説明

抗EPCR抗体の存在に関連する病状の進展の危険性および傾向の評価方法

本発明は、活性化PC/PCの内皮受容体(EPCR)に対する高水準の抗体の存在を検出する方法に関する。本発明は、試料中の抗EPCR抗体のイン・ビトロでの検出および定量を含んでなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、試料中の内皮タンパク質C/活性化タンパク質C受容体(EPCR)に対する高水準の自己抗体をその検出およびイン・ビトロ定量によって検出する方法に関する。
【0002】
背景技術
自己免疫疾患
自己免疫疾患は、宿主組織に対する免疫反応とこの組織を攻撃する異常抗体(自己抗体)の産生とを誘発する、免疫反応の存在を特徴とする。これらの自己免疫疾患としては、一般に、抗リン脂質症候群(APLS)、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、自己免疫脈管炎などの障害が挙げられる。
【0003】
APLSは、血管血栓症(静脈、動脈または微小血管性)および抗リン脂質抗体の存在と関連した妊娠中の合併症(胎児死亡、早産または多発性自然流産)を特徴とする。これらの抗体は異質性であり、リン脂質、リン脂質結合タンパク質、または両方の様々な組合せを認識する。最も普通に検出される抗リン脂質抗体サブグループは、いわゆるループス性抗凝固因子抗体(ACL)、抗カルジオリピン抗体、および抗糖タンパク質Iβ2抗体を含んでなる。古典的な研究基準には包含されない他の抗リン脂質抗体が、現在研究されている。このような抗体は、ホスファチジルエタノールアミンのようなカルジオリピン以外のリン脂質、またはアネキシンVおよびプロテインSのようなリン脂質結合タンパク質を標的としている。しかしながら、血管血栓症および流産に対する抗リン脂質抗体の存在に関する機構についてはほとんど知られていない。
【0004】
脈管疾患
脈管疾患には、関与する血管の種類(動脈、静脈、または微小循環の小口径脈管)による3つの主要な型がある。動脈血管疾患の場合には、壁側硬化症により血管腔中の血流が減少し、従って損傷した血管によって湿った部分の血液供給が慢性的に減少する。このアテローム性動脈硬化症は、合併症を引き起こし、動脈内に血栓を生じ、動脈を完全に閉塞し、血流を完全に遮断する可能性がある。この場合には、組織梗塞が起こる。この現象の最も頻繁に見られる例は、血栓症が冠動脈を冒すときには心筋梗塞であり、または冒される血管が脳動脈であるときには脳卒中である。静脈血管疾患の場合には、血栓症が心臓への回帰血流を悪化させる。血栓性静脈壁の血栓の断片が剥離すると、それが肺静脈循環中に至るまで血流中を移動し、急性肺不全(肺塞栓症として知られる状態)を引き起こす。微小循環の疾患は、様々な臓器における微小循環の血管の炎症および/または血栓症に対して二次的に発現し、微小循環が損傷している臓器不全として現れる。脈管疾患は、西欧諸国における罹患率および死亡率の重要な原因である。特に、2000年に対応するInstituto Nacional de Estadistica(INE)(国立統計学研究所)のデーターによれば、循環器疾患はスペインにおける死亡の第一原因(全死亡率の約35.0%)である。最も頻繁に見られる循環器障害の中でも、心臓の血管または血栓性動脈疾患(主として、急性心筋梗塞)が死亡の第一原因となっている。現在のところ、幾人かの患者における血栓症の存在を識別することができる多数の分子危険因子が同定されている。このような危険因子の一つは、いわゆる抗リン脂質抗体の存在である。当初、これらの自己抗体はアニオン性リン脂質を標的としていると信じられていたが、その後、これらの自己抗体の多くは、糖タンパク質Iβ2またはプロトロンビンのようなタンパク質と、リン脂質との間に形成された複合体を標的としていることが示された。更に近年、プロテインC(PC)、プロテインS、トロンボモジュリンまたはアネキシンVのような抗凝固薬の役割を有する他のタンパク質も関与しており、これらの自己抗体の存在により血栓症に罹患しやすくなる理由が説明されている。
【0005】
産科的合併症
産科的合併症は、基本的には妊娠10週後の胎児死亡、未熟児の誕生、妊娠10週以前の自然流産、子宮内発育遅延、子癇、および前子癇(pre-eclampsia)を含んでなる。
【0006】
EPCR
活性化プロテインC(APC)は、主要な凝固カスケード調節タンパク質の一つである。APCのチモーゲンであるPCは、内皮細胞表面のトロンボモジュリンに結合したトロンビンによって活性化される。APCは、プロテインS(その非酵素的補助因子)と共同して、活性化因子VおよびVIIIのタンパク質分解を介してその抗凝固薬としての役割を発揮する。トロンボモジュリンでの遺伝的および後天的欠損においては、PCおよびプロテインSが静脈および/または動脈血栓症の患者に検出されてきた。内皮PC/活性化PC受容体(EPCR)は、内皮細胞の膜上で発現した糖タンパク質であり、特異的かつ高親和性でPCおよびAPCと結合するものである。EPCRが機能性であるためには、その三次元構造を安定化するリン脂質分子に結合しなければならない。PCのEPCRへの結合は、内皮細胞表面におけるトロンビン−トロンボモジュリン複合体により、その活性化を著しく増加する。EPCRの使命は、内皮細胞上のPCを濃縮し、それをトロンビン−トロンボモジュリン複合体に提示することによって、効率的なPC活性化を助けることである。EPCRは、イン・ビボで内皮細胞表面のPC活性化指数の増加を約9倍誘発し、その結果として、APCの循環水準の90%に関与する。さらに、APCがEPCRに結合しているときにのみ、それはプロテアーゼ活性化受容体−1を活性化することができ、これが「細胞防御的」細胞シグナルを生じ、アポトーシスをブロックするのである。
【0007】
EPCRは、主として静脈および動脈の内皮、特に大および中口径のものによって発現される。さらに、これは、合胞体栄養細胞層によって強く発現される。これらの位置において、EPCRは血栓症を予防し、内皮および合胞体栄養細胞層のいずれの細胞機能をも良好に支持する。ノックアウトマウスでのEPCR遺伝子の欠失によりこれらマウスにおける胎盤血栓症および早期胎児死亡が引き起こされることに続いて、EPCRは妊娠の維持に役割を果たしていることを示唆するしっかりした証拠が増えてきている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、被験者の試料における抗EPCR自己抗体(IgG、IgAおよびIgM)を測定する方法に関する。一方、これらの自己抗体は、自己免疫疾患(APLSおよび播種状エリテマトーデス)と診断された患者、血管性疾患(静脈および動脈血栓症の患者、および産科的合併症の女性患者に存在することが明らかにされている。本明細書の説明に伴う実施例は、とりわけ血清または血漿における抗EPCR自己抗体の存在が、自己免疫疾患の患者(APLSまたは播種状エリテマトーデスの患者で測定)、動脈血栓症、例えば、心筋梗塞(APLSの患者およびAPLSのない患者の両方で測定)、虚血性発作(APLSの患者で測定)、または静脈血栓症(APLSの患者で測定)の患者、並びに胎児死亡(APLSの婦人およびAPLSのない婦人の両方で測定)または多発性流産(APLSの患者で測定)のような産科的合併症の患者で増加するという事実を説明している。
【0009】
本発明者らは、自己免疫疾患の患者、および/または血管疾患の患者、および/または産科的合併症の患者の血清または血漿中の抗EPCR自己抗体の存在量が、上記疾患に冒されていない健康な被験者の試料と比較して増加することを見出した。これらの証拠により、上記の抗EPCR自己抗体は、自己免疫疾患、血管疾患、または産科的合併症のようなEPCRに対して高水準の自己抗体の存在と関連した疾患を発現する被験者の危険性および感受性についてイン・ビトロ評価を行うための有用なマーカーとされる。
【0010】
APLSの患者における抗EPCR自己抗体の存在およびそれらと胎児死亡との関係について研究が行われてきた。内皮表面上のAPCの生成に対するこれらの自己抗体の効果も、評価されてきた。その後、患者−対照組合せ研究における胎児死亡に対する抗EPCR自己抗体の関連性が、研究されてきた。得られた結果は、抗EPCR自己抗体が胎児死亡の危険因子であることを支持している。EPCRを発現する細胞表面上のPCの活性化を防止することは、これらの自己抗体がその病理学的効果を発揮する1機構であり得る。
【発明の具体的説明】
【0011】
定義
本発明出願明細書の理解を容易にするため、本発明に関して用いる幾つかの用語および表現の意味を下記に説明する。
【0012】
「被験者」という用語は、哺乳類の種の一員を指すものであり、飼い慣らされた愛玩動物、霊長類およびヒトが挙げられるが、これらに限定されず、被験者は好ましくは任意の年齢または人種のヒト(男性または女性)である。
【0013】
「自己免疫疾患」という表現は、免疫系が宿主組織に対して反応して、広汎な障害を生じる疾患を指す。例えば、これらの疾患としては、(特に)APLS、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、自己免疫脈管炎などが挙げられる。
【0014】
「脈管疾患」という表現は、血管を冒す障害を指す。動脈が関与するときには、その血管によって灌注される補助的領域は灌流が不足する。この状態は通常、壁のアテローム性動脈硬化症の病巣に起因する動脈梗塞、または血栓症、または両方同時のものに対して二次的なものである。静脈の関与もまた、冒された末梢部位から心臓への血液還流の合併症によって定義され、通常は静脈血栓が形成される結果血管閉塞を生じる。これらが微小循環を冒す場合、臓器の障害であってその機能を行うための微小循環が冒されているものによって特徴付けられる。例えば、このような疾患としては、(とりわけ)心筋梗塞、脳卒中、一過性の脳血管障害、四肢虚血(ischemia of limbs)、アテローム性動脈硬化症、動脈瘤などのような動脈血管傷害、並びに皮および深静脈血栓症、肺動脈塞栓症などのような静脈血管疾患、および感染中または自己免疫疾患に関して見られる臓器不全の形態での微小循環病理学(血栓症)が挙げられる。
【0015】
「産科的合併症」という表現は、懐妊母体および胚または胎児の両方に関連するように、妊娠の発生に影響する障害を指す。例としては、流産、胎児死亡、早産、子宮内発育遅延、子癇、および前子癇(pre-eclampsia)が挙げられる。
【0016】
「自己抗体」という用語は、被験者によって産生されかつ自身の産生物における宿主構造および組織に向けられた(または特異的な)抗体、例えば、抗血小板自己抗体、抗甲状腺自己抗体、赤血球に対する自己抗体などを指す。この意味において、「抗EPCR自己抗体」という用語は、被験者によって産生されかつ彼または彼女自身の組織のEPCRに特異的に向けられた免疫グロブリンまたは抗体を指す。
【0017】
本発明で用いられる「エピトープ」という用語は、タンパク質の抗原決定基、例えば、そのアミノ酸配列であって、問題の抗体によって認識されるものを指す。
【0018】
「ペプチド」および「ポリペプチド」という用語は、タンパク質断片を表すアミノ酸の分子鎖を指す。「タンパク質」と「ペプチド」という用語は、区別せずに用いられる。
【0019】
本発明は、自己免疫疾患の患者、および/または血管疾患の患者、および/または産科的合併症の患者の抗EPCR自己抗体の産生が、これらの疾患に罹っていない健康な被験者からの試料と比較して増加するという観察に基づいている。この証拠により、このような抗EPCR自己抗体は、EPCRに対する高水準の自己抗体の存在と関連した病変を発現する所定の被験者の危険性および感受性のイン・ビトロ評価を行うための有用なマーカーであると定義される。
【0020】
本明細書の説明において用いられる「高水準の抗EPCR自己抗体」という表現は、正常個体群の50百分位数(percentile)以上のAU(任意単位)の水準を指し、例えば、正常個体群の60百分位数以上、正常個体群の70百分位数以上、正常個体群の80百分位数以上、正常個体群の90百分位数以上、および正常個体群の95百分位数以上のAUの水準が挙げられる。被験者間の変動性(例えば、人種などに関する側面)のため、総ての被験者に適用可能な高水準の抗EPCR自己抗体を示す絶対値を確立することは(実際上不可能ではないにしても)極めて困難である。上記のような百分位数は、正常被験者(すなわち、試験の時点で自己免疫疾患と診断されていない、または血管疾患または産科的合併症の前歴を持たないヒト)の群の抗EPCR自己抗体の水準の試験を含む通常の手順によって容易に計算することができる。抗EPCR自己抗体の測定は、任意の通常の方法、例えば、「材料および方法」(実施例1)に記載のELISAを用いて行うことができる。論理上は、それぞれの被験者はある程度の水準(AU)の抗EPCR自己抗体を提示し、具体的な抗EPCR自己抗体水準は、分析が行われる個体群のうち50%が検出される水準を上回るものと同定される。この値は、50百分位数である。試験を受ける正常被験者のうち40%を検出することができる水準を上回る値(AU)も存在し、この値は60百分位数に対応する。次に、試験を受ける正常被験者のうち30%、20%、10%、および5%を検出することができる水準を上回る他の値を定義することもでき、それぞれ70、80、90および95百分位数に対応する。
【0021】
本発明は、試料中の内皮タンパク質C/活性化タンパク質C受容体(EPCR)に対する高水準の自己抗体の存在を評価する方法であって、被験者由来の上記試料中のEPCRに対する自己抗体のイン・ビトロでの定量を含んでなることを特徴とする方法を提供する。これらの高水準の自己抗体は、自己免疫疾患(例えば、APLS、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、自己免疫脈管炎など)、脈管疾患(例えば、心筋梗塞、脳卒中(stroke)、一過性脳血管障害、四肢虚血、アテローム性動脈硬化症、動脈瘤、血栓症などのような動脈疾患、または皮または深静脈血栓症、および肺塞栓症などのような静脈疾患、または微小循環の血管疾患)、および産科的合併症(例えば、流産、胎児死亡、早産、子宮内発育遅延(delayed intrauterine growth)、子癇、および前子癇(pre-eclampsia)など)から選択される病状に関連している。従って本発明の主題であるこの方法は、所定の時間にわたる抗EPCR自己抗体の水準の変動の測定に応用することができる。本発明の目的であるこのような測定は、それらを正常水準の抗EPCR自己抗体と比較することによって行うことができる。
【0022】
上記の方法は、任意の通常の方法、例えば、血液採取によって得ることができる、血清または血漿の試料などの試料を被験者から採取する工程を含んでなる。
【0023】
これらの試料は、自己免疫疾患、または血管疾患、または産科的合併症と以前に診断されたまたは診断されていない被験者から得ることができる。それらは、治療を受けているまたは上記疾患または合併症について以前治療を受けたことがある被験者から得ることもできる。
【0024】
本発明の方法の性質を考慮すれば、これらの抗EPCR自己抗体の検出および定量は、特異的抗原−抗体複合体の形成を検出および定量することができるマーカーとカップリングした(coupled to)免疫試験、例えば、免疫クロマトグラフィー試験(ラテックス、コロイド状金など)、マーカーが蛍光性であるか、同位体、重金属、酵素、発光マーカー、化学発光マーカー、色原体などである免疫試験によって行われる。
【0025】
非標識抗体(一次抗体)および標識抗体(二次抗体)の使用を含む広汎な周知の試験を、本発明で用いることができる。これらの手法としては、ウェスタンブロット法またはウェスタン転移、ELISA(酵素免疫測定法)、RIA(ラジオイムノアッセイ)などが挙げられる。
【0026】
特定の態様によれば、これらの抗EPCR自己抗体の検出および/または定量を行うことができる本発明の方法における好ましい免疫試験は、ELISA試験であって、
a) EPCRアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、または抗EPCR自己抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片を固形支持体に固定し、
b) 上記固定したポリペプチドと、上記被験者から得た抗EPCR自己抗体を含むと思われる試料とを十分な時間インキュベーションして抗体を固定したポリペプチドに結合させ、ポリペプチド−抗EPCR自己抗体複合体を形成し、
c) 固定したポリペプチドに結合していない残りの試料を除去し、
d) ポリペプチド−抗EPCR自己抗体複合体と、酵素に接合した第二の抗体とをインキュベーションし、第二の抗体が上記抗EPCR自己抗体に結合することができること
を含んでなるELISA試験である。
【0027】
EPCRアミノ酸配列を含んでなるこのポリペプチドまたは抗EPCR自己抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片は、完全長のEPCRのアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、またはEPCRの断片のアミノ酸配列を含んでなりかつ抗EPCR抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むポリペプチドであることができる。特定の態様によれば、上記ポリペプチドは、融合タンパク質であって、
i) EPCRアミノ酸配列を含むポリペプチド、または抗EPCR抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片から構成される領域A、および
ii) 融合タンパク質を単離しまたは精製するのに用いるアミノ酸配列、および/または上記融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いるアミノ酸配列を含むポリペプチドから構成される領域B
を含んでなる上記融合タンパク質である。
この領域Bは、領域Aのアミノ末端または領域Aのカルボキシル末端に結合することができる。
特定の態様によれば、領域AはヒトEPCRの可溶性部分のアミノ酸配列を含んでなる。
【0028】
領域Bは、上記で定義した融合タンパク質の単離または精製に用いるアミノ酸配列、および/または上記融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いるアミノ酸配列を含んでなる。実際には、融合タンパク質を単離または精製するのに用いることができる任意のアミノ酸配列(一般に「タグ」ペプチドと呼ばれる)、および/または融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いることができる任意のアミノ酸配列が、領域Bに存在することができる。場合によっては、融合タンパク質の単離または精製に用いるアミノ酸配列は、上記の融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いるアミノ酸配列として作用することもでき、またその逆もまた同様である。特定の態様によれば、領域Bは、融合タンパク質の単離または精製に用いるアミノ酸配列と融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いるアミノ酸配列を含んでなる。
【0029】
一例として、融合タンパク質を単離しまたは精製するのに用いるアミノ酸配列、および/または融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いるアミノ酸配列が、Argタグ、Hisタグ、FLAGタグ、Strepタグ、c−myc−タグのような抗体によって認識することができるエピトープ、SBPタグ、Sタグ、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、キチン結合ドメイン、グルタチオンS−トランスフェラーゼタグ、マルトース結合タンパク質、NusA、TrxA、DsbA、Aviタグなど(Terpe K., Appl. Microbiol. Biotechnol. (2003), 60:523-525)、Ala-His-Gly-His-Arg-Pro(配列番号:4)(2、4および8コピー)、Pro-Ile-His-Asp-His-Asp-His-Pro-His-Leu-Val-Ile-His-Ser(配列番号5)、Gly-Met-Thr-Cys-X-X-Cys(配列番号6)(6回反復)、β−ガラクトシダーゼ、VSV−糖タンパク質(YTDIEMNRLGK)などのようなアミノ酸配列であることができる。
【0030】
特定の態様によれば、上記領域Bは、抗体によって認識することができるエピトープ(例えば、c−mycエピトープ、抗c−myc抗体によって認識される)およびヒスチジンの尾部(a tail of histidines、 Hisタグ)を含んでなるポリペプチドからなっている。
【0031】
本明細書の説明に伴う実施例では、rhsEPCRと呼ばれるポリペプチドであって、ヒトEPCRの可溶性部分(hsEPCR)のアミノ酸配列、c−mycエピトープに対応するアミノ酸配列、およびヒスチジンの尾部(このアミノ酸配列は配列番号3に示されている)を含む融合タンパク質からなるポリペプチドの産生が開示される。
【0032】
本発明の方法に用いられるポリペプチドは、通常の方法によって、例えば、適当な発現系における発現によって得ることができる。
【0033】
上記のELISA試験で用いられる第二の抗体は、検討を行う被験者の種とは異なる種に由来する免疫グロブリンアイソタイプ特異抗体であり、これにより抗EPCR自己抗体のアイソタイプを特性決定することができる。例えば、所定の免疫グロブリンアイソタイプに特異的なこの第二の抗体は、抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgM抗体、抗ヒトIgA抗体、およびそれらの混合物から選択される。特定の態様によれば、第二の抗体は、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)のような複合体を検出することができるマーカーに接合している。
【0034】
他の態様によれば、本発明は、被験者における高水準の抗EPCR自己抗体の存在に関係した病状を発生する上記被験者の危険性および感受性を評価する方法であって、上記被験者由来の試料におけるEPCRに対する自己抗体のイン・ビトロ定量を含んでなる、方法を提供する。
【0035】
特定の態様によれば、被験者におけるEPCRに対する高水準の自己抗体の存在に関係した病状は、APLS、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、自己免疫脈管炎などのような自己免疫疾患、血管疾患(動脈疾患、例えば、心筋梗塞、脳卒中、一過性脳血管障害、四肢虚血、アテローム性動脈硬化症、動脈瘤、血栓症など、または例えば、皮または深静脈血栓症(superficial or deep venous thrombosis)、および肺塞栓症などのような静脈疾患、または微小循環血栓症、感染症または自己免疫疾患中に起こる臓器不全などのような微小循環血管疾患など)、および産科的合併症、例えば、流産、胎児死亡、早産、子宮内発育遅延、子癇および前子癇(pre-eclampsia)などから選択される。
【0036】
本発明によって提供される方法は、自己免疫または血管疾患、または産科的合併症と診断された被験者は、このような疾患または産科的合併症の臨床的履歴を持たない被験者における対応する水準と比較して高水準の抗EPCR自己抗体を有するという事実に基づいている。
【0037】
本発明によって提供される高水準の抗EPCR自己抗体の存在に関する病状を発生する被験者の危険性および感受性を評価するのに用いられる方法は、(「高水準」という表現の定義に関連して、正常被験者の個体群で見られるものとして上記したように定義されている)正常水準の検討被験者試料で測定した自己抗体水準を比較することによって完成される。上記方法は、この節で上記した免疫学的検定法に基づいている。
【0038】
他の態様によれば、本発明は、高水準の抗EPCR自己抗体の存在に関する病状を提示する被験者へ適用される療法の効果をイン・ビトロで観察する方法であって、観察される被験者の試料における上記抗EPCR自己抗体のイン・ビトロ定量を含んでなる方法に関する。この方法は上記の通りに行われるが、この場合には、試料は、治療を行っている被検者であって、自己免疫または血管疾患と以前に診断されたまたは産科的合併症を提示する被験者に由来する。この方法によって、(例えば)治療を維持しまたはそれを改良する目的で、治療を受けている被験者に応用される治療の効果、すなわちその効力および有効性を評価することができる。
【0039】
他の態様によれば、本発明は、被験者由来の試料中のEPCRに対する高水準の自己抗体の存在を評価する方法における抗EPCR自己抗体の使用に関する。特定の態様によれば、上記の病状に関する高水準の自己抗体の存在は、自己免疫疾患、血管疾患、および産科的合併症から選択される。被験者における抗EPCR自己抗体の水準の増加は、自己免疫疾患、血管疾患、および/または産科的合併症のような高水準の抗EPCR自己抗体の存在と関係した病状を発生する危険性または感受性(susceptibility)の増加と関連している。
【0040】
他の態様によれば、本発明は、試料中の内皮受容体EPCRに対する自己抗体の存在を評価する方法において、EPCRアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、または抗EPCR自己抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片の使用に関する。上記の方法は、上記試料中の自己抗体である抗EPCRの検出およびイン・ビトロ定量を含んでなる。特定の態様によれば、高水準の抗EPCR自己抗体の存在に関するこの病状は、自己免疫疾患、血管疾患および産科的合併症から選択された。
【0041】
特定の態様によれば、EPCRアミノ酸配列を含んでなる上記ポリペプチド、または抗EPCR自己抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片は、抗EPCR自己抗体の検出および/または定量のためのELISA試験の記載において定義したようなポリペプチドである。特定の態様によれば、このポリペプチドはいわゆるrhsEPCR(実施例参照)であり、ヒトEPCRの可溶性部分(hsEPCR)のアミノ酸配列、c−mycエピトープに対応するアミノ酸配列、およびヒスチジンの尾部(このアミノ酸配列は配列番号3に示されている)を含んでなる融合タンパク質からなる。
【0042】
他の態様によれば、本発明は、高水準の自己抗体をイン・ビトロで評価するためにデザインされたキットであって、EPCRアミノ酸配列を有するポリペプチド、または抗EPCR自己抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片を含んでなるポリペプチドを含んでなる、上記キットに関する。特定の態様によれば、EPCRアミノ酸配列を含んでなるこのポリペプチドまたは抗EPCR自己抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片は、抗EPCR自己抗体を検出および/または定量するためのELISA試験の記載において、上記で定義されたようなポリペプチドである。特定の態様によれば、このポリペプチドは、いわゆるrhsEPCR(実施例参照)であり、ヒトEPCRの可溶性部分(hsEPCR)のアミノ酸配列、c−mycエピトープに対応するアミノ酸配列、およびヒスチジンの尾部(このアミノ酸配列は配列番号3に示されている)を含んでなる融合タンパク質からなる。
【0043】
他の態様によれば、上記キットは、自己免疫疾患、血管疾患、または産科的合併症から選択される高水準の抗EPCR自己抗体の存在と関連した疾患を発現する被験者の危険性および感受性をイン・ビトロで評価するのに用いられる。
【実施例】
【0044】
下記の実施例により、本発明を例示する。
実施例1
高水準の自己抗体の存在に関連した疾患を発現する被験者の危険性および感受性のマーカーとしての上記抗EPCR自己抗体の使用
I. 材料および方法
患者
1. APLSの患者および対照
この研究は、1998年2月から2002年3月までの間の国際診断基準[Wilson WA, Gharavi AE, Koike T. Lockshin MD, Branch DW, Piette JC, Brey R, Derksen R, Harris EN, Hughes GR, Triplett DA, Khamashta MA. 「明確な抗リン脂質症候群の予備的分類基準についての国際合意声明:国際研究集会報告(International consensus statement on preliminary classification criteria for definite antiphospholipid syndrome: report of an international workshop)」Arthritis Rheum. 1999; 42:1309-11; Brandt JT, Barna LK, Triplett DA. 「ループス性抗凝固因子の実験室的同定: ループス性抗凝固因子の同定のための第二回国際研究集会の成果。ISTHのループス性抗凝固因子/抗リン脂質抗体についての小委員会を代表して(Laboratory identification of lupus anticoagulants: results of the Second International Workshop for Identification of Lupus Anticoagulants. On behalf of the Subcommittee on Lupus Anticoagulants/Antiphospholipid Antibodies of the ISTH)」Thromb Haemost. 1995; 74:1597-603]により抗リン脂質症候群(APLS)と診断された総数43名の患者[年齢44±11歳(平均値±標準偏差(SD))、39名の女性および4名の男性]から構成された。総ての患者は、抗凝固ループス抗体(ACL)と、個人履歴において、静脈性血栓症(n=17)、動脈性血栓症(n=13、そのうち、4名は急性心筋梗塞(AMI)と見なされ、7名は脳血管血栓性疾患(CVTD)を示し、2名は他の領域の疾患を示した)、またはその両方[n=13、いずれも深静脈血栓症とCVTD (n=8)、AMI (n=1)、CVTDとAMI (n=3)、または腸間膜領域における動脈血栓症(n=1)を示した]を示すことによって特定された。これらの患者の27名は、全身性エリテマトーデス(SLE)と診断された。血清試料を、ACLが陽性である期間中および最後の血栓性症状発現の少なくとも3ヶ月後に採取した。試料は、抗EPCR自己抗体の検出のために加工処理するまで−80℃で保管した。
【0045】
対照群は、血栓症またはACLの履歴のない43名の健康な志願者から構成された。総ての患者と対照志願者からは、この研究への参加に対してインフォームド・コンセントを得た。
【0046】
2. 胎児死亡の女性および対照
胎児死亡の患者−対照の組合せ研究を行った。無月経の第10週およびその最後の妊娠に起こる胎児死亡における最初の症状発現のため、1996年9月から2002年9月までの間、19歳から31歳まで(平均27歳)の総数87名の女性について研究を行った。血栓症の経歴、慢性感染症または何らかの既知の全身性疾患、糖尿病の経歴を有する、または他の種類の妊娠病理学(自然流産、子癇、子宮内胎児成長の静止)、並びに核型に影響を及ぼす何らかの染色体異常または胎児の形態学的奇形による胎児死亡の症例を有する婦人は、研究から除外した。胎児死亡は、58名の婦人では最初の妊娠中に、21名の婦人では2回目の妊娠中に、残りの8名の婦人では3回目の妊娠中に起こり、75名の婦人では第10−22週にその事故が起こり、残りの12名の婦人では胎児死亡は第22−36週目(平均17週)に起きた。
【0047】
87名の健康な母体の対照群を設定し、年齢、妊娠回数および最後の妊娠からの経過時間によって分類したところ、いずれも、胎児死亡の婦人の群に適用された除外基準を満たしていた。対照は、系統的な医学検診の目的で同一病院の婦人科部門に外来患者として検診を受けた婦人から同一期間中に同時に補充した。
【0048】
この研究は、本発明者らの研究期間の倫理委員会によって承認され、インフォームド・コンセントを総ての被験者から得た。患者および対照の採入、インフォームド・コンセント、および血液試料の採取は、胎児死亡の少なくとも6ヶ月(範囲:6−12ヶ月)後に行った。血液試料は、通常の手順に従って採取し、処理し、−80℃で保管した。試料採取プロトコールは、総ての患者および対照で同一であった。
【0049】
組換えヒト可溶性EPCRの発現
可溶性形態のヒト組換えEPCR(rhsEPCR)の発現のため、鋳型としての内皮細胞由来のcDNAを用いて、それぞれ5’および3’末端にClaI制限部位および他方のNotI部位を付加するプライマー
配列番号1、および
配列番号2
を用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、シグナルペプチドを持たない細胞外ドメイン、または膜貫通および細胞内ドメイン(Entrez-Protein 21730830、残基1−193、番号はシグナルペプチドの処理後のタンパク質の成熟形態に対応する)を含んでなる、ヒト可溶性EPCR(hsEPCR)配列の増幅を行った。これらの修飾により、Saccharomyces cerevisiae由来のα因子の分泌シグナルに続いて、プラスミドpPICZαC(Stratagene, ラ・ホヤ,カリフォルニア)のClaIおよびNotI部位にrhsEPCR配列を結合させ、酵母細胞の内部から細胞外培地に多数のタンパク質を効率的に分泌することができた。
【0050】
c−mycエピトープおよびpPICZαCベクターに存在する6−ヒスチジンタグを用いて、読み取り期にインサートをクローニングした。このクローニング工程のため、セリン残基およびイソロイシン残基をrhsEPCRのアミノ末端に付加し、これを発現させて、そのカルボキシ末端のc−mycエピトープと6個のヒスチジンを含む尾部またはタグに融合し、rhsEPCRの精製と抗c−mycモノクローナル抗体を介するマイクロプレートウェルの底への固定を促進した。直接シークエンシングによって、インサートおよびベクター配列が正確であることを確かめた。配列番号3は、DNA配列に由来する、このようにして得られたrhsEPCRの配列であって、用いたクローニング手法によって付加した残基、ヒトrhsEPCRの細胞外領域の残基、c−mycエピトープ、および6個のヒスチジンのタグを含んでなるものを示している。
【0051】
予め調製した発現ベクターを用いて、これを制限酵素PmeIで線形化した後、Pichia pastoris細胞を化学的方法(Easy Comp, Invitrogen)によって形質転換し、メタノール応答内因性プロモーターにおけるrhsEPCRをコードする配列を相同組換えによって組込んだ。形質転換産物をゼオシンの存在下で培養し、rhsEPCRコード配列を含むベクターであって、ゼオシンに対する耐性をコードする遺伝子をも含むベクターで形質転換したP. pastorisのコロイドを選択した。簡単に説明すれば、形質転換酵母を、グリセロール(BMGY)1%(v/v)を補足したBMY培地[酵母抽出物1%(w/v)、ペプトン2%(w/v)、100mMリン酸カリウム(pH6.0)、硫酸アンモニウムを含む酵母窒素源1.34%(w/v)、ビオチン4x10−5%(w/v)]4ml中で培養し、28−30℃で攪拌しながら約18時間インキュベーションした。細胞を、室温で2000gにて5分間遠心分離することによって回収した。上清を廃棄し、rhsEPCRの発現を1%メタノールで18時間誘導した。この趣旨で、細胞をメタノール0.5%(w/v)を補足したBMY 3mlに再懸濁した後、激しく攪拌しながら約28−30℃で18時間インキュベーションした。誘導の後、コンディショニングした培地からの試料を12% NuPAGE Bis-Trisゲル(Invitrogen, カールスバット, カリフォルニア)上に装填し、rhsEPCRを抗mycモノクローナル抗体(Invitrogen)を用いてウェスタンブロット法によって検出した。大規模生産には、最高濃度のrhsEPCRを分泌するコロニーを選択した。rhsEPCRを多量に産生することに基づいて選択したコロニーにより、コロニーのメタノール代謝(迅速または低速メタボライザー)を検討することによって、最適コロニーの最適発現条件を定義した。培養条件の最適化およびメタノールによる誘導の後、多量のrhsEPCRを産生する目的で規模を拡大した。
【0052】
組換えsEPCRの精製
P. pastorisは極めて僅かなタンパク質しか培地に分泌しないので、培地に見出される高比率のタンパク質はrhsEPCRに対応しており、その精製はかなり簡単になる。すなわち、rhsEPCRは、金属アフィニティークロマトグラフィー、アニオン交換およびゲル濾過クロマトグラフィーを含んでなる三段階精製工程によって酵母培養物の上清から精製した。この趣旨で、培養物の上清を濃縮し、100mMリン酸ナトリウム、10mM NaCl,pH7.6に対して透析した後、銅を装填した5ml Hitrapカラム(Amersham Biosciences, リトル・チャルフォント,英国)で金属アフィニティークロマトグラフィーを行った。カラムに結合した画分は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む緩衝液で溶出し、NaClを含まない20mM Tris−HCl(pH7.6)に対して透析した。次に、アニオン交換クロマトグラフィーをResource Qカラム(Amersham Biosciences)中で行い、20カラムと同等の容積中で0.0−300mMのNaClグラディエントで溶出を行った。rhsEPCRを含む溶出画分をプールし、遠心分離−限外濾過によって濃縮した後、Superdex 75−HR10/30カラム(Amersham Biosciences)上に装填して、ゲル濾過を行った。精製タンパク質の濃度は、BCA総タンパク質試験(Pierre, ロックフォード,イリノイ)およびウシ血清アルブミン(BSA)の標準品を用いて測定した。精製rhsEPCRの検出のため、試料を12% NuPAGE Bis−Trisゲル(Invitrogen, カールスバット,カリフォルニア)上に装填し、還元条件下で電気泳動を行った後、クーマシーブルーで染色した。1個の電気泳動ゲルに電気泳動的転写(electroblotting)を施し、rhsEPCRを抗mycモノクローナル抗体(Invitrogen)で検出した。rhsEPCRの分子量を概算するため、それぞれの電気泳動ゲルに含まれる分子量標準品を用いた。
【0053】
血清または血漿中の抗EPCR自己抗体の測定のためのELISA
アイソタイプIgG、IgAまたはIgMに対応する抗EPCR自己抗体の水準を個別に測定したが、これらは自己免疫変質の患者で極めて頻繁に見られる形態であるからであり、宿主構造の一部に向けられた抗体が検出される(自己抗体)。
【0054】
3症例総てにおいて、96穴マイクロプレート(Costar, アクトン,マサチューセッツ,米国)を、NaCO(100ミリモル/l),pH9.6の溶液中1.5μg/mlの濃度の抗mycモノクローナル抗体(Invitrogen, 米国)100μl/ウェルで4℃の温度で一晩コーティングした。この抗体を捕捉抗体として用いて、rhsEPCRに存在する付加したc−mycタグにターゲッティングする。この方法で、rhsEPCRをウェルに固定して、その細胞外エピトープを保存する。TB(20mM Tris,150mM NaCl,0.05% Tween−20,pH7.4)で洗浄した後、非特異的結合部位を、3%(w/v)BSA/TBで室温(RT)にて4.5時間ブロックした。次いで、1% BSAを補足したTB(TB1)中にrhsEPCR 3μg/mlを含む溶液100μl/ウェルを加えた後、緩やかに攪拌しながら室温にて2時間インキュベーションした。平行して、ブランクウェルを、rhsEPCRの非存在下にてTB1と共にインキュベーションした。TBで洗浄した後、TB1中の試料を1:100(血漿または血清)に希釈したもの100μlをそれぞれのウェルに加えた後、4℃にて一晩インキュベーションした。次に、ウェルをTBで洗浄し、ウェルの底に結合して残っている抗EPCR自己抗体を、ペルオキシダーゼに接合したネズミ抗ヒトIgAポリクローナル抗体(Biotrend)、ペルオキシダーゼに接合したネズミ抗ヒトIgMポリクローナル抗体(Zymed)、またはアルカリホスファターゼに接合したネズミ抗ヒトIgGポリクローナル抗体(Zymed)を用いて検出した。緩やかに攪拌しながら室温にて2時間インキュベーションした後、洗浄を行った。
【0055】
IgAまたはIgMアイソタイプの抗EPCR自己抗体の水準を測定するため、0.07M NaHPO、0.04Mクエン酸ナトリウムおよび0.02%(v/v)H,pH5.0を含む−フェニレンジアミン(Kodak)の溶液(0.4mg/ml)を100μl加えた。それぞれIgAおよびIgMについて暗所で5および8分間の顕色時間の後、マイクロプレートリーダー(iEMS REader, Labsystems, フィンランド)中で492nmでの吸光度を5分後に読み取った。
【0056】
IgGアイソタイプの抗EPCR自己抗体の検定に用いたプレートに、0.1Mジエタノールアミン,pH10.3に4−ニトロフェニルホスファターゼ(Sigma)を溶解したもの(1ng/ml)100μlを加えた。15分後、1M NaOH 100μlで反応を停止し、色が安定した後マイクロプレートリーダー(iEMS REader)中で405nmでの吸光度を記録した。総ての試料は、異なる試験で少なくとも2回分析した。
【0057】
それぞれのプレートで測定した総ての吸光度は直線範囲に対応することを確かめるため、それぞれのアイソタイプについて、吸光度の最大値が記録された試料の連続希釈を用いて曲線を構築した。プレート同士を比較するため、それぞれのプレートでの試験に1試料を選択し(標準試料)、これにより補正係数を導入することができた。任意単位(AU)は、下記のようにして定義した。それぞれの患者試料(検討試料)について、ブランクウェルの吸光度を差し引いた後、1000を掛け、かつ所定のプレート(参照プレート)と検討試料を試験したプレートとの間の標準試料の比吸光度(specific absorbance)の比に対応する補正係数を掛けることによって比吸光度(specific absorbance)を計算した。試験間および試験内変動係数(CV)を5つの試料を用いて評価し、試験間変動係数について5回試験し(5%未満)かつ試験内変動係数の計算について3つの異なる時点で試験した(10%未満)。
【0058】
培養内皮細胞におけるAPCの生成
用いた細胞系は、トロンボモジュリンとEPCRを発現する能力を保持している形質転換したヒト内皮細胞の1系列であるEA.hy926であった(Stearns-Kurosawa DJ, Kurosawa S, Mollica JS, Ferrell GL, Esmon CT, 「内皮細胞プロテインC受容体はトロンビン−トロンボモジュリン複合体によってプロテインCの活性化を増加させる(The endothelial cell protein C receptor augments protein C activation by the thrombin-thrombomodulin complex)」Proc Natl Acad Sci USA. 1996; 93: 10212-6)。5x10個の細胞/ウェルを、0.17nMトロンビン(ERL,スワンシー,英国)0.02U/ml、および150mM NaCl、5mM CaCl、0.6mM MgCl、1%BSA、0.001% Tween−20および0.02% NaNを補足した20mM Tris緩衝液,pH7.4中50−1000nMの増加濃度のPC(Baxter,ディアフィールド,イリノイ,米国)と共に96穴プレートでインキュベーションした。室温で45分後、レピルジン(Schering AG,ベルリン,ドイツ)を0.2μM/lの最終濃度で加えてトロンビンを阻害し、3−4分後に発色性物質S−2366(Chromogenix,ミラノ,イタリア)を0.4mMの最終濃度で加え、APCによるタンパク質分解を観察した。405nmでの吸光度の増加を、マイクロプレートリーダー(iEMS REader, Labsystems, フィンランド)で速度論的に記録した。ミカエリス−メンテンの式に当てはまる曲線データーをEnzfitterプログラム(Biosoft,ケンブリッジ,英国)を用いて実行して、これらの条件下でのPC活性化のKmを計算した。必要ならば、患者由来の精製した抗EPCR自己抗体45μg/mlを、トロンビンとPCと同時に加えた(下記参照)。このようにして、抗EPCR自己抗体のPC活性化に対する効果を分析することができた。
【0059】
抗EPCR抗体の精製
1. IgM抗体の精製
抗EPCR自己抗体を含む血清の1ml試料をリン酸緩衝食塩水(PBS)(100mMリン酸ナトリウム,0.15M NaCl,pH7.4)で希釈し、細孔径が0.45μmのフィルターで濾過した。濾液を、ネズミ抗ヒトIgMポリクローナル抗体を予め固定しておいたNHS HP(Amersham Biosciences)によって活性化したHitTrapカラムに加えた(Maruyama S,Kubagawa H,Cooper MD.「ヒトB細胞の活性化およびモノクローナル抗ネズミ抗体によるそれらの末端分化の阻害(Activation of human B cells and inhibition of their terminal differentiation by monoclonal anti-murine antibodies)」, J Immunol. 1985: 135: 192-9)。ヒトIgMは0.1Mグリシン(pH2.5)5mlで溶出し、1M Tris(pH9.0)100μlに回収した。ヒトIgMを含む画分を濃縮し、5mM CaClおよび0.6mM MgCl,pH7.4を補足したTBに対して透析した。
【0060】
2. IgA抗体の精製
血清の1ml試料をPBSで希釈し、ジャカリンカラム(Pierce)に加えた。吸着画分は0.1Mメリビオース/PBS 2mlで溶出した後、PBSに対して透析した。後の精製工程が必要とされるので、試料をHiTrap Protein G HPアフィニティーカラム(Amersham Biosciences)に加え、混入IgGを除去した。IgA画分を含む未結合生成物を50mM KHPO,pH7.0に対して透析し、最後にHiTrap Blue HPアフィニティーカラム(Amersham Pharmacia Biotech)に加えて、アルブミンを除去した。次に、精製IgA画分を含む未結合材料を回収して、5mM CaClおよび0.6mM MgCl,pH7.4を補足したTB緩衝液に対して透析した。
【0061】
3. IgG抗体の精製
抗EPCR自己抗体を含む血清の1ml試料をリン酸緩衝食塩水(PBS)(100mMリン酸ナトリウム,0.15M NaCl,pH7.4)で希釈し、細孔径が0.45μmのフィルターで濾過した。濾液を、HitTrap Protein G HPカラムに加えた(Amersham Biosciences)。ヒトIgGは0.1Mグリシン(pH2.5)5mlで溶出し、1M Tris(pH9.0)100μlに回収した。ヒトIgMを含む画分を濃縮し、5mM CaClおよび0.6mM MgCl,pH7.4を補足したTBに対して透析した。
【0062】
rhsEPCRアフィニティーカラムの調製
rhsEPCR(100mM NaHCO(pH8.5)3ml中2mg)を、製造業者の取扱説明書に従ってHitTrap NHS活性化HPアフィニティーカラム(Amersham Biosciences)に結合させた。反応を0.1Mグリシンで停止させた後、rhsEPCRカラムを2M NaClで十分に洗浄した。この方法でのrhsEPCRカラムは、20mM CaClおよび0.6mM MgClを補足したTBS,pH7.4中でPCに結合することができた。PCは、EDTAを補足したTBSでカラムから溶出することができた(データーは示さず)。カラムに結合したrhsEPCRはPCと結合するその能力を保持しているので、自己抗体によって認識される本来のコンホメーションとエピトープを確実に保持することができた。従って、このようにして調製されたカラムは、血清または血漿の試料から抗EPCR自己抗体を除去するのに適していた。
【0063】
統計学的方法
APLS患者および対照の検討において、高水準の抗EPCR IgM、IgAおよびIgG抗体の頻度についての患者(症例)と対照との比較は、カイ二乗検定を用いて行った。確率比(OR)(Martinez-Gonzalez MA, de Irala-Estevez J & Guillen Grima F, (1999),「確率比とは何か(Que es una odds ratio ?)」,Medicina Clinica, 112, 11: 416-422)および95%信頼区間(95%CI)は、APLSと抗EPCR自己抗体との関連の尺度として計算した。
【0064】
胎児死亡についての患者−対照の組合せ研究では、連続変数についておよびカテゴリー毎の患者と対照との比較は、対試料についてのt検定によりおよびMcNemar検定によりそれぞれ行った。アイソタイプIgGおよびIgMに対応する抗EPCR自己抗体の水準と、ACLとの関連およびIgMアイソタイプの抗カルジオリピン抗体との関連を、連続変数についての相関係数およびカテゴリー毎の変数についてのMann-Whitney検定に基づいて評価した。
【0065】
IgGおよびIgMアイソタイプの高水準の抗EPCR自己抗体と関連した胎児死亡の危険性を評価するため、患者−対照の組合せでは多重回帰分析を用いた。主要な独立変数は、、カテゴリー毎のIgGおよびIgMの免疫グロブリンに対応する抗EPCR自己抗体の水準であって、これら免疫グロブリンの対照における分布に準じている。異なるカットオフ点を用いて、より高い危険性に関連した水準を決定した。既知の胎児死亡の危険因子に適する単一および多変量分析を行った。完全モデルに第V因子レイデン(factors V Leiden; FVL)およびACLを包含することはできなかったので、抗EPCR自己抗体の効果を試験する目的で2つのモデルを考えた:
(1) アイソタイプIgMおよびIgGに対応する抗EPCR自己抗体、IgMアイソタイプの抗カルジオリピン抗体、ACLおよびプロトロンビンG20210Aの水準を同時に導入、および
(2) ACLの代わりにFVLの存在/非存在について調製することを除き、モデル1と同じ。
【0066】
モデル(1)を用いて、抗カルジオリピン抗体とACLが病因因子よりはむしろマーカーであり、抗EPCR自己抗体によって引き起こされるプロトロンビン状態を示すという仮定を評価した。総ての計算は、SPSS,第10.0版統計パッケージ(SPSS Inc.)を用いて行った。
【0067】
II. 結果
血漿および血清中の抗EPCR自己抗体の存在を検討する目的で、rhsEPCRを酵母P.pastorisの発現系を用いて最初に産生した。報告されているプロトコールに基づいて、P.pastorisからrhsEPCR5mgを上回る量を精製することができた。ドデシル硫酸ナトリウムを含むポリアクリルアミドゲル(SDS−PAGE)での電気泳動および抗mycモノクローナル抗体を用いるウェスタンブロット分析を用いると、rhsEPCRは単一かつ若干不均一なバンドとして現れ、以前に報告されているように様々な程度のグリコシル化を反映していた(Fukudome K, Kurosawa S, Stearns-Kurosawa DJ, He X, Rezaie AR, Esmon CT.「内皮細胞プロテインC受容体。可溶性受容体による細胞表面発現および直接リガンド結合(The endothelial cell protein C receptor. Cell surface expression and direct ligand binding by the soluble receptor)」, J Biol Chem. 1996; 271: 17491-9)[図1参照]。
【0068】
rhsEPCRは、以前に報告されているように凝固試験においてAPCの抗凝固活性を阻害することができた(Regan LM, Stearns-Kurosawa DJ, Kurosawa S, Mollica J, Fukudome K, Esmon CT.「内皮細胞プロテインC受容体。プロテイナーゼ阻害薬との反応の調整なしの活性化プロテインC抗凝固薬機能の阻害(The endothelial cell protein C receptor. Inhibition of activated protein C anticoagulant function without modulation of reaction with proteinase inhibitors.)」, J Biol Chem. 1996; 271; 17499-503)(データーは示さず)。予想アフィニティーでのPCの結合の他に(下記参照)、内皮細胞表面上のトロンビンによるPCの活性化は、Kmが51±10nMであることを特徴としていた。活性化は、2μM rhsEPCR(Km=約100nM)の存在下ではかなり減少し、Kiが約70nMであることを示し、以前に報告されているようにrhsEPCRは本来のEPCRと同様の効力でPCと結合することを示唆していた(Fukudome K, Kurosawa S, Stearns-Kurosawa DJ, He X, Rezaie AR, Esmon CT.「内皮細胞プロテインC受容体。可溶性受容体による細胞表面での発現および直接リガンド結合(The endothelial cell protein C receptor. Cell surface expression and direct ligand binding by the soluble receptor.)」, J Biol Chem. 1996; 271; 17491-8; Regan LM, Stearns-Kurosawa DJ, Kurosawa S, Mollica J, Fukudome K, Esmon CT.「内皮細胞プロテインC受容体。プロテイナーゼ阻害薬との反応の調整なしの活性化プロテインC抗凝固薬機能の阻害(The endothelial cell protein C receptor. Inhibition of activated protein C anticoagulant function without modulation of reaction with proteinase inhibitors.)」, J Biol Chem. 1996; 271; 17499-503)。これらの証拠は、正確なrhsEPCR活性とコンホメーションを示唆し、従ってヒトEPCRに対する抗体の検出に用いることができることを強く示唆している。
【0069】
APLSの患者における抗EPCR自己抗体
それぞれの対照群について97百分位数を上回る水準となるように水準を高くすると、アイソタイプIgM、IgAまたはIgGに対応する高水準の抗EPCR自己抗体がAPLSと関連していた[OR=4.47;95%CI:1.15−17.40](表1参照)。極めて高水準の抗EPCR自己抗体(図2参照)は、APLSと診断された被験者でのみ検出されており、3名の患者はIgMアイソタイプの抗EPCR自己抗体を極めて高水準で示し(患者A=407AU,患者B=301AU,および患者C=293AU)、2名のAPLS患者はIgAアイソタイプの抗EPCR自己抗体を極めて高水準で示し(患者D=795AU、およびIgMアイソタイプの抗EPCR自己抗体をも高水準で示した患者B=475AU)、2名の患者はIgGアイソタイプの抗EPCR自己抗体を高水準で提示した(患者E=230AUおよび患者F=220AU)。6名の患者は血栓症の前歴(これが選択基準の一つであった)がある婦人であった(患者A、C、DおよびFでは脳卒中、患者Eでは循環器疾患、患者A、B、DおよびFでは静脈血栓症)。極めて興味深い観察は、アイソタイプIgMおよびIgAの抗EPCR自己抗体を示す総ての婦人(評価ができなかった患者Bを除く)が胎児死亡の多発歴を示したことである。
【0070】
この知見を考慮して、抗EPCR自己抗体と胎児死亡との関連性が可能であるかどうかについて分析を行った。
【0071】
【表1】

【0072】
抗EPCR自己抗体の生化学的特性決定
極めて高水準の患者からのアイソタイプIgM、IgAおよびIgGの抗EPCR自己抗体の画分を、血清1mlから精製した。患者CのIgMアイソタイプの抗EPCR自己抗体の画分は、トロンビンの存在下で培養内皮細胞によってAPCの生成を減少させることができた(PC活性化の残存能力の20%,p=0.02)。阻害効果は、容量依存性であった。APLSの患者におけるIgMアイソタイプの抗EPCR自己抗体の画分のこの効果がEPCRに対する特異抗体によるものであることを示すため、試料から特異抗EPCR自己抗体を完全に除き、rhsEPCRを固定したアフィニティーカラムに加えた。このようにして得た画分はAPC生成に対する阻害作用を喪失し(PC生成の87.6%)、この現象に関与する薬剤は特異抗EPCR自己抗体でなければならないことを示唆している。APLSの患者から精製した他の画分はいずれも、内皮細胞がAPCを生成する能力を変更することはできなかった(図3)。
【0073】
胎児死亡の婦人における抗EPCR自己抗体
患者と対照の群における、胎児死亡に以前に関連させた危険因子および抗EPCR自己抗体の度数を、表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
対照群におけるIgMアイソタイプの抗EPCR自己抗体の水準の95%の百分位数は、99AUであった。87名の患者の中、16名(18%)がこのカットオフ点を超える値を示したのに対して、対照群(n=87)では3名の被験者がその値を示した。低めの値を示すものと比較した、百分位数95を超過するIgMアイソタイプの抗EPCR自己抗体の水準を有する患者における胎児死亡の未調整ORは、14であった(95%信頼区間(CI):1.8−106.4)。カットオフ点を90%百分位数(83AU)に設定すると、ORは5.2(95%CI:1.8−15.3)となった。
【0076】
対照群におけるIgGアイソタイプの抗EPCR自己抗体の水準の百分位数95は、94AUであった。87名の患者の中、13名(15%)がこのカットオフ点を超える値を示したのに対して、対照群(n=87)では4名の被験者がその値を示した。百分位数95%を超過するIgGアイソタイプの抗EPCR自己抗体の患者における胎児死亡の未調整ORは、4.3であった(95%信頼区間(CI):1.2−15.2)。カットオフ点を90%(88.4AU)に設定すると、ORは2.3(95%CI:0.9−5.6)となった。
【0077】
さらに、混同する可能性のある因子を調整する多変量分析を行った。上記のように、同一多変量モデルにFVLとACLを包含することはできなかったので、その結果、二つの異なるモデル、すなわち抗リン脂質抗体(すなわち、ACLおよび抗カルジオリピン抗体)とプロトロンビンG20210Aについて調整したモデル(1)と、FVLを包含するがACLを包含しないモデル(2)とを考えた。モデル(1)における百分位数95を超過するIgMアイソタイプの抗EPCR自己抗体と関連したORは23.1(95% CI:2−266.3)であり、一方、モデル(2)では、その値は31.0(95% CI:2−384.3)であった。モデル(1)における百分位数95を超過するIgGアイソタイプの抗EPCR自己抗体と関連したORは6.8(95% CI:1.2−38.4)であった。ACLの代わりに第V因子レイデンを包含するモデル(2)によれば、百分位数95を超過するIgGアイソタイプの抗EPCR自己抗体と関連したORは11.0(95%CI:1.6−73.5)であった。結果を、表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
これらの結果は、アイソタイプIgMおよびIgGの抗EPCR自己抗体が胎児死亡について独立した危険因子であることを示している。しかしながら、高水準のIgAは、この群の婦人における胎児死亡には有意に関連していなかった。
【0080】
III. 論考
ヒトEPCRに対する自己抗体の存在を検出することができる方法(特に、ELISA試験)を実行してきた。この系を用いて、血栓症およびACLを特徴とするAPLSの患者の群の検討を行い、(ヒト病理学において初めて)アイソタイプIgM、IgGおよびIgAの特異抗EPCR自己抗体の存在を明らかにした。検討はAPLSおよびACLの患者のサブグループを中心に行ったが、これらの患者は血栓症の危険増加と関連しており、従ってこれらの被験者は臨床的発現に直接関係した自己抗体を提示しそうであるからである。実際に、多くの患者は、極めて高水準の抗EPCR自己抗体を有することが見出された。
【0081】
これらの自己抗体により、APLSの患者で見られる血栓症および流産を説明することができた。最初に、EPCRは、大血管およびトロホブラスト(trophoblast)の内皮上に発現する分子である。IgMおよびIgG免疫グロブリンは補体に結合して活性化することができ、これらの抗体がEPCRに向けられている場合には、それらは内皮上の補体を活性化して後者を損傷し、このようにしてこの水準で血栓症を促進することができる。第二に、IgMアイソタイプの高水準の抗EPCR自己抗体を有する患者のIgM画分は、トロンビンの存在下において内皮細胞によるAPCの生成を大幅に減少させることができることが示された。この阻害効果は、EPCRアフィニティーカラム中をIgM画分を一緒に通過させることによってEPCRに向けられたIgMを特異的に除去した後に消失し、これは、阻害効果がIgMアイソタイプの抗EPCR自己抗体によるものであることを意味している。この抗体は、イン・ビボで低水準のAPCを生じ、血栓症の有力な危険因子を本質的に構成する状況を生じると思われる。
【0082】
静脈および/または動脈血栓症の基準に従って患者を選定する場合には、抗EPCR自己抗体と関連した血栓症の危険を評価することはできなかった。対照的に、抗EPCR自己抗体、特にIgMアイソタイプの水準増加が、胎児死亡の経歴のない婦人と比較してこのような前歴を有する婦人で検出された。予備研究でのこれらの結果を考慮して、患者−対照の組合せ研究を行って、抗EPCR自己抗体の存在と関連した婦人の一般的個体群における説明できない胎児死亡の第一の発症(episode)の危険を評価する決定をした。IgMアイソタイプの高水準の抗EPCR自己抗体(対照被験者における数値分布百分位数95を超過する値として定義される)は、胎児死亡の第一の発症についての強力な危険因子を構成し、低水準と比較して23または31の相対危険度を有していた。IgGアイソタイプの高水準の抗EPCR自己抗体も強力な危険因子を構成したが、IgMアイソタイプの場合より小さく、相対危険度は用いた数学的モデルによって7または11であった。単一変量分析では、ACLおよびIgMアイソタイプの抗カルジオリピン抗体を胎児死亡の危険増加と関連させたが、この関連性は多変量モデルでは減衰した。これは、古典的抗リン脂質抗体によって与えられる情報が、関連した抗EPCR自己抗体に起因するものであり、単純な危険マーカーよりはむしろ胎児死亡の病因因子であると考え得るからであると思われる。同様に、後期胎児死亡の危険増加と最近関連付けられてきたFVLおよびプロトロンビンG20210Aの存在について検討を行い、危険増加はこのような多形と関連して単一変量および多変量分析のいずれでも同定されている。この危険性は、統計学的には有意ではなかったが、検討に含まれる患者の数によるものと思われる。
【0083】
結論として、この研究により、APLSおよび血栓症の患者における抗EPCR自己抗体の存在が初めて明らかにされている。IgMおよびIgGアイソタイプの抗EPCR自己抗体の存在は、胎児死亡の第一の発症の危険性を増加する。これらの自己抗体は、APLSの患者および一般的個体群における血栓症および胎児死亡に本質的に寄与する可能性がある。
【0084】
実施例2
心筋梗塞の婦人における抗EPCR自己抗体の検出
研究群: 142名の心筋梗塞の婦人(年齢39±5歳、平均±標準偏差)、および142名の健康な婦人(年齢39±5歳)、年齢および地理的出所によって組み合わせた。古典的心筋梗塞の危険因子(高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙、および経口避妊薬)について検討した。「材料および方法」(実施例1)に記載のELISA試験プロトコールの後、血漿の試料中の抗EPCR自己抗体IgG、IgMおよびIgAの分析を行った。
【0085】
結果: 対照群における抗EPCR自己抗体の水準分布の百分位数93を超過する値によって定義される高水準の抗EPCR自己抗体を、心筋梗塞の危険増加に関連させた。多変量分析では、高水準の抗EPCR自己抗体をIgAについては調整した確率比(OR)3.5および95%信頼区間(95%CI)1.4−8.9と関連させたが、IgMの場合には、これら数値はOR=3.0;95%CI:1.2−7.5であった。
【0086】
結論: 高水準の抗EPCR自己抗体は、婦人の心筋梗塞の独立した危険因子を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】Pichia pastorisにおけるrhsEPCRの発現を示す。rhsEPCRは、材料および方法(実施例参照)に関する節に記載したように、安定に形質転換したP.pastoris細胞の上清から精製した。rhsEPCRを含む3個の画分のそれぞれ10μlをSDS−PAGEによって分離し、タンパク質をGELCODE Blueを用いて(A)またはモノクローナル抗myc抗体(Invitrogen)を用いるウェスタンブロット法によって(B)検出した。
【図2】APLSと診断された患者および対照における抗EPCR自己抗体の水準を比較するものである。抗EPCR自己抗体の水準を示す。IgMアイソタイプの抗体:対照(メジアン=45 AU(任意単位)、患者(メジアン=57 AU);IgAアイソタイプの抗体: 対照(メジアン=31 AU)、患者(メジアン=39 AU);およびIgGアイソタイプの抗体(メジアン=72 AU)、患者(メジアン=75 AU)。
【図3】内皮細胞によるAPCの発生に対する抗EPCR自己抗体の効果を示す。抗EPCR自己抗体のアイソタイプMの存在下でのAPCの発生は患者Cで観察することができ、抗体の非存在下および非阻害抗体の存在下でのAPCの発生と比較される。それぞれの条件について、2−4の独立した実験を行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の内皮PC/活性化PC受容体(EPCR)に対する高水準の自己抗体の存在を評価する方法であって、被験者由来の前記試料中のEPCRに対する自己抗体のイン・ビトロでの定量を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記EPCRに対する高水準の自己抗体の存在が、自己免疫疾患、脈管疾患および産科的合併症から選択される病状と関連していることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記自己免疫疾患が、抗リン脂質症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチおよび自己免疫脈管炎から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記脈管疾患が、動脈疾患、静脈疾患、および微小循環の血栓症から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記脈管疾患が、心筋梗塞、脳卒中、一過性脳血管障害、四肢虚血、アテローム性動脈硬化症、動脈瘤、血栓症、皮静脈血栓症、深静脈血栓症、および肺塞栓症から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記産科的合併症が、流産、胎児死亡、早産、子宮内発育遅延、子癇および前子癇(pre-eclampsia)から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記試料が血清または血漿の試料であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記被験者がヒトであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記抗EPCR自己抗体の定量を、マーカーとカップリングしたイムノアッセイによって行うことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記抗EPCR自己抗体の定量を、
a) EPCRアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、または抗EPCR自己抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片を固形支持体に固定し、
b) 固定したポリペプチドと、被験者から得た抗EPCR自己抗体を含むと思われる試料とを十分な時間インキュベーションして抗体を固定したポリペプチドに結合させ、ポリペプチド−抗EPCR自己抗体複合体を形成し、
c) 固定したポリペプチドに結合していない残りの試料を除去し、
d) ポリペプチド−抗EPCR自己抗体複合体と、酵素に接合した第二の抗体とをインキュベーションし、前記第二の抗体が前記抗EPCR自己抗体に結合することができること
を含んでなるELISA試験によって行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリペプチドが、
a) 完全長のEPCRのアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、および
b) 抗EPCR抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むEPCRの断片のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド
から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリペプチドが、融合タンパク質であって、
a) EPCRアミノ酸配列を含むポリペプチド、または抗EPCR抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片から構成される領域A、および
b) 前記融合タンパク質を単離しまたは精製するのに用いるアミノ酸配列、および/または前記融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いるアミノ酸配列を含むポリペプチドから構成される領域B
を含んでなる融合タンパク質であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記領域Bが領域Aのアミノ末端に結合していることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記領域Bが領域Aのカルボキシル末端に結合していることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記領域AがヒトEPCRの可溶性部分のアミノ酸配列を含んでなることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
領域Bに存在する、前記融合タンパク質を単離しまたは精製するのに用いるアミノ酸配列、および/または前記融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いるアミノ酸配列が、Argタグ、Hisタグ、FLAGタグ、Strepタグ、抗体によって認識することができるエピトープ、SBPタグ、Sタグ、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、キチン結合ドメイン、グルタチオンS−トランスフェラーゼタグ、マルトース結合タンパク質、NusA、TrxA、DsbA、Aviタグ、Ala-His-Gly-His-Arg-Pro(配列番号:4)(2、4および8コピー)、Pro-Ile-His-Asp-His-Asp-His-Pro-His-Leu-Val-Ile-His-Ser(配列番号:5)、Gly-Met-Thr-Cys-X-X-Cys(配列番号:6)(6回反復)、β−ガラクトシダーゼおよびVSV−糖タンパク質から選択されるアミノ酸の配列を含んでなる、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記領域Bが、抗−c−myc抗体によって認識することができるc−mycエピトープおよびヒスチジンの尾部(Hisタグ)を含んでなるポリペプチドから構成されていることを特徴とする、請求項12〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリペプチドが、ヒトEPCRの可溶性部分のアミノ酸の配列と、c−mycエピトープに対応するアミノ酸の配列と、ヒスチジンの尾部(ヒスチジンタグ)とを含んでなる融合タンパク質であることを特徴とする、請求項12〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリペプチドが、融合タンパク質であって、アミノ酸配列が配列番号3に示されるものであることを特徴とする、請求項12〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第二の抗体が、試料を試験している被験者の種とは異なる種に由来する免疫グロブリンアイソタイプ特異抗体であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記第二の免疫グロブリンアイソタイプ特異抗体が、抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgM抗体、抗ヒトIgA抗体およびそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項10または20に記載の方法。
【請求項22】
前記第二の抗体が、ペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼのうちから選択される酵素に接合していることを特徴とする、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
被験者からの試料で測定した抗EPCR自己抗体水準と正常水準とを比較することをさらに含んでなることを特徴とする、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
一定時間における抗EPCR自己抗体水準の変化を測定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記試料が、以前に自己抗体または脈管疾患と診断された、または産科合併症に罹ったことがあり、かつ治療処置を受けている被験者に由来することを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
試料中のEPCRに対する高水準の自己抗体の存在を評価する方法における、EPCRに対する自己抗体の使用。
【請求項27】
試料中のEPCRに対する高水準の自己抗体の存在が、自己免疫疾患、脈管疾患、および産科合併症から選択される病状と関連していることを特徴とする、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
EPCRアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、または抗EPCR自己抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片の、試料中のEPCRに対する高水準の自己抗体の存在に対する方法における使用であって、前記試料中のEPCRに対する自己抗体のイン・ビトロでの定量を含んでなることを特徴とする、使用。
【請求項29】
前記EPCRに対する高水準の自己抗体の存在に関係している病状が、自己免疫疾患、脈管疾患および産科合併症から選択されることを特徴とする、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記ポリペプチドが、融合タンパク質であって、
a) EPCRアミノ酸配列を含むポリペプチド、または抗EPCR抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片から構成される領域A、および
b) 融合タンパク質を単離しまたは精製するのに用いるアミノ酸配列、および/または前記融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いるアミノ酸配列を含むポリペプチドから構成される領域B
を含んでなる融合タンパク質であることを特徴とする、請求項28に記載の使用。
【請求項31】
前記領域AがヒトEPCRの可溶性部分のアミノ酸配列を含んでなる、請求項30に記載のポリペプチドの使用。
【請求項32】
前記ポリペプチドが、ヒトEPCRの可溶性部分のアミノ酸の配列と、c−mycエピトープに対応するアミノ酸の配列と、ヒスチジンの尾部(ヒスチジンタグ)とを含んでなる融合タンパク質であることを特徴とする、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記ポリペプチドが、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質である、請求項30〜32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
EPCRアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、または抗EPCR自己抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片を含んでなることを特徴とする、試料中のEPCRに対する高水準の自己抗体の存在をイン・ビトロで評価するためのキット。
【請求項35】
前記ポリペプチドが、融合タンパク質であって、
i) EPCRアミノ酸配列を含むポリペプチド、または抗EPCR抗体によって認識することができる少なくとも1つのエピトープを含むその断片から構成される領域A、および
ii) 前記融合タンパク質を単離しまたは精製するのに用いるアミノ酸配列、および/または前記融合タンパク質を固形支持体に固定するのに用いるアミノ酸配列を含むポリペプチドから構成される領域B
を含んでなる融合タンパク質であることを特徴とする、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記領域Aが、ヒトEPCRの可溶性部分のアミノ酸を含んでなることを特徴とする、請求項35に記載のキット。
【請求項37】
前記ポリペプチドが、ヒトEPCRの可溶性部分のアミノ酸配列、c−mycエピトープに対応するアミノ酸配列およびヒスチジンの尾部(Hisタグ)を含んでなる融合タンパク質であることを特徴とする、請求項35または36に記載のキット。
【請求項38】
ポリペプチドが、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質であることを特徴とする、請求項35〜37のいずれか一項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−520713(P2007−520713A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551864(P2006−551864)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【国際出願番号】PCT/ES2005/000046
【国際公開番号】WO2005/076000
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】