排ガス浄化用セラミックスフィルタ
【課題】ろ過面積の低下や圧損の増加を抑制し、栓部の気孔率を大きくすることなくフィルタ基材との焼成変化率の差を小さくし、熱容量が大きく耐熱衝撃性に優れた排ガス浄化用セラミックスフィルタを得る。
【解決手段】コージェライトを主成分とするフィルタ基材の両端部に栓部を有するセラミックスフィルタにおいて、栓部を構成する栓材を、コージェライトを主成分とするセラミックス材料とし、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、アルミナを用い、このうちSi源となるシリカの粒度を、粒度分布曲線における累積割合がX%となる粒子径をX%粒径(DX)とした時に、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲に調整する。
【解決手段】コージェライトを主成分とするフィルタ基材の両端部に栓部を有するセラミックスフィルタにおいて、栓部を構成する栓材を、コージェライトを主成分とするセラミックス材料とし、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、アルミナを用い、このうちSi源となるシリカの粒度を、粒度分布曲線における累積割合がX%となる粒子径をX%粒径(DX)とした時に、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲に調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガス浄化システムに適用され、排ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するためのフィルタ構造を有するセラミックスフィルタに関し、特に高熱容量で耐熱性が改善されたセラミックスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(粒子状物質)を、排気管途中に設置したセラミックスフィルタに捕集して排ガスの浄化を行う排ガス浄化システムが知られている。セラミックスフィルタは、一般に、多孔質の隔壁で囲まれる多数のセルを設けたセラミックスハニカム構造体を基材とし、その両端面において多数のセルを互い違いに目封じすることによりウオールフロー型のフィルタ構造としている。この時、各セルは、排気流れの上流側または下流側のいずれか一方の端部が栓詰めされ、下流側が閉塞するセル内に導入された排ガスは、多孔質の隔壁を介してセル間を流通し、上流側が閉塞するセルから外部へ放出される。基材には、通常、コージェライト等の耐熱性セラミックスが用いられる。
【0003】
排ガス浄化システムでは、通常、セラミックスフィルタに捕集されたパティキュレート量を監視し、所定量を超えると高温の排ガスを導入して、パティキュレートを燃焼除去する再生処理を行っている。再生処理を開始するパティキュレート量は、通常、セラミックスフィルタの耐熱性を考慮して、燃焼時の最高温度が過度に高くならないように設定されるが、セラミックスフィルタ内のパティキュレート堆積量に偏りがあると、局所的な過熱が生じることがある。また、セラミックスフィルタに触媒を担時して、未燃燃料の酸化反応熱を利用するシステムでは、触媒の劣化のおそれがある。
【0004】
このため、再生時の高温耐久性が課題となっており、栓詰め部を利用してセラミックスフィルタの熱容量を大きくして、耐熱性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1、2)。特許文献1は、フィルタ基材に充填される栓材を熱吸収部として利用したもので、図16(a)に示されるように、セラミックスフィルタ100の後端部における栓詰め部101の長さLを、通常よりも長くして、熱容量を確保している。特許文献2は、フィルタ基材の中央部分に追加目封じを行って、目封じの割合を周辺部分より多くするもので、高温になりやすい中央部分における熱発生率を少なくし、最高温度を抑制している。
【0005】
また、充填用材料の改良により、セラミックスフィルタの熱容量を大きくすることが提案されている(例えば、特許文献3、4)。特許文献3は、図16(b)に示されるように、セラミックスフィルタ102の周辺部を除く領域において、栓部103より上流に高熱容量粉体を充填した熱緩和セル104を配置している。高熱容量粉体は、フィルタ基材105とは異なる材料で、焼成によりフィルタ基材105と溶着される。特許文献4には、栓詰め用スラリーの骨材を、フィルタ基材と同材料で、所定の粒径範囲(6〜22μm)の原料粉体とし、骨材に分散剤と水を添加して、セル壁に付着した際の接触角が所定値(114°以下)となるようにした栓詰め用スラリーが開示されている。この栓詰め用スラリーは、焼結時に隙間が形成されにくく、フィルタ基材との熱膨張係数差が小さくなるようにしている。特許文献5には、耐熱衝撃性を向上させるために、目封止部とフィルタ基材の隔壁の構成材料が、互いに一体化する固体粒子を含むとともに、焼成工程におけるそれらの寸法変化率の差を7%以内に規定した目封止ハニカム構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4285096号明細書
【特許文献2】特表2005−014142号公報
【特許文献3】特開2009−101344号公報
【特許文献4】特開2008−56528号公報
【特許文献5】特開2004−85029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1、2は、栓詰め部の容積が増大することから、ろ過面積が減少して捕集可能なパティキュレート量が減少し、フィルタ機能の低下を引き起こす。また、目封じ部が多くなることで、フィルタ基材の圧損が増加する上、栓詰め部の材料コストが増加するといった不具合があった。特許文献3も、高熱容量粉体を充填した熱緩和セルが、フィルタ機能を有さず、このため、ろ過面積の低下、圧損の増加といった同様の課題がある。また、コージェライト質のフィルタ基材を用いた場合、これより高熱容量の材料としては、例えば、炭化珪素やチタン酸アルミニウム等が検討されるが、これら材料は高価であり、高熱容量粉体の使用量が増加することで、材料コストが増加する。
【0008】
特許文献1〜3に対し、特許文献4は、栓詰め部の容積を増加させないので、ろ過面積や圧損への影響は小さい。しかしながら、栓詰め部は、緻密化することが、熱容量を向上させる効果を高めるために好ましく、一方、フィルタ基材は、気孔率を大きくすることが、ろ過面積を大きくし圧損を低下させるために望ましい。このため、栓詰め部とフィルタ基材の原料配合を、それぞれ最適となるように調製すると、焼成前後の寸法変化率の差が大きくなってしまう。
【0009】
特許文献5は、焼成時の寸法変化率の差が小さくなるように、栓詰め部とフィルタ基材となるコージェライト原料を、同一材料(カオリン、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナ、溶融シリカ等)とし、その粒度分布を概ね同一として、寸法変化率が同等となるようにしている。ところが、フィルタ基材は、気孔率を高くするために水酸化アルミニウムを多く配合しており、栓詰め部を同一材料として寸法変化率を近づけると、栓詰め部の気孔率が大きくなる。この手法は、栓詰め部とフィルタ基材を一体化させて、境界部の強度を高めることにより、耐熱衝撃性を確保しようとするもので、熱容量を増加させる効果は小さい。
【0010】
このように、従来は、フィルタ機能と高熱容量化を両立させることが難しかった。特に、ろ過面積を増大しても、熱容量が十分大きくないと、再生時に過昇温となりやすく、過昇温による触媒劣化や基材破損を防止するには、再生開始の目安となるパティキュレート堆積量の許容限界量(SML:PM堆積量限界)を低く抑える必要があった。そこで、本発明は、栓詰め部の容積を増加させることがなく、ろ過面積の低下や圧損の増加を抑制できること、しかも栓詰め部とフィルタ基材の焼成変化率の差を小さくしながら、栓詰め部の気孔率を小さくすることで、栓詰め部の熱容量を大きくし、排ガス浄化用セラミックスフィルタの基材熱容量の増加によりSML(PM堆積量限界)を向上することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタは、
内燃機関の排気通路に設置されて、排ガス中のパティキュレートを捕集するセラミックスフィルタであって、構成元素としてAl、Si、MgおよびOを含むコージェライトを主成分とする多孔質セラミックスハニカム構造体をフィルタ基材とし、該フィルタ基材の両端部において、排ガス通路となる上記セラミックスハニカム構造体の多数のセルの上流端または下流端を栓詰めした栓部を有しており、
上記栓部を構成する栓材を、コージェライトを主成分とするセラミックス材料とし、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、アルミナを用いるとともに、このうちSi源となるシリカの粒度を、粒度分布曲線における累積割合がX%となる粒子径をX%粒径(DX)とした時に、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲に調整したことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、コージェライト原料のうちSi、Mg源となるタルクの粒度を、50%粒径(D50)が15μmより大きく30μm以下の範囲となるように調整したものである。
【0013】
請求項3に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、栓詰め後に焼成した時の寸法変化率が、フィルタ基材の寸法変化率+2.5%以内である。
【0014】
請求項4に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、コージェライト原料のうちAl源としてアルミナおよび水酸化アルミニウムを用いる。
【0015】
請求項5に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、アルミナおよび水酸化アルミニウムの総重量に対する水酸化アルミニウムの配合比率を80%以下としたものである。
【0016】
請求項6に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記フィルタ基材は、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、水酸化アルミニウムを用いる。
【0017】
請求項7に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、少なくともコージェライト原料と水分を含む栓材スラリーとして栓詰めされ、該栓材スラリー中の水分含有率を38重量%より低くなるように調製している。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタは、コージェライト原料であるシリカの粒度分布を制御することで、栓部を構成する栓材を、より緻密で、しかもフィルタ基材の寸法変化率との差が小さい材料とすることができる。これは、シリカの粒度分布が、平均粒径を中心にシャープなピークを有することで、シリカと、タルク、アルミナを含む栓材スラリーが焼成時に収縮しやすい材料となり、焼成工程における寸法変化率(以下、適宜、焼成変化率という)がフィルタ基材に近づくと推察される。その結果、焼成変化率の制御のために、フィルタ基材と同等の気孔率の大きいコージェライト材料を用い、熱容量を確保するために栓詰めを長くする必要がなくなる。
【0019】
また、フィルタ基材と同じコージェライトを主成分とするので、焼成により容易にフィルタ基材と一体化し、緻密で熱容量の大きい栓部を実現できる。よって、ろ過面積の低下や圧損の増加を抑制し、高価な熱容量材料を用いることなく、低コストにフィルタ機能の向上と熱容量増加によるSML(PM堆積量限界)の向上を両立させることができる。
【0020】
請求項2に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタは、さらにコージェライト原料であるタルクの平均粒子径を所定の範囲に制御することで、焼成時により収縮しやすい材料とすることができる。よって、フィルタ基材の焼成変化率により近づけることができ、上記効果をより高めることができる。
【0021】
請求項3に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタは、請求項1、2のようにシリカとタルクの粒度を制御したもので、栓部の焼成変化率がフィルタ基材を基準として+2.5%以内となる栓材を調製することができる。よって、所望の焼成変化率と気孔率を両立させ、焼成により栓部とフィルタ基材とを容易に一体化し、収縮率の違いによる応力の発生や隙間の形成を抑制して、高品質で耐熱性に優れたセラミックスフィルタを得ることができる。
【0022】
請求項4に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタのように、栓材となるコージェライト原料は、Al源としてアルミナと水酸化アルミニウムを用いると、その配合比率を調整することで、焼成変化率を容易に制御することができる。
【0023】
請求項5に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタのように、コージェライト原料にアルミナと水酸化アルミニウムを用いる場合は、水酸化アルミニウムの配合比率を80%以下の範囲で制御することで、所望の焼成変化率、緻密性と焼成変化率を両立させることができる。
【0024】
請求項6に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタのように、フィルタ基材用のコージェライト原料には、シリカ、タルク、水酸化アルミニウムが好適に用いられ、所望の気孔率のフィルタ基材とすることができる。
【0025】
請求項7に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタのように、栓材スラリー中の水分含有率を38重量%より低くすることで、スラリー粘度を増加させ、栓部をより緻密にできる。また、乾燥収縮に伴う欠陥の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示し、(a)は内燃機関の排ガス浄化用セラミックスフィルタの全体断面図、(b)はパティキュレートフィルタの全体斜視図である。
【図2】第1の実施の形態における栓詰め工程を説明するための概略図である。
【図3】実施例で使用した3種類のシリカの粒度分布曲線を示す図である。
【図4】実施例で使用した3種類のタルクの粒度分布曲線を示す図である。
【図5】実施例で使用した水酸化アルミニウムの粒度分布曲線を示す図である。
【図6】実施例で使用したアルミナの粒度分布曲線を示す図である。
【図7】シリカ種および水酸化アルミニウム重量比率と焼成変化率の関係を示す図である。
【図8】タルク種および水酸化アルミニウム重量比率と焼成変化率の関係を示す図である。
【図9】(a)はシリカ種による焼成率変化を比較して示す図、(b)はタルク種による焼成率変化を比較して示す図である。
【図10】(a)、(b)は、それぞれアルミナ:水酸化アルミニウム=100:0(重量%)、アルミナ:水酸化アルミニウム=0:100(重量%)とした栓材スラリーを用いた時の、焼成後のセラミックス組織を示す電子顕微鏡写真であり、(c)は水酸化アルミニウムの含有比率と粘度の関係を示す図である。
【図11】(a)は、栓材スラリーの水分含有率と粘度の関係を示す図、(b)は栓材スラリー中の水分含有率を変更した時の栓部強度を比較して示す図である。
【図12】(a)、(b)は、栓材スラリー中の水分含有率を31重量%、38重量%とした時の、本焼成後のセラミックス組織を示すX線CT装置による断面写真である。
【図13】(a)〜(c)は、栓材スラリー中の水分含有率をそれぞれ31重量%、34重量%、38重量%とした時の、本焼成後のセラミックス組織を示す電子顕微鏡写真である。
【図14】(a)〜(c)は、栓材スラリー中の水分含有率を31重量%、36重量%、38重量%とした時の、焼成後のセラミックス組織を示す電子顕微鏡写真である。
【図15】本発明のフィルタ基材と従来のフィルタ基材について、再生時の基材内最高温度と触媒劣化温度を比較して示す図である。
【図16】(a)、(b)は、従来のセラミックスフィルタの構造を示す全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための第1実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明を適用した排ガス浄化セラミックスフィルタFの構成を示すもので、図1(a)はセラミックスフィルタFの全体断面図、図1(b)はセラミックスフィルタFの全体斜視図である。本発明のセラミックスフィルタFは、公知の内燃機関、例えば、ディーゼルエンジンの排ガス浄化システムに適用することができ、図示しない排気通路の途中に設置されて、内部を流通する排ガス中のパティキュレート(以下、適宜PMと称する)を捕集する、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として用いられる。セラミックスフィルタFに捕集したPM量は、排ガス浄化装置の制御部において、セラミックスフィルタFの前後差圧や運転条件等に基づいて監視され、適時に再生処理を行って、捕集したPMを燃焼除去することにより、セラミックスフィルタFの連続使用を可能にしている。
【0028】
図1(a)、(b)において、セラミックスフィルタFは、円筒状のセラミックスハニカム構造体からなるフィルタ基材1を有している。フィルタ基材1は、外周筒状部内を多孔質のセル壁11により軸方向に区画して、排ガスGの流れに平行な多数のセル12を形成した構造となっている。フィルタ基材1の多数のセル12は、排ガスG流れ方向の上流側または下流側のいずれか一方の端部が、栓詰め用材料である栓材で目封じされており、これによりフィルタ基材1の両端面に栓部13が形成される。また、多数のセル12の内部は排ガス流路となり、これらのうち、排ガスG流れの下流側端部が閉塞されたセル12にて、排ガス流入路121が、上流側端部が閉塞されたセル12にて、排ガス流出路122が形成される。
【0029】
図1(a)に示すように、栓部13は、フィルタ基材1の両端面において、排ガス流入路121と排ガス流出路122が互い違いになるように、隣合うセル12を交互に栓詰めした構成となっている。この時、排ガスGは、上流側端面に開口する排ガス流入路121から、セラミックスフィルタF内に入り、多孔質のセル壁11を通じて隣接するセル12間を流通して、排ガス流出路122から排出される。このように、セラミックスフィルタFがウオールフロー型のフィルタ構造となっていることで、排ガス中に含まれるPMを、多孔質のセル壁11の多数の細孔内に捕捉することができる。
【0030】
セラミックスフィルタFの形状や大きさは、システムの要求に応じて適宜選択することができる。フィルタ基材1の外形(外周筒状部)は、図示する円筒状に限らず、楕円状その他の形状であってもよく、セル12の断面形状は、図示する正方形の他、三角形、四角形、多角形等の任意の形状とすることができる。フィルタ基材1の径や軸方向長、セル12のピッチ、セル壁11の厚さ等、各部のサイズは、PM捕集能力やフィルタ強度、圧力損失等が適正となるように設定すればよい。セラミックスフィルタFの内表面(セル壁11の表面)に酸化触媒を担持させた構成とすることもできる。
【0031】
フィルタ基材1を構成するセラミックス材料には、構成元素としてAl、Si、MgおよびOを含むコージェライト(理論組成:2MgO・2Al2O3・5SiO2)を主成分とする多孔質セラミックスが用いられる。低熱膨張特性と耐熱衝撃性を備えるコージェライトを主成分とすることで、再生処理時のセラミックスフィルタFの耐破損性、耐溶損性を高めることができる。コージェライト原料としては、一般的にMg源、Al源、Si源として知られる酸化物または水酸化物等の化合物を用いることができる。具体的には、シリカ(SiO2)、タルク(3MgO・2SiO2・H2O)、アルミナ(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、カオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、蛇紋石((Mg,Fe)3Si2O5(OH)4)、パイロフェライト(Al2Si4O10(OH)2)、ブルーサイト(Mg(OH)2)等を出発原料として、コージェライトが生成される。
【0032】
フィルタ基材1は、多孔質のセル壁11がフィルタとして機能し、セル12間の排ガス流通を可能にして、排ガス中のPMを捕集する。このフィルタ機能には、フィルタ基材1となる多孔質セラミックスの気孔率、細孔径が大きく影響する。例えば、気孔率が大きいほどPM捕集可能な容積が増加し、通気性は向上するが、基材強度が低下しやすくなる。さらには、基材熱容量が低下し、再生時の温度が上昇しやすく、SML(PM堆積量限界)が低下する。同一気孔率であれば、細孔径が小さいほど比表面積が増加しPMを吸着しやすくなるが、圧力損失が上昇しやすく、PM粒径に対して細孔径が大きくなるほど圧損上昇は抑制されるが、PMが捕集されずにすり抜けるおそれが生じやすくなる。また、熱膨張係数が小さいほど再生処理時の温度上昇による応力を緩和する効果が高くなる。したがって、所望の基材強度や圧力損失、捕集効率が得られるように、フィルタ基材1の要求特性に応じて、気孔率、細孔径が設定される。本実施形態で適用されるDPFの要求特性として、好適には、フィルタ基材1の気孔率が47〜53%、平均細孔径が10〜25μm、熱膨張係数が0.5×10-6/℃以下であるとよい。
【0033】
フィルタ基材1の要求特性を実現するために、選択する出発原料、特に原料粉末の粒径範囲や配合割合を調整することが重要となる。本発明では、少なくともコージェライト原料が、シリカ、タルク、水酸化アルミニウムを含み、さらにAl源としてアルミナを使用することができる。Al源となるアルミナと水酸化アルミニウムの配合割合を変更することで、気孔率を調整することができ、アルミナに対する水酸化アルミニウムの重量比率を大きくするほど、気孔率が大きくなる。好適には、Al源を水酸化アルミニウムのみとし、コージェライト原料を、シリカ、タルク、水酸化アルミニウムとすることで、容易に気孔率の大きいフィルタ基材1を得ることができる。
【0034】
平均細孔径10〜25μm、気孔率47〜53%のフィルタ基材1を製作するには、コージェライト原料の粒径範囲を適切に設定することが望ましい。一般に、シリカ、タルクの粒径範囲は所望の平均細孔径に応じて設定され、水酸化アルミニウムの粒径は、これらシリカ、タルクより小さいものを使用する。具体的には、シリカ、タルクの平均粒径を、粒度分布の中間値となる50%粒径(D50)で表した時に、50%粒径(D50)が10〜31μmの範囲であることが好ましい。ここで、50%粒径(D50)は、粒度分布曲線の累積体積の総和(100%)に対して累積割合がX%となる粒子径を、X%粒径(DX)とした時に、累積割合が50%となる粒子径である。また、水酸化アルミニウムは、50%粒径(D50)が4〜6μmの範囲であることが好ましい。シリカ・タルクの粒径については、フィルタ基材1となるセラミックスハニカム構造体の平均細孔径と相関があることが知られており、また、タルク・水酸化アルミニウムは脱水を生じることから、気孔の形成およびフィルタ基材1の収縮率に影響する。水酸化アルミニウムは、さらに収縮率の調整剤的役割を担っている。
【0035】
これらコージェライト原料を、コージェライト組成としてAl2O3、SiO2、MgOがそれぞれ36.5%、49.75%、13.75%になるように配合することで、気孔率50%前後のハニカム構造体とすることができる。その他、必要に応じて、造孔剤となるカーボンやマイクロカプセルを配合させることにより、気孔率を向上させることも可能である。成形用の原料は、コージェライトの原料粉末に、バインダー等の成形助剤と水を配合したものを用い、混練して押出可能な粘土状とした後、公知の押出成形型を用いてハニカム状に成形する。ハニカム成形体は、セル壁11で区画された多数のセル12を有する構造であり、乾燥、仮焼成した後、栓材スラリーを用いて両端の所定のセル12に栓詰めを行う。
【0036】
本発明において、セラミックスフィルタFの栓部13を構成する栓材は、フィルタ基材1と同様に、構成元素としてAl、Si、MgおよびOを含むコージェライトを主成分とするセラミックス材料である。これによりフィルタ基材1と容易に一体化し、同様の耐熱性と低熱膨張係数を有する栓部13とすることができる。ただし、栓材となるセラミックス材料は、要求特性がフィルタ基材1とは異なり、気孔率をフィルタ基材1より小さくすることが望ましい。このために、本発明では、コージェライト原料が、少なくともシリカ、タルク、アルミナを含み、Al源としてアルミナと水酸化アルミニウムを使用することもできる。Al源としてアルミナを主に用いることで、気孔率をより小さくすることができる。また、アルミナと水酸化アルミニウムの配合比率を調整し、焼成工程における寸法変化率を所望の範囲とすることができる。
【0037】
栓材に要求される特性としては、フィルタ基材1に形成される排ガス流入路121、排ガス流出路122の端部を閉塞し、また熱容量部として機能するために、気孔率がフィルタ基材1より小さいこと、焼成時の寸法変化率がフィルタ基材1に近いこと、フィルタ基材1との熱膨張係数の差が小さいことが挙げられる。気孔率が小さくなることで緻密性が向上し、フィルタ基材1との焼成変化率の差が小さくなることで、フィルタ基材1と良好に結合して一体化する。焼成変化率の差は、通常はフィルタ基材1の変化率+6%以内であるとよく、これについては後述する。フィルタ基材1との熱膨張係数の差は、通常は0.5×10−6/℃以内であるとよい。また、栓詰めを作業性よく行なうには、栓材スラリーを、安定した取り扱いやすいスラリー状に調製する必要があり、原料の粒度やスラリーの調製方法も重要である。
【0038】
ここで、焼成時の寸法変化率を同等とするには、例えばフィルタ基材1と同一材料を用い、配合を同じにすればよいが、上述したように、フィルタ基材1の要求特性は、フィルタ機能を最適とするために設定されている。このため、フィルタ基材1用のセラミックス材料をそのまま栓材とすると、気孔率が大きくなり、栓部13の熱容量を向上させる効果が得られない。従来は、異なるセラミック高熱容量材料を使用することで、熱容量を向上させる手法も知られるが、コスト増となりやすい。また、焼成時の収縮率を同一とすることが困難であり、異種材料を接合することにより収縮率履歴の違いから界面に残留応力が発生する、結晶構造的に完全に異種材料を結合させるのは容易でない、といった問題がある。
【0039】
そこで、本発明では、栓材をフィルタ基材1と同じコージェライトを主成分とするセラミックス材料とし、出発原料と粒度を制御することによって、気孔率と焼成変化率を所望の範囲内とすることを検討した。本発明で使用する栓材は、出発原料のうちSi源となるシリカを特定の粒度範囲に制御したものであり、栓材の緻密化を促進するために有効である。具体的には、Si源となるシリカの粒度を、粒度分布曲線における累積割合がX%となる粒子径をX%粒径(DX)とした時に、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲となるように調整する。
【0040】
シリカの粒度を、中間値となる50%粒径(D50)だけでなく、10%粒径(D10)および90%粒径(D90)を規定することで、特定の粒度分布曲線原料とすることができる。ここで、粒度分布の中間値となる50%粒径(D50)を、フィルタ基材1(D50:10〜31μm)に比べて小さくするのは、50%粒径(D50)が大きくなることは、沈降速度を速めることになり、スラリーの取り扱いやすさを悪化させるためである。また、10%粒径(D10)と90%粒径(D90)を、50%粒径(D50)に近づけることで、シャープな粒度分布を有する原料となる。これにより、充填密度が低下し、収縮のしやすい栓材スラリーとなるために、焼成変化率を低く抑え、フィルタ基材1に近づけることができる。その結果、焼成変化率を調整するための水酸化アルミニウムの配合比率を小さくすることができ、気孔率を小さくして栓部13を緻密化することができる。
【0041】
好適には、さらに、Si、Mg源となるタルクの粒度を、50%粒径(D50)が30μm以下の範囲となるように調整することが望ましい。その理由としては、タルクの平均粒径が大きくなることで、収縮のしにくいスラリーとなり、沈降速度も速くなるからで、特に、50%粒径(D50)が30μmを超えると、焼成変化率を所望の範囲に調整しにくくなる。また、タルクの平均粒径が小さくなることで、収縮のしやすいスラリーとすることができる。ただし、タルクは疎水性原料であるため、粒径を小さくしすぎると、疎水原料の比表面積が増えることになり、見かけ上スラリーの親水性が低下する。このため、好適には、50%粒径(D50)が15μmより大きく、30μm以下の範囲となるように調整することが望ましい。タルク粒径が15μm以下であると、見かけのスラリーの親水性が低下して、フィルタ基材1との相性が濡れ性の観点から悪化するためである。
【0042】
アルミナの粒度は、50%粒径(D50)が2.5±2.0μmの範囲であることが望ましい。その理由は、アルミナは比重が他の原料と比較して大きく、沈降しやすいためであり、平均粒径を小さくして、沈降速度が速くなるのを抑制するのがよい。水酸化アルミニウムの粒度は、50%粒径(D50)が、5.0±2.0μmの範囲であることが、沈降速度を他の原料に近づけるために望ましい。また、この範囲は、フィルタ基材1の原料とする水酸化アルミニウム(D50:4〜6μm)と共通するため、収縮率調整剤である水酸化アルミニウムをフィルタ基材1と同一のものを使用すると、コスト低減の観点から好ましい。
【0043】
Al源となるアルミナと水酸化アルミニウムは、アルミナの配合比率が大きくなるほど、気孔率を小さくすることができ、水酸化アルミニウムの配合比率が大きくなるほど、焼成変化率を低くする効果が高い。したがって、シリカ、タルクの粒度を制御し、アルミナと水酸化アルミニウムの配合比率を適切に設定することで、栓部13の緻密性を向上させ、かつフィルタ基材1との焼成変化率の差を小さくする効果を得ることができる。本発明の粒度範囲に制御したシリカを使用することで、Al源をアルミナのみとした場合でも、タルク種によらず焼成変化率の差を6%以内とすることができ、これは、従来のフィルタ基材1と同一材料を用いる場合の目標範囲(寸法変化率の差が7%以内)よりも小さい。栓材の焼成変化率が6%(基材を0%とした時)を超えると、基材端面に焼成後にワレが発生するおそれがあり、好ましくない。
【0044】
好ましくは、水酸化アルミニウム比率を80重量%以下の範囲とするのがよく、栓部13を緻密化し熱容量を増加させる効果が高まる。特に、シリカ、タルクの粒度を上記の範囲に制御し、水酸化アルミニウム比率を80重量%以下の範囲にて適宜調整することで、栓部13の焼成変化率を、フィルタ基材1の焼成変化率+2.5%以内とすることができる。栓材の焼成変化率が2.5%(基材を0%とした時)を超えると、焼成時の栓部13の膨張により基材端面部に膨張が生じ、基材寸法の精度に影響する。より好ましくは、フィルタ基材1の焼成変化率0〜2%以内となるように、水酸化アルミニウム比率を、例えば20〜80重量%の範囲で調整するとよい。栓材の焼成変化率が0%より小さくなると、栓スキマが発生しやすくなる。
【0045】
栓材スラリーは、所定の粒度に調整されたシリカ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウムを、コージェライト組成としてAl2O3、SiO2、MgOがそれぞれ36.5%、49.75%、13.75%になるように配合し、分散剤、水とともに攪拌してスラリー状とすることで得られる。分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリカルボン酸共重合体、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。水分量は、通常、栓材スラリー全体を100重量%とした時に、31〜40重量%(内添加)の範囲に設定される。水分含有率が31重量%未満であると、攪拌初期粘度が高くなり、所望の粘度に達するまでに長時間の攪拌時間となり、また、水分含有率が40重量%を超えると、スラリー粘度が低くなり、ヒケが発生して栓欠陥となりやすく栓部13の緻密性が低下するためである。水酸化アルミニウム比率を低くすると、スラリー粘度を増加させることができ、保水性が向上するので、水分含有率をより低くできる。好ましくは、水分含有率が31〜35重量%の範囲となるようにすると、栓欠陥のおそれが小さくなり栓部13の緻密性を向上できる。
【0046】
この時、好ましくは、コージェライト原料粉末(シリカ・タルク・アルミナ・水酸化アルミニウム)、水、分散剤の投入順を、水→分散剤→アルミナ→水酸化アルミニウム→シリカ→タルクの順番とするのがよい。分散媒である水に予め分散剤を添加しておき、コージェライト原料は粒径の小さいアルミナから順に添加することで、コージェライト原料の分散性を高めることができる。
【0047】
得られた栓材スラリーを用いて栓詰めする工程の一例を、図2に概略図として示す。これに先立ち、フィルタ基材1の端面には、予め目封じするセルを除いてマスキングを施しておく。フィルタ基材1の端面に開口するセルを栓詰めするために、図2に示すデイップ皿2を用い、栓詰め工程(1)、(2)に示すように、デイップ皿2に栓材スラリー3を流し込み、表面を均等に整えてデイップ皿2深さに充填する。栓詰め工程(3)において、フィルタ基材1をデイップ皿2に浸漬し、開口するセル内に栓材スラリー3を充填し、毛細管現象を利用して栓詰めする。
【0048】
栓詰め工程に使用するデイップ皿2の大きさは、フィルタ基材1のサイズ、栓部13の長さ等に応じて設定される。例えば、本実施形態のフィルタ基材1に対して、デイップ皿2の深さは、2〜6mm(所望の栓長さ±2mm)、フィルタ基材1とデイップ皿3のクリアランスは2mm以下として、デイップを行うことができる。栓部13の長さは、フィルタ基材1のろ過面積をできるだけ大きく確保しつつ、栓強度を保持するために、5.0mm以下であることが望ましい。
【0049】
その後、同様にして他方の端面にも栓詰めを行い、本焼成を行って、フィルタ基材1の両端部に栓部13を形成する。このようにして得られたセラミックスフィルタFは、栓部13がフィルタ基材1と同材質であるので、焼成工程において溶融一体化しやすく、また、収縮率の差が小さくなるように調整されているので、境界部が良好に密着する。そして、緻密化により熱容量が向上し、耐熱衝撃性の高いセラミックスフィルタFとなる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本実施例で製造したセラミックスフィルタFは、図1、2に示す形状のものであり、サイズはΦ160×L100とした。
【0051】
(フィルタ基材1の製作)
まず、フィルタ基材1を製作するために、コージェライト原料として、溶融シリカ、タルク、水酸化アルミニウムを用い、コージェライト組成としてAl2O3、SiO2、MgOがそれぞれ36.5%、49.75%、13.75%になるように調合した。表1に、使用原料と配合比を示す。調合原料に、成形助剤として、有機バインダ(メチルセルロース、表中MC)と潤滑剤、水を添加し、混練して押出可能な坏土とした。表中、コージェライト原料の粒径とは、粒度分布曲線における50%粒径(D50)である。配合比は重量%で表し、溶融シリカ、タルク、水酸化アルミニウムは、コージェライト原料中の含有量、成形助剤はコージェライト原料を100(重量%)とした時の添加量である。
【0052】
【表1】
【0053】
その後、原料坏土を、ハニカム押出成形型で押し出し成形し、ハニカム成形体を得た。押し出し条件は、押し出し圧力が100〜200kg/cm2、0.1〜0.2m/min、原料温度が10〜20℃である。次いで、得られたハニカム成形体を、マイクロ波加熱により乾燥させ、その後、所望の長さに切断して乾燥体とした。次に、乾燥体を仮焼成して、ハニカム構造の仮焼体とした。仮焼成工程は、最高保持温度1380〜1435℃で3〜5時間保持することによって行った。さらに、得られた仮焼体の端面にマスキングを行い、栓詰めすべきセルのみを開口させた。
【0054】
(栓材スラリーの調製)
栓詰め工程に用いる栓材スラリーの調製は、以下のようにして行った。表2に、使用原料と配合比を示す。コージェライト原料としては、シリカ、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナを用い、コージェライト組成としてAl2O3、SiO2、MgOがそれぞれ36.5%、49.75%、13.75%になるように調合した。ここでは、アルミナ源であるアルミナと水酸化アルミニウムの配合比率は、アルミナ:水酸化アルミニウム=7.2重量%:21.7重量%(全使用原料中)=25重量%:75重量%(アルミナ源の原料中)の配合例を示している。分散剤としては、ポリカルボン酸アンモニウムを用いた。表中、配合比は重量%で表し、水、分散剤は、使用原料中の含有量である。
【0055】
栓材となるコージェライトの原料粉末として使用したシリカ、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナの粒度分布を表3〜6に、粒度分布曲線を図3〜6にそれぞれ示した。表3、図3に示されるように、シリカは、粒度分布の異なる3種類のシリカA〜Cを用意した。このうちのシリカAは、10%粒径(D10)が2.484μm、50%粒径(D50)が5.063μm、90%粒径(D90)が8.187μmであり、本発明で規定する範囲内にある。シリカBは、50%粒径(D50)は5.1μmとシリカAと同等であるものの、10%粒径(D10)は1.793μmで2.0μmより小さく、90%粒径(D90)は24.16μmで10μmを大きく超え、ばらつきが大きいものである。シリカCは、50%粒径(D50)が6.63μmで5.0μm±2.0μmの範囲にあるものの、10%粒径(D10)は1.73μm、90%粒径(D90)は27.39μmで、ばらつきがより大きくなっている。
【0056】
また、表4、図4に示されるように、タルクは、粒度分布の異なる3種類のタルクD〜Fを用意した。このうちのタルクDは、50%粒径(D50)が34.38μmであり、30μmを超えているもの、タルクFは、50%粒径(D50)が14.71μmであり、15μm以下のものである。タルクEは、50%粒径(D50)が22.36μmであり、タルクDとタルクFの間にある。表5、図5に示されるように、水酸化アルミニウムは、50%粒径(D50)が5.88μmで、5.0μm±2.0μmの範囲にあるもの、表6、図6に示されるように、アルミナは、50%粒径(D50)が2.134μmで、2.5μm±2.0μmの範囲にあるものを用いた。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
栓材スラリーは、これらコージェライト原料、水、分散剤を、5Lポットに水、分散剤、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、タルクの順番に投入し、攪拌羽根を有する攪拌機を用いて調製した。攪拌機の回転数は200rpmとし、スラリー粘度が200〜400(mPa.s)になるように攪拌した。この時、コージェライト原料のうちシリカとタルクについては、シリカA〜CとタルクEをそれぞれ組み合わせたものを準備し、それぞれ同様の方法で栓材スラリーを得た。
【0063】
(栓詰め工程)
得られた3種類の栓材スラリーを使用して、図2に示した栓詰め工程に従ってハニカム基材1の栓詰めを行った。この時の条件としては、約3mm深さのデイップ皿を使用し、皿深さまで栓材スラリーを流し込んだ後、フィルタ基材1の端面をディップすることにより、セルの開口部内に栓材スラリーを充填した。デイップ時間は30〜60secで実施した。栓長さは平均で3.2mmであった。同様にして、フィルタ基材1の両端面に栓詰めを行い、その後、本焼成工程を実施して、ハニカム基材1と栓部13を一体化させた。本焼成条件は、最高保持温度1425〜1435℃で、保持時間19〜21時間とした。シリカAとタルクEを組み合わせた栓材スラリーを用いたセラミックフィルタFは、外観が良好で、基材端面にワレや膨張は見られなかった。これに対して、シリカB、CとタルクEを組み合わせた栓材スラリーを用いたセラミックフィルタFは、基材端面において栓部13の膨張が見られた。
【0064】
(シリカ粒度の評価)
表7の配合比とした試料1〜3の栓材スラリーについて、シリカの粒度分布と焼成変化率の関係を調べ、表7に示した。評価には、基材を削りだしスラリーを鋳込んで作成したサンプルを用いた。ここで、焼成変化率(%)は、焼成工程における栓材の寸法変化率であり、フィルタ基材1の寸法変化率(以下、適宜基材変化率という)を基準(0%)として示している。表に明らかなように、シリカB、Cを用いた試料2、3では、焼成変化率が2.5%(基材変化率+2.5%)を超えているが、シリカAを用いた試料1では、焼成変化率が2.1%と、試料2、3に比べて焼成変化率が大幅に改善されている。したがって、収縮率調整のために水酸化アルミニウムの含有率を高くする必要がなく、水酸化アルミニウムの含有率を約20%と低くしながら、焼成変化率をハニカム基材1に近づけることができる。そして、基材端面部の膨張といった基材寸法への影響をなくし、高品質なセラミックフィルタFが得られる。しかも、水酸化アルミニウムの含有率が低いので、気孔率が小さくなり、栓部13の緻密性を向上できる。
【0065】
【表7】
【0066】
図7は、次に、シリカA〜Cを使用した試料1〜3の栓材スラリーについて、水酸化アルミニウムとアルミナの配合比率を0:100〜100:0の範囲で変化させた時の、焼成変化率を調べた結果である。図中、横軸はアルミナ源となる原料中の水酸化アルミニウムの含有比率(重量%)であり、縦軸は栓材の焼成変化率である(基材変化率を0%とする)。図に明らかなように、試料1では、水酸化アルミニウム含有比率を増加させていくと、焼成変化率は小さくなっていき、約80重量%で、基材変化率とほぼ一致する。これに対して、試料2、3では水酸化アルミニウムが90重量%を超えないと基材変化率とほぼ同等とならない。また、試料2、3では水酸化アルミニウムが25重量%程度で、焼成変化率が2.5%を超え、0重量%(アルミナ100重量%)では焼成変化率が3%を超えてしまうのに対して、試料1では、水酸化アルミニウムが0重量%でも、焼成変化率2.5%以内とすることができる。
【0067】
したがって、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲にあり、よりシャープな粒度分布を有するシリカAを採用し、収縮率の調整剤となる水酸化アルミニウムの配合割合を制御することで、所望の焼成変化率と緻密性を実現することができる。
【0068】
(タルク粒度の評価)
図8は、シリカAを使用した試料1について、さらにタルクの粒度の影響を調べた結果である。試料1において使用したタルクEに代えて、粒度分布の異なる2種類のタルクD、Fを用いて同様の方法で栓材スラリーを調製し、さらに水酸化アルミニウムとアルミナの配合割合を0:100〜100:0の範囲で変化させた時の、焼成変化率を調べた。図中、横軸は水酸化アルミニウムの含有比率(重量%)であり、縦軸は栓材の焼成変化率である(基材変化率を0とする)。
【0069】
図に明らかなように、50%粒径(D50)が大きくなるほど、焼成変化率が大きくなる傾向にあるが、タルクD〜Fのいずれも用いた場合も、水酸化アルミニウム重量比率を調整することで、所望の焼成変化率を実現することができる。例えば、タルクEより50%粒径(D50)が大きいタルクDを用いた場合、焼成変化率は最大で約6%(水酸化アルミニウム100重量%)であり、水酸化アルミニウム重量比率を大きくすることで、焼成変化率をより小さくし、フィルタ基材1に近づけることができる。タルクEより50%粒径(D50)が小さいタルクFを用いた場合には、水酸化アルミニウム0重量%でも十分小さい焼成変化率となり、水酸化アルミニウム50重量%前後で、フィルタ基材1とほぼ同等となる。
【0070】
したがって、焼成変化率をより小さくするには、シリカの粒度分布を制御するとともに、タルクDより50%粒径(D50)を小さくするのがよく、タルクの50%粒径(D50)が30μm以下であるタルクE、Fを用いることで、水酸化アルミニウム含有比率を大きくすることなく、2.5%以下、好ましくは2%以下の焼成変化率を実現することができる。また、タルクE、Fを用いた栓材スラリーを比較すると、タルクEの方がフィルタ基材1との濡れ性が良好であり、栓材スラリーの親水性を考慮すると、タルクの50%粒径(D50)が15μmより大きく30μm以下であるタルクEがより望ましい。
【0071】
図9(a)、(b)は、水酸化アルミニウム0重量%とした時のシリカ種、タルク種による焼成率変化を比較した図である。図9(a)の試料4〜6、図9(b)の試料7〜9の栓材スラリーに使用した原料と配合比率を、焼成変化率とともにそれぞれ表8、9に示す。試料4〜6は、試料1と同様にシリカA〜CとタルクEを組み合わせたものであり、試料7〜9は、タルクD〜FとシリカAを組み合わせたものである。いずれも原料に水酸化アルミニウムを使用せず、Al源をアルミナのみとして、コーディエライト組成となるように調合した。表中の分散剤・水は、コーディエライト原料の総重量に対する添加量の重量比率である。図中には、試料1の焼成変化率と目標変化率(基材変化率+2.5%)を併せて示した。
【0072】
【表8】
【0073】
【表9】
【0074】
図9(a)、表8に示すように、シリカAを用いた試料4が最も収縮しており、焼成変化率が低い。シリカAを用いた試料4、シリカBを用いた試料5、シリカCを用いた試料6の順に収縮しにくいことがわかる。これは上記試料1〜3と同じ傾向であり、シリカAを用いた試料4のみが目標変化率以内にある。したがって、従来は、水酸化アルミニウムを添加することで、焼成変化率を低くしていたが、シリカAのように粒度分布を制御することで、水酸化アルミニウムを含有しないか含有比率が小さくても、収縮しやすい栓材スラリーとし、焼成変化率を低く抑えて緻密性を向上できることがわかる。
【0075】
また、図9(b)、表9に示すように、タルクDを用いた試料7、タルクEを用いた試料8、タルクFを用いた試料9の順に焼成変化率が低く、タルクの50%粒径(D50)が小さいほど収縮しやすいことがわかる。したがって、シリカの粒度分布と、タルクの平均粒子径を組み合わせて制御することで、水酸化アルミニウムを含有しないか含有比率が小さくても、収縮しやすい栓材スラリーとし、焼成変化率を低く抑えて緻密性を向上できることがわかる。
【0076】
また、表10に、シリカAとタルクD〜Fを組み合わせた試料7〜9について、焼成後の基材端面ワレ、基材寸法、スラリー調製時の濡れ性について調べた結果を、焼成変化率と共に示した。表10には、シリカB、CとタルクDを組み合わせた試料についての結果も併せて示す。表に明らかなように、シリカAを用いた試料では、タルクの種類によらず、焼成変化率が6.0%以内となり、焼成後の基材端面ワレを防止することができる。さらに、タルクを選択することで、水酸化アルミニウムを使用せずに、焼成変化率が2.5%以内とすることができ、濡れ性も良好となる。これに対して、シリカB、CとタルクDを用いた試料では、焼成変化率が6.0%を超えており、端面ワレが発生しやすい。タルクFを使用すると、焼成変化率は小さくなるものの、濡れ性が悪化しやすくなる。
【0077】
【表10】
【0078】
(水酸化アルミニウム含有比率と緻密性)
図7に示したように、Al源となるアルミナと水酸化アルミニウムの配合比率を変化させた時、水酸化アルミニウムを増加させていくと収縮しやすいが、気孔率も増加する。図10(a)、(b)は、水酸化アルミニウム含有比率の異なる栓材スラリーを用いた時の、本焼成後の栓部13の緻密性を比較した電子顕微鏡写真であり、(a)はアルミナと水酸化アルミニウムの配合比率=100:0(重量%)、(b)はアルミナと水酸化アルミニウムの配合比率=0:100(重量%)としたものである。図10(a)は、試料4に相当するもので、アルミナのみを含有し、気孔率調整のために添加される水酸化アルミニウムを含有しないので、気孔が存在せず、緻密な構造となっている。
【0079】
一方、図10(b)は、アルミナを含有せず、多孔質のフィルタ基材1と同等組成となっているため、気孔が存在し、緻密性は低下している。また、フィルタ基材1と栓部13の境界部に、栓スキマの欠陥の発生が見られる。これは、水酸化アルミニウムが焼成の過程で脱水収縮して気孔を形成すること、また図7に示したように、シリカAを用いた場合には、従来の栓材スラリーに比べて収縮しやすくなり、水酸化アルミニウム含有比率が100重量%では、焼成変化率がマイナスとなるためである。この時、フィルタ基材1より変化率が小さくなるために、フィルタ基材1と栓部13とが十分密着せず、栓スキマが生じると推察される。
【0080】
このように、水酸化アルミニウムの含有比率が増加するとともに、緻密性が低下し、欠陥が生じやすい形状となることがわかる。したがって、緻密性を高くして熱容量を向上させるには、所望の焼成変化率が得られる範囲で、水酸化アルミニウムの含有比率を低く抑えるとよい。
【0081】
(栓材スラリーの水分含有率)
また、図10(c)に示すように、水酸化アルミニウムの含有比率を0から増加させていくと、栓材スラリーの粘度は低下していく。つまり、水酸化アルミニウムを少なく含有することは、栓材スラリーの粘度が増加することになり、栓材スラリーからフィルタ基材1への水分の移動が抑制される。これは、栓材スラリーの保水性が向上することにつながり、栓材スラリーの水分含有率を、従来より低くすることができる。
【0082】
図11(a)は、栓材スラリーの水分含有率と粘度の関係を示す図で、水分の増加とともに急激に粘度は低下し、38〜40重量%でほぼ一定とする。図11(b)は、栓材スラリー中の水分含有率を31重量%、38重量%とした時の栓部13の強度を比較した図であり、図12(a)、(b)は、それぞれのX線CT画像である。また、図13(a)〜(c)は、水分含有率を31重量%、34重量%、38重量%とした時の、フィルタ基材1と栓部13の接合状態を示す電子顕微鏡写真であり、図14(a)〜(c)は、水分含有率を31重量%、36重量%、38重量%とした時の、栓部13の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【0083】
図11(b)から、水分含有率31重量%、38重量%における栓強度には大きな差異は見られず、水分含有率が40重量%程度以下であれば、強度への影響はないといえる。ただし、図12(a)、(b)、図14(a)〜(c)のように、水分が多くなることで、緻密性が低下していることがわかる。また、図13(a)の栓部13に対し、図13(b)、(c)の栓部13は、中央部にヒケが発生し、図13(c)の栓部13は、ヒケが大きくなっている。これは、水分含有量が高いことで、粘度が低下し、デイップ後の栓の保形性が低下するためと考えられる。
【0084】
以上により、緻密性を向上させ、栓欠陥の可能性を小さくするには、好ましくは、水分含有率を38重量%より低くし、例えば31〜35重量%程度の範囲とするとよい。
【0085】
(SML:PM堆積許容量限界の評価)
緻密栓材を用いた本発明のフィルタ基材1と、従来の高気孔栓材を用いたフィルタ基材について、再生時の最高温度を比較した。本発明のフィルタ基材1は、シリカAとタルクEを組み合わせ、水酸化アルミニウム比率0重量%とした(焼成変化率2.5%)試料4の栓材スラリーを用いて得られたものであり、従来のフィルタ基材は、シリカCとタルクDを組み合わせ、水酸化アルミニウム比率100重量%とした(焼成変化率2%)試料を用いて得られたものである。フィルタ基材のサイズは同じであり(Φ160×L100)、それぞれパティキュレートを6g堆積させたものについて、所定の再生処理を行い、パティキュレート燃焼による温度上昇を調べた。その結果、従来のフィルタ基材は、最高温度が触媒劣化温度に達しているのに対し、本発明のフィルタ基材1は、再生時の最高温度が約30℃程度低くなった。これにより栓部13を緻密にした本発明のフィルタ基材1は、熱容量が大きいために、同じPM量を燃焼させた場合に温度が上がりにくく、耐熱性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のセラミックスフィルタは、内燃機関の排気通路に設置されて、排出される燃焼ガス中のパティキュレートを効果的に捕集する。また、耐熱衝撃性に優れるので、再生時にパティキュレートの燃焼で温度上昇しても、フィルタ基材の損傷を防止する効果が高い。自動車以外の内燃機関に利用することも可能である。
【符号の説明】
【0087】
F セラミックスフィルタ
1 フィルタ基材
11 セル壁
12 セル
121 排ガス流入路
122 排ガス流出路
13 栓部
2 ディップ皿
3 栓材スラリー
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガス浄化システムに適用され、排ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するためのフィルタ構造を有するセラミックスフィルタに関し、特に高熱容量で耐熱性が改善されたセラミックスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(粒子状物質)を、排気管途中に設置したセラミックスフィルタに捕集して排ガスの浄化を行う排ガス浄化システムが知られている。セラミックスフィルタは、一般に、多孔質の隔壁で囲まれる多数のセルを設けたセラミックスハニカム構造体を基材とし、その両端面において多数のセルを互い違いに目封じすることによりウオールフロー型のフィルタ構造としている。この時、各セルは、排気流れの上流側または下流側のいずれか一方の端部が栓詰めされ、下流側が閉塞するセル内に導入された排ガスは、多孔質の隔壁を介してセル間を流通し、上流側が閉塞するセルから外部へ放出される。基材には、通常、コージェライト等の耐熱性セラミックスが用いられる。
【0003】
排ガス浄化システムでは、通常、セラミックスフィルタに捕集されたパティキュレート量を監視し、所定量を超えると高温の排ガスを導入して、パティキュレートを燃焼除去する再生処理を行っている。再生処理を開始するパティキュレート量は、通常、セラミックスフィルタの耐熱性を考慮して、燃焼時の最高温度が過度に高くならないように設定されるが、セラミックスフィルタ内のパティキュレート堆積量に偏りがあると、局所的な過熱が生じることがある。また、セラミックスフィルタに触媒を担時して、未燃燃料の酸化反応熱を利用するシステムでは、触媒の劣化のおそれがある。
【0004】
このため、再生時の高温耐久性が課題となっており、栓詰め部を利用してセラミックスフィルタの熱容量を大きくして、耐熱性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1、2)。特許文献1は、フィルタ基材に充填される栓材を熱吸収部として利用したもので、図16(a)に示されるように、セラミックスフィルタ100の後端部における栓詰め部101の長さLを、通常よりも長くして、熱容量を確保している。特許文献2は、フィルタ基材の中央部分に追加目封じを行って、目封じの割合を周辺部分より多くするもので、高温になりやすい中央部分における熱発生率を少なくし、最高温度を抑制している。
【0005】
また、充填用材料の改良により、セラミックスフィルタの熱容量を大きくすることが提案されている(例えば、特許文献3、4)。特許文献3は、図16(b)に示されるように、セラミックスフィルタ102の周辺部を除く領域において、栓部103より上流に高熱容量粉体を充填した熱緩和セル104を配置している。高熱容量粉体は、フィルタ基材105とは異なる材料で、焼成によりフィルタ基材105と溶着される。特許文献4には、栓詰め用スラリーの骨材を、フィルタ基材と同材料で、所定の粒径範囲(6〜22μm)の原料粉体とし、骨材に分散剤と水を添加して、セル壁に付着した際の接触角が所定値(114°以下)となるようにした栓詰め用スラリーが開示されている。この栓詰め用スラリーは、焼結時に隙間が形成されにくく、フィルタ基材との熱膨張係数差が小さくなるようにしている。特許文献5には、耐熱衝撃性を向上させるために、目封止部とフィルタ基材の隔壁の構成材料が、互いに一体化する固体粒子を含むとともに、焼成工程におけるそれらの寸法変化率の差を7%以内に規定した目封止ハニカム構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4285096号明細書
【特許文献2】特表2005−014142号公報
【特許文献3】特開2009−101344号公報
【特許文献4】特開2008−56528号公報
【特許文献5】特開2004−85029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1、2は、栓詰め部の容積が増大することから、ろ過面積が減少して捕集可能なパティキュレート量が減少し、フィルタ機能の低下を引き起こす。また、目封じ部が多くなることで、フィルタ基材の圧損が増加する上、栓詰め部の材料コストが増加するといった不具合があった。特許文献3も、高熱容量粉体を充填した熱緩和セルが、フィルタ機能を有さず、このため、ろ過面積の低下、圧損の増加といった同様の課題がある。また、コージェライト質のフィルタ基材を用いた場合、これより高熱容量の材料としては、例えば、炭化珪素やチタン酸アルミニウム等が検討されるが、これら材料は高価であり、高熱容量粉体の使用量が増加することで、材料コストが増加する。
【0008】
特許文献1〜3に対し、特許文献4は、栓詰め部の容積を増加させないので、ろ過面積や圧損への影響は小さい。しかしながら、栓詰め部は、緻密化することが、熱容量を向上させる効果を高めるために好ましく、一方、フィルタ基材は、気孔率を大きくすることが、ろ過面積を大きくし圧損を低下させるために望ましい。このため、栓詰め部とフィルタ基材の原料配合を、それぞれ最適となるように調製すると、焼成前後の寸法変化率の差が大きくなってしまう。
【0009】
特許文献5は、焼成時の寸法変化率の差が小さくなるように、栓詰め部とフィルタ基材となるコージェライト原料を、同一材料(カオリン、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナ、溶融シリカ等)とし、その粒度分布を概ね同一として、寸法変化率が同等となるようにしている。ところが、フィルタ基材は、気孔率を高くするために水酸化アルミニウムを多く配合しており、栓詰め部を同一材料として寸法変化率を近づけると、栓詰め部の気孔率が大きくなる。この手法は、栓詰め部とフィルタ基材を一体化させて、境界部の強度を高めることにより、耐熱衝撃性を確保しようとするもので、熱容量を増加させる効果は小さい。
【0010】
このように、従来は、フィルタ機能と高熱容量化を両立させることが難しかった。特に、ろ過面積を増大しても、熱容量が十分大きくないと、再生時に過昇温となりやすく、過昇温による触媒劣化や基材破損を防止するには、再生開始の目安となるパティキュレート堆積量の許容限界量(SML:PM堆積量限界)を低く抑える必要があった。そこで、本発明は、栓詰め部の容積を増加させることがなく、ろ過面積の低下や圧損の増加を抑制できること、しかも栓詰め部とフィルタ基材の焼成変化率の差を小さくしながら、栓詰め部の気孔率を小さくすることで、栓詰め部の熱容量を大きくし、排ガス浄化用セラミックスフィルタの基材熱容量の増加によりSML(PM堆積量限界)を向上することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタは、
内燃機関の排気通路に設置されて、排ガス中のパティキュレートを捕集するセラミックスフィルタであって、構成元素としてAl、Si、MgおよびOを含むコージェライトを主成分とする多孔質セラミックスハニカム構造体をフィルタ基材とし、該フィルタ基材の両端部において、排ガス通路となる上記セラミックスハニカム構造体の多数のセルの上流端または下流端を栓詰めした栓部を有しており、
上記栓部を構成する栓材を、コージェライトを主成分とするセラミックス材料とし、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、アルミナを用いるとともに、このうちSi源となるシリカの粒度を、粒度分布曲線における累積割合がX%となる粒子径をX%粒径(DX)とした時に、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲に調整したことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、コージェライト原料のうちSi、Mg源となるタルクの粒度を、50%粒径(D50)が15μmより大きく30μm以下の範囲となるように調整したものである。
【0013】
請求項3に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、栓詰め後に焼成した時の寸法変化率が、フィルタ基材の寸法変化率+2.5%以内である。
【0014】
請求項4に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、コージェライト原料のうちAl源としてアルミナおよび水酸化アルミニウムを用いる。
【0015】
請求項5に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、アルミナおよび水酸化アルミニウムの総重量に対する水酸化アルミニウムの配合比率を80%以下としたものである。
【0016】
請求項6に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記フィルタ基材は、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、水酸化アルミニウムを用いる。
【0017】
請求項7に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタにおいて、上記栓部を構成する栓材は、少なくともコージェライト原料と水分を含む栓材スラリーとして栓詰めされ、該栓材スラリー中の水分含有率を38重量%より低くなるように調製している。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタは、コージェライト原料であるシリカの粒度分布を制御することで、栓部を構成する栓材を、より緻密で、しかもフィルタ基材の寸法変化率との差が小さい材料とすることができる。これは、シリカの粒度分布が、平均粒径を中心にシャープなピークを有することで、シリカと、タルク、アルミナを含む栓材スラリーが焼成時に収縮しやすい材料となり、焼成工程における寸法変化率(以下、適宜、焼成変化率という)がフィルタ基材に近づくと推察される。その結果、焼成変化率の制御のために、フィルタ基材と同等の気孔率の大きいコージェライト材料を用い、熱容量を確保するために栓詰めを長くする必要がなくなる。
【0019】
また、フィルタ基材と同じコージェライトを主成分とするので、焼成により容易にフィルタ基材と一体化し、緻密で熱容量の大きい栓部を実現できる。よって、ろ過面積の低下や圧損の増加を抑制し、高価な熱容量材料を用いることなく、低コストにフィルタ機能の向上と熱容量増加によるSML(PM堆積量限界)の向上を両立させることができる。
【0020】
請求項2に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタは、さらにコージェライト原料であるタルクの平均粒子径を所定の範囲に制御することで、焼成時により収縮しやすい材料とすることができる。よって、フィルタ基材の焼成変化率により近づけることができ、上記効果をより高めることができる。
【0021】
請求項3に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタは、請求項1、2のようにシリカとタルクの粒度を制御したもので、栓部の焼成変化率がフィルタ基材を基準として+2.5%以内となる栓材を調製することができる。よって、所望の焼成変化率と気孔率を両立させ、焼成により栓部とフィルタ基材とを容易に一体化し、収縮率の違いによる応力の発生や隙間の形成を抑制して、高品質で耐熱性に優れたセラミックスフィルタを得ることができる。
【0022】
請求項4に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタのように、栓材となるコージェライト原料は、Al源としてアルミナと水酸化アルミニウムを用いると、その配合比率を調整することで、焼成変化率を容易に制御することができる。
【0023】
請求項5に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタのように、コージェライト原料にアルミナと水酸化アルミニウムを用いる場合は、水酸化アルミニウムの配合比率を80%以下の範囲で制御することで、所望の焼成変化率、緻密性と焼成変化率を両立させることができる。
【0024】
請求項6に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタのように、フィルタ基材用のコージェライト原料には、シリカ、タルク、水酸化アルミニウムが好適に用いられ、所望の気孔率のフィルタ基材とすることができる。
【0025】
請求項7に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタのように、栓材スラリー中の水分含有率を38重量%より低くすることで、スラリー粘度を増加させ、栓部をより緻密にできる。また、乾燥収縮に伴う欠陥の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示し、(a)は内燃機関の排ガス浄化用セラミックスフィルタの全体断面図、(b)はパティキュレートフィルタの全体斜視図である。
【図2】第1の実施の形態における栓詰め工程を説明するための概略図である。
【図3】実施例で使用した3種類のシリカの粒度分布曲線を示す図である。
【図4】実施例で使用した3種類のタルクの粒度分布曲線を示す図である。
【図5】実施例で使用した水酸化アルミニウムの粒度分布曲線を示す図である。
【図6】実施例で使用したアルミナの粒度分布曲線を示す図である。
【図7】シリカ種および水酸化アルミニウム重量比率と焼成変化率の関係を示す図である。
【図8】タルク種および水酸化アルミニウム重量比率と焼成変化率の関係を示す図である。
【図9】(a)はシリカ種による焼成率変化を比較して示す図、(b)はタルク種による焼成率変化を比較して示す図である。
【図10】(a)、(b)は、それぞれアルミナ:水酸化アルミニウム=100:0(重量%)、アルミナ:水酸化アルミニウム=0:100(重量%)とした栓材スラリーを用いた時の、焼成後のセラミックス組織を示す電子顕微鏡写真であり、(c)は水酸化アルミニウムの含有比率と粘度の関係を示す図である。
【図11】(a)は、栓材スラリーの水分含有率と粘度の関係を示す図、(b)は栓材スラリー中の水分含有率を変更した時の栓部強度を比較して示す図である。
【図12】(a)、(b)は、栓材スラリー中の水分含有率を31重量%、38重量%とした時の、本焼成後のセラミックス組織を示すX線CT装置による断面写真である。
【図13】(a)〜(c)は、栓材スラリー中の水分含有率をそれぞれ31重量%、34重量%、38重量%とした時の、本焼成後のセラミックス組織を示す電子顕微鏡写真である。
【図14】(a)〜(c)は、栓材スラリー中の水分含有率を31重量%、36重量%、38重量%とした時の、焼成後のセラミックス組織を示す電子顕微鏡写真である。
【図15】本発明のフィルタ基材と従来のフィルタ基材について、再生時の基材内最高温度と触媒劣化温度を比較して示す図である。
【図16】(a)、(b)は、従来のセラミックスフィルタの構造を示す全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための第1実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明を適用した排ガス浄化セラミックスフィルタFの構成を示すもので、図1(a)はセラミックスフィルタFの全体断面図、図1(b)はセラミックスフィルタFの全体斜視図である。本発明のセラミックスフィルタFは、公知の内燃機関、例えば、ディーゼルエンジンの排ガス浄化システムに適用することができ、図示しない排気通路の途中に設置されて、内部を流通する排ガス中のパティキュレート(以下、適宜PMと称する)を捕集する、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として用いられる。セラミックスフィルタFに捕集したPM量は、排ガス浄化装置の制御部において、セラミックスフィルタFの前後差圧や運転条件等に基づいて監視され、適時に再生処理を行って、捕集したPMを燃焼除去することにより、セラミックスフィルタFの連続使用を可能にしている。
【0028】
図1(a)、(b)において、セラミックスフィルタFは、円筒状のセラミックスハニカム構造体からなるフィルタ基材1を有している。フィルタ基材1は、外周筒状部内を多孔質のセル壁11により軸方向に区画して、排ガスGの流れに平行な多数のセル12を形成した構造となっている。フィルタ基材1の多数のセル12は、排ガスG流れ方向の上流側または下流側のいずれか一方の端部が、栓詰め用材料である栓材で目封じされており、これによりフィルタ基材1の両端面に栓部13が形成される。また、多数のセル12の内部は排ガス流路となり、これらのうち、排ガスG流れの下流側端部が閉塞されたセル12にて、排ガス流入路121が、上流側端部が閉塞されたセル12にて、排ガス流出路122が形成される。
【0029】
図1(a)に示すように、栓部13は、フィルタ基材1の両端面において、排ガス流入路121と排ガス流出路122が互い違いになるように、隣合うセル12を交互に栓詰めした構成となっている。この時、排ガスGは、上流側端面に開口する排ガス流入路121から、セラミックスフィルタF内に入り、多孔質のセル壁11を通じて隣接するセル12間を流通して、排ガス流出路122から排出される。このように、セラミックスフィルタFがウオールフロー型のフィルタ構造となっていることで、排ガス中に含まれるPMを、多孔質のセル壁11の多数の細孔内に捕捉することができる。
【0030】
セラミックスフィルタFの形状や大きさは、システムの要求に応じて適宜選択することができる。フィルタ基材1の外形(外周筒状部)は、図示する円筒状に限らず、楕円状その他の形状であってもよく、セル12の断面形状は、図示する正方形の他、三角形、四角形、多角形等の任意の形状とすることができる。フィルタ基材1の径や軸方向長、セル12のピッチ、セル壁11の厚さ等、各部のサイズは、PM捕集能力やフィルタ強度、圧力損失等が適正となるように設定すればよい。セラミックスフィルタFの内表面(セル壁11の表面)に酸化触媒を担持させた構成とすることもできる。
【0031】
フィルタ基材1を構成するセラミックス材料には、構成元素としてAl、Si、MgおよびOを含むコージェライト(理論組成:2MgO・2Al2O3・5SiO2)を主成分とする多孔質セラミックスが用いられる。低熱膨張特性と耐熱衝撃性を備えるコージェライトを主成分とすることで、再生処理時のセラミックスフィルタFの耐破損性、耐溶損性を高めることができる。コージェライト原料としては、一般的にMg源、Al源、Si源として知られる酸化物または水酸化物等の化合物を用いることができる。具体的には、シリカ(SiO2)、タルク(3MgO・2SiO2・H2O)、アルミナ(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、カオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、蛇紋石((Mg,Fe)3Si2O5(OH)4)、パイロフェライト(Al2Si4O10(OH)2)、ブルーサイト(Mg(OH)2)等を出発原料として、コージェライトが生成される。
【0032】
フィルタ基材1は、多孔質のセル壁11がフィルタとして機能し、セル12間の排ガス流通を可能にして、排ガス中のPMを捕集する。このフィルタ機能には、フィルタ基材1となる多孔質セラミックスの気孔率、細孔径が大きく影響する。例えば、気孔率が大きいほどPM捕集可能な容積が増加し、通気性は向上するが、基材強度が低下しやすくなる。さらには、基材熱容量が低下し、再生時の温度が上昇しやすく、SML(PM堆積量限界)が低下する。同一気孔率であれば、細孔径が小さいほど比表面積が増加しPMを吸着しやすくなるが、圧力損失が上昇しやすく、PM粒径に対して細孔径が大きくなるほど圧損上昇は抑制されるが、PMが捕集されずにすり抜けるおそれが生じやすくなる。また、熱膨張係数が小さいほど再生処理時の温度上昇による応力を緩和する効果が高くなる。したがって、所望の基材強度や圧力損失、捕集効率が得られるように、フィルタ基材1の要求特性に応じて、気孔率、細孔径が設定される。本実施形態で適用されるDPFの要求特性として、好適には、フィルタ基材1の気孔率が47〜53%、平均細孔径が10〜25μm、熱膨張係数が0.5×10-6/℃以下であるとよい。
【0033】
フィルタ基材1の要求特性を実現するために、選択する出発原料、特に原料粉末の粒径範囲や配合割合を調整することが重要となる。本発明では、少なくともコージェライト原料が、シリカ、タルク、水酸化アルミニウムを含み、さらにAl源としてアルミナを使用することができる。Al源となるアルミナと水酸化アルミニウムの配合割合を変更することで、気孔率を調整することができ、アルミナに対する水酸化アルミニウムの重量比率を大きくするほど、気孔率が大きくなる。好適には、Al源を水酸化アルミニウムのみとし、コージェライト原料を、シリカ、タルク、水酸化アルミニウムとすることで、容易に気孔率の大きいフィルタ基材1を得ることができる。
【0034】
平均細孔径10〜25μm、気孔率47〜53%のフィルタ基材1を製作するには、コージェライト原料の粒径範囲を適切に設定することが望ましい。一般に、シリカ、タルクの粒径範囲は所望の平均細孔径に応じて設定され、水酸化アルミニウムの粒径は、これらシリカ、タルクより小さいものを使用する。具体的には、シリカ、タルクの平均粒径を、粒度分布の中間値となる50%粒径(D50)で表した時に、50%粒径(D50)が10〜31μmの範囲であることが好ましい。ここで、50%粒径(D50)は、粒度分布曲線の累積体積の総和(100%)に対して累積割合がX%となる粒子径を、X%粒径(DX)とした時に、累積割合が50%となる粒子径である。また、水酸化アルミニウムは、50%粒径(D50)が4〜6μmの範囲であることが好ましい。シリカ・タルクの粒径については、フィルタ基材1となるセラミックスハニカム構造体の平均細孔径と相関があることが知られており、また、タルク・水酸化アルミニウムは脱水を生じることから、気孔の形成およびフィルタ基材1の収縮率に影響する。水酸化アルミニウムは、さらに収縮率の調整剤的役割を担っている。
【0035】
これらコージェライト原料を、コージェライト組成としてAl2O3、SiO2、MgOがそれぞれ36.5%、49.75%、13.75%になるように配合することで、気孔率50%前後のハニカム構造体とすることができる。その他、必要に応じて、造孔剤となるカーボンやマイクロカプセルを配合させることにより、気孔率を向上させることも可能である。成形用の原料は、コージェライトの原料粉末に、バインダー等の成形助剤と水を配合したものを用い、混練して押出可能な粘土状とした後、公知の押出成形型を用いてハニカム状に成形する。ハニカム成形体は、セル壁11で区画された多数のセル12を有する構造であり、乾燥、仮焼成した後、栓材スラリーを用いて両端の所定のセル12に栓詰めを行う。
【0036】
本発明において、セラミックスフィルタFの栓部13を構成する栓材は、フィルタ基材1と同様に、構成元素としてAl、Si、MgおよびOを含むコージェライトを主成分とするセラミックス材料である。これによりフィルタ基材1と容易に一体化し、同様の耐熱性と低熱膨張係数を有する栓部13とすることができる。ただし、栓材となるセラミックス材料は、要求特性がフィルタ基材1とは異なり、気孔率をフィルタ基材1より小さくすることが望ましい。このために、本発明では、コージェライト原料が、少なくともシリカ、タルク、アルミナを含み、Al源としてアルミナと水酸化アルミニウムを使用することもできる。Al源としてアルミナを主に用いることで、気孔率をより小さくすることができる。また、アルミナと水酸化アルミニウムの配合比率を調整し、焼成工程における寸法変化率を所望の範囲とすることができる。
【0037】
栓材に要求される特性としては、フィルタ基材1に形成される排ガス流入路121、排ガス流出路122の端部を閉塞し、また熱容量部として機能するために、気孔率がフィルタ基材1より小さいこと、焼成時の寸法変化率がフィルタ基材1に近いこと、フィルタ基材1との熱膨張係数の差が小さいことが挙げられる。気孔率が小さくなることで緻密性が向上し、フィルタ基材1との焼成変化率の差が小さくなることで、フィルタ基材1と良好に結合して一体化する。焼成変化率の差は、通常はフィルタ基材1の変化率+6%以内であるとよく、これについては後述する。フィルタ基材1との熱膨張係数の差は、通常は0.5×10−6/℃以内であるとよい。また、栓詰めを作業性よく行なうには、栓材スラリーを、安定した取り扱いやすいスラリー状に調製する必要があり、原料の粒度やスラリーの調製方法も重要である。
【0038】
ここで、焼成時の寸法変化率を同等とするには、例えばフィルタ基材1と同一材料を用い、配合を同じにすればよいが、上述したように、フィルタ基材1の要求特性は、フィルタ機能を最適とするために設定されている。このため、フィルタ基材1用のセラミックス材料をそのまま栓材とすると、気孔率が大きくなり、栓部13の熱容量を向上させる効果が得られない。従来は、異なるセラミック高熱容量材料を使用することで、熱容量を向上させる手法も知られるが、コスト増となりやすい。また、焼成時の収縮率を同一とすることが困難であり、異種材料を接合することにより収縮率履歴の違いから界面に残留応力が発生する、結晶構造的に完全に異種材料を結合させるのは容易でない、といった問題がある。
【0039】
そこで、本発明では、栓材をフィルタ基材1と同じコージェライトを主成分とするセラミックス材料とし、出発原料と粒度を制御することによって、気孔率と焼成変化率を所望の範囲内とすることを検討した。本発明で使用する栓材は、出発原料のうちSi源となるシリカを特定の粒度範囲に制御したものであり、栓材の緻密化を促進するために有効である。具体的には、Si源となるシリカの粒度を、粒度分布曲線における累積割合がX%となる粒子径をX%粒径(DX)とした時に、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲となるように調整する。
【0040】
シリカの粒度を、中間値となる50%粒径(D50)だけでなく、10%粒径(D10)および90%粒径(D90)を規定することで、特定の粒度分布曲線原料とすることができる。ここで、粒度分布の中間値となる50%粒径(D50)を、フィルタ基材1(D50:10〜31μm)に比べて小さくするのは、50%粒径(D50)が大きくなることは、沈降速度を速めることになり、スラリーの取り扱いやすさを悪化させるためである。また、10%粒径(D10)と90%粒径(D90)を、50%粒径(D50)に近づけることで、シャープな粒度分布を有する原料となる。これにより、充填密度が低下し、収縮のしやすい栓材スラリーとなるために、焼成変化率を低く抑え、フィルタ基材1に近づけることができる。その結果、焼成変化率を調整するための水酸化アルミニウムの配合比率を小さくすることができ、気孔率を小さくして栓部13を緻密化することができる。
【0041】
好適には、さらに、Si、Mg源となるタルクの粒度を、50%粒径(D50)が30μm以下の範囲となるように調整することが望ましい。その理由としては、タルクの平均粒径が大きくなることで、収縮のしにくいスラリーとなり、沈降速度も速くなるからで、特に、50%粒径(D50)が30μmを超えると、焼成変化率を所望の範囲に調整しにくくなる。また、タルクの平均粒径が小さくなることで、収縮のしやすいスラリーとすることができる。ただし、タルクは疎水性原料であるため、粒径を小さくしすぎると、疎水原料の比表面積が増えることになり、見かけ上スラリーの親水性が低下する。このため、好適には、50%粒径(D50)が15μmより大きく、30μm以下の範囲となるように調整することが望ましい。タルク粒径が15μm以下であると、見かけのスラリーの親水性が低下して、フィルタ基材1との相性が濡れ性の観点から悪化するためである。
【0042】
アルミナの粒度は、50%粒径(D50)が2.5±2.0μmの範囲であることが望ましい。その理由は、アルミナは比重が他の原料と比較して大きく、沈降しやすいためであり、平均粒径を小さくして、沈降速度が速くなるのを抑制するのがよい。水酸化アルミニウムの粒度は、50%粒径(D50)が、5.0±2.0μmの範囲であることが、沈降速度を他の原料に近づけるために望ましい。また、この範囲は、フィルタ基材1の原料とする水酸化アルミニウム(D50:4〜6μm)と共通するため、収縮率調整剤である水酸化アルミニウムをフィルタ基材1と同一のものを使用すると、コスト低減の観点から好ましい。
【0043】
Al源となるアルミナと水酸化アルミニウムは、アルミナの配合比率が大きくなるほど、気孔率を小さくすることができ、水酸化アルミニウムの配合比率が大きくなるほど、焼成変化率を低くする効果が高い。したがって、シリカ、タルクの粒度を制御し、アルミナと水酸化アルミニウムの配合比率を適切に設定することで、栓部13の緻密性を向上させ、かつフィルタ基材1との焼成変化率の差を小さくする効果を得ることができる。本発明の粒度範囲に制御したシリカを使用することで、Al源をアルミナのみとした場合でも、タルク種によらず焼成変化率の差を6%以内とすることができ、これは、従来のフィルタ基材1と同一材料を用いる場合の目標範囲(寸法変化率の差が7%以内)よりも小さい。栓材の焼成変化率が6%(基材を0%とした時)を超えると、基材端面に焼成後にワレが発生するおそれがあり、好ましくない。
【0044】
好ましくは、水酸化アルミニウム比率を80重量%以下の範囲とするのがよく、栓部13を緻密化し熱容量を増加させる効果が高まる。特に、シリカ、タルクの粒度を上記の範囲に制御し、水酸化アルミニウム比率を80重量%以下の範囲にて適宜調整することで、栓部13の焼成変化率を、フィルタ基材1の焼成変化率+2.5%以内とすることができる。栓材の焼成変化率が2.5%(基材を0%とした時)を超えると、焼成時の栓部13の膨張により基材端面部に膨張が生じ、基材寸法の精度に影響する。より好ましくは、フィルタ基材1の焼成変化率0〜2%以内となるように、水酸化アルミニウム比率を、例えば20〜80重量%の範囲で調整するとよい。栓材の焼成変化率が0%より小さくなると、栓スキマが発生しやすくなる。
【0045】
栓材スラリーは、所定の粒度に調整されたシリカ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウムを、コージェライト組成としてAl2O3、SiO2、MgOがそれぞれ36.5%、49.75%、13.75%になるように配合し、分散剤、水とともに攪拌してスラリー状とすることで得られる。分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリカルボン酸共重合体、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。水分量は、通常、栓材スラリー全体を100重量%とした時に、31〜40重量%(内添加)の範囲に設定される。水分含有率が31重量%未満であると、攪拌初期粘度が高くなり、所望の粘度に達するまでに長時間の攪拌時間となり、また、水分含有率が40重量%を超えると、スラリー粘度が低くなり、ヒケが発生して栓欠陥となりやすく栓部13の緻密性が低下するためである。水酸化アルミニウム比率を低くすると、スラリー粘度を増加させることができ、保水性が向上するので、水分含有率をより低くできる。好ましくは、水分含有率が31〜35重量%の範囲となるようにすると、栓欠陥のおそれが小さくなり栓部13の緻密性を向上できる。
【0046】
この時、好ましくは、コージェライト原料粉末(シリカ・タルク・アルミナ・水酸化アルミニウム)、水、分散剤の投入順を、水→分散剤→アルミナ→水酸化アルミニウム→シリカ→タルクの順番とするのがよい。分散媒である水に予め分散剤を添加しておき、コージェライト原料は粒径の小さいアルミナから順に添加することで、コージェライト原料の分散性を高めることができる。
【0047】
得られた栓材スラリーを用いて栓詰めする工程の一例を、図2に概略図として示す。これに先立ち、フィルタ基材1の端面には、予め目封じするセルを除いてマスキングを施しておく。フィルタ基材1の端面に開口するセルを栓詰めするために、図2に示すデイップ皿2を用い、栓詰め工程(1)、(2)に示すように、デイップ皿2に栓材スラリー3を流し込み、表面を均等に整えてデイップ皿2深さに充填する。栓詰め工程(3)において、フィルタ基材1をデイップ皿2に浸漬し、開口するセル内に栓材スラリー3を充填し、毛細管現象を利用して栓詰めする。
【0048】
栓詰め工程に使用するデイップ皿2の大きさは、フィルタ基材1のサイズ、栓部13の長さ等に応じて設定される。例えば、本実施形態のフィルタ基材1に対して、デイップ皿2の深さは、2〜6mm(所望の栓長さ±2mm)、フィルタ基材1とデイップ皿3のクリアランスは2mm以下として、デイップを行うことができる。栓部13の長さは、フィルタ基材1のろ過面積をできるだけ大きく確保しつつ、栓強度を保持するために、5.0mm以下であることが望ましい。
【0049】
その後、同様にして他方の端面にも栓詰めを行い、本焼成を行って、フィルタ基材1の両端部に栓部13を形成する。このようにして得られたセラミックスフィルタFは、栓部13がフィルタ基材1と同材質であるので、焼成工程において溶融一体化しやすく、また、収縮率の差が小さくなるように調整されているので、境界部が良好に密着する。そして、緻密化により熱容量が向上し、耐熱衝撃性の高いセラミックスフィルタFとなる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本実施例で製造したセラミックスフィルタFは、図1、2に示す形状のものであり、サイズはΦ160×L100とした。
【0051】
(フィルタ基材1の製作)
まず、フィルタ基材1を製作するために、コージェライト原料として、溶融シリカ、タルク、水酸化アルミニウムを用い、コージェライト組成としてAl2O3、SiO2、MgOがそれぞれ36.5%、49.75%、13.75%になるように調合した。表1に、使用原料と配合比を示す。調合原料に、成形助剤として、有機バインダ(メチルセルロース、表中MC)と潤滑剤、水を添加し、混練して押出可能な坏土とした。表中、コージェライト原料の粒径とは、粒度分布曲線における50%粒径(D50)である。配合比は重量%で表し、溶融シリカ、タルク、水酸化アルミニウムは、コージェライト原料中の含有量、成形助剤はコージェライト原料を100(重量%)とした時の添加量である。
【0052】
【表1】
【0053】
その後、原料坏土を、ハニカム押出成形型で押し出し成形し、ハニカム成形体を得た。押し出し条件は、押し出し圧力が100〜200kg/cm2、0.1〜0.2m/min、原料温度が10〜20℃である。次いで、得られたハニカム成形体を、マイクロ波加熱により乾燥させ、その後、所望の長さに切断して乾燥体とした。次に、乾燥体を仮焼成して、ハニカム構造の仮焼体とした。仮焼成工程は、最高保持温度1380〜1435℃で3〜5時間保持することによって行った。さらに、得られた仮焼体の端面にマスキングを行い、栓詰めすべきセルのみを開口させた。
【0054】
(栓材スラリーの調製)
栓詰め工程に用いる栓材スラリーの調製は、以下のようにして行った。表2に、使用原料と配合比を示す。コージェライト原料としては、シリカ、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナを用い、コージェライト組成としてAl2O3、SiO2、MgOがそれぞれ36.5%、49.75%、13.75%になるように調合した。ここでは、アルミナ源であるアルミナと水酸化アルミニウムの配合比率は、アルミナ:水酸化アルミニウム=7.2重量%:21.7重量%(全使用原料中)=25重量%:75重量%(アルミナ源の原料中)の配合例を示している。分散剤としては、ポリカルボン酸アンモニウムを用いた。表中、配合比は重量%で表し、水、分散剤は、使用原料中の含有量である。
【0055】
栓材となるコージェライトの原料粉末として使用したシリカ、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナの粒度分布を表3〜6に、粒度分布曲線を図3〜6にそれぞれ示した。表3、図3に示されるように、シリカは、粒度分布の異なる3種類のシリカA〜Cを用意した。このうちのシリカAは、10%粒径(D10)が2.484μm、50%粒径(D50)が5.063μm、90%粒径(D90)が8.187μmであり、本発明で規定する範囲内にある。シリカBは、50%粒径(D50)は5.1μmとシリカAと同等であるものの、10%粒径(D10)は1.793μmで2.0μmより小さく、90%粒径(D90)は24.16μmで10μmを大きく超え、ばらつきが大きいものである。シリカCは、50%粒径(D50)が6.63μmで5.0μm±2.0μmの範囲にあるものの、10%粒径(D10)は1.73μm、90%粒径(D90)は27.39μmで、ばらつきがより大きくなっている。
【0056】
また、表4、図4に示されるように、タルクは、粒度分布の異なる3種類のタルクD〜Fを用意した。このうちのタルクDは、50%粒径(D50)が34.38μmであり、30μmを超えているもの、タルクFは、50%粒径(D50)が14.71μmであり、15μm以下のものである。タルクEは、50%粒径(D50)が22.36μmであり、タルクDとタルクFの間にある。表5、図5に示されるように、水酸化アルミニウムは、50%粒径(D50)が5.88μmで、5.0μm±2.0μmの範囲にあるもの、表6、図6に示されるように、アルミナは、50%粒径(D50)が2.134μmで、2.5μm±2.0μmの範囲にあるものを用いた。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
栓材スラリーは、これらコージェライト原料、水、分散剤を、5Lポットに水、分散剤、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、タルクの順番に投入し、攪拌羽根を有する攪拌機を用いて調製した。攪拌機の回転数は200rpmとし、スラリー粘度が200〜400(mPa.s)になるように攪拌した。この時、コージェライト原料のうちシリカとタルクについては、シリカA〜CとタルクEをそれぞれ組み合わせたものを準備し、それぞれ同様の方法で栓材スラリーを得た。
【0063】
(栓詰め工程)
得られた3種類の栓材スラリーを使用して、図2に示した栓詰め工程に従ってハニカム基材1の栓詰めを行った。この時の条件としては、約3mm深さのデイップ皿を使用し、皿深さまで栓材スラリーを流し込んだ後、フィルタ基材1の端面をディップすることにより、セルの開口部内に栓材スラリーを充填した。デイップ時間は30〜60secで実施した。栓長さは平均で3.2mmであった。同様にして、フィルタ基材1の両端面に栓詰めを行い、その後、本焼成工程を実施して、ハニカム基材1と栓部13を一体化させた。本焼成条件は、最高保持温度1425〜1435℃で、保持時間19〜21時間とした。シリカAとタルクEを組み合わせた栓材スラリーを用いたセラミックフィルタFは、外観が良好で、基材端面にワレや膨張は見られなかった。これに対して、シリカB、CとタルクEを組み合わせた栓材スラリーを用いたセラミックフィルタFは、基材端面において栓部13の膨張が見られた。
【0064】
(シリカ粒度の評価)
表7の配合比とした試料1〜3の栓材スラリーについて、シリカの粒度分布と焼成変化率の関係を調べ、表7に示した。評価には、基材を削りだしスラリーを鋳込んで作成したサンプルを用いた。ここで、焼成変化率(%)は、焼成工程における栓材の寸法変化率であり、フィルタ基材1の寸法変化率(以下、適宜基材変化率という)を基準(0%)として示している。表に明らかなように、シリカB、Cを用いた試料2、3では、焼成変化率が2.5%(基材変化率+2.5%)を超えているが、シリカAを用いた試料1では、焼成変化率が2.1%と、試料2、3に比べて焼成変化率が大幅に改善されている。したがって、収縮率調整のために水酸化アルミニウムの含有率を高くする必要がなく、水酸化アルミニウムの含有率を約20%と低くしながら、焼成変化率をハニカム基材1に近づけることができる。そして、基材端面部の膨張といった基材寸法への影響をなくし、高品質なセラミックフィルタFが得られる。しかも、水酸化アルミニウムの含有率が低いので、気孔率が小さくなり、栓部13の緻密性を向上できる。
【0065】
【表7】
【0066】
図7は、次に、シリカA〜Cを使用した試料1〜3の栓材スラリーについて、水酸化アルミニウムとアルミナの配合比率を0:100〜100:0の範囲で変化させた時の、焼成変化率を調べた結果である。図中、横軸はアルミナ源となる原料中の水酸化アルミニウムの含有比率(重量%)であり、縦軸は栓材の焼成変化率である(基材変化率を0%とする)。図に明らかなように、試料1では、水酸化アルミニウム含有比率を増加させていくと、焼成変化率は小さくなっていき、約80重量%で、基材変化率とほぼ一致する。これに対して、試料2、3では水酸化アルミニウムが90重量%を超えないと基材変化率とほぼ同等とならない。また、試料2、3では水酸化アルミニウムが25重量%程度で、焼成変化率が2.5%を超え、0重量%(アルミナ100重量%)では焼成変化率が3%を超えてしまうのに対して、試料1では、水酸化アルミニウムが0重量%でも、焼成変化率2.5%以内とすることができる。
【0067】
したがって、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲にあり、よりシャープな粒度分布を有するシリカAを採用し、収縮率の調整剤となる水酸化アルミニウムの配合割合を制御することで、所望の焼成変化率と緻密性を実現することができる。
【0068】
(タルク粒度の評価)
図8は、シリカAを使用した試料1について、さらにタルクの粒度の影響を調べた結果である。試料1において使用したタルクEに代えて、粒度分布の異なる2種類のタルクD、Fを用いて同様の方法で栓材スラリーを調製し、さらに水酸化アルミニウムとアルミナの配合割合を0:100〜100:0の範囲で変化させた時の、焼成変化率を調べた。図中、横軸は水酸化アルミニウムの含有比率(重量%)であり、縦軸は栓材の焼成変化率である(基材変化率を0とする)。
【0069】
図に明らかなように、50%粒径(D50)が大きくなるほど、焼成変化率が大きくなる傾向にあるが、タルクD〜Fのいずれも用いた場合も、水酸化アルミニウム重量比率を調整することで、所望の焼成変化率を実現することができる。例えば、タルクEより50%粒径(D50)が大きいタルクDを用いた場合、焼成変化率は最大で約6%(水酸化アルミニウム100重量%)であり、水酸化アルミニウム重量比率を大きくすることで、焼成変化率をより小さくし、フィルタ基材1に近づけることができる。タルクEより50%粒径(D50)が小さいタルクFを用いた場合には、水酸化アルミニウム0重量%でも十分小さい焼成変化率となり、水酸化アルミニウム50重量%前後で、フィルタ基材1とほぼ同等となる。
【0070】
したがって、焼成変化率をより小さくするには、シリカの粒度分布を制御するとともに、タルクDより50%粒径(D50)を小さくするのがよく、タルクの50%粒径(D50)が30μm以下であるタルクE、Fを用いることで、水酸化アルミニウム含有比率を大きくすることなく、2.5%以下、好ましくは2%以下の焼成変化率を実現することができる。また、タルクE、Fを用いた栓材スラリーを比較すると、タルクEの方がフィルタ基材1との濡れ性が良好であり、栓材スラリーの親水性を考慮すると、タルクの50%粒径(D50)が15μmより大きく30μm以下であるタルクEがより望ましい。
【0071】
図9(a)、(b)は、水酸化アルミニウム0重量%とした時のシリカ種、タルク種による焼成率変化を比較した図である。図9(a)の試料4〜6、図9(b)の試料7〜9の栓材スラリーに使用した原料と配合比率を、焼成変化率とともにそれぞれ表8、9に示す。試料4〜6は、試料1と同様にシリカA〜CとタルクEを組み合わせたものであり、試料7〜9は、タルクD〜FとシリカAを組み合わせたものである。いずれも原料に水酸化アルミニウムを使用せず、Al源をアルミナのみとして、コーディエライト組成となるように調合した。表中の分散剤・水は、コーディエライト原料の総重量に対する添加量の重量比率である。図中には、試料1の焼成変化率と目標変化率(基材変化率+2.5%)を併せて示した。
【0072】
【表8】
【0073】
【表9】
【0074】
図9(a)、表8に示すように、シリカAを用いた試料4が最も収縮しており、焼成変化率が低い。シリカAを用いた試料4、シリカBを用いた試料5、シリカCを用いた試料6の順に収縮しにくいことがわかる。これは上記試料1〜3と同じ傾向であり、シリカAを用いた試料4のみが目標変化率以内にある。したがって、従来は、水酸化アルミニウムを添加することで、焼成変化率を低くしていたが、シリカAのように粒度分布を制御することで、水酸化アルミニウムを含有しないか含有比率が小さくても、収縮しやすい栓材スラリーとし、焼成変化率を低く抑えて緻密性を向上できることがわかる。
【0075】
また、図9(b)、表9に示すように、タルクDを用いた試料7、タルクEを用いた試料8、タルクFを用いた試料9の順に焼成変化率が低く、タルクの50%粒径(D50)が小さいほど収縮しやすいことがわかる。したがって、シリカの粒度分布と、タルクの平均粒子径を組み合わせて制御することで、水酸化アルミニウムを含有しないか含有比率が小さくても、収縮しやすい栓材スラリーとし、焼成変化率を低く抑えて緻密性を向上できることがわかる。
【0076】
また、表10に、シリカAとタルクD〜Fを組み合わせた試料7〜9について、焼成後の基材端面ワレ、基材寸法、スラリー調製時の濡れ性について調べた結果を、焼成変化率と共に示した。表10には、シリカB、CとタルクDを組み合わせた試料についての結果も併せて示す。表に明らかなように、シリカAを用いた試料では、タルクの種類によらず、焼成変化率が6.0%以内となり、焼成後の基材端面ワレを防止することができる。さらに、タルクを選択することで、水酸化アルミニウムを使用せずに、焼成変化率が2.5%以内とすることができ、濡れ性も良好となる。これに対して、シリカB、CとタルクDを用いた試料では、焼成変化率が6.0%を超えており、端面ワレが発生しやすい。タルクFを使用すると、焼成変化率は小さくなるものの、濡れ性が悪化しやすくなる。
【0077】
【表10】
【0078】
(水酸化アルミニウム含有比率と緻密性)
図7に示したように、Al源となるアルミナと水酸化アルミニウムの配合比率を変化させた時、水酸化アルミニウムを増加させていくと収縮しやすいが、気孔率も増加する。図10(a)、(b)は、水酸化アルミニウム含有比率の異なる栓材スラリーを用いた時の、本焼成後の栓部13の緻密性を比較した電子顕微鏡写真であり、(a)はアルミナと水酸化アルミニウムの配合比率=100:0(重量%)、(b)はアルミナと水酸化アルミニウムの配合比率=0:100(重量%)としたものである。図10(a)は、試料4に相当するもので、アルミナのみを含有し、気孔率調整のために添加される水酸化アルミニウムを含有しないので、気孔が存在せず、緻密な構造となっている。
【0079】
一方、図10(b)は、アルミナを含有せず、多孔質のフィルタ基材1と同等組成となっているため、気孔が存在し、緻密性は低下している。また、フィルタ基材1と栓部13の境界部に、栓スキマの欠陥の発生が見られる。これは、水酸化アルミニウムが焼成の過程で脱水収縮して気孔を形成すること、また図7に示したように、シリカAを用いた場合には、従来の栓材スラリーに比べて収縮しやすくなり、水酸化アルミニウム含有比率が100重量%では、焼成変化率がマイナスとなるためである。この時、フィルタ基材1より変化率が小さくなるために、フィルタ基材1と栓部13とが十分密着せず、栓スキマが生じると推察される。
【0080】
このように、水酸化アルミニウムの含有比率が増加するとともに、緻密性が低下し、欠陥が生じやすい形状となることがわかる。したがって、緻密性を高くして熱容量を向上させるには、所望の焼成変化率が得られる範囲で、水酸化アルミニウムの含有比率を低く抑えるとよい。
【0081】
(栓材スラリーの水分含有率)
また、図10(c)に示すように、水酸化アルミニウムの含有比率を0から増加させていくと、栓材スラリーの粘度は低下していく。つまり、水酸化アルミニウムを少なく含有することは、栓材スラリーの粘度が増加することになり、栓材スラリーからフィルタ基材1への水分の移動が抑制される。これは、栓材スラリーの保水性が向上することにつながり、栓材スラリーの水分含有率を、従来より低くすることができる。
【0082】
図11(a)は、栓材スラリーの水分含有率と粘度の関係を示す図で、水分の増加とともに急激に粘度は低下し、38〜40重量%でほぼ一定とする。図11(b)は、栓材スラリー中の水分含有率を31重量%、38重量%とした時の栓部13の強度を比較した図であり、図12(a)、(b)は、それぞれのX線CT画像である。また、図13(a)〜(c)は、水分含有率を31重量%、34重量%、38重量%とした時の、フィルタ基材1と栓部13の接合状態を示す電子顕微鏡写真であり、図14(a)〜(c)は、水分含有率を31重量%、36重量%、38重量%とした時の、栓部13の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【0083】
図11(b)から、水分含有率31重量%、38重量%における栓強度には大きな差異は見られず、水分含有率が40重量%程度以下であれば、強度への影響はないといえる。ただし、図12(a)、(b)、図14(a)〜(c)のように、水分が多くなることで、緻密性が低下していることがわかる。また、図13(a)の栓部13に対し、図13(b)、(c)の栓部13は、中央部にヒケが発生し、図13(c)の栓部13は、ヒケが大きくなっている。これは、水分含有量が高いことで、粘度が低下し、デイップ後の栓の保形性が低下するためと考えられる。
【0084】
以上により、緻密性を向上させ、栓欠陥の可能性を小さくするには、好ましくは、水分含有率を38重量%より低くし、例えば31〜35重量%程度の範囲とするとよい。
【0085】
(SML:PM堆積許容量限界の評価)
緻密栓材を用いた本発明のフィルタ基材1と、従来の高気孔栓材を用いたフィルタ基材について、再生時の最高温度を比較した。本発明のフィルタ基材1は、シリカAとタルクEを組み合わせ、水酸化アルミニウム比率0重量%とした(焼成変化率2.5%)試料4の栓材スラリーを用いて得られたものであり、従来のフィルタ基材は、シリカCとタルクDを組み合わせ、水酸化アルミニウム比率100重量%とした(焼成変化率2%)試料を用いて得られたものである。フィルタ基材のサイズは同じであり(Φ160×L100)、それぞれパティキュレートを6g堆積させたものについて、所定の再生処理を行い、パティキュレート燃焼による温度上昇を調べた。その結果、従来のフィルタ基材は、最高温度が触媒劣化温度に達しているのに対し、本発明のフィルタ基材1は、再生時の最高温度が約30℃程度低くなった。これにより栓部13を緻密にした本発明のフィルタ基材1は、熱容量が大きいために、同じPM量を燃焼させた場合に温度が上がりにくく、耐熱性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のセラミックスフィルタは、内燃機関の排気通路に設置されて、排出される燃焼ガス中のパティキュレートを効果的に捕集する。また、耐熱衝撃性に優れるので、再生時にパティキュレートの燃焼で温度上昇しても、フィルタ基材の損傷を防止する効果が高い。自動車以外の内燃機関に利用することも可能である。
【符号の説明】
【0087】
F セラミックスフィルタ
1 フィルタ基材
11 セル壁
12 セル
121 排ガス流入路
122 排ガス流出路
13 栓部
2 ディップ皿
3 栓材スラリー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設置されて、排ガス中のパティキュレートを捕集するセラミックスフィルタであって、構成元素としてAl、Si、MgおよびOを含むコージェライトを主成分とする多孔質セラミックスハニカム構造体をフィルタ基材とし、該フィルタ基材の両端部において、排ガス通路となる上記セラミックスハニカム構造体の多数のセルの上流端または下流端を栓詰めした栓部を有しており、
上記栓部を構成する栓材を、コージェライトを主成分とするセラミックス材料とし、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、アルミナを用いるとともに、このうちSi源となるシリカの粒度を、粒度分布曲線における累積割合がX%となる粒子径をX%粒径(DX)とした時に、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲に調整したことを特徴とする排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項2】
上記栓部を構成する栓材は、コージェライト原料のうちSi、Mg源となるタルクの粒度を、50%粒径(D50)が15μmより大きく30μm以下の範囲となるように調整した請求項1記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項3】
上記栓部を構成する栓材は、栓詰め後に焼成した時の寸法変化率が、フィルタ基材の寸法変化率+2.5%以内である請求項2記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項4】
上記栓部を構成する栓材は、コージェライト原料のうちAl源としてアルミナおよび水酸化アルミニウムを用いる請求項1ないし3いずれか1項に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項5】
上記栓部を構成する栓材は、アルミナおよび水酸化アルミニウムの総重量に対する水酸化アルミニウムの配合比率を80%以下とした請求項4記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項6】
上記フィルタ基材は、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、水酸化アルミニウムを用いる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項7】
上記栓部を構成する栓材は、少なくともコージェライト原料と水分を含む栓材スラリーとして栓詰めされ、該栓材スラリー中の水分含有率を38重量%より低くした請求項1ないし6いずれか1項に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設置されて、排ガス中のパティキュレートを捕集するセラミックスフィルタであって、構成元素としてAl、Si、MgおよびOを含むコージェライトを主成分とする多孔質セラミックスハニカム構造体をフィルタ基材とし、該フィルタ基材の両端部において、排ガス通路となる上記セラミックスハニカム構造体の多数のセルの上流端または下流端を栓詰めした栓部を有しており、
上記栓部を構成する栓材を、コージェライトを主成分とするセラミックス材料とし、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、アルミナを用いるとともに、このうちSi源となるシリカの粒度を、粒度分布曲線における累積割合がX%となる粒子径をX%粒径(DX)とした時に、10%粒径(D10)が2.0μm以上、50%粒径(D50)が5.0μm±2.0μm、90%粒径(D90)が10μm以下の範囲に調整したことを特徴とする排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項2】
上記栓部を構成する栓材は、コージェライト原料のうちSi、Mg源となるタルクの粒度を、50%粒径(D50)が15μmより大きく30μm以下の範囲となるように調整した請求項1記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項3】
上記栓部を構成する栓材は、栓詰め後に焼成した時の寸法変化率が、フィルタ基材の寸法変化率+2.5%以内である請求項2記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項4】
上記栓部を構成する栓材は、コージェライト原料のうちAl源としてアルミナおよび水酸化アルミニウムを用いる請求項1ないし3いずれか1項に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項5】
上記栓部を構成する栓材は、アルミナおよび水酸化アルミニウムの総重量に対する水酸化アルミニウムの配合比率を80%以下とした請求項4記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項6】
上記フィルタ基材は、コージェライト原料として少なくともシリカ、タルク、水酸化アルミニウムを用いる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【請求項7】
上記栓部を構成する栓材は、少なくともコージェライト原料と水分を含む栓材スラリーとして栓詰めされ、該栓材スラリー中の水分含有率を38重量%より低くした請求項1ないし6いずれか1項に記載の排ガス浄化用セラミックスフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−230028(P2011−230028A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100830(P2010−100830)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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