説明

抗菌生体吸収性材料

【課題】本発明は有効で且つ持続する抗菌効果を提供する、抗菌性被覆又は粉体を備えた生体吸収性材料を提供するものである。
【解決手段】具体的には、本発明は、十分な原子異常を特徴とする結晶形態にある1以上の抗菌性金属が結合した生体吸収性基体を含む生体吸収性材料を提供するものであり、当該材料はアルコール又は水性電解液に接触すると抗菌効果を奏するのに十分な濃度で少なくとも1つの抗菌性金属の原子、イオン、分子又はクラスターを放出する。この1以上の抗菌性金属は生体吸収性材料の体液吸収に影響を与えず、また、当該材料の消失後24時間に測定すると、2μmより大きい粒子を残さない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆又は粉体の形態の抗菌性金属の存在により抗菌性を付与された生体吸収性材料に関し、その製造方法及び感染を制御するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスの生体吸収性材料から感染するリスクは非常に高い。生体吸収性材料には以下のものを含む多くの医療用途が存在する:
(1)傷口閉止体;例えば、縫合糸、ステープル、接着体を含む
(2)組織修復;例えば、ヘルニア修復用メッシュを含む
(3)人工器官;例えば、骨内部固定体、ガイド付き骨再生の物理的障壁を含む
(4)組織エンジニアリング;例えば、血管、皮膚、骨、軟骨及び肝臓を含む
(5)制御されたドラッグデリバリーシステム;例えば、マイクロカプセル、及びイオン交換樹脂を含む。
【0003】
上記のような医療用途における生体吸収性材料の使用は、組織又は細胞刺激を減少させ、硬いワイヤが永久に保持されることによる炎症反応の誘導を減少させる;硬いワイヤの除去が不要である;並びに、整形外科的移植物の場合は、治療中の骨へストレスを徐々に伝えるので骨の完全な再生をもたらす等の利点を有する。
【0004】
医療用途用の生体吸収性材料は周知であり、たとえば、Koyfmanらの米国特許第5423859号は医療デバイス用の生体吸収性材料がそこから製造できるかもしれない生体吸収性又は生分解性の樹脂のリストを例示している。一般に、生体吸収性材料は生体吸収性合成ポリマー、天然由来ポリマー又はそれらの組み合わせであり、例えば、
(1)生体吸収性合成ポリマー;例えば、ポリグリコール酸、グリコライド、乳酸、ラクタイド、ジオキサノン、トリメチレンカーボネート等のポリマー等のポリエステル又はポリアセトン;ポリ無水物、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリフォスファゼン;並びに、これらの共重合体、及び、関連ポリマー又はモノマーの共重合体、
(2)天然由来ポリマー:
(a)アルブミン、フィブリン、コラーゲン又はエラスチン等のタンパク質、
(b)キトサン、アルギネート又はヒアルロン酸等の多糖類、
及び
(3)生合成ポリマー:3−ヒドロキシ酪酸重合体等
がある。
【0005】
他の生体材料と同様に、生体吸収性材料もまた微生物汚染の対象であり、制御の困難な感染源となり得る。このような感染はしばしばデバイスの不全を招き、その除去及び高価な抗菌処理を必要とする。
【0006】
生体吸収性材料をより抗菌性とする従来の試みは、一般に、銀塩等の抗菌物質又はその塩を当該材料に含入することに集中していた。しかし、そのような試みは、通常、限られた即効性の抗菌作用のみを提供し、抗菌剤の長時間にわたる利用性すなわち溶解性は制限されていた。そこで、生体吸収性材料が載置されている間にわたって抗菌効果が長時間継続するような抗菌作用を有することが求められていた。長時間とは数時間から数日、数週間又は数年にわたることもある。
【0007】
医療デバイス上に銀被覆等の金属被覆を設けることは従来から示唆されており、例えば、VidalとRedmondの国際特許出願公開WO92/13491;三菱レイヨン(株)の特開昭60−21912号公報;及び、Sawyerの米国特許第4167045号が挙げられる。しかし、これらのいずれも生体吸収性材料上の金属被覆の使用についての具体的な教示内容を含んでいない。そのような用途においては、望まない免疫反応及び/又は毒効果を引き起こすので、金属被覆が大きな金属粒子を体内に放出又は残留させることがない点が重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5423859号明細書
【特許文献2】WO92/13491
【特許文献3】特開昭60−21912号公報
【特許文献4】米国特許第4167045号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、有効で持続性の抗菌効果を生成し、生体吸収性材料の生体吸収を邪魔せず、生体吸収性材料の消失時に体内に大きな金属粒子を放出又は残留させない、生体吸収性材料用の抗菌被覆が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、十分な原子異常で特徴づけられる結晶形態にある1以上の抗菌性金属と結合した生体吸収性基体を備えた生体吸収性材料であって、アルコール又は水性電解液と接触すると、少なくとも1つの抗菌性金属の原子、イオン、分子又はクラスターを抗菌効果を提供するのに十分な濃度で放出する、生体吸収性材料を提供する。1以上の抗菌性金属は生体吸収性材料の生体吸収に干渉せず、生体吸収性材料の消失後24時間で測定された場合に2μmより大きい粒子を残留させない。最も好ましくは、生体吸収性材料の消失後24時間で測定された場合に、被覆又は粉体からの粒子はサブミクロン、すなわち約1μm未満である。このように、粒子は有害な免疫反応又は毒作用を回避する大きさとされている。そのような抗菌性金属は連続又は不連続被覆、粉体、又は生体吸収性粉体上の被覆の形態である。
【0011】
抗菌性被覆は薄く、好ましくは900nm以上、より好ましくは500nm未満であり、また、非常に微細に粒状化されており、好ましくは100nm、より好ましくは40nm、及び最も好ましくは20nmの粒状化サイズ(結晶サイズ)を有している。抗菌性被覆は、完全に結晶性であるが、原子異常を生成された抗菌性金属から構成されており、好ましくは、
(a)SCE(標準カロメル電極)に対する0.15MのNaCO中での約225mV、より好ましくは約250mV、より大きい残留電位による証拠づけられる高酸素含量;
(b)被覆中の不連続性
のいずれか又は両方を有する。
【0012】
生体吸収性基体と結合する抗菌性金属は100μm、好ましくは40μmの粒サイズを有する粉体の形態であってもよく、また、好ましくは100nm、より好ましくは40nm、及び最も好ましくは20nmの粒状化サイズ(結晶サイズ)を有していても良い。そのような粉体は、粉体化された生体適合性及び生体吸収性基体上の、好ましくは上記の厚みの被覆として;ナノ結晶被覆として(粉体に変換される);又は、原子異常を付与するために低温処理された抗菌性金属の粉体として、調製される。
【0013】
上記抗菌性−生体吸収性材料の製造方法も、生体吸収性ポリマーから形成され、或いは、医療デバイス又はその一部である生体吸収性基体を用いて提供される。1以上の抗菌性金属の被覆又は粉体は、特定の条件下で、必要に応じて抗菌性金属を複合材料として、物理蒸着すること;或いは、抗菌性金属が粉体形状の場合は、抗菌性金属を含む抗菌性材料を原子異常を維持する条件で低温処理すること、によって形成される。十分な酸素が被覆又は粉体中に取り込まれて、分離中の抗菌性金属の粒子は、有害な免疫反応及び毒効果を回避するように、好ましくは2μm未満、より好ましくは1μm未満の大きさとなる。
【0014】
ここで使用される用語及び句の意味は以下のとおりである。
「アルコール又は水性電解液」とは、本発明の抗菌性被覆が接触して活性化する(すなわち、抗菌性金属種を放出する)任意のアルコール又は水性電解液を含む。この用語は、アルコール、生理食塩水、水、ゲル、流体、溶媒、及び、生体流体(血液、尿又は唾液等)及び生体組織(皮膚、金属又は骨)を含む水含有組織を含む。
【0015】
「抗菌効果」とは、抗菌性金属の原子、イオン、分子又はクラスター(以下、当該抗菌性金属の「種」)が、材料が接触するアルコール又は電解液中に放出され、当該材料の近傍で菌(又は他の微生物)の成長を阻害するのに十分な濃度となることを意味する。抗菌効果を測定する最も通常の方法は、前記材料を菌の生成した表面上に載置した場合に形成される阻害ゾーン(ZOI)を測定することである。比較的小さいか又は0のZOI(1mm未満)は有用な抗菌効果がないことを示しており、比較的大きなZOI(5mmより大きい)は非常に有用な抗菌効果を示している。ZOIテストのある方法が後述する実施例に示されている。
【0016】
「抗菌性金属」はそのイオンが抗菌効果を有し、且つ、生体適合性である金属である。好ましい抗菌性金属はAg、Au、Pt、Pd、Ir(すなわち貴金属)、Sn、Cu、Sb、Bi及びZnであり、Agが最も好ましい。
【0017】
「原子異常」とは、通常順序の結晶状態に対する、結晶格子における点欠陥、空孔、転移等の線欠陥、格子間原子、アモルファス領域、結晶及び副結晶境界等を含む。原子異常は表面のトポグラフィーに異常を引き起こし、ナノメートルのスケールの構造において不均一を引き起こす。
【0018】
「生体吸収性材料」とは、医療デバイス又はその一部として有用、すなわち、生体適合性であり、特定の用途にもよるが、数時間〜数年にわたり生体吸収可能な材料である。
【0019】
「生体吸収」とは、(ヒト又は哺乳動物)の体内の最初の載置箇所からの材料の消失を意味しており、分散したポリマー分子の分解を伴っても伴わなくてもよい。
【0020】
「生体適合性」とは、意図される用途において望ましくないホスト反応が有意に発生しないことを意味する。
【0021】
ここでの「低温処理」とは、材料が金属の再結晶化温度未満の温度で、ミリング、グラインディング、ハンマーでの粉砕、乳鉢と乳棒での粉砕、又は圧縮等により機械的な処理を受けることを示す。これは、処理中に、付与された原子異常が前記材料中で維持されるように行われる。
【0022】
「拡散」とは(原子異常を生成及び維持するという条件でプロセス中の拡散の意味を制限するが)、表面上での、又は、材料により形成されるマトリックス中での、原子及び/又は分子の拡散を意味する。
【0023】
「分離」とは、生体吸収性材料がアルコール又は水性電解液と接触する場合の、生体吸収性基体と結合した被覆又は粉体の形態の抗菌性金属の崩壊を意味する。
【0024】
「粒サイズ」又は「結晶サイズ」とは、抗菌性金属の被覆又は粉体中の結晶の最大寸法の大きさを意味する。
【0025】
「金属」は、実質的に純粋な金属、合金、又は、酸化物、窒化物、ホウ素化物、硫化物、ハロゲン化物または水和物等の化合物のいずれかの形態にある1又は2以上の金属を含む。
【0026】
「ナノ結晶」とは、単相又は多相多結晶を示し、その粒サイズは、少なくとも1つの寸法が約100nm、より好ましくは50nm、最も好ましくは25nm未満である。この用語は、抗菌性金属の被覆、粉体又はフレークの結晶格子中の粒サイズ又は結晶に適用され、粉体で使用される場合の材料の粒サイズを制限しない。
【0027】
「通常順序の結晶状態」とは、キャスト、又はプレート化された金属製品として形成されたバルクの金属材料、合金又は化合物において通常みられる結晶状態を意味する。そのような材料は、空隙、粒界及び誤配置等の原子欠陥はわずかな低濃度でしか含まない。
【0028】
「粒サイズ」とは、生体吸収性材料上の抗菌性被覆から体内に放出又は残留される粒子の最大寸法のサイズを意味する。
【0029】
「粉体」とは、ナノ結晶粉体からフレークまでのナノ結晶抗菌性金属の粒サイズを含む。
【0030】
「持続放出」又は「持続ベース」とは、数時間又は数日にかけて測定された時間中継続する、抗菌性金属の原子、分子、イオン又はクラスターの放出を定義するために使用され、そのような金属種の放出は、抗菌効果を達成するには低すぎる速度及び濃度でそのような種を放出するバルク金属、及び、アルコール又は電解液との接触の際に銀イオンを殆ど即座にしかし非連続的に放出する硝酸銀のような抗菌性金属の高水溶性塩からは区別される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
A.生体吸収性材料
医療用途の生体吸収性材料は周知であり、様々な生体吸収性樹脂からなる生体吸収性ポリマーを含む。例えば、Koyfmanらの米国特許第5423859は医療デバイス用の生体吸収性材料を製造しうる生体吸収性又は生体分解性樹脂の例が挙げられている。生体吸収性材料は合成型生体吸収性ポリマー或いは天然由来ポリマーに及ぶ。典型的なものは下記のとおりである。
(1)合成型生体吸収性ポリマー:例えば、ポリグリコール酸、グリコライド、乳酸、ラクタイド、ジオキサノン、トリメチレンカーボネート等のポリエステル又はポリアセトン;ポリ無水物、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリフォスファゼン、並びに、これらの共重合体、及び、関連ポリマー又はモノマーの共重合体
(2)天然由来ポリマー:
(a)タンパク質;アルブミン、フィブリン、コラーゲン、エラスチン
(b)多糖類;キトサン、アルギネート、ヒアルロン酸
(3)生合成ポリマー:3−ヒドロキシ酪酸重合体等のポリエステル
生体吸収性材料は、用途によるが、粉体、シート又は繊維形態で使用されてもよい。
【0032】
本発明の抗菌性被覆体でコートされた生体吸収性材料には多くの医療用途が存在する。これらに制限される訳ではないが、それには以下のものが含まれる。
(1)傷口閉止体;例えば、縫合糸、ステープル、接着体を含む
(2)組織修復;例えば、ヘルニア修復用メッシュを含む
(3)人工器官;例えば、骨内部固定体、ガイド付き骨再生の物理的障壁を含む
(4)組織エンジニアリング;例えば、血管、皮膚、骨、軟骨及び肝臓を含む
(5)制御されたドラッグデリバリーシステム;例えば、マイクロカプセル、及びイオン交換樹脂
(6)傷被覆体又は充填剤;例えば、アルギネート包帯及びキトサン粉体を含む。
【0033】
B.生体吸収性材料用の抗菌性被覆体
生体吸収性材料は、抗菌性金属から形成された抗菌性被覆を備えており、それは下記の方法により形成される。被覆は1以上の層として適用されるが、最も好ましくは、900nm、より好ましくは500nm未満の厚みの単薄層の不連続被覆として適用され、それは100nm、より好ましくは40nm、最も好ましくは20nm未満の粒子サイズ(すなわち、被覆自体中の結晶サイズ)を有している。
【0034】
被覆は、最も好ましくは、上記の定義に従って、また、Burrellらの国際特許出願公開WO98/41095、WO95/13704及びWO93/23092に記載される原子異常を伴って形成される。更に、好ましくは、後述する実施例5に記載の手法で測定された場合に0.15MのNaCO中のSCEに対する正残留電位が225mV、より好ましくは250mVより高い、と定義される高酸素含量を伴って被覆が形成される。高酸素含量は物理真空蒸着中の作用ガス雰囲気に酸素を導入することによって達成される。好ましくは、酸素に対する不活性作用ガス(好ましくはアルゴン)の比は約4:96未満である。
【0035】
抗菌性被覆は、例えば、回転又は振動を使ったり/使わなかったりして、一方の側から繊維又は粉体を被覆する;不連続となるほど被覆を薄くする;多孔繊維性材料上に被覆して不連続とする;基体又はカソードをマスクする;連続性被覆をエッチングする;等の多くの技術によって不連続とすることができる。
【0036】
本発明の抗菌性被覆の上記特徴は、生体吸収性材料が消失した場合に抗菌性被覆によって残される粒子サイズが約2μm、より好ましくは1μmのサイズとなることを保証することが見出された。
【0037】
抗菌性被覆は、原子異常を伴う抗菌性金属から結晶形態で形成され、抗菌効果を発揮する。物理真空蒸着技術における原子異常の生成は上記のBurrellらのPCT出願に記載されているが、概要は以下のとおりである。
【0038】
抗菌性金属は薄い金属フィルムとして生体吸収性材料の1以上の表面に蒸着技術によって堆積される。物理蒸着技術は周知であり、一般には、基体表面に原子が1つずつ金属蒸気から堆積する。真空又はアークを使うものには、気化、スパッタリング、マグネトロンスパッタリング及びイオンプレーティングがある。前記堆積は、被覆中に上記の原子異常を形成するように行われる。原子異常を生成することのできる様々な条件は有用である。多くの薄膜堆積の目的は欠陥のない滑らかな高密度のフィルムを形成することなので、これらの条件は一般に薄膜堆積技術では回避すべきものとして教えられている(例えば、J.A.Thornton, J. Vac. Sci. Technol., Vol 11, (4) 666-670、及び、Deposition Technologies for Films and Coatings, Noyes Publications, N.J. 170-237 (1982)の「Coating Deposition by Sputtering」を参照)。堆積工程中に原子異常を生成するために使用される好ましい条件は以下のものを含む。
− 低い基体温度。すなわち、金属融点(ケルビン単位)に対する基体温度の比が約0.5、より好ましくは約0.35、最も好ましくは約0.3未満とするように、被覆される表面の温度を維持すること。
そして、任意に、以下の一方又は両方
− 通常の作用ガス(又は雰囲気)圧力より高い圧力。すなわち、真空蒸着については: 電子ビーム又はアーク蒸着では0.1mTより高いこと;ガス散乱蒸着(圧力プレーティング)又は反応アーク蒸着では20mTより高いこと、スパッタリングについては:75mTより高いこと、マグネトロンスパッタリングでは:10mTより高いこと、そして、イオンプレーティングでは:約200mTより高いこと。
− 被覆される表面への被覆フラックスの入射角を約75゜、好ましくは約30゜未満に維持すること。
【0039】
被覆に使用される金属は、上記のように、イオンなどを放出することが知られているものであり、抗菌効果を有するものである。生体吸収性材料にとっては、金属も生体適合性でなければならない。好ましい金属には、Ag、Au、Pt、Pd及びIrといった貴金属、並びに、Sn、Cu、Sb、Bi及びZn、或いは、これらの金属又は他の金属との合金又は化合物が含まれる。最も好ましいのは、Ag又はAu、或いは、これらの金属の1以上の合金又は化合物である。特に好ましいのはAgである。
【0040】
経済的理由から、金属薄膜の厚みは、適切な期間中に金属イオンを持続して放出するために必要な厚みを超えない。この好ましい厚みの範囲内で、被覆中の特定の金属(溶解性及び耐摩耗性が変わる)によって、並びに、被覆中の原子異常の程度(すなわち被覆の溶解性)によって、厚みは変化する。意図する用途におけるデバイスの柔軟性又は寸法許容度に影響を与えないように、厚みは十分に薄くされる。
【0041】
材料が生み出す抗菌効果は、被覆がアルコール又は水性電解液と接触するときに達成され、金属イオン、原子、分子又はクラスターが放出される。抗菌効果を生成するために必要な金属種の濃度は金属によって異なる。一般に、抗菌効果は血漿、血清又は尿などの体液中の銀被覆で達成され、そこでは約0.5〜10μg/モル未満の銀種濃度である。金属の抗菌効果の証拠は生物学的テストで実証することができる。局在化した抗菌効果は阻害テスト(実施例1参照)のゾーンで実証され、抗菌性金属の持続放出はログリダクション(log reduction)(実施例2及び4参照)により例証される。
【0042】
被覆から持続して金属イオン、原子、分子又はクラスターを放出することを達成する能力は、組成、構造、溶解性及び厚み等の被覆の特徴、並びに、デバイスが使用される環境の性質を含む多くの要素を必要とする。原子異常のレベルが大きくなると、時間当たりに放出される金属種の量が増大する。例えば、T/Tm<0.5のマグネトロンスパッタリングで堆積された銀金属膜、及び、約7mTorrの作用ガス圧は約1/3の銀イオンを放出するが、類似の条件で(ただし、30mTorr)堆積された膜は10日にわたって放出する。中間の条件(例えば、低圧、低入射角等)で生成された膜は、バイオアッセイで決定されるように、これらの中間のAg放出値を示す。したがって、これは、金属被覆からの放出をコントロールする方法を提供する。徐放性被覆は異常の程度を低くすることで製造され、一方で速放性被覆は異常の程度を大きくすることで製造される。
【0043】
全体の溶解に必要な時間は膜厚、膜組成、膜が曝される環境によって変化する。厚みに関しては、これはほぼ直線的な関係であり、厚みが2倍になれば、時間もほぼ2倍長くなる。
【0044】
被覆からの金属の放出の制御は、調節された構造の薄膜被覆を形成することによっても可能である。例えば、堆積時間の50%では作用ガス圧が低く(例えば15mTorr)残りの時間では高い(例えば30mTorr)条件のマグネトロンスパッタリングにより堆積した被覆では、最初は金属イオンの放出が速く、その後、ゆっくりとした放出が長く持続する。このタイプの被覆は、抗菌効果が直ぐに必要で、その後、何週間に亘って金属イオン濃度を維持するゆっくりとした放出速度が必要とされる尿カテーテル等のデバイスに非常に有効である。
【0045】
被覆は周囲温度又は使用時の温度(例えば体温)に加温されるので、蒸着中に使用される基体温度は、被覆のアニーリング又は再結晶が起こる程低温とされるべきではない。この許容ΔT、すなわち蒸着時の基体温度と使用時の最終温度との差は金属によって異なる。最も好ましいAg及びAuでは、好ましい基体温度は−20℃〜200℃であり、より好ましくは−10℃〜100℃である。
【0046】
原子異常は、複合金属材料、すなわち抗菌性金属とは異なる原子又は分子を含む金属マトリックス中に1以上の抗菌性金属を含む材料であって、該異なる物質の包含が結晶格子中に原子異常を生成するもの、を調製することによって達成することができる。
【0047】
好ましい複合材料調製技術は抗菌性金属と1以上の不活性な生体適合金属の同時又は連続堆積であり、当該生体適合金属はTa、Ti、Nb、Zn、V、Hf、Mo、Si、Al及びこれらの金属の合金、或いは、他の金属元素、典型的には他の遷移金属から選択される。そのような不活性金属は抗菌性金属とは異なる原子径を有しており、それが堆積中に原子異常を生成させる。この種の合金は原子拡散を減少させて異常構造を安定化するのにも役立つことができる。抗菌性金属及び不活性金属のそれぞれのターゲットを複数載置した薄膜堆積装置が好ましくは利用される。層が連続的に堆積する場合は、不活性金属の層は不連続であるべきであり、例えば、抗菌性金属マトリックス中の島のようにあるべきである。不活性金属に対する抗菌性金属の最終比は約0.2より大きくあるべきである。最も好ましい不活性金属はTi、Ta、Zn及びNbである。1以上の抗菌性金属の酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、ホウ素化物、ハロゲン化物又は水素化物、及び/又は、所望の原子異を達成するための1以上の不活性金属、から抗菌性被覆を形成することも可能である。
【0048】
他の複合材料もまた、反応性同時又は連続堆積によって、または、物理蒸着技術によって形成することができ、反応した材料が抗菌性金属の薄層に含入される。反応した材料とは、抗菌性金属及び/又は不活性金属の酸化物、窒化物、炭化物、ホウ素化物、硫化物、ハロゲン化物又は水素化物であり、適当な反応体又はそれを含む気体(例えば、酸素、水、窒素、水素、ホウ素、硫黄、ハロゲン)の堆積室への注入によりその場で形成される。これらの気体の原子又は分子は金属膜中に吸収又はトラップされて原子異常を生成することができる。反応体は共堆積物のために堆積中に連続的に供給されてもよく、連続堆積物のために間欠的に供給されてもよい。反応生成物に対する抗菌性金属の最終比は約0.2より大きいべきである。空気、酸素、窒素及び水素が特に好ましい反応体である。
【0049】
上記の複合体調製用の堆積技術は、既述の、低基体温度、高作用ガス圧、及び、低入射角の条件を伴って/伴わずに、使用することができる。1以上のこれらの条件は被覆中に生成する原子異常の量を維持し向上させるために好ましい。
【0050】
C.生体吸収性材料用の抗菌性粉体
生体吸収性材料用の抗菌性粉体は、好ましくは、原子異常を伴うナノ結晶粉体である。純粋金属、合金、或いは、金属酸化物又は金属塩等の化合物としての粉体は、原子異常を付与する蒸着、機械処理又は圧縮により後述するように形成することができる。機械的に付与される異常は、低温(すなわち、材料の再結晶温度未満の温度)の条件下で行われ、アニーリング又は再結晶が発生しないようにされる。
【0051】
ナノ結晶粉体は抗菌性金属自体の粉体、又は、抗菌性金属で被覆された生体吸収性粉体を含むことができる(実施例4では、キトサン粉体が銀で被覆されている)。
【0052】
抗菌性金属のナノ結晶粉体は上記のように、そして、国際特許出願公開WO93/23092及びWO95/13074(両者ともBurrellら)又は他の公知の技術によって、幾つかの方法で調製することができる。一般に、ナノ結晶粉体は、粉体化されたキチン等の生体適合性又は生体吸収性物質への、好ましくは上記の厚さのナノ結晶性被覆として調製され;或いは、コールドフィンガー又はシリコンウェハーなどの基体へのナノ結晶性被覆として調製され、被覆は次にナノ結晶性粉体を形成するように擦り落とされる。
【0053】
若しくは、抗菌性金属の整粒されたナノ結晶粉体は原子異常を付与するために冷間加工されてもよく、材料中の原子異常が保持されるように、材料の再結晶温度未満の温度で、材料はミリング、グラインディング、ハンマリング、乳鉢及び乳棒、又は圧縮等により機械的に処理される(Burrellらの国際特許公開WO93/23092及びWO95/13704)。原子異常、ひいては抗菌効果を維持するために、ナノ結晶粉体はガンマ線照射により下記に示すように滅菌されてもよい。
【0054】
調製されたナノ結晶粉体は次に公知のあらゆる方法で生体吸収性基体の表面又は内部に取り入れられることができる。例えば、ナノ結晶粉体は被覆体として生体吸収性基体表面に積層されてもよく;生体吸収性基体の繊維ないに機械的に混合されてもよく;或いは、物理的なブローイングにより生体吸収性基体中に含浸されてもよい。生体吸収性基体に含浸されるナノ結晶粉体の量は所望の配合範囲を達成するために適宜調整することができる。もしくは、ナノ結晶粉体は、生体適合性基体、医療デバイス又は医療デバイスの部品、或いは、その被覆体の製造に使用される材料として、使用されるポリマー性、セラミックス性、金属性マトリックス又は他のマトリックス中に取り込まれてもよい。
【0055】
ナノ結晶粉体の抗菌効果は、ナノ結晶粉体で被覆され又は含浸された基体がアルコール又は水性電解液と接触するときに発揮され、抗菌性金属イオン、原子、分子又はクラスターが放出される。
【0056】
D.滅菌
原子異常が形成された抗菌性金属の抗菌性被覆又は粉体で1回被覆された生体吸収性材料は、好ましくは、原子異常をアニールにより解消して有用な抗菌効果を減少又は無効としうる過度の熱エネルギーを与えることなく滅菌される。Burrellらの国際特許出願WO95/13704に記載されるように、ガンマ線照射が包帯等の滅菌に好ましい。
【0057】
滅菌された材料は抗菌性被覆の更なる酸化を回避するために光の浸透を排除する包装体中に封入される。ポリエステル製の封切り可能なポーチが好ましい。封入された生体吸収性・抗菌性材料の保存時間は1年以上である。
【0058】
E.抗菌性被覆又は粉体との生体吸収性材料の使用
本発明の抗菌性被覆及び粉体はアルコール又は水性電解液との接触によって活性化される。もし生体吸収性材料が電解液への曝露のない用途で使用される場合には、被覆を活性化して抗菌性金属種を放出させるために、生理食塩水又は70%エタノールの数滴により当該材料を湿すことができる。包帯では、生体吸収性材料は接着フィルム等の閉口又は半閉口層と共に位置するようにすることができ、これにより、包帯を湿潤的な環境に維持することができる。
【実施例】
【0059】
F.実施例

実施例1−銀被覆生体吸収性縫合糸

1.1 生体吸収性材料
生体吸収性縫合糸上にナノ結晶銀被覆が設けられた。被覆された生体吸収性材料はSherwood Medical社(St. Louis, MO, USA)のDEXON(登録商標)II BI-COLOR(ポリカプロレートで被覆されたポリグリコール酸の撚糸)であった。
【0060】
1.2 スパッタリング条件
生体吸収性縫合糸の一方の側のみに、下記の条件のマグネトロンスパッタリングにより被覆層が形成された。
ターゲット 99.99% Ag
ターゲットサイズ 20.3cm 直径
作用ガス 96/4 wt% Ar/O
作用ガス圧 40mTorr
電力 0.11kW
基体温度 20℃
ベース圧 4.0×10−6Torr
アノード/カソード距離 100mm
スパッタリング時間/膜厚 16分/500nm
電圧 360V
【0061】
縫合糸材料の一方の側のみにこの条件でスパッタリングを施すことにより、縫合糸表面の2/3のみをカバーする不連続被覆が達成された。この被覆方法は、(実施例5の如く、NaCO中のSCEに対して)225mVより大きい開路電位、並びに、X線回折テストによって確認されたように20nm未満の結晶サイズを与えた。
【0062】
1.3 ゾーン阻害試験
被覆された生体吸収性縫合糸から銀種が放出されていることを確立して、抗菌効果を実証すべく、ゾーン阻害試験が行われた。ミュラー‐ヒントン寒天がペトリ皿中に注入された。寒天プレートは表面を予め乾燥され、次に、Pseudomonas Aeruginosa ATCC 27317及びStaphylococcus aureus ATCC 25923のかたまりを植え付けられた。植え付け後直ぐに被覆された縫合糸の一部(1インチ長)が寒天プレートの中央に載置された。ペトリ皿は37℃で24時間インキュベートされ、阻害ゾーン(ZOI)がその後測定された。結果は、Pseudomonas AeruginosaとStaphylococcus aureusのそれぞれについて平均ZOI(3回のサンプル)が9.0mm及び7.6mmであった。縫合糸自体の非常に小さいゾーン直径(0.38mm)を考えると、これらの阻害ゾーンは顕著なものであった。
【0063】
1.4 引張強度試験
銀被覆が縫合糸の生体吸収性を阻害しないことを実証するために、下記の引張強度試験が行われた。縫合糸は10インチ長のセグメントに切断され、上記のスパッタリング条件で銀の被覆が行われた。被覆された縫合糸と被覆されていない縫合糸がリン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.2)中の50%の牛胎児血清(Gibco/BRL, Life Technologies社、Ontario, Canada)を含むビーカー中に置かれた。ビーカーは37℃でインキュベートされた。1、2及び4日目に、サンプルを取り出し、Instron Series IX AUtomated Material Testing System 1.04(Sample rate: 10.00 pts/sec, crosshead speed: 0.500 in/min, humidity: 50%, temperature 73F)を用いて引張強度をテストした。引張残留率(%=処理縫合糸の破断強度/非被覆縫合糸の破断強度 × 100)が計算された。結果を表1に示す。
表1 PBS−子牛血清処理縫合糸の引張残留率
【表1】

表1において、非被覆縫合糸及び銀被覆縫合糸の両者の引張残留率が近似していることから、銀被覆は縫合糸の生体吸収性を妨害しなかったことがわかる。
【0064】
実施例2−銀被覆生体吸収性アルギネート傷包帯

2.1 生体吸収性材料
Kaltostat(登録商標)アルギン酸カルシウム−ナトリウム包帯(ConvaTec社、Princeton, NJ, USA)がナノ結晶銀で被覆された。
【0065】
2.2 スパッタリング条件
生体吸収性アルギネート傷包帯上に、下記の条件のマグネトロンスパッタリングにより被覆層が形成された。
ターゲット 99.99% Ag
ターゲットサイズ 20.3cm 直径
作用ガス 96/4 wt% Ar/O
作用ガス圧 40mTorr
電力 0.11kW
基体温度 20℃
ベース圧 4.0×10−6Torr
アノード/カソード距離 100mm
スパッタリング時間/膜厚 30分/800nm
電圧 360V
【0066】
包帯表面の繊維の不連続性により、この被覆は不連続被覆となっていた。
【0067】
2.3 微生物殺傷力試験
被覆されたアルギネート包帯の抗菌効果を実証するために、微生物殺傷力試験が行われた。被覆されたアルギネート包帯が1インチ四方の片に切断された。一晩培養したPseudomonas aeruginosa ATCC 27317が5mlのTryptic Soy Broth(TSB)中に植え付けられ、懸濁液が0.5のMcFarland turbilityに達するまで37℃でインキュベートされた。0.5mlの微生物懸濁液が包帯片上に植え付けられ、37℃で2時間インキュベートされた。包帯を4.5mlのSTS(0.85%の塩化ナトリウム、1%のTween(登録商標)20、及び0.4%のチオグリコール酸ナトリウム)溶液中で撹拌することにより、包帯中に生存している微生物が回収された。溶液中の微生物はプレートカウンティングにより数えられ、ログリダクション(log reduction)が計算された。結果は、試験された銀被覆アルギネート包帯は2時間のテスト期間中に6.2のログリダクションを引き起こしたことを示した。これにより、銀被覆アルギネート包帯の優れた微生物殺傷力が実証された。
【0068】
2.4 生体吸収の証拠
銀被覆されたKaltostat包帯及び非被覆のコントロール(3つの1インチ四方の片)が試験前に秤量された。次に、包帯は30mlの牛胎児血清(Gibco/BRL, Life Technologies社、Ontario, Canada)を含むペトリ皿に載置され、3日間インキュベートされた。包帯は60℃のオーブン中で一晩乾燥され、再度秤量された。皿内で分解が視認されたものの、後の重量の方が前の重量よりも高かった。これは、包帯が多くの水を吸収してゲルを形成したからであった。この理由により、相対重量が計算された。結果は、非被覆のKaltostat包帯と、銀被覆された包帯とのそれぞれについて1.69±0.18及び1.74±0.12であった。この差異は統計的に有意ではなかった。
【0069】
実施例3−両面被覆されたアルギネート傷包帯

3.1 生体吸収性材料
棒針状のアルギン酸カルシウム織物がAcordis Specialty Fibers社(Coventry, UK)から購入された。
【0070】
3.2 スパッタリング条件
織物は両面をスパッタリングされ、各面がそれぞれ2回処理されて合計4回処理された。下記の条件下で織物を被覆するためにWestaim Biomedical TMRCユニットが使用された。
ターゲット 99.99% Ag
ターゲットサイズ 15.24cm×152.4cm
作用ガス 80/20wt% Ar/O ベース被覆
作用ガス 100/0wt% Ar/O トップ被覆
作用ガス圧 40mTorr
全電流 1回目及び2回目の処理は81A
3回目及び4回目の処理は17A
ベース圧 5.0×10−6Torr
ウェブ速度 230mm/分 ベース被覆
673mm/分 トップ被覆
電圧 430V ベース被覆
300V トップ被覆
【0071】
3.3 生体分解の証拠
両面被覆アルギネート傷包帯の水性溶液中の分解が当該溶液の粘度の増大を引き起こした。下記のテストでは、インビトロでの生体分解の指標として、粘度の増大を監視した。銀被覆アルギネート包帯と非被覆コントロールアルギネート包帯が2”×2”ピースに切断された。各包帯の4ピース(全部で16平方インチ)はは80mlのリン酸緩衝食塩水を含むビーカー中に載置された。ビーカーは揺動インキュベーター中で37℃±1℃、そして、120±5rpmで48±2時間インキュベートされた。10秒間激しく撹拌後、溶液は取り出されて粘度分析された。使用された測定システムは、0〜2500l/sの専断速度範囲でのZ1 DINであった。
【0072】
60秒のインターバルで30のデータポイントが収集された。結果は、X軸に専断速度、Y軸に粘度をとるチャートとして報告・観察された。溶液粘度が1000l/sの専断速度後に安定化する傾向があるので1400、1600、1800l/sの3つの粘度が溶液の粘度を得るために平均化された。このデータは、銀被覆アルギネート包帯が3.1cPの平均粘度を生成する一方で、コントロールのアルギネート包帯も3.0cPの平均粘度を生成することを示した。これらの結果は、両方のアルギネート包帯が非常に類似した分解速度を有しており、したがって、銀被覆がアルギネート材料の分解に有意な影響を与えないことを示している。
【0073】
実施例4−銀被覆キトサン粉体

4.1 生体吸収性材料
キトサンは天然多糖のキチンの部分脱アセチル化物である。それは、リゾチームにより分解され、体内に吸収されることができる。幾つかの研究はキトサンがラットや犬等の小動物で傷の回復を促進することを示している(Shigemasa Y. et al., Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 1995; 13:383-420)。被覆に使用された材料は微細なクリーム色のキトサン粉体であり、ICN Biomedicals社(Aurora, Ohio, USA)から購入された。
【0074】
4.2 スパッタリング条件
キトサン粉体は、下記の条件のマグネトロンスパッタリングにより被覆された。
ターゲット 99.99% Ag
ターゲットサイズ 20.3cm 直径
作用ガス 80/20 wt% Ar/O
作用ガス圧 30mTorr
電力 0.2kW
基体温度 20℃
ベース圧 6.0×10−6Torr
アノード/カソード距離 100mm
スパッタリング時間/膜厚 10分
電圧 409V
【0075】
実施例1と同様に、これらの被覆条件は銀の不連続被覆を生成し、当該被覆は400〜500nm厚と評価された。一方の面のみが処理された。
【0076】
4.3 微生物殺傷力試験
ここでの試験は、材料の抗菌能力を実証するために実施例2でアルギネート包帯に使用されたテストと類似していた。銀被覆されたキトサン粉体試料が0.3mlのTBS中で育成したPseudomonas aeruginosa (10セル/ml)と混合され、37℃で30分又は2時間インキュベートされた。銀活性は2.7mlのSTS溶液を添加することにより停止された。標準的なプレートカウント技術により生存微生物数が決定された。結果は、30分と2時間の両者の場合に、銀被覆されたキトサン粉体が生存微生物を検出不可能な数まで減少させたことを示した。
【0077】
実施例5−X線回折及び残留電位測定
結晶サイズ及び残留電位を測定するために、本発明の抗菌性被覆の試料がガラス基板上に調製された。スパッタリング条件は下記表2に記載のとおりである。この条件は実施例1及び2のものと類似していたが、表2のように、作用ガス中の酸素含量を変えた。純粋な銀の比較被覆も調製(すなわち100%Arのスパッタリング)された。スパッタされたフィルムは次に結晶サイズを決定するために、並びに、AgO(111)に沿って酸化銀を評価するために、Ag(111)線に沿って銀を測定して、X線回折により分析された。また、このフィルムは残留電位又は開路電位(OCP)を決定するために電気化学的に試験された。後者の試験はフィルム中の高酸素含量を確認するために行われた。残留電位には2つの方法で求められた。一方は0.15MのKOH溶液中での15分間の測定であり、他方は0.15MのNaCO溶液中での20分間の測定であった。両者とも、飽和カロメル電極(SCE)に対するものであった。結果を表3に示す。
【0078】
表2 試料のスパッタリング条件
【表2】

【0079】
表3 表2のスパッタリング条件下での試料の残留電位
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
本願で言及された全ての刊行物は本発明の属する技術分野の技術水準を示すものである。全ての刊行物はここに参照として組み込まれるが、それは個々の刊行物が具体的に且つ個々に示される場合にそれがここに参照として組み込まれることを意味している。
【0082】
本発明は上記において例証及び例示のために幾分詳細に記述されたが、特許請求の範囲に定義された本発明の精神の範囲から離れない限り、明確性及び理解のために、所定の変更及び修正が行われてもよいことが理解されるべきであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料であって
生体吸収性基体、及び、
前記生体吸収性基体と結合した、十分な原子異常を特徴とする結晶形態の1以上の抗菌性金属
を含み、
前記材料がアルコール又は水性電解液と接触すると、局在化された抗菌効果を提供するのに十分な濃度で少なくとも1つの抗菌性金属の原子、イオン、分子又はクラスターを放出し、
分離中に形成される1以上の前記抗菌性金属の粒子が、有害な免疫反応又は毒性を回避する大きさとなるように、1以上の前記抗菌性金属が前記生体吸収性基体と結合している、
生体吸収性材料。

【公開番号】特開2012−210480(P2012−210480A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171841(P2012−171841)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【分割の表示】特願2001−578014(P2001−578014)の分割
【原出願日】平成13年4月17日(2001.4.17)
【出願人】(510152530)スミス・アンド・ネフュー(オーバーシーズ)・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】