説明

排水処理装置

【課題】 嫌気性環境において、性能の高い有機物分解処理能力を保持しながらも、処理速度を高めることが可能な排水処理装置を提供する。
【解決手段】 実施形態によれば、排水処理装置は、嫌気性処理槽と、硫酸塩貯留槽と、硫酸塩添加装置と、硫酸塩添加量制御装置とを有する。嫌気性処理槽は、メタン生成菌と硫酸還元菌とを内部に保持し、流入された排水を浄化する。硫酸塩貯留槽は、硫酸塩を貯留する。硫酸塩添加装置は、嫌気性処理槽に流入する排水に、硫酸塩貯留槽に貯留された硫酸塩を添加する。硫酸塩添加量制御装置は、嫌気性処理槽内にメタン生成菌と硫酸還元菌とを共存させた状態を維持するために、排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があると判断したときには、この判断結果に基づいて硫酸塩添加装置による硫酸塩の添加量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業排水や下水等の排水を生物処理することにより有機物を除去する排水処理技術があり、この生物処理による排水処理方法には好気性処理と嫌気性処理がある。
【0003】
好気性処理は酸素を必要とする微生物が有機物を二酸化炭素と水とに分解し、嫌気性処理では酸素を必要としない微生物が有機物をメタンガスと二酸化炭素とに分解する。
【0004】
また嫌気性処理では、メタン生成菌により酢酸等の低級脂肪酸が分解されメタンガスが生成されるメタン生成処理が行われるとともに、排水中に硫酸イオンが含まれる場合は、この硫酸イオンが硫酸還元菌により還元されることで酢酸等の低級脂肪酸が分解され硫化水素が生成される硫化水素生成処理が行われる。
【0005】
このように、メタン生成処理と硫化水素生成処理とは、酢酸等の基質を巡って競合関係にある。また、硫酸還元菌による還元で生成される硫化水素は、硫酸還元菌やメタン生成菌の活性を阻害し有機物分解の処理効率の低下を招く。
【0006】
そこで、硫酸イオンを多量に含む排水を嫌気性処理により適切に処理する技術として、特許文献1に記載の嫌気性水処理装置がある。
【0007】
この特許文献1に記載の嫌気性水処理装置は、嫌気性細菌を用いて反応槽で排水を浄化し、この反応槽上部の気相部に放出された硫化水素ガスを吸収、除去することで、液相中の硫化水素濃度を低減させている。このように液相中の硫化水素濃度を低減させることにより、有機物分解性能が高いメタン生成菌への阻害作用を減じ、メタンガスを効率的に生成させることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−278892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、嫌気性処理は酸素を利用せずに有機物を分解するため、好気性処理と比較して処理速度が遅いといった課題がある。特に、メタン生成菌を主体とした処理では、処理速度が遅く、また、特にメタン生成菌は硫化水素や濃度などの阻害に弱い。
【0010】
そのため、有機物分解性能の高いメタン生成菌によるメタン生成処理と、嫌気性処理の中でも阻害に強く比較的処理速度が速いとされる硫酸還元菌による硫化水素生成処理とを好適に共存させることで、従来のメタン生成菌を主体とした場合よりも効率良く排水処理を行うことが望まれる。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、嫌気性環境において、性能の高い有機物分解処理能力を保持しながらも、処理速度を高めることが可能な排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための実施形態によれば、実施形態によれば、排水処理装置は、嫌気性処理槽と、硫酸塩貯留槽と、硫酸塩添加装置と、硫酸塩添加量制御装置とを有する。嫌気性処理槽は、メタン生成菌と硫酸還元菌とを内部に保持し、流入された排水を浄化する。硫酸塩貯留槽は、硫酸塩を貯留する。硫酸塩添加装置は、嫌気性処理槽に流入する排水に、硫酸塩貯留槽に貯留された硫酸塩を添加する。硫酸塩添加量制御装置は、嫌気性処理槽内にメタン生成菌と硫酸還元菌とを共存させた状態を維持するために、排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があると判断したときには、この判断結果に基づいて硫酸塩添加装置による硫酸塩の添加量を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態による排水処理装置の構成を示す全体図である。
【図2】第1実施形態〜第3実施形態による排水処理装置における、溶存硫化物濃度と、TOC除去率との関係およびメタン濃度との関係を示すグラフである。
【図3】第1実施形態〜第3実施形態による排水処理装置における、溶存硫化物濃度と、グラニュールVSS量との関係、およびTOC除去量との関係を示すグラフである。
【図4】第2実施形態による排水処理装置の構成を示す全体図である。
【図5】第3実施形態による排水処理装置の構成を示す全体図である。
【図6】第4実施形態による排水処理装置の構成を示す全体図である。
【図7】第5実施形態による排水処理装置の構成を示す全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《第1実施形態》
本発明の第1実施形態による排水処理装置1Aの構成について、図1を参照して説明する。
【0015】
本実施形態による排水処理装置1Aは、排水貯留槽2と、送水装置3と、嫌気性処理槽4と、硫酸塩貯留槽5と、硫化物イオン濃度計6と、硫酸塩添加量制御装置7Aと、添加装置8とを有する。
【0016】
排水貯留槽2は、処理対象の排水を貯留する。
【0017】
送水装置3は、あらかじめ設定された流量で排水貯留槽2に貯留された排水を、嫌気性処理槽4に送水する。
【0018】
嫌気性処理槽4は、メタン生成菌と硫酸還元菌とを内部に保持し、送水装置3の送水により流入された排水を浄化する。
【0019】
硫酸塩貯留槽5は、嫌気性処理槽4に送水される排水に添加するための硫酸塩を貯留する。
【0020】
硫化物イオン濃度計6は、嫌気性処理槽4の液相中の硫化物イオン濃度(S2-)を測定し、測定した計測値を硫酸塩添加量制御装置7Aに送信する。
【0021】
硫酸塩添加量制御装置7Aは、嫌気性処理槽4内の排水が、高い有機物分解性能を示すとともに処理速度が速くなるような割合でメタン生成菌と硫酸還元菌を共存させる硫化物濃度を維持するために、硫化物イオン濃度計6から送信された嫌気性処理槽4の液相中の硫化物イオン濃度に基づいて、排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があるか否かを判断し、判断結果により添加装置8の動作を制御する。
【0022】
添加装置8は、硫酸塩添加量制御装置7Aの制御により、硫酸塩貯留槽5の硫酸塩を、嫌気性処理槽4に流入する排水に添加する。
【0023】
このように構成された本実施形態による排水処理装置1Aにより、処理対象の排水が生物処理により有機物分解処理が行われるときの処理工程について説明する。
【0024】
まず、排水貯留槽2に貯留された排水が送水装置3によりあらかじめ設定された流量で送水され、嫌気性処理槽4に流入される。
【0025】
嫌気性処理槽4では、流入された排水が、保持されたメタン生成菌および硫酸還元菌により有機物分解処理され浄化処理され、処理済みの排水および生成されたバイオガスは嫌気性処理槽4から排出される。
【0026】
ここで嫌気性処理槽4では、高い有機物分解性能を示すとともに処理速度が速くなるような割合でメタン生成菌と硫酸還元菌が共存することが望ましい。
【0027】
メタン濃度と硫酸還元菌との関係、および有機物分解性能を示す値としてのTOC(Total Organic Carbon)除去率と溶存硫化物濃度との関係について、図2を参照して説明する。
【0028】
図2は、処理対象の排水にさまざまな量の硫酸塩を添加して溶存硫化物濃度を変化させた場合のメタン濃度の変化、およびTOC除去率の変化を示したグラフである。
【0029】
ここで排水中では、硫酸塩が添加されることにより馴致された硫酸還元菌で有機物が分解され、硫化水素が生成される。そしてこの生成された硫化水素が、気液平衡により液相に溶解されて溶存硫化物となる。
【0030】
図2に示すように、溶存硫化物濃度が増加するにつれ、メタン濃度が低下するとともにTOC除去率も低下している。これは、メタン生成菌が溶存硫化物により阻害を受けたことが原因である。
【0031】
特に、溶存硫化物濃度が300(mg/L)を超えたあたりから、メタン濃度は急激に低下して20(%)未満となり、最終的にメタン生成菌は完全に死滅し0(%)となっていることが分かる。そして、メタン生成菌は完全に死滅したときにも、TOC除去率は50 〜 60(%)であることから、硫酸還元菌により有機物除去が行われていることがわかり、硫酸還元菌はメタン生成菌よりも溶存硫化物による阻害に強いことが確認できる。
【0032】
また図2より、溶存硫化物濃度が低い程TOC除去率は高く(溶存硫化物濃度0(%)の時が最も高い)、メタン生成菌のみで処理した方が有機物分解性能は高いことが示唆される。
【0033】
次に、有機物分解処理速度に基づく、メタン生成菌と硫酸還元菌との好適な割合について、図3を参照して説明する。
【0034】
図3は、溶存硫化物濃度が0(mg/L)の時、すなわちメタン生成菌のみで有機物分解処理をした場合、および、溶存硫化物濃度80(mg/L)の時、すなわちメタン生成菌と硫酸還元菌とが共存する状態で有機物分解処理した場合の、菌体量(メタン生成菌量+硫酸還元菌量)を示すグラニュールVSS量とTOC除去量の変化とを示すグラフである。
【0035】
図3に示すように、溶存硫化物濃度の増加に伴い、嫌気性処理槽内の菌相がメタン生成菌のみから、メタン生成菌+硫酸還元菌の共存に変わり、グラニュールVSS量(菌体量)が減少している反面、単位菌体量あたりのTOC除去量は増加している。これにより、処理槽内にメタン生成菌のみが存在する状態よりも、メタン生成菌と硫酸還元菌とが共存する状態のときのほうが、処理速度が速く有機物分解性能が高いことがわかる。
【0036】
ここで菌体量の減少は、菌相の変化により、嫌気性処理槽から主に硫酸還元菌の流出したことが考えられる。そのため、嫌気性処理槽4に堰を設けるなどして菌の流出を防止する手段を設けることでさらにTOC除去量を増加させ、結果的にTOC除去率を上昇させることが可能になることが推察される。
【0037】
また、溶存硫化物濃度をさらに増加させ、例えば400(mg/L)にした時、すなわち硫酸還元菌のみで処理した場合、菌体量の減少はさらに顕著になり、また単位菌体量あたりのTOC除去量はさらに増加することが推察される。
【0038】
以上より、嫌気性処理槽4からの菌の流出を防止することで、嫌気性処理槽4内へ菌体量を保持し、メタン生成菌と硫酸還元菌とを好適に共存させた環境で排水を処理させることで、メタンガスを生成して高い有機物分解性能を示す処理を行いながらも、メタン生成菌のみによる処理よりも処理速度を向上させることが期待できる。
【0039】
ここで本実施形態においては、一般的には排水の生物処理におけるTOC除去率は80(%)以上が要求されているため、図2より、TOC除去率が80(%)以上となる最大の溶存硫化物濃度である約200(mg/L)を、嫌気性処理槽4内の溶存硫化物濃度の上限管理値とする。また、嫌気性処理槽4内の気相のメタンガス濃度が落ち込み始めるとき、つまりメタンガス濃度が所定値(例えば65%程度)以上となる最大の溶存硫化物濃度値である約100(mg/L)を、溶存硫化物濃度の下限管理値とする。
【0040】
そして、嫌気性処理槽4内の溶存硫化物濃度がこの上限管理値(200(mg/L))と下限管理値(100(mg/L))との間の範囲に収まるように管理されることで、メタンガス濃度が高い状態(60%以上)が確保されて高いTOC除去率(80%以上)が確保されるとともに、メタン生成菌と硫酸還元菌とを共存させてメタン生成菌のみの処理よりも速い速度で処理を実行させるための好適な処理環境が維持される。
【0041】
したがって、硫化物イオン濃度計6で測定された嫌気性処理槽4内の硫化物イオン濃度が上限管理値の200(mg/L)よりも高いときには、硫酸塩添加量制御装置7Aにより排水への硫酸塩添加量を減少させる必要があると判断され、下限管理値100(mg/L)よりも低い場合は、排水への硫酸塩添加量を増加させる必要があると判断される。
【0042】
ただし、嫌気性処理槽4内の溶存硫化物濃度の上限管理値200(mg/L)と下限管理値100(mg/L)は、これらの値に限定されず、メタン生成菌と硫酸還元菌とが共存できる環境であれば、任意に設定可能である。
【0043】
硫酸塩添加量制御装置7Aにおいて硫酸塩添加量を減少または増加させる必要があると判断されたときには、この判断結果に基づいて添加装置8が制御され、硫酸塩貯留槽5から排水への硫酸塩添加量の増減が調整される。
【0044】
以上の本実施形態によれば、嫌気性処理槽4内の液相の硫化物イオン濃度の計測値によりフィードバック制御をして溶存硫化物濃度が100 〜200(mg/L)になるように管理することで、メタン生成菌と硫酸還元菌による性能の高い有機物分解処理を行いながら、従来のメタン生成菌のみの処理よりも速い速度で処理を実行させるように、嫌気性処理槽4内の環境を好適に維持することができる。
【0045】
《第2実施形態》
本発明の第2実施形態による排水処理装置1Bの構成について、図4を参照して説明する。
【0046】
本実施形態による排水処理装置1Bは、排水貯留槽2と、送水装置3と、嫌気性処理槽4と、硫酸塩貯留槽5と、硫酸塩添加量制御装置7Bと、添加装置8と、硫酸イオン濃度計9と、流量計10とを有する。
【0047】
このうち、排水貯留槽2、送水装置3、嫌気性処理槽4、硫酸塩貯留槽5、および添加装置8は、第1実施形態の排水処理装置1Aのこれらの構成部分と同様の機能を有するため、詳細な説明は省略する。
【0048】
硫酸イオン濃度計9は、排水貯留槽2の排水中の硫酸イオン濃度(SO42-)を測定し、測定した計測値を硫酸塩添加量制御装置7Bに送信する。
【0049】
流量計10は、排水貯留槽2から送水装置3により嫌気性処理槽4に送水される排水の流量を測定し、測定した計測値を硫酸塩添加量制御装置7Bに送信する。
【0050】
硫酸塩添加量制御装置7Bは、嫌気性処理槽4内の液相が、高い有機物分解性能を示すとともに処理速度が速くなるような割合でメタン生成菌と硫酸還元菌を共存させる溶存硫化物濃度を維持するために、硫酸イオン濃度計9から送信された排水貯留槽2の排水中の硫酸イオン濃度と、流量計10から送信された排水貯留槽2から嫌気性処理槽4へ送水される排水の流量とに基づいて、排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があるか否かを判断し、判断結果により添加装置8の動作を制御する。
【0051】
このように構成された本実施形態による排水処理装置1Bにより、処理対象の排水が生物処理により有機物分解処理が行われるときの処理工程について説明する。
【0052】
まず、排水貯留槽2に貯留された排水が送水装置3によりあらかじめ設定された流量で送水され、嫌気性処理槽4に流入される。
【0053】
嫌気性処理槽4では、流入された排水が、保持されたメタン生成菌および硫酸還元菌により有機物分解処理され浄化処理され、処理済みの排水および生成されたバイオガスは嫌気性処理槽4から排出される。
【0054】
ここで第1実施形態と同様に、嫌気性処理槽4の溶存硫化物濃度が上限管理値(200(mg/L))と下限管理値(100(mg/L))との間の範囲に収まるようにして高い有機物分解性能(TOC除去率が80%以上)を示すとともに処理速度が速くなるような割合でメタン生成菌(メタン濃度約65%以上)と硫酸還元菌を共存させるために、硫酸塩添加量制御装置7Bにおいて排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があるか否かが判断される。
【0055】
このとき硫酸塩添加量制御装置7Bでは、硫酸イオン濃度計9から送信された排水貯留槽2の排水中の硫酸イオン濃度と、流量計10から送信された排水貯留槽2から嫌気性処理槽4へ送水される排水の流量との積に基づいて嫌気性処理槽4内の溶存硫化物濃度を予測し、この予測値が上限管理値の200(mg/L)よりも高いときには、硫酸塩添加量制御装置7Bにより硫酸塩添加量を減少させる必要があると判断され、下限管理値100(mg/L)よりも低い場合は、硫酸塩添加量を増加させる必要があると判断される。
【0056】
硫酸塩添加量制御装置7Bにおいて硫酸塩添加量を減少または増加させる必要があると判断されたときには、この判断結果に基づいて添加装置8が制御され、硫酸塩貯留槽5から排水への硫酸塩添加量の増減が調整される。
【0057】
以上の本実施形態によれば、排水貯留槽2内の硫酸イオン濃度の計測値および排水貯留槽2から嫌気性処理槽4へ送水される排水の流量の計測値によりフィードフォワード制御をして、嫌気性処理槽4内の液相の溶存硫化物濃度が100 〜200(mg/L)になるように管理することで、メタン生成菌と硫酸還元菌による性能の高い有機物分解処理を行いながら、従来のメタン生成菌のみの処理よりも速い速度で処理を実行させるように、嫌気性処理槽4内の環境を好適に維持することができる。
【0058】
《第3実施形態》
本発明の第3実施形態による排水処理装置1Cの構成について、図5を参照して説明する。
【0059】
本実施形態による排水処理装置1Cは、排水貯留槽2と、送水装置3と、嫌気性処理槽4と、硫酸塩貯留槽5と、硫化物イオン濃度計6と、硫酸塩添加量制御装置7Cと、添加装置8と、硫酸イオン濃度計9と、流量計10とを有する。
【0060】
このうち、排水貯留槽2、送水装置3、嫌気性処理槽4、硫酸塩貯留槽5、硫化物イオン濃度計6、および添加装置8は第1実施形態の排水処理装置1Aのこれらの構成部分と同様の機能を有し、硫酸イオン濃度計9、および流量計10は第2実施形態の排水処理装置1Bのこれらの構成部分と同様の機能を有するため、詳細な説明は省略する。
【0061】
硫酸塩添加量制御装置7Cは、嫌気性処理槽4内の排水が、高い有機物分解性能を示すとともに処理速度が速くなるような割合でメタン生成菌と硫酸還元菌を共存させる硫化物濃度を維持するために、硫化物イオン濃度計6から送信された嫌気性処理槽4の液相中の硫化物イオン濃度と、硫酸イオン濃度計9から送信された排水貯留槽2の排水中の硫酸イオン濃度と、流量計10から送信された排水貯留槽2から嫌気性処理槽4へ送水される排水の流量とに基づいて、排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があるか否かを判断し、判断結果により添加装置8の動作を制御する。
【0062】
このように構成された本実施形態による排水処理装置1Cにより、処理対象の排水が生物処理により有機物分解処理が行われるときの処理工程について説明する。
【0063】
まず、排水貯留槽2に貯留された排水が送水装置3によりあらかじめ設定された流量で送水され、嫌気性処理槽4に流入される。
【0064】
嫌気性処理槽4では、流入された排水が、保持されたメタン生成菌および硫酸還元菌により有機物分解処理され浄化処理され、処理済みの排水および生成されたバイオガスは嫌気性処理槽4から排出される。
【0065】
ここで第1実施形態と同様に、嫌気性処理槽4の溶存硫化物濃度が上限管理値(200(mg/L))と下限管理値(100(mg/L))との間の範囲に収まるようにして高い有機物分解性能(TOC除去率が80%以上)を示すとともに処理速度が速くなるような割合でメタン生成菌(メタン濃度約65%以上)と硫酸還元菌を共存させるために、硫酸塩添加量制御装置7Cにおいて排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があるか否かが判断される。
【0066】
このとき硫酸塩添加量制御装置7Cでは、硫酸イオン濃度計9から送信された排水貯留槽2の排水中の硫酸イオン濃度と、流量計10から送信された排水貯留槽2から嫌気性処理槽4へ送水される排水の流量との積に基づいて嫌気性処理槽4内の溶存硫化物濃度の予測値を算出し、この予測値が上限管理値の200(mg/L)よりも高いときには、硫酸塩添加量制御装置7Cにより硫酸塩添加量を減少させる必要があると判断され、下限管理値100(mg/L)よりも低い場合は、硫酸塩添加量を増加させる必要があると判断される。
【0067】
硫酸塩添加量制御装置7Cにおいて硫酸塩添加量を減少または増加させる必要があると判断されたときには、この判断結果に基づいて添加装置8が制御され、硫酸塩貯留槽5から排水への硫酸塩添加量の増減が調整される。
【0068】
硫酸塩貯留槽5から排水への硫酸塩添加量の増減が調整され、排水へ添加した硫酸塩が嫌気性処理槽4に流入し、硫酸還元菌により処理されて硫酸イオンが溶存硫化物となった後に、硫酸塩添加量制御装置7Cにおいて硫化物イオン濃度計6から嫌気性処理槽4の液相中の硫化物イオン濃度が取得される。そして、この取得された硫化物イオン濃度が上限管理値の200(mg/L)よりも高いときには、硫酸塩添加量制御装置7Cにより排水への硫酸塩添加量を減少させる必要があると判断され、下限管理値100(mg/L)よりも低い場合は、排水への硫酸塩添加量を増加させる必要があると判断される。
【0069】
硫酸塩添加量制御装置7Cにおいて硫酸塩添加量を減少または増加させる必要があると判断されたときには、この判断結果に基づいて添加装置8が制御され、硫酸塩貯留槽5から排水への硫酸塩添加量の増減が調整される。
【0070】
以上の本実施形態によれば、排水貯留槽2内の硫酸イオン濃度の計測値および排水貯留槽2から嫌気性処理槽4へ送水される排水の流量の計測値によりフィードフォワード制御をするとともに、嫌気性処理槽4内の硫化物イオン濃度の計測値によりフィードバック制御をして、嫌気性処理槽4内の溶存硫化物濃度が100 〜200(mg/L)になるように管理することで、メタン生成菌と硫酸還元菌による性能の高い有機物分解処理を行いながら、従来のメタン生成菌のみの処理よりも速い速度で処理を実行させるように、嫌気性処理槽4内の環境を好適に維持することができる。
【0071】
《第4実施形態》
本発明の第4実施形態による排水処理装置1Dの構成について、図6を参照して説明する。
【0072】
本実施形態による排水処理装置1Dは、排水貯留槽2と、送水装置3と、嫌気性処理槽4と、硫酸塩貯留槽5と、硫酸塩添加量制御装置7Dと、添加装置8と、排水成分分析装置11とを有する。
【0073】
このうち、排水貯留槽2、送水装置3、嫌気性処理槽4、硫酸塩貯留槽5、および添加装置8は、第1実施形態の排水処理装置1Aのこれらの構成部分と同様の機能を有するため、詳細な説明は省略する。
【0074】
排水成分分析装置11は、処理対象の排水の成分分析を行い、分析結果を硫酸塩添加量制御装置7Dに送信する。
【0075】
硫酸塩添加量制御装置7Dは、排水成分分析装置11から送信された排水の分析結果に基づいて、水質の変化等により排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があるか否かを判断し、判断結果により添加装置8の動作を制御する。
【0076】
このように構成された本実施形態による排水処理装置1Dにより、処理対象の排水が生物処理により有機物分解処理が行われるときの処理工程について説明する。
【0077】
まず、排水貯留槽2に貯留された排水が送水装置3によりあらかじめ設定された流量で送水され、嫌気性処理槽4に流入される。
【0078】
嫌気性処理槽4では、流入された排水が、保持されたメタン生成菌および硫酸還元菌により有機物分解処理され浄化処理され、処理済みの排水および生成されたバイオガスは嫌気性処理槽4から排出される。
【0079】
ここで排水貯留槽2に流入される排水の水質が変化し、例えばメタン生成菌では処理が困難だが硫酸還元菌では浄化処理が可能な成分が多量に含まれるようになった場合には、嫌気性処理槽4における硫酸還元菌の割合を高めたほうが、浄化処理効率が高くなる。
【0080】
そこで、硫酸塩添加量制御装置7Dにより、排水成分分析装置11から送信された排水の分析結果に基づいて、排水中に、メタン生成菌では処理が困難だが硫酸還元菌では浄化処理が可能な成分が所定値以上になり多量に含まれるようになったときには、排水への硫酸塩添加量を増加させる必要があると判断される。
【0081】
硫酸塩添加量制御装置7Dにおいて硫酸塩添加量を増加させる必要があると判断されたときには、この判断結果に基づいて添加装置8が制御され、硫酸塩貯留槽5から排水への硫酸塩添加量が調整される。
【0082】
以上の本実施形態によれば、排水中に、メタン生成菌では処理が困難だが硫酸還元菌では浄化処理が可能な成分が多量に含まれるようになったときに、排水への硫酸添加量を増やすように管理することで、高い有機物分解処理を行いながら処理速度が高くなるように、嫌気性処理槽4内の環境を好適に維持することができる。
【0083】
《第5実施形態》
本発明の第5実施形態による排水処理装置1Eの構成について、図7を参照して説明する。
【0084】
本実施形態による排水処理装置1Eは、排水貯留槽2と、送水装置3と、嫌気性処理槽4と、硫酸塩貯留槽5と、硫酸塩添加量制御装置7Eと、添加装置8と、メタンガス濃度計12とを有する。
【0085】
このうち、排水貯留槽2、送水装置3、嫌気性処理槽4、硫酸塩貯留槽5、および添加装置8は、第1実施形態の排水処理装置1Aのこれらの構成部分と同様の機能を有するため、詳細な説明は省略する。
【0086】
メタンガス濃度計12は、嫌気性処理槽4の気相中のメタンガス濃度を測定し、測定した計測値を硫酸塩添加量制御装置7Eに送信する。
【0087】
硫酸塩添加量制御装置7Eは、嫌気性処理槽4の液相中のメタン生成菌と硫酸還元菌とを好適な割合を維持して共存させることができるように、メタンガス濃度計12から送信された嫌気性処理槽4の気相中のメタンガス濃度に基づいて、排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があるか否かを判断し、判断結果により添加装置8の動作を制御する。
【0088】
このように構成された本実施形態による排水処理装置1Eにより、処理対象の排水が生物処理により有機物分解処理が行われるときの処理工程について説明する。
【0089】
まず、排水貯留槽2に貯留された排水が送水装置3によりあらかじめ設定された流量で送水され、嫌気性処理槽4に流入される。
【0090】
嫌気性処理槽4では、流入された排水が、保持されたメタン生成菌および硫酸還元菌により有機物分解処理され浄化処理され、処理済みの排水および生成されたバイオガスは嫌気性処理槽4から排出される。
【0091】
ここで嫌気性処理槽4において、液相中のメタン生成菌と硫酸還元菌とを好適な割合を維持して共存させて性能の高い有機物分解処理を行いながらも早い速度で処理を実行させるために、硫酸塩添加量制御装置7Eにおいて排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があるか否かが判断される。
【0092】
このとき硫酸塩添加量制御装置7Eでは、メタンガス濃度計12から送信された嫌気性処理槽4の気相中のメタンガス濃度が、予め設定された下限管理値よりも低く、メタン生成菌が消滅し硫酸還元菌のみの処理になりつつあると判断されたとき、例えば送信されたメタンガス濃度がメタン生成菌のみで浄化処理を行った場合の50%を下回ったときには硫酸塩添加量を減少させる必要があると判断される。また、メタンガス濃度計12から送信された嫌気性処理槽4の気相中のメタンガス濃度が、予め設定された上限管理値よりも高く、硫酸還元菌が消滅しメタン生成菌のみの処理になりつつあると判断されたとき、例えば送信されたメタンガス濃度がメタン生成菌のみで浄化処理を行った場合の90%を上回ったときには硫酸塩添加量を増加させる必要があると判断される。このメタン生成菌のみで浄化処理を行った場合のメタンガス濃度は、予め試験により取得され硫酸塩添加量制御装置7Eに保持されている。
【0093】
硫酸塩添加量制御装置7Eにおいて硫酸塩添加量を減少または増加させる必要があると判断されたときには、この判断結果に基づいて添加装置8が制御され、硫酸塩貯留槽5から排水への硫酸塩添加量の増減が調整される。
【0094】
以上の本実施形態によれば、嫌気性処理槽4内の気相のメタンガス濃度の計測値によりフィードバック制御をしてメタン生成菌と硫酸還元菌とが好適な割合で共存するように管理することで、メタン生成菌と硫酸還元菌による性能の高い有機物分解処理を行いながら、従来のメタン生成菌のみの処理よりも速い速度で処理を実行させるように、嫌気性処理槽4内の環境を維持することができる。
【0095】
以上第1実施形態〜第5実施形態について説明したが、これらを適宜組み合わせて排水処理装置を構成するようにしてもよい。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0097】
1A〜1E…排水処理装置
2…排水貯留槽
3…送水装置
4…嫌気性処理槽
5…硫酸塩貯留槽
6…硫化物イオン濃度計
7A〜7E…硫酸塩添加量制御装置
8…添加装置
9…硫酸イオン濃度計
10…流量計
11…排水成分分析装置
12…メタンガス濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン生成菌と硫酸還元菌とを内部に保持し、流入された排水を浄化する処理槽と、
硫酸塩を貯留する硫酸塩貯留槽と、
前記処理槽に流入する排水に、前記硫酸塩貯留槽に貯留された硫酸塩を添加する硫酸塩添加装置と、
前記処理槽内にメタン生成菌と硫酸還元菌とを共存させた状態を維持するために、排水への硫酸塩添加量を増加または減少させる必要があると判断したときには、この判断結果に基づいて前記硫酸塩添加装置による硫酸塩の添加量を調整する硫酸塩添加量制御装置と
を備えることを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記処理槽内の硫化物イオン濃度を計測し、計測値を前記硫酸塩添加量制御装置に送信する硫化物イオン濃度計をさらに有し、
前記硫酸塩添加量制御装置は、前記処理槽内の有機物除去率が所定値以上になる最大の溶存硫化物濃度を上限管理値とし、メタンガス濃度が所定値以上になる最大の溶存硫化物濃度を下限管理値とし、
前記硫化物イオン濃度計から送信された硫化物イオン濃度の計測値が、前記上限管理値よりも高いときには、前記硫酸塩添加装置による硫酸塩の添加量を減少させる必要があると判断し、
前記硫化物イオン濃度計から送信された硫化物イオン濃度の計測値が、前記下限管理値よりも低いときには、前記硫酸塩添加装置による硫酸塩の添加量を増加させる必要があると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記処理槽に流入する排水中の硫酸イオン濃度を計測し、計測値を前記硫酸塩添加量制御装置に送信する硫酸イオン濃度計と、
前記処理槽に流入する排水の流量を計測し、計測値を前記硫酸塩添加量制御装置に送信する流量計と
をさらに有し、
前記硫酸塩添加量制御装置は、前記処理槽内の有機物除去率が所定値以上になる最大の溶存硫化物濃度を上限管理値とし、メタンガス濃度が所定値以上になる最大の溶存硫化物濃度を下限管理値とし、
前記硫酸イオン濃度計から送信された硫酸イオン濃度の計測値と前記流量計から送信された流量とから前記処理槽内の溶存硫化物濃度の予測値を算出し、算出された予測値が前記上限管理値よりも高いときには、前記硫酸塩添加装置による硫酸塩の添加量を減少させる必要があると判断し、
前記予測値が前記下限管理値よりも低いときには、前記硫酸塩添加装置による硫酸塩の添加量を増加させる必要があると判断する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記処理槽に流入する排水の成分を分析し、分析結果を前記硫酸塩添加量制御装置に送信する排水成分分析装置をさらに有し、
前記硫酸塩添加量制御装置は、排水中に、メタン生成菌では処理が困難だが硫酸還元菌では浄化処理が可能な成分が所定値以上含まれるようになったときには、排水への硫酸塩添加量を増加させる必要があると判断する
ことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項5】
前記処理槽の気相のメタンガス濃度を計測し、計測値を前記硫酸塩添加量制御装置に送信するメタンガス濃度計をさらに有し、
前記硫酸塩添加量制御装置は、
前記メタンガス濃度計から送信されたメタンガス濃度が、予め保持された下限管理値よりも低いときには、前記硫酸塩添加装置による硫酸塩の添加量を減少させる必要があると判断し、
前記メタンガス濃度計から送信されたメタンガス濃度が、予め保持された上限管理値よりも高いときには、前記硫酸塩添加装置による硫酸塩の添加量を増加させる必要があると判断する
ことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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