説明

抽出物量が少なく、かつ、再封印特性を有するバリア

装置が内部容積部を画定する流体格納容器を含み、流体格納容器が、内部容積部に接続するためのアクセスポート部と、アクセスポート部上にあってアクセスポート部を封印するキャップとを有し、キャップがフルオロ熱可塑性エラストマーを含有する穿刺可能なバリアを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出物量が少なくて再封印特性を有するバリアに関する。
【背景技術】
【0002】
隔膜は周辺環境から物質、単一成分又は複数成分を単離するために利用されるバリアであり、そして内側と外側の環境の間の物質移動を制限するために利用されるバリアである。隔膜は、サンプル収集及び/又は化学分析が一般的である多くの分野(例えば、化学工業、バイオテクノロジー、医薬品工業、環境分析機関、及び学問の分野)において用いられ、そして、当然のことながら化学薬品の保存及び合成においても用いられる。隔膜を用いて物質を単離するための典型的なセットアップは、容器、例えばネジ山の付いた上部を有するガラスビンに関心のある物質を配置することや、開放部が隔膜によって完全に覆われるように容器の開放部上に隔膜を配置することや、さらに、通常、容器のネジ山に回して取り付けるために設計されたプラスチック製のキャップによって容器に隔膜を固定することを含む。代替的な例示は、クリンプキャップ、クランプリッド、スナップリッド及び封印又は熱封印バリアを含む。これらのセットアップで、サンプルは周辺部から単離されて、隔膜を取り除くか、又はプローブ、典型的には針で隔膜を穿刺することによってのみサンプルに接続することができ、必要とされる量の物質を回収することができる。
【0003】
高品質な格納のための隔膜は、一般的には複数のポリマーのコンポジット材料である。エラストマーのいくつかのタイプは、例えばシリコーン、ナチュラルラバー、ブチルラバー及びVitonTM(架橋フルオロエラストマー)のような隔膜を作製するために利用された。他の場合としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような半結晶性ポリマーが用いられた。これらのタイプの材料は組み合わせても用いられ得る。例えば、PTFE-シリコーンコンポジット材料の隔膜が幅広く用いられるが、PTFE層は隔膜に対して必要とされる化学的耐性とバリア特性とを提供することができ、シリコーン層は、針で穿刺することについて同じ厚みの純PTFEよりも隔膜をより適合させて容易にさせる。PTFE層の結晶性はバリア特性に関与すると考えられている。さらに、シリコーンは柔軟性があって、かつ、再封印可能である層として挙動する。
【0004】
ところが、公知のPTFE-シリコーンコンポジット材料の構造物について不利な点がある。針による穿刺後、シリコーンは、様々な蒸気、特には揮発性溶媒からの蒸気で、例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン及びトルエンのような蒸気に対して浸透性が大きいことは当該技術分野においてよく知られているところである。溶媒を漏らすことは絶えずサンプルの濃度を変化させることとなって分析にエラーを生み出すことになる。このことはサンプルの寿命又は保存期間を短くする可能性があり、最終的にはエンドユーザーに新しいサンプルを作製するように求めることとなる。本来は、非弾性で、かつ、剛直であるePTFE層は穿刺しないときでさえ封印問題が起こり得る場合がある。
【0005】
別の公知構造物は、例えば、ブタジエンポリマー、コポリマー、ネオプレン、クロロプレン等の天然及び合成ラバーのような弾力性のあるポリマーの少なくとも2つの層から作製される。中心層は弾力性のある層であり、結合された近接層は放射方向に引っ張られる層である。針による穿刺後、圧縮された中心層は穴を強制的に封じ込めて再封印する。他の公知のコンポジット材料と同様に、このタイプの構造物は、1つの材料から作製された隔膜よりも生産するのにより複雑であって、かつ、より困難である。したがって、穿刺された後に再封印することが可能である単一の材料から隔膜を作製することが望まれている。
【0006】
また、シリコーンが、例えばトルエン、メタノール、エタノール及びアセトニトリルのような一般的な溶媒の存在下で容易に抽出される混入物質を含むことは当該技術分野においてよく知られたことである。これらの抽出物はしばしばゴーストピークとして表されるものの形態でクロマトグラムにピークを加える可能性がある。ゴーストピークはサンプルに関連するピークと重なり合う可能性があり、分析においてエラーを生み出すか、又は分析を不可能にする。したがって、抽出物が少ししかないか又は全く存在しない隔膜が望まれている。
【0007】
隔膜材料として、例えばVitonTM 及びKalrezTMのような架橋フルオロエラストマーは公知である。架橋していない状態でこれらのフルオロエラストマーは低分子量のゴム状物質なので、これらのフルオロエラストマーは弾力性を得るために架橋結合することが必要不可欠である。低分子量のゴム状形態物質は処理を促進するために利用される。架橋結合が次工程で起こる。架橋結合を得るために更なるモノマー及び架橋剤を添加することは当該技術分野において公知である。しばしば、これらの架橋剤は抽出物の発生源である。また、VitonTMは、多くの一般的な有機溶媒、とりわけメタノール、テトラヒドロフラン及びアセトニトリルのような有機溶媒に対してバリア性に乏しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
再封印可能であって抽出物が少ない、隔膜のための材料が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、架橋が存在しないフルオロ熱可塑性エラストマーを含む隔膜であり、同時に再封印して抽出物があれば少ない量のレベルを提供するバリア層である隔膜である。架橋結合を有さず、又は近接層の補助を必要することなく、再封印性又は弾力性は高分子量のポリマーを使うことによって達成される。また、驚くべきことに、本発明は非晶性であるにもかかわらず、下記に例示されるように一般的な有機溶媒の浸透性に対する優れたバリア性を有することを見出した。結晶性のものは、非晶性のものと比較して有意に浸透性を小さくすることは当該技術分野において公知である。ところが、本発明において、発明者らは低浸透性が結晶性のないところで達成されることを意外にも見出した。
【0010】
本発明は、再封印性を有して抽出物量が少ないを有するバリアを提供するフルオロ熱可塑性エラストマーの使用に関する。このことによって、本発明は、例えばクロマトグラフィーのためのビンで用いられる隔膜、96ウェルプレートのためのフィルム又はガスクロマトグラフ内の隔膜部のような装置自身内のフィルムのような用途に対して特に好適であり、それらの隔膜の全ては異なる面積、異なる厚み等を有してよい。本発明は、穿刺後の改良されたバリア特性を提供することと、一般的な溶媒において抽出物がより少量であることとの観点で現在市販されている隔膜に対して明確に改良されている。
【0011】
一般的には、本発明はフルオロ熱可塑性エラストマーから成る隔膜を提供する。好ましい実施形態はテトラフルオロエチレン(TFE)及びペルフルオロアルキルビニルエーテルから調製され、最も好ましい実施形態は、40質量パーセント以上のPMVEを含有するTFE-ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)コポリマーである。
【0012】
具体的には、本発明は内部容積部を画定する流体格納容器を含む装置を提供し、その流体格納容器はその内部容積部に接続するためのアクセスポート部と、そのアクセスポート部上にあってそのアクセスポート部を封印するキャップとを有し、そのキャップがフルオロ熱可塑性エラストマーを含有する穿刺可能なバリアを含む。フルオロ熱可塑性エラストマーがペルフルオロ熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。フルオロ熱可塑性エラストマーがテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマーを含むことがより好ましく、そしてそのコポリマーは約40〜80質量パーセントのペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)を含み、相補的に60〜20質量パーセントのテトラフルオロエチレンを含む。ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)がペルフルオロ(メチルビニルエーテル)であることが好ましい。
【0013】
別の実施形態として、本発明のバリアは、フルオロ熱可塑性エラストマー層と、ポリテトラフルオロエチレン層、好ましくは延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)層とを含むコンポジット材料である。ePTFE層の機能は、他の基板に機械的な結合を可能にすることか、又は潤滑性を提供することである。本発明のバリアが、再封印可能であり、クリーンであり、熱封印(ヒートシール)可能であり、さらに再利用可能であることが好ましい。
【0014】
別の態様として、本発明は流体格納容器のためのキャップを提供し、そのキャップは、その流体格納容器と相互に嵌合可能である本体部を含み、その本体部は、開口部と、その開口部に近接する穿刺可能であって再封印可能であるバリアとを画定し、そのバリアはフルオロ熱可塑性エラストマーを含む。
【0015】
更に別の態様として、本発明は、フルオロ熱可塑性エラストマーを含むバリアでアクセスポート部を覆う工程を含む、そのアクセスポート部を有する流体格納容器を封印する方法を提供し、そして、フルオロ熱可塑性エラストマーの容器を形成することを含む流体格納容器を生産する方法を提供する。
【0016】
本明細書で用いられる「熱可塑性」は、熱に曝された場合に軟化し、室温まで冷却した場合に元の状態に戻るポリマーを意味する。そのようなポリマーは、ポリマーの元の状態のものを有意に分解したり、若しくは変形したりすることなく、熱若しくは熱と圧力とによって軟化させるか、流動化させるか又は新しい形状にさせる。
【0017】
本明細書で用いられる「エラストマー」は、およそ15%まで引っ張って変形させ、解放した場合に実質的に最初の寸法まで戻る材料を意味する。
【0018】
本明細書で用いられる「フルオロ熱可塑性エラストマー」は、フッ素、水素、及び場合によっては他の置換基を含有する炭素鎖に基づいたポリマーの繰り返し単位を有するポリマーを含む熱可塑性エラストマーを意味する。
【0019】
本明細書で用いられる「ペルフルオロ熱可塑性エラストマー」は、フッ素、及び場合によっては充分にフッ素化された他の置換基を含有する炭素鎖に基づいたポリマーの繰り返し単位を有するポリマーを含むフルオロ熱可塑性エラストマーを意味する。
【0020】
本明細書で用いられる「穿刺可能である(puncturable)」は、材料の1つの表面から材料の中を通って他の表面まで物を押出す能力を意味する。
【0021】
本明細書で用いられる「流体」は、液体、ガス、蒸気、懸濁液、エアロゾル又はそれらの任意の組み合わせを意味する。
【0022】
本明細書で用いられる「クリーン」は、トルエン中、(実施例4の手順にしたがって)0.1質量%未満の抽出物を意味する。
【0023】
本明細書で用いられる「再封印可能である(resealable)」は、(実施例3の手順にしたがってジクロロメタンの溶媒であって継続して10日間で)最大で10%以下の溶媒損失を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】図1Aは、本発明の典型的な実施形態にしたがったバリア含有の流体格納容器とキャップとの組み合わせの斜視図である。
【図1B】図1Bは、流体格納容器の斜視図である。
【図1C】図1Cは、本発明の典型的な実施形態にしたがったバリア含有のキャップの斜視図である。
【図1D】図1Dは、本発明の典型的な実施形態にしたがったバリア含有のキャップの斜視図である。
【図1E】図1Eは、本発明の典型的な実施形態にしたがったバリア含有のキャップの斜視図である。
【図2A】図2Aは従来技術のバリアのSEM写真である。
【図2B】図2Bは従来技術のバリアのSEM写真である。
【図2C】図2Cは本発明の典型的な実施形態にしたがったバリアのSEM写真である。
【図2D】図2Dは本発明の典型的な実施形態にしたがったバリアのSEM写真である。
【図3】図3は本発明の典型的な実施形態にしたがったバリア含有の血清又は超高純度化学薬品の保存容器の分解斜視図である。
【図4A】図4Aは本発明の典型的な実施形態にしたがったバリア含有の医薬包装用ビンの斜視図である。
【図4B】図4Bは本発明の典型的な実施形態にしたがったバリア含有の医薬包装用ビンの斜視図である。
【図4C】図4Cは本発明の典型的な実施形態にしたがったバリア含有のキャップの斜視図である。
【図5A】図5Aは本発明の典型的な実施形態にしたがったバリア含有の化学薬品リアクターの斜視図である。
【図5B】図5Bは、本発明の典型的な実施形態にしたがった化学リアクターのためのバリアの斜視図である。
【図6A】図6Aは蓋付き管を有するウェルプレートの斜視図である。
【図6B】図6Bは本発明の典型的な実施形態にしたがった図6Aのウェルプレートのためのキャップマットバリアの斜視図である。
【図7】図7は本発明の典型的な実施形態にしたがったバリアを含むガスクロマトグラフの注入口の概略図である。
【図8】図8は本発明の典型的な実施形態にしたがったバリアを含む液体クロマトグラフの注入口の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、再封印性を有して抽出物量が少ないバリアを提供するフルオロ熱可塑性エラストマーの使用に関する。このことによって、本発明は、例えばクロマトグラフィーのためのビン内で用いられる隔壁、又はガスクロマトグラフ内の隔壁部のようなその装置自身内で用いられる隔壁のような用途に対して特に良好に適し、その隔壁は、各々、異なる面積、異なる厚み等を有してよい。本発明が穿刺前後の両方で単一の材料から改良されたバリア特性を提供する観点と、一般的な溶媒中で抽出物が低いという観点とにおいて、本発明は現在市販されている隔壁に対して注目すべき改良点を有する。
【0026】
図1A−1Eは本発明の典型的な実施態様を示す。図1Aは流体格納容器10及びキャップ11を示す。流体格納容器10はその容器に収容される流体12とアクセスポート部13(図1B)とを備える。キャップ11はアクセスポート部13で流体格納容器10に取り付けられる。キャップ11は流体格納容器10と嵌合可能な本体部14(図1C)を含む。キャップ13の本体部14は開口部15を画定する。近接の開口部15がバリア16である。バリア16は開口部15を覆って、当該技術分野における公知の手段、例えば、摩擦嵌め、しまり嵌め、接着剤等によってキャップ11に取り付けられる。好ましくは、バリア16はフルオロ熱可塑性エラストマーを含む。好ましい実施形態はテトラフルオロエチレン(TFE)とペルフルオロアルキルビニルエーテルとから調製されるフルオロ熱可塑性エラストマーであり、最も好ましい実施形態は、40質量パーセント(質量%)以上のペルフルオロ(メチルビニルエーテル)を含有するTFE-ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)コポリマーである。PMVEの質量含有量は、特に限定されることはないが、50質量%PVME、60質量%PMVE、70質量%PMVEが挙げられ、60質量%が最も好ましい。質量パーセントは、2006年5月23日に発行されて、タイトルが"Thermoplastic Copolymer of Tetrafluoroethylene and Perfluoromethyl Vinyl Ether and Medical Device Employing the Copolymer,"である、米国特許No.7,049,380号で述べられているように、Fourier Transform Infrared Spectroscopyによって決定される。そしてその米国特許は本願明細書に引用することによって完全に援用される。
【0027】
図1A及び1Bで示された実施形態において、流体格納容器10は任意種の流体12を収容するために設計されたビンであり、そして、例えば、外容積部から流体12を含有する流体格納容器10によって画定される内容積部までバリア16を通って挿入される針によって、任意種の流体12はアクセスポート部13を介して取り出せることが好ましい。示された実施形態において、キャップ11は、流体格納容器10の首部に形成されるネジ山17とキャップ11に形成される対応して嵌め合うネジ山17aとの手段によって流体格納容器10に取り付けられる。代替的には、図1Dに示されるように、キャップ11は流体格納容器10にクリンプ嵌めが可能なように設計されてもよい(この実施形態においては、その流体格納容器10はネジ山17を含まない。)。この実施形態においては、例えば、本体部14は圧着可能なプラスチック又は金属の材料を含んでよい。さらに、代替的には、図1Eに示されるように、キャップ11は流体格納容器10としまり嵌めが可能なように設計されてもよい。
【0028】
本発明は、現在用いられている最も一般的なバリア、すなわちPTFEとシリコーンとの2成分積層体に対して注目すべき有利な点を提供する。バリアは針によって穿刺されるように設計されるので、バリアの1つの重要な特性は容易に穿刺されることである。更に重要なこととしては、本発明のバリア16は従来技術の代替物よりも非常に良好に再封印される。図2A−2Dを参照すると、本発明の再封印性が示されている。従来技術のシリコーン−PTFEバリアが5回にわたって穿刺されて、穿刺後のバリアのSEM写真が撮影された。図2Aは、(バリアの外面の)シリコーンのSEM写真である。針によって形成された開放部をそのシリコーンにおいて明確に確認することができる。図2Bは従来技術のバリアのPTFE面を示す。確認されるように、針はPTFEに再封印しない裂け目を作り出した。流体格納容器10に収容される任意の揮発性溶媒又は他の流体がこの従来技術のバリアに形成される裂け目及び穴を通過して漏れる可能性がある。一方、図2Cは5回穿刺後の本発明のバリア16の外側のSEM写真である。この面においては、裂け目も他の開放部のどちらも確認されない。本発明のバリア16は再封印性を有し、それによって、流体格納容器10に収容される揮発性成分の漏れを防ぐ。
【0029】
本発明の適用は、化学薬品及び生化学薬品の用途における化学薬品の保存、合成及び分析での使用を含む。特に限定されることはないが、保存の例としては、一般的には化学薬品の格納が挙げられ、そして、洗浄剤、酸化剤、及び高蒸気圧溶媒をとりわけ含んだ、流体を主構成とした針の操作を必要とする化学薬品の格納が挙げられる。例えば、図3の典型的な実施形態で示されるように、バリア16は化学薬品又は血清の保存容器を含む流体格納容器10上のキャップ11と組み合わせて用いられてよい。この典型的な実施形態として、キャップライナー20及び金属クリンプキャップ21はバリア16及びキャップ11との組み合わせで用いられる。図4Aは医薬包装用ビンを含む流体格納容器10を示す。この実施形態において、キャップ11自体がバリアを含んでもよいし(すなわち、キャップ11がバリアである)(図4Cを参照)、又はキャップ11がバリア16をそのキャップ11に隣接して露出させる開口部を画定してもよい。図4Aはキャップが閉められた状態で凍結乾燥された固形状物を収容するビンを示す。図4Bはキャップが開けられた状態を示し、そして液体の所を凍結乾燥させる。
【0030】
本発明は合成での使用に関し、その合成は、特に限定されることはないが、反応化学、コンビナトリアルケミストリー、薬剤調合、生化学薬品製造及び診断応答を含む。図5Aは、複数の流体格納容器10を含む化学リアクターを示し、この実施形態においては、それらの化学リアクターはガラス反応容器である。この実施形態において、バリア16は、図5Bで示されるように、容器10を覆うように適切な形状で設計される。図6Aは蓋付き管を有するマイクロプレートを示し、マイクロプレートは蓋付き管の形態で複数の流体格納容器10を含む。この実施形態においては、そのような容器10が96個ある。この実施形態において、バリア16は図6Bで示されるが、統一されたキャップマットで設計されて全ての容器10にぴったりと適合する。すなわち、この実施形態において、バリア16は96個のウェルプレートキャップマットである。
【0031】
この熱可塑性フルオロエラストマーは分析の分野において特に有用である。分析は、特に限定されることはないが、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ヘッドスペース分析、イオンクロマトグラフィー、環境トレース分析、法医学的分析、標準調製及び貯蔵容器を含む。図7は加熱された注入口で用いられるバリア16を示し、スィープガス(12)中でサンプルに針注入(30)することを可能とする。そのスィープガスはガスクロマトグラフィーカラムの注入口(10)中にサンプルを運搬する。図8は、液体クロマトグラフユニットユニットの注入ポート部上に配置されるバリア16を有する液体クロマトグラフを示す。
【0032】
さらに、本発明の使用は、特に限定されることはないが、新規な薬剤を探査するための分子のハイスループットスクリーニング及びライブラリーに薬剤の化合物候補の保存を含む(化合物の管理)。
【0033】
特に限定されることはないが、隔膜、プレート、シート、止め具、プラグ、ポート、容器、バッグ、ポーチ、フィルム及び薄厚のフィルムコンポジット材料を含む様々な形態で、この熱可塑性フルオロエラストマーは生産され得る。
【0034】
特に限定されることはないが、本発明の実施は、完成物品若しくは容器、物品の一部分、又はただ単にサンプルと接触する表面だけとして熱可塑性フルオロエラストマーを使用をすることを含む。これらの選択から、最も好ましい実施形態は、熱可塑性フルオロエラストマーで完全に生産された物品である。特に限定されることはないが、本発明の物品の生産方法は、押出し成形、圧縮成形、射出成形、及び溶媒キャスティングを含む。
【実施例】
【0035】
実施例1
(サンプル生産)
熱可塑性フルオロエラストマーペレットを、10.1x10.1x0.127cm3の寸法を有する角ダイスに配置した。質量パーセントで含有量が65±5%であるペルフルオロ(メチルビニルエーテル)を用いて、米国特許US7,409,380Bl号で述べられているような方法でペレットを調製した。ダイスに加えられた材料の量は24グラムであった。ダイスとペレットとを、2ミルの厚みを有するKaptonシートで並べ、それぞれの厚みが1.5mmである2つのステンレス鋼の平面プレートの間に配置した。この一式を加熱したプラテンプレス機(VAC-Q-LAM)内に配置して次の手順にしたがって圧縮成形した。
1. 5分間で、900Fの温度で真空(〜21インチHg)状態にする。
2.真空状態を維持して、1250psigまでプレート圧を増加させ、60分かけて4830Fまで温度を上昇させる。
3.真空状態を維持して、そして、温度及びプレート圧を10分間維持する。
4.真空及びプレート圧を解放して900Fまで材料を冷却する。
【0036】
この手順によって、ダイスに適合した長さ及び幅の寸法を有して、公称1mmの厚みを有するフルオロエラストマーシートとなる。
【0037】
キャップのために適切である円形のダイスパンチを用いて、フルオロエラストマーシートストック品を切断して隔膜にして、それらの隔膜をキャップに配置した。例えば、Shimadzu製ビンで用いることを意図している隔膜の場合は、8.6mmの径を有するダイスパンチを用いてその隔膜を切断した。同様に、例えば、Fisher製ビンで用いることを意図している隔膜の場合は、0.345"の径を有するダイスパンチを用いてその隔膜を切断した。場合によっては、サンプルの径及び厚みを、ビデオ測定システム(Avant 400 Optical Gauging Products)及びマイクロメーター(Mitutoyo Absolute,ID-Cl12CE)の各々を用いて測定した。結果として得られた円形隔膜を、ガラスビンを取り囲むように設計されたプラスチック製キャップに手動で配置した。この実験で用いられたガラスビンは1.5mLの溶媒を含有するように設計されて、その製造業者には、Fisherbrand(Clear 10- 425 スクリュースレッドバイアル(ビン))及びShimadzu(Prominence, Part Number 228-45450-91)が含まれた。これらのビンのブランド品に含まれる隔膜はそれらのキャップから手動で取り除かれて熱可塑性フルオロエラストマーの隔膜を取り付けた。
【0038】
実施例2
(封印性試験)
実施例1で調製された隔膜を有するビンは、微量てんびん(Sartorius MC210P)を用いて測定記録された質量(すなわち、ガラスビン、キャップ及び隔膜を組み合わせたものの質量)を有した。その後、蓋を取り除き、トルエン(TOL)又はジクロロメタン(DCM)のいずれか一方の溶媒で〜1.5mlまで各々のガラスビンは満たされ、その後、蓋をした。その後、溶媒で満たされたビンの質量を迅速に測定し、それらのビンの質量を記録した。21日間複数回にわたって各々のビンの質量を再測し、そして、下記の式を用いて、溶媒損失の量を初期の溶媒質量の割合として計算した。
【0039】
【数1】

【0040】
この式中、M0は、溶媒を加えた直後のビン、キャップ、溶媒及び隔膜の初期の質量であり、Mt、はある特定時間における同じ一団の質量であり、そして、MVは溶媒を添加する前の同じ一団の質量である(すなわち、ビン、キャップ及び隔膜の質量)。結果を表1に示す。表1中、N=サンプルの数である。
【0041】
実施例3
(再封印性試験)
0.02"径の針を有するThermo Separation Products Spectrasystem ASlOOOのオートサンプラーを用いて、実施例2で得られたサンプルを5回穿刺した。その後、サンプルの質量を迅速に記録した。この実験で用いられたサンプルを、事前に密封されていることを検査して、溶媒損失が針の穿刺によることを保証した。
【0042】
その後、各々のサンプルの質量を記録し、そして、穿刺直後のサンプルの溶媒量に対する溶媒損失の量を、実施例2と同一の方法を用いて決定した。結果は表2に示され、表2中、N=サンプルの数である。
【0043】
実施例4
(抽出物試験)
実施例1で調製されたサンプルについて重量法を用いて抽出物についての分析をした。フルオロエラストマーの7つの隔膜の各々を、別個独立のShimadzu製ビン上に配置して、緩みがでないように張って0.5mLの溶媒を封印した。この実験で用いられた溶媒には、アセトニトリル、トルエン、メタノール、エタノール及びイソプロパノールを含む。その後、溶媒を隔膜に接触させて隔膜中の抽出物を溶媒中に拡散させるために、ビンを72時間反転させた。
【0044】
72時間後、ビンを直立にして公知の質量である43mm径の1つのアルミニウム秤量皿(VWR,Cat.#25433-052)に、同じ溶媒を含有する7つのビンの含有物を注いだ。その後、全ての溶媒を完全に蒸発させるまでアルミニウムパンを窒素流に曝した。一旦乾燥した後に、各々のパンの質量を再測した。この質量とパンの最初の質量との差を計算し、その後、7つの隔膜の質量に正規化した。質量パーセントとして報告されこの値は材料中の抽出物の量として利用された。結果は表3に示され、表3中、N=サンプルの数である。
【0045】
実施例5
(プラズマ処理)
実施例1で述べたような方法で調製されたフルオロエラストマーシートストック品を、ロールトゥロールウェブのコーティング方法(ENERCON INDUSTRIES Corp)を用いてプラズマ処理をした。2.5kWのパワーを有するプラズマ発生器を供給することによって高周波プラズマを作り出した。50l/minのヘリウム、150mL/minのアセチレン及び1l/minの二酸化炭素から成るプラズマガス処方物を用いてフィルムを処理した。ラインスピードを3m/minで一定に維持した。プラズマ処理を実行してフルオロ熱可塑性エラストマーの表面への接着を改良した。
【0046】
比較例1a
(サンプル生産)
PTFE-シリコーン隔膜(Cat.#03-391-14)及びガラスビン(Cat.#03-391-16)を、 Fisher Scientificから購入し、実施例1で述べられたような方法で組み立てた。
【0047】
比較例1b
(サンプル生産)
Shimadzu製のPTFE-シリコーン隔膜(Prominence, Part Number 228- 45450-91)を、実施例1で述べられたような方法で取り付けた。
【0048】
比較例2
(封印性試験)
隔膜の各々の比較タイプのサンプルを実施例2で述べたような方法で封印性試験を行った。結果を表1に記載する。
【0049】
比較例3
(再封印性試験)
隔膜の各々の比較タイプのサンプルを実施例3で述べたような方法で再封印性試験を行った。この実験で用いられたサンプルを、事前に密封されていることを検査して、溶媒損失が針の穿刺によることを保証した。結果を表2に記載する。
【0050】
比較例4
(抽出物試験)
隔膜の各々の比較タイプのサンプルを実施例4で述べたような方法で抽出物の試験を行った。PTFE-シリコーン隔膜の場合に対しては、隔膜を5回にわたって穿刺し、その後、溶媒をビンに投入した。このことは、このコンポジット材料の隔膜の両方の成分が溶媒に曝されていることを保証するために必要である。このようにして、隔膜が穿刺されない場合にはPTFE層のみであるとは対照的に抽出を両層で起こさせることを可能とする。この実験に含まれる他の隔膜タイプはコンポジット材料ではない。それゆえに、隔膜を穿刺する必要はない。この実験の結果を表3に記載する。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
表1から明らかなように、本発明の実施例1は、異なるタイプのビンの両方を用いて、トルエン及びジクロロメタンの両方について0.0質量%の溶媒損失を有する。このことは、比較例について報告される12.3%及び0.3%の損失よりも非常に良好である。このように、本発明のバリアは比較例よりも非常に優れた初期封印性を提供する。
【0055】
表2を参照すると、本発明の実施例1は、複数回の穿刺後最大で0.6質量%の溶媒損失を示した。このことは、比較例に対して報告される35%、51.1%及び38.2%の損失と比較されるべきである。このように、本発明は比較例よりも穿刺後の非常に優れた再封印性を提供する。
【0056】
最後に表3を参照すると、本発明の実施例1は、比較例の抽出物が最大で0.97質量%であるのに対して最大でも0.04質量%の抽出物を示すだけである。このように、本発明のバリアは非常に低い抽出物を有して驚くべきことに純粋な隔膜のままである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部容積部を画定する流体格納容器を含む装置であって、該流体格納容器が該内部容積部に接続するためのアクセスポート部と、該アクセスポート部上にあって該アクセスポート部を封印するキャップとを有し、該キャップがフルオロ熱可塑性エラストマーを含有する穿刺可能なバリアを含む、装置。
【請求項2】
前記フルオロ熱可塑性エラストマーがペルフルオロ熱可塑性エラストマーを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記フルオロ熱可塑性エラストマーがテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマーを含み、該コポリマーが約40から80質量パーセントのペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)を含み、相補的に60から20質量パーセントのテトラフルオロエチレンを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)がペルフルオロ(メチルビニルエーテル)である、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記バリアが、前記フルオロ熱可塑性エラストマー層を含み、ポリテトラフルオロエチレン層を更に含むコンポジット材料である、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記ポリテトラフルオロエチレンが延伸ポリテトラフルオロエチレンである、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記バリアが再封印可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記バリアがクリーンである、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記バリアが熱封印(ヒートシール)可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記バリアが再利用可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記流体格納容器がクロマトグラフィーのサンプルビンである、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記流体格納容器が反応化学のビンである、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記流体格納容器が生物学的なサンプルビンである、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記流体格納容器が超高純度化学薬品の保存ビン又はチューブである、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記流体格納容器が薬ビンである、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
内部容積部を画定する流体格納容器を含む装置であって、該流体格納容器が該内部容積部に接続するためのアクセスポート部と、該アクセスポート部上にあって該アクセスポート部を封印するキャップとを有し、該キャップがテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマーを含有する穿刺可能なバリアを含み、該コポリマーが約40から80質量パーセントのペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)を含み、相補的に60から20質量パーセントのテトラフルオロエチレンを含む、装置。
【請求項17】
内部容積部を画定する流体処理容器を含む装置であって、該流体処理容器が該内部容積部に接続するためのアクセスポート部と、該アクセスポート部上にあって該アクセスポート部を封印するキャップとを有し、該キャップがテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマーを含有する穿刺可能なバリアを含み、該コポリマーが約40から80質量パーセントのペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)を含み、相補的に60から20質量パーセントのテトラフルオロエチレンを含む、装置。
【請求項18】
流体格納容器のためのキャップであって、該キャップが該流体格納容器と相互に嵌合可能である本体部を含み、該本体部が開口部と、該開口部に近接する穿刺可能であって再封印可能であるバリアとを画定し、該バリアがフルオロ熱可塑性エラストマーを含む、キャップ。
【請求項19】
フルオロ熱可塑性エラストマーを含むバリアでアクセスポート部を覆う工程を含む、該アクセスポート部を有する流体格納容器を封印する方法。フルオロ熱可塑性エラストマーの容器を形成することを含む流体格納容器を作製する方法を提供する。
【請求項20】
フルオロ熱可塑性エラストマーの容器を形成することを含む流体格納容器を生産する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−510881(P2011−510881A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545864(P2010−545864)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/000417
【国際公開番号】WO2009/099525
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】