説明

押釦スイッチ用キートップの製造方法および押釦スイッチ用キートップ

【課題】 環境負荷を軽減させ、生産性を向上させる。
【解決手段】 押釦スイッチ用キートップ1は、透明な樹脂により形成される芯材11と、キートップ1の下部から照射される光を遮断する遮光層12と、芯材11を形成する樹脂への密着性を確保するために形成されるベースコート13と、銀鏡反応により形成される金属層14と、銀の酸化による変色を防止するために形成される保護層15と、キートップ1の表面を保護するトップコート16と、芯材11の上面側の一部に形成される着色部17および模様部16aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に用いる押釦スイッチ用キートップの製造方法および押釦スイッチ用キートップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機等の電子機器において、外観上の美しさを増大させるために、その操作ボタン(押釦スイッチ用キートップ)の表面等に金属層を形成したものがある。この金属層は、押釦スイッチ用キートップの芯材となる樹脂の表面や裏面に形成される。そして、樹脂の表面や裏面に金属層を形成する方法として、従来においては、メッキ、蒸着またはスパッタリングが採用されている。下記特許文献1には、メッキ、蒸着、スパッタリング等によって樹脂の裏面に金属層が形成された押釦スイッチ用キートップが開示されている。また、下記特許文献2には、メッキによって樹脂の表面に金属層が形成された押釦スイッチ用キートップが開示されている。
【特許文献1】特開2000−231849号公報
【特許文献2】特開2002−241988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、金属層をメッキで形成する場合には、一般に、クロムメッキが用いられる。しかしながら、クロムメッキでメッキ処理をする場合には、有害物質である6価クロムを使用しなければならず、環境負荷が大きい。また、金属層を蒸着やスパッタリングで形成する場合には、一般に、真空槽内で金属層を形成しなければならず、生産性が低い。
【0004】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するために、環境負荷を軽減させ、生産性を向上させることができる押釦スイッチ用キートップの製造方法および押釦スイッチ用キートップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の押釦スイッチ用キートップの製造方法は、樹脂製の芯材を成形する工程と、芯材の上面側または下面側に金属層を形成する工程と、を備え、金属層は、銀鏡反応により形成されることを特徴とする。
【0006】
本発明の押釦スイッチ用キートップは、樹脂製の芯材を有する押釦スイッチ用キートップであって、芯材の上面側または下面側に金属層を備え、当該金属層は、銀鏡反応により形成されることを特徴とする。
【0007】
これらの発明によれば、金属層を、銀鏡反応により形成させることができるため、キートップに高級感のある金属光沢を持たせることができる。また、金属層は、銀鏡反応を利用して形成されるため、環境負荷を軽減させることができる。さらに、銀鏡反応を利用して金属層を形成することによって、金属層を真空槽内で形成する必要がなくなるため、他の工程と連続させて処理することが可能となり、生産性を向上させることができる。
【0008】
本発明の押釦スイッチ用キートップの製造方法において、上記銀鏡反応は、アンモニア性硝酸銀水溶液と還元液とを被塗装面に付与することによって起こることが好ましい。これにより、アンモニア性硝酸銀水溶液と還元液とを、被塗装面上に、例えば、スプレーして付与することによって金属層を形成させることができるため、生産性をより向上させることができる。
【0009】
本発明の押釦スイッチ用キートップの製造方法において、上記金属層を貫通する貫通孔を形成する工程をさらに備え、この貫通孔は、文字・数字・記号・図形等を含む模様を表すものとして形成されることが好ましい。このようにすれば、文字・数字・記号・図形等を含む模様を、背景とは異なる透過率にすることができるため、それぞれを異なる明るさで光らせることが可能となる。したがって、模様の視認性が高いキートップを成形させることができる。
【0010】
本発明の押釦スイッチ用キートップの製造方法において、上記金属層の下面側に遮光層を形成する工程をさらに備え、この貫通孔は、金属層および遮光層を貫通して形成されることが好ましい。このようにすれば、文字・数字・記号・図形等を含む模様のみを光らせることができるため、模様の視認性をさらに高めることができる。
【0011】
本発明の押釦スイッチ用キートップの製造方法において、上記芯材の上面側、かつ上記金属層の下面側に着色部を形成する工程をさらに備え、上記貫通孔は、着色部の上面側に形成されることが好ましい。このようにすれば、各キートップの表面に、異なる複数色の模様を表示させることができる。
【0012】
本発明の押釦スイッチ用キートップの製造方法において、上記金属層の上面側に模様部を形成する工程をさらに備え、この模様部は、文字・数字・記号・図形等を含む模様を表すものとして形成されることが好ましい。このようにすれば、文字・数字・記号・図形等を含む模様を、背景とは異なる透過率で光らせることが可能となるため、模様の視認性を向上させることができる。
【0013】
本発明の押釦スイッチ用キートップの製造方法において、上記金属層の芯材とは反対側の面上に保護層を形成する工程をさらに備えることが好ましい。このようにすれば、酸化し易い銀の変色を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る押釦スイッチ用キートップの製造方法および押釦スイッチ用キートップによれば、環境負荷を軽減させ、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る押釦スイッチ用キートップの製造方法および押釦スイッチ用キートップの実施形態を図面に基づき説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0016】
[第1実施形態]
まず、図1および図2を参照して本発明の第1実施形態における押釦スイッチ用キートップについて説明する。図1は、押釦スイッチ用キートップの断面図であり、図2は、複数の押釦スイッチ用キートップが配置された携帯電話機の操作部を真上から見た図である。図1に示す押釦スイッチ用キートップ1は、キートップの本体を形成する芯材11と、芯材11の上面および側面を覆うように積層して形成される遮光層12、ベースコート13、金属層14,保護層15およびトップコート16とを有する。
【0017】
芯材11は、透明な樹脂により形成される。ここで、従来の文字照光式のキートップにおいて、メッキにより金属層を形成する場合には、芯材を、メッキ可能な不透明なABS樹脂と透明樹脂との2色成形品として成形しなければならないため、複雑な構造を有する高価な成形金型を必要としていた。このため、文字形状の変更等を含むデザインの変更が生じた場合には、開発に要する日数や費用が増大してしまい、短期間での対応が困難であった。これに対して、本発明によれば、芯材11を透明樹脂の単色成形品として成形することができるため、安価な成形金型で成形することができ、デザインが変更された場合であっても短期間で柔軟に対応することができる。
【0018】
遮光層12は、キートップ1の下部から照射される光を遮断するために設けられる。
【0019】
ベースコート13は、芯材11を形成する樹脂と金属層14との密着性を確保するために形成されるプライマー層である。
【0020】
金属層14は、銀鏡反応によって銀を析出させることにより形成する。このような金属層14を形成することによって、キートップに高級感のある金属光沢を持たせることができる。金属層14を形成する具体的な方法について説明する。まず、例えば、アンモニア性硝酸銀水溶液と還元液とを被塗装面にスプレーする。これにより、被塗装面上で銀鏡反応が起こり、還元された銀が被塗装面上に析出して金属層14が形成される。還元液としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドまたはブドウ糖等が該当する。
【0021】
ここで、銀鏡反応により銀を析出させる一般的な方法について説明する。まず、試験管に入れられた硝酸銀水溶液(2Ag)にアンモニア水(2OH)を加えると、褐色の酸化銀(AgO)が沈殿する。その後、アンモニア水を、酸化銀の沈殿が消えるまで加え続ける。これにより、アンモニア性硝酸銀水溶液(2[Ag(NH]+2OH)が生成される。
【0022】
次に、生成されたアンモニア性硝酸銀水溶液に、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドまたはブドウ糖等の還元液を加える。これにより、銀が還元され、試験管のガラス壁に銀が析出する。
【0023】
このように、銀鏡反応を利用して金属層14を形成する銀を析出させることによって、有害物質を使用することなく金属層14を形成させることができる。したがって、環境負荷を軽減させることができる。
【0024】
また、従来、例えば、蒸着により金属層を形成させる場合には、上述したように真空槽内で金属を蒸着させる必要があった。したがって、この蒸着工程の前に行われるプライマー工程や、蒸着工程の後に行われるトップコート等の塗布工程が、蒸着工程と分断され、別個独立に処理されていた。これに対して、本発明によれば、アンモニア性硝酸銀水溶液と還元液とをスプレーすることによって金属層14を形成させているため、プライマー工程やトップコート等の塗布工程と連続させて処理することができる。すなわち、各製造工程を、一貫した流れ作業により処理することができる。これにより、生産性を向上させることができる。
【0025】
保護層15は、銀が酸化することによって変色してしまうことを防止するために、金属層14が形成された直後に形成される。
【0026】
トップコート16は、キートップの表面を保護するために、キートップを製造する工程の最後に形成される。
【0027】
また、図1に示す芯材11の上面側の一部には、着色部17および模様部16aが形成される。模様部16aは、芯材11の上面側に積層して形成される各層(遮光層12、ベースコート13、金属層14,および保護層15)を貫通する貫通孔として形成され、着色部17の上面に形成される。この貫通孔内には、トップコート16を形成する際に、トップコート材が充填される。図2に示すように、押釦スイッチ用キートップ1を真上から見ると、模様部16aは、文字・数字・記号・図形等を含む模様として表される。このような模様部16aを形成することによって、文字・数字・記号・図形等を含む模様を、背景とは異なる透過率にすることができるため、それぞれを異なる明るさで光らせることが可能となる。したがって、模様の視認性が高いキートップを成形させることができる。
【0028】
また、模様部16aは、レーザーでカットすることにより形成される。遮光層12と金属層14の双方をカットすることにより、キートップを照光させたときに、文字や記号等の模様部分のみを光らせることができるため、キートップにおける模様の視認性をさらに高めることができる。
【0029】
着色部17は、遮光層12および模様部16aの下面に形成される。着色部17を形成することによって、各キートップの表面に異なる複数色の模様(文字・数字・記号・図形等)を表示させることができる。
【0030】
なお、レーザーでカットされた後の貫通孔に、透過性を有するインクを充填させることによって模様部16aを形成することとしてもよい。充填するインクは、着色されたインクであっても、無着色のインクであってもよい。ただし、着色されたインクを充填することにより、着色部17を形成することなく、各キートップの表面に異なる複数色の模様を表示させることができる。
【0031】
また、遮光層12は、必ずしも形成することを要しないが、遮光層12を形成することによって、文字・数字・記号・図形等を含む模様のみを光らせることができるため、遮光層12を形成しない場合に比して模様の視認性を高めることができる。また、遮光層12を形成せずに、ベースコート13を遮光色に着色することとしてもよい。
【0032】
また、着色部17は、必ずしも形成することを要しないが、着色部17を形成することによって、模様ごとに色を着けることができるため、ユーザの多様なデザイン嗜好に応えることが可能となる。
【0033】
[第2実施形態]
次に、図3を参照して本発明の第2実施形態について説明する。図3は、第2実施形態における押釦スイッチ用キートップの断面図である。第2実施形態における押釦スイッチ用キートップ2が、第1実施形態における押釦スイッチ用キートップ1と異なる点は、まず、第1実施形態における押釦スイッチ用キートップ1では、着色部17と模様部16aが、芯材11の上面側の一部に形成されているのに対して、第2実施形態における押釦スイッチ用キートップ2では、第1実施形態における着色部17と模様部16aの替わりに設けられた模様部18が、保護層15の上面側の一部に形成されている点である。また、第1実施形態における押釦スイッチ用キートップ1では、金属層14の下面側に遮光層12が形成されているのに対して、第2実施形態における押釦スイッチ用キートップ2では、遮光層12が形成されていない点についても異なる。
【0034】
図3に示すように、模様部18は、金属層14の上面に形成される保護層15の上面側の一部に形成される。模様部18は、第1実施形態における模様部16aと同様に、押釦スイッチ用キートップ2を真上から見たときに、文字・数字・記号・図形等を含む模様として表される。また、模様部18は、例えば、インクにより形成されるため、着色されたインクを使用することによって第1実施形態における着色部17を形成した場合の効果と同様の効果を奏することができる。
【0035】
このような模様部18を形成することによって、文字・数字・記号・図形等を含む模様を、背景とは異なる透過率にすることができるため、それぞれを異なる明るさで光らせることが可能となる。したがって、視認性の高い模様部18を成形させることができる。
【0036】
なお、第2実施形態における押釦スイッチ用キートップ2には、遮光層12が形成されていないが、第1実施形態と同様に芯材11の上面に遮光層を設けることとしてもよいし、ベースコート13を遮光色に着色することとしてもよい。これらの場合には、押釦スイッチ用キートップ2を真上方向から見たときの金属層14からの反射光を増強させることができるため、キートップの表面における金属光沢をより強調させることができる。
【0037】
これ以外の各構成要素の説明については、第1実施形態における各構成要素の説明と同様であるため省略する。
【0038】
[第3実施形態]
次に、図4を参照して本発明の第3実施形態について説明する。図4は、第3実施形態における押釦スイッチ用キートップの断面図である。第3実施形態における押釦スイッチ用キートップ3が、第1実施形態における押釦スイッチ用キートップ1と異なる点は、第1実施形態における押釦スイッチ用キートップ1では、芯材11の上面側に金属層14等が積層されているのに対して、第3実施形態における押釦スイッチ用キートップ3では、芯材11の下面側に金属層14等が積層されている点である。また、第1実施形態における着色部17と模様部16aの替わりに、模様部18が設けられている点についても異なる。
【0039】
図4に示す押釦スイッチ用キートップ3は、芯材11と、芯材11の下面側に積層して形成されるベースコート13、金属層14,保護層15、遮光層12およびアンダーコート19とを有する。アンダーコート19は、キートップの裏面を保護するために、キートップを製造する工程の最後に形成される。
【0040】
図4に示すアンダーコート19の上面側の一部には、模様部18が形成される。模様部18は、アンダーコート19の上面側に積層して形成される各層(金属層14,保護層15および遮光層12)を貫通する貫通孔として形成される。この貫通孔内には、透過性を有するインクが充填される。充填するインクは、着色されたインクであっても、無着色のインクであってもよい。ただし、着色されたインクを充填することにより、各キートップの表面に異なる複数色の模様を表示させることができる。このように形成される模様部18は、第1実施形態における模様部16aと同様に、押釦スイッチ用キートップ3を真上から見たときに、文字・数字・記号・図形等を含む模様として表される。
【0041】
これ以外の各構成要素の説明については、第1実施形態における各構成要素の説明と同様であるため省略する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1実施形態における押釦スイッチ用キートップの断面図である。
【図2】複数の押釦スイッチ用キートップが配置された携帯電話機の操作部を真上から見た図である。
【図3】第2実施形態における押釦スイッチ用キートップの断面図である。
【図4】第3実施形態における押釦スイッチ用キートップの断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1,2,3・・・押釦スイッチ用キートップ、11・・・芯材、12・・・遮光層、13・・・ベースコート、14・・・金属層、15・・・保護層、16・・・トップコート、16a,18・・・模様部、17・・・着色部、19・・・アンダーコート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の芯材を成形する工程と、
前記芯材の上面側または下面側に金属層を形成する工程と、を備え、
前記金属層は、銀鏡反応により形成されることを特徴とする押釦スイッチ用キートップの製造方法。
【請求項2】
前記銀鏡反応は、アンモニア性硝酸銀水溶液と還元液とを被塗装面に付与することによって起こることを特徴とする請求項1記載の押釦スイッチ用キートップの製造方法。
【請求項3】
前記金属層を貫通する貫通孔を形成する工程をさらに備え、
前記貫通孔は、文字・数字・記号・図形等を含む模様を表すものとして形成されることを特徴とする請求項1記載の押釦スイッチ用キートップの製造方法。
【請求項4】
前記金属層の下面側に遮光層を形成する工程をさらに備え、
前記貫通孔は、前記金属層および前記遮光層を貫通して形成されることを特徴とする請求項3記載の押釦スイッチ用キートップの製造方法。
【請求項5】
前記芯材の上面側、かつ前記金属層の下面側に着色部を形成する工程をさらに備え、
前記貫通孔は、前記着色部の上面側に形成されることを特徴とする請求項4記載の押釦スイッチ用キートップの製造方法。
【請求項6】
前記金属層の上面側に模様部を形成する工程をさらに備え、
前記模様部は、文字・数字・記号・図形等を含む模様を表すものとして形成されることを特徴とする請求項1記載の押釦スイッチ用キートップの製造方法。
【請求項7】
前記金属層の前記芯材とは反対側の面上に保護層を形成する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の押釦スイッチ用キートップの製造方法。
【請求項8】
樹脂製の芯材を有する押釦スイッチ用キートップであって、
前記芯材の上面側または下面側に金属層を備え、
前記金属層は、銀鏡反応により形成されることを特徴とする押釦スイッチ用キートップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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