説明

採取物調製用パーソナルボックスおよび採取物調製システムならびに採取物調製方法

【解決手段】 無菌操作を行う作業用アイソレータ3と、これに接続可能な採取物調製用パーソナルボックス4と、複数の採取物調製用パーソナルボックス4を保管する保管手段5を備えて採取物調製システムが構成されている。採取物調製用パーソナルボックス4には第1収容室4Aaと第2収容室4Abが備えられ、保管手段5が備える流体供給管16から細胞培養に適した流体が第1収容室4Aaに供給され、冷却流体供給管18から冷却流体が第2収容室4Abに供給されるようになっている。
【効果】 簡単な構成で、取り違えやクロスコンタミネーションを防止することができる採取物調製システムを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採取物調製用パーソナルボックスおよび採取物調製システムならびに採取物調製方法に関し、より詳しくは、再生医療分野においてドナーから採取した採取物を調製する際に使用する、単一のドナーの採取物やこの採取物と関連付けられた物品を収容するための採取物調製用パーソナルボックスと、この採取物調製用パーソナルボックスを利用した採取物調製システムならびに採取物調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドナーから採取した細胞や組織等を培養、加工し、失われた組織や臓器等を修復、再生する再生医療分野においては、複数のドナー間での細胞やドナー由来の試薬等の取り違え、および異なるドナー由来の細胞同士のクロスコンタミネーションを防止することが課題となっている。このような課題を解決するシステムとして、特許文献1が提案されている。
この特許文献1のシステム(取り違い防止システム)は、電子錠付きの複数のインキュベータおよび薬品保冷庫と、電子錠を集中管理するパソコンと、電子錠を開閉するドライバユニットと、バーコードスキャナおよびバーコード発行機とから構成され、1ドナーの培養容器および培地保存ボトルに対応したバーコードを工程指示書に貼り付け、このバーコードを読み取ることによって、これら培養容器および培地保存ボトルを収納したインキュベータおよび薬品保冷庫の電子錠を開閉操作するようにパソコンで動作制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−304439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、特許文献1の取り違い防止システムでは、全てのインキュベータおよび薬品保冷庫に電子錠を設けるとともに、これらを集中管理するためのシステムを構築しなければならないものであり、また、安全キャビネット等の作業空間から培養容器や培地保存ボトルを取り出して上記インキュベータや薬品保冷庫に収納しなければならないため、これらインキュベータや薬品保冷庫、安全キャビネットを配置した空間全体を高い清浄度に維持する必要があった。
本発明の目的は、簡単な構成で確実に、複数のドナー間での取り違えやクロスコンタミネーションを防止することの可能な、採取物調製用パーソナルボックスおよび採取物調製システムならびに採取物調製方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した事情に鑑み、第1の本発明は、内部に閉鎖された空間が形成される収容部本体と、この収容部本体を密閉する蓋体と、無菌操作を行うアイソレータに上記収容部本体を接続させて、アイソレータ内と収容部本体内とを連通させる接続手段とから構成され、上記収容部本体は複数の独立した閉鎖空間を備えて、少なくとも1つの閉鎖空間は単一のドナーから採取された採取物を収容するための第1収容室として構成され、他の閉鎖空間は上記採取物と関連付けられた物品を収容するための第2収容室として構成されて、上記収容部本体には、他の収容部本体と識別するための識別手段が備えられていることを特徴とする採取物調製用パーソナルボックスを提供するものである。
また、第2の本発明は、無菌操作を行うアイソレータと、このアイソレータに接続可能で内部を密閉可能な採取物調製用パーソナルボックスと、複数の採取物調製用パーソナルボックスを保管する保管手段とを備え、上記採取物調製用パーソナルボックスは複数の独立した閉鎖空間を備え、少なくとも1つの閉鎖空間には供給口が設けられて、単一のドナーから採取された採取物を播種した培養容器を収容するための第1収容室として構成され、他の閉鎖空間は第1収容室に収容される採取物と関連付けられた物品を収容するための第2収容室として構成され、 上記保管手段は、上記第1収容室に供給口を介して培養に適した流体を供給する培養流体供給手段を備えることを特徴とする採取物調製システムを提供するものである。
さらに、第3の本発明は、密閉可能な複数の独立した閉鎖空間を備えた採取物調製用パーソナルボックスを複数準備し、いずれかの採取物調製用パーソナルボックスを無菌操作を行うアイソレータと接続して、少なくとも1つの閉鎖空間に単一のドナーから採取された採取物を播種した培養容器を収容するとともに、他の閉鎖空間には、収容された採取物と関連付けられた物品を収容し、その後、採取物調製用パーソナルボックスをアイソレータから分離させて、培養容器を収容した閉鎖空間に培養に適した流体を供給して採取物を培養するとともに、採取物と関連付けられた物品を収容した閉鎖空間には冷却流体を供給して該物品を冷蔵保存し、上記アイソレータは上記採取物調製用パーソナルボックスを分離後、内部を除染してから、異なる採取物調製用パーソナルボックスを接続して異なるドナーから採取された採取物を取り扱うことを特徴とする採取物調製方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
このような構成の採取物調製用パーソナルボックス、およびこの採取物調製用パーソナルボックスを使用した採取物調製システムならびに採取物調製方法によれば、単一のドナーから採取された採取物と、この採取物と関連付けられた物品を単一の収容部本体に収容することができ、さらに、この採取物調製用パーソナルボックスはアイソレータと接続することができるので、簡単な構成で確実に複数のドナー間での取り違えやクロスコンタミネーションを防止しながら、採取物の調製作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施例を示す採取物調製システムの構成図。
【図2】作業用アイソレータに採取物調製用パーソナルボックスを接続した状態を示す正面図。
【図3】本発明の一実施例を示す採取物調製用パーソナルボックスの構成を示す断面図。
【図4】作業用アイソレータに採取物調製用パーソナルボックスを接続した状態を示す断面図。
【図5】本発明の一実施例を示す採取物調製方法の作業工程フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について本発明を説明すると、図1において1は本発明に係る採取物調製システムを設置した調製作業室であり、この調製作業室1内で再生医療で使用されるヒトから採取した細胞や組織等の採取物を、再生医療に利用するために調製する調製作業を行うようになっている。
調製作業室1内には、採取物の調製に必要な共通の容器等の資材や試薬等を、無菌状態でストックしておくためのストッカ用アイソレータ2と、無菌状態下において細胞の播種、培地交換および継代作業や細胞の加工作業等を行うための作業用アイソレータ3と、この作業用アイソレータ3に対して互いに内部の無菌状態を維持しながら接続および離脱可能な複数(図1の例では6個)の採取物調製用パーソナルボックス4と、これら各採取物調製用パーソナルボックス4を収納して保管するための保管手段5が配置されている。調製作業室1内は、クラス100,000以上の清浄度に維持されている。これら作業用アイソレータ3、採取物調製用パーソナルボックス4、保管手段5によって採取物調製システムが構成されている。
【0009】
ストッカ用アイソレータ2は、無菌包装された資材や試薬等の外装を除染する除染パスボックス2Aを備えるとともに、ストッカ用アイソレータ2内から資材や試薬等を無菌状態を維持したまま搬出入するためのトランスファボックス6を備えている。また、ストッカ用アイソレータ2の所要箇所には、作業者が作業するためのグローブ7が設けられている。
ストッカ用アイソレータ2は内部を陽圧に維持するように構成され、除染装置8から除染媒体を供給することで、内部を除染して無菌状態を維持するようになっている。また、除染パスボックス2Aは除染装置8から供給される除染媒体により、内部に収容した資材や試薬等の外装を除染することができる。除染装置8から供給する除染媒体としては、過酸化水素やホルムアルデヒド、過酢酸、オゾン、二酸化塩素等があり、これらを蒸気や気体またはミスト状とした除染ガスとして供給する。これらストッカ用アイソレータ2と除染パスボックス2Aの間は連通遮断可能になっている。また、トランスファボックス6はRTP(Rapid Transfer Port)によりストッカ用アイソレータ2と接続できるようになっており、外部雰囲気から遮断した状態で内部を連通させることができるようになっている。なお、ストッカ用アイソレータ2内に作業用ロボットを設けて無人化を図ることも可能である。
図2に示すように、作業用アイソレータ3は採取物調製用パーソナルボックス4を接続できるとともに、上記トランスファボックス6を接続できるようになっている。また、作業用アイソレータ3は、ストッカ用アイソレータ2と同様に内部を陽圧に維持するよう構成され、除染装置8から除染媒体を供給することで、内部を除染して無菌状態を維持するようになっており、上記採取物調製用パーソナルボックス4を連通させた状態では、その内部も除染することができるようになっている。上記採取物調製用パーソナルボックス4は、台車等の移動手段9に載置させて移動させることができ、載置させた状態で作業用アイソレータ3と接続させて、接続状態を維持するようになっている。なお、作業用アイソレータ3にも、ストッカー用アイソレータ2と同様にグローブ7が設けられている。
【0010】
図3に示すように、採取物調製用パーソナルボックス4は、内部に閉鎖された空間が形成される収容部本体4Aと、この収容部本体4Aを密閉する蓋体4Bと、上記無菌操作を行う作業用アイソレータ3に上記収容部本体4Aを接続させて、作業用アイソレータ3内と収容部本体4A内とを連通させる接続手段4Cとから構成されている。
上記収容部本体4Aは、内部が仕切られて2つの独立した閉鎖空間を備えており、1つの閉鎖空間は単一のドナーから採取された採取物を収容するための第1収容室4Aaとして構成され、他の閉鎖空間は上記採取物と関連付けられた物品を収容するための第2収容室4Abとして構成されている。第1収容室4Aaは第1蓋体4Baにより密閉されるようになっており、第2収容室4Abは第2蓋体4Bbにより密閉されるようになっている。また、第1蓋体4Ba、第2蓋体4Bbは、それぞれ第1収容室4Aa、第2収容室4Abの開口に嵌合する本体部分と、第1収容室4Aa、第2収容室4Abを作業用アイソレータ3内と連通させたときに作業用アイソレータ3内に露出される開口の周囲を覆い隠すための、フランジ部分を備えて構成されている。
接続手段4Cは、作業用アイソレータ3の壁に形成した開口部に設けられ、第1蓋体4Baを嵌め込む第1接続蓋4Caと、第2蓋体4Bbを嵌め込む第2接続蓋4Cbを備えている。これら第1接続蓋4Caと第2接続蓋4Cbは作業用アイソレータ3の壁に形成した開口部を密閉するとともに、第1接続蓋4Caに第1蓋体4Baを第2接続蓋4Cbに第2蓋体4Bbを嵌め込んで一体化させることにより、作業用アイソレータ3に収容部本体4Aを接続させるようになっている。そして、図4に示すように、第1蓋体4Baおよび第2蓋体4Bbを嵌め込んだ状態で、第1接続蓋4Caまたは第2接続蓋4Cbを作業用アイソレータ3の内部へ開放させることにより、作業用アイソレータ3内と収容部本体4A内の第1収容室4Aaおよび第2収容室4Abを、外部から遮断した状態で連通させることができるようになっている。この場合、第1蓋体4Ba、第2蓋体4Bbの外部雰囲気に露出していた外表面は、第1接続蓋4Caおよび第2接続蓋4Cbによって覆い隠されるようになっている。これにより作業用アイソレータ3と採取物調整用パーソナルボックス4の収容部本体4Aは、互いに内部の無菌状態を維持しながら接続し、離脱することが可能となっている。このような接続手段4Cは、各採取物調製用パーソナルボックス4で共用するようになっている。
【0011】
収容部本体4Aと蓋体4Bはそれぞれ断熱材料からなり、密閉空間には第1収容室4Aaと第2収容室4Abに対応させて、それぞれに流体を供給するための供給口4Dと流体を排出するための排出口4Eが設けられている。これら供給口4Dと排出口4Eにおいて、第1収容室4Aaに設けられた供給口4Daからは、流体として細胞の培養に適した気体が供給されるようになっており、排出口4Eaから排出されるようになっている。また、第2収容室4Abに設けられた供給口4Dbからは、流体として冷却した気体が供給されて第2収容室4Ab内部を冷却するようになっており、排出口4Ebから排出されるようになっている。これら供給口4Dおよび排出口4Eにはそれぞれ、HEPAフィルタ等の無菌フィルタ11が備えられており、また、これら供給口4Dおよび排出口4Eを塞ぐキャップ12が付属されていて、流体の供給、排出がされないときには、このキャップ12で密閉するようになっている。
第1収容室4Aaに収容される単一のドナーから採取された採取物としては細胞や組織があり、これを培養容器13の培地に播種して第1収容室4Aaに収容させて培養するようになっている。供給口4Daから供給する気体としては、炭酸ガス等の細胞培養に適した気体があり、これを培養に適した温度に加温して供給するとともに、第1収容室4Aaが所定範囲の陽圧を維持するよう制御して排出口4Eaから排出することで、第1収容室4Aa内の温度、圧力が管理されるようになっている。また、第1収容室4Aa内には、図示しない加湿パッドが備えられ、水分を蒸発させて加湿し、第1収容室4Aa内の湿度を所定範囲に維持するようになっている。なお、第1収容室4Aaの内部に面している第1蓋体4Baや天面、底面、側面の各壁に、加熱手段として図示しないペルチェ素子等の熱電素子を内蔵させ、供給口4Daから供給される気体による加温に加えて、第1収容室4Aa内を加温することも可能である。これによれば、気体の供給により大まかな加温を行い、上記加熱手段により細かな温度制御を行うことができ、より厳密な温度管理が可能となる。また、第1収容室4Aaの各内面での結露を防止することができる。
第2収容室4Abに収容される、第1収容室4Aaに収容される採取物と関連付けられた物品としては、第1収容室4Aaに収容される採取物を採取したドナーに固有の、培養に用いる培地や添加物、試薬等があり、より具体的には、このドナー由来の血清や血清を添加した培地がある。これらを保管容器14に収容させ第2収容室4Abに収容して冷蔵保存するようになっている。供給口4Dbからは約4℃に冷却された空気や不活性ガス等の気体を供給するとともに、第2収容室4Abが所定範囲の陽圧を維持するよう制御して排出口4Ebから排出することで、第2収容室4Ab内の温度、圧力が管理されるようになっている。なお、第2収容室4Ab内の冷却方法としては、冷却した気体からなる冷却流体を内部に直接循環させる方法に限らず、供給口4Dbから排出口4Ebへ第2収容室4Abの内壁に沿って配管を巡らせて冷却流体を循環させるようにしても良い。この場合には、冷却流体として気体の他に冷却した液体やジェルを用いることも可能である。
さらに、図2に示すように、この採取物調製用パーソナルボックス4の各収容部本体4Aには、それぞれ他の収容部本体4Aと識別するための識別手段15が備えられている。この識別手段15としては、各収容部本体4A毎に異なるバーコード、IDタグやICチップを設けたり、異なる数字や文字、番号、記号等を記載することや、異なる色彩を施すこと等により備えることができる。
【0012】
各採取物調製用パーソナルボックス4を保管するための保管手段5には、その前面に各採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aを収納可能な収納穴5A〜5Fが横一列に形成されている。各収納穴5A〜5Fの内部には、各収容部本体4Aが備える第1収容室4Aaの供給口4Daと接続される流体供給管16および排出口4Eaと接続される流体排出管17が設けられるとともに、各収容部本体4Aが備える第2収容室4Abの供給口4Dbと接続される冷却流体供給管18および排出口4Ebと接続される冷却流体排出管19が設けられている。
なお、各収納穴5A〜5Fにおける上記各供給管16、18および各排出管17、19には、各供給口4Da,4Dbおよび各排出口4Ea,4Ebが接続された際に開放される図示しない開閉弁が内蔵されている。
そして、各採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aを移動手段9上から収納穴5A〜5Fに収納させることで、収容部本体4Aが備える第1収容室4Aaの供給口4Daと流体供給管16が接続されるとともに、排出口4Eaと流体排出管17が接続されるようになっている。また、それと同時に、第2収容室4Abの供給口4Dbと冷却流体供給管18が接続されるとともに、排出口4Ebが冷却流体排出管19と接続されるようになっている。
【0013】
図1に示すように、各収納穴5A〜5Fに配置された各流体供給管16は、流体供給源22に接続された共通の流体供給配管23に連通して流体供給手段(培養流体供給手段)を構成しており、各流体排出管17は流体排出手段24に接続された共通の流体排出配管25に連通して流体排出手段を構成している。
また、各冷却流体供給管18は、冷却流体供給源27に接続された共通の冷却流体供給配管28に連通して流体供給手段(冷却流体供給手段)を構成しており、各冷却流体排出管19は冷却流体排出手段29に接続された共通の冷却流体排出配管30に連通して冷却流体排出手段を構成している。
【0014】
本実施例においては、このようにして各採取物調製用パーソナルボックス4の第1収容室4Aaに細胞培養に適した気体を供給して、その雰囲気を維持することでインキュベータとして機能するようになっている。また、各採取物調製用パーソナルボックス4の第2収容室4Abに冷却気体やその他の流体を供給して、その雰囲気を維持することにより、低温保管庫として機能するようになっている。
このように、構成することで、従来のインキュベータや低温保管庫が備えていたファン等の電装部品を個々に備える必要がなく、また、ファンモータ等から発生する振動が培養に影響することを回避することができる。
【0015】
以上のように構成された本実施例の採取物調製システムによる、作業手順の一例を説明する。なお、以下に説明する作業は、特に明示しない限り調製作業室1内の作業者によって行われ、ストッカ用アイソレータ2内、作業用アイソレータ3内の作業はグローブ7を介して行われる。
先ず、ストッカ用アイソレータ2にトランスファボックス6を接続して、それらを連通状態とし、さらに除染パスボックス2Aも連通状態とした上で、ストッカ用アイソレータ2に除染装置8を接続し除染ガスを供給する。これにより、連通状態のストッカ用アイソレータ2と除染パスボックス2Aとトランスファボックス6の内部全域を除染して無菌状態として内部を陽圧に維持する(図5のS1)。また、この時には、ストッカ用アイソレータ2内に予め搬入しておいた所要の資材や試薬等も合せて除染する。
他方、作業用アイソレータ3には、1つの採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aを接続手段4Cを介して接続してから、第1蓋体4Baを嵌め込んだ第1接続蓋4Caおよび第2蓋体4Bbを嵌め込んだ第2接続蓋4Cbを開放して連通状態とし、除染装置8を接続して除染ガスを供給することで、連通状態の内部全域を除染して無菌状態として内部を陽圧に維持する(図5のS2)。なお、このように収容部本体4Aを接続手段4Cを介して作業用アイソレータ3に接続した状態では、各供給口4Da、4Dbおよび各排出口4Ea、4Ebはキャップ12で密閉されている。
このような状態において、単一のドナーから採取した細胞等の採取物を収容した容器、このドナー由来の血清等の上記採取物と関連付けられた物品を収容した容器および培地を収容した容器を、除染パスボックス2Aで外面を除染してからストッカ用アイソレータ2に搬入し、さらに、トランスファボックス6に収容させる。これらを収容したトランスファボックス6は、密閉した後、ストッカ用アイソレータ2から分離させて作業用アイソレータ3に接続し(図5のS3)、無菌状態を維持したまま収容している容器等の物品を作業用アイソレータ3に搬入させる。
さらに、ストッカ用アイソレータ2内で資材などの外装を開封してストックするとともに、必要数の空の培養容器13や保管容器14および今回使用する資材や試薬等を同時にトランスファボックス6を介して作業用アイソレータ3に無菌的に搬入する。
【0016】
この後、作業用アイソレータ3において、搬入され培養容器13に培地を入れてドナー由来の血清を添加してドナー由来の培地として調製し、これに細胞を播種する(図5のS4)。また、残りの培地を保管容器14に入れて血清を添加し、ドナー由来の培地を調製する。
細胞を播種した培養容器13は、単一のドナーから採取した採取物として採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aの第1収容室4Aaに収容する。他方、血清が添加された培地を収容した保管容器14は、第1収容室4Aaに収容した上記採取物と関連付けられた物品として収容部本体4Aの第2収容室4Abに収容する。その後、採取物調製用パーソナルボックス4の第1蓋体4Baおよび第2蓋体4Bbを閉鎖して内部の無菌状態を維持したまま収容部本体4Aを作業用アイソレータ3から分離させて、供給口4Da、4Dbおよび排出口4Ea、4Ebの各キャップ12を取り外してから保管手段5の収納穴5Aに収納させ、供給口4Daと流体供給管16、排出口4Eaと流体排出管17、供給口4Dbと冷却流体供給管18、排出口4Ebと冷却流体排出管19をそれぞれ接続する(図5のS5)。なお、図3に示すように、第1接続蓋4Ca、第2接続蓋4Cbを密閉させることで、収容部本体4Aを分離させた後も、作業用アイソレータ3は密閉状態を維持できるように構成されている。
なお、血清は全量を培地を収容した保管容器14に添加して調製しても良いし、その都度、必要量の血清と培地を培養容器13に入れて調製しても良い。その都度調製する場合は、血清を収容した容器を保管容器14として第2収容室4Abに収容して保管する。
このように採取物調製用パーソナルボックス4を保管手段5に保管させることで、第1収容室4Aaで細胞を培養すると同時に、第2収容室4Abでは、第1収容室4Aaに収容されている細胞のドナー由来の血清や、この血清を添加した培地を低温で保管するようになっており、これによって、異なるドナー間で、細胞と、この細胞に固有の血清や血清を添加した培地を取り違えることが防止される。また、収容部本体4Aの識別手段15としてのバーコード、IDタグやICチップを読み取り、もしくは、番号や記号等を記録して、収容している採取物のドナー情報と関連付けて管理する。
【0017】
次に、単一のドナーから採取された採取物として異なる他のドナーに関する細胞を扱う場合には、作業用アイソレータ3に識別手段15の異なる別の採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aを接続手段4Cを介して接続して(図5のS2)、連通状態とした後に、作業用アイソレータ3および採取物調製用パーソナルボックス4内を除染装置8の除染ガスで除染する。その後、作業用アイソレータ3にトランスファボックス6を接続して(図5のS3)、今回の採取物やこの採取物と関連付けられた物品および培養容器13や保管容器14を、トランスファボックス6を介して作業用アイソレータ3へ搬入する。
この状態において、前述したようにして播種作業を行って(図5のS4)、細胞を播種した培養容器13を採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aの第1収容室4Aaに収容し、血清が添加された培地を収容した保管容器14を採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aの第2収容室4Abに収容する。その後、第1蓋体4Baおよび第2蓋体4Bbを閉鎖してから採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aを作業用アイソレータ3から分離させて、この収容部本体4Aを保管手段5の収納穴5Bに収納する(図5のS5)。
このように、別の採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aが作業用アイソレータ3に接続されて、播種作業が行われている間にも、先に培養容器13が収容されて保管手段5に保管されている採取物調製用パーソナルボックス4では、異なるドナーの細胞の培養が継続されている。
【0018】
保管手段5においては、上記流体供給源22から培養に最適な温度に加温された炭酸ガスが、上記各収納穴5A〜5F内の採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aが備える第1収容室4Aaに供給されるとともに、各第1収容室4Aa内から炭酸ガスが排出されて流体排出手段24へ回収される。また、冷却流体供給源27から収納穴5A〜5Fの採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aが備える第2収容室4Abに対して培地の保管に最適な4℃の冷却流体が供給されるとともに、各第2収容室4Abから冷却流体が冷却流体排出手段29へ回収される。この状態において保管手段5内に保管された各収容部本体4Aが備える第1収容室4Aa内で所要の期間だけ細胞の培養が行われるとともに、培養されている細胞のドナー由来の血清やこの血清を添加した培地を、第2収容室4Ab内で低温保管する。
【0019】
そして、各採取物調製用パーソナルボックス4内の細胞に関して上述した播種から所定期間が経過すると、培地の交換作業が行われる。
この場合には、予め内部が除染済みの作業用アイソレータ3に、対象となる採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aを、保管手段5の例えば収納穴5Aから取り外して接続手段4Cにより接続する(図5のS2)とともに、トランスファボックス6を接続して(図5のS3)必要な資材や容器、試薬等を搬入する。そして、採取物調製用パーソナルボックス4の第1蓋体4Baおよび第2蓋体4Bbを開放させて、培養容器13と保管容器14を作業用アイソレータ3に搬入し、培養容器13から古い培地を吸引除去した後に、保管容器14の新たな培地を培養容器13に入れる(図5のS6)。その後、再び採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aの第1収容室4Aaに培養容器13を収容するとともに、第2収容室4Abに保管容器14を収容して、第1蓋体4Baおよび第2蓋体4Bbを閉鎖してから接続手段4Cによる接続を解除し、再度収容部本体4Aを保管手段5に収納して(図5のS5)、その後も細胞の培養を継続する。
【0020】
さらに、採取物調製用パーソナルボックス4に保管されて保管手段5で所定の培養期間が経過した細胞に対しては、継代作業を行う。
この場合には、予め内部が除染済みの作業用アイソレータ3に、対象となる採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aを、保管手段5の例えば収納穴5Aから取り外して接続手段4Cにより接続する(図5のS2)とともに、トランスファボックス6を接続して(図5のS3)未使用の培養容器13を搬入する。そして、収容部本体4Aから作業用アイソレータ3に培養容器13と保管容器14を搬入する。
その後、新たな培養容器13に、保管容器14から培地を入れてから、現培養中の培養容器13から培養中の細胞の一部を移す(図5のS7)。こうして、継代されることで複数に増えた培養容器13を採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aの第1収容室4Aaに収容するとともに、第2収容室4Ab内に保管容器14を再度収容し、再度収容部本体4Aを保管手段5に収納して(図5のS5)、細胞の培養を継続する。
なお、上述した作業手順において、単一のドナーを対象とした細胞調製工程では、1工程で1回の播種作業に対して、培地交換作業および継代作業は1工程で複数回行うようになっており、継代は例えば4〜6日おきに行い、培地交換は播種と継代の間あるいは継代と継代の間に、例えば2〜3日おきに行うようになっている。これら培地交換や継代のために作業用アイソレータ3にいずれかの採取物調製用パーソナルボックス4を接続している間も、他の採取物調製用パーソナルボックス4では細胞の培養が継続されている。
その後、必要な継代および培地交換を繰り返し、所要の期間が経過して培養が終了すると、培養容器13と保管容器14を収容した各採取物調製用パーソナルボックス4の収容部本体4Aを順次保管手段5から取り外して除染済の作業用アイソレータ3に接続手段4Cにより接続して(図5のS2)、培養容器13を作業用アイソレータ3に搬入するとともに、トランスファボックス6を接続して(図5のS3)培養された細胞を収容するための容器を作業用アイソレータ3に搬入し、培養された細胞を培養容器13から他の容器に移し替える。その後、作業用アイソレータ3に除染装置8から除染ガスを供給して、採取物調製用パーソナルボックス4、培養容器13および保管容器14や培養された細胞を収容した容器の外表面を除染装置8により除染して作業用アイソレータ3から搬出する(図5のS8)。
【0021】
以上のように、本発明の採取物調製システムにおいては、1つの採取物調製用パーソナルボックス4を1人のドナーが使用するパーソナルボックスとしてドナー単位で管理することができ、さらに、1つの採取物調製用パーソナルボックス4内に単一のドナーから採取した細胞を播種した培養容器13と、この細胞に固有の血清を収容した保管容器14もしくは該血清を添加した培地を収容した保管容器14が収容されて保管されるので、取り違えが防止されるとともに、異なるドナーの採取物調製用パーソナルボックス4を接続する毎に、予め作業用アイソレータ3の内部を除染するため、これらを起因としたクロスコンタミネーションを防止することができる。
また、採取物調製用パーソナルボックス4には電動部品が設けられていないので、第1収容室4Aaで培養中の細胞等の採取物が電動部品の振動による悪影響を受けることがなく、軽量で持ち運びも容易であり、さらに、作業用アイソレータ3に採取物調製用パーソナルボックス4を接続した状態とすることで、採取物調製用パーソナルボックス4の第1収容室4Aaおよび第2収容室4Abを一度に除染することができる。
また、本発明の採取物調製システムによれば、採取物調製用パーソナルボックス4自体は安価に製作でき、多数のドナーに対応することも容易である。さらに、複数の採取物調製用パーソナルボックス4に流体を供給するための流体供給源22を備え、また、複数の採取物調製用パーソナルボックス4内に冷却流体を供給するための冷却流体供給源27を備えて構成され、ドナーの増加は採取物調製用パーソナルボックス4の増加で対応可能であり、多数のドナーに対応した採取物調製システムを容易に構築することができる。
【0022】
なお、上記実施例においては、調製作業室1内で上述した培地交換作業等を作業者が行うことを前提としているが、ストッカ用アイソレータ2に作業用ロボットを設置して、該作業用ロボットによって資材等の搬送作業を自動化するようにしても良い。また、上記トランスファボックス6と各採取物調製用パーソナルボックス4の自動着脱手段および自動移動手段を設けて、トランスファボックス6と各採取物調製用パーソナルボックス4の着脱や移動作業を自動化することもできる。
【符号の説明】
【0023】
2‥ストッカ用アイソレータ 3‥作業用アイソレータ
4‥採取物調製用パーソナルボックス 4A‥収容部本体
4Aa‥第1収容室 4Ab‥第2収容室
4B‥蓋体 4Ba‥第1蓋体
4Bb‥第2蓋体 4C‥接続手段
4Ca‥第1接続蓋 4Cb‥第2接続蓋
5‥保管手段 13‥培養容器
14‥保管容器 15‥識別手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に閉鎖された空間が形成される収容部本体と、この収容部本体を密閉する蓋体と、無菌操作を行うアイソレータに上記収容部本体を接続させて、アイソレータ内と収容部本体内とを連通させる接続手段とから構成され、
上記収容部本体は複数の独立した閉鎖空間を備えて、少なくとも1つの閉鎖空間は単一のドナーから採取された採取物を収容するための第1収容室として構成され、他の閉鎖空間は上記採取物と関連付けられた物品を収容するための第2収容室として構成されて、
上記収容部本体には、他の収容部本体と識別するための識別手段が備えられていることを特徴とする採取物調製用パーソナルボックス。
【請求項2】
上記第1収容室に供給口が設けられ、流体供給手段から第1収容室に流体を供給できることを特徴とする請求項1に記載の採取物調製用パーソナルボックス。
【請求項3】
上記第2収容室に供給口が設けられ、流体供給手段から第2収容室に流体を供給できることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の採取物調製用パーソナルボックス。
【請求項4】
上記蓋体が、上記収容部本体の複数の独立した各閉鎖空間に対応して備えられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の採取物調製用パーソナルボックス。
【請求項5】
無菌操作を行うアイソレータと、このアイソレータに接続可能で内部を密閉可能な採取物調製用パーソナルボックスと、複数の採取物調製用パーソナルボックスを保管する保管手段とを備え、
上記採取物調製用パーソナルボックスは複数の独立した閉鎖空間を備え、少なくとも1つの閉鎖空間には供給口が設けられて、単一のドナーから採取された採取物を播種した培養容器を収容するための第1収容室として構成され、他の閉鎖空間は第1収容室に収容される採取物と関連付けられた物品を収容するための第2収容室として構成され、
上記保管手段は、上記第1収容室に供給口を介して培養に適した流体を供給する培養流体供給手段を備えることを特徴とする採取物調製システム。
【請求項6】
上記採取物調製用パーソナルボックスの第2収容室に供給口を設けるとともに、上記保管手段は、上記第2収容室に供給口を介して冷却流体を供給する冷却流体供給手段を備え、採取物調製用パーソナルボックスを保管手段に保管させて、第1収容室で採取物を培養すると同時に、培養される採取物と関連付けられた物品を第2収容室で冷蔵保存することを特徴とする請求項5に記載の採取物調製システム。
【請求項7】
密閉可能な複数の独立した閉鎖空間を備えた採取物調製用パーソナルボックスを複数準備し、いずれかの採取物調製用パーソナルボックスを無菌操作を行うアイソレータと接続して、少なくとも1つの閉鎖空間に単一のドナーから採取された採取物を播種した培養容器を収容するとともに、他の閉鎖空間には、収容された採取物と関連付けられた物品を収容し、
その後、採取物調製用パーソナルボックスをアイソレータから分離させて、培養容器を収容した閉鎖空間に培養に適した流体を供給して採取物を培養するとともに、採取物と関連付けられた物品を収容した閉鎖空間には冷却流体を供給して該物品を冷蔵保存し、
上記アイソレータは上記採取物調製用パーソナルボックスを分離後、内部を除染してから、異なる採取物調製用パーソナルボックスを接続して異なるドナーから採取された採取物を取り扱うことを特徴とする採取物調製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−4613(P2011−4613A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148743(P2009−148743)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(501345220)株式会社セルシード (39)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】