説明

捲縮フッ素繊維の製造方法

【課題】
高温、酸性ガスが発生する過酷な条件下において使用される焼却炉用バグフィルターに好適に用いることができる捲縮フッ素繊維を提供する。
【解決手段】
繊維表面の動摩擦係数が0.01〜0.5であるフッ素繊維を、表面粗度が0.5〜1.5μmであるクリンパーロールに供給して、捲縮付与し、捲縮フッ素繊維を得ることを特徴とする捲縮フッ素繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に捲縮特性に優れ、かつバグフィルターに好適に用いられる捲縮フッ素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素繊維は、その優れた力学特性および電気特性から近年さまざまな用途に利用されている。
【0003】
フッ素繊維とは、通常、テトラフルオロエチレン(PTFE)または、その誘導体からなる繊維の略称で、極性の高いフッ素原子がポリマー外周を覆う結果、耐熱性と耐薬品性に優れかつ、摩擦係数が低くなるので摺動性が高く、また非粘着性のため、過酷な条件下で機能する焼却炉のバグフィルターなど各種フィルターや、自動車や航空機のベアリングクロスなどの素材として用いられている。
【0004】
特に、このなかでも高温、酸性ガスが発生する過酷な条件下において、使用される焼却炉用バグフィルターに最適な素材である。
【0005】
例えば、特許文献1では、捲縮のあるフッ素短繊維をニードルパンチにて交絡させることで、環境保護などを目的とする排ガスの集塵装置に使用されるバグフィルター用フェルト地において、高温度下における長時間の使用において寸法安定性が優れたバグフィルター用フェルトが得られることが開示されている。
【0006】
しかしながら、フッ素繊維は一般に摩擦係数が低いので、フッ素繊維同士またはフッ素繊維とスクリムとの交絡時において、フェルトから繊維が脱落する、いわゆる繊維の抜けなどが発生しており、フィルターの基となるフェルトが得ることが難しい。その結果、かかるフェルトを用いたバグフィルターにおいて、焼却炉でのバグフィルターを使用する際に捕集効率が低く、粉塵がフィルターで捕集できず、大気に放出される、いわゆる粉塵抜けという問題が発生する。
【0007】
また、特許文献2にも、捲縮を有する捲縮フッ素繊維が記載されているが、この捲縮フッ素繊維は、具体的にはギロチンカットにより製造されており、その際に繊維の先端部分のみが枝分かれした結果、フィブリル化しているため、この捲縮フッ素繊維を用いてもフェルトにおける繊維の抜けを防ぐことは難しかった。
【特許文献1】特開平09−57637号公報
【特許文献2】特開2007−107118公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記した従来の技術における問題点を解決し、高温、酸性ガスが発生する過酷な条件下において使用される焼却炉用バグフィルターに好適に用いることができる捲縮フッ素繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的を達成するために、本発明は次のいずれかの構成を有する。
(1)繊維表面の動摩擦係数が0.01〜0.5であるフッ素繊維を、表面粗度が0.5〜1.5μmであるクリンパーロールに供給して、捲縮付与し、捲縮フッ素繊維を得ることを特徴とする捲縮フッ素繊維の製造方法。
(2)前記フッ素繊維は、テトラフルオロエチレン又は、その誘導体からなる繊維である前記(1)に記載の捲縮フッ素繊維の製造方法。
(3)クリンパーロールに供給するフッ素繊維は、その表面に油剤が付与されてなる前記(1)または(2)に記載の捲縮フッ素繊維の製造方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法から得られる捲縮フッ素繊維。
【0010】
(5)バグフィルターとして用いられる前記(4)に記載の捲縮フッ素繊維。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フェルトとなした際に繊維抜けの発生しにくい捲縮フッ素繊維を得ることができ、この高捲縮のフッ素繊維を用いることで、高温、酸性ガスが発生する過酷な条件下において使用される焼却炉用バグフィルターにおいて、粉塵抜けを低減でき、かつ安定したバグフィルターの生産が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】

バグフィルターに用いられるフェルトにおいて、加工性が安定しておりまた十分なフェルト品位が得られるためには、捲縮特性の高い捲縮フッ素繊維を用いる必要があるが、摩擦係数の低いフッ素繊維は、安定した捲縮を付与しにくいという問題がある。
【0013】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の動摩擦係数を有するフッ素繊維に、特定の表面粗度を有するクリンパーロールを用いて捲縮加工を行なうことで、クリンパーロールとフッ素繊維との滑りが抑えられ、高捲縮のフッ素繊維を安定して得ることができることを見出した。
【0014】
クリンパーロールに供給するフッ素繊維は、動摩擦係数が0.01〜0.5、好ましくは0.01〜0.2、より好ましくは0.01〜0.1である必要がある。かかる動摩擦係数が低すぎると、フェルト作製時に繊維同士が絡まず、繊維が脱落しフィルターの形状が保持できない。また、バグフィルターでは、フィルターに溜まった粉塵をパルスにて脱落させることが多いが、この際にフッ素繊維の動摩擦係数が大きすぎると、粉塵がフィルターから脱落せず、フィルターの詰まりが発生する。
【0015】
また、用いるクリンパーロールは、その表面粗度が、0.5〜1.5μm、好ましくは0.9〜1.2μmである必要がある。クリンパー機器は、少なくとも2つのクリンパーロールが箱体で取り囲まれてなり、クリンパーロール間に繊維を挟み込み、箱体内に該繊維を押し込める。この結果、押し込められた繊維は、箱体内で座屈させながら押し出さられることで、繊維に連続して捲縮を付与することができる。
【0016】
このクリンパーロールの表面粗度が0.5μm未満であると、摩擦係数の少ないフッ素繊維が粗度の小さいクリンパー表面で滑り、捲縮が十分に付与できない。特に0.4μm未満であると繊維への捲縮付与が出来ないばかりか、クリンパーロール表面とフッ素繊維の滑りが激しくなり、フッ素繊維から粉体が発生する。その結果、クリンパー機器の故障の原因となり、クリンパー機器の清掃が頻繁に必要となるため、安定して捲縮フッ素繊維を製造することができないし、クリンパーロール表面が金属の場合、フッ素繊維とクリンパーロール表面の滑りが大きく、フッ素繊維の傷みによりフッ素繊維自身の粉塵化が起こり、クリンパー機器に粉塵化したフッ素樹脂が詰まり、トラブルの原因となって、頻繁な設備の清掃が必要となる。
【0017】
クリンパーロールの表面粗度が0.5〜1.5μmであると、摩擦係数の少ないフッ素繊維でもクリンパー表面で滑らず、フッ素繊維の傷みが小さくフッ素繊維自身の粉塵化が起こりにくい。そのため、クリンパー設備への粉塵化したフッ素樹脂が詰まりにくくなり。この結果、設備の清掃回数が少なくなる。
【0018】
しかし、クリンパーロールの表面粗度が1.5μmを越えると、繊維がクリンパーロール表面の凹凸により、傷が発生し、得られる捲縮フッ素繊維の強度が劣化することになる。
【0019】
捲縮フッ素繊維が用いられる焼却炉用バグフィルターは、260℃と高温条件下で使用されるため、耐熱性の高いフッ素繊維が用いられる。フッ素繊維としては、炭素とフッ素のみで構成されているテトラフルオロエチレンからなる繊維に限らず、テトラフルオロエチレンの誘導体からなる繊維が用いられる。テトラフルオロエチレン誘導体としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)(FEP)が例示できる。また、本発明に用いられるフッ素繊維としては、セルロース誘導体とフッ素樹脂をマトリクス状態で紡糸し焼成するマトリックス製造方法で得られるものでも、フッ素樹脂を加圧・加熱凝集した後フィルム状に延ばし、その後スリットカットするスリットヤーン製造方法で得られるものでも良い。
【0020】
また、繊維の表面に油剤が付与されていても、前記した動摩擦係数を有するフッ素繊維が好ましく用いられる。フッ素繊維の動摩擦係数は、PTFEの成分中のポリマーユニットを変更する、又は、その割合を変えるなど、フッ素繊維の基質自体を変更する他、繊維の断面形状をY型などの異形断面としたり、油剤の成分として粘着性の異なるユニットを持つ成分を使うなどすることにより、変更することができる。特に動摩擦係数を大きくするには、フッ素繊維の基質としてPTFEにエーテル結合などの共重合体や側鎖を付与したり、粘着性の高い油剤を使用したり、水分を付与するのが効果的である。また、動摩擦係数を小さくするためには、フッ素繊維の基質としてPTFEのホモポリマーを用いたり、粘着性の低い油剤を使用したり、油剤を付与しないことが効果的である。
【0021】
本発明により製造される捲縮フッ素繊維は、バグフィルターに適したフェルトを製造するために好適に用いられる。また、本発明によるバグフィルターは、焼却炉において粉塵が抜けるなどの問題の発生が低減される。
【0022】
なお、フェルト作製に好適な高い捲縮とは、捲縮数が9〜22山/25mmかつ捲縮率が9%〜22%のものであり、これらの下限よりも低い捲縮繊維を用いると、得られるフェルトで繊維の抜けが発生しやすく、これらの上限よりも大きい捲縮繊維を用いると、繊維が絡みすぎてだま状になり、得られるフェルトの表面品位が落ちやすい他、フェルト作製時にフェルト作製装置内に繊維が詰まりやすく操作性が悪化しやすい。
【実施例】
【0023】
本発明を、実施例を用いて、より具体的に説明する。なお、本発明において、各種物性値は以下に記載の方法によるものである。
【0024】
<捲縮数、捲縮率>
JIS L1036及びJIS L1074の記載により捲縮度、捲縮率を求める。
【0025】
糸条に規定加重(繊度×2mg/dtex)を掛けたときの原長をA、そのときの糸条25mm中の山の高さを捲縮度、さらに規定加重300mgの加重をかけた時の繊維長をBとして、B−A/Bを捲縮率とする。
【0026】
また、糸条に規定加重(繊度×2mg/dtex)を掛けたとき25mm間隔中の山の数を捲縮数とする。
【0027】
<クリンパーロールの表面粗度>
粗度計を用いて測定する。なお、実施例では、粗度計として、(株)ミツトヨ製 小型粗度計 SJ−201を用いた。
【0028】
<動摩擦測定方法>
JIS K7125の記載により動摩擦係数を測定する。なお、実施例では、動摩擦計として、エイコー測器(株)製 μメーターを用いた。
【0029】
実施例1
動摩擦係数0.01かつ単繊維繊度10dtexのPTFEからなる全繊度10万dtexの繊維を、ステンレスSUS410からなり、表面粗度が1.5μmのクリンパーロール2つを収納した箱体内に押し込み、0.2MPaの圧力を付与して捲縮加工した。その結果、捲縮数17.1山、捲縮率18.5%の捲縮トウが得られた。またクリンパーロール表面の清掃は24時間たっても不要であった。
【0030】
実施例2
動摩擦係数0.09かつ単繊維繊度5dtexのPTFEからなる全繊度10万dtexの繊維を、ステンレスSUS410からなり、表面粗度1.2μmクリンパーロール2つで実施例1と同様に捲縮加工した。その結果、捲縮数11.0山、捲縮率10.1%の捲縮トウが得られた。またクリンパーロール表面の清掃は24時間たっても不要であった。
【0031】
実施例3
動摩擦係数0.19かつ単繊維繊度2dtexのPTFEからなる全繊度10万dtexの繊維を、ステンレスSUS310Sからなり、表面粗度0.9μmクリンパーロール2つで実施例1と同様捲縮加工した。その結果、捲縮数10.5山、捲縮率9.8%の捲縮トウが得られた。またクリンパーロール表面の清掃は24時間に1回必要であった。
【0032】
実施例4
動摩擦係数0.45かつ単繊維繊度2dtexのPTFEからなる全繊度10万dtexの繊維で、油剤がポリアルキルエーテル系油剤を0.5重量%付与したものを、ステンレスSUS310Sからなり、表面粗度0.9μmクリンパーロール2つで実施例1と同様捲縮加工した。その結果、捲縮数10.5山、捲縮率10.3%の捲縮トウが得られた。またクリンパーロール表面の清掃は24時間に1回必要であった。
【0033】
比較例1
動摩擦係数0.09かつ単繊維繊度10dtexのPTFEからなる全繊度10万dtexの繊維を、ステンレスSUS410からなり、表面粗度0.2μmクリンパーロール2つを収納した箱体内に押し込み、0.2MPaの圧力を付与することで捲縮加工した。その結果、捲縮数8.2山、捲縮率5.5%の捲縮トウが得られた。またクリンパーロール表面の清掃は3時間に1回必要であった。
【0034】
比較例2
動摩擦係数0.08かつ単繊維繊度5dtexのPTFEからなる全繊度10万dtexの繊維を、ステンレスSUS410からなり、表面粗度0.3μmクリンパーロール2つで比較例1と同様に捲縮加工した。その結果、捲縮数6.0山、捲縮率7.1%の捲縮トウが得られた。またクリンパーロール表面の清掃は3時間に1回必要であった。
【0035】
比較例3
動摩擦係数0.3かつ単繊維繊度2dtexのPTFEからなる全繊度10万dtexの繊維を、ステンレスSUS310からなり、表面粗度0.4μmクリンパーロール2つで比較例1と同様に捲縮加工した。その結果、捲縮数4.0山、捲縮率8.1%の捲縮トウが得られた。またクリンパーロール表面の清掃は2時間に1回必要であった。
【0036】
比較例4
動摩擦係数0.45かつ単繊維繊度2dtexのPTFEからなる全繊度10万dtexの繊維で油剤がポリアルキルエーテル系油剤を0.5重量%付与したものを、ステンレスSUS310Sからなり、表面粗度0.1μmクリンパーロール2つで比較例1と同様に捲縮加工した。その結果、捲縮数3.5山、捲縮率2.8%の捲縮トウが得られた。またクリンパーロール表面の清掃は3時間に1回必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によって得られる捲縮フッ素繊維は、焼却炉用のバグフィルターに好適に用いることができる。特に、フッ素繊維にガラス繊維を初めとする他繊維を混綿した状態で使用するバグフィルターにおいて、本発明で得られる捲縮フッ素繊維を用いることで繊維同士の絡みを高め繊維の脱落の少ない安定したフィルターを供給することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面の動摩擦係数が0.01〜0.5であるフッ素繊維を、表面粗度が0.5〜1.5μmであるクリンパーロールに供給して、捲縮付与し、捲縮フッ素繊維を得ることを特徴とする捲縮フッ素繊維の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素繊維が、テトラフルオロエチレン又は、その誘導体からなる繊維である請求項1に記載の捲縮フッ素繊維の製造方法。
【請求項3】
クリンパーロールに供給するフッ素繊維は、その表面に油剤が付与されてなる請求項1または2に記載の捲縮フッ素繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法から得られる捲縮フッ素繊維。
【請求項5】
バグフィルターとして用いられる請求項4に記載の捲縮フッ素繊維。

【公開番号】特開2009−1932(P2009−1932A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163442(P2007−163442)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】