説明

持続性抗菌組成物、ならびにそれを用いて得られる抗菌膜および抗菌スプレー

【課題】持続性抗菌組成物、ならびにそれを用いて得られる抗菌膜および抗菌スプレーを提供すること。
【解決手段】持続性抗菌組成物は、1種またはそれ以上のポリマーまたはオリゴマーと、前記ポリマーまたはオリゴマーに分散した複数のナノワイヤーとを含有する。前記ナノワイヤーのアスペクト比は、20より大きく、前記ナノワイヤーは、ネットワーク状構造を形成している。この持続性抗菌性組成物は、例えば、抗菌膜、抗菌スプレーなどに用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持続性抗菌組成物に関し、特にナノワイヤーを含有する持続性抗菌組成物、ならびにそれを用いて得られる抗菌膜および抗菌スプレーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
清潔な生活環境の要求および効果的な公衆衛生という要因を背景にして、様々な抗菌材料が開発されている。抗菌という概念は、一般に、微生物の抑制または死滅を意味する。現在のところ、抗菌剤は、有機製剤および無機製剤の2種類に分類される。有機製剤は、通常、細菌に対して用いられるが、例えば、化学的な安定性に乏しく、熱分解しやすく、蒸発速度が高く、臭気があり、有効期間が短いなど、多くの欠点を有する。無機製剤は、Ag、Hg、Cu、Pd、Cr、Ni、Pb、Co、ZnおよびFeなどの金属イオンの使用により、細菌を死滅させたり、抑制したりすることができる。金属イオンを含む無機製剤は、抗細菌性が良好であり、様々な種類の細菌を抑制する能力を有し、人体に安全であり、有効期間が長いという長所を有する。金属イオンは、細胞壁の合成阻害、細胞膜の破壊、タンパク質の合成阻害、および、核酸の合成阻害という、4つの経路により、細菌を抑制または死滅させることが知られている。金属イオンのうち、Agイオンは、他の金属イオンと比較すると、細菌の増殖を抑制するのに最も効果的であり、これにより、良好な抗菌効果を有する(表1)(非特許文献1)。
【0003】
表1は、細菌に対する金属イオンの最小(増殖)阻止濃度(MIC)(μg/mL)である。
【0004】
【表1】

【0005】
Agイオンは、グラム陽性菌よりグラム陰性菌に対して効果的であり、Cuイオンは、グラム陰性菌よりグラム陽性菌に対して効果的であることが知られている(表2)。Cuイオンは、容易に酸化されるので、抗菌剤の開発は、Agイオンが主流であった(非特許文献1)。
【0006】
表2は、細菌に対するAgイオンおよびCuイオンの最小(増殖)阻止濃度(MIC)(μg/mL)である。
【0007】
【表2】

【0008】
銀は、水質浄化などに幅広く用いられてきた。19世紀以降、銀は、例えば、洗眼液、包帯、抗生物質など、医療分野で応用されてきた。21世紀になると、銀を用いた抗菌製品が開発されて、家電用品、衣類、医薬および抗菌スプレーなどに応用されるようになった。
【0009】
抗菌性金属材料のサイズがナノ構造になると、金属材料の比表面積も劇的に増加し、それにより、抗菌効果を生じる遊離の金属イオンが多くなる。例えば、銀ナノ粒子は、銀の塊や微粒子より表面積が大きく、抗菌能力は、約200倍増大する(呂氏(Lyu)、ナノテクノロジーセンター(Nanotechnology Reserch Center)、2007年)。金属ナノ粒子は、抑制速度を増大させるが、基材と混合すると、基材の表面上に露出したナノ粒子だけが、細菌の電極の引力により放出され、自由なナノ粒子が細菌と接触して、抗菌効果を発揮する。しかしながら、基材に固定されたナノ粒子は、通常、基材に妨害され、基材の表面に放出されることが抑制され、それにより、抗菌能力および効果的な期間が減少する。
【0010】
特許文献1には、簡便かつ低コストのマイクロリボン組成物が開示されている。この組成物は、低い光学密度を有する。しかしながら、マイクロリボンおよびナノワイヤーが同量の場合、マイクロリボンの表面積がナノワイヤーよりかなり小さいので、マイクロリボンは、Agイオンを少ししか放出しない。それゆえ、マイクロリボンの抗菌効果は、ナノワイヤーより低い。さらに、基材と混合すると、マイクロリボンは、露出する表面積が小さいので、抗菌能力が減少し、ナノワイヤーより効果的な期間が短くなる。
【0011】
特許文献2には、貴金属のナノ粒子およびナノワイヤーを含有する抗ウイルス組成物が開示されている。この組成物は、60分間から8時間にわたって、80%以上の銀イオンを放出する。しかしながら、空気と接触すると、特許文献2のナノワイヤーは、ナノ結晶になり、表面が粗雑になる。それゆえ、他の化合物を用いて、ナノ構造を安定させる必要がある。また、特許文献2の「ナノワイヤー」は、化学結合により、あるいは、他の化合物を用いることにより、Agナノ粒子をナノワイヤーの表面に固定することが規定されている。それゆえ、特許文献2の方法は、基材と混合すると、銀イオンが基材の表面に放出されるのを妨害し、それにより、抗菌効果が遅く、持続性が短くなる。
【0012】
上記の問題を解決するためには、速効性かつ持続性を有する抗菌組成物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0068025号公報
【特許文献2】国際公開第2007/001453号パンフレット
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】ジェイ・エル・ホァン(J.L.Huang)ら、金属の抗菌表面処理技術(Antibacterial Surface Treatment Technologies of Metals)、金属工業リサーチおよび発展センター(Metal Industrial Research and Development Centre),2008年7月
【非特許文献2】スン・ワイ(Sun Y)ら,シードおよびポリ(ビニルピロリドン)の存在下でエチレングリコールを用いてAgNO3を還元することによる均一な銀ナノワイヤー合成(Uniform Silver Nanowires Synthesis by Reducing AgNO3 with Ethylene Glycol in the Presence of Seeds and Poly(Vinyl Pyrrolidone)),ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chem.Mater),2002年,第14巻,p.4736−4745
【非特許文献3】ソン(Song)ら,改善された化学めっき法によるポリアクリロニトリル/Agコアシェルナノワイヤーの合成(Synthesis of Polyacrylonitrile/Ag Core−Shell Nanowire By An Improved Electroless Plating Method),マテリアルズ・レターズ(Materials Letters),2008年,第62巻,p.2681−2684
【非特許文献4】パーク(Park)ら,テンプレートとなる官能化されたシリカロッドを用いた銀ナノチューブの製造(Fabrication of Silver Nanotubes Using Functionalized Silica Rod as Templates),マテリアルズ・ケミストリー・アンド・フィジックス(Materials Chemistry and Physics),2004年,第87巻,p.301−310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、持続性抗菌組成物ならびにそれを用いた抗菌膜および抗菌スプレーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、1種またはそれ以上のポリマーまたはオリゴマーと、前記ポリマーまたはオリゴマーに分散した複数のナノワイヤーとを含有し、前記ナノワイヤーのアスペクト比が20より大きく、前記ナノワイヤーがネットワーク状構造を形成していることを特徴とする持続性抗菌組成物を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記のような持続性抗菌組成物を用いて得られる抗菌膜および抗菌スプレーを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、抗菌効果の持続性に優れた抗菌組成物、ならびにそれを用いて得られる抗菌膜および抗菌スプレーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の抗菌組成物のネットワーク状構造における金属イオンの移動を示す模式図である。
【図2】ナノワイヤーの構造を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】ポリマー中におけるナノワイヤーの分布を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】円形部分が試験膜である組成物の抗菌効果を示す図である。
【図5】四角部分が試験膜である組成物の持続性抗菌効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、抗菌性金属イオンを効果的に放出し、効果時間が長い新規なナノワイヤー組成物を提供する。この組成物は、抗菌性金属材料からなるナノワイヤーを含有する。ナノワイヤーは、特定のアスペクト比と一次元構造とを有し、ポリマーおよび/またはオリゴマー基材に混合される。本発明のナノワイヤーは、同量の塊または微粒子と比較すると、大きい表面積を有する。本発明のナノワイヤーは、基材中に、ネットワークまたはネットワーク状構造を構築する。ネットワークまたはネットワーク状構造は、外部から干渉を受けることなく、基材の内部に抗菌性金属イオンを保存する。病原菌または微生物が基材に接近すると、基材中に保存された抗菌性金属イオンは、病原菌または微生物のイオンポテンシャルにより影響され、ネットワークまたはネットワーク状構造を通じて、基材の表面に放出される。それゆえ、本発明の抗菌組成物は、抗菌性金属イオンを絶え間なく放出して、病原菌または微生物を抑制または死滅させることができる。本発明の抗菌組成物は、基材中に充填された、特定のアスペクト比を有するナノワイヤーを用いて、放出速度を増大させ、それにより、長い抗菌効果を提供する。
【0021】
本発明において、「ナノワイヤー」とは、20より大きい(20は含まれない)アスペクト比を有するナノ構造である。また、「アスペクト比」とは、ナノ構造の直径に対するナノ構造の長さの比率であり、式「アスペクト比=ナノワイヤーの長さ/ナノワイヤーの直径」で表される。
【0022】
ナノ構造のアスペクト比が1に近いと、ナノ構造の形態は、ナノ粒子である。アスペクト比が2以上、20以下であると、ナノ構造の形態は、ナノロッドになる。ナノ粒子またはナノロッドは、ネットワークまたはネットワーク状構造を効果的に形成することができないので、それらは、本発明に含まれない。
【0023】
本発明のナノワイヤーは、20より大きいアスペクト比を有するが、特に限定されるものではない。アスペクト比が大きくなると、ナノワイヤーは長くなる。長いナノワイヤーは、稠密なネットワークまたはネットワーク状構造を構成するので、持続性のある抗菌効果をもたらす。ナノワイヤーは、20より大きく、1,000未満のアスペクト比を有することが好ましく、20より大きく、500未満のアスペクト比を有することがより好ましく、基材中に均一に分布するが、本発明は、これに限定されるものではない。ナノワイヤーの最適なアスペクト比は、200以上、500以下である。
【0024】
本発明において、「ネットワーク状構造」とは、基材中におけるナノワイヤーが形成する3次元のネットワーク類似体である。金属イオンは、連結されたナノワイヤーまたは隣接するナノワイヤー上を移動する。「隣接する」という表現は、2個またはそれ以上のナノワイヤーが連結されていないが、これらのナノワイヤーが1nm〜90μmの距離内に存在すること意味する。注意すべきことは、ネットワーク状構造は、ナノワイヤーが連結されているかいないかにかかわらず、抗菌性金属イオンがナノワイヤー上を移動できるようにすることである。
【0025】
ある実施態様では、複数のナノワイヤー(110)が、ポリマーまたはオリゴマーからなる基材(100)中に分布し、ネットワーク状構造を形成している(図1に示す)。ネットワーク状構造は、抗菌性金属イオン(120)が異なるナノワイヤー(110)上を移動できるようにする。基材(100)の表面上に露出しているナノワイヤーが細菌の表面上で負の電気により引き付けられると、基材中の抗菌性金属イオン(120)がネットワーク状構造を通じて基材の表面上に放出されて、細菌を抑制するか、あるいは、死滅させる。それゆえ、ネットワーク状構造は、抗菌性金属イオンを保存するだけでなく、抗菌性金属イオンの放出を持続させることができる。
【0026】
本発明のナノワイヤーは、Ag、Fe、Cu、またはそれらの組合せなどの単一材料または複合材料からなる。ある実施態様では、ナノワイヤーは、不均一核形成用のPtまたはAgナノ粒子からなるシード上でAgを成長させることにより(AgNOを還元することにより)形成される(非特許文献2を参照されたい)。別の実施態様では、ナノワイヤーは、Agナノ粒子からなるシード上でCuまたはFeを成長させることにより形成される。必要に応じて、様々なシードが用いられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0027】
本発明のある実施態様では、コア−シェル構造を有するナノワイヤーが用いられる。この場合、コアは、ポリアクリロニトリル、二酸化ケイ素、Ag、Cu、またはそれらの組合せからなるが、本発明は、これらに限定されるものではない。シェルは、Ag、Fe、Cu、またはそれらの組合せからなる。ある実施態様では、ナノワイヤーは、コアとなるポリアクリロニトリルと、シェルとなるAgとから構成される。ある実施態様では、ナノワイヤーは、コアとなる二酸化ケイ素と、シェルとなるAgとから構成される。別の実施態様では、ナノワイヤーは、コアとなるCuと、シェルとなるAgとから構成される。ある実施態様では、ナノワイヤーは、ポリアクリロニトリル・ナノファイバーの表面上にUV光還元により形成されたシードとして機能するAgナノ粒子上にAgを成長させる化学めっき法により合成される(非特許文献3を参照されたい)。
【0028】
本発明のある実施態様では、ナノワイヤーは、ナノチューブを包含する。本発明において、ナノチューブは、Ag、Fe、Cu、またはそれらの組合せからなる。ある実施態様では、Agナノチューブは、テンプレートとなる官能化されたシリカロッドまたはポリマーラテックスの表面にAgナノ粒子を吸収させた後、化学エッチング法によりテンプレートを除去することにより合成される(非特許文献4を参照されたい)。
【0029】
ナノワイヤーまたはナノチューブは、ポリヒドロキシ化合物により官能化することができる。ポリヒドロキシ化合物は、ナノワイヤーまたはナノチューブの表面と化学結合を形成し、ナノワイヤーまたはナノチューブが均一な状態でアスペクト比を増大するようになる。本発明において、「均一な状態」とは、各々のナノワイヤーまたはナノチューブが±20%の範囲内で異なる長さを有することである。
【0030】
本発明のポリヒドロキシ化合物としては、例えば、水溶性ポリマーが挙げられる。水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリオール、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレングリコール、ポリヒドロキシアルカン、ポリアルカジエン、ヘテロ脂肪族ポリオール、飽和脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、飽和へテロ脂環式ポリオール、ヘテロ芳香族ポリオール、およびそれらの組合せが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。より詳しくは、本発明のポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、エチレンオキシド末端ポリプロピレングリコールおよびトリオール、ポリブタンジオール、ポリジアルキルシロキサンジオール、ヒドロキシ末端ポリエステル、ヒドロキシ末端ポリラクトン、ポリカプロラクトンポリオール、1,2−エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、3−クロロ−1.2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1.3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−,1,5−,および1,6−へキサンジオール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,8−オクタンジオール、二環式のオクタンジオール、1,10−デカンジオール、三環式のデカンジオール、ノルボルナンジオール、1,18−ジヒドロキシオクタデカン、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6−へキサントリオール、ペンタエリスリトール、キニトール、マンニトール、ソルビトール、ジエチレングリコール、メチレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジイソプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,11−(3,6−ジオキサウンデカン)ジオール、1,14−(3,6,9,12−テトラオキサテトラデカン)ジオール、1,8−(3,6−ジオキサ−2,5,8−トリメチルオクタン)ジオール、1,14−(5,10−ジオキサテトラデカン)ジオール、ヒマシ油、2−ブチン−1,4−ジオール、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ベンズアミド、4,4’−ビス(ヒドロキシエチル)ジフェニルスルホン、1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,2−,1,3−,および1,4−レゾルシノール、1,6−,2,6−,2,5−,および2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−,および4,4’−ビフェノール、1,8−ジヒドロキシビフェニル、2,4−ジヒドロキシ−6−メチル−ピリジミン、4,6−ジヒドロキシピリジミン、3,6−ジヒドロキシピリダジン、ビスフェノールA、4,4’−エチリデンビスフェノール、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジメチルフェノール)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル−1−フェニルエタン(ビスフェノールC)、1,4−ビス(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ポリビニルピロリドン、ヘテロ脂肪族ポリオール、飽和脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、飽和へテロ脂環式ポリオール、ヘテロ芳香族ポリオール、およびそれらの組合せが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。ある実施態様では、ポリヒドロキシ化合物は、好ましくは、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、またはそれらの組合せである。
【0031】
本発明におけるポリマーまたはオリゴマーは、膜を形成したり、ネットワーク状構造のナノワイヤーを均一に分散させたりするための基材として機能する。
【0032】
本発明のポリマーまたはオリゴマーとしては、例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ポリ(アミド−イミド)、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリオール、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、合成ゴム、シリコン含有ポリマー、ポリスルフィドなどの有機ポリマー、フッ素重合体(例えば、フルオロオレフィンとオレフィン系炭化水素との共重合体、非晶質フルオロカーボン重合体または共重合体)、およびそれらの組合せが挙げられる。より詳しくは、本発明のポリマーまたはオリゴマーとしては、例えば、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルキシレン、シリコン−エポキシ樹脂、ポリエーテルイミド、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン樹脂、ポリフェニレン、ポリフェニルエーテル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、ポリアセテート、ポリノルボルネン、ポリスルホン、ポリシルセスキオキサン、ポリシラン、シリコン−シロキサン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、セルロース誘導体、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンジエンゴム(EPDM)、ポリビニリデンフルオリド、ポリテトラフルオロエチレン(TFE)、ポリヘキサフルオロプロピレンなどが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。ある実施態様では、ポリマーまたはオリゴマーは、好ましくは、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリビニルブチラール(PVB)、またはそれらの組合せである。
【0033】
本発明の抗菌組成物において、ナノワイヤーの含有量は、使用するポリマーまたはオリゴマー100体積%に対して、0.1体積%以上(以下、「体積%」を「v/v%」で表すことがある)である。一般に、基材中に存在するナノワイヤーの含有量が多くなると、抗菌効果が良好になる。さらに、基材中のネットワーク状構造が稠密になると、抗菌効果の持続性が長くなる。しかしながら、基材中に均一に分散するためには、ナノワイヤーの含有量は、使用するポリマーまたはオリゴマー100体積%に対して、好ましくは、0.1体積%以上、10体積%以下である。ナノワイヤーの含有量は、コーティングやスプレーなど、必要に応じて、調節することができる。
【0034】
本発明において、「抗菌性」とは、ウイルス、細菌および真菌を死滅させること、あるいは、それらの増殖または活性を抑制することである。
【0035】
本発明において、「持続性」とは、本発明の抗菌組成物が、使用後、少なくとも20日間、好ましくは30日間以上にわたって、統計的に有意な抗菌効果を有することである。
【0036】
本発明の抗菌組成物には、添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、膜形成剤、希釈剤、安定剤などが挙げられる。本発明の抗菌組成物は、モールド、スクラッチング、スピンコート、スプレーなどにより、短時間で膜を形成することができる。添加剤の使用量は、用途や製造法などに応じて、当業者が調節すればよい。ある実施態様では、本発明の抗菌組成物は、組成物100質量%に対して、0.01質量%以上(以下、「質量%」を「wt%」で表すことがある)の使用量で、可塑剤または膜形成剤を含有する。
【0037】
本発明の抗菌組成物により形成された膜は、例えば、セラミックタイル、セメント、ガラス、木、プラスチックなどの固体基板上に貼り付けて、固定基板の表面上に、抗菌膜を形成することができる。さらに、この抗菌膜は、使用後、直接、除去することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0039】
≪実験例1≫
Agナノワイヤーの調製
Agナノワイヤーは、非特許文献2に開示された方法に従って調製した。
【0040】
まず、0.5mLの塩化白金(PtCl,99.99%)を無水エチレングリコール(EG,99.8%)に加えて、濃度1.5×10−4MのPtCl溶液を形成した。次いで、このPtCl溶液を5mLのEGに加え、約160℃で加熱した。4分間後、この加熱溶液に、2.5mLのAgNO溶液(EG中、濃度0.12M)および5mLのポリビニルピロリドン(PVP、Mw約55,000)溶液(EG中、濃度0.36M)を6分間にわたって滴下した。この反応混合物を、すべてのAgNOが完全に還元されるまで、約160℃で攪拌した。この反応混合物をアセトン(体積で5倍量)で希釈し、2,000rpmで20分間、遠心分離した後、上澄みを除去した。上澄みが無色になるまで、遠心分離操作を数回繰り返した。図2に示すように、直径30〜40nm、長さ20〜50μmのAgナノワイヤーが得られた。
【0041】
≪実験例2≫
Agナノワイヤーを含有する抗菌組成物およびその抗菌膜の調製
まず、70mLの脱イオン水を150℃に加熱した。加熱した脱イオン水に、20gのポリビニルアルコール(PVA)粉末を加えて、PVA溶液を形成した。実験例1で形成したAgナノワイヤーを、表3に示す処方で、それぞれPVA溶液に加えた。各PVA溶液を充分に混合して、Agナノワイヤーを含有する抗菌組成物を形成した。次いで、各抗菌組成物に、1wt%の可塑剤(グリセリン:エチレングリコール=1:3)を加えて、20分間、攪拌した。冷却後、各抗菌組成物をモールドに注入して、抗菌膜を形成した。
【0042】
走査電子顕微鏡(SEM)(倍率1,400倍)を用いて、処方1の抗菌組成物を観察した。その結果を図3に示す。Agナノワイヤーは、ポリマー中に均一に分散し、ネットワーク状構造を形成していた。
【0043】
【表3】

【0044】
≪実験例3≫
Agナノワイヤーを含有する組成物およびその除去可能な抗菌膜の調製
表4に示す処方に従って、5gのポリビニルブチラール(PVB)をエタノール(EtOH)に溶解した。このEtOH溶液に、0.62v/v%のAgナノワイヤー2mLおよび0.1mLまたは0.4mLのエチレングリコールモノブチルエーテル(EGBE)を加えた。得られた混合物をスプレー容器に注入し、ガラス板にスプレーした。5分後、除去可能な抗菌膜が形成された。
【0045】
【表4】

【0046】
≪比較実験例1≫
Agナノワイヤーを0.83v/v%のAgナノ粒子に置き換えたこと以外は、実験例2の方法に従って、PVA組成物を調製した。次いで、得られた組成物をモールドに注入して、膜を形成した。
【0047】
≪比較実験例2≫
Agワイヤーを加えなかったこと以外は、実験例2の方法に従って、PVA組成物を調製した。次いで、得られた組成物をモールドに注入して、膜を形成した。
【0048】
≪実験例4≫
抗菌性の試験
比較実験例1,2および実験例2(0.79v/v%のAgナノワイヤーを含有する)の各膜を3つの培地に別々に入れた。膜および培地に黄色ブドウ球菌を播種した後、37℃、CO下で、24時間、培養した。その結果を図4の第1日目に示す。
【0049】
次いで、各膜を新しい培地に別々に移し、黄色ブドウ球菌を播種し、さらに24時間、培養した。
【0050】
図4に示すように、比較実験例2の膜は、細菌コロニーにより被覆されており、PVA自身は抗菌効果を有しないことを示している。比較実験例1のAgナノ粒子を含有する膜の場合は、第1日目に少数の細菌コロニーしか形成されなかったことから、膜が抗菌効果を有することを示している。さらに、細菌コロニーが膜を包囲するように形成されたことは、抗菌効果が膜の周辺領域に拡大したことを示している。この拡大した領域は、「抗菌領域」または「透明領域」と呼ばれる。
【0051】
実験例2のAgナノワイヤーを含有する抗菌膜およびその周辺領域も第1日目に抗菌効果を示し、抗菌領域は比較実験例1よりも大きい(図4)。それゆえ、実験例2の抗菌膜は、抗菌膜上の細菌の増殖を抑制するだけでなく、Agイオンを放出して、周辺領域の細菌を死滅させる。それゆえ、Agナノワイヤーを含有する抗菌膜は、良好な抗菌能力を示した。
【0052】
これらの膜は、第2日目に、新しい培地上で、再度試験した。小さい抗菌領域を示す比較実験例1のAgナノワイヤーを含有する膜は、抗菌効果が減少することを示した。しかしながら、第2日目における実験例2の抗菌膜は、抗菌膜上に依然として少数の細菌コロニーしか有さず、第1日目と比較すると、同様の抗菌領域が観察された。この結果は、基材中のAgナノワイヤーがAgナノ粒子より長期にわたる抗菌能力を有することを示す。
【0053】
≪実験例5≫
持続性抗菌効果の試験
0v/v%(比較実験例2)、0.62v/v%および0.96v/v%のAgナノワイヤー(実験例2)を含有する各膜を、実験例4と同じ培養状態下で、3つの培地に別々に入れ、5日間培養した。これらの膜を新しい培地に別々に移し、黄色ブドウ球菌を播種し、さらに5日間培養した。この手順を2回繰り返した。第5日目および第20日目における細菌コロニーの分布を記録した。その結果を図5に示す。
【0054】
さらに、PVA自身は、抗菌効果を有しなかった(比較実験例2)。0.62v/v%および0.96v/v%のAgナノワイヤーを含有する実験例2の抗菌膜の場合、第5日目には、細菌コロニーが膜上に形成されていなかった。これらの抗菌膜の周辺領域には、細菌コロニーがほとんど見られなかった。また、10日後、抗菌領域は、わずかしか変化しなかった。抗菌領域のコロニーは、新しい培地中で増殖しなかった(データ非表示)。
【0055】
0.62v/v%および0.96v/v%のAgナノワイヤーを含有する実験例2の抗菌膜の場合、20日後でも、どちらも明確な抗菌領域が存在した。高い濃度(0.96v/v%)のAgナノワイヤーを含有する抗菌膜は、明確で大きい抗菌領域を示した。この結果、本発明の抗菌組成物は、持続性のある抗菌効果を有し、その抗菌効果は、使用したナノワイヤーの含有量に関係することがわかった。
【0056】
本発明では、好ましい実験例を上記の通り開示したが、これらは決して本発明に限定するものではなく、当該技術を熟知する者なら誰でも、本発明の精神と領域を脱しない範囲内で、様々な変更や修正を加えることができる。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲に記載した内容を基準とする。
【符号の説明】
【0057】
100:基材、110:ナノワイヤー、120:抗菌性金属イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種またはそれ以上のポリマーまたはオリゴマーと、前記ポリマーまたはオリゴマーに分散した複数のナノワイヤーとを含有し、前記ナノワイヤーのアスペクト比が20より大きく、前記ナノワイヤーがネットワーク状構造を形成していることを特徴とする持続性抗菌組成物。
【請求項2】
前記ナノワイヤーのアスペクト比が、200以上、500以下である請求項1に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項3】
前記ナノワイヤーが、Ag、Fe、Cu、またはそれらの組合せからなる請求項1または2に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項4】
前記ナノワイヤーがコア−シェル構造を有し、前記コアが、ポリアクリロニトリル、二酸化ケイ素、Ag、Cu、またはそれらの組合せからなり、前記シェルが、Ag、Fe、Cu、またはそれらの組合せからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項5】
前記ナノワイヤーがナノチューブである請求項1〜4のいずれか1項に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項6】
前記ナノワイヤーが前記組成物の0.1体積%以上、10体積%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項7】
前記ナノワイヤーがポリヒドロキシ化合物により官能化されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項8】
前記ポリヒドロキシ化合物が、ポリオール、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレングリコール、ポリヒドロキシアルカン、ポリアルカジエン、ヘテロ脂肪族ポリオール、飽和脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、飽和へテロ脂環式ポリオール、ヘテロ芳香族ポリオール、またはそれらの組合せである請求項7に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項9】
前記ポリヒドロキシ化合物が、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、またはそれらの組合せである請求項8に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項10】
前記ポリマーまたはオリゴマーが、有機ポリマー、フッ素重合体、またはそれらの組合せである請求項1〜9のいずれか1項に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項11】
前記ポリマーまたはオリゴマーが、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリビニルブチラール(PVB)、またはそれらの組合せである請求項10に記載の持続性抗菌組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の持続性抗菌組成物を用いて得られることを特徴とする抗菌膜。
【請求項13】
請求項1に記載の持続性抗菌組成物を用いて得られることを特徴とする抗菌スプレー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−21014(P2011−21014A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160761(P2010−160761)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】