説明

指紋検出用液及びそれを用いた指紋検出方法

【課題】潜在指紋の検出が困難な油が付着した普通紙等の潜在指紋の検出に使用することができるニンヒドリンを含有する指紋検出用液であって、指紋のにじみ、指紋以外の文字等の情報のにじみや消失等が発生せず、取扱いが容易な、指紋検出用液および前記指紋検出用液を用いた指紋検出方法を提供すること。
【解決手段】a)低極性又は非極性の揮発性オイルを含有する油相、b)ニンヒドリン、水を含有する水相、及びc)非イオン界面活性剤を含有し、使用時に油相と水相を乳化することを特徴とする指紋検出用液、および前記指紋検出用液を用いた指紋検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鑑識技術分野において指紋を含む被検体、特に油が付着した被検体から潜在指紋を検出するための、ニンヒドリンを含有する指紋検出用液、および前記指紋検出用液を用いた指紋検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、指紋検出方法としては、(1)アルミニウム系の銀色粉末、銅系の金色粉末、カーボン系の黒色粉末、またはその他の白色粉末もしくは有色粉末を用いて、被検体に付着した分泌物中の水分および脂肪分に前記粉末を付着させ、被検体の背景色と粉末の色との色相差を利用して検出する方法、(2)被検体を乾燥させた後に分泌物中の脂肪分をヨウ素ガスと反応させ、呈色させて検出する方法等が知られている。
【0003】
また、紙等に付着した指紋を検出するための従来の方法として、(3)ニンヒドリンを用いる方法が一般に用いられている。この方法は、人体の汗に含まれるアミノ酸がニンヒドリンと反応して紫色に発色することを利用したものである。新聞紙、リポート用紙、上質紙等の普通紙に付着した指紋を検出する場合には、従来、ケトン類、アルコール類等の有機溶剤を溶媒とするニンヒドリン溶液に指紋の付着した普通紙を浸せきさせる方法、普通紙に前記ニンヒドリン溶液をハケ等で塗布する方法、普通紙に前記ニンヒドリン溶液を噴霧して均一に塗布する方法等により、普通紙に十分な量の溶液を染み込ませ、その後、加熱処理を施すことによって発色反応を促進させていた。
【0004】
上記(3)のニンヒドリンを用いる方法によれば、指紋がにじまずにくっきりと検出できるが、以下のような問題があった。即ち、ニンヒドリンは、アルコール類、ケトン類等の極性溶剤には溶解するが、通常のハイドロカーボン等の無極性溶剤には溶解しない。そのため、ニンヒドリンを用いる方法においては、極性を有する有機溶剤にニンヒドリンを溶解させ、それをもとに調製した指紋検出用液を使用することになる。その結果、普通紙に油性ボールペン等で文字が書かれていた場合には、ニンヒドリン溶液に含有される有機溶剤によって油性ボールペン等のインクにじみが生じ、指紋の検出に悪影響が出るばかりでなく、筆跡鑑定等の指紋以外に得られるべき有力な情報にも損傷を与えることになる。また、感熱紙等の紙に対して用いる場合、極性有機溶剤や熱による変質が生じ、表面がすぐに黒っぽく変色してしまうことから、指紋の検出が困難となってしまう。
【0005】
さらに、被検体である普通紙等に油が付着している場合には、極性溶剤に溶解したニンヒドリン溶液が油となじまず、検体に浸透していかないため、潜在指紋の検出が難しい。
【0006】
まず、前記油性ボールペン等のインクにじみの問題を解決するべく、ハイドロフルオロエーテルとニンヒドリンと水とを含む指紋検出用溶液を用いることが知られている(特許文献1参照)。特許文献1には、ハイドロフルオロエーテルの具体例として、(パーフルオロブトキシ)メタン、(パーフルオロブトキシ)エタン、および1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンが記載されており、これらのハイドロフルオロエーテルに溶解する水によりニンヒドリンを溶解して指紋検出用溶剤とするという手法が記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている、(パーフルオロブトキシ)メタンおよび(パーフルオロブトキシ)エタンは、飽和水分濃度がそれぞれ95ppmおよび92ppmと低い。したがって、水分が飽和したそれぞれの溶剤にニンヒドリンを混合しても、混合した溶剤に含まれるニンヒドリンの濃度が低くなってしまう。その結果、はっきりした指紋を検出するためには、指紋が付着した普通紙等の被検体と前記指紋検出用溶液との接触時間を長くする必要があった。また、接触時間が長くなるため、指紋のにじみ、指紋以外の文字等の情報のにじみや消失等が発生しうるという問題があった。また、(パーフルオロブトキシ)メタンおよび(パーフルオロブトキシ)エタンは油にはなじまないため、前記油が付着した被検体からの潜在指紋検出は困難であった。
【0008】
また、被検体との接触時間をさらに短縮するため、特許文献2には1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンと水とニンヒドリンとを含有する有機溶媒相と、水とニンヒドリンとを含有する水相とを有し、前記有機溶媒相と前記水相とが接触している、指紋検出用液が記載されている。
【0009】
特許文献2に記載されている1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンは、単独ではニンヒドリンをほとんど溶解させないが、少量の水を溶解させることができるため、前記有機溶媒相にニンヒドリンを溶解させることができる。さらには有機相の水が不足しても水相から水が補給されるため、効果が安定化する。
【0010】
これにより、検体との接触時間が短縮され、指紋のにじみ、指紋以外の文字等の情報のにじみや消失等の発生は軽減された。しかしながら、特許文献1に記載されている(パーフルオロブトキシ)メタンおよび(パーフルオロブトキシ)エタン、特許文献2に記載されている1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンは油にはなじまないため、油が付着した被検体に浸透しない。そのため、前記油が付着した被検体からの潜在指紋検出は困難であり、油が付着した被検体からの潜在指紋検出という課題は解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−52670号公報
【特許文献2】特開2007−209521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明は、指紋のにじみ、指紋以外の文字等の情報のにじみや消失等が発生せず、かつ油が付着した被検体から潜在指紋を検出できる指紋検出用液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、揮発性を有するオイルのうち低極性又は非極性である揮発性オイルに以下の性質を有することを見出した。即ち、(a)低極性又は非極性の揮発性オイルは、油性ボールペン等のインクを溶解させないので、普通紙等に書かれた文字に影響を与えない。(b)低極性又は非極性の揮発性オイルは、その揮発性により被検体に噴霧することで被検体に付着した油となじみ、付着した油とともに揮発する。これを何回か繰り返すことで、付着した油を被検体から除去することができる。これにより、水相に溶解しているニンヒドリンと被検体の潜在指紋中のタンパク質と反応しやすい状態にすることができる。
【0014】
また、ニンヒドリンは極性溶媒には溶解するが、低極性又は非極性の揮発性オイルには溶解しない。そこでa)低極性又は非極性の揮発性オイルを含有する油相、b)ニンヒドリン、水を含有する水相、及びc)非イオン界面活性剤を含有し、油相と水相とが二相に分離しているが、使用前に振とうすることで、油相と水相が乳化し、油相中に水相が細かく分散させた。これを検体に噴霧すると、外相が油であるため、検体に油が付着していても浸透しやすく、水相のニンヒドリンが被検体の指紋と反応し、潜在指紋を顕在化させることができる。本発明者は、上記知見に基づき、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0015】
本発明の指紋検出用液は、普通紙等の潜在指紋の検出に際し、指紋のにじみ、指紋以外の文字等の情報のにじみや消失等が発生しない。また、従来検出が困難であった油が付着した検体から、潜在指紋を検出することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の指紋検出用液は、a)低極性又は非極性の揮発性オイルを含有する油相、b)水、ニンヒドリンを含有する水相、及びc)非イオン界面活性剤を含有し、油相と水相とが二相に分離していることを特徴とする指紋検出用液である。
【0017】
低極性又は非極性の揮発性オイルとしては、以下のものが挙げられる。これらを単独または混合物として使用する。配合量は油相の95重量%以上が好ましい。
【0018】
低極性又は非極性の揮発性オイルとしては揮発性シリコーンや揮発性炭化水素が好ましい。揮発性シリコーンとして、4から6のケイ素原子を有する揮発性環状シリコーンが好ましい。例えば、シクロペンタシロキサン(信越シリコーン:シリコーンKF995)が挙げられる。また、2から9のケイ素原子を有する揮発性直鎖状シリコーンが好ましい。例えば、デカメチルテトラシロキサン(信越シリコーン:シリコーンKF96L−1.5cs)が挙げられる。また、その他の揮発性オイルとして、揮発性炭化水素、例えば、水添ポリイソブテン(出光:IPソルベント1620)が挙げられる。本願発明における揮発性とは沸点が220℃以下のものとする。
【0019】
油相中には、検出された指紋を固定化する目的で、乾燥後、皮膜を形成するシリコーン系化合物を含有する方がより鮮やかな指紋が検出できる。例えば、トリメチルシロキシケイ酸とジメチコンの化合物(信越シリコーン:シリコーンKF−7312K)が好ましい。前記シリコーン化合物の配合量は、特に限定されないが、液中の0.5〜5重量%が好ましい。さらには、1〜2重量%が好ましい。
【0020】
水相は、水と、ニンヒドリンとを含有する。水相においては、ニンヒドリンの含有量は水相中の1重量%以上であることが好ましい。水相は、水にニンヒドリンを添加することにより得ることができる。使用する水は、特に限定されないが、蒸留水または限外ろ過等の処理を施した純水がより好ましい。水相のニンヒドリン濃度が低いと、鮮やかな指紋が検出されないため、多量のニンヒドリン水溶液が必要となる。そのため、水相のニンヒドリン濃度は、より好ましくは、1重量%以上であるのが好ましい。水相におけるニンヒドリンの含有量が上記範囲であると、被検体との接触時間を短くすることができ、指紋のにじみ、指紋以外の文字等の情報のにじみや消失等の発生を防止することができ、潜在指紋を鮮明に発色させることができる。
【0021】
水相中には指紋検出用液の防腐目的のため、抗菌性を有する下記化合物を配合してもよい。多価アルコール:1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール等、また防腐剤:パラベン類、フェノキシエタノール、安息香酸塩等が挙げられる。
【0022】
非イオン界面活性剤は油相中に水相を細かく均一に分散させるための目的で配合されており、下記のものが好ましい。
POE−ソルビタンモノステアレート、POE−ソルビタンモノオレエート、POE−ソルビタンテトラオレエート等のPOE−ソルビタン脂肪酸エステル類; POE−ソルビットモノラウレート、POE−ソルビットモノオレエート、POE−ソルビットペンタオレエート、POE−ソルビットモノステアレート等のPOE−ソルビット脂肪酸エステル類; POE−グリセリンモノステアレート、POE−グリセリンモノイソステアレート、POE−グリセリントリイソステアレート等のPOE−グリセリン脂肪酸エステル類; POE−モノオレエート、POE−ジステアレート、POE−モノジオレエート、ジステアリン酸エチレングリコール等のPOE−脂肪酸エステル類; POE−ラウリルエーテル、POE−オレイルエーテル、POE−ステアリルエーテル、POE−ベヘニルエーテル、POE−オクチルドデシルエーテル、POE−コレスタノールエーテル等のPOE−アルキルエーテル類; POE−オクチルフェニルエーテル、POE−ノニルフェニルエーテル、POE−ジノニルフェニルエーテル等のPOE−アルキルフェニルエーテル類; POE・POPのブロック共重合体等のプルロニック型類; POE・POPセチルエーテル、POE・POP2−デシルテトラデシルエーテル、POE・POPモノブチルエーテル、POE・POP水添ラノリン、POE・POPグリセリンエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類; POE−ヒマシ油、POE−硬化ヒマシ油、POE−硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE−硬化ヒマシ油トリイソステアレート、POE−硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、POE−硬化ヒマシ油マレイン酸等のPOE−ヒマシ油、硬化ヒマシ油誘導体; ポリエーテル変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、アミノ変性シリコーン等のシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。さらに以下の非イオン界面活性剤が好ましい。POE−グリセリン脂肪酸エステル類、例えば、トリイソステアリン酸PEG−10グリセリル(日本エマルジョン:エマレックスGWIS−310)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、例えば、PEG−20ソルビタンオレート(日光ケミカルズ:NIKKOL TO−10V)、及びPOE−アルキルエーテル類、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(日光ケミカルズ:NIKKOL BL−9EX)が挙げられる。
【0023】
これら非イオン界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、油相への水相の分散性を考慮すると0.1から2.0重量%が好ましい。さらには0.3から1.0重量%が好ましい。0.1重量%より少ないと、水相が油相中に細かく分散できず好ましくない。また、2.0重量%より多く配合すると、液の下部に非イオン界面活性剤が沈降し、かえって分散が悪くなる場合がある。
【0024】
本発明の指紋検出用液は上述した油相と上述した水相と非イオン界面活性剤からなる二相式の指紋検出用液である。水相は油相よりも比重が高いため、本発明の指紋検出用液においては、一般に、水相の上に油相が存在する。また、非イオン界面活性剤は油相と水相の境界面に存在し、使用前に振とうすることで油相中に水相を細かく均一に分散させる目的で配合されている。油相と水相との質量比(油相:水相)は、(98:2)から(80:20)であるのが好ましく、さらには、(95:5)から(85:15)であるのがより好ましい。ただし、質量比において非イオン界面活性剤は油相に含まれる。油相と水相の質量比において、水相が多いと油が付着した被検体へのなじみが悪くなる上に、乾燥しにくくなるため指紋検出が難しくなる。逆に、ニンヒドリンを含む水相が少ないと、鮮やかな指紋が検出できない。上記範囲であると、指紋検出に充分なニンヒドリンを配合できる。しかも、油が付着した被検体へのなじみがよく、乾燥も速いため、鮮やかな指紋を検出できる。
【0025】
本発明の指紋検出用液は、例えば、以下の指紋検出方法に用いることができる。即ち、本発明の指紋検出用液を被検体に接触させる接触工程と、その後、前記被検体を乾燥させる乾燥工程とを具備する、指紋検出方法である。
【0026】
被検体としては、例えば、油が付着した新聞紙やコピー紙等の普通紙が挙げられる。
【0027】
接触工程において、本発明の指紋検出用液を被検体に接触させる方法は、特に限定されない。例えば、本発明の指紋検出用液をスプレー等により噴霧して被検体に塗布する方法、本発明の指紋検出用液に被検体を浸せきさせる方法、本発明の指紋検出用液の有機溶媒相を被検体に刷毛等で塗布する方法、が挙げられる。
中でも、本発明の指紋検出用液をスプレー等により噴霧して被検体に塗布する方法が、被検体に均一に接触させることができるため、最も一般的な方法であり、好ましい。ただし、この方法において、噴霧する前に指紋検出用液を振とうし、油相中に水相を均一に分散する必要がある。
【0028】
接触工程の後、湿潤状態になった被検体を乾燥させる乾燥工程を行う。発明に用いられる揮発性オイルは、揮散しやすいため、湿潤状態になった被検体は、室温でも容易に乾燥させることができる。
【0029】
更に、乾燥工程の後、被検体を加温する加温工程を具備するのが好ましい態様の一つである。これにより、被検体に付着した油が、揮発性オイルとともに揮発し、除去される。また、加温することで指紋が発色するまでの時間を短縮することができる。加温温度は、特に限定されないが、潜在指紋が不鮮明になることを防止するために40〜60℃程度に調整するのが好ましい。
【0030】
本発明においては、上述した接触工程および乾燥工程を含む手順を繰り返し行うのが好ましい態様の一つである。その場合、上記手順の繰り返し後に、加温工程を行うのが好ましい。また、上述した接触工程、乾燥工程および加温工程を含む手順を繰り返し行うのも好ましい態様の一つである。
中でも、本発明の指紋検出用液をスプレーで噴霧し、その後、乾燥させる手順を繰り返し行うのが好ましい。この際、指紋の発色の程度を観察しながら、繰り返し回数を決定することができる。
上記手順を繰り返し行うことにより、被検体に付着した油が除去されながら、本発明の指紋検出用液に含有されるニンヒドリンが被検体の指紋と繰り返し接触し、その結果、指紋の発色が促進され、また、発色の鮮明度が向上する。
【0031】
特に、油が付着した被検体は潜在指紋が検出しにくい。そのため、繰り返し回数は、3回以上であるのが好ましく、5回以上であるのがより好ましい。繰り返し回数が多くなると、発色した指紋がより鮮明になる。
【0032】
本発明の指紋検出用液によれば、従来、潜在指紋の検出が困難であった油が付着した被検体から指紋を検出することができる。また、検出される指紋は肉眼で観察することができるほどに鮮明である。
更に、指紋以外の有力情報に損傷を与えるおそれが低く、印字の変色による妨害や、印字の消失による警察捜査の証拠物件の消滅が起こりにくい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
指紋検出用液は以下のように調製した。
(実施例1−1)
ガラス製ビーカー中の89.5gの揮発性オイル(粘度1cStのトリシロキサン、沸点153℃)に非イオン界面活性剤としてトリイソステアリン酸PEG−10グリセリル0.5gを加えた油相に、水相として1重量%ニンヒドリン水溶液10gを添加して、よく攪拌した後に室温で静置し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0034】
(実施例1−2)
実施例1−1と同様な調製方法で、配合成分中の揮発性オイルを粘度1.5cSt、沸点190℃のジメチコンに変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0035】
(比較例1−1)
実施例1−1と同様な調製方法で、非イオン界面活性剤を配合しない、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0036】
(比較例1−2)
実施例1−1と同様な調製方法で、配合成分中の揮発性オイルを揮発性の低いシリコーン油(粘度10cSt、沸点250℃のジメチコン)に変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0037】
(比較例1−3)
実施例1−1と同様な調製方法で、配合成分中の揮発性オイルを揮発性を有するハイドロフルオロエーテルの1種である1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(沸点56℃)に変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0038】
上記で得られた指紋検出用液を用い、油が付着した普通紙を被検体として各指紋検出用液をよく振とうした後、スプレー噴霧して、室温で10分間乾燥し、40℃で10分間加温した。この工程を5回繰り返して指紋検出試験とした。
被検体1:市販の灯油が付着した普通紙
被検体2:市販のサラダ油が付着した普通紙
指紋検出試験は、被検体の指紋の発色の程度を目視で観察して評価した。また、印字の流れや溶出による不鮮明化および印字されていない部分の変色についても目視で観察した。
【0039】
被検体の指紋の発色の程度の結果を第1表に示す。
以後、第1表から第5表中の記号の意味は以下のとおりである。
◎:指紋の発色が濃く鮮明
○:指紋の発色が鮮明
△:指紋の発色が薄い
×:指紋の発色を認識することができない
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、本発明の指紋検出用液(実施例1−1および1−2)を用いた場合、異なる油が付着した被検体1、被検体2の両方から、発色性にも優れた、鮮やかな指紋の検出を行うことができた。
更に、本発明の指紋検出用液(実施例1−1および1−2)を用いた場合は、印字の流れや溶出による不鮮明化は見られず、また、印字されていない部分の変色が見られなかった。
これに対し、非イオン界面活性剤を配合しない指紋検出用液(比較例1−1)の場合、油相に水相が分散されないため、鮮やかな指紋を検出することができなかった。また、揮発性の低いシリコーン油を含有する指紋検出用液(比較例1−2)を用いた場合、あるいは揮発性を有するが油になじみにくいハイドロフルオロエーテルを含有する指紋検出用液(比較例1−3)を用いた場合は、いずれも指紋の検出を行うことができなかった。
【0042】
(実施例2−1)
次に、皮膜を形成するトリメチルシロキシケイ酸とジメチコンの化合物の配合量の違いによる指紋検出を比較した。
ガラス製ビーカー中の89.0gの揮発性オイル(粘度1cStのトリシロキサン、沸点153℃)に非イオン界面活性剤としてトリイソステアリン酸PEG−10グリセリル0.5g及び皮膜を形成するトリメチルシロキシケイ酸とジメチコンの化合物(信越シリコーン:シリコーンKF−7312K)0.5gを加えた油相に、水相として1重量%ニンヒドリン水溶液10gを添加して、よく攪拌した後に室温で静置し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0043】
(実施例2−2)
実施例2−1と同様な調製方法で、配合成分中の揮発性オイルを88.5g及びトリメチルシロキシケイ酸とジメチコンの化合物(信越シリコーン:シリコーンKF−7312K)の配合量を1.0gに変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0044】
(実施例2−3)
実施例2−1と同様な調製方法で、配合成分中の揮発性オイルを87.5g及びトリメチルシロキシケイ酸とジメチコンの化合物(信越シリコーン:シリコーンKF−7312K)の配合量を2.0gに変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0045】
(実施例2−4)
実施例2−1と同様な調製方法で、配合成分中の揮発性オイルを84.5g及びトリメチルシロキシケイ酸とジメチコンの化合物(信越シリコーン:シリコーンKF−7312K)の配合量を5.0gに変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
被検体の指紋の発色の程度の結果を第2表に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2から明らかなように、本発明の指紋検出用液(実施例2−2および2−3)を用いた場合、発色性にも優れ鮮やかな指紋の検出を行うことができた。
更に、本発明の指紋検出用液(実施例2−2および2−3)を用いた場合は、印字の流れや溶出による不鮮明化は見られず、また、印字されていない部分の変色が見られなかった。
これに対し、皮膜を形成するトリメチルシロキシケイ酸とジメチコンの化合物の配合量が少ない指紋検出用液(実施例2−1)を用いた場合、指紋検出はできたが、鮮やかな指紋ではなかった。逆に、配合量が多い指紋検出用液(実施例2−4)を用いた場合、乾燥が遅くなり、検出された指紋は不鮮明であった。
【0048】
(実施例3−1)
次に、ニンヒドリン水溶液のニンヒドリン濃度の違いによる指紋検出を比較した。
ガラス製ビーカー中の89.5gの揮発性オイル(粘度1cStのトリシロキサン、沸点153℃)に非イオン界面活性剤としてトリイソステアリン酸PEG−10グリセリル0.5gを加えた油相に、水相として0.1重量%ニンヒドリン水溶液10gを添加して、よく攪拌した後に室温で静置し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0049】
(実施例3−2)
実施例3−1と同様な調製方法で、配合成分中の水相を10gの0.5重量%ニンヒドリン水溶液に変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0050】
(実施例3−3)
実施例3−1と同様な調製方法で、配合成分中の水相を10gの1.0重量%ニンヒドリン水溶液に変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0051】
(実施例3−4)
実施例3−1と同様な調製方法で、配合成分中の水相を10gの2.0重量%ニンヒドリン水溶液に変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
被検体の指紋の発色の程度の結果を第3表に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3から明らかなように、本発明の指紋検出用液(実施例3−3および3−4)を用いた場合、発色性にも優れ鮮やかな指紋の検出を行うことができた。
更に、本発明の指紋検出用液(実施例3−3および3−4)を用いた場合は、印字の流れや溶出による不鮮明化は見られず、また、印字されていない部分の変色が見られなかった。
これに対し、ニンヒドリン濃度が低い指紋検出用液(実施例3−1)を用いた場合、指紋検出ができなかった。また、実施例3−1よりややニンヒドリン濃度が高い指紋検出用液(実施例3−2)を用いた場合、検出された指紋は不鮮明であった。
【0054】
(実施例4−1)
次に、非イオン界面活性剤の配合量の違いによる指紋検出を比較した。
ガラス製ビーカー中の89.9gの揮発性オイル(粘度1cStのトリシロキサン、沸点153℃)に非イオン界面活性剤としてトリイソステアリン酸PEG−10グリセリル0.1gを加えた油相に、水相として0.1重量%ニンヒドリン水溶液10gを添加して、よく攪拌した後に室温で静置し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0055】
(実施例4−2)
実施例4−1と同様な調製方法で、配合成分中の揮発性オイルを89.7g及びトリイソステアリン酸PEG−10グリセリルの配合量を0.3gに変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0056】
(実施例4−3)
実施例4−1と同様な調製方法で、配合成分中の揮発性オイルを89.0g及びトリイソステアリン酸PEG−10グリセリルの配合量を1.0gに変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0057】
(実施例4−4)
実施例4−1と同様な調製方法で、配合成分中の揮発性オイルを88.0g及びトリイソステアリン酸PEG−10グリセリルの配合量を2.0gに変更し、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
被検体の指紋の発色の程度の結果を第4表に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
表4から明らかなように、本発明の指紋検出用液(実施例4−2および4−3)を用いた場合、発色性にも優れ鮮やかな指紋の検出を行うことができた。
更に、本発明の指紋検出用液(実施例4−2および4−3)を用いた場合は、印字の流れや溶出による不鮮明化は見られず、また、印字されていない部分の変色が見られなかった。
これに対し、非イオン界面活性剤の配合量が少ない指紋検出用液(実施例4−1)を用いた場合、使用時に油相への水相分散が不十分なため指紋検出はできたが、鮮やかな指紋ではなかった。逆に、非イオン界面活性剤の配合量が多い指紋検出用液(実施例4−4)を用いた場合、使用時に油相への水相分散が不十分な上、過剰な非イオン界面活性剤が底部に沈殿するため、検出された指紋は不鮮明であった。
【0060】
(実施例5−1)
次に、油相と水相の質量比の違いによる指紋検出を比較した。
上記実施例1−1と同様な方法で、油相と水相の質量比を98:2にした、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0061】
(実施例5−2)
上記実施例5−1と同様な方法で、油相と水相の質量比を95:5にした、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0062】
(実施例5−3)
上記実施例5−1と同様な方法で、油相と水相の質量比を85:15にした、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
【0063】
(実施例5−4)
上記実施例5−1と同様な方法で、油相と水相の質量比を80:20にした、油相と水相とに分離した二相式の指紋検出用液を得た。
被検体の指紋の発色の程度の結果を第5表に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
表5から明らかなように、本発明の指紋検出用液(実施例5−2および5−3)を用いた場合、発色性にも優れ鮮やかな指紋の検出を行うことができた。
更に、本発明の指紋検出用液(実施例5−2および5−3)を用いた場合は、印字の流れや溶出による不鮮明化は見られず、また、印字されていない部分の変色が見られなかった。
これに対し、ニンヒドリンを含む水相の比が低い指紋検出用液(実施例5−1)を用いた場合、指紋検出はできたが、鮮やかな指紋ではなかった。逆に、ニンヒドリンを含む水相の比が高い指紋検出用液(実施例5−4)を用いた場合、水が多いため、検出された指紋は不鮮明であった。
【0066】
(実施例6)
(二相式指紋検出用液)
下記処方の二相式指紋検出用液を調製した。
成分 配合量(重量%)
(1) トリシロキサン(粘度1cSt) 80.00
(2) 水添ポリイソブテン 10.00
(3) トリメチルシロキシケイ酸/ジメチコン 1.00
(4) トリイソステアリン酸PEG−10グリセリル 0.50
(5) 精製水 0.25
(6) プロピレングリコール 1.00
(7) メチルパラベン 0.05
(8) ニンヒドリン 0.20
合計 100.00
【0067】
(調製方法)
成分(1)〜(4)を混合し、成分(5)〜(8)を混合したものを加え、よく混合したのち静置して、二相式の指紋検出用液を得た。
【0068】
得られた実施例6の二相式指紋検出用液を用いた場合、発色性にも優れ鮮やかな指紋の検出を行うことができた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)低極性又は非極性の揮発性オイルを含有する油相、b)ニンヒドリン、水を含有する水相、及びc)非イオン界面活性剤を含有し、油相と水相とが二相に分離していることを特徴とする指紋検出用液。
【請求項2】
a)低極性又は非極性の揮発性オイルが揮発性環状シリコーン、揮発性直鎖状シリコーン及び揮発性炭化水素からなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の指紋検出用液
【請求項3】
b)ニンヒドリン、水を含有する水相において、ニンヒドリンの含有量が水相中の1重量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の指紋検出用液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の指紋検出用液を被検体に接触させる接触工程と、その後、前記被検体を乾燥させる乾燥工程とを具備することを特徴とする指紋検出方法。

【公開番号】特開2011−188969(P2011−188969A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56930(P2010−56930)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】