挿入装置
【課題】使用済みの挿入針の先端が装着者の指に刺さることを抑制しながら皮下注入器のカニューラを自動挿入することが可能な挿入装置を提供する。
【解決手段】挿入装置は、ハウジング1と、留置部材100を保持するプランジャ10と、プランジャ10に対して軸方向に相対移動可能な状態でハウジング1内に収納されたリフタ20と、ハウジング1内に収納され、プランジャ10およびリフタ20により係止可能な突起部31を有する針ホルダ30と、針ホルダ30に保持され、カニューラ100Aに挿通された挿入針40と、プランジャ10とリフタ20との間に設けられ、プランジャ10とリフタ20とが離れる方向に付勢するスプリング50とを備える。針ホルダ30の突起部31は、留置部材100が装着者の体表に達する前はプランジャ10に係止され、留置部材100が装着者の体表に達した後はリフタ20に係止される。
【解決手段】挿入装置は、ハウジング1と、留置部材100を保持するプランジャ10と、プランジャ10に対して軸方向に相対移動可能な状態でハウジング1内に収納されたリフタ20と、ハウジング1内に収納され、プランジャ10およびリフタ20により係止可能な突起部31を有する針ホルダ30と、針ホルダ30に保持され、カニューラ100Aに挿通された挿入針40と、プランジャ10とリフタ20との間に設けられ、プランジャ10とリフタ20とが離れる方向に付勢するスプリング50とを備える。針ホルダ30の突起部31は、留置部材100が装着者の体表に達する前はプランジャ10に係止され、留置部材100が装着者の体表に達した後はリフタ20に係止される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挿入装置に関し、特に、皮下注入器の留置部材におけるカニューラを装着者の体内に挿入するための挿入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第6093172号明細書(特許文献1)および特表2003−527138号公報(特許文献2)には、キャリア本体を強制的に移動させることによって、挿入セットの一部を患者の体内に自動挿入する機能を備えた挿入装置が示されている。
【0003】
また、米国特許第6991619号明細書(特許文献3)には、自動挿入機能を備えた挿入装置において、カニューラの挿入完了後の挿入針に安全カバーを取付けることが示されている。
【0004】
また、米国特許出願公開2005/0101912号明細書(特許文献4)および特表2007−510497号公報(特許文献5)には、皮下輸液装置のカニューラを自動的に回収する機能を備えた挿入装置が示されている。
【特許文献1】米国特許第6093172号明細書
【特許文献2】特表2003−527138号公報
【特許文献3】米国特許第6991619号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開2005/0101912号明細書
【特許文献5】特表2007−510497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に記載の挿入装置では、挿入後に挿入装置を撤去する際に、挿入針が剥き出しとなっている。したがって、使用済みの挿入針の先端が装着者の指に刺さる可能性がある(本願明細書では、これを『誤穿刺』と称する)。特許文献3では、挿入針に安全カバーを取付けるものの、安全カバーを取付ける際に、誤穿刺が生じる可能性がある。
【0006】
また、特許文献4,5に記載の挿入装置では、カニューラを自動挿入する機能を備えていないため、挿入を手動で行なう必要があり、装着者に恐怖感を与える可能性がある。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、挿入針による誤穿刺を抑制しながら皮下注入器のカニューラを自動挿入することが可能な挿入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る挿入装置は、皮下注入器の留置部材におけるカニューラを装着者の体内に自動挿入するための挿入装置であって、筒状のハウジングと、軸方向に移動可能な状態でハウジング内に収納され、留置部材を保持する第1部材と、第1部材に対して装着者の体表の反対側に設けられ、第1部材に対して軸方向に相対移動可能な状態でハウジング内に収納され、ハウジングにより係止可能な第1係止部を有する第2部材と、ハウジング内に収納され、第1部材および第2部材により係止可能な第2係止部を有する第3部材と、第3部材に保持され、カニューラに挿通された挿入針と、第1部材と第2部材との間に設けられ、第1と第2部材が離れる方向に付勢する付勢部材とを備え、留置部材が装着者の体表に達する前は、第2部材における第1係止部がハウジングに係止されるとともに第3部材における第2係止部が第1部材に係止され、留置部材が装着者の体表に達した際に第2部材における第1係止部のハウジングによる係止を解除する係止解除部が設けられ、留置部材が装着者の体表に達した際に第3部材における第2係止部の第1部材による係止を解除するとともに、第3部材における第2係止部を第2部材により係止させる係止切換部が設けられている。
【0009】
なお、本願明細書において、『係止』とは、2つの部材を互いに当接させて軸方向に相対移動しない状態とすることを意味する。
【0010】
上記構成を有する挿入装置は、以下のように動作する。すなわち、留置部材の自動挿入が開始されると、付勢部材の付勢力により、第1と第2部材が離れる方向に付勢される。ここで、留置部材が装着者の体表に達する前は、第2部材における第1係止部がハウジングにより係止されているため、第2部材は移動せず、留置部材を保持する第1部材が装着者の体表に向けて移動する。このようにして、付勢部材の付勢力を利用したカニューラの自動挿入が行なわれる。そして、留置部材が装着者の体表に達すると、第2部材における第1係止部のハウジングによる係止と、第3部材における第2係止部の第1部材による係止とが解除されるとともに、第3部材における第2係止部が第2部材により係止される。ここで、留置部材が装着者の体表に達しているため、留置部材を保持する第1部材は、装着者の体表から反力を受けることで固定状態となる。他方、第2部材のハウジングによる係止は解除されているため、第2部材は可動状態にある。したがって、第2部材が装着者の体表から離れる方向に移動する。ここで、第3部材が第2部材に係止されているため、第3部材は、挿入針とともに装着者の体表から離れる方向に移動してハウジング内に収納される。このようにして、付勢部材の付勢力を利用した挿入針の自動収納が行なわれる。
【0011】
本実施の形態に係る挿入装置によれば、上述のように、カニューラの自動挿入機能と挿入針の自動収納機能とを備えるため、装着者がカニューラの挿入を行ないやすくすることと、挿入針による誤穿刺を抑制することとを両立できる。また、上記の自動挿入機能と自動収納機能とを共通の付勢部材で実現することができるので、部品点数の増大を抑制しながら、使用しやすい挿入装置を提供することができる。
【0012】
1つの実施態様では、上記挿入装置において、第2部材は、フランジ部を有し、ハウジングは、フランジ部の周縁と当接するフランジ当接部を有し、第1部材は、留置部材が装着者の体表に達したときにフランジ当接部を径方向外方に押圧する押圧部を有し、第1係止部はフランジ部を含み、係止解除部は押圧部を含む。
【0013】
1つの実施態様では、上記挿入装置において、第3部材は、径方向外方に突出し第1部材により係止可能な突起部と、上側から下側に向かうにつれて漸次縮径する(漸次小径となる)テーパ部とを有し、第2部材は、留置部材が装着者の体表に達したときにテーパ部と当接して突起部が径方向内方に移動するように第3部材を変形させるテーパ当接部を有し、第2係止部は突起部を含み、係止切換部はテーパ当接部を含む。
【0014】
1つの実施態様では、上記挿入装置において、第2部材におけるテーパ当接部により第3部材における突起部が係止される。
【0015】
1つの実施態様では、上記挿入装置において、ハウジングの側面上に設けられ、付勢部材の付勢力に抗してハウジングに対して第1部材をロックするロック機構が設けられ、ハウジングの側面から突出するボタンを押圧することでロック機構が解除される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、挿入針による誤穿刺を抑制しながら皮下注入器のカニューラを自動挿入することが可能な挿入装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0018】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。
【0019】
図1は、本発明の1つの実施の形態に係る挿入装置を示す断面図であり、図2は、図1におけるII−II断面に相当する断面図である。また、図3は、上記挿入装置を示す斜視断面図であり、図4は、図3におけるIV−IV断面に相当する斜視断面図である。
【0020】
本実施の形態に係る挿入装置は、皮下注入器のカニューラを装着者の体内に自動挿入するための挿入装置である。該挿入装置は、図1〜図4に示すように、ハウジング1と、プランジャ10と、リフタ20と、針ホルダ30と、挿入針40と、スプリング50と、ロック解除部60とを含む。
【0021】
ハウジング1は有底筒状の部材であり、上部材1Aと、下部材1Bとを含む。ただし、上部材1Aと下部材1Bとが一体に形成されてもよい。上部材1Aは、プランジャ10における後述のアーム部11に対応する位置に、一体的に設けられた一対のアームを有する。そのアームの上端部は上部材1Aの天板に接続され、下端部は自由端となっている。そして、当該下端部に突起部1Cが形成されている。突起部1Cは、径方向外方から径方向内方に向けて突出する部分である。なお、ハウジング1の上部材1Aに形成された上記アームは、突起部1Cを径方向外方に移動させるように変形可能に構成されている。すなわち、当該アームの材質や厚みが適宜調整される。
【0022】
プランジャ10は、軸方向(図1〜図4における上下方向)に移動可能な状態でハウジング1内に収納される。プランジャ10は、留置部材100を着脱可能に保持する。プランジャ10が装着者の体表に向けて付勢されることで、留置部材100のカニューラ100Aが装着者の体内に自動挿入される。
【0023】
リフタ20は、プランジャ10に対して装着者の体表の反対側に設けられる。リフタ20は、プランジャ10に対して軸方向に相対移動可能な状態でハウジング1内に収納される。そして、リフタ20は、フランジ部21を有する。フランジ部21は、ハウジング1の上部材1Aと一体に形成された突起部1Cに当接し、係止される。すなわち、突起部1Cは、フランジ部21の外周縁端部に当接し、リフタ20が上方向に移動できないように係止する。リフタ20は、カニューラ100Aの自動挿入後に挿入針40を上方向(装着者の体から離れる方向)に移動させるための部材である。
【0024】
針ホルダ30は、ハウジング1内に収納され、挿入針40を固定的に保持する。針ホルダ30は、突起部31を有する。突起部31は、プランジャ10およびリフタ20により係止可能に形成される。なお、プランジャ10およびリフタ20による突起部31の係止状態については、後述する。
【0025】
針ホルダ30に保持された挿入針40は、カニューラ100Aに挿通された金属製の部材である。挿入針40は、カニューラ100A挿入時の芯材として機能する。カニューラ100Aの自動挿入前の状態において、挿入針40の先端は、ハウジング1内に収納されている。したがって、挿入針40による誤穿刺が防止される。
【0026】
スプリング50は、圧縮力を加えられた状態で、プランジャ10とリフタ20との間に介装される。これにより、プランジャ10とリフタ20とが離れる方向に付勢される。プランジャ10、リフタ20および針ホルダ30は、いずれも、少なくとも一部がスプリング50内に挿入されている。
【0027】
ハウジング1、プランジャ10、リフタ20および針ホルダ30は、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合合成樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアミド、メタクリル樹脂などの熱可塑性樹脂により構成される。他方、スプリング50は、たとえば、SUS304WPB、SWP−Aなどの金属により構成される。
【0028】
スプリング50の弾性係数は適宜変更されるが、これが過小であると穿刺が行ないにくくなる。また、ハウジング1やプランジャ10等の強度との関係から、上記弾性係数の上限が規定される。一例としては、上記弾性係数の範囲は、0.02N/mm以上0.2N/mm以下程度である。
【0029】
図1〜図4に示す状態では、リフタ20のフランジ部21がハウジング1に係止され、針ホルダ30の突起部31がプランジャ10に係止されている。
【0030】
本実施の形態に係る挿入装置では、図2,図4に示すように、ハウジング1の側面上に『ロック機構』としてのロック部61が設けられている。ロック部61は、スプリング50の付勢力に抗して、ハウジング1に対してプランジャ10をロックしている。さらに、ハウジング1の側面上には、径方向外方に突出するロック解除部60(ボタン)が設けられている。
【0031】
次に、本実施の形態に係る挿入装置の動作について説明する。図5は、上記の挿入装置の動作におけるプランジャのロックが解除された段階を示す断面図である。図5に示すように、ロック解除部60を矢印DR60方向(図2参照)に押圧することにより、プランジャ10におけるロック部61に係止されていた部分が径方向内方に移動するようにプランジャ10が変形し、ロック部61によるプランジャ10のロックが解除される。この結果、留置部材100の自動挿入が開始される。
【0032】
留置部材100の自動挿入は、以下の機構により実現される。すなわち、ロック部61によるプランジャ10のロックが解除されると、スプリング50の付勢力により、プランジャ10とリフタ20とが互いに離間する方向に付勢される。ここで、リフタ20のフランジ部21がハウジング1の突起部1Cに係止されているため、リフタ20は、上方向に移動することができない。したがって、スプリング50の付勢力は、プランジャ10を矢印DR10方向に移動させることになる。
【0033】
図6は、上記の挿入装置の動作における挿入動作の完了時の状態を示す断面図であり、図7は、図6におけるVII−VII断面に相当する断面図である。なお、図6,図7では、プランジャ10の底面がハウジング1の下端から若干突出しているが、これは、スプリング50の付勢力により、プランジャ10に当接する部分において装着者の体表に若干の凹みが生じるためである。
【0034】
図6,図7を参照して、プランジャ10は、底面の周縁部から上方向に向かって延びるアーム部11と、アーム部11の先端に設けられたフック部11Aとを有する。プランジャ10の底面および留置部材100が装着者の体表に達すると、フック部11Aがハウジング1の突起部1Cに当接し、突起部1Cを径方向外方(矢印DR1C方向)に移動させる。これにより、ハウジング1によるリフタ20のフランジ部21の係止が解除される。この結果、リフタ20が上方向(矢印DR20方向)に移動可能となる。
【0035】
また、針ホルダ30は、突起部31の下方にテーパ面32を有する。テーパ面32は、上側から下側に向かうにつれて径方向外方から径方向内方に傾斜するように延在している。すなわち、針ホルダ30におけるテーパ面32が形成された部分は、上側から下側に向かうにつれて漸次縮径する。リフタ20は、その下端部にフック部22を有する。フック部22は、プランジャ10における針ホルダ30を係止する部分の径方向内方に位置する。フック部22の幅は、プランジャ10に係止された状態における針ホルダ30の突起部31の幅よりも狭く形成されている。したがって、フック部22は、図6,図7に示す状態で、突起部31の下方に位置するテーパ面32と当接して、突起部31が径方向内方(矢印DR31方向)に移動するように針ホルダ30を変形させる。これにより、針ホルダ30における突起部31のプランジャ10による係止が解除される。そして、突起部31はフック部22に係止される。この結果、針ホルダ30はプランジャ10から分離され、リフタ20とともに上方向(矢印DR20方向)に移動可能となる。
【0036】
図8は、上記の挿入装置の動作における収納動作の完了時の状態を示す断面図であり、図9は、図8におけるIX−IX断面に相当する断面図である。また、図10は、図8の状態を示す斜視断面図であり、図11は、図10におけるXI−XI断面に相当する斜視断面図である。
【0037】
図8〜図11を参照して、プランジャ10の底面および留置部材100が装着者の体表に達した状態では、プランジャ10は、装着者の体表から反力を受けることで固定状態となる。他方、上述のように、リフタ20のハウジング1による係止は解除されているため、リフタ20は可動状態にある。したがって、スプリング50の付勢力により、リフタ20が装着者の体表から離れる方向に移動する。ここで、針ホルダ30がリフタ20に係止されているため、針ホルダ30は、挿入針40とともに装着者の体表から離れる方向に移動する。このようにして、スプリング50の付勢力を利用した挿入針40の自動収納が行なわれる。なお、本実施の形態では、カニューラ100Aの自動挿入時のプランジャ10の下方向への移動量(L1)に対して、挿入針40の自動収納時のリフタ20および針ホルダ30の上方向への移動量(L2)を大きく設定している。したがって、針ホルダ30に保持された挿入針40は、上述の自動収納動作により、ハウジング1内に完全に収納される。
【0038】
図12は、上記の挿入装置の動作における挿入装置撤去の段階を示す断面図であり、図13は、図12におけるXIII−XIII断面に相当する断面図である。図12,図13を参照して、カニューラ100Aの挿入完了後、挿入装置を撤去する段階では、挿入針40は、ハウジング1に収納されており、挿入針40による誤穿刺が抑制されている。
【0039】
図14は、本実施の形態に係る挿入装置によって装着者の体表に固定される留置部材100を示す断面図である。留置部材100は、インスリン持続皮下注入法(CSII:Continuous Subcutaneous Insulin Infusion)に用いられる皮下注入器を構成するものであって、カニューラ100Aと、ベース部100Bと、隔壁100Cと、係止部100Dとを含む。なお、皮下注入器は、インスリン以外の薬液を体内に供給するための用途(たとえば疼痛治療など)にも適用可能である。
【0040】
留置部材100には、連結部材(図示せず)が着脱可能に取付けられる。連結部材から留置部材100の内部に薬液が供給される。
【0041】
カニューラ100Aは、装着者の体内に挿入された状態で、日常生活における動きに対応するため、ある程度の柔軟性と強度を有する樹脂(たとえば、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリウレタンなど)で構成されることが好ましい。
【0042】
ベース部100Bは、装着者の体に直接固定される部分である。ベース部100Bの下面には、たとえば不織布からなる接着層が設けられている。
【0043】
隔壁部100Cは、ある程度の柔軟性を有する素材(たとえば天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、または熱可塑性エラストマなど)により構成される。連結部材を留置部材100に取付けるときには、連結部材が隔壁100Cを貫通し、隔壁100Cの内部空間に達する。これにより、連結部材から供給される薬液がカニューラ100Aを介して装着者の体内に導かれる。
【0044】
ここで、図15のフロー図を参照しながら、本実施の形態に係る挿入装置の動作について纏める。まず、S10(ステップ10の略)において、プランジャ10のロックを解除する。この結果、S20において、プランジャ10と針ホルダ30とが下方向に移動する(挿入動作)。そして、S25において、カニューラ100Aの挿入が完了すると、ハウジング1によるリフタ20の係止が解除され、プランジャ10による針ホルダ30の係止が解除されるとともに、針ホルダ30がリフタ20に係止される。この結果、S30において、リフタ20と針ホルダ30とが上方向に移動する。S30の収納動作が完了した後、S40において、挿入装置を撤去する。
【0045】
本実施の形態に係る挿入装置によれば、上述の如く、カニューラ100Aの自動挿入機能と挿入針40の自動収納機能とを備えるため、装着者がカニューラ100Aの挿入を行ないやすくすることと、挿入針40による誤穿刺を抑制することとを両立できる。また、上記の自動挿入機能と自動収納機能とを1つのスプリング50で実現することができるので、部品点数の増大を抑制しながら、使用しやすい挿入装置を提供することができる。
【0046】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係る挿入装置は、皮下注入器の留置部材100におけるカニューラ100Aを装着者の体内に自動挿入するための挿入装置であって、筒状のハウジング1と、軸方向に移動可能な状態でハウジング1内に収納され、留置部材100を保持する『第1部材』としてのプランジャ10と、プランジャ10に対して装着者の体表の反対側に設けられ、プランジャ10に対して軸方向に相対移動可能な状態でハウジング1内に収納され、ハウジング1により係止可能な『第1係止部』としてのフランジ部21を有する『第2部材』としてのリフタ20と、ハウジング1内に収納され、プランジャ10およびリフタ20により係止可能な『第2係止部』としての突起部31を有する『第3部材』としての針ホルダ30と、針ホルダ30に保持され、カニューラ100Aに挿通された挿入針40と、プランジャ10とリフタ20との間に設けられ、プランジャ10とリフタ20とが離れる方向に付勢する『付勢部材』としてのスプリング50とを備える。
【0047】
留置部材100が装着者の体表に達する前は、リフタ20におけるフランジ部21がハウジング1に係止されるとともに、針ホルダ30における突起部31がプランジャ10に係止される。
【0048】
この挿入装置には、留置部材100が装着者の体表に達した際にリフタ20におけるフランジ部21のハウジング1による係止を解除する『係止解除部』としてのフック部11Aと、留置部材100が装着者の体表に達した際に針ホルダ30における突起部31のプランジャ10による係止を解除するとともに、針ホルダ30における突起部31をリフタ20により係止させる『係止切換部』としてのフック部22とが設けられている。
【0049】
より具体的に言えば、リフタ20はフランジ部21を有し、ハウジング1は、フランジ部21の周縁と当接する『フランジ当接部』としての突起部1Cを有する。フック部11Aは、留置部材100が装着者の体表に達したときに突起部1Cを径方向外方に押圧する『押圧部』として機能する。これにより、フック部11Aが『係止解除部』として機能する。
【0050】
突起部31は、径方向外方に突出してプランジャ10により係止可能に形成されている。針ホルダ30は、上側から下側に向かうにつれて径方向外方から径方向内方に傾斜するテーパ面32を有する。フック部22は、留置部材100が装着者の体表に達したときにテーパ面32と当接して突起部31が径方向内方に移動するように針ホルダ30を変形させる『テーパ当接部』として機能する。これにより、フック部22が『係止切換部』として機能し、リフタ20におけるフック部22により針ホルダ30における突起部31が係止される。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の1つの実施の形態に係る挿入装置を示す断面図である。
【図2】図1におけるII−II断面に相当する断面図である。
【図3】本発明の1つの実施の形態に係る挿入装置を示す斜視断面図である。
【図4】図3におけるIV−IV断面に相当する斜視断面図である。
【図5】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第1段階(ロック解除)を示す断面図である。
【図6】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第2段階(挿入動作)を示す断面図である。
【図7】図6におけるVII−VII断面に相当する断面図である。
【図8】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第3段階(収納動作)を示す断面図である。
【図9】図8におけるIX−IX断面に相当する断面図である。
【図10】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第3段階(収納動作)を示す斜視断面図である。
【図11】図10におけるXI−XI断面に相当する斜視断面図である。
【図12】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第4段階(挿入装置撤去)を示す断面図である。
【図13】図12におけるXIII−XIII断面に相当する断面図である。
【図14】皮下注入器の留置部材を示す断面図である。
【図15】本発明の1つの実施の形態に係る挿入装置の動作を説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ハウジング、1A 上部材、1B 下部材、1C 突起部、10 プランジャ、11 アーム部、11A フック部、20 リフタ、21 フランジ部、22 フック部、30 針ホルダ、31 突起部、32 テーパ面、40 挿入針、50 スプリング、60 ロック解除部、61 ロック部、100 留置部材、100A カニューラ、100B ベース部、100C 隔壁部、100D 係止部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、挿入装置に関し、特に、皮下注入器の留置部材におけるカニューラを装着者の体内に挿入するための挿入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第6093172号明細書(特許文献1)および特表2003−527138号公報(特許文献2)には、キャリア本体を強制的に移動させることによって、挿入セットの一部を患者の体内に自動挿入する機能を備えた挿入装置が示されている。
【0003】
また、米国特許第6991619号明細書(特許文献3)には、自動挿入機能を備えた挿入装置において、カニューラの挿入完了後の挿入針に安全カバーを取付けることが示されている。
【0004】
また、米国特許出願公開2005/0101912号明細書(特許文献4)および特表2007−510497号公報(特許文献5)には、皮下輸液装置のカニューラを自動的に回収する機能を備えた挿入装置が示されている。
【特許文献1】米国特許第6093172号明細書
【特許文献2】特表2003−527138号公報
【特許文献3】米国特許第6991619号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開2005/0101912号明細書
【特許文献5】特表2007−510497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に記載の挿入装置では、挿入後に挿入装置を撤去する際に、挿入針が剥き出しとなっている。したがって、使用済みの挿入針の先端が装着者の指に刺さる可能性がある(本願明細書では、これを『誤穿刺』と称する)。特許文献3では、挿入針に安全カバーを取付けるものの、安全カバーを取付ける際に、誤穿刺が生じる可能性がある。
【0006】
また、特許文献4,5に記載の挿入装置では、カニューラを自動挿入する機能を備えていないため、挿入を手動で行なう必要があり、装着者に恐怖感を与える可能性がある。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、挿入針による誤穿刺を抑制しながら皮下注入器のカニューラを自動挿入することが可能な挿入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る挿入装置は、皮下注入器の留置部材におけるカニューラを装着者の体内に自動挿入するための挿入装置であって、筒状のハウジングと、軸方向に移動可能な状態でハウジング内に収納され、留置部材を保持する第1部材と、第1部材に対して装着者の体表の反対側に設けられ、第1部材に対して軸方向に相対移動可能な状態でハウジング内に収納され、ハウジングにより係止可能な第1係止部を有する第2部材と、ハウジング内に収納され、第1部材および第2部材により係止可能な第2係止部を有する第3部材と、第3部材に保持され、カニューラに挿通された挿入針と、第1部材と第2部材との間に設けられ、第1と第2部材が離れる方向に付勢する付勢部材とを備え、留置部材が装着者の体表に達する前は、第2部材における第1係止部がハウジングに係止されるとともに第3部材における第2係止部が第1部材に係止され、留置部材が装着者の体表に達した際に第2部材における第1係止部のハウジングによる係止を解除する係止解除部が設けられ、留置部材が装着者の体表に達した際に第3部材における第2係止部の第1部材による係止を解除するとともに、第3部材における第2係止部を第2部材により係止させる係止切換部が設けられている。
【0009】
なお、本願明細書において、『係止』とは、2つの部材を互いに当接させて軸方向に相対移動しない状態とすることを意味する。
【0010】
上記構成を有する挿入装置は、以下のように動作する。すなわち、留置部材の自動挿入が開始されると、付勢部材の付勢力により、第1と第2部材が離れる方向に付勢される。ここで、留置部材が装着者の体表に達する前は、第2部材における第1係止部がハウジングにより係止されているため、第2部材は移動せず、留置部材を保持する第1部材が装着者の体表に向けて移動する。このようにして、付勢部材の付勢力を利用したカニューラの自動挿入が行なわれる。そして、留置部材が装着者の体表に達すると、第2部材における第1係止部のハウジングによる係止と、第3部材における第2係止部の第1部材による係止とが解除されるとともに、第3部材における第2係止部が第2部材により係止される。ここで、留置部材が装着者の体表に達しているため、留置部材を保持する第1部材は、装着者の体表から反力を受けることで固定状態となる。他方、第2部材のハウジングによる係止は解除されているため、第2部材は可動状態にある。したがって、第2部材が装着者の体表から離れる方向に移動する。ここで、第3部材が第2部材に係止されているため、第3部材は、挿入針とともに装着者の体表から離れる方向に移動してハウジング内に収納される。このようにして、付勢部材の付勢力を利用した挿入針の自動収納が行なわれる。
【0011】
本実施の形態に係る挿入装置によれば、上述のように、カニューラの自動挿入機能と挿入針の自動収納機能とを備えるため、装着者がカニューラの挿入を行ないやすくすることと、挿入針による誤穿刺を抑制することとを両立できる。また、上記の自動挿入機能と自動収納機能とを共通の付勢部材で実現することができるので、部品点数の増大を抑制しながら、使用しやすい挿入装置を提供することができる。
【0012】
1つの実施態様では、上記挿入装置において、第2部材は、フランジ部を有し、ハウジングは、フランジ部の周縁と当接するフランジ当接部を有し、第1部材は、留置部材が装着者の体表に達したときにフランジ当接部を径方向外方に押圧する押圧部を有し、第1係止部はフランジ部を含み、係止解除部は押圧部を含む。
【0013】
1つの実施態様では、上記挿入装置において、第3部材は、径方向外方に突出し第1部材により係止可能な突起部と、上側から下側に向かうにつれて漸次縮径する(漸次小径となる)テーパ部とを有し、第2部材は、留置部材が装着者の体表に達したときにテーパ部と当接して突起部が径方向内方に移動するように第3部材を変形させるテーパ当接部を有し、第2係止部は突起部を含み、係止切換部はテーパ当接部を含む。
【0014】
1つの実施態様では、上記挿入装置において、第2部材におけるテーパ当接部により第3部材における突起部が係止される。
【0015】
1つの実施態様では、上記挿入装置において、ハウジングの側面上に設けられ、付勢部材の付勢力に抗してハウジングに対して第1部材をロックするロック機構が設けられ、ハウジングの側面から突出するボタンを押圧することでロック機構が解除される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、挿入針による誤穿刺を抑制しながら皮下注入器のカニューラを自動挿入することが可能な挿入装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0018】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。
【0019】
図1は、本発明の1つの実施の形態に係る挿入装置を示す断面図であり、図2は、図1におけるII−II断面に相当する断面図である。また、図3は、上記挿入装置を示す斜視断面図であり、図4は、図3におけるIV−IV断面に相当する斜視断面図である。
【0020】
本実施の形態に係る挿入装置は、皮下注入器のカニューラを装着者の体内に自動挿入するための挿入装置である。該挿入装置は、図1〜図4に示すように、ハウジング1と、プランジャ10と、リフタ20と、針ホルダ30と、挿入針40と、スプリング50と、ロック解除部60とを含む。
【0021】
ハウジング1は有底筒状の部材であり、上部材1Aと、下部材1Bとを含む。ただし、上部材1Aと下部材1Bとが一体に形成されてもよい。上部材1Aは、プランジャ10における後述のアーム部11に対応する位置に、一体的に設けられた一対のアームを有する。そのアームの上端部は上部材1Aの天板に接続され、下端部は自由端となっている。そして、当該下端部に突起部1Cが形成されている。突起部1Cは、径方向外方から径方向内方に向けて突出する部分である。なお、ハウジング1の上部材1Aに形成された上記アームは、突起部1Cを径方向外方に移動させるように変形可能に構成されている。すなわち、当該アームの材質や厚みが適宜調整される。
【0022】
プランジャ10は、軸方向(図1〜図4における上下方向)に移動可能な状態でハウジング1内に収納される。プランジャ10は、留置部材100を着脱可能に保持する。プランジャ10が装着者の体表に向けて付勢されることで、留置部材100のカニューラ100Aが装着者の体内に自動挿入される。
【0023】
リフタ20は、プランジャ10に対して装着者の体表の反対側に設けられる。リフタ20は、プランジャ10に対して軸方向に相対移動可能な状態でハウジング1内に収納される。そして、リフタ20は、フランジ部21を有する。フランジ部21は、ハウジング1の上部材1Aと一体に形成された突起部1Cに当接し、係止される。すなわち、突起部1Cは、フランジ部21の外周縁端部に当接し、リフタ20が上方向に移動できないように係止する。リフタ20は、カニューラ100Aの自動挿入後に挿入針40を上方向(装着者の体から離れる方向)に移動させるための部材である。
【0024】
針ホルダ30は、ハウジング1内に収納され、挿入針40を固定的に保持する。針ホルダ30は、突起部31を有する。突起部31は、プランジャ10およびリフタ20により係止可能に形成される。なお、プランジャ10およびリフタ20による突起部31の係止状態については、後述する。
【0025】
針ホルダ30に保持された挿入針40は、カニューラ100Aに挿通された金属製の部材である。挿入針40は、カニューラ100A挿入時の芯材として機能する。カニューラ100Aの自動挿入前の状態において、挿入針40の先端は、ハウジング1内に収納されている。したがって、挿入針40による誤穿刺が防止される。
【0026】
スプリング50は、圧縮力を加えられた状態で、プランジャ10とリフタ20との間に介装される。これにより、プランジャ10とリフタ20とが離れる方向に付勢される。プランジャ10、リフタ20および針ホルダ30は、いずれも、少なくとも一部がスプリング50内に挿入されている。
【0027】
ハウジング1、プランジャ10、リフタ20および針ホルダ30は、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合合成樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアミド、メタクリル樹脂などの熱可塑性樹脂により構成される。他方、スプリング50は、たとえば、SUS304WPB、SWP−Aなどの金属により構成される。
【0028】
スプリング50の弾性係数は適宜変更されるが、これが過小であると穿刺が行ないにくくなる。また、ハウジング1やプランジャ10等の強度との関係から、上記弾性係数の上限が規定される。一例としては、上記弾性係数の範囲は、0.02N/mm以上0.2N/mm以下程度である。
【0029】
図1〜図4に示す状態では、リフタ20のフランジ部21がハウジング1に係止され、針ホルダ30の突起部31がプランジャ10に係止されている。
【0030】
本実施の形態に係る挿入装置では、図2,図4に示すように、ハウジング1の側面上に『ロック機構』としてのロック部61が設けられている。ロック部61は、スプリング50の付勢力に抗して、ハウジング1に対してプランジャ10をロックしている。さらに、ハウジング1の側面上には、径方向外方に突出するロック解除部60(ボタン)が設けられている。
【0031】
次に、本実施の形態に係る挿入装置の動作について説明する。図5は、上記の挿入装置の動作におけるプランジャのロックが解除された段階を示す断面図である。図5に示すように、ロック解除部60を矢印DR60方向(図2参照)に押圧することにより、プランジャ10におけるロック部61に係止されていた部分が径方向内方に移動するようにプランジャ10が変形し、ロック部61によるプランジャ10のロックが解除される。この結果、留置部材100の自動挿入が開始される。
【0032】
留置部材100の自動挿入は、以下の機構により実現される。すなわち、ロック部61によるプランジャ10のロックが解除されると、スプリング50の付勢力により、プランジャ10とリフタ20とが互いに離間する方向に付勢される。ここで、リフタ20のフランジ部21がハウジング1の突起部1Cに係止されているため、リフタ20は、上方向に移動することができない。したがって、スプリング50の付勢力は、プランジャ10を矢印DR10方向に移動させることになる。
【0033】
図6は、上記の挿入装置の動作における挿入動作の完了時の状態を示す断面図であり、図7は、図6におけるVII−VII断面に相当する断面図である。なお、図6,図7では、プランジャ10の底面がハウジング1の下端から若干突出しているが、これは、スプリング50の付勢力により、プランジャ10に当接する部分において装着者の体表に若干の凹みが生じるためである。
【0034】
図6,図7を参照して、プランジャ10は、底面の周縁部から上方向に向かって延びるアーム部11と、アーム部11の先端に設けられたフック部11Aとを有する。プランジャ10の底面および留置部材100が装着者の体表に達すると、フック部11Aがハウジング1の突起部1Cに当接し、突起部1Cを径方向外方(矢印DR1C方向)に移動させる。これにより、ハウジング1によるリフタ20のフランジ部21の係止が解除される。この結果、リフタ20が上方向(矢印DR20方向)に移動可能となる。
【0035】
また、針ホルダ30は、突起部31の下方にテーパ面32を有する。テーパ面32は、上側から下側に向かうにつれて径方向外方から径方向内方に傾斜するように延在している。すなわち、針ホルダ30におけるテーパ面32が形成された部分は、上側から下側に向かうにつれて漸次縮径する。リフタ20は、その下端部にフック部22を有する。フック部22は、プランジャ10における針ホルダ30を係止する部分の径方向内方に位置する。フック部22の幅は、プランジャ10に係止された状態における針ホルダ30の突起部31の幅よりも狭く形成されている。したがって、フック部22は、図6,図7に示す状態で、突起部31の下方に位置するテーパ面32と当接して、突起部31が径方向内方(矢印DR31方向)に移動するように針ホルダ30を変形させる。これにより、針ホルダ30における突起部31のプランジャ10による係止が解除される。そして、突起部31はフック部22に係止される。この結果、針ホルダ30はプランジャ10から分離され、リフタ20とともに上方向(矢印DR20方向)に移動可能となる。
【0036】
図8は、上記の挿入装置の動作における収納動作の完了時の状態を示す断面図であり、図9は、図8におけるIX−IX断面に相当する断面図である。また、図10は、図8の状態を示す斜視断面図であり、図11は、図10におけるXI−XI断面に相当する斜視断面図である。
【0037】
図8〜図11を参照して、プランジャ10の底面および留置部材100が装着者の体表に達した状態では、プランジャ10は、装着者の体表から反力を受けることで固定状態となる。他方、上述のように、リフタ20のハウジング1による係止は解除されているため、リフタ20は可動状態にある。したがって、スプリング50の付勢力により、リフタ20が装着者の体表から離れる方向に移動する。ここで、針ホルダ30がリフタ20に係止されているため、針ホルダ30は、挿入針40とともに装着者の体表から離れる方向に移動する。このようにして、スプリング50の付勢力を利用した挿入針40の自動収納が行なわれる。なお、本実施の形態では、カニューラ100Aの自動挿入時のプランジャ10の下方向への移動量(L1)に対して、挿入針40の自動収納時のリフタ20および針ホルダ30の上方向への移動量(L2)を大きく設定している。したがって、針ホルダ30に保持された挿入針40は、上述の自動収納動作により、ハウジング1内に完全に収納される。
【0038】
図12は、上記の挿入装置の動作における挿入装置撤去の段階を示す断面図であり、図13は、図12におけるXIII−XIII断面に相当する断面図である。図12,図13を参照して、カニューラ100Aの挿入完了後、挿入装置を撤去する段階では、挿入針40は、ハウジング1に収納されており、挿入針40による誤穿刺が抑制されている。
【0039】
図14は、本実施の形態に係る挿入装置によって装着者の体表に固定される留置部材100を示す断面図である。留置部材100は、インスリン持続皮下注入法(CSII:Continuous Subcutaneous Insulin Infusion)に用いられる皮下注入器を構成するものであって、カニューラ100Aと、ベース部100Bと、隔壁100Cと、係止部100Dとを含む。なお、皮下注入器は、インスリン以外の薬液を体内に供給するための用途(たとえば疼痛治療など)にも適用可能である。
【0040】
留置部材100には、連結部材(図示せず)が着脱可能に取付けられる。連結部材から留置部材100の内部に薬液が供給される。
【0041】
カニューラ100Aは、装着者の体内に挿入された状態で、日常生活における動きに対応するため、ある程度の柔軟性と強度を有する樹脂(たとえば、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリウレタンなど)で構成されることが好ましい。
【0042】
ベース部100Bは、装着者の体に直接固定される部分である。ベース部100Bの下面には、たとえば不織布からなる接着層が設けられている。
【0043】
隔壁部100Cは、ある程度の柔軟性を有する素材(たとえば天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、または熱可塑性エラストマなど)により構成される。連結部材を留置部材100に取付けるときには、連結部材が隔壁100Cを貫通し、隔壁100Cの内部空間に達する。これにより、連結部材から供給される薬液がカニューラ100Aを介して装着者の体内に導かれる。
【0044】
ここで、図15のフロー図を参照しながら、本実施の形態に係る挿入装置の動作について纏める。まず、S10(ステップ10の略)において、プランジャ10のロックを解除する。この結果、S20において、プランジャ10と針ホルダ30とが下方向に移動する(挿入動作)。そして、S25において、カニューラ100Aの挿入が完了すると、ハウジング1によるリフタ20の係止が解除され、プランジャ10による針ホルダ30の係止が解除されるとともに、針ホルダ30がリフタ20に係止される。この結果、S30において、リフタ20と針ホルダ30とが上方向に移動する。S30の収納動作が完了した後、S40において、挿入装置を撤去する。
【0045】
本実施の形態に係る挿入装置によれば、上述の如く、カニューラ100Aの自動挿入機能と挿入針40の自動収納機能とを備えるため、装着者がカニューラ100Aの挿入を行ないやすくすることと、挿入針40による誤穿刺を抑制することとを両立できる。また、上記の自動挿入機能と自動収納機能とを1つのスプリング50で実現することができるので、部品点数の増大を抑制しながら、使用しやすい挿入装置を提供することができる。
【0046】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係る挿入装置は、皮下注入器の留置部材100におけるカニューラ100Aを装着者の体内に自動挿入するための挿入装置であって、筒状のハウジング1と、軸方向に移動可能な状態でハウジング1内に収納され、留置部材100を保持する『第1部材』としてのプランジャ10と、プランジャ10に対して装着者の体表の反対側に設けられ、プランジャ10に対して軸方向に相対移動可能な状態でハウジング1内に収納され、ハウジング1により係止可能な『第1係止部』としてのフランジ部21を有する『第2部材』としてのリフタ20と、ハウジング1内に収納され、プランジャ10およびリフタ20により係止可能な『第2係止部』としての突起部31を有する『第3部材』としての針ホルダ30と、針ホルダ30に保持され、カニューラ100Aに挿通された挿入針40と、プランジャ10とリフタ20との間に設けられ、プランジャ10とリフタ20とが離れる方向に付勢する『付勢部材』としてのスプリング50とを備える。
【0047】
留置部材100が装着者の体表に達する前は、リフタ20におけるフランジ部21がハウジング1に係止されるとともに、針ホルダ30における突起部31がプランジャ10に係止される。
【0048】
この挿入装置には、留置部材100が装着者の体表に達した際にリフタ20におけるフランジ部21のハウジング1による係止を解除する『係止解除部』としてのフック部11Aと、留置部材100が装着者の体表に達した際に針ホルダ30における突起部31のプランジャ10による係止を解除するとともに、針ホルダ30における突起部31をリフタ20により係止させる『係止切換部』としてのフック部22とが設けられている。
【0049】
より具体的に言えば、リフタ20はフランジ部21を有し、ハウジング1は、フランジ部21の周縁と当接する『フランジ当接部』としての突起部1Cを有する。フック部11Aは、留置部材100が装着者の体表に達したときに突起部1Cを径方向外方に押圧する『押圧部』として機能する。これにより、フック部11Aが『係止解除部』として機能する。
【0050】
突起部31は、径方向外方に突出してプランジャ10により係止可能に形成されている。針ホルダ30は、上側から下側に向かうにつれて径方向外方から径方向内方に傾斜するテーパ面32を有する。フック部22は、留置部材100が装着者の体表に達したときにテーパ面32と当接して突起部31が径方向内方に移動するように針ホルダ30を変形させる『テーパ当接部』として機能する。これにより、フック部22が『係止切換部』として機能し、リフタ20におけるフック部22により針ホルダ30における突起部31が係止される。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の1つの実施の形態に係る挿入装置を示す断面図である。
【図2】図1におけるII−II断面に相当する断面図である。
【図3】本発明の1つの実施の形態に係る挿入装置を示す斜視断面図である。
【図4】図3におけるIV−IV断面に相当する斜視断面図である。
【図5】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第1段階(ロック解除)を示す断面図である。
【図6】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第2段階(挿入動作)を示す断面図である。
【図7】図6におけるVII−VII断面に相当する断面図である。
【図8】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第3段階(収納動作)を示す断面図である。
【図9】図8におけるIX−IX断面に相当する断面図である。
【図10】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第3段階(収納動作)を示す斜視断面図である。
【図11】図10におけるXI−XI断面に相当する斜視断面図である。
【図12】図1〜図4に示す挿入装置の動作における第4段階(挿入装置撤去)を示す断面図である。
【図13】図12におけるXIII−XIII断面に相当する断面図である。
【図14】皮下注入器の留置部材を示す断面図である。
【図15】本発明の1つの実施の形態に係る挿入装置の動作を説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ハウジング、1A 上部材、1B 下部材、1C 突起部、10 プランジャ、11 アーム部、11A フック部、20 リフタ、21 フランジ部、22 フック部、30 針ホルダ、31 突起部、32 テーパ面、40 挿入針、50 スプリング、60 ロック解除部、61 ロック部、100 留置部材、100A カニューラ、100B ベース部、100C 隔壁部、100D 係止部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮下注入器の留置部材におけるカニューラを装着者の体内に自動挿入するための挿入装置であって、
筒状のハウジングと、
軸方向に移動可能な状態で前記ハウジング内に収納され、前記留置部材を保持する第1部材と、
前記第1部材に対して前記装着者の体表の反対側に設けられ、前記第1部材に対して軸方向に相対移動可能な状態で前記ハウジング内に収納され、前記ハウジングにより係止可能な第1係止部を有する第2部材と、
前記ハウジング内に収納され、前記第1部材および前記第2部材により係止可能な第2係止部を有する第3部材と、
前記第3部材に保持され、前記カニューラに挿通された挿入針と、
前記第1部材と前記第2部材との間に設けられ、前記第1と第2部材が離れる方向に付勢する付勢部材とを備え、
前記留置部材が前記装着者の体表に達する前は、前記第2部材における前記第1係止部が前記ハウジングに係止されるとともに前記第3部材における前記第2係止部が前記第1部材に係止され、
前記留置部材が前記装着者の体表に達した際に前記第2部材における前記第1係止部の前記ハウジングによる係止を解除する係止解除部が設けられ、
前記留置部材が前記装着者の体表に達した際に前記第3部材における前記第2係止部の前記第1部材による係止を解除するとともに、前記第3部材における前記第2係止部を前記第2部材により係止させる係止切換部が設けられた、挿入装置。
【請求項2】
前記第2部材は、フランジ部を有し、
前記ハウジングは、前記フランジ部の周縁と当接するフランジ当接部を有し、
前記第1部材は、前記留置部材が前記装着者の体表に達したときに前記フランジ当接部を径方向外方に押圧する押圧部を有し、
前記第1係止部は前記フランジ部を含み、
前記係止解除部は前記押圧部を含む、請求項1に記載の挿入装置。
【請求項3】
前記第3部材は、径方向外方に突出し前記第1部材により係止可能な突起部と、上側から下側に向かうにつれて漸次縮径するテーパ部とを有し、
前記第2部材は、前記留置部材が前記装着者の体表に達したときに前記テーパ部と当接して前記突起部が径方向内方に移動するように前記第3部材を変形させるテーパ当接部を有し、
前記第2係止部は前記突起部を含み、
前記係止切換部は前記テーパ当接部を含む、請求項1または請求項2に記載の挿入装置。
【請求項4】
前記第2部材における前記テーパ当接部により前記第3部材における前記突起部が係止される、請求項3に記載の挿入装置。
【請求項5】
前記ハウジングの側面上に設けられ、前記付勢部材の付勢力に抗して前記ハウジングに対して前記第1部材をロックするロック機構が設けられ、
前記ハウジングの側面から突出するボタンを押圧することで前記ロック機構が解除される、請求項1から請求項4のいずれかに記載の挿入装置。
【請求項1】
皮下注入器の留置部材におけるカニューラを装着者の体内に自動挿入するための挿入装置であって、
筒状のハウジングと、
軸方向に移動可能な状態で前記ハウジング内に収納され、前記留置部材を保持する第1部材と、
前記第1部材に対して前記装着者の体表の反対側に設けられ、前記第1部材に対して軸方向に相対移動可能な状態で前記ハウジング内に収納され、前記ハウジングにより係止可能な第1係止部を有する第2部材と、
前記ハウジング内に収納され、前記第1部材および前記第2部材により係止可能な第2係止部を有する第3部材と、
前記第3部材に保持され、前記カニューラに挿通された挿入針と、
前記第1部材と前記第2部材との間に設けられ、前記第1と第2部材が離れる方向に付勢する付勢部材とを備え、
前記留置部材が前記装着者の体表に達する前は、前記第2部材における前記第1係止部が前記ハウジングに係止されるとともに前記第3部材における前記第2係止部が前記第1部材に係止され、
前記留置部材が前記装着者の体表に達した際に前記第2部材における前記第1係止部の前記ハウジングによる係止を解除する係止解除部が設けられ、
前記留置部材が前記装着者の体表に達した際に前記第3部材における前記第2係止部の前記第1部材による係止を解除するとともに、前記第3部材における前記第2係止部を前記第2部材により係止させる係止切換部が設けられた、挿入装置。
【請求項2】
前記第2部材は、フランジ部を有し、
前記ハウジングは、前記フランジ部の周縁と当接するフランジ当接部を有し、
前記第1部材は、前記留置部材が前記装着者の体表に達したときに前記フランジ当接部を径方向外方に押圧する押圧部を有し、
前記第1係止部は前記フランジ部を含み、
前記係止解除部は前記押圧部を含む、請求項1に記載の挿入装置。
【請求項3】
前記第3部材は、径方向外方に突出し前記第1部材により係止可能な突起部と、上側から下側に向かうにつれて漸次縮径するテーパ部とを有し、
前記第2部材は、前記留置部材が前記装着者の体表に達したときに前記テーパ部と当接して前記突起部が径方向内方に移動するように前記第3部材を変形させるテーパ当接部を有し、
前記第2係止部は前記突起部を含み、
前記係止切換部は前記テーパ当接部を含む、請求項1または請求項2に記載の挿入装置。
【請求項4】
前記第2部材における前記テーパ当接部により前記第3部材における前記突起部が係止される、請求項3に記載の挿入装置。
【請求項5】
前記ハウジングの側面上に設けられ、前記付勢部材の付勢力に抗して前記ハウジングに対して前記第1部材をロックするロック機構が設けられ、
前記ハウジングの側面から突出するボタンを押圧することで前記ロック機構が解除される、請求項1から請求項4のいずれかに記載の挿入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−46204(P2010−46204A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211791(P2008−211791)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
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