説明

抗VEGF抗体での治療

【課題】特異的でより効果的な癌治療法の提供。
【解決手段】患者に有効量の抗VEGF抗体及び抗悪性腫瘍組成物を投与することを含み、上記抗悪性腫瘍組成物が少なくとも一種の化学療法剤を含有する癌の治療方法。併用出来る化学療法剤は抗癌活性を示す任意の化学療法剤、好ましくは、アルキル化剤、代謝拮抗剤、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体及び関連した阻害剤、ビンカアルカロイド、エピポドピロトキシン(epipodopyyllotoxins)、抗生物質、L-アスパラギナーゼ、トポイソメラーゼ阻害剤、インターフェロン、白金配位錯体、アントラセンジオン置換尿素、メチルヒドラジン誘導体、副腎皮質抑制薬、副腎皮質ステロイド、プロゲスチン、エストロゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン、抗アンドロゲン、及び生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体からなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本出願は、その開示を出典明示によりここに取り込む2003年5月30日出願の米国仮特許出願第60/474480号に基づく優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は一般にヒトの疾患及び病理症状の治療に関する。より詳細には、本発明は、単独で又は他の抗癌治療法との併用での癌の抗血管新生療法に関する。
【0003】
(発明の背景)
癌はなおもヒトの健康に対して最も死に至る脅威の一つである。合衆国では、およそ130万の新しい患者が毎年癌になっており、心臓疾患に次ぐ第二の死因で、4名の死亡のうちおよそ1名を占める。癌は5年以内に第一の死因として循環器系疾患を上回る可能性があることもまた予想される。充実性腫瘍がその死亡の殆どの原因である。ある種の癌の医療治療では顕著な進歩があったが、全ての癌に対する全体の5年生存率は過去20年で約10%改善されたに過ぎない。癌又は悪性腫瘍は転移し、制御されない形で急速に成長し、適時の検出と治療を極めて困難なものにしている。更に、癌は、組織内の数個の正常な細胞の悪性腫瘍化によって体の殆どあらゆる組織から生じ得、特定の組織由来の癌の各タイプは互いに異なる。
癌の治療の現在の方法は比較的非選択的である。手術は病理組織を除去し;放射線療法は充実性腫瘍を縮小させ;化学療法は急速に分裂していく細胞を殺す。化学療法は、ある場合には与えることができる投薬量を制限し、よって潜在的に有効な薬剤の使用を妨げるほど深刻である、数多くの副作用を特に生じる。
よって、特異的でより効果的な癌治療法が緊急に必要とされている。
【0004】
血管新生(angiogenesis)は、血管内皮細胞が増殖し、その不要部が除去され、再組織化することにより、先在の血管網から新生の血管が生成される重要な細胞性事象である。既存の有力な証拠によれば、血管の供給の進行は正常なまた病理学的な増殖過程にとって必須である(Folkman及びKlagsbrun (1987) Science 235:442-447)。酸素と栄養分を運搬し、また代謝分解産物を除去することは、多細胞生物で起こる成長過程の大部分での律速段階を表す。従って、血管の区画は、胚生成時の器官発生や分化のためだけでなく、成体での創傷治癒機能や再生機能のためにもまた必要であると、一般に思われていた。
また血管新生は、限定はされないが、腫瘍、増殖性網膜症、加齢性黄班変性症、リウマチ様関節炎(RA)、及び乾癬を含む様々な疾患の病原にも関与する。血管新生は殆どの原発腫瘍の成長とその次の転移に必須である。腫瘍は1−2mmのサイズまで単に拡散することで十分な栄養分と酸素を吸収することができ、その点でのその更なる成長には血管の供給の生成が必要となる。この過程は、腫瘍塊に向かって成長した後、浸潤する新生血管毛細管の発芽を開始させるための付近の宿主成熟脈管構造の補充を含むと考えられる。また、腫瘍血管新生は新血管新生を促進するための骨髄からの循環する内皮前駆細胞の補充を含む。Kerbel (2000) Carcinogenesis 21:505-515;Lynden等 (2001) Nat. Med. 7:1194-1201。
【0005】
新血管の誘導は腫瘍血管新生の主要な態様であると考えられるところ、最近のデータは、ある種の腫瘍が既存の宿主血管を同時選択することによって成長しうることを示している。ついで、同時選択された脈管構造が退行し、腫瘍縁部における低酸素誘導血管新生によって結局は逆転される腫瘍退行に至る。Holash等 (1999) Science 284:1994-1998。
血管新生の顕著な生理学的かつ病理的重要性に鑑みて、この過程を調節することができる因子の解明に多くの研究が捧げられている。血管新生過程は血管新生誘発分子と抗血管新生分子の間のバランスによって調節されており、様々な疾患、特に癌に脱線する。Carmeliet及びJain (2000) Nature 407:249-257。
VEGF-A又は血管透過性因子(VPF)とも称されている血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は正常な血管新生と異常な血管新生の双方の中枢的なレギュレーターであると報告されている。Ferrara及びDavis-Smyth (1997)Endocrine Rev. 18:4-25; Ferrara (1999) J. Mol. Med. 77:527-543。血管形成プロセスに寄与する他の成長因子と比較して、VEGFは血管系内の内皮細胞に対するその高い特異性が特徴的である。VEGFは胚性の脈管形成(vasculogenesis)及び血管新生に必須である。Carmeliet等(1996) Nature 380:435-439; Ferrara等(1996) Nature 380:439-442。更に、VEGFは女性生殖路における周期的血管増殖と骨成長と軟骨形成に必要とされる。Ferrara等(1998) Nature Med. 4:336-340; Gerber等(1999) Nature Med. 5:623-628。
【0006】
血管新生及び脈管形成における血管形成因子であることに加えて、VEGFは多面発現性成長因子として、内皮細胞生存、血管透過性及び血管拡張、単球化学走性及びカルシウム流入のような他の生理学的プロセスにおいて複数の生物学的効果を示す。上掲のFerrara及びDavis-Smyth (1997)。更に、最近の研究では、数種の非内皮細胞型、例えば網膜色素上皮細胞、膵管細胞及びシュワン細胞に対するVEGFの分裂促進効果が報告されている。Guerrin等(1995) J. Cell Physiol. 164:385-394; Oberg-Welsh等(1997) Mol. Cell. Endocrinol. 126:125-132; Sondell等(1999) J. Neurosci. 19:5731-5740。
多くの証拠が病理的血管新生を含む症状又は疾病の進行におけるVEGFの重要な役割をまた示している。VEGFのmRNAは検査したヒト腫瘍の大部分で過剰発現している(Berkman等 J Clin Invest 91:153-159 (1993); Brown等 Human Pathol.. 26:86-91 (1995); Brown等 Cancer Res. 53:4727-4735 (1993); Mattern等 Brit. J. Cancer. 73:931-934 (1996);及びDvorak等 Am J. Pathol. 146:1029-1039 (1995))。また、眼液中のVEGFの濃度は糖尿病及び他の虚血関連網膜症の患者における活発な血管の増殖の存在に強く相関している(Aiello等 N. Engl. J. Med. 331:1480-1487 (1994))。更に、最近の研究では、AMDに罹っている患者の脈絡叢新生血管膜中でのVEGFの局在化が実証されている (Lopez等 Invest. Ophtalmo. Vis. Sci. 37:855-868 (1996))。
【0007】
腫瘍成長の促進におけるその中心的な役割に照らすと、VEGFは治療的介入のための魅力的な標的を提供する。確かに、VEGF又はそのレセプターシグナル伝達系を遮断することを目標とする様々な治療的方策が腫瘍性疾患の治療のために現在開発されている。Rosen (2000) Oncologist 5:20-27;Ellis等 (2000) Oncologist 5:11-15;Kerbel (2001) J. Clin. Oncol. 19:45S-51S。これまで、モノクローナル抗体によるVEGF/VEGFレセプターの遮断とチロシンキナーゼ阻害剤によるレセプターシグナル伝達の阻害が最も研究されているアプローチである。VEGFR-1リボザイム、VEGF毒素コンジュゲート、及び可溶型VEGFレセプターがまた研究されている。
「rhuMAbVEGF」又は「アバスチンTM」としても知られている抗VEGF抗体「ベバシズマブ(Bevacizumab (BV))」は、Presta等(1997) Cancer Res. 57:4593-4599に従って産生された組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体である。これは、ヒトVEGFがそのレセプターに結合することを遮断するマウス抗hVEGFモノクローナル抗体A.4.6.1からの抗原結合相補性決定領域と突然変異ヒトIgG1フレームワーク領域を含む。フレームワーク領域の殆どを含むベバシズマブのアミノ酸配列のおよそ93%がヒトIgG1から誘導され、配列の約7%がマウス抗体A4.6.1から誘導されている。ベバシズマブは約149000ダルトンの分子量を持ち、グリコシル化されている。ベバシズマブは様々な癌の治療について臨床試験中であり、幾つかの初期の治験は有望な結果を示している。Kerbel (2001) J. Clin. Oncol. 19:45S-51S;De Vore等 (2000) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 19:485a;Johnson等 (2001) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 20:315a;Kabbinavar等 (2003) J. Clin. Oncol. 21:60-65。
【0008】
発明の概要
本発明は疾患及び病理症状を治療するために抗VEGF抗体を使用する方法に関する。特に、本発明は、標準的な化学療法に抗VEGF抗体を加えると癌患者に対して統計的に有意で臨床的に意味のある改善を生じるという予期できない結果に部分的に基づいて、癌を治療するのに効果的なアプローチ法を提供する。
従って、一態様では、本発明は、ヒト患者において癌を治療する方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体及び抗悪性腫瘍組成物を投与することを含み、上記抗悪性腫瘍組成物が少なくとも一種の化学療法剤を含有する方法を提供する。
【0009】
本発明による治療に受け入れられる癌には、限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病又はリンパ系悪性腫瘍が含まれる。このような癌のより特定な例には、扁平上皮癌、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌及び肺の扁平上皮癌を含む)、腹膜の癌、肝細胞癌、胃癌(胃腸癌を含む)、膵臓癌、グリア芽細胞腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝癌、乳癌、大腸癌、直腸結腸癌、子宮内膜又は子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓又は腎癌、肝臓癌、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝癌腫、並びに様々なタイプの頭部及び頸部の癌、並びにB細胞リンパ腫(低級/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球(SL)NHL、中級/濾胞性NHL、中級瀰漫性NHL、高級免疫芽細胞性NHL、高級リンパ芽球性NHL、高級小非分割細胞NHL、バルキー疾患NHL、外套細胞リンパ腫、エイズ関連リンパ腫、及びワルデンストロームマクログロブリン血症を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びにに関連した異常な血管増殖、浮腫(例えば脳腫瘍に関連するもの)、及びMeigs' 症候群が含まれる。好ましくは、癌は、乳癌、直腸結腸癌、結腸癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝臓癌、膵癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド癌腫、頭部及び首部の癌、メラノーマ、卵巣癌、中皮腫及び多発性骨髄腫からなる群から選択される。より好ましくは、癌は結腸直腸癌である。本発明の治療に受け入れられる癌の症状には転移性癌が含まれる。本発明の方法は特に血管新生化腫瘍の治療に特に適している。
【0010】
抗癌活性を示す任意の化学療法剤を本発明において使用することができる。好ましくは、化学療法剤は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体及び関連した阻害剤、ビンカアルカロイド、エピポドピロトキシン(epipodopyyllotoxins)、抗生物質、L-アスパラギナーゼ、トポイソメラーゼ阻害剤、インターフェロン、白金配位錯体、アントラセンジオン置換尿素、メチルヒドラジン誘導体、副腎皮質抑制薬、副腎皮質ステロイド、プロゲスチン、エストロゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン、抗アンドロゲン、及び生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体からなる群から選択される。より好ましくは、化学療法剤は、5-フルオロウラシル(5-FU)、ロイコボリン(LV)、イリノテカン、オキサリプラチン、カペシタビン、パクリタキセル及びドキセタキセル(doxetaxel)からなる群から選択される。二又はそれ以上の化学療法剤をカクテルとして使用し、抗VEGF抗体の投与と併用して投与することができる。一つの好適な併用化学療法は5-FUと一又は複数の他の化学療法剤を含むフルオロウラシルベースのものである。併用化学療法の好適な投薬計画は当該分野で知られており、例えばSaltz等 (1999) Proc ASCO 18:233a及びDouillard等 (2000) Lancet 355:1041-7に記載されている。
【0011】
一側面では、本発明は、癌のヒト患者に生存期間を増大させる方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体組成物と抗悪性腫瘍組成物を投与することを含み、上記抗悪性腫瘍組成物が少なくとも一種の化学療法剤を含有し、それによって、抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が生存期間を効果的に増加させる方法を提供する。
他の側面では、本発明は、癌のヒト患者の無増悪生存率を増大させる方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体組成物と抗悪性腫瘍組成物を投与することを含み、上記抗悪性腫瘍組成物が少なくとも一種の化学療法剤を含有し、それによって、抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が無増悪生存の期間を効果的に増加させる方法を提供する。
更に、本発明は、一群の癌のヒト患者を治療する方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体組成物と抗悪性腫瘍組成物を投与することを含み、上記抗悪性腫瘍組成物が少なくとも一種の化学療法剤を含有し、それによって、抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が患者群における奏効率を効果的に増加させる方法を提供する。
【0012】
更に他の側面では、本発明は、癌のヒト患者の奏効期間を増大させる方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体組成物と抗悪性腫瘍組成物を投与することを含み、上記抗悪性腫瘍組成物が少なくとも一種の化学療法剤を含有し、それによって、抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が奏効期間を効果的に増加させる方法を提供する。
本発明はまた結腸直腸癌であると疑われるか又は診断されたヒト患者を治療する方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体を投与することを含む方法を提供する。結腸直腸癌は転移性でありうる。更に、抗VEGF抗体での治療は、Saltz等(1999)によって記載されたSaltz (5-FU/LV/イリノテカン)療法のような結腸直腸癌の標準的な治療法と更に組み合わせることができる。
一実施態様では、本発明は、転移性結腸直腸癌のヒト患者又はヒト患者群を治療する方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体組成物と抗悪性腫瘍組成物を投与することを含み、上記抗悪性腫瘍組成物が少なくとも一種の化学療法剤を含有し、それによって、抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が、生存期間、無増悪生存、奏効率又は奏効期間によって測定される治療患者の統計的に有意で臨床的に意味のある改善を生じる方法を提供する。好ましくは、抗悪性腫瘍組成物はフルオロウラシルベースの併用療法である。より好ましくは、併用療法は5-FU+ロイコボリン、5-FU+ロイコボリン+イリノテカン(IFL)、又は5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン(FOLFOX)を含む。
【0013】
本発明は、容器と、抗VEGF抗体を含有する容器内の組成物と、組成物の使用者に抗VEGF抗体組成物と少なくとも一種の化学療法剤を含有する抗悪性腫瘍組成物を癌患者に投与することを指示するパッケージ挿入物を含む製造品を提供する。
本発明はまた抗VEGF抗体組成物と、患者の癌を治療するために抗VEGF抗体組成物と少なくとも一種の化学療法剤を含有する抗悪性腫瘍組成物を使用するための指示書を含むパッケージを含む、患者の癌を治療するためのキットを提供する。
【0014】
好適な実施態様の詳細な記述
I.定義
「VEGF」及び「VEGF-A」は交換可能に用いられ、Leung等 Science, 246:1306 (1989)、及びHouck等 Mol. Endocrin., 5:1806 (1991)により記載されているような、165アミノ酸の血管内皮細胞増殖因子及び関連する121、189、及び206アミノ酸の血管内皮細胞増殖因子を、その天然に生じる対立遺伝子及び加工型と共に、意味する。「VEGF」という用語はまた165アミノ酸のヒト血管内皮細胞増殖因子のアミノ酸8から109又は1から109を含むポリペプチドの切断型を意味するためにも使用される。VEGFの任意のそのような形態の標記は例えば「VEGF(8−109)」、「VEGF(1−109)」又は「VEGF165」のように、本出願においてなされうる。「切断型」天然VEGFのアミノ酸位置は天然VEGF配列に示されるものと同じように番号付けされる。例えば、切断型天然VEGFのアミノ酸位置17(メチオニン)はまた天然VEGFの位置17(メチオニン)である。切断型天然VEGFは天然VEGFに匹敵するKDR及びFlt-1レセプターへの結合親和性を有している。
「抗VEGF抗体」は十分な親和性と特異性をもってVEGFに結合する抗体である。好ましくは、本発明の抗VEGF抗体は、VEGF活性が関与する疾患又は症状を標的としそれを妨害する際に治療剤として使用することができる。抗VEGF抗体は通常はVEGF-B又はVEGF-Cのような他のVEGF相同体に結合しないし、P1GF、PDGF又はbFGFのような他の成長因子にも結合しない。好適な抗VEGF抗体はハイブリドーマATCC HB10709によって産生されるモノクローナル抗VEGF抗体A4.6.1と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体である。より好ましくは、抗VEGF抗体は、限定するものではないがベバシツマブ(BV;アバスチンTM)として知られている抗体を含む、Presta等 (1997) Cancer Res. 57:4593-4599に従って産生された組換えヒト化抗VEGF抗体である。
「VEGFアンタゴニスト」は一又は複数のVEGFレセプターへのその結合を含む、VEGF活性を中和し、遮断し、阻害し、抑止し、低減し又は妨害することが可能な分子を意味する。VEGFアンタゴニストには、抗VEGF抗体とその抗原結合断片、レセプター分子及びVEGFに特異的に結合して一又は複数のレセプターへのその結合を隔絶する誘導体、抗VEGFレセプター抗体及びVEGFレセプターアンタゴニスト、例えばVEGFRチロシンキナーゼの小分子阻害剤が含まれる。
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、免疫グロブリン重鎖中での残基の番号付けは、出典明示によりここに取り込まれるKabat等, Sequence of Proteins of Immunological Interest 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991)におけるEUインデクスのものである。「カバットにおけるEUインデクス」はヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを意味する。
「天然配列」ポリペプチドは、天然由来の対応するポリペプチドと同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含んでなる。よって、天然配列ポリペプチドは任意の哺乳動物からの天然に生じるポリペプチドのアミノ酸配列を有し得る。このような天然配列ポリペプチドは、自然から単離することもできるし、あるいは組換え又は合成手段により生産することもできる。「天然配列」ポリペプチドという用語は特にポリペプチドの天然に生じる切断型又は分泌型(例えば細胞外ドメイン配列)、ポリペプチドの天然に生じる変異体型(例えば、選択的スプライシング型)及び天然に生じる対立遺伝子変異体を包含する。
ポリペプチド「変異体」は天然配列ポリペプチドと少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有する生物学的に活性なポリペプチドを意味する。そのような変異体には、例えば一又は複数のアミノ酸残基が、ポリペプチドのN又はC末端に付加され、又は欠失されたポリペプチドが含まれる。通常は、変異体は天然配列ポリペプチドと少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列同一性、更により好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0016】
「抗体」という用語は最も広義に使用され、モノクローナル抗体(完全長又は無傷のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物活性を示す限り抗体断片(以下を参照)も含む。
特に断らない限りは、本明細書全体を通して「多価抗体」という表現は3又はそれ以上の抗原結合部位を含む抗体を指すために使用される。多価抗体は好ましくは3又はそれ以上の抗原結合部位を持つように遺伝子操作されたもので、一般には天然配列IgM又はIgA抗体ではない。
「抗体断片」は、一般には無傷の抗体の抗原結合を含み、よって抗原に結合する能力を保持している無傷の抗体の一部のみを含む。本定義に包含される抗体断片の例には、(i)VL、CL、VH及びCH1ドメインを持つFab断片;(ii)CH1ドメインのC末端に一又は複数のシステイン残基を持つFab断片であるFab'断片;(iii)VH及びCH1ドメインを持つFd断片;(iv)CH1ドメインのC末端に一又は複数のシステイン残基とVH及びCH1ドメインを持つFd'断片;(v)抗体の単一アームのVL及びVHドメインを持つFv断片;(vi)VHドメインからなるdAb断片(Ward等, Nature 341, 544-546 (1989));(vii)単離されたCDR領域;(viii)ヒンジ領域がジスルフィド架橋によって結合された2つのFab'断片を含む二価断片であるF(ab')断片;(ix)単鎖抗体分子(例えば単鎖Fv;scFv)(Bird等, Science 242:423-426 (1988);及びHuston等, PNAS (USA) 85:5879-5883 (1988));(x)同一のポリペプチド鎖中で軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む、2つの抗原結合部位を持つ「ダイアボディー(diabodies)」(例えば、欧州特許公報第404097号;国際公開第93/11161号;及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)を参照);(xi)相補的軽鎖ポリペプチドと共に一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む「線形抗体」(Zapata等, Protein Eng. 8(10):1057-1062(1995);及び米国特許第5641870号)が含まれる。
【0017】
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量で存在しうる自然に生じる可能な突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対するものである。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含むポリクローナル抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原の単一の決定基に対するものである。「モノクローナル」との修飾語句は、抗体が何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明において使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohler等, Nature, 256:495 (1975)に記載されたハイブリドーマ法によって作ることができ、あるいは組換えDNA法によって作ることができる(例えば米国特許第4816567号を参照のこと)。また「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)又はMarks等, J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1991)に記載された技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
ここに記載のモノクローナル抗体は、特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種から由来するか、特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か相同である一方、鎖の残りが、他の種から由来するか、他の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か相同である「キメラ」抗体、並びにそれらが所望の生物活性を示す限りはそのような抗体の断片を含む(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984))。
【0018】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。大部分において、ヒト化抗体は、レシピエントの高頻度可変領域からの残基が、マウス、ラット、ウサギ又は所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト霊長類のような非ヒト種の高頻度可変領域からの残基(ドナー抗体)によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、もしくはドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は抗体の特性を更に洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいは実質的に全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいは実質的に全てのFRsがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部をまた含む。更なる詳細については、Jones等, Nature 321:522-525 (1986); Riechmann等, Nature 332:323-329 (1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照のこと。
「ヒト抗体」は、ヒトによって生産される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するもの、及び/又はここで開示されたヒト抗体を製造するための何れかの技術を使用して製造されたものである。ヒト抗体のこの定義は、特に非ヒト抗原結合残基を含んでなるヒト化抗体を除く。ヒト抗体は、当該分野で知られている様々な技術を使用することによって生産することが可能である。一実施態様では、ヒト抗体はファージライブラリーから選択され、ここでファージライブラリーがヒト抗体を発現する(Vaughan等, Nature Biotechnology 14:309-314 (1996):Sheets等, PNAS, (USA)95:6157-6162(1998);Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581 (1991))。また、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン座位をトランスジェニック動物、例えば内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されたマウス中に導入することにより産生することができる。暴露時に、遺伝子再構成、アセンブリ及び抗体レパートリーを含む、あらゆる点でヒトに見られるものと密接に類似しているヒト抗体の産生が観察される。このアプローチ法は、例えば米国特許第5545807号;第5545806号;第5569825号;第5625126号;第5633425号;第5661016号、及び次の科学文献:Marks等, Bio/Technology 10:779-783 (1992);Lonberg等, Nature 368: 856-859 (1994);Morrison等, Nature 368: 812-13 (1994);Fishwild等, Nature Biotechnology 14: 845-51 (1996);Neuberger, Nature Biotechnology 14:826 (1996); Lonberg及びHuszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93 (1995)に記載されている。あるいは、ヒト抗体は、標的抗原に対して抗体を生産するヒトBリンパ球の不死化によって調製されてもよい(そのようなBリンパ球は、個体から回収されてもよいし、インビトロで免疫化されていてもよい)。例えば、Cole等, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss. p.77(1985);Boerner等, J. Immunol., 147(1):86-95(1991);及び米国特許第5750373号を参照のこと。
【0019】
「親和性成熟」抗体とは、改変を有しない親抗体と比較し、抗原に対する抗体の親和性を改善する、抗体の一つ以上のCDRにおける一つ以上の改変を伴うものである。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル又はピコモルの親和性を有する。親和性成熟抗体は、当該分野において知られている方法によって生産される。Marks等 Bio/Technology, 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和性成熟について記載している。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘発は、Barbas等, Proc Nat Acad. Sci, USA 91: 3809-3813(1994); Schier 等, Gene, 169:147-155(1995);Yelton等, J. Immunol., 155:1994-2004(1995);Jackson等, J. Immunol., 154(7):3310-9(1995);及びHawkins等, J. Mol. Biol., 226:889-896(1992)に記載されている。
「単離された」ポリペプチドは、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたものを意味する。その自然環境の汚染成分は、ポリペプチドの診断又は治療への使用を妨害しうる物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。好ましい実施態様では、ポリペプチドは、(1)ローリー(Lowry)法により定量して、95重量%のポリペプチドより多くなるほど、最も好ましくは99重量%より多くなるまで、(2)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15のN末端あるいは内部アミノ酸配列の残基を得るのに充分なまで、あるいは(3)クーマシーブルーあるいは好ましくは銀染色を用いた非還元あるいは還元条件下でのSDS-PAGEによる均一性が得られるように充分なまで精製される。ポリペプチドの自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、単離されたポリペプチドには、組換え細胞内のインサイツのポリペプチドが含まれる。しかしながら、通常は、単離されたポリペプチドは少なくとも一の精製工程により調製される。
【0020】
抗体の「機能的抗原結合部位」は標的抗原に結合可能なものである。抗原結合部位の抗原結合親和性は、抗原結合部位が由来する親抗体と必ずしも同じほどは強くはないが、抗原に結合する能力は、抗原に結合する抗体を評価するために知られている既知の様々な方法の何れか一つを使用して測定できるものでなければならない。更に、ここでの多価抗体の抗原結合部位の各々の抗原結合親和性は定量的に同じである必要はない。ここでの多量体抗体に対して、機能的抗原結合部位の数は以下の実施例2に記載したような超遠心分離分析法を使用して評価することができる。この分析法によれば、多量体抗体に対する標的抗原の異なった比を組み合わせ、複合体の平均分子量を、機能的結合部位の異なった数を仮定して算定する。これらの理論値を、機能的結合部位の数を評価するために得られた実際の実験値と比較する。
指定された抗体の「生物学的特性」を有する抗体は同じ抗原に結合する他の抗体とは区別されるその抗体の生物学的特性の一又は複数を保有するものである。
対象の抗体が結合する抗原上のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするためには、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Harlow及びDavid Lane編 (1988)に記載されたもののような常套的な交差ブロックアッセイ法を実施することができる。
【0021】
「アゴニスト抗体」はレセプターに結合しそれを活性化する抗体である。一般には、アゴニスト抗体のレセプター活性化能はレセプターの天然アゴニストリガンドに少なくとも定性的に類似し(また本質的に定量的に類似し)ている。アゴニスト抗体の例はTNFレセプタースーパーファミリーのレセプターに結合しTNFレセプターを発現する細胞のアポトーシスを誘発するものである。アポトーシスの誘発を測定するアッセイ法は国際公開第98/51793号及び国際公開第99/37684号に記載されており、ここに両者を出典明示により取り込む。
「疾患」は抗体で治療することで恩恵を得るあらゆる症状のことである。これには、問題の疾患に哺乳動物を罹患させる素因になる病理状態を含む、慢性及び急性の疾患又は病気が含まれる。ここで治療される疾患の非限定的な例には、良性及び悪性の腫瘍;白血病及びリンパ悪性腫瘍;ニューロン、神経膠、星状細胞、視床下部及び他の腺、マクロファージ、上皮、ストロマ及び割腔の疾患;及び炎症、血管形成及び免疫性疾患が含まれる。
「治療的有効量」という用語は、哺乳動物の疾病又は疾患を治療するのに効果的な薬剤の量を意味する。癌の場合には、治療的有効量の薬剤により、癌細胞の数が減少し;腫瘍の大きさが小さくなり;末梢器官への癌細胞浸潤が阻害され(すなわち、ある程度の遅延化、好ましくは停止);腫瘍の転移が阻害され(すなわち、ある程度の遅延化、好ましくは停止);ある程度、腫瘍成長が阻害され;及び/又は癌に関連した一又は複数の徴候がある程度軽減される。薬剤が癌細胞の成長を防止し、及び/又は存在する癌細胞を死滅させるならば、それは細胞成長抑制性及び/又は細胞障害性であり得る。癌治療では、インビボでの効果は、例えば生存期間、疾患進行までの時間(TTP)、奏効率(RR)、奏効期間、及び/又は生活の質を評価することによって測定できる。
【0022】
「治療」は治療的処置及び予防的又は保護的手段の両方を指す。治療が必要なものには、既に疾患に罹っているもの並びに疾患が予防されるべきものが含まれる。
「癌」及び「癌性」という用語は、典型的には調節されない細胞成長を特徴とする、哺乳動物における生理学的状態を指すか記述する。癌の例には、これらに限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれる。このような癌のより特定の例には、扁平細胞癌(squamous cell cancer)、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、及び肺の扁平癌腫(squamous carcinoma)を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃(gastric)又は腹部(stomach)癌(胃腸癌を含む)、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸管癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝癌、乳癌、大腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓(kidney)又は腎(renal)癌、肝臓癌、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝臓癌腫、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝癌腫、並びに様々なタイプの頭部及び頸部の癌、並びにB細胞リンパ腫(低級/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球(SL)NHL、中級/濾胞性NHL、中級瀰漫性NHL、高級免疫芽細胞性NHL、高級リンパ芽球性NHL、高級小非分割細胞NHL、バルキー疾患NHL、外套細胞リンパ腫、エイズ関連リンパ腫、及びワルデンストロームマクログロブリン血症を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びにに関連した異常な血管増殖、浮腫(例えば脳腫瘍に関連するもの)、及びMeigs' 症候群が含まれる。
【0023】
ここで用いられる「哺乳動物宿主」という用語は、任意の適合性のある移植受容者を意味する。「適合性のある」とは、供与された移植片を許容する哺乳動物宿主を意味する。好ましくは、宿主はヒトである。移植片の供給者と宿主が共にヒトである場合、それらは、好ましくはHLAクラスII抗原を一致させて組織適合性を改善する。
ここで用いられる「細胞障害剤」という用語は、細胞の機能を阻害し又は妨害し、及び/又は細胞の破壊を引き起こす物質を意味する。この用語は放射性同位体(例えばAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、及びLuの放射性同位体)、化学療法剤、及び断片及び/又はその変異体を含む細菌性、真菌性、植物又は動物由来の酵素的に活性な毒素又は小分子毒素等の毒素を含むことを意図する。
「抗悪性腫瘍組成物」は腫瘍の成長又は機能を阻害又は防止し、及び/又は腫瘍細胞の破壊を生じることが可能な少なくとも一種の活性な治療剤を含有する癌の治療に有用な組成物を意味する。癌の治療のための抗悪性腫瘍組成物に適した治療剤には、限定されるものではないが、化学療法剤、放射性同位元素、毒素、サイトカイン、例えばインターフェロン、及び腫瘍細胞に関連するサイトカイン、サイトカインレセプター又は抗原を標的とするアンタゴニスト剤が含まれる。例えば、本発明において有用な治療剤は、抗体、例えば抗HER2抗体及び抗CD20抗体、又は小分子チロシンキナーゼ阻害剤、例えばVEGFレセプター阻害剤及びEGFレセプター阻害剤でありうる。好ましくは、治療剤は化学療法剤である。
【0024】
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化合物である。化学療法剤の例には、チオテパ及びCYTOXAN(登録商標)シクロホスファミドのようなアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファンのようなスルホン酸アルキル類;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa)のようなアジリジン類;アルトレートアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethiylenethiophosphoramide)及びトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類及びメチラメラミン類;アセトゲニン類(特にブラタシン及びブラタシノン);カンプトセシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン(callystatin);CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン類(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;ズオカルマイシン(合成類似体、KW-2189及びCB1-TM1を含む);エレウテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン(sarcodictyin);スポンジスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えばクロランブシル、クロロナファジン(chlornaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード;ニトロスレアス(nitrosureas)、例えばカルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムスチン;抗生物質、例えばエネジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン(calicheamicin)、特にカリケアマイシンγ1I及びカリケアマイシンωI1(例えばAgnew Chem Intl. Ed. Engl. 33:183-186(1994)参照のこと);ダイネマイシン(dynemicin)Aを含むダイネマイシン;クロドロネートのようなビスホスホネート、エスペラマイシン;並びにネオカルチノスタチン発色団及び関連する色素蛋白エネジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン類(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン類、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorbicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、アドリアマイシン(ADRIAMYCIN)(登録商標)ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マーセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンCのようなマイトマイシン、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);代謝拮抗剤、例えばメトトレキセート及び5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン(denopterin)、メトトレキセート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキセート(trimetrexate);プリン類似体、例えばフルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン(azacitidine)、6-アザウリジン(azauridine)、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン(enocitabine)、フロキシウリジン(floxuridine);アンドロゲン類、例えばカルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン(testolactone);抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸リプレニッシャー(replenisher)、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium);エポチロン(epothilone);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン(lonidamine);メイタンシノイド(maytansinoid)類、例えばメイタンシン(maytansine)及びアンサミトシン(ansamitocine);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン(razoxane);リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム(spirogermanium);テニュアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン類(特にT-2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridine)A及びアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカーバジン;マンノムスチン(mannomustine);ミトブロニトール;ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド類、例えばTAXOL(登録商標)パクリタキセル(Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, NJ)、ABRAXANETM パクリタキセルのCremophor無添加アルブミン改変ナノ粒子製剤 (American Pharmaceutical Partners, Schaumberg, Illinois)、及びTAXOTERE(登録商標)ドキセタキセル(Rhone-Poulenc Rorer, Antony, France);クロランブシル;GEMZAR(登録商標)ゲムシタビン(gemcitabine);6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;白金配位錯体、例えばシスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトキサントロン;ビンクリスチン;NAVELBINE(登録商標)ビノレルビン;ノバントロン(novantrone);テニポシド;エダトレキセート(edatrexate);ダウノマイシン;アミノプテリン;キセローダ(xeloda);イバンドロナート(ibandronate);イリノテカン(例えばCPT-11);トポイソメラーゼインヒビターRFS2000;ジフルオロメチロールニチン(DMFO);レチノイン酸のようなレチノイド類;カペシタビン(capecitabine);及び上述したものの任意のものの薬学的に許容可能な塩類、酸又は誘導体が含まれる。
【0025】
またこの定義に含まれるのは、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は抑制するように作用する抗ホルモン剤、例えばタモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)タモキシフェンを含む)、ラロキシフェン(raloxifene)、ドロロキシフェン(droloxifene)、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストン(onapristone)、及びFARESTONトレミフェンを含む抗エストロゲン及び選択的エストロゲン受容体調節物質(SERMs);及び副腎中でのエストロゲン産生を調節するアロマターゼ酵素を抑制するアロマターゼ阻害剤、例えば4(5)-イミダゾール類、アミノグルテチミド、MEGASE(登録商標)酢酸メゲストロール、AROMASIN(登録商標)エキセメスタン、フォルメスタン、ファドロゾール、RIVISOR(登録商標)ボロゾール、FEMARA(登録商標)レトロゾール、及びARIMIDEX(登録商標)アナストロゾール;及び抗アンドロゲン、例えばフルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリン;並びにトロキサシタビン(troxacitabine)(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に付着細胞の増殖に結びつくシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えばPKC-α、Ralf、及びH-Ras;リボザイム、例えばVEGF発現阻害剤(例えば、ANGIOZYME(登録商標)リボザイム)及びHER2発現阻害剤;遺伝子治療ワクチン等のワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチン;PROLEUKIN(登録商標)rIL-2;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(登録商標)rmRH;及び上記のものの任意のものの薬学的に許容される塩類、酸又は誘導体が含まれる。
ここで用いられる際の「成長阻害剤」は、細胞の増殖を、インビトロ及び/又はインビボで阻害する化合物又は組成物を意図する。よって、成長阻害剤は、S期に細胞の割合を有意に減少させるものでありうる。成長阻害剤の例には、細胞周期の進行を(S期以外の位置で)阻害する薬剤、例えばG1停止又はM期停止を誘発する薬剤が含まれる。古典的なM期ブロッカーには、ビンカス(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキソール(登録商標)、及びトポII阻害剤、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンが含まれる。また、G1停止させるこれらの薬剤は、S期停止にも波及し、例えば、DNAアルキル化剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、及びアラ-Cである。更なる情報は、The Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn及びIsrael 編, Chapter 1, 表題「Cell cycle regulation, oncogenes, and antineoplastic drugs」, Murakami等 (WB Saunders: Philadelphia, 1995)、特に13頁に見ることができる。
【0026】
「サイトカイン」という用語は、1つの細胞集団から放出され、他の細胞に細胞間メディエータとして作用するタンパク質の一般用語である。このようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、及び伝統的なポリペプチドホルモンである。サイトカインに含まれるのは、成長ホルモン、例えばヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン、及びウシ成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インシュリン;プロインシュリン;リラキシン;プロリラキシン;糖タンパク質ホルモン、例えば濾胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、及び黄体化ホルモン(LH);上皮細胞成長因子;肝臓成長因子;線維芽成長因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;腫瘍壊死因子-α及び-β;ミューラー阻害因子;マウス生殖腺刺激ホルモン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);NGF-α等の神経成長因子;血小板成長因子;TGF-α及びTGF-β等のトランスフォーミング成長因子(TGFs);インシュリン様成長因子-I及びII;エリスロポエチン(EPO);骨誘発因子;インターフェロン-α、-β、及び-γ等のインターフェロン;コロニー刺激因子(CSFs)、例えばマクロファージ-CSF(M-CSF);顆粒球-マクロファージ-CSF(GM-CSF);及び顆粒球-CSF(G-CSF);インターロイキン(ILs)、例えばIL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12;腫瘍壊死因子、例えばTNF-α又はTNF-β;及びLIF及びキットリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子である。ここで用いられる場合、サイトカインという用語は、天然供給源から、又は組換え細胞培養からのタンパク質及び天然配列サイトカインの生物学的な活性等価物を含む。
【0027】
この出願で用いられる「プロドラッグ」という用語は、親薬剤と比較して腫瘍細胞に対する細胞毒性が低く、酵素的に活性化又はより活性な親形態に変換される薬学的に活性な物質の前駆体又は誘導体形態を意味する。例えば、Wilman, 「Prodrugs in Cancer Chemotherapy」, Biochemical Society Transactions, 14, pp. 375-382, 615th Meeting, Belfast (1986),及びStella 等, 「Prodrugs: A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery」、Directed Drug delivery, Borchardt等(編), 247-267頁, Humana Press (1985)参照。本発明のプロドラッグには、これらに限られないが、ホスフェート含有プロドラッグ、チオホスフェート含有プロドラッグ、サルフェート含有プロドラッグ、ペプチド含有プロドラッグ、D-アミノ酸変性プロドラッグ、グリコシル化プロドラッグ、βラクタム含有プロドラッグ、置換されていてもよいフェノキシアセトアミド含有プロドラッグ又は置換されていてもよいフェニルアセトアミド含有プロドラッグ、より活性のある細胞毒のない薬剤に転換可能な5-フルオロシトシン及び他の5-フルオロウリジンプロドラッグが含まれる。本発明で使用されるプロドラッグ形態に誘導体化可能な細胞毒性薬の例には、前記の化学療法剤が含まれるが、これらに限られない。
「静脈点滴」という用語は、およそ5分以上、好ましくはおよそ30から90分の時間にわたって動物又はヒトの患者の静脈中への薬剤の導入を意味するが、本発明では、静脈点滴は、あるいは10時間以下の間、投与される。
「静脈内大量瞬時投与」又は「静脈内プッシュ」という用語は、体がおよそ15分以下、好ましくは5分以下で薬剤を受け入れるように動物又はヒトの静脈中に薬剤を投与することを意味する。
【0028】
「皮下投与」という用語は、比較的ゆっくりと、薬剤容器からの送達が維持されることによって、動物又はヒト患者の皮膚の下に、好ましくは皮膚及び皮下組織の間のポケット内に薬剤を投入することを意味する。ポケットは、皮膚を上につまむか引き上げ皮下組織から離すことによりつくり出される。
「皮下注射」という用語は、比較的ゆっくりと、これに限らないが30分以下又は90分以下を含む時間、薬剤容器からの送達が維持されることによって、動物又はヒト患者の皮膚の下に、好ましくは皮膚と皮下組織の間のポケット内に薬剤を導入することを意味する。場合によっては、注入は、動物又はヒト患者の皮膚の下に埋め込まれた薬剤送達ポンプの皮下挿入によってなされ、ポンプは前もって決められた時間、例えば30分、90分、又は治療投薬計画の長さにわたる期間、予め定められた量を送達する。
「皮下ボーラス」という用語は、動物又はヒト患者の皮膚の下への薬剤投与を意味し、ボーラス薬剤送達は好ましくは約15分以下、より好ましくは5分以下、最も好ましくは60秒以下である。投与は、例えば皮膚をつまんで引き上げ、皮下組織から離すことによりポケットが形成される、皮膚と皮下組織の間のポケット内が好ましい。
「血管形成因子」は血管の発生を刺激する成長因子である。ここで好適な血管形成因子は血管内皮増殖因子(VEGF)である。
【0029】
「ラベル」という語は、ここで用いられる場合、ポリペプチドに直接的又は間接的に結合する検出可能な化合物又は組成物を意味する。ラベルはそれ自身が検出可能でもよく(例えば、放射性同位体ラベル又は蛍光ラベル)、あるいは、酵素ラベルの場合には、検出可能な基質化合物又は組成物の化学的変換を触媒してもよい。
「単離された」核酸分子は、同定され、ポリペプチド核酸の天然供給源に通常付随している少なくとも一つの汚染核酸分子から分離された核酸分子である。単離された核酸分子は、天然に見出される形態あるいは設定以外のものである。故に、単離された核酸分子は、天然の細胞中に存在する核酸分子とは区別される。しかし、単離された核酸分子には、例えば、核酸分子が天然の細胞のものとは異なった染色体位置にある核酸を通常発現する細胞に含まれる核酸分子が含まれる。
「コントロール配列」という表現は、特定の宿主生物において作用可能に結合されたコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に好適なコントロール配列は、プロモーター、場合によってはオペレータ配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核生物の細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
【0030】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係に配されるときに「作用可能に結合され」ている。例えば、プレ配列あるいは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に寄与するプレタンパク質として発現されているならそのポリペプチドのDNAに作用可能に結合されている;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならばコード配列に作用可能に結合されている;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるならコード配列と作用可能に結合されている。一般的に、「作用可能に結合される」とは、結合されたDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読みフェーズにあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接しているわけではない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、通常の手法にしたがって、合成オリゴヌクレオチドアダプターあるいはリンカーが使用される。
ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養」という表現は相互に交換可能に用いられ、その全ての用語は子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という語句は、最初の対象細胞及び何度培養が継代されたかに関わらず最初のものから誘導された培養を含む。また、全ての子孫が、意図的な変異あるいは意図しない変異の影響で、正確に同一のDNAを有するわけではないことも理解される。元々の形質転換細胞についてスクリーニングしたものと同じ機能又は生物活性を有する変異体子孫が含まれる。命名を区別することが意図される場合は、文脈から明らかであろう。
【0031】
II.抗VEGF抗体の製造
A.抗体調製
(i)VEGF抗原
抗体を調製し特徴付ける手段は当該分野でよく知られている。本発明において使用される抗VEGF抗体の生産のための例示的な技術について次に説明する。抗体の産生に使用されるVEGF抗原は例えばVEGF165分子並びにVEGFの他のアイソフォーム又は所望のエピトープを含むその断片でありうる。本発明の抗VEGF抗体を産生するために有用なVEGFの他の形態は当業者には明らかであろう。
ヒトVEGFはハイブリダイゼーションプローブとしてウシVEGFcDNAを使用して、ヒト細胞から調製されたcDNAライブラリーを最初にスクリーニングすることによって得られた。Leung等 (1989) Science, 246:1306。それによって同定されたcDNAの一つはウシVEGFに対して95%を越える相同性を有する165アミノ酸のタンパク質をコードしている; この165アミノ酸のタンパク質は典型的にはヒトVEGF(hVEGF)又はVEGF165と呼ばれる。ヒトVEGFの分裂促進活性は、哺乳動物宿主細胞中でヒトVEGFcDNAを発現させることによって確認された。ヒトVEGFcDNAが形質移入された細胞によって条件化された培地は毛細血管内皮細胞の増殖を促進する一方、コントロール細胞は促進しなかった。上掲のLeung等(1989) Science。
【0032】
血管内皮細胞増殖因子は引き続く治療用途のために天然源から単離・精製できるが、濾胞細胞中での比較的低い濃度と、労力と費用の双方の面でのVEGFの回収の高いコストのため商業的には利用できないことが分かった。従って、組換えDNA技術によってVEGFをクローニングし発現させるために更なる努力がなされている。(例えば Ferrara (1995) Laboratory Investigation 72:615-618、及びそこに引用された文献を参照のこと)。
VEGFは選択的RNAスプライシングから生じる複数のホモ二量体型(単量体当たり121、145、165、189及び206個のアミノ酸)として様々な組織中に発現される。VEGF121はヘパリンに結合しない可溶型マイトジェンである;VEGFのより長い型は漸次的により高い親和性でヘパリンに結合する。VEGFのヘパリン結合型はプラスミンによってカルボキシ末端を切断してVEGFの拡散性形態を放出することができる。プラスミンでの切断後に同定されるカルボキシ末端ペプチドのアミノ酸配列はArg110−Ala111である。ホモ二量体として同定されたVEGF(1−110)のアミノ末端「コア」タンパク質は中和モノクローナル抗体(例えば4.6.1及び3.2E3.1.1と呼ばれる抗体)と、無傷のVEGF165 ホモ二量体と比較して同様の親和性を持つVEGFレセプターの可溶型に結合する。
胎盤成長因子(PIGF)、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D及びVEGF-Eを含む、VEGFと構造的に関連する幾つかの分子がまた最近同定されている。上掲のFerrara及びDavis-Smyth (1987) Endocr. Rev.; Ogawa等(1998) J. Biological Chem. 273:31273-31281; Meyer等(1999) EMBO J., 18:363-374。レセプターチロシンキナーゼFlt-4(VEGFR-3)はVEGF-C及びVEGF-Dのレセプターとして同定された。 Joukov等(1996) EMBO. J. 15:1751; Lee等(1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:1988-1992; Achen等(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:548-553。VEGF-Cはリンパ性血管新生の調節に関与していることが最近示されている。Jeltsch等(1997) Science 276:1423-1425。
【0033】
Flt-1(VEGFR-1とも呼ぶ)とKDR(VEGFR-2とも呼ぶ)の二つのVEGFレセプターが同定されている。Shibuya等(1990) Oncogene 8:519-527; de Vries等(1992) Science 255:989-991; Terman等(1992) Biochem. Biophys. Res. Commun. 187:1579-1586。ニューロピリン-1はヘパリン結合VEGFアイソフォームに結合可能な選択的VEGFレセプターであることが示された(Soker等 (1998) Cell 92:735-45)。Flt-I及びKDRは両方ともレセプターチロシンキナーゼ(RTKs)のファミリーに属している。RTKsは多様な生物学的活性を持つ膜貫通レセプターの大きなファミリーを含んでなる。現在では、少なくとも19の別個のRTKサブファミリーが同定されている。レセプターチロシンキナーゼ(RTK)ファミリーには、様々な細胞型の成長と分化に重要なレセプターが含まれる(Yarden及びUllrich, Ann. Rev. Biochem. 57:433-478, 1988; Ullrich及びSchlessinger, Cell 61:243-254, 1990)。RTKsの本来の機能はリガンド結合の際に活性化され、レセプター及び複数の細胞基質のリン酸化を生じ、続いて様々な細胞応答を生じる (Ullrich及びSchlessinger, 1990, Cell 61:203-212)。よって、レセプターチロシンキナーゼ媒介シグナル伝達が、特異的成長因子(リガンド)との細胞外相互作用によって開始され、それに典型的にはレセプターの二量体化、本来的なプロテインチロシンキナーゼ活性の刺激及びレセプタートランス-リン酸化が続く。それによって結合部位が細胞内シグナル伝達分子のために作り出され、適切な細胞応答を容易にするある範囲の細胞質シグナル伝達分子と複合体を形成する。(例えば細胞分裂、分化、代謝効果、細胞外微小環境の変化)Schlessinger及びUllrich, 1992, Neuron 9:1-20を参照。構造的には、Flt-1とKDRの両方共、細胞外ドメインに7の免疫グロブリン様ドメイン、単一の膜貫通領域、及びキナーゼインサートドメインによって中断されているコンセンサスチロシンキナーゼ配列を有している。Matthews等(1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:9026-9030; Terman等(1991) Oncogene 6:1677-1683。
【0034】
(ii)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連する抗原とアジュバントを複数回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより動物に産生される。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又は大豆トリプシンインヒビターに関連抗原を、二官能性又は誘導体形成剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基による抱合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl、又はRとRが異なったアルキル基であるRN=C=NRにより抱合させることが有用である。
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と混合し、その溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1ヶ月後、その動物を、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。好ましくは、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なったタンパク質にコンジュゲートさせた、及び/又は異なった架橋剤によってコンジュゲートさせたコンジュゲートで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合体として組換え細胞培養中で調製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
【0035】
(iii)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製でき、又は組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作製することができる。
ハイブリドーマ法においては、マウス又はその他の適当な宿主動物、例えばハムスター又はマカクザルを上記したようにして免疫し、免疫化に用いられるタンパク質と特異的に結合する抗体を生産するか又は生産することのできるリンパ球を導き出す。別法として、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59-103頁(Academic Press, 1986))。
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親の骨髄腫細胞の増殖又は生存を阻害する一又は複数の物質を好ましくは含む適当な培地に蒔き、増殖させる。例えば、親の骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニジンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失するならば、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT欠失細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有するであろう(HAT培地)。
【0036】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの生産を支援し、HAT培地のような培地に対して感受性である細胞である。これらの中でも、好ましい骨髄腫細胞株は、マウス骨髄腫株、例えば、ソーク・インスティテュート・セル・ディストリビューション・センター、サンディエゴ、カリフォルニア、USAから入手し得るMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、及びアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、ロックヴィル、メリーランド、USAから入手し得るSP-2又はX63-Ag8-653細胞から誘導されたものである。ヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株もまたヒトモノクローナル抗体の産生のために開示されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51-63頁(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合検定、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によって測定する。
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後、該クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103頁(Academic Press, 1986))。この目的に対して好適な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が包含される。加えて、ハイブリドーマ細胞は、動物において腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーのような常套的な免疫グロブリン精製法により、培地、腹水、又は血清から適切に分離される。
【0037】
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、常法を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)直ぐに単離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび単離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、そうしないと免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞のような宿主細胞中にトランスフェクトし、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体の組換え生産は以下に更に詳細に記載する。
更なる実施態様では、抗体又は抗体断片は、McCafferty等, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して産生される抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marks等, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリーを使用したマウス及びヒト抗体の単離を記述している。続く刊行物は、鎖シャッフリングによる高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリーを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え(Waterhouse等, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266(1993))を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の分離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な代替法である。
DNAはまた、例えば、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を、相同的マウス配列に代えて置換することにより(米国特許第4816567号;Morrison等, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81:6851(1984))、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部又は一部を共有結合させることで修飾できる。
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに置換され、又は抗体の一抗原結合部位の可変ドメインに置換されて、抗原に対する特異性を有する一つの抗原結合部位と異なる抗原に対する特異性を有するもう一つの抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を作り出す。
【0038】
(iv) ヒト化及びヒト抗体
ヒト化抗体には非ヒトである由来の一又は複数のアミノ酸残基が導入されている。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は、本質的にはヒト抗体の対応する配列に齧歯類CDRs又はCDR配列を置換することによりウィンターと共同研究者の方法(Jones等, Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmann等, Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyen等, Science, 239:1534-1536(1988))を使用して実施することができる。よって、このような「ヒト化」抗体は、無傷のヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には幾らかの高頻度可変領域残基及び場合によっては幾らかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を作製する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。いわゆる「ベストフィット法」では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものに最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れる(Sims等, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothia等, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、軽又は重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Presta等, J. Immunol., 151:2623(1993))。
【0039】
更に、抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムが購入可能である。これら表示を調べることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能な役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が高まるといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、CDR残基は、直接的かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
別法として、内因性の免疫グロブリン産生がなくともヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが今は可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(J)遺伝子の同型接合除去が内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子列の転移は、抗原投与時にヒト抗体の産生をもたらす。例えばJakobovits等, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362:255-258 (1993); Bruggerman等, Year in Immuno., 7:33 (1993);及びDuchosal等 Nature 355:258 (1992)を参照されたい。ヒト抗体はまたファージ-ディスプレイライブラリーから誘導することもできる (Hoogenboom等, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991);Vaughan等 Nature Biotech 14:309 (1996))。
【0040】
(v)抗体断片
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照)。しかし、これらの断片は今は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、抗体断片は上において検討した抗体ファージライブラリーから分離することができる。別法として、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収し、化学的に結合させてF(ab')断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。他の実施態様では、選択抗体は単鎖Fv断片(scFV)である。国際公開第93/16185号を参照。
【0041】
(vi)多重特異性抗体
多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有する。このような分子は通常は二つの抗原を結合させるのみであるが(すなわち、二重特異性抗体、BsAbs)、三重特異性抗体のような更なる特異性を持つ抗体もここで使用される場合この表現に包含される。BsAbsの例には、一方の腕が腫瘍細胞抗原に向けられ他方の腕が細胞毒性トリガー分子に向けられたもの、例えば抗FcγRI/抗CD15、抗p185HER2/FcγRIII(CD16)、抗CD3/抗悪性B細胞(1D10)、抗CD3/抗p185HER2、抗CD3/抗p97、抗CD3/抗腎臓細胞癌腫、抗CD3/抗OVCAR-3、抗CD3/L-D1(抗大腸癌腫)、抗CD3/抗メラニン細胞刺激ホルモン類似体、抗EGFレセプター/抗CD3、抗CD3/抗CAMA1、抗CD3/抗CD19、抗CD3/MoV18、抗神経細胞接着分子(NCAM)/抗CD3、抗葉酸塩結合タンパク質(FBP)/抗CD3、抗全癌腫随伴抗原(AMOC-31)/抗CD3;腫瘍抗原に特異的に結合する一つの腕と毒素に結合する一つの腕を持つBsAbs、例えば、抗サポリン/抗Id-1、抗CD22/抗サポリン、抗CD7/抗サポリン、抗CD38/抗サポリン、抗CEA/抗リシンA鎖、抗インターフェロンα(IFN-α)/抗ハイブリドーマイディオタイプ、抗CEA/抗ビンカアルカロイド;(マイトマイシンホスフェートのマイトマイシンアルコールへの転換を触媒する)抗CD30/抗アルカリホスファターゼのような酵素活性化プロドラッグを転換するためのBsAbs;抗フィブリン/抗組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、抗フィブリン/抗ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)のような線維素溶解剤として使用することができるBsAbs;抗低密度リポタンパク質(LDL)/抗Fcレセプター(例えばFcγRI、FcγRII又はFcγRIII)のような細胞表面レセプターへ免疫複合体をターゲティングするためのBsAbs;抗CD3/抗単純ヘルペスウィルス(HSV)、抗T細胞レセプター:CD3複合体/抗インフルエンザ、抗FcγR/抗HIVのような感染性疾患の治療に使用されるBsAbs;抗CEA/抗EOTUBE、抗CEA/抗DPTA、抗p185HER2/抗ハプテンのようなインビトロ又はインビボでの腫瘍検出のためのBsAbs;ワクチンアジュバントとしてのBsAbs;及び抗ウサギIgG/抗フェリチン、抗セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)/抗ホルモン、抗ソマトスタチン/抗サブスタンスP、抗HRP/抗FITC、抗CEA/抗βガラクトシダーゼのような診断ツールとしてのBsAbsが含まれる。三重特異性抗体の例には、抗CD3/抗CD4/抗CD37、抗CD3/抗CD5/抗CD37及び抗CD3/抗CD8/抗CD37が含まれる。二重特異性抗体は完全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab')二重特異性抗体)として調製することができる。
【0042】
二重特異性抗体を作成する方法は当該分野において既知である。完全長二重特異性抗体の伝統的な産生は二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づき、ここで二つの鎖は異なる特異性を持っている(Millstein等, Nature, 305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法が国際公開第93/08829号及びTraunecker等、EMBO J. 10:3655-3659(1991)に開示されている。
異なったアプローチ法では、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体-抗原結合部位)を免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。融合は好ましくは、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させることが好ましい。免疫グロブリン重鎖の融合体、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時にトランスフェクトする。これにより、構築に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が特に重要性を持たないときは、2又は3の全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0043】
このアプローチ法の好適な実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照のこと。
国際公開第96/27011号に記載された他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体の割合を最大にすることができる。好適な界面は抗体定常ドメインのC3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより、第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモ二量体のような不要の他の最終産物に対してヘテロ二量体の収量を増大させるメカニズムが提供される。
二特異性抗体とは架橋又は「ヘテロ抱合」抗体を含む。例えば、ヘテロ抱合体の一方の抗体がアビジンと結合し、他方はビオチンと結合していてもよい。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせること(米国特許第4676980号)及びHIV感染の治療(国際公開第91/00360号、国際公開第92/200373号及び欧州特許第03089号)等の用途が提案されている。ヘテロ抱合抗体は任意の簡便な架橋方法によって作製できる。適切な架橋剤は当該技術分野で周知であり、多くの架橋法と共に米国特許第4676980号に記されている。
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennan等, Science, 229:81 (1985) は無傷の抗体をタンパク分解的に切断してF(ab')断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルヒド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に転換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再転換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。作られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0044】
最近の進歩により、大腸菌からFab'-SH断片の直接の回収が容易になり、これは化学的に結合して二重特異性抗体を形成することができる。Shalaby等, J.Exp.Med., 175:217-225 (1992)は十分にヒト化された二重特異性抗体F(ab')分子の製造を記述している。各Fab'断片は大腸菌から別個に分泌され、インビトロで定方向化学カップリングさせて二重特異性抗体を形成する。従って、形成された二重特異性抗体は、ヒト乳腫瘍標的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性を誘発すると同時に、VEGFレセプターを過剰発現する細胞及び正常ヒトT細胞へ結合することが可能であった。
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し分離する様々な方法もまた記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生産されている。Kostelny等, J.Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させた。抗体ホモ二量体はヒンジ領域で還元されて単量体を形成し、ついで再酸化させて抗体ヘテロ二量体を形成する。この方法はまた抗体ホモ二量体の生産に対して使用することができる。Hollinger等 Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ(diabody)」技術は二重特異性抗体断片を作成する別のメカニズムを提供した。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするのに十分に短いリンカーにより軽鎖可変ドメイン(V)に重鎖可変ドメイン(V)を結合してなる。従って、一つの断片のV及びVドメインは他の断片の相補的V及びVドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)二量体を使用する他の二重特異性抗体断片製造法もまた報告されている。Gruber等, J.Immunol., 152:5368 (1994)を参照のこと。
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt等 J.Immunol. 147:60(1991)。
【0045】
(vii)エフェクター機能の加工
本発明の抗体をエフェクター機能について改変し、例えば癌治療の際の抗体の効果を亢進させることは望ましい。例えば、システイン残基をFc領域に導入し、それにより、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成するようにしてもよい。そのようにして生成されたホモ二量体抗体は、向上したインターナリゼーション能力及び/又は増加した補体媒介細胞殺傷及び抗体-依存細胞性細胞障害性(ADCC)を有する可能性がある。Caron等, J. Exp. Med. 176: 1191-1195 (1992)及びShopes, B. J. Immunol. 148: 2918-2922 (1992)参照。また、向上した抗腫瘍活性を持つホモ二量体抗体は、Wolff等, Cancer Research 53: 2560-2565 (1993)に記載されているヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製することができる。あるいは、抗体は、2つのFc領域を有するように加工して、それにより補体溶解及びADCC能力を向上させることもできる。Stevenson等, Anti-Cancer Drug Design 3: 219-230 (1989)参照。
【0046】
(viii)免疫複合体
また、本発明は、化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物又は動物由来の酵素活性毒素、又はその断片)などの細胞障害剤、あるいは放射性同位体(つまり、放射性コンジュゲート)と抱合しているここに記載の抗体を含む免疫複合体に関する。
そのような免疫複合体の産生に有用な化学療法剤は上に記載した。使用可能な酵素活性毒及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ-サルシン(sarcin)、アレウライツ・フォルディイ(Aleurites fordii)プロテイン、ジアンシン(dianthin)プロテイン、フィトラッカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)プロテイン(PAPI、PAPII及びPAP-S)、モモルディカ・キャランティア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン、サパオナリア(sapaonaria)オフィシナリスインヒビター、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコセセンス(tricothecenes)が含まれる。様々な放射性核種が放射性コンジュゲート抗体の生産に利用できる。例には、212Bi、131I、131In、90Y及び186Reが含まれる。
抗体と細胞障害性剤のコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性エステル類(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン-2,6-ジイソシアネート)、及びビス活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta等, Science 238:1098(1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレン-トリアミン五酢酸(MX-DTPA)が抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲートするためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026号を参照のこと。
他の実施態様では、腫瘍の事前ターゲティングに利用するために、「レセプター」(例えばストレプトアビジン)に抗体をコンジュゲートすることができ、ここで抗体-レセプターコンジュゲートを患者に投与し、続いて清澄剤を使用し、循環から未結合コンジュゲートを除去し、細胞障害性剤(例えば放射性ヌクレオチド)にコンジュゲートする「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
【0047】
(ix)免疫リポソーム
また、ここで開示されている抗体は、免疫リポソームとして処方することもできる。抗体を含むリポソームは、例えばEpstein等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688(1985);Hwang等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030(1980);及び米国特許第4485045号及び同4544545号に記載されているような、当該分野において既知の方法により調製される。循環時間が増したリポソームは米国特許第5013556号に開示されている。
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含有する脂質組成物を用いた逆相蒸発法により作製することができる。リポソームは孔径が定められたフィルターを通して押し出され、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab'断片は、ジスルフィド交換反応を介して、Martin等, J. Biol. Chem. 257:286-288(1982)に記載されているようにしてリポソームにコンジュゲートすることができる。場合によっては、化学療法剤(ドキソルビシンなど)はリポソーム内に包含される。Gabizon等, J. National Cancer Inst. 81(19)1484(1989)を参照のこと。
【0048】
(x)抗体依存性酵素媒介性プロドラッグ治療法(ADEPT)
また、本発明の抗体は、プロドラッグ(例えばペプチジル化学療法剤、国際公開第81/01145号を参照)を活性な抗癌剤へ変換するプロドラッグ活性化酵素へ抗体をコンジュゲートすることによって、ADEPTにおいて使用することができる。例えば国際公開第88/07378号及び米国特許第4975278号を参照されたい。
ADEPTに有用な免疫コンジュゲートの酵素成分には、より活性な細胞毒形態に変換するようにプロドラッグへ作用し得る任意の酵素が含まれる。
本発明の方法に有用な酵素には、限定するものではないが、ホスフェート含有プロドラッグを遊離の薬剤に変換するのに有用なアルカリ性ホスファターゼ;サルフェート含有プロドラッグを遊離の薬剤に変換するのに有用なアリールスルファターゼ;非毒性5-フルオロシトシンを抗癌剤5-フルオロウラシルに変換するのに有用なシトシンデアミナーゼ;プロテアーゼ、例えばセラチアプロテアーゼ、サーモリシン、サブチリシン、カルボキシペプチダーゼ及びカテプシン(例えば、カテプシンB及びL)で、ペプチド含有プロドラッグを遊離の薬剤に変換するのに有用なもの;D-アミノ酸置換基を含むプロドラッグの変換に有用なD-アラニルカルボキシペプチダーゼ;炭水化物切断酵素、例えばグリコシル化プロドラッグを遊離の薬剤に変換するのに有用なβガラクトシダーゼ及びノイラミニダーゼ;βラクタムで誘導体化された薬剤を遊離の薬剤に変換させるのに有用なβラクタマーゼ;及びペニシリンアミダーゼ、例えばそれぞれフェノキシアセチル又はフェニルアセチル基で、それらのアミン性窒素において誘導体化された薬剤を遊離の薬剤に変換するのに有用なペニシリンVアミダーゼ又はペニシリンGアミダーゼが含まれる。あるいは、「アブザイム」としてもまた知られている酵素活性を有する抗体は、本発明のプロドラッグを、遊離の活性薬剤に変換させるために使用することもできる(例えば、Massey, Nature 328:457-458(1987)を参照)。抗体-アブザイムコンジュゲートは、ここで記載されているようにして、腫瘍細胞個体群にアブザイムを送達するために調製することができる。
この発明の酵素は、当該分野においてよく知られている技術、例えば上で検討したヘテロ二官能性架橋剤を使用することにより、抗体に共有的に結合させることができる。あるいは、本発明の抗体の少なくとも抗原結合領域を本発明の酵素の少なくとも機能的に活性な部位に結合せしめてなる融合タンパク質を、当該分野においてよく知られている組換えDNA技術を使用して構築することができる(例えば、Neuberger等, Nature 312:604-608 (1984)を参照のこと)。
【0049】
(xi)抗体-サルベージレセプター結合エピトープ融合
本発明のある実施態様では、例えば腫瘍浸透性を増大させるために無傷の抗体よりも抗体断片を使用することが望ましい。この場合、その血清半減期を増大させるために抗体断片を改変することが望ましい。これは、例えば、抗体断片にサルベージレセプター結合エピトープを導入することにより(例えば、抗体断片中の適当な領域の突然変異により、あるいはついで抗体断片の何れかの末端又は中央に、例えばDNA又はペプチド合成により融合されるペプチドタグ内にエピトープを導入することにより)、達成できる。
サルベージレセプター結合エピトープは、好ましくは、Fcドメインの一又は二のループ由来の一又は複数の任意のアミノ酸残基が抗体断片の類似位置に移動させられた領域を構成する。更により好ましくは、Fcドメインの一又は二のループ由来の3以上の残基が移動する。またより好ましくは、エピトープはFc領域の(例えばIgGの)CH2ドメインから得られ、抗体のCH1、CH3、又はV領域、又はそのような領域の一より多くに転移する。あるいは、エピトープは、Fc領域のCH2ドメインから得られ、抗体断片のC領域又はV領域、又はその両方に移動する。
【0050】
(xii)抗体の他の共有的修飾
抗体の共有的修飾は本発明の範囲内にある。それらは、適当であれば、化学合成により、又は抗体の酵素的又は化学的切断によりなされうる。抗体の共有的修飾の他のタイプは、選択される側鎖又はN又はC末端残基と反応できる有機誘導体化剤と抗体の標的とするアミノ酸領域を反応させることにより分子中に導入される。
最も一般的には、システイニル残基は、α-ハロアセタート(及び対応するアミン)、例えば、クロロ酢酸又はクロロアセトアミドと反応し、カルボキシメチル又はカルボキシアミドメチル誘導体を生じる。システイン残基もまたブロモトリフルオロアセトン;α-ブロモ-β-(5-イミドゾイル)プロピオン酸;クロロアセチルホスフェート;N-アルキルマレイミド類;3-ニトロ-2-ピリジルジスルフィド;メチル-2-ピリジルジスルフィド;p-クロロ水銀安息香酸;2-クロロ水銀-4-ニトロフェノール;又はクロロ-7-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾールとの反応によって誘導体化される。
ヒスチジル残基は、pH5.5−7.0でジエチルピロカルボナートとの反応によって誘導体化されるが、この薬剤はヒスチジル側鎖に対して比較的特異的である。パラ-ブロモフェナシルブロミドもまた有用である;この反応は、好ましくはpH6.0で0.1Mのカコジル酸ナトリウム中で行われる。
リジニル及びアミノ末端残基はコハク酸又は他のカルボン酸無水物と反応させられる。これらの試薬を用いた誘導体形成は、リシニル残基の電荷を逆転させる効果を有する。α-アミノ含有残基を誘導体化する他の適当な試薬には、イミドエステル、例えば、メチルピコリンイミデート、リン酸ピリドキサル、ピリドキサル、クロロボロヒドリド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O-メチルイソ尿素、2,4-ペンタンジオン、及びグリオキシレートを用いたトランスアミナーゼにより触媒される反応である。
【0051】
アルギニル残基は一あるいは幾つかの従来の試薬との反応によって修飾され、とりわけ、フェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン及びニンヒドリンがある。アルジニン残基の誘導体化は、グアニジン官能基の高いpKのために反応がアルカリ性条件下で行われることを必要とする。更に、これらの試薬はリジンの基並びにアルギニンε-アミノ基と反応しうる。
チロシル残基の特異的修飾は、芳香族ジアゾニウム化合物又はテトラニトロメタンとの反応によるチロシル残基内へのスペクトル標識の導入に特に興味をもって、なされる。最も一般的には、N-アセチルイミジゾールとテトラニトロメタンを使用して、それぞれがO-アセチルチロシル種と3-ニトロ誘導体を形成する。チロシル残基はラジオイムノアッセイでの使用のための標識化タンパク質を調製するために125I又は131Iを用いてヨウ素化される。
カルボキシル側基(アスパルチル又はグルタミル)がカルボジイミド(R-N=C=N-R’)(ここで、RとR’は異なったアルキル基である)、例えば、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-4-エチル)カルボジイミド又は1-エチル-3-(4-アゾニア-4,4-ジメチルペンチル)カルボジイミドとの反応によって選択的に修飾される。更に、アスパルチル及びグルタミル残基は、アンモニウムイオンとの反応によってアスパラギニル及びグルタミニル残基へ変換される。
グルタミニル及びアスパラギニル残基は、それぞれ対応するグルタミル及びアスパルチル残基へしばしば脱アミド化される。これらの残基は中性又は塩基性条件下で脱アミド化される。これらの残基の脱アミド化形態は本発明の範囲内に入る。
その他の修飾には、プロリンとリジンのヒドロキシル化、セリル又はスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン、アルギニン、及びヒスチジン側鎖のα-アミノ基のメチル化(T.E. Creighton, Proteins: Structure and Molecular Properties, W.H. Freeman & Co., San Francisco, 79-86頁 (1983))、N末端アミンのアセチル化、及び任意のC末端カルボキシル基のアミド化が含まれる。
【0052】
他のタイプの共有的修飾は抗体に対してグリコシドを化学的又は酵素的にカップリングさせることを含む。これらの手順は、それらがN-又はO-結合グリコシル化のためのグリコシル化能を有する宿主細胞中での抗体の生産を必要としない点で有利である。用いられるカップリング態様に応じて、糖(類)は、(a)アルギニンとヒスチジンに、(b)遊離のカルボキシル基に、(c)遊離のスルフヒドリル基、例えばシステインのものに、(d)セリン、スレオニン又はヒドロキシプロリンのもののような遊離のヒドロキシル基に、(e)フェニルアラニン、チロシン又はトリプトファンのような芳香族残基、又は(f)グルタミンのアミド基に結合させることができる。これらの方法は1987年9月11日公開の国際公開第87/05330号並びにAplin及びWriston, CRC Crit. Rev. Biochem., 259-306頁 (1981)に記載されている。
抗体に存在するあらゆる炭水化物部分の除去は、化学的又は酵素的になすことができる。化学的脱グリコシル化には、抗体を化合物トリフルオロメタンスルホン酸、又は等価化合物に暴露することを必要とする。この処理により、抗体を無傷なままにしながら、結合糖(N-アセチルグルコサミン又はN-アセチルガラクトサミン)を除く殆どの又は全ての糖の切断が生じる。化学的脱グリコシル化は、Hakimuddin等, Arch. Biochem. Biophys., 259:52 (1987)により、及びEdge等, Anal. Biochem., 118: 131 (1981)により記載されている。抗体上の炭水化物部分の酵素的切断は、Thotakura等, Meth. Enzymol. 138:350 (1987)に記載されているように、種々のエンド及びエキソグリコシダーゼを用いることにより達成できる。
抗体の共有結合的修飾の他のタイプは、抗体を、種々の非タンパク質様ポリマーの一つ、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリオキシアルキレンへ、米国特許第4640835号;第4496689号;第4301144号;第4670417号;第4791192号又は第4179337号に記載された方法で結合させることを含む。
【0053】
B.ベクター、宿主細胞及び組換え法
本発明の抗VEGF抗体は直ぐに得られる技術と材料を使用して組換え的に製造することができる。
抗VEGF抗体の組換え生産のために、それをコードする核酸が単離され、更なるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために、複製可能なベクター内に挿入される。モノクローナル抗体をコードするDNAは直ぐに単離され、通常の手法(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用して)を用いて配列決定される。多くのベクターが入手可能である。ベクター成分としては、一般に、これらに制限されるものではないが、次のものの一又は複数が含まれる:シグナル配列、複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列である。
【0054】
(i)シグナル配列成分
本発明の抗体は直接的に組換え手法によって生産されるだけではなく、好ましくはシグナル配列あるいは成熟タンパク質あるいはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである異種性ポリペプチドとの融合ポリペプチドとしても産生される。好ましく選択された異種シグナル配列は宿主細胞によって認識され加工される(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。天然抗体シグナル配列を認識せずプロセシングしない原核生物宿主細胞に対しては、シグナル配列は、例えばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lppあるいは熱安定なエンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物シグナル配列により置換される。酵母の分泌に関しては、天然シグナル配列は、例えば酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(酵母菌属(Saccharomyces)及びクルイベロマイシス(Kluyveromyces)α因子リーダーを含む)、又は酸ホスフォターゼリーダー、白体(C.albicans)グルコアミラーゼリーダー、又は国際公開第90/13646号に記載されているシグナルにより置換されうる。哺乳動物細胞の発現においては、哺乳動物のシグナル配列並びにウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用できる。
このような前駆体領域のDNAは、抗体をコードするDNAに読み枠を一致させて結合される。
【0055】
(ii)複製開始点成分
発現及びクローニングベクターは共に一又は複数の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。一般に、この配列はクローニングベクターにおいて、宿主染色体DNAとは独立にベクターが複製することを可能にするものであり、複製開始点又は自律的複製配列を含む。そのような配列は様々な細菌、酵母及びウイルスに対してよく知られている。プラスミドpBR322に由来する複製開始点は大部分のグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド開始点は酵母に適しており、様々なウイルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV又はBPV)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般には、哺乳動物の発現ベクターには複製開始点成分は不要である(SV40開始点が典型的には初期プロモーターを有しているため用いられる)。
【0056】
(iii)選択遺伝子成分
発現及びクローニングベクターは、選択可能マーカーとも称される選択遺伝子を含みうる。典型的な選択遺伝子は、(a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートあるいはテトラサイクリンのような抗生物質あるいは他の毒素に耐性を与え、(b)栄養要求性欠陥を補い、又は(c)例えばバシラス菌に対する遺伝子コードD-アラニンラセマーゼのような、複合培地から得られない重要な栄養素を供給する、タンパク質をコードする。
選択技術の一例においては、宿主細胞の成長を抑止する薬物が用いられる。異種性遺伝子で首尾よく形質転換されるこれらの細胞は、抗薬物性を付与し、選択療法を生存するタンパク質を生産する。このような優性選択の例としては、薬物ネオマイシン、ミコフェノール酸又はハイグロマイシンが使用される。
哺乳動物細胞に適切な選択可能なマーカーの他の例は、抗体核酸を捕捉することのできる細胞成分を同定することのできるもの、例えばDHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネインI及びII、好ましくは、霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ等である。
例えば、DHFR選択遺伝子によって形質転換された細胞は、先ず、DHFRの競合的アンタゴニストであるメトトリキセート(Mtx)を含む培地において形質転換物の全てを培養することで同定される。野生型DHFRを用いた場合の好適な宿主細胞は、DHFR活性に欠陥のあるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)株化細胞である。
【0057】
あるいは、抗体をコードするDNA配列、野生型DHFRタンパク質、及びアミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ(APH)のような他の選択可能マーカーで形質転換あるいは同時形質転換した宿主細胞(特に、内在性DHFRを含む野生型宿主)は、カナマイシン、ネオマイシンあるいはG418のようなアミノグリコシド抗生物質のような選択可能マーカーの選択剤を含む培地における細胞増殖により選択することができる。米国特許第4965199号を参照。
酵母中での使用に好適な選択遺伝子は酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb等, Nature, 282:39(1979))。trp1遺伝子は、例えば、ATCC第44076号あるいはPEP4-1のようなトリプトファン内で成長する能力に欠ける酵母の突然変異株に対する選択マーカーを提供する。Jones, Genetics, 85:12 (1977)。酵母宿主細胞ゲノムにtrp1破壊が存在することは、トリプトファンの不存在下における成長による形質転換を検出するための有効な環境を提供する。同様に、Leu2欠陥酵母株(ATCC20622あるいは38626)は、Leu2遺伝子を有する既知のプラスミドによって補完される。
また、1.6μmの円形プラスミドpKD1由来のベクターは、クルイヴェロマイシス(Kluyveromyces)酵母の形質転換に用いることができる。あるいは、組換え子ウシのキモシンの大量生産のための発現系がK.ラクティス(lactis)に対して報告されている。Van den Berg, Bio/Technology, 8:135 (1990)。クルイヴェロマイシスの工業的な菌株からの、組換えによる成熟したヒト血清アルブミンを分泌する安定した複数コピー発現ベクターも開示されている。Fleer 等, Bio/Technology,9:968-975 (1991)。
【0058】
(iv)プロモーター成分
通常、発現及びクローニングベクターは、宿主生体により認識され、抗体核酸に作用可能に結合するプロモーターを含む。原核生物宿主での使用に好適なプロモーターは、phoAプロモーター、βラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、及びハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーターを含む。しかし、他の既知の細菌プロモーターも好適である。細菌系で使用するプロモーターもまた抗体をコードするDNAと作用可能に結合したシャイン・ダルガーノ(S.D.)配列を有する。
真核生物に対してもプロモーター配列が知られている。事実上、全ての真核生物の遺伝子は、転写開始部位からおよそ25ないし30塩基上流に位置するAT富化領域を有する。多数の遺伝子の転写開始位置から70ないし80塩基上流に見出される他の配列は、Nが任意のヌクレオチドであるCNCAAT領域である。大部分の真核生物遺伝子の3'末端には、コード配列の3'末端へのポリA尾部の付加に対するシグナルであるAATAAA配列がある。これらの配列は全て真核生物の発現ベクターに適切に挿入される。
酵母宿主と共に用いて好適なプロモーター配列の例としては、3-ホスホグリセラートキナーゼ又は他の糖分解酵素、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオセリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼが含まれる。
【0059】
他の酵母プロモーターは、成長条件によって転写が制御される更なる利点を有する誘発的プロモーターであり、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝と関連する分解性酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトース及びガラクトースの利用を支配する酵素のプロモーター領域がある。酵母の発現に用いられる好適なベクターとプロモーターは欧州特許第73657号に更に記載されている。また酵母エンハンサーも酵母プロモーターと共に好適に用いられる。
哺乳動物の宿主細胞におけるベクターからの抗体転写は、例えば、ポリオーマウィルス、伝染性上皮腫ウィルス、アデノウィルス(例えばアデノウィルス2)、ウシ乳頭腫ウィルス、トリ肉腫ウィルス、サイトメガロウィルス、レトロウィルス、B型肝炎ウィルス及び最も好ましくはサルウィルス40(SV40)のようなウィルスのゲノムから得られるプロモーター、異種性哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター、ヒートショックプロモーターによって、提供されるこのようなプロモーターが宿主細胞系に適合し得る限り、調節される。
SV40ウィルスの初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点を更に含むSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウィルスの最初期プロモーターは、HindIIIE制限断片として簡便に得られる。ベクターとしてウシ乳頭腫ウィルスを用いて哺乳動物宿主でDNAを発現する系が、米国特許第4419446号に開示されている。この系の変更例は米国特許第4601978号に開示されている。また、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの調節下でのマウス細胞におけるヒトβインターフェロンcDNAの発現について、Reyes等, Nature, 297:598-601(1982)を参照されたい。あるいは、ラウス肉腫ウィルス長末端反復をプロモーターとして使用することができる。
【0060】
(v)エンハンサーエレメント成分
より高等の真核生物による本発明の抗体をコードしているDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増強され得る。哺乳動物の遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン及びインスリン)。しかしながら、典型的には、真核細胞ウィルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。例としては、複製開始点の後期側のSV40エンハンサー(100−270塩基対)、サイトメガロウィルス初期プロモーターエンハンサー、複製開始点の後期側のポリオーマエンハンサー及びアデノウィルスエンハンサーが含まれる。真核生物のプロモーターの活性化のための増強要素については、Yaniv, Nature, 297:17-18 (1982)もまた参照のこと。エンハンサーは、抗体コード配列の5'又は3'位でベクター中にスプライシングされ得るが、好ましくはプロモーターから5'位に位置している。
【0061】
(vi)転写終結成分
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)に用いられる発現ベクターは、また転写の終結及びmRNAの安定化に必要な配列を含む。このような配列は、真核生物又はウィルスのDNA又はcDNAの5'、時には3'の非翻訳領域から一般に取得できる。これらの領域は、抗体をコードしているmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含む。一つの有用な転写終結成分はウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。国際公開第94/11026号とそこに開示した発現ベクターを参照されたい。
【0062】
(vii)宿主細胞の選択及び形質転換
ここに記載のベクターにDNAをクローニングあるいは発現するために適切な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的にとって適切な原核生物は、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えばエシェリチアのような腸内菌科、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びB.リチェフォルミス(licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266710に開示されたバシリ・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌及びストレプトマイセス属を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような株も好適である。これらの例は限定するものではなく例示的なものである。
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシア、又は一般的なパン酵母は下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に用いられる。しかしながら、多数の他の属、種及び菌株も、一般的に入手可能で、ここで使用でき、例えば、シゾサッカロマイセスポンベ;クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクティス、K.フラギリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィッケラミイ(ATCC24178)、K.ワルチイ(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(ATCC36906)、K.サーモトレランス、及びK.マルキシアナス;ヤローウィア(欧州特許第402226号);ピチア・パストリス(欧州特許第183070号);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(欧州特許第244234号);アカパンカビ;シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセス・オクシデンタリス;及び糸状真菌、例えばパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム、及びコウジカビ属(Aspergillus)宿主、例えば偽巣性コウジ菌(A. nidulans)及びクロカビ(A. niger)が使用できる。
グリコシル化抗体の発現に適切な宿主細胞は、多細胞生物から誘導される。無脊椎動物細胞の例には、植物及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。トランスフェクションのための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、このようなウィルスは本発明においてここに記載したウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションに使用できる。綿花、コーン、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、及びタバコのような植物細胞培養を宿主として利用することもできる。
【0063】
しかしながら、脊椎動物細胞におけるものが最も興味深く、培養(組織培養)中での脊椎動物細胞の増殖は常套的な手順になった。有用な哺乳動物宿主株化細胞の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株 (COS-7, ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(293又は懸濁培養での成長のためにサブクローン化された293細胞、Graham等, J. Gen Virol., 36:59 (1977));ハムスター乳児腎細胞(BHK, ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO, Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980));マウスのセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980));サルの腎細胞 (CVI ATCC CCL 70);アフリカミドリザルの腎細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞 (HELA, ATCC CCL 2);イヌ腎細胞 (MDCK, ATCC CCL 34); バッファローラット肝細胞 (BRL 3A, ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞 (W138, ATCC CCL 75);ヒト肝細胞 (Hep G2, HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT060562, ATTC CCL51);TRI細胞(Mother等, Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;ヒト肝癌株(HepG2)である。
宿主細胞は、抗体生産のための上述した発現又はクローニングベクターで形質転換し、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードしている遺伝子を増幅するために適当に修飾された常套的栄養培地で培養する。
【0064】
(viii)宿主細胞の培養
本発明の抗体を生成するために用いられる宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地、例えばハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地((MEM),シグマ)、RPMI-1640(シグマ)及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM),シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980), 米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;同4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430;国際公開第87/00195;又は米国特許再発行第30985号に記載された任意の培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地はいずれも、ホルモン及び/又は他の成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン、又は表皮成長因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシンTM薬)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)、及びグルコース又は同等のエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について以前から用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0065】
(ix)抗体精製
組換え技術を使用する場合、抗体は細胞内、細胞膜周辺腔内に生成されるか、又は培地に直接分泌され得る。抗体が細胞内で産生される場合、第1段階として、粒状屑、宿主細胞又は溶菌断片を、例えば遠心分離又は限外濾過にかけて取り除く。Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992)は、大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離するための手順について記載している。簡単に述べると、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフェニルメチルスルホニルフロリド(PMSF)の存在下で、30分以上かけて解凍する。細胞屑は遠心分離により除去することができる。抗体が培地へ分泌されている場合、そのような発現系からの上清は、一般的には先ず市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pelliconの限外濾過ユニットを用いて濃縮する。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を上記の任意の工程に含めてタンパク質分解を阻害してもよく、抗生物質を含めて外来性の汚染物の成長を防止してもよい。
細胞から調製した抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティクロマトグラフィを用いて精製でき、アフィニティクロマトグラフィが好ましい精製技術である。アフィニティリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体に存在する任意の免疫グロブリンFc領域の種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる(Lindmark等, J. Immunol. Meth. 62:1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss等, EMBO J. 5:15671575 (1986))。アフィニティリガンドが結合されるマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他のマトリクスも使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースで達成できるものより早い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体がC3ドメインを含む場合、Bakerbond ABXTM樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(例えばポリアスパラギン酸カラム)上でのヘパリンSEPHAROSETMクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿などの他のタンパク質精製技術も、回収される抗体に応じて利用可能である。
任意の予備的精製工程に続いて、抗VEGF抗体と汚染物を含有する混合物を、約2.5−4.5のpHの溶離バッファーを使用し、好ましくは低塩濃度(例えば約0−0.25M塩)で実施される低pH疎水的相互作用クロマトグラフィーにかけることができる。
【0066】
III.薬学的製剤
本発明において使用される抗体の治療製剤は、任意成分の薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤と所望の純度を有する抗体を混合することによって(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16版, Osol,A編 [1980])、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で保存用に調製される。典型的には、適当量の製薬的に許容可能な塩が製剤を等張にするために担体中に使用される。許容できる担体、賦形剤又は安定剤は、用いる投与量及び濃度では細胞に対して無毒性であり、リン酸、クエン酸及び他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン類、例えばメチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(残基数10個未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性重合体;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリン等の単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖類、ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。好適な凍結乾燥抗VEGF抗体製剤は、出典明示によりここに取り込まれる国際公開第97/04801号に記載されている。
【0067】
また、製剤は、治療される特定の効能に必要な一以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有しうる。例えば、一製剤中にEGFR、VEGF(例えばVEGF上の異なったエピトープに結合する抗体)、VEGFR、又はErbB2(例えばハーセプチン(登録商標))に結合する抗体を更に提供することが望ましい場合がある。あるいは、又は加えて、組成物は、細胞障害剤、サイトカイン、成長阻害剤及び/又は小分子VEGFRアンタゴニストを含有してもよい。このような分子は、好適には、意図した目的に有効な量で組合せて存在する。
また活性成分は、例えばコアセルベーション法又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションに捕捉することができる。このような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16版, Oslo,A.編(1980)に開示されている。
インビボ投与に使用される製剤は滅菌されていなくてはならない。これは、滅菌濾過膜を通す濾過により容易に達成される。
【0068】
徐放性調製物を調製してもよい。徐放性調製物の適切な例には、抗体を含む固体疎水性重合体の半透性マトリックスが含まれ、このマトリックスはフィルム又はマイクロカプセル等の成形品の形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸とγ-エチル-L-グルタマートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性の乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注入可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニルや乳酸-グリコール酸等のポリマーは100日以上分子を放出できるが、特定のヒドロゲルはより短い時間タンパク質を放出する。
封入された抗体は体内に長い間残る場合、37℃での水分に暴露される結果、変性し又は凝集して、生物活性を消失させ、免疫原性を変化させる可能性がある。関与する機構に応じて安定化のための合理的な方策を案出することができる。例えば、関連するメカニズムに応じて安定性を得るための合理的な処置が案出できる。例えば、凝集機構がチオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であることが分かったら、スルフヒドリル残基を改変し、酸性溶液から凍結乾燥し、水分量を調整し、適当な添加物を使用し、特定の重合体マトリックス組成物を開発することで、安定化を達成することができる。
【0069】
IV.抗VEGF抗体の治療的使用
本発明によれば、抗VEGF抗体は病理的血管形成によって特徴付けられる様々な新生物又は非新生物症状を治療するために使用することができると考えられる。治療が受け入れられる非新生物病状には関節リウマチ、乾癬、アテローム性動脈硬化症、時期尚早の網膜症を含む糖尿病性及び他の増殖性網膜症、水晶体後方線維増殖症、新血管緑内障、年齢関連性黄斑変性症、甲状腺過形成(グレーブス病を含む)、角膜及び他の組織の移植、慢性的炎症、肺炎、ネフローゼ症候群、子癇前症、腹水、心膜滲出(例えば心膜炎に関連するもの)、及び胸膜滲出が含まれる。
本発明の抗体は好ましくは癌と良性腫瘍を含む、血管形成が腫瘍成長において重要な役割を果たす腫瘍の治療に使用される。治療される癌の例には、これらに限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれる。このような癌のより特定の例には、扁平細胞癌(squamous cell cancer)、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、及び肺の扁平癌腫(squamous carcinoma)を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃(gastric)又は腹部(stomach)癌(胃腸癌を含む)、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸管癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝癌、乳癌、大腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓(kidney)又は腎(renal)癌、肝臓癌、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝臓癌腫、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝癌腫、並びに様々なタイプの頭部及び頸部の癌、並びにB細胞リンパ腫(低級/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球(SL)NHL、中級/濾胞性NHL、中級瀰漫性NHL、高級免疫芽細胞性NHL、高級リンパ芽球性NHL、高級小非分割細胞NHL、バルキー疾患NHL、外套細胞リンパ腫、エイズ関連リンパ腫、及びワルデンストロームマクログロブリン血症を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びに関連した異常な血管増殖、浮腫(例えば脳腫瘍に関連するもの)、及びMeigs' 症候群が含まれる。より詳細には、本発明の抗体による治療に受け入れられる癌には、乳癌、結腸直腸癌、直腸癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝臓癌、膵癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド癌腫、頭部及び首部の癌、メラノーマ、卵巣癌、中皮腫、及び多発性骨髄腫が含まれる。より好ましくは、本発明の方法はヒト患者の結腸直腸癌を治療するために使用される。
本発明は、腫瘍成長を支援する栄養素を提供するために必要とされる腫瘍血管の発生を阻害することを目的とする新規な癌治療方策である抗血管新生療法を包含する。原発性腫瘍成長と転移の双方に血管新生が関与しているので、本発明によって提供される抗血管新生療法は、原発部位における腫瘍の新生物成長を阻害し、並びに続発性部位における腫瘍の転移を防止することができ、よって他の治療法による腫瘍の攻撃を可能にする。
【0070】
併用療法
腫瘍のような様々な疾患を治療するために使用される場合、本発明の抗体は同じ又は同様の疾患に好適な他の治療剤と組み合わせることができる。癌を治療するために使用される場合、本発明の抗体は、外科手術、放射線療法、化学療法又はそれらの組み合わせのような一般的な癌治療法と組み合わせて使用することができる。
ある態様では、本発明の抗体との併用癌療法に有用な他の治療剤には他の抗抗血管新生剤が含まれる。Carmeliet 及びJain (2000)によって列挙されたものを含む多くの抗血管新生剤が同定され、当該分野で知られている。好ましくは、本発明の抗VEGF抗体は、他のVEGFアンタゴニスト又はVEGFレセプターアンタゴニスト、例えばVEGF変異体、可溶型VEGFレセプター断片、VEGF又はVEGFRを遮断可能なアプタマー、中和抗VEGFR抗体、VEGFRチロシンキナーゼの低分子量阻害剤及びその任意の組み合わせとの併用で使用される。別法として、又はそれに加えて、二又はそれ以上の抗VEGF抗体を患者に同時投与することができる。
ある種の他の態様では、本発明の抗体との併用腫瘍療法に有用な他の治療剤には、腫瘍成長に関与する他の因子のアンタゴニスト、例えばEGFR、ErbB2(Her2としても知られる)、ErbB3、ErbB4、又はTNFが含まれる。しばしば、患者に一又は複数のサイトカインを投与することもまた有利でありうる。好適な実施態様では、VEGF抗体は成長抑制剤と同時投与される。例えば、成長抑制剤を最初に投与した後、VEGF抗体を次に投与することができる。しかしながら、 VEGF抗体の同時投与又は最初の投与もまた考えられる。成長抑制剤に適した投薬量は現在使用されている量であり、成長抑制剤と抗VEGF抗体の併用作用(相乗作用)によって低下させることができる場合がある。
【0071】
化学療法剤
ある態様では、発明は、癌であると疑われるか又は診断された患者に有効量の抗VEGF抗体と一又は複数の化学療法剤を投与することによって、癌を治療する方法を提供する。様々な化学療法剤を本発明の併用治療法において使用することができる。考えられる化学療法剤の例示的かつ非限定的リストは本明細書の「定義」の箇所に与えている。
当業者には理解されるように、化学療法剤の適切な用量は、一般に、化学療法剤が単独で又は他の化学療法剤と組み合わせて投与される臨床治療において既に用いられている用量とほぼ同様のものである。治療されている症状に応じて用量の変動が生じる可能性がある。治療を管理する医師は個々の患者に対して適した用量を決定することができるであろう。
例示のためだけであるが、転移性結腸直腸癌に対する標準的な化学療法について以下に記載する。
好適な一実施態様では、本発明の方法は転移性結腸直腸癌を含む結腸直腸癌の治療に使用される。結腸直腸癌は合衆国において三番目に多い癌死亡率を示すものである。Landis等, Cancer J Clin. 49:8-31 (1999)では、1999年に合衆国においておよそ129000の結腸直腸癌の新しい症例が診断され、56000名の死亡が結腸直腸癌により生じたと推定されている。結腸直腸癌患者のおよそ70%が外科的摘除によって潜在的に治療可能である疾患を呈している。August等, Cancer Metastasis Rev 3:303-24 (1984)。しかし、進行したか又は転移性疾患を呈している30%と摘除後に再発する20%に対して予後が不十分である。転移性疾患の患者の平均生存率は12−14ヶ月である。Advanced Colorectal Cancer Meta-Analysis Project, J Clin Oncol 10:896-903 (1992)。
【0072】
合衆国における転移性結腸直腸癌の標準的な治療法は最近まで5-フルオロウラシル(5-FU)+5-FUの生化学的モジュレーター・ロイコボリンでの化学療法であった,Advanced Colorectal Cancer Meta-Analysis Project, J Clin Oncol 10:896-903 (1992); Moertel N Engl J Med 330:1136-42 (1994)。5-FU/ロイコボリンの併用は結腸直腸腫瘍の希な一過性の縮小をもたらすが5-FU単独の場合と比較して生存期間を延ばすことは証明されておらず (Advanced Colorectal Cancer Meta-Analysis Project, J Clin Oncol 10:896-903 (1992))、また5-FUは効果のない治療+最良の支持的ケアと比較して生存期間を延ばすことは証明されていない, Ansfield等 Cancer 39:34-40 (1977)。5-FU/ロイコボリンに対して証明された生存効果の欠如は部分的には不十分なサイズの臨床治験のためである。切除可能な結腸直腸癌に対してアジュバント化学療法を受けている患者の大きな無作為の臨床では、5-FU/ロイコボリンはロムスチン (MeCCNU), ビンクリスチン、及び5-FUと比較して延命された生存期間を示している (MOF; Wolmark等 J Clin Oncol 11:1879-87 (1993)。
合衆国では、5-FU/ロイコボリン化学療法は、通常、Mayo Clinic及びRoswell Park投与計画の二種のスケジュールの一つに従って投与されている。Mayo Clinic投与計画は、5-FU+低用量ロイコボリン(425mg/mの5-FU+20mg/mロイコボリンが5日間、静脈[IV]プッシュにより毎日投与され、4から5週間間隔でコースを反復する)の集中コースからなる。Buroker等 J Clin Oncol 12:14-20 (1994)。Roswell Park投与計画は、毎週5-FU+高用量のロイコボリン(IVプッシュによる500−600mg/mの5-FUの投与と、毎週2時間の点滴による500mg/mロイコボリンの投与6週間を、8週間毎に繰り返すコース)からなる。Petrelli等, J Clin Oncol 7:1419-26 (1989)。Mayo Clinic 及びRoswell Park投与計画を比較する臨床治験では、効果に差は証明されなかったが、そうするには効力不足であった。Buroker等, J Clin Oncol 12:14-20 (1994);Poon等, J Clin Oncol 7:1407-18 (1989)。二種の投与計画の毒性特性は異なっており、Mayo Clinic投与計画は白血球減少症と口内炎をより生じさせ、Roswell Park投与計画はより頻繁な下痢を生じさせた。何れかの投与計画を受けている新たに転移性結腸直腸癌と診断された患者は4−5ヶ月の疾患の増悪の中央値と12−14ヶ月の中間生存期間を期待することができる。Petrelli等, J Clin Oncol 7:1419-26 (1989);Advanced Colorectal Cancer Meta-Analysis Project, J Clin Oncol 10:896-903 (1992);Buroker等, J Clin Oncol 12:14-20 (1994);Cocconi等, J Clin Oncol 16:2943-52 (1998)。
【0073】
最近、転移性結腸直腸癌に対する新しい第一選択治療法が出現した。それぞれおよそ400名の患者での二種の無作為化臨床試験で、5-FU/ロイコボリンとの併用でのイリノテカンが評価された。Saltz等, Proc ASCO 18:233a (1999);Douillard等, Lancet 355:1041-7 (2000)。双方の治験において、イリノテカン/5-FU/ロイコボリンの組み合わせは、5-FU/ロイコボリン単独の場合と比較して、生存率(2.2及び3.3ヶ月)、疾患増悪時間、奏効率において統計的に有意な増加を証明した。イリノテカンの効果は増加した毒性の対価で得られた:5-FU/ロイコボリンへのイリノテカンの添加には、5-FU/ロイコボリン単独と比較して、国立癌研究所共通毒性基準(NCI-CTC)グレード3/4の下痢、グレード3/4の嘔吐、グレード4の 、及び無力症の発生の増加が伴った。第二選択療法において単一薬剤イリノテカンが生存を延ばすことを示す証拠がまた存在する。Cunningham等, Lancet 352:1413-18 (1998);Rougier等, Lancet 352:1407-12 (1998)。二種の無作為化試験では、5-FU治療後に進行した患者においてイリノテカンは生存率を延ばすことが証明された。一つの試験ではイリノテカンを最良の支援ケアと比較したところ、2.8ヶ月の生存期間の延命が示され;他の試験では5-FU点滴とイリノテカンを比較したところ、2.2ヶ月の生存期間の延命が示された。イリノテカンが第一選択又は第二選択治療において生存率に対してより効果があるかどうかという問題は十分に管理された形では研究されなかった。
【0074】
用量と投与
本発明の抗体と化学療法剤は、公知の方法、例えばボーラスとしてもしくは一定時間にわたる連続注入による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液包内、くも膜下腔内、経口、局所的、又は吸入経路によりヒト患者に投与される。抗体の静脈内又は皮下投与が好ましい。
一実施態様では、本発明の治療法は抗VEGF抗体と一又は複数の化学療法剤の併用投与を含む。本発明は、異なった化学療法剤のカクテルの投与を考える。併用投与には、別個の製剤又は単一の医薬製剤を用いる同時投与、何れかの順での逐次投与が含まれ、そこでは、好ましくは、双方の(又は全ての)活性剤が同時にその生物活性を作用させる時間がある。そのような化学療法剤の製剤及び投薬スケジュールは製造者の指示に従って使用されるか又は熟練した実務家によって経験的に決定されうる。化学療法のための製剤及び投薬スケジュールはまたChemotherapy Service Ed., M.C. Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, MD (1992)に記載されている。化学療法剤は抗体の投与に先立つか又は投与後であり得、又は抗体と同時に与えることもできる。
疾患の予防又は治療に対して、抗体の適切な投薬量は、上述の治療される疾患のタイプ、疾患の重篤さと経過、抗体が予防目的又は治療目的で投与されるかどうか、過去の治療法、患者の臨床歴及び抗体に対する応答性、付き添う医師の裁量に依存する。抗体は一度に又は一連の処置にわたって患者に適切に投与される。併用療法用量計画では、本発明の組成物は治療的に効果があるか又は相乗効果のある量で投与される。ここで用いられる場合、治療的に有効な量とは、抗VEGF抗体と一又は複数の他の治療剤の同時投与、又は本発明の組成物の投与が標的とする疾患又は症状の低減又は抑制を生じるような量である。治療的に相乗効果のある量とは、特定の疾患に伴う症状又は徴候を相乗的に又は有意に低減させ又は除去するために必要な抗VEGF抗体と一又は複数の他の治療剤の量である。
【0075】
疾患のタイプと重篤さに応じて、約1μg/kgから50mg/kg(例えば、0.1−20mg/kg)の抗体が、例えば一又は複数の別々の投与であろうと、あるいは連続注入によるものであろうと、患者への初期候補投与量である。典型的な1日の用量は、上記の要因に依存し、約1μg/kgから約100mg/kg又はそれ以上の範囲である。数日間又はそれ以上にわたる繰り返し投与の場合は、状況に応じて、疾患徴候の望ましい抑制が起こるまで治療を続ける。しかし、他の用量計画も有用でありうる。好適な態様では、本発明の抗体は約5mg/kgから約15mg/kgの範囲の用量で2ないし3週毎に投与される。より好ましくは、そのような用量計画は転移性結腸直腸癌の治療の第一の選択療法として化学療法計画と併用して使用される。ある態様では、化学療法計画は伝統的な高用量間欠投与を含む。ある他の態様では、化学療法剤は、予定の中断なしにより少量でより頻繁な用量を用いて投与される(「メトロノーム(metronomic)化学療法」)。本発明の治療法の進行は、常套的な技術及びアッセイで容易に監視される。
好適な用量に対する更なる情報は以下の実施例において提供する。
【0076】
治療効果
本発明の治療法の主な利点は、ヒト患者において有意な毒性又は副作用を引き起こさないで顕著な抗癌作用を生じさせる能力にあり、よって患者は治療から全体的に恩恵を享受する。本発明の治療法の効果は、限定するものではないが、腫瘍の緩解、腫瘍重さ又はサイズの縮小、無増悪期間、生存期間、無増悪生存率、全奏効率、奏効期間、及び生活の質を含む癌治療を評価する際に一般的に用いられる様々な指標によって測定することができる。本発明の抗血管新生剤は腫瘍の脈管構造を標的とし必ずしも新生物細胞自体を標的とはしないので、独特のクラスの抗癌剤であり、よって独特の基準及び薬剤に対する臨床奏効の定義を必要としうる。例えば、二次元解析で50%を越える腫瘍縮小は奏効を宣言する標準的なカットオフである。しかしながら、本発明の抗VEGF抗体は原発性腫瘍の縮小なしに転移拡散を阻害し、又は単に腫瘍抑制作用を生じうる。従って、例えば、血管新生の血漿又は尿マーカーの測定と放射線画像の測定を含む抗血管新生療法の効能を決定するための新しいアプローチ法が用いられなければならない。
一実施態様では、本発明は癌であることが疑われるか又は診断されたヒト患者の生存期間を増加させるために使用することができる。生存期間は薬剤の最初の投与から死までの期間として定義される。好適な態様では、本発明の抗VEGF抗体は一又は複数の化学療法剤と併用されてヒト患者に投与され、患者の生存期間が化学療法単独の場合と比較して効果的に増加する。例えば、少なくとも二種、好ましくは三種の化学療法剤の化学療法剤カクテルと併用して抗VEGF抗体で治療した患者群は同じ化学療法剤カクテル単独で治療した患者群の場合よりも少なくとも約2ヶ月、好ましくは約2から約5ヶ月長い生存期間中央値を有し得、上記増加は統計的に有意である。生存期間はまた治療中の患者の死亡リスクを表す治療群対コントロール群の層化ハザード比(HR)によって測定することもできる。好ましくは、抗VEGF抗体と一又は複数の化学療法剤の併用治療は、化学療法単独の場合と比較して、少なくとも約30%(つまり、約0.70の層化HR)、好ましくは少なくとも約35%(つまり、約0.65の層化HR)だけ死亡リスクを有意に低下させる。
【0077】
他の実施態様では、本発明は、癌であると疑われるか診断されたヒト患者において無増悪生存期間を増加させる方法を提供する。疾患進行までの期間は薬剤の投与から疾患の進行までの時間として定義される。好適な実施態様では、抗VEGF抗体と一又は複数の化学療法剤を使用する本発明の併用治療法は化学療法単独での治療と比較して無増悪生存期間を少なくとも2ヶ月、好ましくは約2から約5ヶ月有意に増加させる。
更に他の実施態様では、本発明の治療法は、様々な治療で治療される癌であると疑われるか診断された一群のヒト患者において奏効率を有意に増加させる。奏効率は治療に反応した治療された患者の割合と定義される。一態様では、抗VEGF抗体と一又は複数の化学療法剤を使用する本発明の併用治療法は化学療法単独で治療された群と比較して治療患者群において奏効率を有意に増大させ、該奏効率は0.005未満のχ二乗p値を有する。
一態様では、本発明は、癌であると疑われるか診断されたヒト患者又は一群のヒト患者において奏効期間を有意に増加させる方法を提供する。奏効期間は初期奏効から疾患進行までの時間として定義される。抗VEGF抗体と一又は複数の化学療法剤を使用する本発明の併用治療法では、奏効期間において少なくとも2ヶ月の統計的に有意な増加を得ることができ、また好ましい。
【0078】
治療の安全性
本発明は治療を受けているヒト患者に対して顕著な副作用を生じさせないで癌を効果的に治療する方法を提供する。本発明による治療の臨床結果は、抗血管新生療法に伴うと考えられた幾つかの有害事象が本発明による治療の過程では観察されなかった点で些か予期できなかった。例えば、過去の臨床試験では、抗VEGF抗体での治療は血栓(ある場合は致命的)、高血圧、タンパク尿症及び鼻出血(出血)を生じうることが示唆されている。しかしながら、少なくとも二種、好ましくは三種の化学療法剤を含む化学療法剤カクテルと併用して抗VEGF抗体を用いる本発明の併用療法は、化学療法単独の場合と比較してこれら有害事象の発生頻度を有意には増加させない。よって、本発明の治療法は予期できないことに副作用を許容可能なレベルで含み、同時に抗癌効果を有意に改善する。
【0079】
V.製造品
本発明の他の実施態様では、前述した疾患の治療に有用な物質を含有する製造品が提供される。製造品は容器、ラベル及びパッケージ挿入物を含んでなる。適切な容器には、例えばボトル、バイアル、シリンジ等が含まれる。容器はガラス又はプラスチックのような様々な材料で形成することができる。容器は病状の治療に有効な組成物を収容しており、滅菌したアクセスポートを有している(例えば、容器は皮下注射針により貫通可能なストッパーを具備する静脈溶液用のバック又はバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも一種の活性剤は抗VEGF抗体である。容器上の又は容器に伴うラベルには、組成物が、選択された病状の治療に使用されることが示されている。製造品は、製薬的に許容可能なバッファー、例えばリン酸緩衝生理食塩水、リンガー液及びブドウ糖液を収容する第2の容器を更に含みうる。更に、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジを含む、市販及び使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含んでいてもよい。加えて、製造品は、例えば組成物をアントラサイクリンタイプの化学療法剤、例えばドキソルビシン又はエピルビシンと併用して使用してはいけないとの警告を含むか、又は抗VEGF抗体組成物と抗悪性腫瘍組成物を患者に投与することを組成物の使用者に指示する使用のための指図書を伴うパッケージ挿入物を含む。
【0080】
材料の寄託
次のハイブリドーマ細胞株を合衆国バージニア州マナッサスのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)にブタペスト条約の規定に従って寄託した:
抗体標記 ATCC番号 寄託日
A.4.6.1 ATCC HB-10709 1991年3月29日
【0081】
以下の実施例は本発明の実施を例示するためにのみ提供されるものであって、限定するものではない。ここで引用した全ての特許と科学文献を、その全体について出典明示によりここに取り込む。
VI.実施例
実施例1.第一選択転移性結腸直腸癌におけるボーラスイリノテカン/フルオロウラシル/ロイコボリン(IFL)に対する抗VEGF抗体の追加
転移性結腸直腸癌を治療するための標準的な第一選択化学療法に加えた場合のベバシツマブの効能と安全性を評価するために、多施設フェーズIII無作為化アクティブコントロール治験を実施した。試験には、組織学的に確認され過去に未治療の二次元的に測定可能な転移性結腸直腸癌を持つ900名の患者を含めた。
【0082】
方法と材料
抗VEGF抗体ベバシツマブ
「rhuMAb VEGF」又は「アバスチンTM」としても知られている抗VEGF抗体「ベバシツマブ(BV)」はPresta等(1997) Cancer Res. 57:4593-4599に従って産生された組換えヒト化抗VEGF抗体である。それはヒトVEGFのそのレセプターへの結合を阻害するマウス抗hVEGFモノクローナル抗体A.4.6.1からの抗原結合相補性決定領域と突然変異ヒトIgG1フレームワーク領域を含む。米国特許第6582959号;国際公開第98/45331号。フレームワーク領域の殆どを含むベバシツマブのアミノ酸配列のおよそ93%はヒトIgG1から由来し、その配列の約7%はマウス抗体A4.6.1から由来する。ベバシツマブは約149000ダルトンの分子量を有し、グリコシル化されている。
ポリペプチドとグリコシル化部位の同一性はアミノ酸組成及びペプチドマップから推定した。分子のサイズと荷電特性及び臨床用ロットの純度は、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法又はキャピラリー電気泳動非ゲルシービング、等電点電気泳動、並びにイオン交換及びサイズ排除クロマトグラフィーによって証明した。ベバシツマブの活性は組換えヒトVEGFに対する結合酵素結合免疫吸着測定法又はキナーゼレセプターアッセイによって定量した。
ベバシツマブは遺伝子操作したチャイニーズハムスターの卵巣細胞株を使用して組換えDNA技術によって産生した。そのタンパク質はカラムクロマトグラフィー及び濾過の常套的な方法によって細胞培地から精製した。最終産物について合衆国食品医薬品局のガイドラインに従って品質、同一性、安全性、純度、効力、強度、及び賦形剤/化学組成を試験した。ベバシツマブの純度は>95%である。ベバシツマブは非経口投与の準備ができた透明ないしは僅かに乳白色の滅菌液として供給される。
【0083】
患者の選択
適格な患者は組織学的に転移性結腸直腸癌腫を持つことが確認されており、二次元的に測定可能な疾患の患者である。他の算入基準は、年齢が少なくとも18歳であること、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG)パフォーマンスステータスが0又は1であること(Oken等(1982) Am. J. Clin. Oncol. 5:649-55)、3ヶ月以上の推定余命であること、同意書を得ていることを含むものであった。十分な血液学的機能、肝機能、及び腎臓機能(一日に500mg以下のタンパク質の尿分泌を含む)がまた必要とされた。
排除基準には、転移性疾患の以前の化学的又は生物学的治療(試験への参加が認められる前に12ヶ月を超えてアジュバント又はフルオロピリミジン類の放射線増感使用で、ロイコボリン又はレバミソールを伴うか伴わないもの)、試験治療開始の14日前に放射線治療を受けていること、試験治療開始の28日前に主要な外科手術を受けていること、臨床的に顕著な心臓疾患、臨床的に顕著な腹水、妊娠又は泌乳、アスピリン(一日当たり325mg以上)又は他の非ステロイド系抗炎症剤、既存の出血性素因又は凝固障害又は十分量の抗凝固剤の必要性、及び既知の中枢神経系転移が含まれる。
【0084】
試験計画
適格な患者をグループ間の全体的バランスを達成するように設計された動的無作為化アルゴリズムを使用して治療にあてがった;無作為化は試験センター、ベースラインECOGパフォーマンスステータス(0対1)、原発性疾患の部位(大腸又は直腸)、転移部位の数(一対一を超える数)に従って層化した。最初に、患者を無作為に1:1:1の比にあてがい、IFL+プラシーボ、IFL+ベバシツマブ、又はフルオロウラシル及びロイコボリン+ベバシツマブ(表1)を受けさせ、それぞれを、疾患進行又は許容できない副作用が生じるまでか又は最大96週間、継続した。

【0085】
300名の患者が無作為化を受けた後、中間分析を実施することを計画し、その時点で非盲検独立データ監視委員会が、各グループ中の死亡数を含むが腫瘍奏効に関する情報はないあらゆる利用可能な安全性情報に基づいてIFL+ベバシツマブの安全性を評価することにした。データ監視委員会がIFLへのベバシツマブの付加に帰すことができる厄介な有害事象がないと分かった場合にはフルオロウラシル及びロイコボリン+ベバシツマブを受けるようにあてがわれたグループへの患者の加入を中断することとし、更なる患者を1:1の比で無作為にあてがい、IFL+プラシーボ又はIFL+ベバシツマブの何れかを受けさせる。しかし、データ監視委員会が、IFL+ベバシツマブの安全性特性が許容できないと結論づけた場合には、その治療への割り当てを中止することとし、代わりに患者を1:1の比で無作為にあてがい、フルオロウラシル及びロイコボリン又はベバシツマブの併用か又はIFL+プラシーボの何れかを受けさせる。
腫瘍奏効率及び進行を、充実性腫瘍における奏効率評価基準を使用して決定した。Therasse等 (2000) J. Natl. Cancer Inst. 92:205-16。疾患進行時には、治療の割り当てを明らかにし、患者には第二選択治療法が提供されうる。ベバシツマブを含む治療にあてがわれたグループの患者はこの第二選択治療の間にベバシツマブを継続する選択肢を有していた。IFL+プラシーボが与えられたグループでは乗り換えは許されなかった。96週間の試験期間の終わりに進行性疾患の徴候がなかったベバシツマブを含む治療にあてがわれた患者は別の延長試験においてベバシツマブを継続して受けることができた。確認された完全寛解を有するか化学療法から許容できない副作用を受けたベバシツマブを受けたグループの患者は化学療法を中断しベバシツマブだけを受けた。
ベバシツマブ(又はプラシーボ)は化学療法と同時に投与された。ベバシツマブと化学療法剤の用量は、試験中に患者の体重が少なくとも10%変化した場合には計算しなおした。(パッケージ挿入物に従う)イリノテカンとフルオロウラシルの標準的な周期内及び周期間用量変更が治療に関連した有害事象を持つ患者において許容された。ロイコボリンとベバシツマブの用量は変更しなかった。
生存及び続いての治療の分析では、全ての患者を、死亡、経過観察の喪失、又は試験の終了まで追跡した。
【0086】
評価
ベースラインの評価後、腫瘍状態を、試験の最初の24週間の間6週間毎に、ついで治療の残りの間、12週間毎に評価した。全ての完全及び部分寛解は最初の認識から少なくとも4週後に確認を必要とした。
安全性は有害事象の報告、研究室での試験結果、及びバイタルサインの測定に基づいて評価した。有害事象は国立癌研究所のCommon Toxicity Criteria(バージョン2)に従って分類され、1のグレードは穏やかな有害事象を、2のグレードは中程度の有害事象を、3のグレードは深刻な有害事象を、4のグレードは生命を危険にする有害事象を示す。予め特定された安全性基準は全ての有害事象、全ての深刻な有害事象、及びベバシツマブに関連した有害事象−高血圧、血栓、グレード3又は4の出血、及びタンパク尿−並びにグレード3又は4の下痢、及び様々な研究室値及びバイタルサインのベースラインからの変化の発生含むものであった。十分な追跡データのない患者は奏効なしに分類した。
IFL+プラシーボとIFL+ベバシツマブのレジメンの安全性を監視するために、死亡、深刻な有害事象、グレード3又は4の下痢、任意の源からのグレード3又は4の出血、及び血栓の発生が、何れが先になろうと、補充の完了までか又は効能の中間分析の時にデータ安全性環視委員会によって非盲検の形で試験中に監視された。
【0087】
統計的解析
主要な結果の基準は全生存期間であった;生存は次の治療に関係なく測定した。しかし、グループ間に乗換えはなかった。生存分析技術、例えばKaplan-Meier法、ログランク検定、及びCox比例ハザードモデルを使用した。二次的結果の基準は無増悪生存、客観的奏効率(完全及び部分奏効)、奏効期間、及び生活の質であった。
分析時に生きていた患者に対して、生存についてのデータを最後の接触時に検定した。無増悪生存を試験中の無作為化から進行又は死亡までの時間と定義し、試験中の死亡はベバシツマブ又は化学療法剤の最後の投薬後30日以内に生じた任意の死亡と定義した。最終分析時において疾患進行のない患者に対しては、無増悪生存に対するデータを腫瘍状態の最後の評価時又はベースライン後に実施された更なる評価がない場合には0日目に検定した。
コントロールグループと比較してIFL+ベバシツマブを与えたグループにおける0.75の死亡ハザード比を検出するために、およそ385名の死亡が必要であった。全ての計算はログランク検定で実施され、両側P値を含み、0.05のα値、80パーセントの統計的検出力、及び一中間効能解析で実施された。
中間解析は非盲検の形で実施した。安全性の中間解析は各グループにおよそ100名の患者を無作為にあてがった後に実施した。安全性及び効能の第二の中間解析は193名の死亡が生じた後に実施した(必要とされた事象の数の半分)。
効能解析は包括解析原理に従って実施した。安全性解析には少なくとも一回の用量の試験医薬を受けた全ての患者を含めた。
【0088】
結果
患者の特性
約20ヶ月の期間中、923名の患者が合衆国、豪州、及びニュージーランドの164の箇所で無作為化を受けた。313名の患者を3グループの一つに無作為にあてがった−100名をIFL+プラシーボに、103名をIFL+ベバシツマブに、110名をフルオロウラシル、ロイコボリン、及びベバシツマブにあてがい、フルオロウラシル、ロイコボリン及びベバシツマブを与えたグループへの当てがいを停止した(このグループでの結果は報告されない)。この工程は、安全性の最初の正式な中間解析の結果、IFL+ベバシツマブのレジメンが許容可能な安全特性を有しこのグループへのあてがいが継続することが結論付けられた後にプロトコルによって必要とされた。
全体生存の主要なエンドポイントの包括解析には、IFL+プラシーボを与えたグループの411名の患者とIFL+ベバシツマブを与えたグループの402名の患者が含まれた。表2は選択された人口学的及びベースライン特性を示し、これはグループ間で良好に均衡していた。各グループにおいて同様な数の患者が過去に結腸直腸癌に対して外科手術を受けたか又は放射線療法又はアジュバント化学療法を受けていた。
【0089】
治療
治療期間中央値はIFL+プラシーボを与えたグループで27.6週間、IFL+ベバシツマブを与えたグループで40.4週間であった。与えられたイリノテカンの計画された用量の割合は二つのグループで同様であった(IFL+プラシーボを与えたグループで78パーセント、IFL+ベバシツマブを与えたグループで73パーセント)。
データカットオフの日付から、IFL+プラシーボを与えたグループの33名の患者と、IFL+ベバシツマブを与えたグループの71名が更にそのあてがわれた最初の治療を受けた。オキサリプラチン又はメタスタセクトミー(metastasectomy)のような生存に影響を与えたかもしれない第二選択療法の使用の割合を二グループ間で良好に均衡させた。両グループで、およそ50パーセントの患者が第二選択療法のある形態のものを受け;全患者の25パーセントがオキサリプラチンを受け、2パーセント未満の患者がメタスタセクトミーを受けた。

【0090】
効能
主要なエンドポイントである全生存期間の中央値はIFL+プラシーボを与えたグループにおけるよりもIFL+ベバシツマブを与えたグループにおいて有意に長かった(20.3ヶ月対15.6ヶ月)が、これは0.66(P<0.001)の死亡ハザード比(表3及び図1)に、又はベバシツマブグループにおいて死亡リスクの34パーセントの低減に相当する。一年生存率は、IFL+ベバシツマブを与えたグループにおいて74.3パーセントであり、IFL+プラシーボを与えたグループで63.4パーセントであった(P<0.001)。オキサリプラチンで第二選択治療を受けた患者のサブグループでは、全生存期間の中央値はIFL+ベバシツマブを与えたグループにおいて25.1ヶ月で、IFL+プラシーボを与えたグループにおいて22.2ヶ月であった。
IFLへのベバシツマブの添加には、無増悪生存期間の中央値(10.6ヶ月対6.2ヶ月;IFL+プラシーボを与えたグループとの比較で0.54の進行ハザード比;P<0.001);奏効率(44.8パーセント対34.8パーセント;P=0.004);及び奏効期間の中央値(10.4ヶ月対7.1ヶ月、進行ハザード比、0.62;P=0.001)(表3)の増加が伴った。図2は無増悪生存期間のKaplan-Meier推定を示している。年齢、性別、人種、ECOGパフォーマンスステータス、原発性腫瘍の一、先のアジュバント療法の有無、転移性疾患の期間、転移部位の数、結腸直腸癌の診断後の年数、前の放射線療法の有無、ベースライン腫瘍負荷、及びアルブミン、アルカリホスファターゼ、及び乳酸デヒドロゲナーゼの血清中濃度に応じて定義されたものを含む治療効果は予め特定されたサブグループにおいて一致していた。
【0091】

【0092】
安全性
表4は、あてがわれた治療中における選択されたグレード3又は4の有害事象の発生を表し、治療期間の中央値に対する調整はない(IFL+プラシーボを与えたグループで27.6週間、IFL+ベバシツマブを与えたグループで40.4週間)。あらゆるグレード3又は4の有害事象の発生は、主としてグレード3の高血圧(治療を必要とする)の発生とグレード4の下痢と白血球減少の発生の増加のため、IFL+プラシーボを受けた患者におけるよりもIFL+ベバシツマブを受けた患者においておよそ10パーセント高いポイントであった。しかしながら、入院又は試験治療の中断又は任意の原因による60日死亡率に至る有害事象の発生では有意な差はなかった。

【0093】
フェーズ1及び2の試験では可能なベバシツマブ関連有害事象として出血、血栓塞栓症、タンパク尿症、及び高血圧が同定された。しかしながら、本試験では、IFL+プラシーボを与えたグループと比較すると、IFL+ベバシツマブを与えたグループにおいて高血圧の発生のみが明らかに増加した。高血圧の全ての発症は標準的な経口血圧降下薬(例えばカルシウムチャンネル遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、及び利尿薬)で管理可能であった。ベバシツマブグループではベバシツマブ治療の停止、高血圧性クリーゼ、又は高血圧に関連した死亡はなかった。
グレード2又は3のタンパク尿症(グレード4のタンパク尿症又はネフローゼ症候群の発症はなかった)及び任意の原因のグレード3又は4の出血の割合は二グループで同様であったが、グレード4の出血の3事例全てがIFL+ベバシツマブを与えたグループにおいてであった。全ての静脈及び動脈血栓事象の発生はIFL+ベバシツマブを与えたグループで19.4パーセントであり、IFL+プラシーボを与えたグループで16.2パーセントであった(P=0.26)。
IFL+ベバシツマブを受けた6名の患者(1.5パーセント)において胃腸穿孔が生じた。1名の患者がこの事象の直接の結果、死亡したが、他の5名は回復した(その3名は続く合併症を伴わないで治療を再開することができた)。穿孔の6名の患者のなかで、3名においてIFL+ベバシツマブに対して完全又は部分的寛解が確認された。胃腸穿孔に付随したかもしれない試験治療以外の因子は2名の患者では過去2ヶ月内に大腸の外科手術をしており、1名の患者では消化性潰瘍疾患があったことであった。
【0094】
このフェーズIII試験の結果は、癌治療における抗血管新生剤の広く適用可能な使用に対する直接の裏付けを提供する。IFL化学療法に抗VEGF抗体のベバシツマブを加えると、例えば全生存率、無増悪生存率、奏効率及び奏効期間によって測定して、臨床的に意味があり統計的に有意な改善を癌患者にもたらした。ベバシツマブに帰する生存期間の中央値における4.7ヶ月の増加は結腸直腸癌の治療に対する任意の他のフェーズ3試験で観察されたものと同じか又は大きい。Goldberg等(2004) J. Clin. Oncol. 22:23-30。この試験中において第二選択療法に対するオキサリプラチンの限られた利用性にもかかわらず、ベバシツマブ処置集団における20.3ヶ月の生存期間の中央値が得られた。
IFL単独の場合と比較すると、IFL+ベバシツマブのレジメンは、中央値6.2ヶ月から10.6ヶ月まで無増悪生存期間を、34.8パーセントから44.8パーセントまで全奏効率を、そして7.1ヶ月から10.4ヶ月まで奏効期間の中央値を増加させた。これらの改善は臨床的に意味がある。IFL+ベバシツマブでの10パーセントの奏効率の絶対的改善にこの大きさの生存の増加が伴うとは予測しなかった。この観察は、ベバシツマブの主要な機序が腫瘍縮小よりもむしろ腫瘍成長の阻害であることを示唆している。
この臨床的恩恵には治療の副作用の比較的穏やかな増加が伴ったが、これは簡単に管理した。主に治療を必要とする高血圧、下痢、及び白血球減少症に帰するグレード3及び4の有害事象の全体の発生においておよそ10パーセントの絶対的増加があった。任意の原因の60日死亡率、入院、及び治療の中止はIFLにベバシツマブを加えることによって有意には増加しなかった。
【0095】
過去のフェーズ1及び2の臨床試験は、ベバシツマブ単独又は化学療法での治療の結果、血栓、出血、タンパク尿症及び高血圧の発生が増加することを示唆していた。Kabbinavar等(2003) J. Clin. Oncol. 21:60-65;Yang等(2003) New Engl. J. Med. 349:427-34。高血圧を除いて、IFL+プラシーボを与えたグループでのその発生と比較して過剰のこれら副作用は見出されなかった−よって、安全性並びに効能の評価に対して無作為化したプラシーボを対照とした試験の重要性を明らかにする。生じた一つの新しい潜在的な副作用は胃腸穿孔であった。この合併症は一般的ではなく、不定の臨床症状を有していた。特に、好中球減少症の患者における深刻な腸合併症が、結腸直腸癌に対するIFL及び他の化学療法レジメンで報告されており、一シリーズでは、瘻孔がフルオロウラシル系レジメンで治療した患者の2パーセント以上で報告されている。Saltz等(2000) New Engl. J. Med. 343:905-914;Rothenberg等(2001) J. Clin. Oncol. 19:3801-7;Tebbutt等(2003) Gut 52:568-73。IFL+プラシーボを与えたグループではこのような事象は生じないが、しばしば全腫瘍奏効の設定において、IFL+ベバシツマブを与えたグループで6の事例が観察された(1.5パーセント)。これら6名の患者のうち3名は続く合併症がなく治療を再開することができたが、1名の患者は死亡し、2名はこの合併症の結果永久に治療を停止した。
これまでの動物実験と初期フェーズの臨床試験では、癌の治療のために抗血管新生療法の使用が示唆されているが、血管形成阻害剤、例えば抗VEGF抗体の使用が確かに統計的に有意で臨床的に意味のある恩恵を癌患者にもたらすことを本試験が初めて実証した。
【0096】
実施例2.第一選択転移性結腸直腸癌におけるボーラス5-FU/ロイコボリンに対するベバシツマブの付加
この無作為化フェーズII試験は、第一選択イリノテカンの非最適候補と考えられる患者における第一選択治療法としてベバシツマブ+5-フルオロウラシル及びロイコボリン(5-FU/LV)対プラシーボ+5-FU/LVを比較した。
【0097】
患者と方法
患者適格性
組織学的に確認され、過去に未治療で、測定可能な転移性結腸直腸癌の患者は、研究者の判断で、それらが第一選択イリノテカン含有治療法の最適な候補ではなく、次の特性の一つを有していたならば適格性があることとした:65歳を越える年齢、1又は2のECOG PS、3.5g/dL以下の血清アルブミン、又は腹部又は骨盤に対する前の化学療法。患者は、大外科手術又は直視下生検を受けている場合、又は試験への加入28日前までに大きな外傷を被った場合;あるいは試験過程で大手術の必要性が予想された場合;治療用抗凝固剤(カテーテル開通性に必要な場合を除く)、アスピリン(≧325mg/日)又は非ステロイド系抗炎症薬を用いた血栓溶解療法又は慢性の毎日の治療を現在使用しているか最近使用した場合;深刻な非治癒性創傷、潰瘍又は骨折を被った場合;CNS転移の病歴又は証拠がある場合;妊娠又は泌乳をしていた場合;又は、タンパク尿症であるかベースラインの腎機能に臨床的に顕著な損傷があった場合、排除された。全患者は参加に対して同意書を提出した。
【0098】
試験計画と治療
適格な患者を二つの治療グループ:5-FU/LV+プラシーボ又は5-FU/LV+ベバシツマブの一つに無作為に割り当てるために双方向音声応答システムを使用した。動的無作為化アルゴリズムを使用して全体のバランスを達成し、次のカテゴリーのそれぞれになるようにした;試験センター、ベースラインECOGパフォーマンスステータス(0対≧1)、原発性疾患の部位(大腸又は直腸)、及び転移部位の数(1対>1)。2時間にわたるLV500mg/mとLV注入の中間でのボーラスとして5-FU500mg/mを含む5-FU/LV治療(Roswell Parkレジメン;Petrelli等 (1989) J. Clin. Oncol. 7:1419-1426)を各8週間周期の最初の6週間、毎週投与した。化学療法は試験完了(96週間)又は疾患進行まで継続した。ベバシツマブ5mg/kg又はプラシーボは2週間毎に投与した。化学療法治療の結果、確認された完全寛解を示すか又は許容できない毒性を被ったベバシツマブ治療群の患者は5-FU/LVを中断し、第一選択治療としてベバシツマブだけを受け続けた。疾患進行時に患者にその治療割り当てを明らかにし、研究者の裁量によって任意の第二選択療法を受けさせた。ベバシツマブ群に無作為化されている患者だけは第二選択治療法の成分としてベバシツマブを受けさせた。試験の完了後は、死亡、追跡不能又は試験の終結まで4ヶ月毎にあらゆる次の治療と生存について患者を追跡した。
【0099】
試験評価
患者は、適当な放射線学的技術、典型的にはスパイラルCTスキャンを使用してベースライン及び8週間の周期の完了時に腫瘍状態の評価を受けた。腫瘍奏効又は進行は充実性腫瘍における奏効率評価基準を使用して研究者と独立の放射線透過施設(IRF)の双方により決定された。Therasse等 (2000)。IRFの評価は治療の割り当て又は研究者の評価の知識なしに実施された。また、患者は、ベースライン及び疾患進行まで各治療周期の前に、結腸直腸癌患者における生活の質(QOL)を評価するための有効な機器の癌治療−結腸直腸の機能性評価(FACT-C)バージョン4を完了した。Ward等 (1999) Qual. Life Res. 8:181-195。
安全性は有害事象の報告、研究室での試験結果、及びバイタルサインの測定から評価した。有害事象及び異常な研究室での結果は国立癌研究所のCommon Toxicity Criteria(NCI-CTC)(バージョン2)に従って分類された。予め特定された安全性基準は、ベバシツマブの過去の臨床試験の知見に基づく特別な興味のある4種の有害事象(高血圧、タンパク尿症、血栓、及び出血)を含んでいた。
【0100】
統計的解析
主要な結果の基準は全生存期間であった。二次的結果の基準は無増悪生存、客観的奏効率(完全及び部分)、奏効期間、及びFACT-C QOLスコアの変化を含んでいた。生存期間は無作為化から死亡までの時間と定義した。分析時に生きていた患者に対して、生存期間を最後の接触の日に検定した。無増悪生存を無作為化から疾患進行又は、試験薬剤又は化学療法剤の最後の投薬後30日以内に生じた任意の死亡と定義した試験時の死亡の何れか早いものまでの時間と定義した。分析時において疾患進行のない生きている患者に対しては、無増悪生存を腫瘍の最後の評価時に又はベースライン後評価が実施されなかった場合には1日目(試験治療の最初の日)に検定した。客観的奏効の分析では、腫瘍評価
患者は非応答者に分類した。疾患進行及び奏効分析はIRF評価に基づいた。生活の質の変化は、無作為化から大腸癌特異的FACT-C下位尺度(CCS)のベースラインからの≧3ポイント減少、疾患進行、又は試験中の死亡のなかの最も早いものまでの時間長さとして定義されるQOL(TDQ)の悪化までの時間として分析された。TDQはまたTOI-C(CCS、身体的及び機能的健康の合計)に対して、全FACT-Cはそれぞれ7及び9点のベースラインからの変化に対して決定した。
5-FU/LV/プラシーボグループに対して5-FU/LV/ベバシツマブグループにおける0.61の死亡ハザード比を検出するために、およそ133名の死亡が必要であった。80%の検出力で0.05レベルの有意性での両側ログランク検定及び2つの中間解析を計算で仮定した。中間解析は非盲検独立データ監視委員会(DMC)によって実施した。安全性中間解析は44名の死亡後に実施し、第二の安全性及び効能中間解析は89名の死亡後に実施した。中間効能解析はオブライエン-フレミング・スペンディング関数に基づくフォーマルグループ逐次ストッピングルールによって支配されていた。Kaplan-Meier法を適用して、各治療グループにおける生存中央値、無増悪生存、及び奏効期間を推定した。プラシーボグループに対するベバシツマブグループのハザード比は層化Cox比例ハザードモデルを使用して決定した。両側層化ログランク検定を使用して二つのグループを比較した。層化解析はベースラインECOGパフォーマンスステータス、原発性疾患の部位、及び転移部位の数を含んでいた。客観的奏効率をχ二乗検定によって比較した。予備解析として、Cox比例ハザードモデルを使用して生存期間及び無奏効生存期間に対する治療効果の改変に対するリスク因子の影響を推定した。効能解析は、全ての無作為化された患者として定義された包括解析集団に対して実施した。安全性解析には少なくとも一回の用量の試験医薬を受けた全ての患者を含めた。
【0101】
結果
患者の特性
23ヶ月の期間中、209名の患者が合衆国、豪州/ニュージーランドの60の箇所で無作為化を受けた。主要なエンドポイント(全生存)の包括解析に対しては、5-FU/LV/プラシーボグループに105名の患者を、5-FU/LV/ベバシツマブグループに104名の患者を含めた。実施例1に記載したものと同様の選択された人口統計学的及びベースライン特性は治療グループ間で合理的に均衡していた。ベースラインでの低血清アルブミン(≦3.5g/dL)はプラシーボグループにおけるよりもベバシツマブグループにおいて一般的ではなかった。
【0102】
治療
治療期間中央値は5-FU/LV/プラシーボグループで23週間で、5-FU/LV/ベバシツマブグループで31週間であり、二つのグループでの5-FU用量強度(実際に受けた計画5-FU用量の割合)は治療過程中、同様であった(92%対84%)。
カットオフ日の日付から、5-FU/LV/プラシーボグループの1名の患者と、5-FU/LV/ベバシツマブグループの7名が割り当ての最初の治療に残った。生存に影響を与えたかもしれない次の治療法を、両グループのおよそ50%の患者で使用したが、5-FU/LV/プラシーボグループの患者がより多く活性剤イリノテカン及びオキサリプラチンで治療された。
【0103】
効能
主要なエンドポイントである全生存期間の中央値は5-FU/LV/プラシーボグループ(中央値、12.9ヶ月)におけるよりも5-FU/LV/ベバシツマブグループ(中央値、16.6ヶ月)においてより長く、有意性の傾向を証明している。死亡ハザード比は0.79(95%CI、0.56から1.10;P=0.16;表5及び図4)と推定された。5-FU/LVへのベバシツマブの付加には、無増悪生存の中央値(9.2対5.5ヶ月;ハザード比=0.50;95%CI、0.34から0.73;P=0.0002、表5及び図4)、奏効率(26.0%対15.2%、P=0.055)、及び奏効期間の中央値(9.2ヶ月対6.8ヶ月;ハザード比=0.42;95%CI、0.15から1.17;P=0.088)の増加が伴った。ベースライン特性による全生存に対する治療効果の更なる解析は、ベースラインで低血清アルブミン(≦3.5g/dL)の患者は有意な生存効果(ハザード比=0.46;95%CI、0.29から0.74;P=0.001)を導くようであることを示している。

【0104】
ベバシツマブ治療は生活の質に致命的な影響を及ぼさず、TDQは可能な恩恵のある効果を示唆している。CCSスコアで測定したTDQ中央値は5-FU/LV/プラシーボグループで3.0ヶ月、5-FU/LV/ベバシツマブグループで3.1ヶ月であった(ハザード比=0.79、P=0.188)。二次TDQ測定値によって測定されたプラシーボ治療及びベバシツマブ治療患者に対するTDQ中央値は2.3及び3.2ヶ月(TOI-C;ハザード比=0.71、P=0.048)で、2.6及び3.6ヶ月(全FACT-C;ハザード比=0.66、P=0.016)であった。
【0105】
安全性
少なくとも1回の試験薬投与を受けた計204名の患者(104名の5-FU/LV/プラシーボ及び100名の5-FU/LV/ベバシツマブ)が安全性の集団を構成した。全グレード3及び4の毒性において16%の増加(71%対87%)がベバシツマブを受けた患者に対して観察された。死亡又は試験中断に至る有害事象は、5-FU/LVに伴うことが知られている有害事象(特に下痢及び白血球減少)において、二つのグループで同様であった。双方とも5-FU/LV/ベバシツマブグループの2名の患者が腸穿孔事象を被った。これらの事象は治療の110日と338日に生じ、両方とも外科的診査において結腸憩室を併発していることが診察された。1名の患者はこの合併症のために死亡した。過去の臨床試験は、可能なベバシツマブ関連毒性として出血、血栓塞栓症、タンパク尿症、及び高血圧を示唆しているが、この試験では、静脈血栓、≧グレード3の出血、又は臨床的に顕著な(≧グレード3)タンパク尿症に増加は見られなかった。動脈血栓事象(心筋梗塞、発作、又は末梢動脈血栓事象)が、5-FU/LV/プラシーボグループの5名の患者と比較して、5-FU/LV/ベバシツマブグループでは10名の患者で生じた。
5-FU/LV/プラシーボグループは5-FU/LV/ベバシツマブグループと比較して高い原因を問わない60日死亡率を有していた(13.5%対5.0%)。最初の60日における疾患進行による死亡は二つのグループにおいて同様であった(5.8%対4.0%)。5-FU/LV/プラシーボグループでは、疾患進行によらない最初の60日以内の死亡は次のものに帰した:心不全(1)、敗血症(3)、下痢(2)、呼吸不全(1)、及び肺動脈塞栓(1)。5-FU/LV/ベバシツマブグループでは、疾患進行によらない一つの早期死亡は心筋梗塞によるものであった。
【0106】
この臨床試験の結果は、VEGFに対するヒト化モノクローナル抗体であるベバシツマブが転移性結腸直腸癌の治療に対する第一選択化学療法に加えられる場合、重要な臨床的恩恵をもたらすことを更に証明する。5-FU/LV単独の場合と比較すると、ベバシツマブの付加は生存期間の中央値を3.7ヶ月、無増悪生存期間を3.7ヶ月、奏効期間を2.4ヶ月延ばし、奏効率を11%増加させた。
これらの結果は試験集団を考慮して観察されなければならない。恩恵の可能性が低いか又は治療に伴う毒性が高い可能性の何れかのために、第一選択イリノテカン含有治療の不適な候補であった患者が特に選択された。重要なイリノテカン試験の注意深い解析から、この薬剤からの臨床効果は正常なECOGパフォーマンスステータス(PS=0).21,22の患者に限られていることが示された。年齢の高齢化、先の骨盤への放射線療法、損なわれたパフォーマンスステータス、及び低血清アルブミンは全てイリノテカン関連毒性を増加させることが報告された。これらの特性を持つ23−27の患者は代替の治療選択肢を必要とする。CRCにおいてベバシツマブと5-FU/LVを評価する小さい無作為化フェーズII試験からのレトロスペクティブサブセット分析が過去に実施され、ベースラインPS1又は2の患者のサブセットにおいて(生存中央値、6.3ヶ月対15.2ヶ月)、年齢≧65歳のサブセットにおいて(11.2ヶ月対17.7ヶ月)、及び<3.5の血清アルブミンのサブセットにおいて(8.1ヶ月対14.1ヶ月)における実質的な治療効果をもたらしたことが分かった。これらの結果は、乏しい予後試験集団を特に含む現在の試験を計画することに自信を与え、生存に対する大きな治療効果を検出すべく試験を推進する。我々は、IFL/プラシーボ対IFL/ベバシツマブの同時に実施された中枢試験とは異なった集団を含めることに概して成功した。枢試験と比較して、本試験の患者は高い年齢中央値(72対61歳)を有しており、実質的に多くの患者が>0のパフォーマンスステータス(72%対43%)と≦3.5mg/dLのアルブミン(46%対33%)を有していた。
【0107】
この高リスクの試験集団にかかわらず、5-FU/LV/ベバシツマブのレジメンは十分に耐性があったように思われる。グレード3の高血圧のよく記述されたベバシツマブ関連有害事象が5-FU/LV/ベバシツマブグループの16%に見られ、これに対して5-FU/LV/プラシーボグループでは3%に見られた。グレード4の高血圧の症例は生じなかった。任意のグレードのタンパク尿症が38%の5-FU/LV/ベバシツマブグループに見られたのに対して5-FU/LV/プラシーボグループでは19%であったが、ベバシツマブグループの一人の患者だけがグレード3のタンパク尿症を生じ、グレード4のタンパク尿症の症例はなかった。グレード3又は4の出血又は静脈血栓事象における増加はベバシツマブ治療患者には見られなかった。動脈血栓事象の発生には不均衡があった:つまり、5-FU/LV/プラシーボグループの4.8%と比較して5-FU/LV/ベバシツマブグループで10%。同様の不均衡が重要なベバシツマブ試験で認められた(IFL/プラシーボグループの1.0%とIFL/ベバシツマブグループの3.3%)。本試験に含められた更に高齢の集団はこの有害事象の高い全発生率に寄与している可能性があるが、両試験における不均衡は顕著である。ベバシツマブ治療に付随するこれらの、また他の一般的ではない有害事象に対して発生及び潜在的リスク因子を更に定めるには大規模な観察安全性試験が必要であろう。
まとめると、これらのデータは、ボーラス5-FU/LVと併用すると、ベバシツマブは、イリノテカン関連毒性含有治療法には適さない候補であると思われる過去に未治療の転移性結腸直腸癌の患者に大幅な臨床的恩恵をもたらすことを実証している。重要な試験結果と合わせると、これらのデータは、ベバシツマブベースの5-FU/LV含有治療法が転移性結腸直腸癌の最初の治療法の標準的な選択肢であると考えるべきであるという証拠を補強する。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は生存のKaplan-Meier推定を表す。生存期間の中央値(破線で示す)は、IFL+プラシーボを与えたグループでの15.6ヶ月と比較した場合、イリノテカン、フルオロウラシル、及びロイコボリン(IFL)を与えたグループでは20.3ヶ月であり、0.06(P<0.001)の死亡ハザード比に相当した。
【図2】図2は無増悪生存のKaplan-Meier推定を表す。無増悪生存期間の中央値(破線で示す)は、IFL+プラシーボを与えたグループでの6.2ヶ月と比較した場合、イリノテカン、フルオロウラシル、及びロイコボリン(IFL)を与えたグループでは10.6ヶ月であり、0.54(P<0.001)の進行ハザード比に相当した。
【図3A】図3Aはベースライン特性によって分けられた異なるサブグループの患者の生存期間の分析を提供する。
【図3B】図3Bはベースライン特性によって分けられた異なるサブグループの患者の生存期間の分析を提供する。
【図3C】図3Cはベースライン特性によって分けられた異なるサブグループの患者の生存期間の分析を提供する。
【図4】図4は5-FU/LV+プラシーボを与えたグループ対5-FU/LV+ベバシツマブ(BV)を与えたグループを比較する生存期間のKaplan-Meier推定を表す。
【図5】図5は5-FU/LV+プラシーボを与えたグループ対5-FU/LV+ベバシツマブ(BV)を与えたグループを比較する無増悪生存期間のKaplan-Meier推定を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者において癌を治療する方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物を投与することを含み、上記抗悪性腫瘍組成物が少なくとも一種の化学療法剤を含有する方法。
【請求項2】
癌が、乳癌、結腸直腸癌、直腸癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝臓癌、膵癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド癌腫、頭部及び首部の癌、メラノーマ、卵巣癌、中皮腫、及び多発性骨髄腫からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
癌が転移性である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
患者が過去に治療されていない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
化学療法剤が、アルキル化剤、代謝拮抗剤、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体及び関連した阻害剤、ビンカアルカロイド、エピポドピロトキシン(epipodopyyllotoxins)、抗生物質、L-アスパラギナーゼ、トポイソメラーゼ阻害剤、インターフェロン、白金配位錯体、アントラセンジオン置換尿素、メチルヒドラジン誘導体、副腎皮質抑制薬、副腎皮質ステロイド、プロゲスチン、エストロゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン、抗アンドロゲン、及び生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
化学療法剤が、5-フルオロウラシル(5-FU)、ロイコボリン、イリノテカン、オキサリプラチン、カペシタビン、パクリタキセル及びドキセタキセルからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
抗悪性腫瘍組成物が少なくとも二種の化学療法剤の組み合わせを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
抗悪性腫瘍組成物が5-FUとロイコボリンを含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗悪性腫瘍組成物が5-FUとロイコボリンとイリノテカンを含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物での治療の完了時に、患者が少なくとも一種の化学療法剤での化学療法を更に受ける、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
更なる化学療法剤での治療に使用される化学療法剤が、5-FU、ロイコボリン、イリノテカン、オキサリプラチン、カペシタビン、パクリタキセル及びドキセタキセルからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
化学療法剤がオキサリプラチンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記抗VEGF抗体が、ハイブリドーマATCC HB10709によって産生されるモノクローナル抗VEGF抗体A4.6.1と同じエピトープに結合する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
抗VEGF抗体が、ヒト抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
抗VEGF抗体が、ヒト化抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
抗VEGF抗体が、ヒト化A4.6.1抗体又はその断片である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
抗VEGF抗体が静脈内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
抗VEGF抗体が2から3週間毎に約5mg/kgで患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が、ヒト患者の生存期間を効果的に増大させる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
患者の生存期間が、抗悪性腫瘍組成物単独で治療された他の患者と比較した場合、少なくとも約2ヶ月増大している、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が、ヒト患者の無増悪生存期間を効果的に増大させる、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
患者の無増悪生存期間が、抗悪性腫瘍組成物単独で治療された他の患者と比較した場合、少なくとも約2ヶ月増大している、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が、一群のヒト患者における奏効率を効果的に増大させる、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
ヒト患者群の奏効率が、抗悪性腫瘍組成物単独で治療された他の群の患者と比較した場合、0.005未満のχ二乗p値で有意に増大している、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が、ヒト患者の奏効期間を効果的に増大させる、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
患者の奏効期間が、抗悪性腫瘍組成物単独で治療された他の患者と比較した場合、少なくとも約2ヶ月増大している、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
結腸直腸癌であると疑われるか又は診断されたヒト患者を治療する方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体を投与することを含んでなる方法。
【請求項28】
結腸直腸癌が転移性である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
上記抗VEGF抗体が、ハイブリドーマATCC HB10709によって産生されるモノクローナル抗VEGF抗体A4.6.1と同じエピトープに結合する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
抗VEGF抗体が、ヒト抗体である、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
抗VEGF抗体が、ヒト化抗体である、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
抗VEGF抗体が、ヒト化A4.6.1抗体又はその断片である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
抗VEGF抗体が静脈内投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
抗VEGF抗体が2から3週間毎に約5mg/kgで患者に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
一又は複数の化学療法剤を患者に投与することを更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
化学療法剤が、アルキル化剤、代謝拮抗剤、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体及び関連した阻害剤、ビンカアルカロイド、エピポドピロトキシン(epipodopyyllotoxins)、抗生物質、L-アスパラギナーゼ、トポイソメラーゼ阻害剤、インターフェロン、白金配位錯体、アントラセンジオン置換尿素、メチルヒドラジン誘導体、副腎皮質抑制薬、副腎皮質ステロイド、プロゲスチン、エストロゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン、抗アンドロゲン、及び生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体からなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
化学療法剤が、5-フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン、オキサリプラチン、カペシタビン、パクリタキセル及びドキセタキセルからなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
転移性結腸直腸癌のヒト患者又は一群のヒト患者を治療する方法であって、患者に有効量の抗VEGF抗体組成物と抗悪性腫瘍組成物を投与することを含み、上記抗悪性腫瘍組成物が化学療法剤のフルオロウラシルベースの組み合わせを含有し、それによって、抗VEGF抗体と抗悪性腫瘍組成物の同時投与が、生存期間、無増悪生存、奏効率又は奏効期間によって測定される治療患者の統計的に有意で臨床的に意味のある改善を生じる方法。
【請求項39】
抗悪性腫瘍組成物が5-FUとロイコボリンとイリノテカンを含んでなる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
抗悪性腫瘍組成物が、500mg/mの5−FU、20mg/mのロイコボリン及び125mg/mのイリノテカンを有する投与治療剤を含み、4週間の間の毎週の投与とその後の2週間の休止からなる反復6週周期で患者に投与され、抗VEGF抗体が隔週に5mg/kgで患者に投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
抗悪性腫瘍組成物が5-FUとロイコボリンを含んでなる、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
5-FUとロイコボリンが、4週間の間の毎週の投与とその後の2週間の休止からなるそれぞれ反復8週間周期で500mg/mで患者に投与される、抗VEGF抗体が隔週に5mg/kgで患者に投与される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
第一選択イリノテカン治療法の非最適候補と考えられるヒト患者のための請求項41に記載の方法。
【請求項44】
抗悪性腫瘍組成物が5-FU、ロイコボリン及びオキサリプラチンを含有する、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
容器と、抗VEGF抗体を含有する容器内の組成物と、組成物の使用者に抗VEGF抗体組成物と少なくとも一種の化学療法剤を含有する抗悪性腫瘍組成物を癌患者に投与することを指示するパッケージ挿入物を含む製造品。
【請求項46】
抗VEGF抗体組成物と、患者の癌を治療するために抗VEGF抗体組成物と少なくとも一種の化学療法剤を含有する抗悪性腫瘍組成物を使用するための指示書を含むパッケージを含む、ヒト患者の癌を治療するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−326860(P2007−326860A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−167859(P2007−167859)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【分割の表示】特願2006−515027(P2006−515027)の分割
【原出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】