説明

振動式アプリケータと組み合わせて使用するためのマスカラ組成物及び方法

振動式アプリケータヘッドを備えたマスカラアプリケータと組み合わせて使用するための組成物。振動式ヘッドの周波数、振幅及びジオメトリーは、揺変性及び反揺変性マスカラ組成物のレオロジー特性(振動を停止した後も持続する効果を含む)を有意に変えるのに十分なものである。本発明は、より見た目がよくなるようにマスカラを扱えるようにし、処方により柔軟性を持たせ、製造においても利点があり、また他の利点をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2004年8月11日に出願された米国仮出願第60/600,452号に基づいて米国特許法第119条eの優先権を主張している現在係属中の米国特許出願第11/154,623号の一部継続出願である。
【0002】
本出願は、US20060032512号(US11/154,623号;Kressら)及びUS60/600,452号(Kress)の内容を全て参照により組み込むものとする。
【0003】
発明の分野
本発明は、化粧品の分野であって、具体的には、振動式アプリケータと組み合わせて使用するために特に設計された又は同定されたマスカラ組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
マスカラ製品は非常に人気がある。今日、最も売れているマスカラ製品は、合衆国内だけでも年間100〜500万ドルの百貨店売上げをあげている。このため、革新的なマスカラ製品の開発に多くの資金がつぎ込まれている。革新的なマスカラ製品とは、消費者に新しい特徴をもたらすもの、または既存のマスカラをより良く機能するようにしたり安くしたりして改良したものである。マスカラ製品の革新(イノベーション)は、組成物において行われる場合もあるし、または組成物を塗布するために用いられるアプリケータにおいて行われる場合もある。マスカラ組成物は処方(formulate)、パッケージング、及び塗布が最も難しい化粧品の1つであるため、マスカラ製品の分野において革新的であることは容易なことではない。これは一部には、製品の物理学的及びレオロジー的な性質によるものである。濃厚で、粘り気があり、くっつきやすく、大抵は扱いが厄介な製品である。マスカラは、製造、充填又は塗布する際に流動し易くない一方で、環境条件下ですぐに乾いてしまう。マスカラは揮発性成分を含む場合があるが、これにより製造において安全性が問題となる。またマスカラはそれを塗布する場所においても困難がある。まつげは塗布する領域が非常に狭い上に、柔らかく、しなやかで、デリケート且つ、非常に敏感な眼の組織の近くにある。まつげはしなやかで、マスカラのアプリケータの圧力で簡単にたわんでしまうので、製品をまつげに移行させるのは難しい。レオロジー的に難しい製品を小さくてデリケートな場所に移行させるという行為、及びそうすることではっきりとした視覚的な効果を得ることは、マスカラ塗布の難しい課題である。さらに、ほとんどの化粧品と異なり、マスカラ製品の成功はその製品を適切なアプリケータと組み合わせて使うことによるところが大きい。総体的な消費者の使用感(experience)は、製品、およびそれを塗布するために使用するアプリケータの両方によって左右される。よくできたマスカラ処方物であっても、所望の効果を得る上で、マスカラをまつげに塗布し、作用させる(work)のに適切なアプリケータと組み合わせて販売されなければ、市場において失敗作となる場合がある。言い換えると、全てのマスカラ組成物があらゆる種類のマスカラアプリケータに適しているわけではない。従って、一方では市場で一般的なアプリケータと組み合わせて販売されているマスカラ製品でも、そのマスカラ組成物がそのアプリケータの機能にそぐわない場合、一般消費者からの受けがよくない場合がある。そのため、開発の早い段階で、マスカラ処方者(formulator)は、その組成物と最も適合するのはどのタイプのアプリケータか、または特定のアプリケータから最も利益を受けるのはどのタイプの組成物か、ということを考慮すべきであり、また実際に考慮している。本出願は、振動式アプリケータの場合、どのタイプのマスカラが最良のパフォーマンス及び最大の利益をもたらすか、という問題に関する。
【0005】
米国特許出願第11/154,623号(以下「Kress出願」)以前は、どのタイプのマスカラ組成物がどのタイプのアプリケータと組み合わせて使用するとより良く機能するかということに関する開示は従来技術においてほとんどなかったようである。「より良く機能する」とは、特定の種類のアプリケータと組み合わせて使用するために特定の種類のマスカラを選択することにより、同じマスカラと他のアプリケータとの組合せ又はレオロジー的に異なるマスカラと同じアプリケータとの組合せと比較したときに、マスカラ塗布の当分野で認められている1以上の特性が改善されることを意味する。特に、本出願人らは、どのタイプのマスカラ組成物を振動式アプリケータと組み合わせて使用すれば効を奏するかということに関するいかなる開示も知らなかった。出願時点において、市場に出ている膨大な数のマスカラ製品について、マスカラのレオロジー特性及び塗布特性を改変するためのメカニズムは提供されていない。
【0006】
米国特許第5,180,241号は、マスカラ容器がその内部にらせん状のばねを含み、そのばねの中をブラシが通って容器の外に出るようになっている、マスカラ容器及び従来のマスカラブラシについて記載している。ブラシに付着している製品は、製品を載せたブラシの毛がばねのコイルの中を押し通されるときに曲げ伸びする動作によってそのチキソトロピーが壊されるといわれている。この文献は、粘度がどの程度まで影響を受けるのかや、その影響がどれくらい続くのかを全く定量化していない。このシステムの欠点としては、マスカラはブラシがばねの中を通り抜ける間だけせん断されるということが挙げられる。それより長い間、数秒乃至数分間の間、長く連続的にせん断力を加えるためのメカニズムはない。ブラシが容器から取り出された後、例えばマスカラをまつげに塗布している間はせん断されない。この間に、低下していたかもしれない粘度が、その元の値に戻ってしまい、長所があったとしても十分に発揮されない。もし使用者がばねの中でアプリケータを何度もポンピングしてせん断量を増やそうとしても、これは製品の中に空気を取り込んで製品が乾いてしまうという悪い結果をもたらすことになる。これは意図するものとは全く逆の結果を実際には生み出すことになり、製品を濃厚にして流れにくくする。また、この文献の中では、逆チキソトロピー的挙動(anti-thixotropic behavior)(すなわちせん断力を加えると増粘すること)を示すことができるマスカラについての言及がなく、このシステムが将来のマスカラ処方にどのような影響を及ぼし得るかについての示唆もない。これは、せん断することにより粘度を実質的に計測可能に変更し、使用者がその持続時間をコントロールでき、かつその時間が数秒乃至数分であることを特徴とする本発明とは異なる。せん断力を生じさせるためにアプリケータをポンピングする必要はなく、逆チキソトロピー性マスカラは、チキソトロピー性マスカラと同じように本発明から利益を得ることができる。また、本発明は、従来のマスカラの処方法に変化を与える道を開くものである。
【0007】
米国特許第5,775,344号では、塗布する直前及び/又は塗布している最中にマスカラ製品を温める。一般に、バッテリにより電力供給された加熱要素により熱が供給される。加熱要素はマスカラを入れる容器の中、又はマスカラの中に漬けたブラシの中に備えられる。第344号特許は、塗布する前にリザーバーの中身全体を温める化粧品デバイスを開示しており、毎回このデバイスが使用される。しかし、全てのマスカラが製品にダメージを与えずに温度サイクルを受けることができるわけではないことを考慮すべきである。加熱しすぎることにより、もしくは何度も加熱することにより、構造的または化学的に変化してしまうマスカラには、これらのデバイスは全く適していない。これは、リザーバーの中に残っている製品が加熱されることなく次に使用されるまで良好な状態を保っている本発明とは異なる。これらのデバイスの他の欠点は、リザーバー内部の熱を保つために断熱の必要があることである。断熱のために、リザーバーを加熱したり断熱したりしない本発明に比べて、これらのデバイスはより複雑且つ高価となる。
【0008】
Kress出願以来、振動式マスカラアプリケータが、マスカラ組成物に対してかなり持続性のあるレオロジー効果をもたらすことができることは明らかである(「持続性のあるレオロジー効果(persisting rheological effect)」という用語は、Kress出願の中で定義されている)。従って、Kress出願以来、マスカラ組成物の振動に対する反応(response to vibration)(すなわちそのレオロジー的プロフィール)は、熟練したマスカラ処方者にとって、さらに大きな重要性を帯びてきた。
【0009】
レオロジー的プロフィールの測定及び振動式アプリケータに対するマスカラの反応の細かな説明は、Kress出願に記載されている。マスカラブラシの特徴及びマスカラブラシの性能の細かな説明は、Kress出願に記載されている。また、従来技術のモーションマスカラブラシ及び他の電動ブラシデバイスの細かな説明も、Kress出願に記載されている。
【0010】
マスカラ組成物:典型的な成分
ここでマスカラ組成物を見てみると、従来のマスカラ処方物としては、水に対する油相の比率が典型的には1:7〜1:3である水中油型エマルジョン型マスカラが挙げられる。これらのマスカラは、良好な安定性、湿式塗布、及び水で除去しやすいといった利点を提供し、製造するのに比較的安価であり、非常に広範囲のポリマーを使用することができ、またほとんどのプラスティック包装材と適合する。欠点としては、水中油型マスカラは、水及び湿気への暴露に対して十分に耐えられないことが挙げられる。水中油型マスカラは、典型的には、乳化剤、ポリマー、ワックス、増量剤、顔料、及び保存剤からなる。あるポリマーは、フィルム形成剤として働き、マスカラの持ちを良くする。あるポリマーは、マスカラの乾燥時間、レオロジー(即ち粘度)、柔軟性、耐剥落性、及び耐水性に影響を及ぼす。ワックスも、マスカラのレオロジー特性に大きな影響を及ぼし、一般的には、それらの融点特性及び粘度によって選択される。処方物の粘度ならびに達成可能なまつげのボリューム及び長さを調節するために、時には不活性増量剤が用いられる。顔料の中では黒酸化鉄がマスカラ処方では主流であるが、鮮やかな色を得るための非酸化鉄顔料も近年重要になってきた。保存剤は、販売可能なマスカラ製品では事実上常に必要とされる。
【0011】
主な利点が耐水性及びもちの良さである油中水型マスカラもある。これらのマスカラは、典型的には水に対する油相の比率が1:2〜9:1である。油中水型マスカラの様々な欠点としては、まつげから製品を除去することが難しいこと、乾燥時間が長いこと、製品リザーバからの重量損失の度合いが高いこと、包装材料に対する適合性が水中油型マスカラに比べて一般に低いこと、及び引火点が比較的低いことが挙げられる。油中水型マスカラは、典型的には乳化剤、ワックス、溶剤、ポリマー及び顔料からなる。揮発性溶剤は、マスカラを乾燥しやすくする。ポリマーは、上記のような水中油型マスカラにおける役割と似た役割を油中水型マスカラにおいて果たすが、油中水型マスカラにおいては、油混和型フィルム形成性ポリマーが推奨される。水中油型マスカラと同じクラスの顔料を油中水型マスカラで使用してもよい。しかしこの場合は、疎水化処理された顔料が、よりよい安定性及び適合性を提供し得る。
【0012】
より一般的なマスカラ処方物は1種以上のワックスを含み、これらのワックスがマスカラの構造の全てまたは最も重要な部分を提供するが、ポリマーも、構造付与剤(structuring agent)として機能し得る。これは、マスカラが水中油型であっても油中水型であっても同じである。近年では、ゲルタイプのマスカラ(gel mascara)又はゲルベースのマスカラが人気を得ている。ゲルタイプのマスカラも、水中油型エマルジョンであっても油中水型エマルジョンであってもよく、一般には、水相もしくは油相に1種以上のゲル化剤が加えられる。ゲルのネットワークは、マスカラに重要な構造を提供することができるので、必要なワックスの量が少なくてすみ、ワックスが必要でない場合もある。ゲルのネットワークは構造を形成するのに非常に効率が良いため、ゲルベースのマスカラとワックスベースのマスカラは典型的には同程度の粘度(comparable order of magnitude viscosities)を有する。ゲルベースのマスカラの製造において構造付与剤として使用することができるゲル化剤のリスト(全てを網羅するわけではない)は、以下の通りである。
【0013】
水相:ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリレート、ポリアクリレートコポリマー、アクリロジメチルタウリンアンモニウム(ammonium acrylodimethyl taurate)/VPコポリマー、アクリロジメチルタウリンアンモニウム/ベヘネス25のメタクリレート・クロスポリマー、アクリレート/C10〜30のアルキルアクリレート(akyl acrylate)・クロスポリマー、カルボマー、ポリクオタニウム、カラギーナン;
油相:VP/エイコセン共重合体、ポリイソブテン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、エチルセルロース、ベントナイト、パルミチン酸デキストリン、ステアロイル、イヌリン、ジブチルラウロイルグルタミド、ジブチルエチルヘキサノイルグルタミド、ロジン酸(rosinate)及びロジン酸(resoinate)誘導体、ポリアミド及び誘導体;
ガム:キサンタンガム、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、寒天、でんぷん、タピオカでんぷん、粘土、(カオリン、ベントナイト)、PVP。
【0014】
マスカラ組成物:特徴
マスカラの性能特性を論じる上で確立された用語がある。これらの特性の各々を評価し、処方時の比較のためにランダムスケール上の数字(例えば0〜10)を割り当てることができる。マスカラを塗布した結果起こる「だま化(clumping)」は、数本のまつげが集まって、太く先の粗い矢のようなもの(rough-edged shaft)になることである。だま化が起こると、まつげの一本一本がはっきりしなくなるので、一般的には好ましくない。「カール」は、未処理のまつげと比較して、マスカラがまつげを上方向に反らせる度合いである。カールは望ましい場合が多い。「フレーキング」とは、付けてから所定時間経過後にまつげから剥がれ落ちるマスカラの破片のことを言う。品質の良いマスカラは剥がれない。「フルネス(fullness)」とは、まつげのボリューム及びまつげ同士の間隔によって決まり、ここで「まばら(sparse)」(すなわち豊かでない(less full))とは、まつげの数が比較的少なく、まつげとまつげの間隔が比較的広いことを意味し、「濃い(dense)(即ちより豊かである(more full))」とは、まつげがぎっしり詰まっていて隣同士のまつげの間の間隔がほとんどないことを意味する。「長さ」とは、まつげの毛先から根元までの寸法である。長さを長くすることがマスカラ塗布の目的であることが多い。「セパレーション」とは、個々のまつげが一本一本はっきり分かれるようにまつげが凝集しないことである。良好なセパレーションは、マスカラ塗布の望ましい効果の1つである。「にじみ(smudging)」は、付けてから所定時間経過後に、皮膚や他の表面に接触したときにマスカラが不鮮明になる(smear)傾向である。マスカラは皮膚又は環境からの湿気及び/又は油分と混ざることにより、不鮮明になりやすくなる。「スパイク化(spiking)」は、個々のまつげの先端がくっついて三角形のクラスターを形成する傾向であり、通常は望ましくない。「太さ」とは個々のまつげの直径であり、これはマスカラを塗布することによって外見的に変えることができる。太くすることは、通常マスカラ塗布の目的である。「持ち(wear)」とは、所定時間経過後のまつげ上のマスカラを、塗布直後と比較したときの、見た目のインパクトである。「全体的な外観(overall look)」とは、上記定義の全てにおいて獲得した評点の総合得点である。それは、マスカラをつけたまつげと未処理のまつげとを比較する、又はあるマスカラの美的な魅力を他のマスカラと比較する、主観的な判断である。理想的なマスカラは、望ましくない特性を回避しつつ望ましい特性を全て保有するものである。
【0015】
上記のマスカラの特徴は全て、マスカラ処方者にとって有用、かつ重要であり得るが、フルネス、だま化、及びセパレーションは、通常は互いに関係が深い。だま化はマスカラの望ましくない特性であるが、ある程度のだま化なくしてフルネスを達成することはこれまで歴史的に難しいことであった。つまり、フルネスとだま化は直接的な相関関係(direct correlation)を有する。しかし、だま化はまつげのセパレーションとは相反するものであるため、フルネスとまつげのセパレーションは通常は逆の相関関係(inverse relationship)を有する。このように、従来のマスカラの処方技術は、セパレーションとフルネス、一方を重視し過ぎる場合と他方が不十分となる場合との兼ね合いを取る作業である。本発明の利点の1つは、フルネスとセパレーションとの間の逆相関関係を補正して、両方を同時に向上させ得ることである。
【0016】
多くの場合、処方者は、より太く、より豊かで、くっきりと分かれたまつげを得ることに関心を持っている。だま化及びスパイク化といった特性は、これに反する作用をする傾向があり、開発者は、1以上の特性を改善するためには、他のものを犠牲にするしかない。例えば、特定のマスカラのフルネス効果を高めるために、従来の知識では、組成物にさらに構造を加えることが示唆される。慣習的には、これは、マスカラ組成物にワックスや増量剤等の固体及び半固体を加えることを意味する。しかしながら、こうすることの欠点は、それによって組成物の粘度が高くなってだまになり易くなり、使用者がまつげを分離させにくくなる傾向があることである。また、固体および半固体の量が多いと、粘度が高いことによってまつげ上にマスカラを広げにくくなるために、使用感が悪くなる可能性がある。その結果、まつげがつっぱって不快感が伴い、塗布がうまくいかない可能性がある。さらに、近年では、場合によっては1種以上のゲル化剤を用いることにより、マスカラ組成物に構造を付与するようになった。ゲル化剤は、フルネス効果を高める構造を提供することができる。しかし、振動式アプリケータに対するゲルタイプのマスカラの反応は、ワックスベースのマスカラの反応と同じようにはいかない。従来技術では、この挙動の差について考慮したりこれを活用したりしていないことは確かである。
【0017】
せん断手段が設けられた場合、実質的に全てのマスカラで、ある程度の粘度低下(thinning)または粘度上昇(thickening)が示され得る。非振動式ブラシを用いる場合には、使用者は、粘度の低下または上昇が示される程有意にマスカラをせん断することはできない。容器中の製品を従来のアプリケータでせん断した結果、製品粘度がある程度変化したとしても、その量はKress出願のアプリケータと比較してわずかなものであり、使用者にとっての利点はほとんど生じないであろう。本出願人の知る限り、従来技術では、振動式ブラシと組み合わせて使用するにはどのタイプのマスカラ組成物が最も適しているかを同定も示唆もしていない。
【0018】
本明細書を通して、「静的な(static)」または「静止中の(at rest)」マスカラとは、せん断力を加えられていないマスカラであって、マスカラが内部的に(internally)静止している状態を言う。例えば、マスカラをまつげに塗布した後は、マスカラは静的または静止中である。振動式アプリケータを用いてマスカラを塗布している間はマスカラはせん断されている最中であり、「静的」もしくは「静止中」ではない。
【0019】
振動式アプリケータに関して言えば、マスカラがせん断されているときにはマスカラの粘度が高くなるのを最小限に止める一方で、マスカラが静止中であるときにはマスカラの構造を増強する(よってフルネス効果を高める)ことがしばしば理想的であろう。他の場合で、マスカラがせん断されているときに構造を増強し(よってフルネス効果を高め)、マスカラが静止状態になった後にその構造を保持することが理想的である場合もある。
【0020】
また、商業的に実現可能な振動式マスカラブラシを導入することで、せん断中に粘度の著しい低下を示すがせん断力がなくなった時に構造を立て直すのはどのタイプのマスカラかを同定することが今では望ましい。このようなマスカラは、だまになりにくく、セパレーション及びフルネスの評価が比較的高いと予想される。
【0021】
Kress出願以降明るみとなった他の現象は、マスカラ処方物の中のある成分に対して振動式アプリケータが及ぼす効果である。適例としては、微小球体(microsphere)または楕円体粒子(spheroidal particles)(通常は粘度を低下させてマスカラを標的表面上に均一に広げ易くするために加えられる)が挙げられる。振動式ブラシを用いる場合、楕円体粒子がまつげの上を滑ってしまってまつげに付着しないという問題が観察されている。本発明の1つの実施形態では、この問題に対処している。
【0022】
近年、マスカラの塗布を優れたものにする手段として、まつげの長さ方向に平行に、ある種の増量剤物質または粒子のアラインメントを作り出すアイデアが提案された。米国特許出願第2008/0138138号において、振動式アプリケータは、「前記繊維の向きを良好なものにし」得ると記載されている。この文献は、繊維の反応にのみ焦点を当てており、マイカや球体等の他のタイプの増量剤または粒子の記載はない。
【発明の概要】
【0023】
目的
本発明の主な目的は、振動式アプリケータと組み合わせて使用するためのマスカラ組成物であって、当分野で公知である他の組成物に比べてフルネス及びセパレーションが向上し、且つだまになりにくいマスカラ組成物を提供することである。
【0024】
本発明の他の目的は、振動式アプリケータと組み合わせて使用するためのマスカラ組成物であって、フルネスとセパレーションが直接的な相関関係を示すマスカラ組成物を提供することである。
【0025】
本発明の他の目的は、マスカラがせん断されている時(即ち塗布されている時)にはマスカラの粘度が高くなるのを最小限に止めながら、マスカラが「静的」である時にマスカラの構造を増強することである。
【0026】
他の目的は、マスカラ組成物であって、その組成物のレオロジー特性ゆえに非振動式ブラシと組み合わせて使用するのには適していなくても、振動式ブラシと組み合わせて使用するのに適したマスカラ組成物を提供することである。
【0027】
本発明の他の目的は、振動式アプリケータと組み合わせて使用するのに適したマスカラ組成物を処方する方法を提供することによりマスカラ塗布を改善することである。
【0028】
本発明の他の目的は、振動式アプリケータを用いて塗布されるマスカラ中に楕円体(spheroidal)粒子が存在することにより生じる問題に対処することである。
【0029】
以上の目的及び他の恩恵は、振動式アプリケータによって使用時にその粘度が予想できる程度に変更されるマスカラ組成物によって実現され得る。本発明の他の目的及びその利点は、以下の説明を読めば自明であろう。
【0030】
概要
本明細書中に記載されるマスカラ組成物は、与えられる振動に対して予想できるように有用に反応するように設計され、それによって、使用時の操作が容易になり、より良い結果を生むものとなり得る。本明細書中に記載される方法の幾つかは、マスカラ処方の従来技術に記載されているものとは異なり、マスカラのチキソトロピー性又は逆チキソトロピー性の反応の知識を要する。振動式アプリケータと組み合わせて用いるためのマスカラを処方したり同定したりする際には、マスカラが「静止中」である時だけでなく、マスカラに実質的なせん断力を加えた後のマスカラの構造及び挙動を理解しなければならない。
【0031】
振動式アプリケータと組み合わせて好ましいチキソトロピー性もしくは逆チキソトロピー性組成物を使用することにより、マスカラの塗布及び性能の面で恩恵が得られる。特に、フルネス、セパレーション及びだま化が実質的に改善される。「静止中」の組成物の構造レベルを管理しつつ、塗布する際の組成物の粘度も制御することができることで、消費者に提供し得る処方物のタイプが増し、製造工程及び製造コストの面において恩恵がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1a】チキソトロピー性マスカラの標準的なレオメトリー試験において作成されたヒステリシスループ(hysteresis loop)を示す。
【図1b】チキソトロピー性マスカラの標準的なレオメトリー試験において作成されたヒステリシスループを示す。
【図2a】逆チキソトロピー性マスカラのヒステリシスループを示す。
【図2b】逆チキソトロピー性マスカラのヒステリシスループを示す。
【図3】ヒドロキシエチルセルロースの量が異なる組成物についての、(粘度)対(負荷せん断力)曲線を示す。
【図4】ポリアクリル酸ナトリウムの量が異なる組成物についての、(粘度)対(負荷せん断力)曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書を通して、「含む」という用語及びこれと同義の用語は一貫して、対象物の集合が、具体的に記載された対象物に限定されるものではないことを意味するものとする。
【0034】
本明細書を通じて、「振動」及び「周期的変動(oscillation)」という用語は互換可能に用いられ、平衡位置、平衡から最も離れた位置、及び周波数によって特徴付けられる反復的な動きを指す。この定義において、振動している対象物は、平衡位置を通過してもしなくても良いが、その対象物の動きの1以上のコンポーネントが、平衡位置から最も離れたところに達した後に平衡位置の方向に向かおうとする。一般に、アプリケータのロッドの長軸の周りを1方向に回転し、ロッドの左右の動きがないマスカラアプリケータは、この定義に含まれない。このような回転式アプリケータ、及びそれが組成物に加え得るエネルギーは、振動エネルギーではない。所与の組成物の振動エネルギーに対する反応と非振動エネルギーに対する反応とでは質的に異なるため、この違いは重要である。
【0035】
本発明の組成物及び方法は、アプリケータのいずれか1つの特定のタイプの振動性もしくは周期的変動性の動きによって限定されるものではない。周期的変動性の動きの1つのタイプとしては、ロッドの軸に対して垂直な、単純な前後又は左右の動きが挙げられる。より複雑な左右の動きも可能であり、種々のタイプのマスカラ組成物に対して有用である場合がある。例えばアプリケータヘッドの先端が円、楕円、又は八の字等の閉じた経路(closed path)を描く等により特徴付けられる動きは、本発明に包含されるより複雑な左右への動きの例である。
【0036】
本発明は、振動式もしくは周期的変動式アプリケータヘッドを有するマスカラアプリケータに関する。この広い概念は、無限範囲のマスカラアプリケータのタイプ、ならびに化粧品やパーソナルケアのアプリケータ及び身だしなみを整える(grooming)道具にも一般に当てはまる。簡単にするために、この議論の出発点として、当分野で公知の典型的な剛毛ブラシアプリケータ(bristle brush applicator)について述べる。しかし、原理的には、この開示によって、当業者は、その教示を実質的にあらゆるタイプのマスカラアプリケータに適用することができる。従って、アプリケータヘッドは、剛毛ヘッドに限定されず、他のどのタイプのマスカラアプリケータヘッドであってもよい。
【0037】
振動式アプリケータがマスカラに及ぼす影響
この節では、本発明の振動式ブラシが、マスカラのレオロジーに持続的な影響を及ぼし得ることを示す。一般に、粘度などの流体のフロー特性は、温度、加えられるせん断力の速度、及びせん断力が加えられる時間の3つの要因によって決まる。第344号特許のようにマスカラのフロー特性を変えるためにこれを加熱することは、製品をせん断することに依存し、温度は実質的に一定に保たれる本発明とは基本的に異なる。所与の物質の粘度を変える分子メカニズムは加熱とせん断とでは異なるだけでなく、加熱を停止した後とせん断を停止した後とでは物質の挙動も異なるため、粘度を変えるこれら2つの方法は同じではない。本出願で特に興味深いものは、所定時間振動式ブラシでせん断している時、及びせん断力を突然取り除いて数分たった後のマスカラの挙動である。レオロジー用語の標準的な定義はある程度用途によって異なるが、以下の文献に記載されたものは、読者に役立つであろう“Guide To Rheological Nomenclature: Measurements In Ceramic Particulate Systems;”National Institutes of Standards and Technology Special Publication 946, Janurary 2001(本明細書中に参考として組み込まれる)。
【0038】
図1a及びbならびに図2a及びbは、2つのマスカラ組成物の各々について2種類の標準的なレオメトリー試験で行った測定結果のグラフを示す。これらは、ある範囲の負荷せん断力の下での物質の挙動を特徴付ける、様々な速度のせん断試験である。加えられたせん断力の速度を水平軸に示し、被検物質内に発生する応力(stress)を垂直軸に示す。これらの試験では、0からスタートして、所定の範囲(0〜50又は0〜1000秒-1)にわたってせん断速度を上げる。せん断速度が増すに従い、サンプル内の応力も上昇する(グラフ中dyne/cm2で記録)。せん断速度の上限に達すると、せん断速度を管理された方法でゼロにまで下げ、途中で応力を測定した。試験全体でたったの2分しかかからない。グラフ中、ドットを付けた曲線(即ち「上昇曲線(up curve)」)は、せん断力を上げていく時に発生する応力を表し、ドットの付いていない曲線(即ち「下降曲線(down curve)」)は、せん断力を下げていくときの応力を描いている。各グラフは、対照(「C」で表示)、本発明の振動式ブラシを用いて3分間予めせん断しておいたサンプル(「3」で表示)、本発明の振動式ブラシを用いて10分間予めせん断しておいたサンプル(「10」で表示)、の3つの試験サンプルを示す。予めせん断しておいたサンプルは、事前せん断工程後、2分または5分以内に試験した。
【0039】
これらの測定は、標準的な平行スチール板測定(板の直径は2.0cm及び200μのギャップ)を用いて環境条件で行った。試験時間は2.0分間であり、1分間はせん断力を徐々に上げ、1分間はせん断力を徐々に下げた。グラフ7a及び8aでは、初期せん断速度は0秒-1で最大値は50秒-1(低速せん断試験)であった。グラフ1b及び2bでは、初期せん断速度は0秒-1で最大値は1000秒-1であった(高速せん断試験)。ランプモード(ramp mode)は一次且つ連続的であった。サンプルを予めせん断するために使用した振動式アプリケータは、本発明に従って構成された50サイクル/秒の振動周波数を有するらせん状のワイヤコア式剛毛ブラシアプリケータであった。
【0040】
グラフ中、下降曲線が上昇曲線の跡を厳密に引き返さないという事実は、いわゆる「チキソトロピー性」又は「逆チキソトロピー性」の挙動を示しており、これらの曲線の間に挟まれた領域は、チキソトロピー性又は逆チキソトロピー性の程度の大きさを示している。このようなプロットにおいて、上昇曲線が下降曲線よりも上にあるせん断の範囲はチキソトロピー性の挙動を示すのに対して、下降曲線が上昇曲線よりも上にあるせん断の範囲は逆チキソトロピー性の挙動を示す。図1a及び図1bのマスカラは、3つのサンプル全ての両方の試験において全試験範囲にわたってチキソトロピー性の挙動を示す。図2aのマスカラは、せん断速度が約20〜25秒-1を超えると逆チキソトロピー性の挙動を示す。この逆チキソトロピー性の挙動はグラフ2b中約600秒-1まで続く。これらの領域の両外側では、マスカラはチキソトロピー性の挙動を示す。
【0041】
振動式ブラシを用いて予めせん断しておいた試験サンプル(「3」及び「10」で表示)が対照サンプル(「C」で表示)とは異なる動きを示したことを認識することは非常に重要なことである。これは、予めせん断しておいたサンプルを事前せん断後2〜5分経過するまで測定しなかったとしても言えることである。このことは、振動式ブラシがマスカラ組成物のレオロジー(即ち粘度)に持続的な影響を及ぼすことを意味する。振動式ブラシがマスカラのレオロジーを変えるのに効果的であることは、表1及び表2から分かる。平均負荷応力はマスカラを変形させる(せん断する)のに要する応力であり、せん断速度範囲100〜900秒-1で平均したものである。この値は、図1b及び図2bの対照サンプルならびに3分及び5分間予めせん断したサンプルについてのデータから得た。対照と比べた変化(%)を示す。
【表1】

【表2】

【0042】
表1は図1bに対応し、予めせん断したマスカラを変形させる(せん断する)のに必要な力が対照と比較して小さかったことを示す。言い換えると、振動式ブラシがマスカラの粘度を低下させ、この低い粘度がブラシを抜き取った後少なくとも2〜5分間持続した。表2は図2bに対応し、対照と比較して、予めせん断したマスカラを変形させる(せん断する)のに、平均してより大きな力が必要であったことを示す。言い換えると、振動式ブラシがマスカラの粘度を上昇させ、この高い粘度がブラシを抜き取った後少なくとも2〜5分間持続した。
【0043】
表3及び表4は、再びこの点を明らかにする。これらの表中のデータも、それぞれ図1及び図2に示される試験から取り出したものである。これらの表は、試験中せん断力を上げていった時とせん断力を下げていったときの選択されたせん断速度におけるマスカラの粘度を挙げたものである。表3において、対照では、せん断速度100秒-1で粘度が約64ポアズ(poise)から出発してせん断速度900秒-1で約8ポアズまで下がり、その後100秒-1で約29ポアズまで戻ったことが分かる。マスカラの粘度は試験によってかなり低くなった。3分及び10分のサンプルについてもこの同じパターンが見られるが、非常に重要なことは、振動式ブラシによって予めせん断された結果、粘度の全体的な範囲が下方にシフトしていることである。予めせん断しておいたサンプルにレオロジー試験を行う前に2〜5分間が経過していることに留意されたい。この間に粘度が再び立て直されることは明らかであるが、粘度は試験開始まで対照値よりもかなり低いままである。言い換えると、振動式ブラシの粘度低下(thinning)効果は2〜5分よりも長く持続する。
【表3】

【0044】
表4において、対照では、せん断速度100秒-1で粘度が約64ポアズから出発してせん断速度900秒-1で約14ポアズまで下がり、その後、せん断速度100秒-1で約71ポアズまで上がる(これはせん断力上昇時のせん断速度100秒-1における粘度よりも高い)ことが分かる。従って、このマスカラの粘度はレオロジー試験によってかなり高くなった。3分及び10分のサンプルでもこの同じパターンが見られるが、大部分において粘度の全体的な範囲は上方にシフトしており、振動式ブラシで予めせん断したことによってマスカラの粘度が高くなる場合もあることを意味している。予めせん断しておいたサンプルにレオロジー試験を行う前に2〜5分間が経過していることに留意されたい。このことは、振動式ブラシの増粘(thickening)効果は2〜5分よりも長く持続することを示している。
【表4】

【0045】
これらの表は、本発明の振動式ブラシが広範囲の負荷せん断力にわたってマスカラに対して測定可能な持続的な影響を及ぼすことを示しており、このことはこの影響が明白であり従って有用であることを意味しているため、重要である。振動式アプリケータの全般的な影響が粘度を低くするものであるか高くするものであるかは、マスカラの組成に応じてある程度決まる。
【0046】
上記レオメトリー試験は、本発明の振動式ブラシがマスカラのレオロジーに対して持続的な影響を及ぼし得ることを示す。しかし、本発明の振動式ブラシに対する所与のマスカラの実際の反応は、本発明の振動式アプリケータがマスカラをせん断する際に連続的に速度及び方向を変えながら振動するため、一般にはかなり複雑である。マスカラの反応は、マスカラに伝わるせん断エネルギーの大きさによって異なり、この大きさは、ブラシの振幅及び周波数、ブラシの形状及びブラシがマスカラの中を通り抜けるときに取る経路、振動の継続時間、ならびに製品と接触する振動式アプリケータヘッドの表面積によってある程度決まる。また、マスカラ製品はまつげに塗布されている間もせん断され続けていることにも留意されたい。振動式ブラシでまつげをといているとき、ブラシとまつげの両方に接触しているマスカラの部分にはせん断力がかかっている。まつげに最も近いマスカラの層は動かないままであるが、まつげから遠くにある層は振動式ブラシにより引っ張られる。この状況は、きわめて異例且つ複雑である。これに対し、「チキソトロピー性」及び「逆チキソトロピー性」等のレオロジー用語は、一定のせん断速度の状況について定義されている一方で、「シヤスィニング(shear thinning)」は、1方向にのみ徐々に増加するせん断力について定義される。一般に、これらのタイプの制御されたフロー条件は、本発明の振動式アプリケータによっては生じない。しかし、チキソトロピー性の反応のように、粘度の低下は、乱されていない(undisturbed)物質のネットワークよりも柔らかい(less firm)ネットワークへと自身の分子構造を配列させることに一部起因するようである。同様に、逆チキソトロピー性反応のように、粘度の上昇は、乱されていない物質のネットワークよりも固い(firmer)ネットワークへと自身の分子構造を配列させることに起因するようである。さらに、せん断のエネルギーが熱として放散されるにつれて、マスカラの新しい分子構造が逆戻りする(または弛緩する(relaxing))ため、持続的なレオロジー効果は無限に続くわけではないと考えられる。それでもなお、先述の説明は、本発明の振動式ブラシの効果は、塗布するときに使用者がマスカラを効果的に扱えるようにするため、マスカラのレオロジーを変えるため、および利益(実際には多くの利益)を生み出すのに十分長い時間続き得るという、驚くべき結果を示している。
【0047】
本明細書を通して「チキソトロピー性マスカラ」とは、振動式アプリケータに対するその全体的な反応が粘度の低下(構造の減少)であり、この粘度の低下が振動が停止した後かなり長い時間持続するようなマスカラを意味する。このかなり長い時間とは、使用者が所定の方法でマスカラを塗布し終わるのに十分な長さ、たとえば少なくとも約2分〜5分間である。さらに、粘度の低下は、このかなり長い時間が経過した後、自身で逆戻りする(self-reversible)(構造を立て直す)傾向がある。本明細書を通して「逆チキソトロピー性マスカラ」とは、振動式アプリケータに対するその全体的な反応が粘度の増加(構造の増加)であり、この粘度の増加が振動が停止した後かなり長い時間持続するようなマスカラを意味する。このかなり長い時間とは、使用者が所定の方法でマスカラを塗布し終わるのに十分な長さ、たとえば少なくとも約2分〜5分間である。さらに、粘度の増加は、このかなり長い時間が経過した後、部分的にまたは完全に自身で逆戻りする(構造を失う)傾向がある。
【0048】
どの時点を見ても、マスカラ組成物中の構造化(structuring)の量は、マスカラ組成物中の溶剤の相対的な量に依存する。一般に、溶剤の量をコントロールすることにより、組成物中の構造の量は影響され得る。従って、構造をコントロールするには少なくとも2つのメカニズム、即ちせん断アプリケータおよび揮発性溶剤の損失がある。
【0049】
マスカラについて、「初期粘度」とは、せん断されていないマスカラが密閉容器中(揮発性成分が失われていない)で持つ粘度を意味する。初期粘度によって特徴付けられる乱されていない(せん断されていない)状態で始まり、振動式アプリケータに対するチキソトロピー性マスカラの全体的な反応は、粘度の低下である。加えられたせん断力が突如取り除かれると、チキソトロピー性マスカラの粘度は、何らかの他のメカニズムが介入しない限り、時間がたつと上昇してその初期値に実質的に近い最終値まで戻っていく。逆チキソトロピー性マスカラでは、振動式アプリケータに対するその全体的な反応は、粘度の増加である。しかし、物質の逆チキソトロピー性反応は一般に物質のせん断履歴に依存するため、粘度の上昇がすぐに生じない場合がある。むしろ、(上記のような)逆チキソトロピー性マスカラであっても、その最初の反応が粘度の低下である場合がある。この最初の反応の後ある時点で、さらにせん断力を加えると、新しい分子配列が形成されるので、粘度の増大が始まる。逆チキソトロピー性の挙動はすぐに現れるわけではないので、まつげに塗布する前に所定の時間マスカラを予め振動させるよう使用者に説明する必要がある場合もあるが、この所定の時間は、実際の組成物によって異なる。いずれにせよ、粘度が上昇した後および負荷せん断力が取り除かれた後、逆チキソトロピー性マスカラの粘度は、何らかの他のメカニズムが介入しない限り、時間がたつとその初期値に実質的に近い最終値まで低下していく。有利であって且つ本開示以前には全く知られていなかったことは、観察されたレオロジー効果の持続時間が、マスカラの最終粘度がその初期粘度とは実質的に異なり得るように、せん断されたマスカラの自己復元的弛緩(self-reversing relaxation)を中断する機会を与えるのに十分な長さであるということである。同じようにして、他のレオロジー特性が、それらの初期値とは異なる最終値を達成することも可能である。このように、公知のマスカラとレオロジー特性が似ているが、塗布しているときにこれらの特性の1以上を持続性を持って意図的に変更し得るマスカラを顧客に提供することが可能である。あるいは、一般的ではないレオロジー特性を持ち、塗布した後により一般的な値を有するようにこれらの特性を意図的に変更し得るマスカラを顧客に提供することが可能である。
【0050】
以下、我々は、フルネス、セパレーションおよびだま化についての初期スコアおよび最終スコアについても述べることができる。初期スコアは、振動式アプリケータの恩恵を受けずにまつげに塗布されるマスカラ組成物によって得られるスコアである。最終スコアは、振動式アプリケータの恩恵を受けてまつげに塗布されるマスカラ組成物によって得られるスコアである。
【0051】
持続するレオロジー効果の制御
せん断力が取り除かれた後、せん断されたマスカラの粘度は、何らかの他のメカニズムが介入しない限り、一般にはその初期粘度の近くまで戻る。本発明のメカニズムは、環境条件に触れたときにマスカラから揮発してしまう溶剤の比較的急速な損失である。一般に、マスカラから揮発性溶剤が失われると、マスカラが濃くなり、マスカラの粘度が上昇する傾向がある。したがって、マスカラをまつげに塗布した後で、負荷せん断力が取り除かれた後、塗布されたマスカラの粘度が以下の2つの現象、すなわち溶剤の損失及びせん断されたチキソトロピー性もしくは逆チキソトロピー性マスカラに特有な構造的分子変化によって影響を受ける時間がある。チキソトロピー性マスカラの場合、溶剤の損失および構造的変化はいずれも製品の粘度を上昇させるように作用する。逆チキソトロピー性マスカラの場合、溶剤の損失は製品の粘度を上昇させるように作用し、構造的変化は粘度を低下させるように作用する。これらの競合するもしくは補足する効果のために、マスカラはそのせん断されていない最終粘度及び構造とは異なるせん断された最終粘度及び構造に固定されるようになる。「せん断された最終粘度」とは、振動式ブラシを用いてせん断した後であり且つ溶剤全てを失った後の、塗布されたマスカラの粘度である。「せん断されていない最終粘度」とは、本発明に従ってせん断されず、全ての溶剤がマスカラから揮発してしまった後に、塗布されたマスカラが持つ粘度である。
【0052】
振動式ブラシによるせん断により生じた持続的なレオロジー効果の持続時間に対して溶剤の損失時間を調節することにより、溶剤の損失を用いてせん断された最終濃度を制御することができることが初めて分かった。「持続的なレオロジー効果」とは、せん断された最終粘度が溶剤の損失速度に応じて変化するように長い時間レオロジー効果が続くことを意味する。言い換えると、レオロジー効果がそんなに早く元に戻らないので、溶剤の選択は重要ではなくなる。溶剤損失の時間は、組成物中の遅揮発性液(slow volatizing liquid)に対する速揮発性液(fast volatizing liquid)の比率、または組成物中の固体に対する揮発性物質の比率を制御することによって調節することができる。一般に、処方物中の溶剤が多いほど、持続的なレオロジー効果が元に戻るための時間はより長くなり、逆もまた同様である。状況によって、この持続的効果がより長く続いた方がよい場合もあるし、より短い方がよい場合もある。
【0053】
このシステムの主な利点は、言わば「両立させる」ことができることである。例えば、せん断中に粘度が低下するため、まつげ上により流れ易く、従ってより多くの製品をよりスムース且つより簡単に塗布でき、セパレーションが良好でだまになりにくい一方で、構造が有益なレベルにまで立て直されるのに十分な時間が割り当てられるので、フルネスおよび全体的な見た目が悪くならないマスカラシステムを、使用者に提供することができる。
【0054】
他の例では、初期粘度は通常に比べて低いが、振動式ブラシによって塗布されるときに粘度および構造が増大するマスカラを使用者に提供する。塗布した後、溶剤が急速に失われるため、構造は実質的に弛緩することができず、フルネスは言わば「固定される(locked in)」。より薄いマスカラを処方するということは、製造工程においても利点がある。先に記載したように、マスカラは非常に濃くて扱いが難しいため、製造中の粘度を幾らかでも低下させることは、エネルギーおよびコストの節約になる。他の例は、当業者には自明であろう。
【0055】
マスカラと振動式ブラシを組み合わせたシステムを開発するにあたって非常に重要となるのは、振動式ブラシに対するマスカラの反応についてのある程度の知識である。もちろん、開発者は、振動を用いるべき時と用いるべきではない時を使用者に説明する選択肢を常に有している。一般には、アプリケータがリザーバの中にある時もまつげ上にある時も塗布している間ずっと振動を使用してもよいし、あるいはリザーバの中にある時だけ又はまつげ上にある時だけ振動を使用してもよい。開発者は、振動式ブラシに対するマスカラの反応に基づいてこれを自由に選択することができる。したがって、本発明は、振動式マスカラブラシの使用についての取扱説明書を含むキットも包含する。
【0056】
これらの原則の1つの一般的な応用は、以下のように述べることができる。つまり、開発者は、マスカラのあるプレファイナルバージョン(pre-final version)と比較してまつげがだまになりにくいマスカラ組成物を作製したいとする。「プレファイナル」とは、新しい組成物の基となる組成物を意味する。従来であれば、開発者は、比較的ゆっくり蒸発する液体のレベルを増やすことによってより、よりウェットでより流れ易いマスカラを保つかもしれない。そうすることの欠点は、製品の粘度がより長い時間(おそらく塗布が終わった後しばらく)低いままであるために、フルネスを低下させて、組成物をにじみ易くまた他の表面に移り易くする傾向があることである。代わりに、本発明によれば、開発者は、ゆっくり蒸発する液体のレベルを低く保つ一方で、適切に選択された振動式アプリケータが粘度を一時的に低下させて塗布中だまになりにくくなるように、処方物を十分チキソトロピー性にすることができる。塗布した後、せん断されたマスカラがだまになることなくまつげに載せられたとき、2つの理由、即ちチキソトロピー性の流体に関連した分子の再構築、及び組成物から急速に蒸発する流体の損失によって、マスカラの粘度は増大する。フルネス及び濃縮にどちらがより貢献するかは、溶剤の損失レベル及びせん断の度合いによる。開発者にとってもう1つの新たな利点もある。もし溶剤が十分早く揮発するのなら、分子の再構築は、マスカラのセットアップ前に完了しないかもしれない。したがって、塗布されたマスカラのせん断された最終粘度がそのせん断されていない最終粘度よりも低い可能性があるが、それでも許容可能なパラメータの範囲内である。一方、もし溶剤が十分ゆっくり揮発するのであれば、再構築はほぼ完了してしまうかもしれず、さらに溶剤が失われて濃縮が完了し、せん断された最終粘度がせん断されていない最終濃度と実質的に同じとなる場合がある。まつげ上でのマスカラのこの分子の再構築は、マスカラを濃縮してにじみにくくする。こうして、開発者は、にじみや移りが増えることなく、塗り易さ及びだま化に関する限りより良い製品を顧客に提供した。
【0057】
これらの原則の他の一般的な応用は、以下のように述べることができる。つまり、開発者は、製品のプレファイナルバージョンを持っているが、その製品のフルネス、太さ、及び長さのレベルを上げたいとする。典型的には、開発者は、マスカラに追加的な構造及びフルネスを加えるために処方物中に高レベルの固体を組み込もうとするかもしれない。そうすることの欠点としては、コストが高くなること、ならびに製造及び充填が複雑になることが挙げられる。この欠点は、製品の大量生産を実行不可能にするのに十分なものである場合がある。これにより、開発者は処方に妥協を余儀なくされる場合がある。対して、本発明によれば、開発者は、固体のレベルを比較的低く保ちつつ、意図的にマスカラを十分逆チキソトロピー性にすることができる。「十分逆チキソトロピー性である」とは、適切に選択された振動式ブラシを本明細書中に記載されたように使用することにより、マスカラに付加的な分子構造を与えることを意味する。塗布した後、溶剤の損失速度が付加した分子構造の損失速度よりも速くなるように溶剤系を設計した。溶剤が比較的速く失われることによって、より強固な分子ネットワークが完全に崩れるのを防ぐ。この結果、塗布したマスカラは、振動式アプリケータを使用しなかった場合に比べてよりしっかりした構造でセットアップされる(すなわちより濃くなる)。こうして、開発者は、良好なフルネス、太さ及び長さを持つ大量生産に実用的なマスカラを開発した。
【0058】
Kress出願以前に、マスカラと効果的な振動式ブラシの組合せは当技術分野において公知ではない。「効果的な振動式ブラシ」とは、予測通りにマスカラの粘度を変更するのに効果的なブラシを意味し、例えばマスカラの粘度に対して持続的な測定可能な効果を及ぼすものが挙げられる。効果的な振動式ブラシのパラメータを同定することは直接的な方法である。上記のように標準的なレオロジー測定装置を用いて、フロー試験を行う前の既知の時間以内に振動式ブラシを用いて予めせん断しておいたサンプル及び対照サンプルについてフローチャートを作成することができる。予めせん断されたサンプルの上昇曲線及び下降曲線が対照曲線からシフトする度合いは、振動式ブラシがマスカラに及ぼす影響の度合いを示す。予めせん断したサンプルと対照サンプルの上昇曲線及び下降フロー曲線の間の面積の差は、そのブラシがマスカラのチキソトロピー性又は逆チキソトロピー性をより大きく、またはより小さくしていることを示す。効果が殆どもしくは全く見られない場合、様々なブラシパラメータを変更して、効果的なブラシが同定されるまで試験を繰り返すことができる。
【0059】
この知識を頼りに、開発者は、常套的な実験法により、上記のような所望のマスカラ性能を支える揮発性物質及び/又は構造付与剤のレベル、ならびに揮発性物質の損失速度に到達することができよう。より一般的には、プレファイナルマスカラ組成物を作っておいて、開発者は、図1又は2のような(応力)対(負荷せん断速度)のフロー曲線を得る。試験サンプルを予めせん断するために用いる振動式ブラシは、幾つかある方法のうち任意の方法によって選択することができる。例えば、マスカラの反応についての経験又は予測が前もって得られていない場合、任意の形状のブラシを用いることができる。あるいは、製造業者は、商業的に成功しているブラシと組み合わせてマスカラを販売したい場合もある。あるいは、経験に基づいて、どこからスタートすればよいか良い案を開発者がすでに持っている場合もある。フロー曲線を得た後であれば、予めせん断しておいたサンプルの曲線の対照曲線からのシフトの度合いから、何らかのレオロジー効果の程度を推測することができる。レオロジー効果が持続する最短時間は、事前せん断から実際の測定までの時間から推測することができる。この情報に基づいて、開発者は、ブラシのパラメータを変更して再びフロー試験を行うことができる。ブラシのパラメータとしては、物理的寸法、材料の特性(material property)、振動の周波数及び振幅が挙げられる。物理的な寸法としては、エンベロープの形状、ブラシの毛の長さ及び密度が挙げられる。材料の特性としては、堅さ、表面処理、すべり特性などが挙げられる。これらのうちいずれかを調節することにより、常套的な実験法を通して効果的なブラシを同定する。レオロジー効果が十分はっきりし、且つ十分な時間持続した時点で、開発者は具体的なブラシパラメータを決めることができる。そこから、振動式ブラシは、マスカラをまつげに塗布する実際の使用に移すことができる。そうすることによって、性能においてさらなる改良の余地があることに気づくかもしれない。最後に、プレファイナルマスカラ組成物は、起ころうとする分子の再構築の量をサポートするもしくは妨げるために、組成物中の揮発性物質及び/又は構造付与剤のレベルならびにタイプを調節することによって処方しなおされるであろう。このように、本明細書中に記載されるレオロジープロットは、振動式ブラシと組み合わせて用いられるマスカラを処方する際の強力なツールになる。
【0060】
先に記載したとおり、近年では、ゲルタイプのマスカラ又はゲルベースのマスカラが人気を得ている。ゲルのネットワークは、ワックスの量が少なくてもすむように、時にはワックスが必要ない場合もあるほど、マスカラに重要な構造を提供することができる。「ゲルベースのマスカラ」とは、1種以上のゲル化剤の効果によってそのレオロジー構造が一部もしくは全部提供されるマスカラを意味する。「ゲルベースのマスカラ」は、ゲル化剤の総量が0.01%しかないマスカラ組成物を含む。ゲルベースのマスカラは、ワックス等の他の構造付与剤を含んでいても含んでいなくても良い。フルネス及びセパレーション効果が高く、且つ比較的だまになりにくい水中油型ゲルベースマスカラの例を表5のカラム1に示す。
【表5】

【0061】
ゲルのネットワークは構造を作る際に非常に効率的であるため、ゲルベースのマスカラ及びワックスベースのマスカラは、典型的には同程度の粘度を有する。このように、ゲル化剤は、フルネス効果を高める構造を提供することができる。しかし、振動式アプリケータに対するゲルベースのマスカラの反応は、ゲルタイプではないワックスベースのマスカラの反応とは異なることが分かった。この違いを利用することができる。
【0062】
この違いを説明するために、表5の組成物を調製した。カラム1は対照処方物を表す。カラム1と2との違いはヒドロキシエチルセルロースのレベルであり、対照中では0.7%であり、カラム1では0%である。カラム1とカラム3及び4との違いは、ポリアクリル酸ナトリウムのレベルであり、対照中では0.1%、カラム3では0%、及びカラム4では0.2%である。各組成物について、上記のようにある範囲のせん断力にわたって粘度を測定した。データは、図3(ヒドロキシエチルセルロースの量が異なる組成物についての粘度対負荷せん断力曲線)、図4(ポリアクリル酸ナトリウムの量が異なる組成物についての粘度対負荷せん断力曲線)に示されている。図3及び図4において、表5を参照して曲線に標識を付してある。幾つかの結果を表6に示す。
【表6】

【0063】
このデータにおいて興味を引くのは、初期粘度とせん断された後の粘度の差が処方物毎に異なることである。最初は4つの処方物の粘度は数百cps違う。せん断し終わった後(after shearing down)、処方物の粘度の差はかなり小さくなる。我々はこれを、せん断する前に、付加的なゲル化剤が追加的な構造をもたらしたとして解釈している。しかし、せん断後は、この付加的なゲル化剤による追加的な構造は全て失われる。マスカラ中のゲル化剤のこの挙動は、マスカラの中のワックスの挙動とは異なり、ワックスによる構造の大部分は、せん断し終わった後もマスカラ中に保持される。
【0064】
これは有用な結果である。これは、振動式アプリケータを用いる場合、処方者は、セパレーション効果を減じたりだま化を悪化させたりすることなくフルネス効果を高めることができることを示している。付加的なゲル化剤によって構造の量が増えるので、フルネス効果は高まる。しかし、せん断されると、この構造は一時的に失われ、塗布がし易くなり、セパレーションが良くなり、だま化が少なくなる。せん断後、追加的な構造が再構築される。これと同じ同程度の利点は、非ゲルタイプのワックスベースのマスカラでは得られない。したがって、フルネスの向上、セパレーションの向上及びだま化の減少が目的である場合、ゲルベースのマスカラが好ましい。先に挙げた1種以上のゲル化剤が有用であるとともに、他のゲル化剤も有用であろう。ゲル化剤物質の知識に基づいて、最大の利益は、1種以上のポリアミド物質またはその誘導体(例えば米国特許第6,716,420号、第6,869,594号及び第7,078,026号に記載又は開示されたもの等)の使用によって得られるものと予想される。
【0065】
先に記載したように、粘度を下げてマスカラをまつげに均一に広げ易くするために、小球体又は楕円体粒子がマスカラに加えられる場合がある。振動式ブラシを用いる場合、楕円体粒子がまつげの上を滑って付着しないという問題が見られた。この問題は、非振動式ブラシでは見られない。本出願人らは、楕円体粒子を1以上の板状物質(platy material)と一緒に用いれば、この問題が無くなる又は少なくなることを思いがけず発見した。例えば、表5のカラム1に示したマスカラ組成物は、2.00%の球状シリカ及び2.75%のマイカ(板状物質)を含む。この組合せのマスカラは、4.75%の球状シリカを含みマイカを含まない同じ組成物に比べて極めて良好な機能を発揮し、また4.75%マイカを含みシリカを含まない同じ組成物と比べても極めて良好であった。球体粒子と板状物質との組合せにより、まつげに付着しにくいという問題がなくなり、それは、組成物のべたつきを増大させることなく、そうすることができる。従って、球体粒子と板状粒子との組合せは、振動式マスカラブラシを使用しようとする場合、特に有利である。
【0066】
さらに、ある組成物(マスカラ又はその他)と組み合わせたKressの振動式アプリケータは、予期せぬ新しい現象、つまり組成物の中のある粒子の表面に有効量の静電荷(static charge)の蓄積(build up)をもたらすと考えられる。静電荷の蓄積は、粒子と振動式アプリケータとの摩擦により生じるものであるか、あるいは組成物中の異なる粒子間の摩擦(この摩擦は振動式アプリケータにより生じたもの)により生じるものであろう。いったん粒子が電荷を帯びると、マスカラ組成物の連続媒体(continuous medium)は十分に非導電性であるため、粒子は電荷を保持する。帯電したマスカラは、例えばまつげに付着しやすくするのに役立ち、より多く太く塗布することができるようになる。静電荷の蓄積は、塗布するときにマスカラの中で生じるだけであって、製造中に静電荷を蓄積させる必要はない。組成物中の1以上の粒子上に静電荷の蓄積を誘導することができるマスカラ組成物と振動式アプリケータの組合せは新規であり、従来技術のいずれにも予期又は示唆されていない。どのタイプの組成物中でどの粒子が電荷の受け取り及び保持により適しているかは、常套的な実験法によって定めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動式アプリケータと組み合わせて使用するためのマスカラ組成物を開発する方法であって、
マスカラ組成物を処方する工程、
振動式アプリケータを用いてマスカラ組成物のサンプルをせん断する工程、及び
せん断されたサンプルにおいて、振動式アプリケータによって生じる持続的なレオロジー的効果を同定する工程、
を含む、上記方法。
【請求項2】
組成物がアプリケータによってせん断された後に生じることができる分子の再構築の量をサポートする又は妨げるためにマスカラ組成物を処方しなおす工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
マスカラ組成物を処方しなおす工程が、組成物中の溶剤を調整することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
マスカラ組成物を処方しなおす工程が、組成物中の1種以上の構造付与剤(structuring agent)の量を調整することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
調整される1種以上の構造付与剤が、ワックス及び/又はゲル化剤である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
持続的なレオロジー的効果を同定する工程が、マスカラ組成物のフロー曲線を得ることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
処方しなおす工程の後に、処方しなおされたマスカラについて
振動式アプリケータを用いてサンプルをせん断する工程、
振動式アプリケータによって生じる持続的なレオロジー的効果を同定する工程、及び
処方しなおす工程、
を繰り返す、請求項2記載の方法。
【請求項8】
マスカラ組成物と組み合わせて使用するための振動式マスカラアプリケータの選択方法であって、
振動式アプリケータを選択する工程、
該振動式アプリケータを用いてマスカラ組成物のサンプルをせん断する工程、及び
せん断されたサンプルにおいて、振動式アプリケータによって生じる持続的なレオロジー的効果を同定する工程、
を含む、上記選択方法。
【請求項9】
持続的なレオロジー効果を強化もしくは低減するような他の振動式アプリケータを選択する工程をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
持続的なレオロジー効果を同定する工程が、マスカラ組成物のフロー曲線を得る工程を含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
他のアプリケータを選択する工程の後に、マスカラ組成物に対して、
該他の振動式アプリケータを用いてマスカラ組成物のサンプルをせん断する工程、及び
該他の振動式アプリケータによって生じる持続的なレオロジー効果を同定する工程、
を繰り返す、請求項9記載の方法。
【請求項12】
マスカラ組成物と振動式マスカラアプリケータとの組合せであって、マスカラ組成物がゲルベースのマスカラである、上記組合せ。
【請求項13】
マスカラ組成物が非エマルジョン型でゲルベースのマスカラである、請求項12記載の組合せ。
【請求項14】
マスカラ組成物がエマルジョン型でゲルベースのマスカラである、請求項12記載の組合せ。
【請求項15】
組成物が水相中に1種以上のゲル化剤を含む、請求項14記載の組合せ。
【請求項16】
組成物が油相中に1種以上のゲル化剤を含む、請求項14記載の組合せ。
【請求項17】
組成物が1種以上のポリアミドゲル化剤又はその誘導体を含む、請求項16記載の組合せ。
【請求項18】
ゲルベースのマスカラ組成物が10%未満のワックスを含む、請求項12記載の組合せ。
【請求項19】
ゲルベースのマスカラ組成物が少なくとも総量10%のゲル化剤を含む、請求項12記載の組合せ。
【請求項20】
マスカラ組成物が球状粒子及び板状粒子を含む、マスカラ組成物と振動式マスカラアプリケータとの組合せ。
【請求項21】
組成物が、球状シリカ及びマイカプレートレット(mica platelet)を含む、請求項20記載の組合せ。
【請求項22】
マスカラ組成物と振動式マスカラアプリケータとの組合せであって、振動式アプリケータが、組成物中の1以上の粒子上への静電荷の蓄積を誘導することができる、上記組合せ。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−527690(P2011−527690A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517556(P2011−517556)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/049892
【国際公開番号】WO2010/006021
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(598100128)イーエルシー マネージメント エルエルシー (112)
【Fターム(参考)】