抵抗溶接方法及びそのシステム
【課題】複数個のワークが積層されて形成された積層体に対して抵抗溶接を施す際、前記積層体の最外に位置するワークと、これに隣接するワークとの間にナゲットを十分に成長させる。
【解決手段】抵抗溶接システムを構成する溶接ガンは、積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップと、第1溶接チップとともに前記積層体の最外に配置されたワークに当接する補助電極を具備する。第1溶接チップから第2溶接チップへの通電がなされた際、第1溶接チップから補助電極に流れる分岐電流が同時に発生し、最外のワークの温度が大きな昇温速度で上昇する。この昇温速度が小さくなるように変化する時点で、分岐電流i2を停止させる。
【解決手段】抵抗溶接システムを構成する溶接ガンは、積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップと、第1溶接チップとともに前記積層体の最外に配置されたワークに当接する補助電極を具備する。第1溶接チップから第2溶接チップへの通電がなされた際、第1溶接チップから補助電極に流れる分岐電流が同時に発生し、最外のワークの温度が大きな昇温速度で上昇する。この昇温速度が小さくなるように変化する時点で、分岐電流i2を停止させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のワークを積層して形成される積層体に対して抵抗溶接を行う抵抗溶接方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数個の金属板同士を接合する手法として、これら金属板を積層して積層体を形成し、該積層体を1組の溶接用電極で挟持・加圧した後、該1組の溶接用電極間に通電を行い、前記金属板における接触面近傍の部位を溶融する抵抗溶接が従来から知られている。溶融した部位は、凝固によってナゲットと呼称される固相となる。場合によっては、3枚以上の金属板同士を抵抗溶接によって接合することもある。
【0003】
ここで、金属板は互いに同一厚みであるとは限らず、寧ろ、互いに相違することが大半である。すなわち、複数枚の金属板の中には、厚みが最も小さいワーク(以下、最薄ワークとも表記する)が含まれる。
【0004】
このような最薄ワークを積層体の最外に配置して抵抗溶接を行った場合、この最薄ワークと、該最薄ワークに隣接する別のワークとの間のナゲットが十分に成長しないことがある。この理由は、最薄ワークの厚みが最小であるために固有抵抗が最小となることに起因して十分なジュール熱が発生しなくなるためであると推察される。
【0005】
最薄ワーク近傍のナゲットを大きく成長させるべく、電流値を大きくすることによって最薄ワークのジュール熱を大きくすることが想起される。しかしながら、この場合、厚みが大きいワークに大電流が流れるようになり、このために該ワークが溶融して飛散する、いわゆるスパッタが惹起され易くなるという不具合を招く。
【0006】
これとは別に、通電時間を長くすることも考えられる。しかしながら、この場合においても、最薄ワークに十分なジュール熱を発生させることは容易ではない。また、溶接処理時間が長くなるので溶接効率が低下するという不具合を招いてしまう。
【0007】
この観点から、特許文献1において、3枚以上の金属板を積層するとともに最薄ワークを最外に配置した積層体に対して抵抗溶接を施す際、積層体に対する加圧力を小さくして大電流を短時間通電する第一段階と、前記加圧力を第一段階に比して大きく設定するとともに、電流値及び通電時間のそれぞれを第一段階の電流値以下、長時間化して通電を行う第二段階との二段階とすることが提案されている。
【0008】
該特許文献1の記載によれば、余計な工程を付加することなく、また、スパッタを発生させることなく、必要サイズのナゲットを有するスポット溶接継手を容易に作製することができるようになる、とのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−262259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された従来技術に比して制御を一層簡素にしながらも、接合強度をさらに向上することが今なお希求されている。
【0011】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、積層体中のワーク同士の接触面近傍にナゲットを十分に成長させることが可能であり、しかも、スパッタが発生する懸念を払拭し得る抵抗溶接方法及びそのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、複数個のワークを積層することで形成した積層体に対して抵抗溶接を行う抵抗溶接方法であって、
前記積層体を第1溶接チップ及び第2溶接チップで挟持するとともに、前記積層体の最外に位置して前記第1溶接チップが当接したワークに対し、前記第1溶接チップとは逆の極性である補助電極を当接させる工程と、
前記第1溶接チップと第2溶接チップの間に通電を行うことで前記積層体に対して抵抗溶接を施すとともに、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流を流す工程と、
前記最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したときに前記第1溶接チップと前記補助電極とを電気的に絶縁して前記分岐電流を停止する工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
すなわち、本発明においては、第1溶接チップ及び第2溶接チップで積層体を挟持するのみでなく、前記積層体の最外に位置するワークに対して補助電極を当接させて通電を行う。該補助電極とともに前記最外のワークに当接した第1溶接チップは、この補助電極とは逆の極性であるので、第1溶接チップから補助電極に向かう電流、又はその逆方向に流れる電流のいずれか一方が分岐して生じる。この分岐電流が最外のワークの内部を流れることにより、この最外のワークと、該最外のワークに隣接するワークとの接触面が十分に加熱される。
【0014】
このように分岐電流による加熱がなされることにより、前記接触面に十分な大きさのナゲットが成長する。これにより、接合強度に優れた接合部が得られる。
【0015】
しかも、この場合、ワーク同士の接触面を流れる電流値が、第1溶接チップ及び第2溶接チップのみで積層体を挟持して通電を行う通常の抵抗溶接に比して小さくなる。このため、前記接触面に形成されたナゲットが十分な大きさに成長する間にスパッタが起こる懸念が払拭される。
【0016】
以上のように、本発明によれば、積層体中の最外に配置されたワークと、該最外のワークに隣接するワークとの間にナゲットを十分に成長させることが可能となる。その上、スパッタが発生する懸念をも払拭し得る。
【0017】
ここで、分岐電流を過度に長時間流すと、最外のワークとそれに隣接するワークとの間に形成されるナゲットが小さくなる場合がある。そこで、本発明においては、最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したとき、換言すれば、それまで大きかった最外のワークの昇温速度が小さくなったときに、分岐電流を停止させるようにしている。このため、最外のワークとそれに隣接するワークの間に形成されるナゲットを大きく成長させることができる。
【0018】
分岐電流のみを停止させるためには、補助電極のみを最外のワークから離間させるか、又は、補助電極と電源との間の電気経路のみを切断した上で、第1溶接チップと第2溶接チップとの間の通電を続行すればよい。補助電極と電源との間の電気経路を切断するには、補助電極と電源との間にスイッチを介装し、このスイッチをOFF(切断)状態とすればよい。
【0019】
また、本発明は、複数個のワークを積層することで形成した積層体に対して抵抗溶接を行うための抵抗溶接システムであって、
前記積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップと、
前記第1溶接チップとともに前記積層体の最外に位置するワークに当接し、且つ前記第1溶接チップとは逆の極性である補助電極と、
前記積層体を挟持した前記第1溶接チップと前記第2溶接チップとの間で通電を行って抵抗溶接を施す際、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流が流れる時間を制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したときに前記第1溶接チップと前記補助電極とを電気的に絶縁して前記分岐電流を停止することを特徴とする。
【0020】
このような構成とすることにより、上記したように、スパッタが発生することを回避し得るとともに、最外のワークとそれに隣接するワークとの間に形成されるナゲットを十分に成長したものとして得ることができる。
【0021】
分岐電流を停止させるためには、第1溶接チップと補助電極との電気経路を遮断すればよい。このためには、例えば、補助電極と電源との間に、これら補助電極と電源との間のみの電気経路を接続又は遮断するスイッチを設けるようにしてもよい。このスイッチをON(接続)状態からOFF(切断)状態に切り換えたり、又はその逆に切り換えたりすることによって、第1溶接チップと補助電極との電気経路を接続又は遮断することができる。
【0022】
又は、補助電極を変位させるための変位機構を設け、この変位機構の作用下に補助電極を最外のワークに対して当接又は離間させるようにしてもよい。当然に、補助電極が最外のワークに対して当接している間は第1溶接チップと補助電極との電気経路が接続され、一方、補助電極が最外のワークに対して離間している間は第1溶接チップと補助電極との電気経路が遮断される。
【0023】
補助電極は、第1溶接チップを変位する変位機構によって、該第1溶接チップと一体的に最外のワークに対して接近又は離間させる(変位させる)ようにしてもよいが、補助電極のみを変位させる変位機構を別個に設けることが好ましい。
【0024】
さらに、補助電極は、第1溶接チップを囲繞する円環形状であることが好ましい。この場合、分岐電流が最外のワークの内部を放射状に万遍なく流れる。従って、最外のワークとこれに隣接するワークとの接触面がムラなく加熱され、ナゲットの形成が容易となるとともに、該ナゲットを十分に成長させることも容易となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップの他、前記積層体の最外に配置されたワークに当接する補助電極を用い、抵抗溶接を行う際、この補助電極と、該補助電極とともに前記最外のワークに当接した前記第1溶接チップとの間に、前記最外のワークを経由する分岐電流を流すようにしている。この分岐電流により、該最外のワークとこれに隣接するワークとの接触面を十分に加熱し得るジュール熱が発生する。従って、この接触面に十分な大きさのナゲットを成長させることができ、その結果、十分な接合強度を確保することができる。
【0026】
しかも、本発明においては、前記接触面が十分に発熱した時点で分岐電流を停止するようにしている。このため、分岐電流が過度に長時間流れることに起因してナゲットが小さくなることを回避することができる。
【0027】
接触面が十分に発熱したか否かは、最外のワークの通電時間に対する温度変化をプロットして通電時間−温度グラフを作成し、その傾きが大から小に変化したか否か、換言すれば、それまで大きかった最外のワークの昇温速度が小さくなったか否かに基づいて判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態に係る抵抗溶接システムの要部拡大一部横断面斜視図である。
【図2】第1溶接チップ、第2溶接チップ及び補助電極の全てで、溶接対象である積層体を挟持した状態を示す縦断面模式図である。
【図3】通電を開始し、第1溶接チップから第2溶接チップに向かう電流と、第1溶接チップから補助電極に向かう分岐電流とを流した状態を示す縦断面模式図である。
【図4】図3から通電を続行した状態を示す縦断面模式図である。
【図5】第1溶接チップから補助電極に向かう分岐電流を流した時間の割合と、ナゲットの径との関係を示すグラフである。
【図6】第1溶接チップから補助電極に向かう分岐電流を流した時間と、積層体の最外に配置された最薄ワークの温度との関係を示すグラフである。
【図7】様々な鋼材における温度と比抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】図4の等価回路に電流及び分岐電流が如何なる経路で流れるかを示した模式的電流経路図である。
【図9】ON/OFFスイッチをOFF状態とし、且つ第1溶接チップから第2溶接チップへの通電を続行した状態を示す縦断面模式図である。
【図10】図9の等価回路に電流及び分岐電流が如何なる経路で流れるかを示した模式的電流経路図である。
【図11】通電(抵抗溶接)を終了した状態を示す縦断面模式図である。
【図12】図4とは逆に、第2溶接チップ及び電流分岐電極から第1溶接チップに向かう電流を流した状態を示す縦断面模式図である。
【図13】積層体の最上に位置する最薄ワークと、その直下のワークとに、第1溶接チップから補助電極に向かう電流が流れる状態を示す縦断面模式図である。
【図14】図3とは別の積層体を、第1溶接チップ、第2溶接チップ及び補助電極の全てで挟持して通電を開始した状態を示す縦断面模式図である。
【図15】図14に続き、ON/OFFスイッチをOFF状態とし、且つ第1溶接チップから第2溶接チップへの通電を続行した状態を示す縦断面模式図である。
【図16】図15に続き、第1溶接チップから第2溶接チップへの通電をさらに続行した状態を示す縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る抵抗溶接方法につき、これを実施する抵抗溶接システムとの関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態に係る抵抗溶接システムの要部拡大一部横断面斜視図である。この抵抗溶接システムは、第1溶接チップ10、第2溶接チップ12及び補助電極14を具備する図示しない溶接ガンを有し、該溶接ガンは、例えば、6軸ロボット等の多関節ロボットのアーム部先端に配設される。多関節ロボットのアームに溶接ガンが配設された構成は公知であり、このため、この構成についての詳細な説明は省略する。
【0031】
溶接対象である積層体16につき若干説明すると、この場合、積層体16は、3枚の金属板18、20、22が下方からこの順序で積層されることによって構成される。この中の金属板18、20の厚みはD1(例えば、約1mm〜約2mm)に設定され、金属板22の厚みはD1に比して小寸法のD2(例えば、約0.5mm〜約0.7mm)に設定される。すなわち、金属板18、20の厚みは同一であり、金属板22はこれら金属板18、20に比して薄肉である。以下においては、金属板22を最薄ワークと呼称することもある。
【0032】
金属板18、20は、例えば、いわゆるハイテン鋼であるJAC590、JAC780又はJAC980(いずれも日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能高張力鋼板)からなり、最薄ワーク22は、例えば、いわゆる軟鋼であるJAC270(日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能絞り加工用鋼板)からなる。金属板18、20は同一金属種であってもよいし、異種金属種であってもよい。
【0033】
又は、金属板18、20、22の全てが軟鋼である組み合わせであってもよいし、金属板18のみがハイテン鋼、金属板20、22が軟鋼である組み合わせであってもよい。
【0034】
金属板18、20、22の材質は、上記した鋼材に特に限定されるものではないことは勿論であり、抵抗溶接が可能なものであれば如何なる材質であってもよい。
【0035】
長尺棒状に形成された第1溶接チップ10と第2溶接チップ12は、これら第1溶接チップ10及び第2溶接チップ12の間に溶接対象である積層体16を挟持し、且つ該積層体16に対して通電を行うものである。なお、本実施の形態においては、第1溶接チップ10から第2溶接チップ12に向かって電流が流れるものとする。
【0036】
前記溶接ガンがいわゆるX型のものである場合、第1溶接チップ10は、開閉自在なチャック対を構成する一方のチャック爪に設けられ、第2溶接チップ12は、前記チャック対の残余のチャック爪に設けられる。すなわち、チャック対が開動作又は閉動作することに伴い、第1溶接チップ10と第2溶接チップ12が互いに離間又は接近する。
【0037】
前記溶接ガンは、いわゆるC型のものであってもよい。この場合、第2溶接チップ12は固定アームの先端に配置され、一方、第1溶接チップ10は、例えば、ボールネジに連結される。ボールネジが回転付勢されることに伴い、第1溶接チップ10が第2溶接チップ12に対して接近又は離間する。
【0038】
補助電極14は、この場合、円環形状に形成され、第1溶接チップ10を囲繞する。第1溶接チップ10を支持する前記溶接ガンには、この補助電極14を積層体16に対して接近又は離間させるための変位機構、例えば、ボールネジ又はシリンダ等が設けられる。この変位機構により、補助電極14は、第1溶接チップ10とは別個に積層体16に対して接近又は離間することが可能である。
【0039】
本実施の形態では、電源24の正極に対して第1溶接チップ10が電気的に接続されるとともに、第2溶接チップ12及び補助電極14が前記電源24の負極に対して電気的に接続される。このことから諒解される通り、第1溶接チップ10と補助電極14はともに、積層体16を構成する最薄ワーク22に当接するものの、その極性は互いに逆である。
【0040】
以上の構成において、第1溶接チップ10と補助電極14との離間距離Zが過度に大きい場合、第1溶接チップ10と補助電極14との間の抵抗が大きくなり、後述する分岐電流i2(図3参照)が流れることが困難となる。従って、離間距離Zは、第1溶接チップ10と補助電極14との間の抵抗が、分岐電流i2が適切な電流値で流れることが可能となる距離に設定される。
【0041】
そして、電源24の負極と補助電極14の間には、ON/OFFスイッチ26が介装される。すなわち、電源24の負極と補助電極14は、ON/OFFスイッチ26がON状態にあるときに電気的に接続され、一方、OFF状態にあるときに絶縁される。
【0042】
抵抗溶接システムは、さらに、前記溶接ガン及び前記多関節ロボットの動作を制御する制御回路としての図示しないRB(ロボット)コントローラを有し、このRBコントローラの制御作用下に、前記ON/OFFスイッチ26のON状態/OFF状態が切り替えられる。
【0043】
本実施の形態に係る抵抗溶接システムの要部は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、本実施の形態に係る抵抗溶接方法との関係で説明する。
【0044】
本実施の形態に係る抵抗溶接方法を実施するために、先ず、テストピースを用いて通電試験を行う。
【0045】
具合的には、RBコントローラの作用下に、前記多関節ロボットが、第1溶接チップ10と第2溶接チップ12の間に積層体16が配置されるように前記溶接ガンを移動させる。その後、チャック爪同士が閉動作したり、又は変位機構が付勢されたりすることにより、第1溶接チップ10と第2溶接チップ12が相対的に接近し、その結果、互いの間に積層体16が挟持される。補助電極14は、この挟持と同時に、最薄ワーク22に当接する。
【0046】
次に、通電を開始する。上記したように、第1溶接チップ10、第2溶接チップ12の各々が電源24の正極、負極に接続されているため、図3に示すように、第1溶接チップ10から第2溶接チップ12に向かう電流i1が流れる。この電流i1に基づくジュール熱により、金属板18、20の間、及び金属板20、22の間がそれぞれ加熱される。なお、図3における参照符号30、32は、加熱領域を示す。
【0047】
ここで、最薄ワーク22には補助電極14も当接しており、この補助電極14の極性は負である。従って、第1溶接チップ10からは、上記した電流i1と同時に、補助電極14に向かう分岐電流i2が出発する。補助電極14が円環形状であるため、分岐電流i2は放射状に流れる。
【0048】
従って、この場合、最薄ワーク22の内部に、前記加熱領域32とは別の加熱領域34が形成される。なお、分岐電流i2が放射状に流れるため、加熱領域34は金属板20、22の接触面を放射状に加熱する。加熱領域34は、時間の経過とともに拡大し、図4に示すように、加熱領域32と一体化する。
【0049】
金属板20、22の間の接触面は、このようにして一体化した加熱領域32、34の双方から熱が伝達された結果、十分に温度上昇して溶融し始める。その結果、金属板20、22の間にナゲット36が形成される。また、電流i1によって金属板18、20の間にもナゲット38が形成される。
【0050】
金属板20、22の間のナゲット36を大きく成長させるには、最薄ワーク22に対して補助電極14を長時間にわたって接触させ、分岐電流i2が長時間流れるようにすればよいとも考えられる。しかしながら、図5に示すように、分岐電流i2を過度に長時間にわたって流した場合、換言すれば、電流i1の通電時間に対する分岐電流i2の通電時間の割合を大きくした場合、ナゲット36の径が小さくなることがある。
【0051】
そこで、本実施の形態では、前記の通電試験において、分岐電流i2を継続的に通電しながら最薄ワーク22の温度を測定し、その結果をプロットする。すなわち、最薄ワーク22における通電時間−温度のグラフを作成する。温度測定手段としては、熱電対や放射温度計等の公知のものを用いるようにすればよい。
【0052】
図6は、その一例である。この図6は、点Bにおいて最薄ワーク22の温度の傾きが最大から最小に変化する場合を示したものである。すなわち、この場合、最薄ワーク22は、点Bに至るまでは時間の経過とともに温度が急激に上昇する一方、点Bに到達した後では温度がさほど上昇しないものである。
【0053】
最薄ワーク22の温度がこのように変化する理由は、最薄ワーク22の素材が変態を起こし、このために比抵抗が変化するためである。すなわち、鋼材を例示して説明すると、図7に示すように、Cを0.23%(重量%、以下同じ)Mnを0.46%含む鋼材A(◆のプロット)、Cを0.32%、Mnを0.69%、Crを1.09%、Niを0.07%含む鋼材B(■のプロット)、Cを0.34%、Mnを0.55%、Crを0.78%、Niを3.53%、Moを0.39%含む鋼材C(▲のプロット)、Cを0.13%、Mnを0.25%、Crを12.95%含む鋼材D(×のプロット)のいずれも、約800℃において比抵抗の変化率が小さくなる。この変化率が相違するようになる前後で、体心立方晶から面心立方晶に変化するA3変態が起こっているからである。
【0054】
換言すれば、鋼材A、鋼材B、鋼材C又は鋼材Dのいずれかからなる最薄ワーク22を用いた場合、A3変態点である約800℃に至るまでは比抵抗が大きな傾きで上昇し、このために最薄ワーク22の温度も大きな傾きで上昇する。比抵抗が大きいために発生するジュール熱が大きくなるからである。そして、約800℃を超えると比抵抗の傾きが小さくなり、その結果、発生するジュール熱が小さくなることに基づいて、最薄ワーク22の温度上昇の傾きも小さくなる。
【0055】
要するに、A3変態点である約800℃までは、最薄ワーク22の温度を効率よく上昇させることができるが、それを超える温度では、最薄ワーク22の温度上昇が小さくなる(図6参照)。
【0056】
図5中の点A〜点Dのそれぞれは、図6中の点A〜点Dのそれぞれに対応する。すなわち、図5中の原点から点A〜点Dの各々に至るまでの経過時間と、図6中の原点から点A〜点Dの各々に至るまでの経過時間とは互いに等しい。
【0057】
そして、図5中の点A〜点Dと図6中の点A〜点Dを比較して諒解されるように、金属板20、22間のナゲット36の径は、点Bに到達した時点で分岐電流i2を停止して電流i1のみを継続させたときに最大となる。点Bを超えた以降もさらに分岐電流i2を流し続けると、図5の点Dに示すように、ナゲット36の径が小さくなる傾向が認められる。
【0058】
以上の知見を通電試験によって得た後、本抵抗溶接を実施する。この本抵抗溶接では、通電試験によって判別された点B、すなわち、最薄ワーク22の温度の傾きが最大から最小に変化するときとなった時点で分岐電流i2を停止する。このためには、例えば、通電試験において分岐電流i2を流し始め、最薄ワーク22の温度の傾きが最大から最小に変化したときまでの経過時間をRBコントローラに入力し、本抵抗溶接において、この時間となったときにON/OFFスイッチ26をOFF状態とする制御を行えばよい。
【0059】
又は、上記したような公知の温度測定手段を用いて最薄ワーク22の温度を測定し、図6中の点Bの温度に到達したときにON/OFFスイッチ26をOFF状態とする制御を行うようにしてもよい。
【0060】
すなわち、先ず、通電試験に準拠して、積層体16を挟持した第1溶接チップ10から第2溶接チップ12に向かって電流i1を流すとともに、第1溶接チップ10から補助電極14に向かって分岐電流i2を流す。これにより、図3及び図4と同様に加熱領域30、32、34が形成されるとともに、金属板20、22の間にナゲット36が形成され、且つ金属板18、20の間にナゲット38が形成される。なお、図8はこの場合の等価回路における電流経路を示す。
【0061】
この場合、金属板18、20に流れる電流i1の電流値は、分岐電流i2を流すことがない一般的な抵抗溶接に比して小さい。このため、金属板20、22の間のナゲット36が大きく成長している間に金属板18、20の発熱量が過度に大きくなることが回避される。従って、スパッタが発生する懸念が払拭される。
【0062】
分岐電流i2の割合を大きくするほど加熱領域34、ひいてはナゲット36を大きくすることが可能であるが、分岐電流i2の割合を過度に大きくした場合、電流i1の電流値が小さくなるので、加熱領域30、32が小さくなる。このため、ナゲット36の大きさが飽和する一方、ナゲット38が小さくなる傾向がある。従って、分岐電流i2の割合は、ナゲット38が十分に成長する程度の電流i1が流れるように設定することが好ましい。
【0063】
なお、電流i1と分岐電流i2の割合は、例えば、上記したように第1溶接チップ10と補助電極14との離間距離Z(図1及び図2参照)を変更することで調節することが可能である。又は、分岐電流i2の電流経路、例えば、補助電極14と電源24との間に、電流量を調整する機構や抵抗体を設け、これにより分岐電流i2の割合を調整するようにしてもよい。
【0064】
上記したように、分岐電流i2が継続して流れるようにすると、ナゲット36が若干小さくなる傾向がある。従って、本実施の形態においては、ナゲット36の径が最大となった時点で分岐電流i2を停止させる。
【0065】
例えば、通電試験における分岐電流i2の流し始めから、最薄ワーク22の温度の傾きが最大から最小に変化したときまでの経過時間をRBコントローラに入力した場合、RBコントローラは、この時間となったときに、図9に示すようにON/OFFスイッチ26をOFF状態とする。また、温度測定手段によって測定された最薄ワーク22の温度に関する情報をRBコントローラに送る場合、RBコントローラは、図6中の点Bの温度に到達したときにON/OFFスイッチ26をOFF状態とする制御を行う。
【0066】
これにより、電源24と補助電極14が電気的に絶縁される。その結果、分岐電流i2が停止するに至る。図10は、この際の等価回路における電流経路を示す。
【0067】
以上のようにして分岐電流i2が停止すると、最薄ワーク22には、第1溶接チップ10から第2溶接チップ12へ向かう電流i1のみが流れるようになる。その結果、加熱領域34(図4参照)が消失する。
【0068】
その一方で、金属板18、20においては、通常の抵抗溶接時と同様の状態が形成される。すなわち、厚みが大きい金属板18、20ではジュール熱による発熱量が増加し、その結果、加熱領域30が広がるとともにその温度が一層上昇する。金属板18、20の接触面は、この温度上昇した加熱領域30に加熱され、これにより、該接触面近傍の温度が十分に上昇(発熱)して溶融し、ナゲット38の成長が促進される。
【0069】
以降は、ナゲット38が十分に成長するまで、例えば、図9に示すように、ナゲット36と一体化するまで通電を継続すればよい。通電継続時間に対するナゲット38の成長の度合いも、テストピース等を用いた抵抗溶接試験で予め確認しておけばよい。
【0070】
ここで、金属板18、20の接触面は、金属板20、22同士の間にナゲット36を成長させる際に電流i1が通過することに伴って形成された加熱領域30によって予め加熱されている。このため、金属板18、20同士は、ナゲット38が成長する前になじみが向上している。従って、スパッタが発生し難い。
【0071】
以上のように、本実施の形態においては、金属板20、22の間のナゲット36を成長させる際、金属板18、20の間のナゲット38を成長させる際の双方でスパッタが発生することを回避することができる。
【0072】
RBコントローラに含まれる溶接タイマに予め設定された所定時間(ナゲット38が十分成長し得る時間)が経過すると、通電が停止されるとともに、図11に示すように、第1溶接チップ10が最薄ワーク22から離間する。又は、第1溶接チップ10を最薄ワーク22から離間させることで第1溶接チップ10と第2溶接チップ12を電気的に絶縁し、これにより溶接を停止するようにしてもよい。
【0073】
このようにして通電(溶接)が停止されることに伴い、金属板18、20の発熱も終了する。時間の経過とともにナゲット38が冷却固化し、これにより金属板18、20が互いに接合される。
【0074】
以上のようにして、積層体16を構成する金属板18、20同士、金属板20、22同士が接合され、結局、接合品が得られるに至る。
【0075】
この接合品においては、金属板18、20同士の接合強度と同様に、金属板20、22同士の接合強度も優れる。上記したように最薄ワーク22に分岐電流i2が流されたことに伴って、金属板20、22の間のナゲット36が十分に成長しているからである。
【0076】
しかも、上記から諒解される通り、本実施の形態に係る抵抗溶接システムを構成するに際しては、補助電極14と、該補助電極14を変位させるための変位機構と、補助電極14に向かう分岐電流i2を発生・発生停止するためのON/OFFスイッチ26とを設ければよい。従って、補助電極14を設けることに伴って抵抗溶接システムの構成が複雑化することもない。
【0077】
その上、1回の通電試験を行って必要な情報を得た後は、この情報に基づいて本抵抗溶接を行うことができるので、ナゲット36の径が最大となる分岐電流i2の通電時間を求めるべく多量のテストピースを作成して複数回の通電試験を行う必要もない。すなわち、本実施の形態によれば、本抵抗溶接時の条件を簡便且つ容易に設定し得るという利点も得られる。
【0078】
なお、上記した実施の形態においては、ON/OFFスイッチ26をOFF状態とすることで分岐電流i2を停止させるようにしているが、これに代替し、溶接タイマに設定された所定時間が経過すると補助電極14を最薄ワーク22から離間させ、これにより分岐電流i2を停止させるようにしてもよい。この場合には、補助電極14を第1溶接チップ10とは別個に変位させるための変位機構を設けるようにすればよい。
【0079】
また、図12に示すように、金属板18に当接した第2溶接チップ12から、最薄ワーク22に当接した第1溶接チップ10に向かう電流を流すようにしてもよい。この場合にも、最薄ワーク22に当接した補助電極14の極性を第1溶接チップ10と逆にする。すなわち、第2溶接チップ12及び補助電極14を電源24の正極に電気的に接続する一方、第1溶接チップ10を電源24の負極に電気的に接続する。これにより、第2溶接チップ12から第1溶接チップ10に向かう電流i1と、補助電極14から第1溶接チップ10に向かう分岐電流i2とが発生する。
【0080】
いずれの場合においても、補助電極は、円環形状の補助電極14に特に限定されるものではない。例えば、第1溶接チップ10及び第2溶接チップ12と同様に長尺棒状のものであってもよい。この場合、補助電極は1本であっても複数本であってもよく、複数本を用いる場合は、これら複数本の補助電極を最薄ワーク22に対して同時に当接又は離間させるようにしてもよい。
【0081】
さらに、上記した各態様において、図13に示すように、分岐電流i2を、第1溶接チップ10が接触した最薄ワーク22のみならず、該最薄ワーク22の直下に位置する金属板20にも流れるようにしてもよい。
【0082】
この場合、最薄ワーク22と金属板20の間に抵抗発熱が生じ、その結果、ナゲット36が生成する。その一方で、金属板18、20の間には、第1溶接チップ10から補助電極14に向かう電流が流れないか、又は、流れたとしてもその電流量は極僅かである。従って、最薄ワーク22と金属板20の間に生成した前記ナゲット36が容易に成長する。
【0083】
又は、4枚以上の金属板で積層体を構成するようにしてもよいし、図14に示すように、2枚の金属板18、20のみで積層体16aを構成するようにしてもよい。以下、この場合につき説明する。
【0084】
積層体16aに対して抵抗溶接を行う際には、上記同様に、RBコントローラの作用下に、前記多関節ロボット、ひいては前記溶接ガンが移動して第1溶接チップ10と第2溶接チップ12で積層体16aが挟持される。さらに、補助電極14が金属板20に当接する。以上により、図14に示す状態が形成される。
【0085】
以降も上記と同様にして、RBコントローラの制御作用下に、第1溶接チップ10と第2溶接チップ12の間に電流i1が流れて通電が開始される。同時に、第1溶接チップ10から補助電極14に向かう分岐電流i2が放射状に流れる。
【0086】
図14から諒解されるように、金属板18、20の間は電流i1に基づくジュール熱により加熱されて軟化し、これにより軟化部50が形成される。一方、電流i1及び分岐電流i2が流れる金属板20は、これら電流i1及び分岐電流i2に基づくジュール熱により加熱されて溶融し、これにより溶融部52が形成される。
【0087】
RBコントローラに含まれる溶接タイマには、上記のようにして求められた軟化部50が十分に軟化し得る時間が予め設定されている。従って、この設定された時間に到達すると、図15に示すように、RBコントローラ(溶接タイマ)の作用下にON/OFFスイッチ26がOFF状態とされる。これに伴い、分岐電流i2が停止される。
【0088】
以上のようにして分岐電流i2が停止すると、金属板18、20には、第1溶接チップ10から第2溶接チップ12へ向かう電流i1のみが流れるようになる。この電流i1は、分岐電流i2が停止されるまでの電流i1に比して大きい。
【0089】
従って、抵抗が大きい金属板18、20の接触面におけるジュール熱が、分岐電流i2が停止する前に比して大きくなる。その結果、図16に示すように、溶融部52が軟化部50側に大きく成長し、最終的に、この溶融部52からナゲットが形成される。
【0090】
上記したように、金属板18、20の接触面には軟化部50が予め形成されている。このため、金属板18、20の間が良好にシールされる。従って、分岐電流i2が停止されて電流i1の電流値が大きくなったときにおいても、金属板18、20の間からスパッタが飛散することが回避される。
【0091】
以上のように、2枚の金属板18、20に対して抵抗溶接を行う場合にも、スパッタが発生することを回避しながら、これら金属板18、20の接触面に大きなナゲットを成長させることができる。
【符号の説明】
【0092】
10、12…溶接チップ 14…補助電極
16、16a…積層体 18、20…金属板
22…最薄ワーク(金属板) 24…電源
30、32、34…加熱領域 36、38…ナゲット
50…軟化部 52…溶融部
i1…電流 i2…分岐電流
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のワークを積層して形成される積層体に対して抵抗溶接を行う抵抗溶接方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数個の金属板同士を接合する手法として、これら金属板を積層して積層体を形成し、該積層体を1組の溶接用電極で挟持・加圧した後、該1組の溶接用電極間に通電を行い、前記金属板における接触面近傍の部位を溶融する抵抗溶接が従来から知られている。溶融した部位は、凝固によってナゲットと呼称される固相となる。場合によっては、3枚以上の金属板同士を抵抗溶接によって接合することもある。
【0003】
ここで、金属板は互いに同一厚みであるとは限らず、寧ろ、互いに相違することが大半である。すなわち、複数枚の金属板の中には、厚みが最も小さいワーク(以下、最薄ワークとも表記する)が含まれる。
【0004】
このような最薄ワークを積層体の最外に配置して抵抗溶接を行った場合、この最薄ワークと、該最薄ワークに隣接する別のワークとの間のナゲットが十分に成長しないことがある。この理由は、最薄ワークの厚みが最小であるために固有抵抗が最小となることに起因して十分なジュール熱が発生しなくなるためであると推察される。
【0005】
最薄ワーク近傍のナゲットを大きく成長させるべく、電流値を大きくすることによって最薄ワークのジュール熱を大きくすることが想起される。しかしながら、この場合、厚みが大きいワークに大電流が流れるようになり、このために該ワークが溶融して飛散する、いわゆるスパッタが惹起され易くなるという不具合を招く。
【0006】
これとは別に、通電時間を長くすることも考えられる。しかしながら、この場合においても、最薄ワークに十分なジュール熱を発生させることは容易ではない。また、溶接処理時間が長くなるので溶接効率が低下するという不具合を招いてしまう。
【0007】
この観点から、特許文献1において、3枚以上の金属板を積層するとともに最薄ワークを最外に配置した積層体に対して抵抗溶接を施す際、積層体に対する加圧力を小さくして大電流を短時間通電する第一段階と、前記加圧力を第一段階に比して大きく設定するとともに、電流値及び通電時間のそれぞれを第一段階の電流値以下、長時間化して通電を行う第二段階との二段階とすることが提案されている。
【0008】
該特許文献1の記載によれば、余計な工程を付加することなく、また、スパッタを発生させることなく、必要サイズのナゲットを有するスポット溶接継手を容易に作製することができるようになる、とのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−262259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された従来技術に比して制御を一層簡素にしながらも、接合強度をさらに向上することが今なお希求されている。
【0011】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、積層体中のワーク同士の接触面近傍にナゲットを十分に成長させることが可能であり、しかも、スパッタが発生する懸念を払拭し得る抵抗溶接方法及びそのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、複数個のワークを積層することで形成した積層体に対して抵抗溶接を行う抵抗溶接方法であって、
前記積層体を第1溶接チップ及び第2溶接チップで挟持するとともに、前記積層体の最外に位置して前記第1溶接チップが当接したワークに対し、前記第1溶接チップとは逆の極性である補助電極を当接させる工程と、
前記第1溶接チップと第2溶接チップの間に通電を行うことで前記積層体に対して抵抗溶接を施すとともに、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流を流す工程と、
前記最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したときに前記第1溶接チップと前記補助電極とを電気的に絶縁して前記分岐電流を停止する工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
すなわち、本発明においては、第1溶接チップ及び第2溶接チップで積層体を挟持するのみでなく、前記積層体の最外に位置するワークに対して補助電極を当接させて通電を行う。該補助電極とともに前記最外のワークに当接した第1溶接チップは、この補助電極とは逆の極性であるので、第1溶接チップから補助電極に向かう電流、又はその逆方向に流れる電流のいずれか一方が分岐して生じる。この分岐電流が最外のワークの内部を流れることにより、この最外のワークと、該最外のワークに隣接するワークとの接触面が十分に加熱される。
【0014】
このように分岐電流による加熱がなされることにより、前記接触面に十分な大きさのナゲットが成長する。これにより、接合強度に優れた接合部が得られる。
【0015】
しかも、この場合、ワーク同士の接触面を流れる電流値が、第1溶接チップ及び第2溶接チップのみで積層体を挟持して通電を行う通常の抵抗溶接に比して小さくなる。このため、前記接触面に形成されたナゲットが十分な大きさに成長する間にスパッタが起こる懸念が払拭される。
【0016】
以上のように、本発明によれば、積層体中の最外に配置されたワークと、該最外のワークに隣接するワークとの間にナゲットを十分に成長させることが可能となる。その上、スパッタが発生する懸念をも払拭し得る。
【0017】
ここで、分岐電流を過度に長時間流すと、最外のワークとそれに隣接するワークとの間に形成されるナゲットが小さくなる場合がある。そこで、本発明においては、最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したとき、換言すれば、それまで大きかった最外のワークの昇温速度が小さくなったときに、分岐電流を停止させるようにしている。このため、最外のワークとそれに隣接するワークの間に形成されるナゲットを大きく成長させることができる。
【0018】
分岐電流のみを停止させるためには、補助電極のみを最外のワークから離間させるか、又は、補助電極と電源との間の電気経路のみを切断した上で、第1溶接チップと第2溶接チップとの間の通電を続行すればよい。補助電極と電源との間の電気経路を切断するには、補助電極と電源との間にスイッチを介装し、このスイッチをOFF(切断)状態とすればよい。
【0019】
また、本発明は、複数個のワークを積層することで形成した積層体に対して抵抗溶接を行うための抵抗溶接システムであって、
前記積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップと、
前記第1溶接チップとともに前記積層体の最外に位置するワークに当接し、且つ前記第1溶接チップとは逆の極性である補助電極と、
前記積層体を挟持した前記第1溶接チップと前記第2溶接チップとの間で通電を行って抵抗溶接を施す際、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流が流れる時間を制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したときに前記第1溶接チップと前記補助電極とを電気的に絶縁して前記分岐電流を停止することを特徴とする。
【0020】
このような構成とすることにより、上記したように、スパッタが発生することを回避し得るとともに、最外のワークとそれに隣接するワークとの間に形成されるナゲットを十分に成長したものとして得ることができる。
【0021】
分岐電流を停止させるためには、第1溶接チップと補助電極との電気経路を遮断すればよい。このためには、例えば、補助電極と電源との間に、これら補助電極と電源との間のみの電気経路を接続又は遮断するスイッチを設けるようにしてもよい。このスイッチをON(接続)状態からOFF(切断)状態に切り換えたり、又はその逆に切り換えたりすることによって、第1溶接チップと補助電極との電気経路を接続又は遮断することができる。
【0022】
又は、補助電極を変位させるための変位機構を設け、この変位機構の作用下に補助電極を最外のワークに対して当接又は離間させるようにしてもよい。当然に、補助電極が最外のワークに対して当接している間は第1溶接チップと補助電極との電気経路が接続され、一方、補助電極が最外のワークに対して離間している間は第1溶接チップと補助電極との電気経路が遮断される。
【0023】
補助電極は、第1溶接チップを変位する変位機構によって、該第1溶接チップと一体的に最外のワークに対して接近又は離間させる(変位させる)ようにしてもよいが、補助電極のみを変位させる変位機構を別個に設けることが好ましい。
【0024】
さらに、補助電極は、第1溶接チップを囲繞する円環形状であることが好ましい。この場合、分岐電流が最外のワークの内部を放射状に万遍なく流れる。従って、最外のワークとこれに隣接するワークとの接触面がムラなく加熱され、ナゲットの形成が容易となるとともに、該ナゲットを十分に成長させることも容易となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップの他、前記積層体の最外に配置されたワークに当接する補助電極を用い、抵抗溶接を行う際、この補助電極と、該補助電極とともに前記最外のワークに当接した前記第1溶接チップとの間に、前記最外のワークを経由する分岐電流を流すようにしている。この分岐電流により、該最外のワークとこれに隣接するワークとの接触面を十分に加熱し得るジュール熱が発生する。従って、この接触面に十分な大きさのナゲットを成長させることができ、その結果、十分な接合強度を確保することができる。
【0026】
しかも、本発明においては、前記接触面が十分に発熱した時点で分岐電流を停止するようにしている。このため、分岐電流が過度に長時間流れることに起因してナゲットが小さくなることを回避することができる。
【0027】
接触面が十分に発熱したか否かは、最外のワークの通電時間に対する温度変化をプロットして通電時間−温度グラフを作成し、その傾きが大から小に変化したか否か、換言すれば、それまで大きかった最外のワークの昇温速度が小さくなったか否かに基づいて判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態に係る抵抗溶接システムの要部拡大一部横断面斜視図である。
【図2】第1溶接チップ、第2溶接チップ及び補助電極の全てで、溶接対象である積層体を挟持した状態を示す縦断面模式図である。
【図3】通電を開始し、第1溶接チップから第2溶接チップに向かう電流と、第1溶接チップから補助電極に向かう分岐電流とを流した状態を示す縦断面模式図である。
【図4】図3から通電を続行した状態を示す縦断面模式図である。
【図5】第1溶接チップから補助電極に向かう分岐電流を流した時間の割合と、ナゲットの径との関係を示すグラフである。
【図6】第1溶接チップから補助電極に向かう分岐電流を流した時間と、積層体の最外に配置された最薄ワークの温度との関係を示すグラフである。
【図7】様々な鋼材における温度と比抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】図4の等価回路に電流及び分岐電流が如何なる経路で流れるかを示した模式的電流経路図である。
【図9】ON/OFFスイッチをOFF状態とし、且つ第1溶接チップから第2溶接チップへの通電を続行した状態を示す縦断面模式図である。
【図10】図9の等価回路に電流及び分岐電流が如何なる経路で流れるかを示した模式的電流経路図である。
【図11】通電(抵抗溶接)を終了した状態を示す縦断面模式図である。
【図12】図4とは逆に、第2溶接チップ及び電流分岐電極から第1溶接チップに向かう電流を流した状態を示す縦断面模式図である。
【図13】積層体の最上に位置する最薄ワークと、その直下のワークとに、第1溶接チップから補助電極に向かう電流が流れる状態を示す縦断面模式図である。
【図14】図3とは別の積層体を、第1溶接チップ、第2溶接チップ及び補助電極の全てで挟持して通電を開始した状態を示す縦断面模式図である。
【図15】図14に続き、ON/OFFスイッチをOFF状態とし、且つ第1溶接チップから第2溶接チップへの通電を続行した状態を示す縦断面模式図である。
【図16】図15に続き、第1溶接チップから第2溶接チップへの通電をさらに続行した状態を示す縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る抵抗溶接方法につき、これを実施する抵抗溶接システムとの関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態に係る抵抗溶接システムの要部拡大一部横断面斜視図である。この抵抗溶接システムは、第1溶接チップ10、第2溶接チップ12及び補助電極14を具備する図示しない溶接ガンを有し、該溶接ガンは、例えば、6軸ロボット等の多関節ロボットのアーム部先端に配設される。多関節ロボットのアームに溶接ガンが配設された構成は公知であり、このため、この構成についての詳細な説明は省略する。
【0031】
溶接対象である積層体16につき若干説明すると、この場合、積層体16は、3枚の金属板18、20、22が下方からこの順序で積層されることによって構成される。この中の金属板18、20の厚みはD1(例えば、約1mm〜約2mm)に設定され、金属板22の厚みはD1に比して小寸法のD2(例えば、約0.5mm〜約0.7mm)に設定される。すなわち、金属板18、20の厚みは同一であり、金属板22はこれら金属板18、20に比して薄肉である。以下においては、金属板22を最薄ワークと呼称することもある。
【0032】
金属板18、20は、例えば、いわゆるハイテン鋼であるJAC590、JAC780又はJAC980(いずれも日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能高張力鋼板)からなり、最薄ワーク22は、例えば、いわゆる軟鋼であるJAC270(日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能絞り加工用鋼板)からなる。金属板18、20は同一金属種であってもよいし、異種金属種であってもよい。
【0033】
又は、金属板18、20、22の全てが軟鋼である組み合わせであってもよいし、金属板18のみがハイテン鋼、金属板20、22が軟鋼である組み合わせであってもよい。
【0034】
金属板18、20、22の材質は、上記した鋼材に特に限定されるものではないことは勿論であり、抵抗溶接が可能なものであれば如何なる材質であってもよい。
【0035】
長尺棒状に形成された第1溶接チップ10と第2溶接チップ12は、これら第1溶接チップ10及び第2溶接チップ12の間に溶接対象である積層体16を挟持し、且つ該積層体16に対して通電を行うものである。なお、本実施の形態においては、第1溶接チップ10から第2溶接チップ12に向かって電流が流れるものとする。
【0036】
前記溶接ガンがいわゆるX型のものである場合、第1溶接チップ10は、開閉自在なチャック対を構成する一方のチャック爪に設けられ、第2溶接チップ12は、前記チャック対の残余のチャック爪に設けられる。すなわち、チャック対が開動作又は閉動作することに伴い、第1溶接チップ10と第2溶接チップ12が互いに離間又は接近する。
【0037】
前記溶接ガンは、いわゆるC型のものであってもよい。この場合、第2溶接チップ12は固定アームの先端に配置され、一方、第1溶接チップ10は、例えば、ボールネジに連結される。ボールネジが回転付勢されることに伴い、第1溶接チップ10が第2溶接チップ12に対して接近又は離間する。
【0038】
補助電極14は、この場合、円環形状に形成され、第1溶接チップ10を囲繞する。第1溶接チップ10を支持する前記溶接ガンには、この補助電極14を積層体16に対して接近又は離間させるための変位機構、例えば、ボールネジ又はシリンダ等が設けられる。この変位機構により、補助電極14は、第1溶接チップ10とは別個に積層体16に対して接近又は離間することが可能である。
【0039】
本実施の形態では、電源24の正極に対して第1溶接チップ10が電気的に接続されるとともに、第2溶接チップ12及び補助電極14が前記電源24の負極に対して電気的に接続される。このことから諒解される通り、第1溶接チップ10と補助電極14はともに、積層体16を構成する最薄ワーク22に当接するものの、その極性は互いに逆である。
【0040】
以上の構成において、第1溶接チップ10と補助電極14との離間距離Zが過度に大きい場合、第1溶接チップ10と補助電極14との間の抵抗が大きくなり、後述する分岐電流i2(図3参照)が流れることが困難となる。従って、離間距離Zは、第1溶接チップ10と補助電極14との間の抵抗が、分岐電流i2が適切な電流値で流れることが可能となる距離に設定される。
【0041】
そして、電源24の負極と補助電極14の間には、ON/OFFスイッチ26が介装される。すなわち、電源24の負極と補助電極14は、ON/OFFスイッチ26がON状態にあるときに電気的に接続され、一方、OFF状態にあるときに絶縁される。
【0042】
抵抗溶接システムは、さらに、前記溶接ガン及び前記多関節ロボットの動作を制御する制御回路としての図示しないRB(ロボット)コントローラを有し、このRBコントローラの制御作用下に、前記ON/OFFスイッチ26のON状態/OFF状態が切り替えられる。
【0043】
本実施の形態に係る抵抗溶接システムの要部は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、本実施の形態に係る抵抗溶接方法との関係で説明する。
【0044】
本実施の形態に係る抵抗溶接方法を実施するために、先ず、テストピースを用いて通電試験を行う。
【0045】
具合的には、RBコントローラの作用下に、前記多関節ロボットが、第1溶接チップ10と第2溶接チップ12の間に積層体16が配置されるように前記溶接ガンを移動させる。その後、チャック爪同士が閉動作したり、又は変位機構が付勢されたりすることにより、第1溶接チップ10と第2溶接チップ12が相対的に接近し、その結果、互いの間に積層体16が挟持される。補助電極14は、この挟持と同時に、最薄ワーク22に当接する。
【0046】
次に、通電を開始する。上記したように、第1溶接チップ10、第2溶接チップ12の各々が電源24の正極、負極に接続されているため、図3に示すように、第1溶接チップ10から第2溶接チップ12に向かう電流i1が流れる。この電流i1に基づくジュール熱により、金属板18、20の間、及び金属板20、22の間がそれぞれ加熱される。なお、図3における参照符号30、32は、加熱領域を示す。
【0047】
ここで、最薄ワーク22には補助電極14も当接しており、この補助電極14の極性は負である。従って、第1溶接チップ10からは、上記した電流i1と同時に、補助電極14に向かう分岐電流i2が出発する。補助電極14が円環形状であるため、分岐電流i2は放射状に流れる。
【0048】
従って、この場合、最薄ワーク22の内部に、前記加熱領域32とは別の加熱領域34が形成される。なお、分岐電流i2が放射状に流れるため、加熱領域34は金属板20、22の接触面を放射状に加熱する。加熱領域34は、時間の経過とともに拡大し、図4に示すように、加熱領域32と一体化する。
【0049】
金属板20、22の間の接触面は、このようにして一体化した加熱領域32、34の双方から熱が伝達された結果、十分に温度上昇して溶融し始める。その結果、金属板20、22の間にナゲット36が形成される。また、電流i1によって金属板18、20の間にもナゲット38が形成される。
【0050】
金属板20、22の間のナゲット36を大きく成長させるには、最薄ワーク22に対して補助電極14を長時間にわたって接触させ、分岐電流i2が長時間流れるようにすればよいとも考えられる。しかしながら、図5に示すように、分岐電流i2を過度に長時間にわたって流した場合、換言すれば、電流i1の通電時間に対する分岐電流i2の通電時間の割合を大きくした場合、ナゲット36の径が小さくなることがある。
【0051】
そこで、本実施の形態では、前記の通電試験において、分岐電流i2を継続的に通電しながら最薄ワーク22の温度を測定し、その結果をプロットする。すなわち、最薄ワーク22における通電時間−温度のグラフを作成する。温度測定手段としては、熱電対や放射温度計等の公知のものを用いるようにすればよい。
【0052】
図6は、その一例である。この図6は、点Bにおいて最薄ワーク22の温度の傾きが最大から最小に変化する場合を示したものである。すなわち、この場合、最薄ワーク22は、点Bに至るまでは時間の経過とともに温度が急激に上昇する一方、点Bに到達した後では温度がさほど上昇しないものである。
【0053】
最薄ワーク22の温度がこのように変化する理由は、最薄ワーク22の素材が変態を起こし、このために比抵抗が変化するためである。すなわち、鋼材を例示して説明すると、図7に示すように、Cを0.23%(重量%、以下同じ)Mnを0.46%含む鋼材A(◆のプロット)、Cを0.32%、Mnを0.69%、Crを1.09%、Niを0.07%含む鋼材B(■のプロット)、Cを0.34%、Mnを0.55%、Crを0.78%、Niを3.53%、Moを0.39%含む鋼材C(▲のプロット)、Cを0.13%、Mnを0.25%、Crを12.95%含む鋼材D(×のプロット)のいずれも、約800℃において比抵抗の変化率が小さくなる。この変化率が相違するようになる前後で、体心立方晶から面心立方晶に変化するA3変態が起こっているからである。
【0054】
換言すれば、鋼材A、鋼材B、鋼材C又は鋼材Dのいずれかからなる最薄ワーク22を用いた場合、A3変態点である約800℃に至るまでは比抵抗が大きな傾きで上昇し、このために最薄ワーク22の温度も大きな傾きで上昇する。比抵抗が大きいために発生するジュール熱が大きくなるからである。そして、約800℃を超えると比抵抗の傾きが小さくなり、その結果、発生するジュール熱が小さくなることに基づいて、最薄ワーク22の温度上昇の傾きも小さくなる。
【0055】
要するに、A3変態点である約800℃までは、最薄ワーク22の温度を効率よく上昇させることができるが、それを超える温度では、最薄ワーク22の温度上昇が小さくなる(図6参照)。
【0056】
図5中の点A〜点Dのそれぞれは、図6中の点A〜点Dのそれぞれに対応する。すなわち、図5中の原点から点A〜点Dの各々に至るまでの経過時間と、図6中の原点から点A〜点Dの各々に至るまでの経過時間とは互いに等しい。
【0057】
そして、図5中の点A〜点Dと図6中の点A〜点Dを比較して諒解されるように、金属板20、22間のナゲット36の径は、点Bに到達した時点で分岐電流i2を停止して電流i1のみを継続させたときに最大となる。点Bを超えた以降もさらに分岐電流i2を流し続けると、図5の点Dに示すように、ナゲット36の径が小さくなる傾向が認められる。
【0058】
以上の知見を通電試験によって得た後、本抵抗溶接を実施する。この本抵抗溶接では、通電試験によって判別された点B、すなわち、最薄ワーク22の温度の傾きが最大から最小に変化するときとなった時点で分岐電流i2を停止する。このためには、例えば、通電試験において分岐電流i2を流し始め、最薄ワーク22の温度の傾きが最大から最小に変化したときまでの経過時間をRBコントローラに入力し、本抵抗溶接において、この時間となったときにON/OFFスイッチ26をOFF状態とする制御を行えばよい。
【0059】
又は、上記したような公知の温度測定手段を用いて最薄ワーク22の温度を測定し、図6中の点Bの温度に到達したときにON/OFFスイッチ26をOFF状態とする制御を行うようにしてもよい。
【0060】
すなわち、先ず、通電試験に準拠して、積層体16を挟持した第1溶接チップ10から第2溶接チップ12に向かって電流i1を流すとともに、第1溶接チップ10から補助電極14に向かって分岐電流i2を流す。これにより、図3及び図4と同様に加熱領域30、32、34が形成されるとともに、金属板20、22の間にナゲット36が形成され、且つ金属板18、20の間にナゲット38が形成される。なお、図8はこの場合の等価回路における電流経路を示す。
【0061】
この場合、金属板18、20に流れる電流i1の電流値は、分岐電流i2を流すことがない一般的な抵抗溶接に比して小さい。このため、金属板20、22の間のナゲット36が大きく成長している間に金属板18、20の発熱量が過度に大きくなることが回避される。従って、スパッタが発生する懸念が払拭される。
【0062】
分岐電流i2の割合を大きくするほど加熱領域34、ひいてはナゲット36を大きくすることが可能であるが、分岐電流i2の割合を過度に大きくした場合、電流i1の電流値が小さくなるので、加熱領域30、32が小さくなる。このため、ナゲット36の大きさが飽和する一方、ナゲット38が小さくなる傾向がある。従って、分岐電流i2の割合は、ナゲット38が十分に成長する程度の電流i1が流れるように設定することが好ましい。
【0063】
なお、電流i1と分岐電流i2の割合は、例えば、上記したように第1溶接チップ10と補助電極14との離間距離Z(図1及び図2参照)を変更することで調節することが可能である。又は、分岐電流i2の電流経路、例えば、補助電極14と電源24との間に、電流量を調整する機構や抵抗体を設け、これにより分岐電流i2の割合を調整するようにしてもよい。
【0064】
上記したように、分岐電流i2が継続して流れるようにすると、ナゲット36が若干小さくなる傾向がある。従って、本実施の形態においては、ナゲット36の径が最大となった時点で分岐電流i2を停止させる。
【0065】
例えば、通電試験における分岐電流i2の流し始めから、最薄ワーク22の温度の傾きが最大から最小に変化したときまでの経過時間をRBコントローラに入力した場合、RBコントローラは、この時間となったときに、図9に示すようにON/OFFスイッチ26をOFF状態とする。また、温度測定手段によって測定された最薄ワーク22の温度に関する情報をRBコントローラに送る場合、RBコントローラは、図6中の点Bの温度に到達したときにON/OFFスイッチ26をOFF状態とする制御を行う。
【0066】
これにより、電源24と補助電極14が電気的に絶縁される。その結果、分岐電流i2が停止するに至る。図10は、この際の等価回路における電流経路を示す。
【0067】
以上のようにして分岐電流i2が停止すると、最薄ワーク22には、第1溶接チップ10から第2溶接チップ12へ向かう電流i1のみが流れるようになる。その結果、加熱領域34(図4参照)が消失する。
【0068】
その一方で、金属板18、20においては、通常の抵抗溶接時と同様の状態が形成される。すなわち、厚みが大きい金属板18、20ではジュール熱による発熱量が増加し、その結果、加熱領域30が広がるとともにその温度が一層上昇する。金属板18、20の接触面は、この温度上昇した加熱領域30に加熱され、これにより、該接触面近傍の温度が十分に上昇(発熱)して溶融し、ナゲット38の成長が促進される。
【0069】
以降は、ナゲット38が十分に成長するまで、例えば、図9に示すように、ナゲット36と一体化するまで通電を継続すればよい。通電継続時間に対するナゲット38の成長の度合いも、テストピース等を用いた抵抗溶接試験で予め確認しておけばよい。
【0070】
ここで、金属板18、20の接触面は、金属板20、22同士の間にナゲット36を成長させる際に電流i1が通過することに伴って形成された加熱領域30によって予め加熱されている。このため、金属板18、20同士は、ナゲット38が成長する前になじみが向上している。従って、スパッタが発生し難い。
【0071】
以上のように、本実施の形態においては、金属板20、22の間のナゲット36を成長させる際、金属板18、20の間のナゲット38を成長させる際の双方でスパッタが発生することを回避することができる。
【0072】
RBコントローラに含まれる溶接タイマに予め設定された所定時間(ナゲット38が十分成長し得る時間)が経過すると、通電が停止されるとともに、図11に示すように、第1溶接チップ10が最薄ワーク22から離間する。又は、第1溶接チップ10を最薄ワーク22から離間させることで第1溶接チップ10と第2溶接チップ12を電気的に絶縁し、これにより溶接を停止するようにしてもよい。
【0073】
このようにして通電(溶接)が停止されることに伴い、金属板18、20の発熱も終了する。時間の経過とともにナゲット38が冷却固化し、これにより金属板18、20が互いに接合される。
【0074】
以上のようにして、積層体16を構成する金属板18、20同士、金属板20、22同士が接合され、結局、接合品が得られるに至る。
【0075】
この接合品においては、金属板18、20同士の接合強度と同様に、金属板20、22同士の接合強度も優れる。上記したように最薄ワーク22に分岐電流i2が流されたことに伴って、金属板20、22の間のナゲット36が十分に成長しているからである。
【0076】
しかも、上記から諒解される通り、本実施の形態に係る抵抗溶接システムを構成するに際しては、補助電極14と、該補助電極14を変位させるための変位機構と、補助電極14に向かう分岐電流i2を発生・発生停止するためのON/OFFスイッチ26とを設ければよい。従って、補助電極14を設けることに伴って抵抗溶接システムの構成が複雑化することもない。
【0077】
その上、1回の通電試験を行って必要な情報を得た後は、この情報に基づいて本抵抗溶接を行うことができるので、ナゲット36の径が最大となる分岐電流i2の通電時間を求めるべく多量のテストピースを作成して複数回の通電試験を行う必要もない。すなわち、本実施の形態によれば、本抵抗溶接時の条件を簡便且つ容易に設定し得るという利点も得られる。
【0078】
なお、上記した実施の形態においては、ON/OFFスイッチ26をOFF状態とすることで分岐電流i2を停止させるようにしているが、これに代替し、溶接タイマに設定された所定時間が経過すると補助電極14を最薄ワーク22から離間させ、これにより分岐電流i2を停止させるようにしてもよい。この場合には、補助電極14を第1溶接チップ10とは別個に変位させるための変位機構を設けるようにすればよい。
【0079】
また、図12に示すように、金属板18に当接した第2溶接チップ12から、最薄ワーク22に当接した第1溶接チップ10に向かう電流を流すようにしてもよい。この場合にも、最薄ワーク22に当接した補助電極14の極性を第1溶接チップ10と逆にする。すなわち、第2溶接チップ12及び補助電極14を電源24の正極に電気的に接続する一方、第1溶接チップ10を電源24の負極に電気的に接続する。これにより、第2溶接チップ12から第1溶接チップ10に向かう電流i1と、補助電極14から第1溶接チップ10に向かう分岐電流i2とが発生する。
【0080】
いずれの場合においても、補助電極は、円環形状の補助電極14に特に限定されるものではない。例えば、第1溶接チップ10及び第2溶接チップ12と同様に長尺棒状のものであってもよい。この場合、補助電極は1本であっても複数本であってもよく、複数本を用いる場合は、これら複数本の補助電極を最薄ワーク22に対して同時に当接又は離間させるようにしてもよい。
【0081】
さらに、上記した各態様において、図13に示すように、分岐電流i2を、第1溶接チップ10が接触した最薄ワーク22のみならず、該最薄ワーク22の直下に位置する金属板20にも流れるようにしてもよい。
【0082】
この場合、最薄ワーク22と金属板20の間に抵抗発熱が生じ、その結果、ナゲット36が生成する。その一方で、金属板18、20の間には、第1溶接チップ10から補助電極14に向かう電流が流れないか、又は、流れたとしてもその電流量は極僅かである。従って、最薄ワーク22と金属板20の間に生成した前記ナゲット36が容易に成長する。
【0083】
又は、4枚以上の金属板で積層体を構成するようにしてもよいし、図14に示すように、2枚の金属板18、20のみで積層体16aを構成するようにしてもよい。以下、この場合につき説明する。
【0084】
積層体16aに対して抵抗溶接を行う際には、上記同様に、RBコントローラの作用下に、前記多関節ロボット、ひいては前記溶接ガンが移動して第1溶接チップ10と第2溶接チップ12で積層体16aが挟持される。さらに、補助電極14が金属板20に当接する。以上により、図14に示す状態が形成される。
【0085】
以降も上記と同様にして、RBコントローラの制御作用下に、第1溶接チップ10と第2溶接チップ12の間に電流i1が流れて通電が開始される。同時に、第1溶接チップ10から補助電極14に向かう分岐電流i2が放射状に流れる。
【0086】
図14から諒解されるように、金属板18、20の間は電流i1に基づくジュール熱により加熱されて軟化し、これにより軟化部50が形成される。一方、電流i1及び分岐電流i2が流れる金属板20は、これら電流i1及び分岐電流i2に基づくジュール熱により加熱されて溶融し、これにより溶融部52が形成される。
【0087】
RBコントローラに含まれる溶接タイマには、上記のようにして求められた軟化部50が十分に軟化し得る時間が予め設定されている。従って、この設定された時間に到達すると、図15に示すように、RBコントローラ(溶接タイマ)の作用下にON/OFFスイッチ26がOFF状態とされる。これに伴い、分岐電流i2が停止される。
【0088】
以上のようにして分岐電流i2が停止すると、金属板18、20には、第1溶接チップ10から第2溶接チップ12へ向かう電流i1のみが流れるようになる。この電流i1は、分岐電流i2が停止されるまでの電流i1に比して大きい。
【0089】
従って、抵抗が大きい金属板18、20の接触面におけるジュール熱が、分岐電流i2が停止する前に比して大きくなる。その結果、図16に示すように、溶融部52が軟化部50側に大きく成長し、最終的に、この溶融部52からナゲットが形成される。
【0090】
上記したように、金属板18、20の接触面には軟化部50が予め形成されている。このため、金属板18、20の間が良好にシールされる。従って、分岐電流i2が停止されて電流i1の電流値が大きくなったときにおいても、金属板18、20の間からスパッタが飛散することが回避される。
【0091】
以上のように、2枚の金属板18、20に対して抵抗溶接を行う場合にも、スパッタが発生することを回避しながら、これら金属板18、20の接触面に大きなナゲットを成長させることができる。
【符号の説明】
【0092】
10、12…溶接チップ 14…補助電極
16、16a…積層体 18、20…金属板
22…最薄ワーク(金属板) 24…電源
30、32、34…加熱領域 36、38…ナゲット
50…軟化部 52…溶融部
i1…電流 i2…分岐電流
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のワークを積層することで形成した積層体に対して抵抗溶接を行う抵抗溶接方法であって、
前記積層体を第1溶接チップ及び第2溶接チップで挟持するとともに、前記積層体の最外に位置して前記第1溶接チップが当接したワークに対し、前記第1溶接チップとは逆の極性である補助電極を当接させる工程と、
前記第1溶接チップと第2溶接チップの間に通電を行うことで前記積層体に対して抵抗溶接を施すとともに、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流を流す工程と、
前記最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したときに前記第1溶接チップと前記補助電極とを電気的に絶縁して前記分岐電流を停止する工程と、
を有することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載の抵抗溶接方法において、前記補助電極のみを前記最外のワークから離間させるか、又は、前記補助電極と電源との間の電気経路のみを切断することで前記分岐電流を停止することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項3】
複数個のワークを積層することで形成した積層体に対して抵抗溶接を行うための抵抗溶接システムであって、
前記積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップと、
前記第1溶接チップとともに前記積層体の最外に位置するワークに当接し、且つ前記第1溶接チップとは逆の極性である補助電極と、
前記積層体を挟持した前記第1溶接チップと前記第2溶接チップとの間で通電を行って抵抗溶接を施す際、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流が流れる時間を制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したときに前記第1溶接チップと前記補助電極とを電気的に絶縁して前記分岐電流を停止することを特徴とする抵抗溶接システム。
【請求項4】
請求項3記載の抵抗溶接システムにおいて、前記補助電極と電源との間に、前記補助電極と電源との間の電気経路のみを接続又は停止するスイッチが設けられたことを特徴とする抵抗溶接システム。
【請求項5】
請求項3記載の抵抗溶接システムにおいて、前記補助電極のみを前記最外のワークに対して接近又は離間させる変位機構をさらに備えることを特徴とする抵抗溶接システム。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の抵抗溶接システムにおいて、前記補助電極が、前記第1溶接チップを囲繞する円環形状であることを特徴とする抵抗溶接システム。
【請求項1】
複数個のワークを積層することで形成した積層体に対して抵抗溶接を行う抵抗溶接方法であって、
前記積層体を第1溶接チップ及び第2溶接チップで挟持するとともに、前記積層体の最外に位置して前記第1溶接チップが当接したワークに対し、前記第1溶接チップとは逆の極性である補助電極を当接させる工程と、
前記第1溶接チップと第2溶接チップの間に通電を行うことで前記積層体に対して抵抗溶接を施すとともに、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流を流す工程と、
前記最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したときに前記第1溶接チップと前記補助電極とを電気的に絶縁して前記分岐電流を停止する工程と、
を有することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載の抵抗溶接方法において、前記補助電極のみを前記最外のワークから離間させるか、又は、前記補助電極と電源との間の電気経路のみを切断することで前記分岐電流を停止することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項3】
複数個のワークを積層することで形成した積層体に対して抵抗溶接を行うための抵抗溶接システムであって、
前記積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップと、
前記第1溶接チップとともに前記積層体の最外に位置するワークに当接し、且つ前記第1溶接チップとは逆の極性である補助電極と、
前記積層体を挟持した前記第1溶接チップと前記第2溶接チップとの間で通電を行って抵抗溶接を施す際、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流が流れる時間を制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記最外のワークの通電時間−温度グラフにおける傾きが大から小に変化したときに前記第1溶接チップと前記補助電極とを電気的に絶縁して前記分岐電流を停止することを特徴とする抵抗溶接システム。
【請求項4】
請求項3記載の抵抗溶接システムにおいて、前記補助電極と電源との間に、前記補助電極と電源との間の電気経路のみを接続又は停止するスイッチが設けられたことを特徴とする抵抗溶接システム。
【請求項5】
請求項3記載の抵抗溶接システムにおいて、前記補助電極のみを前記最外のワークに対して接近又は離間させる変位機構をさらに備えることを特徴とする抵抗溶接システム。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の抵抗溶接システムにおいて、前記補助電極が、前記第1溶接チップを囲繞する円環形状であることを特徴とする抵抗溶接システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−55897(P2012−55897A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198505(P2010−198505)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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