説明

掘削施工中のトンネル換気方法及び換気システム

【課題】トンネル内、特に切羽付近での作業内容に応じて送風機と集塵機の運転を制御するで、送風機と集塵機の運転コストを低減させることが可能な掘削施工中のトンネル換気方法及び換気システムを提供する。
【解決手段】掘削施工中のトンネル換気システム10は、切羽12へ向かって延びる送風ダクト14を備える送風機13と、切羽12の近くに設置され、切羽から発生する粉塵を浄化する集塵機16とを備える。送風機13と集塵機16とには制御装置19が電気的に接続され、制御装置19は、粉塵濃度計測センサ20からの信号を受けて送風機13と集塵機16の運転を制御する。制御装置19は、切羽12付近の粉塵濃度実測値が、予め設定された低濃度域、中濃度域、或いは高濃度域のいずれの範囲に属するかを判定し、それらの濃度域に応じた送風機13と集塵機16との運転条件を選択し、その条件で運転制御をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削施工中のトンネル換気方法及び換気システムに関し、更に詳細には、掘削施工中のトンネル内を換気するために設置された送風機と集塵機とを粉塵濃度に応じて連動運転させる掘削施工中のトンネル換気方法及び換気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
掘削施工中のトンネル内では、大量の粉塵が発生することがあり、そのようなときトンネル内の空気は汚染され、作業者の健康にも大きな影響を与える。そのため、従来では、特許文献1及び特許文献2に開示されているようなトンネル換気システムが設置され、掘削施工中のトンネル内を換気して新鮮な空気を外部から取り込むようにしている。
【0003】
特許文献1に開示された発明の換気風量制御方法は、切羽から離れた確実に換気すべきエリアの後方に粉塵濃度センサを設置し、制御装置が、換気用風管の直径やトンネル掘削長に対応する長さ及び材質を計測して風管の圧力損失を算出し、この算出結果に基づいて、粉塵濃度センサの検出した粉塵濃度を所定値まで低下させるように送風機の運転をインバータ制御するものである。
【0004】
また、特許文献2に開示された発明の施工中トンネル内の換気方法は、第1送風機によって坑外の新鮮な空気を風管から切羽に向かって送気する一方、切羽で発生した粉塵やヒュームを集塵機で捕集し、この集塵機で浄化した空気の一部をエアーカーテン帯域内に送り、その一部と風管から送気された坑外の新鮮な空気とを第2送風機で切羽に送気して切羽で発生する粉塵やヒュームを希釈するようにしたものである。具体的には、この特許文献2には、集塵機と2台の送風機とを用い、切羽から発生する粉塵やヒュームを希釈させるために、第1送風機により坑外から送気される新鮮な空気量Q1と、集塵機で浄化され切羽に送気される一部の浄化空気量Q3との総量(Q1+Q3)が第2送風機の総風量Q2より低くなるように調整することにより、トンネル換気に要する設備費や運転コストを低減させながら切羽から坑口に至る全トンネル内の空気を清浄化しようとするものである。
【特許文献1】特開平8−121099号公報
【特許文献2】特開2002−221000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された発明は、集塵機を備えるものではなく、単に、坑外の新鮮な空気を切羽に向かって送気する送風機の運転コストを下げるために粉塵センサが計測した粉塵濃度を見ながら送風機の運転をインバータ制御するものであり、集塵機と送風機とを連動させて運転した場合の運転コストを低減させるものではなかった。また、特許文献2に開示された発明では、集塵機と送風機とを連動して運転するものではあるが、第1送風機による風量を高めれば、集塵機の能力も、また第2送風機の風量も高める必要があり、この発明によっては、これらの運転コストを低減できるものではなかった。
【0006】
一般的に、掘削施工中のトンネル内における換気は、切羽の掘削や発破などの作業時に発生する粉塵を浄化するだけではなく、例えば、トンネル内が夏場では30度以上の高温になることから、粉塵の発生量に拘わらず暑さ対策として送風機の風量を上げ、坑外の新鮮な空気を大量にトンネル内に送り込み、これにより坑内を冷却していることも事実である。そのような場合、従来では、坑内の換気のバランスを確保するために集塵機の風量も上がっていた。その結果、送風機及び集塵機の両方が最大出力で稼働することが多いことからそれらの運転に要する電気代などのコストが大幅に増え、これが工事費用を高騰させる一因ともなっている。
【0007】
本発明の目的は、かかる従来の問題点を解決するためになされたもので、トンネル内、特に切羽付近での作業内容に応じて送風機と集塵機の運転を制御することにより、これら送風機と集塵機の運転コストを低減させることが可能な掘削施工中のトンネル換気方法及び換気システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、掘削施工中の前記トンネルの切羽へ向かって延びる送風ダクトを介して新鮮な空気を前記切羽に送気する送風機と、前記切羽の近くに設置され、該切羽及びその付近で発生する粉塵を捕集して浄化する集塵機との運転を制御装置により制御して掘削施工中のトンネル内を換気するトンネル換気方法であり、その特徴とするところは、前記トンネルの前記切羽に近い箇所に設置された粉塵濃度検出手段からの粉塵濃度実測値を前記制御装置に供給すること、前記粉塵濃度実測値が供給された前記制御装置における制御部が、前記制御装置の記憶装置に予め格納されている複数の設定粉塵濃度域のうちのいずれに属するかを判定し、これら設定粉塵濃度域に応じて、前記記憶装置に予め格納されている前記送風機及び前記集塵機の運転条件を選択して前記送風機及び前記集塵機の運転を制御することにある。
【0009】
本発明に係る掘削施工中のトンネル換気方法における一実施形態としては、前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が、複数の前記設定粉塵濃度域のうち最も低い前記設定粉塵濃度域に属するとき、前記制御装置における前記制御部が、前記送風機による送風量を高くすると共に前記集塵機による吸引空気量を低下させ、前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が複数の前記設定粉塵濃度域のうち最も高い前記粉塵濃度域に属するとき、前記制御装置における前記制御部が、前記送風機による送風量を低くすると共に前記集塵機による吸引空気量を高めることにある。
【0010】
本発明に係る掘削施工中のトンネル換気方法における他の実施形態としては、複数の前記設定粉塵濃度域が、低濃度域と、中濃度域と、高濃度域の三段階に区分されて前記記憶装置に格納され、前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が前記中濃度域に属すると前記制御装置の前記制御部が判定したとき、前記送風機による送風量と前記集塵機による吸引空気量とをほぼ同じに調整するように運転制御をすることにある。
【0011】
また、本発明は、掘削施工中のトンネル内を換気するトンネル換気システムであり、その特徴とするところは、掘削施工中の前記トンネルの切羽へ向かって延びる送風ダクトを介して新鮮な空気を前記切羽に送気する送風機と、前記切羽の近くに設置され、前記切羽及びその付近で発生する粉塵を捕集して浄化する集塵機と、前記切羽の近くに設置された粉塵濃度検出手段と、前記送風機、前記集塵機、及び前記粉塵濃度検出手段に電気的に接続され、前記粉塵濃度検出手段からの信号を受けて前記送風機及び前記集塵機の運転を制御する制御装置とから構成され、前記制御装置が、予め設定された複数の設定粉塵濃度域と、これら複数の前記設定粉塵濃度域に応じた前記送風機及び前記集塵機の運転条件を記憶した記憶装置と、前記粉塵濃度検出手段から供給される粉塵濃度実測値が前記記憶装置に記憶されている複数の前記設定粉塵濃度域のうちのいずれに属するかを判定し、前記設定粉塵濃度域に対応した前記送風機及び前記集塵機の運転条件を選択して前記送風機及び前記集塵機の運転を制御する制御部とを備えていることである。
【0012】
本発明に係る掘削施工中のトンネル換気システムにおける一実施形態としては、前記制御装置の前記制御部は、前記粉塵濃度検出手段で計測された粉塵濃度実測値が、複数の前記設定粉塵濃度域のうち最も低い濃度域に属するときには前記送風機による送風量を高くすると共に前記集塵機による吸引空気量を低下させ、前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が複数の前記設定粉塵濃度域のうち最も高い濃度域に属するときには前記送風機による送風量を低くすると共に前記集塵機による吸引空気量を高めることである。
【0013】
本発明に係る掘削施工中のトンネル換気システムにおける他の実施形態としては、複数の前記設定粉塵濃度域が、低濃度域と、中濃度域と、高濃度域の三段階に区分されて前記制御装置の前記記憶装置に記憶され、前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が前記中低濃度域に属するとき、前記制御装置の前記制御部が、前記送風機による送風量と前記集塵機による吸引空気量とをほぼ同じに調整すべく運転を制御することである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る掘削施工中のトンネル換気方法及び換気システムによれば、トンネル内の切羽に向かって新鮮な空気を送風する送風機と切羽付近の粉塵を捕集する集塵機とは、粉塵濃度検出手段から供給される粉塵濃度実測値が、制御装置の記憶装置に予め格納された複数の設定粉塵濃度域のいずれの範囲に属するかを判定し、その判定結果に基づいて制御装置の記憶装置に予め記憶された送風機と集塵機の運転条件を選択して運転される。これにより、トンネル内での作業内容に応じて送風機と集塵機との運転をそれぞれ適正にコントロールすることができると共に、これら送風機と集塵機との運転コストを従来に比べて低減することができる。
【0015】
具体的には、粉塵濃度検出手段で計測された粉塵濃度実測値が、制御装置の記憶装置に格納された複数の設定粉塵濃度域のうち最も低い濃度域に属するときには送風機による送風量を高くすると共に集塵機による吸引空気量を低下させ、また粉塵濃度検出手段で計測された粉塵濃度実測値が複数の設定粉塵濃度域のうち最も高い濃度域に属するときには送風機による送風量を低くするように制御装置の制御部が送風機と集塵機との運転を制御するので、粉塵濃度実測値がそれほど大きくないときでも送風機の送風量を多くし、他方、集塵機の運転出力を低くできるので、トンネル内を経済的に冷却することができ、その結果、従来のトンネル内換気方法に比べて、トンネル内の冷却効果を得ながらこれら送風機と集塵機との運転に掛かるコストを大幅に低減することができる。かかるトンネル換気システムにおける運転コストの低減化は、制御装置の記憶装置に予め格納された複数の設定粉塵濃度域を、低濃度域と、中濃度域と、高濃度域の三段階に区分すれば、なお一層の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る掘削施工中のトンネル換気方法及び換気システムを図に示される好適な実施の形態について更に詳細に説明する。図1は、この発明の一実施形態に係る掘削施工中のトンネル換気システム(以下、トンネル換気システムと称する)10を示すトンネル内の切羽付近における概略的な構成説明図である。このトンネル換気システム10は、掘削施工中のトンネル11における切羽12へ向かって坑外の新鮮な空気を送気する送風機13を備えている。掘削施工中のトンネル11には、坑口(図示せず)から切羽12に向かって延びる送風ダクト14が設置され、送風機13は、セントル15より坑口側において送風ダクト14の途中に設置されている。この実施形態では、直径1,400mmの送風ダクト14が使用されている。
【0017】
切羽12から所定距離だけ離れたトンネル内11には集塵機16が設置され、この集塵機16からは吸引ダクト17が切羽12に向かって延びている。吸引ダクト17の吸引口17aは、切羽12から発生する粉塵18が漂う切羽12に近い付近の領域に位置決めされている。集塵機16は、切羽12で発生した粉塵18を吸引ダクト17によって吸い込み、内部のフィルタで粒子状汚染物質などを捕集して清浄化した後、浄化された空気を集塵機16の坑口側に設けた排出口16aから排出する。送風機13と集塵機16との運転は、これらに電気的に接続された制御装置19により制御される。制御装置19は、送風機13又は集塵機16のいずれかの近くに設置されていてもよいが、後述する粉塵濃度計測センサ20とも電気的に接続されるので、集塵機16を設置する架台などに取り付けることが好ましい。
【0018】
粉塵濃度検出手段である粉塵濃度計測センサ20は、集塵機16から延びる吸引ダクト17の先端である吸引口17aに取り付けられるか、その付近の適当な固定部に設置されている。前述したようにこの粉塵濃度計測センサ20は、制御装置19に電気的に接続され、この粉塵濃度計測センサ20からの出力信号は、常時、制御装置19に入力されている。制御装置19は、記憶装置と制御部とを含み、この記憶装置には、複数の粉塵濃度値が格納され、これらの粉塵濃度値によって予め設定された複数の設定粉塵濃度域が区分されている。また、制御装置19に記憶装置には、これら複数の設定粉塵濃度域に応じた送風機13と集塵機16との運転条件が格納されている。
【0019】
具体的には、制御装置19は、所定の演算を行う中央処理装置と所定の条件を記憶する記憶装置とを有するマイクロプロセッサ(図示せず)により構成されている。この制御装置19には、キーボードやテンキーユニットなどの入力装置、プリンタなどの出力装置、液晶ディスプレイやCRTなどの表示装置(いずれも図示せず)をインターフェイスにより接続することができる。このトンネル換気システム10の起動中、制御装置19には、粉塵濃度計測センサ20から切羽12付近の粉塵濃度実測値が常時入力されている。制御装置19の制御部は、記憶装置に格納されたアプリケーションプログラムを起動し、所定のオペレーティングシステムに従い、予め設定された複数の設定粉塵濃度域と、これら複数の設定粉塵濃度域に応じた送風機13と集塵機16の運転条件とを記憶する記憶手段と、粉塵濃度計測センサ20から出力される切羽12付近における粉塵濃度実測値が前述した複数の設定粉塵濃度域におけるいずれの範囲にあるかを判定する粉塵濃度判定手段と、この粉塵濃度判定手段で判定された結果として、送風機13と集塵機16の運転条件を選択する運転条件選択手段と、この運転条件選択手段に基づいて送風機13と集塵機16との運転を制御する運転制御手段とを実行する。
【0020】
図2のフローチャートに基づき、制御装置19によって実行されるこのシステムのプロセスの詳細を説明すると、以下のとおりである。最初に、送風機13が送風ダクト14と共にトンネル1内に設置され、更に、集塵機16と制御装置19とが切羽12の付近に設置される。制御装置19は、送風機13と集塵機16とに電気的に接続される。制御装置19には、インターフェイスを介してキーボードやテンキーユニットなどの入力装置、プリンタなどの出力装置、液晶ディスプレイやCRTなどの表示装置が接続され、これらの入力装置と表示装置などを利用して掘削施工するトンネル1の大きさ、或いは地質など各種の条件に基づいて複数の粉塵濃度域(以下、設定粉塵濃度域、という)の範囲を設定する複数の粉塵濃度値が記憶装置に格納され、またこれら粉塵濃度域に基づいた送風機13と集塵機16との運転条件が記憶装置に格納される。これらの設定粉塵濃度域や運転条件が、制御装置19の記憶装置に格納された後は、入力装置、出力装置、表示装置などを制御装置19から取り外しておいてもよいことは言うまでもない。また、制御装置19は、坑外又は坑内に設置されている作業管理事務所内のコンピュータと有線又は無線で接続しておくこともできる。このように制御装置19が作業管理事務所内のコンピュータと接続されていれば、設定粉塵濃度域の範囲やそれに基づいた送風機13と集塵機16との運転条件などを新たに設定する際、又は変更する際の作業が容易である。
【0021】
ここで説明する実施形態では、設定粉塵濃度域として粉塵濃度値が0.7mg/m以下の低濃度域、粉塵濃度値が0.7〜3.0mg/mの中濃度域、及び粉塵濃度値が3.0mg/m以上の高濃度域の三段階に区分されて記憶装置に格納されている。一般的に、トンネル1が山岳トンネルであるとき、切羽12付近での粉塵濃度が、低濃度域の場合とは、切羽12での削孔作業、装薬作業、及びロックボルト作業などの時に多く、また、中濃度域の場合とは、切羽12近傍でのずり出し作業、及び吹き付け作業などの時に多く、さらに、高濃度域の場合とは、切羽12の発破直後の時に多い。このように切羽12付近の粉塵濃度実測値が、低濃度域にあるときには、送風機13により送風ダクト14を介して切羽12に送気される坑外からの新鮮な空気の風量を、約1,600m/min、集塵機16の運転出力を約1,000m/minとし、これを送風機13及び集塵機16の第1運転条件とする。
【0022】
また、切羽12付近の粉塵濃度実測値が、中濃度域にあるときには、送風機13により送風ダクト14を介して切羽12に送気される坑外からの新鮮な空気の風量を、約1,200m/min、集塵機16の運転出力を約1,650m/minとし、これを送風機13及び集塵機16の第2運転条件とする。さらに、切羽12付近の粉塵濃度実測値が、高濃度域にあるときには、送風機13により送風ダクト14を介して切羽12に送気される坑外からの新鮮な空気の風量を、約1,200m/min、集塵機16の運転出力を約2,000m/minとし、これを送風機13及び集塵機16の第3運転条件とする。これを表にすると、下記のとおりである。
【0023】
【表1】

【0024】
このように低濃度域、中濃度域、及び高濃度域のそれぞれにおいて、送風機13と集塵機16との運転条件を前述したように選択したとき、いずれの場合でもセントル15の後方(坑口側)における領域21での粉塵濃度実測値は、約1mg/mとなる。かかる低濃度域、中濃度域、及び高濃度域のそれぞれにおける送風機13の送風量、集塵機16の運転条件の選択は、長い期間に亘ってトンネル内での換気データを集め、分析した結果として得られたものである。
【0025】
制御装置19の記憶装置には、例えば、上述した低濃度域、中濃度域、及び高濃度域の三段階に区分する各設定粉塵濃度値と、切羽12付近での粉塵濃度実測値がこれら低濃度域、中濃度域、及び高濃度域のいずれかに属している場合における送風機13と集塵機16それぞれの運転条件とが記憶される(S−1及びS−2)。かかる粉塵濃度域や、送風機13と集塵機16の運転条件は、掘削施工中のトンネル1における各種の設計変更により適宜変更することができる(S−3)。切羽12の近くに設置された粉塵濃度検出センサ20からは、切羽12の近傍における粉塵濃度実測値が制御装置19に入力されると(S−4)、制御装置19の制御部は、入力された粉塵濃度実測値が低濃度域に属するか否かを判定する(S−5)。
【0026】
粉塵濃度実測値が、例えば、低濃度域に属する0.7mg/m以下であった場合には、低濃度域に属すると判定され、制御装置19の制御部は、送風機13と集塵機16とについて第1運転条件を選択し、送風機13を1,600mg/mの送風量になるように運転し、集塵機16については、1,000mg/mになるようにその運転を制御する(S−6)。図1は、切羽12付近の粉塵濃度実測値が、低濃度域に属する場合、第1条件で運転される送風機13からの送風量が集塵機16による空気浄化量より多いので、集塵機16により浄化された空気のほぼ全量は、トンネル1の坑口へ向かって流れる。
【0027】
ところで、粉塵濃度実測値が低濃度域に属すると判定されなかった場合には、入力された粉塵濃度実測値が中濃度域に属するか否かを判定する(S−7)。粉塵濃度実測値が、例えば、中濃度域に属する0.7〜3.0mg/mの範囲にあった場合には、中濃度域に属すると判定され、制御装置19の制御部は、送風機13と集塵機16とについて第2運転条件を選択し、送風機13を1,200mg/mの送風量になるように運転し、集塵機16については、1,650mg/mになるようにその運転を制御する(S−8)。図3は、切羽12付近の粉塵濃度実測値が、中濃度域に属する場合、第2条件で運転される送風機13からの送風量が集塵機16による空気浄化量より若干少ないので、集塵機16により浄化された空気の一部は切羽12の方向に流れながら、切羽12付近の気圧バランスを保つような量の空気がトンネル1の坑口へ向かって流れる。
【0028】
しかし、粉塵濃度実測値が中濃度域に属すると判定されなかった場合には、次に、入力された粉塵濃度実測値が高濃度域に属するかを判定する(S−9)。そして、送風機13と集塵機16とは前述した第3条件で運転される(S−10)。粉塵濃度実測値が、例えば、高濃度域に属する3.0mg/m以上であった場合には、高濃度域に属すると判定され、制御装置19の制御部は、送風機13と集塵機16とについて第3運転条件を選択し、送風機13を1,200mg/mの送風量になるように運転し、集塵機16については、2,000mg/mになるようにその運転を制御する(S−10)。図4は、切羽12付近の粉塵濃度実測値が、高濃度域に属する場合を示しており、第3条件で運転される集塵機16による吸引空気量は、送風機13からの送風量より非常に多い。そのため、切羽12付近の漂う粉塵を含む大量の空気が集塵機16に吸引されて浄化されるので、集塵機16により浄化された空気の一部は切羽12の方向にも流れて循環し、切羽12付近の気圧バランスを保つような量の空気がトンネル1の坑口へ向かって流れる。しかし、粉塵濃度実測値が高濃度域に属すると判定されなかった場合には、入力された粉塵濃度実測値は低濃度域から再び判定が繰り返される。
【0029】
本発明に係る掘削施工中のトンネル換気システムにおける前述した実施形態では、送風機13と集塵機16の各運転条件を低濃度域の場合、中濃度域の場合、高濃度域の場合の三段階に区分したが、本発明において送風機13及び集塵機16の運転条件を定める区分が三段階である必要はなく、切羽12付近での粉塵濃度域をさらに細かく区分けし、これらの区分に対応した送風機13と集塵機16との運転条件を設定することもできる。
【0030】
前述した説明から明らかなように、切羽12付近の粉塵濃度実測値が低濃度域にある場合、トンネル1内が高温になっている時、従来であれば集塵機16の運転出力低下に伴って送風機13の運転出力も低下してトンネル1内の環境改善を図ることができなかったが、上述した本発明に係る掘削施工中のトンネル換気システムによれば、切羽12付近での粉塵濃度実測値が低濃度域にあるときでも、予め設定された送風機13の送風量が多い運転条件で運転されることから、トンネル1内に坑外の新鮮な空気を十分に送気することができ、しかも集塵機16の運転出力は低いことから運転コストも抑えながらトンネル内の作業環境を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】切羽付近の粉塵濃度実測値が低濃度域にあるときのトンネルの切羽付近における概略的な構成説明図。
【図2】本発明に係る掘削施工中のトンネル換気システムの一例についての動作を示すフローチャート図。
【図3】切羽付近の粉塵濃度実測値が中濃度域にあるときのトンネルの切羽付近における概略的な構成説明図。
【図4】切羽付近の粉塵濃度実測値が高濃度域にあるときのトンネルの切羽付近における概略的な構成説明図。
【符号の説明】
【0032】
10 掘削施工中のトンネル換気システム
11 掘削施工中のトンネル
12 切羽
13 送風機
14 送風ダクト
15 セントル
16 集塵機
17 吸引ダクト
18 切羽付近での粉塵
19 制御装置
20 粉塵濃度計測センサ(粉塵濃度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削施工中の前記トンネルの切羽へ向かって延びる送風ダクトを介して新鮮な空気を前記切羽に送気する送風機と、前記切羽の近くに設置され、該切羽及びその付近で発生する粉塵を捕集して浄化する集塵機との運転を制御装置により制御して掘削施工中のトンネル内を換気するトンネル換気方法において、
前記トンネルの前記切羽に近い箇所に設置された粉塵濃度検出手段からの粉塵濃度実測値を前記制御装置に供給すること、
前記粉塵濃度実測値が供給された前記制御装置における制御部が、前記制御装置の記憶装置に予め格納されている複数の設定粉塵濃度域のうちのいずれに属するかを判定し、これら設定粉塵濃度域に応じて、前記記憶装置に予め格納されている前記送風機及び前記集塵機の運転条件を選択して前記送風機及び前記集塵機の運転を制御することを特徴とする掘削施工中のトンネル換気方法。
【請求項2】
前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が、複数の前記設定粉塵濃度域のうち最も低い前記設定粉塵濃度域に属するとき、前記制御装置における前記制御部が、前記送風機による送風量を高くすると共に前記集塵機による吸引空気量を低下させ、前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が複数の前記設定粉塵濃度域のうち最も高い前記粉塵濃度域に属するとき、前記制御装置における前記制御部が、前記送風機による送風量を低くすると共に前記集塵機による吸引空気量を高める請求項1に記載の掘削施工中のトンネル換気方法。
【請求項3】
複数の前記設定粉塵濃度域が、低濃度域と、中濃度域と、高濃度域の三段階に区分されて前記記憶装置に格納され、前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が前記中濃度域に属すると前記制御装置の前記制御部が判定したとき、前記送風機による送風量と前記集塵機による吸引空気量とをほぼ同じに調整するように運転制御をする請求項2に記載の掘削施工中のトンネル内換気方法。
【請求項4】
掘削施工中のトンネル内を換気するトンネル換気システムにおいて、
掘削施工中の前記トンネルの切羽へ向かって延びる送風ダクトを介して新鮮な空気を前記切羽に送気する送風機と、前記切羽の近くに設置され、前記切羽及びその付近で発生する粉塵を捕集して浄化する集塵機と、前記切羽の近くに設置された粉塵濃度検出手段と、前記送風機、前記集塵機、及び前記粉塵濃度検出手段に電気的に接続され、前記粉塵濃度検出手段からの信号を受けて前記送風機及び前記集塵機の運転を制御する制御装置とから構成され、
前記制御装置が、予め設定された複数の設定粉塵濃度域と、これら複数の前記設定粉塵濃度域に応じた前記送風機及び前記集塵機の運転条件を記憶した記憶装置と、前記粉塵濃度検出手段から供給される粉塵濃度実測値が前記記憶装置に記憶されている複数の前記設定粉塵濃度域のうちのいずれに属するかを判定し、前記設定粉塵濃度域に対応した前記送風機及び前記集塵機の運転条件を選択して前記送風機及び前記集塵機の運転を制御する制御部とを備えている掘削施工中のトンネル換気システム。
【請求項5】
前記制御装置の前記制御部は、前記粉塵濃度検出手段で計測された粉塵濃度実測値が、複数の前記設定粉塵濃度域のうち最も低い濃度域に属するときには前記送風機による送風量を高くすると共に前記集塵機による吸引空気量を低下させ、前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が複数の前記設定粉塵濃度域のうち最も高い濃度域に属するときには前記送風機による送風量を低くすると共に前記集塵機による吸引空気量を高める請求項4に記載の掘削施工中のトンネル換気システム。
【請求項6】
複数の前記設定粉塵濃度域が、低濃度域と、中濃度域と、高濃度域の三段階に区分されて前記制御装置の前記記憶装置に記憶され、前記粉塵濃度検出手段で計測された前記粉塵濃度実測値が前記中低濃度域に属するとき、前記制御装置の前記制御部が、前記送風機による送風量と前記集塵機による吸引空気量とをほぼ同じに調整すべく運転を制御する請求項5に記載の掘削施工中のトンネル換気システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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