説明

抗2−O−脱硫酸化アカラン硫酸抗体とその応用

【課題】 2−O−脱硫酸化アカラン硫酸に対して反応する抗体及びこれを産生するハイブリドーマ、並びに上記抗体を応用した検出方法及び検出キットを提供すること。
【解決手段】 タンパク質と2−O−脱硫酸化アカラン硫酸とを化学的に結合させてなる物質を抗原として哺乳動物を免疫することにより、2−O脱硫酸化アカラン硫酸に対して反応する抗体を産生させること等。独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおける受託番号が、FERM P-20828であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を提供すること等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗2−O−脱硫酸化アカラン硫酸抗体とその応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願書類中で使用する略号を以下に示す。
GAG:グリコサミノグリカン
HA:ヒアルロン酸
HEP:ヘパリン
HS:ヘパラン硫酸
EHS−HS:マウスのエンジェルブレス−ホーム−スワーン腫瘍組織(Engelbreth−Holm−Swarm sarcoma)由来のHS
Bi−GAG:ビオチン標識GAG
Bi−HEP誘導体:ビオチン標識HEP誘導体
GlcNS:N−硫酸化グルコサミン
GlcNAc:N−アセチルグルコサミン
IdoA:イズロン酸
IdoA(2S):2−O−硫酸化イズロン酸

NAH:N−アセチルヘパロザン

ACH:2−O−脱硫酸化AS
Bi−ACH:ビオチン標識ACH
RA−ACH:還元アミノ化ACH
PDP−ACH:2−ピリジルジスルフィドプロピオニル化ACH
SH−ACH:チオプロピオニル化ACH

AS:アカラン硫酸

NH2−HEP:N−脱硫酸化HEP
NAc−HEP:N−アセチル化−HEP

2DSH;2−O−脱硫酸化HEP
NH2−6SH:(2−O・N)−脱硫酸化HEP
6SH:(2−O・N)−脱硫酸化・N−アセチル化HEP

6DSH:6−O−脱硫酸化HEP
NAc−6DSH:N−アセチル化6DSH
NSH:(2−O・6−O)−脱硫酸化HEP
NAc−NSH;N-アセチル化NSH
NH2−2SH:(6−O・N)−脱硫酸化HEP
2SH:(6−O・N)−脱硫酸化・N−アセチル化HEP

NH2−CDSH:完全脱硫酸化HEP
CDSH:完全脱硫酸化・N−アセチル化HEP
Ch;コンドロイチン
CS:コンドロイチン硫酸
CS−A(W);クジラ由来コンドロイチン硫酸A
CS−A(S);サメ由来コンドロイチン硫酸A
CS−B;コンドロイチン硫酸B
CS−C;コンドロイチン硫酸C
CS−D;コンドロイチン硫酸D
CS−E;コンドロイチン硫酸E

KS:ケラタン硫酸

HRP:ホースラディッシュペルオキシダーゼ

BSA:ウシ血清アルブミン
KLH:ヘモシアニン
PDP−KLH:2−ピリジルジスルフィドプロピオニル化KLH

TMB:テトラメチルベンジジン
SPDP:N−スクシンイミジル−3−[2−ピリジルジチオ]プロピオン酸
EDC:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
ELISA法:酵素標識抗体測定法

ASは、アフリカマイマイ(学名:Achatina fulica)から単離されたGAGの一種として知られている(非特許文献1)。ACHは公知の方法に従って、ASを化学的に脱硫酸化することによって調製される(非特許文献2)。ASに反応する抗体としては、MW3G3が知られている(非特許文献3)。しかしながら、ACHに反応する抗体は知られていない。
【0003】
【非特許文献1】ヨン S.キム(Yeong S. Kim)ら、ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー、(米国)、1996年、第271巻、第20号、p.11750−11755
【非特許文献2】M.イシハラ(M. Ishihara)ら、ザ・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー、1997年、第121巻、第2号、p.345−349
【非特許文献3】ジェディー B.テン ダン(Gerdy B. ten Dam)ら、ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー、(米国)、2004年、第279巻、p.38346−38352
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ACHに対して反応する抗体及びこれを産生するハイブリドーマ、並びに上記抗体を応用した検出方法及び検出キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を鑑み鋭意検討を重ねた結果、タンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質を抗原として用いることにより、ACHに対して反応する抗体を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の通りである。

(1)ACHに対して反応する抗体(以下、「本発明抗体」という)。
(2)ASに対して実質的に反応しない、上記(1)に記載の抗体。
(3)NAHに対して実質的に反応しない、上記(1)又は(2)に記載の抗体。
(4)ブタ腸由来のHEPに対して実質的に反応しない、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の抗体。
(5)ウシ腎臓由来のHSに対して実質的に反応しない、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の抗体。
(6)EHS−HSに対して実質的に反応しない、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の抗体。
(7)モノクローナル抗体である、上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の抗体。
(8)タンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質を抗原として免疫した哺乳動物由来のリンパ球と、哺乳動物由来のミエローマ細胞との細胞融合により形成されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体である、上記(7)に記載の抗体。
(9)リンパ球及びミエローマ細胞がマウス由来である、上記(8)に記載の抗体。
(10)免疫グロブリンクラスがIgMである、上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の抗体。
(11)独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおける受託番号が、FERM P-20828であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体。
(12)タンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質であって、ACHに対して反応する抗体を産生させ得る抗原性を有する物質(以下、「本発明抗原」という)。
(13)タンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質を抗原として免疫した哺乳動物由来のリンパ球と哺乳動物由来のミエローマ細胞との細胞融合により形成されるハイブリドーマ(以下、「本発明ハイブリドーマ」という)。
(14)リンパ球及びミエローマ細胞がマウス由来である、上記(13)に記載のハイブリドーマ。
(15)独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおける受託番号が、FERM P-20828であるハイブリドーマ。
(16)上記(1)〜(11)のいずれか1つに記載の抗体を試料に接触させる工程を少なくとも含むことを特徴とする、当該試料中に存在するACHの検出方法(以下、「本発明ACH検出方法」という)。
(17)試料が、体液、細胞、組織、又は、細胞若しくは微生物の培養物から選択されるものに由来する、上記(16)に記載の検出方法。
(18)上記(1)〜(11)のいずれか1つに記載の抗体を少なくとも含む、試料中に存在するACHの検出キット(以下、「本発明ACH検出キット」という)。
(19)試料が、体液、細胞、組織、又は、細胞若しくは微生物の培養物から選択されるものに由来する、上記(18)に記載の検出キット。
【発明の効果】
【0006】
本発明抗体は、ACHに対して反応するため、ACHの検出に好適に用いることができる。また、本発明抗体は、ACHの特異的な検出にも応用することができる。また、本発明抗原及び本発明ハイブリドーマを用いることにより、本発明抗体を効率的に産生させることができる。また、本発明ACH検出方法により、ACHを効率的に検出することができる。また、本発明ACH検出キットを用いることにより、本発明ACH検出方法によるACHの検出をより効率的且つ簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<1>本発明抗体
本発明抗体は、ACHに対して反応する抗体である。
【0008】
ACHは、N−アセチルグルコサミンとイズロン酸とからなる二糖(−[IdoA−GlcNAc]−)の繰り返し構造を基本糖鎖構造として有する多糖である。ACHは、アフリカマイマイ(学名:Achatina fulica)を原料としてASを調製し、このASのイズロン酸残基の2位の硫酸基を、公知の方法に従って脱硫酸化することにより調製することができる。より具体的な調製方法としては、後述する実施例1を参照されたい。
【0009】
上記において「反応」とは、免疫学的反応又は抗原抗体反応を意味し、この反応性は例えば、ELISA法、RIA法、プラーク法、凝集反応法、フローサイトメトリー法、組織染色法、ウェスタンブロッティング法などによって調べることができる。例えば、一定濃度の抗体を用いてELISA法を行ったときに、抗原の濃度の増加に比例して反応シグナルが増強される場合に、該抗体は該抗原に反応するということができる。ただし本明細書に記載する、抗原に対する本発明抗体の反応性は、特に断りのない場合、後述する実施例5に記載の方法(抗原濃度:0.1 μg/ウェル)により測定される、本発明抗体のACHに対する反応性を100%とした場合における、相対的な反応性を意味する。
【0010】
本発明抗体は、ACHに対して反応する抗体である限りにおいて特に限定されないが、なかでも、ASに対して実質的に反応しない抗体は好ましく、また、NAHに対して実質的に反応しない抗体も好ましく、ブタ腸由来のHEPに対して実質的に反応しない抗体も好ましく、ウシ腎臓由来のHSに対して実質的に反応しない抗体も好ましく、EHS−HSに対して実質的に反応しない抗体も好ましい。このような抗体のなかでも、ACHに対して反応し、且つAS、NAH、ブタ腸由来のHEP、ウシ腎臓由来のHS及びEHS−HSのいずれに対しても実質的に反応しない抗体はより好ましい。
【0011】
また本発明抗体は、下記のHEP誘導体群から選択される1又は2以上のHEP誘導体に対して実質的に反応しないことが好ましい;
HEP誘導体群;NH2−HEP、NAc−HEP、6DSH、NAc−6DSH、NH2−6SH、NH2−2SH、NSH、NH2−CDSH。なかでも、上記のいずれのHEP誘導体に対しても実質的に反応しないことがより好ましい。
【0012】
なお、本明細書において、「実質的に反応しない」とは、抗体と抗原との反応性が、後述する実施例5に記載の方法(抗原濃度:0.1 μg/ウェル)で測定を行った場合、反応シグナルを与えないか、極めて弱い反応シグナルしか与えない程度であることを意味するが、本明細書においては、例えば5%程度以下の反応性がある場合についても、反応シグナルを与えない程度であると解されるものとする。
【0013】
また本発明抗体は、CDSHに対して反応することが好ましい。
【0014】
なお、上記の各種GAG及び各種HEP誘導体は、後述する実施例に記載の方法により、入手又は調製することができる。
【0015】
本発明抗体のエピトープは特に限定されないが、イズロン酸ユニット(−[IdoA−GlcNAc]−)により構成されることが好ましい。
【0016】
本発明抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることがより好ましい。また、モノクローナル抗体はそのフラグメントであってもよい。モノクローナル抗体のフラグメントとしては、例えば、F(ab’)2化抗体、Fab化抗体、短鎖抗体(scFv)、ダイアボディ(Diabodies)及びミニボディ(Minibodies)などが挙げられる。
【0017】
本発明抗体がモノクローナル抗体である場合、本発明抗体は、例えば、タンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質を抗原として免疫した哺乳動物由来のリンパ球と、哺乳動物由来のミエローマ細胞との細胞融合により形成されるハイブリドーマにより産生させることができる。
【0018】
また本発明抗体がポリクローナル抗体である場合、本発明抗体は、例えば、タンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質を抗原として免疫した哺乳動物の血清から得ることができる。
【0019】
タンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質における「タンパク質」としては、例えばBSA及びKLHが例示されるが、なかでもKLHが好ましい。
【0020】
また、上記においてタンパク質とACHとを化学的に結合させる方法としては、化学的な結合の様式は特に限定されないが、共有結合が好ましく、ジスルフィド結合(以下、「−SS−」と表記することがある)がより好ましい。ジスルフィド結合により化学的に結合する方法としては、例えば以下の方法を採用することができる。すなわち、ACHを還元アミノ化し、これと5mM SPDPを反応させて、2−ピリジルジチオプロピニル化ACHを得る。これをジチオスレイトール等の還元剤で還元し、チオール化ACHを得る。同様に、タンパク質とSPDPを反応させ、2−ピリジルジチオプロピニル化タンパク質を得る。次に、チオール化ACH溶液と2−ピリジルジチオプロピニル化タンパク質溶液を混合することによって、ACHとタンパク質との間にジスルフィド結合を生成させ、ACH−SS−タンパク質を得る。
【0021】
また、上記のリンパ球及びミエローマ細胞の由来は、哺乳動物由来である限りにおいて特に限定されず、哺乳動物としては、例えばブタ、ウシ、マウス、ラット等が例示されるが、なかでもマウスが好ましい。
【0022】
また、上記において免疫は、例えば上記方法により調製した抗原を哺乳動物に皮下注射することにより行うことができる。注射方法はこれに限らず、腹腔内注射、静脈注射でも良い。通常、免疫は数回に分けて行うが、免疫はアジュバントと共に投与することが好ましい。アジュバンとしては、ミョウバン、結核死菌、核酸、完全フロインドアジュバント、不完全フロイントアジュバント等、アジュバント効果が期待できるもので有れば良いが、特に、TiterMAX Gold(シグマ社製)が良い。
【0023】
また、上記の細胞融合は、例えば、マウスを最終免疫した後に、当該マウスのリンパ節或は脾臓から得られるリンパ球と、ミエローマ細胞等の腫瘍細胞株の細胞(通常、マウスのBALB/c 由来のP3 -NS-1/1-Ag4-1、P3 -X63-Ag8-U1(P3 U1)、P3 -X63-Ag8-653、SP2/0-Ag14 等)を用いて、公知の方法により行うことができる。
【0024】
また、上記のハイブリドーマは、例えば下記に例示する方法により選択と単クローン化を行うことにより得ることができる。すなわち、ハイブリドーマの増殖の盛んな細胞培養上清から種々の分析法(例えばRIA法、プラーク法、凝集反応法、ELISA法、フローサイトメトリー法、組織染色法、ウェスタンブロッティング法 等)でACHに対して反応する目的の抗体を産生するハイブリドーマを選択し、次に、得られたハイブリドーマについてクローニングを行う。クローニングの方法としてはFACS(Fluorescent Activated Cell Sorter )もしくは、一般によく用いられる限界希釈法等が挙げられる。例えば、限界希釈法では96ウェルプレートの1ウェルあたり細胞が1個以下になるように行うことが好ましい。どの方法を用いてもクローニングは2回繰返し行うことが好ましく、単一クローンとすることが好ましい。
【0025】
このようにして得られた単一クローンを、例えばin vitro で培養する方法、in vivo で培養(腹水化)する方法等により培養することにより、モノクロナール抗体を産生させることができる。また得られた培養液から、例えば塩析、イオン交換、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動等、生化学的一般的手法を適宜組み合わせることにより、上記抗体を分離、精製することができる。
【0026】
本発明抗体の免疫グロブリンクラスは特に限定されないが、IgMであることが好ましい。
【0027】
なお、上記の本発明抗体の一例としては、例えば独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおける受託番号が、FERM P-20828であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体が挙げられる。

<2>本発明抗原
本発明抗原は、タンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質であって、ACHに対して反応する抗体を産生させ得る抗原性を有する物質である。
【0028】
上記の「タンパク質」、「ACH」なる用語、及びタンパク質とACHとを化学的に結合させる方法に関する説明については、上記<1>本発明抗体における説明を参照されたい。また、上記の「反応」は、上記<1>本発明抗体の場合と同様に、免疫学的反応又は抗原抗体反応を意味する。具体的な説明は上記<1>本発明抗体を参照されたい。
【0029】
また、ACHに対して反応する抗体を産生させ得る抗原性を有するか否かは、例えば上記<1>本発明抗体に記載の方法によりタンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質を用いて哺乳動物の免疫化を行い、免疫後の哺乳動物に由来する血清等の試料中に抗体が存在するか否かを、例えばRIA法、プラーク法、凝集反応法、ELISA法、フローサイトメトリー法、組織染色法、ウェスタンブロッティング法等の方法により確認することにより、判断することができる。
【0030】
上記のACHに対して反応する抗体は、本発明抗体であることが好ましい。したがって本発明抗原は、本発明抗体を生産する目的で使用することができる。このような場合、例えば<1>本発明抗体に記載した免疫において用いる抗原として、本発明抗原を用いることができる。より具体的には、後述する実施例を参照されたい。

<3>本発明ハイブリドーマ
本発明ハイブリドーマは、タンパク質とACHとを化学的に結合させてなる物質を抗原として免疫した哺乳動物由来のリンパ球と哺乳動物由来のミエローマ細胞との細胞融合により形成されるハイブリドーマである。
【0031】
上記の「タンパク質」、「ACH」なる用語、及びタンパク質とACHとを化学的に結合させる方法、「免疫」、「哺乳動物由来のリンパ球」、「哺乳動物由来のミエローマ細胞」、「細胞融合」、「ハイブリドーマ」に関する説明については、上記<1>本発明抗体における説明を参照されたい。
【0032】
なお、上記のような本発明ハイブリドーマの一例としては、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおける受託番号が、FERM P-20828であるハイブリドーマが挙げられる。
【0033】
本発明ハイブリドーマは、本発明抗体(好ましくは、モノクローナル抗体である本発明抗体)を生産する目的で使用することができる。ここで本発明抗体は、例えば本発明ハイブリドーマを、in vitro で培養する方法、in vivo で培養(腹水化)する方法等により培養することにより産生させることができる。より具体的には、後述する実施例を参照されたい。

<4>本発明検出方法
以下、本発明検出方法について説明する。
【0034】
本発明ACH検出方法は、本発明抗体を試料に接触させる工程を少なくとも含むことを特徴とする、当該試料中に存在するACHの検出方法である。
【0035】
上記の「試料」とは、ACHを含むか、含む可能性を有する試料であれば特に限定されないが、試料の由来となるものとしては、例えば尿、血液、血漿、血清、関節液、髄等の体液、分泌物、動物細胞若しくは植物細胞等の細胞、組織、臓器、又は細胞若しくは微生物の培養物(例えば培養上清等を含む)等が例示される。上記において、試料の由来が動物細胞である場合、好ましい動物細胞の一例としてはプルキンエ細胞が例示される。また試料の由来が組織である場合、好ましい組織の一例としては小脳が例示される。また、上記「由来」とは、上記に例示したものに由来する精製物、抽出物、標本等であってもよく、そのもの自体であってもよいことを意味する。
【0036】
本発明ACH検出方法において、試料中に存在するACHの検出における具体的方法としては、例えば組織標本を試料として用いる場合は通常の免疫組織染色法などを用いることができ、例えば体液又は培養上清等を試料として用いる場合はELISA法、RIA法、サンドイッチ法、競合法、プラーク法、凝集反応法、フローサイトメトリー法、ウェスタンブロッティング法などを用いることができる。
【0037】
上記のサンドイッチ法においては、例えば本発明抗体をプレート等に例示される固相に固着させて1次抗体として用いても良く、また、本発明抗体を標識して2次抗体として用いても良い。
【0038】
本発明ACH検出方法によれば、本発明の抗体の反応の反応性を利用することにより、試料中に存在するACHを好適に検出することができる。さらに本発明ACH検出方法は、<1>本発明抗体で述べた本発明抗体の各種抗原に対する特異的な反応性を利用することにより、ACHの特異的な検出に応用することができる。
【0039】
本発明ACH検出方法における検出は、定量的な検出であってもよく、定性的な検出であってもよい。定量的な検出である場合、試料中に存在するACH濃度は、例えば予め既知濃度のACH標準液を用いてACH濃度と検出結果との関係について検量線を作成し、ACH濃度が未知の試料についての検出結果と前記検量線とを照らし合わせることにより行うことができる。
【0040】
また、本発明検出方法は、本発明抗体を試料に接触させる工程を少なくとも含むことを特徴とする、当該試料中に存在する本発明抗体が反応する物質の検出方法を提供する。
【0041】
上記において、「試料」、検出における具体的方法、検出の種類等についての説明については、上記の本発明ACH検出方法における説明を参照されたい。また、上記「反応」は、免疫学的反応又は抗原抗体反応を意味するが、より具体的な説明については<1>本発明抗体における説明を参照されたい。

<5>本発明検出キット
以下、本発明検出キットについて説明する。
【0042】
本発明ACH検出キットは、本発明抗体を少なくとも含む、試料中に存在するACHの検出キットである。本発明の検出キットによれば、本発明検出方法をより効率的に、且つ簡便に行うことができる。上記において、「本発明抗体を少なくとも含むキット」としては、例えば本発明抗体そのもの(例えば、溶液に溶解した本発明抗体等も含む)を構成成分として含むキット、本発明抗体を固着させた固相を構成成分として含むキット、酵素等により標識した本発明抗体を構成成分として含むキット等が例示される。また、上記の「試料」なる用語については、上記<4>本発明検出方法で説明した通りである。
【0043】
また本発明ACH検出キットの構成成分には、本発明抗体に加えて、例えば1次抗体、2次抗体、反応バッファー、洗浄液、反応基質、ACH標準液などを含むものであってもよい。
【0044】
また、本発明検出キットは、本発明抗体を少なくとも含む、試料中に存在する本発明抗体が反応する物質の検出キットを提供する。
【0045】
上記において、「本発明抗体を少なくとも含むキット」に関する具体的説明は、上記本発明ACH検出キットにおける説明を参照されたい。
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に詳説する。
【実施例1】
【0047】
(参考例1) AS及びACHの調製
ASは、ヨン S.キム(Yeong S. Kim)らの方法(前記の非特許文献1に記載された方法)に従って、アフリカマイマイ(学名:Achatina fulica)から調製した。得られたASを原料として、M.イシハラらの方法(前記の非特許文献2に記載された方法)に記載の方法に従ってACHを調製した。

(参考例2) PDP−KLHの調製
KLHへの2−ピリジルジスルフィド構造の導入は、カールソン J.(Carlsson, Jan)らの方法(バイオケミカル・ジャーナル、1978年、第173巻、第3号、p.723−737に記載の方法)に従って行った。
【0048】
すなわち、0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.5)/0.1M NaClに、終濃度が2.5mg/mlになるようにKLH(シグマ社製) 60mgを溶解した。この溶液に、終濃度が0.238mMになるように5mM SPDP(シグマ社製))エタノール溶液を添加・混合し、30分間室温に保持した。過剰のSPDPを除去するために蒸留水に対して透析した後に、混合液を凍結乾燥し、PDP−KLH 59.4mgを得た。

(参考例3) ウロン酸を介したACH−BSAコンジュゲートの調製
ACH及びBSA(バイエル社製)を、それぞれ0.1M MES緩衝液(pH5.5)に、終濃度が10mg/mlになるように溶解し、ACH溶液及びBSA溶液を得た。ACH溶液 300 μlとBSA溶液 150 μlとを混合し、EDC(PIERCE社製) 400 μgを添加した後、撹拌しながら20時間室温に保持した。得られた反応後の溶液は、蒸留水に対して一晩透析した後、凍結乾燥し、ウロン酸を介したACH−BSAコンジュゲート 3.5mgを得た。

(参考例4) Bi−GAG及びBi−HEP誘導体の調製
ASおよび、ACHは参考例1で調製したものを使用した。ブタ皮由来のHA(以下、単に「HA」と記載する)、CS−A(W)、CS−A(S)、CS−B、CS−C、CS−D、CS−E、ウシ腎臓由来のHS(以下、単に「HS」と記載する)、及びウシ角膜由来のKS(以下、単に「KS」と記載する))は、生化学工業株式会社製のものを使用した。NAHは特開2004-18840に記載の方法に従って、大腸菌K5の培養物から調製した。ブタ腸由来のHEP(以下、実施例において単に「HEP」と記載する)は、サイエンティフィックプロテインラボラトリーズ社から購入した。また、EHS−HSは、特公平7−53756号公報に記載の方法により調製した。
【0049】
また、各種HEP誘導体(NH−HEP、NAc−HEP、6DSH、NAc−6DSH、NH−6SH、6SH、NH−2SH、2SH、NSH、NAc−NSH、NH−CDSH、CDSH)は、図1に示す方法で、各種脱硫酸化反応及び/又はN−アセチル化反応を、単独で、又は組み合わせて用いることにより調製した。図中、HEPの6−O、2−O、およびN−脱硫酸化はそれぞれ、高野ら、苅谷ら、Ayotte,L.らの方法に従った(Takano,R.etal.,J.Carbohydr.Chem.14,885(1995),Takano, R.et al., Carbohydr. Lett. 3, 71(1998), Kariya, Y. et al., J. Biochem., 123, 240(1998), Ayotte, L. et al., Carbohydr. Res., 145, 267(1986))。
【0050】
また、N−アセチル化は、Danishefsky, I.らの方法に従った。(Danishefsky, I. et al., Methods Carbohydr. Res., 5, 407(1965))。
【0051】
高野らの方法に従って6−O−脱硫酸化を実施すると、副反応として若干のN−脱硫酸化も起きるので、得られた6DSHとNSHの一部はN−アセチル化を行い、NAc−6DSHとNAc−NSHを調製した。
【0052】
上記の各種GAG及び各種HEP誘導体、並びに参考例1で調製したAS及びACHを、それぞれ終濃度が10mg/mlになるように0.1M MES緩衝液(pH5.5)に溶解し、各種GAG溶液及び各種HEP誘導体溶液を得た。これらの各種GAG溶液及び各種HEP誘導体溶液 各 1mlに対して、ジメチルスルホキシド(和光純薬工業社製)で20mMに調製したビオチン-LC-ヒドラジド(PIERCE社製)を、それぞれ25μlずつ添加した。続いて、0.1M MES緩衝液(pH5.5)で100mg/mlに調製したEDC溶液を12.5μl添加した。これをよく撹拌した後、室温(15℃〜25℃)で20時間撹拌して反応させた。反応終了後の反応物を、透析膜としてCellu Sep H1(フナコシ社製、カットオフ;分子量1,000以下)を、透析液としてダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(pH7.2〜7.5、カルシウムイオン等の2価イオン不含:以下、「PBS(−)」という)をそれぞれ用いて透析に付し、遊離のビオチンを充分に除去し、各種Bi−GAG及び各種Bi−HEP誘導体を得た。透析終了後、Bi−GAG濃度又はBi−HEP誘導体をそれぞれ5mg/ml に調整し、凍結保存した。

(参考例5) ストレプトアビジン固相化マイクロプレートの作製
ストレプトアビジン(Vector社製)をPBS(−)で20μg/mlに希釈し、マキシソープ(登録商標) 96ウェルマイクロプレート(ヌンク社製)の各ウェルに50μlずつ加えた。このプレートを18時間、4℃で保存することにより、ストレプトアビジンをプレート上に均一に固相化した後、PBS(−)で2回洗浄した。続いて、ブロッキング剤としてApplieDuo(登録商標、生化学工業株式会社製)を用い、以下の方法によりストレプトアビジンでコーティングされていない部分をブロッキングした。すなわち、防腐剤として0.05%プロクリン300(登録商標、SUPELCO社製)を含むリン酸緩衝液(pH7.2〜7.5:以下、「PB」という)を用いて、ApplieDuo(登録商標)の5倍希釈液(以下、「ブロッキング液」という)を調製し、これを各ウェルに250μlずつ加え、室温で2時間静置した。静置後、ブロッキング液を充分に除去し、37℃で2時間乾燥させることにより、所望するストレプトアビジン固相化マイクロプレートを得た。得られたプレートは乾燥剤とともにアルミラミネート袋に封入し、冷蔵保存した。

(参考例6) 各種GAG固相化マイクロプレート及び各種HEP誘導体固相化マイクロプレートの作製
1) ACH固相化マイクロプレートの作製
参考例3で調製したACH-BSAコンジュゲート (50 ng)を、マキシソープ(登録商標) 96ウェルマイクロプレートに添加し、18時間、4℃に保持した後、防腐剤として0.05%プロクリン300(登録商標)を含むPBS(−)で4倍希釈したブロックエース(登録商標、大日本製薬社製)を用いてブロッキングした。1時間、室温で静置した後、所望のACH固相化マイクロプレートを得た。このACH固相化マイクロプレートは、後述する実施例3において血清中の抗体価の検証のために使用した。

2) 各種Bi−GAG固相化マイクロプレート及び各種Bi−HEP誘導体固相化マイクロプレートの作製
上記参考例4に記載の各種Bi−GAG及び各種Bi−HEP誘導体を、終濃度が1 μg/mlになるように、0.05%プロクリン300(登録商標)を含むPBS(−)で20倍希釈したApplieDuo(登録商標)溶液に溶解した(以下この溶液を、「各種Bi−GAG溶液」及び「各種Bi−HEP誘導体溶液」という)。参考例5で作製したストレプトアビジン固相化マイクロプレートの各ウェルを、300 μlの0.05%プロクリン300(登録商標)及び0.05%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを含むPBS(−)(以下、「洗浄緩衝液」と言う)で4回洗浄した。各種Bi−GAG溶液及び各種Bi−HEP誘導体溶液をそれぞれ100 μlずつ各ウェルに分注し、室温で30分間静置したのち、各ウェルを洗浄緩衝液で4回洗浄することにより、所望の各種Bi−GAG固相化マイクロプレート及び各種Bi−HEP誘導体固相化マイクロプレートを得た。これらのプレートは、後述する実施例3におけるクローニング、及び後述する実施例5における反応性試験において使用した。
【実施例2】
【0053】
ACH抗原の調製
【0054】
1) RA−ACHの調製
実施例1の参考例1で調製したACH 4.5mgを、2M 塩化アンモニウム水溶液 160μlに溶解した。この溶液に、シアノ水素化ホウ素ナトリウム12mgを添加し、70℃で2日間、還元アミノ化反応を行った。反応後の溶液に、シアノ水素ホウ素ナトリウム 5mgを添加し、さらに2日間、上記と同一の条件で反応を行った。反応後の溶液を氷浴中で冷却した後、酢酸 32μlを添加して反応を完全に停止させた。2倍量のエタノールを用いた溶媒沈殿法により、RA−ACHを回収した。得られた沈殿を、エタノール洗浄した後に凍結乾燥し、RA−ACHの凍結乾燥物 2.1mgを得た。

2) PDP−ACHの調製
上記1)で調製したRA−ACH 2.1mgを、0.1M食塩/0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5) 1mlに溶解した。この溶液に5mM SPDPエタノール溶液 80μlを添加した後、室温にて一晩静置し、2−ピリジルジスルフィドプロピオニル化反応(PDP反応)を行った。過剰のSPDPを除くために蒸留水を用いて透析を行った後、凍結乾燥し、PDP−ACHの凍結乾燥物 1.7mgを得た。

3) SH−ACHの調製
上記2)で調製したPDP−ACH 1.7mgを、0.1M食塩/0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5) 160μlに溶解した。この溶液に、終濃度が25mMになるようにジチオスレイトールを添加し、60分間室温にて還元反応を行った。2倍量のエタノールを用いた溶媒沈殿法でSH−ACHを回収した。得られた沈殿を、エタノール洗浄した後に凍結乾燥し、SH−ACHの凍結乾燥物 1.3mgを得た。

4) ジスルフィド結合を介したACH−KLHコンジュゲートの調製
上記3)で調製したSH−ACH 1.3mg及び参考例2で調製したPDP−KLH 0.65mgを、0.1M食塩/0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5) 1mlに溶解し、2時間室温にてコンジュゲーション反応を行った。反応中に生成されるピリジル−2−チオンを除くため、上記反応後の溶液を、蒸留水に対して一晩透析した後、凍結乾燥し、ACH−KLHコンジュゲートの凍結乾燥物1.5mgを得た。得られた凍結乾燥物は、後述する実施例3において、ACH抗原として用いた。
【実施例3】
【0055】
ACHに対して反応する抗体を生産するハイブリドーマ細胞株の樹立
【0056】
1) マウスの免疫化
上記実施例2の4)で得られたACH抗原 1 mgを少量の蒸留水に溶解し、これをTiterMAX Gold(登録商標、シグマ社製)2mlと混合し、抗原溶液を調製した。また、免疫する動物としては、4匹のBALB/Cマウス(6週齢のメス、日本チャールズリバー社製)を用いた。上記の抗原溶液 100μl/匹を、2週間毎に2又は3回皮下投与した。血清の抗体価が充分な値に達した時、最終免疫として、アジュバントを含まないACH抗原溶液 100μl/匹を投与した。最終免疫から3日後、免疫したマウスを安楽死させ、脾臓を摘出した。
【0057】
なお、上記において、血清中の抗体価の検証は、以下の方法により行った。すなわち、参考例6 1)で作製したACH固相化マイクロプレート及びアルカリホスファターゼ標識抗−マウスIgG+M+A抗体(以下、「ALP−抗マウスIg」という)を用い、ELISA法により血清中の抗体価を検証した。すなわち、PBS(−)で1000倍希釈した血清 50 μlをACH固相化マイクロプレートに分注し、37℃で1時間インキュベートした。続いて、PBS(−)で4回洗浄し、10% ブロックエース(登録商標)/PBS(−) で1000倍希釈したALP-抗マウスIg 溶液 50 μlを各ウェルに分注した。さらに、PBS(−)で4回洗浄した後、基質溶液(ALPローゼ, シノテスト社製) 50μlを各ウェルに分注し、20分間、室温にて静置した。さらに、発色試薬(シノテスト社製) 50μlを添加し、660nmをバックグラウンド補正として495nmの吸光度を測定した。

2)ハイブリドーマの創製
1)で摘出した脾臓から得られた免疫感作されたリンパ球と、マウスミエローマP3U1細胞(シマ研究所製)とを、4対1ないし5対1の混合比で混合した後、50%のポリエチレングリコール1500(ロシュ社製)中で共遠心分離することによって細胞融合を実施した。なお、上記の細胞融合に用いるミエローマ細胞には、細胞融合の1週間前より、8-アザグアニンを含んだHAT培地で生育させたものを用いた。細胞融合後、HAT培地中で細胞を生育させた細胞を、以下のクローンの選抜に用いた。

3)クローンの選抜及び評価
3−1) クローニング
クローニングには限界希釈法を採用した。すなわち、細胞数がウェル当り1以下になるようにHAT培地で細胞を希釈し、これを96ウェルマイクロプレートに播種した。これを常法に従って培養し、培養上清液を得た。培養上清液の抗体価の評価を、参考例6 2)で作製したBi−ACH固相化マイクロプレートを用いたELISA法により行い、クローンを選抜した。以上のクローンニングの工程は、少なくとも2回以上実行した。以上の結果として、1つのクローンを選抜し、取得した。

3−2) クローンの評価
上記3−1)で取得したクローンの活性が維持されていることを確認するため、当該クローンを24ウェルプレートの培養スケールにて培養し、得られた培養上清液の抗体価の評価を、参考例6 2)で作製したBi−ACH固相化マイクロプレート、及びHRP標識ヤギ抗マウス免疫グロブリン抗体(以下、「HRP抗マウスIg」と記載する、ダコ社製)を用いたELISA法により行った。以下に詳細を示す。
[クローンの抗体価の評価]
予め洗浄緩衝液によって4回洗浄したBi−ACH固相化マイクロプレートに、培養上清液 100μlを分注し、室温にて1時間静置した。さらに洗浄緩衝液で4回洗浄した後に、反応緩衝液(0.05%プロクリン300(登録商標)を含むPBS(−)で20倍に希釈したApplieDuo(登録商標)溶液)で2000倍に希釈したHRP抗マウスIg 100μlを、各ウェルに分注した。このプレートを室温にて1時間静置した後、洗浄緩衝液で4回洗浄し、TMB溶液(HRP基質溶液、BIOFX社製) 100μlを各ウェルに加え、30分間、37℃で酵素反応を行った。反応終了後、発色試薬(BIOFX社製) 100μlを各ウェルに添加し、630nmをバックグラウンド補正として、450nmの吸光度を測定した。なお、反応緩衝液をネガティブブランクとして用いた。その結果、当該クローンが抗ACH抗体を生産していることが確認された。樹立したハイブリドーマのクローン番号はACH55であったことから、このハイブリドーマによって産生される抗体を、ACH55抗体と名付けた。上記のハイブリドーマは、平成18年3月1日に、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受託番号としてFERM P-20828が付与された。常法に従って抗体の免疫グロブリンクラスを調べた結果、ACH55抗体の免疫グロブリンクラスはIgMであることを確認した。
【実施例4】
【0058】
抗ACHモノクローナル抗体の調製
【0059】
1) 抗ACHモノクローナル抗体の生産
目的の抗ACHモノクローナル抗体を生産する方法としては、マウス腹水法を採用した。すなわち、上記実施例3 3)で樹立したハイブリドーマ(クローン番号;ACH55) 5×106個を、予めプリスタン(2,6,10,14-Tetrametylpentadecane:東京化成工業)処理した3匹のBALB/Cマウス(15週齢の雌)の腹腔に注入した。注射後10〜20日の間に、マウスの腹水を数回に分けて採取し、合計約10mlの腹水を得た。

2) 抗ACHモノクローナル抗体の精製
上記1)で得た腹水を、吸着バッファ2(0.5M K2SO4を含む20mM リン酸緩衝液(pH 7.5))に対して一晩透析した。透析内液をメンブランフィルタ(孔径:0.45 μm)によって濾過し、得られた濾過液を、予め吸着バッファ1(20 mMリン酸緩衝液(pH 7.0))で平衡化したHiTrap IgY Purification HPカラム(5ml、アマシャム・バイオサイエンス社製)にアプライした後、吸着バッファ1でカラムを洗浄した。通過させた洗浄液の280nmの吸収がほぼ0になった時、20 mMリン酸緩衝液(pH 7.5)をカラムに通過させ、ACH55抗体を溶出した。溶出したACH55抗体をNH4SO4(50%の飽和)を用いて塩析することによって回収した。得られた沈澱物をPBS(−)に対して透析し、精製ACH55抗体 2.2mgを含む透析内液を得た。
【実施例5】
【0060】
反応性試験
【0061】
1) ACH55抗体の各種GAGに対する反応性
1)―1 方法
Bi−GAGの固相化量の異なるマイクロプレートを作製するために、Bi−GAG溶液中のBi−GAGの終濃度を、0.001, 0.004, 0.012, 0.037, 0.111, 0.333, 1.000 μg/mlと変化させた溶液を用いて、参考例6 2)と同様の方法でBi−GAG固相化マイクロプレートを作製した後、それぞれ洗浄緩衝液で4回洗浄した。その後各ウェルに、添加剤としてApplieDuo(登録商標。最終希釈率20倍、生化学工業株式会社製)、防腐剤として0.05%プロクリン300を含むPBS(−)(以下、「反応液A」という)を用いて0.06 μg/mlに調製したACH55抗体からなる各試験溶液を100μlずつ加え、これを常温で60分間静置し、抗原抗体反応させた。反応終了後、各ウェルを洗浄緩衝液で4回洗浄し、二次抗体溶液として、反応液Aで2000倍希釈したHRP抗マウスIg(ダコ社製)溶液を100μlずつ加え、これを常温で60分間静置して抗原抗体反応させた。反応終了後、このプレートを洗浄緩衝液で4回洗浄し、ペルオキシダーゼの基質としてTMB溶液(BIOFX社製)を100μlずつ 加え、常温で30分間反応させて発色させた。続いて、プレートに反応停止液(BIOFX社製)を100μlずつ 加えて反応を停止させた後、TMB分解によって増加する波長450nmの吸光度(対照波長630nm)をウェルリーダーSK−603(登録商標、生化学工業株式会社販売)で測定した。なお、抗体の反応性は、上記の各濃度のBi−GAGを用いて作製したBi−GAG固相化マイクロプレートを用いて上記測定を行った場合の吸光度から、Bi−GAG溶液の代わりにBi−GAGを含まない0.05%プロクリン300(登録商標)を含むPBS(−)で20倍希釈したApplieDuo(登録商標)溶液を用いることの他、参考例6 2)と同様の方法により作製したコントロール測定用マイクロプレートを用いて上記の測定方法に準じて測定を行った場合の吸光度(ブランク値)を減算した吸光度差(以下、単に「吸光度差」と記載する)によって評価した。

1)−2 結果
Bi−GAG固相化マイクロプレートのGAGとして、NAH、AS、ACH、HS、HEP及びEHS−HSを用いた場合の結果を、図2に示す。
【0062】
ACH55抗体は、ACHに対しては、Bi−ACH濃度を0.01μg/ mL(0.001 μg/ウェル)とした場合においても強く反応(吸光度差=約1.0)した一方で、AS、HEP、HS、NAH、及びEHS−HSに対しては、Bi−GAG濃度を1.0 μg/ mL(0.1 μg/ウェル)にまで上げた場合においても反応しなかった(図2)。
【0063】
また、ACH55抗体は上述したHEPの場合と同様に、HA、各種CS(CS−A(W), CS−A(S), CS−B, CS−C, CS−D, CS−E)、及びKSに対しても反応しなかった。

2) ACH55抗体の各種HEP誘導体に対する反応性
Bi−HEP誘導体固相化マイクロプレートを用い、各種HEP誘導体に対する反応性を評価した。HEP誘導体としては、NH2−HEP、NAc−HEP、6DSH、NAc−6DSH、NH2−6SH、6SH、NH2−2SH、2SH、NSH、NAc−NSH、NH2−CDSH及びCDSHを用いた。測定は、上記1)−1に記載の方法に準じて行ったが、この試験においては、固相化に用いるBi−HEP誘導体を含む溶液の濃度を1μg/mlに固定した(0.1 μg/ウェル)。結果を図3に示す。
【0064】
ACH55抗体は、CDSHに対しては強く反応し、また、2SH、6SHとNAc−NSHに対しては、極弱く反応した(図3)。
【0065】
ACH55抗体が強く反応したACHは、イズロン酸ユニット(−[IdoA−GlcNAc]−)を主な構成二糖としていることから、ACH55抗体のエピトープは、イズロン酸ユニットから構成されていると考えられる。また、当該抗体が反応しなかったNAHは、グルクロン酸ユニット(−[GlcA−GlcNAc]−)からなるACHのウロン酸C5−エピマーであることから、特にイズロン酸残基がACH55抗体の抗原認識において必須であることが示唆された。さらに、AS(イズロン酸残基の2位−水酸基が硫酸化されている)に対して反応性が見られないことから、イズロン酸の硫酸化(IdoA(2S))は、ACH55抗体の抗原に対する反応性を阻害することが示唆された。
【0066】
CDSHはグルクロン酸ユニット及びイズロン酸ユニットにより構成される多糖であり、イズロン酸ユニットの存在比は60%以上と高い。したがって、CDSHが当該抗体と反応した結果に矛盾は無い。また、この反応性はN−アセチルグルコサミン残基のN−脱アセチル化(NH−CDSH)、及びN−硫酸化(NSH)によって消失したので、グルコサミン残基のアミノ基がアセチル化されていることも、ACH55抗体の抗原の認識において重要であることが示唆された。
【0067】
ASと反応しない抗体が2SH、6SHやNAc−NSHと弱く反応した理由は、HEPがN−脱硫酸化、2−O脱硫酸化及び6−O脱硫酸化等、複数の修飾を経る過程で、イズロン酸ユニットがHEP誘導体中に顕在化したためと推察した。
【実施例6】
【0068】
組織染色
【0069】
ラット小脳凍結切片を用いて免疫組織染色における染色性を検討した。
【0070】
SDラット(日本チャールスリバー社、8週齢、雄)をジエチルエーテル(和光純薬工業社製)で麻酔し、腹部大動脈より放血、屠殺後、小脳を摘出した。摘出した小脳をOCTコンパウンド(三共マイルス社製)に包埋し、アセトン・ドライアイスで凍結させ、クリオスタット(ライカ社販売)にて厚さ6μmの切片を作製した。
【0071】
作製した切片を2時間常温にて風乾後、冷アセトン(4℃)で固定を行い、さらに常温で1時間風乾した。この後、0.1%BSAを含むPBS(−)で洗浄し、0.1%アジ化ナトリウム(和光純薬工業社製)−0.3%過酸化水素水(和光純薬工業社製)を含む蒸留水中に常温で10分間浸漬し、内因性のペルオキシダーゼ活性を除去した後、0.1%BSAを含むPBS(−)で洗浄し、0.1%BSA及び0.1%カゼイン(和光純薬工業社製)を含むPBS(−)でブロッキングを常温で60分間行った。
【0072】
0.1%BSAを含むPBS(−)で洗浄後、アビジン−ビオチンブロッキングキット(VECTOR社製)にて内因性のビオチンのブロッキングを行った。
【0073】
この後0.1%BSAを含むPBS(−)で洗浄した後、0.1%BSA及び0.1%カゼインを含むPBS(−)で1μg/mLに希釈したACH55抗体を4℃で一晩反応させた。0.1%BSAを含むPBS(−)で洗浄後、10%ラット血清を含むビオチン標識抗マウスIgG+IgM(JACKSON社製)を0.1%BSA及び0.1%カゼインを含むPBS(−)で500倍に希釈し、常温で30分間反応させた。0.1%BSAを含むPBS(−)で洗浄後、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(ニチレイ社製)を常温にて30分間反応させた。0.1%BSAを含むPBS(−)で洗浄後、DAB発色キット(Zymed社製)にて茶色の発色反応を行った。
【0074】
発色後、0.1%BSAを含むPBS(−)に浸漬し反応を停止させ、常水にて5分間洗浄した。この後、対比染色を行うためヘマトキシリン(DAKO社製)にて核染色(青色)を行った。常水にて5分間洗浄後、常法に従い脱水、透徹操作を行い封入した。
【0075】
得られた染色像を図4に示す。プルキンエ細胞に陽性反応が観察された(矢印)。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明抗体は、ACHの検出に好適に用いることができることから極めて有用である。また、本発明抗原及び本発明ハイブリドーマは、本発明抗体の効率的な生産のために用いることができることから極めて有用である。また、本発明ACH検出方法によれば、ACHを好適に検出することができることから極めて有用である。また、本発明検出キットは、これを用いることにより、本発明検出方法をより効率的且つ簡便に行うことを可能にすることから極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】各種HEP誘導体の製造方法の流れを示す図である。
【図2】ACH55抗体の各種GAGに対する反応性を示す図である。横軸のBi−GAG(μg/ml)は、Bi−GAG固相化プレートの作製において用いたBi−GAG溶液におけるBi−GAGの終濃度を示す。
【図3】ACH55抗体の各種HEP誘導体等に対する反応性を示す図である。
【図4】ACH55抗体を用いたラット小脳の組織染色の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−O−脱硫酸化アカラン硫酸に対して反応する抗体。
【請求項2】
アカラン硫酸に対して実質的に反応しない、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
N−アセチルヘパロザンに対して実質的に反応しない、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
ブタ腸由来のヘパリンに対して実質的に反応しない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
ウシ腎臓由来のヘパラン硫酸に対して実質的に反応しない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
マウスのエンジェルブレス-ホーム-スワーン腫瘍組織由来のヘパラン硫酸に対して実質的に反応しない、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
モノクローナル抗体である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項8】
タンパク質と2−O−脱硫酸化アカラン硫酸とを化学的に結合させてなる物質を抗原として免疫した哺乳動物由来のリンパ球と、哺乳動物由来のミエローマ細胞との細胞融合により形成されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体である、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
リンパ球及びミエローマ細胞がマウス由来である、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
免疫グロブリンクラスがIgMである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項11】
独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおける受託番号が、FERM P-20828であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体。
【請求項12】
タンパク質と2−O−脱硫酸化アカラン硫酸とを化学的に結合させてなる物質であって、2−O−脱硫酸化アカラン硫酸に対して反応する抗体を産生させ得る抗原性を有する物質。
【請求項13】
タンパク質と2−O−脱硫酸化アカラン硫酸とを化学的に結合させてなる物質を抗原として免疫した哺乳動物由来のリンパ球と哺乳動物由来のミエローマ細胞との細胞融合により形成されるハイブリドーマ。
【請求項14】
リンパ球及びミエローマ細胞がマウス由来である、請求項13に記載のハイブリドーマ。
【請求項15】
独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおける受託番号が、FERM P-20828であるハイブリドーマ。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の抗体を試料に接触させる工程を少なくとも含むことを特徴とする、当該試料中に存在する2−O−脱硫酸化アカラン硫酸の検出方法。
【請求項17】
試料が、体液、細胞、組織、又は、細胞若しくは微生物の培養物から選択されるものに由来する、請求項16に記載の検出方法。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の抗体を少なくとも含む、試料中に存在する2−O−脱硫酸化アカラン硫酸の検出キット。
【請求項19】
試料が、体液、細胞、組織、又は、細胞若しくは微生物の培養物から選択されるものに由来する、請求項18に記載の検出キット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−297336(P2007−297336A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127046(P2006−127046)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】