説明

振動型センサの振動子

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は物体の重量の測定などに用いる力センサ、気体や液体の圧力を測定する圧力センサ、自動車や工作機械等に用いられる加速度センサ等の振動型センサの振動子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図7には従来のバイメタルを利用した振動型センサの振動子の模式構成が示されている。この振動子10は熱膨張係数の異なる金属からなるバイメタル22によって梁体5として構成され、このバイメタル22を駆動発熱して、梁体5を熱変形させ、図7の(b)に示されるように、梁体5を垂直V方向に振動させるものである。
【0003】また、梁体5の駆動源として、図8に示されるように、電磁力や静電力等のアクチュエータ24を利用して梁体5を水平H方向に振動させる振動子10も知られている。
【0004】上記振動型センサの振動子10に外部から圧力や加速度等が加えられると、振動数が変化する。若しくは、一定の周波数で駆動した場合に振幅が変化する。その振動数や振幅の変化を検出することにより、圧力や加速度を検知するものである。
【0005】また、上記振動型センサにおいて振動数を検出する場合は、振動数の検出をカウンタ回路によりデジタル信号として取り出すことができるので、アナログ信号の処理に必要なA/Dコンバータが不要となるので、コンピュータ処理がし易くなり、最近特に注目され始めている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、バイメタルを利用した振動型センサでは、平板状の梁体5が垂直方向に振動するため、図7の(b)に示すように、周囲の空気の粘性抵抗を大きく受け易く、減衰係数が大きくなる。そのため、高い振動数と鋭い共振特性、つまり、Qが高い振動特性を得ることが困難であった。
【0007】また、電磁力や静電力をアクチュエータの駆動源とした振動型センサでは、構造が非常に複雑であり、高度の作製プロセスが必要なため、センサの製造コストが高くなり、かつ、大型になる等の問題があった。
【0008】本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、その目的は、鋭い共振特性で安定、かつ、安価で、信頼性が高く、しかも小型の振動型センサの振動子を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、次のように構成されている。すなわち、第1の発明の振動型センサの振動子は、一端固定又は両端固定の梁体と、この梁体に設けられてこの梁体の加熱駆動を行う少なくとも1個の駆動抵抗体とを有し、この駆動抵抗体は梁体を熱変形させて該梁体をその平面方向に振動させる位置に設けられていることを特徴として構成されている。また、第2の発明は、第1の発明の振動子の梁体はシリコン材料によって構成され、駆動抵抗体は不純物拡散抵抗によって構成されていることを特徴として構成されている。
【0010】
【作用】駆動抵抗体を通電発熱して梁体を熱変形し、通電を停止して変形を元に復帰する。この通電、停止を高い周波数で繰り返し行い、梁体を平面方向に振動させる。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1には本実施例に係わる振動型センサの振動子の要部構成が示されている。本実施例の特徴的なことは、一端固定又は図1に示す両端固定の梁体5を加熱駆動し、梁体5を熱変形して平面方向に振動させるための駆動抵抗体11,12を設けたことである。
【0012】本実施例の振動型センサの振動子10は梁体5の両端C,D側がシリコン基板1に固定されて両端固定梁となっている。この梁体5の長さ方向の中央部には拡散抵抗体等からなる駆動抵抗体11,12が、それぞれ梁体5の中心線19から左右両端A,B側にずれた位置、すなわち、梁体5を熱変形させて平面方向に振動させる位置に配設されており、これら駆動抵抗体11,12にはリード線21を介して図示しない振動体駆動回路が接続されている。また、この駆動抵抗体11,12を梁体5の長さ方向で挟む位置には梁体5の振動を検知するための拡散抵抗からなる検出抵抗体13〜16が配設され、これら検出抵抗体13〜16にはそれぞれリード線20を介して図示しない振動検出回路が接続されている。
【0013】図3には振動子10の作製工程が示されている。この振動子10は単結晶シリコンウェハ1の接合技術を用いることにより形成される。図3の(a)に示すように、予めシリコンウェハ1の表面に酸化膜3のパターンを形成し、この酸化膜3上に別のシリコンウェハ1を接合する(図3の(b))。次いで、片方のシリコンウェハ1を研磨又はエッチングにより所定の厚さに加工した後(図3の(c))、シリコンウェハ1の表面に硼素、リン、砒素、アンチモン等の不純物を拡散して駆動抵抗体や検出抵抗体の拡散抵抗2を必要個数形成し、金属電極4を形成後(図3の(d))、ドライエッチング技術等により必要に応じて孔部9を形成して空間部7と導通し、振動子10が形成される(図3の(e))。
【0014】図4には振動子の別の作製方法が示されている。図4の(a)に示されるように、シリコンウェハ1の表面に酸化膜3を形成し、この酸化膜3上に多結晶シリコン膜8を形成する(図4の(b))。この多結晶シリコン膜8に拡散抵抗2を形成し、金属電極4を形成した後(図4の(c))、エッチングによって、必要に応じ孔部9を形成し、振動梁の下の酸化膜3を除去して振動子10が形成される(図4の(d))。
【0015】次にこの振動子10の振動動作について説明する。駆動抵抗体11に電流を流すと、発熱して発熱温度に応じた膨張が生ずる。このため梁体5は図2の(a)に示されるようにA側の破線Kのように変位が生ずる。通電を停止すると、徐々に温度勾配が小さくなり、歪が小さくなるため変位が小さくなり、元の状態に復帰する。次いで、抵抗体12に通電すると、抵抗体11に通電した場合とは逆方向に変位する。このように周期的に電流を流すと振動を励起することができる。この梁体5と同一平面方向の共振周波数ωγは梁体5の両端の固定状態や梁体5の幅や厚みの均一性等様々な要因によって決まるが、ほぼ次式に従う。
【0016】ωγ=CW/L2
【0017】ここで、Cは材料の弾性係数や比重などで決まる係数である。Wは梁体5の幅、Lは長さである。この共振周波数は梁体の厚みDには依存しないので、精度よく検出するために梁体5は薄く形成されている。
【0018】本実施例では梁体5を共振周波数で振動させており、その振動を検出抵抗体で検出する。すなわち、梁体5が振動すると、梁体5に振動応力が生じ、この応力が抵抗値を変化させる。この抵抗変化を検出することにより振動検出が行われる。この検出信号を制御回路にフィードバックして駆動抵抗体の駆動が常に共振周波数を維持するように制御されている。また、外部から力や圧力や加速度等が加わって検出抵抗体で共振周波数の変化が検出された場合、その変化を解析することにより、外部からの力や圧力や加速度等の大きさが求められる。
【0019】本実施例によれば、梁体5の振動方向が梁体5と同一平面方向のため、梁の厚みDが幅Wと比較して小さい場合は従来のバイメタルを用いたときの垂直方向に振動する場合に較べ、図5に示されるように、梁体5の周囲の空気から受ける粘性抵抗力が小さいため、高いQ値の振動特性を得ることが可能となり、センサの感度を高めることができる。
【0020】また、電磁力や静電力等の駆動を利用した従来の振動型センサは構造が複雑で高度の作製プロセスが必要であったが、本実施例では梁体5に駆動抵抗体11,12と振動検出用拡散抵抗体13〜16を設けるだけでよいので、極めて簡単な製造プロセスで製造でき、安価で、信頼性が高く、しかも小型の振動子を作製することができる。
【0021】さらに、梁体5の両側面に設けた検出抵抗体13〜16の抵抗の変化率より梁体5がどの方向にどの程度振動しているかを知ることができ、精度よく検知することができる。
【0022】さらにまた、周知のように振動体としての梁体5に検出対象としての力や圧力や加速度等が加わると共振周波数が変化するが、振動数を検知する力や圧力や加速度等に対応した十分に高い周波数に設定しておくと、高い感度で力や圧力や加速度等を検知することができる。
【0023】なお、本発明は上記実施例に限定されることはなく、様々な実施の態様を採り得る。例えば、上記実施例では図6の(a)に示されるように、梁体5上に振動励起用拡散抵抗としての駆動抵抗体11,12と振動検出用抵抗体13〜16とで合計6個の抵抗体を用いたが、図6R>6の(b)のように、1個の駆動抵抗体11と1個の振動検出用抵抗体13だけでもよく、図6の(c)のように、1個の抵抗体17で熱駆動と振動検知を兼用するようにしてもよい。
【0024】また、振動検知方法として、抵抗体の抵抗値の変化によって検知したが、梁体5の熱変位を、例えば、容量変化や電磁力変化として検知する方法でもよく、任意の熱変位の検知方法を利用してもよい。
【0025】さらに、図1に示す実施例では、梁体5をシリコン基台1に両端固定した両端固定梁として説明したが、梁体5を一端固定梁としてもよい。
【0026】
【発明の効果】本発明は、梁体の振動方向が梁体と同一平面方向のため、従来のバイメタルを用いたときの垂直方向に振動する場合に対し、梁体の周囲の空気から受ける粘性抵抗力が小さいため、高いQ値の振動特性を得ることができる。
【0027】また、従来の電磁力や静電力等を利用した振動型センサは、構造が複雑で、高度の作製プロセスが必要であったが、本発明の振動型センサの振動子は、梁体に駆動抵抗体を設けるだけの極めて簡単な製造プロセスで製造できるので、安価で、信頼性が高く、しかも小型の振動型センサの振動子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例に係わる振動型センサの振動子の要部構成の説明図である。
【図2】同振動型センサの梁体の振動変位の説明図である。
【図3】同振動型センサの振動子の製作プロセスの一例の説明図である。
【図4】同振動型センサの振動子の製作プロセスの他の例の説明図である。
【図5】本実施例に係わる振動子用梁体の振動方向の説明図である。
【図6】同振動型センサの梁体に対する駆動抵抗体と振動検出抵抗体の各種配設形態の説明図である。
【図7】従来のバイメタルを利用した振動型センサの模式説明図である。
【図8】従来の電磁力や静電力を利用した振動型センサの模式説明図である。
【符号の説明】
1 シリコン基台
2 拡散抵抗
3 酸化シリコン膜
4 金属電極
5 梁体
8 多結晶シリコン
10 振動子
11,12 駆動抵抗体
13〜16 振動検出用抵抗体
20,21 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一端固定又は両端固定の梁体と、この梁体に設けられてこの梁体の加熱駆動を行う少なくとも1個の駆動抵抗体とを有し、この駆動抵抗体は梁体を熱変形させて該梁体をその平面方向に振動させる位置に設けられている振動型センサの振動子。
【請求項2】 梁体はシリコン材料によって構成され、駆動抵抗体は不純物拡散抵抗によって構成されている請求項1記載の振動型センサの振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【特許番号】特許第3161057号(P3161057)
【登録日】平成13年2月23日(2001.2.23)
【発行日】平成13年4月25日(2001.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−193390
【出願日】平成4年6月26日(1992.6.26)
【公開番号】特開平6−11400
【公開日】平成6年1月21日(1994.1.21)
【審査請求日】平成11年4月1日(1999.4.1)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【参考文献】
【文献】特開 平1−305935(JP,A)
【文献】実開 昭59−62615(JP,U)