説明

抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法、溶接方法、及び溶接部材

【課題】抵抗スポット溶接において実際の溶接作業を行うことなく、予めスパッタの発生有無を予測可能とするとともに、質の高い溶接が可能である抵抗スポット溶接方法及び高品質な溶接部材を提供する。
【解決手段】2つの電極間に重ねた二つ以上の被溶接材を挟み、該電極で該被溶接材を押圧しつつ通電することにより二つ以上の被溶接材を接合する抵抗スポット溶接において、該二つ以上の被溶接材のうち互いに接触する任意の二つの被溶接材の接触界面に関してスパッタ発生の有無を予測する方法であって、電極の被溶接材を押圧する力である電極加圧力FSと、抵抗スポット溶接時の互いに接触する任意の二つの被溶接材が溶融せずに互いに接触する界面である非溶融部に作用する力FCとに基づきスパッタ発生の有無を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質の高い抵抗スポット溶接を可能するためのスパッタ発生の予測方法、溶接方法及び溶接部材に関し、詳しくは、抵抗スポット溶接において溶接しようとする条件でスパッタが発生するか否かを溶接作業前に机上で検討することができる抵抗スポット溶接のスパッタ発生を予測する方法、該方法を適用した溶接方法及び溶接部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の各種工業部材における材料同士の接合方法の1つとして、抵抗スポット溶接が用いられている。これは、接合される二つ以上の被溶接部材を電極間に挟み、該電極によって被溶接部材に押圧する力をかけつつ通電するというものである。これにより、通電された二つ以上の被溶接部材の接触界面の一部が溶融されて接合される。
【0003】
かかる抵抗スポット溶接において、該抵抗スポット溶接時に生じるスパッタやチリと称される溶融部からの溶融金属の飛散(以降、「スパッタ」と記載する。)は、作業環境を悪化させるとともに、製品表面への該スパッタの付着により製品品質の低下の原因となる。さらに、スパッタの発生量が過度の場合には接合部における継ぎ手としての強度が著しく低下する。かかる観点からスパッタは可能な限りその発生を抑えることが望まれる。
【0004】
従来において、スパッタの発生を抑制するための手段として、それぞれの溶接板組みに対して多くの予備的な溶接実験を行い、スパッタが発生する溶接条件(チリ限)を事前に把握し、実際の溶接工程を管理するのが一般的であった。
【0005】
また、特許文献1には、溶接作業中にチリ(スパッタ)の発生状況を認識する方法が開示されている。これは溶接中に赤外線カメラにより温度情報を得てこれを利用して定量的にチリ発生状況を認識するというものである。
【0006】
【特許文献1】特開平10−113776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハイテンや超ハイテン等の新しい材料が次々と実用化され、溶接される板組みの種類が複雑化する近年の状況においては、従来における実験的検討や過去の経験のみからスパッタ発生の有無を決定することがますます困難となっている。
【0008】
また、特許文献1に開示されているスパッタの認識方法では、実際の溶接作業中に検出される温度情報に基づき、あくまで溶接作業中にスパッタの発生状況を認識するのであって、溶接作業前にスパッタ発生の有無を予測することはできない。
【0009】
抵抗スポット溶接においては、スパッタが発生する直前の溶接条件で溶接した場合に、得られる溶融部(ナゲット)径が最大となり、溶接部について最大の強度を得ることができる。さらにはこのとき溶接のために使われるエネルギー効率が最良となることが知られている。すなわちスパッタの発生は、該発生が起こると不具合を生じる場合があるが、スパッタの発生直前における溶接条件は多くの利点を含んでいる。このため、スパッタの発生に関しては、作業環境の悪化や製品の品質低下がある一方、スパッタが発生する直前の溶接条件を用いることにより溶接条件の適正化が図れる。
【0010】
そこで本発明は、抵抗スポット溶接において実際の溶接作業を行うことなく、予めスパッタの発生有無を予測可能とするとともに、質の高い溶接が可能である抵抗スポット溶接方法及び高品質な溶接部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、上記課題を解決するため、理論的考察により得られる判定式によりスパッタの発生を予測し、これを利用して抵抗スポット溶接することを開発し、発明を完成させた。以下、本発明について説明する。
【0012】
請求項1に記載の発明は、2つの電極間に重ねた二つ以上の被溶接材を挟み、該電極で該被溶接材を押圧しつつ通電することにより二つ以上の被溶接材を接合する抵抗スポット溶接において、該二つ以上の被溶接材のうち互いに接触する任意の二つの被溶接材の接触界面に関してスパッタ発生の有無を予測する方法であって、電極の被溶接材を押圧する力である電極加圧力と、抵抗スポット溶接時の互いに接触する任意の二つの被溶接材が溶融せずに互いに接触する界面である非溶融部に作用する力と、に基づきスパッタ発生の有無を予測することを特徴とする抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法を提供することにより前記課題を解決する。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法の電極加圧力をFS、非溶融部に作用する力をFC、0〜1のいずれかの値をとる係数をkとするとき、互いに接触する任意の二つの被溶接材の接触界面に関して、FS、FC及びkの間にすべての互いに接触する二つの被溶接材に関して下記式(1)が成立するときにスパッタが発生すると予測することを特徴とする。
FC≦(1−k)・FS (1)
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法で、抵抗スポット溶接の過程を模擬する電場、温度場、及び応力場の連成数値解析により求められる、抵抗スポット溶接時に生じる被溶接材の溶融部の半径であるRNと、非溶融部の最外半径であるRCと、非溶融部の溶融部の中心から半径rの位置における接触圧力であるPC(r)と、により、FCが、下記式(10)により算出されることを特徴とする。
【0015】
【数1】

【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法の所定のFS、及び所定の通電の電流の条件で行う実験から得られる抵抗スポット溶接開始からスパッタが発生するまでの時間であるスパッタ発生経過時間を、該所定のFS、及び該所定の通電の電流の条件で行う連成数値解析から得られる抵抗スポット溶接開始からの経過時間とFCとの関係に当てはめることにより実験の条件におけるFCを得るとともに、係数kが、所定のFSと、実験の条件におけるFCと、を用いて式(20)により求められることを特徴とする。
k=1−(FC/FS) (20)
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法の係数kが0.85〜0.95であることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、2つの電極間に重ねた二つ以上の被溶接材を挟み、該電極で該被溶接材を押圧しつつ通電することにより二つ以上の被溶接材を接合する抵抗スポット溶接の溶接方法であって、抵抗スポット溶接におけるスパッタ発生条件を予測するスパッタ発生予測工程と、スパッタ発生予測工程により得られたスパッタ発生条件に基づき、互いに接触する被溶接材の接触界面のいずれの該接触界面においても、スパッタが発生しない条件で抵抗スポット溶接を行う溶接工程とを有し、スパッタが発生しない条件は、電極の被溶接材を押圧する力である電極加圧力(FS)と、抵抗スポット溶接時の互いに接触する任意の二つの被溶接材が溶融せずに互いに接触する界面である非溶融部に作用する力(FC)と、0〜1のいずれかの値をとる係数kとがすべての互いに接触する二つの被溶接材に関して下記式(30)で表される関係を満たすことであることを特徴とする抵抗スポット溶接の溶接方法を提供することにより前記課題を解決する。
FC>(1−k)・FS (30)
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の抵抗スポット溶接の溶接方法を用いて製造される、抵抗スポット溶接部を有する溶接部材により前記課題を解決する。
【0020】
ここで、「溶接部材」とは、請求項6に記載の抵抗スポット溶接の溶接方法を用いて製造されるあらゆる工業部材を意味する。これには例えば、自動車、鉄道の車体等に用いられる接合された鋼板部材、又は家電製品に用いられる接合された鋼板部材等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、実際の溶接作業を行うことなくスパッタ発生の有無を予測することができる。また、該予測により、溶接部強度が最大となりつつ、抵抗スポット溶接に要するエネルギー効率を最良とするような最適溶接条件を求めることも可能となる。そして、実際に当該予測により得た条件で溶接をする工程を有する抵抗スポット溶接の溶接方法、及び該溶接方法が適用された溶接部材により、高い品質の溶接部材を提供することができる。
【0022】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の形態、及びその好ましい範囲等について説明する。
【0024】
(A)判定式の導出
上記式(1)で表したスパッタ発生を判定する式を得るための導出過程は該導出の基礎となる根拠が同じであれば特に限定されるものではない。ここではその1つの実施形態として上記式(1)の導出過程を説明する。
【0025】
図1は、抵抗スポット溶接中における該溶接部分を説明するために模式的に示した溶接部分の断面図である。図1では2枚の板10、11を2つの電極1(下側の電極は省略)により溶接する場面を示している。また図1にAで示した部分は溶融部(ナゲット)である。図中にFCで示した力が負荷されている部分は、溶接時に溶融せずに板10、11が機械的に接触している部分(非溶融部)である。また、図1中には直線矢印で力の向きとその記号を示した。具体的にはFSは電極加圧力、FCは非溶融部に作用する力、FNは溶融部からの板10にかかる厚さ方向の力である。
【0026】
抵抗スポット溶接は、被溶接材が二枚の場合は、2つの電極1(下側の電極は省略。)の間に挟まれた板10、11を該電極1により押圧しつつ通電して接合するという溶接である。
【0027】
かかる抵抗スポット溶接の図1に示した場面において上記力のつりあいを考えた場合には、板10の厚さ方向に次の式(2)が成り立つ。
FN+FC=FS (2)
ただし、この式(2)が成り立つのは、電極1が軸ずれ等のない理想的な場合である。しかし、実際においては該軸の軸ずれや倒れは避けることができず、考慮すべき事項であるので、実際におけるつりあいの式は式(3)のようになる。
FN+FC=FS (3)
ここでは「*」を付することで式(2)で表される理想状態とは異なることを意味する。
FN及びFNはどちらも溶融部の大きさや形状により決まり、電極の軸ずれ等とは無関係であるから、上記の電極1の軸ずれや倒れがある実際の状態下と、上記の理想状態下とで区別する必要がなく、ここではFN=FNとすることができる。従って式(3)は式(4)で表すことができる。
FN+FC=FS (4)
さらに、FSとFSとの違いは、軸ずれや倒れに起因するものなので、FS≧FSの関係がある。そこで、FSは、0〜1の値をとる係数kを用い「FS=k・FS」と表すことができ、式(4)はさらに式(5)とすることができる。
FN+FC=k・FS (5)
【0028】
ここで抵抗スポット溶接時にスパッタが発生しないためには、板10と板11との間に作用する接触圧力が正の値を保つはずである。従って、スパッタが発生する条件は、FCが負であればよいので、スパッタ発生条件として式(6)が成り立つ。
FC≦0 (6)
【0029】
上記式(2)と式(5)との差をとり、さらに式(6)を適用することにより式(1)を得ることができる。
FC≦(1−k)・FS (1)
以上より式(1)を満たしたときに抵抗スポット溶接においてスパッタが発生すると予測することができる。これにより式(1)を用いて抵抗スポット溶接のスパッタ発生を予測することができ、スパッタの発生を防止することができるとともに、スパッタが発生する直前の条件を得ることもできる。そして、良好な溶接作業環境の維持及び高い品質の溶接材を提供することが可能となる。
【0030】
上記は被溶接材が二つの場合についてスパッタ発生条件を導出したが、被溶接材が三つ以上の場合でも同様にスパッタ発生条件を導出することができ、また被溶接材が二つの場合と全く同様に該スパッタ発生条件を用いてスパッタ発生を予測することができる。従って、当該予測をもとにスパッタの発生を未然に防止することができる。以下にその例を説明する。
【0031】
図2は、被溶接材がq個(qは2以上の整数)である場合の抵抗スポット溶接中における該溶接部分を説明するために模式的に示した断面図である。かかる場合において、上からp個目とp+1個目の互いに接触する二つの被溶接材の接触界面に関するスパッタ発生条件を導出する。ただし、1≦p≦q−1である。上からp個目とp+1個目の被溶接材の界面の溶融部からの力をFN(p)、上からp個目とp+1個目の被溶接材の界面における非溶融部に作用する力をFC(p)とすると、該接触界面における上記理想状態での板厚方向の力のつりあい関係は式(31)により表される。
FC(p−1)+FN(p−1)=FC(p)+FN(p) (31)
【0032】
一方、電極の軸ずれ等があることを考慮した上記実際の溶接状態における該接触界面における板厚方向の力のつりあい関係は式(32)により表される。
FC(p−1)+FN(p−1)=FC(p)+FN(p) (32)
ここで式(31)及び式(32)の両辺でそれぞれ差をとると、式(33)が得られる。
FC(p−1)―FC(p)=FC(p−1)―FC(p) (33)
上記の式(31)〜式(33)と同様の計算を、p=1からp=q―1まで繰り返し、任意の接触する二つの被溶接材の接触界面に関してスパッタ発生条件「FC(p)≦0」をp=1からp=q―1まで順次適用する。これにより最終的に、1≦p≦q−1なる任意のpについて、スパッタ発生条件として式(34)が得られる。
FC(p)≦(1−k)・FS (34)
これは式(1)と同じである。
【0033】
図3は、被溶接材が三つ以上の抵抗スポット溶接中に二つの溶融部が一体化した状態おける該溶接部分を説明するために模式的に示した断面図である。この場合であっても、式(34)からわかるようにp個目の被溶接材において、式(34)の導出過程に何ら変化はない。これは、溶融部が一体化している場合は、「FN(p−1)=FN(p)」が成り立つとし、上記導出過程における一つの特殊な場合と考えればよいからである。
【0034】
(B)FCの推定
式(1)のFCの推定にはあらゆる方法とることができるが、ここではそのうちの1つとして連成数値解析を用いて、FCの値を推定する方法を挙げる。図4には本発明に適用される連成数値解析の概念図を示す。また、図5は、図1に示した断面図から電極を除き、該図1を上面から示した図である。図5ではわかり易さのため一部を透視して示している。連成数値解析は、図4からわかるように具体的には治金的現象、熱的現象及び力学的現象に基づく「温度場−応力場の連成数値解析」と、治金的現象、熱的現象及び電気的現象に基づく「電場−温度場の連成数値解析」とにおいて、温度及び接触圧力を介してこれら連成数値解析をさらに連成させて解析するものである。この連成数値解析により、図5にBで示した非溶融部の接触圧力PC並びに非溶融部の最外部の半径RC、及び図5にAで示した溶融部の半径RNを得ることができる。そしてFCは該半径RN及び半径RCを積分区間とした接触圧力PCを積算して得ることができる。これを式で表すと式(10)のようになる。
【0035】
【数2】

【0036】
(C)係数k
式(1)に用いられる係数kは、上述した導出過程からもわかるように、電極の軸ずれ等がない理想的な抵抗スポット溶接状態と、実際の抵抗スポット溶接状態との差異に基づくものである。従ってこの差異を係数kとして表すことができれば係数kを得るための方法は特に限定されるものではない。ここでは、以下に1つの実施形態としての係数kの決定の方法を説明する。
【0037】
係数kは、溶接機ごとに異なる値をとるので、より正確にスパッタ発生の有無を予測するためには、溶接機ごとに予め係数kを決定しておくことが好ましい。これには次のような実験が有効である。
【0038】
はじめに実際の抵抗スポット溶接において、所定の電極加圧力FSを負荷し、数水準の溶接電流のそれぞれについてスパッタが発生するまでの時間(スパッタ発生経過時間)を得る。これにより所定の電極加圧力FS、及び該電極加圧力FSに対するいくつかの電流条件についてスパッタ発生経過時間を実験的に得ることができる。
【0039】
次に、当該実験と同じ電極加圧力FS及び溶接電流で上記した連成数値解析を行い、該連成数値解析によって、連成数値解析上の当該条件における溶接を開始してからの経過時間とFCとの関係を得ることができる。連成数値解析によって得られた溶接開始からの経過時間と、FCとの関係を表したグラフの1例を図6に示す。これは横軸に溶接を開始してからの経過時間、縦軸にFCを示したものである。グラフ中に曲線が数本表されているが、これは溶接電流値の違いを意味するものである。
【0040】
次に図6で示したグラフ上に、実験で得られたスパッタ発生経過時間を対応する電流条件の曲線上にプロットする。実験と連成数値解析とは同じ条件で行っているので対応する曲線は必ず存在する。具体的には図6に「●」で示したようにプロットすることができる。そして、このときにおけるFCを縦軸から読み取る。電流条件によっていくつかのFCを得ることができるが、この場合はこれを平均する等して利用してもよい。
【0041】
このFCは各電流条件において、スパッタが発生する最初の点であるから、式(1)におけるFCの上限値であるということができる。従って、この場合には、次の式(7)が成り立つ。
FC=(1−k)・FS (7)
ここで、FCは図6のグラフから、FSは実験条件からそれぞれすでに得られているので、これを代入することにより係数kを得ることができる。従って、
k=1−(FC/FS) (20)
である。
【0042】
係数kの具体的な値自体は、適切な係数kを上記方法等により得ればスパッタ発生予測精度には影響を及ぼさない。しかし、数種類の溶接機に対して係数kの値を調べたところ、多くの溶接機で係数kの値は電極加圧力とは無関係に0.85〜0.95となることがわかった。
【0043】
以上のように、FC及び係数kの値を決定するとともに、実際の電極加圧力FSを得ることができれば、抵抗スポット溶接においてスパッタの発生を予測することができる。そして当該予測をもとに実際の溶接を行うことによりスパッタの発生を起こすことなく抵抗スポット溶接を進行することができる。
【0044】
次に、本発明の溶接方法について説明する。本発明の溶接方法は、抵抗スポット溶接におけるスパッタ発生条件を予測するスパッタ発生予測工程と、スパッタ発生予測工程により得られたスパッタ発生条件に基づき、スパッタが発生しない条件で抵抗スポット溶接を行う溶接工程とを有している。
【0045】
スパッタ発生予測工程は、上述したスパッタ発生予測方法を用いて抵抗スポット溶接におけるスパッタ発生を予測する工程である。その予測方法は、上述したものが該当するので、ここでは説明を省略する。
【0046】
溶接工程は、上記スパッタ発生予測工程によって得られた条件に基づき、実際に溶接を行う工程である。溶接工程ではスパッタが発生しない条件で溶接が行われる。従って、具体的には上記FS、FC及びkに関して、
FC>(1−k)・FS (30)
が満たされる条件で溶接が行われる。また、溶接工程において抵抗スポット溶接は通常の抵抗スポット溶接で良く、その形式は特に限定されるものではなく、事前に検討した溶接条件が正確に実現できる溶接機であればよい。
【0047】
以上のような工程を有する溶接方法により、接合強度が高い等の高品質な溶接部材を提供することができる。
【実施例】
【0048】
次に実施例によりさらに詳しく説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0049】
本実施例では、2枚の1.2mmの厚さの590MPa級DP鋼(Dual Phase(2相)鋼)を抵抗スポット溶接するものである。下に示す各溶接条件に対して本発明のスパッタ発生予測と、実際にスポット溶接した結果とを比較した。以下に各条件について説明する。
【0050】
電極加圧力FSは、1.47kN、2.45kN、3.43kN、及び4.41kNの4水準とした。
【0051】
電流は、3.0〜11.0kAの範囲で0.5kA間隔で条件を変化させた。通電時間はいずれも233×10−3秒とした。
【0052】
電極は先端径が6mmであるDR型クロム銅電極である。
【0053】
kの値は上述した方法により決定し、具体的には0.9であった。
【0054】
FC値についても上述の連成数値解析によって条件ごとに算出した。
【0055】
次に結果を説明する。図7に結果を表すグラフを示した。図7では横軸に溶接電流、縦軸に電極加圧力(PS)を示すとともに、記号でそのときの溶融部径を表した。板厚をtとしたときに、▲は溶融部径が3・t0.5、■は溶融部径が4・t0.5、●は溶融部径が5・t0.5であることを示す。また×はスパッタが発生したことを意味する。
【0056】
ここで、本発明のスパッタ発生予測の結果と、実験結果との比較は、ウェルドローブの比較により行った。抵抗スポット溶接ではその電流値を大きくすれば溶融部の径が大きく形成される。上述のように、溶融部が大きく形成されれば溶融部分が多いことを意味するので、より適切な溶接ができる傾向にある。従って溶融部はできるだけ大きくすることが好ましい。しかし電流を大きくし、溶融部を大きくしすぎるとスパッタが発生して不具合を生じる。ウェルドローブとは、所定の大きさの溶融部を得られる状態からスパッタが発生するまでの範囲を示すものであり、該ウェルドローブ内に該当する場合に適切な溶接が行われたと判断することができる。本実施例の場合には、この範囲を溶融部径が4・t0.5以上、スパッタが発生するまでの範囲とした。
【0057】
図7に破線で示したウェルドローブは実験に基づくもの、実線で示したウェルドローブは本発明のスパッタ発生予測に基づくものである。従って、いずれのウェルドローブについてもこの範囲内では、溶融部径が4・t0.5以上であるとともにスパッタが発生しないという条件を満たす。本発明によるスパッタ発生予測により実際にスパッタの発生が適切に予測できていることがわかる。
【0058】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う、抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法、抵抗スポット溶接方法、及び溶接部材も本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】抵抗スポット溶接中における該溶接部分を説明するために模式的に示した断面図である。
【図2】被溶接材が三つ以上の抵抗スポット溶接中における該溶接部分を説明するために模式的に示した断面図である。
【図3】被溶接材が三つ以上の抵抗スポット溶接中に二つの溶融部が一体化した状態おける該溶接部分を説明するために模式的に示した断面図である。
【図4】連成数値解析の概念図である。
【図5】図1の断面図について電極を除いて示した上面図であり、抵抗スポット溶接中における該溶接部分を説明するために模式的に示したものである。
【図6】連成数値解析によって得られた抵抗スポット溶接開始からの経過時間と、FCとの関係を表したグラフ及び、該グラフ上に実験によって得られたデータをプロットしたものである。
【図7】実施例の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 電極
10 板(被溶接材)
11 板(被溶接材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの電極間に重ねた二つ以上の被溶接材を挟み、該電極で該被溶接材を押圧しつつ通電することにより前記二つ以上の被溶接材を接合する抵抗スポット溶接において、該二つ以上の被溶接材のうち互いに接触する任意の二つの前記被溶接材の接触界面に関してスパッタ発生の有無を予測する方法であって、
前記電極の前記被溶接材を押圧する力である電極加圧力と、
前記抵抗スポット溶接時の前記互いに接触する任意の二つの前記被溶接材が溶融せずに互いに接触する界面である非溶融部に作用する力と、
に基づき前記スパッタ発生の有無を予測することを特徴とする抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法。
【請求項2】
前記電極加圧力をFS、前記非溶融部に作用する力をFC、0〜1のいずれかの値をとる係数をkとするとき、前記互いに接触する任意の二つの前記被溶接材の接触界面に関して、前記FS、FC及びkの間にすべての互いに接触する二つの前記被溶接材に関して下記式(1)が成立するときにスパッタが発生すると予測することを特徴とする請求項1に記載の抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法。
FC≦(1−k)・FS (1)
【請求項3】
前記抵抗スポット溶接の過程を模擬する電場、温度場、及び応力場の連成数値解析により求められる、
前記抵抗スポット溶接時に生じる前記被溶接材の溶融部の半径であるRNと、
前記非溶融部の最外半径であるRCと、
前記非溶融部の前記溶融部の中心から半径rの位置における接触圧力であるPC(r)と、により、
前記FCが、下記式(10)により算出されることを特徴とする請求項2に記載の抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法。
【数1】

【請求項4】
所定の前記FS、及び所定の前記通電の電流の条件で行う実験から得られる前記抵抗スポット溶接開始から前記スパッタが発生するまでの時間であるスパッタ発生経過時間を、該所定のFS、及び該所定の前記通電の電流の条件で行う前記連成数値解析から得られる前記抵抗スポット溶接開始からの経過時間と前記FCとの関係に当てはめることにより前記実験の条件におけるFCを得るとともに、
前記係数kが、前記所定のFSと、前記実験の条件におけるFCと、を用いて式(20)により求められることを特徴とする請求項2又は3に記載の抵抗スポット溶接のスパッタ発生予測方法。
k=1−(FC/FS) (20)
【請求項5】
前記係数kが0.85〜0.95であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接におけるスパッタ発生予測方法。
【請求項6】
2つの電極間に重ねた二つ以上の被溶接材を挟み、該電極で該被溶接材を押圧しつつ通電することにより前記二つ以上の被溶接材を接合する抵抗スポット溶接の溶接方法であって、
前記抵抗スポット溶接におけるスパッタ発生条件を予測するスパッタ発生予測工程と、
前記スパッタ発生予測工程により得られた前記スパッタ発生条件に基づき、互いに接触する被溶接材の接触界面のいずれの該接触界面においても、前記スパッタが発生しない条件で前記抵抗スポット溶接を行う溶接工程と、を有し、
前記スパッタが発生しない条件は、
前記電極の前記被溶接材を押圧する力である電極加圧力(FS)と、
前記抵抗スポット溶接時の互いに接触する任意の二つの前記被溶接材が溶融せずに互いに接触する界面である非溶融部に作用する力(FC)と、
0〜1のいずれかの値をとる係数kと、がすべての互いに接触する二つの前記被溶接材に関して下記式(30)で表される関係を満たすことであることを特徴とする抵抗スポット溶接の溶接方法。
FC>(1−k)・FS (30)
【請求項7】
請求項6に記載の抵抗スポット溶接の溶接方法を用いて製造される、抵抗スポット溶接部を有する溶接部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−283328(P2007−283328A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112011(P2006−112011)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】