説明

授乳用下着

【課題】授乳時以外は乳房を適正に隠せると共に、授乳時は留め具の着脱なしに、様々な授乳体勢に応じて乳房を露出させ、さらに、乳児が乳首を容易に銜えることができる授乳用下着を提供すること。
【解決手段】一対のカップ部20,21と、一対のカップ部を吊るようにしたストラップ部30と、着用した際に乳房の下側周囲に配置されるアンダー部40と、を備えた授乳用下着であって、一対のカップ部は、それぞれ、前身頃におけるストラップ部とアンダー部とをつなぐ方向に沿って分割されて、胸元側カップ部24,25と脇側カップ部26,27に分けられ、胸元側カップ部は、少なくとも乳首を覆うと共に、伸縮性を有しており、胸元側カップ部と脇側カップ部とは、着用された際、乳首よりも脇側の領域で、正面視において互いに重ねられた重複領域ARを有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下着を着用したまま授乳が可能な授乳用下着に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラジャーやキャミソールなどの下着において、これを着用したまま乳房を露出させて、授乳をすることができる下着が知られている。
例えば授乳用ブラジャーの場合、乳房を覆うカップ部と、当該カップ部を支持するストラップとを、スナップやフックなどの留め具で連結させておき、授乳時にその留め具を外して乳房を露出させることで、当該ブラジャーを体から外すことなく授乳を可能としている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような留め具の着脱は煩雑であり、特に授乳時には乳児を抱いている状態が多いため、その煩雑さはより大きなものと感じられる。
このため、図6に示すように、留め具の着脱行為をせずに授乳できる授乳用インナー1も開発されている(例えば、特許文献2参照)。
この授乳用インナー1は、全体が伸縮性に富んだ素材で形成され、胸元を覆わないように互いに離間し、かつ、乳房の高さよりも大きな高さ寸法を有する2つのカップ部2,3を有している。そして、胸元やカップ部2,3を覆い隠すようにして、大きく中央領域に配置された外側布4が設けられ、中央領域でカップ部2,3と外側布4とは正面視において重ねられている。したがって、授乳時には、外側布4の脇側の縁4aを大きくめくった後、カップ部2,3の胸元側の縁2a,3aを大きくめくって乳房を露出させ、授乳を可能としている。また、外側布4が中央領域を大きく覆っているため、授乳時以外は乳房や胸の谷間が露出しないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−187955公報
【特許文献2】実用新案登録第3083972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際の授乳は、母親が乳児を様々な姿勢で抱いて行われている。例えば、乳児を母親の前身頃に正対させながら横向きに抱いて行なう「横抱き授乳」、乳児を母親の足にまたがらせて縦に抱いて行なう「縦抱き授乳」、乳児をフットボールのように脇にかかえて行なう「フットボール抱き授乳」、或いは、母親と乳児が添い寝をするように寝た状態で行なう「添い寝抱き授乳」などがある。
【0006】
そうすると、図6の授乳インナー1の場合、中央領域においてカップ部2,3と外側布4とは重ねられ、中央領域から乳房を露出させるため、例えばフットボール抱き授乳などの脇側から乳房を露出させる必要がある授乳は困難である。
さらに、図6の授乳インナー1では、例えば中央領域の乳首を脇に抱えた乳児の口に運ぶなどの無理な授乳体勢が原因となり、或いは、このような無理な授乳体勢でなくても、乳児の予期しない動きにより、母親は乳首を乳児の口に円滑に運ぶことができず、ひいては乳児が乳首を上手く銜え難くなることもある。
【0007】
本発明はこのような問題を解決するためのもので、授乳時以外は乳房を適正に隠せると共に、授乳時は留め具の着脱なしに、様々な授乳体勢に応じて乳房を露出させ、さらに、乳児が乳首を容易に銜えることができる授乳用下着を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、請求項1の発明によれば、左右の乳房を覆う一対のカップ部と、前記一対のカップ部の夫々の上部に接続され、着用した際に前記カップ部を吊るようにしたストラップ部と、前記一対のカップ部の下部に接続され、着用した際に乳房の下側周囲に配置されるアンダー部と、を備えた授乳用下着であって、前記一対のカップ部は、それぞれ、前身頃における前記ストラップ部と前記アンダー部とをつなぐ方向に沿って分割されて、胸元側カップ部と脇側カップ部に分けられ、前記胸元側カップ部は、少なくとも乳首を覆うと共に、伸縮性を有しており、前記胸元側カップ部と前記脇側カップ部とは、着用された際、乳首よりも脇側の領域で、正面視において互いに重ねられた重複領域を有している授乳用下着により達成される。
【0009】
請求項1の構成によれば、カップ部はストラップ部とアンダー部とをつなぐ方向に沿って分割され、胸元側カップ部と脇側カップ部に分けられている。このため、胸元側カップ部と脇側カップ部との間から乳房を露出させることができる。また、胸元側カップ部と脇側カップ部とは、着用された際、正面視において互いに重ねられた重複領域を有しているため、カップ部が分割されていても乳房が見られることを有効に防止できる。なお、本発明にいう「胸元」とは、胸の中央前面のくぼんだ所であって、胸の谷間ないしは乳房間溝を意味する。
そして、乳首を覆う胸元側カップ部は伸縮性を有しているため、留め具を外すようなことをしなくても、胸元側カップ部を胸元側からめくって乳首を露出させることで授乳できる。さらに、重複領域は、着用された際、乳首よりも脇側の領域に配置されるため、胸元側カップ部を乳首よりも脇側からめくって、脇側から授乳することもできる。
そして、このように、胸元側カップ部を胸元側や脇側からめくっても、脇側カップ部はめくられずにいる。したがって、脇側カップ部は、これとつながったストラップ部やアンダー部と協働して、乳房の動きを抑制して乳首の位置を定め、これにより、母親は乳首を乳児の口に運び易くなり、ひいては乳児は乳首を上手く銜えることができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、前記重複領域において、前記胸元側カップ部は前記脇側カップ部よりも身体側に着用されるようになっていることを特徴とする。
このため、乳首より脇側に位置する重複領域において、胸元側カップ部と脇側カップ部との間に浮きがあったとしても、その浮いた間から乳首側が他人に見られることはない。また、当該浮いた間から脇側を見られたとしても、乳房は乳首が最も前方に出て、脇側にいくに従って後方となるように盛り上がっている山形状であるため、乳房が他人に見られることも有効に防止できる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2の構成において、前記脇側カップ部の胸元側の縁部には、着用した際に前記胸元側カップ部を押さえつけるようにしたストレッチ性部材が設けられていることを特徴とする。
したがって、胸元側カップ部と脇側カップ部との間の浮きをストレッチ性部材がおさえ、請求項2の発明に比べて、乳房が他人に見られる恐れをより有効に防止できる。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかの構成において、各前記カップ部の前記脇側カップ部及び前記胸元側カップ部は、ともに同じ一本の前記ストラップ部に接続されており、前記脇側カップ部は伸縮性を有していることを特徴とする。
請求項4の構成によれば、胸元側カップ部と脇側カップ部は、ともに同じ一本のストラップ部に接続された状態であるため、授乳時に、胸元側カップ部を脇側からめくって胸元側に引き寄せると、その引き寄せた胸元側カップ部に接続されたストラップ部を介して、脇側カップ部の上部(ストラップ部との接続部)が着用者の中心側に移動する。このため、脇側カップ部が乳房を押したり、その結果、乳首の位置が無用に変ったりする恐れがある。ところが、本発明の構成では、脇側カップ部は伸縮性を有しているため、脇側カップ部の上部が着用者の中心側に移動したとしても、乳房を押す力は軽減される。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明によれば、授乳時以外は乳房を適正に隠せると共に、授乳時は留め具の着脱なしに、様々な授乳体勢に応じて乳房を露出させ、さらに、乳児が乳首を容易に銜えることができる授乳用下着を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る授乳用下着の概略正面側斜視図。
【図2】図1の授乳用下着の概略背面側斜視図。
【図3】図1の授乳用下着を着用した際の正面図。
【図4】図1の授乳用下着を着用した状態で胸元側カップ部を胸元側からめくっている図。
【図5】図1の授乳用下着を着用した状態で胸元側カップ部を脇側からめくっている図。
【図6】従来の授乳用下着の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。なお、以下に説明する各図面において同一の符号が付されている箇所は共通する構成である。
図1は本発明の実施形態に係る授乳用下着10の概略正面側斜視図、図2は授乳用下着10の概略背面側斜視図であり、パッドが収容された状態を示している。
この授乳用下着10は、授乳用ブラジャーが例示されており、カップ部12、ストラップ部30、アンダー部40を有している。なお、本発明の授乳用下着10は、カップ部12、ストラップ部30、アンダー部40を有すれば、ブラジャーに限られるものではなく、例えばキャミソール等であってもよい。
【0016】
先ず、カップ部12を概説する。
カップ部12は、乳房を覆い隠すと共に乳房の形を保持させるため、左右の乳房に対応して一対形成され、左右それぞれが全体的に乳房形状に対応したドーム状とされている。
本実施形態のカップ部12は、右側のカップ部20と左側のカップ21とが胸元で交差することで、胸元を隠せるようになっている。図の場合、右側のカップ部20の胸元側端部20aは、左側のカップ部21の胸元側端部21aの上(着用時の前方)に重なるように配置されている。
【0017】
また、図2に示すように、カップ部12の裏面(着用時の身体側の面)には、パッド9、及びこのパッド9を着脱するための収容体14が設けられている。
パッド9は、例えばモールド成型された円形のドーム状のパッドであり、その厚み方向に弾力性を有するが、直径方向の伸縮性は略失われている。
収容体14は、パッド9を出し入れするための挿入口14aを有する袋状であって、カップ部12の裏面に縫合され、漏乳を透過し、肌触りのよいガーゼ等の素材で形成されている。そして、収容体14は、上部(着用時の肩側)に向うに従ってその幅W1が狭くなることで、パッド9の上部への移動を規制し、また、アンダー部40がパッド9の下部への移動を規制し、これにより、パッド9を乳首及びその周辺に固定するようになっている。
【0018】
次に、ストラップ部30を概説する。
ストラップ部30は肩にかけて、左右のカップ部20,21を吊るして支持するものであり、左右のカップ部20,21の夫々の上部、及びアンダー部40が後身頃側に回りこんで形成されたベルト部40aに接続されている。
本実施形態のストラップ部30は、全体的に長手方向(カップ部20,21とベルト部40aとをつなぐ方向)に伸縮性を発揮する帯状であり、カップ部12の上端に縫合されると共に、後身頃側のベルト部40aと一体的に形成されている。
そして、ストラップ部30は、着用した際、肩の頂上に対応した領域の幅W2が最も狭く、カップ部12に向うに従って、また、ベルト部40aに向うに従って、除々にその幅が広くなっている。
また、ストラップ部30の幅方向の両縁部には、長手方向に沿って、当該長手方向にゴム等で弾性力を発揮させる弾性部材32が設けられている。
【0019】
次に、アンダー部40を概説する。
アンダー部40は、一対のカップ部20,21の下部に接続され、着用した際に乳房の下側(乳房の膨らみが無くなった位置)周囲に配置される部分であり、授乳用下着10を身体に固定するようになっている。具体的に、アンダー部40は、全体が一本の紐状ないし帯状であり、右側のカップ部20と左側のカップ部21の双方の下端部に連続して縫合されている。そして、着用した状態では、前身頃において乳房の下側に配置され、身体の左右側面を通って背面に回り込むようになっており、後身頃において一方の自由端部と他方の自由端部とが着脱可能となっている。図2では、一方の自由端部と他方の自由端部とは、複数のフック42と複数のループ44とを掛止することで、身体周囲に固定されるようになっている。
このアンダー部40には、その長手方向(着用状態における身体周囲方向)に沿って、本下着10の素材の内、最も引締め力の強い紐状ないし帯状のゴム等からなる弾性部材が縫合されており、これにより、着用した際、身体に密着して動き難い部分となる。
【0020】
本実施形態のカップ部12、ストラップ部30、アンダー部40の概要は以上の通りであり、次に、図1及び図2に加え、本下着10を着用した際の正面図である図3、本下着10を着用した状態で胸元側カップ部を胸元側からめくっている図4、本下着10を着用した状態で胸元側カップ部を脇側からめくっている図5を参照しながら、本発明のさらなる特徴を説明する。
【0021】
上述した一対のカップ部20,21は、図3に示すように、夫々、前身頃におけるストラップ部30とアンダー部40とをつなぐ方向に沿って分割されている。すなわち、一対のカップ部20,21は、着用した際に、それぞれ、相対的に胸元側と脇側とに分けるように、略縦方向(着用状態における略身長方向)に沿って、乳房BRの上下方向の高さ寸法H1よりも大きな高さ寸法H2を有するように分断されて、胸元側カップ部24,25と脇側カップ部26,27を有している。
なお、右側のカップ部20と左側のカップ部21とは、前述の胸元領域で重なっている構成が異なるだけで、その他の構成は同様であるため、以下、特段の事情がない限り、右側のカップ部20における胸元側カップ部24、脇側カップ部26についてのみ説明する。
【0022】
〔胸元側カップ部について〕
胸元側カップ部24は、図2及び図3に示すように、少なくとも乳首NI、好ましくは乳輪を覆う部分であり、本実施形態の場合、その裏面に前述のパッド9を収容する収容部14が設けられている。
そして、胸元側カップ部24は、全体として、全方向に伸縮性があるように形成され、その素材としては例えば、ベア天素材、2WAY素材、FTY天竺が採用でき、本実施形態の場合には、綿ベア天素材(綿95%、ポリウレタン5%)が用いられている。
これにより、胸元側カップ部24は、その伸縮性を利用して、図4に示すように胸元側の縁部24bをもって胸元側からめくり、乳首NIを露出させることができる。また、図5に示すように、胸元側カップ部24を脇側の縁部24aをもって脇側(つまり、胸元側カップ部24と脇側カップ部26とを分割した位置)からもめくって、乳首NIを露出させることができる。
【0023】
なお、胸元側カップ部24の脇側及び胸元側の縁部24a,24bは、例えば、マイクロテープが素材として採用されて、胸元側カップ部24のその他の領域よりも強いストレッチ性を有している。このストレッチ性は、一つは肌への密着性を高め、乳房(特に乳首)が他人に見られる恐れを有効に防止するための機能を有する。二つ目は、授乳時にめくった胸元側カップ部24を、山形状の乳房の傾斜面に係止させて、めくった状態が維持され易いようにする機能を有する。
【0024】
そして、胸元側カップ部24の脇側の縁部24aは、図3に示すように、山形状の乳房の頂点(つまり、乳首NI)と脇との間に配置されているが、本実施形態の場合、図2に示すように、収容体14に収容されたパッド9よりも僅かに脇側に配置して、あまり乳首と離間しないようにしている。これにより、図5のように胸元側カップ部24を脇側の縁部24aを持ってめくった際、乳首NIを容易に露出できる。
【0025】
なお、本実施形態の場合、図2に示すように、胸元側カップ部24の脇側の下部24cについては、パッド9の縁の僅かに脇側ではなく、余裕をもってさらに脇側に配置されており、これにより、胸元側カップ部24が乳房を覆う安心感ないし乳房を保持する安定感を高められるようにしている。しかし、胸元側カップ部24を脇側からめくって乳首を露出し難い場合は、脇側の縁部24a全体を、パッド9の縁に沿って配置するようにしてもよい。
また、本実施形態のようにパッド9を収容する下着でなければ、胸元側カップ部24を脇側からめくって乳首を露出し易いように、脇側の縁部24aを乳輪の僅かに脇側に配置してもよい。
【0026】
〔脇側カップ部について〕
脇側カップ部26は、主に「乳房の他人への視認を防止する機能」と「胸元側カップ部24をめくっても乳房を保持する機能」を有する。
先ず、「乳房の他人への視認を防止する機能」を説明する。
図2及び図3に示すように、胸元側カップ部24は、その脇側の縁部24aをパッド9の縁より僅かに脇側に配置し、乳房全体を覆うようにはされていない。そうすると、胸元側カップ部24だけでは他人に乳房の端を見られる恐れがあるため、脇側カップ部26により乳房の端を覆うようにしている。
さらに、脇側カップ部26と胸元側カップ部24とは、着用された状態で、正面視において互いに重ねられた重複領域AR(図1及び図3の平行斜線の領域)を有している。これにより、脇側カップ部26と胸元側カップ部24との隙間から、乳房を見られる恐れを軽減している。
【0027】
ここで、この重複領域ARは大きい程、他人に乳房を見られる恐れは軽減できるが、一方で、重複領域ARが小さい程、胸元側カップ部24はめくり易くなる。
この点、本実施形態の重複領域ARは乳首よりも脇側の領域に形成され、かつ、この重複領域ARにおいて、胸元側カップ部24が身体側に配置され、脇側カップ部26が胸元側カップ部24の上(身体の前方)に配置されている。
そうすると、重複領域ARは乳首より脇側にあり、乳房は乳首を頂点とする山形状であるため、図1の一点鎖線で囲った図(脇側カップ部27を少しめくった図)のように、胸元側カップ部25と脇側カップ部27との間に浮きSPがあったとしても、その浮いた間から見えるのは、略胸元側カップ部25であって、乳房を他人に見られる恐れが有効に軽減でき、少なくとも乳首NIが他人に見られることはない。
そして、このように浮きSPがあっても乳房が見え難いことから、図1や図3に示すように、重複領域ARの面積を大きくとらなくてもよく、このため重複領域ARの面積を小さくして、胸元側カップ部24をめくり易くすることができる。
このように、本実施形態によれば、他人に乳房を見られる恐れを軽減しつつ、胸元側カップ部24をめくり易くすることができる。
【0028】
次に「胸元側カップ部24をめくっても乳房を保持する機能」について説明する。
図5のように本下着10は胸元側カップ部24を脇側からめくった場合でも、脇側カップ部26はめくられずにいる。このため、脇側カップ部26は、これとつながったストラップ部30及びアンダー部40と協働して乳房を支持し授乳中の乳房の動きを抑制できる。すなわち、図5のように、片手HA1で乳児を抱きながら、もう一方の手HA2で胸元側カップ部24をめくる際、両手がふさがっていても、乳房は脇側カップ部26により支持されている。したがって、例えば乳児が動いて乳房を揺らそうとしても、母親は胸元側カップ部24をめくると共に、位置が特定された乳首NIを乳児の口に上手く運ぶことができる。
【0029】
具体的に、脇側カップ部26は、図3に示すように重複領域ARにおいて乳房の上下方向の高さ寸法H1よりも大きな高さ寸法H2を有している。そして、胸元側の縁部26aは、着用されずに吊り下げられた状態では、図1に示すように、ストラップ部30との境界(本実施形態の場合、縫合部)BLから乳房の上半分に対応する位置までは略垂直(略直線)な縁として形成され、乳房の下半分に対応する領域では、アンダー部40(下側)に向うに従って除々に胸元側に傾斜するように形成されている。したがって、脇側カップ部26は、乳房の下半分に対応する領域において乳房の山形状に対応し、アンダー部40と協働して乳房を下側から支えるように保持できる。
【0030】
ここで、図2に示すように、胸元側カップ部24の下部24cは、パッド9の縁から余裕をもった面積を有するように脇側に配置され、脇側カップ部26も、図1に示すように、胸元側の縁部26aが下側に向うに従って除々に胸元側に傾斜していることから、重複領域ARは、その下部において、胸元側カップ部24と脇側カップ部26とが最も重なるようになっている。これにより、重複領域ARは、大きく下側に垂れた乳房の着用者であっても消滅することはなく、確実に乳房を覆うことができる。
【0031】
ところで、胸元側カップ部24は上述の通りめくることが出来るように伸縮性を有するが、脇側カップ部26は上述の通り乳房を支持させるため、胸元側カップ部24に比べて伸縮性を有さない方が好ましい。しかし、胸元側カップ部24及び脇側カップ部26は、ともに同じ一本のストラップ部30に接続されているため、例えば乳房が大きい着用者などの場合、図5に示すように、胸元側カップ部24を脇側からめくって胸元側に引き寄せると、胸元側カップ部24は、矢印Aに示す方向に伸びる。また、脇側カップ部26の上部(つまり境界BL周辺)は、ストラップ部30を介して着用者の中心側にL1分移動することがある。そうすると、脇側カップ部26が乳房を脇側から胸元側に押し、さらにはその結果として、例えば「フットボール抱き授乳」や「添い寝抱き授乳」に対応させようとして、図5のように折角脇側から乳首NIを露出させようとしたのに、乳首NIの位置が着用者の中心側に変位し、円滑に乳首NIを乳児の口に運べなくなる恐れがある。
【0032】
そこで、脇側カップ部26には、胸元側カップ部24を脇側からめくった際、乳房を支持する機能を維持させつつ、脇側カップ部26の上部が着用者の中心側に移動したとしても、その横変位を吸収する伸縮性を持たせた。具体的には、脇側カップ部26は、ストラップ部30との接続部(境界BL)が図5のL1方向に移動した状態で、少なくとも乳首NIの位置が略変位しないように、図5の矢印L2の方向(境界BLと脇側カップ部26に接続されたアンダー部40とをつなぐ方向であって、脇側カップ部の長手方向)に伸縮性を発揮させている。
【0033】
さらに、カップ部20とストラップ部30との接続部(境界BL)の位置について言えば、脇側カップ部26の上部の移動距離L1が小さい程、脇側カップ部26に伸縮性をもたせる必要性が低くなって、胸元側カップ部24をめくった際に乳房を保持する力を強めることができることから、当該接続部の位置は高いほど好ましい。しかし、当該接続部の位置を高くし過ぎると、胸元側カップ部24と脇側カップ部26との分割された隙間から乳房を見られる恐れが高まってしまう。このため、本実施形態の場合、接続部(境界BL)の位置は、着用した際に鎖骨程度の高さとなるように形成されている。
【0034】
なお、脇側カップ部26の脇側の縁部26cには、例えば、マイクロテープが素材として採用され、脇側カップ部26のその他の領域よりも強いストレッチ性を形成することで、肌への密着性を高めている。これにより、脇側から乳房を視認される恐れを有効に防止している。
そして、本実施形態の場合は、乳房の露出の容易性を優先して、このストレッチ性の高い部分を脇側カップ部26の胸元側の縁部26aに設けてはいないが、縁部26aに設けてもよい。これにより、着用した際に、ストレッチ性部材により脇側カップ部26が胸元側カップ部24を押さえつけて浮きを防止し、乳房が他人に見られる恐れをより強固に防止できる。
【0035】
本発明の実施形態は以上のように構成されており、このため、留め具などを操作することなく、胸元側カップ部24を胸元側からめくって、胸元側カップ部24を授乳の邪魔にならないように脇側によせる図4の方式で、例えば「横抱き授乳」「縦抱き授乳」に対応でき、また、胸元側カップ部24を脇側からめくって、胸元側カップ部24を授乳の邪魔にならないように胸元側によせる図5の方式で、例えば「フットボール抱き授乳」「添い寝抱き授乳」に対応でき、様々な授乳体勢に応じて乳房を露出することができる。しかも、乳児を抱きながら乳房を露出させる際に両手がふさがっていても、脇側カップ部26が乳房の動きを抑制して、乳首を乳児の口に運び易い。従って、授乳用下着10によれば、カップ部20,21から乳首を露出させて授乳するまでの作業が円滑かつ短時間に行われ、特に乳首や乳房を他人に見られたくない外出先で使用する意義が大きい。
【0036】
なお、上述した実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、上記説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
例えば、脇側カップ部26の伸縮性を下げ或いは無くして、乳房を確実に保持できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
10・・・授乳用下着、20,21・・・カップ部、24,25・・・胸元側カップ部、26,27・・・脇側カップ部、30・・・ストラップ部、40・・・アンダー部、AR・・・重複領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の乳房を覆う一対のカップ部と、
前記一対のカップ部の夫々の上部に接続され、着用した際に前記カップ部を吊るようにしたストラップ部と、
前記一対のカップ部の下部に接続され、着用した際に乳房の下側周囲に配置されるアンダー部と、
を備えた授乳用下着であって、
前記一対のカップ部は、それぞれ、前身頃における前記ストラップ部と前記アンダー部とをつなぐ方向に沿って分割されて、胸元側カップ部と脇側カップ部に分けられ、
前記胸元側カップ部は、少なくとも乳首を覆うと共に、伸縮性を有しており、
前記胸元側カップ部と前記脇側カップ部とは、着用された際、乳首よりも脇側の領域で、正面視において互いに重ねられた重複領域を有している
ことを特徴とする授乳用下着。
【請求項2】
前記重複領域において、前記胸元側カップ部は前記脇側カップ部よりも身体側に着用されるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の授乳用下着。
【請求項3】
前記脇側カップ部の胸元側の縁部には、着用した際に前記胸元側カップ部を押さえつけるようにしたストレッチ性部材が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の授乳用下着。
【請求項4】
各前記カップ部の前記脇側カップ部及び前記胸元側カップ部は、ともに同じ一本の前記ストラップ部に接続されており、
前記脇側カップ部は伸縮性を有している
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の授乳用下着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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