説明

拍動流発生制御装置及び拍動流発生制御装置の調整方法

【課題】拍動流発生制御装置における拍動流発生操作をストローク動作によりおこない、最大ストロークで反復可能に調整して拍動効果を向上する。
【解決手段】拍動流発生制御装置Zが、送血管路6中に設けた弾性袋体からなるピローチューブ60(血液貯留袋)と、ピローチューブを押圧・開放するためのソレノイド7(ストローク作動手段)と、該ソレノイド7に接続されピローチューブを押圧・開放する押圧片71と、押圧片に対向して離隔設置され、ピローチューブを挟装して背面から支える当て板610と、押圧片と当て板との距離を可変調整する距離調整手段Dとを有する。そして、ストローク始動時における押圧片と当て板との距離を、押圧片がピローチューブを一定の距離以上押し込み、かつ、ピローチューブの弾性復元力により押し戻され始動位置まで後退復帰する往復動のストローク動作が、最大ストロークで反復可能な稼働範囲に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に外部接続され、脱血管路と送血管路からなる血液循環路と、患者と人工肺との間で血液を循環させるための遠心ポンプとを備え、患者の心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動に同期した拍動流を発生させる拍動型補助循環システムに用いられる拍動流発生制御装置及びこの装置の調整方法に関する。
【0002】
ここで、拍動型補助循環システムは、拍動流発生制御装置を包含する装置系を指称するものとする。
【背景技術】
【0003】
現在、心機能低下に対する治療方法は、その疾患の重症度により様々である。軽症においては、患者の生活指導や、薬剤療法が行われ、重度になるにつれて大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的心肺補助(以下、PCPS)、補助人工心臓などの高度な治療機器が適用されている。
【0004】
ここでは、急性心筋梗塞に伴う心原性ショックや、重度の急性心筋炎などに起因する心機能低下に対して補助循環(PCPSに同じ)は第一選択として数多く使用されている。
【0005】
例えば、種々の原因により心機能低下に至った患者に対して生命維持と心機能回復を目的とした補助循環が施行される場合、その治療期間は患者の状態ならびに治療効果によって決定されるが、一般に心臓手術で使用される人工心肺装置による体外循環(数時間)に比べると長期間に亘る(数日から数週間)。それ故にローラーポンプ方式の人工心肺装置による送血は血球破壊を引き起こすため不向きである。これらの理由から現在の補助循環治療は送血に遠心ポンプを用いるのが一般的である。しかし、患者の心機能が著しく低下している場合には定常流を発生させる遠心ポンプ装置では、全身に拍動流を供給することができないという問題がある(後述)。この状態においては全身への血流は維持されているが、個々の臓器に対する保護作用は不十分な場合が多く、とりわけ心臓においては拡張期冠血流増大(diastolic augmentation) 機能による効果は期待できないからである。
【0006】
叙上のとおり、一般的には、遠心ポンプによる送血は無拍動流となる。これに対し、生体は生理的には自己心により拍動流を全身に供給している。その効果は、全身の循環維持のみならず各臓器の保護にとって大変重要な機能である。特に心臓においては、自己の拍動により冠状動脈の血流量を維持する拡張期冠血流増大機能を有しているため拍動流の維持は特に必要となる。
【0007】
しかしながら、現状のPCPSシステムでは自己心の機能が低下した状態での適応である事と、遠心ポンプが拍動流を発生できない事により、定常流での使用を余儀なくされている場合が多い。
【0008】
さらに、定常流による持続灌流は回復過程にある心臓の後負荷を増大させる危険を伴い、その結果心機能回復を目的とした治療において逆効果となる。拍動流については従来、心臓手術の補助手段として用いられる人工心肺装置において、ローラーポンプの回転により発生させる物や、大動脈内バルーンパンピング(IABP)装置に見られる患者の血管内に留置した風船のガスを出し入れすることにより発生させるものがあるが、いずれも適応症状、侵襲、コスト面などに問題があり十分ではない。
【0009】
こうした従来技術の問題点は、心機能低下の状態に陥った患者に対して行われる補助循環治療において、人工心肺装置のように患者の心停止状態に適応されるものではなく、自己心が拍動している状態で使用するため患者の心臓のリズムに同期させた拍動流を供給しなければならないという点にある。
【0010】
ここでは、同期のタイミングについても従来の除細動装置のように患者の心電R波そのものに同期して駆動するものではなく、心電R波を検知し、所定の時間幅で心電T波の初期に駆動するタイミングを調節できる機能が要請される。
【0011】
こうしたなかで、本出願人は、先に拍動型補助循環システム、拍動流発生制御装置及び拍動流発生制御方法を提案してきた(特許文献1を参照)。
【0012】
その目的効果を要約すると、心機能低下の状態に陥った患者に対して持続的に行われる補助循環治療において、生体に拍動流を提供することにより拡張期冠血流増大機能を維持し冠状動脈の血流を増大させ、かつまた、心臓に後負荷を与えることなく心機能の回復を目的とした治療効果を上昇させることを実現可能とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−264512号公報
【0014】
しかしながら、上述した先行技術は拍動のタイミングを精妙にマッチさせることができるものの、脈圧が小さく留まる場合があり、治療効果の向上を期待するには十分とはいえないという点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、患者の拍動に同期して人工的血液循環回路の外表面を断続的に押圧・開放することにより拍動流を発生させる(患者に供給する)際に、十分な脈圧を確保できるようにすることにある。
【0016】
さらに望ましくは、施療中の管路内圧(回路内圧に同じ)は、主に送血流量によって規定されるが、治療効果(拍動効果を含む)は患者の末梢血管抵抗や心機能、動脈硬化の有無などによっても影響を受ける。個々の患者に対し、こうした施療条件の変動を調整して拍動効果を最大限に導き出すこと、および血球破壊などの患者への侵襲を最小限に止めることが好ましい。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、上記課題を解消し、拍動型補助循環システムに用いられる拍動流発生制御装置において、拍動流発生操作区間に血液貯留袋を介設し、かつ、その押圧・開放操作に係る脈圧の十分な大きさを安定的に確保できる拍動流発生制御装置及びこの装置の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1記載の発明は、患者に外部接続され、脱血管路と送血管路、人工肺及び遠心ポンプとからなる血液循環路を備え、患者の心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動に同期した拍動流を発生させる拍動型補助循環システムに用いられる、拍動流発生制御装置において、
前記送血管路中に設けた弾性を有する袋体にてなる血液貯留袋と、前記血液貯留袋を押圧・開放するためのストローク作動手段と、ストローク作動手段に接続され前記血液貯留袋を押圧・開放する押圧片と、
前記押圧片に対向して離隔設置され、前記血液貯留袋を挟装し前記血液貯留袋を背面から支える当て板と、前記押圧片が前記ストローク作動手段により最大前進した場合の前記押圧片と前記当て板との距離を可変に調整する距離調整手段と、
を有してなることを特徴とする拍動流発生制御装置である。
【0019】
請求項2記載の発明は、ストローク作動手段が往動を押圧駆動とし復動を駆動解除とすることを特徴とする請求項1記載の拍動流発生制御装置である。
【0020】
請求項3記載の発明は、ストローク作動手段がソレノイドであることを特徴とする請求項2記載の拍動流発生制御装置である。
【0021】
請求項4記載の発明は、距離調整手段が、台座となる基台と、ストローク作動手段を保持するためのストローク作動手段を支持するストローク作動手段支持部材と、前記血液貯留袋を挟装し前記血液貯留袋を背面から支える当て板を支持する当て板支持部材とが、少なくとも一の支持部材において、支持部材間の距離を離接方向に可動配置するための進退調節部材を有する取り付け部材を介して、前記基台に固定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の拍動流発生制御装置である。
【0022】
請求項5記載の発明は、患者に外部接続され、脱血管路と送血管路、人工肺及び遠心ポンプとからなる血液循環路を備え、患者の心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動に同期した拍動流を発生させる拍動型補助循環システムに用いられ、
前記送血管路中に設けた弾性を有する袋体にてなる血液貯留袋と、
前記血液貯留袋を押圧・開放するために往動を押圧駆動とし復動を駆動解除とするストローク作動手段と、該ストローク作動手段に接続され前記血液貯留袋に接して押圧・開放する押圧片と、前記押圧片に対向して離隔設置され、前記血液貯留袋を挟装し前記血液貯留袋を背面から支える当て板と、前記押圧片が前記ストローク作動手段により最大前進した場合の前記押圧片と前記当て板との距離を可変に調整する距離調整手段とを有してなる拍動流発生制御装置における前記押圧片と前記当て板との距離の調整方法であって、
ストローク作動手段の押圧方向のストローク始動時における押圧片と当て板との距離を、押圧片が血液貯留袋を一定の距離以上押し込み、かつ、血液貯留袋の弾性復元力により押し戻され始動位置まで後退復帰する往復動のストローク動作が、最大ストロークで反復可能な稼働範囲に設定することを特徴とする拍動流発生制御装置の調整方法である。
【0023】
課題を解決するために本発明は、患者に外部接続され、脱血管路と送血管路、人工肺及び遠心ポンプとからなる血液循環路を備え、患者の心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動に同期した拍動流を発生させる拍動型補助循環システムに用いられる、拍動流発生制御装置において、
患者の心電波形に同期して拍動毎に毎回一定量の拍動血液を、患者の体内に送出することにより、患者体内の流体抵抗等により生じる適当な脈圧を確保することを特徴とする拍動流発生制御装置である。
【0024】
したがって本発明は、患者に外部接続され、脱血管路と送血管路、人工肺及び遠心ポンプとからなる血液循環路を備え、患者の心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動に同期した拍動流を発生させる拍動型補助循環システムに用いられる、拍動流発生制御装置において、前記送血管路中に設けた弾性を有する袋体にてなる血液貯留袋と、前記血液貯留袋を押圧・開放するためのストローク作動手段と、該ストローク作動手段に接続され前記血液貯留袋を押圧・開放する押圧片と、
前記押圧片に対向して離隔設置され、前記血液貯留袋を挟装し前記血液貯留袋を背面から支える当て板と、前記押圧片が前記ストローク作動手段により最大前進した場合の前記押圧片と前記当て板との距離を可変に調整する距離調整手段と
を有してなることを特徴とするものである。
【0025】
ここで、ストローク作動手段は往動を押圧駆動とし復動を駆動解除とするものが好ましい。
【0026】
また、復動を駆動解除とするストローク作動手段としてはソレノイドが好ましい。
【0027】
さらに、距離調整手段は、台座となる基台と、ストローク作動手段を保持するためのストローク作動手段を支持するストローク作動手段支持部材と、血液貯留袋を挟装し該血液貯留袋を背面から支える当て板を支持する当て板支持部材とが、少なくとも一の支持部材において、支持部材間の距離を離接方向に可動配置するための進退調節部材を有する取り付け部材を介して、前記基台に固定される構成態様とする場合がある。
【0028】
一方、上記拍動流発生制御装置における押圧片と当て板との距離の調整方法であって、ストローク作動手段の押圧方向のストローク始動時における押圧片と当て板との距離を、押圧片が血液貯留袋を一定の距離以上押し込み、かつ、血液貯留袋の弾性復元力により押し戻され始動位置まで後退復帰する往復動のストローク動作が、最大ストロークで反復可能な稼働範囲に設定することを特徴とするものである。
【0029】
以下、発明特定事項に係る定義及び技術的意義を説明しておく。
【0030】
弾性を有する袋体にてなる血液貯留袋とは、管路の一部に介され、外部からの押圧力を受けて凹み、押圧力が解除されると凹む前の形状に復帰する弾性変形を呈する中空体をいうもの(至適には後述のピローチューブ)である。
【0031】
弾性とは、ストローク作動手段に起因する押圧にて一定の距離押し込まれ凹み、かつ押圧が無くなった時は自力で元の押圧されて凹む前の形状に復帰することを長期繰り返せる程度の弾力性をいう。
【0032】
本発明に関し、弾性が弱すぎると戻らず、遠心ポンプから送出される血液が貯留袋にたまってくることにより膨らむにせよ、元の形状に戻らないと次のストローク作動手段に起因する押圧にて、押圧片が袋に当たる位置が異なり、同一の距離へ込むことができなくなるため、送液量が一定でなくなる。
【0033】
一方、弾性が強すぎると 急速に膨張するため内部が負圧になりキャビテーション作用により血球が破壊しやすい。
【0034】
このため、軟質塩化ビニル製のピローチューブは袋体なので、管と異なり、ストローク作動手段による押圧動作で袋が凹む→多量の血液を送出できる→送出時に患者への送出管路の圧力が高くなるという要請に応えることができる。
【0035】
ストローク作動手段とは、プランジャーを往復動させる機器的手段をいう。ストローク動作は、例えばピストンのような並進運動である。
【0036】
本発明の装置構成に関し、好適にはソレノイド(電磁弁に同じ)であるが、回転運動を並進運動にカムやリンク機構にて転換するものであってもよい。
【0037】
本発明の調整方法に関し、ストローク作動手段の前進時の押圧力、押圧速度及びストローク距離については、ストローク押圧力が小さいと血液貯留袋の圧力に打ち勝って袋を凹ませることができなく、ストローク距離が大きくないと貯留袋を押し込む際の押し込み長さがとれない、及び袋の凹みが不足するため十分な送出量が確保されず、送出時の圧力が上がらない等の点を考慮して適正範囲を設定することになる。本発明に関するストローク距離は数mm〜数cmであることが好ましい。
【0038】
また、後退時の速度が速すぎると、血液貯留袋内に負圧(又は急激な減圧)が生じ、血球破壊を誘引するおそれがあるので、後退時のストローク動作(復動)は、ストローク作動手段(ソレノイド)の駆動解除された状態で、袋体(血液貯留袋)の弾性復元力により押し戻されるにまかせるのが好ましい。
【0039】
したがって、ストローク作動手段は往動を押圧駆動とし復動を駆動解除とするものが好ましい。
【0040】
ストローク動作は患者の心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動に同期して行われる。
【0041】
往動を押圧駆動とし復動を駆動解除とするとは、ストローク作動手段の動作において、往動時(押圧動作)はストローク作動手段の本来有する駆動力において動作をさせ、復動は積極的な駆動はさせないことをいう。
【0042】
例えば後述のソレノイドにおいては、往動は血液貯留袋を押圧するための機器的駆動(スイッチオン)によるストローク動作させ、すなわちソレノイドの吸引作用によるプッシュ型のバルブ動作の基本機能をいうものであり、復動はストロークの復帰動作を積極的には動作させない状態とする、すなわちソレノイドの駆動解除(スイッチオフ)をいう。
【0043】
また、復動を駆動解除とするストローク作動手段としてはソレノイドが好ましい。ソレノイドとは、電磁力によってコイル中を可動鉄芯(プランジャーに同じ)が直進駆動するアクチュエータである。
【0044】
復動を駆動解除とするストローク作動手段としてはソレノイドには、例えばラッチ機構(永久磁石を組み込んだ動作保持機能)を有するプッシュ型のソレノイドも用いることができる。この場合、押圧駆動により血液貯留袋を凹ませ、駆動解除により血液貯留袋の弾性復元力(管路内圧を含む)にまかせ、ラッチングに打ち勝ってプランジャー(に基端を固定した弁体)を押し戻すようにセッティングされる。したがって、復動行程のストローク動作では、ラッチが効いている間はプランジャーは弁体の作用端(詳しくは後述の押圧片)が血液貯留袋の被作用面に当接した状態のまま後退して(押し戻されて)ゆく。前記した血球破壊の発生リスクを回避するためである。
【0045】
押圧片とは、プランジャーに基端を固定した弁体の先端に設けた作用片であって、血液貯留袋に面圧を加えて凹ませるためのものである。血液貯留袋を傷つけずストローク作動手段からの押圧力を効果的に血液貯留袋に付与するために押圧は平面状で一定の大きさを有するものが好ましい。押圧片は血液貯留袋の中央部に押し当てられるのが有効に貯留袋を凹ます上で好ましい。
【0046】
当て板とは、管路(血液貯留袋)を押圧片による被作用面の背後から面支持する板(板状体)であって、押圧方向に可動設置され、押圧片との離隔距離を可変調整するものである。
【0047】
最大前進とは、ストローク動作の往動臨界点(トップ・デッド)の意である。
【0048】
距離調整手段とは、押圧片と当て板の離隔距離を可変調整するための機器的手段である。
【0049】
基台とは、物(本発明に関し支持部材)を載置又は受承する台座の意である。
【0050】
ストローク作動手段支持部材とは、基台(台座)に載置され、ストローク作動手段を保持するための部材である。
【0051】
当て板支持部材とは、基台(台座)に載置され、当て板を適正距離に保持するための部材である。
【0052】
支持部材間の距離を離接方向に可動配置するための進退調節部材を有する取り付け部材とは、進退調整部材(例えば、ねじ要素)を固定支持するガイド部材である。
【0053】
押圧方向のストローク始動時とは、プランジャー(弁体と押圧片を含む)のストローク動作がボトム・デッドとなる時点(復動臨界点)の意である。
【0054】
血液貯留袋により押し戻されストローク作動手段の押圧方向のストローク始動位置まで後退とは、復動行程のストローク動作において押圧片が往動行程におけるストローク動作の始動(初期)位置まで復帰する(押し戻される)ことである。
【0055】
押圧片が血液貯留袋を一定の距離以上押し込み、かつ、血液貯留袋の弾性復元力により押し戻され始動位置まで後退復帰する往復動のストローク動作が、最大ストロークで反復可能な稼働範囲に設定するとは、ストローク作動手段の反復操作(連続操作)において最大ストロークを確保できるように押圧片と当て板間の距離を調整(設定)することである。
【0056】
押圧片と当て板との距離が適切ではなく、短すぎる場合には、本来のストローク作動手段がピローチューブ反発力(管路内圧力を含む)に負けて押し切れずストローク動作(往動行程)の中途で止まってしまう事態が生じる。一方、押圧片と当て板との距離が長すぎる場合には、ピローチューブの反発力(管路内圧力を含む)が足りずに、ストローク作動手段7のストローク長さ一杯分まで戻らず、ストローク動作(復動行程)の中途で止まってしまう事態が生じる。
【0057】
すなわち、設定距離は短すぎても長すぎてもストローク動作に支障をきたし、最大ストロークを確保できない。ここでいう最大ストロークとは、本来ストローク作動手段が有する、ストローク距離をいう。
【0058】
このような場合、血液貯留袋の押圧(凹み)・開放(弾性復元)が十分に担保されないので、拍動流の発生操作として、送出量が少ない→圧が上がらない→脈圧が小さいままに留まる等の不具合が生じることになる。したがって、本発明における距離の調整(設定)は重要かつ不可欠な要素である。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、ストローク動作における最大ストロークを確保して、そのストローク長を有効に生かしきり、血液貯留袋に対する押圧動作を効率的、かつ十分に行うことができるので、拍動における押圧・開放操作に係る脈圧の値を高く安定的に確保できる。このためストローク作動手段と血液貯留袋との組み合わせと、距離調整手段による距離の適正化を図ることにより、生体の拍動に必要とされる脈圧(生理的脈圧)を確保することができるため、重篤な心機能低下に至った患者に対してもより生理的に有効で安全な拍動流を提供することにより補助循環効果を増補することができる。
【0060】
具体的には、送血管路に血液貯留袋(至適にはピローチューブ)を介設した拍動流発生操作区間を設け、ストローク作動手段(至適には後述のラッチ機構を有するソレノイド)を駆動してピローチューブを押圧又は開放するようにしており、心機能低下の状態に陥った患者に対して行われる補助循環治療において生理的な拍動流を提供することができる。しかも、拍動流発生操作による管路の内壁損傷や血球損傷を回避ないしは防止可能である。
【0061】
これにより、拡張期冠血流増大機能を維持し冠状動脈の血流を増大させることができるので、拡張期の選択的補助循環が可能となり、結果的に自己心の拡張期圧Pに対してP+ΔPの昇圧効果が期待できるので、その二次的作用によって冠状動脈の血流量増加ならびに心機能の回復を望むことができる。このため、持続的に行われる補助循環治療において、心臓に後負荷を与えることなく心機能の回復を目的とした治療効果を上昇させることが期待できる。
【0062】
特に、ピローチューブを押圧・開放操作するために、押圧片と当て板との距離を調節することにより、ストローク動作における最大ストロークを確保可能としており、施療条件に見合った拍動効果を最大限に発揮することができる。
【0063】
また、距離調整手段を主要部とする管路固定台を構設可能であり、反復操作(連続操作)による管路(ピローチューブを含む)の回転又は揺動を防止可能し、機器の安定稼働を保障する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の拍動流発生制御装置(実施例装置)の構成概要説明図である。
【図2】距離調整手段を示す実施例装置の(a)平面視説明図及び(b)A−A線一部欠截断面視説明図である。
【図3】距離の調整方法を示す説明図である。
【図4】ピローチュ−ブの形態の一例を示す図面代用写真であり、(a)正面視外観図及び(b)平面視外観図である。
【図5】動物実験(実施例2)における実験結果を示す血行状態のモニタリング画面を示す図面代用写真であり、(a)距離調整手段を用いない場合の圧(血圧)波形及び(b)距離調整時の圧(血圧)波形である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明を実施するための形態は、上記構成の拍動流発生制御装置において、ストローク作動手段はソレノイドであり、往動を押圧駆動とし復動を駆動解除とするものとしている。
【0066】
また、距離調整手段は、台座となる基台と、ストローク作動手段を保持するためのストローク作動手段支持部材と、血液貯留袋を挟装し該血液貯留袋を背面から支える当て板を支持する当て板支持部材とが、少なくとも一の支持部材において、支持部材間の距離を離接方向に可動配置するための進退調節部材を有する取り付け部材を介して、基台に固定されている。
【0067】
そして、ストローク作動手段の押圧方向のストローク始動時における押圧片と当て板との距離を、反復操作(継続操作)におけるストローク動作が最大ストロークを確保できるように調整(設定)するものとしている。
【実施例1】
【0068】
本発明の拍動流発生制御装置(実施例装置)について添付図面を参照しながら以下説明する。
【0069】
図1は実施例装置の構成概要説明図である。
【0070】
図2は距離調整手段を示す実施例装置の(a)平面視説明図及び(b)A−A線一部欠截断面視説明図である。
【0071】
図1に示すように、実施例装置Zは、送血管路の経路中(以下、拍動流発生操作区間。)に弾性袋体からなる血液貯留袋60(以下、ピローチューブ。)を介設するとともに、該ピローチューブ60を押圧・開放操作するためにバルブ動作するストローク作動手段7と、該ストローク作動手段7に接続されピローチューブ60に面圧を加える押圧片71を対設している。ストローク作動手段7は、拍動流発生制御手段11(図示では制御装置11)からの制御出力により駆動制御される。
【0072】
好適なストローク作動手段7として、市販のソレノイド〔例えば、高砂電気工業株式会社製の型式EL−1005〕を用いることができる。このソレノイドは、プッシュ型のラッチ機構を有するソレノイドである。この種のラッチ機構(永久磁石を組み込んだ動作保持機能)を有するソレノイドを用いるのは、復動行程において、ピローチューブ60の弾性復元力(管路内圧を含む)がラッチングに打ち勝ってプランジャー73に基端を固定した弁体72を押し戻すように、すなわち押圧片71はラッチが効いている間はピローチューブ60に当接した状態のまま、ピローチューブ60の弾性復元力にまかせてプランジャー73及び弁体72を後退させて(押し戻して)ゆくようにしたいからである。管路(ピローチューブ60)内の急激な減圧により血球破壊が誘引される発生リスクを回避するためである。
【0073】
押圧片71はゴム製の厚さ13.0mm、直径33.0 mm の円筒形のものを用いた。また、押圧片71に対向して離隔設置され、ピローチューブ60を挟装し、該ピローチューブ60を背面から支える当て板610 を有し、押圧片71がストローク作動手段7により最大前進した場合の押圧片71と当て板610 との距離dを可変に調整するための距離調整手段Dを具設している。
【0074】
ここで、距離調整手段Dは、図2に示すように、台座となる基台800 と、ストローク作動手段7を保持するためのストローク作動手段支持部材700 と、ピローチューブ60を挟装し該ピローチューブ60を背面から支える当て板610 を支持する当て板支持部材600 とを有し、少なくとも一の支持部材(600/700) において、支持部材間の距離を離接方向に可動配置するための進退調節部材621 を有する取り付け部材620 を介して、基台800 に固定されている。なお、距離調整手段Dは管路固定台DX(の主要部)として構設されてもよい。
【0075】
そして、距離dを、押圧片71がピローチューブ60により押し戻されストローク作動手段7の押圧方向のストローク始動位置まで後退でき、かつ、ストローク作動手段7の押圧方向のストローク動作が最大ストロークで反復可能な稼動範囲に設定するものとしている。
【0076】
図3に距離の調整方法に係る説明図を示す。
【0077】
図示するように、押圧片71と当て板610 との距離dは、以下の条件を満たすように設定(操作手順を含む)される。
【0078】
まず、距離調整手段Dにより調整固定されたストローク作動手段7と当て板との距離を仮固定すると、その後ストローク作動手段7が装置仕様である本来のストローク長さ一杯にストローク動作する時の最前押し出し位置a(top dead)と、外力(ピローチューブ60の反発力)で押し戻された時の最後退位置b(bottom dead )があり、当然それに接続された押圧片71の位置はそれぞれ図示のA,Bになる。したがって、押圧片71と当て板610 との距離は図示のd(A),d(B)である。
【0079】
ここで、先に仮固定した押圧片71と当て板610 との距離が適切ではなく、短すぎる場合、本来のストローク作動手段7がピローチューブ60の反発力(管路内圧力を含む)に負けて押し切れずストローク動作(往動行程)の中途で止まってしまう事態が生じる。
【0080】
いま、本来のストローク長さ一杯分押すストローク動作ができなくなる場合の往動臨界点の押圧片71の位置をCとし、その距離をd(C)とする。
【0081】
一方、押圧片71と当て板610 との距離が長すぎる場合、ピローチューブ60の反発力(管路内圧力を含む)が足りずに、ストローク作動手段7のストローク長さ一杯分まで戻らず、ストローク動作(復動行程)の中途で止まってしまう事態が生じる。
【0082】
いま、本来のストローク長さ一杯分戻すストローク動作ができなくなる場合の復動臨界点の押圧片の位置をEとし、その距離をd(E)とする。
【0083】
そうすると、距離dの設定範囲の上下限は、以下の(1)かつ(2)を満たす必要がある。
(1)d(top dead) :d(A)≧d(C)
(2)d(bottom dead ):d(B)≦d(E)
当然のことながら、最大ストロークを確保するための距離dの設定範囲(条件)は、
d(A)≦d≦d(E)である。
【0084】
以下、機器動作の概略を説明する。
【0085】
補助循環施行時、磁力伝達方式により遠心ポンプ3が回転する。回転により脱血管路2側には陰圧が生じ患者Hの静脈血を導く。静脈血は遠心ポンプ3まで引かれ、ここで陽圧に転換し人工肺5へ送られる。人工肺5により酸素付加された血液は動脈血となり送血管路6;8を通り患者Hの動脈へ送られる。
【0086】
人工肺5の送出側の送血管路6にピローチューブ60を介設してストローク作動手段7(以下、ソレノイド。)を装着し、拍動流発生操作区間を形成する。該ピローチューブ60に対し機械的な押圧と開放を連続的に与えることにより、送血を周期的かつ律動的に断続させて生理的な拍動流を発生し、患者Hに供給する。
【0087】
ソレノイド7は、拍動流発生制御手段11(図示では制御装置11) からの制御出力により作動制御(駆動)され、患者Hの脈拍数に応じて発停動作する。
【0088】
ここで、心電波形計測装置13からR波を探知(遅延検出)して起点入力し、患者の自己拍動における拡張期を示すT波の終末期に(詳しくはT波の発生初期に遅延解除して)電磁弁が押圧駆動するように、駆動開始時刻(遅延検出から遅延解除までの所定時間幅)を調節可能としている。
【0089】
さらに、実施例装置Zは、上述したとおり距離調整手段D(以下、管路固定台DX。)を搭載している〔図2参照〕。
【0090】
この管路固定台DXの目的、作用効果は、第1には、押圧片71がピローチューブ60により押し戻されソレノイド7の押圧方向のストローク始動位置まで後退でき、かつソレノイド7の押圧方向のストローク動作が最大ストローク稼動な範囲に設定するように、拍動流発生操作に係る距離dを調整する点にあり、第2には、ピローチューブ60の管路接続端を管路固定部材611 により拘束して、装置稼働時に、管路8(6)の回転ないしは揺動を防止又は抑制する点にある。
【0091】
なお、ピローチューブ60両端部の管路8(6)から分岐したバイパス管路(図示省略)を設け、該バイパス管路には平時遮断可能で緊急時開放可能な流路開閉具(図示省略)を付設するのが好ましい。
【0092】
参考までに、ピローチューブ60の選択基準を紹介しておく。
【0093】
心臓手術の補助手段として用いられる人工心肺回路は、患者体重により決定されるが、統一された規格が存在せず、各医療施設のオーダーメイドである。
【0094】
本発明におけるピローチューブの容量に係る選択基準は以下のとおりである。
(イ)患者体重30kg未満 (S回路)ピロー容量25ml
(ロ)患者体重30〜60kg(M回路)ピロー容量35ml
(ハ)患者体重30kg以上 (L回路)ピロー容量45ml
【0095】
図4は上記(ロ)のピローチューブ(M)の形態の一例を示す図面代用写真である。その外測寸法は、それぞれ(a)正面視外観図に示す長さ方向90mm,幅方向45mm、及び(b)平面視外観図に示す厚さ方向25mmである。
【実施例2】
【0096】
また、本発明装置及びその調整方法に関する臨床効果を動物実験により検証した。
【0097】
〔実験目的〕本発明構成の拍動流発生制御装置における調整方法が、拍動効果に及ぼす影響を検証する。
【0098】
ここで、標準的な補助循環回路に拍動流発生制御装置を組み込み、被験体の右心房より脱血させ左総頚動脈へ送血を行うものとした。〔回路構成については図1を参照〕
【0099】
〔実験方法〕被験体として白ウサギ(日本ホワイト種;オス; 2.5-3.0kg) を使用し、標準的な補助循環回路に本発明構成の拍動流発生制御装置を組み込み、距離を調整し(以下、距離調整時。)、被験体の右心房より脱血させ左総頚動脈へ送血を行って、血行状態をモニターした。
【0100】
一方、拍動流発生制御装置に距離調整手段を組み込まない事のみが異なり他は実施例2と同様に行ったもの(以下、距離調整手段不使用時)を比較対照例とした。
【0101】
〔実験結果及び考察〕図5は拍動効果に関する血行状態のモニタリング画面を示す図面代用写真ある。(a)は距離調整手段不使用時の圧波形であり、(b)は距離調整時の圧波形である。図中に注釈を付している。
【0102】
それぞれの圧波形及び注釈から理解されるように、距離調整手段不使用時(a)ではストロ−ク調整ができないため自己心圧と補助圧が発現するタイミング及び補助圧(の大きさ)はいずれも不十分であったが、距離調整時(b)においては拡張期の補助圧は正確に付加されており、拡張期冠血流増大(diastolic augmentation)効果が認められ、脈圧が確保されていることがわかる。
【0103】
実験結果に関し、心電図同期が可能であり拡張期圧の上昇を期待できる点で、心機能の改善に有用であることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、心機能低下に対して施行される補助循環治療において、心電図に同期させた生理的拍動流を供給するための機器的手段として革新的なものである。
【0105】
また、通常の心臓手術時においても、従来的には心停止の状態で可能であった拍動流の供給を、体外循環の循環中を通して可能とするものである。
【0106】
さらに、現在定常流で行われている心筋保護法や、胸部大動脈瘤の治療において行われている脳分離体外循環(selective cerebral perfusion) に関しても生理的拍動流を供給することが可能であり、心筋保護や脳保護の観点からも有用なものである。
【符号の説明】
【0107】
2 静脈血送血管〔脱血管路〕
3 遠心ポンプ
5 人工肺(酸素付加器)
6 弾性送血管〔送血管路〕
60 ピローチューブ〔血液貯留袋〕
600 当て板支持部材
610 当て板
611 管路固定部材
620 取り付け部材
621 進退調節部材
7 ソレノイド〔ストローク作動手段〕
71 押圧片
72 弁体
73 プランジャー
74 永久磁石
700 ストローク作動手段支持部材
8 動脈血送血管〔送血管路〕
800 基台
11 制御装置〔拍動流発生制御手段〕
13 患者心電図〔心電波形計測装置〕

D 距離調整手段
DX 管路固定台
d 距離
H 患者
Z 拍動流発生制御装置〔実施例装置〕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に外部接続され、脱血管路と送血管路、人工肺及び遠心ポンプとからなる血液循環路を備え、患者の心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動に同期した拍動流を発生させる拍動型補助循環システムに用いられる、拍動流発生制御装置において、
前記送血管路中に設けた弾性を有する袋体にてなる血液貯留袋と、前記血液貯留袋を押圧・開放するためのストローク作動手段と、ストローク作動手段に接続され前記血液貯留袋を押圧・開放する押圧片と、
前記押圧片に対向して離隔設置され、前記血液貯留袋を挟装し前記血液貯留袋を背面から支える当て板と、前記押圧片が前記ストローク作動手段により最大前進した場合の前記押圧片と前記当て板との距離を可変に調整する距離調整手段と、
を有してなることを特徴とする拍動流発生制御装置。
【請求項2】
ストローク作動手段が往動を押圧駆動とし復動を駆動解除とすることを特徴とする請求項1記載の拍動流発生制御装置。
【請求項3】
ストローク作動手段がソレノイドであることを特徴とする請求項2記載の拍動流発生制御装置。
【請求項4】
距離調整手段が、台座となる基台と、ストローク作動手段を保持するためのストローク作動手段を支持するストローク作動手段支持部材と、前記血液貯留袋を挟装し前記血液貯留袋を背面から支える当て板を支持する当て板支持部材とが、少なくとも一の支持部材において、支持部材間の距離を離接方向に可動配置するための進退調節部材を有する取り付け部材を介して、前記基台に固定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の拍動流発生制御装置。
【請求項5】
患者に外部接続され、脱血管路と送血管路、人工肺及び遠心ポンプとからなる血液循環路を備え、患者の心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動に同期した拍動流を発生させる拍動型補助循環システムに用いられ、
前記送血管路中に設けた弾性を有する袋体にてなる血液貯留袋と、
前記血液貯留袋を押圧・開放するために往動を押圧駆動とし復動を駆動解除とするストローク作動手段と、該ストローク作動手段に接続され前記血液貯留袋に接して押圧・開放する押圧片と、前記押圧片に対向して離隔設置され、前記血液貯留袋を挟装し前記血液貯留袋を背面から支える当て板と、前記押圧片が前記ストローク作動手段により最大前進した場合の前記押圧片と前記当て板との距離を可変に調整する距離調整手段とを有してなる拍動流発生制御装置における前記押圧片と前記当て板との距離の調整方法であって、
ストローク作動手段の押圧方向のストローク始動時における押圧片と当て板との距離を、押圧片が血液貯留袋を一定の距離以上押し込み、かつ、血液貯留袋の弾性復元力により押し戻され始動位置まで後退復帰する往復動のストローク動作が、最大ストロークで反復可能な稼働範囲に設定することを特徴とする拍動流発生制御装置の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−19653(P2011−19653A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166285(P2009−166285)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】