説明

持続制電性樹脂組成物

【課題】スチレン系樹脂本来の成形性、着色性、軽量性を失わずに、優れた制電性、衝撃強度と弾性率の高いバランス、実用的な熱変形温度を兼ね備えた樹脂組成物を開発し、電子部品運搬資材等の材料として実用化すること。
【解決手段】ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)からなり、(A)、(B)、(C)の重量比率が下記(数式1)乃至(数式3)を満たすことを特徴とする樹脂組成物。
(数式1)
0.80≦(A)/{(A)+(B)}≦0.95
(数式2)
0.05≦(B)/{(A)+(B)}≦0.20
(数式3)
0.20≦(C)/(B)≦1.00

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本来は絶縁性であるスチレン系樹脂に持続的な制電性を付与した樹脂組成物に関し、従来の樹脂組成物では成し得なかった、優れた制電性、様々な成形方法に対応できる流動性、衝撃強度と弾性率の高いバランス、実用的な熱変形温度を兼ね備えた樹脂組成物に関する。本発明の樹脂組成物は電子部品運搬資材等、内容物を電気的且つ物理的に保護する役割を担う用途に好ましく用いられる。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は成形が容易であること、着色が自由であること、軽量であること等を生かして数多くの産業分野に使用されている。反面、絶縁性であるために使用できない産業分野が存在する。
スチレン系樹脂に制電性を付与する技術としては、(1)帯電防止剤としてアニオン性、カチオン性、両性或いは非イオン性の界面活性剤を添加する方法、又、(2)導電充填剤としてカーボンブラックや金属酸化物を添加する方法等があり、更に、(3)帯電防止剤を塗布したり、導電インキで印刷したりして樹脂成形製品に制電性を付与する技術もある。しかし、(1)の方法はスチレン系樹脂に対して相溶性の乏しい帯電防止剤を物理的に練り込んで、該帯電防止剤が表面に滲み出て来ることを原理とするため、帯電防止剤の添加量が限られるし制電性の安定に欠ける。又、(2)の方法は黒色であったり高比重であったりする導電充填材を多量に添加するため、着色の自由や軽量性が失われる。更に、(3)の技術は塗布や印刷が追加工程となること、洗浄時や使用時の表面摩擦で制電性が失われることに難がある。
【0003】
これら以外に、スチレン系樹脂に制電性を付与する従来技術として、ゴム強化スチレン系樹脂とポリエーテルエステルアミドとカルボキシル基含有ビニル系重合体からなる持続制電性の樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1)。これは帯電防止剤として親水性のポリエーテルエステルアミドを添加すると共に、衝撃強度を始めとする物性や成形性を保持し、層状剥離を避けるために相溶化剤としてカルボキシル基含有ビニル系重合体を添加する技術に関するものである。しかし、該技術の制電性と物性及び成形性の両立は甚だ不十分であり、物性及び成形性を高く保つにはポリエーテルエステルアミドの量を抑える必要があるため制電性が低くなり、一方、制電性を高めようとポリエステルエーテルアミドの量を増やすと物性及び成形性が低くなるという問題がある。家庭用電気器具の埃避け程度、表面抵抗率が1011台乃至1012台Ωの制電性であれば物性及び成形性にも優れた樹脂組成物となり得るが、電子部品運搬資材のように表面抵抗率が1010台Ω以下の制電性が必要とされる場合には物性及び成形性が見劣りする樹脂組成物とならざるを得ない。
【0004】
又、従来技術として、ポリオレフィンのブロックとポリオキシアルキレンを主構造とするポリマーのブロックが繰り返し交互に結合したブロック共重合体からなる帯電防止剤、及び、該帯電防止剤とスチレン系樹脂からなる持続制電性の樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献2)。これはオレフィン系樹脂に相溶するポリオレフィンのブロックと親水性のポリエーテルのブロックからなる帯電防止剤の技術に関するものであり、又、該帯電防止剤をスチレン系樹脂に添加した樹脂組成物の技術に関するものである。しかし、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体とスチレン系樹脂は相溶性に乏しいため該樹脂組成物の制電性と物性の両立は甚だ不十分であり、特に、制電性を高めようとポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体の量を増やすと物性が極端に低くなり、層状剥離に至るという問題がある。電子部品運搬資材のように表面抵抗率が1010台Ω以下の制電性と内容物を物理的に保護するための高い衝撃強度及び弾性率が必要とされる用途には用いることが困難である。ここで、特許文献2はポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体とスチレン系樹脂の相溶化剤としてカルボキシル基等で変性されたビニル系重合体、ポリオレフィン部分とポリスチレン部分とを有するブロック共重合体を用いることに言及しているが、特定組成のポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物が相溶化剤として顕著な効果を有しており、優れた制電性を維持したまま衝撃強度及び弾性率を大幅に向上させることは一切示唆していない。又、特許文献2はポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体にアルカリ金属塩及び/或いはアルカリ土類金属塩を併用することによって制電性を向上させることに言及し、ナトリウム塩、カリウム塩と並んで酢酸リチウム、塩化リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を例示しているが、特定構造のリチウム塩が他の金属塩に比べて顕著に優れた制電性を与えることは一切示唆していない。
【0005】
一方、従来技術として、カルボキシル基或いは酸無水物基で変性したゴム強化スチレン系樹脂とポリエチレンオキサイド系ブロック共重合体及びポリエチレンオキサイド成分に固溶する金属塩からなる持続制電性の樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献3)。これは帯電防止剤としてポリエチレンオキサイド系ブロック共重合体とポリエチレンオキサイド成分に固溶する金属塩が形成する、所謂、高分子固体電解質を用いると共に、ゴム強化スチレン系樹脂にカルボキシル基或いは酸無水物基で変性したものを用いることで相溶化剤を兼ねさせて、物性を保持し、層状剥離を避ける技術に関するものである。該技術は高分子固体電解質のイオン伝導により優れた制電性を達成しているが、しかし、制電性と物性の両立は未だ不十分であり、物性を高く保つにはポリエチレンオキサイド系ブロック共重合体及びポリエチレンオキサイド成分に固溶する金属塩の量を抑える必要があるため制電性が低くなり、一方、制電性を高めようとポリエチレンオキサイド系ブロック共重合体及びポリエチレンオキサイド成分に固溶する金属塩の量を増やすと物性が低くなるという問題がある。電子部品運搬資材、特に液晶ディスプレーやプラズマディスプレーといった大型・薄型のガラス部品の運搬資材に用いられるには、もう一段高い水準での制電性と物性の両立が必要である。又、特許文献3はポリエチレンオキサイド成分に固溶する金属塩としてナトリウム塩、カリウム塩等と並んで塩化リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、ホウ水素化リチウム、ヨウ化リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を例示しているが、特定構造のリチウム塩が他の金属塩に比べて顕著に優れた制電性を与えることは一切示唆していない。更に又、特許文献3は強い潮解性を有する金属塩を用いて樹脂組成物を製造するために、ポリエチレンオキサイド系ブロック共重合体とポリエチレンオキサイド成分に固溶する金属塩を共通溶媒に溶解したのち、脱溶媒して固溶物を作製する方法に言及しているが、特定構造のリチウム塩を特定構造の化成品液体に溶解した特定濃度の溶液とすることで、容易且つ確実に配合、溶融、混練、造粒を行なうことができる上、得られた樹脂組成物は制電性と物性をより高いバランスで両立することを一切示唆していない。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−241945号公報
【特許文献2】特開2001−278985号公報
【特許文献3】特開平03−103466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はスチレン系樹脂本来の成形性、着色性、軽量性を失わずに、優れた制電性、衝撃強度と弾性率の高いバランス、実用的な熱変形温度を兼ね備えた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題達成のため鋭意検討した結果、ゴム強化スチレン系樹脂、特定組成のブロック共重合体、特定組成のブロック共重合体の水素添加物を特定の量で配合、溶融、混練、造粒した樹脂組成物が、優れた制電性、様々な成形方法に対応できる流動性、衝撃強度と弾性率の高いバランス、実用的な熱変形温度を兼ね備えていることを見出し、本発明に到達したのである。
又、本発明者は、上記のゴム強化スチレン系樹脂、特定組成のブロック共重合体、特定組成のブロック共重合体の水素添加物に加えて、界面活性剤を特定の量で配合、溶融、混練、造粒した樹脂組成物が、表面抵抗率が108 台乃至109 台Ωの極めて優れた制電性を示す一方で、様々な成形方法に対応できる流動性、衝撃強度と弾性率の高いバランス、実用的な熱変形温度を兼ね備えていることを見出し、本発明に到達したのである。
更に又、本発明者は、上記のゴム強化スチレン系樹脂、特定組成のブロック共重合体、特定組成のブロック共重合体の水素添加物に加えて、特定構造のリチウム塩を特定構造の化成品液体に溶解した特定濃度の溶液として特定の量、配合、溶融、混練、造粒した樹脂組成物が、容易且つ確実に製造でき、且つ、顕著に優れた制電性、流動性、衝撃強度と弾性率及び熱変形温度を兼ね備えていることを見出し、本発明に到達したのである。
【0009】
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)からなり、(A)、(B)、(C)の重量比率が下記(数式1)乃至(数式3)を満たすことを特徴とする樹脂組成物。
(数式1)
0.80≦(A)/{(A)+(B)}≦0.95
(数式2)
0.05≦(B)/{(A)+(B)}≦0.20
(数式3)
0.20≦(C)/(B)≦1.00
(2)ゴム強化スチレン系樹脂(A)が、ゴム強化ポリスチレン樹脂、或いは該樹脂にポリスチレン樹脂、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合ゴム、ポリスチレン・ポリブタジエン共重合樹脂から選択される1種以上を配合したものであることを特徴とする、(1)に記載の樹脂組成物。
(3)ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)が、末端に反応基を有するポリオレフィンのブロックとポリオキシアルキレンを主構造とするポリマーのブロックが繰り返し交互に結合した共重合体であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
【0010】
(4)ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)が、ポリスチレンのブロックとポリブタジエンの二重結合の30%以上が水素添加で飽和されたブロックが結合した共重合体であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
(5)ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に、界面活性剤(D)を下記(数式4)を満たす重量比率で加えたことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
(数式4)
0.001≦(D)/{(A)+(B)+(C)}≦0.010
(6)界面活性剤(D)がアニオン性界面活性剤であることを特徴とする、(5)に記載の樹脂組成物。
(7)ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に、下記式1で表されるリチウム塩(E)を下記(数式5)を満たす重量比率で加えたことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【0011】
【化1】

(式中、Zはトリフルオロメタンスルホニル基を、nは1乃至3の整数を、Yはn=1の場合酸素、n=2の場合窒素、n=3の場合炭素を表す。)
(数式5)
0.001≦(E)/{(A)+(B)+(C)}≦0.010
(8)リチウム塩(E)を下記式2で表される化成品液体に溶解した30乃至70重量%濃度の溶液の形態で添加したことを特徴とする、(7)に記載の樹脂組成物。
【0012】
【化2】

(式中、Xは水素、炭素数1乃至4のアルキル基、酢酸エステル残基、フタル酸エステル残基或いはアジピン酸エステル残基を、Wは水素或いはメチル基を、mは1乃至9の整数を、Vは水素或いは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。)
(9)リチウム塩(E)がトリフルオロメタンスルホン酸リチウムであり、該トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを分子量が200乃至400のポリエチレングリコールに溶解した30乃至70重量%濃度の溶液の形態で添加したことを特徴とする、(7)又は(8)に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によりスチレン系樹脂本来の成形性、着色性、軽量性を失わずに、優れた制電性、衝撃強度と弾性率の高いバランス、実用的な熱変形温度を兼ね備えた樹脂組成物を提供できる。
本発明の範囲に合致したゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)を本発明の範囲に合致した分量で配合、溶融、混練、造粒した樹脂組成物は、従来技術の問題点を解決し、優れた制電性、様々な成形方法に対応できる流動性、衝撃強度と弾性率の高いバランス、実用的な熱変形温度を兼ね備えている。
又、本発明の範囲に合致したゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に加えて、界面活性剤(D)を本発明の範囲に合致した分量で配合、溶融、混練、造粒した樹脂組成物は、従来技術の問題点を解決し、表面抵抗率が108 台乃至109 台Ωの極めて優れた制電性を示す一方で、様々な成形方法に対応できる流動性、衝撃強度と弾性率の高いバランス、実用的な熱変形温度を兼ね備えている。
更に又、本発明の範囲に合致したゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に加えて、本発明の範囲に合致したリチウム塩(E)の溶液を本発明の範囲に合致した分量で配合、溶融、混練、造粒した樹脂組成物は、容易且つ確実に製造でき、且つ、顕著に優れた制電性、流動性、衝撃強度と弾性率及び熱変形温度を兼ね備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明について、以下に具体的に説明する。
本発明の制電性と表面硬度と強度に優れた樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)を、特定の量で配合、溶融、混練、造粒してなることを特徴とする。
【0015】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)は、本発明の樹脂組成物において成形性、衝撃強度と弾性率の物性バランス、熱変形温度といった特性を担うものであり、ゴム強化ポリスチレン樹脂、ゴム強化メタクリルスチレン共重合樹脂等を例示することができる。ここではABS樹脂を含まない。
ゴム強化ポリスチレン樹脂(以下HIPSと称する)とはスチレン単独の重合体からなる連続相にゴム状弾性体が粒子分散してなる成形材料であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。一般的に入手できるHIPSは、スチレンの重合度、ゴム状弾性体の種類、量及び分散粒子径、可塑剤や滑剤の量が調整され、流動性、衝撃強度、弾性率及び熱変形温度の異なるものが提供されている。好ましい流動性、衝撃強度、弾性率及び熱変形温度を持つHIPSが入手できない場合には、ポリスチレン樹脂(以下GPPSと称する)やポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合エラストマー(以下SBSエラストマーと称する)やポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合樹脂(以下SBS樹脂と称する)をHIPSに配合して、流動性、衝撃強度、弾性率及び熱変形温度を好ましく調整することもできる。又、ゴム強化メタクリルスチレン共重合樹脂(以下透明HIPSと称する)とはメチルメタクリレート、アルキル(メタ)アクリレート及びスチレンの共重合体からなる連続相に、屈折率が連続相と一致する組成のゴム状弾性体を、可視光線の波長より小さな粒子径で分散してなる成形材料であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。一般的に入手できる透明HIPSは、メチルメタクリレートの量、アルキル(メタ)アクリレートの種類及び量、それらとスチレンの重合度、ゴム状弾性体の種類、量及び分散粒子径、可塑剤や滑剤の量が調整され、透明性、流動性、衝撃強度、弾性率及び熱変形温度の異なるものが提供されている。好ましい流動性、衝撃強度、弾性率及び熱変形温度を持つ透明HIPSが入手できない場合には、メタクリルスチレン共重合樹脂(以下MS樹脂と称する)やSBSエラストマーやSBS樹脂を透明HIPSに配合して、流動性、衝撃強度、弾性率および熱変形温度を好ましく調整することもできる。
【0016】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)の流動性は、ISO1133に従って測定したメルトフローレイトが1乃至4g/10min の範囲にあることが好ましい。下記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、下記のポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及び下記のリチウム塩(E)の溶液は樹脂組成物の流動性を上げる性質を持つが、ゴム強化スチレン系樹脂(A)の流動性が上記範囲を下回ると、本発明の樹脂組成物の成形性、特に射出成形での金型充填性が低下して好ましくない。一方、ゴム強化スチレン系樹脂(A)の流動性が上記範囲を上回ると、本発明の樹脂組成物の成形性、特に押出成形、真空成形、ブロー成形での厚み均一性が低下して好ましくない。ゴム強化スチレン系樹脂(A)の衝撃強度は、ISO179に従って測定したシャルピー衝撃強さが5kJ/m2 以上であることが好ましい。下記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)は樹脂組成物の衝撃強度を下げる性質を持つが、ゴム強化スチレン系樹脂(A)の衝撃強度が上記以上であれば、本発明の樹脂組成物は実用的な衝撃強度を有して好ましい。ゴム強化スチレン系樹脂(A)の弾性率は、ISO178に従って測定した曲げ弾性率が2200MPa 以上であることが好ましい。下記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)及び下記のポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)は樹脂組成物の弾性率を下げる性質を持つが、ゴム強化スチレン系樹脂(A)の弾性率が上記以上であれば、本発明の樹脂組成物は実用的な弾性率を有して好ましい。そして、ゴム強化スチレン系樹脂(A)の熱変形温度は、ISO306に従って測定したビカット軟化温度が85℃以上であることが好ましい。下記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及び下記のリチウム塩(E)の溶液は樹脂組成物の熱変形温度を下げる性質を持つので、ゴム強化スチレン系樹脂(A)の熱変形温度が上記以上でないと、本発明の樹脂組成物の実用温度、例えば船倉運搬が制限されて好ましくない。
【0017】
ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)は、本発明の樹脂組成物において優れた制電性を担うものである。ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)は、ポリエーテルのブロックにおいて環境の水分吸収、水のイオン解離、プロトンのイオン伝導が起きて、静電気を散逸し帯電圧を減衰するため、本発明の樹脂組成物は持続的な制電性を発揮する。
ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)は、末端に反応基を有するポリオレフィンのブロックとポリオキシアルキレンを主構造とするポリマーのブロックが繰り返し交互に結合した共重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。一般的に入手できるポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体としては、ポリオレフィンの構成単位構造及び重合分子量、ポリエーテルの構成単位構造及び重合分子量、ポリオレフィンブロックの末端反応基とポリエーテルブロックの末端反応基から形成される結合の構造、ポリオレフィンブロックとポリエーテルブロックの交互結合の繰り返し数といった各要素の異なるものが提供されている。これらポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体を特徴づける各要素に限定はない。融点(DSCチャートのピークトップの温度、以下同じ)が150℃以上であるポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体を選択したときに、本発明の樹脂組成物はより優れた制電性とより高度な物性バランスを示して好ましい。
複数のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体を配合してポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)とすることもできる。その場合は融点が150℃以上であるポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体の少なくとも1種を含んでいることが好ましい。
【0018】
ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)は、本発明の樹脂組成物において優れた制電性と高度な物性バランスを両立させる役目を担う。ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)は上記のゴム強化スチレン系樹脂(A)と上記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)を好ましい相分離形態の下に安定一体化させるため、本発明の樹脂組成物はポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)に基づいた制電性を損なうことなく発揮する一方で、ゴム強化スチレン系樹脂(A)に基づいた物性バランスを最大限に維持する。
ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)は、ポリスチレンのブロックとポリブタジエンの二重結合が水素添加で飽和されたブロックが結合した共重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBSエラストマー)、スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SBBSエラストマー)とも称されている。一般的に入手できるポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物としては、ポリスチレン、ポリブタジエン各々の重合度、ポリブタジエンの1,4−構造とビニル構造の比率、A−B型、A−B−A型、A−B−A−B型といったブロックの結合形態、共重合体全体のスチレン含有量、ブタジエン含有量、水素添加による二重結合の飽和の度合といった各要素の異なるものが提供されている。これらポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物を特徴づける各要素に限定はないが、本発明の樹脂組成物において優れた制電性と高度な物性バランスを両立させるには、水素添加による二重結合の飽和の度合が30%以上であることが好ましい。さらに好ましくは共重合体全体のスチレン含有量が50重量%以上であり、水素添加による二重結合の飽和の度合が30%以上であるポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物である。
【0019】
複数のポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物を配合してポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)とすることもできる。その場合は共重合体全体のスチレン含有量が50重量%以上であり、水素添加による二重結合の飽和の度合が30%以上であるポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物の少なくとも1種を含んでいることが好ましい。
本発明の樹脂組成物は、上記のゴム強化スチレン系樹脂(A)、上記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、上記のポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の重量比率が下記(数式1)乃至(数式3)を満たすことを特徴とする。
(数式1)
0.80≦(A)/{(A)+(B)}≦0.95
(数式2)
0.05≦(B)/{(A)+(B)}≦0.20
(数式3)
0.20≦(C)/(B)≦1.00
【0020】
先ず、ゴム強化スチレン系樹脂(A)とポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)の合計を100重量%として、ゴム強化スチレン系樹脂(A)は80乃至95重量%、好ましくは85乃至95重量%、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)は5乃至20重量%、好ましくは5乃至15重量%である。ゴム強化スチレン系樹脂(A)が80重量%未満、即ち、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)が20重量%を超えると樹脂組成物の破壊伸度及び衝撃強度、弾性率が低下して、又、熱変形温度が低下して好ましくない。一方、ゴム強化スチレン系樹脂(A)が95重量%を超える、即ち、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)が5重量%未満では樹脂組成物の制電性が乏しくて好ましくない。
次に、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)を100重量部として、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)は20乃至100重量部、好ましくは30乃至100重量部である。ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)が20重量部未満では樹脂組成物の破壊伸度及び衝撃強度が低くて好ましくない。一方、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)が100重量部を超えると樹脂組成物の流動性が適当な範囲を外れ成形性が低下して、又、弾性率、熱変形温度が低下して好ましくない。
更に、本発明の制電性と表面硬度と強度に優れた樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に加えて、界面活性剤(D)を特定の量で配合、溶融、混練、造粒してなることを特徴とする。
【0021】
界面活性剤(D)は、分子内に親水性の構造と親油性の構造を有する化合物であり、帯電防止剤として広く樹脂に用いられているものである。界面活性剤(D)を単独で用いたのでは制電性の効果、安定及び持続に問題があるが、本発明の樹脂組成物では、界面活性剤(D)を上記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)と併用することによって、高度な制電性を安定、持続して得ることができる。
界面活性剤(D)は、その構造からアニオン性、カチオン性、両性、非イオン性に分類されており、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。一般的に入手できるアニオン性界面活性剤としては高級脂肪酸アルカリ金属塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が、カチオン性界面活性剤としてはアルキルトリメチルアンモニウム塩等が、両性界面活性剤としてはアルキルアミノプロピオン酸塩、アルキルジメチルベタイン、アルキルジヒドロキシエチルベタイン等が、非イオン性界面活性剤としては高級アルコールエチレンオキサイド付加物、高級脂肪酸エチレンオキサイド付加物、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が例示される。好ましくはアニオン性界面活性剤であり、特に好ましくはアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩である。
【0022】
複数の界面活性剤を配合して界面活性剤(D)とすることもできる。その場合はアニオン性界面活性剤の少なくとも1種を含んでいることが好ましい。アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含んでいることが特に好ましい。
本発明の樹脂組成物は、上記のゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に、上記の界面活性剤(D)を下記(数式4)を満たす重量比率で添加したことを特徴とする。
(数式4)
0.001≦(D)/{(A)+(B)+(C)}≦0.010
ゴム強化スチレン系樹脂(A)とポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)とポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の合計を100重量部として、界面活性剤(D)は0.1乃至1.0重量部、好ましくは0.1乃至0.8重量部である。界面活性剤(D)が0.1重量部未満では樹脂組成物の制電性に向上が見られず好ましくない。一方、界面活性剤(D)が1.0重量部を超えると、相溶性の問題で、樹脂組成物からの析出が生じて好ましくない。
更に又、本発明の制電性と表面硬度と強度に優れた樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に加えて、下記式3で表されるリチウム塩(E)を特定の量で配合、溶融、混練、造粒してなることを特徴とする。
【0023】
【化3】

(式中、Zはトリフルオロメタンスルホニル基を、nは1乃至3の整数を、Yはn=1の場合酸素、n=2の場合窒素、n=3の場合炭素を表す。)
上記式3で表されるリチウム塩(E)は、アルカリ金属塩の1種であり、アルカリ金属としてはイオン半径が最も小さくイオン移動の自由度が最も高いリチウムカチオンと、電子吸引力が強いトリフルオロメタン基を有するためイオン解離度が高い有機アニオンからなることに特徴がある。上記のリチウム塩(E)は上記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)のポリエーテルのブロックにおいて安定且つ高度にイオン解離し、イオン伝導によって瞬時に静電気を散逸し帯電圧を減衰するため、本発明の樹脂組成物は、環境の水分に依存せず、顕著に優れた制電性を安定、持続して発揮する。又、樹脂組成物の衝撃強度に悪影響を与えるものが多いアルカリ金属塩にあって、該リチウム塩(E)は本発明の樹脂組成物の衝撃強度を高く維持する。
【0024】
上記式3で表されるリチウム塩(E)は、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。好ましくはn=1でYが酸素のトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、n=2でYが窒素のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムである。n=3でYが炭素のトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンリチウムは、イオン解離度は高いが分子量が大きいアニオンのため、同じ添加量で比較すると前2者にやや劣る。トリフルオロメタンスルホン酸リチウムはアニオンの分子量がもっとも小さく、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムはアニオンのイオン解離度がもっとも高いことから、少ない添加量でも優れた制電性を得られて好ましい。
複数のリチウム塩を配合してリチウム塩(E)とすることもできる。その場合はトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムから選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましい。 上記のリチウム塩(E)は、そのまま配合、溶融、混練、造粒することも可能であるが、配合量が少ないことによる偏在を避けるため、又、上記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)に選択的に分散させてイオン伝導を高めるために、下記式4で表される化成品液体に溶解した30乃至70重量%濃度の溶液の形態で配合、溶融、混練、造粒することも可能である。
【0025】
【化4】

(式中、Xは水素、炭素数1乃至4のアルキル基、酢酸エステル残基、フタル酸エステル残基或いはアジピン酸エステル残基を、Wは水素或いはメチル基を、mは1乃至9の整数を、Vは水素或いは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。)
イオン解離度が高いリチウム塩(E)を適当な濃度で溶解するため、又、リチウム塩(E)を上記のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)に選択的に分散させるために、化成品液体は上記式4で表される特定構造を有することが好ましい。これら化成品液体としては、X、W及びVが水素であるエチレングリコール(m=1)、ジエチレングリコール(m=2)、トリエチレングリコール(m=3)、ポリエチレングリコール(m=4乃至9)、X及びVが水素でWがメチル基であるプロピレングリコール及びその重合体(m=1乃至9)、X及びWが水素でVがエチル基であるエチルグリコール(m=1)、エチルジグリコール(m=2)、エチルトリグリコール(m=3)、Xが酢酸エステル残基、W及びVがメチル基でm=1のメトキシプロピルアセテート、Xがフタル酸エステル残基、Wが水素、Vがエチル基でm=2のビス(エチルジグリコール)フタレート、Xがアジピン酸エステル残基、Wが水素、Vがブチル基でm=2のビス(ブチルジグリコール)アジペート等が例示され、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。
【0026】
好ましくは、広い濃度範囲で安定したリチウム塩(E)の溶液を形成する、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムと分子量が200乃至400のポリエチレングリコールからなる溶液、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムとビス(ブチルジグリコール)アジペートからなる溶液である。さらに好ましくは、樹脂組成物の成形性や実用温度への影響が少ない、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムと分子量が200乃至400のポリエチレングリコールからなる溶液である。
上記のリチウム塩(E)を上記の化成品液体に溶解して溶液にするときの濃度は30乃至70重量%である。濃度が30重量%未満では樹脂組成物に所定量のリチウム塩(E)を含有させるためにより多量の溶液を配合する必要がある、即ち、化成品液体を余分に配合することになり、樹脂組成物の成形性が低下したり実用温度が制限されて好ましくない。一方、70重量%を超えると樹脂組成物に所定量のリチウム塩(E)を含有させるためにごく少量の溶液を配合することになり、偏在の問題を解消できず好ましくない。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、上記のゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に、上記のリチウム塩(E)を下記(数式5)を満たす重量比率で添加したことを特徴とする。
(数式5)
0.001≦(E)/{(A)+(B)+(C)}≦0.010
ゴム強化スチレン系樹脂(A)とポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)とポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の合計を100重量部として、リチウム塩(E)は0.1乃至1.0重量部、好ましくは0.1乃至0.8重量部である。リチウム塩(E)が0.1重量部未満では樹脂組成物の制電性に向上が見られず好ましくない。一方、リチウム塩(E)が1.0重量部を超えても制電性の向上はもはや頭打ちであり、樹脂組成物のコスト・パフォーマンスが低下して好ましくない。ゴム強化スチレン系樹脂( A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及び界面活性剤(D)或いはリチウム塩(E)を配合、溶融、混練、造粒する方法は特に限定されず、樹脂組成物の製造で常用されている方法を用いることができる。例えば、ドラムタンブラー、ヘンシェルミキサー等で配合したゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及び界面活性剤(D)或いはリチウム塩(E)をバンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダールーダー等を用いて溶融、混練し、ロータリーカッター、ファンカッター等で造粒することによって樹脂組成物を得ることができる。溶融、混練のプロセス温度は結晶性を有するポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)の融点より20℃以上高い温度とすることが好ましい。
【0028】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及びリチウム塩(E)からなる樹脂組成物を製造する場合、上記のように一括して配合、溶融、混練、造粒する方法ではなく、先ず、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)とリチウム塩(E)を配合、溶融、混練、造粒して中間原料を製造し、次に、その中間原料とゴム強化スチレン系樹脂(A)とポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)を配合、溶融、混練、造粒する方法を用いることもできる。リチウム塩(E)をポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)に選択的に分散させるにはこちらの方法が好ましいが、一方、製造工程が増加することは好ましくない。
【0029】
一方、リチウム塩(E)を化成品液体に溶解した溶液の形態で添加する場合の配合、溶融、混練、造粒の方法は特に限定されず、液体原料を用いた樹脂組成物の製造で常用されている方法を用いることができる。例えば、固体原料であるゴム強化スチレン系樹脂(A)とポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)とポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)はドラムタンブラー、ヘンシェルミキサー等で配合して二軸押出機、ニーダールーダー等のフィードホッパーに供給、同時に液体原料であるリチウム塩(E)の溶液は定量ポンプを用いて上記の二軸押出機、ニーダールーダー等のシリンダーに注入して、溶融、混練し、ロータリーカッター、ファンカッター等で造粒することによって樹脂組成物を得ることができる。
リチウム塩(E)を化成品液体に溶解した溶液の形態にすることで、リチウム塩(E)をポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)に選択的に分散させることができるため、上記のような、先ず、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)とリチウム塩(E)を配合、溶融、混練、造粒して中間原料を製造し、次に、その中間原料とゴム強化スチレン系樹脂(A)とポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)を配合、溶融、混練、造粒する方法は必要なくなり、合理的に樹脂組成物を製造することができる。
【0030】
更に、本発明の樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及び界面活性剤(D)或いはリチウム塩(E)を配合、溶融、混練、造粒するときに酸化防止剤、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤といったHIPS、透明HIPS等に常用されている添加剤を、添加することができる。
本発明の樹脂組成物は射出成形、シート押出成形、真空成形、異型押出成形、ブロー成形といったHIPS、透明HIPSで一般的に行なわれている方法で成形されて樹脂製品となる。本発明の樹脂組成物を成形してなる樹脂製品は、優れた制電性と優れた表面硬度と優れた強度を兼ね備えているため、電子部品運搬資材等、内容物を電気的且つ物理的に保護する用途、なかんずく繰り返し洗浄され繰り返し使用される電子部品運搬資材等に適している。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<ゴム強化スチレン系樹脂(A)の選択>
(A)−1;PSジャパン株式会社製のHIPSである475D、100重量部に同社製のGPPSである685、115重量部を配合してゴム強化スチレン系樹脂(A)−1とした。このゴム強化スチレン系樹脂(A)−1のISO1133に従って測定したメルトフローレイトは2.5g/10min 、ISO179に従って測定したシャルピー衝撃強さは8kJ/m2 、ISO178に従って測定した曲げ弾性率は2700MPa 、ISO306に従って測定したビカット軟化温度は99℃であった。
<ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)の選択>
(B)−1;ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)−1として三洋化成工業株式会社製のペレスタット230を選択した。DSCチャートのピークトップの温度として測定された融点が161℃のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体である。
(B)−2;ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)−2として三洋化成工業株式会社製のペレスタット300を選択した。DSCチャートのピークトップの温度として測定された融点が135℃のポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体である。
<ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の選択> (C)−1;ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)−1として旭化成ケミカルズ株式会社製のタフテックH1043を選択した。SEBSエラストマーと称される、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の二重結合の90%以上が飽和した水素添加物である。スチレン含有量は67重量%である。
(C)−2;ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)−2として旭化成ケミカルズ株式会社製のタフテックP2000を選択した。SBBSエラストマーと称される、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の二重結合の約50%が飽和した水素添加物である。スチレン含有量は67重量%である。
【0032】
<ポリエーテルエステルアミドの選択>
従来技術に用いられているポリエーテルエステルアミドとして三洋化成工業株式会社製のペレスタット6321を選択した。DSCチャートのピークトップの温度として測定された融点が202℃のポリエーテルエステルアミドである。
<カルボキシル基含有スチレン系樹脂の選択>
従来技術に用いられているカルボキシル基含有スチレン系樹脂としてPSジャパン株式会社製のG9001を選択した。スチレンとメタクリル酸の共重合物である。
<ポリエチレン−ポリスチレングラフト共重合体の選択>
本発明のポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の比較対照としてポリエチレン−ポリスチレングラフト共重合体である日本油脂株式会社製のモディパーA1101を選択した。
<ポリプロピレン−ポリスチレングラフト共重合体の選択>
本発明のポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の比較対照としてポリプロピレン−ポリスチレングラフト共重合体である日本油脂株式会社製のモディパーA3100を選択した。
【0033】
<樹脂組成物の製造−1>
上記で選択したゴム強化スチレン系樹脂(A)、上記で選択したポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、上記で選択したポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)を表1の上段に示す通り計量した。更に、上記で選択したポリエーテルエステルアミド、上記で選択したカルボキシル基含有スチレン系樹脂、上記で選択したポリエチレン−ポリスチレングラフト共重合体、上記で選択したポリプロピレン−ポリスチレングラフト共重合体も用いて表2の上段に示す通り計量した。
計量した原料をドラムタンブラーで配合し、同方向二軸押出機で溶融、混練、ロータリーカッターで造粒して樹脂組成物(実施例1乃至7、比較例1乃至9)を得た。ここで、溶融、混練のプロセス温度はポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)及びポリエーテルエステルアミドの融点を考慮して設定した。融点が161℃の(B)−1を用いるとき及び融点が135℃の(B)−2を用いるときは押出機の設定温度を200℃、融点が202℃のポリエーテルエステルアミドを用いるときは押出機の設定温度を230℃とした。
<物性の測定−1>
上記で製造した樹脂組成物(実施例1乃至7、比較例1乃至9)を100mm×100mm×2.5mmの平板試験片に射出成形し、4日間/ 23℃/ 50%RHの前処理を施した後、JIS K6911に準じて初期表面抵抗率及び初期体積抵抗率を測定した。引き続き、同試験片に6月間/ 23℃/ 50%RHの前処理を施した後、同様に6月後表面抵抗率を測定した。更に、同試験片に超音波洗浄機で15秒間の水洗→7日間/ 23℃/ 50%RHの保管を5サイクル繰り返した後、同様に水洗後表面抵抗率を測定した。
又、上記で製造した樹脂組成物のメルトフローレイトをISO1133に従って測定した。又、上記で製造した樹脂組成物をISOタイプA試験片に射出成形し、ISO527−1に従って引張破壊歪みを、ISO179に従ってシャルピー衝撃強さを、ISO178に従って曲げ弾性率を、ISO306に従ってビカット軟化温度を測定した。以上の物性測定の結果を表1、表2の下段に示した。
【0034】
<実施例1乃至7>
実施例1乃至7は何れも、本発明の範囲に合致したゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)を本発明の範囲に合致した分量で配合、溶融、混練、造粒した樹脂組成物であり、表面抵抗率が109 台乃至1011台Ωの優れた制電性、メルトフローレイトが3乃至6g/10min の様々な成形方法に対応できる流動性、シャルピー衝撃強さが5乃至10kJ/m2 の高い衝撃強度と曲げ弾性率が2000乃至2600MPa の高い弾性率、そしてビカット軟化温度が87乃至95℃の高い熱変形温度を兼ね備えている。
【0035】
<比較例1>
比較例1は、ゴム強化スチレン系樹脂(A)の分量が本発明の範囲を外れて少なく、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)の分量が本発明の範囲を外れて多いため、メルトフローレイトが12g/10min と流動性が押出成形、真空成形、ブロー成形には高過ぎ、シャルピー衝撃強さが3.5kJ/m2 で曲げ弾性率が1800MPa と衝撃強度も弾性率も低く、そしてビカット軟化温度が74℃と熱変形温度も低い。
<比較例2>
比較例2は、ゴム強化スチレン系樹脂(A)の分量が本発明の範囲を外れて多く、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)の分量が本発明の範囲を外れて少ないため、表面抵抗率が1013台Ωと制電性が悪い。
<比較例3>
比較例3は、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)が含まれていない点で本発明の範囲を外れているため、引張破壊歪みが2.6%、シャルピー衝撃強さが2.5kJ/m2 と破壊強度が極めて低い。
<比較例4>
比較例4は、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の分量が本発明の範囲を外れて多いため、メルトフローレイトが18g/10min と流動性が押出成形、真空成形、ブロー成形には高過ぎる。
<比較例5>
比較例5は、ポリエーテルエステルアミドとカルボキシル基含有スチレン系樹脂を用いる従来技術であるため、表面抵抗率が1012台Ωと制電性が悪い。
【0036】
<比較例6>
比較例6は、従来技術でポリエーテルエステルアミドとカルボキシル基含有スチレン系樹脂の分量を多くしたものであり、表面抵抗率が1011台Ωと制電性はそこそこだが、曲げ弾性率が1800MPa と弾性率が極端に低い。
<比較例7>
比較例7は、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の替わりにカルボキシル基含有スチレン系樹脂を用いたものであり、表面抵抗率が1012台Ωと制電性が悪い。
<比較例8>
比較例8は、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の替わりにポリエチレン−ポリスチレングラフト共重合体を用いたものであり、引張破壊歪みが2.6%、シャルピー衝撃強さが1.8kJ/m2 と破壊強度が極めて低い。
<比較例9>
比較例9は、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の替わりにポリプロピレン−ポリスチレングラフト共重合体を用いたものであり、引張破壊歪みが2.5%、シャルピー衝撃強さが1.7kJ/m2 と破壊強度が極めて低い。
【0037】
<界面活性剤(D)の選択>
(D)−1;界面活性剤(D)−1として竹本油脂株式会社製のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを選択した。
<樹脂組成物の製造−2>
上記で選択したゴム強化スチレン系樹脂(A)、上記で選択したポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、上記で選択したポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及び上記で選択した界面活性剤(D)を表3の上段に示す通り計量した。更に、上記で選択したポリエーテルエステルアミド、上記で選択したカルボキシル基含有スチレン系樹脂も用いて表4の上段に示す通り計量した。
計量した原料をドラムタンブラーで配合し、同方向二軸押出機で溶融、混練、ロータリーカッターで造粒して樹脂組成物(実施例8乃至10、比較例10乃至13)を得た。ここで、溶融、混練のプロセス温度は上記の樹脂組成物の製造−1と同様に設定した。
<物性の測定−2>
上記の物性の測定−1と同様の操作で、初期表面抵抗率及び初期体積抵抗率、6月後表面抵抗率、水洗後表面抵抗率、メルトフローレイト、引張破壊歪み、シャルピー衝撃強さ、曲げ弾性率、ビカット軟化温度を測定した。以上の物性測定の結果を表3、表4の下段に示した。
【0038】
<実施例8乃至10>
実施例8乃至10は何れも、本発明の範囲に合致したゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及び界面活性剤(D)を本発明の範囲に合致した分量で配合、溶融、混練、造粒した樹脂組成物であり、表面抵抗率が109 台Ωの優れた制電性、メルトフローレイトが4乃至5g/10min の様々な成形方法に対応できる流動性、シャルピー衝撃強さが5乃至6kJ/m2 で曲げ弾性率が2300乃至2400MPa という衝撃強度と弾性率のバランスの良さ、そしてビカット軟化温度が91乃至92℃の高い熱変形温度を兼ね備えている。
<比較例10>
比較例10は、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)が含まれていない点で本発明の範囲を外れているため、引張破壊歪みが2.0%、シャルピー衝撃強さが2.7kJ/m2 と破壊強度が極めて低い。
<比較例11>
比較例11は、ポリエーテルエステルアミドとカルボキシル基含有スチレン系樹脂を用いる従来技術であるため、表面抵抗率が1010台Ωと制電性が劣る。
【0039】
<比較例12>
比較例12は、従来技術でポリエーテルエステルアミドとカルボキシル基含有スチレン系樹脂の分量を多くしたものであり、表面抵抗率が109 台Ωと制電性はそこそこだが、シャルピー衝撃強さが5.1kJ/m2 で曲げ弾性率が1900MPa とバランスが悪い。
<比較例13>
比較例13は、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)の替わりにカルボキシル基含有スチレン系樹脂を用いたものであり、表面抵抗率が1010台Ωと制電性が悪い。又、引張破壊歪みが7.9%、シャルピー衝撃強さが4.2kJ/m2 と破壊強度も低い。
<リチウム塩(E)の選択>
(E)−1;リチウム塩(E)−1として三光化学工業株式会社製のサンコノールPEG200−50Tを選択した。トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを分子量が200のポリエチレングリコールに溶解した濃度50重量%の溶液である。
(E)−2;リチウム塩(E)−2として住友スリーエム株式会社製のフロラードHQ−115を選択した。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムである。
(E)−3;リチウム塩(E)−3として三光化学工業株式会社製のサンコノール0862−20Rを選択した。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムをビス(ブチルジグリコール)アジペートに溶解した濃度20重量%の溶液である。
【0040】
<樹脂組成物の製造−3>
上記で選択したゴム強化スチレン系樹脂(A)、上記で選択したポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、上記で選択したポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及び上記で選択したリチウム塩(E)を表5の上段に示す通り計量した。更に、上記で選択したポリエーテルエステルアミド、上記で選択したカルボキシル基含有スチレン系樹脂も用いて表6の上段に示す通り計量した。
リチウム塩(E)を化成品液体に溶解した溶液で用いる場合には、ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)若しくはポリエーテルエステルアミド、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)若しくはカルボキシル基含有スチレン系樹脂、リチウム塩(E)の溶液を一括して配合、溶融、混練、造粒した。ヘンシェルミキサーで配合し、異方向二軸押出機で溶融、混練、ロータリーカッターで造粒して樹脂組成物(実施例11、13乃至14、比較例14乃至15)を得た。ここで、溶融、混練のプロセス温度は上記の樹脂組成物の製造−1と同様に設定した。
一方、リチウム塩(E)の粉末を用いる場合には、先ずポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)とリチウム塩(E)をドラムタンブラーで配合し、同方向二軸押出機で溶融、混練、ファンカッターで造粒して中間原料を製造し、次にその中間原料とゴム強化スチレン系樹脂(A)とポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)をドラムタンブラーで配合し、異方向二軸押出機で溶融、混練、ロータリーカッターで造粒して樹脂組成物(実施例12)を得た。ここで、溶融、混練のプロセス温度は上記の樹脂組成物の製造−1と同様に設定した。
【0041】
<物性の測定−3>
上記の物性の測定−1と同様の操作で、初期表面抵抗率及び初期体積抵抗率、6月後表面抵抗率、水洗後表面抵抗率、メルトフローレイト、引張破壊歪み、シャルピー衝撃強さ、曲げ弾性率、ビカット軟化温度を測定した。以上の物性測定の結果を表5、表6の下段に示した。
<実施例11乃至14>
実施例11乃至14は何れも、本発明の範囲に合致したゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)及びリチウム塩(E)を本発明の範囲に合致した分量で配合、溶融、混練、造粒した樹脂組成物であり、表面抵抗率が108 台乃至109 台Ωの極めて優れた制電性、メルトフローレイトが4乃至5g/10min の様々な成形方法に対応できる流動性、シャルピー衝撃強さが7乃至9kJ/m2 で曲げ弾性率が2400乃至2500MPa という衝撃強度と弾性率の高度なバランス、そしてビカット軟化温度が92℃の高い熱変形温度を兼ね備えている。
<比較例14>
比較例14は、従来技術でポリエーテルエステルアミドとカルボキシル基含有スチレン系樹脂の分量を多くしたものであり、表面抵抗率が109 台Ωと制電性はそこそこだが、シャルピー衝撃強さが6.8kJ/m2 で曲げ弾性率が2000MPa とバランスが低い。
【0042】
<比較例15>
比較例15は、上記の比較例13と同様に従来技術でポリエーテルエステルアミドとカルボキシル基含有スチレン系樹脂の分量を多くしたものであり、更に、リチウム塩(E)の溶液として濃度20重量%のものを用いている。このため、シャルピー衝撃強さが5.1kJ/m2 で曲げ弾性率が1900MPa と衝撃強度と弾性率のバランスは一層低く、ビカット軟化温度が87℃と熱変形温度も低い。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の樹脂組成物は電子部品運搬資材等、内容物を電気的且つ物理的に保護する役割を担う用途に好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)からなり、(A)、(B)、(C)の重量比率が下記(数式1)乃至(数式3)を満たすことを特徴とする樹脂組成物。
(数式1)
0.80≦(A)/{(A)+(B)}≦0.95
(数式2)
0.05≦(B)/{(A)+(B)}≦0.20
(数式3)
0.20≦(C)/(B)≦1.00
【請求項2】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)が、ゴム強化ポリスチレン樹脂、或いは該樹脂にポリスチレン樹脂、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合ゴム、ポリスチレン・ポリブタジエン共重合樹脂から選択される1種以上を配合したものであることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)が、末端に反応基を有するポリオレフィンのブロックとポリオキシアルキレンを主構造とするポリマーのブロックが繰り返し交互に結合した共重合体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)が、ポリスチレンのブロックとポリブタジエンの二重結合の30%以上が水素添加で飽和されたブロックが結合した共重合体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に、界面活性剤(D)を下記(数式4)を満たす重量比率で加えたことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(数式4)
0.001≦(D)/{(A)+(B)+(C)}≦0.010
【請求項6】
界面活性剤(D)がアニオン性界面活性剤であることを特徴とする、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体(B)、ポリスチレン・ポリブタジエンブロック共重合体の水素添加物(C)に、下記式1で表されるリチウム塩(E)を下記(数式5)を満たす重量比率で加えたことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化1】

(式中、Zはトリフルオロメタンスルホニル基を、nは1乃至3の整数を、Yはn=1の場合酸素、n=2の場合窒素、n=3の場合炭素を表す。)
(数式5)
0.001≦(E)/{(A)+(B)+(C)}≦0.010
【請求項8】
リチウム塩(E)を下記式2で表される化成品液体に溶解した30乃至70重量%濃度の溶液の形態で添加したことを特徴とする、請求項7に記載の樹脂組成物。
【化2】

(式中、Xは水素、炭素数1乃至4のアルキル基、酢酸エステル残基、フタル酸エステル残基或いはアジピン酸エステル残基を、Wは水素或いはメチル基を、mは1乃至9の整数を、Vは水素或いは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。)
【請求項9】
リチウム塩(E)がトリフルオロメタンスルホン酸リチウムであり、該トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを分子量が200乃至400のポリエチレングリコールに溶解した30乃至70重量%濃度の溶液の形態で添加したことを特徴とする、請求項7又は8に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−89527(P2006−89527A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273579(P2004−273579)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(500199479)PSジャパン株式会社 (45)
【Fターム(参考)】