説明

押出ダイス

【課題】成形すべき押出形材の形状および寸法精度を高くして確実に押出成形できると共に、寿命も長くできる押出ダイスを提供する。
【解決手段】押出形材Pを成形するための成形孔14を有する挿入体10と、押出方向Exの上流側面3に上記挿入体10を挿入する凹部5を有するダイス本体2と、を備え、上記挿入体10は、ダイス本体2と同一または同種の鋼材あるいは超硬からなり、上記成形孔14の両側に位置し且つ押出方向Exに対して傾斜した傾斜面13により2つ(複数)に分割されていると共に、係る傾斜面13は、押出方向Exに対し5〜30度の角度θ1で傾斜している、押出ダイス1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アルミニウム合金からなる押出形材を押出成形するための押出ダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
押出ダイスの寿命を長くするため、成形すべき押出形材の断面形状を決めるベアリング部を含む成形孔付近を、著しく硬質の合金、セラミック、あるいは超硬を用いた挿入体とし、これを工具鋼などからなるダイス本体(ホルダー)の凹部に挿入することが広く行われている。しかし、上記超硬は、靭性が低く脆いため、ビレットを介したステムの押出圧力を受けた際、成形孔のうち、例えば直角のコーナー部分が応力集中を受け、割れ(クラック)を生じて破損することがあった。
上記割れを防止するため、ダイス本体にボルトを介して着脱自在に保持されたダイを、ベアリング部を有し且つ押出方向に沿ってほぼ等分に分割された超硬からなる複数のベアリング部材により形成した押出成形用超硬ダイスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
係る押出成形用超硬ダイスによれば、押出圧力が加えられることで、上記ダイが変形しても、押出方向に沿って複数に分割されたベアリング部材の各当接部で係る変形を緩和できるため、破損を防止することができる、という利点がある。
【0003】
【特許文献1】特開2003−10911号公報(第1〜8頁、図1〜11)
【0004】
しかしながら、前記押出成形用超硬ダイスのように、超硬からなり押出方向に沿ってほぼ等分に分割された複数のベアリング部材を、ダイス本体に保持した場合、ビレットから流入したアルミニウム合金の一部が複数のベアリング部材同士間に隙間に進入し、成形された押出形材の側面にバリが発生する、という問題があった。係るバリが生じると、これを除去するための後工程が必要となると共に、押出形材自体の形状および寸法精度が低下する、という問題もあった。
更に、複数のベアリング部材をそれぞれ専用の固定ボルトおよび押圧ボルトによってダイス本体に保持すべく、係るダイス本体に各ボルトを受け入れるための雌ネジ孔を数多く孔明けする必要があるため、加工工数が多くなると共に、ダイス本体自体の強度が低下する、という問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術において説明した問題点を解決し、成形すべき押出形材の形状および寸法精度を高くして確実に押出成形できると共に、寿命も長くできる押出ダイスを提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、発明者による鋭意研究および調査の結果、ダイス本体の凹部に挿入する挿入体を、押出方向に対して所定の角度で傾斜した傾斜面で分割する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の押出ダイス(請求項1)は、押出形材を成形するための成形孔を有する挿入体と、押出方向の上流側面に上記挿入体を挿入する凹部を有するダイス本体と、を備え、上記挿入体は、上記成形孔の両側に位置し且つ押出方向に対して傾斜した傾斜面により複数に分割されている、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、ダイス本体の上流側面に開口する凹部に、挿入体が挿入されると共に、係る挿入体は、押出方向に対して傾斜した傾斜面により、複数の挿入片に分割されている。このため、例えば、約450℃付近の温度帯に加熱されたアルミニウム合金のビレットを、上記挿入体の上流側面に押圧して、係る挿入体の成形孔に流動化した上記ビレットの一部であるメタルフローが進入した際に、分割された複数の挿入片によって、上記ビレットによる応力を分散することができる。従って、挿入体における成形孔のコーナー部のような応力集中を生じ易い部分での割れを防止しつつ、当該成形孔のベアリング面に倣って、高い形状および寸法精度をもった押出形材を確実に押出成形することが可能となる。しかも、挿入体を構成する複数の挿入片の一部を取り替えることで、厚み、断面形状、あるいは、表面の模様(意匠)が異なる複数種類の押出形材を容易に押し出すことも可能となる。加えて、挿入体およびダイス本体を備える押出ダイスの寿命も長くできるため、ランニングコストの低減も図れる。
【0008】
尚、前記ダイス本体は、例えば、SKD鋼種の熱間金型用鋼などからなる。
また、前記「複数」とは、2または3以上を意味し、前記挿入体は、成形孔を含め、当該挿入体およびダイス本体の径方向において、ほぼ2等分、あるいは、ほぼ3,4等分に分割した挿入片となる。
更に、ダイス本体の前記凹部や挿入体は、押出方向に沿った外形が互いにほぼ相似形の矩形(正方形または長方形)や、これらの各コーナーにアールを付けた形状、あるいは、ほぼ長円形、ほぼ楕円形などを呈する。
【0009】
また、本発明には、前記挿入体は、超硬、あるいは、前記ダイス本体と同一、同種、または異種の鋼材からなる、押出ダイス(請求項2)も含まれる。
上記超硬からなる挿入体を用いる押出ダイスによれば、複数の挿入片を合体することで、精度の良い成形孔を含む挿入体が比較的安価に形成できる。
一方、上記鋼材からなる挿入体を用いる押出ダイスによれば、例えば、ダイス本体と同一または同種の鋼材からなる複数の挿入片を合体することで、挿入体を一層安価に形成できる。しかも、押出ダイスを加熱した際に、ダイス本体と挿入体とが同一かほとんど同じで熱膨張するため、両者間の熱膨張差を考慮する必要がなくなるため、成形孔の精度を高く安定して保つことが容易となる。かかる形態の場合、ダイス本体の鋼材と異種の鋼材からなるが、ほぼ同じ熱膨張率の挿入体を適用したり、あるいは、ダイス本体の鋼材と同種または異種の鋼材からなり、且つ熱膨張率が超硬からなる前記形態の挿入体と同程度に異なるか、これよりも熱膨張率の差が小さい挿入体を適用することも可能である。
尚、前記超硬には、例えば、WC−Co系、WC−TiC−Co系、WC−TiC−TaC−Co系などの超硬合金、SiC、Si、SiC−Si、ジルコニア(ZrO)などのセラミック、金属およびセラミックなどの複合材、あるいは、ダイヤモンドなどが含まれる。
また、前記鋼材には、例えば、ダイス本体がSKD61の場合、SKD61を用いるか、SKD61と同一または同等の熱膨張率の熱間工具鋼が用いられる。
【0010】
更に、本発明には、前記超硬の挿入体を分割する傾斜面は、押出方向に対し5〜30度の角度で傾斜している、押出ダイス(請求項3)も含まれる。
これによれば、前記挿入体が、押出方向に対し5〜30度の角度の傾斜面により複数の挿入片に分割されているため、係る挿入体の上流側面に加熱されたビレットを押圧しても、流動化したビレットの一部であるメタルフローが複数の挿入片ごとの傾斜面同士間における隙間に進入しなくなる。この結果、側面にバリがなく形状・寸法精度に優れた押出形材を確実に成形することができる。
尚、上記傾斜面の角度が5度未満になると、傾斜面間の隙間に流動化したメタルフローの一部が進入して、押出形材の側面にバリを生じるおそれがあり、一方、上記傾斜面の角度が30度を超えると、係る傾斜面を含む各挿入片の先細形状部分が脆弱となり、且つ当該傾斜面自体を得るための加工が次第に困難となる。このため、上記傾斜面の角度を上記範囲としたものである。望ましい傾斜面の上記角度は、7〜18度、より望ましくは8〜12度(例えば、10度)である。
【0011】
更に、本発明には、前記傾斜面により複数に分割された前記超硬の挿入体は、常温付近では、その押出方向の上流側面を含む部分が、前記ダイス本体の凹部から突出していると共に、押出時の温度帯では、上記上流側面が、ダイス本体の凹部内に挿入され且つ当該ダイス本体の上流側面とほぼ面一となる、押出ダイス(請求項4)も含まれる。
これによれば、超硬からなり且つ傾斜面にて分割された複数の挿入片からなる挿入体は、常温付近においてダイス本体の凹部に挿入した際には、その上流側面を含む部分が、係る凹部の開口部よりも突出しているが、ビレットと共に押出可能な温度帯に加熱されると、その上流側面がダイス本体の上流側面とほぼ面一となる。即ち、相対的に熱膨張率の高い金属材料からなるダイス本体の凹部が上記加熱によって拡大されるため、何らの操作を行うことなく、相対的に熱膨張率が低い超硬からなり傾斜面で複数に分割された挿入体を、凹部内に挿入できると同時に、所望の成形孔を保持することができる。従って、形状・寸法精度に優れた押出形材を、容易且つ確実に成形することができる。
尚、前記鋼材からなる挿入体では、ダイス本体との間で熱膨張差が皆無か、極く僅かなため、常温付近や押出時の温度帯でも、それらの上流側面が面一となる。
【0012】
加えて、本発明には、前記ダイス本体の凹部は、開口部が広く且つ底面側が狭くなる傾斜角度を有すると共に、前記挿入体の側面も押出方向の上流側面が広く且つ下流側面が狭くなる上記同様の傾斜角度を有する、押出ダイス(請求項5)も含まれる。
これによれば、上記挿入体をダイス本体の凹部に容易に予備挿入できると共に、所要の温度帯に加熱した際に、上記挿入体をダイス本体の上記凹部内に、スムースに挿入させることができる。しかも、傾斜面で複数に分割された挿入片同士の間に位置する成形孔を、所定の形状および寸法精度に保つことも容易となり、且つ挿入片間のガタ付きを防ぐこともできる。
上記傾斜角度は、1〜7度、望ましくは2〜6度、より望ましくは3〜5度の範囲で選定される。係る傾斜角度が1度未満になると、挿入体を凹部に挿入しずらくなり、一方、上記傾斜角度が7度を超えると、挿入体において、係る角度に傾斜した側面を加工するコストが過大となるため、上記範囲が推奨される。
【0013】
付言すれば、本発明には、前記挿入体は、押出方向に沿った視角でほぼ長方形(矩形)を呈し、係る長方形の長手方向に沿って縦横比が少なくとも1:2以上の前記成形孔を有すると共に、係る成形孔の長手方向の両端と当該挿入体の両側面との間に前記傾斜面が位置している、押出ダイスを含まれ得る。
これによる場合、挿入体を貫通する全体が細長い成形孔をワイヤーカット加工で形成した後、係る成形孔の両側から当該挿入体の両側面までを、同じワイヤによるワイヤーカット加工により、前記角度の傾斜面によって、当該挿入体をほぼ2等分に容易に分割することが可能となる。尚、上記ワイヤーの径を込みにして、挿入体と成形孔とは、2つ(複数)の挿入片および孔部分ごとに分割される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明の押出ダイス1を示す垂直断面図、図2は、係る押出ダイス1の分解斜視図である。
押出ダイス1は、図1,図2に示すように、例えば、SKD61のような熱間工具鋼からなり、幅広で全体がほぼ直方体を呈し、中央部に成形孔14を有する挿入体10と、係る挿入体10を押出方向Exの上流側面3に挿入する凹部5を有する全体がほぼ円盤形状のダイス本体(所謂ホルダー)2と、を備えている。
ダイス本体2も、例えば、SKD61のような熱間金型用鋼からなり、上記凹部5の底面と下流側面4との間を貫通するほぼ長方形の貫通孔7を有し、係る貫通孔7には、成形された押出形材(製品)Pが通過する。また、上記凹部5の側面6には、上流側面3の開口部が広く、底面側が狭くなるように傾斜角度θ2が付されている。係る傾斜角度θ2は、図1中の押出方向Exに対し、3〜5度である。
尚、前記挿入体10は、例えば、WC−Co系超硬合金(超硬)からなる挿入体10aに替えても良い。また、ダイス本体2の上流側面3には、図示しないバッフルプレートが、下流側面4には、通し孔9を有するバックダイ8が、それぞれボルトによって固定される。
【0015】
挿入体10(10a)は、図1,図2および図3の正面図に示すように、各コーナーにアールを付したほぼ直方体を呈し、上流側面17と下流側面18との間の4辺の側面19には、前記と同じ傾斜角度θ2が付されている。係る挿入体10(10a)の中央部には、上流側面17と下流側面18との間を貫通する成形孔14が位置している。係る成形孔14は、幅方向に細長い水平部14x、その一端に位置するほぼL字形の雄部15、および他端に位置し且つ係る雄形部15を受け入れ可能なほぼS字形の雌形部16を含んでいる。かかる成形孔14の上流側面17付近には、図示しないベアリング面が位置している。
【0016】
図3に示すように、上記成形孔14は、縦横比(V/W)が少なくとも1:2以上(本実施形態では、約1:6)の左右方向に細長い形状を呈し、係る成形孔14は、水平部14xと、その左右両端の雄・雌形部15,16とからなる。かかる雄・雌形部15,16と側面19との間には、一対の傾斜面13がほぼ同じ平面内で配置されている。係る成形孔14は、前記挿入体10(10a)の母材に対し、ワイヤーカット加工を施すことにより形成される。
尚、上記成形孔14は、例えば、建物の外装に用いるスパンドレルを押出成形するもので、上・下流側面17,18の中間にはベアリング部が位置している。
【0017】
図1〜図3に示すように、挿入体10(10a)は、成形孔14の左右の両端と両側の側面19との位置で、図1中の押出方向Exに対し、5〜30度(例えば10度)の角度θ1で傾斜した傾斜面13によって、径方向においてほぼ同じ体積である上下2つ(複数)の挿入片11,12に分割されている。
挿入体10(10a)を分解した図4の正面図で示すように、上記傾斜面13に対して、下側の挿入片11は、左右一対の傾斜面13a、偏平な凸形の孔部分14c、および孔部分15a,16aを有する。一方、上側の挿入片12は、左右一対の傾斜面13b、偏平な凹形の孔部分14d、および孔部分15b,16bを有している。係る傾斜面13a,13bも、上記角度θ1で互いに平行に傾斜しており、これらが接触することで、傾斜面13および成形孔14が形成される。
【0018】
尚、上記傾斜面13は、ワイヤーカット加工により、前記鋼材(超硬)からなる挿入体10(10a)の母材に成形孔14を形成した後、得られた挿入体10(10a)を押出方向Exに対し前記角度θ1で傾斜した状態で、更にワイヤーカット加工することにより形成される。このため、係るワイヤーの径を見込んで、成形孔14の縦(V)方向の寸法と挿入体10の縦方向の外形寸法とが予め設定されている。また、挿入体10(10a)の側面19は、押出方向Exに対し、3〜5度の傾斜角度θ2がワイヤーカット加工などにより付されている。
尚、前記超硬からなる挿入体10aの場合、その外形寸法は、ダイス本体2との熱膨張率の差を見込んで、前記凹部5の寸法よりも若干大きく設定されている。
【0019】
図5は、異なる成形孔14aを有する挿入体10(10a)を示し、前記水平部14xに替えて、幅広で厚肉tの水平部14eを中央に有し、前記形態よりも更に偏平な凸形の孔部分を有する下側の挿入片11aを用いたものである。
図6は、更に異なる成形孔14bを有する挿入体10(10a)を示し、下側の挿入片11aと、偏平な凹形の孔部分14dの天井面から断面円弧形を呈する複数の凸条14fを突出させた上側の挿入片12aとを用いたものである。かかる複数の凸条14fは、押し出されるスパンドレルの表面に、浅い凹溝を複個数平行に形成し、当該スパンドレルの外表面における意匠性を高めるものである。
【0020】
次に、前記押出ダイス1の使用方法を、成形孔14を有する挿入体10(10a)を例として説明する。
先ず、図7の左側に示すように、挿入片11,12からなり成形孔14を有し、前記鋼材からなる挿入体10を、常温でダイス本体2の凹部5に挿入すると、図7の右側に示すように、係る挿入体10の上流側面17は、ダイス本体2の上流側面3と面一となる。
一方、図8の左側に示すように、挿入片11,12からなり成形孔14を有し、前記超硬からなる挿入体10aを、常温でダイス本体2の凹部5に挿入すると、図8の右側に示すように、係る挿入体10aのうち、上流側面17を含む部分がダイス本体2の凹部5から突出し、その突出量(距離)dは約1mm程度である。同時に、係る挿入体10aの下流側面18と凹部5の底面との間には、上記突出量dとほぼ同様の隙間sが位置した状態となる。
【0021】
上記挿入体10(10a)の上流側面17およびダイス本体2の上流側面3に隣接して、次述するバッフルプレート(p)をボルト締めすると、その誘導孔(h)が貫通する中央部は、挿入体10の場合には面一となり、超硬からなる前記挿入体10aの場合には、極く僅かに上流側に膨らんでアール形に撓んだ弾性変形を生じる。
更に、ダイス本体2の下流側面4に、前記バックダイ8をボルトで固定する。
以上のようなバッフルプレートp、挿入体10,(10a)を含むダイス本体2、およびバックダイ8は、図示しないダイキャリアの中空部内に装着された後、図示しない押出機におけるコンテナの下流側にダイキャリアごとセットされる。
【0022】
次いで、上記押出機において、バッフルプレートp、挿入体10,(10a)を含むダイス本体2、バックダイ8、およびコンテナを、アルミニウム合金のビレットが押出可能な約450℃の温度帯に加熱する。
その結果、図9に示すように、超硬からなる挿入体10aは、ダイス本体2の凹部5内に挿入される。この際、係る挿入体10aとダイス本体2との上流側面3,17は面一となり、前記突出(d)や隙間sは解消される。同時に、ダイス本体2と挿入体10aとの上流側面3,17に隣接するバッフルプレートpは、前記弾性変形による撓みが解消されて平坦となる。これらは、上記加熱を行った際に、ダイス本体2が超硬からなる挿入体10aよりも大きく熱膨張し、凹部5も拡大したことに起因している。
一方、ダイス本体2と同じ鋼材からなる挿入体10は、約450℃の温度帯に加熱にされても、同じ熱膨張率であるため、両者の上流側面3,17は、加熱温度に拘わらず、面一に保たれている。
【0023】
図9に示すように、上記バッフルプレートpにおいて、その中央部を貫通する誘導孔hの下流側面における開口部の付近は、挿入体10(10a)の上流側面17の周縁を押圧している。尚、バッフルプレートpを貫通する誘導孔hの断面は、成形孔14全体の外形よりもやや大きく形成されている。
更に、予めビレットヒータ(図示せず)で加熱されたアルミニウム合金のビレットBを、円筒形状を呈する前記コンテナの中空部内に挿入し、係るビレットBの後端面に、先端のプレスディスクが接触するステム(図示せず)を前進させる。
【0024】
その結果、図9中の太い矢印で示すように、加熱された上記ビレットBは、押出方向Exに沿った圧力を受けるため、固相状態で軟化し且つ流動化したアルミニウム合金のメタル(メタルフロー)は、バッフルプレートpの誘導孔hの内側に流入した後、挿入体10(10a)の上流側面17に達する。ここで、アルミニウム合金の上記メタルは、挿入体10(10a)の成形孔14内に流入し、係る成形孔14の内周面に形成されたベアリング面を通過した際に、前記雄・雌形部15,16と相似形の雄・雌形部を両端に有するスパンドレル用の細長い断面である押出形材Pに成形される。
【0025】
この際、挿入体10(10a)の傾斜面13が押出方向Exに対し、5〜30度の角度θ1で傾斜しているため、前記メタルの一部が、挿入片11,12の傾斜面13a,13b間に進入せず、スムースに押出成形を行えると共に、押し出された押出形材Pの側面に沿ってバリが発生する事態を確実に防止することができる。また、この間において、挿入体10(10a)には、上記メタルによる圧力を受けているが、傾斜面13で挿入片11,12に分割されているため、上記圧力による成形孔14の各コーナー部への応力集中を緩和できる。この結果、鋼材からなる挿入体10は勿論のこと、超硬からなる挿入体10aでも、クラックの発生を防ぐこともできる。
【0026】
そして、前記成形孔14を通過した上記押出形材Pは、図9に示すように、挿入体10(10a)の下流側面18から貫通孔7を通過し、バックダイ8の通し孔9を経て、冷却テーブルに送給されて冷却される。その後、所定の長さごとに切断され、陽極酸化処理などの表面処理を施され、製品のスパンドレルとなる。
尚、押出加工が終了した際には、押出機から取り出した押出ダイス1を常温まで冷却した後、前記ボルトを外す。この際、超硬からなる挿入体10aは、前記図8の右側に示したように、熱膨張率の差により、その上流側面17の部分がダイス本体2の上流側面3から突出(d)した状態に自動的に復帰する。一方、鋼材の挿入体10は、ダイス本体2の凹部5内に挿入されており、前記図7の右側に示したように、両者の上流側面3,17は面一のまま、常温に冷却される。
【0027】
以上のような押出ダイス1によれば、挿入体10(10a)を分割する傾斜面13が押出方向Exに対し、5〜30度の角度θ1で傾斜しているため、前記ビレットBのメタルが、挿入片11,12の傾斜面13a,13b間に進入せず、スムースに押出成形を行えると共に、押出した押出形材Pの側面に沿ってバリが発生する事態を確実に防止できる。しかも、上記メタルの圧力による成形孔14の入隅ごとの各コーナー部への応力集中を緩和できるため、挿入体10(10a)にクラックの発生を防ぐこともできる。更に、挿入体10(10a)は、ダイス本体2の凹部5に挿入するだけで良いため、押出加工の準備工程も容易となる。
従って、高い形状および寸法精度を有する押出形材Pを確実に押出成形できると共に、押出ダイス1を構成する挿入体10(10a)およびダイス本体2の寿命も長くできる。更に、ダイス本体2に装着された挿入体10(10a)の成形孔14などの修正も、上流側面17から容易に行えるため、製作コストやメンテナンスコストの低減も可能となる。
尚、前記成形孔14a,14bを有する挿入体10(10a)とダイス本体2とを用いることで、厚肉の水平部を有するスパンドレルや、水平部の表面に浅い凹凸模様を有するスパンドレルを押出成形することもできる。
【0028】
図10は、異なる形態の挿入体20の押出方向に沿った視角における正面図、図11は、その右側面図を示す。
挿入体20も、前記同様の鋼材または超硬からなり、図10,図11に示すように、各コーナーにアールを付したほぼ長方形の上流側面27、下流側面28、およびこれらの間に位置する側面29を有する全体がほぼ直方体を呈している。係る挿入体20の中央部における上流側面27と下流側面28との間には、前記ビレットBを押出形材に成形するための成形孔24が貫通している。係る成形孔24は、横向きのE字形部25と、その左右の上部に対称に位置する一対のL字形部26とからなり、前記同様のワイヤーカット加工により形成され、例えば、サッシの上枠や縦枠などの押出形材の成形に用いられる。
【0029】
図10に示すように、挿入体20は、成形孔24におけるE字形部25の左右両端のほぼ中央から左右の側面29に達する左右一対の傾斜面23aと、E字形部25のほぼ中央から上側の側面29に達する垂直な傾斜面23bとより、径方向において、3つ(複数)の挿入片21,22a,22bに分割されている。
上記一対の傾斜面23aおよび傾斜面23bは、図11に示すように、押出方向Exに対して、5〜30度の角度θ1で傾斜している。また、挿入体20の側面29は、押出方向Exに対して、3〜5度の角度θ2で傾斜している。
【0030】
以上のような挿入体20は、押出方向Exの下流側に向かってそれぞれ広がる傾斜面23a,23bを有する挿入片22aを予め位置決めし、これに対し、押出方向Exの下流側に向かって狭くなる傾斜面23aおよび広くなる傾斜面23bを有する挿入片22bと、押出方向Exの下流側に向かってそれぞれ狭くなる一対の傾斜面23aを有する挿入片21と、を接触させることで形成される。
上記挿入体20によれば、前記同様の凹部5を有するダイス本体に挿入することで、前記押出ダイス1と同様な押出ダイスを構成できると共に、前記同様な作用を果たし、且つ前記同様の効果を奏することが可能である。
【0031】
図12は、更に異なる形態の挿入体30を、その押出方向に沿った視角で示す正面図である。
挿入体30も、前記同様の鋼材または超硬からなり、図12に示すように、円形の上流側面37、下流側面(図示せず)、およびこれらの間に位置する側面39を有するほぼ円盤形を呈している。係る挿入体30の中央部における上流側面37と下流側面との間には、前記ビレットBを押出形材に成形するための成形孔34が貫通している。係る成形孔34は、中心部の角形部35と、その各コーナー付近から斜め45度で対称に延びる位置する4つの王字形部36とからなり、前記同様のワイヤーカット加工により形成され、例えば、放熱材の成形に用いられる。
【0032】
図12に示すように、挿入体30は、成形孔34における角形部35の各辺の中央部からそれぞれ放射方向に沿って側面39に達する点対称である4つの傾斜面33により、径方向において、4つ(複数)の挿入片31a〜31dに等しく分割されている。係る挿入片31a〜31dごとにおける2つの直交する傾斜面33は、図12の押出方向(Ex)の視角において、それぞれ同じ向きの円周方向に沿って傾斜している。そして、各傾斜面33は、図12の奥行き方向である押出方向(Ex)に対し、5〜30度の角度θ1で傾斜している。即ち、挿入片31a〜31dは、同じ王字形部36と直交する一対の傾斜面33とを有する同じ形状からなるものである。
【0033】
また、挿入体30の側面39は、上記押出方向(Ex)に対して、3〜5度の角度θ2で傾斜している。
前記挿入片31a〜31dから構成され且つ成形孔34を有する挿入体30によれば、ダイス本体の上流側面に配設したほぼ円盤形の凹部に挿入することで、前記押出ダイス1と同様な押出ダイスを構成できると共に、前記同様な作用を果たし、且つ前記同様の効果を奏することが可能である。
【0034】
本発明は、以上において説明した各形態に限定されるものではない。
例えば、挿入体およびこれを挿入するダイス本体の凹部の外形は、前記ほぼ矩形(正方形または長方形)や円形に限らず、長円形、楕円形、ほぼ台形、五角形以上のほぼ正多角形、あるいは、四角形以上の変形多角形としても良い。
また、挿入体が傾斜面により分割される複数の挿入片は、互いに異なる鋼種、あるいは超硬から形成しても良い。例えば、成形孔のうち、複雑な形状の孔部分を有する側の挿入片を、前記鋼材から形成し、比較的簡素な形状の孔部分を有する側の挿入片を、別の鋼種で形成しても良い。あるいは、複数の挿入片を、同一、同種、または異種の超硬合金やセラミックで形成したり、超硬合金とセラミックとで形成しても良い。
【0035】
更に、ダイス本体は、前記円盤形状の形態に限らず、押出方向に対し直交する方向に細長いほぼ長円形の形態とし、併せてビレットおよびコンテナの中空部も同様な長円形の形態として、いわゆる角形押出に使用することも可能である。
加えて、超硬の挿入体を受け入れるダイス本体の凹部は、当該ダイス本体の上流側面に複数個を離隔して配置しても良く、これにより複数の押出形材を同時に成形する多数本押出が可能となる。
尚、本発明の押出ダイスは、アルミニウム合金のビレットに限らず、各種の鋼材や、Cu、Ni、Zn、Sb、Agなどの金属、あるいは、これらの合金などからなるビレットを押出成形することにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一形態の押出ダイスを示す断面図。
【図2】上記押出ダイスの分解斜視図。
【図3】上記押出ダイスに用いる挿入体を示す正面図。
【図4】上記挿入体の分解状態を示す正面図。
【図5】異なる成形孔を有する挿入体を示す正面図。
【図6】更に異なる成形孔を有する挿入体を示す正面図
【図7】上記押出ダイスを使用するための準備工程を示す概略図。
【図8】上記押出ダイスの異なる準備工程を示す概略図。
【図9】上記押出ダイスの使用状態を示す断面図。
【図10】異なる形態の挿入体を示す正面図。
【図11】上記挿入体の側面図。
【図12】更に異なる形態の挿入体を示す正面図。
【符号の説明】
【0037】
1……………………………………押出ダイス
2……………………………………ダイス本体
3……………………………………ダイス本体の上流側面
5……………………………………凹部
10,10a,20,30………挿入体
13,23a,23b,33………傾斜面
14,14a,14b,24,34…成形孔
17,27,37…………………挿入体の上流側面
18,28…………………………挿入体の下流側面
19,29,39…………………側面
Ex…………………………………押出方向
θ1…………………………………傾斜面の角度
θ2…………………………………傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出形材を成形するための成形孔を有する挿入体と、
押出方向の上流側面に上記挿入体を挿入する凹部を有するダイス本体と、を備え、
上記挿入体は、上記成形孔の両側に位置し且つ押出方向に対して傾斜した傾斜面により複数に分割されている、
ことを特徴とする押出ダイス。
【請求項2】
前記挿入体は、超硬、あるいは、前記ダイス本体と同一、同種、または異種の鋼材からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の押出ダイス。
【請求項3】
前記挿入体を分割する傾斜面は、押出方向に対し5〜30度の角度で傾斜している、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の押出ダイス。
【請求項4】
前記傾斜面により複数に分割された前記超硬の挿入体は、常温付近では、その押出方向の上流側面を含む部分が、前記ダイス本体の凹部から突出していると共に、押出時の温度帯では、上記上流側面が、ダイス本体の凹部内に挿入され且つ当該ダイス本体の上流側面とほぼ面一となる、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の押出ダイス。
【請求項5】
前記ダイス本体の凹部は、開口部が広く且つ底面側が狭くなる傾斜角度を有すると共に、前記挿入体の側面も押出方向の上流側面が広く且つ下流側面が狭くなる上記同様の傾斜角度を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の押出ダイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−307614(P2007−307614A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20471(P2007−20471)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000250432)理研軽金属工業株式会社 (89)
【Fターム(参考)】