説明

抗EGFR抗体

本発明は、EGFR特異的なモノクローナル抗体又はその抗原結合部分に関する。これらの抗体又はその抗原結合部分は、EGFRに対する高い親和性を有し、EGFRの活性化を阻害し、EGFRにより媒介される癌の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医学の分野に関し、具体的には上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)と反応するモノクローナル抗体の分野に関する。より詳細には、本発明は高い親和性を有するヒト化抗EGFR抗体、並びに様々な癌の治療、予防又は診断への当該抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)は、上皮、間充織及び神経組織において広く発現し、成長及び分化の際に不可欠な役割を果たす、細胞表面受容体のチロシンキナーゼファミリーに属するメンバーである。EGFR(別名HER1又はc−erbB−1)は、細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通領域、及びチロシンキナーゼ活性を有する細胞内ドメインからなる170kDaの膜貫通型の糖タンパク質である(非特許文献1)。EGFRと結合し活性化させる哺乳類のリガンドとしては、EGF、トランスフォーミング成長因子α(TGFα)、ヘパリン−結合性EGF様成長因子、アンフィレグリン、ベタセルリン、エピレグリン及びエピゲンが挙げられる(非特許文献2)。成長因子EGF又はトランスフォーミング成長因子α(TGFα)の上皮細胞増殖因子受容体に対する結合により、レセプタ二量体化、自己リン酸化及びチロシンキナーゼカスケードが誘導され、その結果、DNA合成及び細胞分裂に至る。
【0003】
EGFRは多くの上皮腫瘍において異常に活性化し、例えば非小細胞肺癌、乳癌、結腸直腸癌、頭部癌及び頸部癌、並びに前立腺ガンのそれらが挙げられる(非特許文献3)。EGFRの異常な活性化はレセプタの過剰発現、遺伝子増幅、突然変異の誘発、受容体リガンドの過剰発現及び/又はEGFR活性の調節不全をもたらしうる(非特許文献4)。異常に高いEGFRの活性化により幾つかの細胞内基質のリン酸化がなされ、それにより減数分裂シグナリング、及びその他の腫瘍誘発性の活性が生じる。すなわちEGFRは、受容体の異常な発現を潜在的に阻害若しくは減少させることができる抗癌治療ストラテジーにおける標的であるといえる。
【0004】
EGFRを標的とする抗癌剤には、モノクローナル抗体が包含される。キメラモノクローナル抗体C225(又はセツキシマブ)(mAb225のネズミ可変領域及びヒトIgG1定常領域を含んでなる)は、現在米国及びヨーロッパのイリノテカン抵抗性大腸癌の治療に使用されている(非特許文献5)。更に、EGFRに対するヒト抗体及びヒト化モノクローナル抗体に関して研究がなされている。完全にヒト抗体ABX−EGF(パニツムマブ)は、C225のよりもEGFRに対する親和性が約8倍高い(非特許文献6)。EGFRに対するヒト化抗体EMD72000(マツズマブ)の親和性はC225のそれと類似しており(非特許文献7)、EGFRに対するヒト化抗体h−R3の親和性はC225のそれ未満である(非特許文献8)。100mg/m以上のセツキシマブの投与による診療において、合併症が観察されている。例えば、紅潮、脂漏性皮膚炎及びざ瘡様発疹をもたらす皮膚毒性などである(非特許文献9)。
【非特許文献1】Ullrichら、Human Epidermal Growth Factor cDNA Sequence and Aberrant Expression of the Amplified Gene in A−431 Epidermoid Carcinoma Cells,Nature,Vol.309,418−25(1986)
【非特許文献2】Singh,A.及びHarris,R.,2005,Cellular Signaling 17:1183−1193
【非特許文献3】Adams,G.及びWeiner,L.,2005,Nature Biotechnology,23:1147−1157
【非特許文献4】Baselga,J.及びArteaga,C.,2005,J.Clin.Oncol.23:2445−2459
【非特許文献5】Baselga,J.及びArteaga,C.,2005,J.Clin.Oncol.23:2445−2459
【非特許文献6】Yang,X−Dら、2001,Crit.Rev.Oncol./Hemat.,38:17−23
【非特許文献7】Vanhoefer,U.ら、2004,J.Clin Oncol.,22:175−184
【非特許文献8】Crombet,T.ら、2004,J.Clin.Oncol.,22:1646−1654
【非特許文献9】Herbst,R.及びLanger,C.,2002,Semin.Oncol.29:27−36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EGFRと高い親和性で結合し、上皮腫瘍のEGFRの異常な活性化を阻害する抗EGFR抗体に対する治療的ニーズが存在する。高親和性の抗EGFR抗体により、低用量での投与が可能となり、副作用(例えば皮膚毒性)の危険性が減少する。更に、抗体の複数回投与により誘導されうる、抗体に対するいかなる免疫反応も減少させることができる抗EGFR抗体の提供に対するニーズが存在する。本発明はこれらのニーズを満たし、それに関連する多くの効果を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の抗体は、EGFRの活性化を阻害する、EGFR特異的なヒト化モノクローナル抗体及びその抗原結合部分に関する。一実施形態では、本発明の抗体は、EGFRと高い親和性で結合することを特徴とし、当該抗EGFRモノクローナル抗体は、約0.01pM〜約10pMのEGFRとの結合親和性(Kd)を有する。好ましい実施形態では、本発明の抗体は10pM以下のKd(EGFRに対する)を有し、好ましくは9、8、7、6、5、4、3、2又は1pM以下のKdを有し、より好ましくは0.8、0.6、0.4、0.2、0.08、0.06、0.04、0.02又は0.01pM以下のKdを有する。
【0007】
一実施形態では、EGFR特異的なモノクローナル抗体は、配列番号43に示すアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号44に示すアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号45に示すアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号46に示すアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号35に示すアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号47に示すアミノ酸配列を含むLCDR3を含んでなる。好ましくは当該抗体は、EGFRの活性化を阻害することを更なる特徴とする。好ましくは当該抗体は、EGFRとの10pM以下の結合親和性(Kd)を有すること、好ましくは9、8、7、6、5、4、3、2又は1pM以下のKdを有すること、より好ましくは0.8、0.6、0.4、0.2、0.08、0.06、0.04、0.02又は0.01pM以下のKdを有することを更なる特徴とする。好ましくは当該抗体は、EGFRの活性化を阻害し、EGFRとの10pM以下の結合親和性を有すること、好ましくは9、8、7、6、5、4、3、2又は1pM以下のKdを有すること、より好ましくは0.8、0.6、0.4、0.2、0.08、0.06、0.04、0.02又は0.01pM以下のKdを有することを更なる特徴とする。
【0008】
本発明の一実施形態では、本発明のEGFR特異的なモノクローナル抗体は、配列番号49の重鎖可変領域(HCVR)、及び配列番号66の軽鎖可変領域(LCVR)を含んでなる。他の実施形態では、EGFR特異的なモノクローナル抗体は、配列番号51のHCVR及び配列番号68のLCVR、配列番号55のHCVR及び配列番号72のLCVR、又は、配列番号56のHCVR及び配列番号73のLCVRを含んでなる。
【0009】
本発明の他の実施形態は、前記実施形態のうちのいずれかのモノクローナル抗体に関し、当該抗体は完全長抗体、実質的な完全長抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント又は単鎖Fvフラグメントである。好ましくは、当該抗体又はその抗原結合部分は、前記実施形態のうちのいずれかのヒト化抗体である。
【0010】
本発明には、本願明細書に記載されている抗体をコードするポリヌクレオチドを含んでなる単離された核酸分子、前記核酸分子を含むベクター(好ましくは発現ベクター)が包含される。本発明にはまた、本願明細書に記載されている抗体を発現するこれらのポリヌクレオチドを含んでなるベクターでトランスフェクションした宿主細胞が包含される。
【0011】
本発明には、本願明細書に記載されている抗体を有効量で患者に投与することを含んでなる、EGFRにより媒介される癌の治療方法が包含される。
【0012】
最後に本発明には、患者におけるEGFRにより媒介される癌の治療用薬剤の製造への、本願明細書に記載されている抗体の使用が包含される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
定義
本発明では、「外皮成長因子受容体」又は「EGFR」とは、成熟した、チロシンキナーゼ細胞表面受容体のことを指す。「可溶性EGFR」又は「sEGFR」という用語は、EGFRの細胞外リガンド結合ドメインを含んでなるEGFRの一部のことを指す。より詳細には、sEGFRは成熟型EGFRの1〜619番目のアミノ酸を含む(Ullrichら、Human Epidermal Growth Factor cDNA Sequence and Aberrant Expression of the Amplified Gene in A−431 Epidermoid Carcinoma Cells,Nature,Vol.309,418−25(1986))。
【0014】
「EGFRにより媒介される癌」という用語は、通常の対応する上皮組織より高いレベルでEGFRが異常に活性化している上皮腫瘍により特徴づけられる癌のことを指す。これらの高いEGFR活性レベルにより、多くのタイプの癌において腫瘍成長が促進される。かかる癌としては、限定されないが、非小細胞肺癌、乳癌、結腸直腸癌、東部及び頚部癌、並びに前立腺癌が挙げられる。EGFRの異常な活性化は、受容体の過剰発現、遺伝子増幅、突然変異の増加、受容体リガンドの過剰発現及び/又はEGFR活性の調節因子の損失に起因すると考えられる。
【0015】
本明細書で用いられる用語「抗体」とは、ジスルフィド結合で相互に結合した、4つのポリペプチド鎖(2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖)を含んでなる免疫グロブリン分子のことを指す。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVR又はVHとして本願明細書に略記される)及び重鎖定常領域を含んでなる。重鎖定常領域は3つのドメイン(CH1、CH2及びCH3)を含んでなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(LCVR又はVLとして本願明細書に略記される)及び軽鎖定常領域を含んでなる。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)を含んでなる。VH及びVL領域は更に、超可変領域(相補性決定領域(CDR)と称される)と、点在する保存されたドメイン(フレームワーク領域(FR)と称される)に分類される。3つのCDR及び4つのFRからなる各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向けて、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配列されている。各ドメインに対するアミノ酸の割当ては、公知の慣例によって行われる(例えばKabat,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)、又はChothia numbering scheme(Al−Lazikaniら、J.Mol.Biol.273:927−948,1997)に記載)。VHのCDRは、本明細書においてHCDR1、HCDR2及びHCDR3と称する。VLのCDRは、本明細書においてLCDR1、LCDR2及びLCDR3と称する。
【0016】
軽鎖はκ及びλに分類される。重鎖はγ、μ、α、δ又はεに分類され、抗体のアイソタイプはそれぞれIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEと定義される。軽鎖及び重鎖中では、可変領域及び定常領域は、約12以上のアミノ酸からなる「J」領域により結合し、重鎖については、約3つ以上のアミノ酸からなる「d」領域を含む。
【0017】
上記によれば、本発明の抗体はモノクローナル抗体である。しかしながらかかる抗体は、それらが単一の細胞種のクローンに由来するという点でのみ、単クローン性といえる。しかしながらこのことは、それらを特定の起源に限定するものではない。かかる抗体は、通常抗体を生産しない細胞(例えばCHO、NS0又はCOS細胞)において容易に産生させることができる。更にかかる抗体は、他のタイプの細胞(特に哺乳類の及び植物細胞でさえも)においても産生させることができ、その場合には、かかる細胞に遺伝子的な操作を施して軽鎖及び重鎖ポリペプチドを発現させ、それらを集合させて抗体分子を形成させる。更に、かかる鎖は化学的に合成してもよい。なお、それらは所定の抗原決定要素に対して特異的であるため、「単クローン」の用語の主旨に適う抗体を構成することには変わりない。すなわち、本願明細書の用語「モノクローナル抗体」は、前記抗体の生産に使用する機構を単に指すというよりは、むしろ抗体分子の特性及び純度を意味するものと解すべきである。
【0018】
本発明で使用する、抗体の「抗原結合部分」という用語は、可変領域の範囲内における、目的の抗原との結合に必要となる抗体分子の部分を意味する。抗原結合部分は、抗原と相互作用し、抗体に対して抗原との特異性及び親和性を付与するためのアミノ酸残基を含んでなる。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体中のフラグメントにより付与される。抗体の「抗原結合部分」の用語中に包含される結合フラグメントの例としては、
(i)Fabフラグメント(VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価のフラグメント)、
(ii)F(ab’)フラグメント(ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合している2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメント)、
(iii)Fdフラグメント(VH及びCH1ドメインからなる)、
(iv)Fvフラグメント(抗体の1つのアームとしての、VL及びVHドメインからなる)、
(v)dAbフラグメント(Wardら、(1989)Nature 341:544−546、VHドメインからなる)。
更に、Fvフラグメントの2つのドメイン(VL及びVH)は、別々の遺伝子としてコードされているが、組換え方法を用いて、それらを合成リンカーを用いて結合させ、単一のタンパク質鎖として合成することも可能である。その場合、VL及びVH領域が対を形成して一価の分子を形成する(単鎖Fv(scFv)として公知、例えばBirdら、(1988)Science 242:423−426:及びHustonら、(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883を参照)。かかる単鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合部分」の用語に包含される。単鎖抗体の他の形態としては、二重特異性抗体(diabody)などが挙げられる。diabodyとは、二価の、二重特異的な抗体のことを指し、VH及びVLドメインが単一のポリペプチド鎖として発現されるが、過度に短いリンカーを用いることにより、同じ鎖上において2つのドメイン間の対合が生じず、ゆえにそのドメインが他の鎖の補完的なドメインとの対合形成を余儀なくされ、2つの抗原結合部位が形成されることを特徴とする(例えばHolliger,P.,ら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448、Poljak,R.J.,ら、(1994)Structure 2:1121−1123を参照)。
【0019】
「ヒト化抗体」の用語は、ヒト抗体生殖細胞系又は再構成された配列に由来して、ヒト以外の生物由来の相補性決定領域(CDRs)とかかる配列を連結することによって作製されるアミノ酸配列の部分又は全部から構成される抗体を意味する。可変領域のフレームワーク領域は、完全なヒトフレームワーク領域、又は実質的なヒトフレームワーク領域で置換される。ヒトの治療用途に用いるヒト化抗体において、当該フレームワーク配列は好ましくは完全に、又は実質的にヒト由来(すなわち少なくとも90%、92%、95%、96%、97%、98%又は99%がヒト由来)である。ヒト化抗体のCDRsは、ヒト以外の抗体のCDRsを基にして、所望の特性(例えば特異性、親和性及び力価)を得るために最適化してもよい。元のヒト以外のCDRsと比較して、最適化されたCDRsは、アミノ酸置換、付加及び/又は欠失を有してもよい。本願明細書に記載のように、ヒト化抗体に包含される抗体としては、完全長抗体に限られず、その抗原結合部(例えばフラグメント及び単鎖の形)も挙げられる。
【0020】
本明細書で用いられる用語「ヒト抗体」には、ヒトの抗体並びに、組換え手法を用いて調製、発現、作製又は単離されるそれらが包含される。組換え手法によって得られるヒト抗体としては、宿主細胞にトランスフェクトした組換え発現ベクターから発現される抗体、組換え、コンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離される抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子を用いたトランスジェニック動物(例えばマウス)から単離される抗体(例えばTaylor,L.D.,ら、(1992)Nucleic Acids Res.20:6287−6295を参照)、又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを含んでなる、他のあらゆる手段によって調製さる、発現され、作製され、又は単離される抗体が挙げられる。かかる組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系の免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する。しかしながら、ある特定の実施形態では、かかる組換えヒト抗体をin vitro突然変異導入して、VHのアミノ酸配列及び組換え抗体のVLドメインを、ヒト生殖細胞系のVH及びVL配列に由来しつつも、in vivoにおけるヒト抗体の生殖細胞系レパートリー中には存在し得ない配列としてもよい。
【0021】
本発明の抗体に関する「生物学的特性」又は「生物学的活性」の用語は本願明細書では交換可能に用いられ、例えばエピトープ/抗原親和性及び特異性、in vivo又はin vitroでEGFRの活性を中和若しくはアンタゴナイズする能力、抗体のin vivo安定性及び抗体の免疫原特異性などが挙げられるが、これらに限定されない。他の定義可能な抗体の生物学的特性としては、例えば、特異性、交差反応性(すなわち標的ペプチドのヒト以外の相同物、又は通常他のタンパク質又は組織との交差反応性)、及び哺乳動物細胞におけるタンパク質の高い発現レベルを維持する能力が挙げられる。上記の特性又は特徴は、当業者に公知の技術を使用して観察、測定又は評価することができる。ELISA、競争的ELISA、表面プラスモン共鳴分析、in vitro及びin vivo中和アッセイ、受容体結合アッセイ、及びヒト又はヒト以外の様々な給源からの組織切片を用いた免疫組織化学を必要に応じて用いてもよい。
【0022】
本発明の抗体の活性に関して本明細書で用いられる「阻害する」の用語は、生物学的活性若しくは特異性、疾患若しくは症状の進行又は重症度を、実質的にアンタゴナイズする、抑止する、防止する、遅延させる、抑制する、崩壊させる、除去する、停止させる、減少させる又は逆転させる能力のことを指すが、これらに限定されない。当該阻害又は中和の程度は、好ましくは少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%以上である。
【0023】
本明細書で用いられる抗体に関する「EGFR活性化を阻害する能力」とは、そのEGFRに対する結合が、ヒトEGFRの活性化の抑制、及びその受容体の活性化に応じて生じるヒトEGFRの生物学的活性の抑制につながる、抗体の能力のことを指すものとする。EGFR生物学的活性の1つ以上の指標の測定(細胞増殖アッセイを使用して測定される)、アポトーシスアッセイ、受容体結合アッセイ、受容体リン酸化アッセイ、又はマウス腫瘍モデル(実施例6から10を参照)を行うことにより、抗体がEGFR活性化を阻害する能力を評価できる。
【0024】
本明細書で用いられる「単離された抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体のことを指す(例えば、EGFRと結合する単離された抗体は、他の抗原と特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、ヒトEGFRと特異的に結合する単離された抗体は、他の抗原(例えば他の種由来のEGFR分子)との交差反応性を有することもありえる。更に、単離された抗体は、他の細胞内物質及び/又は化学物質を実質的に含まないものであってもよい。
【0025】
本明細書で用いられる用語「kon」は、正反応若しくは複合体形成反応に関する、結合若しくはon速度定数、又は特異的反応速度のことを指し、M−1−1の単位として表される。
【0026】
本明細書で用いられる用語「koff」は、抗原/抗体複合体からの抗体解離反応に関する、解離若しくはoff速度定数、又は特異的反応速度のことを指し、秒−1の単位として表される。
【0027】
本明細書で用いられる用語「Kd」とは、ある特定の抗体−抗原相互作用の解離定数のことを指す。以下の式により算出される:
off/kon=Kd。
【0028】
本発明の抗体は高親和性抗体であり、通常低いkoff値を示す。本願明細書における用語「高い親和性」とは、約1×10−11M〜約1×10−14Mの親和性又はKdのことを指すか、あるいは10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.8、0.6、0.4、0.2、0.08、0.06、0.04、0.02又は0.01pM以下の親和性又はKdのことを指す。
【0029】
本明細書で用いられる用語「核酸分子」には、DNA分子及びRNA分子が包含される。当該核酸分子は一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖のDNAである。
【0030】
本明細書で用いられる用語「単離された核酸分子」とは、ヒトEGFRと結合する抗体又は抗体部分(例えばVH、VL、CDR3)をコードする核酸に関して用いる場合は、当該抗体若しくは抗体部をコードするヌクレオチド配列がヒトEGFR以外の抗原と結合する抗体若しくは抗体部をコードする他のヌクレオチド配列を含まず、当該他の配列が、ヒトゲノムDNAの核酸中で側方に天然に存在しうる、核酸分子のことを指す。すなわち、例えば抗ヒトEGFR抗体のVH領域をコードする本発明の単離された核酸は、ヒトEGFR以外の抗原と結合する他のVH領域をコードする他のいかなる配列も含まない。
【0031】
本明細書で用いられる用語「ベクター」とは、連結された他の核酸を輸送できる核酸分子のことを指す。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、それは付加的なDNA部分をライゲーションさせることができる、環状の二重鎖DNAループのことを指す。他のタイプのベクターはウィルスベクターであり、付加的なDNA部分をウィルスゲノムにライゲーションさせることができる。
【0032】
本明細書で用いられる用語「組換え宿主細胞」(又は単に「宿主細胞」)とは、組換え発現ベクターが導入された細胞のことを指す。
【0033】
抗体の特性
ヒト化抗体の利点として最初に挙げられることは、患者への反復投与によっても免疫反応が最小限であることである。ヒト化抗体においてヒト配列がより多く使用されるほど、免疫原性の危険性は低くなる。更に、注入されたヒト化抗体は通常、ヒト由来でないか部分的にヒト由来でない抗体を注入した場合より循環系における半減期が長い。
【0034】
本願明細書に記載のように、ヒトフレームワーク可変領域及びその変異型が本発明で使用可能である。しかしながら、選択されるフレームワークに関係なく、免疫原性の危険性を低下させることが目的である場合、選択されるヒトフレームワークに対する変化の数は最小化するのが望ましい。
【0035】
重鎖及び軽鎖可変領域フレームワークの残基は、同じ若しくは異なるヒト抗体配列に由来してもよい。ヒト抗体配列は、天然のヒト抗体の配列である場合もあり、又は幾つかのヒト抗体の共通配列である場合もある。本発明のヒト化抗体は、ヒト生殖細胞系軽鎖フレームワークを含むか、又はそれに由来してもよい。同様に、本発明のヒト化抗体は、ヒト生殖細胞系重鎖フレームワーク含むか、又はそれに由来してもよい。CDRsのフレームワーク前後関係は抗原に対するそれらの結合に影響を与えるため、別のフレームワークとの間の変化は抗原に対する結合親和性の若干又は顕著な損失をもたらしうる。本発明の好ましい実施形態では、軽鎖フレームワークはヒト生殖細胞系VK配列A26に由来する。好ましい実施形態では、重鎖ヒト生殖細胞系フレームワークはVH2−26及びVH4−59から選択される。異なる生殖細胞系配列の説明に関しては、国際公開第2005/005604号を参照のこと。
【0036】
好ましい本発明のヒト化抗体のヒト重鎖定常領域のアミノ酸配列は、IgG1定常領域又はIgG4定常領域(両方とも公知)を含む。
【0037】
本発明には、EGFRと結合して受容体のリガンドとの結合及びその後の活性化を阻害する抗体又はその抗原結合部分が包含される。すなわち、本願明細書に記載のCDRs、並びに重鎖及び軽鎖可変領域を用いることにより、EGFRとの結合にCDRsが関与しているタンパク質の結合親和性が維持された、完全長抗体及び機能性フラグメントが得られる。
【0038】
抗体の結合親和性は、Sapidyne KINEXAアッセイ(実施例7を参照)を使用して測定した。キメラ抗体C225は約380pM(ピコモル濃度)のKdを有する。本発明のヒト化抗体は、約0.01〜約10pM、約0.1〜約10pM、約0.1〜約1pM、約0.2〜約10pM、約0.2〜約1pM、約0.6〜約10pM、及び約0.6〜約1pMのKd価を示す。好ましくは、本発明のヒト化抗体は10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.8、0.6、0.4、0.2、0.08、0.06、0.04、0.02又は0.01pM以下のKd価を示す。
【0039】
本発明の抗体又はその抗原結合部分がEGFRの活性化を阻害することも好ましい。幾つかのアッセイを利用し、本発明のEGFR活性化を阻害する抗体の能力を試験することができる(実施例6から10を参照)。
【0040】
配列
表1及び2は、1つ以上の重鎖及び軽鎖のCDRsを含む本発明の抗体において使用されるCDRsのアミノ酸配列(標準的なアミノ酸の1文字表記)を示す。表中に、個々の抗体クローン(Fabフラグメント)の前後関係におけるCDRsを示す。表1及び2において、対応するC225 CDRsに関して導入したアミノ酸置換の部位(すなわちCDRs中の異なるアミノ酸の部位)を太字及び下線で示す。表1及び2は重鎖及び軽鎖のCDRsを示す。これらのCDRsを、以下の通りにヒト生殖細胞系フレームワーク配列と連結した:
軽鎖CDRsを、VL A26に由来するフレームワーク配列と連結した。表1のHu 2−26から2.11.10のCDRsは、VH 2−26に由来する重鎖フレームワーク配列を有し、その一方で、表1のHu 4−49から4.23のCDRsは、VH 4−59に由来する重鎖フレームワーク配列を有する。フレームワークの前後関係におけるCDRsを示す典型的なHCVRs及びLCVRsを以下の表3に示す。
【0041】
表1:CDR配列−重鎖可変領域(HCVR)
【表1】





【0042】
表2:CDR配列−軽鎖可変領域(LCVR)
【表2】







【0043】
表1及び2に列記するFabの各々は、EGFRと結合することが、捕捉フィルターリフトアッセイ(実施例3)及び捕捉ELISA(実施例4)の結果から示されている。捕捉ELISAは更に、これらの各々のFabが、キメラ抗体C225の場合よりもEGFRに対する高い親和性を有することを示す。
【0044】
本発明に係る、CDRを含んでなる構造は通常、抗体の重鎖若しくは軽鎖の配列又はその実質部分であり、当該CDRは、天然のHCVR及びLCVRのCDRに対応する位置に存在する(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept of HHS,1991)。各鎖(軽鎖及び重鎖)の3つのCDR領域は、隣接配列として、FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4の式で表されるフレームワーク領域中に存在する。重鎖又は軽鎖のFR1、FR2、FR3及びFR4は、上記の順のCDRsを有する隣接配列として配列されたときに、完全なフレームワークを形成する。本発明の抗体のフレームワークドメインは好ましくはヒト由来であるか、ヒト化されているか、又は実質的にヒト由来である。
【0045】
異なるFab(そのCDRsを表1及び2に列記する)で表される本発明の抗体は、少なくとも1つのCDRの配列変化、及び5つまでのCDRsの配列変化により各々異なる。クローン間におけるCDRsの相違は、所定の位置のCDRsが互いに置換されていることを示すものであるが、但し、得られる置換された抗体はおそらくEGFRと結合し、その活性化を阻害する能力を保持している。本発明の一実施形態では、当該抗体は、配列番号1−10及び43からなる群から選択される配列を含むCDRH1、及び/又は配列番号11−23及び44からなる群から選択される配列を含むCDRH2、及び/又は配列番号25−29及び45からなる群から選択される配列を含むCDRH3を含んでなるHCVRを含んでなる。別の実施形態では、本発明の抗EGFR抗体は配列番号30−34及び46からなる群から選択される配列を含むCDRL1、及び/又は配列番号35の配列を含むCDRL2、及び/又は配列番号36−42及び47からなる群から選択される配列を含むCDRL3を含んでなるLCVRを含んでなる。好ましい実施形態では、本発明の抗体は、配列番号1−10及び43からなる群から選択される配列を含むCDRH1、及び/又は配列番号11−23及び44からなる群から選択される配列を含むCDRH2、及び/又は配列番号25−29及び45の配列を含むCDRH3を含んでなり、並びに、更に配列番号30−34及び46からなる群から選択される配列を含むCDRL1、及び/又は配列番号35の配列を含むCDRL2、及び/又は配列番号36−42及び47からなる群から選択される配列を含むCDRL3を含んでなるLCVRを含んでなる。
【0046】
好ましい実施形態では、本発明の抗EGFR抗体は表1に列挙するCDRsの1つの組合せのうちのCDRsを含む重鎖可変領域、表2に列挙するCDRsの1つの組合せのうちのCDRsを含む軽鎖可変領域を有する。好ましくは、これらのHCVRs及びLCVRsは、表1及び2においてCDRsに関して記載しているフレームワークを含む。より好ましくは、抗体は具体的に、表1に列挙するCDRsの組合せのうちの1つのCDRsを含むHCVRと、表2に列挙するCDRsの対応する組合せのCDRsを含むLCVRを有し、例えば、配列番号1を有するHCDR1、配列番号11を有するHCDR2、配列番号25を有するHCDR3、配列番号30を有するLCDR1、配列番号35を有するLCDR2及び配列番号37を有するLCDR3を含んでなる抗体が好ましい。好ましくは、これらのHCVRs及びLCVRsは、表1及び2に列挙するCDRsの特定の組合せとして記載するようなフレームワークを含む。
【0047】
他の好ましい実施形態では、本発明の抗EGFR抗体は、表3に列挙するヒト化Fabから選択される1つのHCVRと、表3に列記するヒト化Fabから選択される1つのLCVRを有する。好ましくは、HCVR及びLCVRは同じヒト化Fabに由来する。
【0048】
表3では、本発明の抗体の好ましいHCVRs及びLCVRsを示す。CDR領域を太字で示す。またこれらのHCVRs及びLCVRs中に、本発明の抗体の好ましいフレームワーク領域も示す。表3の抗体2.38から2.11.3は、フレームワーク配列FRH1(配列番号57)、FRH2(配列番号58)FRH3(配列番号59)、及びFRH4(配列番号60)を有し、それらはVH2−26ヒト生殖細胞系フレームワークに由来するものである。同様に、これは表1の抗体Hu2−26から2.11.10における好ましいフレームワークである。表3の抗体4.14から4.21は、フレームワークFRH1(配列番号61)、FRH2(配列番号62)、FRH3(配列番号63)及びFRH4(配列番号64)を有し、それらはVH4−59ヒト生殖細胞系フレームワークに由来するものである。同様に、これは表1の抗体Hu4−59から4.23における好ましいフレームワークである。表3の抗体の全ては、VKA26ヒト生殖細胞系フレームワークに由来するフレームワークFRL1(配列番号74)、FRL2(配列番号75)、FRL3(配列番号76)及びFRL4(配列番号77)を有し、それらは表2の抗体Hu−2−26から4.23における好ましいフレームワークである。
【0049】
表3:ヒト化重鎖可変領域(VH2−26及びVH4−59鋳型)
【表3】









【0050】
本願明細書に開示される本発明では、EGFR活性化を阻害する能力が強化された抗体は、本願明細書に開示されるように、単一のポリペプチド構造中に1つ以上の新規なCDR配列を組み合わせることによって作製できる。この方法により、1つの抗体中に幾つかの新規なアミノ酸配列(同じ若しくは異なるCDRsに由来)を組み合わせ、望ましい抗EGFR活性レベルを有する抗体を作製することが可能となる。かかる望ましいレベルは、好ましくは1pM以下のKd価を示す抗体を作製することにより得られる。非限定的な例としては、表1及び2に示すような新規なCDR配列を用いて抗体を作製し、更に実施例6から10で後述するアッセイ方法でEGFR活性化の阻害能に関してスクリーニングすることが挙げられる。
【0051】
本発明の抗体をある特定の徴候に対して用いる場合、抗体の有用性の基となる有益な特性の有無に関して解析することができる。一実施形態では、本発明の抗体は、キメラ抗体C225などの公知の抗体より高いEGFRに対する親和性(すなわち低いKd値、例えばBiacore又はKinexaアッセイで測定する)を示す。上記の通り、Kdはkonとkoff定数の比率として算出される。例えば、3.1×10(M−1−1)のkonと0.9×10−4(s−1)のkoffを用いて2.9x10−12MのKdとして算出される。すなわち、親和性はkonを増加させるか又はkoffを減少させることにより増加させることができる。
【0052】
抗EGFR抗体の親和性の改良は、EGFR活性化を阻害する抗体の能力の強化につながると考えられる。実施例6から10で説明するように、EGFR活性化を阻害する能力の強化の程度は、いずれかのin vitro及びin vivoアッセイで解析できる。これらのアッセイ方法としては、限定されないが細胞増殖アッセイ、アポトーシスアッセイ、受容体結合アッセイ、受容体リン酸化アッセイ又は腫瘍モデルマウスの使用が挙げられる。好ましくは、本発明の抗体は、いずれかのアッセイで測定されるEGFR活性化阻害能が向上している。好ましくは、本発明の抗体は10pM以下、好ましくは1pM以下、より好ましくは約0.2pM以下のKdを示し、EGFRの活性化阻害能が強化されている。
【0053】
抗体の発現
本発明の別の態様は、本発明の抗体及びそのフラグメントをコードする組み換えDNAに関する。本発明の抗体又はそのフラグメントをコードする組み換えDNAの配列は、遺伝暗号を使用する当業者であれば容易に決定できる。決定された配列を有する核酸は、公知の技術を使用して多種多様な宿主システムのうちの適切なものを用いて調製し、発現させることができる。
【0054】
好ましくは、当該DNAを発現させる場合、当該DNAは、配列番号1、11、24、30、35、36の軽鎖及び重鎖CDRsを1つから5つ、及び配列番号2−10、12−23、25−29、31−34、37−42の軽鎖及び重鎖CDRsを1つ以上で、合計6つのCDRs(CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3で、CDRL2が配列番号35である)を含む抗体をコードする。更に好ましくは、当該DNAを発現させる場合、当該DNAは、これらのCDRsと、表3に示される配列にて図示するような、本発明の好ましい軽鎖及び重鎖フレームワークとの組み合わせを含む抗体をコードする。
【0055】
本発明の抗体をコードするDNAは通常、抗体をコードする配列に制御可能な状態で結合した発現制御ポリヌクレオチド配列(天然の異種プロモータードメインを含む)を更に含んでなる。好ましくは、発現制御配列は真核生物由来の宿主細胞を形質転換又はトランスフェクションできるベクター中に存在する真核生物プロモーターシステムであるが、原核宿主の制御配列を使用してもよい。当該ベクターを適当な宿主細胞系に導入した後、宿主細胞を、ヌクレオチド配列の発現に適する条件下で増殖させ、必要に応じて、軽鎖、重鎖、軽/重鎖二量体又は完全抗体、フラグメント又は他の免疫グロブリン形態の回収及び精製を行う。
【0056】
最終的に所望の抗体を発現できる本発明の核酸配列は、様々な公知技術を用いて、様々な異なるポリヌクレオチド(ゲノム又はcDNA、RNA、合成オリゴヌクレオチドなど)及び構成要素(例えばV、J、D及びCドメイン)から作製できる。適当なゲノムと合成配列とを結合させることが一般的な製造方法ではあるが、cDNA配列を利用することも可能である。
【0057】
ヒト定常領域DNA配列は、様々なヒト細胞から公知の方法に従い単離できるが、好ましくは不死化B細胞から単離する。ポリヌクレオチド配列の適切な給源細胞、及び免疫グロブリンの発現及び分泌のための宿主細胞は、従来技術において公知の多くの供給源から得られる。
【0058】
本願明細書に記載のように、本願明細書に具体的に記載されている抗体以外にも、当業者に公知の様々な組み換えDNA技術を利用して、実質的に類似又は、同一の配列を有する他の修飾抗体を容易に設計し、製造することができる。例えば、フレームワーク領域は、幾つかのアミノ酸置換、末端及び中間部への挿入及び欠失などによって、一次構造レベルで天然の配列に変異導入することができる。更に、様々なヒトフレームワーク領域を単独もしくは組み合わせで用い、本発明のヒト化免疫グロブリンのベースとしてもよい。通常遺伝子の修飾は、様々な公知の技術(例えば部位特異的突然変異導入)によって容易に実施できる。
【0059】
あるいは、抗体の一部の一次構造のみを含んでなるポリペプチドフラグメント(当該フラグメントは1つ以上の免疫グロブリン活性(例えば補体結合活性)を有する)を作製してもよい。これらのポリペプチドフラグメントは、公知の方法によって完全抗体のタンパク質分解によって調製してもよく、又は、部位特異的突然変異導入を使用してベクターの所望の場所で停止コドンを挿入することによって(例えばCH1の後にFabフラグメントを置くか、又はヒンジ領域の後にF(ab’)を置く)調製してもよい。単鎖抗体は、DNAリンカーを介してVL及びVHと結合させることによって調製できる。
【0060】
上記のように、ポリヌクレオチドは、当該配列が発現制御配列と制御可能な状態で連結される(すなわち確実に機能するように配置する)ことにより、宿主中で発現する。これらの発現ベクターは通常、エピソームとして、又は宿主染色体DNAの不可欠な部分として、宿主生物において複製可能である。発現ベクターは通常、所望のDNA配列で形質転換された細胞の検出を容易にするために、選択マーカー(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン及びジヒドロ葉酸還元酵素)を有する。
【0061】
大腸菌は、本発明のポリヌクレオチドのクローニングに特に有用な原核宿主細胞である。また、他の使用できる微生物宿主としては、細菌(例えばB.subtilis)及び他の腸細菌(例えばサルモネラ属、セラチア属及び様々なシュードモナス種)が挙げられる。これらの原核宿主において発現ベクターを作製してもよく、それらは通常宿主細胞との適合性を有する発現制御配列(例えば複製開始点)を有する。更に、多くの公知のプロモーター、例えばラクトースプロモーターシステム、トリプトファン(trp)プロモーターシステム、βラクタマーゼプロモーターシステム又はλファージプロモーターシステムを存在させてもよい。当該プロモーターは通常、任意のオペレーター配列と共に発現を制御し、またリボソーム結合部位配列などを有することにより転写及び翻訳を開始し完了させる。
【0062】
他の微生物(例えば酵母)を発現に用いてもよい。例えばPichia pastorisを宿主とし、発現制御配列(3−ホスホグリセリン酸キナーゼ又は他の解糖酵素などのプロモーター)、複製開始点、終結配列などを必要に応じて有するベクターを用いてもよい。
【0063】
哺乳類の培養細胞を用いて、本発明のポリペプチドを発現させ、調製してもよい。真核生物細胞が好ましいのは、完全な免疫グロブリンを分泌できる多くの適切な宿主細胞系が従来技術において開発されているからであり、そのような細胞としては、CHO細胞系、様々なCOS細胞系、HeLa細胞、骨髄腫細胞系、形質転換B細胞、ヒト胚腎臓細胞系又はハイブリドーマが挙げられる。好ましい細胞系は、CHO及び骨髄腫細胞系(例えばSP2/0及びNS0)である。
【0064】
これらの細胞用の発現ベクターは、発現制御配列(例えば複製開始点、プロモーター、エンハンサー)及び必要なスプライシング部位(例えばリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写ターミネータ配列)を含んでもよい。好ましい発現制御配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、サイトメガロウイルスなどに由来するプロモーターである。好ましいポリアデニル化部位としては、SV40及びウシ成長ホルモンに由来する配列が挙げられる。
【0065】
目的のポリヌクレオチド配列(例えば重鎖及び軽鎖をコードする配列、及び発現制御配列)を含んでなるベクターを用い、細胞宿主のタイプに適宜応じて、公知の方法によって宿主細胞を形質転換できる。例えば、塩化カルシウムによるトランスフェクションは原核細胞で通常利用されるが、その他の細胞宿主の場合はリン酸カルシウム処理又はエレクトロポレーションを使用できる。
【0066】
発現させた後、硫酸アンモニウム沈殿、イオン交換、親和性(例えばプロテインA)、逆相もしくは疎水性相互作用カラムクロマトグラフィ、ゲル電気泳動などの標準的方法に従って抗体を精製することができる。少なくとも約90〜95%の純度の、実質的に純粋な免疫グロブリンが好ましく、特に製薬用途の場合は98〜99%以上の純度が最も好ましい。必要に応じて部分的又は純粋に精製した後、本願明細書に記載のように、ポリペプチドを治療的又は予防的用途に使用できる。
【0067】
抗体の治療への使用
本発明はまた、患者にEGFRと結合する有効量の抗体を投与することを含む、EGFRにより媒介される癌に罹患するヒトの治療方法の提供に関する。本発明の抗体はEGFRに結合し、その活性化を阻害する。EGFRにより媒介される癌としては、非小細胞肺癌、乳癌、結腸直腸癌、頭部癌及び頚部癌、並びに前立腺ガンなど、様々なものが挙げられるがこれらに限定されない。
【0068】
本発明の抗体又はその抗原結合部は、本発明の抗体を薬理学的に許容できる希釈剤又は賦形剤の中に懸濁させた状態で含んでなる組成物の形態としてもよい。これらの医薬組成物は、自己免疫疾患(好ましくは多発性硬化症)の治療用の公知のいかなる手段によって投与してもよい。好ましい投与経路は非経口投与であり、本願明細書では静脈内、筋肉内、腹膜内、内部胸骨、皮下、及び関節内注射及び注入などの投与様式として定義する。投与量は、受容者の年齢、健康状態及び体重、並行して行っている治療の種類(もしあらば)、治療頻度、及び所望の効果の性質などに依存して変化する。
【0069】
本発明に係る組成物には、癌の治療において所望の医学効果を提供するのに効果的な量の抗体又はその抗原結合部分を含有する全ての組成物が包含される。
【0070】
投与用の医薬組成物は、選択された投与様式にとり適切な態様でされ、必要に応じて、例えば薬学的に許容できる賦形剤(バッファ、界面活性剤、防腐剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤など)を使用してもよい。「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(Mack Publishing社、イーストン、PA、最新版)は当業者に一般に公知であり、製剤技術に関する解説が記載されている。
【0071】
製剤中の抗EGFR抗体の濃度は最低約0.1%〜最高15又は20重量%であってもよく、溶液の体積、粘度、安定性に基づいて主に選択され、特に投与様式の選択によって適宜調節することができる。抗EGFR抗体の好ましい濃度は通常、1〜約100mg/mLの範囲である。好ましくは、10〜約50mg/mLである。
【0072】
製剤は、調製後にフィルター濾過して無菌状態にするか、又は微生物学的に許容できる態様にしてもよい。m−クレゾールもしくはフェノール、又はその混合物などの防腐剤を添加し、微生物の増殖及び汚染を防止してもよい。
【0073】
静脈内点滴用の典型的な組成物は、250mLの液体(例えば無菌のリンガー溶液)で、1mLあたり1〜100mgもしくはそれ以上の抗体濃度を有してもよい。本発明の治療薬は、凍結させるか又は凍結乾燥して保存することができ、また使用前に適切な無菌の担体中で再構成させることができる。凍結乾燥及び還元により、多少の抗体活性の損失(例えば従来の免疫グロブリンの場合、IgM抗体はIgG抗体より大きな活性損失を有する傾向がある)が生じる場合もある。ゆえにそれらを補償するように投与量を調節する必要がある場合もある。
【0074】
上記方法が例えばヒト化抗体などのタンパク質の投与にとり最も簡便及び最適であると考えられるが、適切に剤形を設計して調製することにより、経真皮投与及び経口投与などの他の投与方法により使用することもできると考えられる。更に、生分解可能フィルム及びマトリックス、又は浸透圧ミニポンプ、又はデキストランビーズ、アルギン酸又はコラーゲンを主成分とした輸送システムなどを使用して徐放性製剤を調製することも望ましい。
【0075】
典型的な投与量レベルは、投与様式及び患者の症状を考慮しながら、標準的な臨床技術を使用して最適化することができる。投与量は通常、10μg/kg/月〜10mg/kg/月の範囲である。
【0076】
別の態様は、癌の治療用薬剤としての、本発明の抗体又はその抗原結合部分の使用に関する。
【0077】
更に他の態様では、容器、パッケージ、パッケージ材、ディスペンサなどの製品が包含される。
【0078】
本発明を以下の実施例で例示するが、いかなる形であれ本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0079】
<実施例1>可溶性EGFR(sEGFR)のクローニング及び発現
ヒトEGFRは、細胞外領域、膜貫通領域及び細胞内領域を含んでなる単一のポリペプチド鎖からなる。例えば結合アッセイで可溶性の抗原を使用する際、細胞外領域を以下の通りにクローニングし、発現させた。
【0080】
ヒトEGFRの配列に基づいてプライマーを設計し、RT−PCRによって前駆体タンパク質のN末端側の643のアミノ酸の単離に用いた。上流の「センス」プライマー(プライマー3053)によりクローニング用のKpnI部位を添加し、コンセンサスコザック配列に適合するようにコザック配列及びシグナル配列の第1アミノ酸を改変し、真核生物における発現を向上させた。開始コドンを、下で示される各々の配列中に下線で示す。
プライマー3053:TAA GGT ACC GCT CTT CGG GGA GCC ACC ATG GGA CCC TCC GGG ACG[配列番号78]
天然配列:GCT CTT CGG GGA GCA GCC ATG CGA CCC TCC GGG ACG[配列番号79]。
下流の「アンチセンス」プライマー(プライマー3054)は、1619(成熟型タンパク質のアミノ酸付番に基づく)においてタンパク質合成を終結させ、
(Gly)Serリンカー[Gly Gly Gly Gly Ser、配列番号80]
及び
(His)タグ[配列番号81]
を付与する。XbaI部位を導入してクローニング用に用いた。
プライマー3054:ATG TCT AGA AAC TCA ATG GTG ATG GTG ATG ATG CGA GCC ACC GCC ACC GAT CTT AGG CCC ATT CGT TGG ACA[配列番号82]。融合するリンカー及び(His)タグ[配列番号6]を有する成熟型sEGFRのアミノ酸配列を図2に示す。
【0081】
Fast−Trackキット(Invitrogen社製)を用い、ヒトA431上皮癌細胞(ATCC CRL−1555)からmRNAを単離した。プライマー3053及び3054を用いて、SuperScript 1ステップRT−PCR(GibcoBRL)により遺伝子の細胞外部分を増幅し、ベクターpCRII(Invitrogen社製)にクローニングした。タグを付与した遺伝子部分をDNA塩基配列決定により確認し、pCDNA3.1(Invitrogen社製)発現ベクターのXbaI/KpnIフラグメントとして挿入した。
【0082】
プラスミドDNAを線形にし、CHO−K1細胞にエレクトロポレーションした。ジェネテシン(GibcoBRL)に対する耐性に基づきクローンを選抜した。約100のコロニーに関して、m225(Ab−2)抗体(Lab Vision社)を用いたウエスタンブロッティングによる、可溶性EGFR(sEGFR)の発現の検出を行った。適切な発現を示すクローンを増殖させ、限界希釈によりサブクローニングし、無血清媒体(CHO SFII、GibcoBRL社製)に順化させた。
【0083】
可溶性の抗原を、フラスコ培養の最終時点の上澄みを濃度し、Ni−NTAセファロース(Qiagen、バレンシア、CA)に結合させて半精製した。具体的には、最終時点の細胞上澄みを、遠心分離で細胞をペレット化して回収し、その上澄みを濾過していかなる細胞残渣も除去し、その後の精製処理において0〜4℃に維持した。Amiconコンセントレータを使用して、30,000MWCO膜で、合計約100mlとなるまで上澄みを濃縮した濃縮物を一晩バッファA(:50mMのリン酸ナトリウム(pH8.0)、300mMのNaCl、0.5mMのイミダゾール)で透析した。必要に応じてバッファを一度交換してもよい。透析の後、Ni−NTAビーズを約800μlのバッファAで2〜3回洗浄し、更に50mlのコニカルチューブで透析後の上澄みに添加し、低温室で2時間回転させた。50mlのコニカルチューブ内でビーズをスピンダウンし、上澄みを若干量チューブに残し、大部分の上澄みを他の容器に移した。この上澄みをボルテックスしてはビーズを再懸濁し、ビーズを適切な市販のカラム上へロードした。液体をスルーさせ、残りの上澄みをカラムに添加される。上澄みをカラム2〜3回再利用した。カラムを約10mlのバッファAで洗浄した。カラムから、約3〜4mlのバッファA(200mMのイミダゾールを含有)で溶出し、250μlのフラクションを回収した。ブランクとして溶出バッファを使用して、フラクションのOD280をプレートリーダーで測定した。最も濃縮されているフラクションをプールし、一晩PBSで透析した。プールした透析後のフラクションに1/10量のグリセロールを添加して−70℃で凍結させてもよく、又は透析後のフラクションをビオチン化してもよい(下記参照)。
【0084】
sEGFRを500mMのイミダゾールで溶出し、上記の通りPBSで透析した。sEGFRを含んでなる混合タンパク質フラクションを、Sulfo−NHS−LC−Biotin(Pierce21335)を使用してビオチン化し、余分な試薬を除去するためにPBSで透析した。ビオチン化sEGFR(B−sEGFR)のアリコートを、−80℃で10%グリセロールストックとして保存した。
【0085】
<実施例2>バクテリアで発現させたFabの単離
本発明に係るFabは、以下の通り細菌ペリプラズムから単離できる。OD600nmで約0.9〜1.2に達するまで、2×YT培地中で、37℃で250回転/分で振とうしてXL−0細胞を増殖させた。次いでIPTGを1mM(1Mストックから)の最終濃度に添加した。分析クローンごとに、15mlの細胞液を無菌のコニカルチューブ内で培養した。高い力価のファージストック10μlを用いて細胞を感染させ、37℃で1時間インキュベートした。細胞を25℃の条件に移し、振とうしながら一晩増殖させた。卓上臨床用遠心分離機で25分間、〜2000×gで細胞を沈殿させた。次に細胞をエッペンドルフチューブへ移し、1mlの30mMトリス−Cl(pH8.0)、150mMのNaCl溶液中にピペッティングにより再懸濁した。微量遠心分離機を用い、8000回転/分で3分間サンプルを沈殿させた。上澄みを吸引除去した。ペレットを50mMのトリス−Cl(pH8.0)、150mMのNaCl、500mMのショ糖中に再懸濁し、更にボルテックスし、30分間の氷上に配置した。微量遠心分離機を用い、4℃、9000回転数/分で10分間処理し、細胞破片を沈殿させた。上澄みを単離し、4℃で保存した。
【0086】
<実施例3>フィルタリフトによるFabの同定
ビオチン化sEGFRと結合する、ファージにより発現されたFabを、Fabフィルター又は捕捉リフトによって多様なFabを含有する集団から検出した。ctファージはFabを発現し、それは例えば、ファージにより発現された多様なFabの集団の中でもB−sEGFRと結合した。簡潔には、フィルターを捕捉試薬(ヤギ抗ヒトκ鎖抗体)でコーティングし、そのコーティングされたフィルターを、Fabを発現するファージによるファージプラークを有するプレートに配置した。フィルターをプラークと共にインキュベートし、更にフィルターをビオチン化sEGFRでインキュベートし、結合したビオチン化sEGFRを、Neutravidin−APの結合、及び検出可能なアルカリホスファターゼ基質とのインキュベートにより検出した。
【0087】
具体的には、ニトロセルロース(BA85,Schleicher and Schull)フィルターを、室温で2時間、PBS中の10μg/mLヤギ抗ヒトκ抗体(2060−01、Southern Biotech)5mLに浸漬することによってコーティングした。フィルターを15分間水に浸漬した。フィルターを3回PBSで洗浄した。フィルターを1時間、PBS(1%BSA含有)でブロッキングした。フィルターを3回PBSで洗浄した。フィルターを10分間空気乾燥した。フィルターを慎重にファージプレート上に配置し、22℃で一晩インキュベートした。フィルターを慎重に剥離し、短時間PBSで洗浄した。3%の粉ミルク、0.05%のTween20を含有するPBS中にビオチン化抗原を1/1000希釈した溶液を調製し、室温で1時間フィルターをインキュベートした。フィルターをPBS(0.05%のTween20を含有)で3回真空洗浄した。PBS(0.05%のTween20を含有)中にNeutravidin−APを1/1000希釈した溶液を調製し、室温で30分間フィルターをインキュベートした。フィルターをPBS(0.05%のTween20を含有)で3回真空洗浄した。10mlのAP基質(ニトロブルーテトラゾリウム、5−ブロモ−4−クロロ−インドリルリンホスフェート、Pierce社製、ロックフォード、IL)中でフィルターを発色させた。プラークを、青色の強度に基づいて選抜した。
【0088】
<実施例4>Fab結合sEGFRの捕捉ELISAアッセイ
捕捉ELISAを用いて以下の通りにアッセイし、sEGFRと結合するFabを検出した。Costar社製のU字底プレートを、10μg/mLでヤギ抗ヒトκ抗体(2060−01 Southern Biotech社製、Birmingham AL)を含む炭酸塩バッファ(0.015M炭酸ナトリウム、0.035M重炭酸ナトリウム(pH9.5))で、50μL/ウェルで4℃で一晩コーティングした。ウェルをPBS−Tween20(0.05%)で3回洗浄した。ウェルをRTで1時間、PBS−Tween中の1%BSA溶液で、50μL/ウェルでブロッキングした。ウェルをPBS−Tweenで3回洗浄した。ペリプラズムから調製したFab(実施例2を参照、PBS−Tweenで5μg/mLに希釈)を1:5の希釈系列により、50μL/ウェルで添加した(2サンプル調製)。プレートをRTで2時間インキュベートした。プレートをPBS−Tweenで3回洗浄した。50μL/ウェルでビオチン化sEGFR(PBS−Tweenで1/1000希釈)を添加、プレートをRTで1時間インキュベートした。プレートをPBS−Tweenで3回洗浄した。50μL/ウェルのNeutravidin−アルカリホスファターゼ(Neutravidin AP、Pierce社製,Rockford,Ill)(PBS−Tweenで1/1000希釈)をRTで添加し、30分間インキュベートした。プレートをPBS−Tweenで3回洗浄した。150μL/ウェルでpNPP基質(Sigma社製)を添加し、発色するまで37℃でインキュベートした。プレートをOD405で測定した。
【0089】
FabのsEGFRへの結合を捕捉アッセイで解析した結果を図1に示す。
【0090】
<実施例5>A431癌細胞可溶化物に対するFab結合アッセイ
EGFRに対するFab結合を、以下の通りA431癌細胞可溶化物を用いてアッセイすることもできる。A−431細胞可溶化物を、“Purification of an Active EGF Receptor Kinase with Monoclonal Antireceptor Antibodies,Yardenら(1985)J.Biol.Chem.,260,315−319”に記載のとおり調製した。すなわち、コンフルエントなA−431細胞の単分子層を、PBSで2回、更にHNEG(20mMのHepesバッファ(pH7.5)、150mMのNaCl、1mMのEGTA、10%のグリセロール)で1回洗浄した。細胞をHNEGの20mL中に掻き取り、10分間600×gで遠心分離した。10個の細胞を1mLの可溶化バッファ(50mMのHEPES(pH7.5)、150mMのNaCl、1%のTriton X−100、10%のグリセロール、1mMのEDTA、1,5mM MgCl、5μg/mLのロイペプチン、1%のアプロチニン)中に懸濁し、更にガラスガラスホモジナイザでホモジナイズした。30分間40,000×gで遠心分離し、不溶性物質を除去した。透明な上澄みを回収し、−80℃で凍結させた。
【0091】
Costar社製のU字底プレートを、10mM HEPES(pH7.4)、0.1%トリトンX−100溶液で1/20希釈した細胞可溶化物で50μL/ウェルでコーティングし、フード中で一晩乾燥させた。プレートを、PBS(0.5%のBSA含有)で、100μL/ウェルで添加してブロッキングし、RTで1時間インキュベートした。プレートをPBS(0.05%のTween)で3回洗浄した。50μl/ウェルでFabを添加し、PBS(0.05%のTween)を用いて1〜5μg/mlで1/5希釈系列を作製し、RTで1時間インキュベートした。プレートをPBS−Tweenで3回洗浄した。ヤギ抗ヒトκ−AP(2060−01,Southern Biotech社製、Birmingham,AL)のPBS−Tween中1/2000希釈液を、100μL/ウェルで添加した。プレートをRTで1時間インキュベートした。プレートをPBS−Tweenで3回洗浄した。150μL/ウェルでpNPP基質(N−9389,Sigma社製,Saint Louis,MO)[Source/Cat.#](1タブレット/3mLの水)を添加し、37℃で最高1時間インキュベートした。プレートをOD405で測定した。
【0092】
<実施例6>抗EGFR抗体による細胞増殖の抑制
A431表皮癌細胞による細胞増殖アッセイを行い、抗EGFR Fabの相対的な力価を測定した。先行技術文献に従いアッセイを行い(Satoら、“Biological Effects in vitro of Monoclonal Antibodies to Human Epidermal Growth Factor Receptors”,(1983),Mol.Biol.Med.,1,511−529)、それにより抗EGF受容体抗体に応答したA431細胞の細胞増殖の低下が示された。細胞増殖アッセイは、以下の通りである。A431細胞を、DMEM(10%のFBS含有)において培養した。第1日目に細胞を、20分間PBS中に置き、表面コーティングの5分前にトリプシン処理した。multidrop384を使用して、Greiner384 TC処理した細胞培養プレート上に、ウェル当たり15,000の細胞の細胞密度で細胞を384ウェルフォーマットでプレーティングした。最終的な溶媒体積を50μlとした。細胞培養プレートをairporeテープ(Qiagen社製、バレンシア、CA)で被覆した。朝までかけて細胞を付着させた。第2日目に細胞培養培地を除去し、フェノールレッドフリーなDMEM培地(FBS無し)[「コントロールウェル」]、又は2.5μg/mlの予想濃度でFabペリプラズム調製物(実施例2を参照)を含むDMEM培地[「処理ウェル」](2サンプル調製)を各50μl用いて培地交換した。2つのコントロールウェルを、各処理セルに隣接させて調製し、合計192のコントロールウェルとした。第3日目に、培地を除去し、MTS細胞増殖試薬(Promega社製、マディソン、WI、1ml/10ml培地)を含有するフェノールレッドフリーのDMEM培地で培地交換した。15及び30分後における490nmの吸光度を記録した。処理ウェルにおける全ての2サンプルの平均値を、全てのコントロールウェルの平均値で除算した。
【0093】
Fabを用いたアッセイの代表的な結果を図2に示す。同様に、完全長抗体によるアッセイの代表的な結果を図3に示す。Fab又は抗体の非存在下で細胞をインキュベートした場合(=100%)のシグナルに対する、得られたシグナルのパーセンテージを図2及び3各々に示す。但しシグナル強度のパーセンテージが、完全に実際の細胞数と必ずしも相関するわけではない点に留意する必要がある。
【0094】
<実施例7>結合親和性
本発明の完全長のモノクローナル抗体の結合親和性の測定を、Sapidyne KINEXAアッセイを使用して行った。NHSで活性化した高流速セファロースビーズ(GE Healthcare社製)を、抗原(ビーズ1ml当たり50μgの抗EGFR抗体)でプレコートし、1Mのトリス−HCl(pH8.0)(10mg/mlのBSA含有)でブロッキングした。次に本発明の抗体2pM、4pM、40pMを、バッファ(PBS、0.005%(v/v)のTween−20及び1mg/mlのオバルブミン)中で、様々な濃度のsEGFR(例えば2.4pM〜10nM、連続希釈)と、室温で10時間インキュベートした。平衡時に存在するフリーの抗体を測定するため、各サンプルを、sEGFRコーティングしたビーズ中を通過させた。次にランニングバッファ中のバッファ蛍光(Cy5)標識したヤギ抗ヒトFc抗体(Jackson Immuno Research)(1:4000希釈溶液)をビーズ中に通し、ビーズに結合した抗体の量を測定した。測定された蛍光シグナルは平衡時のフリーの抗体濃度と比例していた。sEGFRの各濃度測定を2度実施した。多数曲線、1部位均一結合モデル(KINEXAソフトウェア)を使用して、競争曲線の非線形回帰から平衡解離定数(K)を得た。
【0095】
sEGFR結合のための結合速度定数(kon)も、Sapidyne KINEXAアッセイを使用して得た。上記と同じ条件を使用して、2pM抗体と20pMのsEGFRを混合した。幾つかの時点で、上記の条件を用いて、平衡結合時のフリーの抗体濃度を解析し、更に得られた時間との相関関係を、KINEXAソフトウェアを結合速度(kon)を用いて解析した。計算式koff=Kd×konを使用して、解離速度定数(koff)を算出した。完全長のモノクローナル抗体の親和性を上記のアッセイにより測定し、得られた結果を以下の表4に示す。
【0096】
表4:抗体親和性(KinExA3000 Instrument(Sapidyne社製)による測定)
【表4】

【0097】
<実施例8>EGFRのリン酸化
【0098】
EGFRのリン酸化を阻害する本発明の抗体の能力を、以下の通りにアッセイした。A431細胞を6ウェルプレートの〜70%コンフルエンスまで増殖させ、DMEM培地(0.5%FBS)を用いた血清飢餓の状態で一晩培養した。次に細胞を、100nM EGF(Upstate社製)の存在下で希釈した抗体と1時間インキュベートした。細胞を冷却PBS(50mMのトリス−HCl(pH7.4)、1%のIGEPGAL CA−630、0.25%のデオキシコール酸ナトリウム、150mMのNaCl、1mMのPMSF、1mMのバナジウム酸ナトリウム(NaVO)、1mMのNaF、1/2タブレットのプロテアーゼカクテル(/10mL))で洗浄し、0.5mLの溶解緩衝液を用いて溶解させた。10,000回転数/分で30分間超遠心分離を行い、不溶性物質を除去した。細胞可溶化物をタンパク質濃度に合わせて調製し、各抽出液を等量用い、SDS−PAGEで分離した。リン酸化されたEGFRをウエスタンブロットに供し、抗リン酸化EGFR抗体(Upstate)で発色させて解析した。
【0099】
モノクローナル抗体C225、VH4.15及びVH4.21の存在下におけるEGFRのリン酸化の結果を図4に示す。図5に示すように、リン酸化の抑制は、モノクローナル抗体C224及びVH4.15の結果との比較による、細胞ベースのアッセイにおける細胞の抗体力価と相関していた。
【0100】
<実施例9>抗EGFR抗体によるアポトーシスの誘導
EGFR活性化を阻害する抗EGFR抗体の能力を、以下の通りA431細胞のアポトーシス誘導によりアッセイした。24ウェルプレート中に20000細胞/ウェルでA431細胞を添加し、1.0μg/mLの抗体を用いて0、3、7、24又は48時間インキュベートした。アポトーシスは、DNAフラグメント用のELISA(Roche社製)で測定した。非特異抗体によるベースのアポトーシスを平均値から減算した。
【0101】
完全長モノクローナル抗体C225、ABX−EGF及びVH4.15を用いた抗EGFRによるA431細胞のアポトーシス誘導の結果を図6に示す。
【0102】
<実施例10>抗EGFR抗体によるモデルマウスのA431腫瘍の治療
抗EGFR抗体のin vivoにおけるEGFRの活性化を阻害する能力を、A431腫瘍細胞株を保持するモデルマウスに対する複数種の抗体の投与によりアッセイした。この腫瘍モデルマウスアッセイを、以下の通り実施した。第0日目に、培養したA431細胞を調製し、細胞数を計測し、5×10細胞濃度で再懸濁させた。7週齢のオスのCB17−SCIDマウス(Taconic社製)の左の横腹(EC)に、10細胞(すなわち200μl)で皮下注射した。腫瘍が〜300mm(通常約21日後)となった後、動物に対して毎週二回(火曜/金曜)腹膜内に約250〜300μlの0.5mg抗体/マウスで注射し、一方コントロール動物群では250μlの生理食塩水を投与した。合計5回の抗体注入を実施した。腫瘍体積を、抗体の最初の投与から3週間の間、週3回測定した。
【0103】
モデルマウスにおけるA431腫瘍の抗EGFR抗体による処理の結果を図7に示す。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】Fab2.69、4.15、4.21、キメラ抗体C225及びヒト抗体AGX−EGFを用いて捕捉ELISAの結果を示す。
【図2】Fab4.14、4.15、4.21、4.4及びキメラ抗体C225を用いたA431細胞の増殖アッセイの結果を示す。
【図3】完全長抗体4.15、げっ歯類抗体225及びキメラ抗体C225を用いたA431細胞の増殖阻害を示す。
【図4】抗体4.15、4.21又はキメラ抗体C225とプレインキュベートしたA431細胞において検出された、リン酸化EGFR(p−Tyr EGFR)の量を示す。
【図5】抗体4.15及びキメラ抗体C225によるA431細胞増殖の抑制が、EGFRリン酸化の阻害と相関することを示す。
【図6】完全長抗体4.15、キメラ抗体C225及びヒト抗体ABX−EGFを用いた、抗体によるA431細胞のアポトーシス誘導アッセイの結果を示す。
【図7】完全長抗体2.69、4.15、4.21及びキメラ抗体C225を用いた、モデルマウスにおけるA431腫瘍の抑制を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01pM〜10pMのKd値でEGFRと結合する、EGFR特異的なモノクローナル抗体又はその抗原結合部分。
【請求項2】
10pM以下のKd値でEGFRと結合する、EGFR特異的なモノクローナル抗体又はその抗原結合部部分。
【請求項3】
該抗体が更にEGFRの活性化を阻害する、請求項1又は2記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項4】
該抗体が
配列番号43に示すアミノ酸配列を含むHCDR1、
配列番号44に示すアミノ酸配列を含むHCDR2、
配列番号45に示すアミノ酸配列を含むHCDR3、
配列番号46に示すアミノ酸配列を含むLCDR1、
配列番号35に示すアミノ酸配列を含むLCDR2及び
配列番号47に示すアミノ酸配列を含むLCDR3
を含んでなる、請求項1から3のいずれか1項記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項5】
EGFR特異的な抗体又はその抗原結合部分であって、該抗体が、
a)配列番号49及び配列番号66、
b)配列番号51及び配列番号68、
c)配列番号55及び配列番号72及び
d)配列番号56及び配列番号73からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなる重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含んでなる、該抗体又はその抗原結合部分。
【請求項6】
該抗体が完全長抗体、実質的に完全長抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント又は単鎖Fvフラグメントである、請求項1から5のいずれか1項記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
該抗体がヒト化抗体である、請求項1から6のいずれか1項記載のモノクローナル抗体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項記載の抗体をコードするポリヌクレオチドを含んでなる単離された核酸。
【請求項9】
請求項8記載の核酸を含んでなる発現ベクター。
【請求項10】
請求項9記載の発現ベクターで安定にトランスフェクションされた宿主細胞。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか1項記載の抗体及び薬学的に許容できる担体を含んでなる医薬組成物。
【請求項13】
患者におけるEGFRにより媒介される癌の治療方法であって、請求項1から7のいずれか1項記載の抗体を該患者に有効量で投与することを含んでなる方法。
【請求項14】
薬剤として用いられる、請求項1から7のいずれか1項記載の抗体。
【請求項15】
患者におけるEGFRにより媒介される癌の治療用薬剤の製造への、請求項1から7のいずれか1項記載の抗体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−515878(P2009−515878A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540121(P2008−540121)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/043311
【国際公開番号】WO2007/058823
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】