説明

排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知方法及び同システム

【課題】
スートファイア事故に至る前のすす燃焼開始段階(スートバーニング)を検知し、対処することを可能とする排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知方法およびシステムを提供すること。
【解決手段】
本発明に係る排ガスエコノマイザ1のすす燃焼予測検知方法は、高温の排気ガス通路に設けられ該排気ガスから排熱回収を行う伝熱管90を有した排ガスエコノマイザ1において、該伝熱管90に流体搬送手段を介して送られ該排熱回収した熱を搬送する熱交換用流体にかかる物理量の排熱回収時における変化に基づいて該伝熱管90に付着したすすの燃焼を予測及び/もしくは検知することを具備して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスエコノマイザの安全技術に係り、特にたとえば各種熱機関や燃焼機器等の排気ガスから排熱回収を行う際に、伝熱管に過大に付着したすすの発火、燃焼を予測検知し対処するための排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知方法及び同システムに関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギーの実現のため、各種熱機関あるいは焼却炉等の排気ガス(排ガス)から排熱を回収し有効活用する方法が普及している。特に、温室効果ガスであるCO削減が強く求められるとともに、原油をはじめとする化石燃料の価格上昇が予見される現在、排熱利用による省エネルギーは、不可欠な技術となって来ている。ディーゼル船に搭載されている船舶用排ガスエコノマイザも、過去から採用されている省エネルギー装置の1つであり、主機関排ガスからの熱エネルギーを有効に活用し、船の運航燃料を低減しようとするもので、日本の全船級船の約30%がこの排ガスエコノマイザを搭載している。
【0003】
排ガスエコノマイザの中でも強制循環水管式発電機駆動用排ガスエコノマイザは、ディーゼル船における航行中の全船内電力を賄い、運航燃料を節約する船内重要装置として飛躍的な発展を遂げてきた。しかし、省エネルギーを追求するあまり、運転条件によっては、排気ガス中の蒸気が凝縮して多量のすすが堆積しやすい低い排ガス温度まで熱を回収する状況が発生することとなった。そして、過大に堆積したすすに排気ガスの高熱が加えられ自然発火し、伝熱管がメルトダウンする、いわゆるスートファイアと呼ばれる事故が多発し、膨大な不稼働損をもたらしてきていた。
【0004】
この対策として特許文献1、2に示すような対策が取られてきた。
【0005】
この特許文献1に開示される技術思想は、図5に示されるようなスートファイアを消火する消火装置として、排ガス導入側にCOガス導入手段を設け、発生した火を確実に消火するというものである。
【0006】
しかしながらこの特許文献1の排ガスエコマイザの消火装置は、スートファイアが発生した後に、火が拡大することを防止するものであり、伝熱管の損傷を免れることができなかった。
【0007】
また、特許文献2に開示される技術思想は、エンジンの高圧排ガスをスートブロ用ノズルに導き、制御弁で制御して高圧排ガスを噴射して効果的かつ経済的にスートブロを行い、スートファイア等による熱交換チューブの損傷を防止するというものである。
【0008】
しかしながらこの特許文献2の船用エンジンスートブロ装置は、エンジンの運転状態や高圧排ガスの発生行程に基づいて付着したすすを吹き飛ばすものであり、吹き残りのすすの燃焼を検知するようなものではなかった。
【0009】
これら特許文献1、2に開示された技術以外にも排ガスエコノマイザのスートファイア防止対策として、特に排ガスの温度が低くなりすぎないような措置を採ることにより、強制循環水管式排ガスエコノマイザのスートファイア事故はかなり減ったものの、それでも年間10件程度の発生は免れていないのが現状である。
【特許文献1】特開平7−83044号公報
【特許文献2】特開平6−185351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するもので、スートファイア事故に至る前のすす燃焼開始段階(スートバーニング)を予測検知し、対処することを可能とする排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知方法及び同システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明に係る排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知方法は、高温の排気ガス通路に設けられ前記排気ガスから排熱回収を行う伝熱管を有した排ガスエコノマイザにおいて、前記伝熱管に流体搬送手段を介して送られ前記排熱回収した熱を搬送する熱交換用流体にかかる物理量の排熱回収時における変化に基づいて前記伝熱管に付着したすすの燃焼を予測及び/もしくは検知することを具備して構成される。
【0012】
ここで、排ガスエコノマイザとは、一種の蒸気発生装置であり、その内部には多数の伝熱管が配設されると共に、これら配管群の周りに主ディーゼルエンジン即ち主機関からの排ガスが流通され、伝熱管内に流通される温水或いは蒸気が高温(280
〜350 ℃)の排ガスにより加熱されることにより、飽和蒸気或いは過熱蒸気となって船内設備、発電等に利用されるものである。
【0013】
また、伝熱管とは、たとえばKSTB35鋼管が一般的で、溶融温度は約1400℃であり、すすの附着をできる限り抑えるため、曲がりを少なくする構造にすることが好ましい。また、鋼材の表面が腐食されると強度が不足するばかりでなく、鋼表面の肌荒れの結果、すすが付着し易くなり、排ガスの流れが円滑でなくなるため、強度上のみならず硫酸腐食に強い材質のものを選ぶのがより好ましい。
【0014】
また、流体搬送手段とは、例えば、循環水に係る循環ポンプや給水ポンプを含む装置・器具によって実現されるものであって、一般的に流体を動力を用いて搬送する機能を備えるものであればよい。
【0015】
ここでの熱交換用流体にかかる物理量としては、例えば、循環水における伝熱管上流部、下流部のヘッダ(管寄せ)等の圧力、各伝熱管内の流量、伝熱管内の温度、伝熱管表面温度及び各伝熱管の電気抵抗等を含む。
【0016】
上記のように構成されることで、排ガスエコノマイザ内の伝熱管において、該伝熱管の構成及び材質等に十分配慮したとしても、なんらかの原因によって該伝熱管外層に付着及び/もしくは堆積したすすが発火、燃焼して伝熱管が溶損(スートファイア)する原因となりうる蒸発伝熱管内の流動状態の変化、例えば、伝熱管内の液膜喪失(ドライアウト)を、熱交換用流体にかかる物理量、例えば、循環水における伝熱管上流部、下流部のヘッダ(管寄せ)等の圧力、各伝熱管内の流量、伝熱管内の温度、伝熱管表面温度及び各伝熱管の電気抵抗の排熱回収時における変化等に基づいて該伝熱管が損傷及び/または溶損に至らない段階(スートバーニング)で、すすの燃焼を確実に予測及び検知することができる。したがって、すすの燃焼を事前に検知した後にすぐに対処することで、メルトダウンを防げるだけでなく、伝熱管の損傷をも免れることが可能となる。
【0017】
また、本発明に係るすす燃焼予測検知システムは、高温の排気ガスの通路に並列に設けられた複数の伝熱管と、この複数の伝熱管の上流側に接続された上流側ヘッダと、下流側に接続された下流側ヘッダと、前記上流側ヘッダに熱交換水を供給する循環ポンプと、前記上流側ヘッダ、前記下流側ヘッダ、前記複数の伝熱管のいずれか一つもしくは複数に設けられ、前記熱交換水にかかる物理量を検出する物理量検出器と、排熱回収時に前記物理量検出器で検出される検出値の変化に基づいて前記伝熱管に付着したすすの燃焼を予測及び/もしくは検知することを可能とするすす燃焼予測検知部とを具備することを特徴とする。
【0018】
ここで、上流側ヘッダとは、伝熱管の上流側に接続し、複数の伝熱管に該熱交換水(循環水)を分散させるものである。
【0019】
また、下流側ヘッダとは、上流側ヘッダから分岐した、複数の伝熱管の下流側に接続し、該循環水を収束させるものである。
【0020】
また、循環ポンプとは、該伝熱管に対して上流側ヘッダを経て循環水(熱交換水)を循環させて供給するものである。
【0021】
また、物理量検出器には、循環水の所定の情報を検出するための該上流側ヘッダ近傍に付設された上流側圧力検出器、該下流側ヘッダ近傍に付設された下流側圧力検出器、伝熱管に設けた流量検出器、伝熱管内の温度あるいは伝熱管表面温度を検出する温度検出器、循環水温度によって変わる伝熱管の電気抵抗を検出する電気抵抗検出器等が含まれる。
【0022】
上記のように構成されることで、各物理量検出器にて該伝熱管にかかる所定の物理量を測定し、例えば、すすの燃焼を予測検知後、該物理量の数値変化に応じて対策処置を行い該伝熱管の損傷及び/または溶損をスートバーニングの段階で回避することができる。
【0023】
また、上記の構成においては、本発明に係る物理量検出器は、前記上流側ヘッダ近傍の圧力及び/もしくは前記下流側ヘッダ近傍の圧力を検出する圧力検出器とするように構成しても良い。
【0024】
このように構成されることで、該圧力検出器にかかる該上流側圧力検出器により検出された循環水の伝熱管流入時の圧力及び/または該下流側圧力検出器により検出された該循環水の該伝熱管流出時の圧力の変化量の測定や、該流入時の圧力と該流出時の圧力との差圧を算出することにより、すすの燃焼を検知し、所定の手段により対策処置を行い、該伝熱管の損傷及び/または溶損をスートバーニングの段階で回避することができる。特に、圧力の変化量や差圧の変化量を検出することによって、スートバーニングの初期段階で回避することができる。
【0025】
さらにまた、上記の構成においては、本発明に係る物理量検出器は、複数の伝熱管のそれぞれに設けた流量検出器とするように構成しても良い。
【0026】
ここで、流量検出器には、上流側ヘッダ近傍に付設された流量検出器が含まれる。
【0027】
このように構成されることで、該流量検出器により検出された循環水の所定の流量の変化量を測定することにより、すすの燃焼を検知できるので、所定の手段により対策処置を行い、該伝熱管の損傷及び/または溶損をスートバーニングの段階で回避することができる。
【0028】
また、上記の構成においては、本発明に係る物理量検出器は、伝熱管の表面温度を検出する温度検出器とするように構成しても良い。
【0029】
このように構成されることで、該温度検出器により検出された所定の該伝熱管の表面温度の変化量や各伝熱管ごとの温度差の違いを測定することにより、すすの燃焼を検知し、所定の手段により対策処置を行い、該伝熱管の損傷及び/または溶損をスートバーニングの初期段階で回避することができる。
【0030】
特に、温度の変化量や温度差の変化量を検出することによって、スートバーニングの初期段階で対策処置することができる。特に伝熱管の内部でドライアウトが発生した場合は、温度変化が顕著でありさらに緊急に対策処置をすることができる。
【0031】
また、上記の構成においては、本発明に係る物理量検出器は、複数の伝熱管の各々の電気抵抗を検出する電気抵抗検出器とするように構成しても良い。
【0032】
このように構成されることで、電気抵抗検出器により検出された所定の伝熱管の電気抵抗の変化量の違いを測定することにより、すすの燃焼を検知し、所定の手段により対策処置を行い、伝熱管の損傷及び/または溶損をスートバーニングの初期段階で回避することができる。
【0033】
さらにまた、上記の構成において、本発明に係るすす燃焼予測検知部がすす燃焼を予測及び/もしくは検知した場合、前記循環ポンプからの給水量を増すように動作するように構成することもできる。
【0034】
このように構成されることで、すす燃焼予測検知部が各物理量検出器より検出した所定の物理量の変化量からすす燃焼を予測あるいは検知した場合、該循環ポンプから給水量を増してスートバーニングの初期の段階で対策処置することやドライアウトを沈静化することで、該伝熱管の損傷及び/または溶損をスートバーニングの初期段階で回避することができる。
【0035】
また、上記の構成において、排気ガスの供給を制御する排ガス供給制御手段を更に備え、前記すす燃焼予測検知部がすす燃焼を予測及び/もしくは検知した場合、該排ガス供給制御手段は排気ガスの供給を制限するように構成することもできる。
【0036】
ここで、排ガス供給制御手段には、所定のバイパス弁を介して排気ガスを排ガスエコノマイザ内に供給する供給源とこれに対して制御を加える制御装置が含まれる。
【0037】
このように構成されることで、すす燃焼予測検知部が各物理量検出器より検出した所定の物理量の変化量からすす燃焼を予測あるいは検知すると、これに連動させて該排ガス供給制御手段からの排ガスの供給を制限することで、伝熱管の損傷及び/または溶損をスートバーニングの初期段階で回避することができ、被害を最小限に抑えることができる。
【0038】
伝熱管に堆積したすすが燃焼を始めると、排気ガスの熱に加えすす燃焼による熱がさらに加わり、すす燃焼伝熱管内の蒸発量の増大に伴い当該伝熱管の圧力損失が増大する。
【0039】
その結果として、すす燃焼管内の流量が減少し、この減少が大きい場合に状況によってはドライアウト、あるいはバーンアウトが発生して伝熱管の温度は急上昇し、スートファイアに至る。また、すす燃焼管内の流量が減少することは、上流側の圧力や上下流間の圧力差に変化を来すことでもある。
【0040】
本願に係る排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知方法及び同システムでは、伝熱管上流側、下流側のヘッダ圧力、各伝熱管内の流量、あるいは伝熱管表面温度を監視することによりすすの燃焼を着火段階やスートバーニングの初期段階で検知し、伝熱管が溶損に至らないような処置を講ずることを可能とするものである。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、伝熱管に付着したすすが燃焼を開始する前に、熱交換用流体にかかる物理量が変化する現象に着目してすすの燃焼開始を予測、検知することから、排ガスエコノマイザのスートファイアを初期段階で的確に予測・検知できる。
【0042】
また、本発明によれば、上流側ヘッダ、下流側ヘッダ、複数の伝熱管のいずれか一つあるいは複数箇所に物理量検出器が設けられ、すすの燃焼を予測、検知するための熱交換用流体の物理量を常時検出しているため、検出値を排ガスエコノマイザの運転管理用としても共用できる。
【0043】
さらに、本発明では、物理量検出手段を上流側ヘッダ近傍の圧力と下流側ヘッダ近傍の圧力を検出する圧力検出器とすることにより、複数の伝熱管のすす燃焼に伴う管内流動の状態変化を一括して圧力変動として検出できる上、他の故障時などの異常な圧力変動を検知することにより、危険防止を行うことができる。
【0044】
また、本発明では、物理量検出手段を複数の伝熱管のそれぞれに設けた流量検出器とすることにより、どの伝熱管に付着したすすが燃焼状態になっているかを的確に検出できるようにするとともに、スケールや異物等による伝熱管の詰まりを検出できる。
【0045】
さらに、本発明では、物理量検出手段を伝熱管外壁に設けた管表面温度検出器とすることにより、スートファイアの予測のみならず、伝熱が多くなったときに生ずる伝熱管内の液膜の蒸発(ドライアウト)を検出することができる。
【0046】
また、本発明では、すす燃焼予測検知部がすす燃焼を予測あるいは検知した場合、循環ポンプからの給水量を増すことにより、ドライアウト、バーンアウトを防ぎ、伝熱管の損傷・溶損を防止することが、特別な装置を設けることなく循環ポンプの制御のみで可能となる
【0047】
さらに、本発明では、すす燃焼予測検知部がすす燃焼を予測あるいは検知した場合に、排気ガス供給制御手段により排気ガスの供給を制限することにより、すすの発火を防止できるとともに、排ガスエコマイザの点検等が容易に可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、以下では、本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0049】
図1は、本発明の一実施形態に係る強制循環水管式排ガスエコノマイザ・システム1の概略系統図である。
【0050】
同図に示すように、本発明の一実施形態にかかる強制循環水管式排ガスエコノマイザ・システム1は、排ガスエコノマイザ10、主機関20(予測検知部を内包する。以下同じ)、バイパス弁30、タービン発電機40、復水器50、給水ポンプ60、高圧気水圧分離器70a、低圧気水圧分離器70b、高圧用循環ポンプ80a、低圧用循環ポンプ80b、過熱部伝熱管90a、過熱部伝熱管上流側ヘッダ90a−1、過熱部伝熱管下流側ヘッダ90a−2、高圧蒸発部伝熱管90b、高圧蒸発部伝熱管上流側ヘッダ90b−1、高圧蒸発部伝熱管下流側ヘッダ90b−2、低圧蒸発部伝熱管90c、低圧蒸発部伝熱管上流側ヘッダ90c−1、低圧蒸発部伝熱管下流側ヘッダ90c−2を備えて構成される。
【0051】
ここで、排ガスエコノマイザ10は、主機関20からの排気ガスを受け入れる所定の容積を有すると共に、複数の過熱部伝熱管90a、高圧蒸発部伝熱管90b及び低圧蒸発部伝熱管90cを内蔵している構成となっている。なお、該排気ガスについては該排ガスエコノマイザ10の上部より大気に開放させ、充満しない構成が好ましい。
【0052】
主機関20は、船舶に搭載されており、例えば、ディーゼル機関等を含む。
【0053】
バイパス弁30は、主機関20からの排気ガスを排エコエコノマイザ10内に送り込むか、そのまま大気に開放するかの分岐の役割を担う。
【0054】
タービン発電機40は、この場合蒸気タービンが好ましく、過熱部伝熱管90aからの水蒸気により該タービン40を回し、所定のエネルギーに変換する機能を有するものである。
【0055】
復水器50は、タービン発電機40で所定のエネルギーを取り出した後の水蒸気を等圧冷却し凝縮させ、低圧の飽和液(この場合、水を示す。)に戻す装置を含むものである。
【0056】
給水ポンプ60は、復水器50から水を受け取り、高圧気水圧分離器70a、低圧気水圧分離器70bに該水を供給する機能を有するものである。
【0057】
高圧気水圧分離器70aは、給水ポンプ60から水を受け入れ、高圧蒸発部伝熱管90bより導かれる飽和蒸気の水分を分離する機能を有し、これにより、蒸気は再び過熱部伝熱管90aに供給され、水は高圧用循環ポンプ80aに供給される。
【0058】
低圧気水圧分離器70bは、給水ポンプ60から水を受け入れ、低圧蒸発部伝熱管90cより導かれる飽和蒸気の水分を分離する機能を有し、これにより、水は低圧用循環ポンプ80bに供給される。
【0059】
高圧用循環ポンプ80aは、高圧気水圧分離器70aから水を受け入れ、該水を高圧蒸発部伝熱管90bへ循環させる機能を有するものである。
【0060】
低圧用循環ポンプ80bは、低圧気水圧分離器70bから水を受け入れ、該水を低圧蒸発部伝熱管90cへ循環させる機能を有するものである。
【0061】
過熱部伝熱管上流側ヘッダ90a−1、高圧蒸発部伝熱管上流側ヘッダ90b−1及び低圧蒸発部伝熱管上流側ヘッダ90c−1は、それぞれ供給された循環水を各上流側ヘッダにて並列に分岐させる役割を果たす。
【0062】
過熱部伝熱管下流側ヘッダ90a−2、高圧蒸発部伝熱管下流側ヘッダ90b−2及び低圧蒸発部伝熱管下流側ヘッダ90c−2は、各伝熱管において排気ガスの熱負荷を受け飽和あるいは過熱した蒸気を合流させる役割を果たす。
【0063】
次に、本願に係る発明の要部の構成と動作について説明する。
【0064】
図2は、本発明の一実施形態に係る排ガスエコノマイザに係るすす燃焼予測、検知システムの要部平面図である。同図は図1記載の排ガスエコノマイザ10の点線部分10Aを示す図である。
【0065】
同図に示すように、本発明の一実施形態に係る強制循環水管式排ガスエコノマイザ・システム1について排ガスエコノマイザのすす燃焼予測、検知方法及び検知システムを適用させようとする場合、排ガスエコノマイザ主要部2、循環ポンプ80(図1記載の高圧用循環ポンプ80a及び低圧用循環ポンプ80bの上位概念をいう。)、上流側ヘッダ90−1(図1記載の過熱部伝熱管上流側ヘッダ90a−1、高圧蒸発部伝熱管上流側ヘッダ90b−1及び低圧蒸発部伝熱管上流側ヘッダ90c−1の上位概念をいう。)、下流側ヘッダ90−2(図1記載の過熱部伝熱管下流側ヘッダ90a−2、高圧蒸発部伝熱管下流側ヘッダ90b−2及び低圧蒸発部伝熱管下流側ヘッダ90c−2の上位概念をいう。)、該上流側ヘッダ90−1に流入する直前の循環水の温度を検出する上流側温度検出器100−1、該下流側ヘッダ90−2で合流する直前の循環水の温度を検出する下流側温度検出器100−2、該上流側ヘッダ90−1にかかる循環水の圧力を検出する上流側圧力検出器110−1、該下流側ヘッダ90−2にかかる循環水の圧力を検出する下流側圧力検出器110−2、該上流側ヘッダ90−1から伝熱管90(図1記載の過熱部伝熱管90A、高圧蒸発部伝熱管90B及び低圧蒸発部伝熱管90Cの上位概念をいう。)に分岐した時点の循環水の流量を検出する流量検出器120、該伝熱管90の複数個所の表面温度を検出する伝熱管表面温度検出器130、該伝熱管90の各々の電気抵抗を検出する伝熱管電気抵抗検出器140からなる機器構成が考えられる。なお、機器構成とは関係ないが、該伝熱管90に付着したすす150を図示する。
【0066】
ここで、上流側温度検出器100−1及び下流側温度検出器100−2は、循環水の温度を測定可能とする所定の温度計であることを含む。
【0067】
また、上流側圧力検出器110−1及び下流側圧力検出器110−2は、循環水の圧力を測定可能とする所定の圧力計であることを含む。
【0068】
また、流量検出器120は、循環水の流量を測定可能とする所定の流量計であることを含む。
【0069】
また、伝熱管表面温度検出器130は、伝熱管90の任意の位置の表面温度を測定可能とする所定の温度検出機器であることを含む。
【0070】
なお、図中、伝熱管90の所定の位置にすす150が付着した部分にてすすの燃焼が発生していることを模式的に示す。
【0071】
まず、循環ポンプ80から循環水が上流側ヘッダ90−1に流入されるが、上流側温度検出器100−1にて、該循環水の温度を検出する。そして上流側圧力検出器110−1にて、該上流側ヘッダ90−1流入時の循環水の圧力を検出する。その後、該上流側ヘッダ90−1から各伝熱管90に循環水が並列に分岐し、流量検出器120にて該分岐した循環水の流量をそれぞれ検出する。これらの物理量の検出により、該循環水の初期情報を入手できる。
【0072】
次に、伝熱管90に流入した循環水は、図1記載の主機関20からの排気ガスにより加熱される。それに伴い、該伝熱管90の外層には該排気ガスに係るすす150が付着し、発火及び燃焼のおそれがある。該すす150が発火及び燃焼することにより、該伝熱管90の表面温度が上昇し、内部の水分が蒸発し該循環水の流量が減少する場合もある。これらの現象を把握するため、伝熱管表面温度検出器130にて、該伝熱管90の表面温度を検出し、流量検出器120で流量を検出する。
【0073】
さらに、各伝熱管90の末端では下流側温度検出器100−2にて、該伝熱管90を通過し、排気ガスの熱を受け飽和した蒸気及び/または循環水の温度を検出する。その後、蒸気は下流側ヘッダ90−2にて合流するが、下流側圧力検出器110−2にて、該下流側ヘッダ90−2流入時の蒸気及び/または循環水の圧力を検出する。これらの物理量の検出により、加熱後の該循環水情報を入手できる。
【0074】
こうして検出された各現況情報を基に、主機関20内の予測検知部(図示しない)が、すすの燃焼を予測あるいは検知する。この検知に基づき、上記循環ポンプから給水量を増してドライアウトを沈静化する。或いは予測検知部が循環ポンプをかかる動作をするように制御する。したがって、ドライアウトを沈静化し、該伝熱管の損傷及び/または溶損をスートバーニングの段階で回避することができる。或いは代替的に、所定のバイパス弁を介して排気ガスを排ガス供給制御部(図示しない)の指示で一部を大気に放出し、排ガスエコノマイザへの排ガス量を制限するように動作するようにすることもできる。
【0075】
次に、上記のように構成される本発明の実施形態に係る強制循環水管式排ガスエコノマイザ・システム1を用いて、すすの燃焼を検知した後、循環水量を増やすことによって発生したドライアウトを沈静化し、伝熱管の溶損を回避した例を説明する。
【0076】
図3は、本発明の一実施形態に係る排ガスエコノマイザのすす燃焼予測、検知システムの物理量変化と時間との関係を示す模擬実験データ図である。
【0077】
同図に示すように、横軸は時間を、縦軸には上流側ヘッダ圧力、各伝熱管の流量、各伝熱管の出口蒸気温度、並びにすす燃焼伝熱管の燃焼部及び出口付近の表面温度の過渡変化を表す。
【0078】
同図に示されるように、0秒から90秒あたりまでのデータは、各伝熱管内の流量が約0.017kg/sで入口温度80℃の循環水が排気ガスのみの熱負荷により飽和蒸気となって流出する状態のもので、すす燃焼が発生していない排ガスエコノマイザの通常運転状態に対応する。
【0079】
90秒あたりからすす燃焼の兆候が出はじめているが、この時点から発火、燃焼に至ると(1)すす燃焼管の流量は減少するのに対し、すす非燃焼管の流量は逆に増大し、(2)上流側ヘッダの圧力が増大し、(3)すす燃焼部の管表面温度が増大すること、がそれぞれ確認できる。
【0080】
さらに、すすが燃焼を開始している管の出口付近の表面温度の過渡変化に注目すると、190秒あたりまでは温度はわずかに上昇するのみであるが、それ以降は温度が急上昇を始めている。これは、190秒あたりまでは発火から燃焼に至り増大した熱を受けても管出口付近の管内流動様式は、環状流が保たれている証拠であり、管内壁面熱伝達率も液相の蒸発によって高く保たれていることを示している。190秒あたりからの管出口付近の表面温度の上昇は、明らかに管出口付近で液膜のドライアウトが生じたために管内壁面熱伝達率が急減したことを示している。
【0081】
本実施例では、ドライアウトを沈静化する1つの手段として、循環水流量を約0.033kg/sから約0.075kg/sへと増やすことによりドライアウト発生による伝熱管温度上昇を沈静化し、伝熱管が溶損に至らない操作を講じている。
【0082】
いずれにしても、すすが燃焼する兆候が出始めたならいち早くそれを検知し、伝熱管が溶損する前にすすの燃焼を防ぎ、発火した場合は消火しなければならない。そのための具体策として、図3に示した実施例の循環流量の増加処置は、すすが発火し燃焼し続けたとしても伝熱管を溶損にまで至らせないための手っ取り早い手段である。
【0083】
また、排ガスエコノマイザの上流側に設けたバイパス弁(既存機能)を制御し、排気ガスの供給を止めたり量を制限したりすることにより、すすの発火、燃焼を防止することができ、スートファイアによる伝熱管の溶損は防げることになる。
【0084】
図4は、本発明の一実施形態に係る排ガスエコノマイザのすす燃焼予測、検知システムの物理量変化と時間との関係を示す別の模擬実験であって、特に電気抵抗の検出に焦点を当てたものの実験データ図である。
【0085】
同図に示すように、横軸は時間を、縦軸にはすす燃焼伝熱管の電気抵抗値、並びにすす燃焼伝熱管の燃焼部及び出口付近の表面温度の過渡変化を表す。
【0086】
0秒から50秒あたりまでのデータは、各伝熱管内の流量が約0.017kg/sで入口温度80℃の循環水が排気ガスのみの熱により飽和蒸気となって流出する状態のもので、すす燃焼が発生していない排ガスエコノマイザの通常運転状態に対応する。
【0087】
同図に示されるように、50秒をすぎたあたりからすす燃焼の兆候が出はじめている。このすす燃焼開始(50秒近辺)までは、伝熱管の表面温度が略115℃程度であるが、その後一端急上昇した後に若干降下し略390℃程度に定着する。これに連動して、伝熱管の電気抵抗値は平均0.0506Ωから上昇し、伝熱管の表面温度の定着に対応して平均0.05236Ωに変化している。これにより、伝熱管の電気抵抗を計測することで、すす燃焼の兆候を検出することが可能であることが確かめられた。また、管出口付近の表面温度の上昇は、明らかに管出口付近で液膜のドライアウトが生じたために管内壁面熱伝達率が急減したことを示している。
【0088】
以上、詳細に説明したように、本発明に係る排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知方法及び同システムによれば、検出した各物理量の変化量によって排ガスエコノマイザの伝熱管に付着したすすの燃焼兆候及び/あるいはすすの燃焼状況、ドライアウトを的確に予測・検知することが可能となる。
【0089】
また、各物理量の変化量に所定の閾値を設定することにより、自動的にドライアウト等の現象に対して所定の措置を講ずることが可能となる。
【0090】
さらに、所定の措置を講ずることにより、伝熱管の溶損を防ぎ、たとえすす燃焼が発生したとしても最小限の範囲で被害を抑止することが可能となる。
【0091】
またさらに、各物理量の変化量の測定により排ガスエコノマイザ及びその他付設機器の稼働状況を把握することができるため、排ガスエコノマイザの運転管理、メンテナンス等を必要に応じて行うことが可能となる。
【0092】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【0093】
たとえば、上記の説明では、予測検知部が主機関20に内包される場合を実施形態の一つとして説明したが、予測検知部が主機関20と別個に配置・存在するような構成をとっても本願発明に係る技術思想は実施可能である。
【0094】
また、上述したものは本発明に係る技術思想を具現化するための実施形態の一例を示したにすぎないものであり、他の実施形態でも本発明に係る技術思想を適用することが可能である。
【0095】
さらにまた、本発明を用いて生産される装置、方法、システムが、その2次的生産品に登載されて商品化された場合であっても、本発明の価値は何ら減ずるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係る排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知方法及び同システムを実現することで、伝熱管に付着したすすが燃焼を開始する前に、検出した各物理量の変化量によって排ガスエコノマイザの伝熱管に付着したすすの燃焼兆候及び/あるいはすすの燃焼状況、スートファイアやドライアウトを的確に予測することが可能となる。これにより、排ガスエコノマイザ内の伝熱管に堆積したすすが自然発火したとしても、上流からの火の粉が飛び散りすすの燃焼が拡大することを防ぐことが期待される。この効果は、排ガスエコノマイザ搭載船舶への貢献に加え、環境問題のニーズから排熱回収をする一般の省エネルギー化システムに対する被害減少のテーマ等についても解決する糸口となりうる点で、広く社会全般、各種産業全般に対して大きな有益性をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施形態に係る強制循環水管式排ガスエコノマイザ・システム1の概略系統図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システムの要部平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システムの物理量変化と時間の関係を示す模擬実験データ図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システムの物理量変化と時間の関係を示す模擬実験データ図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る排ガスエコノマイザの従来図である。
【符号の説明】
【0098】
1 排ガスエコノマイザ・システム、2 排ガスエコノマイザ主要部、10 排ガスエコノマイザ、80 循環ポンプ、90 伝熱管、90−1 上流側ヘッダ、90−2 下流側ヘッダ、100−1 上流側温度検出器、100−2 下流側温度検出器、110−1 上流側圧力検出器、110−2 下流側圧力検出器、120 流量検出器、130 伝熱管表面温度検出器、140 電気抵抗検出器、150 すす

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温の排気ガス通路に設けられ前記排気ガスから排熱回収を行う伝熱管を有した排ガスエコノマイザにおいて、
前記伝熱管に流体搬送手段を介して送られ前記排熱回収した熱を搬送する熱交換用流体にかかる物理量の排熱回収時における変化に基づいて前記伝熱管に付着したすすの燃焼を予測及び/もしくは検知する排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知方法。
【請求項2】
高温の排気ガスの通路に並列に設けられた複数の伝熱管と、
この複数の伝熱管の上流側に接続された上流側ヘッダと、
下流側に接続された下流側ヘッダと、
前記上流側ヘッダに熱交換水を供給する循環ポンプと、
前記上流側ヘッダ、前記下流側ヘッダ、前記複数の伝熱管のいずれか一つもしくは複数に設けられ、前記熱交換水にかかる物理量を検出する物理量検出器と、
排熱回収時に前記物理量検出器で検出される検出値の変化に基づいて前記伝熱管に付着したすすの燃焼を予測及び/もしくは検知することを可能とするすす燃焼予測検知部と
を具備することを特徴とする排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システム。
【請求項3】
前記物理量検出器は、前記上流側ヘッダ近傍の圧力及び/もしくは前記下流側ヘッダ近傍の圧力を検出する圧力検出器としたことを特徴とする請求項2記載の排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システム。
【請求項4】
前記物理量検出器は、前記複数の伝熱管のそれぞれに設けた流量検出器としたことを特徴とする請求項2記載の排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システム。
【請求項5】
前記物理量検出器は、前記伝熱管の表面温度を検出する温度検出器としたことを特徴とする請求項2記載の排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システム。
【請求項6】
前記物理量検出器は、前記複数の伝熱管の各々の電気抵抗を検出する電気抵抗検出器としたことを特徴とする請求項2記載の排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システム。
【請求項7】
前記すす燃焼予測検知部がすす燃焼を予測及び/もしくは検知した場合、前記循環ポンプからの給水量を増すように動作することを特徴とする請求項2記載の排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システム。
【請求項8】
排気ガスの供給を制御する排ガス供給制御手段を更に備え、前記すす燃焼予測検知部がすす燃焼を予測及び/もしくは検知した場合、該排ガス供給制御手段は排気ガスの供給を制限することを特徴とする請求項2記載の排ガスエコノマイザのすす燃焼予測検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−204245(P2009−204245A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48220(P2008−48220)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究/環境調和型高性能ハイブリッド熱交換器による高効率舶用排熱回収システムの研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)