説明

抗DCDモノクローナル抗体

【課題】ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマおよび当該モノクローナル抗体の提供。
【解決手段】ヒトDCDを抗原として免疫された動物の脾臓細胞を用い、得られた抗体産生能を有するハイブリドーマをスクリーニングすることで、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を産生し得るハイブリドーマを樹立した。そしてこのハイブリドーマを培養することにより、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体の提供を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトダームシジン(dermcidin:以下、DCDとする)を認識するモノクローナル抗体、該モノクローナル抗体を産生するハイブリッド細胞、これらの製造方法および利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
DCDは、Birgit Shittekらによってヒト汗中から単離された110個のアミノ酸からなる抗菌ペプチドである(特許文献1、非特許文献1)。人間の汗と同じpH、同じ塩濃度という条件下において、大腸菌、腸球菌、黄色ブドウ球菌、カンジダに対して抗菌作用を発揮することが確認されており、ヒト汗中に恒常的に分泌されていることから、炎症時に皮膚に発現する他の抗菌ペプチド(β−デフェンシンやカテリシジン等)に比べて、皮膚の微生物の感染をコントロールしている可能性が高く、微生物・ウイルスが関わる皮膚疾患の発症に強く関連していると推測されている。
【0003】
また、アトピー性皮膚炎患者の汗中DCD量が健常人に比べて少ないことが報告されており(非特許文献2)、アトピー性皮膚炎における黄色ブドウ球菌による皮膚症状の悪化と関係がある可能性が示唆されている。さらに、汗中にはDCDの分解型のペプチドが数種存在し、分解型DCDの存在比に個人差があることが報告されており(非特許文献3)、分解型DCDの存在比が微生物の易感染性の個人差に影響を与えている可能性も考えられる。そこで、DCDの疾患への寄与度が明らかになれば、汗などの生体試料中のトータルDCD量または分解型DCD量を測定することで皮膚への微生物の易感染性を評価し、感染性疾患の予防や治療に生かすことができる可能性が考えられる。
【0004】
これまで生体試料中のDCDの測定には、SELDI−TOF−MS法が多く使われているが、この方法は正確な濃度を求めることが困難であった。生体試料中のDCD量を測定する方法としては、DCDに特異的なアミノ酸配列を認識する抗体を用いた免疫学的測定方法が簡便かつ正確である。免疫学的測定方法としては、酵素免疫測定法や、抗体を結合させたビーズを複数用いて一度に多くのパラメータを高感度に検査する方法(Bio−Plexサスペンションアレイシステム(BioRad社製)などを例示することができる)などを挙げることができる。特に、後者は、少量の検体量で多数のパラメータを検査することができる優れた方法であり、抗原認識性の異なった複数の抗体を用いて、分解型DCDの存在比を検査することも可能となる。
【0005】
抗DCD抗体としては、これまでの技術では、ポリクローナル抗体が多く市販されている。ポリクローナル抗体は抗原認識において特異性に問題が生じる場合があり、より正確なDCDの定量のためには、モノクローナル抗体の方が好ましい。モノクローナル抗体としては、和歌山県立医科大学の佐川らが作製したIgMクラスの抗DCDモノクローナル抗体(G−81)がある(非特許文献4)が、IgGクラスの抗体はまだ提供されていない。この理由は定かではないが、DCD自身の抗原性が非常に弱く、単なる免疫とハイブリドーマスクリーニング手法では、IgG抗体産生細胞を得ることができないと考えられている。しかし、IgGクラスの抗体の方が、一般的に特異性が高いものが多く、抗原の凝集や補体活性化の強さはIgMクラスの抗体の方が強い等の理由から、DCDをより正確に検出するためには、IgGクラスの抗体の方が好ましい。特に、上述した複数の抗体とビーズを用いて多数のパラメータを一度に解析する方法には、IgGクラスの抗体の使用が適しており、IgMクラスの抗体では、この手法の性能、利点を活かすことが全くできないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7348409号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Birgit Shittek et al. Nature Immunology, 2001, 2(12):1133−1137.
【非特許文献2】Siegbert Rieg et al. J.Invest.Dermatol.,2006,126:354−365.
【非特許文献3】Siegbert Rieg et al. J.Immunol.,2005,174:8003−8010.
【非特許文献4】Kazunori Sagawa et al. Int.J.Legal.Med.,2003,117:90−95.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマおよび当該モノクローナル抗体の提供を課題とする。また、この抗体を用いた生体試料中のDCDの検査方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ヒトDCDを大腸菌に組換え発現して大量に作製し、それを抗原として免疫された動物から得られた抗体産生細胞と、骨髄腫細胞を細胞融合法により融合し、目的とする反応性を有する抗体産生能を有するハイブリドーマをスクリーニングすることで、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を産生し得るハイブリドーマを樹立した。そしてこのハイブリドーマを培養することにより、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体が製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は次の(1)〜(10)のモノクローナル抗体等に関する。
(1)ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体。
(2)His−tag融合ヒトDCDを抗原として得られる上記(1)に記載のモノクローナル抗体。
(3)配列表配列番号2、3、6のペプチド配列と反応し、配列表配列番号4、5のペプチド配列と反応しない、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体。
(4)10C−3株(FERM AP−21792)が産生する上記(1)に記載のモノクローナル抗体。
(5)ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を産生し得るハイブリドーマ。
(6)上記(5)に記載のハイブリドーマである10C−3株(FERM AP−21792)。
(7)上記(5)または(6)に記載のハイブリドーマを用いることを特徴とする、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体の製造方法。
(8)上記(5)または(6)に記載のハイブリドーマを液体培地の中またはヒトを除く恒温動物(ハイブリドーマが免疫的に排除されない動物種)の腹腔内で増殖させ、モノクローナル抗体を生成、蓄積せしめ、これを採取することを特徴とするヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体の製造方法。
(9)上記(1)に記載のモノクローナル抗体を用いることを特徴とするヒトDCDの検査方法。
(10)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のモノクローナル抗体または標識したモノクローナル抗体を使用したヒトDCD検査キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ヒトDCDを高い感度で検出できるIgGクラスのモノクローナル抗体の提供が可能となった。本発明によって提供されるモノクローナル抗体は、汗等の生体試料に含まれるDCD量の測定等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】抗DCDモノクローナル抗体(10C−3抗体)の抗原認識特異性を確認した図である(実施例)。
【図2】抗DCDモノクローナル抗体(10C−3抗体)の汗中DCDへの反応性を確認示した図である(実施例)。
【図3】抗DCDモノクローナル抗体(10C−3抗体)を用いたDCDの定量方法における検量線を示した図である(実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の「モノクローナル抗体」は、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体であれば、いずれのモノクローナル抗体であってもよい。抗体分子全体のほかに、ヒトDCDを認識できる抗体のフラグメントであってもよい。
ここで、「ヒトDCDを認識する」とは、ヒトDCDを抗原としてヒトDCDに結合したり、結合することによって何らかの作用をしたりすることをいう。
抗原として認識されるヒトDCDは、ヒトDCD全体であってもよく、その一部であってもよい。
このような「モノクローナル抗体」としては、配列表配列番号2、3、6のペプチド配列と反応し、配列表配列番号4、5のペプチド配列と反応しない、ヒトDCDを認識するモノクローナル抗体や、10C−3株(FERM AP−21792)が産生するモノクローナル抗体等が挙げられる。10C−3株(FERM AP−21792)が産生するモノクローナル抗体は、IgGクラスのモノクローナル抗体であることから、IgMクラスの抗体と比較して特異性が高く、好ましい。DCDは立体構造をとらず、抗原認識性が低く、モノクローナル抗体を得ることが困難であることから、本発明の「モノクローナル抗体」は非常に有用である。
【0014】
本発明の「ハイブリドーマ」は、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を産生し得るハイブリドーマであれば、いずれのハイブリドーマであってもよい。このようなハイブリドーマとしては、10C−3株(FERM AP−21792)等が挙げられる。
本発明の「ハイブリドーマ」は、ヒトDCDを免疫抗原として用いることで、血清中の抗体価が十分に上昇したマウス、ラット等の脾臓から摘出した脾臓細胞と骨髄腫細胞等を融合し、融合細胞をHAT培地等で培養することで得ることが好ましい。ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を得るために、このマウス、ラット等への免疫は、血清中の抗体価を十分に上昇できる期間行うことが好ましい。
ハイブリドーマを得るための免疫抗原としては、ヒトDCDや、His−tag融合ヒトDCD等が挙げられる。
また、DCDの免疫原性(抗原性)は非常に弱いため、IgG抗体を産生するハイブリドーマは通常数のクローニングだけでは得ることができない。従って、DCD認識IgG抗体産生ハイブリドーマを得るためには、ハイブリドーマのスクリーニングにあたって、一般的に行われている1,000クローン程度の検査ではなく、少なくとも10,000クローン以上、好ましくは100,000クローン以上スクリーニングする必要がある。
【0015】
本発明の「モノクローナル抗体の製造方法」は、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を産生し得るハイブリドーマを用いる製造方法であればいずれの製造方法も含まれる。
例えば、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を産生し得るハイブリドーマを液体培地の中またはヒトを除く恒温動物の腹腔内で増殖させ、モノクローナル抗体を生成、蓄積せしめ、これを採取する方法等が挙げられる。ここで「ヒトを除く恒温動物」としては、ヒト以外の恒温動物でハイブリドーマを免疫的に排除しない動物種、例えば、ミエローマ細胞と同系のマウス、ヌードマウス、ヌードラット等が挙げられる。
【0016】
本発明の「ヒトDCDの検査方法」は、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を検査に用いる方法であれば、いずれの方法であってもよい。
例えば、本発明の検査方法において、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を用いて酵素免疫測定法を行うことにより、汗等の試料に含まれるヒトDCDの検出や定量等ができる。
また、本発明のヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体と、他の抗体とを組合せ、これらの抗体を結合させた複数のビーズを用いて一度に多くのパラメータを高感度に検査する方法(Bio−Plexサスペンションアレイシステム(BioRad社製)等)等を行うこともできる。この方法では、抗原認識性の異なった複数の抗体を用いることになるので、分解型DCDの存在比を検査することもできる。
【0017】
本発明の「検査キット」は、ヒトDCDを検査するためのキットのことをいい、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を使用したキットであれば、いずれのキットであってもよい。例えば、ヒトDCDを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体と、標準試料である精製ヒトDCDとを組み合わせて使用したキット等が挙げられる。このキットに含まれるモノクローナル抗体は、ヒトDCDの検出や定量のために、標識されている抗体であることが好ましい。例えば、アルカリフォスファターゼ等で標識された抗体等が挙げられる。この抗体の標識物質は従来知られているものであればいずれのものを用いることもできる。
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
DCDモノクローナル抗体の製造方法
1.抗原タンパクの作製
免疫抗原として、大腸菌において組換え発現させた約16kDaのポリヒスチジン(以下、His−tagと略す)とDCDの融合タンパクを用いた。
組換え発現の手法は一般的な手法を用いた。すなわち、ヒト皮膚組織から抽出したトータルRNAにランダムプライマー(GEヘルスケアサイエンス社製)を用いた逆転写酵素反応を行い、cDNAを作製した。
得られたcDNAをTAクローニングによって市販のプラスミドベクターであるpGEM T Easy Vector(Promega社製)に挿入し安定化した。このDCD挿入pGEM T Easy Vectorを鋳型にして、ヒトDCDのcDNA配列からシグナルシークエンス領域を除いた配列(配列表配列番号1)をPCR法により増幅し、市販のプラスミドベクターであるpET28(Novagen社製)のマルチクローニングサイトに挿入することで、DCD/pET28プラスミドベクターを作製した。
【0019】
このDCD/pET28プラスミドベクターを大腸菌(BL21(DE3)株)にトランスフォーメーションし、カナマイシン含有寒天培地上にコロニー形成させた。1個のコロニーを採取しカナマイシン含有培地中にて振とう培養し、対数増殖期にイソプロピル−β−チオガラクトピラノシドを添加することにより組換えタンパクの発現を誘導した。
遠沈した大腸菌をグアニジン塩酸塩含有トリス塩酸バッファーにより溶解した。溶解液を、Ni−NTAアガロース(QIAGEN社製)を用いて固定化金属アフィニティークロマトグラフィー法により精製した後、透析によりグアニジン濃度を徐々に下げて巻き戻しを行い、ポリヒスチジン融合タンパクを得た。ここで、目的物のHis−tag融合DCDに該当する約16kDaと異なる分子量のタンパクが少量混在していることが確認されたため、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、目的の分子量のバンドをゲルから切り出し、エレクトロエリューター(BioRad製)を用いてゲルからタンパクを溶出した。
一般的に、抗原性を上げるために、抗原タンパクにウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニンなどのキャリアプロテインを付加する手法がとられているが、本発明においては、キャリアプロテインに対する抗体の産生を防ぐ目的で、キャリアプロテインを付加せずに、His−tag融合DCDをそのまま抗原として用いた。
【0020】
2.ハイブリドーマの作製
上記1.で作製した抗原タンパクのPBS溶液(抗原タンパク濃度:3.5mg/ml)をアジュバンドのTiterMax Gold(CytRx社製)と等量混合し、W/Oミセルの状態で抗原量として150μg/匹をマウス(BALB/C、7週齢)の背部皮下に投与した。さらに同様にTiterMax Goldと混合した抗原を10〜14日間隔で2回追加免疫した。最後の追加免疫から2週間後、抗原タンパクをPBS溶液に等量混合して腹腔内注射し最終免疫を行った。最終免疫の3日後に脾臓細胞を摘出した。なお、抗体価は、追加免疫の7日後、マウス眼下静脈叢から血液を採取し、下記の酵素免疫測定法にて血清中の抗体価を測定し、抗原に対する抗体が産生されていることを確認した。
【0021】
抗体価はHis−tag融合DCDを固相とした酵素免疫測定法により確認した。まず、コーティングバッファー(炭酸―重炭酸緩衝液、pH10)を用い、His−tag融合DCDを10μg/mlに希釈し、96穴EIA/RIAプレート(Costar社製、High Binding)に分注(50μL/ウェル)して4℃で一昼夜(約14時間)インキュベートすることにより物理吸着させた。プレートを0.1%Tween20含有PBS(以下、PBSTと略記する)で3回洗浄後、ブロッキング液(0.5%BSAを含むPBS)を100μL/ウェル加え、室温で2時間ブロッキングした。
【0022】
ブロッキング液除去後、1次抗体としてマウスから得られた血清(50μl/ウェル)のPBSによる段階希釈液を入れて、室温で2時間インキュベートした。プレートをPBSTで4回洗浄後、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIg(G+M)ヤギポリクローナル抗体(Tago Products社製)を室温で1時間反応させた後、オルトフェニレンジアミン(Sigma社製)を含むペルオキシダーゼ基質溶液を加え発色させた。10分後、1.5N硫酸を加え発色を停止した後、マイクロプレートリーダーで492nmにおける吸光度を測定した。
本実施例において免疫したマウスでは、未感作のマウスから得た血清と比較して、吸光度の差が認められた。1000倍希釈した血清を用いて測定した吸光度は、未感作のマウスでは0.05以下であったが、免疫したマウスの血清は1.8であり、抗体価が上昇していることが確認された。この抗体価が十分上昇したマウスを抗体産生細胞の供給原として次の工程に用いた。
【0023】
抗体価の十分高くなったマウスの脾臓から摘出した脾臓細胞とマウス骨髄腫細胞(FO)(ATCC)とを5対1の割合で混合し、50%ポリエチレングリコール(分子量1400〜1600、Sigma社製)存在下にて細胞融合させた。
融合細胞は脾臓細胞として2×10/mLになるようにHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含むRPMI培地)に懸濁し、フィーダー細胞を播種しておいた96穴培養プレート(CORNING社製)に0.1mLずつ分注した。これを5%CO2インキュベーター中で37℃にて培養し、おおよそ2週間後に、ハイブリドーマの生育してきたウェルの培養上清について、上記抗体価の測定で示した酵素免疫測定法において1次抗体を培養上清に置き換えた実験により、His−tag融合DCDに反応し、合成ポリヒスチジン(6×)に反応しない抗体の産生が有望な株を選択した。DCDは立体構造をとらず、抗原認識性が悪いため、1,000クローンのスクリーニングでは目的のモノクローナル抗体が得られず、10,000クローンでスクリーニングを実施し、抗DCDモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを11種樹立した。11種のうち、10種はIgMクラスであり、1種がIgGクラスであった。このIgGクラスのハイブリドーマは、出願人によって独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に2009年3月24日に寄託手続がされ、受領番号(FERM AP−21792)が付与されている。以下、このハイブリドーマ(FERM AP−21792)が産生する抗DCDモノクローナル抗体を10C−3抗体と示す。
【0024】
3.モノクローナル抗体の生産
ハイブリドーマ投与の2週間前にプリスタン0.5mLを腹腔内に注射しておいた12週齢の雌BALB/Cマウスに、上記で得られたハイブリドーマを細胞数5×10個の量で腹腔内に投与した。約10日後に腹水を採取し、遠心処理して上清を得た。上清を等量の吸着用緩衝液(3mol/L NaCl−1.5mol/L Glycine−NaOH、pH8.5)と混和後、濾過した。この濾液を吸着用緩衝液で平衡化したプロテインAカラム(ファルマシア社製)に通して抗体をカラムに吸着させた後、0.1mol/Lクエン酸緩衝液(pH3.0)でカラムより溶出させ、抗DCDモノクローナル抗体(10C−3抗体)を精製した。
【0025】
4.抗DCDモノクローナル抗体(10C−3抗体)の免疫グロブリンクラスおよびサブクラスの同定
上記3.で調製された10C−3抗体の免疫グロブリンクラスを、Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Test Kit(Serotec社製)を用いて確認した。
0.1%BSA含有PBSを用いて抗体を1.0μg/mlに希釈し、キット付属のチューブに加え、チューブ内の試薬を溶解させた。ただちにキット付属のストリップをチューブに入れ、10分後にストリップ上に現れるバンドの位置で免疫グロブリンクラスを判定した。その結果、10C−3抗体の免疫グロブリンクラスが、本発明において望まれるIgG2b、κ軽鎖であることが確認された。
【0026】
以下、本発明によって得られた10C−3抗体と、従来技術として得られているIgMクラスの抗DCDマウスモノクローナル抗体(和歌山県立医科大学より供与されたハイブリドーマ培養上清、以下G−81抗体とする)とを比較し、10C−3抗体の抗原認識特異性の確認等を行った。
【0027】
5.抗DCDモノクローナル抗体(10C−3抗体)の抗原認識特異性の確認
上記3.で調製された10C−3抗体の抗原認識の特異性を確認するため、ウェスタンブロット解析を行った。上記1.で作製したHis−tag融合DCDを還元条件下でSDS−PAGE展開後、PVDF膜に転写し、0.1%BSAを含むTBST(0.05%Tween20を含むTBS、pH7.4)で4℃にて一昼夜ブロッキング後、一次抗体として10C−3抗体(3.3mg/ml)の8000倍希釈液またはG−81抗体の10倍希釈液、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体(CAPPEL社製)を反応させた。PVDF膜をTBSTで洗浄後、NBT(ニトロブルーテトラゾリウムクロライド)およびBCIP(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルフォスフェート)の混合液を基質として加え、発色させた。
その結果、10C−3抗体は、G−81抗体と同様に、His−tag融合DCDと反応することが確認された(図1)。なお、図1において、レーンMは分子量マーカー、レーンAはHis−tag融合DCDのPVDF膜上におけるクーマシーブルー(CBB)染色結果を表し、レーンBは10C−3抗体、レーンCはG−81抗体によるウェスタンブロット解析の結果を表す。
【0028】
6.抗DCDモノクローナル抗体(10C−3抗体)の認識エピトープの同定
上記3.で調製された10C−3抗体の認識エピトープを確認するため、DCDの分解された型として汗中に存在することが知られているペプチド(非特許文献3)から表1に示したアミノ酸配列を選択して合成ペプチドを作製し(AnyGen社製)、これらを抗原とした酵素免疫測定法により10C−3抗体の反応性を確認した。これらの配列は、配列表配列番号2〜6に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
酵素免疫測定法は、以下の方法により実施した。
まず、各合成ペプチドを―PBS(−)を用い100pmol/mlに希釈し、96穴EIA/RIAプレート(Costar社製、High Binding)に分注(50μL/ウェル)して室温で約18時間インキュベートすることにより物理吸着させた。
プレートを滅菌蒸留水で10回洗浄後、ブロッキング液(1%BSAを含むPBS)を100μL/ウェル加え、37℃で1時間ブロッキングした。ブロッキング液除去し滅菌蒸留水で10回洗浄後、1次抗体として10C−3抗体のハイブリドーマ培養上清またはG−81抗体(50μl/ウェル)を分注し、4℃で約18時間インキュベートした。
プレートを滅菌蒸留水で10回洗浄後、2次抗体として希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIg(G+M)ヤギポリクローナル抗体(Tago Products社製)を37℃で1時間反応させた後、オルトフェニレンジアミン(Sigma社製)を含むペルオキシダーゼ基質溶液を加え発色させた。10分後、1.5N硫酸を加え発色を停止した後、マイクロプレートリーダーで492nmにおける吸光度を測定した。
その結果、10C−3抗体およびG−81抗体の合成ペプチドに対する反応性は、表2に示す結果となり、10C−3抗体の認識エピトープはG−81抗体と異なること、および、10C−3抗体の認識エピトープとして必須の部位は、次に示すアミノ酸配列の範囲に存在することが明らかになった。
認識エピトープ範囲:ESVGKGAVHDVKDVLDS(全長DCDのアミノ酸配列の92番目〜108番目)
10C−3抗体はFull−DCD、DCD−1L(配列番号2)、SSL−46(配列番号3)、LEK−45(配列番号6)のペプチドと反応し、SSL−29(配列番号4)、SSL−25(配列番号5)のペプチドと反応しないモノクローナル抗体であった。
一方、G−81抗体は、Full−DCD、DCD−1L(配列番号2)、SSL−46(配列番号3)、SSL−29(配列番号4)、LEK−45(配列番号6)のペプチドと反応し、SSL−25(配列番号5)のペプチドと反応しないモノクローナル抗体であった。従って、10C−3抗体とG−81抗体は抗原認識性が異なるので、それらを併用することにより、DCD断片の構造についての情報を得ることができる。
また、10C−3抗体とG−81抗体の認識エピトープが異なることから、サンドイッチイムノアッセイ法に応用できる可能性がある。
【0031】
【表2】

【0032】
7.抗DCDモノクローナル抗体(10C−3抗体)の汗中DCDに対する反応性
上記3.で調製された10C−3抗体の生体試料中のDCDに対する反応性を、汗検体を用いたウェスタンブロット解析により確認した。
汗検体は、運動負荷によりヒト(n=3)の顔面および背中に発生した汗を回収して得られた。汗検体をスペクトラ/ポアCE透析用チューブ(MWCO:2000、フナコシ製)に入れ、超純水中で透析を行った後、その溶液の一部を、遠心乾燥機を用いて10倍濃縮した。濃縮および非濃縮サンプルを還元条件下でSDS−PAGE展開後、PVDF膜に転写し、0.1%BSAを含むTBST(0.05%Tween20を含むTBS、pH7.4)で4℃にて一昼夜ブロッキング後、一次抗体として10C−3抗体(3.3mg/ml)の8000倍希釈液またはG−81抗体の10倍希釈液を用いて反応させ、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体またはマウスIgM抗体(ともにCAPPEL社製)をそれぞれ反応させた。
【0033】
PVDF膜をTBSTで洗浄後、NBT(ニトロブルーテトラゾリウムクロライド)およびBCIP(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルフォスフェート)の混合液を基質として加え、発色させた。その結果、10C−3抗体は、G−81抗体よりも汗検体中の多くのバンドを検出した(図2)。
特に、検体1、検体2および検体3の約18kDaのバンドと検体2の約32kDaのバンドは、G−81抗体では検出されず、10C−3抗体では検出された。この結果から、10C−3抗体は、G−81では検出できないDCD、DCD複合体またはDCD結合タンパクを認識できることが明らかとなった。図2において、レーンMは分子量マーカーを表し、レーンPCは本解析のポジティブコントロールとして用いたHis−tag融合DCDを表す。
【0034】
8.抗DCDモノクローナル抗体(10C−3抗体)を用いたDCDの定量方法
10C−3抗体を用いてDCDを定量的に検出できることを、合成ペプチドを抗原とした酵素免疫測定法により確認した。
酵素免疫測定法は、上記2.の抗体価の測定と同様の方法にて確認した。
まず、純度95%以上の合成DCD−1L(AnyGen社製)をコーティングバッファー(炭酸―重炭酸緩衝液、pH10)を用いて0.04〜5.0μg/mlの濃度範囲において2段階希釈し、96穴EIA/RIAプレート(Costar社製、High Binding)に分注(50μL/ウェル)して、4℃で一昼夜(約14時間)インキュベートすることにより物理吸着させた。
プレートを0.1%Tween20含有PBS(以下、PBSTと略記する)で3回洗浄後、ブロッキング液(0.5%BSAを含むPBS)を100μL/ウェル加え、室温で2時間ブロッキングした。ブロッキング液除去後、1次抗体として10C−3抗体(3.3mg/ml)の8000倍希釈液(50μl/ウェル)を分注し、室温で2時間インキュベートした。
プレートをPBSTで4回洗浄後、2次抗体として希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIg(G+M)ヤギポリクローナル抗体(Tago Products社製)を室温で1時間反応させた後、オルトフェニレンジアミン(Sigma社製)を含むペルオキシダーゼ基質溶液を加え発色させた。10分後、1.5N硫酸を加え発色を停止した後、マイクロプレートリーダーで492nmにおける吸光度を測定した。
得られた吸光度をタンパク量に対してプロットした結果、0.04〜2.5μg/mlの濃度範囲において、直線性が得られることを確認した(図3)。よって、酵素免疫測定法により、本発明の抗体を用いてDCD含有検体中のDCD量を定量できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のヒトモノクローナル抗体(10C−3抗体)は、ヒトDCDに対して特異的に反応し得ることから、ヒトDCDの検出に使用することができる。また、本発明のハイブリドーマにより、該抗体を細胞外に半永久的に継続して安定的に製造することができる。本発明のヒトモノクローナル抗体(10C−3抗体)およびそれを産生するハイブリドーマは、ヒト生体試料中のDCD解析や、微生物由来の感染症の予防、治療等並びにそれらの研究に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトダームシジンを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体。
【請求項2】
His−tag融合ヒトダームシジンを抗原として得られる請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
配列表配列番号2、3、6のペプチド配列と反応し、配列表配列番号4、5のペプチド配列と反応しない、ヒトダームシジンを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体。
【請求項4】
10C−3株(FERM AP−21792)が産生する請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
ヒトダームシジンを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体を産生し得るハイブリドーマ。
【請求項6】
請求項5に記載のハイブリドーマである10C−3株(FERM AP−21792)。
【請求項7】
請求項5または6に記載のハイブリドーマを用いることを特徴とする、ヒトダームシジンを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項8】
請求項5または6に記載のハイブリドーマを液体培地の中またはヒトを除く恒温動物(ハイブリドーマが免疫的に排除されない動物種)の腹腔内で増殖させ、モノクローナル抗体を生成、蓄積せしめ、これを採取することを特徴とするヒトダームシジンを認識するIgGクラスのモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のモノクローナル抗体を用いることを特徴とするヒトダームシジンの検査方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗体または標識したモノクローナル抗体を使用したヒトダームシジン検査キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−241731(P2010−241731A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92554(P2009−92554)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】