説明

抗HER3抗体及びその使用

本発明は、ヒトHER3に結合する抗体(抗HER3抗体)、それらの製造方法、該抗体を含有する薬学的組成物、及びそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトHER3に結合する抗体(抗HER3抗体)、それらの製造方法、該抗体を含有する薬学的組成物、及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトHER3(ErbB-3、ERBB3、c-erbB-3、c-erbB3、レセプターチロシン-プロテインキナーゼ、配列番号:17)は、HER1(EGFRとしても知られている)、HER2、及びHER4(Kraus, M.Hら, PNAS 86(1989) 9193-9197;Plowman, G.Dら, PNAS 87(1990) 4905-4909;Kraus, M.Hら, PNAS 90(1993) 2900-2904)もまた含むレセプターチロシンキナーゼの上皮増殖因子レセプター(EGFR)ファミリーのメンバーをコードする。プロトタイプの上皮増殖因子レセプターと同様に、膜貫通レセプターHER3は、細胞外リガンド結合ドメイン(ECD)、ECD内の二量体化ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内タンパク質チロシンキナーゼドメイン(TKD)、及びC-末端リン酸化ドメインからなる。この膜結合タンパク質は、細胞外ドメイン内にHER3、ヘレグリン(HRG)結合ドメインを有するが、活性なキナーゼドメインは持たない。よって、それはこのリガンドへの結合は可能であるが、タンパク質のリン酸化を介して細胞にシグナルを運ぶことはできない。しかしながら、それは、キナーゼ活性を有する他のHERファミリーのメンバーとは、ヘテロ二量体を形成する。ヘテロ二量体化により、その細胞内ドメインのトランスリン酸化及びレセプター-媒介性シグナル伝達経路の活性化を生じる。HERファミリーメンバー間の二量体形成は、HER3のシグナル伝達の可能性を拡大させ、シグナル多様化のためだけでなく、シグナル増幅のための手段である。例えば、HER2/HER3ヘテロ二量体は、HERファミリーメンバーの中でも、PI3K及びAKT経路を介した最も重要な分裂促進シグナルの一つを誘導する(Sliwkowski M.Xら, J. Biol. Chem. 269(1994)14661-14665;Alimandi Mら, Oncogene. 10(1995) 1813-1821;Hellyer, N.J., J. Biol. Chem. 276(2001) 42153-4261;Singer, E., J. Biol. Chem. 276(2001) 44266-44274;Schaefer, K.L., Neoplasia 8(2006) 613-622)。
【0003】
この遺伝子の増幅及び/又はそのタンパク質の過剰発現は、前立腺、膀胱及び乳腺の腫瘍を含む多くの癌で報告されている。異なったアイソフォームをコードする選択的転写スプライスバリアントが特徴付けられている。一アイソフォームは膜間領域を欠き、細胞の外に分泌される。この形態は、膜結合型の活性を調節するように作用する。付加的なスプライスバリアントも報告されているが、十分に特徴付けられてはいない。
【0004】
国際公開第97/35885号はHER3抗体に関連している。国際公開第2003/013602号は、HER抗体を含むHER活性のインヒビターに関連している。国際公開第2007/077028号及び国際公開第2008/100624号も、HER3抗体に関連している。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、重鎖可変ドメインが、配列番号:1のCDR3H領域、配列番号:2のCDR2H領域、及び配列番号:3のCDR1H領域を含み、軽鎖可変ドメインが、配列番号:4のCDR3L領域、配列番号:5のCDR2L領域、及び配列番号:6のCDR1L領域又は配列番号:7のCDR1L領域を含むことを特徴とする、ヒトHER3に結合する抗体を含む。
【0006】
本発明は、重鎖可変ドメインVHが配列番号:8であり;軽鎖可変ドメインVLが配列番号:9であるか、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:10であるか、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:11であることを特徴とする本発明の抗体;又はそのヒト化型をさらに含む。
【0007】
本発明は、重鎖可変ドメインが、配列番号:1のCDR3H領域、配列番号:2のCDR2H領域、及び配列番号:3のCDR1H領域を含み、軽鎖可変ドメインが、配列番号:4のCDR3L領域、配列番号:5のCDR2L領域、及び配列番号:6のCDR1L領域を含むことを特徴とする抗体をさらに含む。
【0008】
本発明は、配列番号:8の重鎖可変ドメインVH;及び配列番号:9又は配列番号:11の軽鎖可変ドメインVLを含む抗体をさらに含む。
【0009】
本発明は、重鎖可変ドメインが、配列番号:1のCDR3H領域、配列番号:2のCDR2H領域、及び配列番号:3のCDR1H領域を含み、軽鎖可変ドメインが、配列番号:4のCDR3L領域、配列番号:5のCDR2L領域、及び配列番号:7のCDR1L領域を含む抗体をさらに含む。
【0010】
本発明は、配列番号:8の重鎖可変ドメインVH;及び配列番号:10の軽鎖可変ドメインVLを含む抗体をさらに含む。
【0011】
本発明の他の態様は、ヒトHER3に結合する抗体であって、配列番号:8と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変ドメインVH、及び配列番号:9、配列番号:10、又は配列番号:11と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメインVLを含む抗体を提供する。
【0012】
一実施態様では、本発明の抗体は、抗体がモノクローナルであることを特徴とする。
【0013】
一実施態様では、本発明の抗体は、抗体がヒト化されていることを特徴とする。
【0014】
一実施態様では、本発明の抗体は、抗体がIgG1又はIgG4サブクラスであることを特徴とする。
【0015】
本発明は、本発明の抗体を含有することを特徴とする薬学的組成物をさらに含む。
【0016】
本発明は、癌の治療のための本発明の抗体をさらに含む。
【0017】
本発明は、癌の治療のための医薬の製造における本発明の抗体の使用をさらに含む。
【0018】
本発明は、本発明の抗体を患者に投与することを特徴とする、癌に罹患している患者を治療する方法をさらに含む。
【0019】
本発明の他の態様は、ここで提供される抗HER3抗体の重鎖と軽鎖をコードする核酸を提供する。一実施態様では、抗体は、配列番号:8と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変ドメインVHと、配列番号:9、配列番号:10、又は配列番号:11と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメインVLを含む。
【0020】
本発明は、ヒトHER3に結合する抗体の重鎖と軽鎖をコードする核酸をさらに含み、該抗体は、配列番号:8の可変ドメインVH;及び配列番号:8、配列番号:10、又は配列番号:11の軽鎖可変ドメインVL;又はそのヒト化型を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明は、原核生物又は真核生物の宿主細胞に、本発明の抗体を発現させるための本発明の核酸を含有することを特徴とする発現ベクターをさらに含む。
【0022】
本発明は、本発明のベクターを含有する原核生物又は真核生物の宿主細胞をさらに含む。
【0023】
本発明は、原核生物又は真核生物の宿主細胞において本発明の核酸を発現させ、該細胞又は細胞培養物の上清から上記抗体を回収することを特徴とする、本発明の組換え抗体を生産する方法をさらに含む。
【0024】
驚くべきことに、本発明の抗体が、優れた薬物動態特性(例えば、長い半減期等)、HER3に対する高度な結合親和性、癌細胞の増殖に関連し、(例えば、HER3リン酸化及びAKTリン酸化等の)HER3媒介性シグナル伝達の強力な阻害、HER3発現癌細胞の強力な増殖阻害等の非常に貴重な特性を有することが見いだされた。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、重鎖可変ドメインが、配列番号:1のCDR3H領域、配列番号:2のCDR2H領域、及び配列番号:3のCDR1H領域を含み、軽鎖可変ドメインが、配列番号:4のCDR3L領域、配列番号:5のCDR2L領域、及び配列番号:6のCDR1L領域又は配列番号:7のCDR1L領域を含むことを特徴とする、ヒトHER3に結合する抗体を含む。
【0026】
本発明は、重鎖可変ドメインVHが配列番号:8であり;軽鎖可変ドメインVLが配列番号:9であるか、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:10であるか、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:11であることを特徴とする本発明の抗体;又はそのヒト化型をさらに含む。
【0027】
本発明は、重鎖可変ドメインVHが配列番号:8であり;軽鎖可変ドメインVLが配列番号:9であるか、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:10であるか、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:11であることを特徴とする本発明の抗体をさらに含む。
【0028】
一実施態様では、本発明の抗体は、重鎖可変ドメインが、配列番号:1のCDR3H領域、配列番号:2のCDR2H領域、及び配列番号:3のCDR1H領域を含み、軽鎖可変ドメインが、配列番号:4のCDR3L領域、配列番号:5のCDR2L領域、及び配列番号:6のCDR1L領域を含むことを特徴とする。
【0029】
一実施態様では、本発明の抗体は、重鎖可変ドメインVHが配列番号:8であり;軽鎖可変ドメインVLが配列番号:9であるか、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:11であることを特徴とする。
【0030】
一実施態様では、本発明の抗体は、重鎖可変ドメインが、配列番号:1のCDR3H領域、配列番号:2のCDR2H領域、及び配列番号:3のCDR1H領域を含み、軽鎖可変ドメインが、配列番号:4のCDR3L領域、配列番号:5のCDR2L領域、及び配列番号:7のCDR1L領域を含むことを特徴とする。
【0031】
一実施態様では、本発明の抗体は、重鎖可変ドメインVHが配列番号:8であり;軽鎖可変ドメインVLが配列番号:10であることを特徴とする。
【0032】
一実施態様では、本発明の抗体はモノクローナルである。一実施態様では、本発明の抗体はヒト化又はヒトである。一実施態様では、本発明の抗体はIgG1、又はIgG4サブクラスである。一実施態様では、本発明の抗体はIgG1サブクラスのモノクローナルヒト化抗体である。一実施態様では、本発明の抗体は、Asn297で糖鎖でグリコシル化されており、よって該糖鎖内のフコース量が65%以下であることを特徴とする抗体である。
【0033】
本発明は、それぞれVH及びVL又はCDRを有するヒト化抗体Mab 205.10.1、Mab 205.10.2、及びMab 205.10.3を含む。


一実施態様では、このような抗体は、例えば配列番号:12−16、好ましくは配列番号:12−13等の、ヒト由来の定常領域を含む。
【0034】
「抗体」なる用語は、種々の形態の抗体構造を包含し、限定されるものではないが、全抗体及び抗体断片を含む。本発明の抗体は、好ましくはヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、又は本発明の特徴的特性が保持されている限り、さらに遺伝子改変された抗体である。
【0035】
「抗体断片」は全長抗体の一部、好ましくはその可変ドメイン、又は少なくともその抗原結合部位を含む。抗体断片の例には、ダイアボディ、単鎖抗体分子、及び多重特異性抗体で、抗体断片から形成されたものが含まれる。scFv抗体は、例えばHouston, J.S., Methods in Enzymol. 203 (1991) 46-96に記載されている。さらに、抗体断片は、Vドメイン、すなわちVドメインと共にアセンブリ可能である、又はHER3に結合するVドメイン、すなわち機能的抗原結合部位にVドメインと共にアセンブリ可能であるという特徴を有し、よって本発明の抗体の特徴を提供する単鎖ポリペプチドを含む。
【0036】
ここで使用される「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」なる用語は、単一のアミノ酸組成の抗体分子の調製物を意味する。
【0037】
「キメラ抗体」なる用語は、マウスからの可変領域、すなわち結合領域と、異なった供給源又は種から誘導された、通常は組換えDNA技術により調製される定常領域の少なくとも一部を含むモノクローナル抗体を意味する。マウス可変領域とヒト定常領域を含むキメラ抗体が特に好ましい。このようなラット/ヒトキメラ抗体は、ラット免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントと、ヒト免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む発現された免疫グロブリン遺伝子の産物である。本発明に包含される「キメラ抗体」の他の形態は、クラス又はサブクラスが元々の抗体のものから修飾され又は変化させられたものである。このような「キメラ」抗体は、「クラススイッチ抗体」とも称される。キメラ抗体を生産するための方法には、今は当該技術分野でよく知られている一般的な組換えDNA及び遺伝子形質移入技術が含まれる。例えば、Morrison, S.Lら, Proc. Natl. Acad Sci. USA 81(1984) 6851-6855;米国特許第5202238号及び米国特許第5204244号を参照。
【0038】
「ヒト化抗体」又は「抗体のヒト化型」なる用語は、フレームワーク又は「相補性決定領域」(CDR)が修飾されて、親免疫グロブリンのものと比較して、異なる特異性の免疫グロブリンのCDRを含むように改変された抗体を意味する。好ましい実施態様では、VH及びVLのCDRは、ヒト抗体のフレームワーク領域にグラフトされて、「ヒト化抗体」が調製される。例えば、 Riechmann, Lら, Nature 332(1988) 323-327;及びNeuberger, M.Sら, Nature 314(1985) 268-270を参照。重鎖及び軽鎖の可変フレームワーク領域は、同一又は異なるヒト抗体配列から誘導されうる。ヒト抗体配列は天然に生じるヒト抗体の配列でありうる。ヒト重鎖及び軽鎖可変フレームワーク領域は、Lefranc, M.-P., Current Protocols in Immunology(2000) - Appendix 1P A.1P.1-A.1P.37に列挙されており、IMGT、国際免疫遺伝学的情報システム(international ImMunoGeneTics information system)(登録商標)(http://imgt.cines.fr) 又はhttp://vbase.mrc-cpe.cam.ac.ukによってアクセス可能である。場合によっては、フレームワーク領域をさらなる変異により修飾することもできる。特に好ましいCDRは、キメラ抗体に対して上述した抗原を認識する配列を表すものに相当する。好ましくは、このようなヒト化型はヒト定常領域でキメラ化される(例えば、配列番号:12−16の配列を参照)。ここで使用される「ヒト化抗体」なる用語は、「クラススイッチング」により、すなわちFc部の変化又は変異(例えば、IgG1からIgG4、及び/又はIgG1/IgG4変異)により、特にC1q結合及び/又はFcR結合に関して、本発明の特性を生じさせるために、定常領域が修飾されたこのような抗体をまた含む。
【0039】
ここで使用される「ヒト抗体」なる用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列から由来する可変及び定常領域を有する抗体を含むことを意図している。ヒト抗体は従来技術でよく知られている(van Dijk, M.A.及び van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5(2001) 368-374)。またヒト抗体は、免疫化において、内在性免疫グロブリン生成の不在下において、ヒト抗体の選択、又は全レパートリーを生成可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)で生成可能である。このような生殖系列変異マウスへの、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移動により、抗原曝露でヒト抗体が生成される(例えば、Jakobovits, Aら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90(1993) 2551-2555;Jakobovits, Aら, Nature 362(1993) 255-258;Brueggemann, M.Dら, Year Immunol. 7(1993) 33-40)。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーにおいても生成可能である(Hoogenboom, H.R., 及び Winter, G., J. Mol. Biol. 227(1992) 381-388;Marks, J.Dら, J. Mol. Biol. 222(1991) 581-597)。また、Cole, Aら及びBoerner, Pらの技術は、ヒトモノクローナル抗体の生成に有用である(Cole, Aら, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Liss, A.L., p. 77(1985);及びBoerner, Pら, J. Immunol. 147(1991) 86-95)。本発明のヒト化抗体について上述したように、ここで使用される場合、「ヒト抗体」なる用語は、「クラススイッチ」により、すなわちFc部の変化又は変異(例えば、IgG1からIgG4、及び/又はIgG1/IgG4変異)により、特にC1q結合及び/又はFcR結合に関して、本発明の特性を生じさせるために、定常領域が修飾されたこのような抗体を含む。
【0040】
ここで使用される場合、「組換えヒト抗体」なる用語は、宿主細胞に形質移入された組換え発現ベクターを使用し、発現したヒト免疫グロブリン遺伝子又は抗体用のトランスジェニックである動物(例えばマウス)から、又はNS0又はCHO細胞等の宿主細胞から単離された抗体等、組換え手段により調製、発現、生成又は単離された全てのヒト抗体を含むことを意図している。このような組換えヒト抗体は、再配列された形態で、可変及び定常領域を有する。本発明の組換えヒト抗体は、インビボ体細胞突然変異を受ける。よって、組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH及びVL配列から誘導され、関連しているので、 インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然に存在しないであろう配列である。
【0041】
ここで使用される場合、「ヒトHER3に結合」、「ヒトHER3に特異的に結合」、又は「抗HER3抗体」は交換可能であり、25℃で1.0×10−8mol/l以下のKD-値、一実施態様では25℃で1.0×10−9mol/l以下のKD-値の結合親和性を有する、ヒトHER3抗原に特異的に結合する抗体を称する。結合親和性は25℃で標準的な結合アッセイ、例えば表面プラズモン共鳴技術(BIAcore(登録商標), GE-Healthcare Uppsala, Sweden)を用いて測定される。結合親和性のKD-値を測定するための方法は、実施例2b)に記載されている。よって、ここで使用される場合、「ヒトHER3に結合する抗体」とは、25℃でKD1.0×10−8mol/l以下(好ましくは、1.0×10−8mol/l-1.0×10−12mol/l)の結合親和性を有する、ヒトHER3抗原に特異的に結合する抗体を称する。
【0042】
ヒトHER3(ErbB-3、ERBB3、c-erbB−3、c-erbB3、レセプターチロシン-プロテインキナーゼerbB-3、配列番号:17)は、HER1(EGFRとしても知られている)、HER2、及びHER4も含む、レセプターチロシンキナーゼの上皮増殖因子レセプター(EGFR)ファミリーのメンバーをコードする(Kraus, M.Hら, PNAS 86(1989), 9193-9197; Plowman, G.Dら, PNAS 87(1990), 4905-4909; Kraus, M.Hら, PNAS 90(1993), 2900-2904)。プロトタイプの上皮増殖因子レセプターと同様、膜貫通レセプターHER3は、細胞外リガンド-結合ドメイン(ECD)、ECD内の二量体化ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内タンパク質チロシンキナーゼドメイン(TKD)、及びC-末端リン酸化ドメインからなる。この膜結合タンパク質は、HER3、細胞外ドメイン内のヘレグリン(HRG)結合ドメインを有するが、活性キナーゼドメインは有さない。よって、このリガンドへの結合は可能であるが、タンパク質のリン酸化を介して、細胞にシグナルを伝達することはできない。しかしながら、キナーゼ活性を有する他のHERファミリーのメンバーとは、ヘテロ二量体を形成する。ヘテロ二量体化により、その細胞内ドメインのトランスリン酸化及びレセプター媒介性シグナル伝達経路の活性化に至る。HERファミリーメンバー間の二量体形成は、HER3のシグナル伝達の可能性を拡大させ、シグナル多様化のためだけでなく、シグナル増幅のための手段である。例えば、HER2/HER3ヘテロ二量体は、HERファミリーメンバーの中でも、PI3K及びAKT経路を介した、最も重要な分裂促進シグナルの一つを誘発する(Sliwkowski M.Xら, J. Biol. Chem. 269(1994)14661-14665; Alimandi Mら, Oncogene. 10(1995) 1813-1821; Hellyer, N.J., J. Biol. Chem. 276(2001) 42153-4261; Singer, E., J. Biol. Chem. 276(2001) 44266-44274; Schaefer, K.L., Neoplasia 8(2006) 613-622)。
【0043】
HER3抗体Mab 205.10.1、Mab 205.10.2、及びMab 205.10.3は、HER3に対し、リガンドヘルグリン(HRG)との競合的結合を示す。
【0044】
この遺伝子の増幅及び/又はそのタンパク質の過剰発現は、前立腺、膀胱及び乳腺の腫瘍を含む、多くのがんで報告されている。種々のアイソフォームをコードする選択的転写スプライスバリアントが特徴付けられている。一アイソフォームは膜間領域を欠き、細胞の外に分泌される。この形態は、膜結合形態の活性を調節するように作用する。付加的なスプライスバリアントも報告されているが、十分に特徴付けられているわけではない。
【0045】
「エピトープ」なる用語は、抗体に特異的に結合可能な任意のポリペプチド決定基を含む。ある種の実施態様では、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、又はスルホニル等の、分子の化学的に活性な表面グルーピングを含み、ある実施態様においては、特異的な3次元構造的特性、又は特異的な電荷特性を有し得る。
【0046】
ここで使用される場合、「本発明の抗体の可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(V)、重鎖の可変ドメイン(V))は、抗原への抗体の結合に直接関与している、軽鎖及び重鎖ドメイン対のそれぞれを示す。軽鎖及び重鎖の可変ドメインは同様の一般構造を有し、各ドメインは、その配列が広範囲に保存されており、3つの「高頻度可変領域」(又は相補性決定領域、CDR)により結合している、4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβ-シート立体構造を採用し、CDRはβ-シート構造に結合するループを形成可能である。各鎖のCDRは、フレームワーク領域により3次元構造に保持され、他の鎖のCDRと共に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖及び軽鎖CDR3領域は、本発明の抗体の結合特異性/親和性において、特に重要な役割を担っており、よって本発明のさらなる目的を提供する。
【0047】
ここで使用される場合、「抗体の抗原結合部分」なる用語は、抗原結合の原因となる、抗体のアミノ酸残基を称する。抗体の抗原結合部分は、「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基を含む。本発明の抗体の「抗原-結合部分」なる用語は、抗原に対する結合部位の親和性の様々な程度の原因である、6つの相補性決定領域(CDR)を含む。3つの重鎖可変ドメインCDR(CDRH1、CDRH2及びCDRH3)、及び3つの軽鎖可変ドメインCDR(CDRL1、CDRL2及びCDRL3)が存在する。「CDRH1」なる用語は、カバットに従い算出される重鎖可変領域のCDR1領域を示す。CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3は、重鎖(H)又は軽鎖(L)からのそれぞれの領域を意味する。CDR及びフレームワーク領域(FR)の範囲は、それらの領域が、Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991)の配列における可変性に従い定められている、アミノ酸配列のコンパイルデータベースと比較することにより決定される。
【0048】
本発明の「Fc部分」は、抗原に対する抗体の結合性には直接関与しないが、種々のエフェクター機能を示す。「抗体のFc部分」は当業者によく知られた用語であり、抗体のパパイン切断に基づいて定められる。それらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、抗体又は免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMのクラスに分けられ:これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4、IgA1、及びIgA2にさらに分けられる。重鎖定常領域に応じて、免疫グロブリンの異なるクラスは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。抗体のFc部分は、補体活性に基づき、ADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性)及びCDC(補体依存性細胞傷害性)、C1q結合性及びFcレセプター結合性に直接関与している。「補体依存性細胞傷害性(CDC)」なる用語は、ほとんどのIgG抗体サブクラスのFc領域への補体因子C1qの結合により開始されるプロセスを示す。抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位での、明確なタンパク質-タンパク質相互作用によって生じる。このような結合部位は従来技術で知られているであり、例えばBoackle, R.Jら, Nature 282(1979) 742-743, Lukas, T.Jら, J. Immunol. 127(1981) 2555-2560, Brunhouse, R., 及び Cebra, J.J., Mol. Immunol. 16(1979) 907-917, Burton, D.Rら, Nature 288(1980) 338-344, Thommesen, J.Eら, Mol. Immunol. 37(2000) 995-1004, Idusogie, E.Eら, J. Immunol.164(2000) 4178-4184, Hezareh, Mら, J. Virology 75(2001) 12161-12168, Morgan, Aら, Immunology 86(1995) 319-324, 欧州特許第0 307 434号に記載されている。このような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331及びP329である(Kabat, E.AのEU指標に従い番号付け、以下参照)。通常、サブクラスIgG1、IgG2及びIgG3の抗体は補体活性、及びC1q及びC3結合を示すが、IgG4は補体系を活性化させず、C1q及びC3に結合しない。
【0049】
一実施態様では、本発明の抗体は、ヒト由来から誘導されたFc部分、好ましくはヒト定常領域の全ての他の部分を含む。ここで使用される場合、「ヒト由来から誘導されたFc部分」なる用語は、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のヒト抗体のFc部分、例えばヒトIgG1サブクラスからのFc部分、ヒトIgG1サブクラスからの変異Fc部分(好ましくは、L234A+L235Aに変異を有する)、ヒトIgG4サブクラスからのFc部分、又はヒトIgG4サブクラスからの変異Fc部分(好ましくは、S228Pに変異を有する)のいずれかである、Fc部分を示す。配列番号:13(ヒトIgG1サブクラス)、配列番号:14(変異L234A及びL235Aを有するヒトIgG1サブクラス)のヒト重鎖定常領域が好ましい。
【0050】
一実施態様では、本発明の抗体は、ヒトIgG1サブクラス又はヒトIgG3サブクラスのものである。一実施態様では、本発明の抗体はヒトIgG1サブクラスのものである。
【0051】
一実施態様では、本発明の抗体は、定常ドメインがヒト由来のものであることを特徴とする。このような定常ドメインは従来技術でよく知られており、例えばKabat, E.A.,(例えば、Johnson, G. 及び Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28(2000) 214-218を参照)に記載されている。例えば、有用なヒト重鎖定常領域は、配列番号:13のアミノ酸配列を含む。例えば、有用なヒト軽鎖定常領域は、配列番号:12のカッパ-軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。
【0052】
この出願内で使用される「アミノ酸」なる用語は、アラニン(3文字コード:ala、1文字コード:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、スレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、及びバリン(val、V)を含む、自然に生じるカルボキシα-アミノ酸の群を示す。
【0053】
ここで使用される場合、「核酸」又は「核酸分子」なる用語は、DNA分子及びRNA分子を含むことを意図している。核酸分子は一本鎖又は二本鎖であってよいが、好ましくは二本鎖DNAである。核酸は、他の核酸と機能的関係に位置している場合は、「作用可能に結合」している。例えば、プレ配列又は分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されているならば、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般的に、「作用可能に結合している」とは、結合したDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読みフェーズにあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーが常套的な手法に従って使用される。ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養」なる表現は交換可能に使用され、全てのこのような意味には子孫が含まれる。よって、「形質転換体」及び「形質転換細胞」なる用語には、初代の対照細胞、及び移動の回数に関係なくそこから得られた培養体も含まれる。また、全ての子孫は、計画的又は偶発的変異により、DNA量において、厳密には同一でない可能性もあると理解される。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされた場合、同じ機能又は生物活性を有する変異子孫も含まれる。
【0054】
本発明の抗体は、好ましくは、定常鎖がヒト由来のものであることを特徴とする。このような定常鎖は従来技術ではよく知られており、例えばKabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)に記載されている。例えば、有用なヒト軽鎖定常領域は、配列番号:12のカッパ-軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。例えば有用なヒト重鎖定常領域は配列番号:13〜16を含む。
【0055】
本発明のさらなる実施態様は、本発明の抗体の重鎖及び軽鎖をコードする核酸である。
【0056】
本発明の抗体には、さらに「保存配列修飾」(変異抗体)、ヌクレオチド、及び本発明の抗体の上述した特徴が影響を受けていない又は変化していないアミノ酸配列修飾を有するこのような抗体が含まれる。修飾は、当該技術で知られているの標準的技術、例えば部位指向性変異原性及びPCR媒介性変異原性により導入することができる。保存的アミノ酸置換には、アミノ酸残基が、類似した側鎖を有するアミノ酸残基と置き換えられるものが含まれる。類似した側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術で定められている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷の極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ-分枝状側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。よって、ヒト抗HER3抗体において予知される非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同様の側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基で置き換えることができる。よって、「変異」抗HER3抗体は、ここでは親抗体の一又は複数の可変領域において、10まで、好ましくは約2〜約5の付加、欠失及び/又は置換により、「親」抗HER3抗体アミノ酸配列とは、アミノ酸配列が異なっている分子を称する。アミノ酸置換は、Riechmann, Lら, Nature 332 (1988) 323-327 及び Queen, Cら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-1003により記載されているような、分子モデリングに基づく変異原性により実施することができる。
【0057】
他の態様では、本発明の抗HER3抗体は、配列番号:8のアミノ酸配列と、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)配列を含む。ある実施態様では、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するVH配列は、参照配列に対して、置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗HER3抗体は、HER3に結合する能力を保持している。ある実施態様においては、全体で1〜10のアミノ酸が、配列番号:8にて、置換、挿入及び/又は欠失している。ある実施態様においては、置換、挿入又は欠失は、CDRの外側領域(すなわち、FR)で生じている。場合によっては、抗HER3抗体は、その配列の翻訳後修飾を含む、配列番号:8にVH配列を含む。特定の実施態様では、VHは:(a)配列番号:3のアミノ酸配列を含むCDR1H、(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含むCDR2H、及び(c)配列番号:1のアミノ酸配列を含むCDR3Hから選択される、1、2又は3のCDRを含む。
【0058】
他の態様では、本発明の抗HER3抗体は、配列番号:9、配列番号:10、又は配列番号:11のアミノ酸配列と、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン(VL)配列を含む。ある実施態様では、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するVL配列は、参照配列に対して、置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗HER3抗体は、HERに結合する能力を保持している。ある実施態様においては、全体で1〜10のアミノ酸が、配列番号:9、配列番号:10、又は配列番号:11にて、置換、挿入及び/又は欠失している。ある実施態様においては、置換、挿入又は欠失は、CDRの外側領域(すなわち、FR)で生じている。場合によっては、抗HER3抗体は、その配列の翻訳後修飾を含む、配列番号:9、配列番号:10、又は配列番号:11にVL配列を含む。特定の実施態様では、VLは:(a)配列番号:6又は配列番号:7のアミノ酸配列を含むCDR1L、(b)配列番号:5のアミノ酸配列を含むCDR2L、及び(c)配列番号:4のアミノ酸配列を含むCDR3Lから選択される、1、2又は3のCDRを含む。
【0059】
他の態様においては、抗HER3抗体が提供され、ここで抗体は、上述にて提供した任意の実施態様のVH、及び上述にて提供した任意の実施態様のVLを含む。一実施態様では、抗体は、その配列の翻訳後修飾を含み;以下の特性(実施例3及び2に記載されるアッセイで測定):
− 抗HER3抗体が、腫瘍細胞、例えばMCF7細胞、FaDu細胞、又はMel-Juso細胞において、HER3のリン酸化を阻害し(一実施態様では、抗HER3抗体が、1.0μg/mlの濃度で、少なくとも80%(一実施態様では、少なくとも90%)のMCF7細胞にてHER3のリン酸化阻害を示し;一実施態様では、抗HER3抗体が、0.1μg/mlの濃度で、少なくとも80%(一実施態様では、少なくとも90%)のFaDu細胞にてHER3のリン酸化阻害を示し;一実施態様では、抗HER3抗体が、0.1μg/mlの濃度で、少なくとも60%(一実施態様では、少なくとも70%)のMel-Juso細胞にてHER3のリン酸化阻害を示す)
− 抗HER3抗体が、腫瘍細胞、例えばMel-Juso細胞において、AKTのリン酸化を阻害し(一実施態様においては0.50μg/ml未満のIC50値で、一実施態様においては0.35μg/ml未満のIC50値で、抗HER3抗体が、Mel-Juso細胞において、AKTのリン酸化を阻害する)
− 抗HER3抗体が、腫瘍細胞、例えばMDA-MB-175細胞の増殖を阻害し(一実施態様では、抗HER3抗体が、10μg/ml未満のIC50値で、MDA-MB-175細胞の増殖を阻害する)
− 抗HER3抗体が、5.0×10−9M未満のKD値、一実施態様においては3.0×10−9M未満のKD値で、HER3に結合する
の一又は複数を有する、それぞれ配列番号:8及び配列番号:10にVH及びVL配列を含む。
【0060】
他の態様では、本発明の抗HER3抗体は、配列番号:8のアミノ酸配列と、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)配列を含み、配列番号:9、配列番号:10、又は配列番号:11のアミノ酸配列と、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン(VL)配列を含み、次の特性(実施例3及び2に記載されるアッセイで測定):
− 抗HER3抗体が、腫瘍細胞、例えばMCF7細胞、FaDu細胞、又はMel-Juso細胞において、HER3のリン酸化を阻害し(一実施態様では、抗HER3抗体が、1.0μg/mlの濃度で、少なくとも80%(一実施態様では、少なくとも90%)のMCF7細胞にてHER3のリン酸化阻害を示し;一実施態様では、抗HER3抗体が、0.1μg/mlの濃度で、少なくとも80%(一実施態様では、少なくとも90%)のFaDu細胞にてHER3のリン酸化阻害を示し;一実施態様では、抗HER3抗体が、0.1μg/mlの濃度で、少なくとも60%(一実施態様では、少なくとも70%)のMel-Juso細胞にてHER3のリン酸化阻害を示す)
− 抗HER3抗体が、腫瘍細胞、例えばMel-Juso細胞において、AKTのリン酸化を阻害し(一実施態様においては0.50μg/ml未満のIC50値で、一実施態様においては0.35μg/ml未満のIC50値で、抗HER3抗体が、Mel-Juso細胞において、AKTのリン酸化を阻害する)
− 抗HER3抗体が、腫瘍細胞、例えばMDA-MB-175細胞の増殖を阻害し(一実施態様では、抗HER3抗体が、10μg/ml未満のIC50値で、MDA-MB-175細胞の増殖を阻害する)
− 抗HER3抗体が、5.0×10−9M未満のKD値、一実施態様においては3.0×10−9M未満のKD値で、HER3に結合する
の一又は複数を有する。
【0061】
本発明の一実施態様は、ヒトHER3に結合し、配列番号:8と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変ドメインVH、及び配列番号:9、配列番号:10、又は配列番号:11と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメインVLを含む抗体である。
【0062】
本発明の一実施態様は、軽鎖可変ドメインVLが、配列番号:9と少なくとも95%の配列同一性を有する、このような抗体である。
【0063】
本発明の一実施態様は、軽鎖可変ドメインVLが、配列番号:10と少なくとも95%の配列同一性を有する、このような抗体である。
【0064】
本発明の一実施態様は、軽鎖可変ドメインVLが、配列番号:11と少なくとも95%の配列同一性を有する、このような抗体である。
【0065】
本発明の一実施態様は、配列番号:8と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変ドメインVH、及び配列番号:9、配列番号:10、又は配列番号:11と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメインVLを含み、ヒトHER3に結合し;次の特性(実施例3及び2に記載のアッセイで測定):
− 抗HER3抗体が、腫瘍細胞、例えばMCF7細胞、FaDu細胞、又はMel-Juso細胞において、HER3のリン酸化を阻害し(一実施態様では、抗HER3抗体が、1.0μg/mlの濃度で、少なくとも80%(一実施態様では、少なくとも90%)のMCF7細胞にてHER3のリン酸化阻害を示し;一実施態様では、抗HER3抗体が、0.1μg/mlの濃度で、少なくとも80%(一実施態様では、少なくとも90%)のFaDu細胞にてHER3のリン酸化阻害を示し;一実施態様では、抗HER3抗体が、0.1μg/mlの濃度で、少なくとも60%(一実施態様では、少なくとも70%)のMel-Juso細胞にてHER3のリン酸化阻害を示す)
− 抗HER3抗体が、腫瘍細胞、例えばMel-Juso細胞において、AKTのリン酸化を阻害し(一実施態様においては0.50μg/ml未満のIC50値で、一実施態様においては0.35μg/ml未満のIC50値で、抗HER3抗体が、Mel-Juso細胞において、AKTのリン酸化を阻害する)
− 抗HER3抗体が、腫瘍細胞、例えばMDA-MB-175細胞の増殖を阻害し(一実施態様では、抗HER3抗体が、10μg/ml未満のIC50値で、MDA-MB-175細胞の増殖を阻害する)
− 抗HER3抗体が、5.0×10−9M未満のKD値、一実施態様においては3.0×10−9M未満のKD値で、HER3に結合する
の一又は複数を有する抗体である。
【0066】
配列に関する同一性又は相同性は、最大のパーセント配列同一性を達成するために必要ならば、配列を変化させ、間隙を導入した後、親配列と同一である、候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとしてここでは定められる。抗体配列における、N末端、C末端、又は内部の伸長、欠失、又は挿入のいずれも、配列同一性又は相同性に影響を与えると解釈すべきではない。変異体は、ヒトHER3の可変ドメインに結合する能力を保持しており、好ましくは親抗体よりも優れた特性を有する。例えば、変異体は処置中の副作用が低減する可能性がある。
【0067】
例示的な「親」抗体は、抗体Mab 205.10.2のCDR領域を含み、好ましくは、変異体の調製に使用される。好ましくは、親抗体はヒトフレームワーク領域を有しており、存在するならば、ヒト抗体定常ドメインを有する。例えば、親抗体はヒト化又はヒト抗体であってよい。
【0068】
「抗体依存性細胞傷害性性(ADCC)」なる用語は、エフェクター細胞の存在下、本発明の抗体によるヒト標的細胞の溶解を意味する。ADCCは、エフェクター細胞の存在下、例えば新鮮に単離されたPBMC又はバフィーコートからの精製エフェクター細胞、例えば単球又はナチュラルキラー(NK)細胞又は永続的に増殖するNK細胞株の存在下で本発明の抗体でHER3発現細胞の調製物を処理することにより好ましくは測定される。
【0069】
モノクローナル抗体のADCCのような細胞媒介性エフェクター機能は、Umana, Pら, Nature Biotechnol. 17(1999) 176-180、及び米国特許第6602684号に記載されているような、それらのオリゴ糖成分を操作することにより高めることができる。最も一般的に使用される治療用抗体であるIgG1型抗体は、各CH2ドメインにおいて、Asn297に保存されたN結合グリコシル化部位を有する糖タンパク質である。Asn297に結合した2つの複合二分岐オリゴ糖はCH2ドメイン間に埋没しており、ポリペプチド骨格を有する広範な接触部を形成し、それらの存在は、抗体が、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)等のエフェクター機能を媒介するのに必須である(Lifely, M.Rら, Glycobiology 5(1995) 813-822; Jefferis, Rら, Immunol. Rev. 163(1998) 59-76; Wright, A. 及び Morrison, S.L., Trends Biotechnol. 15(1997) 26-32)。 Umana, Pら, Nature Biotechnol. 17(1999) 176-180 及び国際公開第99/54342号には、チャイニーズ卵巣CHO細胞において、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(「GnTIII」)、二分されたオリゴ糖の形成を触媒するグリコシルトランスフェラーゼが、抗体のインビトロADCC活性をかなり増加させることが示されている。Asn297炭水化物の組成における変化又はその除去は、FcγR及びC1qへの結合にも影響を及ぼす(Umana, Pら, Nature Biotechnol. 17(1999) 176-180;Davies, Jら, Biotechnol. Bioeng. 74(2001) 288-294;Mimura, Yら, J. Biol. Chem. 276(2001) 45539-45547;Radaev, Sら, J. Biol. Chem. 276(2001) 16478-16483;Shields, R.Lら, J. Biol. Chem. 276(2001) 6591-6604;Shields, R.Lら, J. Biol. Chem. 277(2002) 26733-26740;Simmons, L.Cら, J. Immunol. Methods 263(2002) 133-147)。
【0070】
糖鎖操作を介してモノクローナル抗体の細胞媒介性エフェクター機能を高める方法は、例えば国際公開第2005/044859号、国際公開第2004/065540号、国際公開第2007/031875号、Umana, Pら, Nature Biotechnol. 17(1999) 176-180、国際公開第99/154342号、国際公開第2005/018572号、国際公開第2006/116260号、国際公開第2006/114700号、国際公開第2004/065540号、国際公開第2005/011735号、国際公開第2005/027966号、国際公開第1997/028267号、米国特許第2006/0134709号、米国特許第2005/0054048号、米国特許第2005/0152894号、国際公開第2003/035835号、及び国際公開第2000/061739号、又は例えばNiwa, Rら, J. Immunol. Methods 306(2005) 151-160; Shinkawa, Tら, J Biol Chem, 278(2003) 3466-3473;国際公開第03/055993号、及び米国特許第2005/0249722号において報告されている。
【0071】
本発明の一実施態様では、本発明の抗体は、抗体が、(IgG1又はIG3サブクラスのFc部分を含むならば)Asn297で糖鎖にてグリコシル化されていることを意味するアフコシル化されており、よって該糖鎖内のフコースの量は80%以下(カバットによる番号付け)、例えば80%から1%である。他の実施態様では、前記糖鎖内のフコースの量は65%以下であり、一実施態様においては5%〜65%であり、一実施態様では、該糖鎖内のフコースの量は0%である。このような抗体は、以下「アフコシル化抗体」又は「非フコシル化」と称される。このようなアフコシル化抗体は高められたADCCを示すが、他の抗体特性は実質的に影響を受けずに保持されている。
【0072】
さらなる実施態様では、前記糖鎖内での、N-グリコシル化ノイラミン酸(NGNA)の量は1%以下であり、及び/又はN-末端アルファ-1,3-ガラクトースの量は1%以下である。糖鎖は、CHO細胞で組換え的に発現した抗体のAsn297に結合したN-結合グリカンの特徴を好ましくは示す。
【0073】
本発明の「Asn297」は、Fc領域のほぼ297位に位置するアミノ酸アスパラギンを意味する。抗体の小さな配列変化に基づき、Asn297は、297位の上流又は下流のいくつかのアミノ酸(通常、±3のアミノ酸は超えない)、すなわち294から300位の間に位置しうる。
【0074】
「糖鎖がCHO細胞で組換え的に発現した抗体のAsn297に結合したN-結合グリカンの特徴を示す」なる用語は、本発明の全長親抗体のAsn297の糖鎖が、フコース残基を除き、未修飾のCHO細胞で発現した同様の抗体のもの、例えば国際公開第2006/103100号で報告されているものと同様の構造及び糖残基配列を有することを示す。
【0075】
この出願で使用される「NGNA」なる用語は、糖残基N-グリコシル-ノイラミン酸を示す。
【0076】
ヒトIgG1又はIgG3のグリコシル化は、コアフコシル化された二分岐複合オリゴ糖のグリコシル化が2つまでのGal残基で終結している場合、Asn297で生じる。IgG1又はIgG3サブクラスのヒト定常重鎖領域は、Kabat, E., Aら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991), 及びBrueggemann, Mら, J. Exp. Med. 166(1987) 1351-1361;Love, T.Wら, Methods Enzymol. 178(1989) 515-527に詳細に報告されている。これらの構造は、末端Gal残基の量に応じて、G0、G1(α-1,6-又はα-1,3-)、又はG2グリカン残基と命名される(Raju, T.S., Bioprocess Int. 1(2003) 44-53)。抗体のFc部分のCHO型グリコシル化は、例えば、Routier, F.H., Glycoconjugate J. 14(1997) 201-207により記載されている。非糖修飾されたCHO宿主細胞で組換え的に発現している抗体は、通常、少なくとも85%の量で、Asn297でフコシル化されている。全長親抗体の修飾されたオリゴ糖は、ハイブリッド又は複合体であってもよい。好ましくは、二分された、還元/非フコシル化オリゴ糖はハイブリッドである。他の実施態様では、二分された、還元/非フコシル化オリゴ糖は複合体である。
【0077】
本発明によれば、「フコースの量」は、MALDI−TOF質量分析(例えば、LC/MSシステム)により測定され、平均値として算出する(例えば、国際公開第2008/077546号を参照)ことによる、Asn297に結合した全ての糖構造体(例えば、複合体、ハイブリッド及び高マンノース構造体)の合計に対する、Asn297での、糖鎖内の糖の量を意味する。フコースの相対量は、MALDI-TOFにより、N-グリコシターゼFで処理された試料(例えば、複合体、ハイブリッド、及びオリゴ-及び高-マンノース構造体それぞれ)において同定された全ての糖構造体に対する、フコース含有構造体のパーセンテージである。
【0078】
本発明の抗体は、好ましくは組換え手段により生成される。このような方法は従来技術において幅広く知られており、抗体ポリペプチドの後続する単離、通常は薬学的に許容可能な純度までの精製を伴い、原核生物及び真核生物細胞におけるタンパク質発現を含む。タンパク質発現について、軽鎖及び重鎖又はその断片をコードする核酸は、標準的な方法で発現ベクターに挿入される。発現は、適切な原核生物又は真核生物宿主細胞、例えばCHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、酵母、又は大腸菌細胞において実施され、抗体は細胞から(上清から又は細胞溶解後に)回収される。抗体の組換え生成は従来技術でよく知られており、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, Sら, Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-161; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の文献に記載されている。抗体は、全細胞中、細胞可溶化物中、又は部分的に精製された、又は実質的に純粋な形態で存在しうる。カラムクロマトグラフィー及び当該技術でよく知られている他のものを含む標準的な技術により、他の細胞成分又は他の汚染物質、例えば他の細胞核酸又はタンパク質を除去するために、精製が実施される(Ausubel, Fら編. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987))。NS0細胞における発現は、例えばBarnes, L.Mら, Cytotechnology 32 (2000) 109-123;Barnes, L.Mら, Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261-270に記載されている。一過性発現は、例えばDurocher, Yら, Nucl. Acids. Res. 30(2002) E9に記載されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, Rら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837;Carter, Pら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;Norderhaug, Lら, J. Immunol. Methods 204 (1997) 77-87に記載されている。好ましい一過性発現システム(HEK293)は、Schlaeger, E.-J. 及び Christensen, K., Cytotechnology 30 (1999) 71-83、及びSchlaeger, E.-J., J. Immunol. Methods 194 (1996) 191-199に記載されている。モノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィー等、従来からの免疫グロブリン精製手順により、培養培地から適切に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNA及びRNAは、従来の手順を使用し、容易に単離及び配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNA及びRNAの供給源として提供することができる。単離されると、DNAは発現ベクター内に挿入され、ついで、宿主細胞、例えば免疫グロブリンタンパク質を生成しないHEK293細胞、CHO細胞、又は骨髄腫細胞に形質移入され、宿主細胞において組換えモノクローナル抗体の合成が得られる。前記細胞株から得ることができる抗体は、本発明の好ましい実施態様である。アフコシル化された抗体は、好ましくは上述した糖鎖工学を介して調製される。
【0079】
抗HER3抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体コード化DNAに適切なヌクレオチド変化を導入する、又はペプチド合成により調製される。しかしながら、このような修飾は、例えば上述したような非常に限られた範囲でしか実施することができない。例えば、修飾により、上述した抗体の特徴、例えばIgGアイソタイプ及びエピトープ結合性を変化させることはできないが、組換え生成の収率、タンパク質安定性、又は精製の容易性を改善することはできる。また、抗HER3の適切な立体構造の維持に関与しない任意のシステイン残基は、一般的にセリンで置換され、分子の酸化安定性が改善され、異常な架橋が防止される。反対に、システイン結合(類)は抗体に付加されて、その安定性が改善される(特に、抗体がFv断片等の抗体断片である場合)。抗体の他の種類のアミノ酸変異体では、抗体元来のグリコシル化パターンが変化している。「変化」とは、抗体に見出される一又は複数の炭水化物部分の除去、及び/又は抗体に存在しない一又は複数のグリコシル化部位の付加を意味する。抗体のグリコシル化は典型的にはN結合である。N結合は、アスパラギン残基の側鎖に炭水化物部分が付着することを称する。Xがプロリン以外のアミノ酸であるトリペプチド配列アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニンは、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的付着のための認識配列である。よって、ポリペプチドにこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在すると、潜在的グリコシル化部位が生じる。抗体へのグリコシル化部位の付加は、それが一又は複数の上述したトリペプチド配列を含有するように(N結合グリコシル化部位用)、アミノ酸配列を変化させることによって簡便に達成される。
【0080】
抗HER3抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当該技術で知られているの種々の方法で調製される。これらの方法には、限定されるものではないが、天然源(自然に生じるアミノ酸配列変異体の場合)からの単離、又はオリゴヌクレオチド媒介性(又は部位特異的)変異原性、PCR変異原性、ヒト化抗HER3抗体の前もって調製された変異体又は非変異型のカセット変異原性が含まれる。
【0081】
抗体の他のタイプの共有結合的修飾は、米国特許第4640835号;同4496689号;同4301144号;同4670417号;同4791192号;同4179337号に説明された方式において、種々の非タンパク質性ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリアルキレンの一つに、抗体を結合させることを含む。
【0082】
本発明の重鎖及び軽鎖可変ドメインは、発現ベクターコンストラクトが形成されるように、プロモーター、翻訳開始、定常領域、3'非翻訳領域、ポリアデニル化、及び転写終結の配列が組合せられたものである。重鎖及び軽鎖発現コンストラクトは単一ベクターに組み込まれ、宿主細胞に同時形質移入、連続的形質移入、又は別々に形質移入され、ついでこれらが融合され、双方の鎖を発現する単一の宿主細胞が形成される。
【0083】
本発明の一態様は、本発明の抗体を含有する薬学的組成物である。本発明の他の態様は、薬学的組成物を調製するための、本発明の抗体の使用にある。本発明のさらなる態様は、本発明の抗体を含有する薬学的組成物を調製するための方法にある。他の態様では、本発明は、本発明の抗体を含有し、薬学的担体と共に処方される組成物、例えば薬学的組成物を提供する。
【0084】
さらに、本発明の抗HER3抗体は、癌の処置に特に有用であることがわかっている。
【0085】
よって、本発明の一態様は、癌を処置するための前記薬学的組成物にある。
【0086】
本発明の他の態様は、癌を処置するための本発明の抗体にある。
【0087】
本発明の他の態様は、癌の治療のための医薬の製造のための、本発明の抗体の使用にある。
【0088】
本発明の他の態様は、本発明の抗体を、このような処置を必要とする患者に投与することにより、癌に罹患している患者を治療する方法にある。
【0089】
ここで使用される場合、「薬学的担体」には、任意及び全ての溶媒、分散用媒体、コーティング剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延化剤で、生理学的に融和性のあるものが含まれる。好ましくは、担体は静脈内、筋肉内、大脳内、皮下、非経口、脊髄、又は表皮投与(例えば、注射又は注入による)に適している。
【0090】
本発明の組成物は、当該技術で知られているの種々の方法で投与することができる。当業者に理解されているように、投与の経路及び/又は方式は、所望する結果に応じて変えられるであろう。投与のある種の経路により、本発明の化合物を投与するため、化合物をコーティングする、又はその不活性化を防止するための物質と化合物とを当時投与する必要があるかもしれない。例えば、化合物は適切な担体、例えばリポソーム、又は希釈剤において、被験者に投与されてもよい。薬学的に許容可能な希釈剤には、生理食塩水又は水性緩衝液が含まれる。薬学的担体には、滅菌水溶液又は分散液、及び注射可能な滅菌溶液又は分散液を即時調製するための滅菌パウダーが含まれる。薬学的に活性な物質用のこのような媒体又は薬剤の使用は、当該技術で知られているである。
【0091】
ここで使用される場合、「非経口投与」及び「非経口的に投与」なる語句は、経腸及び局所投与以外の投与方式、通常は注射による投与を意味し、限定されるものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、包膜内、莢膜内、眼窩内、心臓内、皮内、腹膜内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外及び胸骨内注射及び注入が含まれる。
【0092】
ここで使用される場合、「癌」なる用語は、例えば、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、気管支肺胞上皮細胞肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部又は頸部の癌、皮膚又は眼球内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、胃腸癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織の肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓又は尿管の癌、腎細胞癌、腎盂癌、中皮腫、肝細胞癌、胆道癌、中枢神経系(CNS)の腫瘍、脊椎腫瘍、脳幹神経膠腫、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、シュワン腫、上衣腫、随芽腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫、リンパ腫、リンパ球性リンパ腫、上述した任意の癌の抵抗性バージョン、又は上述した癌の一又は複数の組合せであってよい。好ましくは、このような癌は、乳癌、肺癌、頭部又は頸部の癌、又は膵臓癌、さらに好ましくは肺癌、頭部又は頸部の癌、又は膵臓癌である。このような癌は、好ましくはHER3の発現又は過剰発現により、さらに好ましくはHER3の過剰発現により、さらに特徴付けられる。
【0093】
これらの組成物は、アジュバント、例えば保存料、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤をさらに含有可能である。微生物存在の防止は、上掲の滅菌手段、及び種々の抗菌及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、スコルビン酸等により確実になる。また、等張剤、例えば糖類、塩化ナトリウムを、組成物に含有せしめることもまた望ましい。注射可能な薬学的形態の長時間にわたる吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを含有せしめることによりもたらすことができる。
【0094】
選択された投与経路にかかわらず、適切な水和形態、及び/又は本発明の薬学的組成物で使用される本発明の化合物は、当業者に知られている一般的な方法により、薬学的に許容可能な剤形に処方される。
【0095】
本発明の薬学的組成物における活性成分の実際の投与レベルは、患者に対して毒性がなく、特定の患者、組成、及び投与方式に対して所望する治療的応答を達成するのに効果的な活性成分の量が得られるように変えうる。選択された投与レベルは、使用される本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排出速度、処置時間、他の薬剤、使用される特定の組成物と組合せて使用される化合物及び/又は物質、年齢、性別、体重、状態、一般的健康状態、処置される患者の以前の病歴、及び医療でよく知られている要因を含む、種々の薬物動態学的要因に依存するであろう。
【0096】
組成物は滅菌されていなければならず、組成物がシリンジにより送達可能である程度に、流動的でなければならない。水に加えて、担体は、好ましくは等張の緩衝生理食塩水である。
【0097】
適切な流動性は、例えばレシチン等のコーティング剤を使用することにより、又は分散液の場合は必要な粒径を維持することにより、そして界面活性剤を使用することにより、維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖類、多価アルコール類、例えばマンニトール又はソルビトール、及び塩化ナトリウムを、組成物に含有せしめることが好ましい。
【0098】
次の実施例、配列表及び図面は、本発明の理解を補助するために提供されるものであり、発明の真の範囲は添付の請求の範囲に記載される。本発明の精神を逸脱しないで記載された手順に変更をなすことができることが理解される。
【0099】
配列表の記載
配列番号:1 重鎖CDR3H、Mab 205.10
配列番号:2 重鎖CDR2H、Mab 205.10
配列番号:3 重鎖CDR1H、Mab 205.10
配列番号:4 軽鎖CDR3L、Mab 205.10
配列番号:5 軽鎖CDR2L、Mab 205.10
配列番号:6 軽鎖CDR1L(変異体1)、Mab 205.10
配列番号:7 軽鎖CDR1L(変異体2)、Mab 205.10
配列番号:8 重鎖可変ドメインVH、Mab 205.10
配列番号:9 軽鎖可変ドメインVL、Mab 205.10.1
配列番号:10 軽鎖可変ドメインVL、Mab 205.10.2
配列番号:11 軽鎖可変ドメインVL、Mab 205.10.3
配列番号:12 ヒトカッパ軽鎖定常領域
配列番号:13 IgG1から誘導されたヒト重鎖定常領域
配列番号:14 L234A及びL235Aで変異したIgG1から誘導されたヒト重鎖定常領域
配列番号:15 IgG4から誘導されたヒト重鎖定常領域
配列番号:16 S228Pで変異したIgG4から誘導されたヒト重鎖定常領域
配列番号:17 ヒトHER3
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1A】図1Aは、異なった濃度での、MCF7細胞におけるレセプターリン酸化に対する抗HER3抗体の阻害パーセント(%)を示す。
【図1B】図1Bは、異なった濃度での、MCF7細胞におけるレセプターリン酸化に対する抗HER3抗体の阻害パーセント(%)を示す。
【図1C】図1Cは、異なった濃度での、Mel-Juso細胞におけるレセプターリン酸化に対する抗HER3抗体の阻害パーセント(%)を示す。
【図2】図2は、Mab 205(10mg/kg q7dx3、i.p.)を用いた処置による、異種移植片が移植されたFaDu SCCHNの腫瘍停滞を示す。
【図3】図3は、Mab 205(10mg/kg q7d、i.p.)を用いた処置による、異種移植片が移植されたMAXF449乳癌の腫瘍停滞を示す。
【図4】図4は、Mab 205(25mg/kg q7d、i.p.)を用いた処置による、異種移植片が移植された7177NSCLCの腫瘍停滞を示す。
【実施例】
【0101】
実施例1
免疫化
NMRIマウスを、hHER3-ECD(社内)で免疫化し、hu-HER3-ECDで追加免役した。免疫応答をHER1/2/3-ECD-ELISAに対して血清試料を試験することによりモニタリングした。十分な力価の抗HER3免疫グロブリンと共にマウスからの脾臓細胞を、マウス骨髄腫細胞株P3X63 Ag8.653との融合により、後での不死化のために凍結させた。1回融合させ、ハイブリドーマ上清を、交差反応を示さないが、HER3-ECDに結合するHER1/2/-ECD-ELISAによりスクリーニングし、抗HER3選択的ハイブリドーマを選択した。関連したハイブリドーマを、単細胞FACS選別によりクローニングした。異なったハイブリドーマからの単細胞クローンをインビトロで培養し、特徴付けのために組織培養培地中に抗体を生成させた。抗体を、HER3リン酸化、AKTリン酸化、及びMDA-MB-175細胞の腫瘍細胞増殖を阻害するそれらの能力を測定することにより、選択した(以下の実施例を参照)。得られた抗体から、一つをさらにヒト化させ、それらのそれぞれのVH及びVL又はCDRを有する、次の抗体Mab205.10.1、Mab 205.10.2及びMab 205.10.3を得た。
【0102】

【0103】

【0104】
一実施態様では、このような抗体を、ヒト由来の定常領域、例えば配列番号:12−13を使用して調製した。
【0105】
実施例2
結合アッセイ
a)ヒトHER3 ECDに結合する抗原特異性ELISA
ストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)に融合した可溶性ヒトHER3細胞外ドメインをストレプトアビジンプレートに捕捉させた。SPB-CDCP1に対する抗体の最適な結合性を定めるために、MicroCoat, Bernried, Germany(ID-No.1734776-001)から供給された384ウェルのポリスチレンプレート(NUNC、ストレプトアビジンでコーティング)を、純粋で段階希釈されたHEK293上清(BSA/IMDMバッファー:100mg/mlのBSA画分V、 Roche 10735078001、Iscoveのダルベッコ改変培地に溶解)でコーティングした。マウスキメラ205抗体の較正曲線を使用し、マイクロタイタープレートのストレプトアビジン結合能力に関するHEK293上清の最適希釈係数を同定した。標準的なコーティングについて、SBP-HER3含有HEK293上清を希釈し(1:15から1:40)、2−80Cで一晩インキュベートした(ウェル当たり25μl)。残りの未結合SBP-HER3を除去するために、マイクロタイタープレートを強く洗浄する必要がある。
【0106】
本発明の抗体を、未希釈か又は12段階希釈を使用して試験した。ウェル当たり12.5μlの各サンプルを、室温で90分インキュベートした。PBS-T(PBS中に0.1%のトゥイーン20)、ヒト抗体用の、25μlのHRPとカップリングしたヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch, Code No: 109-036-098, 希釈率 1:10000)を添加し、1時間インキュベートした。強く洗浄した後、抗体の結合を、ABTS錠(Roche Diagnostics GmbH, Cat.No.: 1112422)で検出した。405nm/492nmでの吸光度を標準的な光度計を使用して測定した。
【0107】
表は異なった抗体の相対的結合比を示している。

【0108】
b)バイアコア分析によるヒトHER3の細胞外ドメイン-(ECD)断片に対する抗HER3抗体の結合の特徴付け
親和性測定のために、30μg/mlの抗Fcγ抗体(ヤギ由来、Jackson Immuno Research)を、SPR機器(Biacore T100)での標準的なアミンカップリング及びブロッキング化学により、CM-5センサーチップの表面にカップリングさせた。コンジュゲート後、25℃、5μL/分の流量で抗HER3抗体を、続いて30μL/分でヒトHER3 ECDの希釈シリーズ(0nMから1000nM)を注入した。結合実験用の流通バッファーとして、PBS/0.1%BSAを使用した。ついで、10mMのグリシン-HCl、pH2.0溶液の60秒パルスで、チップを再生させた。
【0109】
熱力学的パラメーターの算出(K、HER3に対する結合定数)を、ラングミュラー1:1結合モデルを使用して算出した。

【0110】
競合結合アッセイ(バイアコア)において、Mab 205.10.1、Mab 205.10.2、及びMab 205.10.3は全て同じエピトープに対する結合性を示した。国際公開第2007/077028号に記載されている抗HER3抗体U1-7、U-53及びU1-59、及び国際公開第2008/100624号に記載されているAb#6を、このようなアッセイで研究し、抗体Mab 205.10.1、Mab 205.10.2、及びMab 205.10.3よりも種々のエピトープに結合することが明らかとなった。
【0111】
実施例3
a)MCF7、FaDu及びMel-Juso細胞におけるHER3リン酸化の阻害
アッセイを、次のプロトコルに従い、MCF7及びFaDu細胞において実施した:10%のFCSを含有するRPMI1640培地において、ポリ-D-リジンでコーティングされた96ウェルプレートに、500000細胞/ウェルで細胞を播種する。24時間インキュベートする。吸引により培地を除去し、0.5%のFCSを含有する500μl/ウェルのRPMI1640と共に一晩インキュベートする。0.5%のFCSを含有する500μlのRPMI1640に抗体を添加する。1時間インキュベートする。10分間、HRG-1b(最終濃度500ng/ml)を添加する。細胞を溶解させるために培地を除去し、80μlの氷冷トリトン-X-100細胞溶解バッファーを添加し、氷上で5分インキュベートする。1.5mlの反応チューブに可溶化物を移した後、4℃で15分、14000rpmで遠心分離し、新たな反応チューブに上清を移動する。SDS充填バッファーに同量のタンパク質を含有する試料をSDS PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に対して半乾燥ウエスタンブロットを使用してブロットした。1×NET-バッファー+0.25%のゼラチンにより、1時間、膜をブロックし、pHER3を、抗体αホスホ-HER3/ErbB3(Tyr1289)(21D3)、Cell Signaking #4791により、HER3を抗体αErbB3(C-17)、Santa Cruz, #sc-285により、それぞれ検出した。洗浄及びPODカップリング二次抗体によるシグナルの検出後、バンドをデンソメーターでスキャンした。抗HER3抗体Mab 205.10.1、Mab 205.10.2、及びMab 205.10.3、さらに国際公開第2007/077028号に記載された抗HER3抗体U1-7、U-53及びU1-59、国際公開第2008/100624号に記載されたAb#6を調査した。MCF7細胞におけるレセプターリン酸化に対する抗HER3抗体の阻害パーセント(%)を以下と図1Aに示す。
【0112】

【0113】
さらなる実験において、抗HER3抗体Mab 205.10.2、さらに国際公開第97/35885号に記載された抗HER3-抗体8B8.2D9、国際公開第2003/013602号に記載された1B4C3及び2D1D12を調査した。MCF7細胞におけるレセプターリン酸化に対する抗HER3抗体の阻害パーセント(%)を、以下と図1Bに示す。
【0114】

【0115】
FaDu細胞におけるレセプターリン酸化に対する抗HER3抗体の阻害パーセント(%)を以下に示す。

【0116】
さらなる実験において、抗HER3抗体Mab 205.10.2、さらに国際公開第97/35885号に記載された抗HER3-抗体8B8.2D9、国際公開第2003/013602号に記載された1B4C3及び2D1D12、及び105.5形態(Millipore, Cat.no. 05-47、国際公開第2003/013602号においてはα-HEREDCと命名)を、Mel-Juso細胞において調査した。Mel-Juso細胞におけるアッセイを、MCF7及びFaDu細胞において上述のプロトコルに従い実施した。細胞数及び培地の体積を、12ウェルプレートに適応させた。Mel-Juso細胞におけるレセプターリン酸化に対する抗HER3抗体の阻害パーセント(%)を、以下と図1Cに示す。
【0117】

【0118】
b)AKTリン酸(ELISA)
アッセイを、次のプロトコルに従い、MCF7細胞で実施した:10%のFCSを含有するRPMI1640培地において、ポリ-D-リジンでコーティングされた96ウェルプレートに、30000細胞/ウェルでMCF7細胞を播種し、24時間インキュベートする。清浄なペーパータオルで軽くたたくことにより培地を除去し、200μlの無血清培地で注意深く洗浄し、0.5%のFCSを含有する100μl/ウェルのRPMI1640と共に一晩インキュベートする。上述したようにして培地を除去し;0.5%のFCSを含有する100μlのRPMI1640に抗体を添加し、1.5時間インキュベートする。10分間、HRG-1b(最終濃度5ng/ml)を添加する。上述したようにして培地を除去する。細胞を溶解させるために、100μlの氷冷細胞溶解バッファーを氷上に添加し、約5×ピペッティングすることにより懸濁させる。4℃で10分、3000rpmでプレートを遠心分離し、新たなポリプロピレンプレートに80μlの上清(又はアリコート)を移し、LN2においてショック凍結させる。アッセイまで−80℃で保存する。
【0119】
AKT1,2(ホスホ-Ser473)EIAキットアッセイデザイン#900-162:試料(1:10に希釈)を、AKTのN末端に対して特異的なマウスMABでコーティングされたプレートに添加する。振揺させつつ、室温で1時間インキュベートする。5×洗浄し、振揺させつつ、室温で1時間、ビオチン化抗ホスホ-AKT(Ser473)と共にインキュベートする。5×洗浄し、振揺させつつ、室温で30分、ストレプトアビジン-HRPコンジュゲートと共にインキュベートする。5×洗浄し、振揺させつつ、室温で30分、TMB基質と共にインキュベートする。停止させ、450nmで読み取る。
【0120】
Mab 205.10.2は、0.06μg/mlのAKTリン酸化阻害のIC50を示した。
【0121】
MCF7細胞で記載したようにして実施したMel-Juso細胞におけるpAKT ELISAにおいて、Mab 205.10.2は0.28μg/mlのAKTリン酸化阻害のIC50を示し、全ての他の分析抗体は、(>)50以上のIC50を示した。

【0122】
c)腫瘍細胞増殖の阻害
MDA-MB-175細胞(VIIヒト乳癌細胞、ATCCカタログ番号HTB-25)を使用し、細胞増殖アッセイにおける、HER3抗体Mab 205.10.1、Mab 205.10.2、及びMab 205.10.3の抗-腫瘍効果を評価した。ウェル当たり20000細胞を、10%のFCSを含有するDMEM/F12細胞培養培地が入った滅菌96ウェル組織培養プレートに播種し、1日37℃±1℃、5%±1%のCOにおいてインキュベートした。細胞は、約1.5日の倍加時間、ゆっくりと増殖する細胞である。抗HER3抗体を一連の希釈をし、さらに6日間インキュベートした。ついで、細胞生存率を、アラマーブルー(登録商標)読み取りを使用して評価した。細胞生存率がコントロールの50%以上に低減しているならば、IC50値を、各抗体濃度について3回の平均を使用して算出し、最も高い濃度で細胞生存率の阻害度%が50%以下であるならば、IC50は算出できないものとし、IC50[mg/ml]が最も高い濃度以上(>)であることが示される。また、国際公開第2007/077028号に記載された抗HER3抗体U1-59、及び国際公開第2008/100624号に記載されたAb#6も調べた。

【0123】
さらなる実験において、国際公開第97/35885号に記載された抗HER3抗体8B8.2D9、及び国際公開第2003/013602号に記載された1B4C3についても調べた。

【0124】
実施例5
1μg/mlのspecLysis%によるKLP-腫瘍細胞におけるインビトロADCC
標的細胞KPL4(ADCC)、乳癌、RPMI1640+2mMのL-アラニル-L-グルタミン+10%のFCS)で培養を、指数関数的増殖相において、トリプシン/EDTA(Gibco # 25300-054)と共に収集した。洗浄工程、及び細胞数と生存率のチェック後、必要なアリコートを、カルセイン(Invitrogen #C3100MP;1バイアルを、5mlの培地に、5ミオ細胞に対して50μlのDMSOに再懸濁させた)を用い、細胞インキュベーター内において、37℃で30分、ラベリングした。その後、AIM-V培地で細胞を3回洗浄し、細胞数及び生存率をチェックし、細胞数を0.3Mio/mlに調節した。
【0125】
その間に、エフェクター細胞としてのPBMC(末梢血単核細胞)を、製造者のプロトコル(洗浄工程を400gで1×、350gで2×、各10分)に従い、密度勾配遠心分離(Histopaque-1077, Sigma # H8889)により調製した。細胞数及び生存率をチェックし、細胞数を15Mio/mlに調節した。
【0126】
100μlのカルセイン染色された標的細胞を、丸底96ウェルプレートに配し、50μlに希釈し、アフコシル化抗体(Mab 205.10.1、Mab 205.10.2、Mab 205.10.3、以下を参照)を添加し、50μlのエフェクター細胞を添加した。いくつかの実施態様では、標的細胞をRedimune(登録商標)NFリキッド(ZLB Behring)と、10mg/mlのRedimune濃度で混合した。
【0127】
抗体なしに標的とエフェクター細胞を同時培養することにより決定して自然な溶解がコントロールとなり、最大溶解が、標的細胞のみの1%のトリトン-X-100溶解により決定される。プレートを、加湿された細胞インキュベーターにおいて37℃で4時間インキュベートした。
【0128】
標的細胞の死滅を、製造者の使用説明書に従い、細胞傷害検出キット(LDH Detection Kit, Roche # 1 644 793)を使用し、ダメージを受けた細胞から放出されるLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)を測定することにより評価した。簡単に述べると、各ウェルからの100μlの上清を、透明な平底の96ウェルプレートにおいて、キットからの100μlの基質と混合した。基質の色調反応のVmax値を、少なくとも10分、490nmにてELISAリーダーで測定した。特定の抗体媒介性死滅のパーセンテージを、次のようにして算出した:((A−SR)/(MR−SR)×100、ここでAは特定の抗体濃度におけるVmaxの平均であり、SRは自然放出のVmaxの平均であり、MRは最大放出のVmaxの平均である。
【0129】
付加的な読み取りとして、インタクトな標的細胞のカルセイン保持を、ホウ酸塩バッファー(5mMのホウ酸ナトリウム+0.1%のトリトン)において、残存している標的細胞を溶解させ、蛍光プレートリーダーにおけるカルセイン蛍光を測定することによって評価した。Mab205.10.1、Mab 205.10.2、Mab205.10.3は、約40−60%の1μg/mlの特定溶解によってADCC[KPL-4]を示した。
【0130】
アフコシル化抗体(Mab 205.10.1、Mab 205.10.2、Mab 205.10.3)を、2つは抗体発現用、1つは融合GnTIIIポリペプチド発現用(GnT-III発現ベクター)、及び1つはマンノシダーゼII発現用で、HEK293又はCHO細胞におけるその比率がそれぞれ4:4:1:1である4つのプラスミドを用いて同時形質移入することにより調製した。
【0131】
全長抗体の重鎖及び軽鎖DNA配列を、MPSVプロモーターのコントロールの存在下、また合成ポリA部位の上流で、哺乳動物発現ベクター(一つは軽鎖用、一つは重鎖用)内でサブクローンし、各ベクターは、EBV OriP配列を担持している。抗体を、リン酸カルシウム-形質移入アプローチを使用し、抗体の重鎖及び軽鎖発現ベクターを用い、HEK293-EBNA細胞又はCHO細胞を同時形質移入させることにより調製した。指数関数的に増殖するHEK293-EBNA細胞を、リン酸カルシウム法により形質移入させた。糖鎖操作抗体を生産するために、細胞を、2つは抗体発現用、1つは融合GnTIIIポリペプチド発現用(GnT-III発現ベクター)、及び1つはマンノシダーゼII発現用で、それぞれ4:4:1:1の比率である4つのプラスミドを用いて同時形質移入した。細胞を、10%のFCSが補填されたDMEM培養培地を使用し、Tフラスコにおいて粘着性のある単層培養体として増殖させ、それらが50〜80%のコンフルエントになった時に形質移入させた。T150フラスコでの形質移入のために、15000000の細胞を、FCSが補填された25mlのDMEM培養培地(最終的に10%のV/V)に形質移入する24時間前に播種し、細胞を、5%のCO2雰囲気にて一晩、37℃のインキュベーターに配した。生産される全ての抗体について、DNA、CaCl2及び水の溶液を、188μlの全プラスミドベクターDNA(2つは抗体発現用(1つは軽鎖、1つは重鎖)、1つは融合GnTIIIポリペプチド発現用(GnT-III発現ベクター)、及び1つはマンノシダーゼII発現用(ゴルジマンノシターゼII発現ベクター)で、それぞれ4:4:1:1の比率である4つのプラスミド)、最終容量が938μlになるまで水と、また938μlの1MのCaCl2溶液と混合することによって調製した。この溶液に、1876μlの50mMのHEPES、280mMのNaCl、1.5mMのNa2HPO4溶液、pH7.05を添加し、すぐに10秒混合し、室温で20秒放置した。懸濁液を、2%のFCSが補足された46mlのDMEMで希釈し、存在する培地の代わりに、2つのT150フラスコ分けた。
【0132】
細胞を、37℃、5%のCO2にて、17〜20時間インキュベートし、ついで培地を25mlのDMEM、10%のFCSで置き換えた。調製された培養培地を、210×gで15分遠心分離することにより、形質移入の7日後に収集し、溶液を滅菌濾過し(0.22μmのフィルター)、最終濃度が0.01%w/vのアジ化ナトリウムを添加し、4℃で保持した。
【0133】
分泌されたアフコシル化抗体を精製し、抗体のFc領域に結合したオリゴ糖を、例えばMALDI/TOF-MSにより(例えば、国際公開第2008/077546号に記載したようにして)分析した。この分析のために、オリゴ糖を、PVDF膜に固定されたか、又は溶液中にある抗体を用い、PNGアーゼ消化することで抗体から酵素的に放出させた。放出されたオリゴ糖を含有する得られた消化溶液は、MALDI/TOF-MS分析用に直接調製されるか、又はMALDI/TOF-MS分析用にサンプルを調製する前に、EndoHグリコシターゼでさらに消化させた。Asn297での、糖鎖内のフコースの分析量は50−20%であった。
【0134】
実施例6
インビボ抗腫瘍効果
抗体Mab 205.10.1、Mab 205.10.2、Mab 205.10.3のインビボ抗腫瘍効果は、SCIDべージュ又はヌードマウスに移植された種々の腫瘍由来(例えば、肺癌、SCCHN、乳癌及び膵臓癌)の細胞及び断片ベースのモデルにおいて検出可能であった。実施例として、データを、SCCHN異種移植モデルFaDu(細胞株ベース)、乳癌モデルMAXF449(断片ベース)、及びNSCLCモデル7177(断片ベース)について示している。
【0135】
試験剤
アフコシル化されたMab 205.10.2(図2、3、4においてはMab 205と命名)を、Roche, Penzberg, Germanyからの保存溶液として提供された。抗体バッファーはヒスチジンを含有していた。抗体溶液を、注射前に原液からバッファーで適切に希釈した。
【0136】
細胞株及び培養条件
FaDuヒトHNSCC細胞を、最初にATCCから得た。腫瘍細胞株を、10%のウシ胎児血清、2mMのL-グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、及び0.1mMのNEAAが補足されたMEMイーグル培地において、水分飽和した5%CO2の雰囲気にて37℃で常套的に培養した。培養継代を、3日毎に分けて、トリプシン/EDTA1xを用いて実施した。
【0137】
腫瘍断片
腫瘍断片を、最初に患者から取り出し、ヌードドナーマウスに皮下移植した。続いて、腫瘍断片をインビボで連続継代した。前臨床研究用に、小さな腫瘍断片をドナーマウスから得、さらなるヌードマウス(MAXF449、7177)に皮下的に配した。
【0138】
動物
メスのSCIDベージュ又はヌードマウスを、ブリーダーから購入し(例えば、Charles River, Sulzfeld, Germany)、関連するガイドライン(GV-Solas; Felasa; TierschG)に従い、毎日、12時間は明所、12時間は暗所のサイクルで、特異的病原体のいない条件下で保持した。実験的な研究プロトコルは再考されており、地方自治体により承認されている。到着後、動物を1週間、動物施設の検疫部に保持し、新規の環境及び観察用に慣らした。連続的な健康モニタリングを定期的基準において実施した。ダイエット食品(Provimi Kliba 3337)及び水(pH 2.5-3に酸性化)を自由裁量で提供した。
【0139】
モニタリング
動物を、臨床的兆候及び副作用の検出について、毎日管理した。実験を通してモニタリングのために動物の体重を記録した。
【0140】
動物の処置
動物のランダム化後、平均腫瘍サイズが約100−150mmである場合は、細胞又は断片の移植後、 動物の処置を開始した。抗体を、モデルに応じて、3−6週間、週に1度、10又は25mg/kg i.p.q7dで、単一薬剤として投与した。対応するビヒクルを同じ日に投与した。
【0141】
抗体の効果
A)FaDu HNSCC異種移植
FaDu HNSCC異種移植を担持するマウスを、研究日14から35に抗体Mab 205.10.2で処置した。その結果、Mab 205.10.2抗体での処置により、s.c.FaDu異種移植の腫瘍停止を伴う、有意な抗腫瘍有効性が示された。腫瘍増殖阻害(TGI)は98%と算出された。
Mab 205(10mg/kg q7dx3、i.p.)を用いた処置により、異種移植が移植されたFaDu SCCHNの腫瘍停止に至った(図2を参照)。
【0142】
B)MAXF449乳癌異種移植
MAXF449乳癌異種移植を担持するマウスを、研究日64から91に抗体Mab 205.10.2で処置した。その結果、Mab 205.10.2抗体での処置により、MAXF449異種移植の腫瘍停止を伴う、有意な抗腫瘍有効性が示された。腫瘍増殖阻害(TGI)は100%超であった。
Mab 205(10mg/kg q7d、i.p.)を用いた処置により、異種移植が移植されたMAXF449乳癌の腫瘍停止に至った(図3を参照)。
【0143】
C)7177NSCLC異種移植片
7177NSCLC異種移植片を担持するマウスを、研究日28から56に抗体Mab 205.10.2で処置した。その結果、Mab 205.10.2抗体での処置により、7177NSCLC異種移植片の腫瘍停止を伴う、有意な抗腫瘍有効性が示された。腫瘍増殖阻害(TGI)は100%超であった。
Mab 205(25mg/kg q7d、i.p.)を用いた処置により、異種移植が移植された7177NSCLCの腫瘍停止に至った(図4を参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変ドメインが、配列番号:1のCDR3H領域、配列番号:2のCDR2H領域、及び配列番号:3のCDR1H領域を含み、軽鎖可変ドメインが、配列番号:4のCDR3L領域、配列番号:5のCDR2L領域、及び配列番号:6のCDR1L領域又は配列番号:7のCDR1L領域を含むことを特徴とする、ヒトHER3に結合する抗体。
【請求項2】
重鎖可変ドメインVHが配列番号:8であり;軽鎖可変ドメインVLが配列番号:9であるか、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:10であるか、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:11であることを特徴とし、又はそのヒト化型である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
重鎖可変ドメインが、配列番号:1のCDR3H領域、配列番号:2のCDR2H領域、及び配列番号:3のCDR1H領域を含み、軽鎖可変ドメインが、配列番号:4のCDR3L領域、配列番号:5のCDR2L領域、及び配列番号:6のCDR1L領域を含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
重鎖可変ドメインVHが配列番号:8であり;軽鎖可変ドメインVLが配列番号:9であり、又は軽鎖可変ドメインVLが配列番号:11であることを特徴とする、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
重鎖可変ドメインが、配列番号:1のCDR3H領域、配列番号:2のCDR2H領域、及び配列番号:3のCDR1H領域を含み、軽鎖可変ドメインが、配列番号:4のCDR3L領域、配列番号:5のCDR2L領域、及び配列番号:7のCDR1L領域を含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
重鎖可変ドメインVHが配列番号:8であり;軽鎖可変ドメインVLが配列番号:10であることを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
ヒトHER3に結合する抗体であって、配列番号:8と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変ドメインVHと、配列番号:9、配列番号:10、又は配列番号:11と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメインVLを含む抗体。
【請求項8】
軽鎖可変ドメインVLが、配列番号:9と少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
軽鎖可変ドメインVLが、配列番号:10と少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項7に記載の抗体。
【請求項10】
軽鎖可変ドメインVLが、配列番号:11と少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項7に記載の抗体。
【請求項11】
抗体がモノクローナルであることを特徴とする、請求項1から10に記載の抗体。
【請求項12】
抗体がヒト化されていることを特徴とする、請求項1から11に記載の抗体。
【請求項13】
抗体がIgG1サブクラスのものであることを特徴とする、請求項1から12に記載の抗体。
【請求項14】
前記抗体が、Asn297で糖鎖でグリコシル化されており、よって該糖鎖内のフコース量が65%以下であることを特徴とする、請求項1から13に記載の抗体。
【請求項15】
請求項1から14に記載の抗体を含有することを特徴とする薬学的組成物。
【請求項16】
癌の治療のための請求項1から14に記載の抗体。
【請求項17】
癌の治療のための医薬の製造における請求項1から14に記載の抗体の使用。
【請求項18】
癌に罹患している患者を、治療を必要とする該患者に、請求項1から14に記載の抗体を投与することにより治療する方法。
【請求項19】
ヒトHER3に結合する抗体の重鎖と軽鎖をコードする核酸において、該抗体が請求項2に記載の可変ドメインを含むことを特徴とする核酸。
【請求項20】
原核生物又は真核生物の宿主細胞に、請求項1から9に記載の抗体を発現させるための請求項19に記載の核酸を含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項21】
請求項20に記載のベクターを含有する原核生物又は真核生物の宿主細胞。
【請求項22】
請求項1から14に記載の組換え抗体の生産方法であって、原核生物又は真核生物宿主細胞中において請求項19に記載の核酸を発現させ、該細胞又は細胞培養物の上清から該抗体を回収することを特徴とする方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−514793(P2013−514793A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545255(P2012−545255)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070062
【国際公開番号】WO2011/076683
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(512036384)ロシュ グリクアート アーゲー (8)
【Fターム(参考)】