説明

指紋撮影装置

【課題】高反射性の検体表面であっても、光源の形状が撮影機に写り込まず、検体表面の指紋の形状を正確に撮影することができる指紋撮影装置を提供する。
【解決手段】指紋5を含む検体6表面に光を照射するための光源10と、光源10から照射された光を集光する集光レンズ20と、集光された光の一部を反射して検体6表面に照射するハーフミラー30と、検体6表面の指紋5をハーフミラー30越しに撮影するカメラ40と、を備え、集光レンズ20の焦点距離をf、光源10と集光レンズ20との間の光路長をx、集光レンズ20から検体6表面までの光路長をyとすると、検体6表面が高反射率の場合に、(1/f)<(1/x)+(1/y)、かつ、x>fが成立するように光源10、集光レンズ20、および検体6表面の位置を設定し、光源10が検体6表面で結像しないように光源10を集光レンズ20側に近付けて配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体表面の指紋を撮影するための指紋撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
犯罪現場に残された遺留品から容疑者を割り出したり、身元を確認したりする方法として、その遺留品の表面に付着残留している指紋を検出する方法が広く用いられている。
【0003】
人の皮膚からは、水分を主体として、その他に塩化ナトリウム、カリウム、カルシウムといった無機質、アミノ酸、乳酸といった有機物、皮脂などが絶えず分泌されており、物体表面に残された指紋は、これらの分泌物が指先から物体表面へと転写されて形成されたものである。物体表面に形成された指紋には、可視的な顕在指紋と、肉眼では見えないが特別な手段によって検出可能な潜在指紋とに分けられる。
【0004】
顕在指紋は、そのままゼラチン紙に転写するか、特殊撮影方法を使用し採取される。また、潜在指紋の検出には、アルミニウムなどの微粉末を潜在指紋の成分に付着させて顕在化する粉末法(固体法)、ニンヒドリンなどを含む溶液を付着させて潜在指紋の成分と反応させて顕在化する溶液法(液体法)、ヨウ素ガスやシアノアクリレートガスなどを潜在指紋の成分と反応させて顕在化する気体法などの方法が用いられている(例えば、特許文献1など)。
【0005】
そして、顕在指紋、および顕在化された潜在指紋は、証拠保全のために写真撮影されることがある。しかしながら、例えば、前述したシアノアクリレートガスで処理された指紋は、顕在化されてはいるものの、容易に目視観察することができず、それらの指紋を写真撮影する際には、斜めからライトで光を照射し、指紋隆線に影をつけて撮影を行なっている。そのため、その撮影作業には多大な時間と労力を要している。また、前述の固体法、液体法、気体法などの方法により潜在指紋を顕在化してしまうと、元々の指紋に何らかの手を加えることになり、指紋を生のまま保存することができなくなってしまう。
【0006】
この問題点を解決するための手段として、下記の特許文献2には、外光を遮断する外光遮断フード内部に光を照射する光源と、光源から発せられた光を軽度に収束させてその光が検体表面で正反射し撮影機に入射するように配設した光学系と、前記外光遮断フードに着脱自在に固定し潜在指紋を含む検体を撮影する撮影機とを備える指紋撮影装置が記載されている。この指紋撮影装置によれば、撮影機を取り外して指紋を容易に目視することができ、目視観察が困難な不鮮明な指紋も短時間に簡単な操作で写真撮影することができる。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−502088号公報
【特許文献2】特開平6−147852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載された指紋撮影装置では、光源、集光レンズ、および検体の相対的な位置関係によっては、検体表面がガラスなどの反射性の高い材質であった場合、検体表面で光源の形状が結像してしまい、光源の形状が撮影機に写り込んでしまうおそれがある。その結果、指紋の形状と光源の形状とが重なった写真が撮影され、指紋の形状を把握しづらくなることがある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高反射性の検体表面であっても、光源の形状が撮影機に写り込まず、検体表面の指紋の形状を正確に撮影することができる指紋撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明に係る指紋撮影装置は、指紋を含む検体表面に光を照射するための光源と、光源から照射された光を集光する集光レンズと、集光された光の一部を反射して検体表面に照射するハーフミラーと、検体表面の指紋をハーフミラー越しに撮影する撮影機と、を備え、集光レンズの焦点距離をf、光源と集光レンズとの間の光路長をx、集光レンズから検体表面までの光路長をyとすると、検体表面が高反射率の場合に、(1/f)<(1/x)+(1/y)、かつ、x>fが成立するように光源、集光レンズおよび検体表面の位置を設定し、光源が検体表面で結像しないように光源を集光レンズ側に近付けて配置したことを特徴とする。
【0011】
この構成の作用効果は以下のとおりである。本発明の指紋撮影装置は、指紋を含む検体表面に光を照射するための光源と、光源から照射された光を集光する集光レンズと、集光された光の一部を反射して検体表面に照射するハーフミラーと、検体表面の指紋をハーフミラー越しに撮影する撮影機と、を備える。ここで、集光レンズの焦点距離をf、光源と集光レンズとの間の光路長をx、集光レンズから検体表面までの光路長をyとすると、検体表面が高反射率の場合に、(1/f)<(1/x)+(1/y)、かつ、x>fが成立するように光源、集光レンズ、および検体表面の位置を設定し、光源が検体表面で結像しないように光源を集光レンズ側に近付けて配置している。仮に、(1/f)=(1/x)+(1/y)が成立する位置に、光源、集光レンズ、および検体表面を配置すると、光源の形状は検体表面で結像する。このとき、検体表面がガラスなどの反射性の高い材質であった場合、撮影機に光源の形状が写り込んでしまうが、光源を集光レンズ側に近付けて配置することにより、光源が検体表面で結像しないので、光源の形状が撮影機に写り込まず、検体表面の指紋の形状を正確に撮影することができる。なお、光源を集光レンズから遠ざけて配置することにより、光源が検体表面で結像しないようにすることも可能であるが、光源から集光レンズへ入射する光量が少なくなる点、および指紋撮影装置が大きくなる点などから、光源を集光レンズ側に近付けて配置する構成が好ましい。
【0012】
本発明にかかる指紋撮影装置は、前記光源の位置は、光軸に沿って変更可能であることが好ましい。
【0013】
検体表面の種類によっては、光があまり反射せず、光源の形状が撮影機に写り込むことがないので、光源の位置を光軸に沿って変更可能に構成することにより、光源、集光レンズ、および検体表面を、(1/f)=(1/x)+(1/y)が成立する位置に配置可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る指紋撮影装置の実施形態の一例について図面を用いて説明する。図1は、指紋撮影装置の外観構成を示す斜視図である。図2は、指紋撮影装置の内部構成を示す概略図である。
【0015】
指紋撮影装置Aは、主として、光源部1、集光レンズ部2、ハーフミラー部3、撮影部4とから構成される。
【0016】
光源部1は、検体表面に光を照射するためのものであり、光源部1の内部には、光源10が設けられている。光源10としては、LEDを利用した面光源が例示される。光源10は、駆動機構11により光軸に沿って移動可能に設けられている。駆動機構11としては、光源10を光軸に沿って移動可能であれば、ネジ式、スライド式など公知の機構を適宜使用することができる。また、光源部1の内部には、光源10を駆動するための電池(不図示)などが収容される。
【0017】
光源10から照射された光は、集光レンズ部2で集光される。集光レンズ部2は筒状をしており、内部には集光レンズ20が設けられている。集光レンズ20は、色収差や球面収差などを補正することができるものが好ましい。
【0018】
ハーフミラー部3は、円筒状をしており、その内部にハーフミラー30が設けられている。ハーフミラー30は、透過と反射が1:1の特性を有するものが用いられる。ハーフミラー30は、集光レンズ20の光軸およびハーフミラー部3の円筒軸に対して、それぞれ45°傾くようにして設けられている。
【0019】
ハーフミラー部3の一端側は、検出対象の指紋5を含む検体6の表面を覆い、外光を遮断することができる。ハーフミラー部3の他端側には、撮影部4が接続される。また、ハーフミラー部3の側壁には、ハーフミラー部3の円筒軸に直交するように集光レンズ部2が設けられている。
【0020】
撮影部4として、カメラ40(撮影機に相当)を用いる例を図に示す。カメラ40は、検出対象の指紋5に対して垂直方向に配置され、撮影される指紋5の像が歪みにくくなっている。なお、撮影部4としては、スチールカメラやCCDカメラ、ビデオなどを用いることができる。また、カメラ40とハーフミラー部3との間には、図のように、マクロ撮影を可能にするマクロレンズ41を介するのが好ましい。
【0021】
本発明に係る指紋撮影装置による指紋撮影の原理について、図3を用いて説明する。図3は、光源10、集光レンズ20、ハーフミラー30、カメラ40、および検体6(指紋5を含む)を模式的に示したものである。
【0022】
光源10から照射された光は、集光レンズ20で集光される。集光された光が平行光線に近い光となるような集光レンズ20が用いられる。
【0023】
集光レンズ20で集光された光は、ハーフミラー30に入射する。ハーフミラー30は、入射された光の一部を透過させ、一部を反射させることができる。ここでは、入射された光のうち、約半分が透過し、残りの約半分が反射する。ハーフミラー30で反射された光は、入射された光と約90°の角度を有し、検体6の表面に対して、ほぼ垂直に照射される。これにより、検出対象の指紋5に垂直方向から平行光線が照射され、指紋5のわずかな凹凸により光が乱反射して、その結果、指紋5が認識可能となる。
【0024】
また、検体6に照射された光は、検体6の表面で反射し、反射した光は、ハーフミラー30に入射する。ハーフミラー30は、入射された光の一部を透過させ、透過した光はカメラ40に入射する。これにより、指紋5の垂直方向、すなわちカメラ40の方向からは、ハーフミラー30越しに、光に照らされた指紋5の観察、撮影を行なうことができる。
【0025】
ここで、図3に示すように、光源10と集光レンズ20との間の光路長をx、集光レンズ20とハーフミラー30の光軸中心までの光路長をa、ハーフミラー30の光軸中心から検体6の表面までの光路長をb、ハーフミラー30の光軸中心からカメラ40までの光路長をcとする。集光レンズ20から検体6の表面までの光路長をyとすると、y=a+bと表すことができる。
【0026】
ところで、集光レンズ20の焦点距離をfとすると、f、x、yの間に、
(1/f)=(1/x)+(1/y)・・・(1)
の関係が成立するように、光源10、集光レンズ20、検体6をそれぞれ配置すると、光源10の形状が、検体6の表面の位置で結合する。カメラ40の焦点は、指紋5、すなわち検体6の表面に合わさせるので、検体6の表面に結像した光源10は、カメラ40にそのまま写り込んでしまう。よって、検体6の表面に光源10が結像し、検体6の表面で均一な照射状態とはならず、指紋5が不明瞭になるおそれがある。このような問題は、検体6の表面がガラスなどの反射性の高い材質であった場合に特に生じやすい。
【0027】
そこで、本発明に係る指紋撮影装置は、検体6の表面が高反射率の場合に、(1/f)<(1/x)+(1/y)、かつ、x>fが成立するように光源10、集光レンズ20、および検体6の表面の位置を設定し、光源10が検体6表面で結像しないように光源10を集光レンズ20側に近付けて配置している。式(1)の関係を満たす光源10、集光レンズ20、ハーフミラー30、検体6の位置から、集光レンズ20、ハーフミラー30、検体6の配置を変えない状態で、光源10を集光レンズ20に近付けると、式(1)におけるxの値は小さくなり、(1/f)<(1/x)+(1/y)の関係を満たし、光源10が検体6の表面で結像しなくなる。これにより、光源10の形状がカメラ40に写り込まず、検体6表面の指紋5の形状を正確に撮影することができる。また、本発明によれば、潜在指紋にも手を加えることなく、指紋の鮮明な撮影画像を得ることができる。
【0028】
また、検体6の表面の種類によっては、光があまり反射せず、光源10の形状が検体6表面で結像してもカメラ40に写り込むことがないので、光源10の位置を上述の駆動機構11により光軸に沿って変更し、f、x、yが上記の式(1)の関係を満たすようにしてもよい。
【0029】
<別実施形態>
光源10として、砲弾型のLEDを用いることもできる。砲弾型のLEDを用いることにより、光量や指向性の面からも適当な光量を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】指紋撮影装置の外観構成を示す斜視図
【図2】指紋撮影装置の内部構成を示す概略図
【図3】指紋撮影の原理について説明するための図
【符号の説明】
【0031】
1 光源部
2 集光レンズ部
3 ハーフミラー部
4 撮影部
5 指紋
6 検体
10 光源
11 駆動機構
20 集光レンズ
30 ハーフミラー
40 カメラ
41 マクロレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指紋を含む検体表面に光を照射するための光源と、
光源から照射された光を集光する集光レンズと、
集光された光の一部を反射して検体表面に照射するハーフミラーと、
検体表面の指紋をハーフミラー越しに撮影する撮影機と、を備え、
集光レンズの焦点距離をf、光源と集光レンズとの間の光路長をx、集光レンズから検体表面までの光路長をyとすると、
検体表面が高反射率の場合に、(1/f)<(1/x)+(1/y)、かつ、x>fが成立するように光源、集光レンズおよび検体表面の位置を設定し、光源が検体表面で結像しないように光源を集光レンズ側に近付けて配置した指紋撮影装置。
【請求項2】
前記光源の位置は、光軸に沿って変更可能である請求項1に記載の指紋撮影装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−35906(P2010−35906A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204031(P2008−204031)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000135313)ノーリツ鋼機株式会社 (1,824)
【Fターム(参考)】