説明

振動波モータ

【課題】湿度の変化に伴って発生する振動波モータの摩擦力の変化を抑制し、湿度の変化による振動波モータの性能の劣化を低減することが可能となる振動波モータを提供する。
【解決手段】電気−機械エネルギー変換素子と、
前記電気−機械エネルギー変換素子に固定され、前記電気−機械エネルギー変換素子への電圧の印加により振動する振動体と、
前記振動体と加圧接触し、前記振動により摩擦駆動する移動体と、
前記振動体と前記移動体とを前記加圧接触させる加圧部材と、
を有する振動波モータであって、
前記加圧部材に発生する加圧力を調整する加圧力調節手段を備え、
前記加圧力調節手段は、前記加圧力を湿度の変化に応じて調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体に移動体を加圧接触させ摩擦駆動するいわゆる振動波モータに関し、特に振動波モータの加圧構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、振動波モータは、進行性振動波が形成される振動体と、振動体に加圧接触する移動体とを有し、振動体と移動体とを進行性振動波により摩擦駆動させることにより駆動力を得る。
従来において、このような振動波モータとして、例えば、特許文献1では図9に示すような構成の振動波モータが提案されている。
図9において、ハウジング61に固定された振動体62は円環状をしており、弾性体62bの上部には複数の突起62dが全周にわたって設けられている。
弾性体62bはステンレス鋼からなり、突起62dに耐久性を高めるための窒化処理をしている。
圧電セラミックス62aは、弾性体62bの底面に接着剤にて接着され、モータ駆動時に不図示の駆動回路により位相差を有する2つの交流電圧が印加され、進行性振動波を発生させる。
移動体63は、焼入処理をしたステンレス鋼で形成された円環状の本体部63a、支持部63b、及び振動体62の突起62dに摩擦接触する摺動面を有する接触部63cから構成されている。
支持部63b及び接触部63cは、ばね性を有する厚みで形成されており、振動体62に対して安定した接触が可能となっている。
移動体63の上面にはばね受け部材65、加圧ばねゴム66を介して加圧ばね67bが取付けられている。加圧ばね67bの内周部は出力軸68に焼嵌めされたディスク67aに取付けられており、移動体63の駆動力を出力軸68に伝達している。
ばね受け部材65は、制振ゴム65aと円環状の錘部材65bから構成されている。
これにより、移動体63に発生する不要な振動を防止し、騒音の発生や効率の低下を抑えており、振動波モータの安定した駆動が実現している。
【0003】
また、特許文献2では、図10に示すような構成の振動波モータが提案されている。
図10において、振動体72の突起72dには高分子材料などからなる摩擦材72fが接合されている。移動体73は金属やその窒化物等の硬度の高いものからなる。
振動体72の突起72dに設けられた高分子材料などからなる摩擦材72fにより、振動波モータの性能が安定し、耐久性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−263769号公報
【特許文献2】特開平11−262280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のような図9に示す振動体62及び移動体63を有する振動波モータにおいては、湿度の変化に伴って振動波モータの性能が劣化する場合があった。
すなわち、この振動波モータの弾性体62bは窒化処理をしたステンレス鋼からなり、移動体63は焼入処理をしたステンレス鋼からなる。
このような振動波モータを高湿度の環境に放置した時に、振動体62と移動体63の摺動面のわずかな隙間に微小な水分が付着することにより、振動体62と移動体63との間の摩擦力が低下する場合があった。例えば湿度が高い環境下で振動波モータを使用する場合にこのような現象が発生し得る。
これにより、振動波モータの起動時に発生するトルクが低下し、移動体63の起動が遅れ、起動してもすぐには本来の速度を出せず、性能が戻るまでに時間がかかってしまう恐れがあった。
また、上記特許文献2のような図10に示す振動波モータは、高湿度環境下において、振動体72の高分子材料などからなる摩擦材72fと移動体73との間に水分が付着すると、摩擦力が増大する。
そのため、移動体73の回転が妨げられたり、起動できなくなったりする恐れがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、湿度の変化に伴って発生する振動波モータの摩擦力の変化を抑制し、湿度の変化による振動波モータの性能の劣化を低減することが可能となる振動波モータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の振動波モータは、電気−機械エネルギー変換素子と、
前記電気−機械エネルギー変換素子に固定され、前記電気−機械エネルギー変換素子への電圧の印加により振動する振動体と、
前記振動体と加圧接触し、前記振動により摩擦駆動する移動体と、
前記振動体と前記移動体とを前記加圧接触させる加圧部材と、
を有する振動波モータであって、
前記加圧部材に発生する加圧力を調整する加圧力調節手段を備え、
前記加圧力調節手段は、前記加圧力を湿度の変化に応じて調節することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、湿度の変化に伴って発生する振動波モータの摩擦力の変化を抑制し、湿度の変化による振動波モータの性能の劣化を低減することが可能となる振動波モータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1に係る振動波モータの構成を説明する断面図。
【図2】本発明の実施例1の図1に示す振動波モータの一部を拡大した断面図。
【図3】本発明の実施例1の図1に示す振動波モータにおける加圧調節部材の変形の様子を示す図。
【図4】図4(a)は本発明の実施例1に係る振動波モータの第1の変形例に係る加圧調節部材を拡大した断面図。図4(b)はその第2の変形例に係る加圧調節部材を拡大した断面図。
【図5】本発明の実施例2に係る振動波モータの構成を説明する断面図。
【図6】本発明の実施例2に係る振動波モータの変形例の構成を説明する断面図。
【図7】本発明の実施例3に係る振動波モータの構成を説明する断面図。
【図8】本発明の実施例3の図7に示す振動波モータにおける加圧調節部材の変形の様子を示す図。
【図9】従来例における振動波モータの構成を説明する断面図。
【図10】他の従来例における振動波モータの構成を説明する斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0011】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した振動波モータの構成例について、図1を用いて説明する。
本実施例の振動波モータは、図1に示すように、円環状に形成されており、振動体2と、この振動体と摩擦接触する移動体3を備えている。
振動体2は、電気量を機械量に変換する電気−機械エネルギー変換素子による圧電素子2aと、この圧電素子2aと結合された弾性体2bとによって形成されている。
そして、圧電素子2aに駆動電圧(交流電圧)を印加し、公知の技術により、振動体2に進行性の振動波により楕円運動を生じさせ、これによって移動体3を振動体2と摩擦駆動により相対的に回転させる。
【0012】
弾性体2bは、基部2c、突起部2d、及び基部2cから延出し、弾性体2bをハウジング1に固定するためのフランジ部2eから構成されている。
突起部2dは、基部2cの外周側に沿って、弾性体2bの中心軸に対して同心円状に配置されている。突起部2dの移動体3側の面が移動体3との摺動面となっている。
弾性体2bは、金属製の弾性部材であり、本実施例ではステンレス鋼で形成されている。さらに、耐久性を高めるための硬化処理として、突起部2dの移動体3との摺動面を窒化処理している。
【0013】
移動体3は、弾性部材で形成された円環状の本体部3a、支持部3b、及び振動体2の突起2dに摩擦接触する摺動面を有する接触部3cから構成されている。本実施例では、移動体3は焼入処理したステンレス鋼で形成されている。
支持部3b及び接触部3cは、ばね性を有する厚みで形成されており、振動体2に対して安定した接触が可能となっている。
移動体3の上面には加圧調節部材(加圧力調節手段)4を介して、ばね受け部材5、加圧ばねゴム6、加圧部材7が取付けられている。
加圧部材7は、ディスク7aと加圧ばね7bからなる。加圧ばね7bの内周部は出力軸8に焼嵌めされたディスク7aに取付けられており、移動体3の駆動力を出力軸8に伝達している。
加圧ばねゴム6はブチルゴムやクロロプレンゴム等で形成されている。加圧ばねゴム6の弾性変形により、ばね受け部材5の加圧ばねゴム6が設けられている面の平面度の影響を緩和している。
そのため、加圧ばね7bからの加圧力が移動体3に回転方向のムラなく均一に付与され、振動体2と移動体3の安定した接触が保たれている。
出力軸8は、ハウジング1に固定された外輪と、出力軸8の外周に嵌合した内輪とを有する一対の転がり軸受9a、9bによって回転自在に支持される。
転がり軸受9aの内輪は、移動体3を振動体2に適切な力で加圧接触させるための加圧ばね7bの変位量分だけ予圧がかけられている。
これにより、転がり軸受9aの径方向のがたが排除され、出力軸8の径方向の振れを抑えることができる。
【0014】
図2に、図1に示す振動波モータの一部を拡大した断面図を示す。
図2において、ばね受け部材5は円環状の弾性部材で形成されており、錘部5aと規制部5b、5cとから構成されている。
本実施例では、ばね受け部材5は真鍮で形成されている。規制部5bは加圧調節部材4の内周側の面と接しており、規制部5cは加圧調節部材4の外周側の面と接している。
加圧調節部材4は、振動減衰性能が高いブチルゴムやクロロプレンゴム等を主材とし、高吸水性樹脂を含有させたいわゆる水膨張性ゴムで形成されている。
そのため、加圧調節部材4とばね受け部材5とにより、振動波モータの駆動中に発生する移動体3の不要な振動を抑え、振動波モータの騒音や出力の低下を防止している。
【0015】
図3に、図1に示す振動波モータにおける湿度上昇時の加圧調節部材4の変形の様子を示す。
図3において、加圧調節部材4は高吸水性樹脂が含有されている湿度の変化に応じて変形する圧力調節部材によって構成されているため、振動波モータの周囲の環境の湿度が上昇すると、高吸水性樹脂が吸湿し、加圧調節部材4が膨張する。加圧調節部材4の内外周はそれぞればね受け部材5の規制部5b、5cと接しているため、加圧調節部材4は振動波モータの径方向よりも回転軸方向の変形量が大きくなっている。
このとき、振動体2及び移動体3の軸方向の剛性は、加圧ばね7bに比べ十分に高くなっている。また、ディスク7aは出力軸8に対して軸方向に固定されている。
そのため、加圧調節部材4が膨張し、回転軸方向に変形すると、ばね受け部材5が回転軸方向の加圧ばね7b側に移動する。
これにより、加圧ばね7bの変位が増加し、加圧ばね7bによって振動体2及び移動体3に付与されている加圧力が増加する。
【0016】
他方、振動波モータの周囲の環境の湿度が上昇すると、振動体2と移動体3の摺動面のわずかな隙間に微小な水分が付着することにより、振動体2と移動体3との間の摩擦係数が低下する。
摩擦力は加圧力と摩擦係数の積で決まるため、振動体2と移動体3との間に作用する摩擦力は、湿度上昇に伴う加圧力の増加と摩擦係数の低下が相殺されることにより、湿度が上昇しても変化しにくくなる。
反対に、湿度が低下すると、加圧調節部材4に含有されている高吸水性樹脂が放湿し、加圧調節部材4が収縮する。
それにより、加圧ばね7bの変位が減少することで加圧力が減少する。そして、振動体2と移動体3の摺動面のわずかな隙間にあった水分が少なくなり、振動体2と移動体3との間の摩擦係数が上昇する。
よって、振動体2と移動体3との間に作用する摩擦力は、湿度低下に伴う加圧力の減少と摩擦係数の上昇が相殺されることにより、湿度が低下しても変化しにくくなる。
【0017】
以上より、従来構造では課題となっていた、湿度の変化に伴って発生する振動波モータの摩擦力の変化を抑制することが可能となる。
これにより、振動波モータの発生力は摩擦力に対してほぼ比例すると考えてよいため、湿度が変化しても、振動波モータの発生力の変化を抑制することが可能となり、振動波モータの性能の劣化を低減することができる。
ここで、湿度の変化に伴う加圧力の変化量は、加圧ばね7bの厚みや、加圧調節部材4の厚み、高吸水性樹脂の種類や含有量、ばね受け部材5の規制部5b、5cの形状で調整可能である。
例えば、湿度の変化に伴う摩擦係数の変化が大きい場合、加圧ばね7bの厚みを増加し、加圧調節部材4の変形に対しての加圧力の変化量を増加することが可能である。
また、加圧調節部材4の厚みを増加し、加圧調節部材4の変形量を増加することで、加圧力の変化量を増加することも可能である。
反対に、湿度の変化に伴う摩擦係数の変化が小さい場合、加圧ばね7bの厚みを低減し、加圧調節部材4の変形に対しての加圧力の変化量を減少することが可能である。
また、加圧調節部材4の内外径で接しているばね受け部材5の規制部5bと5cの径方向の距離を広げることで、加圧調節部材4の膨張時に径方向にも変形可能となり、回転軸方向の変形量が減少し、加圧力の変化量も減少することが可能となる。
【0018】
なお、本実施例において、振動体2は窒化処理をしたステンレス鋼で形成し、移動体3は焼入処理したステンレス鋼で形成されている。
しかし、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、湿度の上昇に伴って摩擦係数が低下する材料の組合せであれば、本発明により振動波モータの発生力の変化を抑制することが可能となる。
例えば、振動体2をステンレス鋼にニッケルメッキ処理をして形成し、移動体3をアルミニウム合金にアルマイト処理をして形成した振動波モータでも、本発明により同様の効果が得られる。
また、本実施例においては、加圧調節部材4は、ブチルゴムやクロロプレンゴム等を主材とし、高吸水性樹脂を含有させたいわゆる水膨張性ゴムで形成されている。
しかし、本発明はこのような構成に限定されるものではない。
例えば、図4(a)に示すように、加圧調節部材14は、高吸水性樹脂14aをブチルゴム等の振動減衰部材14bではさみ込んで形成してもよい。
また、図4(b)に示すように、コルク等の湿度に対する膨張率の高い材料24aを、ブチルゴム等の振動減衰部材24bではさみ込んで加圧調節部材24を形成してもよい。
これにより、湿度の変化に伴って加圧力を変化させることが可能になり、湿度の変化に伴う振動波モータの性能の劣化を低減することができる。
【0019】
[実施例2]
実施例2として、上記した実施例1とは異なる形態の振動波モータの構成例について、図5、図6を用いて説明する。
本実施例の振動波モータは、加圧調節部材を図5に示す構造とした点において、実施例1のものと構成が相違する。本実施例のその他の要素(振動体、移動体、出力軸等)は、上述した実施例1の対応するものと同一なので、説明を省略する。なお、本実施例の図5に示す構成は、図1に対応している。
図5において、移動体33の上面には、制振ゴム36a、ばね受け部材35が設けられており、振動波モータの駆動中に発生する移動体33の不要な振動を抑え、振動波モータの騒音や出力の低下を防止している。
ばね受け部材35の上面には、加圧ばねゴム36bを介して加圧ばね37bが取付けられている。
加圧調節部材(加圧力調節手段)34は、第1の加圧調節部材34aと第2の加圧調節部材34bから構成されており、これらは高吸水性樹脂や水膨張性ゴム、コルク等の湿度の上昇に伴って膨張する材料による圧力調節部材によって形成されている。
第1の加圧調節部材34aは、ハウジング31と振動体32のフランジ部32eとの間に設けられている。
第2の加圧調節部材34bは、出力軸38に焼嵌めされたディスク37aと加圧ばね37bとの間に設けられている。
【0020】
ここで、振動波モータの周囲の環境の湿度が上昇すると、第1の加圧調節部材34a及び第2の加圧調節部材34bが吸湿し、膨張する。
第1の加圧調節部材34aが膨張し、回転軸方向に変形すると、振動体32が回転軸方向の加圧ばね37b側に移動し、ばね受け部材35も回転軸方向の加圧ばね37b側に移動する。
これにより、加圧ばね37bの変位が増加し、加圧ばね37bによって振動体32及び移動体33に付与されている加圧力が増加する。
さらに、第2の加圧調節部材34bが膨張し、回転軸方向に変形すると、第2の加圧調節部材34bに取り付けられている加圧ばね37bの内周側が、回転軸方向の振動体32側に移動する。これにより、加圧ばね37bの変位が増加し、加圧力が増加する。
【0021】
他方、振動波モータの周囲の環境の湿度が上昇すると、振動体32と移動体33の摺動面のわずかな隙間に微小な水分が付着することにより、振動体32と移動体33との間の摩擦係数が低下する。
よって、振動体32と移動体33との間に作用する摩擦力は、湿度上昇に伴う加圧力の増加と摩擦係数の低下が相殺されることにより、湿度が上昇しても変化しにくくなる。
反対に、湿度が低下すると、加圧調節部材34が放湿し、第1の加圧調節部材34a及び第2の加圧調節部材34bが収縮する。
それにより、加圧ばね37bの変位が減少することで加圧力が減少する。
そして、振動体32と移動体33の摺動面のわずかな隙間にあった水分が少なくなり、振動体32と移動体33との間の摩擦係数が上昇する。
よって、振動体32と移動体33との間に作用する摩擦力は、湿度低下に伴う加圧力の減少と摩擦係数の上昇が相殺されることにより、湿度が低下しても変化しにくくなる。
【0022】
以上より、湿度の変化に伴って加圧力を変化させることが可能になり、湿度の変化に伴う振動波モータの性能の劣化を低減することができる。
また、加圧調節部材34を2つ設けることにより、加圧調節部材34を1つ設ける場合に比べ、湿度の変化に伴う加圧力の変化量が増加する。
これにより、湿度の変化に伴って発生する摩擦係数の変化が大きい材料で構成された振動波モータに対しても、摩擦力の調整が可能となり、振動波モータの性能の劣化を抑制することができるようになる。
なお、本実施例の振動波モータには、第1の加圧調節部材34a及び第2の加圧調節部材34bから構成された2つの加圧調節部材34が設けられているが、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
例えば、図6に示すように、加圧調節部材44は、第1の加圧調節部材44a、第2の加圧調節部材44b及び第3の加圧調節部材44cの3つの加圧調節部材から構成されている。
これにより、湿度の変化に伴う加圧ばね47bの加圧力の変化量がさらに増加し、湿度の変化に伴って発生する摩擦係数の変化が大きい材料で構成された振動波モータに対しても、摩擦力の調整が可能となり、振動波モータの性能の劣化を低減することができる。
【0023】
[実施例3]
実施例3として、上記した実施例1とは異なる形態の振動波モータの構成例について、図7を用いて説明する。
本実施例の振動波モータは、加圧調節部材や振動体、移動体を図7に示す構造とした点において、上記各実施例のものと構成が相違する。本実施例のその他の要素(圧電素子、出力軸等)は、上記各実施例の対応するものと同一なので、説明を省略する。なお、本実施例の図7に示す構成は、図1、図5、図6に対応している。
図7において、振動体52の弾性体52bの突起部52dには、摩擦材52fが接着剤による接着等で結合されている。
摩擦材52fは、フッ素樹脂粉末(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)を主材として、添加材としてカーボンファイバ、ポリイミド、二硫化モリブデンを用いて、焼成して製作した樹脂で形成されている。
【0024】
移動体53は、アルミニウム合金で形成されている。移動体53における振動体52の摩擦材52fとの摺動面には、耐久性を高めるための硬化処理として、タングステンカーバイド―コバルト溶射材料が溶射されている。
振動体52の摩擦材52fは樹脂で形成されているため、移動体53との接触時には弾性変形し、移動体53と安定した接触が可能となるとともに、耐久性が向上する。
移動体53の上面には、制振ゴム56a、ばね受け部材55が設けられており、振動波モータの駆動中に発生する移動体53の不要な振動を抑え、振動波モータの騒音や出力の低下を防止している。
ばね受け部材55の上面には、加圧ばねゴム56bを介して加圧ばね57bが取付けられている。
加圧調節部材(加圧力調節手段)54は、高吸水性樹脂や水膨張性ゴム、コルク等の湿度の上昇に伴って膨張する材料による圧力調節部材で形成されている。
加圧調節部材54は、出力軸58に焼嵌めされたディスク57aと加圧ばね57bとの間に設けられており、接着等により固定されている。
【0025】
図8に、図7に示す振動波モータにおける湿度上昇時の加圧調節部材54の変形の様子を示す。
図8において、振動波モータの周囲の環境の湿度が上昇すると、加圧調節部材54は吸湿し、膨張する。
ディスク57aは出力軸58に対して固定されているため、加圧調節部材54が膨張し回転軸方向に変形すると、加圧ばね57bの内周側が図中の矢印の方向に変形する。
これにより、加圧ばね57bの変位が減少し、加圧ばね57bによって振動体52及び移動体53に付与されている加圧力が減少する。
【0026】
他方、振動波モータの周囲の環境の湿度が上昇すると、振動体52の樹脂材料からなる摩擦材52fと移動体53の摺動面のわずかな隙間に微小な水分が付着することにより、振動体52と移動体53との間の摩擦係数が上昇する。
よって、振動体52と移動体53との間に作用する摩擦力は、湿度上昇に伴う加圧力の減少と摩擦係数の上昇が相殺されることにより、湿度が上昇しても変化しにくくなる。
反対に、湿度が低下すると、加圧調節部材54が放湿し、加圧調節部材54が収縮する。それにより、加圧ばね57bの変位が増加することで加圧力が増加する。
そして、振動体52と移動体53の摺動面のわずかな隙間にあった水分が少なくなり、振動体52と移動体53との間の摩擦係数が低下する。よって、振動体52と移動体53との間に作用する摩擦力は、湿度低下に伴う加圧力の増加と摩擦係数の低下が相殺されることにより、湿度が低下しても変化しにくくなる。
【0027】
以上より、湿度の変化に伴って加圧力を変化させることが可能になり、湿度の変化に伴う振動波モータの性能の劣化を低減することができる。
なお、本実施例において、振動体52の摩擦材52fはフッ素樹脂粉末主材とした樹脂で形成し、移動体53はタングステンカーバイド―コバルト溶射材料を溶射したアルミニウム合金で形成されている。
しかし、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、湿度の上昇に伴って摩擦係数が上昇する材料の組合せであれば、本発明により振動波モータの発生力の変化を抑制することが可能となる。
以上に説明したように、本発明の上記各実施例の構成によれば、湿度の変化に伴って発生する振動波モータの摩擦力の変化を抑制し、湿度の変化による振動波モータの性能の劣化を低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
2:振動体
2a:圧電素子
3:移動体
4:加圧調節部材
7b:加圧ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギー変換素子と、
前記電気−機械エネルギー変換素子に固定され、前記電気−機械エネルギー変換素子への電圧の印加により振動する振動体と、
前記振動体と加圧接触し、前記振動により摩擦駆動する移動体と、
前記振動体と前記移動体とを前記加圧接触させる加圧部材と、
を有する振動波モータであって、
前記加圧部材に発生する加圧力を調整する加圧力調節手段を備え、
前記加圧力調節手段は、前記加圧力を湿度の変化に応じて調節することを特徴とする振動波モータ。
【請求項2】
前記加圧力調節手段は、湿度の変化に応じて変形する圧力調節部材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項3】
前記圧力調節部材は、湿度の上昇に伴う変形により前記加圧力を増加させることを特徴とする請求項2に記載の振動波モータ。
【請求項4】
前記圧力調節部材は、湿度の上昇に伴う変形により前記加圧力を減少させることを特徴とする請求項2に記載の振動波モータ。
【請求項5】
前記圧力調節部材は、前記湿度の上昇に伴う変形が膨張による変形であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項6】
前記圧力調節部材は、湿度の上昇に伴う吸湿により膨張し、湿度の低下に伴う放湿により収縮する材料で形成されていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の振動波モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−31285(P2013−31285A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165435(P2011−165435)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】