説明

採血管

【課題】シートタイプの採血管の利点を有し、さらに、血液の飛散や漏出の問題が無く、また、血液の分注などにおいて汎用器具を使用可能な採血管を提供する。
【解決手段】採血管10は、開口端20を有し、内部空間に血液102を貯留可能な管本体11と、管本体11の開口端20に接合されて開口を閉塞するシート12と、管本体11内において、管本体11の軸線方向101に対して第1室22と第2室23とを区画するように配置されて、弾性変形により軸線方向101に対して開口可能な止血弁13と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管本体に採取された血液を貯留する採血管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、診断等を目的としてヒトなどの生体から血液が採取され、その血液中の各種成分の分析が血液検査として行われている。生体から血液を採取するには、注射器などのほか、採血管が使用される。この採血管は、主として、一端が開口され且つ他端が閉塞された管本体が、採血針が刺通可能なゴム栓などによって気密に閉塞されたものである。ゴム栓などによって閉塞された管本体の内部空間は大気圧に対して減圧状態に保持されている。また、必要に応じて、血清分離剤や凝固剤などの薬剤が管本体内に封入されている。
【0003】
採血針が取り付けられた採血針ホルダに採血管が装着されると、採血針がゴム栓を貫通して、その減圧状態の内部空間に採血針を通じて生体の血液が吸引される。適当な量の血液が管本体内に吸引されると、採血針ホルダから採血管が取り外される。採血管が取り外される際に、ゴム栓から採血針が引き抜かれ、採血針による刺通路はゴムの弾性によって液密に封止される。採血後の採血管は、そのまま遠心分離等の処理が行われてから開栓され、採血管内の血液又は血清などが採取され、各種の血液検査が行われる(特許文献1)。
【0004】
前述された採血管には、ゴム栓に代えて、ガスバリア性のフィルムを用いて管本体が気密に閉塞されたタイプのものがある。このフィルムには、抜針後の液密を確保するために、一部分にゴム片が取り付けられている。このゴム片を採血針が貫通して、前述されたように、採血針を通じて管本体内に血液が吸引される。また、遠心分離等の処理が行われた後は、フィルムが剥離されることによって管本体が開封され、管本体内の血液又は血清が採取される(特許文献2)。
【0005】
また、採血管の本体において、ゴム栓の裏面よりも下方の位置に穿孔可能な仕切り部材を設けた採血管がある。この仕切り部材は、採血時及び分注時に、ノズルなどの尖鋭な部材によって突き通されて孔が穿たれる。この仕切り部材によって、開栓時の血液の飛散が防止される(特許文献3)。
【0006】
また、ゴム栓のフランジ部分に、管本体の外周を覆うスカート部が設けられたタイプの採血管がある。この採血管においても、ゴム栓を取り外す際に管本体から飛び出した血液飛沫が、スカート部の内面側に付着することよって、飛び出した血液飛沫が作業者の手や周囲の環境を汚すことがない(特許文献4)。
【0007】
また、ゴム栓と管本体との境界部分がフィルムで覆われたタイプの採血管がある。このフィルムは、ゴム栓を取り外す際に、ゴム栓と共に管本体に対して捻られることによって一部が破断する。ゴム栓を取り外す際に管本体から飛び出した血液飛沫が、フィルムの内面側に付着することによって、飛び出した血液飛沫が作業者の手や周囲の環境を汚すことがない(特許文献5)。
【0008】
また、前述された採血管には、ゴム栓の上面にシートが張られたものがある。このシートの有無や、シートに針を刺した跡があるか否かで、使用済み又は滅菌済みであるか否かを判断することができる(特許文献6)。
【0009】
また、前述された採血管には、管状容器の開口部がシート部材で気密に閉塞され、そのシート部材の外表面にカバー部材が設けられたものがある。このカバー部材は、管状容器に対して捻られることによってシート部材を破断させ、また、シート部材が破断した後は管状容器の開口に嵌合する。これにより、ゴム栓でなく、シート部材で気密に閉塞された採血管が開封された後も、カバー部材によって再び管状容器を閉塞することができる(特許文献7)。
【0010】
また、シートにより管本体が気密に閉塞された採血管を、採血後に開栓する開栓装置が提案されている。この開栓装置は、採血管のシートに取り付けられたゴム片等を保持ピンが刺し通し、続いてゴム片の周囲を開栓カッターが打ち抜くことによって、採血管を開栓する(特許文献8)。
【0011】
【特許文献1】特開平8−322819号公報
【特許文献2】特開2005−261965号公報
【特許文献3】特開2008−173218号公報
【特許文献4】特開2001−276023号公報
【特許文献5】特開2002−587号公報
【特許文献6】特開2005−296122号公報
【特許文献7】特許第3533023号公報
【特許文献8】特開2008−184168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述された採血管において、ゴム栓により管本体を気密に閉塞するタイプのものは、管本体から血液を採取した後に、再びゴム栓によって管本体を閉塞して、残りの血液を保存することができるという利点がある。一方、採血管のゴム栓を自動的に開栓する装置はあるものの、病院や検査センターなどの施設に導入されている開栓装置の多くは、特許文献8に開示されたようなシートを打ち抜いて開栓するタイプのものであり、このような所謂シートタイプの採血管に対する開栓装置が導入された施設においては、ゴム栓タイプの採血管の開栓を自動化するには別の開栓装置を更に導入する必要があり、ゴム栓タイプの採血管を大量に開栓するためのコストが高いという問題がある。
【0013】
他方、シートタイプの採血管は、既に多くの施設に導入されている開栓装置を利用して開栓の自動化を図ることができる。また、シールを手で剥離することによって、手作業で開栓することもできるので、開栓装置が導入されていない施設など、手作業で採血管から血液を採取する場合においても直ちに採用され得る。しかし、シールを剥離する際に、シートに付着した血液が作業者の手に付着し易いという欠点がある。また、シートを剥離する際に、シートと管本体との隙間から、前述されたようにして、血液飛沫が飛び出すおそれがあるという欠点もある。さらに、剥離したシートによって採血管を再シールすることができないので、開封後に採血管が横倒しなどされると、血液などが漏れるという欠点もある。
【0014】
例えば、特許文献3に記載された採血管では、採血用の針が仕切り部材に突き刺されることによって採血が行われ、針が引き抜かれた後は、仕切り部材に形成された小孔が弾性などによって閉じる。この仕切り部材によって、開栓時の血液の飛散が防止される。
【0015】
しかし、開栓後に採血管から血液を分注するときに用いられるノズルなどが、仕切り部材を突き刺すことが可能な尖鋭な部材に限定されるという問題がある。一般に、ピペットなどのノズルや自動検査装置などの分注ノズルは、このような仕切り部材を突き刺すことが想定されておらず、その先端が尖鋭であるとは限らない。したがって、汎用されているピペットのノズルや自動検査装置の分注ノズルによって、必ずしも仕切り部材を突き刺すことができないという問題がある。換言すれば、特許文献3に記載された採血管では、使用可能なピペットなどの分注器具が限定されたり、専用器具が必要とされるという問題が想定される。
【0016】
また、採血管の内部空間が気密性の仕切り部材で仕切られると、仕切り部材より底側が気密となるので、その後に、仕切り部材より底側の空間を真空などの減圧状態とする工程が複雑となるおそれがある。
【0017】
本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シートタイプの採血管の利点を有し、さらに、血液の飛散や漏出の問題が無く、また、血液の分注などにおいて汎用器具を使用可能な採血管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1) 本発明に係る採血管は、開口された第1端を有し、内部空間に血液を貯留可能な管本体と、上記管本体の第1端に接合されて上記開口を閉塞するシートと、上記管本体内において、当該管本体の長手方向に対して上記第1端側と反対側とを区画するように配置されて、弾性変形により当該長手方向に対して開口可能な止血弁と、を具備する。
【0019】
本発明に係る採血管は、例えば、周知の採血針ホルダに装着されて、採血針がシートを貫通し、かつ止血弁を開口することによって、採血針を通じて管本体の内部空間に血液が採取されるものである。この管本体の第1端にはシートが接合されて、管本体の開口が液密に閉塞されている。管本体の内部には、第1端のシートから所定の距離が隔てられて止血弁が配置されている。シートと止血弁との離間距離は、採血に使用される針がシートを貫通し、その先端が止血弁にも十分に到達できる程度に設定される。
【0020】
管本体の内部空間は止血弁により区画されている。管本体の長手方向に対して第1端側の内部空間(第1室)と反対側の内部空間(第2室)とは、止血弁により液密に区画される。シートを貫通した針は、止血弁を弾性変形させて、或いは止血弁を刺通して、その先端が反対側の内部空間(第2室)へ到達される。そして、その針の先端から流出する血液が、反対側の内部空間(第2室)に貯留される、この貯留された血液は、止血弁によって第1端側の内部空間(第1室)へ流動することがない。仮に針が止血弁を刺通したとしても、止血弁の弾性によって、針の刺通孔から血液が漏れ出すことがない。
【0021】
採血後に、管本体からシートが剥離されて血液又は血清が分注される場合には、止血弁によって、反対側の内部空間(第2室)に貯留された血液が第1端側の内部空間(第1室)へ流動することがないので、仮に管本体が横倒しされたとしても、管本体から血液が漏れることがない。また、シートが剥離されるまでに、遠心分離が行われたり、採血管が振られたりしても、止血弁によって管本体内の血液がシートに付着することがないので、シートを剥離する際に、作業者の指などに血液が付着したり、血液が管本体の外側へ飛散することがない。
【0022】
管本体からシートが剥離された後、第1端側からピペットのノズルなどが管本体に挿入される。このノズルの先端が止血弁に当接すると、止血弁が弾性変形して開口する。この開口を通じて、ノズルの先端が反対側の内部空間(第2室)へ到達し、ピペットが操作されることによって、管本体から血液又は血清が分注される。また、管本体からシートが剥離されなくとも、シートに形成された針の刺通跡にピペットのノズルなどを挿入して穴を開けて、ノズルの先端が管本体に挿入されてもよい。
【0023】
(2) 上記止血弁として、上記管本体の長手方向に沿った厚みが薄い膜であって、当該膜を管本体の長手方向へ貫通するスリットを有するものがあげられる。
【0024】
(3) 上記止血弁として、上記管本体の長手方向に沿って突出する漏斗形状であって、当該漏斗形状の先端に拡径可能な孔を有するものがあげられる。
【0025】
(4) 上記止血弁として、ダックビル型のものがあげられる。
【0026】
(5) 上記止血弁は、針を刺通可能なものであって、かつ当該針が抜かれた後に当該針によって形成された刺通路を液密に閉塞可能なものであってもよい。
【0027】
(6) 上記管本体は、その内部空間が上記シートによって気密に保持され、かつその内部空間が大気圧に対して減圧状態であってもよい。
【0028】
例えば、ガスバリア性のシートによって管本体の内部空間が長期間に渡って減圧状態に保持される。これにより、簡易且つ安価に、内部空間が減圧された採血管が実現される。
【0029】
(7) 上記管本体は、上記止血弁によって上記第1端側の第1室と反対側の第2室とに区画され、当該第2室に採血された血液が貯留されるものとして使用されることが想定される。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る採血管によれば、管本体の第1端がシートによって閉塞されているので、汎用されている開栓装置が利用可能であり且つ手作業で開栓することもできるというシートタイプの採血管の利点を有する。
【0031】
また、管本体の内部空間が止血弁により区画されているので、第1端側の内部空間(第1室)と反対側の内部空間(第2室)に貯留された血液が、第1端側の内部空間(第1室)へ流動することがない。これにより、シートが剥離されたりシートに穴が穿たれても、血液の飛散や漏出が防止される。
【0032】
また、管本体からシートが剥離されて血液又は血清が分注される場合には、第1端側から管本体へ挿入されたピペットのノズルなどによって止血弁が弾性変形して開口するので、管本体から血液又は血清を分注するときに、汎用されている分注器具を使用することができる。さらに、管本体からシートを剥離せずとも、ピペットのノズルなどによってシートに穴を穿つことによって、ノズルが管本体へ挿入される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様を変更できることは言うまでもない。
【0034】
[図面の説明]
図1は、本発明の第1実施形態に係る採血管10の外観構成を示す斜視図である。図2は、採血管10の分解斜視図である。図3は、採血管10の縦断面図である。図4は、採血管10によって採血を行っている状態を示す縦断面図である。図5は、採血管10によって採血を行った後の状態を示す縦断面図である。図6は、採血後の採血管10を手で開栓する状態を示す縦断面図である。図7は、開栓後の採血管10から血液102を分注する状態を示す縦断面図である。図8は、ノズル16によってシート12に穴を穿って採血管10から血液102を分注する状態を示す縦断面図である。図9(A)は、第1変形例に係る止血弁40を示す分解斜視図であり、図9(B)は、止血弁40を示す平面図である。図10(A)は、第2変形例に係る止血弁50を示す平面図であり、図10(B)は、IX-IX切断線における止血弁50を示す断面図である。図11(A)は、第3変形例に係る止血弁60を示す平面図であり、図11(B)は、X-X切断線における止血弁60を示す断面図である。図12は、止血弁60がノズル16によって開放された状態を示す断面図である。図13(A)は、第4変形例に係る止血弁70を示す平面図であり、図13(B)は、XII-XII切断線における止血弁70を示す断面図である。図14は、止血弁70がノズル16によって開放された状態を示す断面図である。
【0035】
以下に、本発明の実施形態が説明される。なお、本実施形態において、単に「上側」又は「下側」と称される場合には、図2における軸線方向101が上下方向とされて、図2における上側が「上側」、図2における下側が「下側」である。
【0036】
(採血管10の概略構成)
図1から図3に示されるように、本実施形態に係る採血管10は、管本体11と、管本体11の開口端20を閉塞するシート12と、管本体11の内部空間に配設された止血弁13とを主要な構成とする。
【0037】
(管本体11)
図2に示されるように、管本体11は、概ね円筒形状をなしている。管本体11は、下側が半球形状の底として閉塞されている。管本体11の上側は開口端20として開放されている。したがって、開口端20から管本体11の内部空間へ血液等の液体が流入又は流出されて、その内部空間に血液等の液体が貯留可能である。この管本体11の開口端20が本発明における第1端に相当する。
【0038】
管本体11の開口端20は、円筒形状の管本体11の軸線方向101に対して直交する平面をなしている。この開口端20の平面が、シート12との接合面として機能する。ここでは、管本体11の側壁が折り曲げられた形状とされており、これによって、開口端20がなす平面は、シート12との接合面積が増加されたものとなっている。
【0039】
管本体11は、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主原料として成形され得るが、その他の公知の素材が用いられてもよい。また、管本体11は、開口端20がシート12によって閉塞されることにより、内部空間が大気圧に対して減圧状態として気密に保持されることから、ガスバリアー性であることが好ましい。このガスバリアー性は、必ずしも単一の原料で実現される必要はなく、管本体11の外面又は内面にガスバリアー性フィルムなどが積層されて実現されてもよい。
【0040】
なお、本実施形態では詳述されないが、管本体11の内部空間には、血清分離剤や凝固促進剤などの公知の薬剤が注入されてもよい。
【0041】
(シート12)
図1から図3に示されるように、シート12は、管本体11の開口端20に接合されて開口端20を閉塞する。シート12が接合された状態において、管本体11の内部空間は液密且つ気密に維持される。シート12の接合が、減圧雰囲気下で行われることにより、管本体11の内部空間が減圧状態にされる。
【0042】
図2に示されるように、シート12は、開口端20の外径と同等の外径を有する円盤形状の薄膜である。シート12は、管本体11の内部空間を気密に保持するために、ガスバリアー性を有する。また、シート12は、採血管ホルダに取り付けられた採血針14(図4参照)によって刺通可能なものである。このようなシート12は、例えば、アルミニウムとポリエチレンとのラミネートフィルムにより実現されるが、その他の樹脂シートや複合シートなどが用いられてもよい。管本体11の開口端20とシート12との接合は、熱溶着などにより実現される。
【0043】
(止血弁13)
図1から図3に示されるように、止血弁13は、管本体11の内部空間に配設されている。止血弁13は、管本体11の内径より若干大きな外径の円盤形状であり、管本体11の内壁に環状に形成された凹溝21と嵌合することによって、その表裏面が管本体11の軸線方向101と直交する姿勢で、管本体11の内部空間における所定の位置に配置されている。なお、管本体11の軸線方向101が、本発明における管本体の長手方向に相当する。
【0044】
図3に示されるように、止血弁13によって、管本体11の内部空間は、開口端20側の第1室22と底側の第2室23とに区画されている。管本体11の軸線方向101に対する止血弁13の配置は、シート12との距離や第2室23の容量などを考慮して設定される。具体的には、止血弁13は、シート12を貫通する採血針14の先端が到達可能な範囲に配置される。また、止血弁13は、第2室23に所望の量の血液を採取可能な範囲に配置される。
【0045】
止血弁13は、管本体11の軸線方向101に沿った厚みが薄い膜である。また、止血弁13の周縁部は肉厚とされており、これによって、止血弁13の強度が高められるとともに、前述された管本体11の凹溝21と止血弁13の周縁部とが強固に係合される。このような止血弁13は、周縁部以外の薄膜な部分において採血針14が刺通可能な弾性部材からなる。この弾性部材は、採血針14が抜かれた後に採血針によって形成された刺通路を液密に閉塞可能なものである。このような弾性部材の特性は、天然ゴムやイソプロピレンゴム、シリコンゴムなどの公知のゴムによって実現される。また、ゴム以外であっても、加硫エラストマーや熱可塑性エラストマーなどの弾性材料によっても実現される。
【0046】
止血弁13は、その中央付近にY字形状のスリット31が形成されている。Y字形状のスリット31は、放射線状に拡がる三方向の各スリットが交差する点が、円盤形状の止血弁13の中心に合致するように形成されており、止血弁13が管本体11の内部空間に設けられると、三方向の各スリットが交差する点が軸線方向101上に配置される。スリット31は、止血弁13を厚み方向へ貫通している。
【0047】
スリット31は、外力が加わらない状態においては、各スリットが閉塞された状態を維持し、この状態において、止血弁13により区画される第1室22と第2室23とが液密に区画される。つまり、外力が作用しない限り止血弁13が閉塞状態となって、第2室23から第1室22へ血液が流出することがない。一方、軸線方向101へ外力が作用すると、スリット31が軸線方向101へ弾性変形されて止血弁13が開放状態となる。この状態において、第1室22と第2室23との間を血液が流通可能となる。また、止血弁13は、第1室22と第2室23との気圧差によってもスリット31が弾性変形されて開放状態となりうる。したがって、止血弁13が配設された管本体11が減圧雰囲気下におかれることにより、止血弁13が開放状態となって第2室23から第1室22へ気体が流通しうる。
【0048】
[採血管10の使用方法]
以下に、採血管10の使用方法が説明される。
【0049】
(採血)
図4に示されるように、採血管10は、周知の採血針ホルダに装着されることによって、採血針14がシート12を貫通する。なお、図4においては、採血針ホルダは省略されて採血針14の一部のみが示されている。採血針14が貫通されることによってシート12に形成された貫通孔の周囲には、採血針14を囲繞するゴムカバー15が密接して、採血針14が貫通された状態において、シート12の貫通孔周りの気密性が確保される。
【0050】
シート12を貫通した採血針14の先端は、止血弁13に到達し、スリット31を弾性変形させて第2室23へ進入する。そして、第2室23の減圧状態により生じる吸引力によって、採血針14を通じて第2室23に血液が吸引される。吸引された血液102は、第2室23に貯留される。そして、所定量の血液102が第2室23に吸引されると、採血管10が採血針ホルダから取り外され、これに伴って採血針14がシート12から引き抜かれる。
【0051】
図5に示されるように、止血弁13から採血針14が引き抜かれることによって、スリット31が弾性復元して止血弁13が閉塞状態となる。また、採血針14が止血弁13から引き抜かれる際に、スリット31の周縁部分が、採血針14に付着した血液を拭い取る。シート12において採血針14により形成された貫通孔は、採血針14が引き抜かれた後も閉塞されないが、止血弁13によって第2室23が液密に閉塞されているので、第2室23から第1室22側へ血液102が流出することがない。採血後は、必要に応じて、採血管10の血液102に対して遠心分離などの処理が行われる。例えば、遠心分離が施されることによって、採血管10の血液102が血清成分と、それ以外の血球成分などとに分離される。
【0052】
なお、シート12を貫通した採血針14の先端が、止血弁13のスリット31を弾性変形させずに止血弁13を貫通したとしても、前述されたように、止血弁13は、採血針14が抜かれた後に採血針14によって形成された刺通路を液密に閉塞可能なので、前述されたように、第2室23が液密に閉塞される。
【0053】
(手作業による開栓)
図6に示されるように、採血管10の血液102や血清成分を採取するために、採血管10を手で開栓する場合には、管本体11からシート12が剥離される。各図には現れていないが、シート12の剥離作業を容易にするために、シート12を摘み持つための舌片などがシート12に一体に設けられてもよい。前述されたように、止血弁13によって、第2室23から第1室22側へ血液102が流出することがないので、採血後に採血管10が遠心分離などに処されても、シート12に血液102が付着しない。また、スリット31の周縁部分が採血針14に付着した血液を拭い取るので、採血針14を介して血液12がシート12に付着することもない。したがって、シート12を手作業で剥離しても、作業者の指に血液102が付着したり、血液102が開口端20から飛散することがない。
【0054】
図7に示されるように、管本体11の開口端20からシート12を剥離した後、開口端20からピペットのノズル16を挿入する。ノズル16の先端は、止血弁13に到達して、スリット31を弾性変形させて第2室23へ進入する。そして、ノズル16の先端が第2室23の血液102又は血清中に進入すると、ピペットによって第2室23に貯留された血液102又は血清が吸い出されて、所望の容器に分注される。ノズル16が管本体11から引き抜かれると、スリット31が弾性復元して、止血弁13が閉塞状態となる。したがって、管本体11の開口端20が再栓されなくとも、管本体11の第2室23から残りの血液102が流出することがない。
【0055】
なお、図には示されていないが、採血管10の血液102や血清成分を採取するために、採血管10を開栓装置を用いて開栓してもよい。開栓装置は、シート12を破断することによって採血管10を開栓する。また、開栓後の管本体11は、例えば、自動分析装置にそのまま搭載されてもよい。自動分析装置の分注ノズルが管本体11に挿入されて止血弁13に当接すると、前述されたノズル16と同様にして、スリット31を弾性変形させて第2室23へ進入するので、その分注ノズルによって第2室23に貯留された血液102又は血清が分注される。
【0056】
また、本実施形態に係る採血管10は、採血後に、前述されたように管本体11からシート12を剥離せずに使用されてもよい。詳細には、図8(A)に示されるように、採血針14がシート12を貫通することによって形成された刺通路にノズル14を差し込んで、その刺通路を拡げる。図8(B)に示されるように、さらにノズル14を差し込むことによって、ノズル14が管本体11へ挿入され、止血弁13を弾性変形させて第2室23に貯留された血液102に到達する。このようにして、採血後に管本体11からシート12を剥離せずに、管本体11から血液102を分注することができる。
【0057】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態に係る採血管10によれば、管本体11の開口端20がシート12によって閉塞されているので、汎用されている開栓装置が利用可能であり且つ手作業で開栓することもできるというようなシートタイプの採血管の利点を有する。
【0058】
また、管本体11の内部空間が止血弁13により区画されているので、第2室23に貯留された血液102が、第1室22へ流動することがない。これにより、シート12を剥離する際に血液102の飛散がなく、また、作業者の指などに血液102が付着することがない。さらに、シート12が剥離された後に、仮に管本体11が横倒しされたとしても、管本体11から血液102が漏れることがない。
【0059】
また、管本体11からシート12が剥離されて血液102又は血清が分注される場合には、開口端20から管本体11へ挿入されたピペットのノズル16などによって止血弁13が弾性変形して開口するので、管本体11から血液102又は血清を分注するときに、汎用されている分注器具を使用することができる。さらに、管本体11からシート12を剥離せずとも、ピペットのノズル16などによってシート12に穴を穿つことによって、ノズル16が管本体11へ挿入される。
【0060】
[第1変形例]
以下に、前述された実施形態の第1変形例が説明される。第1変形例は、止血弁13の構成が異なるのみであり、その他の管本体11、シート12などの構成は同様である。したがって、以下には、前述された止血弁13と異なる止血弁40の構成のみが詳細に説明され、その他の採血管10の構成の説明が省略される。
【0061】
(止血弁40)
図9に示されるように、止血弁40は、第1止血弁41と第2止血弁42とからなる。第1止血弁41及び第2止血弁42は、相互に密接して積層された状態で、前述された止血弁13と同様に管本体11の内部空間に配置される。
【0062】
第1止血弁41及び第2止血弁42は、共に管本体11の内径より若干大きな外径の円盤形状であり、管本体11の軸線方向101に沿った厚みが薄い膜である。また、第1止血弁41及び第2止血弁42共に、採血針が刺通可能な弾性部材からなる。
【0063】
第1止血弁41及び第2止血弁42には、その中央付近に「+」形状のスリット43,44がそれぞれ形成されている。各スリット43,44は、放射線状に拡がる四方向の各スリットが交差する点が、円盤形状の第1止血弁41又は第2止血弁42の中心に合致するように形成されており、第1止血弁41及び第2止血弁42が管本体11の内部空間に設けられると、各スリット43,44共に、四方向の各スリットが交差する点が軸線方向101上に配置される。各スリット43,44は、第1止血弁41又は第2止血弁42の膜を厚み方向へそれぞれ貫通している。
【0064】
第1止血弁41に形成されたスリット43と第2止血弁42に形成されたスリット44とは、放射線状に拡がる四方向が相互に異なる。したがって、第1止血弁41と第2止血弁42とが積層された状態において、スリット43とスリット44とは、第1止血弁41及び第2止血弁42の各中心に配置された交差点以外においては、第1止血弁41及び第2止血弁42の厚み方向(軸線方向101)に連続しない。このような各スリット43,44によって、止血弁40による確実な液密が実現される。一方、軸線方向101へ外力が作用すると、各スリット43,44が弾性変形して止血弁13が開放状態となる。このような止血弁40によっても、前述された実施形態と同様の効果が奏される。
【0065】
[第2変形例]
以下に、前述された実施形態の第2変形例が説明される。第2変形例は、止血弁13の構成が異なるのみであり、その他の管本体11、シート12などの構成は同様である。したがって、以下には、前述された止血弁13と異なる止血弁50の構成のみが詳細に説明され、その他の採血管10の構成の説明が省略される。
【0066】
(止血弁50)
図10に示されるように、止血弁50は、管本体11の内径より若干大きな外径の円盤形状であり、管本体11の軸線方向101に沿った厚みが薄い膜である。また、止血弁50は、採血針14が刺通可能な弾性部材からなる。図には示されていないが、この止血弁50は、前述された止血弁13と同様に管本体11の内部空間に配置される。
【0067】
止血弁50は、2枚の薄膜51,52が、半径方向おいて一部重複するように配置されてなる。薄膜51,52は、止血弁50の円盤形状に対して、半円より若干面積が広い部分円盤形状をなしており、その半円より面積が広い分だけ、2枚の薄膜51,52において直線となる縁部53,54をそれぞれ含む一部分が厚み方向(軸線方向101)に重なるように配置されている。この2枚の薄膜51,52の重複によって、縁部53,54の間が弁機能を発揮する。
【0068】
詳細には、薄膜51,52は、外力が付与されない状態においては、縁部53,54をそれぞれ含む一部分が密接する状態を維持しており、縁部53,54の間が液密に閉塞される。一方、軸線方向101へ外力が作用すると、薄膜51,52が弾性変形して縁部53,54をそれぞれ含む一部分の間に隙間が生じて、止血弁13が開放状態となる。このような止血弁50によっても、前述された実施形態と同様の効果が奏される。
【0069】
[第3変形例]
以下に、前述された実施形態の第3変形例が説明される。第3変形例は、止血弁13の構成が異なるのみであり、その他の管本体11、シート12などの構成は同様である。したがって、以下には、前述された止血弁13と異なる止血弁60の構成のみが詳細に説明され、その他の採血管10の構成の説明が省略される。
【0070】
(止血弁60)
図11に示されるように、止血弁60は、管本体11の軸線方向101に沿って突出する漏斗形状であって、その漏斗形状の先端に拡径可能な孔61を有する。また、止血弁60は、採血針14が刺通可能な弾性部材からなる。図には示されていないが、この止血弁60は、その漏斗形状の先端を管本体11の底側へ向かうようにして、前述された止血弁13と同様に管本体11の内部空間に配置される。
【0071】
止血弁60は、外力が付与されない状態においては、孔61が拡径されない状態を維持する。孔61は、血液102の表面張力によって血液102が流通しにくい内径に設定されている。したがって、孔61によって、止血弁60には軸線方向101の流路があるものの、血液102が孔61を流通することがない。つまり、止血弁60は閉塞状態となる。
【0072】
図12に示されるように、止血弁60は、その漏斗形状によって、管本体11の開口端20側から挿入されたピペットのノズル16や採血針14を孔61へ案内する。そして、孔61へノズル16などが挿入されることによって、孔61が弾性変形によって拡径される。これにより、止血弁60が開放状態となる。このような止血弁60によっても、前述された実施形態と同様の効果が奏される。
【0073】
[第4変形例]
以下に、前述された実施形態の第4変形例が説明される。第4変形例は、止血弁13の構成が異なるのみであり、その他の管本体11、シート12などの構成は同様である。したがって、以下には、前述された止血弁13と異なる止血弁70の構成のみが詳細に説明され、その他の採血管10の構成の説明が省略される。
【0074】
(止血弁70)
図13に示されるように、止血弁70は、管本体11の軸線方向101に沿って突出するダックビル型であって、そのダックビル型の突出端に弾性変形可能なスリット71を有する。また、止血弁70は、採血針14が刺通可能な弾性部材からなる。図には示されていないが、この止血弁70は、そのダックビル型の突出端を管本体11の底側へ向かうようにして、前述された止血弁13と同様に管本体11の内部空間に配置される。
【0075】
止血弁70は、外力が付与されない状態においては、スリット71が閉塞した状態を維持する。したがって、血液102がスリット71を流通することがない。つまり、止血弁60は閉塞状態となる。図14に示されるように、止血弁70は、そのダックビル型によって、管本体11の開口端20側から挿入されたピペットのノズル16や採血針14をスリット71へ案内する。そして、スリット71へノズル16などが挿入されることによって、スリット71が弾性変形されて開放される。これにより、止血弁70が開放状態となる。このような止血弁70によっても、前述された実施形態と同様の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る採血管10の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、採血管10の分解斜視図である。
【図3】図3は、採血管10の縦断面図である。
【図4】図4は、採血管10によって採血を行っている状態を示す縦断面図である。
【図5】図5は、採血管10によって採血を行った後の状態を示す縦断面図である。
【図6】図6は、採血後の採血管10を手で開栓する状態を示す縦断面図である。
【図7】図7は、開栓後の採血管10から血液102を分注する状態を示す縦断面図である。
【図8】図8は、ノズル16によってシート12に穴を穿って採血管10から血液102を分注する状態を示す縦断面図である。
【図9】図9(A)は、第1変形例に係る止血弁40を示す分解斜視図であり、図9(B)は、止血弁40を示す平面図である。
【図10】図10(A)は、第2変形例に係る止血弁50を示す平面図であり、図10(B)は、IX-IX切断線における止血弁50を示す断面図である。
【図11】図11(A)は、第3変形例に係る止血弁60を示す平面図であり、図11(B)は、X-X切断線における止血弁60を示す断面図である。
【図12】図12は、止血弁60がノズル16によって開放された状態を示す断面図である。
【図13】図13(A)は、第4変形例に係る止血弁70を示す平面図であり、図13(B)は、XII-XII切断線における止血弁70を示す断面図である。
【図14】図14は、止血弁70がノズル16によって開放された状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0077】
10・・・採血管
11・・・管本体
12・・・シート
13,40,50,60,70止血弁
20・・・開口端(第1端)
22・・・第1室
23・・・第2室
31,71・・・スリット
43・・・スリット(第1スリット)
44・・・スリット(第2スリット)
61・・・孔
102・・・血液
101・・・軸線方向(長手方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口された第1端を有し、内部空間に血液を貯留可能な管本体と、
上記管本体の第1端に接合されて上記開口を閉塞するシートと、
上記管本体内において、当該管本体の長手方向に対して上記第1端側と反対側とを区画するように配置されて、弾性変形により当該長手方向に対して開口可能な止血弁と、を具備する採血管。
【請求項2】
上記止血弁は、上記管本体の長手方向に沿った厚みが薄い膜であって、当該膜を管本体の長手方向へ貫通するスリットを有するものである請求項1に記載の採血管。
【請求項3】
上記止血弁は、上記管本体の長手方向に沿って突出する漏斗形状であって、当該漏斗形状の先端に拡径可能な孔を有するものである請求項1に記載の採血管。
【請求項4】
上記止血弁は、ダックビル型のものである請求項1に記載の採血管。
【請求項5】
上記止血弁は、針を刺通可能なものであって、かつ当該針が抜かれた後に当該針によって形成された刺通路を液密に閉塞可能なものである請求項1から4のいずれかに記載の採血管。
【請求項6】
上記管本体は、その内部空間が上記シートによって気密に保持され、かつその内部空間が大気圧に対して減圧状態である請求項1から5のいずれかに記載の採血管。
【請求項7】
上記管本体は、上記止血弁によって上記第1端側の第1室と反対側の第2室とに区画され、当該第2室に採血された血液が貯留されるものである請求項1から6のいずれかに記載の採血管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−154909(P2010−154909A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333980(P2008−333980)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】