説明

押出成形装置及びこれを用いたグリーンハニカム成形体の製造方法

【課題】グリーンハニカム成形体を製造するに際し、セル構造をなす隔壁や外周壁における欠陥を十分に低減できる押出成形装置及びこれを用いた成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る押出成形装置は、セル構造を有するグリーンハニカム成形体を製造するためのものであり、ハウジングと、スクリューと、スリットを有する金型と、抵抗管と、上流側の面から下流側の面にかけて原料組成物が通過する貫通路を有する細分盤とを備える。細分盤の貫通路は、上流側の面から下流側に向けて延びる複数の流路からなる上流側流路と、下流側の面にまで延び且つ流路断面の形状が上流側流路の流路断面の形状と異なる下流側流路とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造技術に関するものであり、より詳細にはグリーンハニカム成形体の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハニカムフィルタ構造体が、DPF(Diesel particulate filter)用等として広く知られている。このハニカムフィルタ構造体は、多数の貫通孔を有するハニカム構造体の一部の貫通孔の一端側を封口材で封じると共に、残りの貫通孔の他端側を封口材で封じた構造を有する。特許文献1,2には、グリーンハニカム成形体の製造に使用されるダイス及び押出成形装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−5915号公報
【特許文献2】特許第4099896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来、ペースト状の原料組成物を金型に供給するに先立ち、原料組成物に含まれる粗粒分や異物を事前に取り除く目的で、原料組成物を濾過処理することが知られている。例えば、上記特許文献2には、成形型の上流側にスクリーン(濾過網)が装着された押出成形装置が記載されている(特許文献2の図1等参照)。
【0005】
適切なメッシュサイズのスクリーンを用いて原料組成物を濾過した場合、原料組成物に含まれる比較的硬い異物(例えば金属片)を取り除くことができ、これに起因した欠陥が成形体に生じるのを低減できる。しかし、従来の押出成形装置に装着されたスクリーンを通過できる程度にゆるく結合した凝集塊を十分に取り除くことができず、これに起因する欠陥を十分に低減できないという問題があった。また、従来のスクリーンは強度の点で改善の余地があり、スクリーンが異物によって破れるとスクリーン交換のためにその都度装置を停止する必要がある。
【0006】
本発明は、グリーンハニカム成形体を製造するに際し、セル構造をなす隔壁や外周壁における欠陥を十分に低減できる押出成形装置及びこれを用いた成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る押出成形装置は、セル構造を有するグリーンハニカム成形体を製造するためのものであって、ペースト状の原料組成物を移送する流路を有するハウジングと、流路の上流側に設けられ、原料組成物を混練すると共に下流側へと移送するスクリューと、流路の下流側に設けられ、グリーンハニカム成形体のセル構造の形状に応じたスリットを有する金型と、流路と金型を連通する抵抗管と、スクリューと金型の間に設けられ、上流側の面から下流側の面にかけて原料組成物が通過する貫通路を有する細分盤とを備える。上記貫通路は、細分盤の上流側の面から下流側に向けて延びる複数の流路からなる上流側流路と、細分盤の下流側の面にまで延び且つ流路断面の形状が上流側流路の流路断面の形状と異なる下流側流路とを有する。
【0008】
本発明によれば、細分盤の貫通路をなす上流側流路及び下流側流路の流路断面の形状が互いに相違することで、貫通路内における原料組成物の流れを複雑化させることができる。これにより、原料組成物は細分盤の貫通路を通過する際に細分化され、大きな凝集塊がそのまま金型に至ることを防止でき、セル構造をなす隔壁や外周壁における欠陥を十分に低減できる。また、細分盤は、スクリーンと比べて高い強度とすることができるため、メンテナンスの頻度を低下させ、生産性を向上できる。
【0009】
本発明において、細分盤の下流側流路の構成として金型のスリットに類似した構成を採用することができる。すなわち、上流側流路は細分盤の上流側の面から下流側に向けて略真っ直ぐに延びる複数の流路からなり、下流側流路はスリットからなり且つ当該スリットが金型のスリットと同一又は相似のパターンを有するものとすることができる。かかる構成を採用することにより、細分盤の下流側流路(スリット)で高度に凝集塊を細分化でき、また原料組成物に対する高い整流効果も得られる。金型に原料組成物を供給するに先立って原料組成物の流れを整える(流速分布を均一化する)ことで、寸法精度が高いグリーンハニカム成形体を効率的に製造できる。
【0010】
なお、細分盤のスリットと金型のスリットが「同一又は相似のパターン」であるか否かは主にスリットのピッチに基づいて決定するものとする。例えば、金型及び細分盤がいずれも格子状のスリットを有する場合、両者のスリットの開口幅が異なっていてもスリットのピッチが同一であれば両者は同一のパターンに該当し、また、両者のスリットの開口幅などが同一でスリットのピッチのみが異なる場合には両者は相似のパターンに該当するものとする。
【0011】
細分盤の下流側流路が金型のスリットに類似したものである場合、細分盤のスリットが形成されている部分の厚さAと細分盤の下流側の面におけるスリットの開口幅Bの比(A/B)は1〜10であることが好ましく、細分盤のスリットのパターンにおけるピッチCと細分盤の下流側の面における当該スリットの開口幅Bの比(C/B)は1〜10であることが好ましい(図7参照)。
【0012】
本発明において、細分盤の下流側流路の構成は金型のスリットに類似した構成(スリットが連通した構成)に限定されるものではなく、複数のスリットがそれぞれ独立した構成であってもよい。すなわち、上流側流路は細分盤の上流側の面から下流側に向けて略真っ直ぐに延びる複数の流路からなり、下流側流路は上記複数の流路にそれぞれ連通した複数のスリットからなるものとすることができる。かかる構成を採用した場合も細分盤の下流側流路(複数のスリット)で高度に凝集塊を細分化でき、また原料組成物に対する高い整流効果も得られる。金型に原料組成物を導入するに先立って原料組成物の流れを整える(流速分布を均一化する)ことで、寸法精度が高い成形体を効率的に製造できる。
【0013】
本発明においては、細分盤の下流側の面における貫通路の中心間の間隔C´と細分盤の下流側の面における貫通路の目開き寸法B´の比(C´/B´)は1〜10であることが好ましい(図6の(b)及び図8参照)。
【0014】
本発明においては、細分盤の下流側の面における貫通路の目開き寸法B´と金型のスリットの開口幅Dの比(B´/D)は0.2〜1.5であることが好ましい(図4,図6の(b)及び図8参照)。
【0015】
本発明は、上記押出成形装置を用いたグリーンハニカム成形体の製造方法を提供する。本発明の方法によれば、細分盤の作用により、セル構造をなす隔壁や外周壁における欠陥を十分に低減できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、グリーンハニカム成形体を製造するに際し、セル構造をなす隔壁や外周壁における欠陥を十分に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)はグリーンハニカム成形体の一例を示す斜視図、(b)はグリーンハニカム成形体の部分拡大図である。
【図2】本発明に係る押出成形装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【図3】図2の押出成形装置の内部構造を模式的に示す部分断面図である。
【図4】金型の構成の一例を示す部分端面図である。
【図5】細分盤の上流側の面の一例を示す平面図である。
【図6】(a)は細分盤の下流側の面の一例を示す平面図であり、(b)は(a)に示す下流側の面の部分拡大図である。
【図7】図5の細分盤の内部構造を模式的に示す部分端面図である。
【図8】他の実施形態に係る細分盤の下流側の面の部分拡大図である。
【図9】グリーンハニカム成形体の他の例を示す図である。
【図10】細分盤に捕捉された異物を示す写真である。
【図11】金型に到達した異物を示す写真である。
【図12】グリーンハニカム成形体の直角度の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。まず、本発明に係る押出成形装置の説明に先立ち、ハニカム構造体用のグリーンハニカム成形体について説明する。
【0019】
<グリーンハニカム成形体>
図1に示すグリーンハニカム成形体70は、原料組成物を押出成形することによって得られたものである。図1の(a)に示すように、グリーンハニカム成形体70は多数の貫通孔70aが略平行に配置された円柱体である。貫通孔70aの断面形状は、図1の(b)に示すように正方形である。これらの複数の貫通孔70aは、グリーンハニカム成形体70において、端面から見て、正方形配置、すなわち、貫通孔70aの中心軸が、正方形の頂点にそれぞれ位置するように配置されている。貫通孔70aの断面の正方形のサイズは、例えば、一辺0.8〜2.5mmとすることができる。なお、グリーンハニカム成形体70を所定の温度で焼成することによってハニカム構造体が製造される。
【0020】
グリーンハニカム成形体70の貫通孔70aが延びる方向の長さは特に限定されないが、例えば、40〜350mmとすることができる。また、グリーンハニカム成形体70の外径も特に限定されないが、例えば、100〜320mmとすることできる。
【0021】
グリーンハニカム成形体70をなす原料組成物は特に限定されないが、DPF用のハニカム構造体を製造する場合にあっては、セラミクス原料である無機化合物源粉末、及び、メチルセルロース等の有機バインダ、及び、必要に応じて添加される添加剤を含む。ハニカム構造体の高温耐性の観点から、好適なセラミクス材料として、アルミナ、シリカ、ムライト、コーディエライト、ガラス、チタン酸アルミニウム等の酸化物、シリコンカーバイド、窒化珪素等が挙げられる。なお、チタン酸アルミニウムは、更に、マグネシウム及び/又はケイ素を含むことができる。
【0022】
例えば、チタン酸アルミニウムのグリーンハニカム成形体を製造する場合、無機化合物源粉末は、αアルミナ粉等のアルミニウム源粉末、及び、アナターゼ型やルチル型のチタニア粉末等のチタニウム源粉末を含み、必要に応じて、更に、マグネシア粉末やマグネシアスピネル粉末等のマグネシウム源粉末及び/又は、酸化ケイ素粉末やガラスフリット等のケイ素源粉末を含むことができる。
【0023】
有機バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩が挙げられる。
【0024】
添加物としては、例えば、造孔剤、潤滑剤及び可塑剤、分散剤、溶媒が挙げられる。
【0025】
造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物材料;氷;及びドライアイス等などが挙げられる。
【0026】
潤滑剤及び可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸Alなどのステアリン酸金属塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(POAAE)などが挙げられる。
【0027】
分散剤としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどの界面活性剤などが挙げられる。
【0028】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;及び水などが挙げられる。
【0029】
<押出成形装置>
本発明に係る押出成形装置の実施形態について説明する。図2に示す押出成形装置10は、粉末状又はペースト状の原料組成物からグリーンハニカム成形体70を製造するためのものである。
【0030】
押出成形装置10は、ハウジング1内の上段に設けられたスクリュー2A及び下段に設けられたスクリュー2Bを備える。スクリュー2A,2Bは、入口1aから供給された原料組成物を混練すると共に流路1bを通じて下流側へと移送するためのものである。スクリュー2A,2Bの間には、真空室3が設けられており、真空室3内を減圧することによって原料組成物を脱気処理できるようになっている。真空室3内の原料組成物はローラ3aによって下段のスクリュー2Bに導入される。
【0031】
図3に示すとおり、押出成形装置10は、スクリュー2Bの下流側に設けられた細分盤5と、原料組成物からなる成形体70Aが押し出される金型20と、流路1bと金型20を連通する抵抗管9とを更に備える。抵抗管9は、内部の流路がテーパ状になっており、上流側から下流側に向けて流路断面積が徐々に小さくなっている。なお、スクリュー2Bの径よりも径が大きい成形体70Aを製造する場合などには、抵抗管9は上流から下流に向けて流路断面が大きくなる拡大部を有してもよい。金型20から押し出された成形体70Aが変形しないように、押出成形装置10の隣には成形体70Aを支持するための支持台15が設置されている。
【0032】
図4に示す金型20は、グリーンハニカム成形体70のセル構造の形状に応じたスリットを有するものである。金型20は、原料供給穴21a及びスリット21bを有する金型本体21と、カバーリング22と、スペーサー24と、ホルダー28とを備える。
【0033】
金型本体21は、押出成形装置に装着された際に上流側に配置される面S1と下流側に配置される面S2を有する。面S1には複数の原料供給穴21aが形成されており、面S2には原料供給穴21aに連通した格子状のスリット21bが形成されている。金型本体21の面S1側から供給される原料組成物は、原料供給穴21a及びスリット21bを通じて面S2側に至り、正方形配置されたセル構造となって押し出される。原料組成物の粘度等にもよるが、金型20のスリットの開口幅Dは好ましくは0.05〜0.5mmであり、より好ましくは0.1〜0.5mmであり、更に好ましくは0.12〜0.38mmである(図4参照)。なお、図4には排出面(面S2)の全体がフラットな金型本体21を示したが、金型本体の排出面の中央部が隆起していたり、凹部を形成したりしていてもよい。これらの場合、排出面の中央部と周縁部(スペーサー等が配置される領域)との間に段差が設けられることとなる。
【0034】
カバーリング22は、金型本体21の面S2の周縁部を覆うように配置されている。カバーリング22は、グリーンハニカム成形体70の外径に対応する内径の開口を有する。言い換えれば、金型本体21の外形に関わらず、所定の内径を有するカバーリング22を使用することによって所望の外径のグリーンハニカム成形体70を得ることができる。
【0035】
スペーサー24は、金型本体21とカバーリング22との間に配置されている。スペーサー24は厚さ0.3〜1.0mm程度のシート状の材料からなる。スペーサー24の材質の具体例としては、銅などの金属、紙、樹脂などが挙げられる。スペーサー24は、カバーリング22の開口よりも一回り大きい開口を有する。かかる構成のスペーサー24を金型本体21とカバーリング22の間に配置することで、両者の間に隙間が設けられる。この隙間を通過した原料組成物がグリーンハニカム成形体70の外周スキン(すなわち外周壁)となる。なお、スペーサーによって形成される隙間を有するカバーリングを用いてもよく、この場合、スペーサーは必須ではない。また、特定の外径及び外形の成形体70Aを専ら製造する場合にあっては、スペーサー及びカバーリングを具備しない金型を使用してもよい。
【0036】
ホルダー28は、金型本体21に対してカバーリング22及びスペーサーを固定するためのものである。
【0037】
細分盤5は、金型20に原料組成物を導入するに先立ち、原料組成物から異物を取り除くと共に、原料組成物に含まれる凝集塊を細分化するためのものである。細分盤5は、ハウジング1に対して着脱自在に設けられており、スクリュー2Bと金型20の間に配置されている。例えば、ボルト及びナットによってフランジ1c,1dを締め付けることによって細分盤5は環状の治具5aと共にハウジング1に固定される。なお、治具5aは、排出形状(内径)を調整するためのものであり、細分盤5の下流側の面F2の周縁部を覆うように配置されている。
【0038】
図5〜7に示すとおり、細分盤5は、上流側の面F1から下流側の面F2にかけて原料組成物が通過する貫通路6を有し、貫通路6は上流側流路6Aと下流側流路6Bによって構成されている。上流側流路6Aは上流側の面F1から下流側に向けて略真っ直ぐに延びる複数の流路6aからなる。各流路6aは流路断面の形状が略円形である。他方、下流側流路6Bは直角に交差するスリットSからなる。このスリットSは金型本体21のスリット21bと同一又は相似のパターンを有する。
【0039】
細分盤5に起因する圧力損失が金型20に起因する圧力損失を上回らないようにするため、細分盤5の下流側の開口面積比の値は金型20の下流側の開口面積比の値以上であることが好ましい。ここで、細分盤5及び金型20の下流側の開口面積比は下記式(1)で算出される。
X=2b/c−(b/c) …(1)
式中、bはスリットの開口幅を示し、cはスリットパターンのピッチを示す。なお、図6におけるBが細分盤5のスリットSの開口幅(b)に相当し、Cが細分盤5のスリットパターンのピッチ(c)に相当する。
【0040】
細分盤5のスリットSが形成されている部分の厚さAと、スリットSの開口幅Bの比(A/B)は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜5である(図7参照)。A/Bの値が1未満であると、凝集塊に対する分散効果が不十分となりやすく、凝集塊が細分盤5を通過した後に再度凝集しやすく、これに起因する欠陥がグリーン成形体成形体に生じやすい。他方、A/Bの値が10を越えると、細分盤5に起因する圧力損失が過剰に大きくなりやすい。
【0041】
細分盤5のスリットSのパターンにおけるピッチCと細分盤5の下流側の面F2におけるスリットSの開口幅Bの比(C/B)は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜5である(図7参照)。C/Bの値が1未満であると、凝集塊に対する分散効果が不十分となりやすく、凝集塊が細分盤5を通過した後に再度凝集しやすく、これに起因する欠陥がグリーン成形体成形体に生じやすい。他方、C/Bの値が10を越えると、細分盤5に起因する圧力損失が過剰に大きくなりやすい。
【0042】
細分盤5のスリットSの開口幅Bと、金型20のスリットの開口幅Dの比(B/D)は、好ましくは0.2〜1.5であり、より好ましくは0.3〜1.0である(図4及び図6の(b)参照)。B/Dの値が0.2未満であると、細分盤5に起因する圧力損失が過剰に大きくなりやすい。他方、B/Dの値が1.5を越えると、細分盤5を通過した凝集塊等によって金型20の上流側の面S1が閉塞されやすく、これに起因する欠陥がグリーンハニカム成形体70に生じやすい。
【0043】
細分盤5は、上流側から圧力を受けてもほとんど歪みを起こさない構造体であることが好ましい。かかる観点から、細分盤5の材質としては、例えば、炭素鋼等が好ましい。炭素鋼以外の好適な材質として、ニッケル、クロム、タングステン等を含有する特殊鋼を例示できる。細分盤5の厚さは、十分の強度を確保する観点から、10〜100mmであることが好ましい。下流側流路6BをスリットSとすることで、高い開口率及び高い機械的強度の両方を十分高度に達成できる。
【0044】
本実施形態によれば、細分盤5の貫通路6内における原料組成物の流れを複雑化させることができる。これにより、原料組成物は細分盤5の貫通路6を通過する際に細分化され、大きな凝集塊がそのまま金型20に至ることを防止でき、セル構造をなす隔壁や外周壁における欠陥を十分に低減できる。これに加え、細分盤5は原料組成物に対する高い整流効果を発揮し、金型20に原料組成物を供給するに先立って原料組成物の流れを整えることができ、これにより寸法精度が高いグリーンハニカム成形体を効率的に製造できる。
【0045】
<グリーンハニカム成形体の製造方法>
次に、押出成形装置10を用いてグリーンハニカム成形体70を製造する方法について説明する。まず、原料組成物を入口1aから流路1b内に導入する。スクリュー2A,2Bを回転させることによって原料組成物を混練すると共に下流側に移送する。混練物を細分盤5の貫通路6を通過させて流速分布を均一化させた後、金型20へと導入する。金型20の下流側における原料組成物の線速度は10〜150cm/分程度であることが好ましい。
【0046】
流速分布の均一化が図られた原料組成物を金型20から押し出し、支持台15上に成形体70Aを回収する。成形体70Aを所定の長さに切断することによってグリーンハニカム成形体70を得る。
【0047】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、細分盤5の下流側流路6Bが金型20と類似(同一又は近似)のパターンのスリットSからなる場合を例示したが、下流側流路が複数の独立したスリットからなるものであってもよい。例えば、図8に示す細分盤7の下流側流路7Bは上流側流路7Aをなす複数の流路7aにそれぞれ連通した複数の十字形状のスリット7bからなる。
【0048】
細分盤7に起因する圧力損失が金型20に起因する圧力損失を上回らないようにするため、細分盤7の下流側の開口面積比の値は金型20の下流側の開口面積比の値以上であることが好ましい。ここで、細分盤7の下流側の開口面積比は上記式(2)で算出される。図8におけるB´が細分盤7のスリットの開口幅(b´)に相当し、C´が細分盤5のスリットパターンのピッチ(c´)に相当し、E´が隣接するスリットの端部間の距離(e´)に相当する。
X´=2b´/c´−(b´/c´)−2b´e´ …(2)
【0049】
細分盤7のスリットが形成されている部分の厚さAと、スリットSの開口幅B´の比(A/B´)は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜5である(図8参照)。A/B´の値が1未満であると、凝集塊に対する分散効果が不十分となりやすく、凝集塊が細分盤5を通過した後に再度凝集しやすく、これに起因する欠陥がグリーン成形体成形体に生じやすい。他方、A/B´の値が10を越えると、細分盤7に起因する圧力損失が過剰に大きくなりやすい。
【0050】
細分盤7のスリットのパターンにおけるピッチC´と細分盤7の下流側の面F2におけるスリットの開口幅B´の比(C´/B´)は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜5である(図8参照)。C´/B´の値が1未満であると、凝集塊に対する分散効果が不十分となりやすく、凝集塊が細分盤7を通過した後に再度凝集しやすく、これに起因する欠陥がグリーン成形体成形体に生じやすい。他方、C´/B´の値が10を越えると、細分盤7に起因する圧力損失が過剰に大きくなりやすい。
【0051】
細分盤7のスリットの開口幅B´と、金型20のスリットの開口幅Dの比(B´/D)は、好ましくは0.2〜1.5であり、より好ましくは0.3〜1.0である(図4及び図8参照)。B´/Dの値が0.2未満であると、細分盤7に起因する圧力損失が過剰に大きくなりやすい。他方、B´/Dの値が1.5を越えると、細分盤7を通過した凝集塊等によって金型20の上流側の面S1が閉塞されやすく、これに起因する欠陥がグリーンハニカム成形体70に生じやすい。
【0052】
なお、貫通路をなす上流側流路及び下流側流路の流路断面が互いに異なり、貫通路内において凝集塊が細分化される構成であれば、スリットの形状は十字形状に限定されず、また必ずしもスリットでなくてもよい。
【0053】
更に、上記実施形態においては、円柱体のグリーンハニカム成形体70を例示したが、成形体の形状や構造はこれに限定されない。グリーンハニカム成形体70の外形形状は、例えば、四角柱等の角柱や楕円柱でもよい。また、貫通孔70aの配置も、正方形配置でなくてもよく、例えば、略三角配置、略六角配置等でも構わない。更に、貫通孔70aの形状も、正方形でなくてもよく、例えば、略三角形、略六角形、略八角形、略円形及びこれらの組み合わせであってもよい。複数の形状の組み合わせとしては、正六角形と非対称六角形の組み合わせ(図9参照)、及び、四角形と八角形の組み合わせ(オクトスクエア)などが挙げられる。
【0054】
図9に示すグリーンハニカム成形体80は、断面形状が異なる複数の貫通孔81a,81bを有する。複数の貫通孔81a,81bは、グリーンハニカム成形体80の中心軸に略平行に延びる隔壁82により仕切られている。貫通孔81aは断面形状が正六角形である。一方、貫通孔81bは断面形状が扁平六角形であり一つの貫通孔81aを囲むように配置されている。
【0055】
また、上記実施形態においては、グリーンハニカム成形体70のセル構造及び細分盤5のスリットSのパターンがいずれも正方形配置である場合を例示したが、これらのパターンは必ずしも一致している必要はない。細分盤5のスリットSのパターンとして、例えば、略三角配置、略六角配置等を適宜選択してもよい。また、図9に示すグリーンハニカム成形体80を製造する場合、グリーンハニカム成形体80用の金型と同一又は類似のパターンを有する細分盤を採用してもよいし、上述の細分盤5又は細分盤7を採用してもよい。
【0056】
更に、細分盤における圧力損失を低減する観点から、例えば、細分盤の上流側の面F1に面取りを施し、上流側流路の入口をテーパ状としたり、あるいは、上流側流路の径を拡大できるように上流側流路を交互配置(スリット交点をひとつとばしに選択するように配置)としてもよい。
【実施例】
【0057】
細分盤の性能を評価するため、以下の実施例及び比較例を実施した。
【0058】
(実施例)
図6,7に示す細分盤と同様の構成を有する細分盤(工具鋼製)を準備し、これを金型の上流側に配置した(図3参照)。金型としては、図9に示す態様のグリーンハニカム成形体を製造可能なものを使用した。細分盤のスリット開口幅Bと金型のスリット開口幅Dの比(B/D)は、1.2であった。
【0059】
(1)耐久性評価
累計3111kgの原料組成物を押し出した後、細分盤を押出成形装置から取り出して検査したところ、破損は認められなかった。
(2)異物補足性能評価
細分盤を押出成形装置から取り出して検査した際、図10に示すように、細分盤に異物が捕捉されていた。細分盤は剛性を有しており力が加わってもほとんど変形しないため、スリット開口幅よりも大きい硬い異物であれば、確実に捕捉できる。かかる異物に起因してグリーンハニカム成形体に発生する欠陥を防止できる。
(3)グリーンハニカム成形体の寸法精度評価
グリーンハニカム成形体の直角度を測定した。直角度の定義及び測定方法は以下のとおりである。図12に示すように、グリーンハニカム成形体を水平面の上に立たせた状態とする。グリーンハニカム成形体の下端面の重心(図12(a)の点O)を中心とし、放射状に伸びる仮想線を、さらに鉛直上向きに移動させたときにできる仮想平面を考え、この仮想平面によって切り取られるグリーンハニカム成形体の輪郭線の半径の差(図12(b)のX)を求める。すべての仮想平面に対してXの値をそれぞれ計算し、その最大値を直角度と定義する。直角度の測定に際しては、0.5°毎の仮想平面に対して10横断面について上記計算を実行し、直角度を求めた。
10個の成形体について直角度を測定したところ、その平均値は1.0mm(標準偏差0.199mm)であった。
【0060】
(比較例)
所定の目開きを有するストレーナ(ステンレス製)とこれをサポートするためのブレーカープレート(ステンレス製)を準備し、これらを金型の上流側に配置した。なお、ストレーナとしては、実施例で使用した細分盤のスリット開口幅Bの値よりも、目開きMの値が小さいものを使用した。比M/Bは0.7であった。金型としては、実施例と同様のものを使用した。
【0061】
(1)耐久性評価
累計866kgの原料組成物を押し出した後、細分盤を押出成形装置から取り出して検査したところ、ストレーナの金網に数か所の破損が認められた。
(2)異物補足性能評価
金型を押出成形装置から取り出して検査した際、図11に示すように、金型に異物が捕捉されていた。すなわち、ストレーナの目開きよりも大きな粒径を有する異物がストレーナを通過し、金型に到達していた。
(3)グリーンハニカム成形体の寸法精度評価
実施例と同様に、10個の成形体について直角度を測定したところ、その平均値は1.5mm(標準偏差0.388mm)であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、グリーンハニカム成形体を製造するに際し、セル構造をなす隔壁や外周壁における欠陥を十分に低減できる。
【符号の説明】
【0063】
1…ハウジング、1b…流路、2B…スクリュー、5,7…細分盤、6…貫通路、6A,7A…上流側流路、6B,7B…下流側流路、6a,7a…流路(貫通路)、S,7b…細分盤のスリット、9…抵抗管、10…押出成形装置、20…金型、21b…金型のスリット、70,80…グリーンハニカム成形体、F1…細分盤の上流側の面、F2…細分盤の下流側の面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル構造を有するグリーンハニカム成形体を製造するための押出成形装置であって、
ペースト状の原料組成物を移送する流路を有するハウジングと、
前記流路の上流側に設けられ、前記原料組成物を混練すると共に下流側へと移送するスクリューと、
前記流路の下流側に設けられ、前記グリーンハニカム成形体のセル構造の形状に応じたスリットを有する金型と、
前記流路と前記金型を連通する抵抗管と、
前記スクリューと前記金型の間に設けられ、上流側の面から下流側の面にかけて前記原料組成物が通過する貫通路を有する細分盤と、
を備え、
前記貫通路は、前記細分盤の上流側の面から下流側に向けて延びる複数の流路からなる上流側流路と、前記細分盤の下流側の面にまで延び且つ流路断面の形状が前記上流側流路の流路断面の形状と異なる下流側流路とを有する、押出成形装置。
【請求項2】
前記上流側流路は前記細分盤の上流側の面から下流側に向けて略真っ直ぐに延びる複数の流路からなり、前記下流側流路はスリットからなり且つ当該スリットが前記金型のスリットと同一又は相似のパターンを有する、請求項1に記載の押出成形装置。
【請求項3】
前記細分盤の前記スリットが形成されている部分の厚さAと前記細分盤の下流側の面における当該スリットの開口幅Bの比(A/B)は1〜10である、請求項2に記載の押出成形装置。
【請求項4】
前記細分盤の前記スリットのパターンにおけるピッチCと前記細分盤の下流側の面における当該スリットの開口幅Bの比(C/B)は1〜10である、請求項2又は3に記載の押出成形装置。
【請求項5】
前記上流側流路は前記細分盤の上流側の面から下流側に向けて略真っ直ぐに延びる複数の流路からなり、前記下流側流路は前記複数の流路にそれぞれ連通した複数のスリットからなる、請求項1に記載の押出成形装置。
【請求項6】
前記細分盤の下流側の面における前記貫通路の中心間の間隔C´と前記細分盤の下流側の面における前記貫通路の目開き寸法B´の比(C´/B´)は1〜10である、請求項1又は5に記載の押出成形装置。
【請求項7】
前記細分盤の下流側の面における前記貫通路の目開き寸法B´と前記金型の前記スリットの開口幅Dの比(B´/D)は0.2〜1.5である、請求項1、5及び6のいずれか一項に記載の押出成形装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の押出成形装置を用いたグリーンハニカム成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−236412(P2012−236412A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−102981(P2012−102981)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】