説明

振幅制限装置

【課題】電子機器に搭載され、何らかの信号処理の対象となる信号の振幅を既定のしきい値以下に制限する振幅制限装置に関し、構成が複雑化することなく、入力信号の振幅制限を高い精度で安定的に実現できる振幅制限装置を提供する。
【解決手段】しきい値に対する入力信号の瞬時値の超過分を示すパルスの帯域制限によって得られた補正信号を前記入力信号から減じ、前記入力信号の振幅を制限する振幅制限装置であって、前記パルスに先行して前記しきい値に対する前記入力信号の瞬時値の超過分を示す先行パルスを帯域制限し、前記補正信号を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測された補正信号の前記パルスの時点における瞬時値と、前記パルスの尖頭値との内、大きい一方を前記補正信号を得る帯域制限の対象とする制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に搭載され、何らかの信号処理の対象となる信号の振幅を既定のしきい値以下に制限する振幅制限装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のアンプ製品において、高効率のアンプを設計すると非線形性に起因する歪が生じる。また、クリップ回路でしきい値を超える部分をクリップすると、クリップした部分が扁平し歪となる。これらの歪が生じると、スプリアスとなって隣接チャネルに対して妨害波を与えてしまう。よって非線形性に起因する歪によるスプリアスが隣接のチャネルの妨害波となるため、アンプ製品の多くは、非線形歪の量を厳しく制限されている。
【0003】
このバックオフと非線形歪との両方を考慮するためのひとつとして、波高率を小さくすることで線形領域を確保する目的として振幅制限装置が用いられている。このような振幅制限装置のうち、特に振幅を制限することによる帯域外への漏洩電力を低減させる方式の振幅制限装置は、隣接するチャンネルに妨害波を出すことなく振幅制限が可能であるために、多く採用されている。
【0004】
図2は、従来の振幅制限装置の構成例を示すブロック図である。図において、予めしきい値を設定しておくしきい値発生回路10と、しきい値を超えたときの振幅と時刻を検出する尖頭値検出回路20と、しきい値を越えた部分の大きさの振幅とその時刻にパルスを発生するパルス発生回路30と、パルスの帯域を任意に制限する帯域制限回路40と、入力信号を遅延する遅延回路50と、帯域制限回路40の出力信号と遅延回路50で遅延された信号の差分を出力する差分回路60と、から構成される。
【0005】
なお、ここで言うパルスとは、任意の振幅値を持つ単一サンプルから成る信号と定義する。また、尖頭値検出回路20でしきい値を超えた信号をしきい値超過部とし、しきい値超過部でしきい値を超えた大きさをしきい値超過値、しきい値超過値の時刻をしきい値超過時刻と定義する。
【0006】
次に動作について説明する。
入力信号としきい値発生回路10に予め設定してあるしきい値を尖頭値検出回路20で比較する。尖頭値検出回路20で入力信号としきい値を比較した結果、しきい値を超えているときは、しきい値超過値としきい値超過時刻を記録する。パルス発生回路30では尖頭値検出回路20で記録したしきい値超過値のパルスをしきい値超過時刻で発生する。その発生したパルスの振幅が変わらないように帯域制限回路40で帯域を制限してから出力する。遅延回路50は、尖頭値検出回路20、パルス発生回路30、帯域制限回路40でそれぞれ行われる処理時間に応じて入力信号を遅延する。遅延回路50で遅延された信号と帯域制限回路40で帯域制限された信号を同じしきい値超過時刻で差分回路60で差し引いた信号を出力する。
【0007】
なお、本発明に関連した先行技術としては、特許文献1がある。特許文献1は、上記説明内容とほぼ同じであるので説明を省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3484375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した従来例では、帯域制限回路の特性によって信号の占有幅が決まってしまう。この占有幅に別の信号の占有幅が重なると、発生したパルスに別に発生したパルス成分が加算された信号の振幅を差し引くことになる。そのため、本来発生した振幅よりも多く差し引くことになるため、振幅にズレが生じてしまうという問題があった。
【0010】
本発明では、従来例に簡単な構成を追加することで、波形品質の劣化を抑えた振幅制限を実現できる振幅制限装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明では、しきい値に対する入力信号の瞬時値の超過分を示すパルスの帯域制限によって得られた補正信号が前記入力信号から減じられることにより、前記入力信号の振幅が制限される。予測手段は、前記パルスに先行して前記しきい値に対する前記入力信号の瞬時値の超過分を示す先行パルスを帯域制限し、前記補正信号を予測する。制御手段は、前記予測手段によって予測された補正信号の前記パルスの時点における瞬時値と、前記パルスの尖頭値との内、大きい一方を前記補正信号を得る帯域制限の対象とする。
すなわち、入力信号の振幅制限のためにその入力信号から減じられる補正信号は、予測手段によって予測された補正信号の瞬時値の列に共通の時点で含まれる瞬時値より尖頭値が大きいパルスと、同様に予測された補正信号の瞬時値の内、上記超過分を示すパルスの尖頭値より大きい瞬時値との帯域制限によって生成される。
【0012】
請求項2に記載の発明では、しきい値に対する入力信号の瞬時値の超過分を示すパルスの帯域制限によって得られた補正信号が前記入力信号から減じられることにより、前記入力信号の振幅が制限される。予測手段は、前記パルスに先行して前記しきい値に対する前記入力信号の瞬時値の超過分を示す先行パルスを帯域制限し、前記補正信号を予測する。制御手段は、前記予測手段によって予測された補正信号の前記パルスの時点における瞬時値と、前記パルスの尖頭値とを比較し、前者が後者より大きいときに前記時点における瞬時値を、後者が前者より大きいときに前記尖頭値と前記時点における瞬時値との差を、それぞれ前記補正信号を得る帯域制限の対象とする。
すなわち、入力信号の振幅制限のためにその入力信号から減じられる補正信号は、以下の点を除いて請求項1に記載の発明と異なる処理によって生成される。
上記補正信号の生成のために帯域制限されるパルスの尖頭値は、上記帯域制限に先行して、予測手段によって予測された補正信号のパルスの時点における瞬時値だけ減じられる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の振幅制限装置において、前記超過分は、前記しきい値を超える前記入力信号の瞬時値の内、所定の周期または頻度で観測された最大の瞬時値の超過分である。
すなわち、予測手段が補正信号を予測する処理と、制御手段がその補正信号を得るための帯域制限の対象を特定する処理とは、しきい値に対する入力信号の瞬時値の単なる超過分ではなく、このような超過分の内、予め間引かれた少ない超過分のみを演算対象として行われる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、入力信号の瞬時値がしきい値を超える頻度が広範にかつ多様に変化し得る場合であっても、入力信号の振幅制限が精度よく安定に達成される。
【0015】
また、本発明では、入力信号の瞬時値が時間軸上の短い期間に頻繁にしきい値を超えることに起因する補正信号の振幅の過度の増加が回避され、入力信号の振幅制限が精度よく安定性がさらに高められる。
【0016】
さらに、本発明では、入力信号の振幅制限に必要な処理量および資源の削減が図られる。
【0017】
したがって、本発明が適用された装置やシステムでは、多様な属性を有する信号に対する信号処理が可能となり、総合的な信頼性や性能が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る振幅制限装置のブロック図である。
【図2】本発明の従来例に係る振幅制限装置のブロック図である。
【図3】本発明の実施例において、パルス発生回路の出力が帯域制限予測回路の出力より大きい場合のパルス調整回路の動作を説明する図である。
【図4】本発明の実施例において、パルス発生回路の出力が帯域制限予測回路の出力より小さい場合のパルス調整回路の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の第一の実施形態を示す図である。 図1において、図2に示すものと同じ要素については、同じ符号を付与し、ここではその説明を省略する。
【0021】
本実施形態と図2に示す従来例との構成の相違点は、以下の点にある。
(1)パルス発生回路30と帯域制限回路40との段間に前帯域制限予測回路100と、パルス調整回路110が配置される。
(2)パルス発生回路30の出力から2分岐し一方は、前帯域制限予測回路100の入力とし、もう一方は、パルス調整回路110の入力とする。
(3)前帯域制限予測回路100の出力は、パルス調整回路110に接続される。
(4)パルス調整回路110の出力は、帯域制限回路40の入力に接続される。
【0022】
図3と図4で、パルス調整回路110の動作を説明する図である。
【0023】
以下、図1ないし、図3と図4とを参照して本実施形態の動作を説明する。図1と同じ要素については、同じ符号を付与し、ここではその説明を省略する。
【0024】
図3にパルス発生回路30で出力したパルスが前帯域制限予測回路100で予測したパルスより大きい場合について説明する。
パルス発生回路30から出力されたしきい値超過値が前帯域制限予測回路100に入力されると、直前の尖頭値であるN−3のしきい値超過値を元にNのしきい値超過値を予測する。その予測したしきい値超過値をNのしきい値超過時刻としてパルス調整回路110へ出力する。パルス調整回路110では、パルス発生回路30から出力されたしきい値超過値と前帯域制限予測回路100のしきい値超過値を同じしきい値超過時刻で比較する。その比較した結果、パルス発生回路30で出力されたしきい値超過値が大きいため、パルス発生回路30のしきい値超過値からパルス調整回路110で予測したしきい値超過値を減じてから帯域制限回路40に出力する。
【0025】
次に、図4にパルス発生回路30で出力したパルスが前帯域制限予測回路100で予測した値より小さい場合について説明する。
パルス発生回路30から出力されたしきい値超過値が前帯域制限予測回路100に入力されると、直前の尖頭値であるN−3のしきい値超過値を元にNのしきい値超過値を予測する。その予測したしきい値超過値をNのしきい値超過時刻としてパルス調整回路110へ出力する。パルス調整回路110では、パルス発生回路30から出力されたしきい値超過値と前帯域制限予測回路100のしきい値超過値を同じしきい値超過時刻で比較する。その比較した結果、パルス発生回路30で出力されたしきい値超過値が小さいため、パルス調整回路110でNのしきい値超過値を0にしてから帯域制限回路40に出力する。
【0026】
なお、Nは正の整数である。
【0027】
なお、図3、図4のように帯域制限回路40に出力された信号は、遅延回路50で処理遅延分遅延されて、同じしきい値超過時刻で差分回路60で計算されて出力される。
【0028】
なお、パルスは時間幅に限定されない。ただし、帯域制限で予測するためのパルス幅を持つことは言うまでもない。
【0029】
なお、前帯域制限予測回路で直前の尖頭値で今回の尖頭値を予測したが、これに限定されるものではない。また、今回の尖頭値の予測を直前の尖頭値だけで予測するとしたが、できるだけ多くの過去の尖頭値から今回の尖頭値を予測すれば、より精度の高い予測値となるが、過去の尖頭値を多く使用すると処理量が上がるのは言うまでもない。
【0030】
なお、前帯域制限予測回路で行われる予測処理は、厳密に行えば帯域制限回路40と同じ計算量を必要とするが、しきい値超過時刻をある範囲に限定してもかまわない。
【0031】
なお、尖頭値検出回路での検出を尖頭値だけとしたが、帯域制限予測回路およびパルス調整回路による処理の処理量と処理のために消費される消費電力との削減が必要ない場合には、しきい値を超える度にパルスを生成しても良い。
【符号の説明】
【0032】
10 しきい値発生回路
20 尖頭値検出回路
30 パルス発生回路
40 帯域制限回路
50 遅延回路
60 差分回路
100 前帯域制限予測回路
110 パルス調整回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
しきい値に対する入力信号の瞬時値の超過分を示すパルスの帯域制限によって得られた補正信号を前記入力信号から減じ、前記入力信号の振幅を制限する振幅制限装置であって、
前記パルスに先行して前記しきい値に対する前記入力信号の瞬時値の超過分を示す先行パルスを帯域制限し、前記補正信号を予測する予測手段と、
前記予測手段によって予測された補正信号の前記パルスの時点における瞬時値と、前記パルスの尖頭値との内、大きい一方を前記補正信号を得る帯域制限の対象とする制御手段と
を備えたことを特徴とする振幅制限装置。
【請求項2】
しきい値に対する入力信号の瞬時値の超過分を示すパルスの帯域制限によって得られた補正信号を前記入力信号から減じ、前記入力信号の振幅を制限する振幅制限装置であって、
前記パルスに先行して前記しきい値に対する前記入力信号の瞬時値の超過分を示す先行パルスを帯域制限し、前記補正信号を予測する予測手段と、
前記予測手段によって予測された補正信号の前記パルスの時点における瞬時値と、前記パルスの尖頭値とを比較し、前者が後者より大きいときに前記時点における瞬時値を、後者が前者より大きいときに前記尖頭値と前記時点における瞬時値との差を、それぞれ前記補正信号を得る帯域制限の対象とする制御手段と
を備えたことを特徴とする振幅制限装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の振幅制限装置において、
前記超過分は、
前記しきい値を超える前記入力信号の瞬時値の内、所定の周期または頻度で観測された最大の瞬時値の超過分である
ことを特徴とする振幅制限装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−54630(P2012−54630A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193221(P2010−193221)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】