説明

押出装置

【課題】袋状容器内に残存する液状物の量を少なくする。
【解決手段】バッグ11内に流体を送り込みバッグを膨らませることによって、ポケット18内に保持された袋状容器90を加圧し袋状容器内の液状物を外界に押し出す押出装置である。ポケットの袋状容器と接する内周面に少なくとも1つの流路形成部材30が設けられている。流路形成部材は、袋状容器が加圧されたときに袋状容器内の液状物が流動するための流路95を袋状容器内に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出装置に関する。特に、可撓性を有する袋状容器を加圧することにより、この袋状容器内の液状物を押し出すことができる押出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食道や口腔の外傷、疾患、又は手術等によって食物を口腔から胃に送り込むことが困難となった患者に栄養剤、流動食、又は薬剤など(一般に「経腸栄養剤」と呼ばれる。以下、「液状物」と称する)を投与する方法として経腸栄養療法が知られている。経腸栄養療法では、袋状容器に充填された液状物を、可撓性を有するチューブ(一般に「経腸栄養カテーテル」と呼ばれる)を介して患者の体内に送り込む。経腸栄養療法に用いられるチューブとしては、チューブの挿入経路によって、患者の鼻腔を通って胃又は十二指腸にまで挿入される経鼻チューブ、患者の腹に形成された胃ろうを通って胃内に挿入されるPEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)チューブ、患者の首の付け根に形成された穴を通って胃にまで挿入されるPTEG(Percutaneus Trans Esophageal Gastro-tubing)チューブなどが知られている。
【0003】
経腸栄養療法に用いられる液状物の粘度が低いと、胃内の液状物が食道に逆流して肺炎を併発したり、液状物の水分が体内で吸収しきれずに下痢したりする等の問題がある。この問題を防止するために、半固形化したり、トロミ剤や増粘剤を加えたりすることで粘度を高めた液状物が用いられることが多い(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
ところが、このような高粘度の液状物を患者の体内に送り込むためには、液状物が充填された袋状容器を圧縮する必要がある。この作業を素手で行おうとすると、非常に大きな力が必要であるので作業者(例えば看護師、介護者)の負担が大きく、また、袋状容器全体を一度に圧縮することが困難であるので袋状容器内に液状物が残存しやい等の問題があった。
【0005】
この問題を解決するための方法が特許文献3、特許文献4に記載されている。
【0006】
特許文献3には、可撓性を有する袋状のエアバッグと、エアバッグの離間した二辺に取り付けられた保持シートと、エアバッグに空気を供給する送気球(手動ポンプ)とを備えた押出装置が記載されている。エアバッグと保持シートとの間に、液状物が充填された袋状容器を挿入して、送気球でエアバッグに空気を供給してエアバッグを膨らませる。これにより、エアバッグと保持シートとの間に配された袋状容器は圧縮力を受けて、袋状容器内の液状物が押し出される。
【0007】
また、特許文献4には、液体又は気体等の緩衝用流動物を封入した補助バッグを介して、液状物が充填された袋状容器を圧縮する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−248981号公報
【特許文献2】特開2006−273804号公報
【特許文献3】特開2007−29562号公報
【特許文献4】特開2008−113742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献3、特許文献4の押し出し方法は、いずれも液状物が充填された袋状容器全体を圧縮することにより、袋状容器内の液状物を残らず押し出すことを意図している。
【0010】
しかしながら、実際には袋状容器全体を均一に圧縮することは困難であり、特に袋状容器の中央部分で圧縮量が大きくなりやすい。これによる問題点を図9A、図9Bを用いて説明する。
【0011】
図9Aは従来の押し出し方法において液状物が残存した袋状容器90を示した平面図、図9Bはその側面図である。袋状容器90は、例えば可撓性を有する2枚のシートが、その周囲でシールされてなる。袋状容器90は、一般に略長方形を有し、一方の短辺に、袋状容器90内に収納された液状物を外界に流出させるためのスパウト91が設けられている。袋状容器90内の液状物の残存量が少なくなったとき、例えば袋状容器90の長辺方向における略中央部分での圧縮量が相対的に大きいと、この部分で袋状容器90を構成する2枚のシートが密着してしまう。この密着部分93に対してスパウト91とは反対側に残存した液状物は、密着部分93を通過することができないので、スパウト91に向かって流動することができない。
【0012】
このように、袋状容器90を圧縮して液状物を流出させる従来の押し出し方法では、袋状容器90内の液状物が全て流出する前に、袋状容器90の一部が押し潰され、これが液状物の流動を阻害してしまうことがある。従って、袋状容器90内に液状物が残存してしまい、液状物の全量を患者に投与することができないという問題がある。
【0013】
本発明は、上記の従来の問題を解決し、袋状容器内の液状物をほとんど残らず押し出すことができる押出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の押出装置は、可撓性を有する袋状のバッグと、前記バッグに隣接するポケットとを備え、液状物が充填された袋状容器を前記ポケットに保持させた状態で、前記バッグ内に流体を送り込み前記バッグを膨らませることによって、前記袋状容器を加圧し前記袋状容器内の前記液状物を外界に押し出す押出装置であって、前記ポケットの前記袋状容器と接する内周面に少なくとも1つの流路形成部材が設けられており、前記流路形成部材は、前記袋状容器が加圧されたときに前記袋状容器内の前記液状物が流動するための流路を前記袋状容器内に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流路形成部材が、袋状容器が加圧されたときに袋状容器内の液状物が流動するための流路を袋状容器内に形成するので、従来の押し出し方法と異なり、液状物が流路を失って液状物が押し出されずに袋状容器内に残存してしまうという問題が発生しない。従って、袋状容器内の液状物をほとんど残らず押し出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る押出装置の概略構成を示した斜視図である。
【図2】図2は、図1の2−2線に沿った押出装置の断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る押出装置に設けられる流路形成部材の斜視図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る押出装置が液状物が充填された袋状容器を圧縮している状態を示した断面図である。
【図5】図5Aは本発明の一実施形態に係る押出装置が液状物の残存量が僅かとなった袋状容器を圧縮している様子を示した断面図、図5Bは図5Aの部分5Bの拡大断面図である。
【図6】図6A〜図6Fは、本発明の押出装置に設けることが可能な各種の流路形成部材の断面図である。
【図7】図7Aは本発明の押出装置に設けることが可能な別の流路形成部材の斜視図、図7Bは図7Aに示した流路形成部材の作用を説明する断面図である。
【図8A】図8Aは、実施例における、栄養剤の吐出積算量、栄養剤の圧力、及び、バッグ内圧力の経時的変化を示した図である。
【図8B】図8Bは、比較例における、栄養剤の吐出積算量、栄養剤の圧力、及び、バッグ内圧力の経時的変化を示した図である。
【図9】図9Aは従来の押し出し方法において液状物が残存した袋状容器を説明する平面図、図9Bはその側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の押出装置を適用可能な袋状容器は、特に制限はなく、例えば液状物が充填された公知のパウチ(パック)を用いることができる。袋状容器は、圧縮力するとその内容積が減少することができるように可撓性を有する材料からなることが好ましい。袋状容器は、内部と連通したスパウト(管状のポート)を有している。
【0018】
袋状容器に充填される液状物は、特に制限はない。例えば、経腸栄養療法において使用される経腸栄養剤や、静脈栄養療法において使用される輸液など医療分野で使用される液状物の他、流動性を有する各種食品、接着剤などの工業製品などいずれであってもよい。
【0019】
本発明の押出装置は、バッグを備える。バッグの構成は特に制限はなく、例えば液状物が充填された袋状容器を圧縮して液状物を押し出すことが可能な公知のいずれのバッグ(加圧バッグ)であってもよい。
【0020】
バッグは可撓性を有している。これにより、液状物が充填された袋状容器の三次元的な形状に追従して変形することができるので、袋状容器に略均一な圧縮力を印加することができる。
【0021】
バッグを膨らませるためにバッグ内に送り込まれる流体は、特に制限はなく、気体、液体のいずれであってもよい。気体としては、空気、窒素ガスなどを用いることができる。
【0022】
液状物が充填された袋状容器を保持するためのポケットは、バッグに流体を送り込んでバッグを膨らませたときに袋状容器を圧縮することができるように、バッグに隣接して設けられる。例えば、バッグと他の部材とを環状に接続することでポケットを形成することができる。ここで、当該他の部材としては、特に制限はないが、シート、布帛、板状体などを用いることができる。当該他の部材が可撓性を有すると、液状物が充填された袋状容器の三次元的な形状に追従して変形することができ、袋状容器に略均一な圧縮力を印加することができるので好ましい。あるいは、複数のバッグを環状に接続することでポケットを形成してもよい。
【0023】
ポケットは、袋状容器のほぼ全体を覆うことができる程度の大きさを有していることが好ましい。これにより、袋状容器全体を圧縮することができるので、袋状容器内に残存する液状物の量を少なくすることができる。
【0024】
ポケットの袋状容器と接する内周面に少なくとも1つの流路形成部材が設けられる。流路形成部材は、独立した部品として形成して、ポケットの内周面に接着、融着等の方法により取り付けられてもよい。あるいは、流路形成部材は、ポケットの内周面と一体成形などにより形成されてもよい。
【0025】
流路形成部材は、袋状容器内に液状物がスパウトに向かって流動するための流路を形成する。流路は、袋状容器の内外を隔てる壁面が流路形成部材の形状に応じて変形することにより形成される。
【0026】
流路形成部材の形状は特に制限はないが、例えば長尺部材とすることができる。これにより、流路形成部材に沿った連続した流路を形成することができる。この場合、前記長尺部材は、袋状容器内においてスパウトに向かって流動する液状物の流動方向と略平行に配置されていることが好ましい。これにより、液状物を効率よくスパウトに導くことができる。
【0027】
流路形成部材の長手方向と直交する面での断面形状が略円弧状または略U字状であることが好ましい。これにより、液状物の流路を安定的に形成することができる。
【0028】
この場合、前記流路形成部材の長手方向に平行な端縁に切り欠きが形成されていることが好ましい。これにより、液状物の流動性が向上するので、更に多くの液状物を押し出すことができる。
【0029】
流路形成部材の材料は特に制限はないが、バッグ内の圧力を50kPaに加圧したときに袋状容器に印加される圧縮力によって容易に変形することがない程度の機械的強度を有する硬質材料からなることが好ましい。具体的には、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体等の樹脂や、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム等の金属を用いることができる。
【0030】
本発明の押出装置は、更に、前記バッグ内に前記流体を送り込むポンプを備えることが好ましい。ポンプとしては特に制限はなく、流体の種類に応じて公知のポンプから適宜選択することができる。ポンプの動力源は、手動、機械駆動などいずれであってもよい。
【0031】
更に、本発明の押出装置は、流体の圧力を検知する圧力計、流体の移動を制限するバルブ(クレンメ)、バッグ内から流体を放出させるための圧力開放弁などを必要に応じて備えていても良い。
【0032】
以下に本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0033】
図1は本発明の一実施形態に係る押出装置10の概略構成を示した斜視図である。図2は図1の2−2線に沿った押出装置10の断面図である。本実施形態の押出装置10は、バッグ11と、バッグ11に取り付けられた可撓性を有する保持部材15とを備える。
【0034】
バッグ11は、同一寸法の略矩形の2枚のバッグシート11a,11bを重ね合わせて、その周縁のシール領域12にて接合(例えば融着、接着など)してなる袋状物である。バッグ11の内外を連通させる連通管13が、バッグシート11a,11b間に挟まれてシール領域12にてこれらバッグシート11a,11bと一体化されている。
【0035】
保持部材15は、略矩形のシール領域12の対向する一対の長辺部分にてバッグ11と接合(例えば融着、接着、縫合など)されている。この結果、バッグ11を構成するバッグシート11aと保持部材15との間に、液状物が充填された袋状容器90を挿入して保持することができるポケット(空間)18が形成される。
【0036】
バッグ11に設けられた連通管13には、バッグ11内に空気を送り込んでその内圧を上昇させるための加圧装置20が接続されている。加圧装置20は、連通管13に接続される、可撓性を有するチューブ21と、チューブ21の途中に設けられた圧力インジケータ22及び三方活栓23と、チューブ21の終端に接続された手動式ポンプとしての送気球25とを備えている。圧力インジケータ22はチューブ21内の圧力(即ち、バッグ11内の圧力)を表示する。三方活栓23は、三方活栓23の両側のチューブ21の連通や、チューブ21と外界との連通を切り替える。送気球25は、ゴム等からなるラグビーボール状の中空体であり、圧縮して押し潰すことでチューブ21を通じてバッグ11内に空気を送り込むことができる。
【0037】
バッグ11は、その内部に充填される空気を外部に漏らさないシール性と、その内部の圧力(例えば60kPa)によって破裂することがない機械的強度とを備えることが好ましい。バッグ11を構成するバッグシート11a,11bとしては、上記の特性を満足すれば特に制限はなく、例えばポリ塩化ビニルシート、ポリエステルシート、またはこれらのシートに他の材料からなる層が積層された積層シートなどを用いることができる。また、バッグ11は、伸縮性を有する材料で構成されていてもよい。
【0038】
保持部材15は、バッグ11との間に配された袋状容器90を圧縮することができる機械的強度を有していることが好ましい。保持部材15の材料は、特に制限はないが、例えばナイロン糸、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステルなどを用いることができる。保持部材15は、これらの材料からなるシート状(又はフィルム状)であってもよく、あるいは、織布又は不織布であってもよい。保持シート15は、ポケット18内の袋状容器90を見ることができるように、例えば複数の孔が形成されていてもよく、あるいはメッシュ状であってもよい。
【0039】
押出装置10のポケット18に挿入される袋状容器90としては、例えば経腸栄養剤が充填されたパック(パウチ)を使用することができる。袋状容器90は、可撓性を有しており、圧縮することによりその内部に収納された液状物を外界に押し出すためのスパウト91を備えている。
【0040】
図2に示されているように、保持部材15の、ポケット18内に保持される袋状容器90に接する側の面に、3本の棒状の流路形成部材30が取り付けられている。図3は流路形成部材30の斜視図である。流路形成部材30の長手方向と直交する面での断面形状は略半円状である。このような流路形成部材30は、例えば長尺の円筒状部材を、その中心軸を通る面に沿って2つに切断(即ち、半割)して得ることができる。流路形成部材30は、図2に示されているように、その長手方向と平行な両端縁31a,31bが袋状容器90側となるように保持部材15に接合されている。また、図1に示されているように、流路形成部材30は、ポケット18内に保持された袋状容器90を圧縮したときにスパウト91に向かって流動する液状物の流動方向と略平行に配置されている。より詳細には、流路形成部材30は、バッグ11と保持部材15とが接合された一対の長辺と略平行であり、また、ポケット18内に保持された略矩形の袋状容器90のスパウト91が取り付けられた辺と隣り合う一対の辺(通常は一対の長辺)と略平行である。図1、図2では、3本の流路形成部材30が設けられているが、流路形成部材30の数は3本に限定されず、これより少なくても多くてもよい。
【0041】
以上のように構成された本実施形態の押出装置10の使用方法を、PEGチューブを介して患者に液状物(経腸栄養剤)を投与する場合を例にとって以下に説明する。
【0042】
最初に、液状物が充填された袋状容器90のスパウト91と、患者の胃ろうに挿入されたPEGチューブとを、経腸栄養投与セットを介して接続する。このとき、経腸栄養投与セットに設けられたクレンメは閉じておく。
【0043】
次に、加圧装置20の三方活栓23を操作して、バッグ11の内部空間を外界と連通させる。そして、上記の袋状容器90を、バッグ11と保持部材15との間のポケット18に挿入する。上記のようにバッグ11と外界とを連通させることにより、バッグ11の形状を自由に変えることができるので、袋状容器90をポケット18に容易に挿入することができる。
【0044】
次に、三方活栓23を操作して送気球25とバッグ11とを連通させる。そして、送気球25を繰り返し圧縮して押し潰し、チューブ21を通じてバッグ11に空気を送り込む。バッグ11は、送り込まれた空気によって膨らみ、袋状容器90は、バッグ11と保持シート15とに挟まれて圧縮される。圧力インジケータ22によりバッグ11内の圧力が所定値に達したのを確認すると、バッグ11への空気の送り込みを停止する。図4は、このときの押出装置10の断面図である。
【0045】
次に、経腸栄養投与セットに設けられたクレンメを開く。袋状容器90内の液状物は、スパウト91を通じて押し出され、患者の体内に送られる。
【0046】
液状物が押し出され、袋状容器90が平らに押し潰されたのを確認した後、三方活栓23を操作してバッグ11内の空気を外界に放出させる。そして、袋状容器90をポケット18から取り出す。
【0047】
次に、流路形成部材30の作用を説明する。
【0048】
図5Aは、液状物の残存量が僅かとなった袋状容器90を本実施形態の押出装置10で圧縮している様子を示した断面図である。図5Bは、図5Aの流路形成部材30を含む部分5Bの拡大断面図である。袋状容器90内の液状物の残存量が少なくなると、袋状容器90を構成する2枚のシート90a,90bの間隔が狭くなる。しかしながら、袋状容器90内の液状物は依然として押出装置10から圧縮力を受けている。従って、図5Bに示すように、流路形成部材30と接するシート90aは流路形成部材30の形状に沿って変形し、また、押出装置10のバッグシート11aと接するシート90bはバッグシート11aの形状に沿って変形する。流路形成部材30から離れた箇所ではシート90aとシート90bとは密着する。ところが、流路形成部材30近傍では、シート90aの変形は、シート90bの変形に比べて急峻であるので、流路形成部材30近傍においてはシート90aとシート90bとは完全に密着せず、両者間に液状物が充満した僅かなキャビティ95が形成される。このキャビティ95は長尺の流路形成部材30に沿って連続して形成される。袋状容器90内の液状物の残存量が少なくなるにしたがってキャビティ95の断面積は小さくなるが、袋状容器90内に液状物が残存しているかぎり、キャビティ95が消失することはない。袋状容器90内の液状物は、このキャビティ95内をスパウト91に向かって流動する。従って、本実施形態では、袋状容器90に形成された密着部分93(図9A、図9B参照)によって液状物の流動が阻害される従来の押し出し方法と異なり、袋状容器90内の液状物をほとんど残らず押し出すことができる。
【0049】
なお、キャビティ95が完全に消失せず、そのためにキャビティ95内に液状物が最終的に残存してしまう可能性はあるが、流路形成部材30の形状、寸法、個数などを適切に設定することにより、キャビティ95内に残存する液状物の量を低減することは可能である。
【0050】
流路形成部材30の高さ(袋状容器90を圧縮する方向に沿った寸法)H(図2参照)は、特に制限はないが1〜5mmが好ましい。流路形成部材30の高さHがこれより低いと、流路形成部材30による上記の作用が低下する。流路形成部材30の高さHがこれより高いと、キャビティ95の容積が大きくなるので、袋状容器90内に残存する液状物の量が多くなる。
【0051】
本発明は上記の実施形態に限定されず、種々に変更することができる。
【0052】
例えば、上記の実施形態の流路形成部材30の長手方向と直交する面での断面形状は半円状であったが、本発明の流路形成部材はこれに限定されない。例えば、流路形成部材30の断面形状は、図6Aに示すような180度より小さな中心角を有する略円弧状、図6Bに示すような180度より大きな中心角を有する略円弧状、図6Cや図6Dに示すような略U字状であってもよい。流路形成部材30は、その断面形状が図3や図6A〜図6Dのように凹みを有する場合、図2に示すようにその凹みが袋状容器90に対向するように設置してもよく、あるいは、袋状容器90とは反対側を向くように設置してもよい。但し、前者は、液状物の流動に有効なキャビティ95が形成されやすくなるので好ましい。
【0053】
更に、流路形成部材30の断面形状は、図6Eに示すような略円形、図6Fに示すような略矩形であってもよい。
【0054】
図7Aは、更に別の流路形成部材35の斜視図である。この流路形成部材35は、図3に示した流路形成部材30の長手方向と平行な両端縁31a,31bに複数の切り欠き36を形成したものである。切り欠き36の作用を説明する。袋状容器90内の液状物の残存量が少なくなると、切り欠き36が形成されていない領域では、図5Bと同様に流路形成部材35の端縁31a,31b上にて袋状容器90のシート90aとシート90bとが密着する。ところが、切り欠き36が形成されている領域では、図7Bに示すようにシート90aとシート90bとは僅かに離間し隙間96が形成される。この隙間96を通って液状物は図7Bの左右方向に流動することができる。従って、液状物は流動抵抗が相対的に小さなキャビティ95を選択してスパウト91に向かって流動することができる。よって、液状物の流動性が向上し、袋状容器90内に残存する液状物の量を更に低減することができる。
【0055】
流路形成部材35の端縁31a,31bに形成される切り欠き36の形状、大きさ、数、位置などは適宜変更することができる。図6A〜図6Dに示した流路形成部材30の端縁に、上述した切り欠き36と同様の切り欠きを形成してもよい。
【0056】
上記の実施形態では、流路形成部材は長尺の部材であったが、流路形成部材の形状はこれに限定されない。袋状容器内の液状物の残存量が少なくなったときに、加圧された袋状容器内の液状物がスパウトに向かって流動するための流路(キャビティ95)が袋状容器内に形成することができる形状であればよい。例えば、流路形成部材が、互いに離間した複数の突起であってもよい。複数の突起のそれぞれの近傍に形成されたキャビティが順に連なって、液状物がスパウトに向かって流動するための流路が形成されれば、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
流路形成部材は、ポケット18の袋状容器90と接する内周面に設けられていればよい。例えば上記の実施形態において、流路形成部材をバッグ11の袋状容器90と接する面に設けても良い。また、保持部材15及びバッグ11のそれぞれの袋状容器90と接する面に設けても良い。
【0058】
上記の実施形態では、バッグ11と保持部材15とを環状に接合することにより、袋状容器90を保持するポケット18を形成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、2つのバッグ11を、シール領域12の一対の長辺部分にて互いに環状に接合することにより、2つのバッグ11の間にポケット18を形成してもよい。
【実施例】
【0059】
バッグとしてEthox社製の加圧バッグ(“INFU−SURG”、1000mlモデル)を用いた。流路形成部材として、内径4mm、外径6mm、長さ200mmのテフロン(登録商標)からなる円筒管を、その中心軸を通る面に沿って2つに切断したものを用いた。上記のバッグの袋状容器と接する面に、3本の上記の流路形成部材を、その切断面が袋状容器に対向するように、バッグの長手方向と平行に接着剤で等間隔に貼り付けた。
【0060】
ナイロン層及びポリエチレン層からなる2層構造を有し、縦200mm×横100mmの矩形状の2枚のシートを、ナイロン層が外側になるように重ね合わせ、その周囲をシールして袋状容器を作成した。この袋状容器に、粘度20,000mPa・sの市販の栄養剤400gを充填した。そして、袋状容器のスパウトに、クレンメが取り付けられた内径4,5mm、長さ300mmの柔軟性を有するチューブを介して、20Fr.規格のPEGカテーテルを接続した。
【0061】
上記の袋状容器を、上記のバッグのポケットに収納し、バッグ内の空気圧を40kPaに加圧した後、チューブのクレンメを開いて袋状容器内の栄養剤を押し出した。栄養剤の吐出積算量、チューブとPEGカテーテルとの接続箇所での栄養剤の圧力(ライン内圧)、及び、バッグ内の圧力(バッグ内圧)の経時的変化を測定した。結果を図8Aに示す。
【0062】
比較例として、流路形成部材を貼り付けない以外は上記と同様にして、栄養剤の吐出積算量、チューブとPEGカテーテルとの接続箇所での栄養剤の圧力(ライン内圧)、及び、バッグ内の圧力(バッグ内圧)の経時的変化を測定した。結果を図8Bに示す。
【0063】
図8Aと図8Bとを比較すると、栄養剤の吐出量は、本発明である図8Aの方が多かった。即ち、本発明によれば、袋状容器内の栄養剤の残存量を少なくすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の利用分野は特に制限はないが、例えば経腸栄養療法を行う際に、袋状容器内の経腸栄養剤を押し出すための押出装置として利用することができる。また、経腸栄養療法以外の分野、例えば輸液療法や介護等においても利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 押出装置
11 バッグ
11a,11b バッグシート
12 シール領域
13 連通管
15 保持部材
18 ポケット
20 加圧装置
25 送気球(ポンプ)
30,35 流路形成部材
31a,31b 流路形成部材の端縁
36 切り欠き
90 袋状容器
91 スパウト
95 キャビティ(流路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する袋状のバッグと、前記バッグに隣接するポケットとを備え、液状物が充填された袋状容器を前記ポケットに保持させた状態で、前記バッグ内に流体を送り込み前記バッグを膨らませることによって、前記袋状容器を加圧し前記袋状容器内の前記液状物を外界に押し出す押出装置であって、
前記ポケットの前記袋状容器と接する内周面に少なくとも1つの流路形成部材が設けられており、
前記流路形成部材は、前記袋状容器が加圧されたときに前記袋状容器内の前記液状物が流動するための流路を前記袋状容器内に形成することを特徴とする押出装置。
【請求項2】
前記流路形成部材が長尺部材であり、前記長尺部材は、前記袋状容器内の前記液状物の流動方向と略平行に配置されている請求項1に記載の押出装置。
【請求項3】
前記流路形成部材の長手方向と直交する面での断面形状が略円弧状または略U字状である請求項1又は2に記載の押出装置。
【請求項4】
前記流路形成部材の長手方向に平行な端縁に切り欠きが形成されている請求項3に記載の押出装置。
【請求項5】
前記流路形成部材は硬質材料からなる請求項1〜4のいずれかに記載の押出装置。
【請求項6】
更に、前記バッグ内に前記流体を送り込むポンプを備える請求項1〜5のいずれかに記載の押出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−10875(P2011−10875A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157777(P2009−157777)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】