説明

抗ROBO1抗体を用いる癌の診断および治療

【課題】 癌を診断および治療する新規方法、ならびに新規な細胞増殖抑制剤および抗癌剤を提供すること、さらに肝臓疾患の診断およびモニターする方法を提供すること。
【解決手段】 ROBO1タンパク質を検出することを特徴とする癌の診断方法が開示される。また、ROBO1に結合する抗体を投与することを含む、異常な細胞増殖に起因する疾患を治療する方法、ならびにROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物、細胞増殖抑制剤および抗癌剤が開示される。さらに、ROBO1発現細胞とROBO1に結合する抗体とを接触させることにより、ROBO1発現細胞に細胞障害を引き起こす方法およびROBO1発現細胞の増殖を抑制する方法が開示される。さらに、ROBO1タンパク質を検出することにより肝炎重篤化をモニターする方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の診断および治療方法、肝炎重篤化のモニター方法、ならびに細胞増殖抑制剤および抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ショウジョウハエの遺伝的スクリーニング研究において、ROBO1は軸策の正中交差を制御する分子として同定され、その後の研究から、Slitタンパク質の受容体として働くことが報告されている(Kiddら、Cell, 92, 205-215, 1998、Wangら、Cell, 96, 771-784, 1999、Kiddら、Cell, 96, 785-794, 1999、Broseら、96, 795-806, 1999 )。また、ROBO1と癌との関連に関しては、ヒトROBO1遺伝子が存在する染色体領域3p12が肺癌において高度に欠損していることや、乳癌や腎癌においてROBO1のプロモーター領域がメチル化されることで発現が抑制されていることなどから、癌抑制遺伝子の可能性が示されている(Dallolら、Oncogene, 21, 3020-3028, 2000)。実際に、肺癌患者において認められたROBO1遺伝子における最小の欠損と同様に、マウスにおいてROBO1のN末に存在する最初のイムノグロブリン領域を欠損させることで、気管上皮細胞の過形成が認められている(Xian J ら、PNAS, 98, 15062-15066, 2001)。また、ROBO1が癌の新生血管に発現し、かつ癌細胞側にROBO1のリガンドであるSlit2が発現亢進することで癌の血管新生を誘導し、逆に癌の増殖を指示するという報告もある(Wang ら、Cancer Cell, 4, 19-29, 2003)。
【0003】
一方、ROBO1のリガンドであるSlit2遺伝子も多くの癌種でメチル化等により発現抑制されていることや、Slit2を強制発現させること、またはSlit2を添加することで、肺癌細胞、乳癌細胞、および大腸癌細胞において、増殖抑制作用、アポトーシス誘導作用が認められることから、ROBO1のリガンドであるSlit2も同様に癌抑制遺伝子として考えられている(Dallolら、Cancer Research, 62, 5874-5880, 2002、Dallolら、Cancer Research, 63, 1054-1058, 2003 )。しかしながら、この報告では、Slit2による細胞増殖抑制作用が実際にどの受容体を介しているのか明らかになっておらず、ROBO1と癌との関連性は必ずしも明らかになっていない。
【0004】
原発性肝細胞癌は、2001年において日本国内の死亡原因第一である癌死の中において男性において第三位(13%)、女性において第四位(9.0%)を占める予後の悪い癌種の一つである(厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」抜粋)。ウイルス感染による慢性患者が年々増加し、その多くは肝硬変、そして肝細胞癌に至るケースが多いことから、肝硬変から肝細胞癌における段階の早期診断法、そして肝細胞癌の治療法は非常に強く要望されているものであり、画期的な解決のない場合は、今後10-15年間は死亡数の増加傾向をたどると考えられている。
【0005】
肝細胞癌の診断法に関しては、血清中の GOP/GTP、アルカリ性フォスファターゼ、アルブミン等や腫瘍マーカーであるAFP(α−フェトプロテイン)の値等の生化学的データ、および画像診断に基づいて総合的に評価した後、必要な場合は、針生検により少量の組織片をとり、病理学的判断に基づき確定診断が行われている。現在、特に肝細胞癌の診断において使用されているのは腫瘍マーカーであり、その中で最も使用されているアルファフェトプロテイン(AFP)の肝細胞癌患者の陽性率は6〜7割程度となっているが、慢性肝疾患患者や妊婦でも陽性となることもある。また肝癌腫瘍マーカーであるPIVKA-IIの陽性率は5割弱と低いが肝細胞癌への特異性はAFPよりも高いと考えられ、現在この2検査が主に実施されている。いずれにしても、偽陽性もしくは両陰性の症例が存在することから、特異性の高い腫瘍マーカーの存在が期待されている。
【0006】
針生検により採取された検体の病理組織検査は、肝疾患の確定診断において重要な検査である。特に採取量が限られることもあり、より確実な診断技術が必要とされている。病理学的特徴のみではなく、早期の肝細胞癌を非癌部組織から識別できるような肝癌特異的発現抗原に対する抗体の開発が望まれている。
【0007】
肝臓疾患の診断・モニターは、多種類のマーカーによる検査およびバイオプシーによる検査にて炎症、線維化および癌化への移行を診断しているのが現状である。多くの肝癌患者においては、ウイルス感染、肝炎、慢性肝炎、肝硬変そして肝癌へと移行する。従って、肝臓疾患の診断・モニターを簡便に行うことができる方法の開発は、医療経済の上からだけでなく、患者への負担の軽減および的確な医療指針を得るために有用である。
【0008】
肝細胞癌の治療法に関しては、主に外科的切除、肝動脈塞栓療法、経皮的エタノール注入療法の3療法が中心となる医療施設が多い。いずれの方法も長所・短所があり、比較的応用範囲の広く、延命効果のある肝動脈塞線療法を選択しても、完全治癒率は現在10%程度と考えられていることから、新規の治療法が非常に望まれている状況である。
【0009】
肝細胞癌における臨床現場での応用例はまだないが、乳癌あるいはリンフォーマなどにおいては癌特異的な腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体による標的療法により、従来の化学療法剤治療とは異なる作用機作により奏効率をあげている。その抗体医薬品の作用機差として、エフェクター細胞を介した抗体依存性細胞障害活性(ADCC)あるいは補体による補体依存性細胞障害活性(CDC)、そして抗体自身の機能によるアゴニスティック作用、あるいは抗体の中和活性能を利用したものが存在する。分子標的療法は現在、臨床現場において応用し始められたことから、これらの分子標的療法を応用し、肝細胞癌細胞に対する腫瘍特異的発現分子を標的とした抗体医薬品療法は今後非常に期待されるものであると考える。
【0010】
本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO99/20764
【特許文献2】WO98/48051
【特許文献3】WO01/46697
【特許文献4】WO03/29488
【特許文献5】WO01/00828
【特許文献6】WO01/57207
【特許文献7】WO01/92581
【特許文献8】WO02/04514
【特許文献9】WO02/14500
【特許文献10】WO02/29103。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、癌を診断および治療する新規方法、ならびに新規な細胞増殖抑制剤および抗癌剤を提供すること、さらに肝臓疾患の診断およびモニターする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはROBO1が肝細胞癌、肺癌、乳癌、子宮癌、胃癌、脳腫瘍、大腸癌などの癌細胞で高発現していることを見出した。さらに、抗ROBO1抗体の補体依存性細胞障害活性(CDC)を測定したところ、抗ROBO1抗体はROBO1発現細胞に対してCDC活性を有することを見出した。一方、肝臓疾患の重篤化により血中ROBO1濃度が上昇することを見出した。以上の知見により、本発明者らは、抗ROBO1抗体が肝細胞癌をはじめとしたROBO1が発現亢進する癌の診断、予防および治療に有効であること、さらに肝臓疾患の診断およびモニターする方法をを見出して、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、ROBO1タンパク質を検出することを特徴とする癌の診断方法を提供する。本発明の方法においては、好ましくは、ROBO1タンパク質の細胞外領域が検出される。また好ましくは、本発明の方法はROBO1タンパク質を認識する抗体を用いて行われる。好ましくは、本発明の方法においては、血液中、血清中、または血漿中のROBO1タンパク質、あるいは細胞から分離したROBO1タンパク質が検出される。
【0015】
別の態様においては、本発明は、以下の工程:
(a) 被験者から試料を採取する工程;
(b) 採取された試料に含まれるROBO1タンパク質を検出する工程
を含む癌の診断方法を提供する。
【0016】
別の態様においては、本発明は、ROBO1タンパク質と結合する抗体を含有する、癌を診断するためのキットを提供する。好ましくは、癌は肝細胞癌である。また好ましくは、本発明のキットにおいて、抗体はROBO1タンパク質の細胞外領域と結合する抗体である。
【0017】
別の態様においては、本発明は、ROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。本発明はまた、ROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤を提供する。本発明はまた、ROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する抗癌剤を提供する。好ましくは、ROBO1に結合する抗体は細胞障害活性を有する抗体である。また好ましくは、癌は肝細胞癌である。
【0018】
また別の態様においては、本発明は、異常な細胞増殖に起因する疾患を治療する方法であって、治療を必要とする患者にROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。本発明はまた、癌を治療する方法であって、治療を必要とする患者にROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。好ましくは、癌は肝細胞癌である。
【0019】
別の態様においては、本発明は、ROBO1発現細胞とROBO1に結合する抗体とを接触させることによりROBO1発現細胞に細胞障害を引き起こす方法を提供する。本発明はまた、ROBO1発現細胞とROBO1に結合する抗体とを接触させることによりROBO1発現細胞の増殖を抑制する方法を提供する。好ましくは、ROBO1に結合する抗体は細胞障害活性を有する抗体である。また好ましくは、ROBO1発現細胞は癌細胞である。
【0020】
さらに別の態様においては、本発明は、ROBO1に結合し、かつROBO1発現細胞に対して細胞障害活性を有する抗体を提供する。
【0021】
また別の態様においては、本発明は、抗ROBO1抗体を含有する肝炎重篤化をモニターするためのキットを提供する。好ましくは、抗ROBO1抗体はROBO1を特異的に認識する抗体である。好ましくは、本発明のキットは、肝炎または肝硬変から肝癌への移行を予測するものである。好ましい態様においては、本発明のキットは、支持体に固定した第1の抗ROBO1抗体と標識物質で標識された第2の抗ROBO1抗体を含む。
【0022】
さらに別の態様においては、本発明は、被検試料中のROBO1を測定することを特徴とする肝炎重篤化のモニター方法を提供する。好ましくは、被検試料中のROBO1は抗ROBO1抗体を用いて測定する。好ましくは、抗ROBO1抗体はROBO1を特異的に認識する抗体である。また好ましくは、被検試料は、血液、血清または血漿である。好ましくは、本発明のモニター方法は、肝炎または肝硬変から肝癌への移行を予測するものである。好ましい態様においては、本発明のモニター方法は、支持体に固定した第1の抗ROBO1抗体と標識物質で標識された第2の抗ROBO1抗体とを用いて行われる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、GeneChipU133を用いたROBO1遺伝子発現解析の結果を示す。図1a:正常組織・非癌部におけるROBO1遺伝子の発現解析、図1b:臨床検体におけるROBO1遺伝子の発現解析、図1c:癌細胞株におけるROBO1遺伝子の発現解析。
【図2】図2は、GeneChipU95を用いたROBO1遺伝子発現の解析の結果を示す。
【図3】図3は、全長ROBO1遺伝子の一過性発現によるCOS7細胞およびHEK293細胞のライゼートにおけるウエスタン解析結果、およびその培養上清におけるウエスタン解析結果を示す。
【図4】図4は、抗ROBO1モノクローナル抗体A7241Aを用いた肝癌細胞株ライゼートにおけるウエスタン解析結果を示す。
【図5】図5は、抗ROBO1モノクローナル抗体A7241Aを用いた肝細胞癌パラフィン標本の免疫組織染色解析結果を示す。
【図6】図6は、抗ROBO1モノクローナル抗体A7241Aを用いた患者血清中の可溶型ROBO1のウエスタン解析結果を示す。
【図7】図7は、sROBO1免疫ウサギ血清を用いた、全長ROBO1遺伝子強制発現HEK293細胞のライゼートにおけるウエスタン解析結果を示す。
【図8】図8は、sROBO1免疫ウサギ血清を用いた、全長ROBO1遺伝子強制発現HEK293細胞のライゼートにおけるFACS解析結果を示す。
【図9】図9は、sROBO1免疫ウサギ血清を用いた、HepG2細胞のライゼートにおけるFACS解析結果を示す。
【図10】図10は、ウサギ抗sROBO1抗体を用いたエンザイムイムノアッセイによるROBO1測定のスタンダードカーブを示す。
【図11】図11は、ROBO1濃度と肝疾患の重篤度との相関関係を示す。
【図12】図12は、肝疾患患者のROBO1濃度の変化を示す。
【図13】図13は、抗ROBO1抗血清のROBO1発現HEK293細胞に対するCDC活性の測定結果を示す。
【図14】図14は、抗ROBO1モノクローナル抗体のROBO1発現HEK293細胞に対するCDC活性を示す。
【図15】図15は、抗ROBO1モノクローナル抗体のROBO1発現Alexander細胞に対するCDC活性を示す。
【図16】図16は、抗ROBO1モノクローナル抗体のROBO1発現HEK293細胞に対するADCC活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明の方法は、ROBO1タンパク質を検出することを特徴とする。ROBO1(Roundabout1)は、軸索誘導受容体蛋白質であり、そのアミノ酸配列およびこれをコードする遺伝子配列は、バリアント1についてはGenBank番号NM_002941(配列番号9および10)、バリアント2についてはGenBank番号NM_133631(配列番号11および12)に開示されている。本発明において、ROBO1タンパク質とは、全長タンパク質およびその断片の両方を含むことを意味する。断片とは、ROBO1タンパク質の任意の領域を含むポリペプチドであり、天然のROBO1タンパク質の機能を有していなくてもよい。断片の例としては、限定されないが、ROBO1タンパク質の細胞外領域を含む断片が挙げられる。ROBO1タンパク質の細胞外領域は配列番号11のアミノ酸配列において1−859番目が相当する。又、膜貫通領域は配列番号11のアミノ酸配列において860−880番目が相当する(Sundaresan, et al., Molecular and Cellular Neuroscience 11, 29-35, 1998)。
【0025】
本発明においては、肝細胞癌において、非常に高頻度でROBO1が遺伝子レベルおよびタンパク質レベルで発現亢進していることが見いだされた。また他癌種の臨床検体および癌細胞株の解析から、肝細胞癌のみならず、肺癌、乳癌、子宮癌、胃癌、脳腫瘍、大腸癌などにおいても発現亢進している可能性が示された。また、ROBO1に特異的なモノクローナル抗体を用いることにより、免疫組織診断が可能であることが示された。さらに、ROBO1が生体内においてシェディングされ、可溶型ROBO1(sROBO1)が癌患者血中に存在することが見いだされた。すなわち、sROBO1は癌の血清診断マーカーとして有用である。
【0026】
ROBO1の検出
本発明で検出するROBO1タンパク質はヒトROBO1タンパク質が好ましいが、それに限定されず、イヌROBO1、ネコROBO1、マウスROBO1、ハムスターROBO1などいかなるROBO1でもよい。
【0027】
本発明において検出とは、定量的または非定量的な検出を含み、例えば、非定量的な検出としては、単にROBO1タンパク質が存在するか否かの測定、ROBO1タンパク質が一定の量以上存在するか否かの測定、ROBO1タンパク質の量を他の試料(例えば、コントロール試料など)と比較する測定などを挙げることができ、定量的な検出としては、ROBO1タンパク質の濃度の測定、ROBO1タンパク質の量の測定などを挙げることができる。
【0028】
被検試料としては、ROBO1タンパク質が含まれる可能性のある試料であれば特に制限されないが、哺乳類などの生物の体から採取された試料が好ましく、さらに好ましくはヒトから採取された試料である。被検試料の具体的な例としては、例えば、血液、間質液、血漿、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、血清、リンパ液、唾液、尿などを挙げることができるが、好ましいのは血液、血清、または血漿である。又、生物の体から採取された細胞の培養液などの、被検試料から得られる試料も本発明の被検試料に含まれる。
【0029】
診断される癌は、特に制限されず如何なる癌でもよいが、具体的には、肝癌、膵臓癌、肺癌、大腸癌、乳癌、腎癌、脳腫瘍、子宮癌、肺癌、胃癌、前立腺癌、白血病、リンパ腫などを挙げることができる。好ましいものは肝癌であり、特に好ましいものは肝細胞癌である。
【0030】
本発明においては、被験試料中にROBO1タンパク質が検出された場合、陰性コントロールまたは健常者と比較して被験試料中に検出されるROBO1タンパク質の量が多いと判断される場合に、被験者が癌であるまたは癌になる可能性が高いと判定される。
【0031】
さらに、肝疾患を有する患者のROBO1タンパク質濃度を測定することにより、肝疾患の重篤化をモニターすることができる。
【0032】
本発明の診断方法の好ましい態様としては、細胞から遊離し、血中に存在するROBO1タンパク質を検出することを特徴とする診断方法を挙げることができる。特に好ましくは、血中に存在するROBO1タンパク質の細胞外領域を含む断片を検出する。
【0033】
被検試料に含まれるROBO1タンパク質の検出方法は特に限定されないが、抗ROBO1抗体を用いた免疫学的方法により検出することが好ましい。免疫学的方法としては、例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウエスタンブロット、免疫染色、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくはエンザイムイムノアッセイであり、特に好ましいのは酵素結合免疫吸着定量法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)(例えば、sandwich ELISA)である。ELISAなどの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0034】
抗ROBO1抗体を用いた一般的な検出方法としては、例えば、抗ROBO1抗体を支持体に固定し、ここに被検試料を加え、インキュベートを行い抗ROBO1抗体とROBO1タンパク質を結合させた後に洗浄して、抗ROBO1抗体を介して支持体に結合したROBO1タンパク質を検出することにより、被検試料中のROBO1タンパク質の検出を行う方法を挙げることができる。
【0035】
本発明において抗ROBO1抗体を固定するために用いられる支持体としては、例えば、アガロース、セルロースなどの不溶性の多糖類、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネイト樹脂などの合成樹脂や、ガラスなどの不溶性の支持体を挙げることができる。これらの支持体は、ビーズやプレートなどの形状で用いることが可能である。ビーズの場合、これらが充填されたカラムなどを用いることができる。プレートの場合、マルチウェルプレート(96穴マルチウェルプレート等)、やバイオセンサーチップなどを用いることができる。抗ROBO1抗体と支持体との結合は、化学結合や物理的な吸着などの通常用いられる方法により結合することができる。これらの支持体はすべて市販のものを用いることができる。
【0036】
抗ROBO1抗体とROBO1タンパク質との結合は、通常、緩衝液中で行われる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液、などが使用される。また、インキュベーションの条件としては、すでによく用いられている条件、例えば、4℃〜室温にて1時間〜24時間のインキュベーションが行われる。インキュベート後の洗浄は、ROBO1タンパク質と抗ROBO1抗体の結合を妨げないものであれば何でもよく、例えば、Tween20等の界面活性剤を含む緩衝液などが使用される。
【0037】
本発明のROBO1タンパク質検出方法においては、ROBO1タンパク質を検出したい被検試料の他に、コントロール試料を設置してもよい。コントロール試料としては、ROBO1タンパク質を含まない陰性コントロール試料やROBO1タンパク質を含む陽性コントロール試料などがある。この場合、ROBO1タンパク質を含まない陰性コントロール試料で得られた結果、ROBO1タンパク質を含む陽性コントロール試料で得られた結果と比較することにより、被検試料中のROBO1タンパク質を検出することが可能である。また、濃度を段階的に変化させた一連のコントロール試料を調製し、各コントロール試料に対する検出結果を数値として得て、標準曲線を作成し、被検試料の数値から標準曲線に基づいて、被検試料に含まれるROBO1タンパク質を定量的に検出することも可能である。
【0038】
抗ROBO1抗体を介して支持体に結合したROBO1タンパク質の検出の好ましい態様として、標識物質で標識された抗ROBO1抗体を用いる方法を挙げることができる。例えば、支持体に固定された抗ROBO1抗体に被検試料を接触させ、洗浄後に、ROBO1タンパク質を特異的に認識する標識抗体を用いて検出する。
【0039】
抗ROBO1抗体の標識は通常知られている方法により行うことが可能である。標識物質としては、蛍光色素、酵素、補酵素、化学発光物質、放射性物質などの当業者に公知の標識物質を用いることが可能であり、具体的な例としては、ラジオアイソトープ(32P、14C、125I、3H、131Iなど)、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ビオチンなどを挙げることができる。標識物質としてビオチンを用いる場合には、ビオチン標識抗体を添加後に、アルカリホスファターゼなどの酵素を結合させたアビジンをさらに添加することが好ましい。標識物質と抗ROBO1抗体との結合には、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、過ヨウ素酸法、などの公知の方法を用いることができる。
【0040】
具体的には、抗ROBO1抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、抗ROBO1抗体を支持体に固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSA、ゼラチン、アルブミンなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、標識抗ROBO1抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、プレートに残った標識抗ROBO1抗体を検出する。検出は当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、放射性物質による標識の場合には液体シンチレーションやRIA法により検出することができる。酵素による標識の場合には基質を加え、基質の酵素的変化、例えば発色を吸光度計により検出することができる。基質の具体的な例としては、2,2-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)、1,2-フェニレンジアミン(オルソ-フェニレンジアミン)、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などを挙げることができる。蛍光物質の場合には蛍光光度計により検出することができる。
【0041】
本発明のROBO1タンパク質検出方法の特に好ましい態様として、ビオチンで標識された抗ROBO1抗体およびアビジンを用いる方法を挙げることができる。
【0042】
具体的には、抗ROBO1抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、抗ROBO1抗体を固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSAなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、ビオチン標識抗ROBO1抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素と結合したアビジンを加える。インキュベーション後、プレートを洗浄し、アビジンに結合している酵素に対応した基質を加え、基質の酵素的変化などを指標にROBO1タンパク質を検出する。
【0043】
本発明のROBO1タンパク質検出方法の他の態様として、ROBO1タンパク質を特異的に認識する一次抗体を一種類以上、および該一次抗体を特異的に認識する二次抗体を一種類以上用いる方法を挙げることができる。
【0044】
例えば、支持体に固定された一種類以上の抗ROBO1抗体に被検試料を接触させ、インキュベーションした後、洗浄し、洗浄後に結合しているROBO1タンパク質を、一次抗ROBO1抗体および該一次抗体を特異的に認識する一種類以上の二次抗体により検出する。この場合、二次抗体は好ましくは標識物質により標識されている。
【0045】
本発明のROBO1タンパク質の検出方法の他の態様としては、凝集反応を利用した検出方法を挙げることができる。該方法においては、抗ROBO1抗体を感作した担体を用いてROBO1を検出することができる。抗体を感作する担体としては、不溶性で、非特異的な反応を起こさず、かつ安定である限り、いかなる担体を使用してもよい。例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等を使用することができるが、ポリスチレンラテックス粒子を使用するのが好ましい。感作した粒子を試料と混合し、一定時間攪拌する。試料中に抗ROBO1抗体が高濃度で含まれるほど粒子の凝集度が大きくなるので、凝集を肉眼でみることによりROBO1を検出することができる。また、凝集による濁度を分光光度計等により測定することによっても検出することが可能である。
【0046】
本発明のROBO1タンパク質の検出方法の他の態様としては、例えば、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いた方法を挙げることができる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーはタンパク質−タンパク質間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である。例えば、BIAcore(アマーシャムバイオサイエンス社製)等のバイオセンサーを用いることによりROBO1タンパク質と抗ROBO1抗体の結合を検出することが可能である。具体的には、抗ROBO1抗体を固定化したセンサーチップに、被検試料を接触させ、抗ROBO1抗体に結合するROBO1タンパク質を共鳴シグナルの変化として検出することができる。
【0047】
本発明の検出方法は、種々の自動検査装置を用いて自動化することもでき、一度に大量の試料について検査を行うことも可能である。
【0048】
本発明は、癌の診断のための被検試料中のROBO1タンパク質を検出するための診断薬またはキットの提供をも目的とするが、該診断薬またはキットは少なくとも抗ROBO1抗体を含む。該診断薬またはキットがELISA法等のEIA法に基づく場合は、抗体を固相化する担体を含んでいてもよく、抗体があらかじめ担体に結合していてもよい。該診断薬またはキットがラテックス等の担体を用いた凝集法に基づく場合は抗体が吸着した担体を含んでいてもよい。また、該キットは、適宜、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液、試料を処理するための試薬等を含んでいてもよい。
【0049】
抗ROBO1抗体の作製
本発明で用いられる抗ROBO1抗体はROBO1タンパク質に特異的に結合すればよく、その由来、種類(モノクローナル、ポリクローナル)および形状を問わない。具体的には、マウス抗体、ラット抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体を用いることができる。抗体はポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0050】
本発明で使用される抗ROBO1抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗ROBO1抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主により産生されるもの等を含む。
【0051】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、ROBO1を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0052】
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。まず、抗体取得の感作抗原として使用されるROBO1を、GenBank受託番号BF059159(NM_133631)に開示されたROBO1遺伝子/アミノ酸配列を発現することによって得る。すなわち、ROBO1をコードする遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のヒトROBO1タンパク質を公知の方法で精製する。また、天然のROBO1を精製して用いることもできる。
【0053】
次に、この精製ROBO1タンパク質を感作抗原として用いる。あるいは、ROBO1の部分ペプチドを感作抗原として使用することもできる。この際、部分ペプチドはヒトROBO1のアミノ酸配列より化学合成により得ることもできるし、ROBO1遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることにより得ることもでき、さらに天然のROBO1をタンパク質分解酵素により分解することによっても得ることができる。部分ペプチドとして用いるROBO1の領域および大きさは限定されない。
【0054】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギ、サル等が使用される。
【0055】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することもできる。特に分子量の小さい部分ペプチドを感作抗原として用いる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合させて免疫することが望ましい。
【0056】
このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付されるが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0057】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞は、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immnol.(1979)123, 1548-1550)、 P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、 NS-1 (Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976)6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell(1976)8, 405-415)、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature(1978)276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods(1980)35, 1-21)、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med.(1978)148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature(1979)277, 131-133)等が好適に使用される。
【0058】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0059】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0060】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0061】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000〜6000程度)を通常30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)を形成する。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0062】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングを行う。
【0063】
又、ROBO1を認識する抗体の作製は国際公開WO03/104453に記載された方法を用いて作製してもよい。
【0064】
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法で行えばよい。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させ、担体を洗浄した後に酵素標識第2次抗体等を反応させることにより、培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれるかどうかを決定できる。目的とする抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることができる。この際、抗原としては免疫に用いたものを用いればよい。
【0065】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroでROBO1に感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞と融合させ、ROBO1への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878号公報参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となるROBO1を投与して抗ROBO1抗体産生細胞を取得し、これを不死化させた細胞からROBO1に対するヒト抗体を取得してもよい(国際公開WO 94/25585、WO 93/12227、WO 92/03918、WO 94/02602参照)。
【0066】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0067】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0068】
本発明では、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型のものを用いることができる(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur. J. Biochem.(1990)192, 767-775, 1990参照)。具体的には、抗ROBO1抗体を産生するハイブリドーマから、抗ROBO1抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry(1979)18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P.et al., Anal. Biochem.(1987)162, 156-159)等により行って全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用して目的のmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit (Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0069】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等を用いて行う。また、cDNAの合成および増幅を行うには、5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002、Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)等を使用することができる。
【0070】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。そして、目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認する。目的とする抗ROBO1抗体のV領域をコードするDNAを得たのち、これを、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターへ組み込む。
【0071】
本発明で使用される抗ROBO1抗体を製造するには、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより、宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。
【0072】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)または軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(国際公開WO 94/11523参照)。
【0073】
抗体遺伝子を一旦単離し、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1) 哺乳類細胞、例えば、CHO, COS,ミエローマ、BHK (baby hamster kidney ),HeLa,Vero,(2) 両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3) 昆虫細胞、例えば、sf9, sf21, Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces )属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus )属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger )などが知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli )、枯草菌が知られている。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。
【0074】
また、組換え型抗体の産生には上記宿主細胞だけではなく、トランスジェニック動物を使用することができる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生されるタンパク質(ヤギβカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギまたはその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
【0075】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized )抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0076】
キメラ抗体およびヒト化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4を、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0077】
キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域とからなる。ヒト化抗体はヒト体内における抗原性が低下されているため、本発明の治療剤の有効成分として有用である。
【0078】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許公開EP 239400 、国際公開WO 96/02576参照)。
【0079】
CDRを介して連結されるヒト抗体のフレームワーク領域は、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res, 1993, 53, 851-856.)。
【0080】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際公開WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に衆知であり、国際公開WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
【0081】
本発明で使用される抗体は、抗体の全体分子に限られず、ROBO1に結合する限り、抗体の断片またはその修飾物であってもよく、二価抗体も一価抗体も含まれる。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv、1個のFabと完全なFcを有するFab/c、またはH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
【0082】
抗体の断片は、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、または、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1989)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
【0083】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 1988, 85, 5879-5883.)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えば3-25残基程度からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖またはL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合わせて増幅することにより得られる。また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。これらの抗体断片は、前記と同様にして遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。
【0084】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。又、抗体に放射性同位元素、化学療法剤、細菌由来トキシン等の細胞傷害性物質などを結合することも可能である。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらの抗体も包含される。
【0085】
さらに、本発明で使用される抗体は二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体はROBO1分子上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有する二重特性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位がROBO1を認識し、他方の抗原結合部位が放射性物質、化学療法剤、細胞由来トキシン等の細胞障害性物質を認識してもよい。この場合、ROBO1を発現している細胞に直接細胞障害性物質を作用させ腫瘍細胞に特異的に障害を与え、腫瘍細胞の増殖を抑制することが可能である。二重特異性抗体は2種類の抗体のHL対を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。
【0086】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0087】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等のウイルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等が挙げられる。
【0088】
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277, 108)により、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合はMizushimaらの方法(Nucleic Acids Res.(1990)18, 5322)により、容易に遺伝子発現を行うことができる。
【0089】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列および発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて当該遺伝子を発現させることができる。プロモーターとしては、例えばlaczプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。laczプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1098)341, 544-546 ; FASEB J.(1992)6, 2422-2427)により、あるいはaraBプロモーターを使用する場合はBetterらの方法(Science(1988)240, 1041-1043)により発現することができる。
【0090】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol.(1987)169, 4379)を使用すればよい。そして、ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切に組み直して(refold)使用する。
【0091】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは、選択マーカーとしてアミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0092】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の発現系、例えば真核細胞または原核細胞系を使用することができる。真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞および酵母細胞などの動物細胞等が挙げられ、原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。
【0093】
好ましくは、本発明で使用される抗体は、哺乳類細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、Vero、HeLa細胞中で発現される。
【0094】
次に、形質転換された宿主細胞をin vitroまたはin vivoで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0095】
前記のように発現、産生された抗体は、通常のタンパク質の精製で使用されている公知の方法により精製することができる。例えば、プロテインAカラムなどのアフィニティーカラム、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0096】
抗体の抗原結合活性(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)の測定には公知の手段を使用することができる。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などを用いることができる。
【0097】
医薬組成物
別の観点においては、本発明は、ROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物を特徴とする。又、本発明はROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤、特に抗癌剤を特徴とする。
【0098】
本発明において、「ROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する」とは、抗ROBO1抗体を主要な活性成分として含むという意味であり、抗ROBO1抗体の含有率を制限するものではない。
【0099】
本発明の細胞増殖抑制剤に含有される抗体はROBO1と結合する限り特に制限はない。好ましくはROBO1と特異的に結合する抗体であり、さらに好ましくは細胞障害活性を有する抗体である。さらに、本発明で使用される抗体は糖鎖が改変された抗体であってもよい。抗体の糖鎖を改変することにより抗体の細胞障害活性を増強できることが知られている。糖鎖が改変された抗体としては、例えば、グリコシル化が修飾された抗体(WO99/54342など)、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140など))、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)などが知られている。
【0100】
本発明における細胞障害活性とは、例えば抗体依存性細胞介在性細胞障害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性、補体依存性細胞障害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性などを挙げることができる。本発明において、CDC活性とは補体系による細胞障害活性を意味し、ADCC活性とは標的細胞の細胞表面抗原に特異的抗体が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に障害を与える活性を意味する。
【0101】
抗ROBO1抗体がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定することができる(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc.,(1993)等)。
【0102】
具体的には、まず、エフェクター細胞、補体溶液、標的細胞の調製を行う。
(1)エフェクター細胞の調製
CBA/Nマウスなどから脾臓を摘出し、RPMI1640培地(GIBCO社製)中で脾臓細胞を分離する。10%ウシ胎児血清(FBS、HyClone社製)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5×106/mlに調製し、エフェクター細胞を調製する。
(2)補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を10% FBS含有培地(GIBCO社製)にて10倍希釈し、補体溶液を調製する。
(3)標的細胞の調製
ROBO1を発現する細胞(ROBO1をコードする遺伝子で形質転換された細胞、肝癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、子宮癌細胞、胃癌細胞、大腸癌細胞、等)を0.2mCiの51Cr-クロム酸ナトリウム(Amersham Pharmacia Biotech社製)とともに、10% FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより放射性標識する。放射性標識後、細胞を10% FBS含有RPMI1640培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2×105/mlに調製して、標的細胞を調製する。
【0103】
次いで、ADCC活性、又はCDC活性の測定を行う。ADCC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Beckton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗ROBO1抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、エフェクター細胞100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または10μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンター(COBRAIIAUTO-GMMA、MODEL D5005、Packard Instrument Company社製)で放射活性を測定する。細胞障害活性(%)は(A-C)/(B-C)×100により求めることができる。Aは各試料における放射活性(cpm)、Bは1% NP-40(半井社製)を加えた試料における放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料の放射活性(cpm)を示す。
【0104】
一方、CDC活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗ROBO1抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、補体溶液100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または3μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンターで放射活性を測定する。細胞障害活性はADCC活性の測定と同様にして求めることができる。
【0105】
抗ROBO1抗体が増殖を抑制する細胞は、ROBO1が発現している細胞であれば特に限定されないが、好ましくは癌細胞であり、さらに好ましくは肝癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、子宮癌細胞、胃癌細胞、脳腫瘍細胞、大腸癌細胞である。従って、抗ROBO1抗体は、細胞増殖に起因する疾患、例えば肝細胞癌、肺癌、乳癌、子宮癌、胃癌、脳腫瘍、大腸癌などの治療、予防を目的として使用できる。
【0106】
本発明の細胞増殖阻害剤および抗癌剤は、経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の治療薬はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0107】
本発明の細胞増殖抑制剤および抗癌剤は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を供に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0108】
また、本発明は、ROBO1発現細胞とROBO1に結合する抗体とを接触させることによりROBO1発現細胞に障害を引き起こす方法又は細胞の増殖を抑制する方法を提供する。ROBO1に結合する抗体は、本発明の細胞増殖抑制剤に含有されるROBO1に結合する抗体として上述したとおりである。抗ROBO1抗体が結合する細胞はROBO1が発現している細胞であれば特に限定されないが、好ましくは癌細胞であり、さらに好ましくは肝癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、子宮癌細胞、胃癌細胞、脳腫瘍細胞、大腸癌細胞である。
【0109】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。また,本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2004−102862号、2004−227899号および2005−004024号の明細書および図面に記載の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。
【実施例】
【0110】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが,これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。
【0111】
実施例1
各癌種におけるROBO1のmRNA発現解析
1-1. Gene chip を用いたROBO1遺伝子発現解析
癌細胞において発現が亢進する遺伝子を探索するために、表1に示す各種RNAならびに各種摘出組織よりISOGEN(日本ジーン社製)を用い常法により調製した全RNAを用い検討した。
【0112】
【表1】

【0113】
上記全RNAを各10 ngずつ用い、GeneChip U-133(Affimetrix社製)に供しExpression Analysis Technical Manual(Affymetryx社製)に準じて遺伝子発現解析を行った。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、癌細胞において発現が亢進する遺伝子を探索したところ、ROBO1 mRNA(プローブID: 213194_at HG-U133A)が正常肝(9.1)と比較して、中分化型肝細胞癌(236.4)で26倍、低分化型肝細胞癌(563)で62倍と顕著に発現亢進していることが明らかになった。またROBO1 mRNAは大腸癌においても発現亢進しており、正常大腸(21.4)と比較して原発性大腸癌において8例中5例において2倍以上亢進していた。さらに、大腸癌の転移性肝癌においては、7例中3例において正常肝臓および大腸と比較しても顕著に亢進していた。また、ROBO1は肺小細胞癌においても正常肺と比較し2倍以上亢進している例が1例存在した(図1a,b)。
【0114】
癌細胞株における解析においては、ROBO1の発現は、ヒト脳腫瘍由来細胞株であるU251、ヒト肝癌細胞株由来のAlexander、HLE、HuH6、HuH7、HepG2、ヒト肺癌細胞株由来のLu1320、H522、そしてヒト子宮頸部癌由来のHelaなどでスコア100を示し、ROBO1が上記で示した肝細胞癌、大腸癌、そして肺癌のみならず、脳腫瘍や子宮頸部癌など広範な癌において発現亢進している可能性が示された(図1c)。
【0115】
さらに、肝細胞癌に関して高分化型、中分化型(HBV、もしくはHCVウイルス感染に起因するもの)、低分化型肝細胞癌、ならびに非癌部である肝炎部位、肝硬変部位、ならびに正常肝に関して、前述と同様にGeneChipTM HG-U95B Target(Affymetryx社製)を用いて解析した。それぞれ各3例分の摘出組織より全RNAを調製し、5μgずつの全RNAを3例分混合したものをGeneChip解析に供した。全チップスコアの平均値を100として標準化した値を示す。
【0116】
その結果、ROBO1遺伝子(プローブID:55461_at_HG-U95B)は正常肝、非癌部で発現量が非常に低いのに対し、高分化型肝細胞癌から低分化型肝細胞癌において顕著な発現上昇が確認され、肝細胞癌で発現が亢進していることが明らかとなった(図2)。
【0117】
実施例2
1-2.定量的PCRによるROBO1 mRNA発現解析
正常肝、肝炎部位、肝硬変部位、ならびに肝癌摘出組織、および同一組織の非癌部より調製したRNAを用い定量的PCRを実施した。すなわち、各組織より調製した全RNAより逆転写酵素SuperscriptII(GIBCO BRL社製)を用いて合成した1本鎖 cDNAを鋳型DNAとして用い、iCycleriQリアルタイムPCR解析システム(BIO-RAD社製)によりPCR反応を行い、mRNA発現量を定量した。ROBO1のプライマーデザインはGenBank番号(NM_133631)より行った。各25 μLのPCR反応液は、500mM KCl, 100 mM Tris-HCl(pH8.3), 20mM MgCl2, 0.1% ゼラチン、各1.25 mM dNTPs(dATP, dCTP, dGTP, dTTP)、1μLの各1本鎖cDNA、5 pmoleずつのROBO1センスプライマー(配列番号1)、ROBO1アンチセンスプライマー(配列番号2)、0.75μLのSYBR Green I (1000倍希釈溶液, 宝酒造社製)、0.25μLのrecombinant Taq polymerase Mix(FG Pluthero, Rapid purification of high-activity Taq DNA polymerase、Nucl. Acids. Res. 1993 21: 4850-4851.)を含むように調製した後、初めに94 ℃で3分間一次変性を行い、94 ℃で15秒、63 ℃で15秒、72 ℃で30秒からなるサイクルを40回行なった。各標品中の発現量はiCycler iQ リアルタイム解析システム付属ソフトを用いて計算した。また、個々のRNA中のヒトβ-アクチン遺伝子発現量もヒトβ-アクチンに特異的なセンスプライマー(配列番号3)ならびにアンチセンスプライマー(配列番号4)を用い上記と同様に解析を行い、ROBO1の解析結果をヒトβ-アクチンの解析結果で補正した値(ROBO1/β-アクチン x 100)をROBO1mRNA発現量とした。
【0118】
その結果、GeneChip解析の結果と同様に、正常肝や肝炎部位、ならびに肝硬変部位におけるROBO1 mRNAの発現はほとんど認められないのに対し、多くの肝細胞癌部位においてはROBO1 mRNAの発現の亢進が確認された。特に、同一組織内での癌部と非癌部との比較においては9例解析したうち8例においては2倍以上の発現亢進が認められた(表2)。
【0119】
【表2】

【0120】
実施例3
抗ROBO1抗体の作製
抗ROBO1抗体を用いた癌の検出が可能かどうかを明らかにするために、抗ROBO1抗体の作製を行った。
【0121】
3-1.抗原の調製
3-1-1.ROBO1 cDNAの単離
ROBO1の発現を行うために、まずROBO1のcDNAを以下のようにして単離した。Hep3B細胞より前述の方法に従い一本鎖cDNAを調製し、それを鋳型としてプライマーRBV2F-TA(配列番号:5)とRBR-TA(配列番号:6)を用いてPCR法による増幅を行った。プライマーRBV2F-TAはROBO1遺伝子(GenBank: NM_133631)の5'-端にハイブリダイズするように、そしてRBR-TAは3'-端にハイブリダイズするようにデザインした。PCR法はLA-PCRキット(TAKARA社製)のプロトコールに準じて反応液を調製し、初めに95 ℃で2分間一次変性を行い、94 ℃で15秒、63 ℃で15秒、72 ℃で5分からなるサイクルを30回行なった後、最後の伸長反応を72 ℃で10分間からなる条件で実施した。その結果、ROBO1予測配列と一致する約5 kbp付近のバンドの検出に成功した。PCR法で得られた特異的増幅断片をTAクローニング法によりpcDNA3.1/V5-His TOPO(Invitrogen社製)に挿入し、塩基配列を定法により確認したところ、単離したcDNAがROBO1であることが明らかとなった。
【0122】
3-1-2.ROBO1のN末部位を発現する組換えバキュロウイルスの作製
ROBO1のN末から最初のイムノグロブリン領域(Ig1)を含む領域に関してバキュロウイルスの膜タンパク質gp64との融合タンパク質として発現させた。すなわち、上記のROBO1 cDNAを鋳型とし、RB_BVFプライマー(配列番号:7)、およびRB_BVRプライマー(配列番号:8)を用いPCR法にてROBO1のN末から最初のイムノグロブリン領域(Ig1)を含む領域をコードする遺伝子を増幅し、続いてpGEM-Teベクター(プロメガ社製)への挿入を行った。塩基配列を定法にて確認した後、制限酵素KpnIを用いて切断した遺伝子断片をpBucSurfベクター(Novagen社製)に挿入し、トランスファーベクターROBO1N/pBSを構築した。続いて、4μgのROBO1N/pBSを制限酵素BplI(Fermentas社製)を用い切断し直鎖化した後、Invitrogen社の指示書に準じてBac-N-Blue DNAと共にSf9細胞に導入し、ROBO1-Ig1とgp64との融合タンパク質発現組み換えバキュロウイルスを調製した。
【0123】
上記により調製した組換えウイルスをSf9細胞(2 x 106個細胞/mL)にMOIが5となるように加え感染させた後、27℃で3日間培養した。ROBO1-Ig1とgp64との融合タンパク質を発現する発芽型バキュロウイルス(BV)は3日間培養後の培養上清より回収した。すなわち、培養液を800 x gで15分間遠心し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した後、回収した培養上清を45,000 x gで30分間遠心する。沈殿物をPBSに懸濁し、さらに800 x gで遠心することで細胞成分を除去し、上清を再度45,000 x gで遠心することで得られる沈殿物をPBSで懸濁したものをBV画分とし、抗原として免疫に用いた。
【0124】
3-2.抗ROBO1モノクローナル抗体の作製
上記の方法により調製したROBO1-Ig1発現BVを抗原として用い抗ROBO1モノクローナル抗体を作製した。すなわち、PBSに懸濁した1 mgのタンパク量に相当するROBO1-Ig1発現BVを200 ngの百日咳毒素とを混合したものをgp64トランスジェニックマウス(WO03/104453)に皮下注射により初回免疫を行った。以後の免疫では500μmgタンパク量相当のROBO1-Ig1発現BVのみを皮下注射した。最終免疫として250 μgのROBO1-Ig1発現BVを静脈内に投与し、その3日後にマウスから脾臓細胞を単離し、常法によりマウスP3U1細胞との細胞融合を行い、ハイブリドーマ細胞を樹立した。抗ROBO1抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択は免疫に用いた抗原であるROBO1-Ig1発現BVを固層したELISAにて実施した。ELISA法は、ROBO1-Ig1発現BVを終濃度10μg/mlになるように96ウェル平底プレート(ファルコン社製)に4 ℃で一昼夜おき、その後、40%ブロックエース試薬(大日本製薬社製)を含むTBS緩衝液を用いてブロッキングした後、ハイブリドーマ培養上清を加え、室温で1時間反応させた。次いで、室温にて1時間HRP標識抗マウスIgG抗体(ジャクソン社製)を反応させ、4回洗浄した後、室温にて1時間、3, 3', 5, 5' -テトラメチルベンジジン(TMB)試薬(Sigma製)を反応させた。0.5N硫酸で反応を停止させ、マイクロプレート・リーダーMultickanJX(Labsystems社製)で492nmにおける吸光度を測定した。
【0125】
その結果、ROBO1に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞A7241AならびにA7225Aの樹立に成功した。各モノクローナル抗体は産生ハイブリドーマ細胞の培養上清より硫安沈殿法により調製した。
【0126】
実施例4
抗ROBO1抗体を用いたROBO1タンパク質分子の検出
上記により調製した抗ROBO1抗体の反応性を確認するために、ROBO1強制発現細胞株ならびに各種癌細胞株の細胞ライゼートを用いROBO1の検出を行った。初めに、ROBO1強制発現HEK293細胞を用いウエスタン解析により抗ROBO1抗体A7241Aの反応性を確認した。動物細胞発現ベクターは、前述のROBO1をコードするcDNAをpcDNA3.1/V5-His TOPO(Invitrogen社製)に挿入した全長ROBO1遺伝子発現ベクター(ROBO1/pcDNA3.1)を使用した。続いて、1μgのROBO1/psDNA3.1もしくは陰性対照としてpcDNA3.1(Mock)を 5 x 104個のCOS7細胞あるいは2 x 105個HEK293細胞にFuGene6試薬(ロシュダイダイアグノスティック社製)を用いて導入し、ROBO1を一過性発現させた。発現ベクター導入3日後の細胞を回収し、培養細胞をRIPA緩衝液(150 mM塩化ナトリウム、1% NP-40、0.5% デオキシコール酸、0.1% SDS、50 mMトリスヒドロキシアミノメタン塩酸塩(pH8.0))にて可溶化することで細胞ライゼートを調製した。
【0127】
それぞれ3μgタンパク質相当量のライゼートをSDS-ポリアクリルアミドゲルに供し、SDS-PAGEによりタンパク質を分離した後、Hybond-P(アマシャムバイオサイエンス社製)に転写した。そして一次抗体として抗His抗体(Sigma社製)もしくはA7241A抗体(1μg/mL)を使用し、二次抗体にHRP標識抗マウスIgG抗体(ジャクソン社製)を用い、ECLプラス(アマシャムバイオサイエンス社製)による検出を行ったところ、抗His抗体と特異的に反応する分子量約260kdのバンドが検出された。これは全長のROBO1であると考えられるが、抗ROBO1抗体A7241Aにおいても同様の分子量のバンドが細胞ライゼート中に確認された。以上の結果より、抗ROBO1抗体A7241Aは全長のROBO1タンパク質を特異的に検出可能であることが示された。さらに、A7241Aにおいて分子量の小さいいくつかのバンドも同様に検出されたが、これらのバンドは抗His抗体では検出されないことから、C末部位が欠損した分解物である可能性が考えられ、実際に培養上清中に分子量約120kdのバンドが特異的に検出された(図3)。全長ROBO1の推定分子量は190kdであるが、糖鎖等の修飾によりプレステイン分子量マーカー(Bio-Rad社製)の250kdより上部の位置(約260kd)で検出されると考える。またHEK293細胞のpcDNA3.1を用いたMock試験でもROBO1と考えられるバンドが検出されているが、これはROBO1が胎児期に発現することから、ヒト胎児腎臓由来のHKE293細胞がROBO1を発現しているためと考える。
【0128】
続いて、各種癌細胞株の細胞ライゼートに関して同様にウエスタン解析を行った。その結果、GeneChipU133の解析結果と一致し、mRNA発現スコアが高い細胞株においてのみ分子量約260kdの全長のROBO1と考えられるバンドを検出することに成功した(図4)。また、分子量の小さい複数のバンドも同様に検出されたことより、細胞株により糖鎖の結合量が異なる、もしくは分解物やスプライシングに違いにより分子量が異なったROBO1の存在が示唆された。
【0129】
さらに、ROBO1を発現する癌細胞株においても可溶型のROBO1断片が培養上清中に検出できるか確認したところ、ROBO1を高発現する肝癌細胞株の培養上清中にも強制発現細胞の培養上清と同じ分子量のバンドが抗ROBO1抗体により検出された(図3)。
【0130】
以上の結果より、ROBO1モノクローナル抗体A7241AはROBO1を特異的に検出できること、ならびにGeneChip解析によるmRNA発現の程度とROBO1タンパク質の発現の程度が一致することが明らかとなった。さらに、抗ROBO1抗体を用いた検討からROBO1発現細胞の培養上清中に可溶型のROBO1断片が存在することが明らかとなったことより、可溶型ROBO1を検出することで癌細胞の有無を判断できる可能性が強く示唆された。
【0131】
実施例5
肝細胞癌の免疫組織染色
抗ROBO1モノクローナル抗体を用い、肝細胞癌の臨床検体の免疫組織染色解析を実施した。
【0132】
肝細胞癌摘出組織の固定パラフィン包埋標本を4μmに薄切した切片をスライドガラスに張り付け、37℃で16時間程度置くことで十分乾燥させた。100%キシレンに5分間ずつ3回漬けることで脱パラフィンし、続いて100%アルコールに5分間を3回、70%エタノールで5分間漬けることで親水化を行った。その後、50 mM TBS緩衝液(50 mM Tris, pH 7.4, 150 mM NaCl)で5分間、3回洗浄した後、クエン酸バッファー(10mM,pH7.0)中で120℃、10分間反応させ抗原の賦活化を行った。抗原の賦活化後、TBS緩衝液を用い5分間ずつ3回の洗浄を行った後、10μg/mLに希釈したA7241A抗体を室温で1時間反応させた。続いて、0.3%の過酸化水素で15分間、室温で作用させることで内在性のペルオキシダーゼを失活させた。さらにTBS緩衝液で3回洗浄した後、二次抗体としてENVISION+キット/HRP(DAKO社製)を1時間作用させた。TBS緩衝液で5分間ずつ3回の洗浄後、DAB(3,3'-ジアミノベンジジン四塩酸塩)を用い発色させた。また、核の対比染色にはヘマトキシリンを用いた。
【0133】
その結果、図5に示すように肝細胞癌が特異的に抗ROBO1抗体により染色されたことより、ROBO1タンパク質が肝細胞癌で特異的に発現亢進することが明らかになった。また、抗ROBO1抗体が肝細胞癌などのROBO1高発現癌の免疫組織化学診断に利用可能であることが明らかとなった。
【0134】
実施例6
肝細胞癌患者血清中の可溶型ROBO1タンパク質(sROBO1)の検出
実施例4の結果よりROBO1タンパク質の断片が遊離し、可溶型ROBO1として存在することが示されたことより、肝細胞癌患者などのROBO1を高発現する癌患者血清中にも可溶型ROBO1タンパク質(sROBO1)が存在する可能性が考えられ、診断マーカーとして有用であると考えられる。そこで、肝細胞癌患者24例および肝硬変患者6例、そして肝炎患者6例の各血清中における可溶型ROBO1の存在を、A7241A抗体を用いたウエスタン解析により検討した。SDS-PAGEならびにウエスタン解析は上記と同様に行い、患者血清はそれぞれ5μlずつ用い、陽性対照として肝癌細胞株Alexander(ALX)の培養上清を用いた。その結果、図6に示すように24例中23例の肝細胞癌患者血清においてsROBO1が検出されたのに対し、肝硬変および肝炎患者血清においては検出されなかった。以上のことにより、sROBO1はROBO1発現癌患者の血清中においても存在することが示されたと共に、sROBO1の検出が肝細胞癌などのROBO1発現癌の血清診断マーカーとして非常に有効であることが示された。
【0135】
実施例7
可溶型ROBO1(sROBO1-His)の調製
ROBO1の細胞外領域のC末にHisタグを付加した可溶型ROBO1(sROBO1-His)は以下のようにして調製した。
【0136】
ROBO1 cDNAを鋳型としプライマーRBV2F-TA(配列番号:13)とプライマーRB_SH_TA(配列番号:14)を用いてPCR法により細胞外領域をコードする遺伝子を増幅した。PCR産物をpBlueBack4.5-TOPOベクターに直接挿入し、配列解析を行った後、正しい塩基配列を有するトランスファーベクターsROBO1/pBBを作製した。4μgのsROBO1/pBBを用い、実施例3の方法と同様に組み換えバキュロウイルスを作製した。
【0137】
続いて、sROBO1-Hisは以下のようにして調製した。すなわち、2 x 106個/mLのSf9細胞にMOIが5となるようにsROBO1-His発現組換えバキュロウイルスを感染させ、27度で3日間培養し、その培養上清を回収した。培養上清中に含まれるsROBO1-HisはNi-NTA superflow(QIAGEN社)を用い添付プロトコールに従い精製した。精製品をCentircon-10(Amicon社製)を用い濃縮、ならびにPBSへのバッファー置換を行うことでsROBO1-Hisを調製した。
【0138】
実施例8
sROBO1免疫ウサギ血清の評価
8-1.ウエスタン解析によるROBO1タンパク質分子の検出
ニュージーランドホワイト種ウサギ(10週齢雌、日本クレア社製)に、PBSに縣濁したsROBO1精製抗原100μg/0.5mL/匹をフロイント完全アジュバント(DIFCO社製)0.5mLと混合してエマルジョンにしたものを、皮下注射により投与して初回免疫を行った。以後2週間間隔で、PBSに縣濁したsROBO1精製抗原100μg/0.5mLをフロイント不完全アジュバント0.5mLと混合してエマルジョンにしたものを、皮下注射により投与して、合計4回免疫を行った。免疫前および3回, 4回目免疫後に各々採血を行い、sROBO1に対する抗体価上昇をELISA法で確認した。すなわち、sROBO1をELISA用ポリスチレンプレートに固相化し、ウサギ抗血清の希釈列を反応させた後、ホースラディッシュパーオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体(カペル社製)と反応させ、3,3',5,5'-テトラメチルベンチジン試薬(TMB試薬;サイテック社製)で発色させて抗体力価を検定した。抗体価の上昇を確認した後、全採血を行い、抗ROBO1ウサギ抗血清を得た。
【0139】
sROBO1免疫ウサギ血清を用いて、ウエスタン解析による全長ROBO1分子の検出を行った。前述の通り全長のROBO1を強制発現させたHEK293細胞よりRIPA緩衝液を用いて調製した細胞ライゼートの10μgタンパク質相当量をSDS-ポリアクリルアミドゲルに供し、タンパク質を分離した後、Hybond-P(アマシャムバイオサイエンス社製)に転写した。そして一次抗体としてsROBO1免疫ウサギ血清を100倍希釈で使用し、二次抗体にHRP標識抗ウサギIgG抗体(アマシャムバイオサイエンス社製)を用い、ECLプラス(アマシャムバイオサイエンス社製)による検出を行ったところ、陽性対照であるA7241A抗体と同様に全長ROBO1分子と考える分子量約260kdのバンドを検出できた(図7)。以上の結果より、sROBO1免疫ウサギ血清はウエスタン解析で全長ROBO1分子を検出できることが明らかとなった。
【0140】
8-2.FACS解析によるROBO1タンパク質の検出
ROBO1強制発現HEK293細胞を用いてsROBO1免疫ウサギ血清が細胞表面のROBO1を検出できるかどうか評価するため、FACS解析を実施した。すなわち、ROBO1強制発現HEK293細胞あるいは陰性対照であるHEK293細胞をFACS溶液(1%アルブミン、0.1% NaN3入りPBS)に懸濁した。細胞懸濁液にsROBO1免疫ウサギ血清を加えて、4℃で60分間反応させ、FACS溶液で2回洗浄した後、FITC標識抗ウサギF(ab)2抗体(DAKO社製)を加えて、4℃で30分間反応させた。そしてFACS溶液で2回洗浄した後、使用説明書に準じてFACScalibur (ベクトンディッキンソン社製)によるFACS解析を実施した。今回の実験の陽性対照として抗V5タグ抗体(Invtrogen社製)を用い、その二次抗体にはFITC標識抗マウスIgG抗体(ジャクソン社製)を使用した。V5タグはROBO1 細胞内領域のC末端に付加したため、抗体が細胞内のV5タグを検出できるよう一次抗体添加時に0.1%サポニンを含むFACS溶液を用いた。
【0141】
その結果、図8に示すように、陽性対照の抗V5抗体でのピークのシフトと同様に、sROBO1免疫ウサギ血においてもROBO1強制発現HEK293細胞においてのみ特異的なピークのシフトが検出された。
【0142】
また、ROBO1を元々発現している肝癌細胞株HepG2細胞においても上記と同法にてFACS解析をした結果、図9に示すように、sROBO1免疫ウサギ血清において特異的なピークのシフトが認められたことより、細胞表面上の本来の構造を有するROBO1分子をも検出できることが明らかとなった。
【0143】
実施例9
抗ヒトROBO1ウサギポリクローナル抗体の精製
上記のsROBO1免疫ウサギ血清より作製した抗ヒトROBO1ウサギ・ポリクローナル抗体を、以下のようにしてROBO1を固相化したアフィニティークロマトグラフィーにより精製を行った。すなわち、添付文章に従いCNBr-Activated Sepharose 4B (Amasham Pharmacia Biotec #17-0430-02)を用いて、添付文書に従いゲル1mL当りに対し、0.7 mgの精製sROBO1-His抗原を固定化し、sROBO1-Hisアフィニティーカラムを作製した。続いて、常法に従い実施例8で得たウサギ血清から抗ROBO1ウサギ・ポリクローナル抗体を精製した。
【0144】
実施例10
ELISA系によるROBO1測定系の確立ならびに血中ROBO1の検出
実施例9で得られた抗ROBO1ウサギポリクローナル抗体を用いてELISA検出系を構築した。すなわち、抗ROBO1ウサギポリクローナル抗体をPBS中に5μg/mLの濃度で希釈し、96ウエルのイムノプレートに1ウエル当たり50μLずつ分注した。2〜8 ℃で一夜放置後、0.05%のTween 20を含むPBSで3回洗浄し、1ウエル当たり150μLのImmunoassay Stabilizer (ABI #10-601-001)で1時間オーバーコートを行った。その後、溶液を捨てて、37℃で2時間乾燥を行い、抗ROBO1抗体固相化プレートとした。検出に用いるビオチン標識抗ROBO1抗体は、pH8.5の50mM炭酸緩衝液を用いて、抗ROBO1ウサギポリクローナル抗体およびSulfo-NHS-LC-Biotin(Pierce #21335)が、それぞれ0.12mg/mLおよび46μg/mLとなるよう調製し、室温で2時間放置した。未反応のビオチン試薬はPD-10(Pharmacia #17-0851-01)を用いて除き、ビオチン標識抗ROBO1抗体は、1μg/mLとなるように、30%の子牛血清を含むPBSで希釈し調製した。更に、ビオチン標識抗ROBO1抗体は30%の子牛血清を含むトリス緩衝生理食塩水中に3μg/mLとなるよう希釈したストレプトアビジン標識ペルオキシダーゼ(Vector #SA-5004)を用いて検出し、ペルオキシダーゼの検出の基質としてTMB試薬(サイテック #TM490041)および基質反応の停止剤としてTMB停止剤(サイテック #TSB999)を用いた。
【0145】
続いて健常者72例、肝癌患者79例、肝硬変/慢性肝炎患者67例およびその他癌患22例の血清中のROBO1濃度を測定した。ROBO1濃度測定の際のスタンダードとしては、精製sROBO1-Hisを用いた。血清またはsROBO1-Hisをそれぞれ20%ウサギ血清、1% BSAを含むトリス緩衝液で90倍に希釈し、上記の抗体固相化プレートの各ウエルに100μLずつ分注した。室温で2時間インキュベーションした後、各ウエルに25μLずつのビオチン標識抗ROBO1抗体を分注した。更に、室温で2時間インキュベーションした後、各ウエルの反応液を除去し、100μLずつのストレプトアビジン標識ペルオキシダーゼ試薬を分注した。室温で30分インキュベーションした後、0.05 %Tween 20を含むPBSで5回洗浄した。各ウエルに100μLのTMB試薬を分注し、室温で30分インキューベーションした後、100μLのTMB停止剤を加え、EIAプレートリーダー(コロナ電子 #MTP-120)により、450nmの波長の吸収を測定した。なお、630nmの波長を対照として用いた。
【0146】
その結果、sROBO1-Hisを用いた場合に濃度依存的な吸収値の増加が認められ、さらにスタンダード各濃度の吸収値から回帰により(図10)、各血清中の濃度を求めた。結果を表3、4、5および6に示す。
【0147】
【表3】

【0148】
【表4】

【0149】
【表5】

【0150】
【表6】

【0151】
健常者血清72例のROBO1濃度測定において、平均値および標準偏差は36ng/mLおよび8ng/mLであったことより、平均値+(6x標準偏差)の81 ng/mLをカットオフ値とした。その結果、健常者血清検体は全例がこのカットオフ値以下であったのに対し、肝癌患者検体、肝硬変/慢性肝炎患者検体およびその他癌患者検体においてはそれぞれ46%(79例中36例)、22%(67例中15例)および9%(22例中2例)でカットオフ値以上の値を示し、ROBO1陽性であると考えられた。一方、肝癌の診断法として一般的に用いられているAFPの陽性率は、肝癌患者検体および肝硬変/慢性肝炎患者検体でそれぞれ46%(59例中27例)および15%(52例中8例)であったことから、肝癌診断における感度および特異性はAFPとROBO1とでほぼ同等であった。しかしながら、AFP陰性の肝癌患者検体32例中において、ROBO1陽性検体が10例あり、さらにそれら10例のうち5例はPIVKAも陰性であったことから、ROBO1を用いることで既存の診断法で肝癌と診断できなかった症例においても診断可能となると考えられた。実際に、AFP単独での検出では46%であった陽性率が、ROBO1を併用することにより63%に上がった。
【0152】
以上より、肝癌の診断において、ROBO1測定系は現行で用いられているAFP測定系とほぼ同等の性能があり、更に既存の癌マーカーとの併用により、感度および特異性が高い癌診断法を確立できた。
【0153】
さらに、表3、4、5および6に示される値を疾患別にプロットした結果を図11に示す。健常者(NHS)、慢性肝炎(CH)、肝硬変(LC)および肝癌(HCC)における血清中ROBO1濃度は、平均値でそれぞれが34.8、39.3、74.0および84.4 ng/mLであった。この結果から、健常者、慢性肝炎、肝硬変および肝癌患者各群における血清中ROBO1濃度が肝疾患の重篤化に比例して上昇することが明らかとなった。
【0154】
次に、各個人の経時的な測定においても、ROBO1濃度が変化するか否かを確認するため、肝癌発症前の採血検体におけるROBO1濃度の測定を実施した。その結果、3例中2例において重篤化に比例し血中ROBO1濃度が上昇していることが認められた(図12)。1例においては、重篤化に比例した上昇は認められなかったが、健常者30〜40 ng/mLより高値であることから、最大値に達したものと推察される。
【0155】
これらの結果は、肝疾患血清中ROBO1濃度を経時的に測定することにより、すなわちモニターすることにより、肝癌の診断のみならず患者の肝疾患の程度を管理することが可能であることを示している。
【0156】
実施例11
補体依存性細胞障害活性(CDC活性)の測定
ヒトアルブミン・ベロナール・バッファ(HAVB)の作製
NaCl(特級、和光純薬工業株式会社)12.75 g、Na-バルビタール(特級、和光純薬工業株式会社)0.5625 g、バルビタール(特級、和光純薬工業株式会社)0.8625 gをミリQ水に溶解し200 mLとした後、オートクレーブ処理(121℃、20分間)を行った。オートクレーブ処理した100 mLの温ミリQ水を加え、pH7.43を確認した(推奨pH7.5)。これを5×ベロナールバッファとした。CaCl2・2H2O(特級、純正化学株式会社)0.2205 gを50 mLミリQ水に溶解し0.03 mol/Lとし、CaCl2溶液とした。MgCl2・6H2O(特級、純正化学株式会社)1.0165 gを50 mLミリQ水に溶解し0.1 mol/Lとし、MgCl2溶液とした。5×ベロナールバッファ100 mL、ヒト血清アルブミン(ブミネート(登録商標)25%、ヒト血清アルブミン濃度250 mg/mL、バクスター株式会社)4 mL、CaCl2溶液2.5 mL、MgCl2溶液 2.5 mL、KCl(特級、純正化学株式会社)0.1 g、グルコース (D(+)-グルコース、ブドウ糖無水、特級、和光純薬工業株式会社) 0.5 gをミリQ水に溶解し500 mLとした。これをHAVBとした。ろ過滅菌後、設定温度5℃にて保存した。
【0157】
標的細胞の調製
ROBO1強制発現HEK293細胞は、10%FBS(Thermo Trace)と0.5 mg/mL Geneticin(GIBCO)を添加したDMEM培地(SIGMA)で培養し、細胞剥離緩衝液(GIBCO)を用いてディッシュから剥離して、96ウェルU底プレート(BECTON DICKINSON)の各ウェルに1×104細胞/ウェルで分注し、一晩培養した。培養後、5.55MBqのクロム-51を加え、5%炭酸ガスインキュベータ中37℃ 1時間培養し、この細胞をHAVBで2回洗浄し、50μLのHAVBを加え標的細胞とした。
【0158】
幼令ウサギ補体の調製
試験時に用時調製した幼令ウサギ補体(BABY RABBIT COMPLEMENT、CEDARLANE)を、1バイアルあたり1 mLの注射用蒸留水(扶桑薬品工業株式会社)に溶解し、補体溶液とした。
【0159】
クロム遊離試験(CDC活性)
抗ROBO1抗血清(抗ROBO1ウサギポリクローナル抗体)をHAVBで希釈して50倍, 500倍の抗体溶液とした。標的細胞に抗体溶液を50 μLずつ添加し、氷上で15分静置した。続いて各ウェルに補体溶液を100μg/mLずつ添加し(抗体の最終希釈率200倍, 2000倍)、5%炭酸ガスインキュベーター中に37℃で90分間静置した。プレートを遠心分離後、各ウェルより上清を100μLずつ回収し、ガンマカウンターにて放射活性を測定した。下式により特異的クロム遊離率を求めた。
特異的クロム遊離率(%)= (A-C)/(B-C)×100
Aは各ウェルにおける放射活性(cpm)、Bは標的細胞に2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク株式会社)を100 μL、HAVBを50 μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値、Cは標的細胞にHAVBを150 μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値を示す。試験は三重に行い、CDC活性(%)について平均値および標準偏差を算出した。
【0160】
その結果を図13に示す。抗ROBO1抗血清、すなわち抗ROBO1ポリクローナル抗体がROBO1発現HEK293細胞に対し用量依存的にCDC活性を示すことが明らかとなった。なお、ウサギpre血清を用いた場合は抗体非添加と同様にCDC活性を示さなかった。
【0161】
実施例12
ROBO1の細胞外領域と結合するモノクローナル抗体の作製
12-1.ROBO1のN末部位を発現する組換えバキュロウイルスの作製
ROBO1の細胞外領域に存在するファイブロネクチンIII領域(FnIII)を、バキュロウイルスの膜タンパク質gp64との融合タンパク質として発現させた。すなわち、上記のROBO1 cDNAを鋳型とし、gp4Fプライマー(配列番号:15)、およびgp4Rプライマー(配列番号:16)を用いPCR法にてROBO1の3番目のファイブロネクチン領域をコードする遺伝子を増幅し、続いてpGEM-Teベクター(プロメガ社製)への挿入を行った。塩基配列を定法にて確認した後、制限酵素KpnIを用いて切断した遺伝子断片をpBucSurfベクター(Novagen社製)に挿入し、トランスファーベクターROBO1gp4/pBSを構築した。続いて、4μgのROBO1gp4/pBSを制限酵素BplI(Fermentas社製)を用い切断し直鎖化した後、Invitrogen社の指示書に準じてBac-N-Blue DNAと共にSf9細胞に導入し、ROBO1のFnIIIとgp64との融合タンパク質発現組み換えバキュロウイルスを調製した。
配列番号15:GGTACCCGCACCCAGTGCCCCACCCCAAGG
配列番号16:GGTACCGCATCTGAAATCTGCTGAGCGAGG
【0162】
上記により調製した組換えウイルスをSf9細胞(2 x 106個細胞/mL)にMOIが5となるように加え感染させた後、27℃で3日間培養した。ROBO1-FnIIIとgp64との融合タンパク質を発現する発芽型バキュロウイルス(BV)は3日間培養後の培養上清より回収した。すなわち、培養液を800 x gで15分間遠心し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した後、回収した培養上清を45,000 x gで30分間遠心する。沈殿物をPBSに懸濁し、さらに800 x gで遠心することで細胞成分を除去し、上清を再度45,000 x gで遠心することで得られる沈殿物をPBSで懸濁したものをBV画分とし、抗原として免疫に用いた。
【0163】
12-2.抗ROBO1モノクローナル抗体の作製
上記の方法により調製したROBO1-FnIII発現BVを抗原として用い抗ROBO1モノクローナル抗体を作製した。すなわち、PBSに懸濁した1 mgのタンパク量に相当するROBO1-FnIII発現BVを200 ngの百日咳毒素と混合したものをgp64トランスジェニックマウス(WO03/104453)に皮下注射により初回免疫を行った。以後の免疫では500μmgタンパク量相当のROBO1-FnIII発現BVのみを皮下注射した。最終免疫として250 μgのROBO1-FnIII発現BVを静脈内に投与し、その3日後にマウスから脾臓細胞を単離し、常法によりマウスNS-1細胞との細胞融合を行い、ハイブリドーマ細胞を樹立した。抗ROBO1抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択は免疫に用いた抗原であるROBO1-FnIII発現BVを固層したELISAにて実施した。ELISA法は、ROBO1-FnIII発現BVを終濃度10μg/mLになるように96ウェル平底プレート(ファルコン社製)に4 ℃で一昼夜おき、その後、40%ブロックエース試薬(大日本製薬社製)を含むTBS緩衝液を用いてブロッキングした後、ハイブリドーマ培養上清を加え、室温で1時間反応させた。次いで、室温にて1時間HRP標識抗マウスIgG抗体(ジャクソン社製)を反応させ、4回洗浄した後、室温にて1時間、3, 3', 5, 5' -テトラメチルベンジジン(TMB)試薬(Sigma製)を反応させた。0.5N硫酸で反応を停止させ、マイクロプレート・リーダーMultickanJX(Labsystems社製)で492nmにおける吸光度を測定した。
【0164】
その結果、ROBO1に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞B2318Cの樹立に成功した。モノクローナル抗体は産生ハイブリドーマ細胞の培養上清より硫安沈殿法により調製した。
【0165】
実施例13
補体依存性細胞障害活性(CDC活性)の測定
ヒトアルブミン・ベロナール・バッファ(HAVB)の作製、標的細胞の調製、ならびに幼令ウサギ補体の調製は、実施例11と同様にして行った。
【0166】
B2318C抗体(抗ROBO1モノクローナル抗体)をHAVBで希釈し、標的細胞に50 μLずつ添加して、氷上で15分静置した。続いて各ウェルに補体溶液を100μg/mLずつ添加し(抗体の最終濃度は1μg/mL, 10μg/mLに調製)、5%炭酸ガスインキュベーター中に37℃で90分間静置した。プレートを遠心分離後、各ウェルより上清を100μLずつ回収し、ガンマカウンターにて放射活性を測定した。下式により特異的クロム遊離率を求めた。
特異的クロム遊離率(%)= (A-C)/(B-C)×100
Aは各ウェルにおける放射活性(cpm)、Bは標的細胞に2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク株式会社)を100 μL、HAVBを50 μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値、Cは標的細胞にHAVBを150 μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値を示す。試験は三重に行い、CDC活性(%)について平均値および標準偏差を算出した。
【0167】
その結果を図14に示した。B2318C抗体、すなわち、抗ROBO1モノクローナル抗体がROBO1発現HEK293細胞に対し、容量依存的にCDC活性を示すことが明らかとなった。
【0168】
また同様に肝癌細胞株であるAlexander(PLC/PRF/5)細胞に対するCDC活性試験を試みたところ、ROBO1発現HEK293細胞に対する効果と同様に、B2318C抗体、すなわち、抗ROBO1モノクローナル抗体が容量依存的にCDC活性を示すことが明らかとなった(図15)。
【0169】
実施例14
マウス骨髄由来エフェクター細胞を用いたADCC活性の測定
14-1. マウス骨髄由来エフェクター細胞溶液の調製
SCIDマウス(日本クレア・オス・10週齢)の大腿骨から骨髄細胞を採取し、10% FBS/RPMI 1640培地中5×105個/mLとなるよう懸濁し、マウスGM-CSF(PeproTech)およびヒトIL-2(PeproTech)をそれぞれ10ng/mL、50ng/mLとなるよう添加し、5%炭酸ガスインキュベータ中37℃で5日培養した。培養後スクレーパーではがして培地で1回洗浄し、10% FBS/RPMI 1640培地中5×106/mLとなるよう懸濁し、マウス骨髄由来エフェクター細胞溶液とした。
【0170】
14-2.標的細胞の調製
ROBO1強制発現HEK293細胞は10%FBS(ThermoTrace社製)および500 ng/mLGeneticine(Invitrogen)を含むDMEM培地(SIGMA社製)にて維持継代し、Cell Dissociation Buffer (Invitrogen社)を用いてディッシュから剥離し、96ウェルU字底プレート(Falcon)の各ウェルに1×104細胞/ウェルで分注し、一晩培養した。培養後、5.55MBqのクロム-51を加え、5%炭酸ガスインキュベータ中37℃で4時間培養し、この細胞を培地で3回洗浄し、50μLの10%FBS/RPMI1640培地を加え標的細胞とした。
【0171】
14-3.クロム遊離試験(ADCC活性)
B2318C抗体(抗ROBO1モノクローナル抗体)溶液を標的細胞に50μLを添加し、氷上で15分反応させた後に、マウス骨髄由来エフェクター細胞溶液100μL(5×105 細胞/ウェル)を加え、5%炭酸ガスインキュベータ中37℃で4時間培養した(抗体の最終濃度は1μg/mL, 10μg/mLに調製)。その後、プレートを遠心分離し、培養上清100μL中の放射活性をガンマカウンターで測定した。下式により特異的クロム遊離率を求めた。
特異的クロム遊離率(%)=(A-C)×100/(B-C)
Aは各ウェルにおける放射活性(cpm)の平均値、Bは標的細胞に2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、Code No.252-23、ナカライテスク株式会社)を100 μL、10%FBS/RPMI培地を50 μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値、Cは標的細胞に10%FBS/RPMI培地を150 μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値を示す。試験は三重に行い、ADCC活性(%)について平均値および標準偏差を算出した。
【0172】
その結果を図16に示した。B2318C抗体、すなわち、抗ROBO1モノクローナル抗体がROBO1発現HEK293細胞に対し、容量依存的にADCC活性を示すことが明らかとなった。
【0173】
以上より、抗ROBO1モノクローナル抗体を用いたROBO1発現癌細胞に対する治療の有効性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明は、癌の診断および治療、ならびに肝炎重篤化のモニターに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ROBO1タンパク質を検出することを特徴とする癌の診断方法。
【請求項2】
ROBO1タンパク質細胞外領域を検出することを特徴とする請求項1記載の診断方法。
【請求項3】
ROBO1タンパク質を認識する抗体を用いることを特徴とする請求項1記載の診断方法。
【請求項4】
血液中、血清中、または血漿中のROBO1タンパク質を検出することを特徴とする請求項1記載の診断方法。
【請求項5】
細胞から分離したROBO1タンパク質を検出することを特徴とする請求項1記載の診断方法。
【請求項6】
以下の工程:
(a) 被験者から試料を採取する工程;
(b) 採取された試料に含まれるROBO1タンパク質を検出する工程
を含む癌の診断方法。
【請求項7】
被験者から採取される試料が血液、血清、または血漿である請求項6記載の診断方法。
【請求項8】
ROBO1タンパク質細胞外領域を検出することを特徴とする請求項6記載の診断方法。
【請求項9】
ROBO1タンパク質を認識する抗体を用いることを特徴とする請求項6記載の診断方法。
【請求項10】
ROBO1タンパク質と結合する抗体を含有する、癌を診断するためのキット。
【請求項11】
癌が肝細胞癌である、請求項10記載のキット。
【請求項12】
抗体がROBO1タンパク質の細胞外領域と結合する抗体である、請求項10または11に記載のキット。
【請求項13】
ROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項14】
ROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤。
【請求項15】
ROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する抗癌剤。
【請求項16】
ROBO1に結合する抗体が細胞障害活性を有する抗体である、請求項15記載の抗癌剤。
【請求項17】
癌が肝細胞癌である請求項15または16に記載の抗癌剤。
【請求項18】
異常な細胞増殖に起因する疾患を治療する方法であって、治療を必要とする患者にROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項19】
癌を治療する方法であって、治療を必要とする患者にROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項20】
癌が肝細胞癌である請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
ROBO1発現細胞とROBO1に結合する抗体とを接触させることによりROBO1発現細胞に細胞障害を引き起こす方法。
【請求項22】
ROBO1発現細胞とROBO1に結合する抗体とを接触させることによりROBO1発現細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項23】
ROBO1に結合する抗体が細胞障害活性を有する抗体である、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
ROBO1発現細胞が癌細胞である、請求項21−23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
ROBO1に結合し、かつROBO1発現細胞に対して細胞障害活性を有する抗体。
【請求項26】
抗ROBO1抗体を含有する肝炎重篤化をモニターするためのキット。
【請求項27】
抗ROBO1抗体が、ROBO1を特異的に認識する抗体である、請求項26記載のキット。
【請求項28】
肝炎または肝硬変から肝癌への移行を予測するものである、請求項26または27記載のキット。
【請求項29】
支持体に固定した第1の抗ROBO1抗体と標識物質で標識された第2の抗ROBO1抗体を含む、請求項26−28のいずれか1項記載のキット。
【請求項30】
被検試料中のROBO1を測定することを特徴とする肝炎重篤化のモニター方法。
【請求項31】
抗ROBO1抗体を用いて被検試料中のROBO1を測定する、請求項30記載のモニター方法。
【請求項32】
抗ROBO1抗体が、ROBO1を特異的に認識する抗体である、請求項31記載のモニター方法。
【請求項33】
被検試料が、血液、血清または血漿である、請求項30−32のいずれか1項記載のモニター方法。
【請求項34】
肝炎または肝硬変から肝癌への移行を予測するものである、請求項30−33のいずれか1項記載のモニター方法。
【請求項35】
支持体に固定した第1の抗ROBO1抗体と標識物質で標識された第2の抗ROBO1抗体とを用いる、請求項31−34のいずれか1項記載のモニター方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−128161(P2011−128161A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3467(P2011−3467)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【分割の表示】特願2006−511900(P2006−511900)の分割
【原出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【出願人】(501251758)
【Fターム(参考)】