説明

抵抗溶接方法および抵抗溶接装置

【課題】 溶接対象に供給するエネルギを管理できる抵抗溶接装置を提供する。
【解決手段】 本発明になる抵抗溶接装置は、スイッチング部を介して溶接トランスの一次側に一次電流を通電して、前記溶接トランスの二次側に二次電流を発生させ、溶接対象を介して溶接電極間に流す抵抗溶接装置であって、前記スイッチング部の導通状態を制御する制御信号を生成する溶接制御部と、前記溶接対象に供給されるエネルギを検出する溶接情報モニタ部と、を備え、前記溶接制御部は、別途設けた操作手段からの溶接開始指令を受けた時に前記スイッチング部を導通状態にし、前記溶接情報モニタ部からの供給されるエネルギが予め設定されている供給エネルギを超えた時に前記スイッチング部を非導通状態にする制御信号を生成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接装置に係り、特に通電時間の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を溶接する方法の一つとして抵抗溶接がある。これは、溶接しようとする金属(被溶接材料)を重ね、この重ねた箇所に電極(溶接電極)を押し付けて被溶接材料に溶接電流を流し、そのときに発生するジュール熱によって被溶接材料を溶融して溶接するものである。
【0003】
このようにして溶接された溶接部分が適当な強度をもって溶接されたか否かは目視で観察して判定することもできるが、定量的に判定する方が客観的で適切である。この方法には、溶接時の電流(溶接電流)あるいは電圧(溶接電圧)を検出して、溶接の良否を判定している。これは、溶接条件(溶接電流、溶接電圧、溶接電流通電時間)の上限値、下限値を決定し、溶接状態をモニタすることによって溶接時の溶接電圧または溶接電流が許容範囲内あるか否かで判定している(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、一般に、抵抗溶接において、その溶接品質は各種の電気量、すなわち、電圧、電流はもとより電圧を電流で除した抵抗、電圧と電流の積である電力、さらにはこれを通電時間で積分した値等と深い関係があることは従来からよく知られている。従って、溶接箇所の品質をモニタする方式として、電極間電圧方式、電極チップ間抵抗方式、超音波方式などが案出され、現在用いられている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−71230号公報(従来の技術)
【特許文献2】特開昭58−93582号公報(発明の詳細な説明)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
確かに、これらのモニタ方式は実際に被溶接材料に流れる溶接電流などの溶接情報を検出してフィードバックして、予め設定されている基準値と比較して判定するものであり、有効な方式である。
しかしながら、この溶接情報は瞬時値であるため被溶接材料の状態によっては出力停止のタイミングが前後し、被溶接材料に供給されるエネルギのばらつきが大きい。
また、これらのモニタ方式はそれぞれ適用範囲が異なるが、いずれも溶接終了後において、その溶接された箇所の品質を大まかに判定し得るに過ぎず、溶接箇所の品質を積極的に保証するものではない。
【0007】
以上のようなことから、従来の抵抗溶接方式や各種のモニタ方式を併用しても、溶接箇所の品質不良が発生し、手直しが必要となるばかりか、場合によっては製品を廃棄しなければならなくなるという欠点があった。
【0008】
この欠点を解決する手段として、溶接電極間電圧積分値が予め上限として定めた値に到達する時点および溶接電極間抵抗が予め定めた値に到達する時点のうち、いずれか先に到達した時点で溶接電流を停止する通電時間制御手段を有する抵抗溶接装置が提案されている(特許文献2)。
【0009】
この手段は、溶接箇所の品質に最も関係の深いナゲットの大きさを検出して、このナゲットの大きさが所望の値に到達した場合に予め設定されている通電時間に関係なく溶接電流の通電を停止することができるので溶接装置や被溶接材料並びに溶接条件等の変動に左右されることなく、常に最適のナゲットが得られる。
【0010】
しかしながら、前述のような溶接電極間電圧積分値や溶接電極間抵抗を用いる方法には電池の電極にタブ電極を溶接するような溶接対象が小さく、極短時間(例えば、1〜10ms)の通電時間に大電流(例えば、5000A)の溶接電流を流すような場合には急激に溶接対象が溶融し、溶接電極間電圧が基準値に到達しない場合があり、このようなときには設定されている通電時間が終了まで通電を継続すると過大電流により電極に損傷が生じるという欠点があった。このような場合に備えて、溶接電極間抵抗を併用して溶接電極間抵抗が基準値に到達したときに通電を停止することとしているが、前述のように溶接対象に供給されるエネルギにばらつきが生じるという欠点は解消されていない。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、溶接対象に供給されるエネルギを検出して、この検出されたエネルギと設定されたエネルギとを比較し、その結果に応じて溶接電流の通電を停止することで溶接対象に供給するエネルギを一定に管理することができ、溶接品質の高い抵抗溶接方法を提供することを第1の目的とし、またこのような抵抗溶接方法を直接使用することができる抵抗溶接装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者等は、抵抗溶接において溶接部に発生する熱量は溶接部に供給されたエネルギに応じたものになることに着目して本発明をするに至った。
【0013】
本発明になる抵抗溶接方法は、スイッチング部を介して溶接トランスの一次側に一次電流を通電して、前記溶接トランスの二次側に二次電流を発生させ、溶接対象を介して溶接電極間に流す抵抗溶接方法であって、別途設けた操作手段からの溶接開始指令を受けて前記スイッチング部を導通状態にした時から前記溶接電極を介して溶接対象に供給されたエネルギを検出し、検出されたエネルギが予め設定されている供給エネルギを超えるまで前記スイッチング部の導通状態を継続していることを特徴とする(請求項1)。
【0014】
そして、この抵抗溶接方法の供給されたエネルギの検出は次の工程により行うことを特徴とする(請求項2)。
a)前記溶接電極間に溶接対象を介して流れる電流を溶接電流として検出する工程
b)前記溶接電流が流れている時の前記溶接電極間の電圧を溶接電圧として検出する工程
c)工程a)と工程b)とで検出された溶接電流と溶接電圧との積である溶接電力を算出する工程
d)工程c)で算出された溶接電力を積分する工程
【0015】
また、前記溶接対象は電池タブであることを特徴とする(請求項3)。
【0016】
また、この抵抗溶接方法の溶接電流の通電は、次のいずれかの時点まで継続していることを特徴とする(請求項4)。
a)別途設けた操作手段からの溶接開始指令を受けて前記スイッチング部を導通状態にした時から前記溶接電極を介して溶接対象に供給されたエネルギを検出し、検出されたエネルギが予め設定されている供給エネルギを超える時点
b)予め設定されている通電時間が終了した時点
【0017】
また、この抵抗溶接方法の溶接電流の通電は、前記時点に替えて、次の時点とすることを特徴とする(請求項5)。
a−1)別途設けた操作手段から溶接電流、溶接電圧、溶接抵抗、溶接電力および供給エネルギからなる溶接情報のそれぞれの前記スイッチング部の導通状態を解除する基準値と導通状態を解除する任意の1の溶接情報を設定し、
a−2)別途設けた操作手段からの溶接開始指令を受けて前記スイッチング部を導通状態にした時から前記溶接電極を介して溶接対象に供給されたエネルギ、溶接電極間に流れる溶接電流、溶接電極間の溶接電圧、溶接電極間の溶接抵抗および溶接電力を検出し、設定された任意の1の溶接情報が設定された基準値を超える時点
【0018】
また、本発明になる抵抗溶接装置は、スイッチング部を介して溶接トランスの一次側に一次電流を通電して、前記溶接トランスの二次側に二次電流を発生させ、溶接対象を介して溶接電極間に流す抵抗溶接装置であって、前記スイッチング部の導通状態を制御する制御信号を生成する溶接制御部と、前記溶接対象に供給されるエネルギを検出する溶接情報モニタ部と、を備え、前記溶接制御部は、別途設けた操作手段からの溶接開始指令を受けた時に前記スイッチング部を導通状態にし、前記溶接情報モニタ部からの供給されるエネルギが予め設定されている供給エネルギを超えた時に前記スイッチング部を非導通状態にする制御信号を生成することを特徴とする(請求項6)。
【0019】
そして、この抵抗溶接装置の溶接情報モニタ部は次の構成を含むことを特徴とする(請求項7)。
a)前記溶接電極間に溶接対象を介して流れる電流を溶接電流として検出する溶接電流検出部
b)前記溶接電流が流れている時の前記溶接電極間の電圧を溶接電圧として検出する溶接電圧検出部
c)前記a)とb)とで検出された溶接電流と溶接電圧との積として溶接電力を算出する溶接電力算出部
d)前記c)で算出された溶接電力を積分するエネルギ算出部
【0020】
また、この抵抗溶接装置の溶接制御部は次の構成を含むことを特徴とする(請求項8)。
a)別途設けた操作手段から設定される溶接条件の基準値を保存するパラメータ保存部
b)前記スイッチング部の導通時間を決定する溶接時間決定部
c)前記操作手段からの溶接動作開始指示を受けて前記溶接時間決定部を制御して、前記スイッチング部を導通状態にすること;通電停止条件として使用する溶接条件を選択し、この選択された溶接条件の基準値と前記溶接情報モニタ部からの対応する溶接条件の検出値(フィードバック値)とを比較し、フィードバック値が設定された基準値を超えた時に前記溶接時間決定部制御して前記スイッチング部を非導通状態にして通電を停止するシーケンス制御部
【発明の効果】
【0021】
本発明になる抵抗溶接方法によれば、溶接開始指令時点から実際に供給されたエネルギが設定されたエネルギを超えるまでスイッチング部を導通状態にするようにしているので溶接対象に供給されるエネルギの管理が可能になる。したがって、溶接品質に優れた抵抗溶接方法を提供することができる(請求項1、2)。
【0022】
また、本発明になる抵抗溶接方法によれば、溶接対象が小さく、短時間で大電流を供給しなければならないような場合にも確実に供給するエネルギを管理することができる(請求項3)。
【0023】
また、本発明になる抵抗溶接方法によれば、選択により従来の通電停止条件も使用することができるようにしているので種々の溶接対象に適用できる。したがって、適用範囲の広い抵抗溶接方法を提供することができる(請求項4、5)。
【0024】
また、本発明になる抵抗溶接装置によれば、前述のような効果を奏する抵抗溶接方法に直接使用できる。したがって、溶接品質管理に優れ、適用範囲の広い抵抗溶接装置を提供することができる(請求項6〜9)。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明になる抵抗溶接装置の要部ブロック図である。
【図2】図1の要部ブロックの内の溶接制御部と溶接情報モニタ部の詳細ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明について図を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明になる抵抗溶接装置の要部ブロック図、図2は、図1の要部ブロックの内の溶接制御部と溶接情報モニタ部の詳細ブロック図である。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが、本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0027】
図1において、本発明になる抵抗溶接装置100は、商用3相交流電源を整流するダイオードブリッジからなる整流部1、整流部1で整流された交流電流を平滑化する平滑コンデンサ3、整流部1と平滑コンデンサ3とでほぼ直流化された電流を所定のパルス幅でオン・オフすることで溶接トランス7の1次側巻線に交互の方向に電流を流す4つのIGBT(絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ)からなるスイッチング部5、スイッチング部5から1次側巻線に交互の方向に流れる電流を所定の電圧に変圧する溶接トランス7、および溶接トランス7の2次側の巻線に生成される所定の電圧の電流(溶接電流)溶接対象物に流す溶接電極11a、11bとを備える。これらが主として溶接電流の生成に関するブロックである。
【0028】
さらに、スイッチング部5をオン・オフタイミングや溶接電流のなどの溶接条件の基準値の設定や溶接開始/終了などの動作指示情報を入力する操作部21、溶接条件設定時や溶接状況監視時の溶接条件をモニタする表示部19、操作部21からの溶接条件の設定や溶接動作指示を受けて、溶接条件の保存や溶接動作の制御を行う溶接制御部15、後述する溶接情報を収集して溶接制御部15に送出する溶接情報モニタ部13、およびスイッチング部5のオン・オフするタイミング信号となる前記IGBTのゲートを制御する信号を生成する溶接タイミング信号生成部17とを備える。これらが主として、溶接動作の制御に関するブロックである。
【0029】
溶接情報モニタ部13は、ホール素子などの電流検出素子9で検出される溶接電極11a、11bに流れる溶接電流を検出する電流検出部131、溶接電極11a、11b間の溶接電圧を検出する電圧検出部132、電流検出部131からの溶接電流と電圧検出部132からの溶接電圧とを受けて溶接抵抗を算出する抵抗算出部133、また溶接電力を算出する電力算出部134、および電力算出部134からの溶接電力とそれぞれの溶接電力の継続時間から溶接電力の積算値(積分値)を算出するW・s算出部135とからなる。
【0030】
溶接制御部15は、操作部21から設定される溶接条件の基準値をパラメータ保存部152に保存すること;表示部19に溶接条件の基準値の設定時の状況を表示したり、溶接動作時の溶接情報モニタ部13からの実際の溶接電流等の溶接情報を表示すること;操作部21からの溶接動作開始指示を受けて溶接時間決定部155を制御して、溶接タイミング信号生成部17を制御してスイッチング部5をオンすること;通電停止条件として使用する溶接条件を選択し、この選択された溶接条件の基準値と溶接情報モニタ部13からの対応する溶接条件の検出値(フィードバック値)とを比較し、フィードバック値が設定された基準値を超えた時に溶接時間決定部155を制御してスイッチング部5をオフして通電を停止すること;などのシーケンス制御を行うシーケンス制御部151とからなる。
【0031】
次に、このような抵抗溶接装置を用いた電池の電極へのタブの溶接を例にとって動作を説明する。
【0032】
先ず、抵抗溶接装置100のオペレータは、表示部19の設定画面を見ながら操作部21を用いて溶接条件の基準値や通電停止条件として使用する溶接条件などのパラメータを設定する。
溶接条件の基準値としては、ペルチエ効果を考慮して、正負一対の溶接電流を流すこととし、正負それぞれの通電時間、溶接電流、溶接電圧、溶接抵抗、溶接電力、溶接電力積算値を設定する。さらに、抵抗溶接では溶接電極でタブを電池の電極に押圧しながら溶接電流を流すのでこの時の荷重を設定する。そして、これらの溶接条件のうち、どの条件を用いて通電を停止するか設定するが、本発明が電力積算値で通電を停止することを本旨とするものであることから電力積算値(電力積分値)を条件として設定する。ここで設定された設定値はパラメータ保存部152に保存される。
【0033】
このようなパラメータを受けて、シーケンス制御部151は溶接作業のシーケンスを決定し、このシーケンスに従って溶接作業を実行する(後述)。
オペレータは前記の設定を行った後、操作部21の溶接作業開始ボタン(図示せず)を操作し、溶接開始信号をシーケンス制御部151に送る。シーケンス制御部151はこの溶接開始信号を受けて溶接動作を開始する。
【0034】
最初に、抵抗溶接装置100の所定の位置に溶接対象(ワーク)である電池61を載置し、この電池61の電極に位置合わせしてタブ62を載置する(図示せず)。なお、この載置機構は公知の搬送、位置合わせ機構を使用することができる。
【0035】
次に、タブ62を電池61の電極の溶接位置に合わせて溶接電極11a、11bを移動して、タブ62の上に載せ、設定された荷重でタブ62を電池61の電極に押圧する。
このようにして、溶接電流の通電準備が完了する。
【0036】
次に、溶接時間決定部155から溶接タイミング信号生成部17にスイッチング部5を駆動する信号の生成信号aが出力される。溶接タイミング信号生成部17はこの生成信号aを受けて、先ず溶接トランス7の1次側巻線に実線で示す方向(図1のア)に電流が流れるようにスイッチング部5の駆動信号b、bを生成し、スイッチング部5に出力する。
【0037】
スイッチング部5は駆動信号b、bを受けて、半導体スイッチング5のQ1、Q2がオンして、商用交流200Vを整流部1と平滑コンデンサ3とで整流平滑化された電源から溶接トランス7の1次側巻線に実線で示す方向に電流を流し始める。この1次側巻線に流れる電流により溶接トランス7の2次側巻線に電流が流れ始め、この電流が溶接電極11aからタブ62、電池61を介して溶接電極11bに流れる溶接電流となる。この溶接電流により、溶接電極11a、11bで押圧された部分がジュール熱により発熱し、タブ62と電池61の電極との接触部を溶融してタブ62を電池61の電極に溶接を開始する。
【0038】
このとき、溶接電流は電流検出素子9により検出され、電流検出部131に送られ、ここで所定の増幅とA/D変換が行われることで得られる。また、溶接電圧も電圧検出部132で所定の増幅とA/D変換が行われることで得られる。こうして得られた溶接電流と溶接電圧は予め定められたタイミングA(例えば、0.1ms毎)で抵抗算出部133と電力算出部134に送られる。このときの溶接電流をiFi(右端のiは1以上の整数、以下同じ)、溶接電圧をvFiとする。
前記タイミングAで、抵抗算出部133ではタブ62と電池61の電極との間の抵抗RFiを算出し、電力算出部134ではタブ62と電池61の電極とに供給する電力WFiを算出する。
【0039】
また、電力算出部134で算出された電力WFiも前記タイミングAでW・s算出部135に送られる。また、タイマ153ではシーケンス制御部151から溶接開始動作開始信号を受けて、溶接動作の経過時間tを計測し、前記タイミングAでW・s算出部135に送る。W・s算出部135では送られてくる電力WFiとそれぞれの電力WFiごとにその電力が継続する継続時間tcとから電力積算値W・sFiを算出する。
【0040】
このようにして電流検出部131、電圧検出部132、抵抗算出部133、電力算出部134およびW・s算出部135で得られた溶接電流iFi、溶接電圧vFi、抵抗RFi、電力WFiおよび電力積算値W・sFiは前記タイミングAで比較部154に送られる。また、シーケンス制御部151は溶接動作開始時にパラメータ保存部152から格納された前記設定された溶接電流iS、溶接電圧vS、抵抗RS、電力WS、電力積算値W・sSを比較部154に送っておく。また、同時に通電停止の判断を行う溶接条件として電力積算値を用いることも比較部154に送っておく。
【0041】
比較部154では、設定された電力積算値W・sSと実際に溶接部に供給された電力積算値W・sFiとを比較し、供給された電力積算値W・sFiが設定された電力積算値W・sSを超える値になったときに前記生成信号aの出力を停止する信号を生成して溶接時間決定部155に送る。
【0042】
溶接タイミング信号生成部17は生成信号aが停止されるので駆動信号b、bの出力を停止する。そうすると、スイッチング部5の全てのIGBTQ1〜Q4はオフになるので溶接トランス7の1次側の巻線には電流が流れなくなり、2次側の巻線にも電流が流れなくなる。そして、最終的には溶接電極11a、11bに流れていた溶接電流が流れなくなる。
【0043】
以上のようにして、溶接対象である電池61とタブ62に溶接電極11a、11bを介して供給された電力積算値が設定された電力積算値を超えると溶接電流の通電が停止する。
【0044】
次に、設定された溶接シーケンスに従って、溶接時間決定部155から溶接タイミング信号生成部17にスイッチング部5を駆動する信号の生成信号aが出力される。溶接タイミング信号生成部17はこの生成信号aを受けて、今度は溶接トランス7の1次側巻線に点線で示す方向(図1のイ)に電流が流れるようにスイッチング部5の駆動信号c、cを生成し、スイッチング部5に出力する。
【0045】
以下、前述と同様な手順を経て、設定された電力積算値以上の電力積算値が溶接部位に供給された時に溶接電流の通電が停止される。そして、設定された溶接シーケンスに従って所定の時間の後に一連の溶接作業が完了する。
【0046】
[他の実施形態]
前述の抵抗溶接方法と抵抗溶接装置の他に、次のような実施形態が考えられる。
例えば、溶接電流通電の停止条件として供給されたエネルギと通電時間を設け、いずれか一方を用いるようにすることができる。
また、この場合供給されたエネルギだけでなく、溶接電流、溶接電圧、溶接抵抗、溶接電力も選択対象とし、いずれか1のものを選択して溶接電流の停止条件とすることもできる。
さらに、通電時間を優先して溶接電流の通電停止を決定することもできる。
【0047】
この実施の形態では溶接対象を電池タブとしたが、抵抗溶接の中で特に溶接対象が微小、微細な溶接であるマイクロ抵抗溶接の溶接対象(例えば、直径数μmの線材や厚さ10数μmの板材など)に適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 整流部、3 平滑コンデンサ、5 スイッチング、7 溶接トランス7、
9 電流検出素子、11a、11b 溶接電極、13 溶接情報モニタ部、
15 溶接制御部、17 溶接タイミング信号生成部、19 表示部、
21 操作部、
100 抵抗溶接装置
131 電流検出部、132 電圧検出部、133 抵抗算出部、
134 電力算出部、135 W・s算出部、151 シーケンス制御部、
152 パラメータ保存部、153 タイマ、154 比較部、
155 溶接時間決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング部を介して溶接トランスの一次側に一次電流を通電して、前記溶接トランスの二次側に二次電流を発生させ、溶接対象を介して溶接電極間に流す抵抗溶接方法であって、
別途設けた操作手段からの溶接開始指令を受けて前記スイッチング部を導通状態にした時から前記溶接電極を介して溶接対象に供給されたエネルギを検出し、検出されたエネルギが予め設定されている供給エネルギを超えるまで前記スイッチング部の導通状態を継続していることを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項2】
次の工程により前記供給されたエネルギの検出を行うことを特徴とする請求項1記載の抵抗溶接方法。
a)前記溶接電極間に溶接対象を介して流れる電流を溶接電流として検出する工程
b)前記溶接電流が流れている時の前記溶接電極間の電圧を溶接電圧として検出する工程
c)工程a)と工程b)とで検出された溶接電流と溶接電圧との積である溶接電力を算出する工程
d)工程c)で算出された溶接電力を積分する工程
【請求項3】
前記溶接対象は電池タブであることを特徴とする請求項1または2いずれかに記載の抵抗溶接方法。
【請求項4】
前記スイッチング部の導通状態は、次のいずれかの時点まで継続していることを特徴とする請求項1記載の抵抗溶接方法。
a)別途設けた操作手段からの溶接開始指令を受けて前記スイッチング部を導通状態にした時から前記溶接電極を介して溶接対象に供給されたエネルギを検出し、検出されたエネルギが予め設定されている供給エネルギを超える時点
b)予め設定されている通電時間が終了した時点
【請求項5】
前記a)記載の時点に替えて、次の時点とすることを特徴とする請求項4記載の抵抗溶接方法。
a−1)別途設けた操作手段から溶接電流、溶接電圧、溶接抵抗、溶接電力および供給エネルギからなる溶接情報のそれぞれの前記スイッチング部の導通状態を解除する基準値と導通状態を解除する任意の1の溶接情報を設定し、
a−2)別途設けた操作手段からの溶接開始指令を受けて前記スイッチング部を導通状態にした時から前記溶接電極を介して溶接対象に供給されたエネルギ、溶接電極間に流れる溶接電流、溶接電極間の溶接電圧、溶接電極間の溶接抵抗および溶接電力を検出し、設定された任意の1の溶接情報が設定された基準値を超える時点
【請求項6】
スイッチング部を介して溶接トランスの一次側に一次電流を通電して、前記溶接トランスの二次側に二次電流を発生させ、溶接対象を介して溶接電極間に流す抵抗溶接装置であって、
前記スイッチング部の導通状態を制御する制御信号を生成する溶接制御部と、
前記溶接対象に供給されるエネルギを検出する溶接情報モニタ部と、
を備え、
前記溶接制御部は、別途設けた操作手段からの溶接開始指令を受けた時に前記スイッチング部を導通状態にし、前記溶接情報モニタ部からの供給されるエネルギが予め設定されている供給エネルギを超えた時に前記スイッチング部を非導通状態にする制御信号を生成することを特徴とする抵抗溶接装置。
【請求項7】
前記溶接情報モニタ部は次の構成を含むことを特徴とする請求項6記載の抵抗溶接装置。
a)前記溶接電極間に溶接対象を介して流れる電流を溶接電流として検出する溶接電流検出部
b)前記溶接電流が流れている時の前記溶接電極間の電圧を溶接電圧として検出する溶接電圧検出部
c)前記a)とb)とで検出された溶接電流と溶接電圧との積として溶接電力を算出する溶接電力算出部
d)前記c)で算出された溶接電力を積分するエネルギ算出部
【請求項8】
前記溶接制御部は次の構成を含むことを特徴とする請求項6記載の抵抗溶接装置。
a)別途設けた操作手段から設定される溶接条件の基準値を保存するパラメータ保存部
b)前記スイッチング部の導通時間を決定する溶接時間決定部
c)前記操作手段からの溶接動作開始指示を受けて前記溶接時間決定部を制御して、前記スイッチング部を導通状態にすること;通電停止条件として使用する溶接条件を選択し、この選択された溶接条件の基準値と前記溶接情報モニタ部からの対応する溶接条件の検出値(フィードバック値)とを比較し、フィードバック値が設定された基準値を超えた時に前記溶接時間決定部制御して前記スイッチング部を非導通状態にして通電を停止するシーケンス制御部
【請求項9】
前記溶接対象は電池タブであることを特徴とする請求項6に記載の抵抗溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−10105(P2013−10105A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142426(P2011−142426)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000227836)日本アビオニクス株式会社 (197)
【Fターム(参考)】