説明

持続的な粉体流動性を示すエチレン尿素

本発明は、固体のエチレン尿素を製造する方法であって、水含有量が5〜15質量%のエチレン尿素の生成融解物を、解砕装置で冷却し、得られた固体の水含有量が生成融解物と本質的に同一であることを特徴とする製造方法に関する。更に、本発明は、本発明の方法により製造された固体のエチレン尿素であって、固体の水含有量が5〜15質量%であり、該固体が持続的な粉体流動性を示すことを特徴とするエチレン尿素に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体のエチレン尿素を製造する方法であって、水含有量が5〜15質量%のエチレン尿素の生成融解物を、解砕装置で冷却し、得られた固体の水含有量が生成融解物と本質的に同一であることを特徴とする製造方法に関する。更に、本発明は、本発明の方法により製造された固体のエチレン尿素であって、固体の水含有量が5〜15質量%であり、該固体が持続的な粉体流動性を示すことを特徴とするエチレン尿素に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン尿素(2−イミダゾリドン、イミダゾリジン−2−オン)は加工技術において様々な方法で広く使用されている。とりわけ製薬工業において中間体として重要である。エチレン尿素は、可塑剤、表面被覆剤、ポリマー並びにテキスタイル及び皮革の助剤の製造においても使用されている。処理は、使用分野によるが、連続式又はバッチ式で、例えば攪拌反応器内で行われる。
【0003】
様々な出発材料からエチレン尿素を製造する方法は以前から知られている。特許文献1〜3は、水の存在下にエチレンジアミンと尿素からエチレン尿素を製造することを提案している。得られたエチレン尿素は、粗生成物から分離され、水と残りのエチレンジアミンが除去され、次にフレーキングローラーに搬送される。フレークの製造及び包装は空気を除いて行わなければならない。別の方法として、生成物を適当な溶媒から結晶化することができる。
【0004】
特許文献4には、尿素の変わりに二酸化炭素を出発材料として使用すること以外は、上述した方法と同様の方法が記載されている。
【0005】
特許文献5では、安定剤、例えば、クエン酸をエチレン尿素に添加して、得られる生成物の色調安定性を改善することを提案している。エチレン尿素は、エチレンジアミンと尿素から製造することができる。最終生成物は、水溶液か固体(例えばフレークとして)のいずれかの形態であり得る。この方法でもまた、本質的に全ての水がエチレン尿素融解物から除去される。
【0006】
特許文献6では、白色で無臭の結晶性固体を得ることを目的として、イミダゾリドン類、特にエチレン尿素を精製する方法を開示されている。これは、エチレン尿素の水溶液をイオン交換樹脂に接触させることにより行うことができる。水溶液から透明な溶解物が得られ、これを冷却すると結晶の塊が得られる。この塊を微細な粉末に解砕し、乾燥する。この生成物には、精製に用いた不特定量のイオン交換樹脂が含まれる。
【0007】
特許文献7では、尿素のペレット化方法並びにこれに好適なペレット化装置が記載されている。薄い生成物溶媒フィルムを施すことにより、大気湿度が高くても吸湿性の生成物にとって一定のペレットの質を確保することができる。この生成物は本質的に乾燥しており、処理中では極めて少量の液体しか吸収しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US2436311
【特許文献2】US2504431
【特許文献3】US2526757
【特許文献4】US2497309
【特許文献5】US2751394
【特許文献6】US2993906
【特許文献7】DE102005054462A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Industrial crystallization of melts, Marcel Dekker, New York, 2005 (chapters 3 and 4, pp.45-116)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、持続的な粉体流動性を示し、非粉の(nondusting)エチレン尿素を安価に製造する方法を提供することにある。特に、生成物を容器内で何カ月もの間貯蔵した後であっても、出しやすくするための機械的助力を用いることなく、ただ単に傾けること(tipping)により、サックやドラム缶等の密閉容器を空にすることができるべきである。更に、本発明の目的は、白〜淡黄色の生成物を提供することにある。特に、生成物は変色すべきでなく、あるいは貯蔵中の著しい変色を生じるべきでない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本目的は、本発明の特徴により達成される。本発明の第一の特徴は、固体のエチレン尿素を製造する方法であって、水含有量が5〜15質量%のエチレン尿素の生成融解物(product melt)を解砕装置で冷却し、得られた固体が生成融解物の水の含有量と本質的に同一であることを特徴とする固体のエチレン尿素の製造方法により達成される。
【0012】
本発明は更に、本発明の方法により得られた固体のエチレン尿素であって、該固体の水含有量が5〜15質量%であることを特徴とするエチレン尿素を提供する。
【0013】
本発明の方法により製造されたエチレン尿素は様々な方法、例えば、化学合成における反応物質や混合物の成分として使用することができる。エチレン尿素は、特に、可塑剤、表面被覆剤及び医薬品を製造するために使用される。本発明は更に、本発明のエチレン尿素又は本発明の方法により製造されたエチレン尿素を、表面被覆剤並びにテキスタイル及び皮革の助剤を製造するために使用する方法を提供する。表面被覆剤の製造並びにテキスタイル及び皮革工業において、エチレン尿素は特にホルムアルデヒド捕捉剤として使用される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
好ましい実施の形態は特許請求の範囲及び明細書から見出される。好ましい実施の形態の組み合わせもまた本発明により含まれる。
【0015】
エチレン尿素は、1,2−エチレンジアミンと尿素の反応により工業的に製造することができる。すなわち、これら2つの出発物質を混合し、少なくとも260℃まで加熱することにより製造することができる。これにより、所望とする化合物及びアンモニア、更に水に不溶性の副生成物を含む粗融解物が形成される。この粗融解物を通常、好適な溶媒、好ましくは水で150℃に急速冷却する。これにより、エチレン尿素の含有量が、例えば約80%である水溶液を得る。この水溶液について、水に不溶性の副成分を例えばろ過により通常除去する。所望とする生成物のエチレン尿素は、更なる処理工程において結晶化により水溶液から分離するのが一般的である。この結晶は公知の方法、例えばスクリーンスクリュー式遠心分離機内で遠心分離により分離することができる。このようにして製造された結晶化エチレン尿素は、未だなお約5〜15質量%、例えば、8〜12質量%、通常約10質量%の水を含む。
【0016】
この生成物を貯蔵した場合、湿った結晶が互いに隣接し合い、この塊が互いに凝集して数時間以内に固体のブロックを形成する。市販のエチレン尿素のこの性質は、例えば、使用者が容器に簡単に計量供給することはできず、更なる使用の前に機械的に解砕しなければならないことを意味している。
【0017】
互いに凝集することを防止する方法は、例えば、パドル乾燥機等の好適な乾燥装置内で湿った結晶を乾燥させることである。この工程は、比較的複雑であり、細かい粉状の粉化生成物が得られる。この生成物は、バッチの表面に浮くので、バッチに攪拌するのが困難である。
【0018】
驚くべきことに、互いの凝集は、以下に詳述する代替方法により回避することができる。
【0019】
本発明によれば、水を含むエチレン尿素の生成融解物を、解砕装置(breaking up apparatus)で冷却し、固体に変化させる。水を含む生成融解物は様々な方法で製造することができる。有利な実施の形態では、結晶化エチレン尿素を50〜120℃、好ましくは80〜100℃において融解する。これにより、結晶の中に含まれる水の量に応じて、エチレン尿素を85〜95質量%、例えば88〜92質量%、通常約90質量%含む生成融解物を得る。本発明における生成融解物の水含有量の範囲を確保するために、更なる工程、例えば蒸留を行うことが可能である。しかしながら、このような追加的な処理工程は通常必要ではない。
【0020】
更なる有利な類型では、反応により得られた粗融解物を水で急冷する。これは例えば、粗融解物を水の容器に導入するか、水を融解物に導入することにより行う。この融解物は、通常50〜120℃、好ましくは80〜100℃とされる。水に不溶性の副生成物を、例えばろ過等の慣用の方法により融解物から分離することができる。
【0021】
記載した2つの類型のうち一つにより製造された生成融解物は、2〜18質量%、好ましくは5〜15質量%、特に好ましくは8〜12質量%の水含有量を有する。
【0022】
本発明の方法において、冷却可能な解砕装置は原理的にはどのようなものでも使用することができる。好ましい実施の形態では、解砕装置はフレーキングローラー(flaking roller:フレーク化ローラー)を本質的に含む。フレーキングローラーは冷却媒体、好ましくは水で内部から冷却する中空の金属シリンダーである。ローラーの外側の温度は10〜30℃が好ましい。生成融解物は種々の方法でローラーと接触させることができる。融解物を通常過熱可能なパンに供給する。ローラーをパンに部分的に浸漬し、ローラーが回転するにつれて生成物を連続的に除去する。生成物は、典型的にはより小さな別の取り上げローラーを用いてフレーキングローラーに施すこともできる。パンに浸漬する別の方法は、融解物を横又は上からフレーキングローラー上に供給する方法である。例えば2つのローラーの間の距離が最も短い個所で、生成物を供給する逆に回転する2つのローラーシステムも可能である。生成溶融物をローラー上で冷却し、凝固させる。凝固した物質を、除去装置、例えばストリッパーやナイフでフレーキングローラーから取り除く。これにより、不規則な形をしたフレークが通常得られる。除去装置を適当に選択することで、フィルム状、顆粒状、針状あるいは他の幾何学的形状を得ることも可能である。フィルムの厚さやローラーの回転速度等の稼働パラメーターは、公知の方法により当業者により決定することができる。
【0023】
フレーキングベルトは本発明における解砕装置の代替形態である。フレーキングベルトは通常ループ状に動く薄いベルト、例えば、厚さが約1mmのステンレス鋼ストリップからなる。ベルトの上部には通常、冷却媒体、好ましくは水が下側から噴射され、ベルトの表面が好ましくは10〜30℃とされる。生成融解物は、種々の方法でベルトに施すことができる。1つの方法は、融解物が供給される中央に、逆に回転する2つのローラーを含むシステムである。ベルトに施される融解物の厚さは、ローラーの間隔、ローラーの回転速度及びベルトの速度により調節することができる。別の方法として、排水管を有するパンを用いて、ベルトに融解物を均一に施すことができる。融解物はベルト上で凝固し、通常除去装置により、ベルトが方向を変える箇所においてベルトから除去される。除去装置は、ストリッパー、スクレーパーあるいは凝固物質をベルトから分離するのに好適な他の装置であってよい。除去装置は、凝固物質を解砕できるように構成することもできる。例えば、ベルトから分離されたプレートをフレークに解砕するローラーシステムである。
【0024】
本発明に係る解砕装置の更なる実施の形態は、特許文献7に記載されたものと同様の構造を有するペレット化ベルトである。ペレット化ベルトの機能は、上述したフレーキングベルトの機能と類似している。しかしながら、生成融解物はフィルムの形態でベルトに施すのではなく、ベルトの冷却により凝固してペレットを形成する個々の液滴として塗布する。液滴の成形は、通常、穴のあいた(perforated)外側のシリンダーが内側のステーター(固定子)の周りを回転するローター−ステーターシステムを用いて行う。生成融解物は、穴のあいたシリンダーにステーターを介して内側から施される。融解物は、穴を通り抜けてベルト上にいき、外側のシリンダーの回転により個々の液滴にせん断される。
【0025】
ペレット化ベルト、フレーキングベルト及びフレーキングローラー、更にこれらの構造の全体的な概観は非特許文献1に記載されている。
【0026】
形成したフレーク又はペレットは水含有量が生成融解物と本質的に同じである。フレークの形及び大きさは使用した解砕装置に依存する。フレークは不規則な形であるのが通常である。これらの長さと幅はそれぞれ通常0.5〜3cm、好ましくは1〜2cmである。フレークの厚さは通常0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mmである。ペレットは5〜10mmの円形断面を本質的に有し、底部は平坦であり、頂部は凸状である。
【0027】
水に溶解したエチレン尿素のフレーク又はペレットのpHは通常10〜11、好ましくは10.5である。これは、10%濃度のエチレン尿素溶液を20℃で測定したものである。フレークは乾燥した感触を有する。
【0028】
生成融解物を結晶化した材料から得る場合、フレーク又はペレットは、色数が80APHA未満、好ましくは50APHA未満、特に好ましくは20APHA未満の白色である。フレーク又はペレットは水に攪拌させたときは、透明な溶液となる。フレーク若しくはペレットそれ自体及びその水溶液は、いずれも感知できるほどの臭気を有さない。
【0029】
生成融解物を粗融解物から直接製造した場合、代替類型に記載したように、フレーク又はペレットは、白色〜淡黄色であり、色数が250APHA未満、好ましくは200APHA未満、特に好ましくは150APHA未満である。水に攪拌すると、わずかな濁りが認められた。フレーク又はペレット及びその水溶液は僅かなアンモニアの臭いを有し得る。
【0030】
結晶化した材料と比較して、本発明の方法により製造された固体のエチレン尿素、特にフレーク又はペレットは、サックやドラム缶等の固定された容器に何か月もの間貯蔵した後であっても、塊にはならず、粉体流動性を示していた。フレーク又はペレットは、結晶化した材料と本質的に同一の水含有量を有するので、いっそう驚くべきことである。
【0031】
本発明の方法を以下の実施例により説明する。これらの類型は本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
2500kgの結晶化エチレン尿素を加熱可能な攪拌容器に供給し、80℃に加熱し、次いでそれ自体の結晶水に融解させた。この生成融解物を、水で25〜33℃に冷却したフレーキングローラー上に100〜300kg/hの量で直接的に搬送した。これにより、約0.5〜1mmの厚さの白色で不規則な形状のエチレン尿素のフレークを2440kg得た。長さと幅はそれぞれ約1〜2cmであった。フレークは乾燥した感触を有していたが、水を分離し得る更なる工程が融解工程とフレーキング工程の間になかったので結晶化材料と同じ水含有量を有していた。
【0033】
実施例2
エチレンジアミンと尿素との反応により得られた粗エチレン尿素の高温の融解物4000kgを、攪拌容器内で400kgの水と可能な限り早く混合し、80℃に冷却した。このようにして得られた生成融解物を、まず遠心ディスクフィルター(centrifugal disk filter)を通して80℃において何度も濾過し、次に100〜300kg/hの流速で、水で25〜33℃に冷却したフレーキングローラー上に搬送した。これにより、白〜淡黄色で、約0.5〜1mm厚で、不規則な形のエチレン尿素フレークを4200kg得た。長さと幅は、それぞれ約1〜2cmであった。水の含有量が9質量%であるにもかかわらず、フレークは乾燥した感触を有していた。
【0034】
両実施例では、幅が2000mmで直径が1000mmのスチールフレーキングキングローラーを使用した。フレーキング(フレーク化)中の回転速度は1〜2rpmであり、エチレン尿素融解物をフレーキングローラーにまずゆっくりと施し、次いで次第に早く施した。フレーキングローラー上のエチレン尿素フィルムの厚さは約1mmであった。
【0035】
上述の実施例の出発材料と得られた生成物の量の相違、それぞれ60及び200kgは、それぞれの場合に使用していた空の汚れていないフレーキングローラー及び実験を終えた後に装置の中に残った残留量によるものである。フレーキングローラーを連続的に作動させた場合、これらの残留量の著しい変化はなかった。
【0036】
ドラム缶(70kg−PEドラム缶)を貯蔵し、1週間、3か月、6か月及び1年間保存した後、蓋を開いた。1年間保存した後のものであっても、ドラム缶を逆さにすることにより問題なく中身を空にすることができた。ドラム缶の底にあったフレークでも、上部にある材料の圧力によるはっきりとした圧縮はなかった。厳重に密閉したドラム缶に保存されている間の色数とフレークの水含有量の変化は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体のエチレン尿素を製造する方法であって、
水含有量が5〜15質量%のエチレン尿素の生成融解物を、解砕装置で冷却し、得られた固体の水含有量が生成融解物と本質的に同一であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
生成融解物と固体の水含有量が8〜12質量%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水を含む生成融解物を、結晶化エチレン尿素を融解させることにより得る請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
水を含む生成融解物を、水とエチレン尿素の粗融解物を混合することにより得る請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
解砕装置がフレーキングローラー又はフレーキングベルトである請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
解砕装置がペレット化ベルトである請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の方法により得られる固体のエチレン尿素。
【請求項8】
色数が150APHA未満である請求項7に記載のエチレン尿素。
【請求項9】
固体がフレークの形で存在している請求項7又は8に記載のエチレン尿素。
【請求項10】
フレークの形が不規則であり、フレークの長さ及び幅がそれぞれ1〜2cmであり、厚さが0.1〜2mmである請求項7〜9の何れか1項に記載のエチレン尿素。
【請求項11】
固体がペレットの形で存在している請求項7又は8に記載のエチレン尿素。
【請求項12】
請求項1〜6の何れか1項に記載の方法により製造されたエチレン尿素又は請求項7〜11の何れか1項に記載のエチレン尿素を、表面被覆剤、テキスタイルの助剤又は皮革の助剤の製造に使用する方法。

【公表番号】特表2011−506532(P2011−506532A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538582(P2010−538582)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067193
【国際公開番号】WO2009/080513
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany