)
Rf−R−OP(O)O−M (2)
[式中、MはAg、1/2Cu、もしく1/2Znを示す。
RfはC13、もしくはC17で示されるパーフルオロアルキル基、もしくはC11、もしくはC17で示されるパーフルオロアルケニル基を示す。
は、−CHCH、−O−C−CH−、または−O−C−を表す。]
により表されるフッ素化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする抗菌性離型剤組成物。
項2.
離型剤100重量部に対して前記フッ素化合物を1〜50重量部含むことを特徴とする項1に記載の抗菌性離型剤組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の抗菌性離型剤は、脱型性に優れており、かつ成型品表面に効率的に抗菌効果を付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の詳細を実施形態に基づいて更に詳しく説明する。
【0009】
本発明の抗菌性離型剤組成物に含有されるフッ素化合物は、下記一般式(1)及び(2)で表される:
Rf−R−P(O)O−M (1)
Rf−R−OP(O)O−M (2)
[式中、Mは2Ag、Cu、もしくZnを示す。
RfはC13、もしくはC17で示されるパーフルオロアルキル基、もしくはC11、もしくはC17で示されるパーフルオロアルケニル基を示す。
は、−CHCH、−O−C−CH−、または−O−C−を表す。]
【0010】
上記フッ素化合物を用いることによって、脱型性に優れ、また成型した成型品に対し効率的に抗菌効果を付与できる離型剤組成物を得ることができる。
【0011】
一般式(1)及び(2)において、
Mは2Ag、Cu、もしくZn、好ましくはZnである。一般式(1)、(2)のフッ素化合物は、2価のアニオンとなり得、2価の金属と1:1のモル比で結合する。したがって、Agの場合には、フッ素化合物1モルに対し銀が2モル結合し(M=2Ag)、Cu、Znの場合には、フッ素化合物1モルに対しCu,Znが1モル結合する(M=CuまたはM=Zn)。
Rfは、C13、もしくはC17で示されるパーフルオロアルキル基、もしくはC11、もしくはC17で示されるパーフルオロアルケニル基を示し、好ましくはC11、もしくはC17で示されるパーフルオロアルケニル基である。
【0012】
パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルケニル基の構造を以下に示す。
【0013】
【化1】

【0014】
は、−CHCH、−O−C−CH−、または−O−C−を表し、フェニレン部分は1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレンのいずれでもよく、1,4−フェニレンが好ましい。好ましいRは、−O−C−CH−である。
【0015】
上記フッ素化合物は、1種単独でまたは2種以上混合して使用される。
【0016】
本発明の抗菌性離型剤組成物において、フッ素化合物の配合量は、離型剤100重量部に対して、通常1〜50重量部であり、好ましくは1〜10重量部である。離型剤に対するフッ素化合物の割合を上記範囲とすることによって、脱型性に優れ、かつ効率的に抗菌効果を付与できる離型剤組成物が得られる。
【0017】
上記フッ素化合物を溶解させるために、本発明に使用される溶媒としては、例えば、キシレンヘキサフルオライド、ヘキシレングリコール、メチルエチルケトン、アセトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
本発明における離型剤組成物には、必要に応じて、シリコーン化合物、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、レベリング剤等の各種の添加剤を添加することも可能である。但し、それらの各種添加剤としては、離型性、成型品対する抗菌効果を損なわないものが選択され、適量において使用される。
【0019】
シリコーン化合物としては、シリコーンオイル、シリコーンレジン、シリコーングリース、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0020】
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0021】
本発明の抗菌性離型剤は、本明細書中に特に明記した点以外については、当該分野において通常用いられる成型法と同様の方法によって使用することができる。
【0022】
本発明の抗菌性離型剤を金型に塗布する方法としては、スプレー塗布または刷毛塗り等によって塗布する方法がある。金型に付着する離型剤の不揮発成分量は、1m当り0.01〜500g、好ましくは0.1〜100gである。上記の量を金型に塗布することによって脱型性が十分に得られ、金型の汚れが少なく、かつ経済的にも有利である。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
本発明の抗菌性離型剤の有効成分であるフッ素化合物は、実施例1〜3に記載の方法で作製することができる:
【0025】
実施例1
下記一般式(6)で表されるフッ素化合物6.18g、及び水酸化カリウム1.12gを加え、100mlの水に溶解させる。これに、硫酸銀3.12gを温水300mlに溶解させた硫酸銀水溶液を加え、1時間攪拌する。析出物を吸引瀘過し、温水で洗浄した後、イソプロピルアルコールで洗浄する。得られた固体を乾燥させ、目的とするフッ素化合物を得た。得られたフッ素化合物1.5gをメタキシレンヘキサフルオライド48.5gに溶解させ、離型剤組成物を得た。
【0026】
実施例2
下記一般式(6)で表されるフッ素化合物6.18g、及び水酸化カリウム1.12gを加え、100mlの水に溶解させる。これに、硫酸銅・五水和物2.50gを温水300mlに溶解させた硫酸銅水溶液を加え、1時間攪拌する。析出物を吸引瀘過し、温水で洗浄した後、イソプロピルアルコールで洗浄する。得られた固体を乾燥させ、目的とするフッ素化合物を得た。得られたフッ素化合物1.5gをメタキシレンヘキサフルオライド48.5gに溶解させ、離型剤組成物を得た。
【0027】
実施例3
下記一般式(6)で表されるフッ素化合物6.18g、及び水酸化カリウム1.12gを加え、100mlの水に溶解させる。これに、硫酸亜鉛・七水和物2.88gを温水300mlに溶解させた硫酸亜鉛水溶液を加え、1時間攪拌する。析出物を吸引瀘過し、温水で洗浄した後、イソプロピルアルコールで洗浄する。得られた固体を乾燥させ、目的とするフッ素化合物を得た。得られたフッ素化合物1.5gをメタキシレンヘキサフルオライド48.5gに溶解させ、離型剤組成物を得た。
【0028】
比較例1
下記一般式(6)で表されるフッ素化合物1.5gを、メタキシレンヘキサフルオライド48.5gに溶解させ、離型剤組成物を得た。
【0029】
比較例2
下記一般式(6)で表されるフッ素化合物0.75g、及び水酸化カリウム0.27gを加え、水48.98gに溶解させ、離型剤組成物を得た。
【0030】
比較例3
下記一般式(6)で表されるフッ素化合物6.18g、及び水酸化カリウム1.12gを加え、100mlの水に溶解させる。これに、硫酸鉄1.51gを温水200mlに溶解させた硫酸鉄水溶液を加え、1時間攪拌する。析出物を吸引瀘過し、温水で洗浄した後、イソプロピルアルコールで洗浄する。得られた固体を乾燥させ、目的とするフッ素化合物を得た。得られたフッ素化合物1.5gをメタキシレンヘキサフルオライド48.5gに溶解させ、離型剤組成物を得た。
【0031】
比較例4
下記一般式(6)で表されるフッ素化合物6.18g、及び水酸化カリウム1.12gを加え、100mlの水に溶解させる。これに、硫酸ジルコニウム・四水和物1.78gを温水200mlに溶解させた硫酸鉄水溶液を加え、1時間攪拌する。析出物を吸引瀘過し、温水で洗浄した後、イソプロピルアルコールで洗浄する。得られた固体を乾燥させ、目的とするフッ素化合物を得た。得られたフッ素化合物1.5gをメタキシレンヘキサフルオライド48.5gに溶解させ、離型剤組成物を得た。
【0032】
17−O−C−CH−P(O)(OH) (6)
(CのOとCHは、1,4−結合である)
【0033】
性能評価
試験用金型(鉄製、成型品サイズ:直径60mm×高さ5mm)に離型剤をスプレーガンで均一に約3g塗布した。熱硬化性樹脂原料(不飽和ポリエステル樹脂)を試験用金型に設置し、加熱・加圧条件下で硬化させた。その後、下記評価方法により評価を行った。
【0034】
脱型性
試験用金型から成型品を剥離したときの荷重をプッシュプルスケールで測定した。尚、要した荷重が30N未満である場合を◎、30N以上50N未満を○、50N以上を×で表した。試験結果は、表1に示す通りである。
【0035】
成型品の抗菌性
ポテトデキストロース寒天培地に得られた成型品を設置した。次いでクロコウジカビの胞子液を滴下し、25℃で培養し、1週間経過後の成型品表面の状態を目視により評価した。尚、成型品上にクロコウジカビの発生が認められない場合を◎、成型品上にクロコウジカビの発生が成型品表面積の10%未満である場合を○、成型品上にクロコウジカビの発生が表面積の10%以上である場合を×で表した。試験結果は、表1に示す通りである。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の抗菌性離型剤組成物は、ゴム、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の製造に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)及び(2):
Rf−R−P(O)O−M (1)
Rf−R−OP(O)O−M (2)
[式中、Mは2Ag、Cu、もしくZnを示す。
RfはC13、もしくはC17で示されるパーフルオロアルキル基、もしくはC11、もしくはC17で示されるパーフルオロアルケニル基を示す。
は、−CHCH、−O−C−CH−、または−O−C−を表す。]
により表されるフッ素化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする抗菌性離型剤組成物。
【請求項2】
離型剤100重量部に対して前記フッ素化合物を1〜50重量部含むことを特徴とする請求項1に記載の抗菌性離型剤組成物。