説明

排ガスサンプリング装置

【課題】 測定者が煙道内の排ガス測定を行う場合に、排ガス中のばいじんなどの固体成分とSOx、NOxなどの気体成分を同時に採取することで、ばい煙濃度の測定時間を短縮できる排ガスサンプリング装置を提供する。
【解決手段】 気体成分測定用サンプリングプローブと、ばいじん測定用サンプリングプローブとが、これらを挿通可能な開口を有する栓体によって互いに近接して並列されてなることを特徴とする排ガスサンプリング装置。サンプリングプローブの少なくとも一方は、煙道内への挿入長さを調整可能である。気体成分測定用サンプリングプローブにはろ過器を、またばいじん測定用サンプリングプローブにはダスト捕集器を内蔵させ、または連結できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばい煙発生施設における煙道ガス中に含有されているばいじん、硫黄酸化物および窒素酸化物などのばい煙濃度を測定するに当たり、排ガスを採取するための排ガスサンプリング装置、特に携帯用排ガスサンプリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染防止法上、ボイラーなどのばい煙発生施設を設置するばい煙などの排出者は、所定の測定周期で排ガス中の硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)およびばいじんなどのばい煙濃度の測定を行う必要がある。そのため、排出ガス量などが所定の基準以上のボイラーなどの大規模なばい煙発生施設を設置する火力発電プラントや各種化学プラントなどでは、煙道ガスの連続監視装置を設置し、常時煙道ガスのばい煙濃度を監視している。ところが、このようなプラントにおいても上記所定の基準に満たないボイラーなどの小規模のばい煙発生施設が所内の暖房用などの熱源として設置されている場合、当該施設にはばい煙濃度の連続監視装置が設置されている例はまだ少ない。
【0003】
このようにばい煙濃度の連続監視装置が設置されていない場合、煙道ガス中のばい煙濃度の測定は、当該施設内の煙道の所定の位置に設けた採取口に測定者が携帯用排ガスサンプリングプローブを挿入し、排ガスを採取してこれを別途用意した排ガス測定装置に導いて行うことになる。しかし、採取口から排ガス測定装置までの測定経路で試料ガス温度が酸露点以下に低下した場合、ばい煙中のSOx、NOxなどの気体成分は凝縮し、測定結果に誤差が生じることになる。これを防止するため、測定中はリボンヒーターなどを用いて測定経路を酸露点以上に加熱する必要がある。一方、ばいじん測定では、ばいじんを捕集する路ろ紙の材質やこれを通過する試料ガスの流速が特に重要であり、測定経路自体を加熱する必要がない。
【0004】
このような事情から、従来より排ガス中の水分、SOx、NOxなどの気体成分とばいじんとについて別々のサンプリングプローブで順次試料ガスを採取するか、またはこれらの各ガス成分専用のサンプリングプローブを用い、各成分の測定ごとに排ガスを採取していた。その結果、排ガス測定においては、異なった試料ガスを同時に採取することができず、ばい煙濃度の測定に長時間を要するという問題があった。測定時間が長くなれば、測定孔からの外気の流入により、ファンなどの補機の動力増加や熱効率低下による燃料費が増大するという問題もあった。
【0005】
測定者による排ガス測定に使用可能なサンプリングプローブとして、例えば、特開平8−313414号公報に記載の提案がなされている。しかし、このサンプリングプローブは、同時に煙道内の複数のサンプリング位置から試料ガスを採取可能な点では優れているが、採取した試料ガスから予めばいじんなどのダストを除去した上でSOx、NOxなどの気体成分の分析を行うものであり、ばいじんを同時に測定することを意図したものではない。従って、このサンプリングプローブを用いた場合でも、気体成分などとばいじんとを別々に採取し測定する必要があり、この点では、従来のサンプリング方法と変わるところはない。
【0006】
また、上記の小規模ばい煙発生施設では、種々の燃料や被燃焼物を燃焼させている場合がある。この場合、安定した燃焼管理を維持することが困難であるため、測定結果のばらつきが大きい、ばい煙に異常が生じた場合に事後的にその原因究明や解析を行うことができないといった問題がある。従って、少なくとも同時に排ガスを採取して各成分のばい煙濃度を測定できることが好ましい。
【0007】
【特許文献1】特開平8−313414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情にかんがみ、測定者が煙道内の排ガス測定を行う場合に、排ガス中のばいじんなどの固体成分とSOx、NOxなどの気体成分を実質的に同時に採取することで、ばい煙濃度の測定時間を短縮できる排ガスサンプリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、本発明によれば、ばいじん測定用サンプリングプローブと、可溶性成分測定用サンプリングプローブとが、これらを挿通可能な開口を有する栓体によって互いに近接して並列されてなることを特徴とする排ガスサンプリング装置によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の排ガス測定用サンプリング装置により、煙道内において、同時に上記各ばい煙濃度測定用の試料ガスを採取することが可能となり、これによりばい煙濃度測定に要する時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の排ガスサンプリング装置についてより詳細に説明するが、本発明は図示された実施態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の排ガスサンプリング装置の一実施態様を示す図である。図示のように、本発明の排ガスサンプリング装置1は、気体成分測定用サンプリングプローブ2と、ばいじん測定用サンプリングプローブ3とが、栓体4によって互いに近接した状態で並列されてなる。この気体成分測定用サンプリングプローブ2と、ばいじん測定用サンプリングプローブ3とは、従来公知のものを好適に使用できる。
【0013】
図1に示す気体成分測定用サンプリングプローブ2は、中空円筒形の直管部23を有し、その煙道内に挿入される側の端部が煙道内の排ガス流に対して平行な方向に向くように直角に折れ曲げられ、吸引ノズル21が形成されている。この吸引ノズル21の先端には、排ガスの吸引口22が設けられている。直管部23は、栓体4内を貫通しており、吸引口22から吸引された煙道ガスは吸引ノズル21および直管部23を経て導出端24から煙道外へ導出されるようになっている。導出端24には、排ガス分析計に通じる導管が接続される。このサンプリングプローブ2は、例えば硬質ガラス、石英、ステンレス鋼などの耐食性、耐熱性に優れた材料で作製される。
【0014】
上記直管部23には、必要に応じてろ過器(不図示)を備えることができる。また、直管部23の排ガス導出端と導管との間にろ過器を連結してもよい。このろ過器は、その内部にろ過材が充填される。ろ過材には、例えば無アルカリグラスウール、シリカウール、シンタードグラス、カーボランダムなどが好適に使用できる。
【0015】
また、図1に示すばいじん測定用サンプリングプローブ3は、中空円筒状の直管部33を有し、その煙道内に挿入される側の端部に該直管部33と直角で、かつ煙道内のガス流に平行な方向に向くようにダスト捕集器31が設けられ、その先端には排ガスの吸引口32が設けられている。吸引口32から吸引された排ガスは、ダスト捕集器31および直管部33を経て導出端34から煙道外に導出されるようになっている。導出端34には、導管41が接続される。
【0016】
ダスト捕集器31は、その内部に煙道内のガス流に対して直角な方向に円形または円筒形のろ紙またはダストチューブが内蔵されており、ばいじんは上記ろ紙などによって捕集される。このダスト捕集器31は、直管部33の途中に設けてもよく、プローブ3の導出端に連結されるようにしてもよい。導出端に連結される場合、測定中サンプリングプローブ3を煙道内に挿入した状態で円筒ろ紙などの交換が可能となる利点がある。
【0017】
ダスト捕集に用いられる円形または円筒形のろ紙としては、通常のセルロース繊維製のほか、シリカ繊維製、フッ素樹脂製、メンブレン製などが使用できる。これらのうち、耐熱性の観点からはフッ素樹脂製のろ紙を使用するのが好ましい。また、ダストチューブを用いる場合、内部にガラス繊維やシリカ繊維を充填してあるものなどが好適に使用できる。
【0018】
栓体4は、排ガス測定の際に煙道に設けた測定孔から上記2本のサンプリングプローブ2、3を煙道内に挿入した状態で、上記測定孔を塞ぐ役割を果たすものである(図2参照)。図1では、栓体4として円盤状の板体を開示するが、このような板体に限定されず、円錐台形などの形状を呈するものも使用できる。その材質は、鋼、アルミなどの他、例えばシリコン樹脂などの耐熱性樹脂であってもよい。
【0019】
この栓体4には、上記2本のサンプリングプローブ2,3を挿通させるための貫通口が設けられる。この貫通口は、それぞれのサンプリングプローブについて各1個設けられていてもよく、2本のサンプリングプローブを一緒に挿通させるよう1個であってもよい。後者の場合、2本のサンプリングプローブを挿通させた後にできる間隙には、適当な方法により充填を施しておくのがよい。この貫通口において、2本のサンプリングプローブの間隔は、適宜設定できるが、好ましくは極力小さくするのがよい。
【0020】
上記各サンプリングプローブは、それぞれ栓体4の貫通口内でこれを滑動させることにより、栓体4の煙道側の面から吸引ノズルまたはダスト捕集器の中心軸までの長さ(以下、挿入長さという。)を調整できる。好ましくは、この煙道内での挿入長さは、各サンプリングプローブについて実質的に同等とするのがよい。本明細書では、上記「実質的に同等」の用語を、2本のサンプリングプローブ直管部の端部に形成された吸引ノズルまたはダスト捕集器の外周面が互いに接触した状態とされる場合に限られず、常識的な範囲でこれらを離して配置される場合も含む意味で用いている。これにより、ばいじんおよび気体成分の煙道内におけるサンプリング位置を略一致させることができる。
【0021】
上記各サンプリングプローブには、その直管部の外面に目盛を刻設しておくことができる。この目盛は、吸引ノズルまたはダスト捕集器から導出端まで所定の間隔で刻設されているのが好ましい。この目盛により、煙道の外側から各プローブの挿入長さを知ることができるとともに、各サンプリングプローブを予め求めておいた別々のサンプリング位置に配置することも可能となる。
【0022】
図2は、本発明の排ガスサンプリング装置を用いた排ガス測定の概略フロー図である。測定に当たっては、上記煙道において代表的な測定位置や煙道内の排ガス温度および流速などを予め求めておくことは従来の測定方法と変わるところはない。この図において、排ガスサンプリング装置1は、煙道100の予め求めたサンプリング位置に吸引ノズルおよびダスト捕集器が配置されるように所定の測定孔101に取り付けられる。この測定孔101には、フランジ102が設けられている。
【0023】
ばいじんの測定経路40では、ばいじん測定用ガスサンプリングプローブ3の導出端に導管41の一端が接続され、この導管41の他端は吸引ポンプ42に接続されている。この吸引ポンプ42の出口側は、導管43を介して流量計44に接続され、その出口側には導管45が接続されている。
【0024】
吸引ポンプ42を運転することにより、ばいじん測定用サンプリングプローブ3のダスト捕集器31に所定の流量の排ガスが吸引され、試料ガスとされる。通常、試料ガスの流量は、煙道内の排ガス流量と等速になるように、吸引ポンプ42の流量調整機能またはこの測定経路途中に接続された不図示の流量調整弁によって調整される。この試料ガスは、ダスト捕集器31内のろ紙またはダストチューブを通され、そこでばいじんが捕集された後、残りが導管41、43を経て流量計44に送られる。
【0025】
一方、気体成分測定経路50では、気体成分測定用サンプリングプローブ2の導出端には、リボンヒーター511が巻装された導管51の一端が接続される。このプローブ2の吸引ノズル21は、上記ばいじん測定用サンプリングプローブ3のダスト捕集器31と実質的に同位置となるように配置されたものである。導管51の他端は、吸引ポンプ52に接続される。リボンヒーター531が巻装された導管53が、その出口側に接続され、この導管53の途中で導管54および導管55に分岐されている。この導管54、55は、それぞれ流量計56、57に接続されている。これらの流量計の出口側には、それぞれSOx分析装置58およびNOx分析装置59が接続されており、これらの装置の出口側に、導管60および61がそれぞれ接続されている。
【0026】
リボンヒーター511および531の電源が投入された後、吸引ポンプ52が運転されることにより、気体成分測定用サンプリングプローブ2の吸引口から排ガスが吸引され、試料ガスとされる。この試料ガス流量もまた、上記ばいじんの場合と同様に、吸引ポンプ52の流量調整機能または不図示の流量調整弁によって調整される。この試料ガスは、直管部を経て導出端より導管50内を流れる。その際、試料ガスは、リボンヒーター51および53によって酸露点以上となるように順次加熱されながら、途中導管54,55によって分割され、SOx分析装置57およびNOx分析装置58に送られる。上記SOx分析装置57およびNOx分析装置58におけるこれらの成分の測定方式には、従来公知のものが採用可能である。これらの分析装置における測定後の試料ガスは、それぞれ外気中に放出される。
【0027】
以上説明したように、本発明の排ガスサンプリング装置は、ばいじんと各種気体成分とを同時に採取できるので、ばい煙濃度の測定時間を短時間に抑えることができる。その結果、ばい煙発生施設の熱効率の低下を抑えることができ、動力および燃料費の低減も図られる。
【0028】
本発明の排ガスサンプリング装置は、大型のばい煙発生施設などのばい煙濃度の常時監視が必要な場合のみならず、小型のばい煙発生施設などで操作者により定期的な排ガス測定が行われる場合にも用いることができる。特に、本発明の排ガスサンプリング装置は、連続監視装置を有しない小型のばい煙発生施設における排ガス測定に好適に使用される。
【0029】
また、本発明の排ガスサンプリング装置は、煙道の測定孔に据え付けても、測定時に携帯する携帯用としてもよいが、ばいじんなどによる内部の詰まりなどを考慮した場合、携帯用として使用されるのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の排ガスサンプリング装置は、各種ばい煙発生施設、特にばい煙濃度の連続監視装置を備えていない小型のばい煙発生施設内の煙道ガス中のばい煙濃度を測定するに当たり、短い測定時間で煙道内から排ガスを採取するのに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の排ガスサンプリング装置の一例を示す図である。
【図2】本発明の排ガスサンプリング装置を用いた排ガス測定の概略フロー図である。
【符号の説明】
【0032】
1 排ガスサンプリング装置
2 気体成分測定用サンプリングプローブ
21 吸引ノズル
23 直管部
24 導出端
3 ばいじん測定用サンプリングプローブ
31 ダスト捕集器
33 直管部
34 導出端
4 栓体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体成分測定用サンプリングプローブと、ばいじん測定用サンプリングプローブとが、これらを挿通可能な開口を有する栓体によって互いに近接して並列されてなることを特徴とする排ガスサンプリング装置。
【請求項2】
前記の気体成分測定用サンプリングプローブおよびばいじん測定用サンプリングプローブの少なくとも一方の煙道内への挿入長さは調整可能とされた請求項1に記載の排ガスサンプリング装置。
【請求項3】
前記の気体成分測定用サンプリングプローブおよびばいじん測定用サンプリングプローブの煙道内への挿入長さは実質的に同等である請求項1または2に記載の排ガスサンプリング装置。
【請求項4】
気体成分測定用サンプリングプローブには、ろ過器が内蔵され、または連結されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の排ガスサンプリング装置。
【請求項5】
ばいじん測定用サンプリングプローブには、ダスト捕集器が内蔵され、または連結されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の排ガスサンプリング装置。
【請求項6】
携帯用である請求項1〜5のいずれか1項に記載の排ガスサンプリング装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−226866(P2006−226866A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41661(P2005−41661)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】