説明

振幅調整装置、振幅調整方法、および記憶システム

【課題】より少ない回路規模で、振幅の非対称性を低減すること。
【解決手段】ADC313は、破線で示す前置調整部60と、離散化部62とを含む。ADC313は、入力部で入力されたアナログ信号の振幅が非線形区間に存在する場合、アナログ信号に対して振幅を調整しつつ、デジタル信号に変換して出力する。すなわち、前置調整部60は、アナログデジタル変換部は、アナログ信号をデジタル信号に変換する前に、非線形区間における非線形性を打ち消すように、アナログ信号の振幅を調整する。具体的には、前置調整部60は、非線形区間における入出力特性を双曲線正接関数の逆数の近似値とすることによって、非線形区間におけるアナログ信号の振幅を調整する。つぎに、離散化部62は、前置調整部60によって振幅が調整されたアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶媒体へのアクセス技術に関し、特に、記憶媒体から読み出した信号の振幅を調整する振幅調整装置、振幅調整方法、および記憶システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクを用いた記憶装置は、パーソナルコンピュータ、ハードディスクレコーダー、ビデオカメラ、携帯電話など、さまざまな分野において必須の装置となりつつある。ハードディスクを用いた記憶装置は、適用される分野によって求められる仕様もさまざまである。たとえば、パーソナルコンピュータに搭載するハードディスクには、高速性、大容量性が求められる。しかしながら、高速化が進むほど単位時間あたりに扱うデータの量が増えるため、単位時間あたりの誤りも比例して増大する。そうすると、すべての誤りを訂正することが困難となり、結果的にハードディスクへのアクセスに要する時間が増大する場合があり、高速化のボトルネックとなる。
【0003】
一般的に、記憶装置に記憶されている信号を読み出す素子として、磁気抵抗素子(MagnetoResistive)が用いられていた。しかし、磁気抵抗素子を介して記憶装置から読み出した再生信号波形は、正パルスの出力振幅と負パルスの出力振幅とが非対称となる(以下、「振幅の非対称性」と表記する。)問題があった(たとえば、非特許文献1参照。)。振幅の非対称性(Amplitude Asymmetry)の問題は、磁気抵抗素子により、正パルスと負パルスのいずれか一方の出力振幅が低減されて出力されることによって生じ、両パルスのダイナミックレンジが異なることをいう。振幅の非対称性が顕著に現れる場合、磁気抵抗素子の後段において実行されるデータ検出処理の検出精度が劣化することとなる。そうすると、データ検出の後に実行される誤り訂正復号の訂正能力が低減してしまう。このような場合、記憶装置に記憶されたデータを正しく再生するために、再度、記憶装置にアクセスする必要が生じるため、記憶装置の高速化が困難となっていた。この非対称性を解消する技術として、従来、磁気抵抗素子に印加するバイアス磁界を制御していた(たとえば、特許文献1参照。)。また、アナログ/デジタル変換器のゼロレベルを調整することによって、非対称性を補正していた(たとえば、特許文献2参照。)。また、誤り訂正処理後の結果をフィードバックすることによって、非対称性を補正していた(たとえば、特許文献3参照。)。
【0004】
【非特許文献1】Akihiko Takeo、et. al.、「Characterization of GMR Nonlinear Response and the Impact on BER in Perpendicular Magnetic Recording」、IEEE Transactions on Magnetics、July,2004、Vol.40、No.4
【特許文献1】特開平4−205903号公報
【特許文献2】特開平5−205205号公報
【特許文献3】特開平11−238205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者はこうした状況下、以下の課題を認識するに至った。すなわち、アナログ回路によっては動作が不安定となるので非線形性を正確に補正することが困難であり、また、回路規模が増大するといった課題である。一方、デジタル処理によって非線形性を補正すると、フィードバックループに伴う遅延の発生、あるいは、アナログ/デジタル変換器におけるビット数の増加に伴う回路規模の増大といった課題である。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、より少ない回路規模で、振幅の非対称性を低減できる記憶装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の振幅調整装置は、入力部と、アナログデジタル変換部とを備える。入力部は、磁気抵抗素子を介して出力されたアナログ信号であって、正区間におけるダイナミックレンジと負区間におけるダイナミックレンジとが非対称となり、いずれか一方の区間に非線形区間を含むアナログ信号を入力する。アナログデジタル変換部は、入力部で入力されたアナログ信号の振幅が非線形区間に存在する場合、アナログ信号に対して振幅を調整しつつ、デジタル信号に変換して出力する。また、アナログデジタル変換部は、アナログ信号をデジタル信号に変換する前に、非線形区間における非線形性を打ち消すように、アナログ信号の振幅を調整する前置調整部を有する。
【0008】
ここで、「非線形区間」とは、磁気抵抗素子の入出力特性において磁気抵抗素子に入力されたアナログ信号の振幅が歪まされて出力される区間などを含む。また、「非線形区間における非線形性を打ち消すように、アナログ信号の振幅を調整する前置調整部」とは、その入出力特性として、非線形区間における入出力特性の逆特性、もしくは、逆特性に近似した特性を有する前置補正部などを含む。
【0009】
この態様によると、アナログデジタル変換部において、アナログ信号の振幅を調整することによって、磁気抵抗素子において発生した振幅の非線形性を打ち消すことができる。また、磁気抵抗素子において発生した振幅の非線形性を打ち消すことによって、後段において実行するデータ検出の検出精度を向上できる。また、さらに後段において実行される誤り訂正復号後の誤り特性を改善できる。
【0010】
前置調整部は、非線形区間における入出力特性を双曲線正接関数の逆数に相当する値とすることによって、非線形区間におけるアナログ信号の振幅を調整してもよい。前置調整部は、非線形区間に含まれる複数の部分区間において、複数の部分区間のうちの第1部分区間の入出力特性として、少なくとも1より大きい第1の傾きを有する1次関数が設定され、また、複数の部分区間のうち、第1部分区間と連続する第2部分区間の入出力特性として、第1の傾きと異なる傾きを有する1次関数が設定されていてもよい。ここで、「双曲線正接関数の逆数に相当する値」とは、少なくとも双曲線正接関数の入出力特性を近似した値などを含み、たとえば、双曲線正接関数の入出力特性とn次関数(nは1以上の整数)の入出力特性とを加算、減算、乗算、もしくは除算した複数の値なども含む。また、「連続する」とは、第1部分区間の終点と第2部分区間の始点とが一致することなどを含み、また、第1部分区間の始点と第2部分区間の終点とが一致することも含む。
【0011】
前置調整部は、複数の抵抗素子と、比較部とを有してもよい。複数の抵抗素子は、直列に設置された複数の抵抗素子であって、一定電圧を有する参照信号を入力として、順次、後段の抵抗素子に対し、それぞれ振幅調整された参照信号を出力する。比較部は、複数の抵抗素子のそれぞれから出力された参照信号と、入力部から入力されたアナログ信号の振幅とをそれぞれ比較することによって、アナログ信号の振幅を調整する。また、複数の抵抗素子は、それぞれの抵抗素子の抵抗値に非均一性をもたせることによって、振幅調整の幅を変えてもよい。また、複数の抵抗素子のうち非線形区間に対応する抵抗素子は、非線形区間以外の区間に対応する抵抗素子の抵抗値と異なる抵抗値に設定されることによって、非線形区間における非線形性を調整してもよい。ここで、「それぞれの抵抗素子の抵抗値に非均一性をもたせる」とは、複数の抵抗素子のうち、少なくとも1以上の抵抗素子の抵抗値が他の抵抗素子の抵抗値と異なることなどを含み、複数の抵抗素子において、同一の抵抗値を有する抵抗素子が複数存在してもよい。この態様によると、アナログデジタル変換部に含まれる複数の抵抗素子の抵抗値をそれぞれ設定するだけで、アナログ信号の振幅の非対称性の低減化を小規模な回路で実現できる。
【0012】
前置調整部は、複数の抵抗素子のうち少なくとも1以上の抵抗素子の入力端に接続され、入力端のそれぞれに対し、対応する参照電圧を印加することによって、前記複数の抵抗素子のそれぞれから出力される参照信号の振幅を調整する参照電圧制御部と、をさらに有してもよい。この場合、複数の抵抗素子は、同一の抵抗値を有してもよい。また、参照電圧制御部は、複数の抵抗素子のうち非線形区間に対応する抵抗素子の入力端に対し、非線形区間以外の区間に対応する抵抗素子の入力端とは異なる参照電圧を印加することによって、非線形区間における非線形性を調整してもよい。ここで、「対応する参照電圧」とは、抵抗素子ごとに対応づけられて決定された参照電圧を含み、予め設定されていてもよく、また、磁気抵抗素子の品質にしたがって動的に変化してもよい。この態様によると、参照電圧制御部によって柔軟に参照信号の振幅を制御できる。また、アナログデジタル変換部に含まれる複数の抵抗素子の抵抗値を同一にできるので回路コストが低減できる。また、アナログ信号の振幅の非対称性の低減化を小規模な回路で実現できる。
【0013】
本発明の別の態様は、振幅調整方法である。この方法は、入力するステップと、出力するステップとを含む。入力するステップは、磁気抵抗素子を介して出力されたアナログ信号であって、正区間におけるダイナミックレンジと負区間におけるダイナミックレンジとが非対称となり、いずれか一方の区間に非線形区間を含むアナログ信号を入力する。出力するステップは、非線形区間に存在するアナログ信号に対して、非線形区間における非線形性を打ち消すようにその振幅を調整しつつ、デジタル信号に変換して出力する。この態様によると、出力するステップにおいて、アナログ信号の振幅を調整することによって、磁気抵抗素子において発生した振幅の非線形性を打ち消すことができる。また、磁気抵抗素子において発生した振幅の非線形性を打ち消すことによって、後段において実行するデータ検出の検出精度を向上できる。また、さらに後段において実行される誤り訂正復号後の誤り特性を改善できる。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、記憶システムである。この記憶システムは、データを記憶装置に書き込むライトチャネルと、記憶装置に記憶されているデータを読み出すリードチャネルとを備える信号記憶システムである。ライトチャネルは、データをランレングス符号化する第1の符号化部と、第1の符号化部で符号化されたデータに対し、低密度パリティ検査符号を用いて符号化する第2の符号化部と、第2の符号化部で符号化されたデータを記憶装置に書き込む書き込み部と、を有する。リードチャネルは、入力部と、アナログデジタル変換部と、ソフト出力検出部と、第1の復号部と、第2の復号部とを有する。入力部は、磁気抵抗素子を介して記憶装置から出力されたアナログ信号であって、正区間におけるダイナミックレンジと負区間におけるダイナミックレンジとが非対称となり、いずれか一方の区間に非線形区間を含むアナログ信号を入力する。アナログデジタル変換部は、入力部から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。ソフト出力検出部は、アナログデジタル変換部から出力されたデジタル信号の尤度を計算して軟判定値を出力する。第1の復号部は、ソフト出力検出部から出力されたデータを復号し、第2の符号化部に対応している。第2の復号部は、第1の復号部で復号されたデータを復号し、第1の符号化部に対応している。アナログデジタル変換部は、入力部で入力されたアナログ信号の振幅が非線形区間に存在する場合、アナログ信号をデジタル信号に変換する前に、アナログ信号に対して、非線形区間における非線形性を打ち消すように振幅を調整する前置調整部を有する。この態様によると、磁気抵抗素子において発生した振幅の非対称性による影響を低減することができ、より高速に記憶システムにアクセスすることができる。
【0015】
本発明のさらに別の態様もまた、記憶システムである。この記憶システムは、さらに、データを記憶する記憶装置と、記憶装置への書き込みと、記憶装置からの読み出しとを制御する制御部と、を有する。リードチャネルは、制御部の指示に従って、記憶装置に記憶されているデータを磁気抵抗素子を介して読み出し、ライトチャネルは、制御部の指示に従って、符号化されたデータを記憶装置に書き込む。この態様によると、磁気抵抗素子において発生した振幅の非対称性による影響を低減することができ、より高速に記憶システムにアクセスすることができる。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、振幅調整装置である。この装置は、1つの半導体基板上に一体集積化されている。この態様によると、一体集積化されることにより、低規模な半導体集積回路を実現できる。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より少ない回路規模で、振幅の非対称性をより低減できる記憶装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態を具体的に説明する前に、まず本実施形態にかかる記憶装置について概要を述べる。本実施形態にかかる記憶装置は、ハードディスクコントローラと、磁気ディスク装置と、リードチャネルとライトチャネルを含むリードライトチャネルと、を有する。磁気ディスク装置においては、通常、磁気抵抗素子(MagnetroResistive。以下、「MR素子」と略記する。)を含むヘッドを介して、ハードディスクに記憶されているデータを読み出す。ここで、ハードディスクから読み出した信号の波形は、正パルスの出力振幅と負パルスの出力振幅とが非対称となることがあり、高速化のボトルネックとなっていた。そこで、本発明の実施形態においては、リードチャネルにおいて読出したアナログ信号をデジタル信号に変換する際に、振幅の非対称性を改善する。詳細は後述するが、アナログデジタル変換器の入出力特性を振幅の非対称性を打ち消すような特性とすることによって、振幅の非対称性を低減する。
【0020】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気ディスク装置100の構成を示す図である。図1の磁気ディスク装置100は、大きく分けて、ハードディスクコントローラ1(以下、「HDC1」と略記する。)、中央処理演算装置2(以下、「CPU2」と略記する。)、リードライトチャネル3(以下、「R/Wチャネル3」と略記する。)、ボイスコイルモータ/スピンドルモータ制御部4(以下、「VCM/SPM制御部4」と略記する。)、及びディスクエンクロージャ5(以下、「DE5」と略記する。)とから構成される。一般に、HDC1、CPU2、R/Wチャネル3、及びVCM/SPM制御部4は同一の基板上に構成される。
【0022】
HDC1は、HDC1全体を制御する主制御部11、データフォーマット制御部12、誤り訂正符号化制御部13(以下、「ECC制御部13」と略記する。)、及びバッファRAM14を含む。HDC1は、図示しないインタフェース部を介してホストシステムと接続される。また、R/Wチャネル3を介して、DE5と接続されており、主制御部11の制御により、ホストとDE5の間のデータ転送を行う。このHDC1には、R/Wチャネル3で生成されるリードリファレンスクロック(RRCK)が入力される。データフォーマット制御部12は、ホストから転送されたデータをディスク媒体50上に記録するのに適したフォーマットに変換し、逆に、ディスク媒体50から再生されたデータをホストに転送するのに適したフォーマットに変換する。ディスク媒体50は、たとえば、磁気ディスクを含む。ECC制御部13は、ディスク媒体50から再生されたデータに含まれる誤りの訂正及び検出を可能にするために、記録するデータを情報シンボルとして、冗長シンボルを付加する。またECC制御部13は、再生されたデータに誤りが生じているかを判断し、誤りがある場合には訂正或いは検出を行う。但し、誤りが訂正できるシンボル数は有限であり、冗長データの長さに関係する。即ち、多くの冗長データを付加するとフォーマット効率が悪化するため、誤り訂正可能シンボル数とはトレードオフとなる。ECCとしてリードソロモン(RS)符号を利用して誤り訂正を行う場合、(冗長シンボル数/2)個までの誤りを訂正できる。バッファRAM14は、ホストから転送されたデータを一時的に保存し、適切なタイミングでR/Wチャネル3に転送する。逆に、R/Wチャネル3から転送されたリードデータを一時的に保存し、ECC復号処理などの終了後、適切なタイミングでホストに転送する。
【0023】
CPU2は、フラッシュROM21(以下、「FROM21」と略記する。)、及びRAM22を含み、HDC1、R/Wチャネル3、VCM/SPM制御部4、及びDE5と接続される。FROM21には、CPU2の動作プログラムが保存されている。
【0024】
R/Wチャネル3は、ライトチャネル31とリードチャネル32とに大別され、HDC1との間で記録するデータ及び再生されたデータの転送を行う。また、R/Wチャネル3は、DE5と接続され、記録信号の送信、再生信号の受信を行う。詳細は後述する。
【0025】
VCM/SPM制御部4は、DE5中のボイスコイルモータ52(以下、「VCM52」と略記する。)とスピンドルモータ53(以下、「SPM53」と略記する。)を制御する。
【0026】
DE5は、R/Wチャネル3と接続され、記録信号の受信、再生信号の送信を行う。またDE5は、VCM/SPM制御部4と接続されている。DE5は、ディスク媒体50、ヘッド51、VCM52、SPM53、及びプリアンプ54等を有している。図1の磁気ディスク装置100においては、ディスク媒体50が1枚であり、且つヘッド51がディスク媒体50の一方の面側のみに配置されている場合を想定しているが、複数のディスク媒体50が積層配置された構成であってもよい。また、ヘッド51は、ディスク媒体50の各面に対応して設けられるのが一般的である。R/Wチャネル3により送信された記録信号は、DE5内のプリアンプ54を経由してヘッド51に供給され、ヘッド51によりディスク媒体50に記録される。逆に、ヘッド51によりディスク媒体50から再生された信号は、プリアンプ54を経由してR/Wチャネル3に送信される。DE5内のVCM52は、ヘッド51をディスク媒体50上の目標位置に位置決めするために、ヘッド51をディスク媒体50の半径方向に移動させる。また、SPM53は、ディスク媒体50を回転させる。なお、ヘッド51には、前述したようにMR素子に起因して、その出力振幅が非対称となる。詳細は後述する。
【0027】
ここで、図2を用いて、R/Wチャネル3について説明する。図2は、図1のR/Wチャネル3の構成を示す図である。R/Wチャネル3は、大きく分けて、ライトチャネル31とリードチャネル32から構成される。
【0028】
ライトチャネル31は、バイトインターフェース部301、スクランブラ302、ランレングス制限符号化部303(以下、「RLL符号化部303」と略記する。)、低密度パリティチェック符号化部304(以下、「LDPC符号化部304」と略記する。)、書き込み補償部305(以下、「ライトプリコン部305」と略記する。)、ドライバ306を含む。
【0029】
バイトインターフェース部301では、HDC1から転送されたデータが入力データとして処理される。メディア上に書き込むデータは1セクタ単位でHDC1から入力される。このとき1セクタ分のユーザデータ(512バイト)だけでなく、HDC1によって付加されたECCバイトも同時に入力される。データバスは通常1バイト(8ビット)であり、バイトインターフェース部301により入力データとして処理される。スクランブラ302はライトデータをランダムな系列に変換する。同じ規則のデータの繰り返しは、リード時における検出性能に悪影響を与え、エラーレートを悪化させるのを防ぐためである。RLL符号化部303は0の最大連続長を制限するためのものである。0の最大連続長を制限することにより、自動利得制御部317(以下、「AGC317」と略記する。)などに適したデータ系列にする。
【0030】
LDPC符号化部304は、データ系列をLDPC符号化して冗長ビットであるパリティビットを含む系列を生成する役割を有する。LDPC符号化は、生成行列と呼ばれるk×nの行列に、長さkのデータ系列を左から掛け合わせることで行う。この生成行列に対応する検査行列Hに含まれる各要素は、0もしくは1であり、1の数が0の数に比べて少ないことから、低密度パリティ検査符号(Low Density Parity Check Codes)と呼ばれている。この1と0の配置を利用することによって、LDPC繰返復号部にて、効率的にエラーの訂正を行うことができる。
【0031】
ライトプリコン部305は、メディア上の磁化遷移の連続による非線形歪を補償する回路である。ライトデータから補償に必要な規則を検出し、正しい位置で磁化遷移が生ずるようにライト電流波形を予め調整をする。ドライバ306は擬似ECLレベルに対応した信号を出力するドライバである。ドライバ306からの出力は図示しないDE5に送られ、プリアンプ54を通してヘッド51に送られ、ライトデータがディスク媒体50上に記録される。
【0032】
リードチャネル32は、可変利得増幅器311(以下、「VGA311」と略記する。)、ローパスフィルタ312(以下、「LPF312」と略記する。)、AGC317、デジタル/アナログ変換器313(以下、「ADC313」と略記する。)、周波数シンセサイザ314、フィルタ315、ソフト出力検出部320、LDPC繰返復号部322、同期信号検出部321、ランレングス制限復号部323(以下、「RLL復号部323」と略記する。)、デスクランブラ324とから構成されている。
【0033】
VGA311及びAGC317は、図示しないプリアンプ54から送られたデータのリード波形の振幅の調整を行う。AGC317は理想的な振幅と実際の振幅を比較し、VGA311に設定すべきゲインを決定する。LPF312は、カットオフ周波数とブースト量を調整することができ、高周波ノイズの低減と部分応答(Partial Response。以下、「PR」と略記する。)波形への等化の一部を担う。LPF312でPR波形への等化を行うが、ヘッドの浮上量変動、媒体の不均一性、モータの回転変動などの多くの要因により、アナログのLPFによる完全な等化は難しいので、後段に配置され、よりフレキシビリティに富んだフィルタ315を用いて、再度PR波形への等化を行う。フィルタ315は、そのタップ係数を適応的に調整する機能を有していてもよい。周波数シンセサイザ314は、ADC313のサンプリング用クロックを生成する。
【0034】
ADC313は、AD変換により直接同期サンプルを得る構成とした。なお、この構成の他に、AD変換により非同期サンプルを得る構成であってもよい。この場合は、ゼロ相リスタート部、タイミング制御部、及び補間フィルタをさらにADC313の後段に設ければよい。非同期サンプルから同期サンプルを得る必要があり、これらのブロックがその役割を担う。ゼロ相リスタート部は初期位相を決定するためのブロックで、できるだけ早く同期サンプルを得るために用いられる。初期位相を決定した後は、タイミング制御部で理想的なサンプル値と実際のサンプル値を比較し、位相のずれを検出する。これを用いて補間フィルタのパラメータを決定することにより、同期サンプルを得ることができる。また、ADC313は、非対称性と逆の入出力特性を有するように構成され、ヘッド51において生じた振幅の非対称性を改善する。詳細は後述する。
【0035】
ソフト出力検出部320は、符号間干渉に伴う復号特性の劣化を回避するために、ビタビアルゴリズムの一種であるソフト出力ビタビアルゴリズム(Soft−Output Viterbi Algorithm。以下、「SOVA」と略記する。)が用いられる。すなわち、近年の磁気ディスク装置の記録密度の上昇に伴い、記録された符号間の干渉が大きくなり、復号特性が劣化するといった課題を解決するため、これを克服する方式として符号間干渉による部分応答を利用した最ゆう復号(Partial Response MaximumLikeihood。以下、「PRML」と略記する。)方式を用いる。PRMLは、再生信号の部分応答のゆう度を最大にする信号系列を求める方式である。
【0036】
ソフト出力検出部320としてSOVA方式が用いられている場合、軟判定値を出力する。例えば、SOVAの出力として、(−0.71、+0.18、+0.45、−0.45、−0.9)という軟判定値が出力されたとする。これらの値は、0である可能性が大きいか、1である可能性が大きいかを数値で表している。例えば、1番目の「−0.71」は1である可能性が大きいことを示しており、2番目の「+0.18」は0である可能性が大きいが1である可能性も小さくはないことを意味する。従来のビタビディテクタの出力はハード値であり、SOVAの出力を硬判定したものである。上記の例の場合、(1、0、0、1、1)である。ハード値は、0であるか、1であるかのみを表しており、どちらの可能性が高いかという情報が失われている。このためLDPC繰返復号部322に軟判定値を入力する方が復号性能が向上する。
【0037】
LDPC繰返復号部322は、LDPC符号化されているデータ系列から、LDPC符号化前の系列に復元する役割を有する。復号化の方法としては、主に、sum−product復号法とmin−sum復号法があり、復号性能の面ではsum−product復号法が有利であるが、min−sum復号法はハードウェアによる実現が容易である特徴を持つ。LDPC符号を用いる実際の復号操作では、ソフト出力検出部320とLDPC繰返復号部322の間で繰り返し復号を行うことにより、非常に良好な復号性能を得ることができる。このために実際はソフト出力検出部320とLDPC繰返復号部322を複数段配列した構成が必要になる。
【0038】
同期信号検出部321はデータの先頭に付加された同期信号(Sync Mark)を検出し、データの先頭位置を認識する役割を有する。RLL復号部323は、LDPC繰返復号部322から出力されたデータに対して、ライトチャネル31のRLL符号化部303の逆操作を行い、元のデータ系列に戻す。デスクランブラ324は、ライトチャネル31のスクランブラ302の逆操作を行い、元のデータ系列に戻す。ここで生成されたデータはHDC1に転送される。
【0039】
これらの構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0040】
ここで、図1のヘッド51の入出力特性と、図2のADC313に望まれる入出力特性について説明する。図3(a)は、図1のヘッド51の入出力特性の例を示す図である。横軸は入力磁界Hin、縦軸は出力電圧Voutを示す。入力磁界は、Hin0_min〜Hin0_maxの範囲の値をとる。出力電圧は、ヘッド51のMR素子に起因する非線形性がない場合、破線で図示するように、Vout0_min〜Vout0_maxの範囲の値となる。しかしながら、ヘッド51のMR素子に起因する非線形性が存在する場合、実線で図示するように、出力電圧は、Vout0_min〜Vout0_maxの範囲の値となる。すなわち、原点を中心として、入出力特性が非対称となる。また、図3(a)は、正区間のうちの非線形区間200において、入出力特性が非線形となることを示す。このため、入力電圧がVin0_maxの場合の出力電圧は、Vout0_maxとはならずにVout0_maxとなる。図3(b)は、図2のLPF312の出力特性の例を示す図である。また、図3(b)は、図3(a)に図示するヘッド51の出力電圧のダイナミックレンジが、LPF312によってさらに歪んだ特性となることを示す図である。横軸は入力磁界Hin、縦軸は出力電圧Voutを示す。入力磁界は、Hin0_min〜Hin0_maxの範囲の値をとる。
【0041】
図3(c)は、図1のヘッド51の出力波形の例を示す図である。横軸は時間、縦軸は出力電圧を示す。図3(c)は、0Vを中心として正区間と負区間とで非対称となることを図示している。すなわち、ヘッド51により、振幅エネルギーが(Vout0_max−Vout0_max)だけ低減されたことを示す。そうすると、後段に存在する図示しないデータ検出の検出精度が劣化する。また、さらに後段に存在する図示しない誤り訂正回路における誤り訂正能力が劣化することとなる。なお、MR素子に起因する非線形性とは、図3(c)に図示するように、正区間におけるダイナミックレンジと負区間におけるダイナミックレンジとが非対称となることなどをいう。
【0042】
図4(a)〜(b)は、図2のADC313の入出力特性の例を示す図である。横軸は入力電圧Vin、縦軸は出力電圧Voutを示す。図4(a)〜(b)に示す出力電圧は、ADC313におけるデジタル信号出力ではなく、ADC313の内部における振幅調整されたアナログ信号の出力電圧とした。入力電圧は、Vin1_min〜Vin1_maxの範囲の値をとる。また、ヘッド51のMR素子に起因する非線形性が存在する場合、実線で図示するように、出力電圧は、Vout1_min〜Vout1_maxの範囲の値となる。図4(a)は、図3(a)に図示するヘッド51のMR素子に起因する非線形性を解消するために、ADC313に、その逆特性に相当する特性を備えさせた場合を示す。また、図4(b)は、図3(b)に図示するヘッド51のMR素子に起因する非線形性とLPF312による歪みを解消するために、ADC313に、その逆特性に相当する特性を備えさせた場合を示す。ここで、ヘッド51とADC313の間において電圧の変動がないと仮定した場合、図3(a)〜(b)と図4(a)〜(b)とに図示する電圧は、以下のような関係となる。
Vin1_max = Vout0_max ・・・式(1)
Vout1_max = Vout0_max ・・・式(2)
【0043】
これらは、ヘッド51に含まれるMR素子に起因する非線形性が解消されたことを意味する。いいかえると、図3(a)〜(b)のそれぞれの非線形区間200における入出力特性の逆特性となる特性、すなわち、図4(a)〜(b)における非線形区間300における特性をADC313に備えさせることによって、MR素子に起因する非線形性を解消できる。図3(a)の非線形区間200における入出力特性は、一般的に、次式のような双曲線正接関数(Hyperbolic Tangent)となることが知られている。
【数1】

・・・式(3)
したがって、ADC313の入出力特性としては、たとえば次式で示すような、双曲線正接関数の逆特性に相当する特性とすればよい。ここで、aは実数であり、ヘッド51の特性により決定されてもよい。
【数2】

・・・式(4)
【0044】
図4(c)は、図4(b)の非線形区間300における入出力特性を2つの1次関数で近似させた場合におけるADC313の入出力特性の例を示す図である。図4(c)は、図4(b)と同様に、横軸は入力電圧、縦軸は出力電圧を示す。また、入力電圧は、Vin1_min〜Vin1_maxの範囲の値をとる。また、出力電圧は、Vout1_min〜Vout1_maxの範囲の値となる。前述のように、MR素子に起因する非線形性を解消するためには、ADC313の入出力特性を双曲線正接関数と逆の特性とすればよい。しかし、一般的に、この特性を実現することは困難である。したがって、本発明の実施形態においては、図4(c)に図示するように、2つの1次関数で近似することとしている。具体的には、入力電圧がVin1a〜Vin1bの範囲にある場合は、第1の1次関数330で表される入出力特性とする。また、入力電圧がVin1b〜Vin1_maxの範囲にある場合は、第2の1次関数340で表される入出力特性とすればよい。
【0045】
ここで、図4(c)に示す入出力特性を実現するADC313の具体的な構成について説明する。図5は、図2のADC313の構成例を示す図である。ADC313は、破線で示す前置調整部60と、離散化部62とを含む。ここでは、アナログ信号を3ビットからなるデジタル信号に変換する場合について図示したが、本発明はこれに限定されない。
【0046】
ADC313は、入力部で入力されたアナログ信号の振幅が非線形区間に存在する場合、アナログ信号に対して振幅を調整しつつ、デジタル信号に変換して出力する。すなわち、前置調整部60は、アナログ信号をデジタル信号に変換する前に、非線形区間における非線形性を打ち消すように、アナログ信号の振幅を調整する。具体的には、前置調整部60は、非線形区間における入出力特性を双曲線正接関数の逆数の近似値とすることによって、非線形区間におけるアナログ信号の振幅を調整する。つぎに、離散化部62は、前置調整部60によって振幅が調整されたアナログ信号を3ビットのデジタル信号に変換して出力する。
【0047】
前置調整部60は、非線形区間に含まれる複数の部分区間において、複数の部分区間のうちの第1部分区間の入出力特性として、少なくとも1より大きい第1の傾きを有する第1の1次関数330が設定される。また、複数の部分区間のうち、第1部分区間と連続する第2部分区間の入出力特性として、第1の傾きと異なる傾きを有する第2の1次関数340が設定される。ここで、第1部分区間とは、たとえば、図4(c)に図示したVin1a〜Vin1bの区間をいう。また、第1部分区間と連続する第2部分区間とは、たとえば、図4(c)に図示したVin1b〜Vin1_maxの区間をいう。第2部分区間の入出力特性を図4(c)に図示するような入出力特性とする場合、第2の1次関数340の傾きは第1の傾きより小さくなるように設定される。
【0048】
具体的に説明する。前置調整部60は、抵抗素子400で代表される第1抵抗素子64と第2抵抗素子66と第3抵抗素子68と第4抵抗素子70と第5抵抗素子72と第6抵抗素子74と第7抵抗素子76と第8抵抗素子78と第9抵抗素子80と、比較部82とを含む。抵抗素子400は、それぞれ直列に設置され、一定電圧を有する参照信号Vrefを入力として、順次、後段の抵抗素子に対し、それぞれ振幅調整された参照信号を出力する。つぎに、比較部82は、複数の抵抗素子400のそれぞれから出力された参照信号と、LPF312から入力されたアナログ信号の振幅とをそれぞれ比較することによって、アナログ信号の振幅を調整する。すなわち、時間的に連続した値であるアナログ信号を各抵抗素子400から出力された参照信号と比較し、その大小関係により、離散的な8つの信号を出力する。ここでの8つの信号はアナログ信号であるものの、プラスかマイナスのいずれかを示す一定の振幅をそれぞれ有する。
【0049】
複数の抵抗素子400は、それぞれの抵抗値を非均一な値とすることによって、それぞれの抵抗素子から出力される電圧の減少幅を変えている。具体的には、各抵抗素子に印加される参照信号の電圧Vrefは、それぞれの抵抗素子の出力において、抵抗値にしたがって低減されて出力される。すなわち、抵抗値が大きいほど電圧が低減され、小さいほど低減の度合いが少ない。言い換えると、複数の抵抗素子400において、区間ごとに、それぞれの抵抗値を非均一な値とすることによって、各抵抗素子400における電圧調整幅が異なり、これにより、入出力特性の傾きを区間ごとに変化させることができる。本発明の実施形態においては、非線形区間である第1部分区間と第2部分区間において、それぞれ対応する抵抗素子400の抵抗値を他の抵抗素子の抵抗値と異ならせることによって、区間ごとの入出力特性の傾きを調整している。
【0050】
たとえば、第1部分区間もしくは第2部分区間以外の区間に対応する抵抗素子を、第5抵抗素子72と、第6抵抗素子74と、第7抵抗素子76と、第8抵抗素子78と仮定し、これらの抵抗値をRと仮定する。また、第1部分区間に対応する抵抗素子を第3抵抗素子68と第4抵抗素子70と仮定する。また、第2部分区間に対応する抵抗素子を第2抵抗素子66と仮定する。この場合、第1部分区間に対応する第3抵抗素子68と第4抵抗素子70の抵抗値は、第1部分区間もしくは第2部分区間以外の区間に対応する抵抗素子の抵抗値Rよりも小さい値、たとえば、R/3と設定すればよい。また、第2部分区間に対応する第2抵抗素子66の抵抗値は、抵抗値Rよりも大きい値、たとえば、2Rと設定すればよい。なお、一般的に、両端の抵抗素子である第1抵抗素子64と第9抵抗素子80は、通常の抵抗素子の抵抗値Rの半分の値R/2に設定される。
【0051】
図6(a)〜(c)は、図2のソフト出力検出部320の出力信号の特性の例を示す図である。各図において、縦軸はビット誤り率(Bit Error Rate)、横軸は信号対ノイズ比(Signal to Noise Ratio)を示す。図6(a)は、図1のヘッド51において入出力特性に5%の非対称性が存在した場合におけるソフト出力検出部320の第1ビット誤り率特性350と、本発明の実施形態を適用した場合の第2ビット誤り率特性360を示す図である。図6(a)は、さらに、前述の非対称性を理想的に解消できた場合、もしくは、図1のヘッド51において入出力特性に非対称性が存在しなかった場合における、第3ビット誤り率特性370を示す図である。5%の非対称性とは、正区間におけるダイナミックレンジV1が負区間におけるダイナミックレンジV2の約90%(V1=V2×(1−0.05)/(1+0.05)≒0.9×V2)であることを意味する。図6(a)の第2ビット誤り率特性360に図示するように、本発明の実施形態を適用することによって、ビット誤り率特性を改善できる。たとえば、第2ビット誤り率特性360に示されるように、ビット誤り率が10−5における所望SNRは、本発明の実施形態を適用しない第1ビット誤り率特性350にくらべ、0.1dB程度改善されている。
【0052】
一般的に、ハードディスクをはじめとする記憶装置の分野において、ビット誤り率を0.1dB程度改善するためには、通常、1世代程度の技術革新が必要であることが知られている。したがって、本発明の実施形態による0.1dBものビット誤り率の改善は、当業者にとって、顕著な効果であることは言うまでもない。
【0053】
図6(b)は、図1のヘッド51において入出力特性に10%の非対称性が存在した場合におけるビット誤り率特性を示す図である。また、図6(c)は、図1のヘッド51において入出力特性に15%の非対称性が存在した場合におけるビット誤り率特性を示す図である。図6(b)、図6(c)の第2ビット誤り率特性360に図示するように、図6(a)の場合と同様に、本発明の実施形態によって振幅の非対称性を低減し、また、ビット誤り率を顕著に改善できる。
【0054】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、実施形態相互の組み合わせ、または、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0055】
本実施形態によれば、アナログデジタル変換部において、アナログ信号の振幅を調整することによって、磁気抵抗素子において発生した振幅の非線形性を低減できる。また、磁気抵抗素子において発生した振幅の非線形性を低減することによって、誤り訂正復号後の誤り特性を顕著に改善できる。また、アナログデジタル変換部に含まれる複数の抵抗素子の抵抗値をそれぞれ設定するだけで、アナログ信号の振幅の非対称性の低減化を小規模かつ安定性の高い回路で実現できる。また、磁気抵抗素子において発生した振幅の非対称性による影響を低減することによって、より高速に記憶システムにアクセスすることができる。また、余分なハードウェアを搭載する必要がなくなるので、低規模な半導体集積回路を実現できる。
【0056】
次に、本発明の実施例の変形例を示す。まず概要を述べる。本変形例は、ヘッドに含まれるMR素子に起因する振幅の非対称性を低減する記憶システムに関する。また、本変形例においては、磁気ディスク装置100は、図1と同様の構成をとる。また、R/Wチャネル3は、図2と同様の構成をとる。本発明の実施形態の違いは、図2のADC313が図7の構成をとる点である。すなわち、本変形例は、記憶システムに含まれるアナログデジタル変換器における抵抗値を可変とすることを特徴とする。なお、前述した実施の形態と共通する部分については同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0057】
図7は、図2のADC313の構成の変形例を示す図である。ADC313は、前置調整部60と、離散化部62と、抵抗値制御部86とを含む。抵抗値制御部86は、外部からの指示に応じて、前置調整部60に含まれる抵抗素子400の抵抗値を制御する。「外部からの指示」とは、ADC313以外の回路からの指示を含み、たとえば、LDPC繰返復号部322からの指示であってもよい。この場合、LDPC繰返復号部322における誤り訂正結果が通知され、その結果が良い場合は、前置調整部60の抵抗値を変えず、逆に悪い場合は、抵抗値を変える制御を行なえばよい。また、抵抗値を変化させるべき抵抗素子と、変化後の抵抗値について、図示しないインタフェースを介してされたユーザの指示に応じて、抵抗値制御部86は前置調整部60に対し指示してもよい。この場合、抵抗値制御部86は、指定された抵抗素子400に対して、指定された抵抗値となるように前置調整部60を制御する。
【0058】
図8は、図5の抵抗素子400の構成の変形例を示す図である。抵抗素子400は、調整抵抗素子84で代表される第1調整抵抗素子84aと、第2調整抵抗素子84bと、第n調整抵抗素子84nと、切替部88で代表される第1切替部88aと、第m切替部88mとを含む。nは2以上、mは1以上の整数である。それぞれの切替部88は、抵抗値制御部86の指示にもとづいて、スイッチをON、もしくはOFFにする。例を用いて具体的に説明する。たとえば、すべての調整抵抗素子84の抵抗値が2Rであると仮定する。この場合、いずれの切替部88もOFFである場合、抵抗素子400における抵抗値は2Rとなる。また、いずれか1つの切替部88のみONである場合、抵抗素子400における抵抗値はRとなる。また、k個の切替部88がONである場合、抵抗素子400における抵抗値は2R/kとなる。いいかえると、非線形区間以外の区間に対応する抵抗素子400に対しては、抵抗値制御部86はいずれか1つの切替部88をONとし、その抵抗値をRとする。また、非線形区間に対応する抵抗素子400に対しては、抵抗値制御部86は0、もしくは2つ以上の切替部88をONとし、その抵抗値をR以外の値とすればよい。なお、前置調整部60に含まれる複数の抵抗素子のうち、いずれか1つ以上の抵抗素子のみを図8に示す構成としてもよい。また、調整抵抗素子84の抵抗値は全て同じでなくともよい。これらの場合であっても、抵抗値制御部86による切替部88の制御を適宜変更することによって同様の効果を得られることは言うまでもない。
【0059】
図9は、図5の前置調整部60の構成の変形例を示す図である。図9に示す前置調整部60は、図5に示す前置調整部60に、参照電圧制御部90が付加された構成をとる。なお、前述した図5に示す前置調整部60と共通する部分については同一の符号を付して説明を簡略化する。参照電圧制御部90は、複数の抵抗素子のうち少なくとも1以上の抵抗素子の入力端に接続され、入力端のそれぞれに対し、対応する参照電圧を印加することによって、前記複数の抵抗素子のそれぞれから出力される参照信号の振幅を調整する。本変形例においては、複数の抵抗素子は、同一の抵抗値を有してもよい。また、参照電圧制御部90は、複数の抵抗素子のうち非線形区間に対応する抵抗素子の入力端に対し、非線形区間以外の区間に対応する抵抗素子の入力端とは異なる参照電圧を印加することによって、非線形区間における非線形性を調整してもよい。ここで、「対応する参照電圧」とは、抵抗素子ごとに対応づけられて決定された参照電圧を含み、予め設定されていてもよく、また、磁気抵抗素子の品質にしたがって動的に変化してもよい。この態様によると、参照電圧制御部によって柔軟に参照信号の振幅を制御できる。また、アナログデジタル変換部に含まれる複数の抵抗素子の抵抗値を同一にできるので回路コストが低減できる。また、アナログ信号の振幅の非対称性の低減化を小規模な回路で実現できる。
【0060】
以上、本発明の変形例を実施形態をもとに説明した。この変形例は例示であり、実施形態相互の組み合わせ、または、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな他の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0061】
本実施形態の変形例によれば、前述した実施形態と同様の効果を得ることができる。また、抵抗素子の抵抗値を可変とすることによって、柔軟に振幅の非線形性の改善を図れる。
【0062】
本実施形態において、ヘッド51の入出力特性のうち、正区間において非線形区間が存在するとして説明した。しかしながらこれに限らず、負区間に非線形性が存在してもよい。この場合であっても、非線形区間に対応する抵抗素子400の抵抗値を他の区間の抵抗値と異ならせることによって、同様の効果を得ることができる。また、R/Wチャネル3は、1つの半導体基板上に一体集積化されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気ディスク装置の構成を示す図である。
【図2】図1のR/Wチャネルの構成を示す図である。
【図3】図3(a)は、図1のヘッドの入出力特性の例を示す図である。図3(b)は、図2のLPFの出力特性の例を示す図である。図3(c)は、図1のヘッドの出力波形の例を示す図である。
【図4】図4(a)〜(c)は、図2のADCの入出力特性の例を示す図である。
【図5】図2のADCの構成例を示す図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、図2のソフト出力検出部の出力信号の特性の例を示す図である。
【図7】図2のADCの構成の変形例を示す図である。
【図8】図5の抵抗素子の構成の変形例を示す図である。
【図9】図5の前置調整部の構成の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 HDC、 2 CPU、 3 R/Wチャネル、 4 VCM/SPM制御部、 5 DE、 11 主制御部、 12 データフォーマット制御部、 13 ECC制御部、 14 バッファRAM、 21 FROM、 22 RAM、 31 ライトチャネル、 32 リードチャネル、 50 ディスク媒体、 51 ヘッド、 52 VCM、 53 SPM、 54 プリアンプ、 60 前置調整部、 62 離散化部、 64 第1抵抗素子、 66 第2抵抗素子、 68 第3抵抗素子、 70 第4抵抗素子、 72 第5抵抗素子、 74 第6抵抗素子、 76 第7抵抗素子、 78 第8抵抗素子、 80 第9抵抗素子、 82 比較部、 84 調整抵抗素子、 84a 第1調整抵抗素子、 84b 第2調整抵抗素子、 84n 第n調整抵抗素子、 86 抵抗値制御部、 88 切替部、 88a 第1切替部、 88m 第m切替部、 90 参照電圧制御部、 200 非線形区間、 300 非線形区間、 301 バイトインターフェース部、 302 スクランブラ、 303 RLL符号化部、 304 LDPC符号化部、 305 ライトプリコン部、 306 ドライバ、 311 VGA、 312 LPF、 313 ADC、 314 周波数シンセサイザ、 315 フィルタ、 316 補間フィルタ、 317 AGC、 318 ゼロ相リスタート部、 319 タイミング制御部、 320 ソフト出力検出部、 321 同期信号検出部、 322 LDPC繰返復号部、 323 RLL復号部、 324 デスクランブラ、 330 第1の1次関数、 340 第2の1次関数、 350 第1ビット誤り率特性、 360 第2ビット誤り率特性、 370 第3ビット誤り率特性、 400 抵抗素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗素子を介して出力されたアナログ信号であって、正区間におけるダイナミックレンジと負区間におけるダイナミックレンジとが非対称となり、いずれか一方の区間に非線形区間を含むアナログ信号を入力する入力部と、
前記入力部で入力されたアナログ信号の振幅が非線形区間に存在する場合、前記アナログ信号に対して前記振幅を調整しつつ、デジタル信号に変換して出力するアナログデジタル変換部と、
を備え、
前記アナログデジタル変換部は、アナログ信号をデジタル信号に変換する前に、前記非線形区間における非線形性を打ち消すように、アナログ信号の振幅を調整する前置調整部を有することを特徴とする振幅調整装置。
【請求項2】
前記前置調整部は、前記非線形区間における入出力特性を双曲線正接関数の逆数に相当する値とすることによって、非線形区間におけるアナログ信号の振幅を調整することを特徴とする請求項1に記載の振幅調整装置。
【請求項3】
前記前置調整部は、前記非線形区間に含まれる複数の部分区間において、前記複数の部分区間のうちの第1部分区間の入出力特性として、少なくとも1より大きい第1の傾きを有する1次関数が設定され、また、前記複数の部分区間のうち、前記第1部分区間と連続する第2部分区間の入出力特性として、前記第1の傾きと異なる傾きを有する1次関数が設定されていることを特徴とする請求項1もしくは2のいずれかに記載の振幅調整装置。
【請求項4】
前記前置調整部は、
直列に設置された複数の抵抗素子であって、一定電圧を有する参照信号を入力として、順次、後段の抵抗素子に対し、それぞれ振幅調整された参照信号を出力する複数の抵抗素子と、
前記複数の抵抗素子のそれぞれから出力された参照信号と、前記入力部から入力されたアナログ信号の振幅とをそれぞれ比較することによって、前記アナログ信号の振幅を調整する比較部とを有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の振幅調整装置。
【請求項5】
前記複数の抵抗素子は、それぞれの抵抗素子の抵抗値に非均一性をもたせることによって、振幅調整の幅を変えることを特徴とする請求項4に記載の振幅調整装置。
【請求項6】
前記複数の抵抗素子のうち前記非線形区間に対応する抵抗素子は、非線形区間以外の区間に対応する抵抗素子の抵抗値と異なる抵抗値に設定されることによって、前記非線形区間における非線形性を調整することを特徴とする請求項5に記載の振幅調整装置。
【請求項7】
前記前置調整部は、
前記複数の抵抗素子のうち少なくとも1以上の抵抗素子の入力端に接続され、前記入力端のそれぞれに対し、対応する所定の参照電圧を印加することによって、前記複数の抵抗素子のそれぞれから出力される参照信号の振幅を調整する参照電圧制御部と、をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の振幅調整装置。
【請求項8】
前記複数の抵抗素子は、同一の抵抗値を有することを特徴とする請求項7に記載の振幅調整装置。
【請求項9】
前記参照電圧制御部は、前記複数の抵抗素子のうち前記非線形区間に対応する抵抗素子の入力端に対し、非線形区間以外の区間に対応する抵抗素子の入力端とは異なる参照電圧を印加することによって、前記非線形区間における非線形性を調整することを特徴とする請求項7もしくは8のいずれかに記載の振幅調整装置。
【請求項10】
磁気抵抗素子を介して出力されたアナログ信号であって、正区間におけるダイナミックレンジと負区間におけるダイナミックレンジとが非対称となり、いずれか一方の区間に非線形区間を含むアナログ信号を入力するステップと、
前記非線形区間に存在するアナログ信号に対して、前記非線形区間における非線形性を打ち消すようにその振幅を調整しつつ、デジタル信号に変換して出力するステップと、
を含むことを特徴とする振幅調整方法。
【請求項11】
データを記憶装置に書き込むライトチャネルと、記憶装置に記憶されているデータを読み出すリードチャネルとを備える信号記憶システムであって、
前記ライトチャネルは、
データをランレングス符号化する第1の符号化部と、
前記第1の符号化部で符号化されたデータに対し、低密度パリティ検査符号を用いて符号化する第2の符号化部と、
前記第2の符号化部で符号化されたデータを記憶装置に書き込む書き込み部と、
を有し、
前記リードチャネルは、
磁気抵抗素子を介して前記記憶装置から出力されたアナログ信号であって、正区間におけるダイナミックレンジと負区間におけるダイナミックレンジとが非対称となり、いずれか一方の区間に非線形区間を含むアナログ信号を入力する入力部と、
前記入力部から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するアナログデジタル変換部と、
前記アナログデジタル変換部から出力されたデジタル信号の尤度を計算して軟判定値を出力するソフト出力検出部と、
前記ソフト出力検出部から出力されたデータを復号する、第2の符号化部に対応した、第1の復号部と、
前記第1の復号部で復号されたデータを復号する、前記第1の符号化部に対応した、第2の復号部と、
を有し、
前記アナログデジタル変換部は、前記入力部で入力されたアナログ信号の振幅が非線形区間に存在する場合、アナログ信号をデジタル信号に変換する前に、前記アナログ信号に対して、前記非線形区間における非線形性を打ち消すように前記振幅を調整する前置調整部を有することを特徴とする記憶システム。
【請求項12】
請求項11に記載の記憶システムにおいて、当該記憶システムは、さらに、
データを記憶する記憶装置と、
記憶装置への書き込みと、記憶装置からの読み出しとを制御する制御部と、
を有し、
前記リードチャネルは、前記制御部の指示に従って、前記記憶装置に記憶されているデータを前記磁気抵抗素子を介して読み出し、
前記ライトチャネルは、前記制御部の指示に従って、符号化されたデータを前記記憶装置に書き込むことを特徴とする記憶システム。
【請求項13】
請求項1に記載の振幅調整装置おいて、当該装置は、1つの半導体基板上に一体集積化されたことを特徴とする振幅調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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