説明

振動スピーカーを用いた音響マスキング装置

【課題】周囲の環境や他の店舗や広告に影響を与えず、絵画や彫像及び映像などの視覚的な情報に付加して音声による案内を、絵画の額縁や納められたガラスケースから出力する振動スピーカーを用いた音響マスキング装置を提供することを目的とする。
【解決手段】特定の領域にいる人にだけ音声を伝達する音響装置50であって、取り付けた窓ガラス、パネル等を振動体60として音を出力する振動スピーカー10と、周辺の音を集音する集音装置30と、複数の音声ガイドが記録された記録媒体25と、人の接近を検知するセンサ28と、音の位相を反転させる位相反転器21とを具備し、コンピュータ40とネットワークで接続された制御アンプ20とで構成され、センサ28の検知信号により、記録媒体25に記録された複数の音声ガイドを選択的に出力することを特徴とする振動スピーカーを用いた音響マスキング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の領域にいる人だけが音声ガイドを聞くことができる音響装置であって、取り付けたパネルなどを振動板に利用する指向性を持った振動スピーカーを用いた音響マスキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、美術館や博物館、イベント会場やデパートなどで開催される展示会において、出展された作品或いは会場案内などの解説は、パンフレットによる文字情報か、学芸員や係員の説明によるものであったが、通信技術の発達により展示会場の入り口で貸し出されるイヤホーン付きの携帯端末を使った音声ガイドが利用されるようになった。
【0003】
例えば、特許文献1で開示されている自動映像/音声ガイド装置は、図5(a)に示すように解説用の音声ガイド情報を記録した記録媒体120を備えた音声ガイダンス用の携帯端末100を施設が予め用意し、入場者に入館の際にこの携帯端末100を貸し出して、図5(b)に示す展示作品の近傍や所定の場所に設置されたリモートコントロール装置130を検知して自動的に音声ガイドを再生する携帯端末100となっており、退館時に携帯端末100を回収するという手続きが行われている。
【0004】
また、最近の携帯電話の急激な発達により個人が所有する携帯電話を携帯端末としてネットワークに接続し、美術館などの施設の無線通信環境に応じ、展示物等のガイド情報を取得する通信方式を広域無線通信又は無線LAN通信に適切に切り替えることでガイド可能とするガイドシステムが開示されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3015155号公報
【特許文献2】特開2006−217508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし看板やディスプレイの設置場所によっては、従来のスピーカーを利用して放送した場合、辺り構わず鳴り響き周囲の店舗や他の広告に影響を及ぼす問題があった。
【0007】
また、店舗のショーウンドウに並ぶ商品などは店員に聞かなければならないため、購入する意思がない場合には聞き難いという問題があった。
【0008】
博物館や美術館などの展示会の場合、作品の説明を聞くには予めイヤホーン付きの携帯端末を借りて展示室を巡回するため、常に携帯端末を持ち歩く必要があり、また従来の音声ガイドの携帯端末は、展示物が変更されるごとに音声ガイドの音声データを収めた専用の音声ガイドメモリ等の記録媒体のデータを個々に書き換える必要があり、大変煩雑であるという問題があった。
【0009】
また、携帯電話を使用するガイドシステムでは、個人が所有する携帯電話を常に通話状態にしておく必要があった。
【0010】
本発明は以上の問題点に着目しなされたもので、周囲の環境や他の店舗や広告に影響を与えず、絵画や彫像などの作品や映像などの視覚的な情報に付加して音声による案内を行う場合、携帯端末を必要としない絵画の額縁や納められたガラスケースから音声ガイドを提供することができる振動スピーカーを用いた音響マスキング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上述の目的を達成するため、以下(1)〜(3)の構成を備えるものである。
【0012】
(1)特定の領域にいる人にだけ音声を伝達する音響装置であって、取り付けた窓ガラス、ガラスケース、パネル、テーブル及び額縁を振動体として音を生じさせる機能を有する振動スピーカーと、周辺の音を集音する集音装置と、複数の音声ガイドが記録された記録媒体と、人の接近を検知するセンサと、音の位相を反転させる位相反転器とを具備し、コンピュータとネットワークで接続された制御アンプとで構成され、前記センサの検知信号により、前記制御アンプの前記記録媒体に記録された前記複数の音声ガイドを選択的に前記振動スピーカーより出力することを特徴とする振動スピーカーを用いた音響マスキング装置。
【0013】
(2)前記記録媒体に記録される前記複数の音声ガイドは、前記ネットワークを介して前記コンピュータにより変更されることを特徴とする前記(1)記載の振動スピーカーを用いた音響マスキング装置。
【0014】
(3)前記制御アンプは、前記集音装置で集音した音を、前記位相反転器を介して位相を反転させ、前記音声ガイドと合成して前記振動スピーカーより出力することを特徴とする前記(1)または(2)記載の振動スピーカーを用いた音響マスキング装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、広告や看板、デジタルサイネージ(電子看板)の前面パネルなどに振動スピーカーを装着することで、周囲の環境や他の店舗や広告に影響を与えず、絵画や彫像などの作品の宣伝映像など視覚的な情報に付加して、指向性のある音声で案内や作品紹介を提供することができる振動スピーカーを用いた音響マスキング装置を提供することができる。
【0016】
展示された車の窓やボンネットに振動スピーカーを設置すれば、車の性能を知らせる音声案内を車体から出すことで、車をよりアピールすることが可能な振動スピーカーを用いた音響マスキング装置を提供することができる。
【0017】
また、博物館や美術館の展示物のガラスケースやデパートなどのショーウインドウに振動スピーカーを設置することで、展示ケースやショーウインドウの前に立ち止まっている人々にのみ飾られた商品の案内を、人が語りかける程度の音量で伝達することが可能な振動スピーカーを用いた音響マスキング装置を提供することができる。
【0018】
また、セルフサービスのレストランやカフェでテーブルに座り注文の品を待つ際、予約札を検知して客の注文の品がカウンターに出たことをテーブルに設置した振動スピーカーから音声案内することが可能な振動スピーカーを用いた音響マスキング装置を提供することができる。
【0019】
また、店舗や美術館、テーマパークなどに設置されたレプリカやキャラクターなどの造形物に直接振動スピーカーを設置することで、造形物を使って施設の案内や商品の説明を音声で伝達させることが可能な振動スピーカーを用いた音響マスキング装置を提供することができる。或いは、街中のオープンカフェに設置された傘の下のテーブル空間や、駅のホールなど雑踏に包まれた空間の壁や天井のパネルに振動スピーカーを設置することで、雑踏の音と逆位相の音を壁や天井のパネルから発して、傘の下のテーブル空間やホール全体を静寂な空間に変えるノイズキャンセラーとして機能する振動スピーカーを用いた音響マスキング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)本実施例に係る振動スピーカーを用いた音響マスキング装置の構成図、(b)振動スピーカーを用いた音響マスキング装置のブロック図
【図2】音響マスキングの効果を示す図
【図3】ノイズキャンセラーの効果を示す図
【図4】音響マスキングとノイズキャンセラーの効果を合わせた例を示す図
【図5】従来の携帯音声ガイド装置の機能を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例により詳しく説明する。
【実施例】
【0022】
図1(a)は本実施例に係る振動スピーカー10を用いた音響マスキング装置50の構成を示す図で、窓ガラスやパネル、額縁などを振動体60として利用する振動スピーカー10と制御アンプ20、及び有線或いは無線で接続される集音装置30から構成される。
【0023】
振動スピーカー10は、制御アンプ20から出力される電気信号を振動に変換し、取り付けられた振動体60を振動させて音を発生させる電磁素子や圧電素子などで形成された振動素子10aを備え、設置された窓ガラスやパネルを、音声を発するスピーカーとして利用する装置である。
【0024】
窓ガラスやパネルなどに取り付ける場合、強力な両面接着テープ8などで接着固定し振動伝達の低下を抑え、且つ窓ガラスやパネルなどの設置面がフラット面の場合に窓ガラスやパネルから発生する音は、拡散することなく均一で水平方向に出力され指向性の強い音になるため、周辺の雑音よりも強い音の固まりとなって作用する音響マスキングの効果を発揮させることができる。
【0025】
図1(b)に示す振動スピーカー10を用いた音響マスキング装置50のブロック図より、制御アンプ20には有線或いは無線を介して制御用のPC(パーソナルコンピュタ)40とLAN接続する通信機能を備えた通信部24と、所定の領域に人が接近したことを検知する或いは接近した人が持つ特定の装置を検知して検知信号を出す近接検知センサ28と、ネットワークで接続された制御用のPC40からのプログラム制御により動作する制御部26と、単独で設置される場合に広告や宣伝案内などの音声ガイドデータを納めた着脱可能な記録装置(SDカードやUSBメモリなど)25から、制御部26の制御で出力された音楽や広告案内などの音声ガイドデータを処理するデジタル入力部23とを有している。
【0026】
また、周囲の音を集める集音マイク30aと信号ケーブル30bからなる集音装置30は、集音マイク30aで集めた音を制御アンプ20のアナログ入力部21に入力し、制御アンプ20の音の位相を反転させる機能を備えた位相反転器21の働きで、集めた音の位相を反転させた逆相ノイズを作成し、デジタル入力部23を介して出力された音声ガイドとをミキサー27で合成して振動スピーカー10から出力することで、周囲の音を位相反転させた逆相ノイズで打ち消すノイズキャンセラーの効果を発揮させて、音声ガイドの音楽や宣伝などをより鮮明に出力する機能を備えている。
【0027】
尚、集音装置30は、信号ケーブル30bを使用せず集音マイク30aに無線装置を取り付けた無線により制御アンプ20の通信部24と交信する方式であっても良い。
【0028】
<音響マスキングの効果>
通常音響マスキングとは、例えば駅のホームでの会話において、騒々しく通過する電車が行過ぎる場合に会話が全くできなくなる現象をいい、小さい音が大きい音にかき消され通常なら聞こえるはずの音が可聴範囲外となることである。
【0029】
しかし、本実施例では振動スピーカー10の設置されたショーウインドウやガラスケース、ディスプレイパネルを使ったデジタルサイネージ(電子看板)の前の限られた領域の中のみ良く聞こえ、その領域を外れた位置では聞こえないという指向性を持った音響効果のことを音響マスキングと呼ぶ。即ち、振動スピーカー10を用いた音響マスキング装置50は、ショーウインドウやガラスケースなどの振動体60のフラット面から発生する音が、拡散せず均一で水平方向に出力されることで指向性の強い音になる効果を利用した音響装置である。
【0030】
振動スピーカー10を用いた音響マスキング装置50の音響効果を利用して、広告や看板、デジタルサイネージなどの前面パネルに振動スピーカー10を設置すると、フラット面の振動体60から発する指向性のある音は、周囲の環境や他の店舗、及び広告に影響を与えず、振動体60の前にいる人に対してのみ広告や看板の視覚的な情報に付加した音声ガイドによる案内や宣伝を提供することができる。
【0031】
従って音響マスキングの効果は、図2に示すようにデジタルサイネージ(電子看板)の前の立つ人を近接検知センサ28が検知してその人にのみ音声ガイドが聞こえるように設定されているため、振動スピーカー10を用いた音響マスキング装置50のフラット面の振動体60から出力する均一で指向性の強い音声ガイドは、その音量を人が語りかける程度の約30〜70dBの音量に調整されていながら、その限定された領域に音響マスキングの効果を発揮させることができる。
【0032】
また、音響マスキングは周囲の騒音レベルに対応して調整された音量による案内や音楽を提供するが可能で、球面や放物面などのより指向性を高める形状の振動板60に取り付ければ、特定の場所にいる人や移動中の特定の人に向けた追尾方式の音響マスキングの効果を与えることができる。追尾方式の音響マスキングの機能を使って、役所や病院などでの天井や壁に設置された振動スピーカー10と近接検知センサ28とを連携させて、患者や来訪者の順路などの案内に利用することも可能である。
【0033】
また、モーターショウなどで展示された車の窓やボンネットに振動スピーカー10を設置すれば、車の性能を説明する音声案内を、まるで車体が喋りだしたような錯覚を起こさせて、車をよりアピールすることができる。
【0034】
また、店舗や美術館の展示物のガラスケースやデパートのショーウインドウなどを振動体60に利用して振動スピーカー10を設置することで、展示用ガラスケース64やショーウインドウ63の前に立ち止まっている人々にのみ飾られた作品や商品の案内を、人が語りかける程度の音量で伝達することができる。
【0035】
同様に美術館、テーマパークなどに設置されたレプリカやキャラクターなどの造形物に振動スピーカー10を設置することで、物言わぬ造形物を施設の案内や商品の説明を音声で伝達する手段に利用することが可能となる。
【0036】
デジタル入力部23に接続されている外部記録装置25に納められているデータは、外部の制御用のPC40から有線或いは無線でネットワーク接続される通信部24に送られてきたデータによって、制御部26が外部記録装置25のアップデート処理を行い、新しい展示物の説明や新たな広告宣伝に対応した音声ガイドデータに書き換えられる。それまで個々に行われていた外部記録装置25のデータ変更が、ネットワークに接続されることで迅速に対応が可能となる。
【0037】
<ノイズキャンセラーの効果>
市街地を走る高速道路の騒音を低減するノイズキャンセラーとして、騒音と逆位相のノイズをぶつけることで騒音を打ち消す方法が知られている。本実施例に係る振動スピーカー10を用いた音響マスキング装置50でも、図3に示すように、例えば通常は雑踏に包まれた駅のホールなど特定の空間において、空間の壁や天井のパネルを振動体60に利用して振動スピーカー10を設置し、集音装置30の集音マイク30aで集音した雑踏の騒音を、操作アンプ20の位相反転器23を通すことで逆相ノイズを生成して四方の壁や天井のパネルに設置された振動スピーカー10から出力し、雑踏の騒音を打ち消してホール全体を静寂な空間に変え、ホールに入った人々に雑踏の中から一瞬にして森や草原などの静寂の空間に飛び込んでしまったような錯覚を与える驚きを演出することができる。
【0038】
また、振動スピーカー10を用いた音響マスキング装置50は、駅のホールやホテルのロビーなどの大規模な空間だけでなく、図4(a)に示すオープンカフェに広げられた傘の下の小規模な空間でも有効に機能する。図4(b)に示すブロック図と合わせて説明すると、周辺の騒音を傘の先に取り付けられた集音マイク30aで集音し、傘の柄の中を通した信号ケーブル30bを介して制御アンプ20に入力し、制御アンプ20の位相反転器21で位相を反転させ逆相ノイズを生成し、音楽などを収めた外部記録装置25からの音楽などの音声データとをミキサー27で合成して、テーブルを振動体60として取り付けられた振動スピーカー10から出力することで、出力された逆相ノイズが周囲の騒音を打ち消すノイズキャンセラーの効果を発揮させて傘の中の空間だけを周囲の騒音から隔絶させ、更に振動スピーカー10が設置されたテーブルから音楽が聞こえる音響マスキングの効果を同時に発揮させることができる。
【0039】
更にセルフサービスのレストランやカフェでテーブルに座り注文の品を待つ際、客の持つ予約札を近接検知センサ28で検知させ、客の注文の品がカウンターに出たことをテーブルに設置した振動スピーカー10から音声案内することが可能である。
【0040】
振動スピーカー10を用いた音響マスキング装置50は、博物館や美術館の展示物のガラスケースやデパートのショーウインドウに振動スピーカー10を設置することで、指向性を持った音響マスキングの機能と、周囲の雑踏を打ち消すノイズキャンセラー機能とを連携させることでより有効な音響マスキングの効果を発揮させることができる。
【0041】
以上、周囲の環境や他の店舗や広告に影響を与えず、絵画や彫像などの作品や映像などの視覚的な情報に付加して音声による案内を提供し、周囲の雑踏を消すノイズキャンセラー機能を備えた振動スピーカーを用いた音響マスキング装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
8 両面接着テープ
10 振動スピーカー
10a 振動素子
20 制御アンプ
21 位相反転器
22 アナログ入力部
23 デジタル入力部
24 通信部
25 記録装置(記録媒体に対応)
26 制御部
27 ミキサー
28 近接検知センサ
30 集音装置
30a 集音マイク
40 PC(コンピュータに対応)
50 音響マスキング装置
60 振動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の領域にいる人にだけ音声を伝達する音響装置であって、
取り付けた窓ガラス、ガラスケース、パネル、テーブル及び額縁を振動体として音を生じさせる機能を有する振動スピーカーと、
周辺の音を集音する集音装置と、
複数の音声ガイドが記録された記録媒体と、人の接近を検知するセンサと、音の位相を反転させる位相反転器とを具備し、コンピュータとネットワークで接続された制御アンプとで構成され、
前記センサの検知信号により、前記制御アンプの前記記録媒体に記録された前記複数の音声ガイドを選択的に前記振動スピーカーより出力することを特徴とする振動スピーカーを用いた音響マスキング装置。
【請求項2】
前記記録媒体に記録される前記複数の音声ガイドは、前記ネットワークを介して前記コンピュータにより変更されることを特徴とする請求項1記載の振動スピーカーを用いた音響マスキング装置。
【請求項3】
前記制御アンプは、前記集音装置で集音した音を、前記位相反転器を介して位相を反転させ、前記音声ガイドと合成して前記振動スピーカーより出力することを特徴とする請求項1または請求項2記載の振動スピーカーを用いた音響マスキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−68580(P2012−68580A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215350(P2010−215350)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000106416)サンデン商事株式会社 (6)
【Fターム(参考)】