説明

担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法

【課題】水難溶性物質の添加で、培養中の酸素不足を招くことなく多収穫となり、しかも、生産された菌糸体成分の各種効能が一段と高められる担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法を提供する。
【解決手段】担子菌や子嚢菌の生育に必要な栄養成分を調合した液体培地に、それぞれ焙煎したハトムギ粉末と大豆粉末とを混入し、且つ、菌株として大豆麹菌と菌糸体を添加し、通気攪拌培養を行う。また、熱水に、それぞれ焙煎したハトムギ粉末と大豆粉末とを加える他、黒砂糖を加えて攪拌して混合し、60°C以下40°C以上に冷却したときに菌株として大豆麹菌を添加し、さらに、40°C以下に冷却した後で菌糸体を添加し、通気攪拌培養を行う。培養後に固体菌糸体を採取して残った液を次の培養に、継代培養の液体培地として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば椎茸、松茸、アガリスク茸、ガバノアナタケや、冬虫夏草、猪苓舞茸等を培養する担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法に関する。
【背景技術】
【0002】
担子菌・子嚢菌類の菌糸体は、栄養的に優れた成分を含むばかりか、これが腸管に働きかけて優れた免疫賦活作用を発揮するために、その抽出液が医薬品やサプリメントとして使用されている。成分について担子菌でいうならば、担子菌は、食材ともなる子実体を将来形成するために栄養を貯蔵していることから、様々な有効成分が子実体と比べて例えば4倍というように多量に含んでいる。その特異なものと挙げると、例えば蛋白質をアミノ酸へ、澱粉をぶどう糖へ、脂肪を脂肪酸とグリセリンへ、それぞれ消化吸収可能に低分子化する酵素群(酵素自体は高分子)が多量に含まれていること、また、そのままで腸管から吸収される低分子の遊離アミノ酸を多量に含むこと等である。さらに注目されているのが、免疫力が強化されるβ−グルカン等の免疫力賦活物質である。
【0003】
このことについては、人間の腸管は、生物の進化の初期、例えば水中や土中での下等生物の時代にはその腸管が細菌の進入に最もさらされる箇所であったことから(最初は口と直結していた)、その進入があると防衛策として腸管が免疫系に指令するように進化の過程で既に仕組まれていたが、その仕組みがさらに高等に進化した人間にも残っており、菌糸体の成分の摂取があると、腸管では細菌の進入と誤認し、腸管からの指令で免疫系が賦活されるものと考えられており、実際に抗ガンや抗ウイルスに顕著な効力が認められている。菌糸体のこのような作用を有する成分は多くが高分子であるため、腸管からは吸収されないが、菌糸体の免疫力賦活物質も吸収されるならばさらにその効果が高まると期待され低分子化の研究がなされている。
【0004】
菌糸体培養法は、固体培養法と、液体培養法とに大別されるが、純粋培養条件が保たれやすいこと、培養期間が短いこと、培養期間中に温度、二酸化炭素濃度、水分離に関して管理が容易であり、労働力の節約が果たされ得る等の利点を備えていることから、専ら液体培養法が行われている。そして、液体培地面には、通常、酵母エキス、ペプトン、ペプシン、カザミン酸、肉水並びに肉エキス(肉汁)等が窒素源として用いられ、加えて、炭素源としての糖質(例えば、グリコース、澱粉、果糖)及び無機塩(例えば、リン酸塩、マグネシウム塩)等の水性の物質が含有される。
【0005】
しかし、液体培養法では、菌糸体がペレット状(球状)又はパルプ状の塊になって生育し、そうなると、ペレット状内部に酸素が供給されなく死滅を招き目的とする有用物質の収穫が困難となり、或いは、培地の表面に著しい発泡が生じて培養効率が低下することから、これを防止するために、さらに、培地には水難溶性物質が添加される。従来、この水難溶性物質には、粘土鉱物、炭素質(多孔性又は非孔性微晶質炭素、黒鉛)、合成樹脂(各種イオン交換樹脂、ポリプロピレン又はナイロン)、炭素−シリカ−合成樹脂複合物質(合成樹脂とタルク、アルミタとゼオライト、又は炭素とシリカの複合系物質)又は動物由来物質(貝殻、骨又は絹)の粉が使用されていた。
【特許文献1】特開昭60−164479号公報
【特許文献2】特開昭63−173583号公報
【特許文献3】特開平4−66033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法によれば、水難溶性物質としての粘土鉱物等の粉を培地に添加することによって、菌糸体が塊状に生育する不都合を防止できるという目的は達成しうるが、菌糸体がそれによって生育を促進され収量が増えるということがなく、特に、松茸の場合であると、菌糸の成長が極めて遅いことが人工栽培の研究の妨げになっている。また、効能については、添加物が菌糸体の成分に影響しないだけでなく、成分の低分子化にも影響しないために(有効成分はすみやかに身体に吸収されることが例えば身体に負担がないだけでも有効である)、殊に抗ガン、抗ウイルスと関係する腸管の免疫賦活作用の向上を一段と高めるという期待に応えられなかった。このような問題を解決すべく、この発明者等におい、水難溶性物質としての性質をもっているものとして培地に添加する種類について鋭意研究してきた。
【0007】
すなわち、この発明は、水難溶性物質の添加で、培養中の酸素不足を招くことなく多収穫となり、しかも、生産された菌糸体成分の各種効能が一段と高められる担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法を提供することを課題とした。なお、ここに菌糸体成分とは、培養が終わった液から不純物を濾過し、濾過液の沈殿や分離によるペースト状物、または、それを乾燥した物をいうものとする。これには多様な成分が含まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、第1発明は、担子菌や子嚢菌の生育に必要な栄養成分を調合した液体培地に、それぞれ焙煎したハトムギ粉末と大豆粉末とを混入し、且つ、菌株として大豆麹菌と菌糸体を添加し、通気攪拌培養を行うことを特徴とする担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法を構成した。
【0009】
また、第2発明は、熱水に、それぞれ焙煎したハトムギ粉末と大豆粉末とを加える他、黒砂糖を加えて攪拌して混合し、60°C以下40°C以上に冷却したときに菌株として大豆麹菌を添加し、さらに、40°C以下に冷却した後で菌糸体を添加し、通気攪拌培養を行うことを特徴とする担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法を構成した。
【0010】
さらに、第3発明は、熱水に、それぞれ焙煎したハトムギ粉末と大豆粉末とを加える他、黒砂糖を加えて攪拌して混合し、60°C以下40°C以上に冷却したときに菌株として大豆麹菌を添加し、さらに、40°C以下に冷却した後で菌糸体を添加し、通気攪拌培養を行い、培養後に固体菌糸体を採取して残った液を次の培養に、継代培養の液体培地として使用することを特徴とする担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法を構成した。
【0011】
(作用)
上記の各発明において、研究段階においてハトムギに着目した。それは、ハトムギは、古来から抗腫瘍効果が高いものとして利用されてきたからである。したがって、特にイボ取りの特効薬として用いられ、皮膚を美しくする健康食品としても用いられてきた。さらに、血圧降下、利尿、排膿、消炎、沈痛、滋養薬としても効能があり、浮腫、皮膚の荒れ、身体の疼痛、リウマチ、神経痛などにも応用される。
【0012】
ハトムギとは、イネ科に属するハトムギの種子であって、皮を剥いたものを一般にヨクイニンといい、いずれであっても良いが、皮付きであると良い薬理効果が得られることが研究において確かめられた。その理由としては、抗ウイルス活性を有するリグニンが皮に多いこと、低分子成分が多いこと等が挙げられる。また、ハトムギの粉末は大豆粉末とともに固形物として水難溶性物質としての働きがあるが、両方とも麹菌の働きにより発酵すると水溶性となり、培地の有効成分を構成する。この際に、重合体や高分子のものが低分子化する。菌糸体は、それを栄養として増殖するが、大豆やハトムギ等の成分を低分子化する酵素群をもっている。
【0013】
請求項2および3の発明では、自然な培地が発酵によって次第に形成される。これは純粋自然物であるので、最終的に残った液の再使用で種菌を保存する継代使用が可能となる。
【0014】
各発明において、従来の菌糸体培養法に比して、得られた製品の薬理効果が極めて高い結果を得た。その理由については、前記したハトムギ由来の効能の他に、大豆麹菌又はそれによって大豆やハトムギの分解で発生する酵素群、さらに菌糸体の酵素群が各材料に総合的に働いて分解し、菌糸体の成分の低分子化が促進されるからと考えられる。また、焙煎をしたときには大豆やハトムギが吸収されやすく低分子化が促進される。
【0015】
なお、上記の温度範囲について、60°C以下40°Cは、発酵促進温度であると同時に酵素活性の温度でもある。また、40°C以下は、菌糸体が活動しやすい常温程度の温度を示す。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、この発明によれば、ハトムギの粉末の混入により、その水難溶性物質としての作用から、培養中の酸素不足を招くことなく多収穫となり、しかも、最終的に得られた菌糸体の成分は、ハトムギの抗腫瘍成分等ばかりか、菌糸体の酵素群により分解されたハトムギ由来の低分子有効成分を含み、さらに、その他にも、菌糸体成分の低分子化が広範に図られていることから、各種成分の腸管での吸収が良く、特に免疫活性賦活作用としての効能が格段に良くなるという優れた効果がある。
【0017】
特に、請求項2および3によれば、最初から液体培地を用いなく、発酵により培地有効成分が醸成され次第に液体培地が生成されるので、肥料や化学薬品を使用しない自然菌糸体の生産に適し、また、請求項3によれば、培養の最後に残った液を順次液体培地として使用することにより、同一菌糸体の保存を伴う継代使用を有効になし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の実施においては、培養タンクに予め調合した液体培地を充填し(請求項1)又は発酵により液体培地を醸成し(請求項2,3)、適温を保ちながら通気攪拌培養を行う。培養期間は、培養条件にもよるが2カ月から7ヵ月程度である。なお、菌糸体の担子菌・子嚢菌類としての種類については特に限定するものではなく、適宜選択して使用される。
【0019】
培養タンク1は、プラスチック、ガラス、木等からなる普通の容器を使用できるが、遠赤外線の効果を効率的に得るためにはセラミック製の容器を使用する。また、普通の容器であっても、それにセラミック玉を投入しておくことにより遠赤外線効果を得ることもできる。なお、遠赤外線は、液体培地および菌糸体に活性を付与し、生命活動を活発化するほか、低分子化を促進する。
【0020】
液体培地を構成する成分として、最も食効(効能)をもっているものは「皮付きハトムギ」である。これを焙煎して微粉化して使用するので、発酵および低分子化が促進される。この皮部分が重要であって、菌糸体の酵素群で時間を掛けて低分子化する。液体培地や熱水に投入するのは、ハトムギ単独でも良いが、糖質と蛋白質とのバランスから考えて、酵素群の育成には大豆の投入は実用的に肝要である。
【0021】
菌糸体の種類は上記のように限定はしないが、ちなみに、ガバノアナタケ、メシマコブなど硬質系の茸が、抗腫瘍や抗ウイルスの点で現在注目されている。主成分は「溶性のリグニン様物質」と考えられている。ハトムギの皮に前記したように有用なリグニンが含まれていたり、これらの菌糸体であると、相乗的に抗腫瘍、抗ウイルス作用を発揮する。以下に、具体的に代表的な実施例を説明する。
【実施例1】
【0022】
(1)液体培地の調合(製造)
可溶性澱粉として馬鈴薯澱粉を高温の水に攪拌しながら溶かして濃度15重量%の水溶液を作り、この水溶液が冷えたところにさらに調整液体肥料を3重量%添加し混入した。この調整液体肥料は、市販の液体肥料に尿素を溶解させて窒素分を8重量%に補充したものを使用した。
【0023】
(2)培養容器
遠赤外線が発生する円筒形のセラミック容器を使用し、その底部に空気を噴射するノズルを円周方向に向けて設置することにより通気攪拌培養を行い得るように構成した。すなわち、これによると、ノズルから空気を液体培地に噴射すると、それに空気が供給されると同時に、液体培地を渦巻き方向に流動させ攪拌する。
(3)培養
前記のように調合した液体培地2000ccを上記の培養容器に投入し、それぞれ焙煎した大豆粉末200gとハトムギ粉末200gの他に、大豆麹20gをそれぞれ加え、さらに椎茸菌を接種し、常温(20°C〜25°C程度)で通気攪拌培養を行った。培養には約6カ月掛かった。
(4)収穫
培養が終了したら、その培養液をガーゼで濾過し、濾過された液体から沈殿物を採取し、それを凍結乾燥30°C〜40°Cにより乾燥した。この乾燥固形物は、菌糸体の他に別の成分が混入している言わば複合菌糸体であるが、約420gの予期しない多収穫であった。この要因は、セラミック容器を使用し生物活性が促進されたからと考えられる。
(5)用途
上記のように収穫した乾燥固形物は、β−グルカン等の有効成分が多量に含まれており、そのままペースト状で摂取しても良いが、パン、アイスクリームに混入し、或いは漬物の床に混入することによっても健康効果を享受できる。また、乾燥固形物から有効成分を抽出してエキスや錠剤として提供する。
【実施例2】
【0024】
製品の品質に特にこだわったもので、それには液体肥料を使用しないこと、まして科学薬品は使用しないこととした。液体肥料を使用しないことと関連して、この実施例では、液体培地の調合という工程が特にないことにも特徴がある。
【0025】
熱水4ℓに、焙煎した大豆粉末(きな粉)を1kg、焙煎したハトムギ粉末を1kg、黒砂糖を400g、それぞれ攪拌しながら加える。50°C以下に冷却後、大豆麹50gを加え、30°C以下になったところで湿性アガリスク培養物液(アガリスク菌糸体液)100gを加える。常温(20°C〜25°C程度)になると、実施例1におけると同じセラミックの培養容器に移して以後その容器で攪拌通気培養を行う。
【0026】
大豆粉末とハトムギ粉末、黒砂糖は、大豆麹の接種により次第に自然発酵し、発酵熱を帯びるので、冬季であっても培養温度の維持のための加温の必要性は少ない。上記の常温において自然発酵を伴い2,3ヵ月すると培地が膨らんできて粘性を帯びるようになる。味にも変化が起きてきて、「甘み」から「旨み」に変化し、色調も黒色から黒褐色へ変化する。希釈してみると、粒子は黒色と褐色が混合しているが、褐色の方が次第に増えてきている。したがって、菌糸体は、上記材料の発酵成分を栄養として酵母様分子生物として増えていることが分かる。そして、これが他の成分を低分子化するのに貢献する。
【0027】
この実施例の場合も、実施例1と同様に、培養が終了した培養液を濾過し、濾過液の沈殿物を製品として採取した。まず、培養を終了した(沈殿物採取前の)培養液は、全体が可食性の食品とも考えられるので、他の目的に処理することも可能であり、生菌のまま処理すると、応用範囲も想像以上に拡大する。また、生菌の保存については、全体を冷凍保存することもできる他、乾燥して保存できる。また、菌糸体を採取した残り液を継続培養液としそのまま利用し、また、凍結保存して使用することもできる。
【実施例3】
【0028】
実施例2により培養された培養液を濾過して沈殿物を採取した残りの液を継続培養液に使用した。これには、培養中に多様な酵素群の作用に菌糸体の生育に必要な栄養成分が生成されているので、液体肥料の代わりとなり、これを液体培地として使用する。
この液体培地2000ccを実施例1の(2)と同じように、上記のセラミック製の培養容器に投入し、それぞれ焙煎した大豆粉末200gとハトムギ粉末200gの他に、大豆麹20gをそれぞれ加え、常温(20°C〜25°C程度)で通気攪拌培養を行った。なお、この場合には、菌糸体の接種はしなかった。また、培養には約5カ月掛かった。
また、実施例1の(4)と同様に収穫したが、収量が450gとさらに増量となった。そして、製品の採取後に最後に残った液を次の液体培地に使用した。そしてこれを繰り返して継代を行うことができた。
【実施例4】
【0029】
生物寄生をする菌根菌である松茸の菌糸体培養法についてである。この場合は、実施例2と同様に実施して、最後に得られた残りの液体を培養液として、実施例3と同様に培養を行うについて、松茸の菌子の接種を行ったところ、アガリスクの菌糸(原菌糸)を核として松茸の菌糸体が正常に育成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担子菌や子嚢菌の生育に必要な栄養成分を調合した液体培地に、それぞれ焙煎したハトムギ粉末と大豆粉末とを混入し、且つ、菌株として大豆麹菌と菌糸体を添加し、通気攪拌培養を行うことを特徴とする担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法。
【請求項2】
熱水に、それぞれ焙煎したハトムギ粉末と大豆粉末とを加える他、黒砂糖を加えて攪拌して混合し、60°C以下40°C以上に冷却したときに菌株として大豆麹菌を添加し、さらに、40°C以下に冷却した後で菌糸体を添加し、通気攪拌培養を行うことを特徴とする担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法。
【請求項3】
熱水に、それぞれ焙煎したハトムギ粉末と大豆粉末とを加える他、黒砂糖を加えて攪拌して混合し、60°C以下40°C以上に冷却したときに菌株として大豆麹菌を添加し、さらに、40°C以下に冷却した後で菌糸体を添加し、通気攪拌培養を行い、培養後に固体菌糸体を採取して残った液を次の培養に、継代培養の液体培地として使用することを特徴とする担子菌・子嚢菌類の菌糸体培養法。