説明

接合方法、接合システムおよび半導体装置

【課題】Au(金)、Cu(銅)およびAl(アルミニウム)のいずれかで形成された接合表面をそれぞれ有する2つの被接合物を良好に接合することが可能な接合技術を提供する。
【解決手段】Au(金)、Cu(銅)およびAl(アルミニウム)のいずれかで形成された接合表面をそれぞれ有する第1の被接合物と第2の被接合物とを次のようにして接合する。具体的には、第1の被接合物と第2の被接合物との両被接合物の接合表面のそれぞれに向けてエネルギー波を照射することにより、両被接合物の接合表面のそれぞれを活性化する表面活性化処理を行う(ステップS20)。次に、表面活性化処理が施された両被接合物の接合表面に水分子を吸着させる水分子吸着処理を行う(ステップS30)。そして、水分子吸着処理が施された両被接合物の接合表面を互いに接触させた状態で加熱する(ステップS50)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合物の接合表面を活性化して接合する技術に関し、特にAu(金)、Cu(銅)およびAl(アルミニウム)のいずれかで形成された接合表面を接合する接合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの被接合物の接合表面をイオンビーム等を用いて表面活性化処理した後に、両被接合物を接合する技術が存在する。
【0003】
例えば、特許文献1には、2つの被接合物の接合表面がイオンビーム等によって洗浄された後、洗浄された2つの被接合物の接合表面が対向状態にされて接合される技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−92702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シリコンの接合技術である上記従来技術を、Au(金)−Au(金)の接合に応用することが考えられる。このような接合技術において、一般に、2つの被接合物が配置される空間には不純物が存在しないことが好ましいため、比較的高い真空度にまで一旦減圧しておくことが好ましい。
【0006】
そこで、本発明の発明者は、10−6Pa(パスカル)〜10−8Pa(パスカル)程度にまで一旦減圧した後に、Au(金)で形成された接合表面をそれぞれ有する2つの被接合物を接合することを試行した。
【0007】
しかしながら、このような高い真空度にまで減圧した後に接合処理を行っても、両被接合物の接合表面の相互間に複数の部分的空隙(ボイド)が形成され、両被接合物を適切に接合することが困難である、との事態に直面した(図43および図44参照)。
【0008】
また、このような状況は、Cu(銅)−Cu(銅)の接合、Cu(銅)−Au(金)の接合、およびAl(アルミニウム)−Al(アルミニウム)の接合等においても同様に生じる。
【0009】
そこで、この発明の課題は、Au(金)、Cu(銅)およびAl(アルミニウム)のいずれかで形成された接合表面をそれぞれ有する2つの被接合物を良好に接合することが可能な接合技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、請求項1の発明は、Au(金)、Cu(銅)およびAl(アルミニウム)のいずれかで形成された接合表面をそれぞれ有する第1の被接合物と第2の被接合物とを接合する接合方法であって、a)前記第1の被接合物と前記第2の被接合物との両被接合物の接合表面のそれぞれに向けてエネルギー波を照射することにより、前記両被接合物の接合表面のそれぞれを活性化する表面活性化処理を行うステップと、b)前記表面活性化処理が施された前記両被接合物の接合表面に水分子を吸着させる水分子吸着処理を行うステップと、c)前記水分子吸着処理が施された前記両被接合物の接合表面を互いに接触させた状態で加熱するステップと、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明に係る接合方法において、d)前記ステップa)よりも前の時点において、前記両被接合物の載置空間を、10Pa(パスカル)以下且つ10−5Pa(パスカル)以上の所定値にまで減圧するステップ、をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る接合方法において、前記ステップb)は、水ガスを供給することによって前記水分子吸着処理を行うステップを有することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明に係る接合方法において、前記ステップc)は、前記両被接合物の相互間に接触圧を作用させる加圧処理を行うステップを有することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4の発明に係る接合方法において、前記両被接合物の接合表面にはそれぞれ表面平滑化処理が予め施されており、前記加圧処理は、前記両被接合物の相互間に10MPa(メガパスカル)以下の接触圧を作用させて実行されることを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかの発明に係る接合方法において、前記ステップc)は、c−1)水の沸点以下の第1の温度で一定期間にわたって加熱し、前記接合表面の粒界拡散を進行させるステップと、c−2)前記ステップc−1)の後に、水の沸点以上の第2の温度にまで前記両被接合物を加熱するステップと、を有することを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明は、請求項2に記載の接合方法において、e)前記ステップd)よりも前の時点において、前記両被接合物の載置空間を、10−6Pa(パスカル)以下且つ10−8Pa(パスカル)以上の所定値にまで減圧するステップ、をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
請求項8の発明は、請求項1に記載の接合方法において、f)前記ステップa)よりも前の時点において、前記両被接合物の載置空間を、前記ステップa)の前記表面活性化処理時における圧力値よりも低い圧力値にまで減圧するステップ、をさらに備えることを特徴とする。
【0018】
請求項9の発明は、Au(金)、Cu(銅)およびAl(アルミニウム)のいずれかで形成された接合表面をそれぞれ有する第1の被接合物と第2の被接合物とを接合する接合システムであって、前記第1の被接合物と前記第2の被接合物との両被接合物の接合表面のそれぞれに向けてエネルギー波を照射することにより、前記両被接合物の接合表面のそれぞれを活性化する表面活性化処理を行う表面活性化処理手段と、前記表面活性化処理が施された前記両被接合物表面に水分子を吸着させる水分子吸着処理を行う制御手段と、前記水分子吸着処理が施された前記両被接合物の接合表面を互いに接触させた状態で加熱する加熱手段と、を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項10の発明は、半導体装置であって、請求項1ないし請求項9のいずれかの発明に係る接合方法により接合されて生成される半導体装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1ないし請求項9に記載の発明によれば、Au(金)、Cu(銅)およびAl(アルミニウム)のいずれかで形成された接合表面を有する両被接合物を、良好に接合することが可能である。
【0021】
特に、請求項2に記載の発明によれば、水分子を残した状態で不純物を排除することが可能であるので、水ガスの供給を必ずしも要することなく水分子吸着処理を良好に実行することが可能である。
【0022】
また特に、請求項6に記載の発明によれば、急激な温度上昇に起因する泡の発生を回避しつつ、適切に両被接合物を接合することが可能である。
【0023】
また、請求項10に記載の発明によれば、良好に接合されて生成された半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態に係る接合システムの全体構成を示す縦断面図である。
【図2】接合システムの横断面図である。
【図3】I−I断面を示す断面図である。
【図4】II−II断面を示す断面図である。
【図5】位置認識部の構成等を示す図である。
【図6】接合動作を示すフローチャートである。
【図7】接合システムにおける動作を示す図である。
【図8】接合システムにおける動作を示す図である。
【図9】接合システムにおける動作を示す図である。
【図10】接合システムにおける動作を示す図である。
【図11】接合システムにおける動作を示す図である。
【図12】接合システムにおける動作を示す図である。
【図13】圧力変化を示す図である。
【図14】表面活性化処理を示す模式図である。
【図15】水分子吸着処理を示す模式図である。
【図16】接合界面(水分子除去前)を示す断面図である。
【図17】接合界面(水分子除去後)を示す断面図である。
【図18】急激な加熱処理を示す図である。
【図19】第1実施形態における加熱処理等を示す図である。
【図20】他の加熱処理例を示す図である。
【図21】急激な加熱により泡が発生する様子を示す概念図である。
【図22】急激な加熱により水分子が比較的速く除去され、比較的大きな空隙が残存する様子を示す図である。
【図23】2段階加熱処理のうち第1段階の加熱処理後の接合界面の状態を示す図である。
【図24】2段階加熱処理のうち第2段階の加熱処理後の接合界面の状態を示す図である。
【図25】Au−Auの接合界面の撮影画像を示す図である。
【図26】接合表面(Au)の撮影画像を示す図である。
【図27】両被接合物の上面図である。
【図28】第2実施形態に係る接合システムの全体構成を示す縦断面図である。
【図29】プラズマを用いた表面活性化処理を示す図である。
【図30】圧力変化を示す図である。
【図31】Si(シリコン)−Si(シリコン)の接合に関して、バックグラウンド減圧値と接合強度との関係を示す図である(参考例)。
【図32】第2実施形態におけるバックグラウンド減圧値と接合面積率RSとの関係を示す図である。
【図33】或るバックグラウンド減圧値での実験結果を示す図である。
【図34】別のバックグラウンド減圧値での実験結果を示す図である。
【図35】第3実施形態に係る接合システムの全体構成を示す上面図である。
【図36】洗浄処理部におけるプラズマ処理を示す概念図である。
【図37】接合処理部のステージに被接合物が装着される様子を示す図である。
【図38】変形例に係る接合システムを示す図である(大気搬送)。
【図39】Cu(銅)とCu(銅)との接合状態を示す図である(第1段階後)。
【図40】Cu(銅)とCu(銅)との接合状態を示す図である(第2段階後)。
【図41】Cu−Cuの接合界面の撮影画像を示す図である。
【図42】Al−Alの接合界面の撮影画像を示す図である。
【図43】比較例に係る接合結果を示す上面図である。
【図44】比較例に係る接合結果を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
<1.第1実施形態>
<1−1.装置>
図1および図2は、本発明の第1実施形態に係る接合システム1(1Aとも称する)を示す図である。図1は接合システム1の縦断面図であり、図2は当該接合システム1の横断面図である。なお、各図においては、便宜上、XYZ直交座標系を用いて方向等を示している。
【0027】
この接合システム1は、減圧下のチャンバ(真空チャンバ)2内で、被接合物91の接合表面と被接合物92の接合表面とを原子ビーム等で活性化させ、両被接合物91,92を接合する装置である。この接合システム1によれば、両被接合物91,92の接合表面に対して表面活性化処理を施すとともに、当該両被接合物91,92を固相接合することが可能である。
【0028】
この実施形態では、被接合物91,92は、それぞれ、Au(金)で形成された接合表面を有している。たとえば、被接合物91,92は、それぞれ、シリコンウエハ上に直接的にAu(金)の金属薄膜が積層された構成を有している。または、被接合物91,92は、それぞれ、シリコンウエハ上に形成された他の金属薄膜(Ni(ニッケル)層あるいはTi(チタン)層等)の上にAu(金)の金属薄膜がさらに積層された構成を有していてもよい。換言すれば、シリコンウエハ上に間接的にAu(金)の金属薄膜が積層された構成を有していてもよい。
【0029】
また、この実施形態においては、両被接合物91,92の各接合表面には予め表面平滑化処理(鏡面処理等)が施されているものとする。
【0030】
そして、被接合物91の金属薄膜(詳細にはAu)と被接合物92の金属薄膜(詳細にはAu)とが接合システム1を用いて接合される。
【0031】
接合システム1は、両被接合物91,92の処理空間である真空チャンバ2と、当該真空チャンバ2に連結されたロードロックチャンバ3とを備える。真空チャンバ2は、排気管6と排気弁7とを介して真空ポンプ5に接続されている。真空ポンプ5の吸引動作に応じて真空チャンバ2内の圧力が低減(減圧)されることによって、真空チャンバ2は真空状態にされる。また、排気弁7は、その開閉動作と排気流量の調整動作とによって、真空チャンバ2内の真空度を調整することができる。
【0032】
両被接合物91,92は、ロードロックチャンバ3内において導入棒4の先端部のクランピングチャック4cで保持された後、真空チャンバ2内に移動される。具体的には、上側の被接合物92は、導入棒4の先端部で保持され、ヘッド22の直下位置PG2にまでX方向に移動された後、ヘッド22によって保持される。同様に、下側の被接合物91は、導入棒4の先端部で保持された状態でX方向においてステージ12に向けて位置PG1にまで移動され、当該ステージ12によって保持される。
【0033】
ヘッド22およびステージ12は、いずれも、真空チャンバ2内に設置されている。また、ヘッド22は、ヒータ24によって加熱され、ヘッド22に保持された被接合物92の温度を調整することができる。同様に、ステージ12は、当該ステージ12に内蔵されたヒータ12h(不図示)によって加熱され、ステージ12上の被接合物91の温度を調整することができる。
【0034】
ヘッド22は、アライメントテーブル23によってX方向およびY方向に移動(並進移動)されるとともに、回転駆動機構25によってθ方向(Z軸回りの回転方向)に回転される。ヘッド22は、後述する位置認識部28による位置検出結果等に基づいてアライメントテーブル23および回転駆動機構25によって駆動され、X方向、Y方向、θ方向におけるアライメント動作が実行される。
【0035】
また、ヘッド22は、Z軸昇降駆動機構26によってZ方向に移動(昇降)される。Z軸昇降駆動機構26は、不図示の圧力検出センサにより検出した信号に基づいて、接合時の加圧力を制御することができる。
【0036】
また、ステージ12は、スライド移動機構14によってX方向に移動(並進移動)可能である。ステージ12は、ビーム照射部11付近の待機位置(位置PG1付近)とヘッド22直下の接合位置(位置PG2付近)との間でX方向において移動する。スライド移動機構14は高精度の位置検出器(リニアスケール)を有しており、ステージ12は高精度に位置決めされる。
【0037】
また、接合システム1は、被接合物91,92の位置を認識する位置認識部18,28を備えている。位置認識部18,28は、それぞれ、被接合物等に関する光像を画像データとして取得する撮像部(カメラ)18b,28bを有する。また、両被接合物91,92には、それぞれ、位置識別用マーク(以下、単にマークとも称する)が付されている。例えば、一方の被接合物91に2つの位置識別用マークが設けられ、他方の被接合物92にも2つの位置識別用マークが設けられる。なお、当該各マークは、特定の形状を有することが好ましい。ただし、これに限定されず、ウエハーのオリフラ、あるいは、ウエハー上に形成された回路パターンなどの一部を位置識別用マークとして兼用するようにしてもよい。
【0038】
両被接合物91,92の位置決め動作は、当該位置認識部(カメラ等)により、両被接合物91,92に付されたマークの位置を認識することによって実行される。
【0039】
例えば、位置認識部18は、位置PG1に存在する被接合物91の光像を画像データとして取得する。具体的には、真空チャンバ2の外部上方に配置された光源18aから出射された光は、真空チャンバ2の窓部2aを透過して被接合物91(位置PG1)に到達して反射される。そして、被接合物91で反射された光は、再び真空チャンバ2の窓部2aを透過して進行し、撮像部18bに到達する。このようにして、位置認識部18は、被接合物91に関する光像を画像データとして取得する。そして、位置認識部18は、当該画像データに基づいてマークを抽出するとともに、当該マークの位置を認識し、ひいては被接合物91の位置を認識する。
【0040】
同様に、位置認識部28は、位置PG2に存在する被接合物92の光像を画像データとして取得する。具体的には、真空チャンバ2の外部下方に配置された光源28aから出射された光は、真空チャンバ2の窓部2bを透過して被接合物92(位置PG2)に到達して反射される。そして、被接合物92(詳細にはその一部)で反射された光は、再び真空チャンバ2の窓部2bを透過して進行し、撮像部28bに到達する。このようにして、位置認識部28は、被接合物92に関する光像を画像データとして取得する。また、位置認識部28は、当該画像データに基づいてマークを抽出するとともに、当該マークの位置を認識し、ひいては被接合物92の位置を認識する。
【0041】
さらに、後述するように、この接合システム1においては、ステージ12がX方向に移動することによって、被接合物91が位置PG2に移動し、両被接合物91,92が対向する状態(図10参照)に遷移する。図5に示すように、位置認識部28は両被接合物91,92の対向状態において、両被接合物91,92に関する光像を画像データとして取得することもできる。具体的には、真空チャンバ2の外部下方に配置された光源28aから出射された光は、真空チャンバ2の窓部2bを透過して両被接合物91,92(詳細にはその一部)で反射され、再び真空チャンバ2の窓部2bを透過して進行し、撮像部28bに到達する。位置認識部28は、このようにして取得された両被接合物91,92に関する光像(反射光に関する画像)を画像データとして取得し、当該画像データに基づいてマークの位置を認識する。なお、光源28aとしては、両被接合物91,92およびステージ12等を透過する光(例えば赤外光)が用いられればよい。
【0042】
また、この実施形態においては、図5に示すように、位置認識部28は、別の光源28c,28dをも有している。位置認識部28は、両被接合物91,92が対向する状態において、当該光源28c,28dからの光の透過光に関する画像データを用いて、両被接合物91,92の位置を認識することも可能である。具体的には、真空チャンバ2の外部側方に配置された光源28c,28dから出射された光は、真空チャンバ2の窓部2c,2dをそれぞれ透過し、その後、ミラー28e,28fで反射されてその進行方向が変更され下方に進行する。当該光は、さらに、両被接合物91,92(詳細にはその一部)を透過した後、窓部2bを透過して撮像部28bに到達する。位置認識部28は、このようにして取得された両被接合物91,92に関する光像(透過光に関する画像)を画像データとして取得し、当該画像データに基づいてマークの位置を認識する。
【0043】
このように、接合システム1は、反射光による撮像システム(光源28aおよび撮像部28b等を有する)と、透過光による撮像システム(光源28c,28dおよび撮像部28b等を有する)との2種類の撮像システムを備えている。接合システム1は、状況に応じて、これら2種類の撮像システムを適宜に切り換えて利用し、各マークの位置を認識することが可能である。
【0044】
以上のような位置認識部18,28によって両被接合物91,92の位置が認識される。そして、認識された位置情報に基づいて、アライメントテーブル23および回転駆動機構25によってヘッド22がX方向、Y方向、および/またはθ方向に駆動されることによって、両被接合物91,92の相対的に移動され、アライメント動作が実行される。例えば被接合物91に付された2つのマークと被接合物92に付された2つのマークとが重なるように、両被接合物91,92を微小移動することによって、両被接合物91,92を精密に位置決めすることができる。
【0045】
また、接合システム1は、2つのビーム照射部11,21を備えている。接合システム1においては、これらの2つのビーム照射部11,21を用いて表面活性化処理が実行される。図1に示すように、ビーム照射部11,21は、真空チャンバ2の奥側(+Y側)の側壁面に設けられている(図2も参照)。ビーム照射部11,21は、それぞれ、真空チャンバ2内部の対応位置に向けて特定物質のビームを照射する。
【0046】
より具体的には、図1および図2に示すように、ビーム照射部11は、真空チャンバ2内の比較的左側(−X側)の位置PG1付近に配置され、ビーム照射部21は、真空チャンバ2内の比較的右側(+X側)の位置PG2付近に配置される。
【0047】
ビーム照射部11は、図3の断面図にも示すように、真空チャンバ2の+Y側壁面の上方寄りの位置において、斜め下方を向いて設置されている。これにより、ビーム照射部11は、ステージ12に保持された被接合物91が位置PG1に存在するときに、当該被接合物91の接合表面に対して、斜め上方からビームを照射する。また、ビーム照射部11によるビーム照射方向は、X軸に垂直な平面(YZ平面)に平行な方向である。なお、図3は、図1のI−I断面における断面図である。
【0048】
ビーム照射部21は、図4の断面図にも示すように、真空チャンバ2の+Y側壁面の下方寄りの位置において、斜め上方を向いて設置されている。これにより、ビーム照射部21は、ヘッド22に保持された被接合物92が位置PG2に存在するときに、当該被接合物92の接合表面に対して、斜め下方からビームを照射する。また、ビーム照射部21によるビーム照射方向も、X軸に垂直な平面(YZ平面)に平行な方向である。なお、図4は、図1のII−II断面における断面図である。
【0049】
この接合システム1においては、後述するようなスライド配置状態(図8参照)において、ビーム照射部11,21を用いて特定物質(例えばアルゴン)を放出することにより、両被接合物91,92の接合表面を活性化する表面活性化処理が実行される。そして、接合システム1は、表面活性化処理が施された両被接合物91,92を近接対向状態(図10)にした後に、互いに近接させて両被接合物91,92を接合する(図11および図12)。
【0050】
ここにおいて、ビーム照射部11,21は、イオン化された特定物質(ここではアルゴン)を電界で加速し両被接合物91,92の接合表面に向けて当該特定物質を放出することにより、両被接合物91,92の接合表面を活性化する。換言すれば、ビーム照射部11,21は、両被接合物91,92の接合表面に向けてエネルギー波を照射することによって、両被接合物91,92の接合表面を活性化する。
【0051】
なお、この実施形態では、ビーム照射部11,21として原子ビーム照射装置を用いるものとする。ただし、これに限定されず、ビーム照射部11,21としてイオンビーム照射装置を用い、イオンビームを両被接合物91,92の接合表面に向けて照射するようにしてもよい。
【0052】
また、接合システム1は、コントローラCTを備えている。接合システム1における各種の動作は、当該コントローラCTの制御下において実行される。コントローラCTは、例えば、後述する各種の処理(バックグラウンド減圧処理、表面活性化処理、水分子吸着処理および加熱・加圧処理等)を制御する。
【0053】
<1−2.動作>
次に、接合システム1における接合動作について、図6のフローチャートおよび図7〜図12の模式図を参照しながら説明する。図7〜図12は、当該接合動作(接合方法)における時系列の各工程を順次に示す図である。なお、図7〜図12においては、便宜上、ステージ12およびヘッド22等の図示を省略している。
【0054】
図7は、導入棒4(図1)等を用いて両被接合物91,92が真空チャンバ2内に導入された状態を示している。この導入動作は減圧下において実行される。図7においては、導入直後において、上側の被接合物92が位置PG2においてヘッド22によって保持されており、下側の被接合物91が位置PG1においてステージ12によって保持されている状態を示している。
【0055】
この後、ステップS10(図6)において、バックグラウンド減圧処理(次述)が実行される。
【0056】
具体的には、接合システム1は、図13に示すように、期間TM0において真空ポンプ5による減圧動作を実行して、真空チャンバ2内の圧力を圧力値PR0にまで低減し高真空状態ないし超高真空状態にする。たとえば、10−8Pa(パスカル)〜10−6Pa(パスカル)程度にまで真空引きする。これにより、真空チャンバ2内における不要な浮遊物(不純物等)を予め低減することができる。
【0057】
この期間TM0における圧力値PR0は、図13に示すように、次述するビーム照射(図8)を伴う期間TM1における圧力値PR1(例えば10−2Pa(パスカル))よりも低い値である。すなわち、期間TM0の真空度は、期間TM1の真空度よりも高い。換言すれば、真空チャンバ2内の真空度は、期間TM1に先立って期間TM0において予め高められる。なお、期間TM0における減圧処理は、ビーム照射(図8)よりも前に実行される処理であることから、「バックグラウンド減圧処理」とも称される。圧力値PR0は、期間TM1における圧力値PR1、たとえば10−2Pa(パスカル)よりも小さな値であればよい。当該圧力値PR0は、10−2Pa(パスカル)に比べて非常に小さな値であることがさらに好ましい。たとえば、圧力値PR0は、上述のように、10−8Pa(パスカル)以上且つ10−6Pa(パスカル)以下の範囲内の値であってもよく、あるいは、10―8Pa(パスカル)以上且つ10−4Pa(パスカル)以下の範囲内の値であってもよい。
【0058】
つぎに、ステップS20(図6)において、図8に示すように、接合システム1は、ビーム照射部11,21を用いた表面活性化処理を実行する。
【0059】
この表面活性化処理においては、両被接合物91,92は次のように配置されている。すなわち、被接合物91,92の接合表面が互いに略平行に且つ互いに逆向きに配置される。詳細には、比較的下側の被接合物91の接合表面はXY平面に略平行に且つ上向きで配置され、比較的上側の被接合物92の接合表面はXY平面に略平行に且つ下向きに配置される。換言すれば、両被接合物91,92は互いに向かい合う向きで配置される。ただし、両被接合物91,92は対向状態を有していない。具体的には、両被接合物91,92の接合表面の法線方向(Z方向)から見て、両被接合物91,92の接合表面が互いに重ならないように、両被接合物91,92は、X方向(Z方向に垂直な方向)において互いにずらされて配置されている。このような配置状態は、対向状態に対して両被接合物91,92が相対的にスライドされた状態であることから、「スライド配置状態」とも称される。
【0060】
そして、ビーム照射部11,21によるビーム照射(ここでは原子ビーム照射)が行われる。具体的には、ビーム照射部11によるビーム照射によって被接合物91の接合表面が活性化され、ビーム照射部21によるビーム照射によって被接合物92の接合表面が活性化される。また、このビーム照射部11,21によるビーム照射は、同時並列的に実行される。
【0061】
ここでは、両被接合物91,92に対しては、それぞれ、各対応位置PG1,PG2付近において、両被接合物91,92の配列方向(X方向)に垂直な平面(YZ平面に平行な平面)に沿ってビーム照射が行われる。
【0062】
具体的には、ビーム照射部11の照射口は、図3に示すように、位置PG1付近において、+Y側の比較的上方の位置から−Y側の比較的下方の位置に向けて、被接合物91の 接合表面に対して所定の傾斜角度(例えば45度)で傾斜して配置されている。そして、ビーム照射部11は、被接合物91に対して斜め上方からビーム照射を行う。
【0063】
また、ビーム照射部21の照射口は、図4に示すように、位置PG2付近において、+Y側の比較的下方の位置から−Y側の比較的上方の位置に向けて、被接合物92の接合表面に対して所定の傾斜角度(例えば30度)で傾斜して配置されている。そして、ビーム照射部21は、被接合物92に対して斜め下方からビーム照射を行う。
【0064】
図14は、表面活性化処理を示す模式図である。
【0065】
図14に示すように、表面活性化処理においては、特定物質(例えばアルゴン)を被接合物の接合表面に衝突させることによって、接合表面の付着物99を除去し、被接合物(例えば91)の表面原子の未結合手であるダングリングボンド(図14では短い線分で模式的に示す)が露出した状態が形成される。
【0066】
さて、図8および図14に示すような表面活性化処理が終了すると、ステップS30において、水分子吸着工程が実行される(図9参照)。
【0067】
ここでは、ステップS30において、水ガスが真空チャンバ2内に供給される。水ガスとしては、水分(水分子)を含む不活性ガス(窒素ガス等)などが用いられる。
【0068】
より具体的には、水ガスは、弁37(図1参照)の開放に応じて、水ガス供給部35から通気路36を経由して真空チャンバ2内に供給される。そして、各被接合物91,92の接合表面が所定期間(例えば、1分程度〜数分程度)にわたって水ガス雰囲気に曝されると、図15に示すように、水ガスに含まれる水分子が各被接合物91,92の接合表面に吸着される。
【0069】
このように、ステップS30の水分子吸着処理においては、ステップS20の表面活性化処理で形成されたダングリングボンドに対して水分子が吸着される。接合表面のAu(金)のダングリングボンドには水分子が吸着されるため、ステップS50での処理前において不純物が当該ダングリングボンドに再結合すること(換言すれば、各被接合物91,92の接合表面への不純物の付着)が防止される。端的に言えば、両被接合物91,92の接合表面に吸着された水分子は、当該接合表面の保護機能を有している。なお、Au(金)は酸化されにくいという特質を有しているため、上記のようなAu(金)に対する水分子吸着処理は特に良好に行われ得る。
【0070】
つぎに、ステップS40(図6参照)において、図10に示すように、ステージ12および被接合物91がスライド移動機構14によってX方向に(+X側に向けて)移動される。このようにして、ビーム照射部11,21によるビーム照射によって表面活性化処理が施された両被接合物91,92がX方向に相対的に移動される。そして、移動動作完了後には、両被接合物91,92は、その接合表面が対向する状態(対向状態)を有している。
【0071】
なお、ここでは、図9の状態(すなわち移動前)において大まかな位置計測動作を行っておき、その位置計測動作に基づいて図10の移動動作を行い、移動動作完了後に更に正確な位置決め動作(ファインアライメント動作)を実行するものとする。具体的には、まず、表面活性化処理の実行後において、被接合物91が位置PG1に存在し且つ被接合物92が位置PG2に存在する状態で、それぞれの位置を計測しておく。そして、両被接合物91,92をスライド移動させて両被接合物91,92を近接対向状態(図10)に遷移させる。この移動後の近接対向状態において、上述のような反射光による撮像システムと透過光による撮像システムとの一方もしくは双方を用いて位置を計測し、当該計測結果に基づいて微小位置調整動作(ファインアライメント動作)を行う。これによれば、両被接合物91,92の位置を非常に正確に調整することが可能である。
【0072】
その後、図11に示すように、両被接合物91,92を互いに接近させていく。そして、図12に示すように、両被接合物91,92を接触させる。
【0073】
さらに、次のステップS50(図6参照)においては、水分子吸着処理がステップS30で施された両被接合物91,92の接合表面を互いに接触させた状態で、両被接合物91,92の接合表面を加熱する処理(加熱処理)が実行される。この実施形態においては、上述のように水分子吸着処理がステップS30で施されているため、両被接合物91,92の接合表面の空隙部分には、水分子WMが存在する(図16参照)。この実施形態においては、この水分子を利用してボイドを解消する処理が実行される。なお、後述するように、当該水分子は、上述の接合表面の保護機能のみならず、両被接合物91,92の接合界面のボイドを良好に消滅ないし縮小させる機能をも有している。
【0074】
具体的には、図16および図17に示すように、接合システム1は、両被接合物91,92を接触させた状態で、当該両被接合物91,92を加熱し、両被接合物91,92の接合界面付近の空隙111から水分子を除去する。なお、水分子は、比較的小さな強度でAu(金)に付着しているため、水分子とAu(金)との付着状態は、比較的小さなエネルギーで解除され得る。具体的には、比較的低温(例えば150℃〜200℃程度)で加熱することによって、水分子を除去することができる。
【0075】
この加熱工程(水分子除去工程)においては、図16に示すように、水分子の除去に応じて負圧が発生して空隙111の間隔(上下の幅)を狭める向きの力F1が作用するとともに、Au(金)原子の粒界拡散現象により空隙111を押し潰そうとする力F2も作用する。これらの力F1,F2が作用することにより当該空隙111が縮小(理想的には消滅)するとともに両被接合物91,92の接合界面において被接合物91の接合表面の金と被接合物92の接合表面の金とが結合し、図17に示すように、両被接合物91,92は強固に接合される。すなわち、ボイドが抑制された状態で両被接合物91,92が良好に接合される。
【0076】
一方、比較例に係る処理結果を図43および図44に示す。この比較例に係る処理は、水分子の吸着を伴わずに両被接合物91,92が接合される処理である。具体的には、当該比較例に係る処理は、ステップS10,S20,S40,S50の各工程が行われ且つステップS30の工程が行われない処理である。図30に示すように、両被接合物91,92の接合界面の空隙には水分子が存在しない。そのため、水分子の除去が行われず、多くの大きな空隙111が存在したままである。この結果、両被接合物91,92の接合界面にボイドVD(111)が発生する(図44参照)。
【0077】
これに対して、この実施形態に係る処理によれば、上述のように、水分子の除去に応じた力が作用して空隙111が縮小(理想的には消滅)し、ボイドが抑制された状態で両被接合物91,92が良好に接合される。
【0078】
また、上記のステップS50においては、所定温度TH2にまで昇温する加熱処理を行うことによって、水分子の除去処理が実行される。具体的には、このような加熱処理としては、図18に示すように、ステップS40の終了直後において例えば室温から所定温度TH2にまで急激に昇温する処理が一案として考えられる。ただし、その場合には、図21に示すように、急激な温度上昇に伴って泡BLが発生することがある。このとき、水分子が急激に除去されるため、図22に示すように、Au(金)原子の粒界拡散の速度に比べて水分子が除去される速度が大きく、比較的大きな空隙111が残存してしまうことがある。したがって、図18のような急激な加熱処理を回避することが好ましい。
【0079】
そこで、この実施形態においては、ステップS50の処理として、次述するような2段階の加熱処理を行うものとする。これによれば、泡の発生等を回避して、さらに良好な接合動作を実行することが可能である。
【0080】
図19は、ステップS50における2段階加熱処理を示す図である。
【0081】
まず、第1段階の処理においては、両被接合物91,92が温度TH1で一定期間TM51(例えば1時間)にわたって加熱される。ここで、温度TH1は、水の沸点BT(100℃)以下の温度であり、例えば約80℃である。
【0082】
この第1段階(期間TM51)においては、両被接合物91,92が接触した状態において、加熱により水分子にエネルギーが付与される。その結果、両被接合物91,92の接合界面から水分子が除去されていくとともに、両被接合物91,92の接合表面における粒界拡散も進行する。ただし、第1段階においては、両被接合物91,92が比較的低温(具体的には、水の沸点BT以下の温度TH1)に維持されて両被接合物91,92が密着される。このように第1段階の加熱処理によれば、急激な加熱に起因する泡の発生を回避しつつ、水分子の除去を比較的緩やかに進行させるとともに両被接合物91,92の接合表面の粒界拡散を進行させることができる。
【0083】
このような第1段階の処理において水除去および粒界拡散が進行することによって、接合界面において比較的広い面積にわたって存在していた空隙111が比較的狭い面積の空隙112へと縮小され、両被接合物91,92の接合界面は、図16の状態から図23の状態へと遷移する。このようにして空隙の大きさが低減されていくため、Au(金)の接触面積が増大し、密着性が増大する。なお、この段階では、接合界面には未だ水分子WMが残留している。
【0084】
また、この実施形態では、第1段階において、両被接合物91,92の相互間に接触圧PR10(ここでは、1.25MPa(メガパスカル))を作用させる加圧処理をも行う。これによれば、粒界拡散をさらに良好に進行させることが可能である。
【0085】
そして、第1段階の加熱処理が終了すると、第2段階の加熱処理が実行される。
【0086】
第2段階においては、両被接合物91,92が温度TH2にまで昇温され、当該温度TH2で一定期間TM52(例えば10分)にわたって加熱される。ここで、温度TH2は、水の沸点BT以上の温度であり、例えば約150℃である。この第2段階では、加熱により水分子にエネルギーを付与して、両被接合物91,92の接合界面から水分子をさらに除去する。これによれば、第1段階の処理後においても両被接合物91,92の接合界面に残留していた水分子WM(図23参照)をさらに除去することが可能である。また、この第2段階においても、両被接合物91,92の接合表面における粒界拡散が進行する。
【0087】
このような2段階の加熱処理によれば、図24に示すように、水分子WMの除去をさらに進行させることによって、接合界面に存在していた水分子WMをさらに除去し、接合界面でのAu(金)−Au(金)の結合を促進することができる(図25も参照)。これにより、両被接合物91,92を非常に良好な状態で接合することが可能である。なお、図25は、Au−Auの接合界面の撮影画像を示す図である。図25の撮影画像は、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影されたものである。
【0088】
なお、理想的には図17に示すように、空隙111が消滅することが好ましいが、図24(および図25)に示すような非常に小さな空隙(マイクロボイドとも称する)112が残存していたとしても十分な接合強度を得ることが可能である。また、マイクロボイド112には水分子が残留していてもよく、あるいは、マイクロボイド112から水分子が完全に除去されていてもよい。
【0089】
また、図26は、Au(金)の接合表面の撮影画像を示す図である。この撮影画像は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影されたものである。図26においては、非常に小さな表面粗さ(詳細には、RMS(二乗平均粗さ)=4.2nm(ナノメートル))を有するAu(金)の接合表面、すなわち非常に平滑な表面が示されている。図26に示すように、両被接合物91,92の接合表面は、非常に平滑な表面であるとしても微視的には凹凸を有している。
【0090】
図23および図24(特に図24)においては、1つの断面での様子が示されているため、水分子が接合界面から抜けていくことが困難にも見える。しかしながら、実際には、図26に示すように、金の接合表面は微視的に凹凸を有しており、当該凹部等が平面的に連結されることにより、両被接合物91,92の接合界面には、水分子が通過可能な空洞が接合界面付近において網の目状に存在している(すなわち水分子が通過可能な「道」が存在する)。水分子はこのような「道」を通過して、図27に示すように、両被接合物91,92の外縁部へと到達して接合界面から除去され得る。また、一部の水分子は、Au(金)の接合表面からその内部側へと浸透(拡散)していく。
【0091】
また、上述のように、この実施形態においては、比較的小さな圧力値PR10(約1MPa(メガパスカル))を加える加圧処理(低圧加圧処理)によって、両被接合物91,92が接合されている。
【0092】
ここにおいて、仮に、上述のような水分子吸着処理等を伴わずに接合する場合には、比較的大きな圧力PR20(例えば150MPa(メガパスカル)〜300MPa(メガパスカル)程度)を加えることが求められる。特に、表面平滑化処理が施されていない接合表面同士(換言すれば、比較的粗い表面の接合表面同士)を水分子吸着処理等を伴わずに接合する場合には、比較的大きな圧力を加えることが求められる。たとえば、表面平滑化処理が施されていない比較的大きな表面粗さ(表面粗さ100nm(RMS))の接合表面同士を接合する場合には、300MPa(メガパスカル)程度を加えることが求められる。
【0093】
これに対して、この実施形態のように水分子吸着処理および水分子除去処理を伴って接合する場合には、より低い圧力(接合荷重)で加圧することによっても十分な接合強度を得ることが可能である。特に、表面平滑化処理(鏡面処理等)が施された平滑な接合表面(非常に小さな表面粗さ(例えば10nm(RMS)以下)を有する接合表面)同士を接合する場合には、さらに低い圧力(接合荷重)で加圧することによっても十分な接合強度(例えば2J/m(ジュール/平方メートル)程度)が得られる。
【0094】
たとえば、表面粗さ10nm(RMS)の接合表面同士を水分子吸着処理等を伴って接合するときには、10MPa(メガパスカル)程度の接触圧(接合圧力)を加えることにより、十分な接合強度が得られる。また、表面粗さ4nm(RMS)の接合表面同士を水分子吸着処理等を伴って接合するときには、1MPa(メガパスカル)程度の接触圧を加えることにより、十分な接合強度が得られる。同様に、表面粗さ1nm(RMS)の接合表面同士を水分子吸着処理等を伴って接合するときには、0.5MPa(メガパスカル)程度の接触圧を加えることにより、十分な接合強度が得られる。
【0095】
このように、上記の圧力PR20の約1/10程度以下の圧力(詳細には10MPa(メガパスカル)以下の接触圧)で加圧することによっても十分な接合強度が得られる。換言すれば、上記の値300MPaよりも1桁程度小さな接触圧(接合荷重)でも十分な接合強度を得ることが可能である。また特に、表面粗さを小さくするにつれて接合荷重をさらに低減することが可能である。たとえば、表面粗さ4nm(RMS)を有する接合表面同士を水分子吸着処理等を伴って接合するときには、1MPa(メガパスカル)程度の接触圧(接合荷重)による低圧加圧処理を行うことにより、十分な接合強度が得られる。すなわち、上記の値300MPaよりも約2桁程度小さな接触圧を伴うことによって、十分な接合強度が得られている。
【0096】
これによれば、接合時において接合表面に作用する応力を最小限に止めることができる。したがって、接合時における変形等をより確実に防止することも可能である。
【0097】
以上のように、この接合システム1によれば、両被接合物91,92に対して表面活性化処理が行われて接合表面が洗浄されるとともに活性化され(ステップS20)、表面活性化処理が施された両被接合物の接合表面に水分子が吸着される(ステップS30)。そして、水分子吸着処理が施された両被接合物の接合表面を互いに接触させた状態で、当該両被接合物が加熱される(ステップS50)ことにより、接合界面において水分子が除去されAu(金)とAu(金)とが結合される。また、加圧加熱されることにより、接合界面の固層での粒界拡散が起こり、残留応力の減少、接合面積の増大、および不純物の拡散により接合強度がアップする。したがって、金で形成された接合表面を有する両被接合物を、良好に接合することが可能である。
【0098】
そして、このようにして両被接合物91,92を接合することによって、各種の半導体装置(デバイス)を生成(製造)することができる。
【0099】
また、特に、上述の2段階の加熱処理によれば、金で形成された接合表面を有する両被接合物を、さらに良好に接合することが可能である。なお、このような2段階加熱処理(図19参照)ではなく、図20に示すような加熱処理を実行するようにしてもよい。図20においては、図18よりも加熱時の昇温速度(昇温レート)を比較的緩やかにして1段階の加熱処理を行う場合が示されている。ただし、上述の2段階の加熱処理(図19参照)によれば、泡の発生をより確実に防止し、両被接合物91,92をさらに良好に接合することが可能である。
【0100】
<2.第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態の変形例である。以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0101】
上記第1実施形態においては、表面活性化処理(ステップS20)において原子ビーム照射によるエネルギー波の照射を行う場合を例示したが、この第2実施形態においては、表面活性化処理(ステップS20)において引き込み型電界プラズマ(単に「プラズマ」とも称する)を用いてエネルギー波の照射を行う場合を例示する。
【0102】
図28は、第2実施形態に係る接合システム1(1Bとも称する)を示す図である。
【0103】
図28に示すように、第2実施形態に係る接合システム1Bは、第1実施形態に係る接合システム1Aと類似の構成を有している。ただし、この接合システム1Bにおいては、接合システム1Aにおけるビーム照射部11,21は設けられていない。一方、接合システム1Bのヘッド22Bおよびステージ12Bは、それぞれ、電圧付与手段(不図示)に電気的に接続されており、プラズマ電極(プラズマ発生手段)としても機能する。
【0104】
接合システム1Bにおいては、ステージ12Bがプラズマ電極として機能することによって、被接合物91の接合表面にプラズマ処理(表面活性化処理)を施すことが可能である。また、ヘッド22Bがプラズマ電極として機能することによって、被接合物92の接合表面にプラズマ処理(表面活性化処理)を施すことが可能である。
【0105】
そして、このような接合システム1Bにおいて、上記第1実施形態の動作に類似する動作が実行される。
【0106】
具体的には、まず、この第2実施形態においてもバックグラウンド減圧処理(ステップS10)が実行される(図30参照)。ただし、この第2実施形態に係るバックグラウンド減圧処理においては、真空チャンバ2内の圧力値Pは、第1実施形態における圧力値PR0までは低減されない。具体的には、真空チャンバ2内の圧力値Pは、上記の圧力値PR0よりも大きな圧力値PR2にまで低減される。圧力値PR2は、表面活性化処理時(ステップS20)の圧力値PR3と同等以下であり、且つ、所定値よりも大きな値である。たとえば、圧力値PR2は、10Pa(パスカル)以下且つ10−5Pa(パスカル)以上の値である。このように、次の表面活性化処理の実行時点よりも前の時点において、両被接合物91,92の載置空間は、圧力値PR2にまで一旦減圧される(図30参照)。これにより、真空チャンバ2内における不要な浮遊物(不純物等)を予め低減することができる。また、値PR0よりも大きな値PR2にまでしか減圧しないことによって、(不要な不純物を除去しつつ)水分子を残留させておくことが可能である。なお、後述するように、この残留した水分子は、ステップS30での水分子吸着処理に利用される。
【0107】
なお、この期間TM0における圧力値PR2は、図30に示すように、次のプラズマ照射を伴う期間TM1における圧力値PR3(例えば数十Pa(パスカル))よりも低い値あるいは同等の値である。本願では、このような減圧処理も、表面活性化処理(ステップS20)よりも前に実行される処理であることから、「バックグラウンド減圧処理」とも称するものとする。
【0108】
その後、期間TM1において、プラズマ処理による表面活性化処理が両被接合物91,92に施される。詳細には、真空チャンバ2内にプラズマ反応ガス(例えばアルゴン)が供給され、低真空状態(例えば数十Pa(パスカル)程度)でステージ12B(プラズマ電極)に交番電圧を付与することによって、プラズマが発生する。このとき、発生したプラズマイオン(換言すれば、イオン化された特定物質)(例えば、アルゴンイオン)が被接合物91に引き込まれて当該被接合物91に照射されることによって、被接合物91の表面活性化処理が行われる。また、同様に、ヘッド22B(プラズマ電極)に交番電圧を付与することによってプラズマを発生させ、発生したプラズマイオンによって被接合物92の表面活性化処理が行われる。このようにして、両被接合物91,92の接合表面のそれぞれに向けてプラズマを用いたエネルギー波が照射されることにより、両被接合物91,92の各接合表面が活性化される。なお、この表面活性化処理は、両被接合物91,92の「スライド配置状態」で実行される。
【0109】
図29は、プラズマ洗浄を用いた表面活性化処理について説明する図である。図29に示すように、プラズマ洗浄を用いた表面活性化処理においては、被処理物(被接合物)の接合表面に電気的な極性(例えば負極性)が付与される。そして、当該接合表面の極性とは逆の極性を有する特定物質(例えば正極性を有するアルゴン)が当該接合表面に向けてクーロン力で引き込まれて当該接合表面に衝突し、その衝突力によって不純物99の除去が行われる。第2実施形態に係る表面活性化処理においては、このような処理が実行される。
【0110】
次に、表面活性化処理の直後において、水分子の吸着処理が実行される。
【0111】
ただし、この第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、水ガスの供給を伴わずに水分子の吸着処理が実行される。
【0112】
具体的には、上述のように、ステップS10のバックグラウンド減圧において値PR2にまでしか減圧しないことによって、不要な不純物を除去しつつ水分子を残留させておく。そして、ステップS20のプラズマ処理(表面活性化処理)の直後において、一定期間(例えば1分〜数分)にわたって両被接合物91,92を放置しチャンバ2の雰囲気に曝しておく。これによれば、雰囲気内に含まれる水分子を、表面活性化処理が施された両被接合物91,92の接合表面に吸着させることができる。すなわち、水分子吸着処理を実行することができる。
【0113】
なお、この第2実施形態においては、水ガスの供給を伴わずに水分子吸着処理を実行する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、水ガスの供給と値PR2へのバックグラウンド減圧とを併用することによって、水分子吸着処理を実行するようにしてもよい。
【0114】
その後、ステップS40の移動処理が実行される。具体的には、被接合物91はスライド移動機構14を用いてX方向に被接合物92の直下位置にまでスライド移動され、両被接合物91,92が対向する(図10参照)。
【0115】
そして、ヘッド22Bが下降して両被接合物91,92が接近し、両被接合物91,92が接触した状態(図11参照)において、ステップS50の加熱処理が実行される。これにより、両被接合物91,92の接合界面から水分子が除去され、両被接合物91,92が良好に接合される。なお、ステップS50の加熱処理としては、第1実施形態と同様の2段階加熱処理が採用されることが好ましい。
【0116】
この第2実施形態においては、以上のような動作が実行される。このような動作によれば、両被接合物91,92に対して表面活性化処理が行われて接合表面が洗浄されるとともに活性化され、表面活性化処理が施された両被接合物の接合表面に水分子が吸着される。そして、水分子吸着処理が施された両被接合物の接合表面を互いに接触させた状態で、当該両被接合物が加熱されることにより、接合界面において水分子が除去されAu(金)とAu(金)とが結合される。したがって、金で形成された接合表面を有する両被接合物を、良好に接合することが可能である。
【0117】
また、図31は、参考例を示す図である。図31は、Si(シリコン)−Si(シリコン)の接合に関して、バックグラウンド減圧値VPと接合強度(接合エネルギー)BEとの関係を示す図である。図31に示すように、当該参考例に係るSi(シリコン)−Si(シリコン)の接合においては、(Au(金)−Au(金)の接合等に関する本願発明とは逆に、)雰囲気中の残存水分量が少ない方が好ましいことが判っている。そして、図31においては、バックグラウンド減圧値VPが10−3程度である場合には、未だ水分子の残存量が多いため、非常に低い接合強度しか得られないことが示されている。また、図31においては、水分子の残存量を十分に低減して、十分な接合強度(例えば2.0J/m)を得るためには、10−5Paよりも低い値まで減圧することが好ましいことが示されている。このことは、10−5Pa以上の減圧雰囲気中には或る程度の水分子が未だ残存していることを示している。
【0118】
したがって、上記第2実施形態のように、バックグラウンド減圧値として、10−5Pa以上の圧力値PR2を用いることによれば、水ガスの供給を伴わずとも、水分子吸着処理を良好に実行することが可能である。
【0119】
また、図32は、上記第2実施形態におけるバックグラウンド減圧値VPと接合面積率RSとの関係(実験結果)を示す図である。ここで、接合面積率RSは、実際に接合されている接合面積SSを全面積TSで除した値(RS=SS/TS)である。また、接合面積SSは、全面積TSからボイド部分(後述する図34の白色部分)の面積VS等を除いた面積である(SS=TS−VS)。接合面積率RSが大きくなるにつれて、接合強度(接合エネルギー)BEも大きくなる。
【0120】
図32に示すように、バックグラウンド減圧値VPが10−5Pa(パスカル)よりも小さいときには、接合面積率RSは比較的低い値を有し、当該値VPが10−5Pa(パスカル)に対して小さくなるにつれて接合面積率RSは徐々に低くなる。また、バックグラウンド減圧値VPが10Pa(パスカル)よりも大きいときには、接合面積率RSは比較的低い値を有し、当該値VPが10Pa(パスカル)に対して大きくなるにつれて接合面積率RSは急激に低くなる。例えば、図34に示すように、ボイド部分(図では白色で示される)の面積VSが比較的大きく、接合面積率RSは比較的小さくなる。なお、図34は、バックグラウンド減圧値VP=5×10+3での実験結果を示す図である。
【0121】
一方、バックグラウンド減圧値VPが10−5Pa(パスカル)以上且つ10+2Pa(パスカル)以下の範囲内の値であるときには、接合面積率RSは比較的大きな値(約97%以上の値)になる。例えば、図33に示すように、(図34と比較すると、)ボイド部分(図では白色で示される)の面積VSは比較的小さくなり、接合面積率RSは比較的大きくなる。なお、図33は、バックグラウンド減圧値VP=5×10−4での実験結果を示す図である。
【0122】
このような実験結果からも判るように、バックグラウンド減圧値VPは10−5Pa(パスカル)以上且つ10Pa(パスカル)以下の範囲内の値に設定されることが好ましい。
【0123】
ところで、接合システム1においては、例えばステージ12にアライメント用の窓(開口部)が設けられることがある。しかしながら、このようなアライメント用の窓がステージ12に存在する場合には、一般的には、被接合物91の反対側の面(すなわち接合表面)のうち当該窓部分に対応する領域には十分な接合圧力を作用させることができない。なお、本願発明者らは、本願明細書の課題の欄で述べたように、高い真空度にまで減圧しても、両被接合物を良好に接合することができないことを経験した。そして、このような現象は、ステージ12にアライメント用の窓が存在し十分な接合圧力を作用させることができない場合には特に顕著であった。
【0124】
これに対して、この実施形態のように、バックグラウンド減圧値VPを適宜の値に設定して両被接合物91,92の接合表面に水分子を吸着させることによれば、ステージ12にアライメント用の窓が存在し比較的小さな接合圧力しか作用させることができない場合であっても、両被接合物91,92を良好に接合することが可能である。
【0125】
<3.第3実施形態>
第3実施形態は、第2実施形態の変形例である。第3実施形態においても、第2実施形態と同様に、表面活性化処理としてプラズマ処理が採用される場合を例示する。
【0126】
ただし、この第3実施形態においては、表面活性化処理と接合処理とは互いに異なる処理室で実行される。具体的には、表面活性化処理は洗浄処理部120(次述)で実行され、接合処理は接合処理部140(次述)で実行される。また、洗浄処理部120では水分子吸着処理も実行され、接合処理部140では水分子除去処理も実行される。以下、第2実施形態との相違点を中心に説明する。
【0127】
図35は、第3実施形態に係る接合システム1(1Cとも称する)を示す上面図である。
【0128】
図35に示すように、この接合システム1Cは、導入部110と洗浄処理部120と反転部130と接合処理部140と搬送部150と搬送ロボット(搬送装置)RB1とを備えている。これらの各処理部110,120,130,140,150は、それぞれ、減圧装置に接続されており真空状態を形成することが可能である。
【0129】
搬送部150は、その他の処理部110,120,130,140に接続される被接合物搬送用の処理室であり、搬送ロボットRB1を備えている。搬送部150に設置された搬送ロボットRB1は、被接合物を複数の処理部110,120,130,140の相互間で移動させることができる。ここでは、搬送中の再付着防止の観点から、搬送ロボットRB1は被接合物を真空状態で搬送(真空搬送)するものとする。
【0130】
導入部110は、被接合物を装置外部から搬入すること、及び被接合物を装置外部へと搬出することを行うチャンバ(処理室)である。
【0131】
洗浄処理部120は、被接合物に対してプラズマ処理(表面活性化処理)を行うチャンバ(処理室)である。洗浄処理部120は、図36に示すように、被接合物を保持するステージ121Cを有している。当該ステージ121Cは、電圧付与手段(不図示)に電気的に接続されており、プラズマ電極(プラズマ発生手段)としても機能する。
【0132】
反転部130は、被接合物の上下を反転させる処理部である。反転部130は、被接合物を回転して反転する反転部材を有している。
【0133】
また、接合処理部140は、水分子吸着処理が施された両被接合物91,92の接合処理を行うチャンバ(処理室)である。この接合処理部140は、第2実施形態の真空チャンバ2内の構成と類似の構成を有している。ただし、接合処理部140は、スライド移動機構14を有しない点、ならびにヘッド22Cおよびステージ12Cがプラズマ電極として機能しない点で、第2実施形態の接合システム1Bのチャンバ2内の構成と相違する。接合処理部140においては、ヘッド22Cとステージ12Cとが常に対向している。
【0134】
次に、第3実施形態に係る動作について説明する。
【0135】
まず、導入部110に搬入された被接合物92が、搬送ロボットRB1によって洗浄処理部120へと搬送される。洗浄処理部120においては、被接合物92の接合表面が上側に向くように各被接合物が載置される。そして、被接合物92の上側の接合表面に対してプラズマ処理(表面活性化処理)が施されるとともに、水分子吸着処理が施される。プラズマ処理および水分子吸着処理が施された被接合物92は、搬送ロボットRB1によって反転部130へと搬送され、反転部130内に設けられた反転装置によって被接合物92の上下が反転される。反転後の被接合物92は、搬送ロボットRB1によって反転部130から取り出され、今度は接合処理部140へと搬送される。このように、被接合物92は、搬送ロボットRB1および反転部130によって、洗浄処理部120から接合処理部140へと反転を伴って移動される。移動後の被接合物92は、その接合表面が下側を向いた状態で、接合処理部140内のヘッド22C(図37参照)によって保持される。
【0136】
つぎに、もう一方の被接合物91は、導入部110に搬入された後、搬送ロボットRB1によって洗浄処理部120へと搬送される。そして、洗浄処理部120において、被接合物91の接合表面が上側に向くように各被接合物が載置され、被接合物91の上側の接合表面に対してプラズマ処理(表面活性化処理)が施されるとともに、水分子吸着処理が施される。そして、プラズマ処理および水分子吸着処理が施された被接合物91は、搬送ロボットRB1によって、洗浄処理部120から取り出され、その接合表面が上側を向いた状態のまま、接合処理部140へと移動される。移動後においては、図37に示すように、被接合物91は、その接合表面が上側を向いた状態で、接合処理部140内のステージ12Cによって保持される。これにより、ヘッド22Cによって保持された被接合物92と、ステージ12Cによって保持された被接合物91とは、接合処理部140内において所定の間隙を空けて対向する状態で配置される。
【0137】
その後、ヘッド22Cが下降して両被接合物91,92が接近し、両被接合物91,92が接触した状態(図11参照)において、ステップS50の加熱処理が実行される。これにより、両被接合物91,92の接合界面から水分子が除去され、両被接合物91,92が良好に接合される。なお、ステップS50の加熱処理としては、第1実施形態と同様の2段階加熱処理が採用されることが好ましい。
【0138】
第3実施形態においては、以上のような動作が実行される。
【0139】
このような動作によれば、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0140】
なお、この第3実施形態においては、2つの被接合物91,92に対する表面活性化処理がそれぞれ異なる期間に実行される場合(すなわち時間をずらして実行される場合)を例示したが、これに限定されない。例えば、洗浄処理部120内において、両被接合物91,92を対向配置し、当該対向配置状態で両被接合物91,92に対するプラズマ洗浄処理を同時に実行するようにしてもよい。また、その後は、水分子吸着処理を両被接合物91,92に対して施すとともに、両被接合物91,92を洗浄処理部120から同時に取り出し、両被接合物91,92を同時に接合処理部140へと搬送し、ステージ12Cおよびヘッド22Cにそれぞれ装着するようにしてもよい。具体的には、そのアーム先端部の上下両側に被接合物の保持チャックを有する搬送ロボットRB1(RB1d)を用いて、両被接合物92,91をそれぞれ保持することによって、このような搬送動作を実現すればよい。
【0141】
また、この第3実施形態においては、洗浄処理部120においてプラズマ処理を実行する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、洗浄処理部120において、原子ビームあるいはイオンビームを用いて、表面活性化処理を行うようにしてもよい。
【0142】
<4.その他>
以上、この発明の実施の形態について説明したが、この発明は上記説明した内容のものに限定されるものではない。
【0143】
たとえば、上記第1および第2実施形態においては、スライド配置状態で各被接合物91,92に対して表面活性化処理を実行する場合を例示したが、これに限定されず、対向状態の両被接合物91,92に対して表面活性化処理を実行するようにしてもよい。
【0144】
また、上記第3実施形態においては、搬送中の再付着防止の観点から、搬送ロボットRB1は処理室150内において被接合物を真空状態で搬送(真空搬送)する場合を例示したが、これに限定されない。具体的には、図38に示すように、洗浄処理部120にて表面活性化処理と水分子吸着処理との双方が施された両被接合物91,92を、接合処理部140へと大気圧中で搬送(大気搬送)するようにしてもよい。このような大気搬送を伴う場合においても、接合表面に吸着された水分子によって接合表面が保護されているため、接合表面への不純物の再付着を抑制することが可能である。
【0145】
また、上記各実施形態において複数組の被接合物(91,92)を処理する場合には、各組の被接合物(91,92)のそれぞれについて上記のステップS10〜S50の工程を順次に実行する動作が繰り返し実行されればよい。特に、ステップS50に関しても、各組の被接合物(91,92)に対して第1段階の処理と第2段階の処理とを順次に実行する動作が、複数組の被接合物(91,92)に対して繰り返し実行されればよい。ただし、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、複数組の被接合物(91,92)に対して、第1段階の処理を逐次的に処理する一方で、第2段階の処理を一括的に処理するようにしてもよい。詳細には、上記第3実施形態等において複数組の被接合物(91,92)に対して第1段階の処理を接合処理部140で順次に施した後に、バッチ式の加熱処理部160(不図示)に順次に搬送し、当該加熱処理部160において第2段階の処理を当該複数組の被接合物(91,92)に対して同時に施すようにしてもよい。このように第2段階の加熱処理をバッチ方式で実行することによれば、複数組の被接合物に対する総処理時間を短縮することが可能である。
【0146】
また、上記各実施形態においては、ステップS50において、加熱処理と加圧処理との双方を伴って両被接合物91,92を接合する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、ステップS50において加圧処理を行わず加熱処理のみを行うようにしてもよい。
【0147】
また、上記第1実施形態のバックグラウンド減圧処理(ステップS10)においては、真空チャンバ2内の圧力値Pが圧力値PR0まで低減される場合を例示したが、これに限定されず、第2実施形態と同様の圧力値PR2にまで低減するようにしてもよい。そして、第2実施形態と同様に、真空チャンバ2内の雰囲気中に残留した水分子を用いて、(表面活性化処理後の)水分子吸着処理を行うようにしてもよい。なお、この場合、さらに水ガスの供給を伴って水分子吸着処理を実行するようにしてもよく、あるいは、水ガスの供給を伴わずに水分子吸着処理を実行するようにしてもよい。
【0148】
また、各実施形態においては、ステップS50の2段階加熱処理のうち第1段階の加熱処理においてのみ低圧加圧処理を行う場合を例示したが、これに限定されない。例えば、ステップS50の2段階加熱処理のうち第1段階の加熱処理と第2段階の加熱処理との双方において加圧処理(特に低圧加圧処理)を行うようにしてもよい。
【0149】
また、上記各実施形態等においては、Au(金)とAu(金)との接合を行う場合を例示したが、これに限定されない。
【0150】
例えば、Cu(銅)とCu(銅)との接合を行う場合に上記と同様の思想を適用するようにしてもよい。ただし、Cu(銅)は、(シリコン等よりは酸化しにくいが、)金よりも酸化しやすいため、水分子の吸着工程において、銅の酸化物、銅の水酸化物あるいは銅の水和物が接合表面に形成される。そして、Cu(銅)とCu(銅)との接合の際には、銅の当該酸化物等に水分子が吸着され、当該水分子が除去されることによってボイドが縮小ないし消滅し(図39参照)、銅の酸化物等同士の結合が実現される(図40参照)。なお、図39は、上述の2段階加熱処理のうち第1段階の加熱処理後の接合界面を示す図であり、図40は、上述の2段階加熱処理のうち第2段階の加熱処理後の接合界面を示す図である。図39および図40においては、銅の酸化物として、CuO(酸化銅)が生成される場合が模式的に示されている。
【0151】
このような変形例に係るCu(銅)−Cu(銅)の接合処理は、上述のAu(金)−Au(金)の接合処理と比較すると、銅の酸化物等が比較的多く形成される点で相違しているが、水分子の付着処理および除去処理によってボイドを縮小(ないし消滅)させて、強固な接合を実現する点で共通している。なお、図41は、Cu(銅)−Cu(銅)の接合界面付近を示す撮影画像である。図41に示すように、接合界面付近(図では接合界面を含む線状領域)に銅の酸化物等が形成された状態で、Cu(銅)−Cu(銅)の強固な接合が実現される。
【0152】
あるいは、Al(アルミニウム)とAl(アルミニウム)との接合を行う場合に上記と同様の思想を適用するようにしてもよい。ただし、Al(アルミニウム)は、Cu(銅)と同様に、金よりも酸化しやすいため、水分子の吸着工程においてアルミニウムの酸化物、アルミニウムの水酸化物あるいはアルミニウムの水和物が接合表面に形成される。そして、Al(アルミニウム)とAl(アルミニウム)との接合の際には、アルミニウムの酸化物等に水分子が吸着され、当該水分子が除去されることによってボイドが縮小ないし消滅し、Al(アルミニウム)の酸化物等同士の結合が実現される。なお、図42は、Al(アルミニウム)−Al(アルミニウム)の接合界面付近を示す撮影画像である。図42に示すように、接合界面付近(図では接合界面を含む線状領域)にアルミニウムの酸化物等が形成された状態で、Al(アルミニウム)−Al(アルミニウム)の強固な接合が実現される。
【0153】
あるいは、Cu(銅)とAu(金)との接合を行う場合に上記と同様の思想を適用するようにしてもよい。この場合、Cu(銅)の表面には銅の酸化物等(たとえばCuO(酸化銅))が形成される。そして、接合界面において当該銅の酸化物等とAu(金)とのそれぞれに水分子が吸着された後に当該水分子が除去されることによって、ボイドが縮小ないし消滅されるとともにAu(金)と銅の酸化物等とが結合される。これにより、強固な接合が実現される。
【0154】
同様に、Al(アルミニウム)とAu(金)との接合を行う場合に上記の思想を適用するようにしてもよい。さらには、Al(アルミニウム)とCu(銅)との接合を行う場合に上記の思想を適用するようにしてもよい。
【0155】
また、エネルギー波照射における特定物質としては、上記各実施形態のようにアルゴンを使用することが好ましい。アルゴンは、他の物質と反応しにくく、且つ、分子重量も大きいため、被接合物の表面分子を衝突により切り離して結合手を露出させること(ダングリングボンドを生成すること)、すなわち表面活性化処理に特に適している。そして、このようなダングリングボンドが適切に生成された両被接合表面を接合することによって、良好な接合状態を実現することが可能である。ただし、これに限定されず、クリプトン(Kr)あるいはキセノン(Xe)などの他の物質を、エネルギー波の照射における特定物質として用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0156】
1,1A,1B,1C 接合システム
2 真空チャンバ
11,21 ビーム照射部
12,12B,12C,121C
ステージ
22,22B,22C
ヘッド
91,92 被接合物
99 付着物
111,112 空隙
120 洗浄処理部
130 反転部
140 洗浄処理部
150 搬送部
VP バックグラウンド減圧値
WM 水分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au(金)、Cu(銅)およびAl(アルミニウム)のいずれかで形成された接合表面をそれぞれ有する第1の被接合物と第2の被接合物とを接合する接合方法であって、
a)前記第1の被接合物と前記第2の被接合物との両被接合物の接合表面のそれぞれに向けてエネルギー波を照射することにより、前記両被接合物の接合表面のそれぞれを活性化する表面活性化処理を行うステップと、
b)前記表面活性化処理が施された前記両被接合物の接合表面に水分子を吸着させる水分子吸着処理を行うステップと、
c)前記水分子吸着処理が施された前記両被接合物の接合表面を互いに接触させた状態で加熱するステップと、
を備えることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接合方法において、
d)前記ステップa)よりも前の時点において、前記両被接合物の載置空間を、10Pa(パスカル)以下且つ10−5Pa(パスカル)以上の所定値にまで減圧するステップ、
をさらに備えることを特徴とする接合方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接合方法において、
前記ステップb)は、水ガスを供給することによって前記水分子吸着処理を行うステップを有することを特徴とする接合方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の接合方法において、
前記ステップc)は、前記両被接合物の相互間に接触圧を作用させる加圧処理を行うステップを有することを特徴とする接合方法。
【請求項5】
請求項4に記載の接合方法において、
前記両被接合物の接合表面にはそれぞれ表面平滑化処理が予め施されており、
前記加圧処理は、前記両被接合物の相互間に10MPa(メガパスカル)以下の接触圧を作用させて実行されることを特徴とする接合方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の接合方法において、
前記ステップc)は、
c−1)水の沸点以下の第1の温度で一定期間にわたって加熱し、前記接合表面の粒界拡散を進行させるステップと、
c−2)前記ステップc−1)の後に、水の沸点以上の第2の温度にまで前記両被接合物を加熱するステップと、
を有することを特徴とする接合方法。
【請求項7】
請求項2に記載の接合方法において、
e)前記ステップd)よりも前の時点において、前記両被接合物の載置空間を、10−6Pa(パスカル)以下且つ10−8Pa(パスカル)以上の所定値にまで減圧するステップ、
をさらに備えることを特徴とする接合方法。
【請求項8】
請求項1に記載の接合方法において、
f)前記ステップa)よりも前の時点において、前記両被接合物の載置空間を、前記ステップa)の前記表面活性化処理時における圧力値よりも低い圧力値にまで減圧するステップ、
をさらに備えることを特徴とする接合方法。
【請求項9】
Au(金)、Cu(銅)およびAl(アルミニウム)のいずれかで形成された接合表面をそれぞれ有する第1の被接合物と第2の被接合物とを接合する接合システムであって、
前記第1の被接合物と前記第2の被接合物との両被接合物の接合表面のそれぞれに向けてエネルギー波を照射することにより、前記両被接合物の接合表面のそれぞれを活性化する表面活性化処理を行う表面活性化処理手段と、
前記表面活性化処理が施された前記両被接合物表面に水分子を吸着させる水分子吸着処理を行う制御手段と、
前記水分子吸着処理が施された前記両被接合物の接合表面を互いに接触させた状態で加熱する加熱手段と、
を備えることを特徴とする接合システム。
【請求項10】
半導体装置であって、
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の接合方法により接合されて生成される半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図43】
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【図44】
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【図25】
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【図26】
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【図33】
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【図34】
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【図41】
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【図42】
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【公開番号】特開2011−119716(P2011−119716A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247433(P2010−247433)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(304019355)ボンドテック株式会社 (36)
【出願人】(503177074)
【Fターム(参考)】