説明

排尿情報計測システム

【課題】 男性の一般的な排尿姿勢である立位で排尿できる小便器に対して排尿情報計測機能を付加すると共に、下水配管の特性に影響されることなく測定が可能で、かつ、衛生設備部材としての快適性を維持するものである。
【解決手段】 本発明では、排泄された尿を集めるためのボール面を有した小便器と、前記ボール面と下水配管とをつなぐ排尿配管と、前記排尿配管の途中に下方に屈曲した管路からなり管路を水封するための溜水を保持するためのトラップ部を有し、前記ボール面に排泄される尿の量や排泄速度等の尿排泄情報を計測する排尿情報計測システムにおいて、前記排尿配管には前記ボール面からの尿が流入する流入口と前記溜水との間に空気部が配設され、該空気部には排泄された尿の前記溜水への流入を制限する流量制限手段を有し、さらに前記空気部近傍には前記流量制限手段から前記空気部へ流入する尿の尿流状態を測定ための尿流速測定手段を配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、小便器に尿量測定機能を配することに係り、特に男性の一般的な排尿姿勢である立位からの排尿で、泌尿器系疾病指標を得ることに好適な排尿情報計測システムに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の排尿情報計測システムには、洋風大便器に対して排尿情報計測システムを加えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この例では、排泄された尿を便器のボール面で集めて便器の溜水部に貯留してその水位変化を測定することによって排尿量を求めるとともに、その成分濃度をあわせて測定して両者の結果より排泄された成分量を求めるている。
【0004】
このような場合、男性が一般的に排尿を行う立位での排泄を行うと、便器周囲を尿飛沫で汚してしまい後の使用者や掃除を行う方が不快感を感じるという問題があった。
【0005】
また水洗式便器として下水配管に接続されることになるが、他の設備器具を使用することで下水配管内部に発生する水の流れによって配管内に±40mm水柱以内となるよう基準化された圧力変動が発生することから、その圧力変動が便器に加わっているタイミングでは測定対象の溜水部の水位が変化して尿量測定ができないという問題があった。
【0006】
また、小便器に排尿情報計測機能を加えたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
この例では、小便器のボール面によって尿を収集して排水口から計量容器に貯留し、その重量や水位変化を計測することによって、排尿量を求めている。
【0008】
しかし、この場合もトラップ部がなく尿を貯留するための開閉弁を下水配管との縁切りに使用して開閉弁は貯留する尿に接触する構成となっている。そのため開閉弁は、付着した尿の腐敗による異臭の発生源となったり、尿に含まれる塩分等の析出により長期間の動作信頼性が確保できないという問題があった。
【0009】
また、小便器を利用して排尿情報の内、特に尿量測定に着目したものもある(例えば、特許文献3参照。)。
【0010】
この場合、尿量によって洗浄水量を変えることを目的としたものであり、尿量測定のために下水配管と接続されるトラップ部の水位変化を圧力センサーで測定している。しかしながら、下水配管内圧力変動の影響を受けるトラップ部の圧力測定を行っているため、尿量の測定精度としては医学的な指標として利用可能な5%程度の測定精度を実現することはできず、尿量の目安に対して洗浄水量を変更するというレベルの利用方法に限るものであった。
【0011】
【特許文献1】特開2003−302397号公報
【特許文献2】特開平4−164214号公報
【特許文献3】特開平10−037284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、男性の一般的な排尿姿勢である立位で排尿できる小便器に対して排尿情報計測機能を付加すると共に、下水配管の特性に影響されることなく測定が可能で、かつ、衛生設備部材としての快適性を維持するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、排泄された尿を集めるためのボール面を有した小便器と、前記ボール面と下水配管とをつなぐ排尿配管と、前記排尿配管の途中に下方に屈曲した管路からなり管路を水封するための溜水を保持するためのトラップ部を有し、前記ボール面に排泄される尿の量や排泄速度等の尿排泄情報を計測する排尿情報計測システムにおいて、前記排尿配管には前記ボール面からの尿が流入する流入口と前記溜水との間に空気部が配設され、該空気部には排泄された尿の前記溜水への流入を制限する流量制限手段を有し、さらに前記空気部近傍には前記流量制限手段から前記空気部へ流入する尿流の単位時間当たりの流速を測定ための尿流速測定手段を配設したことを特徴とする。
【0014】
このことにより、尿量だけでなく前立腺肥大症に代表される男性で一般的な泌尿器疾病の指標である尿流の時間変動(尿流率)および尿流時間等の排尿情報をも測定することができるため、より広範な疾病の判断情報を得ることができる。
【0015】
上記目的を達成するために請求項2記載の発明によれば、前記尿流速測定手段は前記空気部の前記排尿配管の外部に設置されていることを特徴とする。
【0016】
このことにより、小便器に排泄された尿流速測定を配管壁を隔壁として測定することができるため、尿流速測定手段が尿に接触することがなくなり、長期間の安定した動作信頼性を確保することができる。
【0017】
また、請求項3記載の発明のよれば、前記流量制限手段は脱着可能なことを特徴とする。
【0018】
このことにより、尿の腐敗に起因する尿石が発生して測定誤差を生じる場合に、流量制限手段を取り外せるため、酸洗いによる尿石の除去作業することを可能とした。
【0019】
また、請求項4記載の発明のよれば、前記流量制限手段の上流側に、便器洗浄水や測定対象となる尿以外の異物を除去するための異物除去手段を配設したことを特徴とする。
【0020】
このことにより、小便器ボールにいたずらでごみ等を捨てられたとしても尿流計測部である空気部に到達して尿の流下状態が変化することを防止できるため、測定機能の保全を可能とした。
【0021】
また、請求項5記載の発明のよれば、尿流速測定手段は前記トラップ部の上流側で、かつ溜水上端より40mm以上上方の位置に配設されていることを特徴とする。
【0022】
このことにより、建築基準法で規格化されている下水配管内の圧力変動が発生しても、尿流速測定手段が水没することがないため、汚水による汚染故障なども発生することがなくなるため、支障なく排尿情報を測定することをを可能とした。
【0023】
また、請求項6記載の発明のよれば、排泄された尿を集めるためのボール面を有した小便器と、前記ボール面と下水配管とをつなぐ排尿配管と、前記排尿配管の途中に下方に屈曲した管路からなり管路を水封するための溜水を保持するためのトラップ部を有し、前記ボール面に排泄される尿の量や排泄速度等の尿排泄情報を計測する排尿情報計測システムにおいて、前記溜水の水位を計測する水位計測手段と、前記溜水より下流側の前記排尿配管の管路を開閉する管路開閉手段と、計測動作に応じて前記管路開閉手段の動作を制御する管路開閉制御手段と、を有することを特徴とする。
【0024】
このことにより、建築基準法で規格化されている下水配管内の圧力変動が発生しても、計測動作時には排尿配管を閉止して圧力変動の影響を遮断し、計測動作時以外は排尿配管を開放して排液することが可能となるため、測定専用便器としてだけでなく一般の排尿用便器としても支障なく排尿情報を測定することをを可能とした。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、男性の一般的な排尿姿勢である立位で排尿できる小便器に対して排尿情報計測機能を付加すると共に、下水配管の特性に影響されることなく測定が可能で、かつ、衛生設備部材としての快適性が維持できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の形態に関し、以下に図を用いて詳説する。
【実施例】
【0027】
図1は、本発明の排尿情報測定システムを組み込んだ小便器の第一の実施例を示す斜視図である。
【0028】
本発明を組み込んだ小便器ユニット1は、一般的に陶器製の小便器10と、図示しない下水配管へ連接された排尿配管とで構成されている。
さらに、排尿配管には排尿情報の収集手段を組み込んだ機能部20が設けられている。このようにして、ボール面11に排泄された尿は、本発明の小便器で排尿情報を収集した後、洗浄水と共に下水配管に排出されるようになっている。
【0029】
図2は、本発明の排尿情報測定システムを組み込んだ小便器の第一の実施例の構成の詳細を示す断面図である。排尿配管は下水配管との縁切りのための封水として機能する溜水22を持つトラップ部23と、小便器10とトラップ部23との間に配設された機能部20とによって構成されている。以下にその詳細を説明する。
【0030】
機能部20はトラップ部23と小便器10のボール部11とを連結する連結配管31を含んで構成されており、連結配管31の内部は通常は空洞で空気部32を形成している。さらに、連結配管31の外側には空気部を流下する尿の流速を測定する尿流速測定手段として流速計21が配置されている
使用者が排尿を行うボール面11と機能部20の連結部には、目皿12が配置されている。目皿12の中央には、流量制限手段として連結配管31の配管径より小さな開口13が設けられている。一般的な目皿に設けられる開口13の大きさは、使用者のイタズラ等によって廃棄されるゴミなどが下水配管に流出するのを防止するものであるが、本発明では合わせて機能部に流出する尿流の径を定量化する働きをも併せ持っている。
【0031】
目皿12はボール面11に対して乗せる、もしくは目皿12はボール面11間に設けらるネジ対偶を回動するだけで脱着可能であり、尿に起因する尿石などが付着しても酸洗いや、ブラシなどによる物理的な洗浄行為で清浄性が常に保たれるよう配慮されている。目皿12の材質としては、ボール面12と同材質の陶器が耐環境性的に推奨されるものであるが、適宜交換することを前提として、ポリプロピレンなど耐薬品性を配慮した樹脂を採用しても良い。
目皿は前述したように、機能部に流出する尿流の径を定量化する働きを持たせるため、測定に最適な穴径にすることが必要になる。したがって、本システムの設置環境によっては目皿の上にさらに複数の細孔を持ったフィルター板を異物除去手段として設置することも考えられる。その場合は、尿流速の時間変動の計測に際しては、フィルター板による時間的遅れを考慮した校正を行って計測する必要がある。
【0032】
男性の一般的な排尿速度は実験によると15±10mL/秒程度であるから、遅滞なき流れを作るために開口13の径は約φ5mm程度に設定している。機能部20の配管は途中で上方に屈曲しており、下水配管との縁切りを行うための水封水として機能する溜水22を貯めている。溜水22は下水配管内で発生した水流による圧力変動が発生しても、水封が切れたりせず、下水配管内の臭気や衛生害虫がトイレ内に入るのを防止している。
【0033】
ここで、トラップ部23の封水深24は、建築基準法施工令により50mm以上100mm以下となるように設定される。また、下水配管内で発生する圧力変動は、一般には下水配管サイズと通気構造の採用により±40mm水柱の範囲となるように設計されている。したがって、本実施例では溜水面の上方40mm以上の位置に流速計21を配置して万一の水没を防止している。
【0034】
流速計21は、本例では尿流に対して超音波を照射し、尿流中の気泡殻の反射波を検出し、その波長のドップラー効果で計測を行うものである。目皿12の開口13の径は定まっているから、その断面積に対して、流速計21で測定した速度を乗じることにより、単位時間当たりの流量が測定され、これが医療分野で使用される尿の排泄速度の指標のひとつの尿流率ということになる。
【0035】
さらには、流れの時間的変化を検出できるのであるから、流れを検出した時間により排尿時間や尿流時間や最大尿流率到達時間など、泌尿器系の疾病を診断するために用いられる尿流率以外の排尿情報も得られることになる。
【0036】
なお流速計21の測定方式としては、前述のドップラー方式だけでなく、過熱した抵抗体が液体の流れによって冷却されることを温度で検出する方式や、タービン水車が回転する回転数で検出する方法などがあるが、尿は電解質を含み腐食性があるため非接触の測定方法を採用した方が長期的な信頼性としては優れている。
【0037】
図3は、本発明の排尿情報測定システムを組み込んだ小便器の第ニの実施例の構成を示す断面図である。本例は機能部20を小便器10の背後に配設し、さらに、測定時には溜水22に連接されている下水配管の圧力変動を遮断する閉止弁を設けて、溜水22の水位変化を水圧変化として測定して排尿情報を得る構成としている。以下にその詳細を説明する。
【0038】
使用者が排尿を行うボール面11の下方に接続されたトラップ部23の中には溜水22があり、壁部に係止された機能部20を介して、図示しない下水配管に尿を排出するようになっている。溜水22は下水配管内で発生した圧力変動が発生しても、水封が切れたりせず、下水配管内の臭気や有害昆虫がトイレ内に入るのを防止している。下水配管内で発生する圧力変動は、下水配管サイズと通気構造の採用により±40mm水柱となるよう設計されているため、トラップ部の封水深24は、建築基準法施工例により50mm以上100mm以下となるように設定される。本実施例ではトラップ部23と図示しない下水配管の間に開閉弁25が設けられており、測定時に閉止すると前記下水配管内部で発生した圧力変動が溜水22に伝わらないようになっている。
【0039】
トラップ部23の底部には水位測定手段26が接続されている。水位測定手段としては、圧力センサーによって水位変化を水圧変化として測定している。圧力センサーは各種のものが考えられるが、シリコンチップの変形を検出する半導体圧力センサーが要求精度や尿と接することによる腐食対策面でも推奨される。また、水位測定手段としては圧力変化による方法以外にも、慣用的に用いられている各種の水位測定センサーを用いて直接水位変化を測定するようにしてもよい。
【0040】
測定する際には使用開始の信号によって先ず開閉弁25を閉止して、下水配管内で発生した圧力変動が溜水22に伝わらないようにする。この状態で使用者がボール面11に排尿すると、トラップ部23中の溜水22は水位が上昇することになるが、その水位上昇の時間的変動具合は水位測定手段26によって測定されることになる。水位は配管内体積と一対一の対応を持っているため、単位時間当たりの尿量変化が検出され、その値から泌尿器系の疾病を診断する排尿情報が得られることになる。
【0041】
開閉弁25の構造としては、ボール弁構造を採用すれば、尿の排出断面積の確保、陰毛などの異物の引っ掛り防止、および、下水配管内の圧力変動遮断機能の両立ができる。弁体としてはステンレス、弁体のシール部材としてはテフロン(登録商標)を採用すれば、尿や洗剤と接触して腐食等が発生することを防止できる。
【0042】
図4は、本発明の排尿情報測定システムを組み込んだ小便器の第三の実施例の構成を示す断面図である。本例は小便器のボール面の中に尿を収集する採尿容器を配設して排尿容量や排尿速度等の排尿情報の測定を行うものである。以下にその詳細を説明する。
【0043】
使用者が排尿を行うボール面15の上方に、尿を受ける採尿ボール16を配置している。採尿ボール16の底部には開閉弁17が配設されており、小便器ユニット1の洗浄動作に合わせて弁体を開動させるようにしている。採尿ボール16は直接下水配管と接続されていないため、下水配管内で発生した圧力変動が尿混じりの溜水に伝達されることがないため、尿混じりの溜水の水位測定が容易になる。
【0044】
なお前述した第1実施例と第二実施例では、小便器ユニット1の洗浄動作によって機能部分が洗浄されることになるが、本例では小便器ユニット1の図示しない洗浄配管を途中で分岐して採尿ボール16に導くことで洗浄を行い、機能部分の衛生性を保つこととしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の本発明の排尿情報測定システムを組み込んだ第一の実施例の概観を示す斜視図である。
【図2】本発明の排尿情報測定システムを組み込んだ小便器の第一の実施例の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の排尿情報測定システムを組み込んだ小便器の第ニの実施例の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の排尿情報測定システムを組み込んだ小便器の第三の実施例の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1…小便器ユニット
10…小便器
11…ボール面
12…目皿
13…開口
15…ボール面
16…採尿ボール
17…開閉弁
20…機能部
21…流速計
22…溜水
23…トラップ部
24…封水深
25…開閉弁
26…水位測定手段
31…連結配管
32…空気部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
排泄された尿を集めるためのボール面を有した小便器と、
前記ボール面と下水配管とをつなぐ排尿配管と、
前記排尿配管の途中に下方に屈曲した管路からなり管路を水封するための溜水を保持するためのトラップ部を有し、
前記ボール面に排泄される尿の量や排泄速度等の尿排泄情報を計測する排尿情報計測システムにおいて、
前記排尿配管には前記ボール面からの尿が流入する流入口と前記溜水との間に空気部が配設され、
該空気部には排泄された尿の前記溜水への流入を制限する流量制限手段を有し、
さらに前記空気部近傍には前記流量制限手段から前記空気部へ流入する尿流の単位時間当たりの流速を測定するための尿流速測定手段を配設したことを特徴とする排尿情報計測システム。
【請求項2】
前記尿流速測定手段は前記空気部の前記排尿配管の外部に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の排尿情報計測システム。
【請求項3】
前記流量制限手段は脱着可能なことを特徴とする請求項1又は2に記載の排尿情報計測システム。
【請求項4】
前記流量制限手段の上流側に、便器洗浄水や測定対象となる尿以外の異物を除去するための異物除去手段を配設したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の排尿情報計測システム。
【請求項5】
前記尿流速測定手段は前記トラップ部の上流側で、かつ溜水上端より40mm以上上方の位置に配設されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の排尿情報計測システム。
【請求項6】
排泄された尿を集めるためのボール面を有した小便器と、
前記ボール面と下水配管とをつなぐ排尿配管と、
前記排尿配管の途中に下方に屈曲した管路からなり管路を水封するための溜水を保持するためのトラップ部を有し、
前記ボール面に排泄される尿の量や排泄速度等の尿排泄情報を計測する排尿情報計測システムにおいて、
前記溜水の水位を計測する水位計測手段と、
前記溜水より下流側の前記排尿配管の管路を開閉する管路開閉手段と、
計測動作に応じて前記管路開閉手段の動作を制御する管路開閉制御手段と、
を有することを特徴とする排尿情報計測システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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